説明

ヒートシール性二軸延伸積層フィルム

【課題】 フィルムを手で直線的に容易に引き裂くことのできる直線引裂性を有し、機械的強度、耐熱性、透明性、耐薬品性、内容物保香性に優れる、ヒートシール性二軸延伸積層フィルムを提供する。
【解決手段】 基材層およびこのうえのヒートシール層からなり、少なくとも長手方向に直線引裂性を有することを特徴とする、ヒートシール性二軸延伸積層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、化粧品、食品等の包装材料として有用な、ヒートシール性二軸延伸積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートシール性フィルムは、基材層のフィルムのうえの表面に熱融着可能なヒートシール層を設けた、熱融着性のフィルムであり、機械的強度、耐熱性、透明性、耐薬品性、内容物保香性を備える。この特性を活かして主に包装用フィルムとして活用されている。
【0003】
ヒートシール層の成分として、ポリエチレンテレフタレート−イソフタレートのような共重合ポリエステルを用いることが知られており(英国特許第1,465,973号公報)、この処方によれば共押出法にてヒートシール性フィルムを製造することもできる。
【特許文献1】英国特許第1,465,973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のヒートシール性ポリエステルフィルムは、優れた機械強度を備えるものの、他方で引裂開封性が悪く、特に直線的に引き裂くことが難しい。包装材料として用いた場合、手で容易に開封することができなかったり、内容物が飛散したり破損したりすることがある。本発明は、かかる従来技術の課題を解決すること目的とする。本発明の課題は、機械的強度、耐熱性、透明性、耐薬品性および内容物保香性に優れるポリエステルからなる二軸延伸フィルムでありながら、フィルムを手で直線的に容易に引き裂くことのできる直線引裂性を備える、ヒートシール性二軸延伸積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち本発明は、基材層およびこのうえのヒートシール層からなり、少なくとも長手方向に直線引裂性を有することを特徴とする、ヒートシール性二軸延伸積層フィルムである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、機械的強度、耐熱性、透明性、耐薬品性および内容物保香性に優れるポリエステルからなる二軸延伸フィルムでありながら、フィルムを手で直線的に容易に引き裂くことのできる直線引裂性を備える、ヒートシール性二軸延伸積層フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のヒートシール性二軸延伸積層フィルムは、ヒートシール性のフィルムでありながら、少なくとも長手方向に直線引裂性を有することを特徴とする。
【0008】
[基材層]
本発明のヒートシール性二軸延伸積層フィルムは、少なくとも長手方向(フィルムの長手方向)に直線引裂性を有する。この直線引裂性は、具体的には、フィルムの長手方向を長辺とする長さ30cmの短冊状サンプルについて、引裂き開始点と引裂き終点の短辺方向のずれが5%未満のものを合格として評価したときの合格率が80%以上である直線引裂性である。この直線引裂性を備えることにより、例えば包装材料として用いたときに、手で容易に包装を引き裂き、内容物を取り出すことができる。
【0009】
[海島構造]
基材層としては、主としてポリエステルからなる海島構造を有する延伸フィルムを用いる。なお「主として」とはフィルムのポリマーの70重量%以上の成分であることをいう。海成分は共重合ポリエチレンテレフタレート、島成分はポリエーテルエステルエラストマーであることが好ましい。
【0010】
海島構造を構成する島成分は海成分のなかに細長い島状に分散しており、それぞれの島はフィルムの長手方向(MD方向)に長く、この方向と直行するTD方向に短い構造をとる。それぞれの島は好ましくはMD方向に伸びた平板状で分布する。このような構造をとることにより、本発明の熱収縮包装用フィルムは、フィルムの長手方向に良好な直線引裂性を発現する。
【0011】
