説明

ヒト血清アルブミン(HSA)を添加しないタンパク質医薬のための製剤

医薬中のタンパク質剤の安定化のための組成物であって、組成物が下記2成分:
a)界面活性剤、特に非イオン系の洗剤(テンシデ)、及び、
b)少なくとも2つのアミノ酸の混合物であって、少なくとも2つのアミノ酸はGlu及びGln又はAsp及びAsnの何れかであるもの、
を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬中に製剤されているタンパク質剤を安定化させ、これによりHSAの使用を回避する低分子量の非ペプチド物質から成る組成物に関する。本発明は更に低分子量の非ペプチド物質から成る組成物をタンパク質物質以外に含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学の手法の発展により、その薬剤がタンパク質である種々の新薬を提供されている。薬剤が低分子量の物質から成る従来の医薬と比較して、高分子量のタンパク質は少量の物質で高い薬効を示し、これにより極めて低濃度及び低用量で効果がある。
【0003】
このように低濃度及び低用量において、医薬の製造者らはある問題に直面する。即ち、タンパク質は固体表面に付着する性質を有する。この吸着のため、適用されたタンパク質剤の大部分が損失する可能性がある。当然ながら、それによりこの影響は適用すべきタンパク質の濃度が低くなるほどより深刻となる。適切な製剤がなければ、タンパク質剤は完全に損失する場合もある。
【0004】
これらの医薬及びタンパク質剤のさらなる問題点はタンパク質の高い不安定さにある。例えばそれらは容易に酸化され(システイン残基、メチオニン残基)、そして脱アミノ化され(アスパラギン)、又は分解され断片となり、そして凝集してより高次の複合体になる。効率的な製剤ではこのようなタンパク質剤の損失を回避でき、そして安定な製品を保証しなければならない。
【0005】
タンパク質の表面への結合は非特異的であるため、薬剤の損失は過剰の別の(非特異的)タンパク質の添加により防止できる。この別のタンパク質は好ましくは薬理学的活性を全く有さないものであり、そして抗体の生産を促進してはならないため、ヒト血清アルブミン(HSA)をこれらの目的のために同時に使用しており、これは血漿の代替物として大量に適用されるため安価で入手してよい。即ち、現在、HSAを安定化剤として含有する数種の医薬(種々のインターフェロン、生育因子、凝固因子、ボツリヌス毒素及びワクチン)が市販されている。
【0006】
HSAはヒト血液由来の生成物であり、従って、必須の試験にもかかわらず汚染(例えばウィルスによる)されている可能性があり、そしてHSA含有医薬のレシピエントに対して疾患の蔓延をもたらす場合がある(特に新しい病原体が随時生じる場合が有り、これは試験による登録に間に合わない場合がある)。従って、医薬の認可を担当する当局は新しく認可する医薬中のHSAを代替するように要請する。この理由から、HSAは医薬の製剤においては、他の物質で代替できる限り、使用すべきではない。
【0007】
ヒト血清アルブミン(HSA)は種々の理由からタンパク質剤の製剤のために特に有用である。これはタンパク質であり、従ってタンパク質剤における非特異的反応の全てを抑制し、中和することができる。このことは特に、薬剤の変性をもたらす場合がある界面(液/固、液/気)における反応に適用される(Henson et al.,(1970)、Colloid Interface Sci32.162−165)。HSAの存在により変性から保護される。さらに、タンパク質はそれらが疎水性相互作用により非特異的に結合する表面に対して親和性を有する(Norde W.(1995)Cells Mater 5,97−112)。表面上の結合部位は過剰なHSAにより飽和され、これにより、タンパク質剤の用量が低値である場合に特に必要とされるタンパク質剤の溶液内の残存が可能となる。
【0008】
更にまた、HSAの存在は、充填及び任意選択的に凍結乾燥の間、並びに薬品の保存の間の変性過程に対抗する(例えば酸化的分解の過程又はアスパラギンの脱アミノ化の過程に対する)保護作用となる。
【0009】
