説明

ヒドロゲル化剤として有用なビオチン−アミノ酸複合体及びそれから製造されたヒドロゲル

【課題】水性媒質において優れたゲル化特性を示すゲル化剤;前記ゲル化剤を用いて製造されたヒドロゲル;及び前記ヒドロゲルを含む薬物送達システムを提供する。
【解決手段】薬物送達システムは、ビオチンのカルボキシル基とアミノ酸のα−アミノ基とがアミド結合で連結されたビオチン−アミノ酸複合体;前記ビオチン−アミノ酸複合体を水性媒質に溶解させて製造されたヒドロゲル;及び前記ヒドロゲル及びその中に組み込まれた薬物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性及び生体適合性を有するヒドロゲルを製造するに当ってヒドロゲル化剤として有用なビオチン−アミノ酸複合体、及びそれから製造された薬物送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルは動物細胞の成長など自然界に広く用いられているが、最近、薬物伝達(Okano, T., Biorelated Polymers and Gels, Academic Press, San Diego, 1998)とヒト組職工学、及び骨組みのような分野で、先端技術の応用のための先進物質として用いられている(Dagani, R., Chem. Eng. News 1997, 75, 26; Nishikawa, T. et al., J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 6110; and Osada, Y. and Gong, J. P., Adv. Mater. 1998, 10, 827)。
【0003】
最近は、単純な両親媒性物質(Menger, F. M. et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 1140)、両末端に親水性基を持つボラ型両親媒性体(Acharya, S. N. G., Chem. Mater. 1999, 11, 3504)、ジェミニ界面活性剤(Iwaura, R. et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2003, 42, 1009)及びその他ヒドロゲル化剤(Yang, Z. et al., Chem. Commun. 2004, 208; and Numata, K. M. et al., Chem. Commun. 2004, 1996)のような低分子量化合物からヒドロゲルを製造する際に超分子自己集合法が用いられている。超分子ヒドロゲルは、単量体単位が高分子纎維状に自己組織化する際に溶媒分子を不動化して形成される。薬物またはビタミンを直接用いてヒドロゲルを形成する類似方法を用いれば、「自己伝達」システムとして作用し得る新規のタイプの生体材料が得られることが提案されている(Xing, B. et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 14846)。
【0004】
一方、ビオチン(ビタミンH)は脂肪酸の合成及び脂肪酸と炭水化物の酸化を促進し、タンパク質、葉酸、パントテン酸及びビタミンB12の生体利用率を高めるので臨床的に重要である(Friedrich, W., Vitamins, Walter de Grueter & Co, Berlin, 1998)。しかし、ビオチンは水に対する溶解度が低く(1.0〜0.8mmol/L)、有機溶媒に溶解しないので、その生体利用率が低く、非常に制限された用途だけに用いられてきた。
【0005】
ビオチン系有機ゲルが報告されたことがあるが(Crisp, G. T. and Gore, J., Syn. Commun. 1997, 27, 2203)、これは生体に不適合であるので、薬物送達システムとして用いることができない。
【0006】
本発明者らは薬物伝達物質として有用なヒドロゲル化剤を開発するために研究を重ねた結果、低分子量ビオチン−アミノ酸複合体が生体適合性を有し、水性媒質において非常に優れたゲル化特性を示し、従ってそれから製造されたヒドロゲルが薬物送達システムとして有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【非特許文献1】Okano, T., Biorelated Polymers and Gels, Academic Press, San Diego, 1998
【非特許文献2】Dagani, R., Chem. Eng. News 1997, 75, 26
【非特許文献3】Nishikawa, T. et al., J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 6110
【非特許文献4】Osada, Y. and Gong, J. P., Adv. Mater. 1998, 10, 827
【非特許文献5】Menger, F. M. et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 1140
【非特許文献6】Acharya, S. N. G., Chem. Mater. 1999, 11, 3504
【非特許文献7】Iwaura, R. et al., Angew. Chem., Int. Ed. 2003, 42, 1009
【非特許文献8】Yang, Z. et al., Chem. Commun. 2004, 208
【非特許文献9】Numata, K. M. et al., Chem. Commun. 2004, 1996
【非特許文献10】Xing, B. et al., J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 14846
【非特許文献11】Friedrich, W., Vitamins, Walter de Grueter & Co, Berlin, 1998
【非特許文献12】Crisp, G. T. and Gore, J., Syn. Commun. 1997, 27, 2203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】

従って、本発明の目的は水性媒質において優れたゲル化特性を有するゲル化剤化合物及びその製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は前記ゲル化剤化合物を用いて製造されたヒドロゲルを提供することである。
【0009】
本発明のまた他の目的は前記ヒドロゲルを含む薬物送達システムを提供することである。
【0010】
本発明の目的を達成するために本発明の一態様によれば、ビオチンのカルボキシル基とアミノ酸のα−アミノ基とのアミド結合で連結されたビオチン−アミノ酸複合体が得られる。
【0011】
本発明の他の目的を達成するための本発明の態様によれば、本発明は前記ビオチン−アミノ酸複合体を水性媒質に溶解させることによってそのヒドロゲルを得ることができる。
【0012】