本発明における海島構造の有無は、フィルムを包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂を用いて包埋し、ミクロトーム(Reichert-Jung製、UlTRACUT)にて長手断面および巾断面を50μm厚に薄切りしたサンプルを3.2%オスミウム酸・60℃・2hrの条件で蒸気染色を行った後、透過電子顕微鏡(トプコン製、LEM−2000)によって加速電圧100kVで45000倍で観察する。本測定方法において海島構造が観察されないものは海成分のポリマーと島成分のポリマーが実質的に非相溶でないことを意味し本発明に該当しない。この場合、本発明のいう長手方向の直線引裂性は発現しない。
【0012】
この海島構造において、海成分はフィルムの重量100重量%あたり95〜70重量%を占め、島成分は5〜30重量%を占めることが好ましい。海島構造における島は、細長い形状を呈しており、その長径方向はフィルムの巻き取り方向にほぼ一致している。島成分の割合が30重量%を超えるとフィルム中の海島構造におけるポリエーテルエステルエラストマーの島の個々のサイズが大きくなり過ぎ、ヘーズが高くなり過ぎて好ましくない。5%未満では直線引裂性を発現するに十分な量のポリエーテルエステルエラストマーの島が共重合ポリエステルの海の中に形成できず好ましくない。
【0013】
海成分として共重合ポリエステルを用い、島成分としてポリエーテルエステルエラストマーを用いる場合の共重合ポリエステルとポリエーテルエステルエラストマーとの割合は、共重合ポリエステルの好ましくは95〜70重量%、さらに好ましくは90〜75重量%、特に好ましくは85〜80重量%に対して、ポリエーテルエステルエラストマーが好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは10〜25重量%、特に好ましくは15〜20重量%の割合である。
【0014】
[海成分]
基材層の海成分としては、好ましくは共重合ポリエステルを用いる。共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分の共重合成分およびグリコール成分の共重合成分の合計量として好ましくは1〜5モル%の共重合成分を含む共重合ポリエチレンテレフタレートであることが好ましい。共重合成分の合計量が1モル%未満であると層間密着力が劣るようになりやすく好ましくない。5モル%を超えると基材層の機械特性が低下しやすく好ましくない。
【0015】
ジカルボン酸成分の共重合成分としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ダイマー酸、コハク酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸といった脂肪族ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、4−ヒドロキシ安息香酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、アンスラセンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ε−カプロラクトン、乳酸といったオキシカルボン酸;を例示することができる。
【0016】
ジオール成分の共重合成分としては、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコールといった脂肪族ジオール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールといったポリアルキレングリコール;ビスフェノールAやビスフェノールSのエチレンオキシド付加体といったグリコール;を例示することができる。共重合成分は1種類を用いてもよく、2種類以上を用いてもよい。
【0017】
これらの中でも、ジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ジオール成分としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0018】
基材層の海成分の共重合ポリエステルとして最も好ましいものは、イソフタル酸および/または2,6−ナフタレンジカルボン酸を共重合成分として合計1〜5モル%含む共重合ポリエチレンテレフタレートである。
【0019】
海成分に用いられる共重合ポリエステルは、公知の方法で製造することができる。テレフタル酸ジメチルとエチレングリコール、および所望の共重合成分のモノマーからのエステル交換反応法、あるいはテレフタル酸とエチレングリコール、および所望の共重合成分のモノマーとの直接エステル化によりオリゴマーを得た後、溶融重合して得ることができる。必要があればさらに常法により固相重合をしてもよい。
