説明

パンチング装置

【課題】パンチング加工によって生じた打抜片などを、確実に捕捉でき、周囲環境汚染を回避するのに有効で、しかも、型のクリーニングにも有効なパンチング装置を提供すること。
【解決手段】オス型1は、パンチングピン11を有しており、メス型3は、一面側から他面側に貫通する型抜孔32を有し、一面側から型抜孔32の内部に入ったオス型1のパンチングピン11が、他面側に突き抜けるのを許容する。捕捉層5は、繊維を合成樹脂その他の接着剤で接合して布状にしたものであって、弾力性及び通気性のある部材で構成され、メス型3の他面側に接触して配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、積層シートにパンチング加工を施すのに適したパンチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、セラミック電子部品においては、その回路構成上、貫通導体や非貫通導体などの縦導体が要求されることがある。このような縦導体を形成する場合、可撓性フィルム上に、未焼成セラミック層であるグリーンシート層を形成したシートに、打抜加工を施し、縦導体用孔を形成するのが一般的である。
【0003】
また、配線回路基板においては、樹脂フィルムからなる絶縁層と、その絶縁層に積層される接着剤からなる接着剤層と、その接着剤層に積層される離型フィルムからなる離型層とを備える接着シートを、打抜により孔加工した後、離型層を接着剤層から剥離して、その接着剤層を、導体パターンに貼着するようにして、形成することもある。上述した打抜には、可動刃からなる上刃と、固定刃からなる下刃とを備える打抜金型が用いられている。そのようなパンチング装置は、例えば、特許文献1、2に記載されている。
【0004】
ところで、セラミック電子部品や配線回路基板などにおいて要求される縦導体は、極めて微小なものであるから、パンチングによって打抜かれる打抜片も極めて微小なものとなる。しかも、量産性向上の観点から、一工程で打抜かれて生じる打抜片は何百個にも達する。このような大量に発生する打抜片をそのまま放置すると、重大な周囲環境汚染を惹起することから、例えば真空吸引方式によって打抜片を回収するのが普通である。
【0005】
特許文献1、2の図示及び明細書の記載を見る限り、打抜片等はパンチングピンから分離されて落下するようにも見える。したがって、打抜片が排出される側に真空吸引手段を設けておけば、打抜片の周囲への飛散、拡散を生じることなく、打抜片を回収し、環境汚染を回避することができるようにも思える。
【0006】
しかし、実際は、そのように単純なものではない。なぜなら、パンチング加工において、打抜片が帯電し、打抜片が静電吸着現象によってパンチングピンの先端などに付着する。真空吸引力が、静電吸着力よりも大きければ、パンチングピンの先端などに静電吸着した打抜片を、真空吸引力によって剥ぎ取ることもできようが、実際には、静電吸着力の方が真空吸引力に勝る。このため、多くの打抜片が、パンチングピンに付着したままで、パンチングピンの退出動作とともに、メス型から持ち去られ、パンチングピンからその外部に飛散し、拡散し、周囲環境を汚染してしまう。
【0007】
しかも、一旦、パンチングピンから外部に飛散してしまった打抜片を回収することは、殆ど不可能であり、回収効率が著しく低下する。
【0008】
更に、飛散した打抜片が、被加工物の表面などに付着し、被加工物を用いて製造されるセラミック電子部品は、配線回路基板の特性、品質に悪影響を及ぼす危険性もある。
【特許文献1】特開平5−200448号公報
【特許文献2】特開2006−26884
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、パンチング加工によって生じた打抜片などを、確実に捕捉できるパンチング装置を提供することである。
【0010】
本発明のもう一つの課題は、簡単な構成で、パンチング加工によって生じた打抜片などを、確実に捕捉できるパンチング装置を提供することである。
【0011】
本発明の更にもう一つの課題は、周囲環境汚染を回避するのに有効なパンチング装置を提供することである。
【0012】
本発明の更にもう一つの課題は、型のクリーニングにも有効な構造を持つパンチング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決するため、本発明に係るパンチング装置は、オス型と、メス型と、捕捉層とを含む。前記オス型は、パンチングピンを有している。前記メス型は、一面側から他面側に貫通する型抜孔を有し、前記一面側から前記型抜孔の内部に入った前記オス型の前記パンチングピンが、他面側に突き抜けるのを許容する。