このような方法で薬剤を保護するタンパク質は、それ自体本来どんな薬理学的活性も示すべきではなく、これはHSAにより満たされる基準である。HSAはヒトのタンパク質であり、抗原として作用するはずはなく、即ち抗体の生産を促進しない。しかしながら、HSAは血液から単離して物理化学的方法により精製されるので、精製の過程において、HSAとタンパク質剤の混合物のレシピエントが形成する抗体に対する、新しい抗原構造を意味するネオエピトープが生じるということが、厳密には排除できない。このことが望ましくない副作用をもたらす場合がある。副作用の可能性があるため、種々のタンパク質及びオリゴペプチドの混合物の使用は望ましくない。
【0010】
原則としてゼラチンもまた安定化剤とみなすことができる。これは免疫反応を惹起し、病原性物質の担体ともなりうる動物由来のタンパク質である。
【0011】
さらに、タンパク質剤のためのHSA及び別の適当な安定化剤の使用は、タンパク質が特に低濃度では極めて不安定であり、さらに使用可能な非特異的結合部位に即座に結合するため、タンパク質剤を含有し極めて低用量で投与される医薬の場合に特に重要となる。その結果、それらは治療上の有用性を失う。極めて低用量で適用されるタンパク質剤の一例として、クロストリジウム・ボツリナムの神経毒が挙げられる。これらの高活性のタンパク質は最小量において機能する(これら、及びクロストリジウム・ボツリナムの神経毒のA型は、これまで開発されている全医薬のうち、最低用量で投与されているものである(500pg/バイアル))。この極めて少量のタンパク質は保護剤を使用しない限り失われる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような保護剤として本質的にHSAを説明している従来技術を鑑みれば、医薬におけるタンパク質剤の安定化剤としてHSAの代替を提供することが要求されている。従って、本発明者等は少なくともHSAと同等に良好である医薬中のタンパク質を保護/安定化させる組成物を開発すべく問題点に取り組んだ。
【課題を解決するための手段】
【0013】
提示した問題点は、医薬中に製剤されたタンパク質剤を安定化させ、そしてHSAの使用を回避できるような低分子量の非ペプチド物質から成る組成物を開発することにより、本発明者等が解決した。この組成物は以下の通り安定化のための組成物と称する。
【0014】
第1の態様によれば、本発明は非関連タンパク質を含有しない組成物に関し、この組成物はタンパク質剤を含有する医薬として製剤できる。安定化のためのこの組成物は、好ましくは、欧州薬局方に従って製造され、医薬アジュバントとして認可される低分子量の物質に基づいている。特に、組成物は上記HSA使用を認めており、薬剤の損失なくタンパク剤や医薬を安定して保存することを保証するだけでなく、更に投与されたそれぞれの医薬が感染性物質で汚染されるという危険性も排除する。本発明に従って安定化のための使用されるこのような低分子量の「簡単な」物質が所望の性能を示し、HSAを代替することができるということは、驚くべきことである。
【0015】
本発明の安定化のための組成物は副反応を起こさない種々の低分子量物質の組成物によりHSAを置き換えるものであり、このような物質は表面への吸着による、並びに、溶解又は凍結乾燥されたタンパク質剤の変性及び化学分解過程によるタンパク質剤の損失に対抗して保護作用を示す。更にまた、安定化のための組成物は高温6ヶ月超の保存期間に渡り薬剤の分解を防止する。
【0016】
本発明の安定化のための組成物は、請求項1に記載した成分を有し、その成分は下記:
a)界面活性剤、特に非イオン系の洗剤(テンシデ:tenside)、及び、
b)少なくとも2つのアミノ酸の混合物であり、少なくとも2つのアミノ酸はGlu及びGln又はAsp及びAsnの何れかであるもの、
である。
【0017】
本発明の安定化のための組成物は別の好ましい実施形態によれば、以下の別の成分:
c)2糖類、好ましくはスクロース(蔗糖)、トレハロース又はラクトース、
d)エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、好ましくはNa4−EDTAのようなその塩の形態、
の1つ以上も含有する。
【0018】
本発明の安定化のための組成物は成分a)、b)及びc)、又は成分a)、b)及びd)又は成分a)、b)、c)及びd)を含む。これらの好ましい組成物は全て水性媒体に可溶であるか、又は、それらが水溶液である。
【0019】
