ヒストン脱アセチル化酵素阻害活性を有する物質を用いた細胞性免疫増強剤
【課題】 本発明は、細胞性免疫増強剤を提供し、その発癌、癌再発予防治療、癌免疫治療または病原微生物感染治療等への応用に寄与する。
【解決手段】 本発明に係る細胞性免疫増強剤は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる。
【解決手段】 本発明に係る細胞性免疫増強剤は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を用いることにより、細胞表面の主要組織適合抗原複合体(MHC)クラスI発現レベルを増加させ、そのことを介して細胞性免疫力を増強する方法に関する。すなわち、本発明は、HDAC阻害活性を有する物質を用いた細胞性免疫増強方法に関する。さらに、本発明は、そのような細胞性免疫増強方法の、発癌予防もしくは癌再発予防、既に発生している癌の免疫治療、または病原微生物感染治療への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の免疫力には大きく分けて、抗体の産生を中心とする液性免疫力と、リンパ球による標的細胞傷害を中心とする細胞性免疫力とに分類される。細胞内に感染した病原微生物や癌等の細胞性の疾患に対する抵抗性に最も重要な免疫は細胞性免疫であり、係る細胞性免疫力を増強することは、癌の予防や治療、ウイルスや細菌等の病原微生物の感染治療等、広い場面における効果が期待される。
【0003】
細胞性免疫において、リンパ球が癌細胞やウイルス感染細胞等の標的細胞を認識し、傷害する機序にはMHCクラスI抗原分子が重要な役割を果たしている。ヒトのMHCはヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる。例えば、癌細胞では癌抗原蛋白質の分解産物抗原ペプチドが、ウイルス等の感染細胞では病原因子由来蛋白質の分解産物抗原ペプチドが、それぞれHLAクラスI分子と結合し、細胞表面に表出している。免疫担当細胞のなかでT細胞は、細胞表面に持つT細胞抗原受容体によって標的細胞表面の抗原ペプチド・HLA複合体を認識し、正常細胞と癌細胞/感染細胞とを識別する。そのためHLAクラスI分子の発現が抑制された状態では、T細胞の標的細胞識別機構が正常に働かないことになる。
【0004】
MHCクラスI抗原は、ヒトの場合、主としてHLA−A、HLA−B、HLA−Cの3種類の遺伝子によってコードされる重鎖(Heavy chain)とβ2マイクログロブリン(B2M)という1種類の遺伝子によってコードされる軽鎖(light chain)との2分子のヘテロ2量体から成る。B2Mが正常に発現しないと、成熟したHLA複合体の形成や細胞膜表面への輸送が障害され、HLA−A、HLA−B、HLA−C全ての遺伝子座産物について発現低下が生じる。
【0005】
MHCクラスI抗原は、精巣の細胞を除くほとんどすべての体細胞の細胞表面に発現している。しかし、乳癌細胞や前立腺癌細胞等の一定の癌細胞においては、細胞表面MHCクラスI抗原の発現が高頻度に低下している。MHCクラスI抗原の発現が抑制されるメカニズムについては、これまで重鎖または軽鎖の遺伝子変異による発現低下機序が知られていたが(非特許文献1)、その詳細は明らかにされていない。一方、様々なウイルス感染においてもクラスI抗原の発現が阻害されていることが知られているが、そのメカニズムについては様々なものが報告されている。しかも、興味深いことに、それぞれのウイルスごとに、クラスIの発現を阻害するための複数の入念な戦略を備えていることがわかっている。例えば、サイトメガロウイルスはMHCクラスI経路を妨害する4つの遺伝子(US3、US2、US11、およびUS6)を発現するが、このうちUS3は小胞体からのMHCクラスI複合体のエキスポートを、US2およびUS11はMHCクラスI複合体のプロテアソームにおける迅速な分解を、US6は小胞体への抗原ペプチド供給を阻害することによって、MHCクラスI機能を妨害している(非特許文献2)。また、HIVウイルスは、TatによるB2MおよびclassI遺伝子の転写阻害(非特許文献3)のほか、NefによるclassI産物の運搬経路変更によってMHCクラスI機能を妨害している(非特許文献4)。
【0006】
このように、癌組織やウイルス感染細胞では、HLAクラスI抗原分子の発現を巧みに阻害することによって、免疫系の監視機構から逃れている。従って、これらの組織・細胞においてクラスI分子の発現を増強できれば、宿主の細胞性免疫力を高めることになり、癌や感染症の予防・治療において大きな効果が期待される。
【0007】
一方、遺伝子の塩基配列の変化を伴わないエピジェネティックな調節が、発癌等において広く関与することが近年明らかになってきた。クロマチンの活性を調節するヒストンアセチル化はエピジェネティックな調節において重要な役割を果たす要因の一つと考えられ、そのレベルを調節するヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、癌の分子標的等としても注目されている(非特許文献5)。HDACの作用を抑制するHDAC阻害剤については、各種のものが知られている(非特許文献5〜6)。各クラスに属するHDACに対するこれらHDAC阻害剤の選択特異性は必ずしも厳格ではないが、例えばTricostatin A(TSA)はクラスIおよびIIのHDACを阻害し、バルプロ酸(Valproic acid:VPA)はクラスIIよりもクラスIのHDACの方をより好んで阻害すること等が報告されている(非特許文献5〜6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Seliger,Bet al.,Semin.Cancer Biol.2002,12:3−13
【非特許文献2】Mirandola P.et al.,J.Infect.Dis.2006 Apr.1;193(7):917−926
【非特許文献3】Carroll IR et al.,Mol.Immunol.1998 Dec.;35(18):1171−1178
【非特許文献4】Lubben NB et al.,Mol.Biol.Cell.2007.
【非特許文献5】Kim DH et al.,J Biochem.Mol.Biol.2003 Jan.31;36(1):110−119
【非特許文献6】Gottlicher M.et al.,EMBO J.2001 Dec.17;20(24):6969−6978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
癌細胞や病原微生物感染細胞においては、高頻度にMHCクラスI抗原分子の発現が低下しており、そのためにウイルス感染細胞や癌細胞は免疫監視機構から逃避し、生体内で免疫力によってウイルスや癌が排除できない原因になっていると考えられている。免疫力によって感染症や癌等の疾患を予防したり治療したりするためには、病原微生物感染細胞や癌細胞において低下している細胞表面のMHCクラスI抗原発現レベルを増強することが重要であり、それを解決する方法が求められていた。
【0010】
発明者らは、多くの癌細胞において、MHCクラスI重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子のいずれにも変異がないにもかかわらず、MHCクラスI抗原の細胞表面への発現レベルが低下していることを見出した。さらに発明者らは、一定の癌細胞におけるMHCクラスI抗原発現抑制の原因が、B2M遺伝子と結合しているヒストンの脱アセチル化によっていることを見出した。そこで、HDAC阻害剤をB2Mの発現が低下している細胞に作用させたところ、B2M蛋白レベルの増加とともに、細胞表面のMHCクラスI発現レベルも増加することが示された。すなわちMHCクラスI抗原発現抑制が生じている細胞において、HDAC阻害剤の使用が、B2M遺伝子と結合しているヒストンのアセチル化を高め、B2M蛋白レベルを増加し、その結果として細胞表面のMHCクラスI抗原発現レベルを増加させることを証明した。一方、ウイルス感染におけるMHCクラスI発現レベル低下については、前述のように、多種多様で入念なシステムを介することが知られているところである。ところが発明者らが鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、ヒストンの脱アセチル化阻害剤の使用によって、様々なウイルス感染系におけるMHCクラスI抗原発現レベルの上昇を一様に導き出せることを示し、本発明の完成に至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明に係る細胞性免疫増強剤は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる。
【0012】
また、本発明に係る細胞性免疫増強剤において、前記HDAC阻害活性を有する物質がバルプロ酸であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る細胞性免疫増強剤において、疾患部位におけるβ2マイクログロブリン(B2M)発現が抑制されている疾患の治療または予防において用いられることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明に係る細胞性免疫増強剤は、細胞侵入性の病原微生物・因子による感染症に悩まされているかその危険のある対象、または、疾患に悩まされているかその危険のある対象において、その予防または治療のために用いることが好ましい。ここで前記病原微生物はウイルスであることが好ましい。また、前記因子はウイルス由来のものであることが好ましい。さらに、前記ウイルスはヘルペスウイルス、パポーバウイルス、レンチウイルス、パラミクソウイルスよりなる群に含まれるウイルスのうち1または複数であることがより好ましい。一方、前記疾病は癌であることがより好ましく、前記癌は乳癌、前立腺癌、あるいは口腔癌であることがより好ましく、乳癌であることがさらに好ましい。
【0015】
次に、本発明に係るHLAクラスI発現増強剤は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる。
【0016】
また、本発明に係るHLAクラスI発現増強剤において、前記HDAC阻害活性を有する物質がバルプロ酸であることが好ましい。
【0017】
次に、本発明に係るB2M発現増強剤は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる。
【0018】
また、本発明に係るB2M発現増強剤において、前記HDAC阻害活性を有する物質がバルプロ酸であることが好ましい。
【0019】
次に、本発明に係る細胞性免疫増強方法は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含有する組成物を対象において投与するステップを含む。
【0020】
また、本発明に係る細胞性免疫増強方法において、前記HDAC阻害活性を有する物質がバルプロ酸であることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る細胞性免疫増強方法において、疾患部位におけるβ2マイクログロブリン(B2M)発現が抑制されている疾患の治療または予防において用いられることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明に係る細胞性免疫増強方法において、前記対象が病原微生物に感染していることが好ましく、前記病原微生物がウイルスであることがより好ましく、前記ウイルスがヘルペスウイルス、パポーバウイルス、レンチウイルス、パラミクソウイルスよりなる群に含まれるウイルスのうち1または複数であることがさらに好ましい。また、本発明において、前記疾病が癌であることが好ましく、前記癌が乳癌、前立腺癌、あるいは口腔癌であることがより好ましく、乳癌であることがさらに好ましい。
【0023】
すなわち、本発明に係る細胞性免疫増強方法は、任意のウイルスを含む細胞侵入性の病原微生物・因子による感染症に悩まされているかその危険のある対象、または乳癌、前立腺癌、または口腔癌等の癌に悩まされているかその危険のある対象において、疾患の予防または治療を目的として用いることができる。
【0024】
次に、本発明に係るHDAC阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法は、対象から感染組織または癌組織を取得する工程と、前記組織からB2MまたはB2MをコードするmRNAを抽出する工程と、前記B2Mまたは前記B2MをコードするmRNAの量を、対照と比較する工程とを含む。
【0025】
さらに、本発明に係るHDAC阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法は、対象から感染組織または癌組織を取得する工程と、前記組織からクロマチン沈降を行い、沈降物からB2MのDNA断片のPCR増幅を行う工程と、前記増幅されたDNA断片の存在の有無を評価する工程を含む。
【0026】
また本発明に係るスクリーニング方法において、HDAC阻害活性を有する物質はバルプロ酸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る細胞性免疫増強剤、HLAクラスI発現増強剤、B2M発現増強剤、または細胞性免疫増強方法によれば、MHCクラスI軽鎖(B2M)蛋白レベルの低下を介して発現が低下している標的細胞のMHCクラスI抗原の発現レベルを高めることができる。その結果、宿主において、細胞傷害性T細胞による該標的細胞の傷害効果を増強することができる。従って、例えば微生物感染症や癌等の疾患において、実際に治療を行ったり、併用する療法の治療効果を高めたりすることができる。
【0028】