【0014】
前記捕捉層は、繊維を合成樹脂その他の接着剤で接合して布状にしたものであって、弾力性及び通気性のある部材で構成され、前記メス型の前記他面側に接触して配置されている。
【0015】
上述したように、本発明に係るパンチング装置では、メス型は、一面側から他面側に貫通する型抜孔を有し、一面側から型抜孔の内部に入ったオス型のパンチングピンが、他面側に突き抜けるのを許容するから、パンチング加工において、打抜かれた打抜片が、オス型のパンチングピンによってメス型の他面側に押出される。
【0016】
メス型の他面側には、捕捉層が配置されている。この捕捉層は、繊維を合成樹脂その他の接着剤で接合して布状にしたものであって、弾力性及び通気性のある部材で構成されている。このような捕捉層は、一般には不織布によって構成することができる。したがって、パンチング加工によって生じた打抜片などを、捕捉層によって捕捉できる。しかも、複雑な機構を必要とする真空吸引装置などと異なって、メス型の他面側に捕捉層を配置するという簡単な構成で、パンチング加工によって生じた打抜片などを、確実に捕捉できる。
【0017】
更に、上述した捕捉層は、打抜片の静電吸着力よりも大きな捕捉力を発揮する。したがって、パンチング加工において、打抜片が帯電し、静電吸着現象によってパンチングピンの先端などに付着した場合であってあっても、この打抜片を、捕捉層によってパンチングピンから剥ぎ取ることができる。このため、打抜片の外部飛散・拡散による周囲環境汚染を回避することができる。しかも繊維を合成樹脂その他の接着剤で接合して布状にした捕捉層によって打抜片を捕捉するので、捕捉された打抜片を、高効率で回収することができる。
【0018】
更に、飛散した打抜片が、被加工物の表面などに付着するのを回避することができるから、被加工物を用いて製造されるセラミック電子部品や、配線回路基板の特性、品質を安定に維持することができる。
【0019】
しかも、捕捉層は、メス型の他面側に接触して配置されているから、捕捉層に送りをかけることにより、メス型をクリーニングすることもできる。
【0020】
好ましくは、捕捉層は、打抜片の帯電とは逆極性に帯電させる。捕捉層と打抜片との間に上述したような帯電関係があれば、打抜片を、更に効率よく、捕捉層によって捕捉することができる。
【0021】
本発明において、パンチング加工に供される被加工物の代表例は、樹脂フィルムの面上にグリーンシート層を有するシート状部材である。このようなシート状部材は、セラミック電子部品の製造に用いられる。そのほか、配線回路基板のパンチング加工にも適用することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように、本発明によれば、次のような効果を得ることができる。
(a)パンチング加工によって生じた打抜片などを、確実に捕捉できるパンチング装置を提供することができる。
(b)簡単な構成で、パンチング加工によって生じた打抜片などを、確実に捕捉しえるパンチング装置を提供することができる。
(c)周囲環境汚染を回避するのに有効なパンチング装置を提供することができる。
(d)型のクリーン化にも有効な構造を持つパンチング装置を提供することができる。
【0023】
本発明の他の目的、構成及び利点については、添付図面を参照し、更に詳しく説明する。添付図面は、単に、例示に過ぎない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、本発明に係るパンチング装置の使用状態を示す図である。図示のパンチング装置は、オス型1と、メス型3と、捕捉層5とを含む。
【0025】
オス型1は、パンチングピン11を有している。パンチングピン11の形状は、任意であり、これまで提案され、これから提案されることのあるパンチングピンを広く用いることができる。図示のパンチングピン11は、先端部のエッジが刃101を構成している。オス型1は、メス型3に対して接近する矢印F1で示す方向に駆動され、又は、メス型3から退出する矢印R1の方向に駆動される。パンチングピン11のうち、特に、刃101を構成するエッジ周辺は、この種の型において一般的に用いられる超硬合金で構成される。
【0026】
