説明

ヒートシンク及びその製造方法

【課題】 本発明は、製造が容易で信頼性の高い小型ヒートシンク及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明によるヒートシンクは、冷媒流路となる一連の蛇行貫通孔を有する複数の金属薄板が積層され、両側に前記流路の封止面となる封止板が配置され、前記封止板あるいは前記金属薄板に前記冷媒流路とつながる冷媒流入出口が設けられたヒートシンクにおいて、前記金属薄板の各々には少なくとも片側表面全体に前記金属薄板より融点の低い低融点金属層が形成されており、さらに前記金属薄板の各々には片側が凹部かつ反対側が凸部となるエンボス部が前記貫通孔以外の複数箇所に形成されており、前記封止板にも片側が凹部かつ反対側が凸部形状で前記金属薄板上のエンボス部と嵌合可能な複数のエンボス部が設けてあり、前記封止板の各々と前記金属薄板同士がこれらエンボス部において嵌合結合され、前記低融点金属層の溶融により接合されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータのCPU周辺、各種レーザー装置、各種モーター等の冷却装置に用いるヒートシンク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータのCPU周辺、各種レーザー装置、各種モーター等の電気及び電子機器では発熱が機器の性能を低下させるため、冷却が不可欠である。冷却の方法としては、金属材料にフィンなどを設けて表面積を増加させることにより冷却を図るもの、ファン等により強制的に空気を吹き付けて冷却するもの、冷媒を循環させて熱交換を行って冷却するもの、ペルチェ素子を使用して冷却するものなど、種々の方法が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、アルミブレージングシートを打ち抜き加工して冷媒流路の一部と冷媒出入り口の一部とを形成した流路板を製作する工程、上記流路板を複数枚積層して上記冷媒流路と上記冷媒出入口とを形成する工程、上記冷媒出入口に配管継手を挿入、嵌合し、複数枚積層された上記流路板と上記配管継手とを一括してろう付けする工程を含むことを特徴とするヒートシンクの製造方法が開示されている。
【0004】
上記文献の方法では、接合される側にろう材がクラッドされてなるアルミブレージングシートを、ターレットパンチプレスなどにより打ち抜き加工して冷媒流路及び冷媒出入口を作成し、この流路板を複数枚積層して蓋となる上板及び下板を重ねる。この状態で配管継手を挿入した上で昇温しろう付けを行う。従って、接合前に複数の流路板の位置を保ったまま配管継手を挿入する工程を行わなければならず、流路板の位置がずれやすいという問題点がある。また、流路板と上板、下板を一体に保持するための手段も必要となる。さらに、冷媒出入口が流路板の側面に位置しているため、積層してヒートシンクを組立てた後でなければ、配管継手接続処理を行うことができない。
【0005】
上記のような薄型流路板を鋳造金型により製作することも容易に想到できるが、鋳造後の冷却による収縮時に材料の歪みが生じやすいという問題点がある。
【0006】
また、上記のような薄型流路板を切削工法により製作することも可能であるが、流路が長くなると加工に時間がかかりコストが高くなるという問題点がある。
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−87584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、製造が容易で信頼性の高い小型ヒートシンク及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明によるヒートシンクは、冷媒流路となる一連の蛇行貫通孔を有する複数の金属薄板が積層され、両側に前記流路の封止面となる封止板が配置され、前記封止板あるいは前記金属薄板に前記冷媒流路とつながる冷媒流入出口が設けられたヒートシンクにおいて、前記金属薄板の各々には少なくとも片側表面全体に前記金属薄板より融点の低い低融点金属層が形成されており、さらに前記金属薄板の各々には片側が凹部かつ反対側が凸部となるエンボス部が前記貫通孔以外の複数箇所に形成されており、前記封止板にも片側が凹部かつ反対側が凸部形状で前記金属薄板上のエンボス部と嵌合可能な複数のエンボス部が設けてあり、前記封止板の各々と前記金属薄板同士がこれらエンボス部において嵌合結合され、前記低融点金属層の溶融により接合されていることを特徴とする。