本発明のまた他の目的を達成するための本発明の他の態様によれば、本発明は前記ヒドロゲル及びその中に組み込まれた薬物を含む薬物送達システムを得ることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の望ましいビオチン−アミノ酸複合体は化1で表わすことができる。
【0014】
【化1】

【0015】
前記式中、RはC−Cアルキル、またはフェニル、メチル、メチルチオ、ヒドロキシフェニルまたはインドールで置換されたC−Cアルキルである。
【0016】
本発明によるビオチン−アミノ酸複合体の中で最も望ましい化合物は、前記化1でRがC−Cアルキルまたはフェニルメチルである化合物である。
【0017】
本発明のビオチン−アミノ酸複合体は、ビオチンそのもののように遊離カルボキシル基を持っており、アミノ酸残基の種類によって多様な疎水性を示す。また、ビオチン−アミノ酸複合体は受容体結合部位である不変のウレイド残基をそのまま保有しているので、アビジン、ストレプトアビジン、シクロデキストリン及びインスリンのような好適な受容体と受容体−リガンド相互作用体を形成することができる。
【0018】
本発明のビオチン−アミノ酸複合体は、下記化学式2に示したようにビオチンのカルボキシル基とアミノ酸のα−アミノ基との間に新しいアミド結合を形成させることによって製造することができる。
【0019】
【化2】

【0020】
試薬:(i)アミノ酸のメチルエステル、EDC、DMAP (ii)NaOH、MeOH
具体的に記述すれば、D−ビオチン、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド・HCl(EDC)及びN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)を適当な有機溶媒、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロロメタン、卜リクロロメタン及びテトラヒドロフランなどに溶解させ、これにアミノ酸のメチルエステルを添加した後、得られた混合物を2〜10時間、好ましくは4〜6時間反応させることによって中間体化合物を得る。この中間体化合物を有機溶媒と水との混合物、例えばメタノールと水の混合物中でNaOHで2〜10時間、好ましくは4〜6時間処理してビオチン−アミノ酸複合体を得る。前記製造工程での各反応は室温で行うことが望ましい。
【0021】
本発明のビオチン−アミノ酸複合体(ゲル化剤)は水、生理食塩水及び広範囲なpHを有する多様な緩衝液のような水性媒質に溶解してヒドロゲルを形成する。ヒドロゲルの安定性を決定する構造形態は、アミノ酸残基の測鎖の特性に応じて非常に多様に変化するが、本発明のヒドロゲルから形成されたキセロゲルは纎維状及び層状の二つの形で具現される。一般的に、アミノ酸残基上に線形長鎖アルキルを有するゲル化剤によって形成されるヒドロゲルはその纎維の直径が20〜50nmである纎維状構造を示す。一方、アミノ酸残基上に分岐鎖または短鎖アルキルを有するゲル化剤の作用に形成されたヒドロゲルはより厚い層状構造を示す。
【0022】
また、ゲル化剤のアミノ酸残基上の疎水性残基の特性は、ゲル化剤によって形成されたゲルの安定性及び透明度に大きい影響を及ぼす。即ち、線形長鎖アルキルを有するゲル化剤は水性媒質中で約6ヶ月間安定的に保持されるゲルを形成し、このゲルは半透明又は不透明である。一方、分岐鎖または短鎖アルキルを有するゲル化剤を用いて形成したヒドロゲルは比較的安定性が低く、不透明である。
【0023】
さらに、0.9%のNaCl溶液において測定された本発明のヒドロゲルの最小ゲル化濃度(minimum gelation concentration; MGC)値は蒸留水を用いて測定したものと同等であるので、本発明のビオチン−アミノ酸複合体は生体内適用のために用いることができる。
【0024】
本発明のビオチン−アミノ酸複合体を水性媒質に溶解させてヒドロゲルを形成させ、これに薬物を添加すれば、薬物が前記ヒドロゲル内に組み込まれた薬物送達システムを得ることができる。このように製造された薬物送達システムはヒドロゲルに組み込まれた薬物を徐々に放出するので、本発明のビオチン−アミノ酸複合体は薬物送達システムの製造のための生体材料として非常に有用である。
【0025】
一方、本発明のビオチン−アミノ酸複合体において、ビオチン残基のウレイド基は他のゲル化剤分子の末端カルボキシル基にと分子間水素結合を形成することによって自己組織化されたポリマー鎖として作用してヒドロゲルを形成する。リガンド−受容体相互作用によって、アビジン、ストレプトアビジン、シクロデキストリン及びインスリンのようなビオチンの受容体がビオチンのウレイド基に特異的に結合すれば、ビオチン系ゲル化剤のファイバーネットワークが破壊されて薬物の放出が速くなる。従って、薬物放出速度をビオチン受容体の含量によって調節することができるように薬物送達システムを製造する際、ビオチン−アミノ酸複合体のヒドロゲルを含む媒質にビオチン受容体を添加することが有利である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によるビオチン−アミノ酸複合体は低分子化合物であって、生体適合性を有し、水性媒質において非常に優れたゲル化特性を示すので、それから製造されたヒドロゲルは薬物送達システムとして非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、下記実施例により本発明をさらに詳細に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【0028】
また、固体混合物中の固体、液体中の液体、及び液体中の固体に対する下記百分率はそれぞれ重量/重量、体積/体積及び重量/体積を基準としたものであり、すべての反応は特に言及されない限り室温で行われた。
(参照例)
【0029】
(材料及び機器分析)
下記実施例に用いられたすべての化学物質はアルドリッチ社製(Aldrich Chemical Company)であって、追加精製なしで用いた。各反応は不活性脱水アルゴンの雰囲気下において、真空中で加熱乾燥させたガラス容器を用いて行った。フラッシュクロマトグラフィーはシリカゲル60(230−400メッシュ;ASTM)を用いて実施した。融点はエレクトロサマル(Electrothermal)社製の1A 9000シリーズ機器を用いて測定した。FT−IRスペクトルはブルカー(Brucker)社製のモデルFT−IR PS55スペクトロメーター上に記録された。低解像度のFAB質量スペクトルはJEOL JMS−AX505WA(FAB)スペクトロメーターを用いて得た。H及び13C NMRスペクトルはブルッカアスペクト300 NMRスペクトロメーターを用いて得た。化学シフトは内部標準物質であるテトラメチルシラン(TMS)を基準にしてダウンフィールドへシフトされるppm単位で記録し、結合定数はヘルツ(Hz)単位で表示した。スペクトルの分裂パターンは、s(シングレット;singlet);d(タブレット;doublet);dd(二重タブレット;double doublet);dt(変形トリプレット;distorted triplet);t(トリプレット;triplet);m(マルチプレット;multiplet)及びbr(ブロード;broad)で示した。SEMイメージはフィリップス(Philips)社製のXL30S FEG SEM分析機を用いて得た。
