説明

ヒドロキシフェニルウンデカン誘導体、その製法、及びその使用

本発明は、式(I)で表される新規なヒドロキシフェニルウンデカン誘導体、真菌クリフォネクトリア パラシチカ(Cryphonectria parasitica) DSM 14453菌株の培養による当該化合物の製造方法、及びアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、卒中、精神病及び/又はうつ病の治療のための医薬品としてのそれらの使用に関するものである。
【化1】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なヒドロキシフェニルウンデカン誘導体、当該化合物の製造方法、及びアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、脳卒中、精神病及び/又はうつ病の治療のための医薬品としてのそれらの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒトの脳におけるc-Jun N−末端キナーゼ (JNKs)の差次的発現及び局在は、種々の細胞外刺激の選択的細胞応答への変換を反映している。
【0003】
3種のJNKsの内、JNK1及びJNK2は、組織中に広く分布しているが、JNK3は主に脳に分布しており、そこではニューロン(神経単位)において発現されている。c-Junリン酸化に至るc-Jun N−末端キナーゼ (JNKs) 経路は、種々の刺激に続く、単離した初代胚ニューロン及び多数の神経細胞系のアポトーシスの原因となる役割を演じている。この経路の活性化は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病及び脳卒中を含む神経の退化的病理状態に関連する神経細胞萎縮及び細胞死の原因となるものと思われている(Kumagae et al., Mol. Brain Res. (1999), 67(1), 10-7)。それ故、JNK3阻害物質は、アポトーシスを阻止するに違いなく、そして、上記に記載した病気の治療及び/又は予防に有用であるに違いない。
【0004】
プロテイン ホスファターゼ−1(PP1)は、筋肉収縮、細胞周期の進行、及び神経伝達を含む種々の細胞プロセスにおいて重要な役割を演じているセリン/トレオニン ホスファターゼである(Hsieh-Wilson et al., Biochemistry 1999, 38, 4365-4373)。PP1の局在及び基質特異性は、標的サブユニットとして知られている一群の蛋白質によって決定される。標的サブユニットは、酵素を別個の細胞下区画に指向させることにより、また或る場合には、その活性を特定の基質に対して作用するように調節することによって、その触媒サブユニット(PP1c) 本来有する広範囲の特異性を制限する。
【0005】
研究の結果、樹状突起棘(dendritic spines)において豊富な蛋白質であるスピノフィリンが、PP1の神経標的サブユニットとして作用するという概念が支持されている。スピノフィリンは、樹状突起棘において例えば、AMPA (α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸)型グルタミン酸受容体のようなグルタミン酸受容体の燐酸化状態を、これらの近傍にPP1を固定することにより調節するという重要な役割を果たしている(Jiang Feng et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2000, 97, 9287-9292)。スピノフィリンが存在しない状態では、AMPA受容体は、もはやPP1によって下流制御を受けることが無く、その結果として、より持続的なAMPA受容体の流れ(current)をもたらす。グルタミン酸受容体の流れの調節障害は、神経回路の特異的変化を誘導し、その結果、例えば、長期的なうつ病を引き起こすこととなる。スピノフィリン−PP1相互作用に干渉する分子は、それ故に、精神病又はうつ病の治療又は予防に有用である。
【0006】
以下の式で表わされる二量体ヒドロキシフェニルウンデカン
【化1】

ここにおいて
「a」が一重結合の場合は、Rは−OH又は−OC(O)CH3であり、および
「a」が二重結合の場合は、Rは存在しない、
は、UK特許出願GB2327674において、HIVインテグラーゼ阻害剤として記載されている。
【0007】
微生物クリフォネクトリア パラシチカ(Cryphonectria parasitica)ST 002447(DSM 14453)菌株が、スピノフィリン−PP1相互作用を阻害する新規な化合物を生成することは、今日では知られている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
それ故、本発明は、式(I)で表わされる化合物で、
【化2】

ここにおいて、
