説明

ヒトIL−1βに対する抗体

【課題】 IL−1介在性疾患もしくは障害の処置における使用のために、重鎖および軽鎖のCDRが規定されるアミノ酸配列を有する、IL−1β結合分子を提供すること。
【解決手段】 IL−1介在性疾患もしくは障害の処置における使用のために、重鎖および軽鎖のCDRが規定されるアミノ酸配列を有する、IL−1β結合分子を見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト・インターロイキンIベータ(IL−1β)に対する抗体およびIL−1介在性疾患および障害の処置のためのそのような抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インターロイキンI(IL−1)は、急性期炎症反応のメディエイターとして作用する、免疫システムの細胞により生成される活性体(activity)である。不適切なもしくは過剰のIL−1、特にIL−1β、の生成は、敗血症、敗血症性もしくは内毒素性のショック、アレルギー、喘息、骨欠損、虚血、発作、リウマチ様関節炎および他の炎症障害のような、種々の疾患および障害の病理に関連している。IL−1βに対する抗体はIL−1介在性疾患および障害の処置での使用に提案されている;例えばWO 95/01997およびその序言における議論を参照すること。
【発明の開示】
【0003】
我々は、今回、IL−1介在性疾患および障害の処置に使用するための、ヒトIL−1βに対する改善した抗体を調製した。
【0004】
したがって、本発明は、配列に超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む少なくとも一つの免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V)を含む抗原結合部位を含むIL−1β結合分子であって、該CDR1はアミノ酸配列Val−Tyr−Gly−Met−Asnを有し、該CDR2はアミノ酸配列Ile−Ile−Trp−Tyr−Asp−Gly−Asp−Asn−Gln−Tyr−Tyr−Ala−Asp−Ser−Val−Lys−Glyを有し、そして該CDR3はアミノ酸配列Asp−Leu−Arg−Thr−Gly−Proを有する、結合分子;ならびにその直接的同等物を提供する。
【0005】
したがって、本発明は、配列に超可変領域CDR1’、CDR2’およびCDR3’を含む少なくとも一つの免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(V)を含むIL−1β結合分子であって、該CDR1’はアミノ酸配列Arg−Ala−Ser−Gln−Ser−Ile−Gly−Ser−Ser−Leu−Hisを有し、該CDR2’はアミノ酸配列Ala−Ser−Gln−Ser−Phe−Serを有し、そして該CDR3’はアミノ酸配列His−Gln−Ser−Ser−Ser−Leu−Proを有する、結合分子;ならびにその直接的同等物を提供する。
【0006】
第一の態様において、本発明は、上で規定した重鎖可変ドメイン(V)を含む単離免疫グロブリン重鎖を含む単一ドメインIL−1β結合分子を提供する。
【0007】
第二の態様において、本発明はまた、重鎖(V)および軽鎖(V)の両方の可変ドメインを含むIL−1β結合分子であって、そこでは該IL−1β結合分子は:
a)配列に超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V)であって、該CDR1はアミノ酸配列Val−Tyr−Gly−Met−Asnを有し、該CDR2はアミノ酸配列Ile−Ile−Trp−Tyr−Asp−Gly−Asp−Asn−Gln−Tyr−Tyr−Ala−Asp−Ser−Val−Lys−Glyを有し、そして該CDR3はアミノ酸配列Asp−Leu−Arg−Thr−Gly−Proを有する、ドメイン(V)、ならびに
b)配列に超可変領域CDR1’、CDR2’およびCDR3’を含む免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(V)であって、該CDR1’はアミノ酸配列Arg−Ala−Ser−Gln−Ser−Ile−Gly−Ser−Ser−Leu−Hisを有し、該CDR2’はアミノ酸配列Ala−Ser−Gln−Ser−Phe−Serを有し、そして該CDR3’はアミノ酸配列His−Gln−Ser−Ser−Ser−Leu−Proを有する、ドメイン(V)、を含む少なくとも一つの抗原結合部位を含む、結合分子;ならびにその直接的同等物を提供する。
【0008】
特記しない限り、いかなるポリペプチド鎖も、本明細書において、N−末端に始まりかつC−末端に終わるアミノ酸配列を持つとして記述される。抗原結合部位がVおよびVドメインの両方を含むときには、これらは同じポリペプチド分子上に位置し得るかまたは、好ましくは、それぞれのドメインは異なる鎖上に在り得るが、Vドメインは免疫グロブリン重鎖もしくはそのフラグメントの部分でありそしてVドメインは免疫グロブリン軽鎖もしくはそのフラグメントの部分である。
【0009】
“IL−1β結合分子”とは、単独かもしくは他の分子と関連するかのどちらかでIL−1β抗原に結合する能力のある任意の分子を意味する。結合反応を示し得る標準的な方法(定性的アッセイ)として挙げられるものは、例えば、無関連の特異性を持つが同じイソタイプの抗体、例えば抗−CD25抗体、を用いる陰性対照テストを規準とする、IL−1βのその受容体への結合の阻害を測定するバイオアッセイもしくは任意の種類の結合アッセイである。有利なことには、本発明のIL−1β結合分子のIL−1βへの結合は競合的結合アッセイで示され得る。
【0010】
抗原結合分子の例としては、B細胞もしくはハイブリドーマにより生成される抗体およびキメラの、CDR−移植のもしくはヒトの抗体またはそれらの任意のフラグメント、例えばF(ab’)およびFabフラグメント、ならびに単一鎖もしくは単一ドメイン抗体が挙げられる。
【0011】
単一鎖抗体は、通常は10〜30のアミノ酸、好ましくは15〜25のアミノ酸からなるペプチドリンカーにより共有結合した抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインからなる。それ故に、そのような構造には重鎖および軽鎖の定常部分が含まれておらず、そして、小さいペプチドスペーサーは全体の定常部分より抗原性が小さいと信じられている。
【0012】
