説明

ヒドロホルミル化方法

【課題】錯体触媒の回収率の高いヒドロホルミル化方法を提供する。
【解決手段】8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒の存在下に、オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒドを生成させるヒドロホルミル化方法において、高沸点副生物の蓄積した反応液を反応系から抜き出し、これに貧溶媒を混合した後、10〜30℃でこの混合液に水素を接触させ、引き続き10〜30℃に保持して該錯体触媒を晶出させ、晶出した錯体触媒を混合液から回収することを特徴とするヒドロホルミル化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロホルミル化方法に関し、より詳細には、8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒の存在下に、オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒドを生成させるヒドロホルミル化反応の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン性不飽和有機化合物を、8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒の存在下、一酸化炭素及び水素によりヒドロホルミル化してアルデヒドを製造する方法は、アルデヒドの製造法としてよく知られている(特許文献1、2参照)。
【0003】
オレフィンのヒドロホルミル化反応に用いられる触媒は、高価な8〜10族金属を含むため、触媒は半永久的に使用するのが理想的である。従って通常は、反応液から生成物を分離し、蒸留残渣である触媒を含む反応液を反応帯域に循環して再使用する方法や、反応生成物をガスストリッピングにより反応帯域から留去させて分離し、触媒を含む反応液を反応帯域に残留させたままで連続的に反応する方法が用いられている。
しかしながら、ヒドロホルミル化反応においては、種々の高沸点副生物が生成して蓄積するので、反応液の一部を連続的に又は間欠的に反応系外へ抜き出すことが必要である。抜き出された反応液には触媒、特に高価な8〜10族金属が含まれているので、これを効率よく回収することは経済的に極めて重要である。
【0004】
例えば、特許文献3では、反応系から抜き出されたヒドロホルミル化反応液にアルコールと水と混合し、30℃で水素ガスと接触させた後、0℃に冷却し、水素原子が配位したロジウム−ホスフィン系錯体を晶出・回収する方法が記載されている。
しかしながら、この方法では、錯体触媒を十分に回収できなかった。
【特許文献1】米国特許3,527,809号
【特許文献2】米国特許4,148,830号
【特許文献3】特開昭57−122948号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、高沸点副生物の蓄積を防ぐために反応系外に抜き出された反応液から錯体触媒を効率よく回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、従来、晶析温度が低いほど8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒の溶媒への溶解度は小さくなるため、錯体触媒の回収率が高くなると考えられていたが、10〜30℃で晶析すると、驚くべきことに、錯体触媒の回収率が向上することを見いだし、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は、8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒の存在下に、オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒドを生成させるヒドロホルミル化方法において、高沸点副生物の蓄積した反応媒体を反応系から抜き出し、これに貧溶媒及び水素を混合した後、10〜30℃に保持して該錯体触媒を晶出させ、晶出した錯体触媒を混合液から回収することを特徴とするヒドロホルミル化方法に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、錯体触媒、特に錯体触媒中の高価な8〜10族金属を高い割合で回収しうるヒドロホルミル化方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明において、8〜10族金属とは、1983年の周期表で第8族金属といわれていたものである。なかでも、ルテニウム、コバルト、ロジウム、パラジウム、白金、特にロジウムが好ましく用いられる。
【0009】
ホスフィンは、単座配位子又は多座配位子としての能力をもつホスフィンであればよく、具体的には、トリス(p−トリル)ホスフィン、トリキシリルホスフィン、トリス(p−エチルフェニル)ホスフィン等のアルキル基で置換されたフェニル基を有するホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン等のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有するホスフィン等のフェニル基上にヒドロホルミル化反応条件下で不活性な置換基を有していてもよいトリアリールホスフィン等が挙げられる。中でもトリフェニルホスフィンは入手の容易さから好ましい。
【0010】
8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒は、8〜10族金属化合物とホスフィンとから公知の錯体形成方法により容易に調製することができる。また、8〜10族化合物とホスフィンとを反応帯域に供給して反応帯域内で錯体を形成させてもよい。この場合、ホスフィンはそのまま反応帯域に導入してもよいが、取扱やすさ等を考慮すると、反応媒体に溶解させて導入するのが好ましい。
【0011】
8〜10属金属化合物としては、例えば塩化ロジウム、塩化パラジウム、塩化ルテニウム、塩化白金、臭化ロジウム、沃化ロジウム、硫酸ロジウム、硝酸ロジウム、硝酸パラジウム、塩化ロジウムアンモニウム、塩化ロジウムナトリウム等の水溶性の無機塩又は無機錯化合物、ギ酸ロジウム、酢酸ロジウム、酢酸パラジウム、プロピオン酸ロジウム、プロピオン酸パラジウム、オクタン酸ロジウム等の水溶性有機酸塩等を挙げることができる。また、それぞれの金属の錯体種を用いてもよい。その中でも反応活性及び触媒コストの観点から、酢酸ロジウムを用いるのが好ましい。
【0012】
ヒドロホルミル化反応は、8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒の存在下に、オレフィンを水素及び一酸化炭素とを反応させることにより行われ、オレフィンとしては、炭素数が2〜20のものが用いられる。オレフィンは、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン等のα−オレフィンでも、内部オレフィンでもよい。
【0013】
ヒドロホルミル化反応の反応媒体としては、原料及び8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒を溶解し、生成するアルデヒドより高沸点で反応阻害作用のないものが好ましく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、酢酸ブチル、酪酸ブチルエステル等のエステル類あるいはケトン類等が挙げられる。反応媒体中の8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒の濃度は、8〜10族金属原子換算で、通常1wtppm〜10重量%であり、配位子として用いられるホスフィンは、錯体触媒の安定性を増大させる等のために通常は過剰量を反応媒体中に存在させる。
【0014】
ヒドロホルミル化反応は公知の条件で行えばよく、例えば、ロジウム−ホスフィン系錯体触媒を用いた場合には、通常、水素分圧0.1〜200kg/cm2G、一酸化炭素分圧0.1〜200kg/cm2G、全圧数kg/cm2G〜300kg/cm2G、水素分圧/一酸化炭素分圧=0.1〜10、反応温度60〜200℃、Rh濃度は数重量ppm〜数%、P(遊離有機リン配位子)/Rh=2〜10000(モル比)、反応時間が数分〜10数時間の範囲内で適宜選択される。
【0015】
ヒドロホルミル化反応では、炭素数がn(nは2〜20の整数)の原料オレフィンから、炭素数がn+1のアルデヒドを得ることができる。このようなアルデヒドとしては、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、デシルアルデヒド等が挙げられる。通常アルデヒドは、直鎖体と分岐鎖体の混合物として得られる。
【0016】
ヒドロホルミル化反応は、通常、流通式の反応器を用いて上記反応条件で行われるが、回分式の反応器を使用することもできる。
流通反応の方式として主なものに、ストリッピング方式と液循環方式がある。
ストリッピング方式(図1)は、触媒を含む反応液4を反応器3内に保持し、オレフィン2、オキソガス1を連続的に供給し、反応によって生成したアルデヒドを反応器内で気化させ、系外に取り出す方法である。
一方、液循環方式(図2)は、オレフィン2、オキソガス1と触媒を含む反応媒体、即ち反応液4を連続的に反応器3に供給する方法で、生成したアルデヒド、触媒、反応媒体等を含む反応液7が連続的に反応器外に抜き出される。この反応器から抜き出された反応液は、例えば未反応ガスによるストリッピング、蒸留等の分離操作8によって、生成アルデヒド5と触媒を含む反応液4に分離される。得られた生成アルデヒド5は系外に抜き出され、触媒を含む反応液4は反応器3にリサイクルされる。
【0017】
ストリッピング方式の場合、反応器内に保持されている触媒を含む反応液中に副生物である高沸点生成物が蓄積するため、通常その一部を間欠的に反応系外に抜き出している。また、液循環方式の場合、触媒を含む反応液のリサイクルを続けると反応系に副生物である高沸点生成物が蓄積するため、連続的または間欠的に、触媒を含む反応液の一部を反応系外に抜き出している。
通常、反応系外に反応液を抜き出した場合には、抜き出された反応液に含まれる触媒及びホスフィンに対応する量の触媒とホスフィンが新たに反応帯域に供給される。
【0018】
このようにして反応系外に抜き出された反応液からは触媒を晶析させて回収し、これを反応帯域に戻すのが好ましい。
反応系外に抜き出された反応液から触媒を晶析・回収するため、まず、これに貧溶媒と水素を混合する。
貧溶媒とは、反応液よりも8〜10族金属化合物の溶解度の小さいものをいい、反応液と均一相を保つものであり、かつ反応系で反応に関与しないものが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン及びそれらと水の混合物が挙げられ、8〜10族金属の回収率の観点から、水と炭素数1から3のアルコールの混合物が好ましく、その混合比(体積比率)は、水:アルコールが通常5:1〜1:5、好ましくは1:1〜1:4である。水の比率が少ないと錯体の溶解度の理由から回収率が低下し、逆に水の比率が高すぎても系が油水の2相となり、良好な回収率が得られない。
【0019】
また、貧溶媒と反応液の重量比率は、貧溶媒の種類、反応液の組成に影響されるため一律には決められないが、貧溶媒:反応液が、通常約10:1〜1:2程度であり、好ましくは5:1〜1:1である。貧溶媒の割合が少ない方が晶析回収装置を小さくできるが、十分な回収率が得られるような量を選定する。
反応系から抜き出された反応液は、そのまま貧溶媒を混合しても、蒸留などにより反応媒体の少なくとも一部を除去してから貧溶媒と混合してもよい。
【0020】
反応液に貧溶媒とともに水素を混合することにより、8〜10族金属−有機リン系錯体触媒を晶出しうる形態へと変化させることができる。水素と接触させる際の温度は、通常0〜95℃、好ましくは10〜30℃である。
水素を混合する方法としては、まず反応液と貧溶媒を混合し、得られた混合液に水素ガスと接触させる方法、水素雰囲気下において反応液と貧溶媒を混合する方法などがある。この場合の水素分圧は通常0.1〜10MPa、水素ガスの接触時間は通常数分〜数時間である。
次いで、混合液の温度を10〜30℃に保持し、8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒を晶出させる。晶析温度が高すぎても低すぎても触媒の回収率が不十分となるので、この温度範囲に保持する必要がある。晶析操作の際の圧力は、通常常圧〜10Mpaの範囲で行われる。晶析時間は通常数分〜数時間である。
晶出した8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒は、通常用いられる固液分離の方法で液体と分離される。具体的には、デカンテーション、遠心分離、濾過等の方法があり、工業的には遠心濾過が使われることが多い。錯体触媒の回収も混合液の温度を10〜30℃に保持して行うのが好ましい。
このようにして回収された8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒は、通常反応媒体に溶解して、反応帯域に供給される。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその用紙を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
8〜10族金属化合物として酢酸ロジウム、ホスフィン配位子としてトリフェニルホスフィンを用いて、プロピレンのヒドロホルミル化反応を行い、反応液を抜き出した。蒸留により反応溶媒を除去して、下記組成の釜残液を得た。
ロジウム錯体(ロジウム原子換算値) 779wtppm
トリフェニルホスフィン 58.6重量%
トリフェニルホスフィンオキサイド 2.6重量%
高沸点副生物 38.7重量%
上記釜残液73g及び30重量%の水を含有するイソプロピルアルコールと水の混合溶媒190gを、不活性ガスの雰囲気にて、容量0.5Lの電磁誘導撹拌型のオートクレーブに入れた。オートクレーブを密閉した後、ゆるやかに撹拌しつつ、温度15℃で、水素ガスを圧力2Mpaとなるよう圧入し、この圧力、温度で4時間保持した後、温度を保持したまま水素ガスをパージしてロジウム錯体を析出させた。通常の減圧濾過により固液分離し、ロジウム錯体を回収した。
ロジウム錯体の回収率は、ロジウム原子換算で28.3%であった。
【0022】
比較例1
実施例1において晶析温度を5℃とした以外は、実施例1と同様に行った。その結果、ロジウム錯体の回収率はロジウム原子換算で22.5%であった。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ストリッピング方式の反応器の図である。
【図2】液循環方式の反応器の図である。
【符号の説明】
【0024】
1 オキソガス
2 オレフィン
3 反応器
4 触媒と反応媒体を含む反応液
5 生成アルデヒド
6 パージガス
7 反応生成物、触媒及び反応媒体などを含む反応液
8 分離器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
8〜10族金属−ホスフィン系錯体触媒の存在下に、オレフィンを水素及び一酸化炭素と反応させてアルデヒドを生成させるヒドロホルミル化方法において、高沸点副生物の蓄積した反応液を反応系から抜き出し、これに貧溶媒及び水素を混合した後、10〜30℃に保持して該錯体触媒を晶出させ、晶出した錯体触媒を混合液から回収することを特徴とするヒドロホルミル化方法。
【請求項2】
回収した錯体触媒をヒドロホルミル化反応帯域に供給することを特徴とする請求項1に記載のヒドロホルミル化方法。
【請求項3】
8〜10族金属がロジウムであることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒドロホルミル化方法。
【請求項4】
貧溶媒が水とアルコールの混合物であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のヒドロホルミル化方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−151826(P2006−151826A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340643(P2004−340643)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】