説明

ヒートポンプ式車両用空調装置

【課題】ガソリン車用空調装置の冷房サイクル、HVACを共用し、最小限の暖房用回路と機器を追加するだけで、低コストで搭載性に優れ、着霜時の課題をも解消できる、EVやHEV車等に好適なヒートポンプ式車両用空調装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車内蒸発器9およびヒータコア10を備えたHVACユニット2と、ヒータコア10を含むクーラント循環回路5と、車内蒸発器9を含む冷房用の冷凍サイクル27と、冷房用冷凍サイクル27に対して、冷媒/クーラント熱交換器28、第1暖房用回路30、第2膨張弁32および車外蒸発器33を備えた第2暖房用回路35を追設し、冷房用冷凍サイクル27と圧力条件が同一の回路および機器等を共用化した暖房用のヒートポンプサイクル36とを備え、暖房時、車外蒸発器33に着霜したとき、車内蒸発器9側に冷媒を流通させた除湿暖房に切替え可能とされているヒートポンプ式車両用空調装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド車等の次世代車の空調装置に好適なヒートポンプ式車両用空調装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)では、暖房にエンジン排熱を利用することができない。また、ハイブリッド車(HEV,PHEV等)では、省燃費化のために、極力エンジンを停止するように制御されることから、ヒートポンプによる暖房あるいは電気ヒータによる暖房が検討されている。しかし、これらの暖房で消費される電力は非常に大きく、このため、高COP(成績係数)暖房が可能なヒートポンプ方式の方が、電気ヒータ方式(COP≦1)よりも望ましいが、様々な排熱を利用できる高COPヒートポンプ暖房システムを構築しようとすると部品点数の増加やコストアップを招く等の問題があった。
【0003】
一方、現状は、ガソリン車からEV車やHEV,PHEV車等の次世代車に移行する過渡期にあることから、膨大な開発費を抑制するため、ガソリン車用空調装置を改良して適用する試みがなされている。通常、ガソリン車の場合、HVACユニット内にヒータコアを設け、エンジン冷却用のクーラントを循環させ、エンジンの排熱で暖房するシステムが用いられているが、ヒートポンプ方式では、HVACユニット(Heating Ventilation and Air Conditioning Unit)内に車内凝縮器(サブコンデンサ)を設けるシステムが一般的であり、構成に大きな違いがある。
【0004】
特に、一般的なヒートポンプシステムの場合、暖房時、冷媒回路を切替えて凝縮器を蒸発器、蒸発器を凝縮器として機能させることになるため、冷媒回路を構成する配管類や蒸発器、凝縮器等の熱交換器を冷房運転および暖房運転の異なる圧力条件下で共用できる構成としなければならず、現行のガソリン車に適用されている車両用空調装置を大幅に変更する必要がある。また、低外気温時、車外側の蒸発器が着霜した場合、如何に除霜するかも大きな課題となる。更に、既存のHVACユニットの流用も検討されているが、ヒータコアを有するHVACユニット内に車内凝縮器(サブコンデンサ)を設けることは、パッケージング上からも温調制御上からも困難である。
【0005】
かかる状況下、HVACユニット内に設けられる車内蒸発器に、現行システムの蒸発器を用いながらヒートポンプ暖房を可能とした車両用空調装置の一例として、特許文献1に示されたものが提案されている。これは、現行の冷房用の冷凍サイクルを備えた車両用空調装置のHVACユニットの車内蒸発器下流側に車内凝縮器を設置したものであり、該車内凝縮器を圧縮機の吐出回路に接続し、その出口側に第1電子膨張弁と第1電磁弁を備えたバイパス回路との並列回路を接続するとともに、第2電子膨張弁および車内蒸発器に対して第2電磁弁を備えたバイパス回路を接続した構成とされている。
【0006】
また、特許文献2には、車内蒸発器およびヒータコアを設けたHVACユニットをそのままとし、冷房用サイクルの圧縮機吐出配管に、水/冷媒熱交換器および膨張弁と、開閉弁を備えたバイパス回路との並列回路を設けたものが示されている。これは、水/冷媒熱交換器でエンジンの冷却水を加熱可能とし、暖房時や除湿暖房時、水/冷媒熱交換器側に冷媒を流通させ、ここで冷却水を加熱し、車外凝縮器を蒸発器として機能させて吸熱することにより、暖房性能の向上を図ったものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−111222号公報