【実施例】
【0030】
(ビオチン−アミノ酸複合体ヒドロゲル化剤の合成)
【0031】
【化3】

(実施例1)
【0032】
(N−ビオチニル−L−フェニルアラニン(ゲル化剤1)の製造)
(ステップ1)
D−ビオチン(244mg、0.1mmol)、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド・HCl(EDC;192mg、0.1mmol)及びN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP;122mg、0.1mmol)を無水ジメチルホルムアミド(DMF;25ml)に溶解させ、アルゴンガス注入口付きの2口(two−neck)丸底フラスコに入れた。L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩(115mg、0.1mmol)を加え、混合物を4時間攪拌した。反応が終わると、混合物を水に注いでCHClで抽出した。得られた産物を分離し、カラムクロマトグラフィー(SiO;CHCl/MeOH、10:1)で精製して309mgの化合物1aを得た(収率:76%)。
【0033】
(ステップ2)
化合物1a(202mg、0.5mmol)を25mlの丸底フラスコに入れ、ここに蒸留水(4ml)及びMeOH(8ml)を添加した。NaOH(60mg、3当量)をフラスコに加え、混合物を室温で4時間攪拌した。反応が終わった後、薄い硫酸を用いて混合物をpH2〜3に酸性化した。加水分解されて沈澱された産物を濾過し、空中乾燥させた後、アセトン及びCHClで数回洗滌した。産物をカラムクロマトグラフィー(SiO;トルエン/MeOH/アセトン/AcOH、14:4:1:1)で分離した後、凍結乾燥してゲル化剤化合物1(195mg)を得た。
【0034】
融点:205℃。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 8.12 (d, J = 7.9 Hz, 1H; NH), 7.30-7.20 (m, 5H; Ar-H), 6.41 (s, 1H; N3H), 6.10 (s, 1H; N1H), 4.43 (dt, J1 = 7.1 Hz, J2 = 3.5 Hz, 1H, CH), 4.31 (dd, J1 = 7.1 Hz, J2 = 5.0 Hz, 1H; CH), 4.12 (dd, J1 = 6.3 Hz, J2 = 4.4 Hz, 1H; CH), 3.07 (dd, J1 = 8.8 Hz, J2 = 4.9 Hz, 1H; CH), 2.87 (d, J = 5.1 Hz, 2H; CH2), 2.80 (dd, J = 4.8 Hz, Jgem = 12.0 Hz, 1H; CH2), 2.56 (d, Jgem = 12.0 Hz, 1H; CH2), 2.05 (t, J = 6.9 Hz, 2H; CH2), 1.44-1.40 (br, 4H; CH2), 1.26-1.19 (m, 2H; CH2)。
【0035】
13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6): 173.35, 172.16, 162.79, 137.82, 129.11, 128.19, 126.41, 61.04, 59.22, 55.49, 53.33, 38.95, 38.67, 36.78, 34.86, 28.01, 25.24.
MS (FAB): m/z 392 [M + H]+
【0036】
1925Sに対する元素分析−計算値:C, 58.28; H, 6.44; N, 10.73; S, 8.19。 測定値: C, 57.89; H, 6.43; N, 10.70; S, 8.13。
(実施例2)
【0037】
(N−ビオチニル−L−ロイシン(ゲル化剤2)の製造)
L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩の代りにL−ロイシンメチルエステル塩酸塩(182mg、0.1mmol)を用いることを除いては実施例1の段階1と同様にして化合物2a(309mg、収率:81%)を得た。また、化合物2a(186mg)を用いて実施例1の段階2と同様な手順でゲル化剤化合物2(178mg)を得た。
【0038】
融点:209〜210℃。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 8.03 (d, J = 7.56 Hz.1H; NH), 6.43 (s, 1H; N3H), 6.38 (s, 1H; N1H), 4.31 (dt, J1 = 6.5 Hz, J2 = 5.0 Hz, 1H; CH), 4.29 (dd, J1 = 8.4 Hz, J2 = 4.8 Hz, 1H; CH), 4.13 (dd, J1 = 5.6 Hz, J2 = 4.3 Hz, 1H; CH), 3.08 (dt, J1 = 7.2 Hz, J2 = 5.0 Hz, 1H; CH), 2.84 (dd, J = 4.2 Hz, Jgem = 12.9 Hz, 1H; CH2), 2.62 (d, Jgem= 12.9 Hz, 1H; CH2), 2.12 (t, J = 6.0 Hz, 2H; CH2), 1.66-1.48 (br, 6H; CH2), 1.35 (m, 2H; CH2), 1.12 (m, 1H; CH), 0.88 (d, J = 3.4 Hz, 6H; CH3)。
【0039】
13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6): 173.91, 171.82, 162.36, 60.71, 58.89, 55.07, 49.71, 40.06, 38.39, 34.46, 27.68, 27.63, 24.88, 24.00, 22.50, 20.92。MS (FAB): m/z 358 [M + H]+
【0040】
1627Sに対する元素分析−計算値:C, 53.76; H, 7.61; N, 11.73; S, 8.97。測定値: C, 53.56; H, 7.77; N, 11.55; S, 8.87。
(実施例3)
【0041】
(N−ビオチニル−L−メチオニン(ゲル化剤3)の製造)
L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩の代りにL−メチオニンメチルエステル塩酸塩(200mg、0.1mmol)を用いることを除いては実施例1の段階1と同様にして化合物3a(300mg、収率:72%)を得た。また、化合物3a(195mg)を用いて実施例1の段階2と同様な手順でゲル化剤化合物3(188mg)を得た。
【0042】