【0010】
前記金属薄板上の前記複数のエンボス部の一部は、前記金属薄板上の前記蛇行貫通孔を形成するための残存隔壁部に形成されていることが望ましい。
【0011】
また、前記封止板の少なくとも一方に、前記冷媒流入出口が設けられていることが好適であり、前記冷媒流入出口にはネジ穴が形成されていることが好適である。
【0012】
前記低融点金属層は、前記金属薄板及び前記封止板のいずれよりも融点が低いことが好ましく、前記金属薄板及び前記封止板の材質としては銅、前記低融点金属層としては銀またはその合金が特に好適である。ヒートシンクの目的は発熱体から効率よく熱を吸収しヒートシンクの冷媒流路の冷媒に熱導する事が求められ、その為金属薄板と封止板の材質は熱伝導率の良い銅材を用いる事が多い、その場合積層板同士を接合する材料としてこれも熱伝導率が良い材料が必要となり、接合材料より融点が低く熱伝導率が良い材料は半田合金又は銀材が一般的な材料である。但し、冷媒流路は冷媒液を循環させる為の内圧が発生するので強度的に半田合金より強度のある銀材を使用し又熱伝導率から言ってもこれが良い。通常、純銅の融点は1080度・銀の融点は960度であり、接合する為の溶解温度を1000度前後にすると、金属薄板の溶解温度に近く形状変形等を起こしやすく安定した形状形成接合が出来ない。そこでこれ等を解決する為に、金属薄板1が銅材料の場合、低融点金属層21は銀メッキ又は銀箔を介在する事により防止が出来る。
その理由は銅材料で出来ている金属薄膜1及び封止板2A・2Bの積層面は低融点金属層21を介在しエンボス部の勘合により相互に密着しており、この状態で接合炉に放置し徐々に温度を上げていくと接触面の金属間拡散現象が始まり銀合金の共晶体化を起こし合金化状態が比較的低い温度で実現する。銀合金の溶解温度は銅と銀の含有量で決まり、既存の合金状態図から、含有量が半々でも800度前後では溶解する。(既存銅−銀の合金状態図では銀40%・銅60%では溶解温度が780度)銅材の溶解温度に対し接合温度を下げての積層間接合が出来るので積層部材を変形等が発生せず良好な接合条件が設定できる。
【0013】
前記金属薄板は用途・コストなどを考慮して鉄材も使用可能であるが、その場合の前記低融点金属層としては銅が好ましい。鉄と銅の組み合わせは鉄と錫等の組み合わせに比較して積層間接合の強度が飛躍的にアップし、信頼性を上げる事ができる。
【0014】
本発明によるヒートシンクの製造方法においては、外形形状と複数のエンボス部を含めて冷媒流路の封止面となる1組の銅製封止板を形成する工程と、冷媒流路となる一連の蛇行貫通孔及び片側表面が凹部かつ反対側表面が凸部となるエンボス部を含めた所定の形状を銅製金属薄板から形成する工程と、前記封止板及び前記金属薄板の少なくとも片側表面に銀または銀合金による低融点金属層を形成する工程と、前記エンボス部を嵌合させることにより前記1組の封止板と前記金属薄板同士を結合する工程と、前記低融点金属層を熱的に融解させて前記封止板及び前記金属薄板を接合する工程と、前記封止板或いは前記金属薄板に冷媒流入出口を形成する工程とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、封止板と金属薄板の各々にエンボス部を設け、積層時にこのエンボス部同士を嵌合結合させることにより容易かつ確実に相互の位置決めを行って、さらに一体に保持することとが可能となる。これにより、封止板と各金属薄板とを接合する際は、加圧の必要なく、単に温度を上げて低融点金属層を溶融するだけでよい。従って、製造が容易で信頼性の高い小型ヒートシンク及びその製造方法を提供することができる。また、封止板上に貫通孔を設けネジを切ることにより、組立前に継手接続処理が可能となる。さらに、エンボス部は片側が凹部かつ反対側が凸部となるよう形成されるため、単純なプレス加工により形成可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明によるヒートシンクの好適な実施例について説明する。図1は、本発明によるヒートシンクの一実施例の主要部組み立て図を示す。このヒートシンクは、ワークステーション用のCPUの放熱を目的としたものである。中央部に3枚の金属薄板1(外形80mm角、厚さ1mmの銅材)が配置され、各金属薄板1にはそれぞれ同じ位置に蛇行した貫通孔4(幅6mm)が形成されている。また、各金属薄板1には上下2箇所ずつ、及び貫通孔4を分離する隔壁部3を含めた内部に6箇所、計10箇所にエンボス部5が形成されている。