【特許文献2】特開2010−42698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示されるものは、暖房時、車外側の蒸発器が着霜した場合でも、車外側ファンを停止した状態で空調装置を運転し、圧縮機の仕事量に見合った熱量を車内凝縮器および車外蒸発器で放熱することにより、暖房感を得ながら車外蒸発器の除霜を行えるようにしたものである。しかしながら、上記の構成では、車外凝縮器およびそれに接続される冷媒配管系を、凝縮機能と蒸発機能を兼ね備えた熱交換器および高低圧共用の配管系とする必要があり、現行のガソリン車用のシステムの冷媒回路およびHVACユニットを大幅に変更せざるを得ず、車外凝縮器や冷媒配管系を共用化して低コストで簡素な構成のヒートポンプ式車両用空調装置を製造することは困難であった。
【0009】
また、特許文献2に示されるものでは、暖房モード時、水/冷媒熱交換器で冷却水を加熱し、暖房性能を高めることができる。しかしながら、ヒートポンプ暖房運転時に車外蒸発器に着霜した場合、その機能が中断されてしまう等の問題があるとともに、車外蒸発器の霜をデフロストする方式について、解決策を提示するものではない。また、かかる構成では、最大冷房運転時、吹出し温度の変更指令が出された場合、圧縮機からのホットガスを水/冷媒熱交換器側に切替え、そこで加熱された水をヒータコアに循環させて温調する必要があり、応答遅れによって温調性能の低下が懸念される等の問題があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、現行のガソリン車用空調装置の冷房サイクルおよびHVACユニットを共用化し、圧力条件が異なる最小限の暖房用回路および機器を追加するだけで、低コストでかつ搭載性に優れ、しかも車外蒸発器への着霜時の課題をも解消できる、電気自動車やハイブリッド車等に好適なヒートポンプ式車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決するために、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるヒートポンプ式車両用空調装置は、車内蒸発器およびヒータコアを備え、前記車内蒸発器および前記ヒータコアにより温調された空気をその下流側に設けられている複数の吹出し口のいずれかから車内に吹出して車室内を空調するHVACユニットと、前記ヒータコアに対して、エンジン、モータおよびインバータ等の車両駆動用機器を冷却するクーラントを循環可能なクーラント循環回路と、電動圧縮機、車外凝縮器、レシーバ、第1膨張弁、前記車内蒸発器がこの順に接続されている冷房用の冷凍サイクルと、前記電動圧縮機の吐出配管に設けられ、ホットガス冷媒と前記クーラント循環回路内を循環する前記クーラントとを熱交換する冷媒/クーラント熱交換器と、前記車外凝縮器の入口側に設けられている切替え手段を介して前記レシーバに接続される第1暖房用回路と、前記レシーバの出口側と前記電動圧縮機の吸入側との間に接続され、第2膨張弁および車外蒸発器が設けられている第2暖房用回路と、を備え、前記電動圧縮機、前記冷媒/クーラント熱交換器、前記切替え手段、前記第1暖房用回路、前記レシーバ、前記第2膨張弁および前記車外蒸発器を備えた前記第2暖房用回路により暖房用のヒートポンプサイクルが構成され、前記冷媒/クーラント熱交換器で加熱された前記クーラントを前記ヒータコアに循環可能とし、前記暖房用ヒートポンプサイクルによる暖房時、前記車外蒸発器に対して着霜が検知されたとき、前記第2暖房用回路側への冷媒流れを遮断して前記車内蒸発器側に冷媒を流通させ、該車内蒸発器を利用した除湿暖房に切替え可能とされていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、HVACユニットのヒータコアに対して、エンジン、モータおよびインバータ等の車両駆動用機器を冷却するクーラントを循環可能なクーラント循環回路を接続するとともに、車内蒸発器に対して、電動圧縮機、車外凝縮器、レシーバ、第1膨張弁等から構成される冷房用の冷凍サイクルを接続した構成としているため、HVACユニットをガソリン車に適用されている現行の車両用空調装置のHVACユニットと略同一構成とすることができる。