【0020】
[島成分]
基材層の島成分としては好ましくはポリエーテルエステルエラストマーを用いる。島成分のポリエーテルエステルエラストマーは、共重合ポリエステルと実質的に非相溶である。実質的に非相溶とは、フィルム製膜時の溶融混練後において、共重合ポリエステル中にポリエーテルエステルエラストマーが海島状に相分離して分散した状態をとることをいい、具体的には後述の測定方法により海島構造が観察されるものをいう。ここで、共重合ポリエステルが海、ポリエーテルエステルエラストマーが島に相当する。
【0021】
ポリエーテルエステルエラストマーは、結晶性ハードセグメントと非晶性ソフトセグメントからなり、非晶性ソフトセグメントとして分子量500〜5000のポリテトラメチレングリコール(以下「PTMG」と略称する)をポリエーテルエステルエラストマー重量100重量%あたり、好ましくは10〜60重量%、さらに好ましくは20〜55重量%、特に好ましくは30〜50重量%の範囲で含む。PTMGの割合が10重量%未満であると相溶性が高すぎて直線引裂き性が得られず、60重量%を超えると共重合ポリエステルと非相溶となり透明性が得られない。PTMGの分子量が5000を超えると共重合ポリエステルとの相溶性が著しく悪化し安定した製膜が不可能となる。PTMGの分子量が500未満であると、共重合ポリエステルとの相溶性が良すぎて直線的な引裂性発現に必要な相分離構造が共重合ポリエステルの海の中に形成できないため好ましくない。
【0022】
なお、本発明におけるポリエーテルエステルエラストマーを構成する結晶性ハードセグメントとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを用いることができ、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0023】
したがって、ポリエーテルエステルエラストマーとして最も好ましいものは、テトラメチレンテレフタレートとポリテトラメチレングリコールとの共重合体である。この共重合体のなかでも、好ましくはポリエーテルエステルエラストマーがポリマー主鎖中にポリテトラメチレングリコールを10〜60重量%含むものを用いる。ここでテトラメチレングリコールは平均分子量は好ましくは500〜5000である。
【0024】
本発明におけるポリエーテルエステルエラストマーは公知の方法で製造することができる。例えばテレフタル酸とブチレングリコールを用いて常法にてポリブチレンテレフタレートの重合反応を行う際に、ポリテトラメチレングリコールを添加することにより得ることができる。
【0025】
[直線引裂性の詳細]
以下、基材層の海成分として共重合ポリエステルを用い、島成分としてポリエーテルエステルエラストマーを用いる場合を例に、直線引裂性について説明する。本発明について、フィルムの面内方向において、フィルムの長手方向(MD方向)に沿ってポリエーテルエステルエラストマーの細長い島状分散の長径の方向が並ぶことになり、フィルムの長手方向に直線引裂性を発現する。
【0026】
この機構については、未だ十分に解明できていないが、以下のような機構ではないかと予想される。まず、共重合ポリエステルとポリエーテルエステルエラストマーは非相溶であるため相分離し、この状態は前者が海で後者がその海の中に島状に分散した状態となる。そして、ポリエーテルエステルエラストマーの島状に分散した粒子が、押出し機内でのせん断力によってポリマーの進行方向に細く伸ばされるような大きな変形をうけ、海島構造のポリエーテルエステルエラストマーの島の長径方向は、最終的なポリマーの進行方向であるMD方向に一致した状態となる。また、島の長径方向に沿った直線的な引裂き性が発現する機構については、このMD方向への変形量が本フィルムの製膜時に横延伸で受けるTD方向への変形量よりも大きいことから、長径方向がMD方向に揃ったままとなり、その方向に直交する方向のフィルム内の結合力が弱まるためと考えられる。
【0027】
[ヒートシール層]
本発明においてヒートシール層は熱融着性の層であり、例えばポリエステルからなり、好ましくは共重合成分を含むポリエステルからなる。共重合成分にはジカルボン酸成分、ジオール成分ともに用いることができる。共重合成分の割合はジカルボン酸成分およびジオール成分の合計量として、全ジカルボン酸成分100モル%あたり例えば10〜50モル%、好ましくは15〜30モル%である。10モル%未満であると結晶性が高すぎてヒートシール性が悪化するので好ましくない。50モル%を超えるとヒートシール層の機械強度が低下しすぎてラミネート強度が保持できないため好ましくない。