“キメラ抗体”とは、そこでは、重鎖もしくは軽鎖またはその両方の定常領域がヒト由来である一方で、重鎖および軽鎖両方の可変ドメインは非−ヒト(例えばマウス)由来であるかもしくはヒト由来であるが異なるヒト抗体から誘導化されるところの抗体を意味する。“CDR−移植抗体”とは、超可変領域(CDR)が非−ヒト(例えばマウス)抗体もしくは異なるヒト抗体のような、ドナー抗体から誘導化される一方で、免疫グロブリンの全てのもしくは実質的に全ての他の部分、例えば、定常領域および可変ドメインの高度保存部分、即ちフレームワーク領域が受容者の抗体、例えばヒト由来の抗体、から誘導化されるところの抗体を意味する。しかしながら、CDR−移植抗体は、フレームワーク領域において、例えば超可変領域に隣接するフレームワーク領域の部分において、ドナー配列の少数のアミノ酸を含んでもよい。“ヒト抗体”とは、例えばEP 0546073 B1、USP 5545806、USP 5569825、USP 5625126、USP 5633425、USP 5661016、USP 5770429、EP 0438474 B1およびEP 0463151 B1に一般用語で記載されているように、重鎖もしくは軽鎖両方の定常および可変領域が全てヒト由来であるか、もしくはヒト由来の配列に実質的に同一であるが、必ずしも同じ抗体からでない抗体を意味し、そして、マウス免疫グロブリンの可変および定常部遺伝子がそれらのヒト同等物により置換されたマウスにより生成された抗体を含む。
【0013】
本発明の特に好ましいIL−1β結合分子はヒト抗体、とりわけ実施例でこの後説明するようなACZ 885抗体である。
【0014】
したがって、好ましいキメラ抗体においては、重鎖および軽鎖両方の可変ドメインはヒト由来であり、例えば、配列番号1および配列番号2に示されるACZ 885抗体のものである。定常領域ドメインは、好ましくはまた、例えば“Sequences of Proteins of Immunological Interest”、Kabat E. A. et al., US Department of Health and Human Services, Public Health Service, National Institute of Health、に記載されているような適当なヒト定常領域ドメインを含む。
【0015】
超可変領域はいかなる種類のフレームワーク領域と関連してもよいが、好ましくはヒト由来である。適当なフレームワーク領域は、Kabat E. A. et al.、同書中に記載されている。好ましい重鎖フレームワークはヒト重鎖フレームワーク、例えば、配列番号1に示されるACZ 885抗体のものである。それは配列でFR1、FR2、FR3およびFR4の領域からなる。同様に、配列番号2は、配列でFR1’、FR2’、FR3’およびFR4’の領域からなるところの好ましいACZ 885軽鎖フレームワークを示す。
【0016】
したがって、本発明はまた、1位のアミノ酸から始まりかつ118位のアミノ酸で終わる配列番号1に示されるものと実質的に同一のアミノ酸配列を有する第一のドメインもしくは上述の第一のドメインのどちらか、ならびに1位のアミノ酸から始まりかつ107位のアミノ酸で終わる配列番号2に示されるものと実質的に同一のアミノ酸配列を有する第二のドメインを含む、少なくとも一つの抗原結合部位を含む、IL−1β結合分子を提供する。
【0017】
全てのヒトに自然に見出されるタンパク質に対して育てられたモノクローナル抗体は、非−ヒトシステム中で、例えばマウス中で、典型的には発育し、そしてそれ自体では、典型的に非−ヒトタンパク質である。この直接的結果として、ハイブリドーマにより生成されるような異種間の抗体は、ヒトに投与されたとき、異種間の免疫グロブリンの定常部分により優先的に介在されるところの望ましくない免疫反応を誘発する。それらは長期間にわたって投与できないので、このことは明らかにそのような抗体の使用を制限する。それ故に、ヒトに投与されたとき、実質的な同種異系反応を誘発しない、単一鎖の、単一ドメインの、キメラの、CDR−移植のもしくはヒトの抗体を使用することは特に好ましい。
【0018】
上述の事項の観点において、本発明のさらに好ましいIL−1β結合分子は、
a)(i)配列に超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む可変ドメインならびに(ii)ヒト重鎖の定常部分もしくはそのフラグメントであって、該CDR1はアミノ酸配列Val−Tyr−Gly−Met−Asnを有し、該CDR2はアミノ酸配列Ile−Ile−Trp−Tyr−Asp−Gly−Asp−Asn−Gln−Tyr−Tyr−Ala−Asp−Ser−Val−Lys−Glyを有し、そして該CDR3はアミノ酸配列Asp−Leu−Arg−Thr−Gly−Proを有するところの、免疫グロブリン重鎖もしくはそのフラグメントならびに
b)(i)配列にこれらの超可変領域ならびに所望によりまたCDR1’、CDR2’およびCDR3’の超可変領域を含む可変ドメインならびに(ii)ヒト軽鎖の定常部分もしくはそのフラグメントであって、該CDR1’はアミノ酸配列Arg−Ala−Ser−Gln−Ser−Ile−Gly−Ser−Ser−Leu−Hisを有し、該CDR2’はアミノ酸配列Ala−Ser−Gln−Ser−Phe−Serを有し、そして該CDR3’はアミノ酸配列His−Gln−Ser−Ser−Ser−Leu−Proを有するところの、免疫グロブリン軽鎖もしくはそのフラグメント、を少なくとも含むところのヒト抗IL−1β抗体;ならびにその直接的同等物から選択される。
【0019】
これに代えて、本発明のIL−1β結合分子は、
a)配列に超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む第一のドメインであって、該超可変領域は配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するドメイン、
b)配列に超可変領域CDR1’、CDR2’およびCDR3’を含む第二のドメインであって、該超可変領域は配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するドメイン、ならびに
c)第一のドメインのN−末端にかつ第二のドメインのC−末端にもしくは第一のドメインのC−末端にかつ第二のドメインのN−末端に、のどちらかに結合するペプチド・リンカー、を含む抗原結合部位を含むところの単一鎖結合分子;ならびにその直接的同等物から選択される。
【0020】
周知のように、一つの、少数のもしくは数個さえのアミノ酸の欠失、追加または置換のような、アミノ酸配列における軽微な変更は、実質的に同一の性質を有する元のタンパク質の対立遺伝子形に至るであろう。
【0021】
したがって、“その直接的同等物”なる用語の意味するものは、
(i)そこでは、全体として取った超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3は、配列番号1に示される超可変領域に少なくとも80%相同的、好ましくは少なくとも90%相同的、さらに好ましくは少なくとも95%相同的であり、ならびに
(ii)それは、分子Xのものと同一のフレームワーク領域を有するが、配列番号1に示されるものと同一の超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を有する、規準分子と実質的に同じ程度でIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力のあるところのいかなる単一ドメインIL−1β結合分子(分子X)、
または
(i)そこでは、全体として取った超可変領域CDR1、CDR2、CDR3、CDR1’、CDR2’およびCDR3’は、配列番号1および2に示される超可変領域に少なくとも80%相同的、好ましくは少なくとも90%相同的、さらに好ましくは少なくとも95%相同的であり、ならびに