さらに、冷房用の冷凍サイクルに対して、冷媒/クーラント熱交換器、第1暖房用回路、第2膨張弁および車外蒸発器を備えた第2暖房用回路を追設し、電動圧縮機、冷媒/クーラント熱交換器、切替え手段、第1暖房用回路、レシーバ、第2膨張弁および車外蒸発器を備えた第2暖房用回路により暖房用のヒートポンプサイクルを構成しているため、原形となる冷房用の冷凍サイクルに冷媒/クーラント熱交換器、第1暖房用回路、第2膨張弁および車外蒸発器を備えた第2暖房用回路等の最小限の暖房用回路と機器を接続することにより、圧力条件が同一となる冷媒回路および機器類を共用化して暖房用のヒートポンプサイクルを構成することができる。従って、冷暖房双方の運転に耐え得る圧力仕様の冷媒回路およびHVACユニットを新たに開発することなく、現行のガソリン車に適用されている車両用空調装置の冷房サイクルと圧力条件が同一となる冷媒回路や機器類を共用化して、圧力条件が異なる最小限の暖房用回路および機器を追加するだけで、構成が比較的簡素で低コストでかつ搭載性に優れ、電気自動車やハイブリッド車等に好適に適用できる信頼性の高い高効率のヒートポンプ式車両用空調装置を提供することができる。また、低外気温時、車外蒸発器に着霜しても、第2暖房用回路への冷媒流れを遮断して車内蒸発器側に冷媒を流し、該車内蒸発器を利用した除湿暖房に切替え可能な構成としているため、車外蒸発器に対する着霜したとしても、そのまま効率のよいヒートポンプ暖房運転を継続することができる。従って、暖房運転中に除霜運転に切替えることによる暖房運転の中断や消費電力のロスを解消することができる。
【0013】
さらに、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、上記のヒートポンプ式車両用空調装置において、前記冷媒/クーラント熱交換器は、前記電動圧縮機から吐出される前記ホットガス冷媒と前記クーラント循環回路を循環する前記クーラントとが常時熱交換可能な構成とされていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、冷媒/クーラント熱交換器が、電動圧縮機から吐出されるホットガス冷媒とクーラント循環回路を循環するクーラントとが常時熱交換可能な構成とされているため、暖房運転中だけでなく、冷房運転中や除湿運転中でも常にヒータコアに高温のクーラントを循環させながら運転することができる。従って、最大冷房運転時に、コントローラ側から急に吹出し温度変更指令が出された場合でも、温調ダンパで温調制御することにより瞬時に目標の吹出し温度に制御することが可能であり、温調制御の応答性を確保することができる。
【0015】
さらに、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、上述のいずれかのヒートポンプ式車両用空調装置において、前記車外蒸発器は、前記車外凝縮器用車外ファンの通風路中の前記車外凝縮器および/または前記クーラント循環回路に接続されている放熱用のラジエータの下流側に配設されていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、車外蒸発器が、車外凝縮器用車外ファンの通風路中の車外凝縮器および/またはクーラント循環回路に接続されている放熱用のラジエータの下流側に配設されているため、冬期の降雪時や積雪時等にも、車外蒸発器に対する雪の付着や堆積等を車外凝縮器および/または放熱用ラジエータによってブロックし、低減することができる。従って、雪の付着や堆積による車外蒸発器の凍結を防止することができるとともに、車外蒸発器による熱交換性能を確保し、暖房性能を向上することができる。また、ラジエータから放熱がある場合には、その熱を車外蒸発器で吸熱することにより、暖房能力の一層の向上を図ることができる。
【0017】
