説明

ヒト胎盤由来の間葉系細胞を含む皮膚外用剤

【課題】皮膚損傷の治療に有効な外用剤を提供する。
【解決手段】ヒト胎盤由来の間葉系細胞もしくは該細胞の抽出液を含む皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト胎盤由来の間葉系細胞もしくは該細胞抽出液を含む、皮膚外用剤、特に皮膚損傷または火傷の治療用外用剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な意味での間葉系細胞とは、組織学的には結合組織を構成し、血管内皮細胞や血管内皮前駆細胞などの血管系細胞とは異なり一般的に複数の分化能を有する多能細胞である。特に、間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、心臓、神経、肝臓の細胞などになることが知られており、分化した線維芽細胞、毛乳頭細胞、脂肪細胞、歯髄細胞なども、間葉系細胞に属するものである。
【0003】
幾つかの間葉系細胞が各種疾患に関与しているとの報告もなされている。例えば、滑膜に存在する間葉系細胞は、慢性関節リウマチ、膠原病などの関節破壊に関与しているとの報告がある。この場合、滑膜間葉系細胞の活動を抑制することが、関節障害の治療等において試みられている。
【0004】
本発明者らは、ヒト胎盤に存在する間質細胞(血管内皮細胞以外の細胞)群に着目し、そこに含まれる間葉系細胞を生体に移植投与することで、生体に血管新生作用を促すことができることを見出し、特許出願している(特許文献1)。しかし、胎盤は胎児と母体との栄養交換の場であって妊娠期間中は極めて重要な組織であるものの、出産後は臍帯とともに廃棄されるものであることから、これらの有用性を論じた文献等は上記の特許出願以外に殆ど例が無く、特に皮膚疾患に関する有用性を示した先行技術は見当たらない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第03/082305号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ヒト胎盤由来の間葉系細胞の有用性について見当を重ねた結果、該細胞または該細胞抽出液が皮膚再生を促進する機能を有していることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明は、ヒト胎盤由来の間葉系細胞もしくは該細胞の抽出液を含む皮膚外用剤である。特に本発明は、皮膚剥離等の外的損傷を受けた皮膚、あるいは火傷により損傷を受けた皮膚の早期再生を促すことのできる皮膚外用剤である。
【0008】
ヒト胎盤由来の間葉系細胞は、例えば、ヒト胎盤を氷上に回収した後、胎盤の母体側からハサミで組織を採取した胎盤切片にトリプシンとEDTAを加えたDMEM培地を加えて単離することができる。本発明では、上述の様にヒト胎盤から単離した間葉系細胞、あるいはその後に適当な培地で培養した間葉系細胞をそのまま、あるいは該細胞を破壊して得られる抽出液を、適当な形態の外用剤として使用するものである。
【0009】
本発明の外用剤は、傷害により失われた皮膚の再生能を有している。例えば、脚部の皮膚を外科的に剥離したラットに対して、該剥離部の皮膚の再生を有意に促進する効果を有している。この皮膚の再生は、特許文献1で報告されている虚血性疾患治療効果とは医学的に異なる治療効果であることから、該間葉系細胞が皮膚の再生に作用する何らかの因子を産生していると推察される。
【0010】
本発明である皮膚外用剤の好ましい形態はローション又は軟膏である。ヒト胎盤由来の間葉系細胞の含有量は、1×10〜1×10個、好ましくは1×10〜1×10個、さらに好ましくは1×10〜1×10個である。細胞抽出物を用いる場合には上記個数に相当する抽出物を外用剤に含ませればよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の皮膚外用剤は、損傷した皮膚の再生治癒効果を有しており、医薬として利用可能である。また、かかる皮膚再生能に基き、荒れた肌のきめを整えたり、皮膚の張りやつやを与えるなど、化粧料としても利用することができる。特に本発明は摘出されたヒト組織を原料とすることから、ヒトに適用された場合にアレルギー等の好ましくない免疫反応を惹起することなく、安全に使用することができる。