安定化のための組成物中に使用される全ての物質は医薬品調製のためのアジュバントとして認可されているため、毒性学的に詳細に試験されている点が好都合であり、これはそれらを更に試験することなく本発明に従って安定化のための組成物に添加混合できることを意味する。これらの単純な物質の厳密に定義された編成が所望の性能を示したこと、即ち、タンパク質剤のための安定な血清アルブミン非含有製剤を提供したことは意外なことである。
【0020】
第2の態様によれば、本発明はタンパク質剤及び成分a)及びb)を含む上記の安定化のための組成物、又は、上記した好ましい安定化のための組成物の1つを含有する医薬に関する。
【0021】
薬剤及びタンパク質剤はそれぞれ好ましくは成分a)及びb)及び任意選択的にc)及び/又はd)を含有する水溶液中で(溶解させて)調製する。この溶液はその後凍結乾燥することができる。溶液を実際に凍結乾燥する場合は、成分c)を予め添加することが特に好都合である。凍結乾燥した後、医薬組成物は希釈再調製(好ましくは注射用水(WFI)を用いる)できる粉末として存在する。
【0022】
従って、医薬組成物は好ましくは水性媒体に可溶である凍結乾燥又は真空乾燥した粉末の形態で存在する。治療適用の前に、凍結乾燥組成物及び粉末はそれぞれ好ましくは注射用水(WFI)で希釈再調製する。医薬組成物はいずれにせよ液体状態、好ましくは水溶液として存在することもできる。
【0023】
本発明の好ましい医薬組成物はタンパク質としての上記した成分a)及びb)のほかに凝固因子、例えば第VIII因子(抗血友病グロブリン)、サイトカイン、例えばインターフェロン、特にインターフェロンアルファ、ベータ又はガンマ、酵素、例えばウロキナーゼ又はストレプトキナーゼ、プラスミノーゲン活性化剤、又は、クロストリジウム・ボツリナム、特にクロストリジウム・ボツリナムA、B、C、D、E、F又はG型に各々由来する超純粋ニューロトキシン(「超純粋ニューロトキシン」の定義については後述を参照)及びニューロトキシン複合体を含有する。クロストリジウム毒素は特にその超純粋形態において医薬として最小限の量で製剤されるため、それらは好ましいタンパク質である。特に好ましいものはA及びB型の超純粋ニューロトキシンである。
【0024】
本発明の更に別の好ましい医薬組成物は上記した成分a)及びb)及び薬剤のほかに、更に上記した成分c)、上記した成分d)又はこれらの2成分を共に含有する。
【0025】
本発明の両方の組成物中にはアミノ酸少なくとも2種、即ち(i)アスパラギン酸及びアスパラギン、又は(ii)グルタミン酸及びグルタミンが含まれる。しかしながら好ましくは組成物はこれらの4種のアミノ酸のうちの少なくとも3種(アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸;アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン;アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン;アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン)又は4種全て(アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン)を含有する。好ましくは、個々のアミノ酸は20〜200mM、好ましくは20〜100mM、特に50mMの濃度で使用する。これは乾燥後の粉末中アミノ酸当たり1.3mg〜14.7mg及び1.3mg〜7.4mg、好ましくは約3.7mgの量となる原料溶液0.5mlの充填の場合に相当する。
【0026】
本発明の両方の組成物の別の好ましい実施形態においては、界面活性剤(テンシデ)は非イオン性の洗剤、好ましくはポリソルベート(例えばポリソルベート20又はポリソルベート80)又はポロキサマー(例えばポロキサマー184又はポロキサマー188)である。医薬組成物が液体形態で存在する場合は、ポリソルベートの割合は好ましくは0.01〜0.5重量%、好ましくは0.2重量%である。これは例えば0.5mlの原料溶液の凍結乾燥工程後の0.05〜2.5mg、好ましくは1mgのポリソルベートに相当する。
【0027】
本発明の両方の組成物の別の好ましい実施形態において、2糖類はスクロース、トレハロース又はラクトースである。スクロースが特に好ましい。本発明の医薬組成物を溶液として提供する場合は、溶液は好ましくは2糖類、特にスクロースを2〜10重量%、より好ましくは5重量%含有する。