メス型3は、基体31の一面側から他面側に貫通する型抜孔32を有し、一面側から型抜孔32の内部に入ったオス型1のパンチングピン11が、他面側に突き抜けることができる。このメス型3も、これまで提案され、または、これから提案されることのあるものを、広く用いることができる。図示のメス型3は、型抜孔32の上部エッジが刃320を構成している。メス型3のうち、特に、刃320を構成する上部エッジ周辺は、超硬合金で構成される。
【0027】
捕捉層5は、繊維を合成樹脂その他の接着剤で接合して布状にしたものであって、弾力性及び通気性のある部材で構成され、メス型3の他面側に接触して配置されている。このような捕捉層5の代表例は不織布である。もっとも、作用効果において、不織布と等価的とみなしえる材質のものであれば、名称の如何に関わらず、広く用いることができる。捕捉層5は、適当な支持台6の上に配置されている。図示はされていないが、供給ローラと、巻き取りローラとの間で、捕捉層5の供給・巻取りを行い、捕捉層5を矢印F2の方向に走行させる構成とすることが好ましい。
【0028】
メス型5の一面上には、パンチング加工に供される被加工物4が載せられている。被加工物4の代表例は、樹脂フィルム41の面上にグリーンシート層42を有するシート状部材である。このようなシート状部材は、セラミック電子部品の製造に用いられる。この被加工物4は、樹脂フィルム41がメス型3の一面に接するように配置されている。セラミック電子部品の製造のためのパンチング加工のほか、配線回路基板のパンチング加工にも適用することができる。被加工物4も、矢印F2の方向に搬送可能である。
【0029】
次に、図2〜図5を参照し、本発明に係るパンチング装置を用いたパンチング工程を説明する。図1に図示したパンチング装置において、例えば、積層シートなどの被加工物4にパンチング加工を施すには、図2に図示するように、被加工物4をメス型3の上に配置し、オス型1のパンチングピン11を、メス型3の型抜孔32に対して、矢印F1で示すように進入させて打抜く。この打抜作用により、打抜片40が生じる。
【0030】
オス型1のパンチングピン11を、メス型3の型抜孔32に対して更に深く進入させると、図3に示すように、パンチングピン11の先端にある打抜き片40が、捕捉層5の内部に進入する。
【0031】
次に、図4に示すように、パンチングピン11を矢印R1で示す方向に後退させる。打抜片40は、捕捉層5によって捕捉され、その内部に留まる。この後、図5に図示するように、捕捉層5を矢印F2で示す方向に、所定の距離だけスライドさせる。捕捉層5を、供給ロール及び巻き取りロール間で走行させる構成の場合は、巻き取りロールによって捕捉層5を巻き取ることにより、捕捉層5を、矢印F2の方向へ移動させることができる。被加工物4も矢印F2で示す方向に搬送される。上述したパンチング工程を繰り返すことにより、被加工物4の必要な位置に必要な数のパンチング孔を形成することができる。
【0032】
本発明に係るパンチング装置では、メス型3は、一面側から他面側に貫通する型抜孔32を有し、一面側から型抜孔32の内部に入ったオス型1のパンチングピン11が、他面側に突き抜けるのを許容するから、図2に図示したように、パンチング加工において、打抜かれた打抜片40が、オス型1のパンチングピン11によってメス型3の他面側に押出される。
【0033】
メス型3の他面側には、捕捉層5が配置されている。この捕捉層5は、繊維を合成樹脂その他の接着剤で接合して布状にしたものであって、弾力性及び通気性のある部材で構成されている。したがって、図3及び図4に示したように、パンチング加工によって生じた打抜片40などを、捕捉層5によって捕捉できる。しかも、複雑な機構を必要とする真空吸引装置などと異なって、メス型3の他面側に捕捉層5を配置するという簡単な構成で、パンチング加工によって生じた打抜片40などを、確実に捕捉できる。
【0034】
更に、上述した捕捉層5の捕捉力は、打抜片40の静電吸着力よりも大きい。したがって、パンチング加工において、打抜片40が帯電し、静電吸着現象によってパンチングピン11の先端などに付着した場合であっても、この打抜片40を、捕捉層5によってパンチングピン11から剥ぎ取ることができる。このため、打抜片40の外部飛散・拡散による周囲環境汚染を回避することができる。しかも繊維を合成樹脂その他の接着剤で接合して布状にした捕捉層5によって打抜片40を捕捉するので、捕捉された打抜片40を、高効率で回収することができる。
【0035】
更に、飛散した打抜片40が、被加工物4の表面などに付着するのを回避することができるから、被加工物4を用いて製造されるセラミック電子部品や、配線回路基板の特性、品質を安定に維持することができる。