(ii)それは、分子X’と同一のフレームワーク領域および定常部分を有するが、配列番号1および2に示されるものと同一の超可変領域CDR1、CDR2、CDR3、CDR1’、CDR2’およびCDR3’を有する、規準分子と実質的に同じ程度でIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力のあるところの、結合部位当り少なくとも二つのドメインを有するいかなるIL−1β結合分子(分子X’)、のどちらかである。
【0022】
本明細書において、アミノ酸配列は互いに少なくとも80%相同的であるが、この場合には、これらは、配列が最適にアラインし、アミノ酸配列中のギャップもしくは挿入は非−同一の残基として計算されるときには、似た場所に少なくとも80%の同一のアミノ酸残基を有する。
【0023】
IL−1βのその受容体への結合の阻害は、本明細書に後記されるようなアッセイを含む種々のアッセイで簡便に試験され得る。“同じ程度で”なる用語とは、規準および同等の分子が、統計学的根拠で、上記のアッセイの一つにおいて本質的に同一なIL−1β結合曲線を示すことを意味する。例えば、本発明のIL−1β結合分子がIL−1βのその受容体への結合の阻害について典型的に有するIC50値は、上述のようにアッセイするとき、対応する規準分子のIC50と好ましくは実質的に同じものの±×5以内である。
例えば、使用されるアッセイは、可溶性IL−1β受容体および本発明のIL−1β結合分子によるIL−1βの結合の競合的阻害のアッセイであってもよい。
【0024】
最も好ましくは、ヒトIL−1β抗体は、
a)1位のアミノ酸から始まりかつ118位のアミノ酸で終わる配列番号1に示されるものと実質的に同一のアミノ酸配列を有する可変ドメインならびにヒト重鎖の定常部分を含むところの一つの重鎖;ならびに
b)1位のアミノ酸から始まりかつ107位のアミノ酸で終わる配列番号2に示されるものと実質的に同一のアミノ酸配列を有する可変ドメインならびにヒト軽鎖の定常部分を含むところの一つの軽鎖、を少なくとも含む。
【0025】
ヒト重鎖の定常部分は、γ、γ、γ、γ、μ、α、α、δもしくはεタイプ、好ましくはγタイプ、さらに好ましくはγタイプであってもよいが一方では、ヒト軽鎖の定常部分は、κもしくはλタイプ(λ、λおよびλサブタイプを含む)であってもよいが、好ましくはκタイプである。これらの定常部分全てのアミノ酸配列はKabat et al.、同書中に与えられている。
【0026】
本発明のIL−1β結合分子は、組換えDNA技法により生成され得る。この観点において、結合分子をコードする一つもしくはそれ以上のDNA分子を構築し、適切な対照配列下に置きそして発現用の適当な宿主生物内に転移させなければならない。
【0027】
非常に一般的な様式において、したがって
(i)本発明の単一ドメインIL−1β結合分子、本発明の単一鎖IL−1β結合分子および本発明のIL−1β結合分子の重鎖もしくは軽鎖またはそのフラグメントをコードするDNA分子、ならびに
(ii)組換え手段による本発明のIL−1β結合分子の生成のために本発明のDNA分子の使用、が提供される。
【0028】
この技術の現況は、ここで提供される情報、即ち、超可変領域のアミノ酸配列およびそれらをコードするDNA配列が与えられると、当業者は本発明のDNA分子を合成することができるというようなものである。可変ドメイン遺伝子を構築する方法は、例えばEPA 239 400に記載されていてそして以下に簡潔にまとめられ得る:どんな特異性を持つMAbの可変ドメインをコードする遺伝子をクローン化する。フレームワークおよび超可変領域をコードするDNAセグメントを決定し、そして、フレームワーク領域をコードするDNAセグメントが結合点で適当な制限部位と共に融合されるように、超可変領域をコードするDNAセグメントを除去する。制限部位は、標準手順によるDNA分子の突然変異誘発により適切な位置に作成され得る。二本鎖の合成CDRカセットを配列番号1もしくは2に与えられた配列にしたがうDNA合成により調製する。これらのカセットは、それらがフレームワークの結合点で連結されることができるように、付着末端と共に提供される。
【0029】
さらに、本発明のIL−1β結合分子をコードするDNA構築体を得るために、生成するハイブリドーマ細胞株からmRNAへのアクセスを持つことは必要ではない。かくして、PCT出願第WO 90/07861号は、遺伝子のヌクレオチド配列について書いた情報のみをつけて、組換えDNA技法による抗体の生成についての完全な指示書を与えている。この方法は、数多くのオリゴヌクレオチドの合成、PCR法によるそれらの増幅および所望のDNA配列を得るためのそれらのスプライシングを含む。
【0030】
重鎖および軽鎖の定常部分をコードする適当なプロモーターもしくは遺伝子を含む発現ベクターは公的に入手可能である。かくして、いったん本発明のDNA分子が調製されると、それは適切な発現ベクター中に簡便に転移され得る。単一鎖抗体をコードするDNA分子はまた、例えばWO 88/1649に記載されているような標準方法により調製され得る。
前述の事項の観点において、ハイブリドーマもしくは細胞株の供託は、本明細書の十分性の判定基準を満たすために全く必要ではない。
【0031】
特別な実施態様において、本発明は下記のIL−1β結合分子を生成するための第一および第二のDNA構築体を含む:
第一のDNA構築体は重鎖もしくはそのフラグメントをコード化し、そして、
a)フレームワークおよび超可変領域を交互に含む可変ドメインをコードする第一の部分であって、該超可変領域は、そのアミノ酸配列が配列番号1に示されるところの配列CDR1、CDR2およびCDR3にあり;可変ドメインの最初のアミノ酸をコードするコドンで始まりそして可変ドメインの最後のアミノ酸をコードするコドンで終わる、第一の部分、ならびに
b)重鎖の定常部分の最初のアミノ酸をコードするコドンで始まりそして定常部分もしくはそのフラグメントの最後のアミノ酸をコードするコドンに続く停止コドンで終わるところの重鎖の定常部分もしくはそのフラグメントをコードする第二の部分、を含む。
【0032】
好ましくは、この第一の部分は、1位のアミノ酸から始まりかつ118位のアミノ酸で終わる配列番号1に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有する可変ドメインをコードする。さらに好ましくは、この第一の部分は、1位のヌクレオチドから始まりかつ354位のヌクレオチドで終わる配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有する。また好ましくは、第二の部分はヒト重鎖の定常部分、さらに好ましくはヒトγ1鎖の定常部分、をコードする。この第二の部分はゲノム由来のDNAフラグメント(イントロンを含む)もしくはcDNAフラグメント(イントロン無し)であってもよい。
【0033】
第二のDNA構築体は、軽鎖もしくはそのフラグメントをコード化し、そして、