さらに、本発明のヒートポンプ式車両用空調装置は、上記のヒートポンプ式車両用空調装置において、前記暖房用ヒートポンプサイクルによる暖房時、前記車外蒸発器に対して着霜が検知されたとき、前記第2暖房用回路側への冷媒流れを遮断して前記車内蒸発器側に冷媒を流通させ、暖房を継続するとともに、外気温度が所定値以上の場合、前記車外蒸発器を外気により自然除霜し、外気温度が所定値以下の場合、前記ラジエータに前記クーラント循環回路を介して昇温されたクーラントを循環させて外気に放熱させ、その熱により前記車外蒸発器を除霜可能な構成としていることを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、暖房用ヒートポンプサイクルによる暖房時、車外蒸発器に対して着霜が検知されたとき、第2暖房用回路側への冷媒流れを遮断して車内蒸発器側に冷媒を流通させ、暖房を継続するとともに、外気温度が所定値以上の場合、車外蒸発器を外気により自然除霜し、外気温度が所定値以下の場合、ラジエータにクーラント循環回路を介して昇温されたクーラントを循環させて外気に放熱させ、その熱により車外蒸発器を除霜可能な構成としているため、低外気温下の暖房運転時において、車外蒸発器に対して着霜が検知された場合、エンジン、モータおよびインバータ等の車両駆動用機器の排熱を利用してクーラントの温度を上昇させ、暖房性能を高めることができるとともに、ラジエータからその一部を放熱させ、加熱された温風を利用して車外蒸発器を効率よく効果的に除霜することができる。従って、車両駆動用機器の排熱を有効に利用して暖房および除霜を行うことができ、省動力化を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、HVACユニットをガソリン車に適用されている現行の車両用空調装置のHVACユニットと略同一構成とすることができるとともに、原形となる冷房用の冷凍サイクルに冷媒/クーラント熱交換器、第1暖房用回路、第2膨張弁および車外蒸発器を備えた第2暖房用回路等の最小限の暖房用回路と機器を接続することにより、圧力条件が同一となる冷媒回路および機器類を共用化して暖房用のヒートポンプサイクルを構成することができるため、冷暖房双方の運転に耐え得る圧力仕様の冷媒回路やHVACユニットを新たに開発することなく、現行のガソリン車に適用されている車両用空調装置の冷房サイクルと圧力条件が同一となる冷媒回路や機器類を共用化して、圧力条件が異なる最小限の暖房用回路および機器を追加するだけで、構成が比較的簡素で低コストでかつ搭載性に優れ、電気自動車やハイブリッド車等に好適に適用できる信頼性の高い高効率のヒートポンプ式車両用空調装置を提供することができる。また、車外蒸発器に対する着霜したとしても、そのまま効率のよいヒートポンプ暖房運転を継続することができるため、暖房運転中に除霜運転に切替えることによる暖房運転の中断や消費電力のロスを解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態にかかるヒートポンプ式車両用空調装置の冷媒回路図である。
【図2】図1に示すヒートポンプ式車両用空調装置の冷房時および除湿暖房時の冷媒流れを示す冷媒回路図である。
【図3】図1に示すヒートポンプ式車両用空調装置のエンジン排熱暖房時の冷媒流れを示す冷媒回路図である。
【図4】図1に示すヒートポンプ式車両用空調装置のヒートポンプ暖房時の冷媒流れを示す冷媒回路図である。
【図5】図1に示すヒートポンプ式車両用空調装置の車外蒸発器に着霜時の冷媒流れを示す冷媒回路図である。
【図6】図1に示すヒートポンプ式車両用空調装置を制御する制御装置のブロック図である。
【図7】図6に示す制御装置による運転制御フロー図である。
【図8】図6に示す制御装置による冷房運転制御時の制御フロー図である。
【図9】図6に示す制御装置による暖房運転制御時の制御フロー図の一部分図である。
【図10】図6に示す制御装置による暖房運転制御時の制御フロー図の他の一部分図である。
【図11】図6に示す制御装置による暖房運転制御時の制御フロー図の他の一部分図である。
【図12】図6に示す制御装置による除霜運転制御時の制御フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態について、図1ないし図12を参照して説明する。
図1には、本発明の一実施形態にかかるヒートポンプ式車両用空調装置の冷媒回路図が示されている。
本実施形態にかかるヒートポンプ式車両用空調装置1は、HVACユニット(Heating Ventilation and Air Conditioning Unit)2と、冷暖房可能なヒートポンプサイクル3と、HVACユニット2のヒータコア10に対して、エンジン、モータおよびインバータ等の車両駆動用機器4を冷却するクーラントを循環可能としたクーラント循環回路5とを備えている。
【0022】