【0012】
すなわち本発明は、ヒト胎盤由来の間葉系細胞もしくは該細胞の抽出液を含む皮膚外用剤である。特に本発明は、皮膚剥離等の外的損傷を受けた皮膚、あるいは火傷により損傷を受けた皮膚の早期再生を促すことのできる皮膚外用剤である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の皮膚外用剤による皮膚再生の効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(間葉系細胞の調製、培養、保存)
本発明で用いるヒト胎盤由来の間葉系細胞は、例えば、ヒト胎盤を氷上に回収した後、胎盤の母体側からハサミで組織を採取した胎盤切片にトリプシンとEDTAを加えたDMEM培地を加え、室温で細胞を単離することができ、特別な操作は必要としない。なお、ヒト胎盤それ自体は一般に出産の際の廃棄物として扱われており、医療現場において日常的に入手可能な分離材料である。
【0015】
ヒト胎盤から単離した間葉系細胞は、従来公知の方法により保存することができる。例えば、10%グリセリンもしくは10%ジメチルスルホキシドと、10%血清とを含む栄養培地中に10〜10個/ml、好ましくは10〜10個/ml、さらに好ましくは5×10個/mlの細胞濃度で浮遊させた状態で、−80℃あるいは液体窒素中で凍結保存することができる。保存された細胞株は、急速溶解(例えば、37℃の水浴に浸す)後、10倍量の同培地を添加して攪拌し、遠心分離して回収された細胞を所望の培地に加えることで、再び増殖させることができる。
【0016】
間葉系細胞は、適当な培地で増殖させることも出来る。培養は、一般的には33〜39℃、好ましくは37℃で、ウシ胎児血清、好ましくは非働化ウシ胎児血清(熱処理することにより、補体を不活化したウシ胎児血清)を3〜10%(好ましくは10%)含む基礎培地、例えばα−MEM培地などを用いればよい。また通気は、5%CO2を含む空気を用い、湿度は80〜120%(好ましくは100%)に保って培養を行うことができる。
【0017】
しかし、当該培養細胞を最終的にヒトに投与することを考慮すれば、ヒトに対して免疫反応をもたらす異物を含まない条件下で、間葉系細胞の培養を行うことが好ましい。例えば、MEM培地、RPMI 1640、RITC80−7、MCDB系列、HamF−12・DME1:1混合培地等のような、アミノ酸類にビタミン類等を添加した基礎培地に、ヒト血清アルブミンおよび細胞増殖因子を添加した、非ヒト動物由来の蛋白質成分を含まない培地で培養することが好ましい。
【0018】
増殖因子としては、血小板由来増殖因子(PDGF、Platelet−Derived Growth Factor)、線維芽細胞増殖因子(bFGF、basic
Fibroblast Growth Factor)、上皮細胞増殖因子(EGF、Epidermal Growth Factor)およびインスリンからなる群より選ばれる1種以上である。これらの増殖因子は、例えばR&D社またはSigma社から研究用試薬として市販されているものでもよく、生体から分離精製したものや遺伝子組み換え手法により生産したものであってもよい。その添加量は0.01〜1000ng/ml、好ましくは0.1〜100ng/ml、最も好ましくは1〜10ng/mlである。
【0019】
また、ヒト血清は、献血された血液等から遠心分離などによって用意することができる。ヒト血清の添加量は、培養培地の約1〜20%、好ましくは2〜15%、最も好ましくは5〜10%である。製剤化されたヒトアルブミンを用いる場合には、0.01〜10%、好ましくは0.05〜1%、最も好ましくは0.1〜0.5%である。
【0020】
さらに、酸化防止剤、特に2−メルカプトエタノール、アスコルビン酸およびビタミンEよりなる群から選ばれる酸化防止剤を培地に添加することにより、細胞増殖を更に増強させることができる。酸化防止剤の添加量は2−メルカプトエタノールの場合で0.01〜100μM、好ましくは0.1〜50μM、最も好ましくは1〜10μMである。アスコルビン酸又はビタミンEについては、上記2−メルカプトエタノールと等価の量を用いることができる。
【0021】
(皮膚外用剤の調製)