R1及びR2は、それぞれ独立に、H又はSO3Hであり、
及び/又は生理学的に許容され得るそれらの塩及び/又は自明な化学的均等物に関するものである。
【0009】
式(I)で表わされる化合物において、キラル中心は、R又はS立体配置をとることができる。本発明は、式(I)で表わされる光学的に純粋な化合物、及び、いかなる分配比率であるかに関わらず、立体異性体の混合物をも含んでいる。
【0010】
式(I)で表わされる化合物は、その後、スピノサルフェート(Spinosulfates)と名
付けた。
【0011】
一つの実施態様においては、R1及びR2はSO3Hである。この置換基の組合せを有している式(I)で表わされる化合物は、スピノサルフェートA(Spinosulfate A)と名付けた。
【0012】
他の実施態様において、R1及びR2がHである式(I)で表わされる化合物がある。この化合物は、その後、スピノサルフェートB(Spinosulfate B)と名付けた。
【0013】
式(I)で表わされる化合物は、真菌クリフォネクトリア パラシチカ ST 002447(DSM 14453)菌株の培養によって得ることができる。当該微生物は、既に、ドイツ微生物及び培養細胞コレックション(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures), Braunschweig, Germanyに、2001年8月29日付けで寄託しており、寄託番号 DSM 14453が与えられている。
【0014】
本発明は、真菌クリフォネクトリア パラシチカ DSM 14453菌株又はその変異株もしくは突然変異株の一菌株の培養によって得られる、式(I)で表される化合物及び/又はそれらの生理学的に許容され得る塩及び/又は自明な化学的均等物、すなわち、化合物スピノサルフェートA又は化合物スピノサルフェートBに関するものである。
【0015】
このように、本発明は、真菌クリフォネクトリア パラシチカ DSM 14453菌株又はその変異株もしくは突然変異株の一菌株を培養し、単離し、及び、場合によっては式(I)で表される化合物を精製し、及び、場合によっては生理学的に許容され得る塩及び/又は自明な化学的均等物へ変換することによって得られる、式(I)で表される化合物及び/又はそれらの生理学的に許容され得る塩及び/又は自明な化学的均等物、すなわち、化合物スピノサルフェートA又は化合物スピノサルフェートBに関するものである。
【0016】
栄養培地は、好ましくは、一つ又はそれ以上の炭素源、窒素源及び無機塩、そして場合によっては、栄養無機塩及び/又は微量元素を含んでいる。炭素源としては、例えば、オートミール、澱粉、グルコース、スクロース、デキストリン、果糖、モラッセス、グリセロール、乳糖又はガラクトースであるが、好ましくはオートミールである。窒素源としては、例えば、大豆粉、落花生粉、酵母エキス、ビーフエキス、ペプトン、麦芽エキス、コーンステイープリカー、ゼラチン又はカザミノ酸があり、好ましくは、コーンステイープリカーである。栄養無機塩としては、例えば、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、リン酸水素アンモニウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムがある。微量元素としては、例えば、Fe、Mn、Cu、B、Mo、Znの塩又は酸若しくは塩基がある。
【0017】
DSM 14453の代わりとして、その変異型又は突然変異株も、当該新規化合物を生成する限りにおいては使用することができる。変異型とは、ゲノム上の或る遺伝子が変異しているが、式(I)で表される化合物の回収可能量を産生する微生物の能力に関与する遺伝子又は遺伝子群を機能的にも遺伝的にも維持しているものをいう。突然変異株は、当業者にとって既知の方法、例えば紫外線又はX線による照射、或いは、例えばエチルメタンスルホネート(EMS);2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(MOB);N−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、又は、Brock et al著「微生物の生物学」(Biology of Microorganisms)、Prentice Hall, pp. 238-247 (1984) に記載されているような化学的突然変異誘発物質を用いて誘発することができる。
【0018】
変異型(variant)とは、微生物の表現型を意味する。微生物は環境の変化に適応する
能力をもっている。この適応能力が観察される生理的可変性の原因となる。表現型の適応には一個体の全ての細胞が関与する。このタイプの変化は、遺伝的には条件付けられては