【0028】
共重合成分のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の如き芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸といった脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸といった脂環族ジカルボン酸;を例示することができる。共重合成分のジオール成分としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコールといった脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジメタノールといった脂環族ジオール;ビスフェノールAといった芳香族ジオール;を例示することができる。諸特性の発揮のしやすさ、原料の入手のしやすさ、共重合ポリエステルの製造のしやすさなどから、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0029】
ヒートシール層に用いられるポリエステルの共重合成分は、基材層に用いられるポリエステルの共重合成分と同じ成分であることがヒートシール層と基材層との間の層間密着力が向上することから好ましい。したがて、ヒートシール層の最も好ましい態様は、イソフタル酸および/または2,6−ナフタレンジカルボン酸を共重合成分として含む共重合ポリエチレンテレフタレートである。なお、このときの共重合成分は合計10〜50モル%である。
【0030】
共重合成分は、例えばポリエステル重合時にポリマー主鎖に導入して共重合ポリエステルとしたり、この成分を含有するポリエステルを他のポリエステルとブレンドすることにより、ポリエステルに含有させることができる。
【0031】
ヒートシール層は、その面配向係数が、−0.05〜0.05の範囲にあることが好ましい。面配向係数が−0.05未満であるか0.05を超えるとヒートシール性が損なわれることがあり好ましくない。面配向係数は、アッベ法にて測定されたフィルムの各方向成分の屈折率から、次式(1)によって計算される。
P=(nMD+nTD)/2−nZ (1)
【0032】
計算式(1)中のPは面配向係数、nMDはフィルムのMD方向の屈折率、nTDはフィルムのTD方向の屈折率、nZはフィルム面に垂直な厚み方向の屈折率を表わす。なお、「MD方向」とはフィルムの面に平行かつフィルム連続製膜方向に沿った方向であり、「TD方向」とはフィルムの面に平行かつ製膜方向に垂直な方向である。
【0033】
また、ヒートシール層は、結晶化していないほうが、ヒートシールがしやすく好ましい。低角入射X線回折において、顕著な回折ピークが検出されないものであれば、結晶化していないと言え、ヒートシールしやすく好ましい。
【0034】
ヒートシール層は、そのガラス転移温度が40〜115℃であることが好ましい。40℃未満ではヒートシールしない状態でスティッキングが起こる可能性があり、115℃を超えるとヒートシール可能な温度範囲が狭くなり好ましくない。なお、ポリエステルのガラス転移温度の測定は、融解後急冷サンプルについて、示差走査熱量測定装置(Du Pont Instruments 910 DSC)を用い、昇温速度20℃/分でガラス転移に基づく比熱変化部分を求める方法による。サンプル量は20mgとする。
【0035】
ヒートシール層には必要に応じて、例えば紫外線吸収剤、安定剤、帯電防止剤、染料、顔料、および難燃剤を含有させることができる。
ヒートシール層の表面には必要に応じて、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、火炎処理といった表面処理を施してもよい。
【0036】
[ヘーズ、フィルム厚み、滑剤]
本発明のヒートシール性二軸延伸積層フィルムのヘーズは、好ましくは10%以下、さらに好ましくは7%以下、特に好ましくは5%以下である。10%を超えるとフィルムの透明性が悪くなり商品価値が損なわれる。
【0037】