融点:207℃。H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 8.11 (d, J = 7.8 Hz, 1H; NH), 6.43 (s, 1H; N3H), 6.34 (s, 1H; N1H), 4.31 (dt, J1 = 7.5 Hz, J2 = 4.5 Hz, 1H; CH), 4.23 (dd, J1 = 7.1 Hz, J2 = 4.2 Hz, 1H; CH), 4.12 (dd, J1 = 6.9 Hz, J2 = 4.3 Hz, 1H; CH), 3.06 (dt, J1 = 7.2 Hz, J2 = 4.4 Hz, 1H; CH), 2.79 (dd, J = 4.5 Hz, Jgem = 13.5 Hz, 1H; CH2), 2.50 (d, Jgem = 13.5 Hz, 1H; CH2), 2.45 (t, J = 6.8 Hz, 2H; CH2), 2.13 (t, J = 6.0 Hz, 2H; CH2), 2.09 (s, 3H; CH3), 1.88-1.76 (m, 2H; CH2), 1.50-1.48 (br, 4H; CH2), 1.32 (m, 2H; CH2)。
【0043】
13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6): 173.51, 172.34, 162.79, 61.00, 59.10, 55.42, 50.77, 40.28, 34.75, 30.51, 29.72, 28.93, 27.9, 25.71, 14.57。MS (FAB): m/z 376 [M + H]+
【0044】
1525に対する元素分析−計算値:C, 47.98; H, 6.71; N, 11.19; S, 17.08。測定値: C, 47.77; H, 6.55; N, 10.97; S, 17.12。
(実施例4)
【0045】
(N−ビオチニル−L−イソロイシン(ゲル化剤4)の製造)
L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩の代りにL−イソロイシンメチルエステル塩酸塩(182mg、0.1mmol)を用いることを除いては実施例1の段階1と同様にして化合物4a(246mg、収率:66%)を得た。また、化合物4a(186mg)を用いて実施例1の段階2と同様な手順でゲル化剤化合物4(178mg)を得た。
【0046】
融点:230〜233℃。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 7.95 (d, J = 8.5 Hz, 1H; NH), 6.40 (s, 1H; N3H), 6.34 (s, 1H; N1H), 4.27 (dt, J1 = 7.2 Hz, J2 = 5.2 Hz, 1H; CH), 4.14 (dd, J1 = 7.2 Hz, J2 = 4.1 Hz, 1H; CH), 4.07 (dd, J1 = 7.8 Hz, J2 = 5.6 Hz, 1H; CH), 3.03 (dt, J1 = 6.3 Hz, J2 = 4.3 Hz, 1H; CH), 2.75 (dd, J = 6.0 Hz, Jgem = 13.2 Hz, 1H; CH2), 2.50 (d, Jgem = 13.2 Hz, 1H; CH2), 2.12 (t, J = 6.0 Hz, 2H; CH2), 1.52-1.48 (m, 1H; CH), 1.44-1.35 (br, 4H; CH2), 1.17-1.12 (m, 2H; CH2), 0.80-0.76 (m, 6H; CH3)。
【0047】
13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6): 172.77, 171.81, 162.21, 60.52, 58.66, 55.58, 38.10, 35.56, 34.16, 27.59, 27.47, 24.83, 24.18, 15.01, 10.71。
MS (FAB): m/z 358 [M + H]+
【0048】
1627Sに対する元素分析−計算値:C, 53.76; H, 7.61; N, 11.73; S, 8.97。測定値: C, 53.62; H, 7.57; N, 11.59; S, 8.95。
(実施例5)
【0049】
(N−ビオチニル−L−バリン(ゲル化剤5)の製造)
L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩の代りにL−バリンメチルエステル塩酸塩(167mg、0.1mmol)を用い、カラムクロマトグラフィーの溶離液としてCHl2/MeOH(9:1)の混合物を用いることを除いては実施例1の段階1と同様にして化合物5a(165mg、収率:50%)を得た。また、化合物5a(179mg)を用いて実施例1の段階2と同様な手順でゲル化剤化合物5(156mg、収率91%)を得た。
【0050】
融点:215〜216℃。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 7.80 (d, J = 8.7 Hz, 1H; NH), 6.36 (s, 1H; N3H), 6.30 (s, 1H; N1H), 4.27 (dd, J1 = 7.2 Hz, J2 = 4.9 Hz, 1H; CH), 4.13 (dd, J1 = 5.8 Hz, J2 = 3.2 Hz, 1H; CH), 4.00 (dd, J1 = 6.0 Hz, J2 = 3.2 Hz, 1H; CH), 3.00 (dt, J1 = 6.4 Hz, J2 = 4.4 Hz, 1H; CH), 2.75 (dd, J = 3.5 Hz, J = 13.2 Hz, 1H; CH2), 2.45 (d, J = 13.2 Hz, 1H; CH2), 2.09 (t, J = 6.0 Hz, 2H; CH2), 1.92 (m, 1H; CH), 1.53-1.41 (br, 4H; CH2), 1.23-1.20 (m, 2H; CH2), 0.78 (d, J = 6.7 Hz, 6H; CH3)。
【0051】
13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6): 172.50, 171.67, 161.96, 60.26, 58.40, 56.24, 54.67, 37.84, 33.91, 28.94, 27.35, 27.22, 24.59, 18.41, 17.29。MS (FAB): m/z 343.94 [M + H]+
【0052】
1627Sに対する元素分析−計算値:C, 52.46; H, 7.34; N, 12.23; S, 9.04。測定値: C, 52.37; H, 7.46; N, 11.92; S, 8.79。
(実施例6)
【0053】
(N−ビオチニル−L−チロシン(ゲル化剤6)の製造)
L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩の代りにL−チロシンメチルエステル塩酸塩(231mg、0.1mmol)を用いることを除いては実施例1の段階1と同様にして化合物6a(212mg、収率:50%)を得た。また、化合物6a(210mg)を用い、カラムクロマトグラフィーの溶離液としてCHCl/MeOH/アセトン/AcOH(14:4:1:1)の混合物を用いることを除いては実施例1の段階2と同様な手順でゲル化剤化合物6(177mg、収率:87%)を得た。
【0054】