いない。異なる条件下においては可逆的であるという変異である(H. Stolp著「微生物の生態:微生物体、棲息、活動」(Microbial ecology: organisms, habitats, activities.)Cambridge University Press, Cambridge, GB, Seite 180, 1988)。
【0019】
新規な抗生物質を産生する突然変異株及び変異型の選抜(スクリーニング)は、培地中に蓄積する活性物質の生物学的活性の測定、例えば、抗生物質活性の測定、又は培地中において活性と思われる化合物を、例えばHPLC又はLC−MS法で検出することにより行なうことができる。
【0020】
クリフォネクトリア パラシチカ DSM 14453菌株の培養は、15℃〜35℃の温度および2.5〜8.0のpHで、好ましくは好気的条件下で行なうことができる。好ましくはクリフォネクトリア パラシチカ DSM 14453は25℃(±1℃)およびpH3〜6で培養される。
【0021】
クリフォネクトリア パラシチカ DSM 14453菌株の培養は、スピノサルフェートの最大収率を得るためには、好ましくは、72〜200時間行なう。特に好ましくは、液体培養の条件下で、例えば、振とうフラスコ中で又は実験用ファーメンター中で、96〜144時間の培養を行なう。培養の進行及びスピノサルフェートの産生は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)又はLC−MSで、および培地中の生物学的活性を測定することにより検出することができる。収穫して得られた培地においては、スピノサルフェートは培地の濾液及び菌糸体の双方に存在している。スピノサルフェートは既知の単離技術を用いて単離することができる。このようにして、スピノサルフェートは培地の濾液からは、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム又はブタノールのような水と混和しない溶媒を用いて、pH3〜8で抽出するか、或いは、ダイアイオンHP−20(R)(Diaion HP-20(R))又はMCI(R)ゲルCHP−20P(MCI(R) Gel CHP-20P)(三菱化学工業株式会社)、アンバーライトXAD(R)(Amberlite XAD(R):Rohm and Hass Industries U.S.A.)、のようなポリマー樹脂を用いた疎水相互作用クロマトグラフィー、活性炭、又はpH3〜8でのイオン交換クロマトグラフィーにより回収することができる。好ましい方法は、MCI(R)ゲルCHP−20Pを用いたクロマトグラフィーである。活性物質はまた菌糸体からも、メタノール、アセトン、アセトニトリル、n−プロパノール、もしくはiso−プロパノールのような水に混和性の溶媒を用いて抽出することにより、または、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルムもしくはブタノールのような水と混和しない溶媒を用いて、pH3〜8で抽出することにより回収することができ、好ましい方法は、メタノール抽出である。抽出物を濃縮し、そして真空凍結乾燥により活性な粗抽出物を得ることができる。
【0022】
式(I)で表わされる化合物は、例えば下記の方法により粗抽出物から回収することができる。
【0023】
次のいずれかの技法を用いる分画法:順相クロマトグラフィー(アルミナ又はシリカゲルを定常相として、および、石油エーテル、酢酸エチル、塩化メチレン、アセトン、クロロホルム、メタノール又はそれらの混合物を溶離液として、そして、NEt3のようなアミンを付加物として用いる)、逆相クロマトグラフィー(ジメチルオクタデシルシリル シリカゲル、いわゆるRP−18、又はジメチルオクチルシリル シリカゲル、いわゆるRP−8のような逆相シリカゲルを定常相として、ならびに、水、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩を含んでいる緩衝液(pH2〜8)、及び、メタノール、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン又はこれら溶媒の混合物のような有機溶媒を溶離液として用いる)、メタノール、クロロホルム、アセトン、酢酸エチルもしくはそれらの混合物のような溶媒中のセファデックス(R)LH−20(Sephadex(R) LH-20:Pharmacia Chemical Industries, Sweden)、TSKgel Toyopearl( HW (TosoHaas, Tosoh Corporation, Japan)、又は、水中のセファデックス(R) G10及びG25G(Sephadex(R) G10 and G25)、のような樹脂を用いたゲル浸透クロマトグラフィー;又は、水、メタノール、エタノール、iso−プロパノール、n−プロパノ−ル、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、石油エーテル、ベンゼン及びトルエンのような2つ又はそれ以上の溶媒で作成された二相溶離液系を用いた対向クロマトグラフィー。これらの技術は、繰り返して使用することができるし、また、異なる技術を組み合わせて使用することもできる。好ましくい方法は、逆相シリカゲル(RP−18)を用いたクロマトグラフィーである。
