説明

ヒト及び/又は動物の筋骨格系に関連する損傷及び/又は疾患の治療のための移植片及び治療用組成物

【課題】 新規な軟骨の形成、すなわち、改善された、特に従来の軟骨移植片と比較して早い軟骨形成を可能にする移植片を提供する。
【解決手段】 本発明は、支持材、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む移植片、前記移植片の製造方法、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む治療用組成物、前記治療用組成物の製造方法に関する。前記移植片及び前記治療用組成物は、ヒト及び/又は動物の筋骨格系に関連する損傷及び/又は疾患の治療に特に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト及び/又は動物の筋骨格系に関連する損傷及び/又は疾患の治療に特に適している、移植片及び治療用組成物、並びに前記移植片及び治療用組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
関節軟骨は、関節面の損傷、又は脊柱の椎体の間の損傷を修復するのに限られた範囲でのみ有能である。コラーゲンをベースとする組成物(組成物は原則として軟骨組織を修復するのにも適している)は、欧州特許出願公開第0747067号(EP0747067A2)から公知である。
【0003】
軟骨の損傷の外科治療についての更なる基本概念は、試験管内で製造した軟骨細胞をベースとする軟骨移植片の使用を予測する。軟骨移植片は、関連する患者における移植を拒絶するリスクをできるだけ低く抑えるために、実質的に自己細胞を含むべきである。
【0004】
通常、生検を用いて、ほんのわずかな自己細胞が提供され得るので、分離した軟骨細胞は、通常、複数の継代培養に供される。しかし、ここで、問題は、分化した細胞表現型の進行性消失が、継代数の増加に関連していることである。これは、分離された軟骨細胞が、それらの性質に関して、それらの元の状態から更に分化し、それらが、更に頻繁に、技術的な増殖サイクルに供されることを意味する。更に、継代数の増加により、突然変異、それ故、一般的に腫瘍形成のリスクが上昇する。
【0005】
細胞培養皿、細胞培養フラスコ等における、試験管内での軟骨細胞の培養における更なる問題は、前記細胞が、例えば、軟骨細胞によって産生及び分泌される物質を保持し得る細胞外マトリックスによって通常は包囲されないことである。その代わりに、細胞から分泌される物質、例えば、可溶性プロコラーゲン、未成熟プロテオグリカン、糖タンパク質サブユニット、組織ホルモン、成長因子、及び特定の細胞外プロテアーゼが、人工環境中に拡散的に散乱する。物質又は材料の、この損失を償うために、前記物質及び他の物質が、軟骨細胞によって連続的に再生され、再排泄されなければならない。これは、軟骨細胞が持続的に上昇する代謝率を有することを意味し、同様に、これは、軟骨細胞についての上昇するストレス条件を意味する。これは、そのような軟骨細胞をベースとする軟骨移植片の損傷をもたらし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0747067号(EP0747067A2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、先行技術から公知の不都合を回避し、特に新規な軟骨の形成、すなわち、改善された、特に従来の軟骨移植片と比較して早い軟骨形成を可能にする移植片を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、独立形式の請求項1の特徴を有する移植片による本発明により達成される。移植片の好ましい実施態様は、従属形式の請求項2〜18の主題である。治療用組成物は、独立形式の請求項19の主題である。移植片の製造方法は請求項20の主題である。該方法の好ましい実施態様は、従属形式の請求項21〜25に提供される。前記方法により製造され、又は製造することのできる移植片は請求項26の主題である。本発明は、更に、独立形式の請求項27の特徴を有する治療用組成物の製造方法に関する。最後に、本発明は、請求項28及び29の使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の移植片は、支持材、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む移植片である。移植片は、原則として、人間医学及び獣医学のいずれにおいても用いることができる。人間医学における、特に再生医療の分野における使用が好ましい。例えば、移植片は、ヒト及び/又は動物の筋骨格系に関連する損傷及び/又は疾患の治療に特に適している。
【0010】