融点:259〜260℃。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 9.22 (s, 1H; ArOH), 8.09 (d, J = 8.1 Hz, 1H; NH), 7.00 (d, J = 8.1, 2H; ArH), 6.60 (d, J = 8.0 Hz, 2H; ArH), 6.44 (s, 1H; N3H), 6.40 (s, 1H; N1H), 4.32 (dt, J1 = 6.5 Hz, J2 = 4.1 Hz, 1H; CH), 4.28 (dd, J = 7.2 Hz, J2 = 4.8 Hz, 1H; CH), 4.11 (dd, J1 = 7.0 Hz, J2 = 5.1 Hz, 1H; CH), 3.04 (dt, J1 = 6.6 Hz, J2 = 4.1 Hz, 1H; CH), 2.92 (d, J = 7.0 Hz, 2H; CH2), 2.75 (dd, J = 6.0 Hz, Jgem = 12.3 Hz, 1H; CH2), 2.59 (d, Jgem = 12.3 Hz, 1H; CH2), 2.08 (t, J = 6.3 Hz, 2H; CH2), 1.54-1.40 (br, 4H; CH2), 1.22-1.20 (m, 2H; CH2)。
【0055】
13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6): 173.29, 172.07, 162.70, 155.83, 129.93, 127.74, 114.93, 61.01, 59.22, 55.37, 53.58, 40.39, 36.04, 34.86, 27.95, 25.14。MS (FAB): m/z 407.99 [M + H]+
【0056】
1925Sに対する元素分析−計算値:C, 56.00; H, 6.18; N, 10.31; S, 7.87。測定値: C, 55.85; H, 6.00; N, 10.42; S, 7.87。
(実施例7)
【0057】
(N−ビオチニル−L−トリプトファン(ゲル化剤7)の製造)
L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩の代りにL−トリプトファンメチルエステル塩酸塩(254mg、0.1mmol)を用い、反応時間を6時間に増加させ、カラムクロマトグラフィーの溶離液としてCHCl/MeOH(12:1)の混合物を用いることを除いては実施例1の段階1と同様な手順で化合物7a(365mg、収率:82%)を得た。また、化合物7a(222mg、0.05mmol)を用いて実施例1の段階2と同様な手順でゲル化剤化合物7(215mg)を得た。
【0058】
融点:160〜161℃。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 8.14 (d, J = 7.8 Hz, 1H; NH), 7.55 (d, J = 6.9 Hz, 1H; NH), 7.37 (d, J = 8.1 Hz, 1H; ArH), 7.10-6.90 (m, 4H; ArH), 6.45 (s, 1H; N3H), 6.40 (s, 1H; N1H), 4.50 (dt, J1 = 6.5 Hz, J2 = 4.8 Hz, 1H; CH), 4.30 (dd, J1 = 7.1 Hz, J2 = 5.2 Hz, 1H; CH), 4.16 (dd, J1 = 6.8 Hz, J2 = 3.1 Hz, 1H; CH), 3.15 (dt, J1 = 7.5 Hz, J2 = 4.9 Hz, 1H; CH), 3.01 (d, J = 6.4 Hz, 2H; CH2), 2.80 (dd, J = 4.5 Hz, Jgem = 12.6 Hz, 1H; CH2) 2.59 (d, Jgem = 12.6 Hz, 1H; CH2), 2.07 (t, J = 6.0 Hz, 2H; CH2), 1.45-1.42 (m, 4H; CH2), 1.25-1.22 (m, 2H; CH2)。
【0059】
13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6): 173.98, 172.45, 163.07, 136.38, 127.50, 121.22, 118.66, 111.67, 110.32, 61.2, 59.49, 55.27, 53.11, 40.61, 35.51, 28.28, 27.45, 25.45。MS (FAB): m/z 431.02 [M + H]+
(実施例8)
【0060】
(N−ビオチニル−L−ノルバリン(ゲル化剤8)の製造)
L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩の代りにL−ノルバリンメチルエステル塩酸塩(167mg、0.1mmol)を用い、反応時間を6時間に増加させ、カラムクロマトグラフィーの溶離液としてCHCl/MeOH(9:1)の混合物を用いることを除いては実施例1の段階1と同様な手順で化合物8a(165mg、収率:50%)を得た。また、化合物8a(179mg)を用いて実施例1の段階2と同様な手順でゲル化剤化合物8(151mg、収率:88%)を得た。
【0061】
融点:255℃。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 8.00 (d, J = 7.9 Hz, 1H; NH), 6.39 (s, 1H; N3H), 6.34 (s, 1H; N1H), 4.28 (dt, J1 = 6.5 Hz, J2 = 4.8 Hz, 1H; CH), 4.13 (dd, J1 = 7.1 Hz, J2 = 5.5 Hz, 1H; CH), 4.06 (dd, J1 = 6.8 Hz, J2 = 3.1 Hz, 1H; CH), 3.04 (dt, J1 = 7.5 Hz, J2 = 4.9 Hz, 1H; CH), 2.79 (dd, J = 4.8 Hz, Jgem = 13.2 Hz, 1H; CH2), 2.54 (d, Jgem = 13.2 Hz, 1H; CH2), 2.07 (t, J = 7.1 Hz, 2H; CH2), 1.60-1.45 (br, 6H; CH2), 1.30-1.24 (m, 4H; CH2), 0.93 (t, J = 7.2 Hz, 3H; CH3)。
【0062】
13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6): 174.34, 172.52, 163.07, 61.32, 59.48, 55.75, 51.67, 38.98, 35.07, 33.34, 28.32, 28.28, 25.58, 19.00, 13.78。
MS (FAB): m/z 343.99 [M + H]+
【0063】
1627Sに対する元素分析−計算値:C, 52.46; H, 7.34; N, 12.23; S, 9.34。測定値: C, 52.37; H, 7.46; N, 11.99; S, 9.19。
(実施例9)
【0064】
(N−ビオチニル−L−ノルロイシン(ゲル化剤9)の製造)