【0024】
本発明に係る化合物の自明な化学的均等物とは、わずかな化学的相異を示し、かつ、同様の効果を示す化合物、又は、緩和な条件下において、本発明に係る化合物に変換する化合物をいう。当該均等物には、例えば、式(I)で表わされる化合物のエステル、エーテル、複合体又は付加物が含まれる。式(I)で表わされる化合物のエステル及び/又はエーテルのような、自明な化学的均等物とは、当業者に既知の標準的な製法、例えば、J. March, 著「高等有機化学」(Advanced Organic Chemistry)、John Wiley & Sons, 第4版、1992.に記載されている方法により合成することができる。
【0025】
本発明に係る化合物は、医薬品として許容され得る塩に変換することができる。当該塩は、当業者に既知の標準的な製法により合成することができる。
【0026】
式(I)で表わされる化合物の医薬品として許容され得る塩は、有機塩又は無機塩であり、そして「レミントン著の医薬品科学」(Remington's Pharmaceutical Sciences :第17版、1418頁(1985)に記載のようにして合成することができる。例えば、ナトリウム又はカリウムのような塩は、本発明に係る化合物に適当なナトリウム又はカリウムのような塩基を処理することにより得られる。
【0027】
本発明に係る化合物及び/又は医薬品として許容され得る塩並びに自明な化学的均等物は、動物、好ましくは哺乳類、特にヒトに、それ自身又は他の化合物との混合物を、非経口投与が許容される医薬品組成物として、投与することができる。
【0028】
従って、本発明は、式(I)で表わされる化合物、又はそれらの医薬品として許容され得る塩並びに自明な化学的均等物、すなわち、化合物スピノサルフェートA又は化合物スピノサルフェートBの使用に関するものであり、特に、スピノフィリン−PP1複合体及び/又はc−Jun N−末端キナーゼ(c-Jun N-terminal Kinase:JNK3)の阻害剤としての使用に関するものであり、それ故、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、脳卒中、精神病及び/又はうつ病の治療及び/又は予防に有用なものである。
【0029】
更に、本発明は、少なくとも一つの式(I)で表わされる化合物、又はそれらの医薬品として許容され得る塩並びに自明な化学的均等物、すなわち、化合物スピノサルフェートA又は化合物スピノサルフェートB及び少なくとも一つの医薬品として許容され得る賦形剤を含んでいる医薬品に関するものである。
【0030】
本発明に係る化合物は、経口的に、筋肉中に、静脈中に又は他の投与方法により投与することができる。これらの化合物、又はそれらの医薬品として許容され得る塩並びに自明な化学的均等物を、また場合によっては、他の医薬的に活性な化合物を含んでいる医薬品組成物は、少なくとも一つの式(I)で表わされる化合物及び少なくとも一つの薬理学上許容され得る補助剤とを混合することにより調製することができる。当該混合物は、その後、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉剤、エマルション剤、懸濁剤、溶液剤のような適当な医薬品の製剤型に変換することができる。医薬品として許容され得る賦形剤の例としては、充填剤、エマルジョン剤、潤滑剤、臭気保護剤、着色剤及び緩衝剤、トラガカント(tragacanth)、乳糖、タルク、寒天、ポリグリコール、エタノール及び水がある。適当なそして好ましい非経口投与は、水中での懸濁又は溶液である。またそのような有効成分を投与するために、担体又は希釈剤を用いることなく、適当な剤型、例えばカプセル剤として投与することもできる。
【0031】
更に、本発明は、少なくとも一つの式(I)で表わされる化合物、又はそれらの医薬品として許容され得る塩並びに自明な化学的均等物、すなわち、化合物スピノサルフェートA又は化合物スピノサルフェートBを、少なくとも一つの医薬品として許容され得る賦形剤と共に適当な剤型に変換することに特徴を有している医薬品の製造方法に関するものである。
【0032】
通例として、剤形及び投与方法は、並びに特殊な場合における適当な投与範囲は、処置をする動物種により、また個々の条件又は病気の状態に依存するが、当業者に既知の方法を用いて最適化することができる。
【0033】
以下の実施例は、本発明に係る実施例を説明するものであるが、これらの範囲に制限されるものではない。
【0034】
実施例1:培養菌株クリフォネクトリア パラシチカ DSM 14453の保存
a) 保存培地