【0036】
しかも、捕捉層5は、メス型3の他面側に接触して配置されているから、図5に示したように、捕捉層5に矢印F2の方向の送りをかけることにより、メス型3の底部をクリーニングすることもできる。
【0037】
捕捉層5は、打抜片40の帯電とは逆極性に帯電させることも有効である。捕捉層5と打抜片40との間に上述したような帯電関係があれば、打抜片40を、更に効率よく、捕捉層5によって捕捉することができる。
【0038】
図6は、本発明に係るパンチング装置に対する被加工物4の別の配置関係を示す図である。図6において、図1〜図5に現れた構成部分に対応する部分については、同一の参照符号を付し、重複説明はこれを省略する。図6では、被加工物4は、図1〜図5の場合とは逆に、グリーンシート層42がメス型3の一面に接している。図6の配置は、樹脂フィルム41のバリをできるだけ残さない、という観点から好ましい。
【0039】
図7は、本発明に係るパンチング装置の別の形態を示す図である。図7の実施の形態において、メス型は、上型2と下型3とを含み、上型2と下型3との間に被加工物4を挟みこむ構造となっている。上型2は、パンチングピン1の真下に、基体21に開けられた型抜孔22を有しており、下型3は、基体31に対して、上型2の型抜孔22と完全に重なるように開けられた型抜孔32を有する。
【0040】
上型2の型抜孔22は、その下面側の内周エッジ220が刃として機能し、下型3の型抜孔2232は、上面側の内周エッジ320が刃として機能する。上型2及び下型3は、ともに超硬合金で構成される。
【0041】
実際的なパンチング装置では、オス型として、多数本(n×m)のパンチングピンを支持体の同一面上にマトリクス状に配置した構成をとることができる。いわゆる「剣山」タイプの構造のオス型として構成するのである。このタイプのオス型であれば、パンチング加工効率を、著しく向上させることができる。
【0042】
以上、好ましい実施例を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係るパンチング装置の使用状態を示す図である。
【図2】図1に示したパンチング装置によるパンチング工程を示す図である。
【図3】図2に示したパンチング工程の後のパンチング工程を示す図である。
【図4】図3に示したパンチング工程の後のパンチング工程を示す図である。
【図5】図4に示したパンチング工程の後のパンチング工程を示す図である。
【図6】図5に示したパンチング工程の後のパンチング工程を示す図である。
【図7】本発明に係るパンチング装置の別の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 オス型
11 パンチングピン
101 エッジ刃
3 メス型
5 捕捉層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オス型と、メス型と、捕捉層とを含むパンチング装置であって、
前記オス型は、パンチングピンを有しており、
前記メス型は、一面側から他面側に貫通する型抜孔を有し、前記一面側から前記型抜孔の内部に入った前記オス型の前記パンチングピンが、他面側に突き抜けるのを許容し、
前記捕捉層は、繊維を合成樹脂その他の接着剤で接合して布状にしたものであって、弾力性及び通気性のある部材で構成され、前記メス型の前記他面側に接触して配置されている、
パンチング装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたパンチング装置であって、前記捕捉層は、不織布である、パンチング装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたパンチング装置であって、前記捕捉層は、前記打抜片の帯電とは逆極性に帯電されている、パンチング装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載されたパンチング装置であって、前記被加工物は、樹脂フィルムの面上にグリーンシート層を有するシート状部材である、パンチング装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−233829(P2009−233829A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86015(P2008−86015)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】