L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩の代りにL−ノルロイシンメチルエステル塩酸塩(182mg、0.1mmol)を用いることを除いては実施例1の段階1と同様にして化合物9a(265mg、収率:70%)を得た。また、化合物9a(186mg)を用いて実施例1の段階2と同様な手順でゲル化剤化合物9(178mg)を得た。
【0065】
融点:172℃。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 7.98 (d, J = 7.8 Hz, 1H; NH), 6.39 (s, 1H; N3H), 6.33 (s, 1H; N1H), 4.28 (dt, J1 = 7.5 Hz, J2 = 5.1 Hz, 1H; CH), 4.14 (dd, J1 = 6.1 Hz, J2 = 3.7 Hz, 1H; CH), 4.06 (dd, J1 = 7.2 Hz, J2 = 4.8 Hz, 1H; CH), 3.08 (dt, J1 = 5.7 Hz, J2 = 4.5 Hz, 1H; CH), 2.80 (dd, J = 5.1 Hz, Jgem = 12.9 Hz, 1H; CH2), 2.54 (d, Jgem = 12.9 Hz, 1H; CH2), 2.10 (t, J = 6.0 Hz, 2H; CH2), 1.62-1.52 (br, 6H; CH2), 1.80 (m, 4H; CH2), 1.25 (m, 2H; CH2), 0.80 (t, J = 6.7 Hz, 3H; CH3)。
【0066】
13C NMR (75.5 MHz, DMSO-d6): 174.02, 172.27, 162.79, 61.09, 59.24, 55.52, 51.67, 40.37, 34.78, 30.75, 28.13, 27.65, 25.31, 21.77, 13.85。MS (FAB): m/z 358 [M + H]+
【0067】
1627Sに対する元素分析−計算値:C, 53.76; H, 7.61; N, 11.73; S, 8.97。測定値: C, 53.32; H, 7.57; N, 11.60; S, 8.95。
(実施例10)
【0068】
(N−ビオチニル−D,L−2−アミノエナント酸(ゲル化剤10)の製造)
L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩の代りにD,L−2−アミノエナント酸メチルエステル塩酸塩(197mg、0.1mmol)を用い、反応時間を6時間に増加させることを除いては実施例1の段階1と同様にして化合物10a(289mg、収率:75%)を得た。また、化合物10a(198mg)を用いて実施例1の段階2と同様な手順でゲル化剤化合物10(194mg)を得た。
【0069】
融点:195℃。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 7.98 (d, J = 7.6 Hz, 1H; NH), 6.34 (s, 1H; N3H), 6.30 (s, 1H; N1H), 4.24 (dt, J1 = 6.7 Hz, J2 = 5.0 Hz, 1H; CH), 4.06 (dd, J1 = 7.5 Hz, J2 = 5.2 Hz, 1H; CH), 4.01 (dd, J1 = 6.8 Hz, J2 = 4.9 Hz, 1H; CH), 3.01 (dt, J1 = 6.9 Hz, J2 = 5.1 Hz, 1H; CH), 2.76 (dd, J = 4.8 Hz, Jgem = 12.6 Hz, 1H; CH2), 2.47 (d, Jgem = 12.9 Hz, 1H; CH2), 2.05 (t, J = 6.5 Hz, 2H; CH2), 1.57-1.40 (m, 6H; CH2), 1.19-1.17 (br, 8H; CH2), 0.78 (t, J = 6.3 Hz, 3H; CH3)。
【0070】
13C NMR (75 MHz, DMSO-d6): 174.84, 173.10, 163.05, 61.36, 60.05, 56.34, 52.49, 41.18, 35.70, 31.82, 29.03, 28.92, 28.87, 26.16, 25.94, 22.82, 14.77。MS (FAB): m/z 372 [M + H]+
【0071】
1729Sに対する元素分析−計算値:C, 54.94; H, 7.87; N, 11.31; S, 8.63。測定値: C, 54.72; H, 7.57; N, 11.40; S, 8.75。
(実施例11)
【0072】
(N−ビオチニル−D,L−2−アミノカプリル酸(ゲル化剤11)の製造)
L−フェニルアラニンメチルエステル塩酸塩の代りにD,L−2−アミノカプリル酸メチルエステル塩酸塩(209mg、0.1mmol)を用い、反応時間を6時間に増加させることを除いては実施例1の段階1と同様にして化合物11a(288mg、収率:72.1%)を得た。また、化合物11a(200mg)を用いて実施例1の段階2と同様な手順でゲル化剤化合物11(192mg)を得た。
【0073】
融点:198.5℃。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): 8.12 (d, J = 7.5 Hz, 1H; NH), 6.39 (s, 1H; N3H), 6.31 (s, 1H; N1H), 4.27 (dt, J1 = 6.5 Hz, J2 = 5.4 Hz, 1H; CH), 4.09 (dd, J1 = 7.2 Hz, J2 = 4.6 Hz, 1H; CH), 4.00 (dd, J1 = 6.4 Hz, J2 = 3.5 Hz, 1H; CH), 3.06 (dt, J1 = 7.8 Hz, J2 = 5.0 Hz, 1H; CH), 2.80 (dd, J = 5.8 Hz, Jgem = 12.6 Hz, 1H; CH2), 2.54 (d, Jgem = 12.6 Hz, 1H; CH2), 2.06 (t, J = 6.0 Hz, 2H; CH2), 1.62-1.42 (m, 6H; CH2), 1.29-1.18 (br, 10H; CH2), 0.80 (t, J = 5.4 Hz, 3H; CH3)。
【0074】
13C NMR (75 MHz, DMSO-d6): 174.29, 172.55, 163.05, 61.36, 59.51, 55.80, 51.94, 4.63, 36.53, 31.43, 31.31, 28.54, 28.49, 25.68, 25.62, 22.35, 14.27。MS (FAB): m/z 386 [M + H]+
【0075】
1831Sに対する元素分析−計算値:C, 56.08; H, 8.10; N, 10.90; S, 8.32。 測定値: C, 56.32; H, 7.97; N, 11.04; S, 8.45。
(試験例1)
【0076】
(ゲル化剤のゲル化能)
ゲル化剤1〜11のゲル化能を測定するために、「容器反転に対する安定性」測定法(Menger, F. M. and Caran, K. L., J. Am. Chem. Soc. 2000, 122, 11679)に従って多様な水性媒質でのゲル化程度を下記のように測定した。