本発明の皮膚外用剤は、通常外用剤に用いられる原料を用い、一般的な方法により調製すればよい。例えば、界面活性剤(親油型グリセリンモノテスアレートや自己乳化型グリセリンモノステアレートなどのノニオン界面活性剤、ステアリン酸ナトリウム、パルミチン酸トリエタノールアミン、N−アシルグルタミン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム等カチオン界面活性剤、両性界面活性剤など)、油分(ヒマシ油等の植物油脂類、ラノリン等のロウ類、ワセリン等の炭化水素類)、セタノール等の天然および合成高級アルコール類、グリセリン等の保湿剤、アルギン酸ナトリウム等の増粘剤、安息香酸塩等の防腐剤、ジブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤、エチレンジアミン四酢酸塩等のキレート剤、クエン酸等のpH調整剤、その他香料、色素、紫外線吸収・散乱剤、ビタミン類、アミノ酸類、水等を配合して調製することができる。
【0022】
具体的な形態としては、親水性軟膏、ローション剤、スプレー剤、クリーム、乳液、化粧水、美容液、パック剤、アンダーメークアップ、ファンデーション、ゼリー剤などを揚げる事ができる。好ましくは、親水性軟膏、ローションである。それぞれの剤型は、例えば薬局方等に示される一般的な方法により調製することができる。
【0023】
また、本発明の皮膚外用剤には皮膚再生を促進させる細胞成長因子を添加してもよい。これらの細胞成長因子としては、酸性および塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)などが挙げられる。
【0024】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
親水性軟膏の調製
ヒト胎盤から分離した間葉系細胞1×10個を、10%のFCSを添加したDME培地に接種し、37℃、5%CO、湿度100%の条件下で3日間培養し、最終的に3×10個の細胞をPBS(リン酸緩衝液)に回収した。
【0026】
この細胞を、凍結融解を繰り返して破壊し、5000rpm、20分間の遠心操作で上澄を回収して細胞抽出液とした。この細胞抽出液を含む下記組成の親水軟膏10gを調製した。
【0027】
組成(親水軟膏100g当たり)
白色ワセリン 25g
ステアリルアルコール 20g
プロピレングリコール 12g
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60 4g
モノステアリン酸グリセリン 1g
パラオキシ安息香酸メチル 0.1g
パラオキシ安息香酸プロピル 0.1g
細胞抽出液 50mL
精製水 適量
【実施例2】
【0028】
ローションの調製
実施例1と同様にして調製した培養細胞1×10個を、1mLのPBSに縣濁後、凍結融解を繰り返して破壊し、細胞抽出液を含むローション1mLを調製した。
【0029】
[試験例]
マウス(20体)の側部の皮膚を12mm画で切除した後に、実施例1で調製した軟膏50mgを1回のみ塗付し、6日後の創部の面積を、ノギスを用いて測定した。コントロールとして、PBSのみを加えた親水軟膏を同じ条件で塗付したモデル(20体)を用意し、創部の面積をノギスを用いて測定し、比較した。
【0030】
本発明の皮膚外用剤は、コントロールに比べ、有意に皮膚損傷を修復した(p<0.05、Man−Whitney u検定、図1)。縦軸は創部面積を、バーは標準誤差を、それぞれ示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト胎盤由来の間葉系細胞もしくは該細胞の抽出液を含む皮膚外用剤。
【請求項2】
皮膚損傷または火傷の治療用である、請求項1に記載の皮膚外用剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−190268(P2011−190268A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113134(P2011−113134)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【分割の表示】特願2004−17168(P2004−17168)の分割
【原出願日】平成16年1月26日(2004.1.26)
【出願人】(502120262)
【出願人】(504032189)
【Fターム(参考)】