意外にも、軟骨細胞又はその前駆細胞が、軟骨特異的コラーゲン、好ましくは、試験管内でそれらに供給され、それをある種の細胞外マトリックスの構築に用いる、VI型コラーゲンを「捕獲する」ことを発見した。軟骨細胞の周囲の細胞外マトリックスの構成のため、細胞により分泌した物質を多く保持することができ、結果として、冒頭に記載した、細胞の実質的損失が減少する。これは、細胞の代謝率を低下させ、結果として、軟骨細胞のストレスが完全に低下する。低下した細胞のストレス及び細胞外マトリックスの構築は、完全に向上した軟骨の誘導、すなわち、従来の移植片と比較し、本発明の移植片の軟骨形成特性を達成する。
【0011】
好ましい実施態様においては、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞は、自家及び/又は同種由来、好ましくは自家由来である。軟骨細胞及び/又はその前駆細胞は、原則として動物起源及び/又は適切な細胞系由来であり得る。軟骨細胞及び/又はその前駆細胞は、原則として異種由来である。例えば、本発明により予測される軟骨細胞及び/又はその前駆細胞は、ブタ、ウマ、ウシ、ヒトコブラクダ、イヌ及び/又はネコ由来の細胞であり得る。好ましくは、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞はヒト由来である。特に好ましくは自家性のヒトの軟骨細胞及び/又は対応する前駆細胞の使用が提供される。軟骨細胞及び/又はその前駆細胞は、当業者によく知られている方法を用いて、ヒト又は動物の軟骨組織、特に、必要に応じて、培養された関節軟骨組織及び/又は椎間板組織から分離することができる。
【0012】
更なる実施態様においては、軟骨細胞は、軟骨生産細胞(chondrocytes)、軟骨芽細胞、及びそれらの混合物からなる群から選択される。軟骨芽細胞(軟骨前駆体(formers))は、一般的に軟骨の前駆体細胞を意味する。それらが軟骨マトリックスの全ての成分を合成することができるので、それらは間充織幹細胞に由来し、軟骨細胞の活性型である。この合成機能が停止するとすぐに、それらは、軟骨生産細胞、実際の軟骨細胞に分化する。軟骨生産細胞自体は、軟骨芽細胞よりも小さく、球状に形成され、中心部を丸くし、多量の水、脂肪及びグリコーゲンを含む。それらの数、位置及び密度は、各軟骨のタイプに特異的である。未成熟状態の軟骨生産細胞は、更に分割することができ、これは「同系グループ」の特徴的な発生をもたらし得る。これらの同系グループの産生は、軟骨マトリックスに既に包囲されている軟骨生産細胞の分割に基づいており、その結果もはや離れることができない。言い換えると、同系グループは軟骨生産細胞複合体であり、各複合体は単一の軟骨生産細胞から進化したものである。軟骨生産細胞が分化するとすぐに、それらは分割する能力を失う。本発明との関連で、前駆細胞は、通常は幹細胞、好ましくは間充織幹細胞である。幹細胞は、動物又はヒト由来であってもよく、ヒトの幹細胞が好ましい。
【0013】
原則として、軟骨細胞は2回以上継代培養される。継代培養は、生検材料から、通常は低濃度でしか得ることのできない、細胞の数を増やすための技術的増殖サイクルを意味すると理解される。例えば、軟骨細胞は、二次、三次、四次細胞等であってもよい。しかし、好ましくは、軟骨細胞は初代軟骨細胞である。初代軟骨細胞は、それらが、形態学及び生化学的性質に関して自然のままの軟骨細胞と非常に近いという利点を有する。
【0014】
特に好ましい実施態様においては、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞は、試験管内コロニー形成又は試験管内培養により移植片内に埋め込まれている。
【0015】
軟骨−特異的コラーゲンタイプは、原則として組換え型又は微生物由来である。好ましくは、軟骨−特異的コラーゲンタイプは、動物、特に、ウシ、ブタ、及び/又はウマ、及び/又はヒト由来のものである。
【0016】
更なる実施態様においては、軟骨−特異的コラーゲンタイプは、生物学的、特にヒト又は動物組織由来である。好ましくは、軟骨−特異的コラーゲンタイプは、角膜、胎盤組織、大動脈組織、滑膜組織、及びそれらの混合物からなる群から選択される組織に由来する。
【0017】
更に好ましい実施態様においては、軟骨−特異的コラーゲンタイプは、II、VI、IX、XI型コラーゲン、及びそれらの組合せからなる群から選択される。本発明によれば、VI型コラーゲン、特に水溶性VI型コラーゲンの使用が特に好ましい。このコラーゲンタイプは、軟骨細胞を直接包囲する「細胞周囲マトリックス」の主要な構成要素である。細胞周囲マトリックスは、かごのように、1個以上の軟骨細胞を含んでいる。細胞周囲マトリックス及び軟骨細胞のカゴ状配列は、コンドロン、又はテリトリウム(territorium)とも呼ばれる。従って、この場合もやはり、細胞周囲マトリックスは、実際の細胞外マトリックスから区別されるであろう。自然のままの軟骨組織においては、細胞外マトリックスは、ちょうど言及されたコンドロン、それ故細胞周囲マトリックスを包囲している。VI型コラーゲンは、ポリペプチドα1(VI)、α2(VI)及びα3(VI)からなるヘテロ三量体である。前記ポリペプチドは、各ケースにおいて、それらの末端に球状ドメインを有している。球状ドメインは、通常は、短い三重らせん部分によりお互いに離れて間隔があいている。これは、全体として、単量体のVI型コラーゲンのダンベル型構造を作り出している。単量体は、側面結合により集合し、四量体を形成し得る。同様に、四量体はそれらの末端で集合し、真珠及び線維状の糸のような構造を形成し得る。