【0077】
即ち、密閉されたガラス管(内径5mm)に0.002〜0.04gの各ゲル化剤及び1mlの水性媒質(蒸留水、0.9%のNaCl水溶液、0.01Mの塩酸緩衝液(pH2.0)、0.05Mのフタル酸エステル緩衝液(pH4.0)、0.08MのMOPSO緩衝液(pH7.0)または0.025Mの四ホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.0))を加え、これらの混合物を100℃で溶液になるまで加熱した。その後、ガラス管を室温で5〜10分間放置した。肉眼での観察結果、相分離が起こらず、ガラス管を逆にした後も、流動しない場合にはゲルが形成されたと判断した。
【0078】
また、各ゲル化剤化合物がヒドロゲルを形成するゲル化剤の最小濃度である最小ゲル化濃度(minimum gelation concentration(MGC)、重量%)を決定してその結果を下記表1に示した。
【0079】
【表1】

【0080】
前記表1から明らかなように、ゲル化剤9が最も優れたゲル化能を示したが、そのMGCは蒸留水中で0.3%(8mM)であって、これはゲル化剤9の一分子が6,700個の水分子を不動化することができることを意味する。pH2の酸性緩衝液中でゲル化剤のMGC値は蒸留水での値より低く、緩衝液のpHに比例して増加した。
【0081】
線形長鎖アルキルを有するゲル化剤(ゲル化剤9〜11)は分岐アミノ酸が結合されたゲル化剤(ゲル化剤2、4及び5)及びバルキーなアミノ酸が結合されたゲル化剤(ゲル化剤1)に比べて低いMGC値を有した。
【0082】
β−分岐アミノ酸ゲル化剤(ゲル化剤4及び5)と短鎖アルキルゲル化剤(ゲル化剤8)はただ約1週間の間安定的に保持できる不透明ゲルを形成した。これに対し、ゲル化剤1、2及び9〜11は各媒質で約6ヶ月間保持できる非常に安定したゲルを形成し、このゲルは半透明又は不透明であった。0.9%のNaCl溶液でのMGC値は蒸留水で測定されたものと同じであって、これは本発明のゲル化剤化合物が生体内の適用のために用いられることができることを示唆する。
(試験例2)
【0083】
(ゲル化剤によって形成されたヒドロゲルの構造形態)
前記実施例で製造されたゲル化剤によって形成されたヒドロゲルの構造形態を次のように走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。
【0084】
まず、各ゲル化剤1〜11を表1に記載されたMGCを満足させるように0.003〜0.02g範囲の量で1mlの蒸留水に加え、この混合物を100℃で加熱してヒドロゲルを形成した。ヒドロゲルを−78℃に冷凍させてから6時間凍結乾燥してキセロゲルを製造した。得られたゲル化剤1〜11のキセロゲルを多様な倍率のSEMで観察して得られたSEMイメージを図1に示した。
【0085】
図1から明らかなように、前記キセロゲルは纎維状及び層状の二つのタイプであった。ゲル化剤1、2及び9〜11によって形成されたヒドロゲルは、纎維の直径が20〜50nmである纎維状構造を示し、一方、ゲル化剤4、5及び8によって形成されたヒドロゲルは、非常に厚い層状構造を示した。纎維状構造を有するヒドロゲルは半透明であるかまたは不透明であるのに対し、層状構造を有するヒドロゲルは全て不透明であり安定性が低かった。
(試験例3)
【0086】
(ゲル化剤の自己組織化のメカニズム)
ゲル化剤の自己組織化を引き起こす推進力を解明するため、参照例に記載された方法によってゲル化剤のFT−IR及びH NMRスペクトルを得て、MOPAC6モデリングによって水素結合相互作用を調査した。
(1)FT−IR
図2に示したゲル化剤5、9及び11のFT−IRスペクトルにおいて、各アミノ酸単位のカルボン酸残基のカルボニル伸縮バンドが非晶質固体状での位置(1705cm−1)に比べてゲル状では1699cm−1まで顕著にシフトされていた。このようなスペクトル変化はカルボキシル基による水素結合相互作用がゲル化の推進力中の一つであることを意味する。しかし、ゲル状態におけるアミド基のC=O伸縮振動数が非晶質固体状(1645〜1650cm−1)に比べてほとんど変わらないという事実はアミド基が自己組織化にほとんど寄与しないことを意味する。
(2)H NMR
Oの含量を0〜50%に変化させたDMSO−dとHOとの混合液にゲル化剤1、2、4、5及び8〜11をそれぞれ5mg/mlの濃度で溶解させた後、H−NMR分光法によってウレイド及びアミド残基のプロトンシフト変化を調査した。
【0087】
図3から明らかなように、HOの含量が40%まで増加するにつれアミドプロトンがダウンフィールドへシフトしているが、HOの含量が40%以上になるとアップフィールドへシフトした。このような結果は水素結合の性質が、例えば(CDSO・・・H−NからHO・・・H−Nに変化したことを意味する(Suzuki, M. et al., Helv. Chim. Acta. 2003, 86, 2228; and Kogigo, M. et al., Chem. Eur. J. 2003, 9, 348)。また、40%以上のHO濃度でアミドNHシグナルがアップフィールドにシフトしたことはゲル化剤分子間の水素結合が生じたことを意味する(Suzuki, M. et al., 同上文献; Kogigo, M. et al., 同上文献; Billiot, F. H. et al., Langmuir 2002, 18, 2993; 及び Rabenstein, D. L., J. Am. Chem. Soc. 1973, 95, 2797)。アミド残基は一般的に20〜30%のHO濃度で分子間水素結合を形成し始めると報告されている(Suzuki, M. et al., 同上文献)。しかし、本実施例では40%以上のHO濃度で分子間水素結合を形成し始めた。このような事実はアミド残基の分子間水素結合の程度が予想より著しく低いということを意味し、これは前記FT−IRスペクトル観察結果と一致する。興味深いことに、ただ10%のHO濃度でウレイドプロトンの共鳴がアップフィールドにシフトし始めたということである。このような傾向はビオチン自体に対して観察したものと正確に一致しており、これはウレイド残基がこのような低いHO濃度で分子間水素結合を形成し、これによりヒドロゲル化が発生するということを意味する。ビオチンの結晶構造でカルボキシル基がウレイド残基と水素結合を形成するので(DeTitta, G. T. et al., J. Am. Chem. Soc. 1976, 98, 1920)、ウレイドプロトンの化学的シフトでのアップフィールド変化は主にカルボキシル基間の水素結合によることが分かる。
(3)水素結合相互作用
MOPAC6ソフトウェア(http://www.ccl.netから入手)及びAM1ハミルトニアンを利用してMMOK(CONH−タイプの結合に対する分子力学補正)を考慮したゲル化剤5の二量体内でゲル化剤分子間の水素結合相互作用を調査した(図4)。
【0088】
その結果、最低の生成熱を伴なう最も有効な水素結合が二量体錯体のウレイドとカルボキシル基との間で起こることを見出した。このような事実に基づいて、ビオチン系ヒドロゲル化剤においてはビオチン残基のウレイド基が他のゲル化剤分子の末端カルボキシル基と分子間水素結合を形成することによって自己組織化したポリマー鎖を形成することを予測することができる。このような水素結合の以外に疎水性相互作用及びファンデルワールス力はゲル化工程だけでなく、ゲル状での構造挙動の決定に重要な役割をする。