【0028】
更に好ましいことは、既に記載したとおり、更に安定化作用を示す成分d)、複合体形成剤(キレート剤)の使用である。医薬組成物の原料溶液中のエチレンジアミン4酢酸の濃度は好ましくは0.1〜1.0mM、特に5mMである。
【0029】
本発明の組成物の両方の種類は好ましくは5.0〜8.5のpH値、より好ましくは6.0〜8.0、特に6.0〜7.0及び6.5のpH値を示す。任意選択的にpH値は所望に応じてNaOHで調整する。
【0030】
既に記載したクロストリジウム・ボツリナムのニューロトキシン、特にクロストリジウム・ボツリナムA及びB型のニューロトキシンを極めて低用量で医薬目的のために製剤する。即ち、本発明の安定化のための組成物の品質は取り扱いが極めて複雑であるこの薬剤を用いることにより特に良好に評価することができる。他のタンパク質剤はかなり大量に製剤され;従ってHSAは本発明の安定化のための組成物で更に容易に置き換えることができる。
【0031】
A型のクロストリジウム・ボツリナム毒素(商品名Botox(商標)、Allergan;Dysport(商標),Ipsen)は痙性のジストニア(眼瞼痙攣、斜頸)の種々の形態の治療のため、多汗症の治療のため、そして更に顔面皺除去用化粧品の分野で長年に渡り適用されている。この薬剤はタンパク質複合体であり、これは嫌気的に生育する細菌(クロストリジウム・ボツリナム)により合成される。このタンパク質複合体の活性剤は分子量150kDaのタンパク質、ボツリナムニューロトキシン(BoNT)である。この毒素及びニューロトキシンはそれぞれ、運動終板において作用し、筋肉への神経インパルスの伝達を阻害し、これによりこの筋肉の麻痺をもたらす。この作用のメカニズムは刺激の伝達が病理学的に変化する、即ちアセチルコリンの放出が促進されている疾患におけるニューロトキシンの適用を可能にする。
【0032】
現在市販されているボツリヌス毒素及びニューロトキシンはそれぞれクロストリジウム・ボツリナム由来の毒素、即ちニューロトキシンに基づいている。基本的には、活性分子を種々の分子量のタンパク質の集合体内に包埋し、それらは種々のヘマグルチニン(15kD、19kD、35kD、52kD)並びに非毒性非ヘマグルチニン性のタンパク質(NTNH、120kD)である。保護タンパク質と称されるものを用いない場合、単離されたニューロトキシンは極めて不安定であり、プロテアーゼにより容易に分解される。従って保護タンパク質及び複合体形成タンパク質はそれぞれ神経細胞の真の機能にとって不必要であるが、感受性のニューロトキシンの安定化に役立っている。一方、これらの複合体形成タンパク質は、免疫刺激機能を発揮することが可能であるが、この機能は患者の5〜10%の抗体の産生に関わる可能性があり、この機能はこの種のニューロトキシン(「二次的非応答」)を用いた治療を必然的に終わらせることが示唆されている。更にまた、外来性タンパク質(複合体タンパク質)により患者に負担がかかること、そしてこの外来性タンパク質が薬理学的には絶対に必要とは限らないことを考慮しなければならない。従って、純粋で複合体タンパク質を含まないニューロトキシンを薬剤として適用することに意味はあるが、その低用量及び不安定性のために、特に効率的な製剤が必要となる。
【0033】
従って、医薬中に薬剤として複合体タンパク質非含有のニューロトキシン(複合体タンパク質非含有ニューロトキシンは場合により超純粋ニューロトキシンとも称する)の使用の必要条件は、より長期の期間に渡り超純粋ニューロトキシンの生物学的機能の安定性を保証する医薬組成物の開発であった。この必要条件は本発明の安定化のための組成物の提供により本発明者等により満たされたのである。
【0034】