【0017】
3枚の金属薄板1の両側には、冷媒の流路となる貫通孔4を密閉するための天井部と底部として機能する封止板2A及び2B(外形80mm角、厚さ1mmの銅材)が配置されている。封止板2Aには、金属薄板1に形成された貫通孔4の両端部に相当する位置に貫通孔が設けられ、それぞれ冷媒流入口7及び冷媒流出口8として機能する。これらの貫通孔7及び8にはネジを形成し、接続継手11及び12を接続できるようにすることが望ましい。
【0018】
前述の封止板2A及び2Bと3枚の金属薄板1はそれぞれに設けられた10箇所のエンボス部において、図4に示したように凸部5Bと凹部5Aとが相互に嵌合することにより、各材料の位置決めと結合が同時になされている。尚、各材料の間には、厚さ5ミクロンの銀層が低融点金属層21としてめっきされている。
【0019】
結合された封止板2A及び2Bと3枚の金属薄板1は各材料間に配置された低融点金属層21の融解により、相互に完全接合されている。
【0020】
図2は完成した本発明によるヒートシンクの正面図を示すが、冷媒流入口7及び冷媒流出口8にそれぞれ継手11及び12が接続されている。また、このヒートシンクを機器に取り付けまたは固定することができるよう、ヒートシンクの四隅には取り付け穴6が形成されている。図3にこのヒートシンクのA−A’面における側面断面図を示すが、各金属薄板1の貫通孔4は同じ位置に形成されているため、隔壁部3と上下両側の封止板2A及び2Bにより密閉空間に形成され、冷媒の流路となる。
【0021】
尚、10箇所のエンボス部5のうち5箇所は隔壁部3の先端部分に形成されているため、金属板1が相互に嵌合することにより、隔壁部3自体の強度も補強される。
【0022】
次に、上記ヒートシンクの実施例の製造方法について説明する。まず、封止板2A及び2Bをプレス打ち抜き等により形成する。この際、上記実施例においては封止板2Aのみに冷媒流入口7及び冷媒流出口8となる貫通孔を形成する。この際、これらの貫通孔にネジを形成しておけば、後ほど継手を接続するのが容易となる。設計によっては、各封止板にそれぞれ1つずつの貫通孔を形成して冷媒流入口7及び冷媒流出口8とすることも可能である。
【0023】
次に、3枚の金属薄板1について、貫通孔4と外形を打ち抜き、エンボス部はダボの突き出し等により凹部と凸部を同時に形成する。3枚とも同じ形状であるため、同じ金型を使用することができる。金属薄板1には少なくとも片面に、前もって低融点金属層を設けておくことができる。
【0024】
続いて、3枚の金属薄板1と2枚の封止板2A及び2Bを重ねて加圧し、エンボス部同士を嵌合結合させて一体化する。ここまでの工程は、例えば順送金型等を用いることにより、連続的に行うことも可能である。
【0025】
一体化したヒートシンク組立体は、例えば830℃程度の高温槽に入れ、低融点金属層を融解した後冷却すれば、相互に接合されて堅固なヒートシンクとして完成される。この例では低融点金属層として銀を使用したが、封止板や金属薄板の種類に従って他の銀合金或いははんだ等の他の材料を選択することも可能である。
【0026】
今回のヒートシンクの試作実施に関しては金属薄板の材料を銅、低融点金属層を銀のメッキで実施したが、他の放熱用途を配慮して金属薄板の材料を鉄とし、鉄と相性の良い低融点金属層材料種類とこれ等を接合させる溶解炉種類についても並行して検討した。鉄材より融点が低くしかも容易に実施可能な低融点金属層材料として錫と銅2種を検討し、接合させる溶解炉として電気炉・無酸化炉の2種類で接合試験を実施した。
以下は実施した接合引っ張り強度試験データである。
*低融点材料が錫材・厚み3μ・電気炉では0.8Kg〜1Kg/mm^2
*低融点材料が錫材・厚み5μ・電気炉では1Kg/mm^2
*低融点材料が錫材・厚み3μ・無酸化炉では6Kg〜7Kg/mm^2
*低融点材料が錫材・厚み5μ・無酸化炉では4kg〜5Kg/mm^2
*低融点材料が銅材・厚み3μ・電気炉では25kg〜30Kg/mm^2
*低融点材料が銅材・厚み5μ・電気炉では20Kg〜25Kg/mm^2
以上の結果より錫・銅とも同じ電気炉を使用した場合では銅を使用した方が強度は強い結果となっている。銅、錫が持っている材料本来の引っ張り強さ、銅=25kg/mm^2、錫=8kg/mm^2を鑑みても錫は溶解時表面酸化現象により流れ性が悪く接合不足が生じていることが判る。無酸化炉を使用した場合でも錫の場合は溶解時表面酸化現象による流れ性が悪く安定した接合状態が得られない。
又厚みに関しては5μより3μの方が少し強度が安定している。