a)フレームワークおよび超可変領域を交互に含む可変ドメインをコードする第一の部分であって;該超可変領域はCDR3’、所望によりCDR1’およびCDR2’、であり、そのアミノ酸配列は配列番号2に示され;可変ドメインの最初のアミノ酸をコードするコドンで始まりそして可変ドメインの最後のアミノ酸をコードするコドンで終わる第一の部分、ならびに
b)軽鎖の定常部分の最初のアミノ酸をコードするコドンで始まりそして定常部分もしくはそのフラグメントの最後のアミノ酸をコードするコドンに続く停止コドンで終わるところの軽鎖の定常部分もしくはそのフラグメントをコードする第二の部分、を含む。
【0034】
好ましくは、この第一の部分は、1位のアミノ酸から始まりかつ107位のアミノ酸で終わる配列番号2に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有する可変ドメインをコードする。さらに好ましくは、この第一の部分は、1位のヌクレオチドから始まりかつ321位のヌクレオチドで終わる配列番号2に示されるヌクレオチド配列を有する。また好ましくは、第二の部分はヒト軽鎖の定常部分、さらに好ましくはヒトκ鎖の定常部分、をコードする。
【0035】
本発明はまた、そこでCDR1、CDR2、CDR3、CDR1’、CDR2’もしくはCDR3’またはフレームワークの残基の一つもしくはそれ以上、典型的には少数(例えば1〜4)が、配列番号1および配列番号2に示される残基から、例えば突然変異、例えば対応するDNA配列の部位指向突然変異誘発、により変化されるところのIL−1β結合分子を含む。本発明は、そのような変化したIL−1β結合分子をコードするDNA配列を含む。特に本発明は、一つもしくはそれ以上のCDR1’もしくはCDR2’の残基が配列番号2に示される残基から変化されているところのIL−1β結合分子を含む。
【0036】
第一および第二の構築体において、第一および第二の部分はイントロンにより離されていてもよく、そして、エンハンサーが第一および第二の部分の間のイントロン中に簡便に位置してもよい。転写されるが翻訳されない、そのようなエンハンサーの存在は効率的な転写を手助けするであろう。特別な実施態様において、第一および第二の構築体は、有利にはヒト由来の重鎖遺伝子のエンハンサーを含む。
【0037】
DNA構築体のいずれも、適当な対照配列の制御下に、特に適当なプロモーターの制御下に、配置される。いかなる種類のプロモーターも、それが、そこでDNA構築体が発現のために転移されるであろうところの宿主生物に適応するならば、使用され得る。しかしながら、もし発現が哺乳類の細胞中で起こるとすると、免疫グロブリン遺伝子のプロモーターを使用することが特に好ましい。
【0038】
望ましい抗体は、細胞培養液もしくはトランスジェニック動物中で生成され得る。適当なトランスジェニック動物は標準的な方法により得られ得るが、これらは、適当な対照配列下に配置された第一および第二の構築体を卵中にマイクロインジェクションし、そのように調製した卵を適切な擬−妊娠雌内に転移させ、そして望ましい抗体を発現する子孫を選択することを含む。
【0039】
抗体鎖を細胞培養液中で生成するときには、DNA構築体を、単一の発現ベクター内にもしくは二つの別であるが適合性の発現ベクター内に先ず挿入しなければならないが、後者の可能性が好ましい。
【0040】
したがって、本発明はまた、上述のDNA構築体を少なくとも一つ含むところの原核生物もしくは真核生物の細胞株中に複製できる発現ベクターを提供する。
【0041】
DNA構築体を含むそれぞれの発現ベクターは、それから、適当な宿主生物内に転移される。DNA構築体を二つの発現ベクター上に別々に挿入するときには、それらは別々に、即ち、細胞当り一つのタイプのベクターで転移するか、もしくは共−転移するかでよいが、後者の可能性が好ましい。適当な宿主生物は細菌の、酵母のもしくは哺乳類の細胞株であってもよいが、後者が望ましい。さらに好ましくは、哺乳類の細胞株は、リンパ球由来、例えば骨髄腫、ハイブリドーマもしくは正常な不死化B細胞、であるが、それは簡便には、いかなる内因性抗体の重鎖もしくは軽鎖を発現しない。
【0042】
哺乳類の細胞における発現については、IL−1β結合分子をコードする配列が、IL−1β結合分子の高レベル発現を許容するか好むところの遺伝子座内部で宿主細胞DNA内に組み込まれることが好ましい。そこでIL−1β結合分子をコードする配列がそのように好まれる遺伝子座内に組み込まれている細胞は、それらを発現するIL−1β結合分子のレベルに基づいて確認されかつ選択され得る。IL−1β結合分子をコードする配列を含む宿主細胞の調製のためには、いかなる適当な選択性マーカーも用い得る;例えば、dhfr遺伝子/メトトレキセートもしくは同等の選択システムを用い得る。本発明のIL−1β結合分子の発現のための代わりのシステムとしては、EP 0256055 B、EP 0323997 Bおよび欧州特許出願第89303964.4号に記載されているもののような、GSベースの増幅/選択システムが挙げられる。
【0043】
本発明のさらなる態様において、(i)上で規定するような発現ベクターで形質転換される生物を培養すること、および(ii)培養液からIL−1β結合分子を回収することを含む、IL−1β結合分子の製造方法が提供される。
【0044】
本発明にしたがって、ACZ 885抗体は、成熟ヒトIL−1βのGlu 64残基を含むループを含むヒトIL−1βの抗原エピトープに対して結合特異性を有するように思える。(成熟ヒトIL−1βのGlu 64残基はヒトIL−1β前駆体の残基180に相当する。) このエピトープはIL−1受容体の認識部位の外にあるように思われ、そしてそれ故に、このエピトープの抗体、例えばACZ 885抗体、がIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力を有することは最も驚くべきである。Glu 64残基を含むループを含む成熟ヒトIL−1βの抗原エピトープに対して結合特異性を有しそしてIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力を有するところの抗体、特にキメラのおよびCDR−移植の抗体そして特別にヒト抗体;ならびにそのような抗体のIL−1介在性疾患および障害の処置のための使用は、新規でありそして本発明の範囲内に含まれる。
【0045】
かくしてさらなる態様において、本発明は、成熟ヒトIL−1βのGlu 64残基を含むループを含むヒトIL−1βの抗原エピトープに対して抗原結合特異性を有しそしてIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力を有するところのIL−1βに対する抗体を含む。
【0046】
なおさらなる態様において、本発明が含むものは:
i)Glu 64を含むループを含む成熟ヒトIL−1βの抗原エピトープに対して抗原結合特異性を有しそしてIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力を有するところのIL−1βに対する抗体、のIL−1介在性疾患もしくは障害の処置のための使用;
ii)Glu 64を含むループを含む成熟ヒトIL−1βの抗原エピトープに対して抗原結合特異性を有しそしてIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力を有するところのIL−1βに対する抗体の有効量を患者に投与することを含む、患者にIL−1介在性疾患もしくは障害の処置をするための方法;
iii)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤もしくは担体と組合せて、Glu 64を含むループを含む成熟ヒトIL−1βの抗原エピトープに対して抗原結合特異性を有しそしてIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力を有するところのIL−1βに対する抗体を含む、医薬組成物;ならびに
iv)Glu 64を含むループを含む成熟ヒトIL−1βの抗原エピトープに対して抗原結合特異性を有しそしてIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力を有するところのIL−1βに対する抗体を、IL−1介在性疾患もしくは障害の処置をする医薬品を調製するために使用すること、である。
【0047】
本説明の目的のために、もし抗体が実質的にACZ 885抗体と同じ程度でIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力を有するならば、抗体は“IL−1βの結合を阻害する能力を有する”が、ここで“同じ程度で”とは上で規定した意味を有する。
【0048】
ACZ 885抗体は、抗−IL−1β抗体、例えば抗ヒトIL−1β抗体、について以前報告された親和性より高いところのIL−1βに対する結合親和性を有する。かくして、ACZ 885は、約50pM以下、例えば約35pM、のIL−1βへの結合に対する解離平衡定数Kを有する。この高い結合親和性は、ACZ 885抗体を治療的応用に特に適したものにする。
【0049】
かくしてなおさらなる態様において、本発明は、約50pMもしくはそれ以下のIL−1βへの結合に対するKを有する、IL−1βに対する抗体を提供する。本発明のこの態様はまた、Glu 64を含むループを含む成熟ヒトIL−1βの抗原決定因子に対して結合特異性を有するIL−1βに対する抗体について上で説明したように、そのように高い親和性抗体についての使用、方法および組成物を含む。
【0050】
本説明において、“IL−1介在性疾患”なる用語は、そこで、疾患または状態の因果関係、発展、進歩、存続もしくは病理学を含む疾患または医療状態において、直接的もしくは間接的であれ、IL−1が役割を果たすところの、全ての疾患および医療状態を包含する。
【0051】
本説明において、“処置”もしくは“処置する”なる用語は、予防的もしくは予防の処置ならびに治癒的もしくは疾患を緩和する処置の両方を指すが、これは疾患に罹る危険にあるかもしくは疾患に罹っている疑いのある患者ならびに病気であるかまたは疾患もしくは医療状態に罹っていると診断されている患者の処置を含み、そして臨床的再発の抑制を含む。
【0052】
上で規定したIL−1β結合分子、特に本発明の第一および第二の態様にしたがうIL−1β結合分子、Glu 64を含むループを含む成熟ヒトIL−1βの抗原エピトープに対して抗原結合特異性を有する抗体、特にIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力を有する抗体、ならびに約50pMもしくはそれ以下のIL−1βへの結合に対するKを有する、IL−1βに対する抗体、はここでは“本発明の抗体”という。
【0053】
好ましくは、本発明の抗体は本発明の第一および第二の態様にしたがうIL−1β結合分子である。有利なことには、本発明の抗体はヒト抗体、最も好ましくはACZ 885抗体もしくはその直接的同等物である。
【0054】
本発明の抗体はIL−1βの標的細胞への影響を遮断し、したがってIL−1介在性疾患および障害の処置における使用に適用される。本発明の抗体のこれらおよび他の薬理学的活性は、例えば下記に記載するような標準試験方法で実証されるであろう:
【0055】
一次ヒト繊維芽細胞によるPGEおよびインターロイキン−6のIL−1β依存性生成の中和。
【0056】
一次ヒト皮膚繊維芽細胞におけるPGEおよびIL−6の生成はIL−1βに依存する。TNF−α単独ではこれらの炎症メディエーターを効率的に誘導できないが、IL−1と相乗作用を示す。一次ヒト皮膚繊維芽細胞はIL−1−誘導細胞の活性化についての代用モデルとして使用される。
一次ヒト皮膚繊維芽細胞は、組換えIL−1βまたは本発明の抗体もしくは6〜18,000pMの範囲にあるIL−1RAの種々の濃度の存在下でLPS−刺激ヒトPBMCから得られる順化培地で刺激される。キメラ抗CD25抗体Simulect[登録商標](バシリキシマブ)を、マッチド・イソタイプ対照として用いる。16時間刺激後、上澄み液を取り、ELISAにてIL−6に対するアッセイを行う。本発明の抗体は、上の通り試験するとき、典型的にIL−6生成阻害に対して約1nMもしくはそれ以下(例えば、約0.1〜約1nM)のIC50を有する。
【0057】
上のアッセイで示されるように、本発明の抗体は、IL−1βの効果を強力に遮断する。したがって、本発明の抗体は以下のような医薬的有用性を有する:
本発明の抗体は、IL−1介在性疾患もしくは医療状態、例えば、炎症状態、アレルギーおよびアレルギー状態、過敏反応、自己免疫疾患、重症感染、ならびに臓器もしくは組織移植拒絶反応、の予防および処置に有用である。
【0058】
例えば、本発明の抗体は、同種移植片拒絶反応もしくは異種移植片拒絶反応を含む、心臓、肺臓、心肺同時、肝臓、腎臓、膵臓、皮膚もしくは角膜の移植のレシピエントの処置のために、ならびに以下の骨髄移植および臓器移植に関連する動脈硬化のような移植片対宿主疾患の予防のために使用され得る。
【0059】
本発明の抗体は、自己免疫疾患について、ならびに、骨欠損、炎症性疼痛、過敏反応(気道過敏反応および皮膚超過敏反応の両者を含む)およびアレルギーを伴う、炎症状態ならびにリウマチ性疾患を含む、炎症状態、特に関節炎(例えば、リウマチ様関節炎、慢性順行性関節炎および変形性関節炎)のような自己免疫成分を含む病因を有する炎症状態、ならびにリウマチ性疾患の、処置、予防、もしくは改善に特に有用である。本発明の抗体が使用され得る特異的自己免疫疾患としては、自己免疫性血液障害(例えば、溶血性貧血、再生不良性貧血、赤芽球ろう、および特発性血小板減少症を含む)、全身性エリテマトーデス、多発性軟骨炎、強皮症、Wegener肉芽腫、皮膚筋炎、活動性慢性肝炎、重症筋無力症、乾癬、Stevens−Johnson症候群、特発性鵞口瘡、自己免疫性炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、Crohn病、および過敏性腸症候群を含む)、内分泌性眼障害、Graves病、サルコイドーシス、多発性硬化症、原発性胆汁性肝硬変、若年性糖尿病(I型糖尿病)、ブドウ膜炎(前部および後部)、乾性角結膜炎および春季カタル、間質性肺繊維症、乾癬性関節炎、ならびに糸球体腎炎(有および無−ネフローゼ症候群、例えば、特発性ネフローゼ症候群もしくは微小変化型腎症を含む)が挙げられる。