【0018】
更なる実施態様においては、移植片は、軟骨−特異的コラーゲンタイプだけでなく、例えば、I、III型コラーゲン、及びそれらの組合せからなる群から選択される軟骨−非定型コラーゲンタイプをも含み得る。
【0019】
好ましくは、移植片は、更に、生物学的活性物質を含む。活性物質は、細胞外プロテアーゼ、抗体、受容体アンタゴニスト、受容体アゴニスト、ホルモン、成長因子、分化因子、動員因子、接着因子、抗生物質、抗菌性化合物、抗炎症化合物、免疫抑制化合物、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。
【0020】
適切な動員成分は、例えば、細胞遊走剤(chemotactics)又はケモタキシンである。用いることのできる接着因子は、例えば、サイトタクチン、ラミニン、フィブロネクチン、IV、V及びVII型コラーゲン、種々の付着因子の部分的配列を示す合成ペプチド、膜貫通結合タンパク質(transmembrane connecting proteins)、例えば、インテグリン、それらの組合せから選択される化合物である。
【0021】
成長因子は、好ましくはコンドロゲン、すなわち、軟骨成長誘導成長因子である。適切な成長因子は、TGFs(形質転換成長因子)、BMPs(骨誘導因子)、MPSFs(形態形成タンパク質刺激因子)、ヘパリン結合成長因子、インヒビン、成長分化因子、アクティビン、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。好ましくは、成長因子は、TGF−β1、TFG−β2、TGF−β3、BMP−1、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−8、BMP−9、FGF(線維芽細胞成長因子)、EGF(上皮成長因子)、PDGF(血小板由来成長因子)、IGF(インシュリン様成長因子)、インヒビンA、インヒビンB、GDF−1(成長分化因子I)、アクティビンA、アクティビンB、アクティビンAB、及びそれらの組合せからなる群から選択される。TGFs及び/又はBMPsの使用が特に好ましい。成長因子は、天然又は自然の原料、例えば哺乳動物細胞から分離することができる。本発明によれば、同様に、例えば、組換えDNA技術又は化学的方法により、成長因子を合成して調製することが可能である。
【0022】
特に好ましくは、移植片は、コンドロン及び/又はコンドロン様前駆体を含む。既に記載したように、これらは細胞周囲マトリックスと、1個以上の軟骨細胞と一緒に形成される、カゴ状構造である。
【0023】
支持材は、好ましくは三次元構造、又は三次元ネットワーク若しくはマトリックス、特にタンパク質マトリックスとして設計される。支持材は、架橋されていても、されていなくてもよい。好ましくは、支持材は架橋されており、特に化学的に架橋されている。用いることのできる架橋剤は、アルデヒド、ジアルデヒド、ジイソシアネート、又はカルボジイミドであり得る。
【0024】
支持材は、好ましくは、タンパク質及びその塩、多糖類及びその塩、ポリヒドロキシアルカノエート、リン酸カルシウム、動物性の膜、それらの複合体、並びにそれらの組合せからなる群から選択される物質を含む。言及される、特に有利なタンパク質は、特に、繊維性タンパク質及びその塩、特に細胞外タンパク質及びその塩、好ましくは、コラーゲン及びその塩、ゼラチン及びその塩、エラスチン及びその塩、レチクリン及びその塩、並びにそれらの組合せが挙げられる。好ましいコラーゲンは、I、II、III型コラーゲン、及びそれらの組合せからなる群から選択される。II型コラーゲンは、天然の軟骨組織の細胞外マトリックスの主要なコラーゲン組成であるので、支持材としてのII型コラーゲンの使用が特に好ましい。多糖類は、セルロース誘導体、キトサン、キトサン誘導体、グリコサミノグリカン、それらの塩、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。セルロース誘導体は、好ましくは、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、カルボキシアルキルセルロース、それらの塩、及び/又はそれらの組合せである。従って、適切なセルロース誘導体の例は、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、それらの塩、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。