構成成分を加熱して完全に溶解させた後に、得られた溶液を121℃で20分間滅菌し、そしてペトリデッシュ(デッシュ当たり15mL)に分配した。固化後に、ペトリデッシュに初期培養菌株を接種し、25 ℃で良好な生育が観察されるまで培養した。よく生育した培養菌株を以下の保存用に使用した。
保存培地:
麦芽エキス 2.00 %
酵母エキス 1.00 %
グルコース 1.00 %
(NH4)2HPO4 0.05 %
寒天 2.00 %
b) −135 ℃での保存:
滅菌した10% DMSO溶液1.5mLを2mLのクリオバイアル(cryo vials)に注入した。保存用寒天培地から、2cm2の寒天小片を取り出して、DMSO溶液に加えて、−135 ℃で保存した。
c) 液体窒素中での保存:
50%グリセロール溶液1.5mLを2mLのクリオバイアルに注入した。保存用寒天培地から、2cm2の寒天小片を取り出して、グリセロール溶液に加えて、液体窒素中で保存した。
【0035】
実施例2:クリフォネクトリア パラシチカ DSM 14453菌株の振とうフラスコ中での発酵培養
a) 振とうフラスコ中での種培養の調製
種培養の培地を300mLの振とうフラスコ中に、100mL量ずつ分配し、121℃で30分間滅菌した。フラスコを室温で冷却した後、6日目の寒天培地から2cm2の寒天小片を取り出して接種するか、又は、保存バイアル(−135 ℃での保存又は液体窒素中での保存)の一本分で接種した。培養は、ロータリー式振とう培養機上で、140 rpm、25 ℃、72時間行なった。
種培養培地:
麦芽エキス 2.00 %
酵母エキス 0.20 %
グルコース 1.00 %
(NH4)2HPO4 0.05 %
pH6
生産条件:
【0036】
生産培地(以下参照)を300mLの振とうフラスコ中に、100mL量ずつ分配し、121℃で20分間滅菌した。フラスコを室温で冷却した後、72時間の種培養の培地から2mLを接種した。培養は、ロータリー式振とう培養機上で、140 rpm、25 ℃、144時間行なった。スピノサルフェートAの生成は、実施例5に記載したように、スピノフィリン−PP1複合体の阻害に対する生物活性を検定することにより、また、HPLC及びLC−MS分析により測定した。
生産培地:
コーンステイープリカー 0.50 %
トマトペースト 4.00 %
オートミール 1.00 %
微量元素溶液 1.00 mL
微量元素溶液:
FeSO4×7H2O 0.1000 %
MnSO4×H2O 0.1000 %
CuCl2×2H2O 0.0025 %
CaCl2×2H2O 0.0100 %
H3BO3 0.0056 %
(NH4)6Mo7O24×4H2O 0.0019 %
ZnSO4×7H2O 0.0200 %
【0037】
実施例3:クリフォネクトリア パラシチカ DSM 14453菌株のファーメンター(12L)中での発酵培養
振とうフラスコ中での種培養の調製
種培養の培地を2Lのエーレンマイヤーフラスコ(Erlenmeyer flask)中に、500mL量ずつ分配し、121℃で30分間滅菌した。種培養は、これらのフラスコ中で、実施例2に記載のようにして生育させた。
【0038】
大規模の発酵培養
生産培地8Lを、12Lのファーメンター中に、消泡剤として1ml/1 Lのデスモフェン(Desmophen(R))と共に添加し、そのままの状態で(in situ)、121 ℃で45分間滅菌した後、25 ℃ (±1 ℃)に冷却し、そして上記種培養0.5L(12Lファーメンターの6.25%)を接種した。
【0039】
発酵培養は、以下のパラメター条件下で行なった。
温度: 25 ℃
撹拌: 200 rpm
通気: 0.5 vvm
収穫時間: 96 時間目
スピノサルフェートの生成は、実施例8及び9に記載したように、阻害を検定することにより測定した。実施例4及び6に記載した方法により、培養液を回収して遠心分離し、そして培養濾液及び菌糸体から化合物スピノサルフェートA及びBを単離して精製した。
【0040】
実施例4:スピノサルフェートAの単離及び精製
培養液(7.5L)を遠心分離し、培養濾液及び菌糸体をそれぞれ別々に凍結乾燥した。菌糸体の凍結乾燥物をメタノール(7L)で抽出し、活性抽出物を集めて減圧下で濃縮し、そして凍結乾燥して、38gの粗抽出物を得た。この粗抽出物を下記の条件下で、分取用HPLCにより精製した。
カラム: MCI(R) Gel CHP−20P (260×50 mm; Kronlab)
溶離液: A) H2
B) MeOH
勾配: 分 %A %B
0 90 10
50.1 80 20
65.1 60 40
95.1 40 60
125.1 20 80
162.6 0 100
193 0 100
流速: 20 mL/分
検出: 210 nm
活性画分は、125分後に溶離した。当該画分を集めて減圧下で濃縮し、そして凍結乾燥した。
【0041】
最終精製は、下記の条件下で分取用HPLCにより行なった。
カラム: Luna(R) C18 (2) (5μm, 250×21 mm; Phenomenex, Inc.)