HVACユニット2は、内外気切替えダンパ6を介して車内からの内気または外気のいずれかを切替え導入し、下流側に圧送するブロア7と、ブロア7に連なる空気流路8中に上流側から下流側にかけて順次配設されている車内蒸発器9と、ヒータコア10と、温調ダンパ11とを備えている。このHVACユニット2は、車内前方のインストルメントパネル内に設置され、車内蒸発器9およびヒータコア10により温調された空気を、車内に向け開口されているデフ吹出し口12、フェイス吹出し口13、フット吹出し口14等の複数の吹出し口のいずれかから、吹出しモード切替えダンパ15,16,17により切替えられる吹出しモードに従って車内に吹出し、車室内を設定温度に空調するものである。
【0023】
冷暖房可能なヒートポンプサイクル3は、冷媒を圧縮する電動圧縮機20と、車外凝縮器21と、レシーバ22と、第1電磁弁23および第1膨張弁24と、HVACユニット2内に設けられている上記車内蒸発器9と、逆止弁25とがこの順に冷媒配管26を介して接続されている閉サイクルの冷房用の冷凍サイクル(冷媒回路)27を備えている。この冷房用の冷凍サイクル27は、ガソリン車に適用されている現行の車両用空調装置と同様のものでよい。
【0024】
上記ヒートポンプサイクル3には、原形となる上記冷房用冷凍サイクル27に対して、電動圧縮機20からの吐出配管(吐出回路)26Aに、クーラント循環回路5内を循環するクーラントと、電動圧縮機20から吐出されるホットガス冷媒とを熱交換する冷媒/クーラント熱交換器28が設けられている。また、車外凝縮器21の入口側冷媒配管26Bに、三方切替え弁(切替え手段)29が設けられ、この三方切替え弁29を介して冷媒/クーラント熱交換器28で凝縮された冷媒をレシーバ22に導く第1暖房用回路30が接続されている。更に、レシーバ22の出口冷媒配管26Dと、電動圧縮機20への吸入配管26Eとの間には、第2電磁弁31、第2膨張弁32、車外蒸発器33および逆止弁34が順次配設されている第2暖房用回路35が接続されている。
【0025】
これによって、電動圧縮機20と、冷媒/クーラント熱交換器28と、三方切替え弁29と、第1暖房用回路30と、レシーバ22と、第2電磁弁31、第2膨張弁32、車外蒸発器33および逆止弁34が設けられている第2暖房用回路35とがこの順に冷媒配管26を介して接続されている閉サイクルの暖房用ヒートポンプサイクル(冷媒回路)36が構成されている。なお、三方切替え弁29は、2個の電磁弁を組み合わせた構成により代替してもよい。
【0026】
上記ヒートポンプサイクル3において、暖房用ヒートポンプサイクル36を構成する車外蒸発器33は、冷房用冷凍サイクル27を構成する車外凝縮器21に対して外気を通風する車外ファン37の通風路中の下流側に、車外凝縮器21と互いに平行に設置され、車外ファン37を共用化している。また、車外凝縮器21の下流側には、エンジン、モータおよびインバータ等の車両駆動用機器4を冷却したクーラントの熱を放熱するラジエータ40が設置され、車外蒸発器33は、このラジエータ40の下流側に設置されている。なお、ラジエータ40は、エンジン冷却用、モータおよびインバータ冷却用に独立して複数設けてもよい。
【0027】
また、本実施形態のレシーバ22は、図1に示されるように、車外凝縮器21からの冷媒配管26Cおよび第1暖房用回路30が接続される2つの冷媒流入口にそれぞれ逆止弁38,39が一体的に組み込まれた逆止弁付きレシーバ22とされている。
【0028】
さらに、クーラント循環回路5は、車両駆動用機器(エンジン、モータおよびインバータ等)4を冷却して温度上昇したクーラントを、冷媒/クーラント熱交換器28およびヒータコア10側と、ラジエータ40側とに平行に循環可能な構成とされている。このクーラント循環回路5には、クーラントポンプ41および三方制御弁42が設けられ、クーラントの温度に応じて、冷媒/クーラント熱交換器28およびヒータコア10側と、ラジエータ40側とに流すクーラントの流量が自動調整可能とされている。
【0029】
なお、本実施形態では、第1膨張弁24および第2膨張弁32として、温度式自動膨張弁が使用されており、それぞれの入口側に冷媒回路を開閉する第1電磁弁23および第2電磁弁31を設けた構成としている。しかし、この第1電磁弁23と第1膨張弁24および第2電磁弁31と第2膨張弁32については、それぞれ開閉弁の機能を兼ね備えた電子膨張弁を1個ずつ設置した構成に代替してもよい。