また、本発明に係るHDAC阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法によれば、HCクラスI軽鎖(B2M)蛋白レベルの低下を介して発現が低下している標的細胞を選択することができることから、疾患部位においてB2M発現が抑制されている疾病を有するか、または発症/再発する危険のある対象をスクリーニングすることができ、同様に微生物感染症や癌等の疾患の治療を行ったり、併用する療法の治療効果を高めたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】クロマチン沈降法によって細胞内のB2M遺伝子結合ヒストン蛋白質が脱アセチル化していることを示す図である。左パネルはMCF−7ヒト乳癌細胞をTSA存在下で培養した例で、右パネルはHMC−1ヒト乳癌細胞株をVPA存在下で培養した例である。いずれの場合も、無処理の状態では抗アセチル化ヒストン抗体免疫沈降物の中にB2M遺伝子がほとんど検出されていないことから、B2M遺伝子領域でヒストン蛋白質は脱アセチル化していることがわかる。TSAまたはVPAを作用させることによって、同免疫沈降物中にB2M遺伝子が検出されるようになった。
【図2】HDAC阻害剤によって、細胞内B2M蛋白質のレベルが増加することを示す図である。左パネルはHMC−1ヒト乳癌細胞を、右パネルはMCF−7ヒト乳癌細胞株を、それぞれTSA存在下で24時間培養した例である。いずれの細胞でも、無処理の状態では極めて低レベルのB2M蛋白質が、HDAC阻害剤TSAの作用によって顕著に増加することが示された。それに対して、無処理の状態でも高レベルに発現しているHLAクラスI heavy chainやactin蛋白質のレベルには大きな変化はない。
【図3】HDAC阻害剤TSAによって、細胞表面MHCクラスI抗原のレベルが増加することを示す図である。左パネルはHMC−1ヒト乳癌細胞を、右パネルはMCF−7ヒト乳癌細胞株を、それぞれTSA存在下で24時間培養した。いずれの細胞でも、無処理の状態では低レベルの細胞表面MHCクラスI抗原が、HDAC阻害剤TSAの作用によって約10倍程度増加することを示している。縦軸は細胞数を、横軸は細胞の蛍光強度を表す。
【図4】ヒトに対する安全性が確立しているHDAC阻害剤VPAによって、細胞表面MHCクラスI抗原のレベルが増加することを示す図である。HMC−1ヒト乳癌細胞を4mM VPA存在下で48時間培養した。無処理の状態では低レベルの細胞表面MHCクラスI抗原が、HDAC阻害剤VPAの作用によって約10倍程度増加することを示している。縦軸は細胞数を、横軸は細胞の蛍光強度を表す。
【図5】ヒトの乳癌組織において、細胞表面のHLAクラスI抗原(重鎖および軽鎖B2M蛋白)の発現が陽性の癌症例(上パネル2枚, Case A)と陰性の癌症例(下パネル2枚, Case B)を示す図である。左パネル上下2枚は、乳癌組織標本を抗HLAクラスI重鎖抗体(EMR8−5抗体)を用いて免疫染色した図で、右パネル上下2枚は、同じ乳癌組織標本を抗B2M抗体(EMRB6抗体)を用いて免疫染色した図である。ヒト乳癌組織のなかには、HLAクラスI陽性の癌(Case A)と、陰性の癌(Case B)とがあることを示している。
【図6】図5と同様の抗HLAクラスI重鎖抗体(EMR8−5抗体)を用いて免疫染色を行い、ヒトの様々な種類の癌組織についてHLAクラスI抗原の細胞表面発現を検索した。表に示すように、癌の種類によって頻度は異なるが、全ての癌種に関して、HLAクラスI抗原が陽性の癌と陰性もしくは発現低下している癌とがあることを示している。乳癌と前立腺癌では特に、HLAクラスI抗原の発現が低下している頻度が高いことに注目される。
【図7】VPA投与マウスの腫瘍(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【図8】VPA投与マウスの腫瘍(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してB2Mの発現レベルが増加していることを示す図である。
【図9】VPA存在下(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してHuman immunodeficiency virus(HIV)持続感染T細胞におけるHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【図10】VPA存在下(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してPapilloma virus持続感染上皮細胞株(HeLa cell)におけるHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【図11】VPA存在下(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してEB virus持続感染B細胞(LG2EBV細胞)におけるHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【図12】VPA存在下(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してMumps virus持続感染B細胞(Akata−MP1細胞)におけるHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【図13】VPA存在下(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してMeasles virus持続感染B細胞(Raji−ZH細胞)におけるHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な態様について説明する。本発明の1の態様は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物に関する。
【0031】
本発明における「HDAC阻害活性を有する物質」とは、人体または動物に投与可能なHDAC阻害剤であればどのようなものでもよい。例えば、現時点でヒトに対する安全性が最も確立されているHDAC阻害作用を有する薬剤のひとつにバルプロ酸(VPA)がある。VPAの場合、ヒトにおいては1日量約1000mgから2400mgを安全に経口投与することができるが、投与量は体重や年齢、薬物代謝動態、安全性、効果、目的、投与方法等に応じて、適宜加減することができる。
【0032】
HDAC阻害活性を有する物質としては、VPAのほか任意のHDAC阻害剤を同等に用いることができる。例えば、本出願の時点においては、phenylbutyric acid、FK228(Depsipeptide)、SAHA (suberoylanilide hydroxamic acid)、PXD101、CI−994(N−acetyl dinaline)、MGCD0103、Pivanex、CRA−024781、MS−275、LBH589、MG989、LAQ−824、NVP−LAQ824等の薬剤が、本発明とは別の用途において既に臨床試験中である。そのほかにも、TSA、Trapoxin、CHAP、Apicidin、Depudecin等、数多くのHDAC阻害剤が知られている。従って、「HDAC阻害活性を有する物質」として、本発明の効果においてVPAと同等の作用および/または特異性を有するHDAC阻害剤を用いることができる。このようなHDAC阻害剤は、クラスIおよび/またはクラスIIのHDACに対する阻害剤であるといえる。
【0033】
また、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、疾患部位におけるB2M発現が抑制されている疾患の治療または予防において用いられる。なお、前記疾患部位とは、例えば癌であれば癌細胞を、感染症であれば病原微生物が感染している細胞を意味する。
【0034】
さらに本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物を投与する対象は特に限定されないが、癌患者、癌の発症、または再発の危険がある対象、もしくはウイルスその他の病原微生物に感染しているか、またはその危険がある対象が含まれる。
【0035】
本発明における病原微生物の感染症は、特に限定されないが、例えば、EBウイルス、サイトメガロウイルス、HSV、HHV−7等を含むヘルペスウイルス科ウイルス、パピローマウイルス等を含むパポーバウイルス科ウイルス、パルボウイルス科ウイルス、アデノウイルス科ウイルス、HBV等を含むヘパドナウイルス科ウイルス、ポックスウイルス科ウイルス、エンテロウイルス属のコクサッキーウイルス、HAV等を含むピコルナウイルス科ウイルス、SARSウイルスを含むコロナウイルス科ウイルス、トガウイルス科ウイルス、HCV、ウエストナイル熱ウイルス等を含むフラビウイルス科ウイルス、ラブドウイルス科ウイルス、フィロウイルス科ウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎(ムンプス)ウイルス、パラインフルエンザウイルス等を含むパラミクソウイルス科ウイルス、アレナウイルス科ウイルス、ハンタウイルス等を含むブニヤウイルス科ウイルス、インフルエンザウイルスを含むオルソミクソウイルス科ウイルス、レンチウイルス亜科のHIV−1/2、FIVや、オンコウイルス亜科のHTLV−1/2等を含むレトロウイルス科ウイルス、ロタウイルスを含むレオウイルス科ウイルス、その他様々なウイルスを含むウイルス、ならびに、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、真菌、および、原虫等の寄生虫等による感染症のほか、病原因子を必ずしも特定できない任意の感染症をも含む。換言すれば、前記感染症は特に限定されないが、例えばレオウイルス感染症、SARS、レトロウイルス感染症、黄熱病、日本脳炎、デング熱、西ナイル熱、牛ウイルス性下痢・粘膜病、豚コレラ、ボーダー病、C型肝炎、口蹄疫、ポリオ(急性灰白髄炎)、A型肝炎、風邪、風疹、シンドビスウイルス感染症、馬ウイルス性動脈炎、サル出血熱、ノロウイルス感染症、サポウイルス感染症、ウサギ出血熱、猫カリシウイルス病、豚水疱疹、E型肝炎、マールブルグ病、エボラ出血熱、狂犬病、水胞性口炎、麻疹、小反芻獣疫、犬ジステンパー、牛疫、流行性耳下腺炎、メナングルウイルス感染症、ニューカッスル病、RSウイルス感染症、ヒト・メタニューモウイルス感染症、ニパウイルス感染症、インフルエンザ、アカバネ病、ハンタウイルス肺症候群、腎症候群性出血熱、リンパ球性脈絡髄膜炎、ラッサ熱、アルゼンチン出血熱、ボリビア出血熱、AIDS、成人T細胞白血病、あるいは、水痘、天然痘、帯状疱疹、サイトメガロウイルス感染症、アデノウイルス感染症、B型肝炎、その他の疾患を有するかまたはその危険のある対象に適用することができる。
【0036】
また、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、病原微生物の感染症の治療または予防において、単独に、または他の任意の当業者に知られた感染症の治療・予防処置を補完するための免疫賦活剤として用いることもできる。
【0037】
また、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、癌の治療または予防において、抗癌剤として、および/または他の抗癌治療を補完するための免疫賦活剤として用いることができる。前記癌の予防における最も好ましい態様は、癌の再発予防である。
【0038】
本発明において治療または予防の対象となる前記癌は特に限定されないが、肺癌、腎細胞癌、肝細胞癌、大腸癌、膀胱癌等の様々な癌を挙げることができ、好ましくは前立腺癌または口腔癌であり、さらに好ましくは乳癌である。一方、B2M発現が多数の症例で抑制されている疾患(たとえば乳癌や前立腺癌)ではなくとも、個々の症例においてB2M発現が抑制されていれば、本発明の細胞性免疫増強剤を好んで適用することができる。
【0039】
また、前記抗癌治療の方法は特に限定されないが、放射線治療、温熱療法、化学療法(例えば、アナストロゾール、シクロホスファミド、イリノテカン、シタラビン、パクリタキセル、ドセタキセル、ブスルファン、カルボコン、ミトブロニトール、ダカルバジン、メルファラン、ブロカルバジン、ドキシフルリジン、フルオロウラシル、カモフール、メルカプトプリン、メトトレキサート、シタラビンオクホスファート、テガフール、カルボプラチン、シスプラチン、チオテパ、ドキソルビシン、エピルビシン、アクラルビシン、L-アスパラギナーゼ、マイトマイシンC、メドロキシプロゲステロン、クレスチン、タモキシフェン、トレミフェン、ビノレルビン、エトポシド等の抗癌剤、またはこれらの医薬上許容される塩を用いるもの等)、遺伝子治療(p53等の癌抑制遺伝子を導入するもの、免疫刺激性サイトカイン遺伝子を導入した腫瘍細胞を用いるもの等)、外科療法、食餌療法等の様々な治療を含み、好ましくは免疫療法である。免疫療法には、腫瘍抗原ペプチドを用いた癌ワクチン療法、ペプチド抗原や腫瘍細胞の遺伝子をウイルス等のベクター・担体を介して生体に導入するDNAワクチン、腫瘍細胞のRNAを利用したRNAワクチン、サイトカインや抗原提示細胞としての樹状細胞を併用した治療、モノクローナル抗体療法等が含まれる。
【0040】
なお、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、細胞性免疫を増強するために用いる医薬を製造するためにも用いることができる。そのような細胞性免疫増強剤は、本発明に係る様々な疾患に関連して、治療や疾患状態の改善のほか、予防、再発防止等に使用される。
【0041】