溶離液: A) 100%H2
B) 100%CH3CN
勾配: 分 %A %B
0 70 30
10 70 30
45 5 95
流速: 30 mL/分
検出: 210 nm
活性画分は、HPLC及びLC−MS分析により測定した。スピノサルフェートA(MW: 730 Da)を含んでいる画分は、18分後に溶離した(A)。当該画分を集めて減圧下で濃縮し、そして凍結乾燥した。7.5Lの培養液からの総収量は35mgであった。
【0042】
実施例5:スピノサルフェートAの物理化学及びスペクトル特性
スピノサルフェートAの物理化学特性
外観: 無色油状
溶解性: メタノール、DMSO
LC−MS: カラム:Purospher(R)STAR RP.18e (30×2mm, 3μm;Merck KgaA, Darmstadt)
溶離液: CH3CN/ 10mMNH4Ac(pH 4.5)
勾配 : 時 % CH3CN
0.00 5.0
6.00 100.0
7.50 5.0
9.00 100.0
10.50 5.0
13.00 5.0
流速: 0.25 mL/分
温度: 40 ℃
検出: 210 nm, 230, 250, 320, 400 (UV); 100−2000 amu (MS)
溶離時間: 6.5 分
ESI−MS: 729.5 amu (M-H)-
HR−ESI−MS: 729.2987 [C35H53O12S2の計算値:729.2984 (M-H)-]
分子式: C35H54O12S2
MSn−実験: FTICR 分析機器、Bruker APEX III, 7T
備品:外部 ESI−線源
ESI-: 729amu (M-H)-〜649amu (-SO3), 649amu〜369amu, 359amu, (-C18H26O3), 341 (-C18H28O4), 307amu (-C17H26O5S), 289amu (-C17H28O6S)
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
実施例6:スピノサルフェートBの単離及び精製
培養液(22L)を分離し、菌糸体(310g)を、最初はメタノール(9L)で抽出し、その後酢酸エチル(4L)で抽出した。酢酸エチル画分を集めて凍結乾燥し、9.4gの粗抽出物を得た。HPLC及びLC−MS分析の結果、酢酸エチル抽出が活性物質のほとんどを含んでいることが分かり、そこでそれを下記の条件下で分取用HPLCにより精製した。
カラム: MCI(R) Gel CHP-20P (260×50 mm; Kronlab)
溶離液: A) H2O
B) イソプロパノール
勾配: 分 %A %B
0 80 20
15.1 60 40
45.1 40 60
75.1 20 80
113 0 100
142.5 0 100
流速: 20 mL/分
検出: 210 nm
活性画分は、100分後に溶離した。当該画分をHPLC及びLC−MSで分析した。スピノサルフェートを含んでいる画分を集めて減圧下で濃縮し、そして凍結乾燥した。
【0046】
最終精製は、下記の条件下で分取用HPLCにより行なった。
カラム: Luna(R) C18 (2) (5μ, 250×21.20 mm; Phenomenex, Inc.)
溶離液: A) 0.05% TFA水溶液
B) CH3CN
勾配: 分 %A %B
0 95 5
30 50 50
75 0 100
123 0 100
流速: 25 mL/分
検出: 210 nm
活性画分は、LC−MSで分析した。スピノサルフェートBを含んでいる画分は、160分後に溶離した。当該画分を集めて減圧下で濃縮し、そして凍結乾燥した。22Lの培養液からの総収量は60mgであった。
【0047】
実施例7:スピノサルフェートBの物理化学及びスペクトル特性
外観、溶解性及びLC−MSは、実施例5に記載したものと同一である。
保持時間: 8.5 分
ESI−MS: 569.3 amu (M-H)-
HR−ESI−MS: 571.39885 [C35H55O6の計算値: 571.39932 (M-H)-]
分子式: C35H54O6
MSn−実験: FTICR 分析機器、Bruker APEX III, 7T
備品:外部 ESI−線源
ESI-: 569amu (M-H)-〜289amu, 245amu, 91amu; 289amu〜245amu.