本発明のヒートシール性二軸延伸積層フィルムの厚みは、例えば5〜50μm、好ましくは7〜25μm、さらに好ましくは9〜16μmである。ヒートシール層は相対的な厚みとして、積層フィルムの全厚みの例えば3〜50%、好ましくは4〜40%、特に好ましくは5〜30%の厚みを占める。これより薄いとフィルムの腰が弱くなって折れ曲がったりして不良品を発する可能性があり、厚いとフィルムの剛性(腰)が強すぎて、加工時の取り扱いが難しくなり好ましくない。
【0038】
本発明のヒートシール性二軸延伸積層フィルムは好ましくは滑剤を含有する。透明性を維持するために好ましくは平均粒径2.5μm未満、良好な製膜性と滑り性を得るために好ましくは平均粒径1.0μm以上である。滑剤の添加量は、粒径にも依存するためフィルムの巻き取り性および透明性に悪影響を及ぼさない範囲で適宜選択すればよい。滑剤は基材層およびヒートシール層のいずれかに含有してもよい。滑剤としては、無機系滑剤、有機系滑剤のいずれも用いることができ、無機系滑剤が好ましい。無機系滑剤としては、シリカ、アルミナ、二酸化チタン、炭酸カルシウムまたは硫酸バリウムを例示することができ、有機系滑剤としてはシリコーン粒子を例示することができる。
【0039】
[製造方法]
本発明におけるヒートシール性二軸延伸積層フィルムは、従来から知られている方法に準じて製造することができる。例えば基材層のポリエステルと、ヒートシール層のポリエステルとをダイから冷却ドラム上に共押出して未延伸積層フィルムを得て、この未延伸積層フィルムを縦および横方向に延伸して本発明のヒートシール性二軸延伸積層フィルムとすることができる。より具体的には、例えば融点(Tm)〜(Tm+70)℃の温度で基材層およびヒートシール層のポリエステルを溶融・共押出して未延伸積層フィルムを得、この未延伸積層フィルムを一軸方向(縦方向又は横方向)に(Tg(基材層)−10)〜(Tg(基材層)+70)℃の温度(但し、Tg:ポリエステルのガラス転移温度)で2.5倍以上、好ましくは3倍以上の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向と直角方向にTg(基材層)〜(Tg(基材層)+70)℃の温度で2.5倍以上、好ましくは3倍以上の倍率で延伸するのが好ましい。必要に応じてさらに縦方向および/又は横方向に再度延伸してもよい。このようにして全延伸倍率は、面積延伸倍率として9倍以上が好ましく、12〜35倍がさらに好ましく、15〜30倍が特に好ましい。
【0040】
得られたフィルムは、(Tg(基材層)+70)〜(Tm(基材層)−10)℃の温度、特にヒートシール層のポリエステルが結晶性のものである場合は、(Tm(ヒートシール層)+10)〜(Tm(基材層)−10)℃の温度で熱固定するとよい。また例えば基材層がポリエチレンテレフタレートの場合は180〜245℃で熱固定するとよい。熱固定時間は1〜60秒が好ましい。この熱固定により、ヒートシール層の二軸延伸による分子配向を解消させ、無配向、非晶のものとすることができ、優れたヒートシール性を得ることができる。
【0041】
なお、基材層のポリエステルおよび/またはヒートシール層に用いられるポリエステルは、アンチモン化合物以外の化合物を重合触媒として用いて重合されたポリマーであることが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を掲げて本発明をさらに説明する。なお、各特性の測定および評価は以下の方法に従った。なお、フィルムの長手方向をMD方向といい、MD方向と直交する方向をTD方向という場合がある。
【0043】
(1)ポリテトラメチレングリコールの平均分子量
塩化メチレン溶液中(25℃)で固有粘度([η])を測定し、固有粘度から以下のSchnellの式を用いて平均分子量を算出した。
Mv=[log([η]/1.23×10−4)]/0.83
【0044】
(2)フィルム厚み
打点式フィルム厚み計(Anritsu、K402B)を用い、フィルム幅方向の任意の場所50箇所、フィルム幅の中心付近の長手方向で任意の場所50箇所について厚みを測定し、全100箇所の数平均値をフィルム厚みとした。
【0045】
(3)ヘーズ
JIS K7105の測定法Aに準じて測定した。
【0046】
(4)直線引裂性
フィルムのMD方向を、フィルムから切り出す短冊の長辺に合わせ、4cm×30cmの短冊を切り出した。この短冊の短辺中心に切れ目を入れて、該切れ目より2つに引裂 いたときの、引裂き開始位置から短冊の短辺方向におけるずれを測定した。そして、該ずれを短冊の長辺の長さ(30cm)で割った値(図1において(b−a)cm/30cm×100)が5%未満のもの合格とし、各水準ごとに10個の短冊を測定し、その結果から、以下の基準で判断した。
○:10個中8個以上が合格する良好な直線引裂性
×:10個中7個以下しか合格しない乏しい直線引裂性
【0047】
(5)海島構造の有無
フィルムを包埋カプセルに固定後、エポキシ樹脂を用いて包埋し、ミクロトーム(Reichert-Jung製UlTRACUT)にて長手断面、巾断面を50μm厚に薄切りしたサンプルを、3.2%オスミウム酸・60℃・2hrの条件で蒸気染色を行った後、透過電子顕微鏡(トプコン製、LEM−2000)によって加速電圧100kVで45000倍にて撮影した。海島構造が観察できるものを○、観察できないものを×として評価した。
【0048】
(6)面配向係数
ヒートシール層について、各方向の屈折率をアッベ法にて測定し、前述の計算式(1)によって計算した。
【0049】
(7)ヒートシール強度
ヒートシール層を接して2枚のヒートシール性二軸延伸積層フィルムを合せて、チャック掴み代を残して、180℃、0.15MPaにて3秒間圧着し、ラミネートサンプルを作成した。このラミネートサンプルを15mm幅にスリットし、引張試験機(東洋ボールドウィン社製の商品名「テンシロン」)のクロスヘッドのチャックに掴み代を挟み、たるみの無いようにクロスヘッド位置を調整した。100mm/分のクロスヘッド速度で引張ってラミネートサンプルを剥離させ、試験機に装着されたロードセルで荷重を測定し、ラミネート強度とした(単位:N/15mm)。
【0050】
[実施例1]
ジメチルテレフタレートとエチレングリコールおよび表1に記載の共重合成分とを原料として、テトラブトキシチタンをエステル交換触媒、二酸化ゲルマニウムを重合触媒、正リン酸を安定剤として用い、さらに滑剤として平均粒径1.5μmの多孔質シリカ粒子をポリマーに対して0.05重量%になるように添加して常法により固有粘度(o−クロロフェノール、35℃)0.70の共重合ポリエステルA(以下「Co−PET」と表記することがある)を製造した。同様に、ジメチルテレフタレートとエチレングリコールおよび表1に記載の共重合成分とを原料として、テトラブトキシチタンをエステル交換触媒、二酸化ゲルマニウムを重合触媒、正リン酸を安定剤として用い、常法により固有粘度(o−クロロフェノール、35℃)0.72のポリエステルBを製造した。また、ハードセグメントとしてジメチルテレフタレートとテトラメチレングリコールを原料とし、テトラブトキシチタンをエステル交換触媒、二酸化ゲルマニウムを重合触媒とし、重合時にソフトセグメントとして表1に示す平均分子量および添加量のポリテトラメチレングリコール(以下「PTMG」と表記することがある)を添加することで、表1に示す分子量のポリエーテルエステルエラストマー(以下「PEE」と表記することがある)を得た。
【0051】
上記の共重合ポリエステルAとポリエーテルエステルエラストマーのペレットを表1に示す比率(wt%)でチップ状態でブレンドしたものを120℃で5時間乾燥した後、押出機に供給し、溶融温度290℃で2層ダイの片側(A側)から押出した。他方、ポリエステルBのペレットを攪拌しながら110℃で10時間加熱し表面を結晶化させたものを、さらに170℃で3時間乾燥した後に、別の押出機に供給し、溶融温度250℃で上記2層ダイの反対側(B側)から押出した。この2層溶融物を表面温度20℃の回転冷却ドラム上に押出し、全厚み222μm、各層厚みA/B=207/15μmの未延伸フィルムを得た。
【0052】
このようにして得られた未延伸フィルムを70℃に予熱し、低速ローラーと高速ローラーの間で15mm上方より800℃の表面温度の赤外線ヒーター1本にて加熱して縦方向に3.7倍に延伸した。続いてステンターに供給し、120℃にて横方向に4.0倍に延伸した。得られた二軸配向フィルムを225℃の温度で5秒間熱固定し、15μm厚みの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。こうして得られたフィルムの特性を上記の方法で評価し、その結果を表1に示した。なお、表1中のPTMG含有量はPEE中のポリテトラメチレングリコールの含有量を示す。
【0053】
[実施例2〜5、参考例1〜3、6、7および比較例4、5、8、9]
共重合ポリエステルAの共重合成分およびその比率、ポリエステルエーテルエラストマーの種類と共重合ポリエステルAとの混合比率、ポリエステルBの共重合成分およびその比率、製膜時のステンターの熱固定温度、フィルム厚みとその基材層およびヒートシール層の厚み構成について表1の通りとして変更した以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