また、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物を対象に投与する方法は特に限定されないが、通常の手法を用いて、対象に例えば経口または非経口投与(例えば、点滴投与を含む静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、もしくは局所投与等)することが可能である。投与する対象は任意の動物であってよく、例えばトカゲ、ニワトリ、アヒル、カモ、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ブタ、サル、ヒトその他が考えられ、好ましくはヒトを含む哺乳類動物である。
【0042】
次に、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、投与方法に従い、通常用いられる医薬用担体と共に製剤化して調製することができる。例えば、有効成分であるHDAC阻害剤をシロップ剤等の経口液状製剤として、又はエキス、粉末等に加工し、医薬上許容される担体と配合して錠剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、顆粒剤、散剤等の経口製剤とすることができる。
【0043】
ここで医薬上許容できる担体としては、通常用いられている各種の物質が用いられ、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、あるいは液状製剤における溶剤、賦形剤、溶解補助剤、可溶化剤、乳化剤、懸濁化剤、結合剤等を配合することが可能である。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色料、甘味剤等の製剤添加物を加えることもできる。
【0044】
本発明における、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、これを単独で用いることもできるが、細胞性免疫増強を目的として用いられるため、好ましくは、癌抗原特異的ワクチン、ウイルスワクチン等の抗原特異的ワクチンや、その他の抗原非特異的免疫賦活剤、例えばインターフェロン等のサイトカインや各種アジュバント等を併用することができる。併用する薬剤は、本発明におけるHDAC阻害剤を含む薬剤と混合して、または別々に用いることもできる。
【0045】
次に、本発明の2の態様は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物を対象において投与するステップを含む細胞免疫増強方法に関する。つまり、免疫低下に由来する疾患に悩むかまたはその危険のある対象において細胞性免疫を増強する方法であって、薬学的に許容される担体およびHDAC阻害活性を有する物質を含む組成物を、細胞性免疫を増強する用量において対象に投与するステップを含む方法である。
【0046】
本発明における細胞性免疫増強方法に適した、疾患部位においてB2M発現が抑制されている疾病を有するかまたは従って、本発明に従う細胞免疫増強方法に適した、疾患部位においてB2M発現が抑制されている疾病を有するかまたは発症/再発する危険のある対象をスクリーニングする方法も本発明の範囲内であり、本発明の3の態様である。このようなスクリーニングには、
1)対象から癌組織等の疾患部位を取得する工程;
2)前記組織からB2MまたはB2MをコードするmRNAを抽出する工程;
3)前記B2MまたはB2MをコードするmRNAの量を、対照と比較する工程;
以上1)〜3)の工程が含まれる。
【0047】
また、組織の取得は、各臓器に対して通常用いられる生検によるほか、洗浄液、擦過採取、あるいは血液、髄液、リンパ液、尿、唾液、腹水、胸水、浸出液等の体液の取得等を介することができる。
【0048】
次に、B2MまたはB2MをコードするmRNAの量の比較は、当業者に知られた方法、たとえば、質量分析計を用いたり、あるいはELISA法、ラジオイムノアッセイ法、蛍光抗体法、ウエスタンブロット法、もしくは免疫組織染色法等の免疫学的手法、またはノーザンブロット法、RT−PCR法もしくはマイクロアレイ法等の遺伝子学的手法等を用いて達成することができる。
【0049】
前記スクリーニングは、特に、本発明の方法を適用する対象を選別する一次スクリーニングに適するものであるが、さらに厳密には、次のような工程を含むスクリーニングをさらに行うか、または当初から行うことによって、選別される対象をより絞り込むことが好ましい。
1)対象から癌組織等の疾患部位を取得する工程;
2)前記組織からクロマチン沈降を行い、沈降物からB2MのDNA断片のPCR増幅を行う工程;
3)前記増幅されたDNA断片の存在の有無を評価する工程。
【0050】
この手順によってB2MのDNA断片が増幅されてこない対象は、HDAC活性の存在によってB2M遺伝子の発現が抑制されている可能性があり、本発明の治療法等の適用による効果が期待される。ここで、「クロマチン沈降」とは、クロマチンに結合しているDNAをクロマチンとともにアフィニティー沈降させる方法であり、任意の適当な方法を用いることができるが、例えば組織細胞を予め1%ホルムアルデヒド等の架橋剤で処理(例えば室温10分間)することによりクロマチンとDNAの結合状態を維持させておいてから、通常用いられるRIPA緩衝液等を用いて細胞を溶解し、超音波破砕機等を用いてDNAを剪断した後、例えば抗アセチル化ヒストン抗体によって、クロマチンとそこに結合したDNA断片を沈降させることが可能である(Assam El−Osta et al.,(2002)MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY 22(6)p1844−1857を参照のこと)。
【0051】
なお、本発明の2の態様である細胞性免疫増強方法は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物を対象に投与するステップを含む、対象においてHLAクラスI発現を増強するための方法である。このような組成物は、限定されないが、ウイルス等の病原微生物の感染症の治療または予防剤として用いられ、または、B2Mが抑制されている疾病、例えば癌の治療における抗癌剤として、もしくは当該疾病の他の治療法を補助するために用いられる。
【0052】
また、本発明に係る細胞性免疫増強方法は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物を対象に投与するステップを含む、対象においてB2M発現を増強するための方法である。このような組成物は、限定されないが、例えば癌を治療もしくは予防するために、単独で、または他の治療法と併用して用いられる。
【0053】
特段の記載のない限り、本明細書において用いられている用語は、当業者に通常理解され、用いられている意味を有するものとする。また、特に記載のない限り、本明細書で使用されている方法および技術は、当該技術分野においてよく知られた慣用の手順に従って遂行することができる。これらの手順等が記載された参考文献としては、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989および2001);Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992および補遺);およびHarlow and Lane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999)等のものや、本明細書に記載されているようなプロバイダーが頒布する使用説明書等が挙げられる。本明細書において引用された科学文献、特許、特許出願等の引用文献は、その全体が本明細に参照として取り込まれる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0055】
本実施例では、細胞内B2M遺伝子領域に結合しているヒストン蛋白質が脱アセチル化しており、HDAC阻害剤によってこの脱アセチル化が解除されることを示す。以下にその手順を示す。
【0056】
ヒトの乳癌細胞株、MCF−7細胞およびHMC−1細胞を用いて、100nM TSA(Sigma,USA)存在下24時間または4mM VPA(Sigma,USA)存在下48時間、それぞれ培養した後、メーカー(Upstate Inc.,USA)の使用説明書に従って、細胞からクロマチンを抽出し抗アセチル化ヒストンH3抗体(Upstate Inc.,USA)を用いてクロマチンの免疫沈降を行った(Assam El−Osta et al.,(2002)MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY 22(6)p1844−1857を参照のこと)。アセチル化ヒストンと結合している遺伝子を、B2M遺伝子特異的プライマー(GAAAACGGGAAAGTCCCTCT、およびAGATCCAGCCCTGGACTAGC)を用いてPCRにて増幅し、1%アガロースゲルで電気泳動後、臭化エチジウムの存在下、トランスイルミネータで検出した。この結果、いずれの癌細胞においてもB2M遺伝子領域のヒストンは脱アセチル化していることが示された。TSAやVPAのようなHDAC阻害剤の作用によってヒストンアセチル化が促進されると、アセチル化ヒストンとともにB2M遺伝子が検出された(図1)。
【実施例2】
【0057】
本実施例では、HDAC阻害剤によって細胞内B2M蛋白質の発現が増加することを示す。以下にその手順を示す。
(1)上記実施例1と同じ細胞を用いて、HDAC阻害剤TSA(100nM)存在下で24時間、それぞれ培養した後、細胞を回収した。
(2)1×106の細胞を100μLの細胞溶解液(RIPA buffer)に溶解し、可溶性分画をライゼートとして回収する。ライゼートにSDS sample bufferを加えた。
(3)蛋白試料を7.5% SDSポリアクリルアミドゲルにロードし、電気泳動した。
(4)ゲル中の蛋白質をPVDF膜(Millipore)に転写した。
(5)転写膜を5%スキムミルク・PBSに浸し、約1時間ブロッキングした。
(6)転写膜を一次抗体(抗pan−HLAクラスI heavy chain抗体EMR8−5(ホクドー、札幌)、または抗B2M抗体EMRB6(ホクドー、札幌)、または抗actin抗体(DAKO)に浸し、室温で1時間インキュベーションした。
(7)転写膜を洗浄液PBS−T(0.05% Tween 20/PBS、pH7.4)で3回洗浄した。
(8)転写膜を二次抗体ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(KPL、USA)に浸し、室温で1時間インキュベーションした。
(9)転写膜を洗浄液PBS−T(0.05% Tween 20/PBS、pH7.4)で3回洗浄した。
(10)転写膜をECLキット(アマシャム、USA)発光液に浸し、約1分間発色反応させた。
(11)発光シグナルをX線フィルムで検出した。
【0058】
その結果、TSAの有無によって細胞内HLA heavy chainとactin蛋白質の発現レベルに大きな差はなかったが、B2M蛋白質のレベルはTSA処理によって顕著に増加することが示された(図2)。
【実施例3】
【0059】
上記実施例1、2と同じ細胞を用いて、HDAC阻害剤TSA(100nM)存在下で24時間、またはVPA(4mM)存在下で48時間、それぞれ培養した後、細胞表面に発現しているMHCクラスI抗原のレベルをフローサイトメーター(Becton Dickinson)によって解析した。その手順を以下に示す。
(1)1×106の細胞を100μLのPBS bufferに浮遊させ、一次抗体(抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32(Barnstable C.J.,Bodmer W.J.,Brown G.,Galfre G.,Milstein C.,Williams A.F.,and Zeigler A.(1978)Cell 14,9−20))を添加し、4℃で40分間インキュベーションした。
(2)細胞をPBSで2回洗浄した。
(3)細胞浮遊液に二次抗体(FITC標識抗マウスIgG抗体(KPL,USA))を添加し、4℃で40分間インキュベーションした。
(4)細胞をPBSで2回洗浄し、1%ホルマリン添加PBSに浮遊させた後、フローサイトメーターによって細胞表面のFITCレベルを解析した。
【0060】
その結果、TSAまたはVPAの存在下で細胞表面MHCクラスIレベルが約10倍増加することが示された(図3、図4)。
【実施例4】
【0061】
本実施例では、ホルマリン固定ヒト癌組織の免疫組織染色を行ない、実際のヒト癌組織におけるMHCクラスI抗原の発現レベルを解析した。その手順を以下に示す。
(1)20%ホルマリン固定液で固定されたヒト乳癌組織のパラフィン包埋切片をエチルアルコールによって脱パラフィン処理した。
(2)抗原賦活化処理として、切片を0.01mol/Lクエン酸buffer(pH6.0)に浸して、オートクレーブ処理(110℃、5分)した。
(3)一次抗体として抗HLAクラスI重鎖抗体(EMR8−5)5μg/mLまたは抗β2マイクログロブリン(B2M)抗体(EMRB6)5μg/mLを0.5mL切片上に滴下し、室温で1時間インキュベーションした。
(4)洗浄液PBS−T (0.05% Tween 20/PBS、pH7.4)で3回洗浄した。
(5)二次抗体ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(シンプルステインMAX−PO、NICHIREI)を切片上に滴下し、室温で30分間インキュベーションした。
(6)洗浄液PBS−T(0.05% Tween 20/PBS、pH7.4)で3回洗浄した。
(7)切片を過酸化水素水とDAB基質の混合液(シンプルステインMAX−PO、NICHIREI)に浸し、1〜2分間発色反応させた。
(8)切片を流水で1分間洗浄した。
(9)Hematoxylin核染色(1〜2分)を行った。Hematoxylin核染色は、次の手順に倣った。
1.Take sections to water.