現在市販されているA型のニューロトキシンに基づいた2種の医薬は必須の安定化剤としてHSAを含有している(Botox(商標)は100単位の薬剤につき0.5mgのHSA及び更に0.9mgの塩化ナトリウムを含有し、Dysport(商標)は500単位の薬剤につき0.125mgのHSA及び更に2.5mgのラクトースを含有する)。毒素複合体B型に基づくNeurobloc(商標)は2000単位の場合は500μg/mlHSA、0.01Mコハク酸ナトリウム及び0.1M塩化ナトリウムを含有する溶液から成る。上記したとおり、HSAは特にバイアルの壁面(ガラスバイアル、シリンジ、カニューレ)への毒素の吸着を防止すること、及び、変性から保護することを目的として機能している。血清アルブミン非存在下(又はこの作用を代替する物質の非存在下)では、毒素は消失を免れない。これは主にこれらの医薬におけるニューロトキシンの量が極めて少ない(Botox(商標)は5ng、Dysort(商標)は20ngの毒素複合体をパッケージ単位(「バイアル」)当たり含有している)という事実に起因している。他のタンパク質が存在しないと仮定すれば、十分存在する非特異的タンパク質結合部位が毒素により占有される。記載した医薬の場合のように大過剰(50,000倍超)の存在下では、結合部位はHSAに占有され、ニューロトキシンの複合体は溶液中に滞留する。超純粋複合体非含有ニューロトキシンが容器の固体表面に吸着する確率は、100単位の用量について純粋ニューロトキシンのタンパク質量がわずか500pgであることから、かなり高くなる。
【0035】
国際公開第01/58472号は、本質的にヒドロキシエチル澱粉から成るA型のクロストリジウム・ボツリナム由来の複合体に関する製剤を記載している。製剤は1年間安定であるという実施例が示されている。超純粋、即ち複合体タンパク質非含有ニューロトキシンを用いた実験は記載されていない。しかしながら、「毒素タンパク質はヘマグルチニンタンパク質の除去により顕著な不安定を有する」と記載されている。更にまた、超純粋ボツリヌス毒素の場合は、「純粋なボツリヌス毒素は極めて不安定であるが医薬組成物の製造のためには限定された実質的利用性を有する」と記載されている。しかしながら、ヒドロキシエチル澱粉に基づいた記載された製剤が超純粋ニューロトキシンの安定化のために効率的であるという記載はない。
【0036】
超純粋ニューロトキシンのHSA含有製剤は米国特許第5,512,547号及び同第5,756,468号に記載されている。第1の特許においてはHSA並びにトレハロース及びマルトトリオース又は関連のスクロースを含有する製剤が記載されている。第2の特許にはこれらの糖類以外にメチオニン又はシステインを含有する製剤が特記されている。超純粋ニューロトキシンに対して製剤中HSAを使用する必要性が出版物中において明示されている(Goodenough et al.,(1992),Appl Environm Microbiol 58:3426−3428)。
【0037】
本発明の医薬組成物は例えば以下の通り製造することができる。即ち、薬剤(例えばクロストリジウム・ボツリナム由来のニューロトキシン)の溶液を安定化のための組成物(水溶液の形態)で希釈して1.0〜1.2ng/ml(?200単位/ml)の濃度とし、続いて、濾過滅菌する。この希釈液0.5mlをバイアルに充填し、凍結乾燥又は真空乾燥し、治療適用まで保存する。従って1バイアルはニューロトキシン約100単位を有する凍結乾燥又は真空乾燥された粉末を含有する。患者への投与に際しては、凍結乾燥された組成物又は粉末を適応症に応じて2〜8mlのWFIで希釈再調製する。記載した本発明の安定化のための組成物は希釈、滅菌濾過、充填及び凍結乾燥後にもタンパク質剤(ニューロトキシン)の完全な回収を保証するものである。凍結乾燥した組成物は37℃で6ヶ月以上安定である。
【実施例1】
【0038】
本発明の安定化のための組成物の使用がリン酸塩緩衝液及びリン酸塩緩衝液とポリソルベートの組成物と比較してより高い回収を可能にするかどうか調べた。
【0039】
全ての使用した賦形剤は医薬品等級のものを製造元より入手した。クロストリジウム・ボツリナムニューロトキシンA型はList Biological Laboratories,Inc.,Campell,California,USAより入手可能なものであり、そして、DasGupta,B.R.(1984)Toxicon 3,415−424に従って製造した。
【0040】
クロストリジウム・ボツリナムニューロトキシンA型の溶液(168μg/ml)を本発明の安定化のための組成物で0.5μg/mlの濃度まで希釈した。安定化のための組成物はアスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸及びグルタミンに関して50mMであり,0.05重量%のポリソルベート20を含有し、pH7.5であった。