本発明の実施例1〜5の延伸ポリエステルフィルムは、PEEの細長い島状構造が観察され、そのサイズがいずれもMD方向に0.6〜3.1μm、TD方向に0.3〜0.4μmとMD方向に伸びた平板状であり、長手方向(MD方向)に良好な引裂直線性を有した上でヘーズも低く透明であり、かつ包装材料として良好な機械特性やヒートシール強度を有するものであった。なお、実施例3では両面ヒートシール層の構成としたため、本ヒートシール強度の評価は行なっていない。
【0056】
これに対して、基材層にホモのポリエチレンテレフタレートを用いた参考例1では、ヒートシール強度の評価において、基材層とヒートシール層との間の界面破壊が起きており、その値が低いものとなった。
【0057】
また、基材層にイソフタル酸12モル%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用いた参考例2では、基材層の融点が227℃であることから熱固定温度が上げられず、結果としてヒートシール層の配向が高いことからヒートシール性は低いものとなった。
【0058】
基材層中のPEEの割合が過度に多い参考例3のフィルム、分子量が過度に大きいPTMG単位を含有したPEEを用いた参考例6のフィルムおよびPEEの割合が過度に多い参考例7では、PETの海の中のPEEの細長い島状構造のサイズがいずれもMD方向に6.1〜18.2μm、TD方向に2.0〜4.7μmと大きくなり過ぎて透明性が悪化した。
【0059】
他方、PEEの割合が過度に少ない比較例4のフィルム、あるいはPTMGの分子量が小さ過ぎる比較例5のフィルム、さらにPTMGの含有量の少な過ぎるPEEをブレンドした比較例8のフィルムでは、PETの海の中にPEEの細長い島状構造が明確に観察されず、海島間の相溶性が高過ぎるか島状構造を十分に形成できないため直線引裂性が悪かった。
【0060】
また、PEEをブレンドしていない比較例9のフィルムでは、直線引裂性は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のヒートシール姓二軸延伸積層フィルムは、熱融着可能な包装材料として用いることができる。例えば、医薬品、化粧品、食品、雑貨の包装に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】直線引裂性の評価における短冊状サンプルの引裂きの一例である。
【符号の説明】
【0063】
a 直線引裂性の評価における短冊状サンプルの端から引裂き開始点までの距離
b 直線引裂性の評価における短冊状サンプルの端から引裂き終了点までの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層およびこのうえのヒートシール層からなり、少なくとも長手方向に直線引裂性を有することを特徴とする、ヒートシール性二軸延伸積層フィルム。
【請求項2】
基材層が海島構造を有する延伸フィルムであり、海成分はフィルムの重量100重量%あたり95〜70重量%を占める共重合ポリエチレンテレフタレートであり、島成分はフィルムの重量100重量%あたり5〜30重量%を占めるポリエーテルエステルエラストマーである、請求項1記載のヒートシール性二軸延伸積層フィルム。
【請求項3】
基材層の共重合ポリエチレンテレフタレートが、イソフタル酸および/または2,6−ナフタレンジカルボン酸を共重合成分として合計1〜5モル%含む、請求項2記載のヒートシール性二軸延伸積層フィルム。
【請求項4】
ヒートシール層が、イソフタル酸および/または2,6−ナフタレンジカルボン酸を共重合成分として合計10〜50モル%含む共重合ポリエチレンテレフタレートからなる、請求項1記載のヒートシール性二軸延伸積層フィルム。
【請求項5】
ヒートシール層の面配向係数が−0.05〜0.05である、請求項1記載のヒートシール性二軸延伸積層フィルム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2006−240221(P2006−240221A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62180(P2005−62180)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】