2.Place sections in Mayers Haematoxylin(filtrated)for 5 minutes.
3.Wash in tap water.
4.‘Blue’sections in tap water.
5.Place sections in 1% Acid Alcohol(70% Alcohol 99ml plus conc.Hydrochloric Acid 1ml)for a few seconds.
6.Wash in tap water.
7.Place sections in Eosin Solution(Eosin Yellowish 1.0g in Distilled Water 100ml)for 5 minutes.
8.Wash in tap water.
9.Dehydrate,clear.
10.Mount sections in Immumount or DPX.
【0062】
その結果、図5上パネル2枚(Case A)のようにHLAクラスI重鎖およびB2M蛋白が陽性の癌と、下パネル2枚(Case B)のようにHLAクラスI重鎖およびB2M蛋白が陰性の癌とが存在することが示された。
【実施例5】
【0063】
実施例5と同様の免疫染色法によって、ヒトの種々の癌組織におけるMHCクラスI抗原の発現レベルを解析した。図6に示すように、乳癌では41例中35例(85%)でHLAクラスI抗原の発現が低下もしくは消失、肺癌では35例中7例(20%)、肝臓癌では57例中24例(42%)、大腸癌では15例中4例(27%)、腎細胞癌では45例中16例(35%)、膀胱癌では53例中18例(34%)、口腔癌では78例中45例(58%)、前立腺癌では49例中40例(82%)で、それぞれHLAクラスI抗原の発現が低下もしくは陰性であった。乳癌と前立腺癌では発現低下の頻度が著しく高いことが注目された。
【実施例6】
【0064】
SCIDマウスにヒト乳癌細胞株MCF7細胞を移植し、2週間後、約5mm径の皮下腫瘍 を形成させた。1匹のマウスには、0.4% Valproic acid(VPA,Sigma)を含んだ水を10日間与え、他の1匹には対照群として無添加の水を与えた。10日後、腫瘍を外科的に切除し、10%ホルマリン(腫瘤が小さいため過固定を防ぐために実施例4より低い濃度とした)を用いて、室温で一晩固定を行った後、パラフィン包埋切片を得た。実施例4記載の方法に従って、組織切片の処理、ならびに抗HLAクラスI抗体(EMR8−5)および抗B2M抗体(EMR−B6)による免疫染色を行った。その結果、図6、図7に示すように、VPA投与マウスの腫瘍では、対照群と比較してHLAクラスI抗原、およびB2Mの発現レベルが増加していた。この実験から、HDAC阻害剤VPAの経口投与によってヒト乳癌組織のMHC class I抗原発現を増加させることが可能であることが示された。
【実施例7】
【0065】
《HIV感染系の実施例》
HIV感染T細胞(clone 8E5,ATCCより購入)を4mM Valproic acid添加培養液(RPMI1640)または無添加培養液で48時間培養した後、抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32抗体とFITC−label抗マウスIgG抗体とを各40分間反応させ、0.1%ホルマリン/PBSにて細胞を固定した。Flow cytometer(FACScan,Beckton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。HDAC阻害剤存在下では、細胞表面のHLAクラスIレベルが低下している感染細胞群において発現の回復が観察された。
【実施例8】
【0066】
Papilloma virus持続感染細胞(HeLa cell)を4mM Valproic acid添加培養液(RPMI1640)または無添加培養液で48時間培養した後、抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32抗体とFITC−label抗マウスIgG抗体とを各40分間反応させ、0.1%ホルマリン/PBSにて細胞を固定した。Flow cytometer(FACScan,Beckton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。HDAC阻害剤存在下では、細胞表面のHLAクラスIレベルが低下している感染細胞群において発現の回復が観察された。
【実施例9】
【0067】
EB virus持続感染B細胞(LG2EBV細胞)を4mM Valproic acid添加培養液(RPMI1640)または無添加培養液で48時間培養した後、抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32抗体とFITC−label抗マウスIgG抗体とを各40分間反応させ、0.1%ホルマリン/PBSにて細胞を固定。Flow cytometer(FACScan,Beckton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。HDAC阻害剤存在下では、細胞表面のHLAクラスIレベルが低下している感染細胞群において発現の回復が観察された。
【実施例10】
【0068】
Mumps virus持続感染B細胞(Akata−MP1細胞)を4mM Valproic acid添加培養液(RPM1640)または無添加培養液で48時間培養した後、抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32抗体とFITC−label抗マウスIgG抗体とを各40分間反応させ、0.1%ホルマリン/PBSにて細胞を固定。Flow cytometer(FACScan,Beckton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。HDAC阻害剤存在下では、細胞表面のHLAクラスIレベルが低下している感染細胞群において発現の回復が観察された。
【実施例11】
【0069】
Measles virus持続感染B細胞(Raji−ZH細胞)を4mM Valproic acid添加培養液(RPMI1640)または無添加培養液で48時間培養した後、抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32抗体とFITC−label抗マウスIgG抗体とを各40分間反応させ、0.1%ホルマリン/PBSにて細胞を固定。Flow cytometer(FACScan,Beckton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。HDAC阻害剤存在下では、細胞表面のHLAクラスIレベルが低下している感染細胞群において発現の回復が観察された。
【0070】
以上の全てのウイルス感染系においては、HDAC阻害剤の適用によって、B2M発現の上昇が全く観察されないにもかかわらず、一様にMHCクラスI発現上昇が観察された。これは癌組織における観察と比しても、全く予想に反する結果であった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を用いることにより、細胞表面の主要組織適合抗原複合体(MHC)クラスI発現レベルを増加させ、そのことを介して細胞性免疫力を増強する方法に関する。すなわち、本発明は、HDAC阻害活性を有する物質を用いた細胞性免疫増強方法に関する。さらに、本発明は、そのような細胞性免疫増強方法の、発癌予防もしくは癌再発予防、既に発生している癌の免疫治療、または病原微生物感染治療への応用に関する。
【背景技術】
【0002】
生体の免疫力には大きく分けて、抗体の産生を中心とする液性免疫力と、リンパ球による標的細胞傷害を中心とする細胞性免疫力とに分類される。細胞内に感染した病原微生物や癌等の細胞性の疾患に対する抵抗性に最も重要な免疫は細胞性免疫であり、係る細胞性免疫力を増強することは、癌の予防や治療、ウイルスや細菌等の病原微生物の感染治療等、広い場面における効果が期待される。
【0003】
細胞性免疫において、リンパ球が癌細胞やウイルス感染細胞等の標的細胞を認識し、傷害する機序にはMHCクラスI抗原分子が重要な役割を果たしている。ヒトのMHCはヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれる。例えば、癌細胞では癌抗原蛋白質の分解産物抗原ペプチドが、ウイルス等の感染細胞では病原因子由来蛋白質の分解産物抗原ペプチドが、それぞれHLAクラスI分子と結合し、細胞表面に表出している。免疫担当細胞のなかでT細胞は、細胞表面に持つT細胞抗原受容体によって標的細胞表面の抗原ペプチド・HLA複合体を認識し、正常細胞と癌細胞/感染細胞とを識別する。そのためHLAクラスI分子の発現が抑制された状態では、T細胞の標的細胞識別機構が正常に働かないことになる。
【0004】
MHCクラスI抗原は、ヒトの場合、主としてHLA−A、HLA−B、HLA−Cの3種類の遺伝子によってコードされる重鎖(Heavy chain)とβ2マイクログロブリン(B2M)という1種類の遺伝子によってコードされる軽鎖(light chain)との2分子のヘテロ2量体から成る。B2Mが正常に発現しないと、成熟したHLA複合体の形成や細胞膜表面への輸送が障害され、HLA−A、HLA−B、HLA−C全ての遺伝子座産物について発現低下が生じる。
【0005】
MHCクラスI抗原は、精巣の細胞を除くほとんどすべての体細胞の細胞表面に発現している。しかし、乳癌細胞や前立腺癌細胞等の一定の癌細胞においては、細胞表面MHCクラスI抗原の発現が高頻度に低下している。MHCクラスI抗原の発現が抑制されるメカニズムについては、これまで重鎖または軽鎖の遺伝子変異による発現低下機序が知られていたが(非特許文献1)、その詳細は明らかにされていない。一方、様々なウイルス感染においてもクラスI抗原の発現が阻害されていることが知られているが、そのメカニズムについては様々なものが報告されている。しかも、興味深いことに、それぞれのウイルスごとに、クラスIの発現を阻害するための複数の入念な戦略を備えていることがわかっている。例えば、サイトメガロウイルスはMHCクラスI経路を妨害する4つの遺伝子(US3、US2、US11、およびUS6)を発現するが、このうちUS3は小胞体からのMHCクラスI複合体のエキスポートを、US2およびUS11はMHCクラスI複合体のプロテアソームにおける迅速な分解を、US6は小胞体への抗原ペプチド供給を阻害することによって、MHCクラスI機能を妨害している(非特許文献2)。また、HIVウイルスは、TatによるB2MおよびclassI遺伝子の転写阻害(非特許文献3)のほか、NefによるclassI産物の運搬経路変更によってMHCクラスI機能を妨害している(非特許文献4)。
【0006】
このように、癌組織やウイルス感染細胞では、HLAクラスI抗原分子の発現を巧みに阻害することによって、免疫系の監視機構から逃れている。従って、これらの組織・細胞においてクラスI分子の発現を増強できれば、宿主の細胞性免疫力を高めることになり、癌や感染症の予防・治療において大きな効果が期待される。
【0007】
一方、遺伝子の塩基配列の変化を伴わないエピジェネティックな調節が、発癌等において広く関与することが近年明らかになってきた。クロマチンの活性を調節するヒストンアセチル化はエピジェネティックな調節において重要な役割を果たす要因の一つと考えられ、そのレベルを調節するヒストンデアセチラーゼ(HDAC)は、癌の分子標的等としても注目されている(非特許文献5)。HDACの作用を抑制するHDAC阻害剤については、各種のものが知られている(非特許文献5〜6)。各クラスに属するHDACに対するこれらHDAC阻害剤の選択特異性は必ずしも厳格ではないが、例えばTricostatin A(TSA)はクラスIおよびIIのHDACを阻害し、バルプロ酸(Valproic acid:VPA)はクラスIIよりもクラスIのHDACの方をより好んで阻害すること等が報告されている(非特許文献5〜6)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Seliger,Bet al.,Semin.Cancer Biol.2002,12:3−13
【非特許文献2】Mirandola P.et al.,J.Infect.Dis.2006 Apr.1;193(7):917−926
【非特許文献3】Carroll IR et al.,Mol.Immunol.1998 Dec.;35(18):1171−1178
【非特許文献4】Lubben NB et al.,Mol.Biol.Cell.2007.
【非特許文献5】Kim DH et al.,J Biochem.Mol.Biol.2003 Jan.31;36(1):110−119
【非特許文献6】Gottlicher M.et al.,EMBO J.2001 Dec.17;20(24):6969−6978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
癌細胞や病原微生物感染細胞においては、高頻度にMHCクラスI抗原分子の発現が低下しており、そのためにウイルス感染細胞や癌細胞は免疫監視機構から逃避し、生体内で免疫力によってウイルスや癌が排除できない原因になっていると考えられている。免疫力によって感染症や癌等の疾患を予防したり治療したりするためには、病原微生物感染細胞や癌細胞において低下している細胞表面のMHCクラスI抗原発現レベルを増強することが重要であり、それを解決する方法が求められていた。
【0010】
発明者らは、多くの癌細胞において、MHCクラスI重鎖遺伝子と軽鎖遺伝子のいずれにも変異がないにもかかわらず、MHCクラスI抗原の細胞表面への発現レベルが低下していることを見出した。さらに発明者らは、一定の癌細胞におけるMHCクラスI抗原発現抑制の原因が、B2M遺伝子と結合しているヒストンの脱アセチル化によっていることを見出した。そこで、HDAC阻害剤をB2Mの発現が低下している細胞に作用させたところ、B2M蛋白レベルの増加とともに、細胞表面のMHCクラスI発現レベルも増加することが示された。すなわちMHCクラスI抗原発現抑制が生じている細胞において、HDAC阻害剤の使用が、B2M遺伝子と結合しているヒストンのアセチル化を高め、B2M蛋白レベルを増加し、その結果として細胞表面のMHCクラスI抗原発現レベルを増加させることを証明した。一方、ウイルス感染におけるMHCクラスI発現レベル低下については、前述のように、多種多様で入念なシステムを介することが知られているところである。ところが発明者らが鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、ヒストンの脱アセチル化阻害剤の使用によって、様々なウイルス感染系におけるMHCクラスI抗原発現レベルの上昇を一様に導き出せることを示し、本発明の完成に至った。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明に係る細胞性免疫増強剤は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる。
【0012】
また、本発明に係る細胞性免疫増強剤において、前記HDAC阻害活性を有する物質がバルプロ酸であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る細胞性免疫増強剤において、疾患部位におけるβ2マイクログロブリン(B2M)発現が抑制されている疾患の治療または予防において用いられることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明に係る細胞性免疫増強剤は、細胞侵入性の病原微生物・因子による感染症に悩まされているかその危険のある対象、または、疾患に悩まされているかその危険のある対象において、その予防または治療のために用いることが好ましい。ここで前記病原微生物はウイルスであることが好ましい。また、前記因子はウイルス由来のものであることが好ましい。さらに、前記ウイルスはヘルペスウイルス、パポーバウイルス、レンチウイルス、パラミクソウイルスよりなる群に含まれるウイルスのうち1または複数であることがより好ましい。一方、前記疾病は癌であることがより好ましく、前記癌は乳癌、前立腺癌、あるいは口腔癌であることがより好ましく、乳癌であることがさらに好ましい。
【0015】
次に、本発明に係るHLAクラスI発現増強剤は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる。
【0016】
また、本発明に係るHLAクラスI発現増強剤において、前記HDAC阻害活性を有する物質がバルプロ酸であることが好ましい。
【0017】
次に、本発明に係るB2M発現増強剤は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる。
【0018】
また、本発明に係るB2M発現増強剤において、前記HDAC阻害活性を有する物質がバルプロ酸であることが好ましい。
【0019】
次に、本発明に係る細胞性免疫増強方法は、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含有する組成物を対象において投与するステップを含む。
【0020】
また、本発明に係る細胞性免疫増強方法において、前記HDAC阻害活性を有する物質がバルプロ酸であることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る細胞性免疫増強方法において、疾患部位におけるβ2マイクログロブリン(B2M)発現が抑制されている疾患の治療または予防において用いられることが好ましい。
【0022】
さらに、本発明に係る細胞性免疫増強方法において、前記対象が病原微生物に感染していることが好ましく、前記病原微生物がウイルスであることがより好ましく、前記ウイルスがヘルペスウイルス、パポーバウイルス、レンチウイルス、パラミクソウイルスよりなる群に含まれるウイルスのうち1または複数であることがさらに好ましい。また、本発明において、前記疾病が癌であることが好ましく、前記癌が乳癌、前立腺癌、あるいは口腔癌であることがより好ましく、乳癌であることがさらに好ましい。
【0023】
すなわち、本発明に係る細胞性免疫増強方法は、任意のウイルスを含む細胞侵入性の病原微生物・因子による感染症に悩まされているかその危険のある対象、または乳癌、前立腺癌、または口腔癌等の癌に悩まされているかその危険のある対象において、疾患の予防または治療を目的として用いることができる。
【0024】
次に、本発明に係るHDAC阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法は、対象から感染組織または癌組織を取得する工程と、前記組織からB2MまたはB2MをコードするmRNAを抽出する工程と、前記B2Mまたは前記B2MをコードするmRNAの量を、対照と比較する工程とを含む。
【0025】
さらに、本発明に係るHDAC阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法は、対象から感染組織または癌組織を取得する工程と、前記組織からクロマチン沈降を行い、沈降物からB2MのDNA断片のPCR増幅を行う工程と、前記増幅されたDNA断片の存在の有無を評価する工程を含む。
【0026】
また本発明に係るスクリーニング方法において、HDAC阻害活性を有する物質はバルプロ酸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係る細胞性免疫増強剤、HLAクラスI発現増強剤、B2M発現増強剤、または細胞性免疫増強方法によれば、MHCクラスI軽鎖(B2M)蛋白レベルの低下を介して発現が低下している標的細胞のMHCクラスI抗原の発現レベルを高めることができる。その結果、宿主において、細胞傷害性T細胞による該標的細胞の傷害効果を増強することができる。従って、例えば微生物感染症や癌等の疾患において、実際に治療を行ったり、併用する療法の治療効果を高めたりすることができる。
【0028】
また、本発明に係るHDAC阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法によれば、HCクラスI軽鎖(B2M)蛋白レベルの低下を介して発現が低下している標的細胞を選択することができることから、疾患部位においてB2M発現が抑制されている疾病を有するか、または発症/再発する危険のある対象をスクリーニングすることができ、同様に微生物感染症や癌等の疾患の治療を行ったり、併用する療法の治療効果を高めたりすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】クロマチン沈降法によって細胞内のB2M遺伝子結合ヒストン蛋白質が脱アセチル化していることを示す図である。左パネルはMCF−7ヒト乳癌細胞をTSA存在下で培養した例で、右パネルはHMC−1ヒト乳癌細胞株をVPA存在下で培養した例である。いずれの場合も、無処理の状態では抗アセチル化ヒストン抗体免疫沈降物の中にB2M遺伝子がほとんど検出されていないことから、B2M遺伝子領域でヒストン蛋白質は脱アセチル化していることがわかる。TSAまたはVPAを作用させることによって、同免疫沈降物中にB2M遺伝子が検出されるようになった。
【図2】HDAC阻害剤によって、細胞内B2M蛋白質のレベルが増加することを示す図である。左パネルはHMC−1ヒト乳癌細胞を、右パネルはMCF−7ヒト乳癌細胞株を、それぞれTSA存在下で24時間培養した例である。いずれの細胞でも、無処理の状態では極めて低レベルのB2M蛋白質が、HDAC阻害剤TSAの作用によって顕著に増加することが示された。それに対して、無処理の状態でも高レベルに発現しているHLAクラスI heavy chainやactin蛋白質のレベルには大きな変化はない。
【図3】HDAC阻害剤TSAによって、細胞表面MHCクラスI抗原のレベルが増加することを示す図である。左パネルはHMC−1ヒト乳癌細胞を、右パネルはMCF−7ヒト乳癌細胞株を、それぞれTSA存在下で24時間培養した。いずれの細胞でも、無処理の状態では低レベルの細胞表面MHCクラスI抗原が、HDAC阻害剤TSAの作用によって約10倍程度増加することを示している。縦軸は細胞数を、横軸は細胞の蛍光強度を表す。
【図4】ヒトに対する安全性が確立しているHDAC阻害剤VPAによって、細胞表面MHCクラスI抗原のレベルが増加することを示す図である。HMC−1ヒト乳癌細胞を4mM VPA存在下で48時間培養した。無処理の状態では低レベルの細胞表面MHCクラスI抗原が、HDAC阻害剤VPAの作用によって約10倍程度増加することを示している。縦軸は細胞数を、横軸は細胞の蛍光強度を表す。
【図5】ヒトの乳癌組織において、細胞表面のHLAクラスI抗原(重鎖および軽鎖B2M蛋白)の発現が陽性の癌症例(上パネル2枚, Case A)と陰性の癌症例(下パネル2枚, Case B)を示す図である。左パネル上下2枚は、乳癌組織標本を抗HLAクラスI重鎖抗体(EMR8−5抗体)を用いて免疫染色した図で、右パネル上下2枚は、同じ乳癌組織標本を抗B2M抗体(EMRB6抗体)を用いて免疫染色した図である。ヒト乳癌組織のなかには、HLAクラスI陽性の癌(Case A)と、陰性の癌(Case B)とがあることを示している。
【図6】図5と同様の抗HLAクラスI重鎖抗体(EMR8−5抗体)を用いて免疫染色を行い、ヒトの様々な種類の癌組織についてHLAクラスI抗原の細胞表面発現を検索した。表に示すように、癌の種類によって頻度は異なるが、全ての癌種に関して、HLAクラスI抗原が陽性の癌と陰性もしくは発現低下している癌とがあることを示している。乳癌と前立腺癌では特に、HLAクラスI抗原の発現が低下している頻度が高いことに注目される。
【図7】VPA投与マウスの腫瘍(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【図8】VPA投与マウスの腫瘍(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してB2Mの発現レベルが増加していることを示す図である。