【0041】
1.2ng/ml(?200LD50/ml)までのさらなる希釈は、種々の溶液を用いて行った(表1参照)。0.22μフィルターで濾過した後、更に希釈したこれらの溶液0.5mlをガラスバイアル(6R,Munnerstadt)に充填し、37℃で保存した。バイアルはゴム栓で密封した。15時間保存した後、個々の溶液中のニューロトキシンの濃度を従来の特異的酵素イムノアッセイ(EIA)により測定した。
【0042】
【表1】

【0043】
選択された製剤は37℃でのインキュベーションの後に完全な回収を示した。
【実施例2】
【0044】
200単位のニューロトキシンA型/ml(1.2ng/ml)を有する本発明の医薬組成物が長期間安定であるかどうかを調べた。
【0045】
0.5μg/mlクロストリジウム・ボツリナムニューロトキシンA型の保存溶液から実施例1に従って表2に示す組成を用いて1.2ng/mlの濃度の希釈液を製造した。濾過滅菌の後、これらの組成物0.5mlをバイアルに充填し、ゴム栓で密封した。4℃及び37℃で15時間保存した後、ニューロトキシンA型の量をELISAで測定した。
【0046】
4℃で8ヶ月保存した後、バイアルの生物学的活性をエクスビボ試験を用いて測定した。従って、組成物の活性はマウス横隔膜アッセイにより測定した(Wohlfahrt K.et al.,(1997)Naunyn−Schmiedebergs Arch.Pharmacol.355,225−340)。
【0047】
【表2】

【0048】
アミノ酸Asn、Asp、Gln及びGlu(各50mM)及びポリソルベート80から成る溶液は少なくとも4℃で8ヶ月間安定であった。
【実施例3】
【0049】
異なるアミノ酸の混合物がどのような安定化作用を示すかを調べた。医薬組成物を再度1.2ngクロストリジウム・ボツリナムニューロトキシンA型/ml(200単位/ml)の濃度に調整し(希釈は実施例1に従って表3に示す溶液を用いて行った)、そして0.22μフィルターで濾過滅菌した後4℃で保存した。酵素イムノアッセイにおけるニューロトキシン測定の結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
4種類全てののアミノ酸の混合物は薬剤の完全な回収率を示した。
【実施例4】
【0052】
開発した製剤が最高の回収率を示すpH値を調べた。製剤は1.2ng/mlのクロストリジウム・ボツリナムニューロトキシンA型の濃度においてpH6.0〜8.0で調製し、そして0.22μフィルターで濾過した後37℃で保存した。酵素イムノアッセイにおけるニューロトキシン測定の結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
pH6.0及び6.5で最高の回収率が達成された。
【実施例5】
【0055】
最高の回収率が達成されるアスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸及びグルタミンの4種のアミノ酸の濃度を調べた。0.5μg/mlのクロストリジウム・ボツリナムニューロトキシンA型の希釈液を原料として、さらに1.2μg/mlまで希釈して、0.22μのフィルターで濾過した後、バイアル当たり0.5mlの用量で6Rバイアルに充填した。ゴム栓で密封後、15時間4℃で保存し、その後、ニューロトキシン/バイアルの量を測定した。
【0056】
【表5a】

【0057】
【表5b】

【0058】
液体製剤の場合、50mMのアミノ酸の濃度が薬剤の回収に効率的であることがわかった。
【実施例6】
【0059】
EDTAを用いない場合、凍結乾燥後に最高の回収率を示すアミノ酸の組成を調べた。充填した溶液(0.5ml)を凍結乾燥し、4℃で一晩保存した。凍結乾燥した組成物を注射用水0.5mlで希釈再調製した。ニューロトキシン濃度は酵素イムノアッセイで測定した。
【0060】
【表6】

【0061】
凍結乾燥組成物中の薬剤の最高の回収率は4種全てのアミノ酸が組成物中に存在し、濃度が50mMであるときに達成された。
【実施例7】
【0062】
溶液のクロストリジウム・ボツリナムニューロトキシンA型(アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸及びグルタミンの各々が50mM、EDTAが0.5mM、更に0.2重量%のポリソルベート80及び5重量%のスクロースを含有、pH6.5)の予備希釈物を原料として、同じ組成の溶液中1.26ngニューロトキシンA型/ml(200U/ml)の最終希釈物を調製し、0.22μのメンブレンフィルターで濾過した。その0.5mlを6Rガラスバイアルにピペットで分注し、その後、凍結乾燥した。凍結乾燥した組成物をWFI中に溶解した。薬剤の含有量(ニューロトキシンA型)は酵素イムノアッセイで測定した。96重量%の薬剤が検出された。回収された薬剤の生物学的活性を確認するために、凍結乾燥した組成物を溶解し、横隔膜上で試験した。1バイアル中の凍結乾燥した組成物は110単位を含有していた(110%の回収率に相当)。
【実施例8】
【0063】
実施例7と同様にして凍結乾燥した組成物を作成し、37℃で保存した。3ヵ月後、薬剤の含有量をイムノアッセイで測定した。投入薬剤の94重量%が検出された。生物学的試験における活性/バイアルの確認(横隔膜試験)では102単位/バイアルの含有量が観察された。
【実施例9】
【0064】
アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸及びグルタミンの各々が50mMであり、更に0.2重量%のポリソルベート80及び5重量%のスクロースを含有し、pH7.0である溶液のインターフェロンベータの予備希釈液(1つの方法では0.5mMEDTAの非存在下、もう1つでは存在下)を原料とし、相応の組成を有する溶液として20μg/ml(4Mio国際単位/ml)の最終希釈物を作成し、0.22μのメンブレンフィルターで濾過した。各濾液1mlを6Rガラスバイアルにピペットで分注し、その後、凍結乾燥した。凍結乾燥した組成物をWFI中に溶解した。薬剤の含有量(インターフェロンベータ)は酵素イムノアッセイで測定した。18.8(EDTA非存在)及び19.6μg(0.5mMEDTA)の薬剤がそれぞれ検出された。回収された薬剤の生物学的活性を確認するために、凍結乾燥した組成物を溶解し、活性を従来のバイオアッセイ(対照標準と比較した場合のVERO細胞に対する細胞変性効果の抑制)において測定した。投入生物活性のそれぞれ94及び95%が回復した。
【実施例10】
【0065】
溶液の血液凝固第VIII因子(アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸及びグルタミンの各々が50mM、EDTAが0.5mM、更に0.2重量%のポリソルベート及び5重量%のスクロースを含有、pH7.3)の予備希釈物を原料として、同じ組成の溶液中250国際単位/mlの最終希釈物を調製し、0.22μのメンブレンフィルターで濾過した。1つの方法ではポリソルベート20を使用し、もう1つではポリソルベート80を使用した。得られた濾液の各々1mlを6Rガラスバイアルにピペットで分注し、その後、凍結乾燥した。凍結乾燥した組成物をWFI中に溶解した。薬剤の含有量(血液凝固第VIII因子)を従来の凝固試験で測定した。バイアル当たりそれぞれ238(P20)及び245(P80)の国際単位が検出された。
【実施例11】
【0066】
溶液のストレプトキナーゼ(アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸及びグルタミンの各々が50mM、EDTAが0.5mM、更に0.2重量%のポリソルベート80及び2.5、5及び7.5重量%のスクロースを含有、pH7.0)の予備希釈物を原料として、相当する組成の溶液中250,000国際単位/mlの最終希釈物を調製し、0.22μのメンブレンフィルターで濾過した。濾液の各々1mlを6Rガラスバイアルにピペットで分注し、その後、凍結乾燥した。凍結乾燥した組成物をWFI中に溶解した。薬剤の含有量(ストレプトキナーゼ)を標準的線溶試験で測定した。バイアル当たりそれぞれ236,500、247,000及び242,500の国際単位が検出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬中のタンパク質剤の安定化のための組成物であって、前記組成物が下記成分:
a)界面活性剤、好ましくは非イオン系の洗剤(テンシデ:tenside)、及び、
b)少なくとも2つのアミノ酸の混合物であり、少なくとも2つの該アミノ酸はGlu及びGln又はAsp及びAsnのいずれかであるもの、
を含む組成物。
【請求項2】
下記成分:
c)2糖類、好ましくはスクロース(蔗糖)、トレハロース又はラクトース、
d)エチレンジアミン4酢酸(EDTA)、好ましくはNa4−EDTAのようなその塩の形態、
の少なくとも1つを更に含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記成分a)、b)及びc)、前記成分a)、b)及びd)、又は前記成分a)、b)、c)及びd)を含む請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が水性媒体に可溶であるか、又は水溶液中に存在する請求項1〜3の何れか一項に記載の組成物。
【請求項5】
タンパク質剤、及び請求項1〜4の何れか一項に記載の安定化のための組成物を含む医薬組成物。
【請求項6】
前記医薬組成物が水性媒体中で可溶である凍結乾燥又は真空乾燥された粉末として存在する請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記タンパク質剤が凝固因子、例えば第VIII因子(抗血友病グロブリン)、インターフェロンなどのサイトカイン、特にインターフェロンアルファ、ベータ又はガンマ、ウロキナーゼ又はストレプトキナーゼなどの酵素、プラスミノーゲン活性化剤、又は、クロストリジウム・ボツリナム、特にクロストリジウム・ボツリナムA型又はB型にそれぞれ由来する超純粋ニューロトキシン及びニューロトキシン複合体である請求項5又は6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記少なくとも2つのアミノ酸が(i)アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸;(ii)アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン;(iii)アスパラギン酸、グルタミン酸、グルタミン;(iv)アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン;又は(v)アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸及びグルタミンである請求項1から4の何れか一項に記載の安定化のための組成物又は請求項5から7の何れか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記各アミノ酸の濃度がそれぞれ20〜200mM、より好ましくは20〜100mM、特に50mMである請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記界面活性剤が非イオン系洗剤である請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
前記非イオン系洗剤がポリソルベート20又はポリソルベート80などのポリソルベート、又はポロキサマー184又はポロキサマー188などのポロキサマーである請求項8〜10の何れか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記2糖類がスクロース、トレハロース又はラクトースである請求項8〜11の何れか一項に記載の組成物。
【請求項13】
溶液中の前記組成物のpH値が5.0〜8.5、特に6.0〜8.0、好ましくは6.0〜7.0及び6.5である請求項8〜12の何れか一項に記載の組成物。

【公表番号】特表2006−528137(P2006−528137A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520664(P2006−520664)
【出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【国際出願番号】PCT/DE2004/001635
【国際公開番号】WO2005/007185
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(506024733)ビオテコン・セラピューティクス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (2)
【Fターム(参考)】