【0060】
本発明の抗体はまた、喘息、気管支炎、塵肺、肺気腫および気道の他の閉塞性もしくは炎症性疾患の処置、予防もしくは改善に対しても有用である。
【0061】
本発明の抗体は、IL−1によって介在されるかまたはIL−1、特にIL−1β、の生成もしくはIL−1によるTNF放出の促進を伴うところの、望ましくない急性および超急性炎症反応、例えば、急性感染症、例えば敗血症性ショック(例えば、エンドトキシンショックおよび成人呼吸窮迫症候群)、髄膜炎、肺炎;ならびに重症やけどの処置に対して:ならびに感染、がん、もしくは臓器不全に必然的な病的TNF放出に付随する、カヘキシーもしくは消耗症候群、特にAIDS関連カヘキシー、例えば、HIV感染に随伴するもしくは必然なもの、の処置に対して有用である。
【0062】
本発明の抗体は、骨関節症、骨粗しょう症、および他の炎症性関節炎を含む骨代謝の疾患、ならびに加齢に関連する骨欠損および特に歯周疾患を含む骨欠損一般の処置に対して特に有用である。
【0063】
これらの適用については、適切な服用量は、勿論、例えば使用する本発明の特定の抗体、宿主、投与形態、および処置する状態の性質および重症度に依存して変化する。しかしながら、予防的用途においては、満足な結果は、体重キログラム当たり約0.05mg〜約10mg、さらに普通には体重キログラム当たり約0.1mg〜約5mgの投与量で得られると、一般的に示されている。予防的使用のための服用頻度は、普通には毎週約一回から3箇月毎に約一回まで、さらに普通には2週間毎に約一回から10週間毎に約一回まで、例えば4〜8週間毎に一回までの範囲にあるであろう。簡便には、本発明の抗体は、非経腸的、静脈内例えば前肘もしくは他の末梢性静脈内へ、筋肉内、または皮下的に投与される。予防的な処置は、典型的には、本発明の抗体を毎月一回から2〜3箇月毎に一回までもしくはそれ以下の頻度で投与することを含む。
【0064】
本発明の医薬組成物は、従来の様式で製造され得る。本発明にしたがう組成物は、好ましくは凍結乾燥した剤形で提供される。直接投与の場合には、適当な水性担体、例えば、注射用の無菌水もしくは無菌の緩衝生理食塩水にそれを溶かす。もしボラス注射としてよりむしろ点滴による投与のためにより大容量の溶液を作成することが望まれるならば、ヒト血清アルブミンもしくは患者自身のヘパリン添加血を生理食塩水中に処方時に組み入れることが有利である。そのような生理的に不活性なタンパク質の過剰な存在は、輸液で使用される容器および管の壁上への吸着による抗体の損失を防止する。もしアルブミンを用いるならば、適当な濃度は、生理食塩水の0.5〜4.5重量%である。
【0065】
可溶性IL−1受容体IおよびIIによるIL−1β結合の阻害の用量−作用曲線を示す添付図を参照するところの以下の実施例において、例示の意図でさらに本発明を説明する。
【実施例】
【0066】
実施例
マウス免疫グロブリン・レパートリー(Fishwild et al., 1996, Nat Biotechnol., 14, 845-851)の代わりに、ヒトIgG/κレパートリーを発現すべく操作されたトランスジェニック・マウスを用い、ヒトIL−1βに対する抗体を作成する。これらのマウスからのB細胞を標準的なハイブリドーマ技法によって不死化し、そしてヒトIgG1/κ抗体ACZ 885を分泌するマウス・ハイブリドーマ細胞を得る。
【0067】
実施例1:ハイブリドーマの作成と抗体の精製
遺伝子操作されたマウス18077(Medarex Inc. Annadale, NJ)を、アジュバント中で幾つかの部位でKLH(50μg)皮下注射にカップリングさせた組換えヒトIL−1βで免疫する。融合3日前に、最終注射でさらに5回マウスを追加免疫する。融合の日に、マウス18077をCO吸入により屠殺し、そしてPEG4000を用いる通常方法により、脾細胞(4.1×10)を同数のPAI−O細胞、マウス骨髄腫細胞株、と融合する。融合細胞を、マウス腹膜細胞(Balb Cマウス)の支持細胞層を含む624ウェル(1ml/ウェル)中において、HATを補充したRPMI1640、10%熱不活化ウシ胎仔血清5×10−5M β−メルカプトエタノール中で、平板培養する。上澄み液を収集し、ELISAで試験しそしてIL−1βに反応性のモノクローナル抗体のためのスクリーニングを行う。IgG/κサブクラスの五個のモノクローナル抗体が同定される。4×96ウェル・マイクロタイタープレートを用い、ウェル当たり0.5個の細胞を平板培養してクローニングを行う。二週間後ウェルを倒立顕微鏡で検査する。成長がポジティブなウェルから上澄み液を収集し、抗−IL−1βモノクローナル抗体の生成をELISAで評価する。最初に同定されたハイブリドーマ#657の四個のサブクローンからの順化上澄み液1〜2Lを調製し、そして、タンパク質Aカラム上のアフィニティークロマトグラフィーで抗体を精製する。
【0068】
重鎖および軽鎖の純度ならびに部分的アミノ酸配列
アミノ酸シーケンシング
精製した抗体ACZ 885の軽および重鎖をSDS−PAGEにより分離し、そしてアミノ末端アミノ酸をEdman分解により測定する。これらの研究で用いる抗体の純度は、シークエンシングによると、≧90%である。重鎖および軽鎖の可変領域をコードするcDNA配列を、クローン化したハイブリドーマ細胞からのmRNAから得られたcDNAのPCR増幅により得て、そして十分にシークエンシングする。重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ末端配列ならびに対応するDNA配列を、以下の配列番号1および配列番号2に示すが、そこではCDRを太字タイプで示す。
【0069】
【表1】

【0070】
重鎖および軽鎖のための発現ベクターの構築
EP 0256055 B、EP 0323997 Bもしくは欧州特許出願第89303964.4号に記載されたもののようなGSベースの増幅/選択システムを用いるが、ここで、使用する選択可能マーカーはGSコーディング配列である。
【0071】
実施例2:生化学的および生物学的データ
モノクローナル抗体ACZ 885は、インビトロでインターロイキン−1βの活性を中和すると見出されている。さらに、モノクローナル抗体をBiacore分析により、組換えヒトIL−1βとの結合について特色づける。可溶性IL−1受容体との競合的結合試験により中和の様式を査定する。組換えおよび天然産出のIL−1βに対する抗体ACZ 885の生物活性を、IL−1βによる刺激に応答する一次ヒト細胞(実施例3)で測定する。
【0072】
解離平衡定数の測定
組換えヒトIL−1ベータのACZ 885との結合に対する会合および解離速度定数を、BIAcore分析によって測定する。ACZ 885を固定化し、そして1〜4nMの濃度範囲における組換えIL−1ベータの結合を、表面プラズモン共鳴により測定する。選択したフォーマットは一価性相互作用を表し、かくしてIL−1βのACZ 885に対する結合イベントを1:1の化学量論に従って取り扱うことを可能にする。BIAevaluationソフトウェアを用いてデータ解析を行う。
【表2】