【図9】VPA存在下(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してHuman immunodeficiency virus(HIV)持続感染T細胞におけるHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【図10】VPA存在下(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してPapilloma virus持続感染上皮細胞株(HeLa cell)におけるHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【図11】VPA存在下(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してEB virus持続感染B細胞(LG2EBV細胞)におけるHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【図12】VPA存在下(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してMumps virus持続感染B細胞(Akata−MP1細胞)におけるHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【図13】VPA存在下(VPA(+))では、対照群(VPA(−))と比較してMeasles virus持続感染B細胞(Raji−ZH細胞)におけるHLAクラスI抗原の発現レベルが増加していることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な態様について説明する。本発明の1の態様は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物に関する。
【0031】
本発明における「HDAC阻害活性を有する物質」とは、人体または動物に投与可能なHDAC阻害剤であればどのようなものでもよい。例えば、現時点でヒトに対する安全性が最も確立されているHDAC阻害作用を有する薬剤のひとつにバルプロ酸(VPA)がある。VPAの場合、ヒトにおいては1日量約1000mgから2400mgを安全に経口投与することができるが、投与量は体重や年齢、薬物代謝動態、安全性、効果、目的、投与方法等に応じて、適宜加減することができる。
【0032】
HDAC阻害活性を有する物質としては、VPAのほか任意のHDAC阻害剤を同等に用いることができる。例えば、本出願の時点においては、phenylbutyric acid、FK228(Depsipeptide)、SAHA (suberoylanilide hydroxamic acid)、PXD101、CI−994(N−acetyl dinaline)、MGCD0103、Pivanex、CRA−024781、MS−275、LBH589、MG989、LAQ−824、NVP−LAQ824等の薬剤が、本発明とは別の用途において既に臨床試験中である。そのほかにも、TSA、Trapoxin、CHAP、Apicidin、Depudecin等、数多くのHDAC阻害剤が知られている。従って、「HDAC阻害活性を有する物質」として、本発明の効果においてVPAと同等の作用および/または特異性を有するHDAC阻害剤を用いることができる。このようなHDAC阻害剤は、クラスIおよび/またはクラスIIのHDACに対する阻害剤であるといえる。
【0033】
また、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、疾患部位におけるB2M発現が抑制されている疾患の治療または予防において用いられる。なお、前記疾患部位とは、例えば癌であれば癌細胞を、感染症であれば病原微生物が感染している細胞を意味する。
【0034】
さらに本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物を投与する対象は特に限定されないが、癌患者、癌の発症、または再発の危険がある対象、もしくはウイルスその他の病原微生物に感染しているか、またはその危険がある対象が含まれる。
【0035】
本発明における病原微生物の感染症は、特に限定されないが、例えば、EBウイルス、サイトメガロウイルス、HSV、HHV−7等を含むヘルペスウイルス科ウイルス、パピローマウイルス等を含むパポーバウイルス科ウイルス、パルボウイルス科ウイルス、アデノウイルス科ウイルス、HBV等を含むヘパドナウイルス科ウイルス、ポックスウイルス科ウイルス、エンテロウイルス属のコクサッキーウイルス、HAV等を含むピコルナウイルス科ウイルス、SARSウイルスを含むコロナウイルス科ウイルス、トガウイルス科ウイルス、HCV、ウエストナイル熱ウイルス等を含むフラビウイルス科ウイルス、ラブドウイルス科ウイルス、フィロウイルス科ウイルス、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎(ムンプス)ウイルス、パラインフルエンザウイルス等を含むパラミクソウイルス科ウイルス、アレナウイルス科ウイルス、ハンタウイルス等を含むブニヤウイルス科ウイルス、インフルエンザウイルスを含むオルソミクソウイルス科ウイルス、レンチウイルス亜科のHIV−1/2、FIVや、オンコウイルス亜科のHTLV−1/2等を含むレトロウイルス科ウイルス、ロタウイルスを含むレオウイルス科ウイルス、その他様々なウイルスを含むウイルス、ならびに、細菌、マイコプラズマ、リケッチア、真菌、および、原虫等の寄生虫等による感染症のほか、病原因子を必ずしも特定できない任意の感染症をも含む。換言すれば、前記感染症は特に限定されないが、例えばレオウイルス感染症、SARS、レトロウイルス感染症、黄熱病、日本脳炎、デング熱、西ナイル熱、牛ウイルス性下痢・粘膜病、豚コレラ、ボーダー病、C型肝炎、口蹄疫、ポリオ(急性灰白髄炎)、A型肝炎、風邪、風疹、シンドビスウイルス感染症、馬ウイルス性動脈炎、サル出血熱、ノロウイルス感染症、サポウイルス感染症、ウサギ出血熱、猫カリシウイルス病、豚水疱疹、E型肝炎、マールブルグ病、エボラ出血熱、狂犬病、水胞性口炎、麻疹、小反芻獣疫、犬ジステンパー、牛疫、流行性耳下腺炎、メナングルウイルス感染症、ニューカッスル病、RSウイルス感染症、ヒト・メタニューモウイルス感染症、ニパウイルス感染症、インフルエンザ、アカバネ病、ハンタウイルス肺症候群、腎症候群性出血熱、リンパ球性脈絡髄膜炎、ラッサ熱、アルゼンチン出血熱、ボリビア出血熱、AIDS、成人T細胞白血病、あるいは、水痘、天然痘、帯状疱疹、サイトメガロウイルス感染症、アデノウイルス感染症、B型肝炎、その他の疾患を有するかまたはその危険のある対象に適用することができる。
【0036】
また、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、病原微生物の感染症の治療または予防において、単独に、または他の任意の当業者に知られた感染症の治療・予防処置を補完するための免疫賦活剤として用いることもできる。
【0037】
また、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、癌の治療または予防において、抗癌剤として、および/または他の抗癌治療を補完するための免疫賦活剤として用いることができる。前記癌の予防における最も好ましい態様は、癌の再発予防である。
【0038】
本発明において治療または予防の対象となる前記癌は特に限定されないが、肺癌、腎細胞癌、肝細胞癌、大腸癌、膀胱癌等の様々な癌を挙げることができ、好ましくは前立腺癌または口腔癌であり、さらに好ましくは乳癌である。一方、B2M発現が多数の症例で抑制されている疾患(たとえば乳癌や前立腺癌)ではなくとも、個々の症例においてB2M発現が抑制されていれば、本発明の細胞性免疫増強剤を好んで適用することができる。
【0039】
また、前記抗癌治療の方法は特に限定されないが、放射線治療、温熱療法、化学療法(例えば、アナストロゾール、シクロホスファミド、イリノテカン、シタラビン、パクリタキセル、ドセタキセル、ブスルファン、カルボコン、ミトブロニトール、ダカルバジン、メルファラン、ブロカルバジン、ドキシフルリジン、フルオロウラシル、カモフール、メルカプトプリン、メトトレキサート、シタラビンオクホスファート、テガフール、カルボプラチン、シスプラチン、チオテパ、ドキソルビシン、エピルビシン、アクラルビシン、L-アスパラギナーゼ、マイトマイシンC、メドロキシプロゲステロン、クレスチン、タモキシフェン、トレミフェン、ビノレルビン、エトポシド等の抗癌剤、またはこれらの医薬上許容される塩を用いるもの等)、遺伝子治療(p53等の癌抑制遺伝子を導入するもの、免疫刺激性サイトカイン遺伝子を導入した腫瘍細胞を用いるもの等)、外科療法、食餌療法等の様々な治療を含み、好ましくは免疫療法である。免疫療法には、腫瘍抗原ペプチドを用いた癌ワクチン療法、ペプチド抗原や腫瘍細胞の遺伝子をウイルス等のベクター・担体を介して生体に導入するDNAワクチン、腫瘍細胞のRNAを利用したRNAワクチン、サイトカインや抗原提示細胞としての樹状細胞を併用した治療、モノクローナル抗体療法等が含まれる。
【0040】
なお、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、細胞性免疫を増強するために用いる医薬を製造するためにも用いることができる。そのような細胞性免疫増強剤は、本発明に係る様々な疾患に関連して、治療や疾患状態の改善のほか、予防、再発防止等に使用される。
【0041】
また、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物を対象に投与する方法は特に限定されないが、通常の手法を用いて、対象に例えば経口または非経口投与(例えば、点滴投与を含む静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、もしくは局所投与等)することが可能である。投与する対象は任意の動物であってよく、例えばトカゲ、ニワトリ、アヒル、カモ、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、ブタ、サル、ヒトその他が考えられ、好ましくはヒトを含む哺乳類動物である。
【0042】
次に、本発明におけるHDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、投与方法に従い、通常用いられる医薬用担体と共に製剤化して調製することができる。例えば、有効成分であるHDAC阻害剤をシロップ剤等の経口液状製剤として、又はエキス、粉末等に加工し、医薬上許容される担体と配合して錠剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、顆粒剤、散剤等の経口製剤とすることができる。
【0043】
ここで医薬上許容できる担体としては、通常用いられている各種の物質が用いられ、例えば固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、あるいは液状製剤における溶剤、賦形剤、溶解補助剤、可溶化剤、乳化剤、懸濁化剤、結合剤等を配合することが可能である。また、必要に応じて防腐剤、抗酸化剤、着色料、甘味剤等の製剤添加物を加えることもできる。
【0044】
本発明における、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物は、これを単独で用いることもできるが、細胞性免疫増強を目的として用いられるため、好ましくは、癌抗原特異的ワクチン、ウイルスワクチン等の抗原特異的ワクチンや、その他の抗原非特異的免疫賦活剤、例えばインターフェロン等のサイトカインや各種アジュバント等を併用することができる。併用する薬剤は、本発明におけるHDAC阻害剤を含む薬剤と混合して、または別々に用いることもできる。
【0045】
次に、本発明の2の態様は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物を対象において投与するステップを含む細胞免疫増強方法に関する。つまり、免疫低下に由来する疾患に悩むかまたはその危険のある対象において細胞性免疫を増強する方法であって、薬学的に許容される担体およびHDAC阻害活性を有する物質を含む組成物を、細胞性免疫を増強する用量において対象に投与するステップを含む方法である。
【0046】
本発明における細胞性免疫増強方法に適した、疾患部位においてB2M発現が抑制されている疾病を有するかまたは従って、本発明に従う細胞免疫増強方法に適した、疾患部位においてB2M発現が抑制されている疾病を有するかまたは発症/再発する危険のある対象をスクリーニングする方法も本発明の範囲内であり、本発明の3の態様である。このようなスクリーニングには、
1)対象から癌組織等の疾患部位を取得する工程;
2)前記組織からB2MまたはB2MをコードするmRNAを抽出する工程;
3)前記B2MまたはB2MをコードするmRNAの量を、対照と比較する工程;
以上1)〜3)の工程が含まれる。
【0047】
また、組織の取得は、各臓器に対して通常用いられる生検によるほか、洗浄液、擦過採取、あるいは血液、髄液、リンパ液、尿、唾液、腹水、胸水、浸出液等の体液の取得等を介することができる。
【0048】
次に、B2MまたはB2MをコードするmRNAの量の比較は、当業者に知られた方法、たとえば、質量分析計を用いたり、あるいはELISA法、ラジオイムノアッセイ法、蛍光抗体法、ウエスタンブロット法、もしくは免疫組織染色法等の免疫学的手法、またはノーザンブロット法、RT−PCR法もしくはマイクロアレイ法等の遺伝子学的手法等を用いて達成することができる。
【0049】
前記スクリーニングは、特に、本発明の方法を適用する対象を選別する一次スクリーニングに適するものであるが、さらに厳密には、次のような工程を含むスクリーニングをさらに行うか、または当初から行うことによって、選別される対象をより絞り込むことが好ましい。
1)対象から癌組織等の疾患部位を取得する工程;
2)前記組織からクロマチン沈降を行い、沈降物からB2MのDNA断片のPCR増幅を行う工程;
3)前記増幅されたDNA断片の存在の有無を評価する工程。
【0050】
この手順によってB2MのDNA断片が増幅されてこない対象は、HDAC活性の存在によってB2M遺伝子の発現が抑制されている可能性があり、本発明の治療法等の適用による効果が期待される。ここで、「クロマチン沈降」とは、クロマチンに結合しているDNAをクロマチンとともにアフィニティー沈降させる方法であり、任意の適当な方法を用いることができるが、例えば組織細胞を予め1%ホルムアルデヒド等の架橋剤で処理(例えば室温10分間)することによりクロマチンとDNAの結合状態を維持させておいてから、通常用いられるRIPA緩衝液等を用いて細胞を溶解し、超音波破砕機等を用いてDNAを剪断した後、例えば抗アセチル化ヒストン抗体によって、クロマチンとそこに結合したDNA断片を沈降させることが可能である(Assam El−Osta et al.,(2002)MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY 22(6)p1844−1857を参照のこと)。
【0051】
なお、本発明の2の態様である細胞性免疫増強方法は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物を対象に投与するステップを含む、対象においてHLAクラスI発現を増強するための方法である。このような組成物は、限定されないが、ウイルス等の病原微生物の感染症の治療または予防剤として用いられ、または、B2Mが抑制されている疾病、例えば癌の治療における抗癌剤として、もしくは当該疾病の他の治療法を補助するために用いられる。
【0052】
また、本発明に係る細胞性免疫増強方法は、HDAC阻害活性を有する物質を有効成分として含む組成物を対象に投与するステップを含む、対象においてB2M発現を増強するための方法である。このような組成物は、限定されないが、例えば癌を治療もしくは予防するために、単独で、または他の治療法と併用して用いられる。
【0053】
特段の記載のない限り、本明細書において用いられている用語は、当業者に通常理解され、用いられている意味を有するものとする。また、特に記載のない限り、本明細書で使用されている方法および技術は、当該技術分野においてよく知られた慣用の手順に従って遂行することができる。これらの手順等が記載された参考文献としては、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989および2001);Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992および補遺);およびHarlow and Lane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999)等のものや、本明細書に記載されているようなプロバイダーが頒布する使用説明書等が挙げられる。本明細書において引用された科学文献、特許、特許出願等の引用文献は、その全体が本明細に参照として取り込まれる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0055】
本実施例では、細胞内B2M遺伝子領域に結合しているヒストン蛋白質が脱アセチル化しており、HDAC阻害剤によってこの脱アセチル化が解除されることを示す。以下にその手順を示す。
【0056】
ヒトの乳癌細胞株、MCF−7細胞およびHMC−1細胞を用いて、100nM TSA(Sigma,USA)存在下24時間または4mM VPA(Sigma,USA)存在下48時間、それぞれ培養した後、メーカー(Upstate Inc.,USA)の使用説明書に従って、細胞からクロマチンを抽出し抗アセチル化ヒストンH3抗体(Upstate Inc.,USA)を用いてクロマチンの免疫沈降を行った(Assam El−Osta et al.,(2002)MOLECULAR AND CELLULAR BIOLOGY 22(6)p1844−1857を参照のこと)。アセチル化ヒストンと結合している遺伝子を、B2M遺伝子特異的プライマー(GAAAACGGGAAAGTCCCTCT、およびAGATCCAGCCCTGGACTAGC)を用いてPCRにて増幅し、1%アガロースゲルで電気泳動後、臭化エチジウムの存在下、トランスイルミネータで検出した。この結果、いずれの癌細胞においてもB2M遺伝子領域のヒストンは脱アセチル化していることが示された。TSAやVPAのようなHDAC阻害剤の作用によってヒストンアセチル化が促進されると、アセチル化ヒストンとともにB2M遺伝子が検出された(図1)。
【実施例2】
【0057】
本実施例では、HDAC阻害剤によって細胞内B2M蛋白質の発現が増加することを示す。以下にその手順を示す。
(1)上記実施例1と同じ細胞を用いて、HDAC阻害剤TSA(100nM)存在下で24時間、それぞれ培養した後、細胞を回収した。
(2)1×106の細胞を100μLの細胞溶解液(RIPA buffer)に溶解し、可溶性分画をライゼートとして回収する。ライゼートにSDS sample bufferを加えた。
(3)蛋白試料を7.5% SDSポリアクリルアミドゲルにロードし、電気泳動した。
(4)ゲル中の蛋白質をPVDF膜(Millipore)に転写した。
(5)転写膜を5%スキムミルク・PBSに浸し、約1時間ブロッキングした。
(6)転写膜を一次抗体(抗pan−HLAクラスI heavy chain抗体EMR8−5(ホクドー、札幌)、または抗B2M抗体EMRB6(ホクドー、札幌)、または抗actin抗体(DAKO)に浸し、室温で1時間インキュベーションした。
(7)転写膜を洗浄液PBS−T(0.05% Tween 20/PBS、pH7.4)で3回洗浄した。
(8)転写膜を二次抗体ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(KPL、USA)に浸し、室温で1時間インキュベーションした。
(9)転写膜を洗浄液PBS−T(0.05% Tween 20/PBS、pH7.4)で3回洗浄した。
(10)転写膜をECLキット(アマシャム、USA)発光液に浸し、約1分間発色反応させた。
(11)発光シグナルをX線フィルムで検出した。
【0058】
その結果、TSAの有無によって細胞内HLA heavy chainとactin蛋白質の発現レベルに大きな差はなかったが、B2M蛋白質のレベルはTSA処理によって顕著に増加することが示された(図2)。
【実施例3】
【0059】
上記実施例1、2と同じ細胞を用いて、HDAC阻害剤TSA(100nM)存在下で24時間、またはVPA(4mM)存在下で48時間、それぞれ培養した後、細胞表面に発現しているMHCクラスI抗原のレベルをフローサイトメーター(Becton Dickinson)によって解析した。その手順を以下に示す。
(1)1×106の細胞を100μLのPBS bufferに浮遊させ、一次抗体(抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32(Barnstable C.J.,Bodmer W.J.,Brown G.,Galfre G.,Milstein C.,Williams A.F.,and Zeigler A.(1978)Cell 14,9−20))を添加し、4℃で40分間インキュベーションした。
(2)細胞をPBSで2回洗浄した。
(3)細胞浮遊液に二次抗体(FITC標識抗マウスIgG抗体(KPL,USA))を添加し、4℃で40分間インキュベーションした。
(4)細胞をPBSで2回洗浄し、1%ホルマリン添加PBSに浮遊させた後、フローサイトメーターによって細胞表面のFITCレベルを解析した。
【0060】
その結果、TSAまたはVPAの存在下で細胞表面MHCクラスIレベルが約10倍増加することが示された(図3、図4)。
【実施例4】
【0061】
本実施例では、ホルマリン固定ヒト癌組織の免疫組織染色を行ない、実際のヒト癌組織におけるMHCクラスI抗原の発現レベルを解析した。その手順を以下に示す。
(1)20%ホルマリン固定液で固定されたヒト乳癌組織のパラフィン包埋切片をエチルアルコールによって脱パラフィン処理した。
(2)抗原賦活化処理として、切片を0.01mol/Lクエン酸buffer(pH6.0)に浸して、オートクレーブ処理(110℃、5分)した。
(3)一次抗体として抗HLAクラスI重鎖抗体(EMR8−5)5μg/mLまたは抗β2マイクログロブリン(B2M)抗体(EMRB6)5μg/mLを0.5mL切片上に滴下し、室温で1時間インキュベーションした。
(4)洗浄液PBS−T (0.05% Tween 20/PBS、pH7.4)で3回洗浄した。
(5)二次抗体ペルオキシダーゼ標識抗マウスIgG抗体(シンプルステインMAX−PO、NICHIREI)を切片上に滴下し、室温で30分間インキュベーションした。
(6)洗浄液PBS−T(0.05% Tween 20/PBS、pH7.4)で3回洗浄した。
(7)切片を過酸化水素水とDAB基質の混合液(シンプルステインMAX−PO、NICHIREI)に浸し、1〜2分間発色反応させた。
(8)切片を流水で1分間洗浄した。
(9)Hematoxylin核染色(1〜2分)を行った。Hematoxylin核染色は、次の手順に倣った。
1.Take sections to water.