【0048】
【表3】

【0049】
【表4】

【0050】
実施例8:JNK3 検定
検定は、384−穴プレートフォーマト中で、シビオ ピペット システム(Cybio pipetting system)を用いて行なった。最終検定容量は、30 μlで、プローブ(検定すべき抽出物又は純粋物質)10 μl、酵素−基質混合物(JNK−3/GST−ATF2) 10 μl、及びATP溶液10 μlを含んでいる。37 ℃で20分間インキュベートした後、HTRF抗体混合物(XL665−抗−GST/(Eu) クリプテート 抗−P−ATF2) 50 μlを添加した。665及び615nmにおけるそれぞれのエネルギー転移及びEuの放射強度を、室温で、120分後に、また、Victor2(R)(Wallac) 中340 nmにおけるプローブの励起で測定した。
【0051】
JNK3, GST-ATF2, ATP希釈用緩衝液I:
25 mM HEPES, pH 7.5
100 μM MgCl2
0.03% TRITON X 100
10 mM DTT
5% グリセロール
HTRF試薬希釈用緩衝液II:
100 mM HEPES, pH 7.0
100 mM KF
133 mM EDTA
1g/L BSA
その他の試薬:
JNK3 キナーゼ Biotech, Vitry 8 ng /穴
GST−ATF2 Biotech, Vitry 88 ng /穴
ATP溶液 Sigma, A7699 15 μM
抗−GST−XL665 CisBio 125 ng /穴
抗−P−ATF2−(Eu)クリプテート NEB/CisBio 6 ng /穴
各プレートは、16個の陽性対照(最大エネルギー転移、プローブの代わりに緩衝液I)8個のブランク対照(最小エネルギー転移、ATPの代わりに緩衝液II)及び200 μM ED
TA溶液を含んでいる8穴を含む。
【0052】
実験結果は、以下のように計算した:
シグナル配分比率:
SR = (強度(665nm) /強度(615nm))
ブランク補正:
デルタF (%) = (SR(プローブ)−SR(min)) / (SR(min)×100)
阻害:
阻害 (%) = 100×[1−(デルタF(プローブ) /デルタF(最大))]
スピノサルフェートA及びBに対する次のIC50値が測定された。
スピノサルフェートA:IC50 = 0.5 μM、
スピノサルフェートB:IC50 = 10 μM。
【0053】
実施例9:PPI検定
検定は、384−穴プレートフォーマト中で、シビオ ピペット システム(Cybio pipetting system)を用いて行なった。最終検定容量は、55μlであった。
【0054】
プレート被覆:
エリーザ高結合プレート(greiner)をスピノフィリン(10μg/ml)の30μlを各穴に添加して被覆した。低結合対照には、代わりとしてBSA(1%)の30μlを与えた。4℃で一晩インキュベートした後、プレートは、検定に用いる前にTBS洗浄用緩衝液(20mM TRIS/HCl, pH 7.5, 500 mM NaCl)で3回洗浄した。
【0055】
DELFIA(R)を用いた蛋白質−蛋白質相互作用の定量
TBS緩衝液(1.25μg/ml)で希釈したGST−pp1の50μlを被覆したプレートの各穴に添加した。適当に希釈した検定用標品(或いは、高対照及び低対照のTBS)の5μlを添加した後、プレートを室温で3時間インキュベートした。洗浄工程(80μl TBS/穴で3回)の後、Eu標識抗体(Eu−W 1024−抗−GST−抗体、0.5 % BSA補強デルフィア(Delfia)検定緩衝液中において0.1μg/mL)の30μlを各穴に添加した。更にインキュベートを続けて(室温で1時間)、そして洗浄した後(3×80μl TBS/穴)、エンハンサー溶液(Wallac) を各穴に添加した。続いて、TRFシグナルをビクターワラック(Victor Wallac)プレート読取器を用いて615 nmで読み取る前に、プレートを室温で30分間インキュベートした。
【0056】
実験結果を評価するため、データは、最初にブランク対照を用いて補正した。その後、標品の活性を、以下の方程式を用いて、高対照に関して計算した。
100× [1−(標品の615nmにおけるTRFシグナルの平均値)/(対照の615nmにおけるTRFシグナルの平均値)]
スピノサルフェートAに対するIC50値は34μMと決定され、そしてスピノサルフェートBに対するIC50値は10μMと決定された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立に、H又はSO3Hである)で表される化合物及び/又は生理学的に許容され得るそれらの塩及び/又は自明な化学的均等物。