結論:ACZ 885は、極めて高い親和性で組換えヒトIL−1ベータに結合する。
【0073】
可溶性IL−1のIおよびII型受容体との結合競合試験
ACZ 885と可溶性ヒトIL−1のI型およびII型受容体との間の競合を、Biacoreによって測定する。ACZ 885をチップ表面に固定化し、増加する濃度の組換えヒト可溶性受容体I型もしくは受容体II型(0〜12nM;おのおの4回の独立実験)の非存在下もしくは存在下で、ACZ 885と結合させるために組換えヒトIL−ベータ(1nM)を注入する。得られた結果を添付図に示す。
【0074】
組換えヒト可溶性IL−1のI型もしくはII型受容体の存在下で、NVP−ACZ 885のヒトIL−1βへの結合を測定した。Origin 6.0ソフトウェアを用いて、半極大値(IC50)を図表的に測定した。平均値±SEMを得る(n=4)。
結論:ACZ 885のIL−1ベータへの結合は、IL−1受容体のI型もしくはII型の両方と競合的である。
【0075】
ヒトIL−1アルファ、ヒトIL−1RA、および他の種からのIL−1ベータに対する反応性プロフィール
ヒトIL−1アルファ、IL−1RA、ならびにカニクイザル、ウサギ、マウスおよびラットのIL−1ベータに対するACZ 885の反応性プロフィールをBiacore分析によって測定する。ACZ 885を固定化し、そして試験するサイトカインを8nMの濃度(6回の独立した実験)で加える。
【表3】

注入開始後1000秒で共鳴ユニットを読み取った;すべてのセンサーグラムから走査緩衝液の注入を差し引き、そして抗−Fcγの固定化後のベースラインをゼロに設定した。ヒトIL−1βに対する積算共鳴ユニットの百分率として結合を表示する。
結論:ACZ 885は、ヒトIL−1アルファ、ヒトIL−1RA、またはカニクイザル、ウサギ、マウスもしくはラットのIL−1ベータと有意に交差反応しない。
【0076】
実施例3:ACZ 885によるヒト皮膚繊維芽細胞からのIL−6放出の中和
次の方法論を用いて、ACZ 885のヒトIL−1βの作用を中和する生物活性を査定した。
【0077】
1.IL−1βを含む順化培地の調製
ヒト末梢血単核細胞からの順化培地の調製を次のように行った:サルの末梢血からHanselの方法[Hansel, T. T. et. al. (1991)。高度精製ヒト血液好酸球の単離のための改良された免疫磁気手順。J. Imm. Methods 145: 105-110]にしたがって、ficoll-hypaque密度分離を用いて単核細胞を調製した; それらをRPMI/10%FCS中で10個の細胞/ウェルの濃度で用いた。IFNβ(100U/ml)およびLPS(5μg/ml)を加え、そして続けて細胞を6時間インキュベートした。10分間1200RPMでの遠心分離によりインキュベーションを停止した。上澄み液中のIL−1βを、ELISAを用いて定量した。
【0078】
2.中和アッセイ
ヒト皮膚包皮繊維芽細胞をClonetics(CC−2509)から得てそしてbFGF(1ng/ml,CC−4065)、インスリン(5μg/ml,CC−4021)、および2%FCS(CC−4101)を含むFBM(Clonetics,CC−3131)中で成長させた。
IL−6を誘導するために、48ウェル組織クラスター中にウェル当たり10個の細胞の密度で細胞を播種した。翌日、サイトカイン添加前に2%FCSを含むFBM中で6〜7時間、細胞を絶食させた。刺激のために、FBM+約50pg/mlのIL−1βについて適当量の順化培地を含む2%FCS、により培養培地を置き換えた。これに代えて、50pg/mlの最終濃度の組換えヒトIL−1βを用いた。
【0079】
細胞への添加に先立って、中和抗−IL−1β抗体を希釈した順化培地内で滴定した。ポジティブコントロールとして、組換えIL−1Ra(R&D Systems #280-RA-010)を用いた。
刺激後16〜17時間で細胞上澄み液を取り、そして放出されたIL−6の量をサンドウィッチELISAで測定した。
【0080】
3.IL−6 ELISA
PBS0.02%NaN中のマウス抗−ヒトIL−6 MAb(314−14(Novartis Pharma; バッチEN23,961、5.5mg/ml);3μg/mlで100μl)でELISAマイクロタイタープレートを被覆し、+4℃で終夜インキュベートした。翌日、マイクロタイタープレートをPBS/0.05%Tween/0.02%NaNで4回洗浄し、そして300μlのPBS/3%ウシ血清アルブミン(BSA)/0.02%NaNで3時間遮断した。プレートを再び洗浄し(4回)、そして上澄み液(1:20の最終希釈)もしくは組換えヒトIL−6標準((Novartis Pharma #91902),2倍希釈ステップで1〜0.0156ng/mlの範囲にわたる滴定曲線)の100μlを2回加えた。終夜、室温でインキュベートした後、プレートを洗浄し(4回)、そして異なるマウス抗−ヒトIL−6 MAb(110−14, Novartis Pharma;6.3mg/ml);1μg/mlで100μl;室温で3時間)を加えた。さらに別に4回洗浄後、1/10000(100μl/ウェル;室温にて3時間)の最終希釈でビオチン標識ヤギ抗−マウスIgG2b(Southern Biotechnology; #1090-08)を加えた。インキュベーション後、プレートを4回洗浄し、そして1/3000(100μl/ウェル;室温にて30分)の最終希釈でアルカリホスファターゼ(Jackson Immunoresearch, #016-050-084)にカップリングさせたストレプトアビジンを加えた。洗浄(4回)後、基質(ジエタノールアミン緩衝液中のp−ニトロフェニルホスフェート;100μl)を30分で加えた。1.5M NaOHの50μl/ウェルを加えて反応を遮断した。405および490nmのフィルターを用いて、マイクロタイターリーダー(Bio-Rad)中でプレートを読み取った。
【0081】
3次曲線の当てはめを用い標準曲線を照合して、培養上澄み液中のIL−6レベルを計算した。S字状曲線の当てはめに基づいて、IC50の統計的評価および測定を実施した。
【0082】
結果
【表4】

ヒト皮膚繊維芽細胞からのIL−6のIL−1β−誘導分泌の阻害に対するIC50値。
組換えヒトIL−1βもしくは50〜100pg/mlのIL−1βを含有する順化培地で、線維芽細胞を刺激した。
【0083】
実施例4:ACZ 885に対するエピトープの定義
ACZ 885は、高親和性でヒトIL−1βに結合するが、アカゲザルから誘導化された高度に相同的なIL−1βを認識できない。アカゲザルとヒトIL−1βとの間のアミノ酸配列における最も顕著な差異の一つは、成熟IL−1βの64位にある。この位置に、ヒトIL−1βはグルタミン酸を有し、アカゲザルはアラニンを有する。それぞれの置き換えGlu64Alaを有する突然変異ヒトIL−1βは、測定し得る親和性でACZ 885に結合する能力を消失している。我々は、ヒトIL−1βにおけるGlu64が抗体ACZ 885による認識に対しては必須であると結論する。Glu64は、IL−1βのI型受容体に対する結合表面の部分ではないところのIL−1βのループ上に、もしくはそれに近接して位置する。したがって、Glu64を組み入れた結合性エピトープに対して目標を向けた抗体は、ヒトIL−1βの生物活性を中和する潜在能力を有する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】可溶性IL−1受容体IおよびIIによるIL−1β結合の阻害の用量−作用曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列に超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む少なくとも一つの免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V)を含む抗原結合部位を含むIL−1β結合分子であって、該CDR1はアミノ酸配列Val−Tyr−Gly−Met−Asnを有し、該CDR2はアミノ酸配列Ile−Ile−Trp−Tyr−Asp−Gly−Asp−Asn−Gln−Tyr−Tyr−Ala−Asp−Ser−Val−Lys−Glyを有し、そして該CDR3はアミノ酸配列Asp−Leu−Arg−Thr−Gly−Proを有する、結合分子;ならびにその直接的同等物。
【請求項2】
配列に超可変領域CDR1’、CDR2’およびCDR3’を含む少なくとも一つの免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(V)を含むIL−1β結合分子であって、該CDR1’はアミノ酸配列Arg−Ala−Ser−Gln−Ser−Ile−Gly−Ser−Ser−Leu−Hisを有し、該CDR2’はアミノ酸配列Ala−Ser−Gln−Ser−Phe−Serを有し、そして該CDR3’はアミノ酸配列His−Gln−Ser−Ser−Ser−Leu−Proを有する、結合分子;ならびにその直接的同等物。
【請求項3】
重鎖(V)および軽鎖(V)可変ドメインの両方を含むIL−1β結合分子であって、そこでは該IL−1β結合分子は:
a)配列に超可変領域CDR1、CDR2およびCDR3を含む免疫グロブリン重鎖可変ドメイン(V)であって、該CDR1はアミノ酸配列Val−Tyr−Gly−Met−Asnを有し、該CDR2はアミノ酸配列Ile−Ile−Trp−Tyr−Asp−Gly−Asp−Asn−Gln−Tyr−Tyr−Ala−Asp−Ser−Val−Lys−Glyを有し、そして該CDR3はアミノ酸配列Asp−Leu−Arg−Thr−Gly−Proを有する、ドメイン(V)、ならびに
b)配列に超可変領域CDR1’、CDR2’およびCDR3’を含む免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン(V)であって、該CDR1’はアミノ酸配列Arg−Ala−Ser−Gln−Ser−Ile−Gly−Ser−Ser−Leu−Hisを有し、該CDR2’はアミノ酸配列Ala−Ser−Gln−Ser−Phe−Serを有し、そして該CDR3’はアミノ酸配列His−Gln−Ser−Ser−Ser−Leu−Proを有する、ドメイン(V)、を含む少なくとも一つの抗原結合部位を含む、結合分子;ならびにその直接的同等物。
【請求項4】
ヒト抗体である、請求項1、2もしくは3に記載のIL−1β結合分子。
【請求項5】
1位のアミノ酸から始まりかつ118位のアミノ酸で終わる配列番号1に示されるものと実質的に同一のアミノ酸配列を有する第一のドメインもしくは上述の第一のドメインのどちらか、ならびに1位のアミノ酸から始まりかつ107位のアミノ酸で終わる配列番号2に示されるものと実質的に同一のアミノ酸配列を有する第二のドメインを含む、少なくとも一つの抗原結合部位を含む、IL−1β結合分子。
【請求項6】
重鎖もしくはそのフラグメントをコードする第一のDNA構築体であって、それは、
a)フレームワークおよび超可変領域を交互に含む可変ドメインをコードする第一の部分であって、該超可変領域は、そのアミノ酸配列が配列番号1に示されるところの配列CDR1、CDR2およびCDR3にあり;可変ドメインの最初のアミノ酸をコードするコドンで始まりそして可変ドメインの最後のアミノ酸をコードするコドンで終わる、第一の部分、ならびに
b)重鎖の定常部分の最初のアミノ酸をコードするコドンで始まりそして定常部分もしくはそのフラグメントの最後のアミノ酸をコードするコドンに続く停止コドンで終わるところの重鎖の定常部分もしくはそのフラグメントをコードする第二の部分、を含む構築体。
【請求項7】
軽鎖もしくはそのフラグメントをコードする第二のDNA構築体であって、それは、
a)フレームワークおよび超可変領域を交互に含む可変ドメインをコードする第一の部分であって;該超可変領域はCDR1’、CDR2’およびCDR3’であり、そのアミノ酸配列は配列番号2に示され;可変ドメインの最初のアミノ酸をコードするコドンで始まりそして可変ドメインの最後のアミノ酸をコードするコドンで終わる第一の部分、ならびに
b)軽鎖の定常部分の最初のアミノ酸をコードするコドンで始まりそして定常部分もしくはそのフラグメントの最後のアミノ酸をコードするコドンに続く停止コドンで終わるところの軽鎖の定常部分もしくはそのフラグメントをコードする第二の部分、を含む構築体。
【請求項8】
請求項6もしくは請求項7に記載の少なくとも一つのDNA構築体を含む、原核生物もしくは真核生物の細胞株中で複製できる発現ベクター。
【請求項9】
(i)請求項8に記載の発現ベクターで形質転換される生物を培養することおよび(ii)培養液からIL−1β結合分子を回収することを含む、IL−1β結合分子の製造方法。
【請求項10】
Glu 64残基を含むループを含む成熟ヒトIL−1βの抗原エピトープに対して抗原結合特異性を有し、そしてIL−1βのその受容体への結合を阻害する能力を有する、IL−1βに対する抗体。
【請求項11】
i)請求項10に記載のIL−1βに対する抗体のIL−1介在性疾患もしくは障害の処置のための使用;
ii)請求項10に記載の抗体の有効量を患者に投与することを含む、患者におけるIL−1介在性疾患もしくは障害の処置をするための方法;
iii)薬学的に許容される賦形剤、希釈剤もしくは担体と組合せて、請求項10に記載のIL−1βに対する抗体を含む、医薬組成物;ならびに
iv)請求項10に記載のIL−1βに対する抗体を、IL−1介在性疾患もしくは障害の処置をする医薬品を調製するための使用。

【図1】
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【公開番号】特開2008−295456(P2008−295456A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199799(P2008−199799)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【分割の表示】特願2002−521531(P2002−521531)の分割
【原出願日】平成13年8月20日(2001.8.20)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】