適切なグリコサミノグリカンは、ヒアルロン酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン4−硫酸、コンドロイチン6−硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、それらの塩、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。言及し得る、可能なポリヒドロキシアルカノエートは、特に、ポリグリコライド、ポリラクチド、ポリ−3−ヒドロキシブチレート、ポリ−4−ヒドロキシブチレート、それらの共重合体、及びそれらの混合物である。好ましいリン酸カルシウムは、フッ素リン灰石、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、リン酸テトラカルシウム、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。動物性の膜は、好ましくは、心臓周囲の膜、特にウシ由来のものである。
【0025】
場合により、支持材は、補強材、特に、好ましくは、多糖類繊維、タンパク質線維、絹、綿花、ポリラクチド繊維、ゼラチン繊維、及びそれらの組合せからなる群から選択される補強繊維を含んでもよい。
【0026】
支持材は、通常は、多孔質、好ましくは開口した多孔質として設計される。有利には、支持材は、相互接続する細孔を有する。更に、支持材は、50〜500μm、特に50〜350μm、好ましくは100〜200μmの細孔径を有し得る。
【0027】
更なる実施態様においては、支持材は、多層として構成される。好ましくは、支持材は少なくとも第一の層と少なくとも第二の層を有する。少なくとも第一の層及び少なくとも第二の層は、通常は、共通のインターフェースに沿って、お互いに接続されている。共通のインターフェースに沿った接続部は、化学的及び/又は物理的結合をベースとしている。例えば、少なくとも第一の層及び少なくとも第二の層は、共有結合、特に化学的架橋によりお互いに接続し得る。更に、少なくとも第一の層及び少なくとも第二の層は、お互いに接着により結合し得る。有利な変形においては、少なくとも第一の層と少なくとも第二の層の接続は、層の凍結乾燥、特に一緒に凍結乾燥することにより実施される。
【0028】
少なくとも第一の層は、好ましくは、高密度、特に細胞非透過性構造を有する。本発明によれば、少なくとも第一の層は、栄養素、生物学的活性物質、活性薬剤又は医薬用原料、及び/又は一般的に低分子量化合物に対して透過性である構造を有する。例えば、少なくとも第一の層は、<2μm、特に<1μmの細孔径を有する細孔を有し得る。
【0029】
少なくとも第二の層は、好ましくは、多孔質、特に開口した多孔質構造を有する。本発明によれば、少なくとも第二の層は、細胞透過性又は細胞浸透可能な構造を有することが特に好ましい。好ましくは、少なくとも第二の層は、50〜250μm、特に130〜200μmの細孔径を有する細孔を有する。
【0030】
更なる実施態様においては、少なくとも第一の層は膜状構造を有する。特に、少なくとも第一の層は膜体として設計することができる。少なくとも第二の層は、好ましくはスポンジ状構造を有する。特に、少なくとも第二の層は、スポンジ体として設計することができる。少なくとも第一の層及び/又は少なくとも第二の層を含み得る、材料に関しては、ここまでに開示された全ての支持材が言及される。しかし、本発明によれば、少なくとも第一の層について、コラーゲン及びその塩、特にI型及び/又はIII型コラーゲン及びその塩、エラスチン及びその塩、生体吸収性ポリマー、心膜、複合材料、グリコサミノグリカン、及びそれらの塩、並びにそれらの組合せからなる群から選択される材料を含むことが好ましい。少なくとも第二の層は、好ましくは、材料、特に、コラーゲン及びその塩、特にI型及び/又はIII型コラーゲン及びその塩、ヒアルロン酸及びその塩、アルギン酸及びその塩、キトサン及びその塩、ゼラチン及びその塩、処理物質、複合材料、フィブリン及びその塩、並びにそれらの組合せからなる群から選択される親水性物質を含む。少なくとも第二の層の材料は、架橋されていてもよく、特に化学的に架橋されていてもよい。
【0031】
特に好ましい実施態様においては、少なくとも第一の層は心嚢、特にウシの心嚢であり、少なくとも第二の層は、好ましくは、I型及び/又はIII型コラーゲン又はその塩をベースとするスポンジ体である。
【0032】
更なる実施態様においては、少なくとも第一の層及び少なくとも第二の層は、異なる再吸収時間を有する。特に、少なくとも第一の層は、少なくとも第二層よりも長い再吸収時間を有する。再吸収時間は、好ましくは生体内で測定した再吸収時間である。
【0033】