以上の結果、金属薄板材料が鉄の場合には、低融点金属層として銅材が安定して強度が確保出来る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上述べたように、本発明によれば、製造が容易で信頼性の高い小型ヒートシンク及びその製造方法を提供することができるため、電気及び電子機器の冷却分野において大いに貢献できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本は発明によるヒートシンク主要部の構成を示す組み立て図である。
【図2】本発明によるヒートシンクの正面図である。
【図3】図2に示したヒートシンクの側面断面図である。
【図4】図1に示した本発明によるヒートシンク主要部の結合状態を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 金属薄板
2A、2B 封止板
3 隔壁部
4 貫通孔
5 エンボス部
5A 凹部
5B 凸部
6 取り付け穴
7 冷媒流入口
8 冷媒流出口
11 継手
12 継手
21 低融点金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒流路となる一連の蛇行貫通孔を有する複数の金属薄板が積層され、両側に前記流路の封止面となる封止板が配置され、前記封止板あるいは前記金属薄板に前記冷媒流路とつながる冷媒流入出口が設けられたヒートシンクにおいて、前記金属薄板の各々には少なくとも片側表面全体に前記金属薄板より融点の低い低融点金属層が形成されており、さらに前記金属薄板の各々には片側が凹部かつ反対側が凸部となるエンボス部が前記貫通孔以外の複数箇所に形成されており、前記封止板にも片側が凹部かつ反対側が凸部形状で前記金属薄板上のエンボス部と嵌合可能な複数のエンボス部が設けてあり、前記封止板の各々と前記金属薄板同士がこれらエンボス部において嵌合結合され、前記低融点金属層の溶融により接合されていることを特徴とするヒートシンク。
【請求項2】
前記金属薄板上の複数の前記エンボス部の一部は、前記金属薄板上の前記蛇行貫通孔を形成するための残存隔壁部に形成されていることを特徴とする請求項1記載のヒートシンク。
【請求項3】
前記封止板の少なくとも一方に、前記冷媒流入出口が設けられていることを特徴とする請求項1または2記載のヒートシンク。
【請求項4】
前記冷媒流入出口にネジ穴が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のヒートシンク。
【請求項5】
前記低融点金属層は、前記金属薄板及び前記封止板のいずれよりも融点が低いことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のヒートシンク。
【請求項6】
前記金属薄板及び前記封止板の材質が銅であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のヒートシンク。
【請求項7】
前記低融点金属層が銀またはその合金であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のヒートシンク。
【請求項8】
前記金属薄板及び前記封止板の材質が銅であり、前記低融点金属層が銀またはその合金であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のヒートシンク。
【請求項9】
前記金属薄板及び前記封止板の材質が鉄であり、前記低融点金属層が銅またはその合金であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のヒートシンク。
【請求項10】
外形形状と複数のエンボス部を含めて冷媒流路の封止面となる1組の銅製封止板を形成する工程と、冷媒流路となる一連の蛇行貫通孔及び片側表面が凹部かつ反対側表面が凸部となるエンボス部を含めた所定の形状を銅製金属薄板から形成する工程と、前記封止板及び前記金属薄板の少なくとも片側表面に銀または銀合金による低融点金属層を形成する工程と、前記エンボス部を嵌合させることにより前記1組の封止板と前記金属薄板同士を結合する工程と、前記低融点金属層を熱的に融解させて前記封止板及び前記金属薄板を接合する工程と、前記封止板或いは前記金属薄板に冷媒流入出口を形成する工程とからなることを特徴とするヒートシンクの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate