説明

ヒータ

【課題】簡単に施工が可能で、かつ塗装物やコーティング物等の剥離が生じることのない、表面放射率の高いマイクロヒータ、ヒーズヒータを提供することを目的とする。
【解決手段】金属シース内に発熱線を収容し、金属シースと発熱線間に無機絶縁材を強固に充填したヒータにおいて、金属シース表面にショットブラストを行い、金属シース表面の粗度を大きくして金属シース表面の放射率を高めたヒータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロヒータ又はシーズヒータのヒータに関し、特に、被加熱対象と非接触で使用されるマイクロヒータ及びシーズヒータについてのものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロヒータ、シーズヒータは、いずれも金属シース内にニクロム線等の発熱線を収容し、シースと発熱線間に無機絶縁材粉末を強固に充填したヒータで、一般に、発熱線が直線状でシース径が細いものがマイクロヒータ、発熱線が直線状ではなく螺旋状等をしていてシース径が比較的太いものがシーズヒータと呼ばれている。
【0003】
これらのヒータ(以下、単にヒータという場合は、マイクロヒータ、シーズヒータを指す)により被加熱対象を非接触で加熱する場合、ヒータから被加熱対象への伝熱は、大部分が放射伝熱である。特に、真空中での非接触加熱においては、伝熱は全て放射伝熱になる。
【0004】
放射伝熱量は、ヒータと被加熱対象の表面積とその位置関係、ヒータと被加熱対象の表面温度及びヒータと被加熱対象の表面の放射率により決まるが、このうち、ヒータ表面の放射率を高めることは、放射伝熱効率の向上をもたらし、同じ放射伝熱量を得るためのヒータ表面温度が低くなり、ヒータ長寿が長くなる効果がある。
【0005】
このため、従来、ヒータの放射率を上げるために、放射率の高い塗料のヒータ表面への塗布(特許文献1)や、放射率の高いセラミック材料のヒータ表面への溶射等によるコーティング(特許文献2)が行われてきた。
【0006】
しかし、これらの方法は、塗装、溶射などに高い費用を要する欠点があり、かつ、ヒータの金属シースと塗料、コーティング物との熱膨張率の差により塗料、コーティング物の剥離が発生するため、使用できる期間が短いという問題があった。特に、真空中での使用においては、剥離物が真空で汚染源となるため採用できなかった。
【特許文献1】実開平04−000524号公報
【特許文献2】特公昭63−045016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述の状況に鑑み、簡単に施工が可能で、かつ塗装物やコーティング物等の剥離が生じることのない、表面放射率の高いマイクロヒータ、シーズヒータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
物体の放射率は、物体表面の粗度が大きいほど高くなる傾向にあることが知られている。
【0009】
本発明は、この性質を利用し、マイクロヒータ又はシーズヒータの金属シース表面に従来行われていたバフ研磨に換えて、ショットブラストにより表面の粗度を大きくし、これにより表面の放射率を高くしたもので、金属シース内に発熱線を収容し、金属シースと発熱線間に無機絶縁材を強固に充填したヒータにおいて、金属シース表面にショットブラストを行い、金属シース表面の粗度を大きくして金属シース表面の放射率を高めたヒータである。
【0010】
また、本発明は、ヒータがマイクロヒータ又はシーズヒータである。
【0011】
さらに、本発明は、後述のする試験の結果から、ショップブラストに用いる投射材としては、平均粒径が460μm乃至50μmのアルミナ粉末を用いることが放射率向上に効果的でありこれを使用するもので、ショットブラストに用いる投射材として、平均粒径が460μm乃至49μmのアルミナ粉末を用いた。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、金属シース内に発熱線を収容し、金属シースと発熱線間に無機絶縁材を強固に充填したヒータにおいて、金属シース表面にショットブラストを行い、金属シース表面の粗度を大きくして金属シース表面の放射率を高めたヒータであるので、マイクロヒータ又はシーズヒータの金属シース表面に従来行われていたバフ研磨に換えて、ショットブラストにより表面の粗度を大きくし、これにより表面の放射率を高くした。
【0013】
また、本発明は、ヒータがマイクロヒータ又はシーズヒータについてのものである。
【0014】
さらに、本発明は、ショップブラストに用いる投射材としては、平均粒径が460μm乃至50μmのアルミナ粉末を用いたもので、放射率向上が効果的である。
【0015】
図4に本発明のマイクロヒータの一実施例の長手方向断面図、図5に本発明のシーズヒータの一実施例の長手方向断面図を示す。
【0016】
図示してないが、ヒータの右端には、無機絶縁材粉末へ湿分が侵入して絶縁が低下しないように、シール機構が設けられている。また、図示したものは、いずれも発熱線がシース内を往復している例であるが、往復せずに1本のみの場合もある。この場合、シール機構はヒータの左右両端に設けられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
金属シース材をSUS316とする外径φ6.4mmの未使用のマイクロヒータの表面にアルミナ粉末を投射材としてショットブラストを行い、シース表面の粗度を上げたものを製作した。
【0018】
使用したアルミナ粉末は、目開き53μmの篩を通り、目開き45μmの篩を通らなかった粉末である。したがって、アルミナ粉末の粒径は45μmから53μmの範囲にあり、平面粒径は49μmである。
【0019】
このショットブラストを施したマイクロヒータと、これと同一のマイクロヒータで表面状態のみが異なり、表面は従来通りバフ研磨を行ったマイクロヒータの二つについて試験を行い、放射伝熱性能を比較した。
【0020】
試験は、これら2つのマイクロヒータを放射率が1に近い真空容器内で通電し、通電電流と表面温度を測定した。
【0021】
図1は、各ヒータの表面温度と放射率を表したものである。なお、放射率は以下のステファンボルツマンの法則による式を用いて求めている。
【0022】
Q=I2 ・R=5.67・A・ε{(T/100)4 −(T0 /100)4
Q:マイクロヒータの放射伝熱量(W)
I:マイクロヒータへの通電電流(A)
R:マイクロヒータ発熱線の抵抗(Ω)
A:マイクロヒータの表面積(m2)
ε:マイクロヒータの放射率 (・)
T:マイクロヒータ表面の絶対温度(K)
0 :真空容器の絶対温度(K)

図1に示すように、ヒータ表面温度400℃から750℃において、表面にショットブラストを行ったものは、従来の表面バフ研磨のものに較べて、約0.15乃至0.2の放射率向上が図られた。
【0023】
図2は、同じ試験におけるマイクロヒータの放射伝熱量と表面温度の関係を示したものである。
【0024】
図2より、放射伝熱量が約300Wから2400Wの範囲において、同じ放射伝熱量となるヒータの表面温度は、表面にショットブラストを行ったものは、従来のバフ研磨のものに較べて、放射率が向上した効果により約50℃(放射伝熱量300W)又は約80℃(放射伝熱量2400W)低い温度となった。
【0025】
上述の試験は、粒径が45μmから53μmの範囲にあり、平均粒径が49μmのアルミナ粉末により表面をショッフブラストしたマイクロヒータの試験であるが、粒径が425μmから500μmの範囲にあり、平均粒径が約460μmのアルミナ粉末により表面をショットブラストしたマイクロヒータについても同様の試験を行い、同等の結果を得た。使用したアルミナ粉末は、目開き500μmの篩を通り、目開き425μmの篩を通らなかった粉末である。
【0026】
以上の試験から、平均粒径が49μmから460μmのアルミナ粉末により、金属シースの表面をショットブラストしたヒータは、通常の放射伝熱量の範囲において、表面温度が50℃以上低い温度となる結果を得た。
【0027】
平均粒径がこの範囲より小さい粉末は粗度が充分に得られず、平均粒径がこの範囲より大きい場合は、ショットブラスト装置が大掛かりなものになり、また、薄い金属シースのヒータではシースの薄肉化により強度低下を招く欠点がある。
【0028】
ヒータの寿命は経験上、表面温度が約50℃低くなると、約2倍になる。
【0029】
図3は、4つのタイプの異なるマイクロヒータに電流の印加、停止のサイクルを繰り返し、何回のサイクルで発熱線が断線するかを試験した一例である。
【0030】
縦軸の断線までのヒートサイクル数は、800℃の値で規格化している。横軸は、電流を印加した際のヒータ表面温度で、約50℃低くなると寿命、即ち断線までのサイクル数が約2倍になる。
【0031】
このことから、平均粒径が49μmから460μmのアルミナ粉末により金属シースの表面をショットブラストしたヒータは、表面温度が50℃以上低い温度となり、寿命が少なくとも2倍程度は延びる。
【0032】
また、ショットブラストは施工が簡単で、従来の塗料のヒータ表面への塗布や、セラミック材料等のヒータ表面への溶射等による放射率向上に較べて非常に安価である特徴があり、さらに塗布物やコーティング物の使用中の剥離の心配がなく、剥離寿命とは無縁である利点がある。
【0033】
加えて、従来の塗布、溶射では使用出来なかった真空中において、剥離物の落下による真空汚染がないために安心して使用できる利点もある。
【0034】
なお、ショットブラストに用いる投射材は、必ずしもアルミナ粉末に限られることはなく、適切な放射率が得られるものであれば、鉄粉や球状鋼等の他の材料であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、ヒータの金属シース表面にショットブラストを行い、金属シース表面の粗度を大きくして、放射率を高くしてヒータの長寿命を図るものであるが、外面にヒータが巻かれた金属壁の加熱炉内面にも利用できる。この利用によって壁面温度が下がり、加熱炉の長寿命化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】マイクロヒータのヒータ表面温度と表面放射率との関係を示す図である。
【図2】マイクロヒータの放射伝熱量とヒータ表面との関係を示す図である。
【図3】ヒータのヒータ表面温度と寿命サイクルとの関係を示す図である。
【図4】本発明のマイクロヒータの一実施例の長手方向断面図である。
【図5】本発明のシーズヒータの一実施例の長手方向断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属シース内に発熱線を収容し、金属シースと発熱線間に無機絶縁材を強固に充填したヒータにおいて、金属シース表面にショットブラストを行い、金属シース表面の粗度を大きくして金属シース表面の放射率を高めたヒータ。
【請求項2】
ヒータがマイクロヒータ又はシーズヒータである請求項1記載のヒータ。
【請求項3】
ショットブラストに用いる投射材として、平均粒径が460μm乃至49μmのアルミナ粉末を用いた請求項1又は請求項2記載のヒータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−259730(P2009−259730A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109872(P2008−109872)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000140454)株式会社岡崎製作所 (34)
【Fターム(参考)】