好ましくは、移植片は軟骨移植片、特に自家軟骨細胞移植片である。好ましくは、移植片は、自家軟骨細胞、及び二相性の三次元コラーゲンをベースとする支持材を含む軟骨細胞移植片である。支持材の第一の相は、好ましくはスポンジ体として設計され、好ましくは柱状配列を有し、好ましくはお互いに接続している細孔を有する。これは、特に有利に、スポンジ体内で、軟骨細胞の均一な三次元分布を可能にする。支持材の第二の相は、好ましくは包囲されており、特に引裂抵抗を有し、特に心膜である。前記膜は、特に有利に、生体内で、欠陥部位以外への軟骨細胞の移動を防止する。更に、前記膜は、簡単な外科的取り扱い、例えば、移植片を安全かつ容易に縫うことを可能にする。対応する自己軟骨生産細胞移植片は、NOVOCART 3Dの名称で出願人により市販されている。
【0034】
移植片は、好ましくは再生医療において、特に組織工学の分野において用いられる。既に言及したように、移植片は、特に、ヒト及び/又は動物の筋骨格系の損傷及び/又は疾患の治療に適している。損傷は、特に、衝撃的な出来事、例えば、交通事故又はスポーツ事故により引き起こされた負傷であってもよい。しかし、本発明の移植片により治療することのできる損傷は、ヒト及び/又は動物の筋骨格系の全身性疾患の結果、例えば、関節炎でもよい。好ましくは、移植片は、自家又は同種、特に好ましくは自家軟骨細胞の移植において用いられる。移植片の更なる応用領域は、自家及び/又は同種間充織幹細胞の移植、特に、軟骨、腱、靭帯、及び/又は骨再生における使用に関する。特に好ましくは、ヒト及び/又は動物の軟骨組織、特に関節軟骨細胞及び/又は椎間板の損傷及び/又は疾患の治療のための移植片の使用が提供される。移植片の更なる可能な使用は、ヒト及び/又は動物の身体における創傷治癒に関する。
【0035】
本発明の更なる態様は、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む治療用組成物に関する。軟骨細胞は、好ましくは、軟骨生産細胞、軟骨芽細胞、及びそれらの組合せからなる群から選択される。前駆体細胞は、通常は幹細胞、好ましくは間充織幹細胞である。軟骨細胞及び/又はその前駆細胞は、ヒト及び/又は動物由来であってもよい。好ましくは、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞はヒト細胞である。更に、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞は、自家又は同種由来であり得る。好ましくは、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞は自家細胞である。軟骨の特異的コラーゲンタイプは、好ましくは、生物学的組織、特にヒト又は動物組織、好ましくは、角膜、胎盤組織、大動脈組織、滑駅組織、及びそれらの組合せからなる群から選択される組織に由来する。軟骨−特異的コラーゲンタイプは、好ましくは、II、VI、IX、XI型コラーゲン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるコラーゲンである。既に言及したように、VI型コラーゲンの使用が特に好ましい。治療用組成物は、水性液体形態、特に水性分散液又は水溶液、ヒドロゲル、又は水性ペーストであり得る。好ましくは、治療用組成物は水性懸濁液の形態である。特に、治療用組成物は、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞を含む支持剤の試験管内培養又は試験管内コロニー形成に適している。更に組成物は、好ましくは、自家又は同種、好ましくは自家軟骨細胞移植において用いられる。更に、組成物は、自家及び/又は同種、好ましくは自家顴骨組織において用いられる。更に、組成物は、自家及び/又は同種、好ましくは自家間充織幹細胞、特に、軟骨、腱、靱帯の移植及び/又は骨再生にも用いることができる。特に、ヒト及び/又は動物の軟骨組織、特に関節軟骨組成物及び/又は椎間板組織の損傷及び/又は疾患の治療のための組成物の使用が提供される。治療用組成物の更なる特徴及び利点に関しては、この点までの記載について十分に言及されている。
【0036】
本発明の更なる態様は、下記工程を含む、移植片の製造方法を含む。
【0037】
a)軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプを供給する工程、及び
b)前記軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに前記軟骨−特異的コラーゲンタイプを支持材に装填する工程。
【0038】