【請求項2】
1及びR2がSO3Hである請求項1に記載の式(I)で表される化合物。
【請求項3】
1及びR2がHである請求項1に記載の式(I)で表される化合物。
【請求項4】
クリフォネクトリア パラシチカ(Cryphonectria parasitica) DSM 14453菌株又はその変異株もしくは突然変異株の1つの培養によって得られる、請求項1〜3のいずれかに記載の式(I)で表される化合物又はそれらの生理学的に許容され得る塩及び/又は自明な化学的均等物。
【請求項5】
式C35H54O12S2で表される化合物であって、更に1H−NMRデータ(δ単位ppm) 0.85, 0.88, 1.23, 1.23-1.32, 1.25, 1.31, 1.45, 1.50, 1.57, 1.59, 2.45, 2.55, 5.04, 6.12, 6.14, 6.72, 6.75, 9.75, 10.48 及び 13C NMR データ (δ単位 ppm) 13.74, 13.87, 18.07, 22.00, 24.82, 28.60, 28.80-28.99, 29.13, 30.81, 31.20, 31.33, 33.58, 34.41, 35.23, 35.76, 74.23, 100.38, 108.63, 109.02, 110.23, 114.85, 142.54, 144.32, 153.56, 159.71, 160.21, 169.25によって特徴付けられる化合物。
【請求項6】
式C35H54O6で表される化合物であって、更に1H−NMRデータ(δ単位 ppm) 0.84, 0.88,
1.25, 1.26, 1.33/1.29, 1.39/1.33, 1.45, 1.46, 1.56, 1.58, 2.34, 2.55, 5.05, 6.00, 6.12, 6.14 及び13C NMR データ (δ単位 ppm) 13.75, 13.87, 18.08, 22.02, 24.84, 28.91-28.62, 28.91-28.62, 29.19, 30.67, 31.22, 31.39, 33.59, 34.49, 35.25, 35.78, 74.19, 99.91, 100.39, 106.20, 108.75, 144.08, 144.43, 158.11, 159.89, 160.37, 169.31 によって特徴付けられる化合物。
【請求項7】
クリフォネクトリア パラシチカ(Cryphonectria parasitica)DSM 14453菌株又はその変異株もしくは突然変異株の1つを培養し、単離し、及び、場合によっては式(I)で表される化合物を精製し、及び、適当ならば生理学的に許容され得る塩及び/又は自明な化学的均等物へ変換することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の式(I)で表される化合物又はそれらの生理学的に許容され得る塩及び/又は自明な化学的均等物の製造方法。
【請求項8】
式(I)で表される化合物又はそれらの生理学的に許容され得る塩又は自明な化学的均等物のアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、卒中、精神病及び/又はうつ病の治療及び/又は予防のための医薬品製造のための使用。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載の式(I)で表される化合物又はそれらの生理学的に許容され得る塩又は自明な化学的均等物を少なくとも一つ、及び医薬品として許容され得る少なくとも一つの賦形剤を含む医薬品。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれかに記載の式(I)で表される化合物又はそれらの生理学的に許容され得る塩又は自明な化学的均等物の少なくとも一つを、医薬品として許容され得る少なくとも一つの賦形剤と共に適当な剤型に変換することを特徴とする、請求項9に記載の医薬品の製造方法。
【請求項11】
クリフォネクトリア パラシチカ(Cryphonectria parasitica) DSM 14453菌株。

【公表番号】特表2006−501285(P2006−501285A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−540640(P2004−540640)
【出願日】平成15年9月18日(2003.9.18)
【国際出願番号】PCT/EP2003/010372
【国際公開番号】WO2004/031123
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】