2.Place sections in Mayers Haematoxylin(filtrated)for 5 minutes.
3.Wash in tap water.
4.‘Blue’sections in tap water.
5.Place sections in 1% Acid Alcohol(70% Alcohol 99ml plus conc.Hydrochloric Acid 1ml)for a few seconds.
6.Wash in tap water.
7.Place sections in Eosin Solution(Eosin Yellowish 1.0g in Distilled Water 100ml)for 5 minutes.
8.Wash in tap water.
9.Dehydrate,clear.
10.Mount sections in Immumount or DPX.
【0062】
その結果、図5上パネル2枚(Case A)のようにHLAクラスI重鎖およびB2M蛋白が陽性の癌と、下パネル2枚(Case B)のようにHLAクラスI重鎖およびB2M蛋白が陰性の癌とが存在することが示された。
【実施例5】
【0063】
実施例5と同様の免疫染色法によって、ヒトの種々の癌組織におけるMHCクラスI抗原の発現レベルを解析した。図6に示すように、乳癌では41例中35例(85%)でHLAクラスI抗原の発現が低下もしくは消失、肺癌では35例中7例(20%)、肝臓癌では57例中24例(42%)、大腸癌では15例中4例(27%)、腎細胞癌では45例中16例(35%)、膀胱癌では53例中18例(34%)、口腔癌では78例中45例(58%)、前立腺癌では49例中40例(82%)で、それぞれHLAクラスI抗原の発現が低下もしくは陰性であった。乳癌と前立腺癌では発現低下の頻度が著しく高いことが注目された。
【実施例6】
【0064】
SCIDマウスにヒト乳癌細胞株MCF7細胞を移植し、2週間後、約5mm径の皮下腫瘍 を形成させた。1匹のマウスには、0.4% Valproic acid(VPA,Sigma)を含んだ水を10日間与え、他の1匹には対照群として無添加の水を与えた。10日後、腫瘍を外科的に切除し、10%ホルマリン(腫瘤が小さいため過固定を防ぐために実施例4より低い濃度とした)を用いて、室温で一晩固定を行った後、パラフィン包埋切片を得た。実施例4記載の方法に従って、組織切片の処理、ならびに抗HLAクラスI抗体(EMR8−5)および抗B2M抗体(EMR−B6)による免疫染色を行った。その結果、図6、図7に示すように、VPA投与マウスの腫瘍では、対照群と比較してHLAクラスI抗原、およびB2Mの発現レベルが増加していた。この実験から、HDAC阻害剤VPAの経口投与によってヒト乳癌組織のMHC class I抗原発現を増加させることが可能であることが示された。
【実施例7】
【0065】
《HIV感染系の実施例》
HIV感染T細胞(clone 8E5,ATCCより購入)を4mM Valproic acid添加培養液(RPMI1640)または無添加培養液で48時間培養した後、抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32抗体とFITC−label抗マウスIgG抗体とを各40分間反応させ、0.1%ホルマリン/PBSにて細胞を固定した。Flow cytometer(FACScan,Beckton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。HDAC阻害剤存在下では、細胞表面のHLAクラスIレベルが低下している感染細胞群において発現の回復が観察された。
【実施例8】
【0066】
Papilloma virus持続感染細胞(HeLa cell)を4mM Valproic acid添加培養液(RPMI1640)または無添加培養液で48時間培養した後、抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32抗体とFITC−label抗マウスIgG抗体とを各40分間反応させ、0.1%ホルマリン/PBSにて細胞を固定した。Flow cytometer(FACScan,Beckton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。HDAC阻害剤存在下では、細胞表面のHLAクラスIレベルが低下している感染細胞群において発現の回復が観察された。
【実施例9】
【0067】
EB virus持続感染B細胞(LG2EBV細胞)を4mM Valproic acid添加培養液(RPMI1640)または無添加培養液で48時間培養した後、抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32抗体とFITC−label抗マウスIgG抗体とを各40分間反応させ、0.1%ホルマリン/PBSにて細胞を固定。Flow cytometer(FACScan,Beckton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。HDAC阻害剤存在下では、細胞表面のHLAクラスIレベルが低下している感染細胞群において発現の回復が観察された。
【実施例10】
【0068】
Mumps virus持続感染B細胞(Akata−MP1細胞)を4mM Valproic acid添加培養液(RPM1640)または無添加培養液で48時間培養した後、抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32抗体とFITC−label抗マウスIgG抗体とを各40分間反応させ、0.1%ホルマリン/PBSにて細胞を固定。Flow cytometer(FACScan,Beckton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。HDAC阻害剤存在下では、細胞表面のHLAクラスIレベルが低下している感染細胞群において発現の回復が観察された。
【実施例11】
【0069】
Measles virus持続感染B細胞(Raji−ZH細胞)を4mM Valproic acid添加培養液(RPMI1640)または無添加培養液で48時間培養した後、抗pan−HLAクラスI抗体であるW6/32抗体とFITC−label抗マウスIgG抗体とを各40分間反応させ、0.1%ホルマリン/PBSにて細胞を固定。Flow cytometer(FACScan,Beckton Dickinson)にて蛍光強度を測定した。HDAC阻害剤存在下では、細胞表面のHLAクラスIレベルが低下している感染細胞群において発現の回復が観察された。
【0070】
以上の全てのウイルス感染系においては、HDAC阻害剤の適用によって、B2M発現の上昇が全く観察されないにもかかわらず、一様にMHCクラスI発現上昇が観察された。これは癌組織における観察と比しても、全く予想に反する結果であった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる、細胞性免疫増強剤。
【請求項2】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質がバルプロ酸である、請求項1に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項3】
疾患部位におけるβ2マイクログロブリン発現が抑制されている疾病の治療または予防において用いられる、請求項1または請求項2に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項4】
疾病が病原微生物による感染症である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項5】
病原微生物がウイルスである、請求項4に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項6】
ウイルスが、ヘルペスウイルス、パポーバウイルス、レンチウイルスおよびパラミクソウイルスよりなる群に含まれるウイルスのうち1または複数である、請求項5に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項7】
疾病が癌である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項8】
癌が乳癌である、請求項7に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項9】
癌が前立腺癌または口腔癌である、請求項7に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項10】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる、HLAクラスI発現増強剤。
【請求項11】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる、β2マイクログロブリン発現増強剤。
【請求項12】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含有する組成物を対象において投与する工程を含む、細胞性免疫増強方法。
【請求項13】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質がバルプロ酸である、請求項12に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項14】
疾患部位におけるβ2マイクログロブリン発現が抑制されている疾病の治療または予防において用いられる、請求項12または請求項13に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項15】
対象が病原微生物に感染している、請求項12から請求項14のいずれかに記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項16】
病原微生物がウイルスである、請求項15に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項17】
ウイルスが、ヘルペスウイルス、パポーバウイルス、レンチウイルスおよびパラミクソウイルスよりなる群に含まれるウイルスのうち1または複数である、請求項16に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項18】
疾病が癌である、請求項12から請求項14のいずれかに記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項19】
癌が乳癌である、請求項18に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項20】
癌が前立腺癌または口腔癌である、請求項18に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項21】
1)対象から感染組織または癌組織を取得する工程;
2)前記組織からβ2マイクログロブリンまたはβ2マイクログロブリンをコードするmRNAを抽出する工程;
3)前記β2マイクログロブリンまたはβ2マイクログロブリンをコードするmRNAの量を、対照と比較する工程;
を含む、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法。
【請求項22】
1)対象から感染組織または癌組織を取得する工程;
2)前記組織からクロマチン沈降を行い、沈降物からβ2マイクログロブリンDNA断片のPCR増幅を行う工程;
3)前記増幅されたDNA断片の存在の有無を評価する工程;
を含む、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法。
【請求項23】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質がバルプロ酸である、請求項21または請求項22に記載のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法。
【請求項1】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる、細胞性免疫増強剤。
【請求項2】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質がバルプロ酸である、請求項1に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項3】
疾患部位におけるβ2マイクログロブリン発現が抑制されている疾病の治療または予防において用いられる、請求項1または請求項2に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項4】
疾病が病原微生物による感染症である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項5】
病原微生物がウイルスである、請求項4に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項6】
ウイルスが、ヘルペスウイルス、パポーバウイルス、レンチウイルスおよびパラミクソウイルスよりなる群に含まれるウイルスのうち1または複数である、請求項5に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項7】
疾病が癌である、請求項1から請求項3のいずれかに記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項8】
癌が乳癌である、請求項7に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項9】
癌が前立腺癌または口腔癌である、請求項7に記載の細胞性免疫増強剤。
【請求項10】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる、HLAクラスI発現増強剤。
【請求項11】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含んでなる、β2マイクログロブリン発現増強剤。
【請求項12】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を有効成分として含有する組成物を対象において投与する工程を含む、細胞性免疫増強方法。
【請求項13】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質がバルプロ酸である、請求項12に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項14】
疾患部位におけるβ2マイクログロブリン発現が抑制されている疾病の治療または予防において用いられる、請求項12または請求項13に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項15】
対象が病原微生物に感染している、請求項12から請求項14のいずれかに記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項16】
病原微生物がウイルスである、請求項15に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項17】
ウイルスが、ヘルペスウイルス、パポーバウイルス、レンチウイルスおよびパラミクソウイルスよりなる群に含まれるウイルスのうち1または複数である、請求項16に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項18】
疾病が癌である、請求項12から請求項14のいずれかに記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項19】
癌が乳癌である、請求項18に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項20】
癌が前立腺癌または口腔癌である、請求項18に記載の細胞性免疫増強方法。
【請求項21】
1)対象から感染組織または癌組織を取得する工程;
2)前記組織からβ2マイクログロブリンまたはβ2マイクログロブリンをコードするmRNAを抽出する工程;
3)前記β2マイクログロブリンまたはβ2マイクログロブリンをコードするmRNAの量を、対照と比較する工程;
を含む、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法。
【請求項22】
1)対象から感染組織または癌組織を取得する工程;
2)前記組織からクロマチン沈降を行い、沈降物からβ2マイクログロブリンDNA断片のPCR増幅を行う工程;
3)前記増幅されたDNA断片の存在の有無を評価する工程;
を含む、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法。
【請求項23】
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質がバルプロ酸である、請求項21または請求項22に記載のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害活性を有する物質を用いて細胞性免疫を増強する対象をスクリーニングする方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−511597(P2010−511597A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524035(P2009−524035)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/JP2007/074067
【国際公開番号】WO2008/069349
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(307014555)北海道公立大学法人 札幌医科大学 (31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/JP2007/074067
【国際公開番号】WO2008/069349
【国際公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【出願人】(307014555)北海道公立大学法人 札幌医科大学 (31)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】
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