好ましい実施態様においては、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞を、軟骨特異的コラーゲンタイプと一緒に水性混合物の形態で供給する。同様に、水性混合物は、水性分散液、水性懸濁液、水溶液、ヒドロゲル又は水性ペーストの形態で供給することができる。水性混合物を調製するために、好ましくは、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞の水性懸濁液を用いる。この目的のため、必要に応じて、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞を酵素的に前処理することができる。軟骨細胞自体は、対応する細胞系、細胞培養物及び/又は生検試料から取得することができる。更に、好ましくは、水性混合物を調製するために軟骨−特異的コラーゲンタイプの溶液又は懸濁液を用いる。溶液又は懸濁液は、好ましくは10μg/mL〜10mg/mLの濃度の軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む。軟骨細胞及び/又はその前駆細胞の水性混合物、特に懸濁液、及び/又は軟骨−特異的コラーゲンタイプの溶液若しくは懸濁液を調製するために、原則として、全ての体液を用いることができる。例えば、水、バッファー溶液、電解溶液、栄養素溶液及び体液、例えば、血液及び/又は滑液からなる群からの体液を用いることができる。水性混合物は、生物学的活性物質を、特に10〜500ng/mLの濃度で含んでいてもよい。
【0039】
可能な実施態様においては、支持材は、最初に軟骨細胞及び/又はその前駆細胞のみを装填される。この場合には、支持材に、軟骨−特異的コラーゲンタイプを装填する前に、通常、典型的には1〜2日間の範囲の特定の期間、支持材中に細胞が遊走するままにしておく。
【0040】
好ましい実施態様においては、好ましくは既に言及した水性混合物中における、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプの同時インキュベーションを、支持材への装填前に実施する。同時インキュベーションは、1〜48時間、特に2〜36時間、好ましくは4〜24時間実施する。他の方法として、又は組み合わせて、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨特異的コラーゲンタイプの同時インキュベーションを支持材の上又は中で実施する。この場合には、インキュベーション時間は好ましくは2〜24時間である。この段落において記載した同時インキュベーションは、好ましくは0〜39℃、特に30〜39℃の範囲の温度で実施される。
【0041】
本発明は、前記実施態様に記載された方法のいずれかにより製造され、又は製造することができる移植片をも含む。
【0042】
本発明の更なる態様は、治療用組成物の製造方法に関する。本発明によれば、組成物を製造するために、水溶液、好ましくは軟骨細胞及び/又はその前駆細胞を含む水性懸濁液、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプの水溶液(又は水性懸濁液)を混合する。
【0043】
水性懸濁液を調製するために、必要に応じて、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞を酵素的に前処理することができる。軟骨−特異的コラーゲンタイプの水溶液(又は水性懸濁液)は、好ましくは10μg/mL〜10mg/mLの濃度の軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む。更なる特徴及び特性に関しては、特に軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプに関しては、この点までの記載について十分に言及されている。
【0044】
最後に、本発明は、特に、ヒト及び/又は動物の筋骨格系に関連する損傷及び/又は疾患の治療のための移植片を製造するための、支持材、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプの使用にも関する。更に、本発明は、好ましくは、ヒト及び/又は動物の筋骨格系に関連する損傷及び/又は疾患の治療のための治療用組成物を製造するための、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞を含む水性懸濁液、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む水溶液(又は水性懸濁液)の使用にも関する。更なる特徴及び詳細に関しては、特に、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプに関しては、この点までの記載について十分に言及されている。
【0045】
本発明の更なる特徴及び利点は、添付する請求項と併せ、以下の実施例の形態における好ましい実施態様の記載から明らかである。特徴は、それぞれ独自に、又はお互いに複数を組み合わせることにより、実施することができる。以下の実施例は、単に本発明を説明する役目を果たし、本発明を限定すると全く考えるべきでない。
【0046】
模範的な実施態様
関節軟骨を、37歳の女性患者の橈骨頭の皮を剥いで取得し、全ての血液及び組織内残留物を除去し、メスを用いてペトリ皿内で切り刻んだ。軟骨片を磁気チューブを備える消化チャンバーのふるいに加え、50mLのヒアルロニダーゼ溶液(50mLのPBS(リン酸緩衝塩化ナトリウム溶液又はリン酸緩衝生理食塩水)中の25mgのヒアルロニダーゼ)と一緒に37℃で25分間撹拌した。その後、組織を、0.25重量%トリプシン/EDTA 50mLとインキュベートし(45分、37℃、撹拌しながら)、10容量% FCS(ウシ胎児血清)を加えたDMEM(ダルベッコ変法イーグル培地、高グルコース)50mLで5分間洗浄した。3種類のコラゲナーゼ処理を用いて、軟骨細胞を組織構造から遊離させ、組織を、50mLのコラゲナーゼ溶液(50mLのDMEM、10容量% FCS、100U/mL ペニシリン及び100μg/mL ストレプトマイシン中、25mg)と撹拌しながら37℃でインキュベートし、遠心分離(500×g、5分間)により、通過して落ちる溶液から細胞を除去した。組織を、最初は2時間、次いで一晩を2回、コラゲナーゼで消化した。次いで、更なる細胞を、10容量% FCSを含むDMEMを加えることにより、細胞を組織から洗浄し、従来通りの遠心分離によって除去した。
【0047】
次いで、分離した軟骨細胞を水性懸濁液として調製した。次いで、水性懸濁液を、VI型コラーゲンを含む水溶液と混合した。調製した混合物中、軟骨細胞及びVI型コラーゲンを約18時間、一緒にインキュベートした。次いで、生体適合性支持材(骨格)を混合物に装填した。支持材は、膜状に設計された第一の層、及びスポンジ状に設計された第二の層をベースとする複合材料である。第二層は、実質的に架橋ゼラチンから形成されていた。複合材料を装填した後、スポンジ状に設計された第二層が十分な程度まで軟骨細胞によって浸透し得るように、24時間経過させた。
【0048】
次いで、このようにして装填された複合材料は、前記女性患者の欠陥のある関節軟骨領域に首尾よく埋め込まれた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持材、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む、特に、ヒト及び/又は動物の筋骨格系に関連する損傷及び/又は疾患の治療のための移植片。
【請求項2】
軟骨細胞及び/又はその前駆細胞が、自家又は同種、好ましくは自家由来であることを特徴とする、請求項1に記載の移植片。
【請求項3】
軟骨細胞が初代軟骨細胞であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の移植片。
【請求項4】
軟骨細胞及び/又はその前駆細胞が、試験管内コロニー形成又は試験管内培養によって移植片内に埋め込まれていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項5】
軟骨−特異的コラーゲンタイプが、動物、特に、ウシ、ブタ及び/又はウマ、及び/又はヒト由来であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項6】
軟骨−特異的コラーゲンタイプが、角膜、胎盤組織、大動脈組織、及び滑膜組織からなる群から選択される組織に由来することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項7】
軟骨−特異的コラーゲンタイプが、II、VI、IX及びXI型コラーゲンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項8】
軟骨−特異的コラーゲンタイプは、VI型コラーゲンであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項9】
移植片が、コンドロン及び/又はコンドロン様前駆体を含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項10】
支持材が、タンパク質及びその塩、多糖類及びその塩、ポリヒドロキシアルカノエート、動物性の膜、並びにそれらの組合せからなる群から選択される物質を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項11】
支持材が、50〜500μm、特に50〜350μm、好ましくは100〜200μmの細孔径を有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項12】
支持材が、多層構造として構成され、好ましくは、少なくとも第一の層及び少なくとも第二の層を有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項13】
少なくとも第一の層が膜状構造を有し、少なくとも第二の層がスポンジ状構造を有することを特徴とする、請求項12に記載の移植片。
【請求項14】