(試験例4)
【0089】
(ヒドロゲルにおけるリガンド−受容体相互作用の影響)
ゲル状のヒドロゲルにおけるリガンド−受容体相互作用の影響を下記のように調査した。
【0090】
0.002gのゲル化剤9を1mlの蒸留水に加え、100℃に加熱してヒドロゲルを形成した。これに0.002当量のストレプトアビジンを加え、1時間後に生成したゲルのSEMイメージを観察した。
【0091】
図5のSEMイメージ(a:ストレプトアビジンの添加前;b:ストレプトアビジンの添加後)から明らかなように、ストレプトアビジンの添加によってゲル状が破壊され、この試料のゲル纎維における多くの割れ目が観察された。このような結果はストレプトアビジン分子がリガンド−受容体に作用してビオチンのウレイド基に特異的に結合することによってゲル化剤のファイバーネットワークを破壊するということを意味する。
(試験例5)
【0092】
ビオチン系ヒドロゲルによる薬物伝達
1mlの50μMのジドブジン(Zidovudine; AZT)溶液または水(コントロール)にゲル化剤9を0.3重量%加えて得られた混合物を100℃に加熱してゲルを形成させた後、1mlの水に浸した。所定時間後、ゲルから溶液と水を除去し、コントロール溶液を対照として用いてAZT−含有溶液のUV/VIS吸光度を266nm(AZTのλmax)で記録した。続いて、前記取り除いた溶液及び水を再びゲルに加えた。このようなサイクルを9時間行うことによってゲルから放出されて水に溶解されたAZTの量を経時的に定量した。
【0093】
図6Aに示したように、9時間後18%のAZTだけがゲル相から水相に放出され、ゲル自体に対しては実質的にUV/VIS吸光が観察されなかった。
【0094】
また、ヒドロゲルからのAZTの放出に対するストレプトアビジンの影響を調べるために、AZT溶液に形成されたゲルが浸漬された水に0.002当量のストレプトアビジンを添加することを除いては前記と同様の実験を繰り返した。各測定時点でAZTの放出量が約1〜7%ずつ増加することが観察された(図6A)。このような結果から本発明のビオチン系ヒドロゲルからの薬物放出をストレプトアビジンを用いて調節することができることが分かる。
【0095】
一方、AZTが組み込まれる前後のゲルの外観を観察した結果、AZTが組み込まれることによって均一なゲルから不均一なゲルに変化することがわかる。AZTが組み込まれる前後のゲルのSEMイメージは内部構造の変化を示す(図6B)。
【0096】
以上、本発明を実施例により説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更及び修正可能である。
【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明したように、本発明は、熱安定性及び生体適合性を有するヒドロゲルを製造するに当ってヒドロゲル化剤として有用なビオチン−アミノ酸複合体、及びそれから製造された薬物送達システムについて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】ゲル化剤1、2、4、5及び8〜11のキセロゲルの走査電子顕微鏡(SEM)のイメージである。
【図2】固体状(実線)及びゲル状(点線)のゲル化剤5(A)、ゲル化剤9(B)及びゲル化剤11(C)のFT−IRスペクトルである。
【図3】多様な割合(v/v)のDMSO−d及びHOを含む溶液でのゲル化剤のウレイド(A)及びアミド残基(B)のプロトン化学シフトの変化を示すグラフである。
【図4】MOPAC6モデリングを用いてゲル化剤5の二量体の有効水素結合を理論的に分析したものである。
【図5】ストレプトアビジンの添加前(a)及び添加後(b)のゲル化剤9から製造されたヒドロゲルのSEMのイメージである。
【図6】図6Aは、AZT/ゲル化剤9のヒドロゲル及びストレプトアビジン含有AZT/ゲル化剤9のヒドロゲルから放出されたジドブジン(Zidovudine;AZT)の経時的な濃度変化を示す図である。図6Bは、ゲル化剤9及びAZT/ゲル化剤9のヒドロゲルのSEMのイメージである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビオチンのカルボキシル基とアミノ酸のα−アミノ基がアミド結合で連結されたビオチン−アミノ酸複合体。
【請求項2】
化学式1で表されることを特徴とする請求項1に記載のビオチン−アミノ酸複合体。
【化1】

前記式中、RはC−Cアルキル;または、フェニル、メチル、メチルチオ、ヒドロキシフェニルまたはインドールで置換されたC−Cアルキルである。
【請求項3】
RがC−Cアルキルまたはフェニルメチルであることを特徴とする請求項2に記載のビオチン−アミノ酸複合体。
【請求項4】
(a)D−ビオチン、1−(3−ジメチルアミノプロピル)−3−エチルカルボジイミド・HCl(EDC)及びN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(DMAP)を有機溶媒に溶解させてからアミノ酸のメチルエステルを加えた後、得られた混合物を4〜6時間反応させて中間体化合物を得るステップと、
(b)ステップ(a)で得られた前記中間体化合物をメタノールと蒸留水との混合物中においてNaOHで4〜6時間処理してビオチン−アミノ酸複合体を得るステップと、
を備えたビオチン−アミノ酸複合体の製造方法。
【請求項5】
前記ステップ(a)に用いられる有機溶媒がジメチルホルムアミドであることを特徴とする請求項4に記載のビオチン−アミノ酸複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載のビオチン−アミノ酸複合体を水性媒質に溶解させることによって製造されるヒドロゲル。
【請求項7】
請求項6に記載のヒドロゲル及びその中に組み込まれた薬物を含む薬物送達システム。
【請求項8】
ビオチンの受容体をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の薬物送達システム。
【請求項9】
前記ビオチンの受容体がアビジン、ストレプトアビジン、シクロデキストリンまたはインスリンであることを特徴とする請求項8に記載の薬物送達システム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−540516(P2008−540516A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511035(P2008−511035)
【出願日】平成17年9月23日(2005.9.23)
【国際出願番号】PCT/KR2005/003156
【国際公開番号】WO2006/121234
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(500345478)ポステック・ファウンデーション (25)
【出願人】(505282042)ポステック・アカデミー‐インダストリー・ファウンデーション (34)
【Fターム(参考)】