再生医療において用いるための、特に組織工学の分野において用いるための、請求項1〜13のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項15】
創傷治癒において用いるための、請求項1〜14のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項16】
自家又は同種軟骨細胞移植において用いるための、請求項1〜15のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項17】
軟骨、腱、靭帯及び/又は骨再生のための自家又は同種間充織幹細胞の移植において用いるための、請求項1〜16のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項18】
ヒト及び/又は動物の軟骨組織の損傷及び/又は疾患の治療のための、請求項1〜17のいずれか1項に記載の移植片。
【請求項19】
軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、及び軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む、好ましくは、ヒト及び/又は動物の筋骨格系に関連する損傷及び/又は疾患の治療のための治療用組成物。
【請求項20】
下記工程を含む、特に請求項1〜18のいずれか1項に記載の移植片の製造方法。
a)軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプを供給する工程、及び
b)前記軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに前記軟骨−特異的コラーゲンタイプを支持材に装填する工程。
【請求項21】
軟骨細胞及び/又はその前駆細胞を、軟骨−特異的コラーゲンタイプと一緒に水性混合物の形態で、好ましくは水性分散液、水性懸濁液、ヒドロゲル、又は水性ペーストの形態で供給することを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
軟骨細胞及び/又はその前駆細胞の水性懸濁液を、水性混合物を調製するために用いることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
軟骨−特異的コラーゲンタイプの溶液を、水性混合物の調製に用い、溶液が、好ましくは10μg/mL〜10mg/mLの濃度の軟骨−特異的コラーゲンタイプを含むことを特徴とする、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプの同時インキュベーションを、支持材への装填前に実施することを特徴とする、請求項20〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプの同時インキュベーションを、支持材の上又は中で実施することを特徴とする、請求項20〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
請求項20〜25のいずれか1項記載の方法により製造される、又は製造することができる移植片。
【請求項27】
特に、ヒト及び/又は動物の筋骨格系に関連する損傷及び/又は疾患の治療のための治療用組成物の製造方法であって、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞を含む水性懸濁液、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む水溶液を混合する、方法。
【請求項28】
特に、ヒト及び/又は動物の筋骨格系に関連する損傷及び/又は疾患の治療のための治療用組成物を製造するための、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞を含む水性懸濁液、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプを含む水溶液の使用。
【請求項29】
特に、請求項1〜18のいずれか1項記載の移植片を製造するための、支持材、軟骨細胞及び/又はその前駆細胞、並びに軟骨−特異的コラーゲンタイプの使用。

【公表番号】特表2012−523870(P2012−523870A)
【公表日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505090(P2012−505090)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002329
【国際公開番号】WO2010/118874
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(508148138)テテック ティシュー エンジニアリング テクノロジーズ アクチェンゲゼルシャフト (4)
【Fターム(参考)】