【0030】
次に、上記ヒートポンプ式車両用空調装置1の運転時の冷媒およびクーラントの流れを図2ないし図5を用いて説明する。なお、各図において、運転時の冷媒およびクーラントの流れ経路が太線で表されている。
[冷房および除湿暖房]
冷房および除湿暖房運転時、電動圧縮機20で圧縮された冷媒は、図2に示されるように、吐出配管26Aより冷媒/クーラント熱交換器28、三方切替え弁29を経由して車外凝縮器21に循環され、車外ファン37を介して通風される外気と熱交換されて凝縮液化される。この液冷媒は、冷媒配管26C、逆止弁38を経由してレシーバ22内に導入され、いったん貯留された後、冷媒配管26D、第1電磁弁23を経て第1膨張弁24に導かれ、ここで減圧されて気液二相状態となり、車内蒸発器9に供給される。
【0031】
車内蒸発器9でブロア7から送風されてくる内気または外気(除湿暖房時は内気)と熱交換されて蒸発ガス化された冷媒は、逆止弁25を経由して吸入配管26Eより電動圧縮機20に吸入され、再圧縮される。以下、同様のサイクルを繰り返す。この冷房サイクル27は、ガソリン車に適用されている現行の車両用空調装置の冷房サイクルと同様のものであり、そのまま共用化することができる。車内蒸発器9で冷媒との熱交換されることにより冷却された内気または外気は、吹出しモード切替えダンパ15,16,17により切替えられる吹出しモードに応じて、デフ吹出し口12、フェイス吹出し口13、フット吹出し口14のいずれかから車内に吹出され、車室内の冷房に供される。
【0032】
なお、最大冷房(MAX COOL)時、ヒータコア10への通風は、温調ダンパ11で遮断され、車内蒸発器9で冷却された冷風がそのまま車内へと吹出される。また、冷房サイクル27で運転しながら、ヒータコア10の入口に設けられている温調ダンパ11を開き、車内蒸発器9で冷却された冷風の一部をヒータコア10に通風して再熱することにより、温調制御を行うことができる。
【0033】
一方、除湿暖房時には、車内蒸発器9で冷却された冷風をヒータコア10で加熱することにより除湿された温風とし、これを吹出しモード切替えダンパ15,16,17により切替えられる吹出しモードに応じて、デフ吹出し口12、フェイス吹出し口13、フット吹出し口14のいずれかから車内に吹出し、車室内の除湿暖房に供することができる。この除湿暖房運転時、クーラント循環回路5のクーラントポンプ(ウォーターポンプ)41が運転されており、車両駆動用機器4を冷却して昇温されたクーラントは、冷媒/クーラント熱交換器28でホットガス冷媒により更に加熱され、ヒータコア10に循環されるようになっている。
【0034】
[排熱暖房]
エンジン、モータおよびインバータ等の車両駆動用機器4側からの排熱が十分確保されている場合、図3に示されるように、ヒートポンプサイクル3側の運転を停止し、クーラント循環回路5のクーラントポンプ41のみを運転することにより、排熱暖房運転を行うことができる。この場合、車両駆動用機器4を冷却して昇温されたクーラントは、クーラントポンプ41により冷媒/クーラント熱交換器28を経由してヒータコア10に循環される。ヒータコア10でブロア7からの外気または内気と熱交換され、温度降下したクーラントは、三方制御弁42を介して車両駆動用機器4に戻る経路を循環し、外気または内気を加熱することによって暖房に供される。
【0035】
[ヒートポンプ暖房(着霜前)]
ヒートポンプ暖房運転時、車外蒸発器33に対して着霜する迄の間は、図4に示されるように、電動圧縮機20で圧縮されたホットガス冷媒は、吐出配管26Aにより冷媒/クーラント熱交換器28に導入され、ここで、クーラント循環回路5を循環するクーラントに放熱して凝縮される。この液冷媒は、三方切替え弁29を介して第1暖房用回路30に導かれ、逆止弁39を経てレシーバ22内に導入される。レシーバ22でいったん貯留された冷媒は、冷媒配管26Dを経て第2暖房用回路35に導かれ、第2電磁弁31を経て第2膨張弁32を通過する過程で減圧されることにより気液二相状態となり、車外蒸発器33に供給される。
【0036】
車外蒸発器33に供給された冷媒は、車外蒸発器33で車外ファン37により通風される外気と熱交換され、外気から吸熱することで蒸発ガス化された後、逆止弁34を経て吸入配管26Eより電動圧縮機9に吸入され、再圧縮される。以下、同様のサイクルが繰り返され、この暖房用ヒートポンプサイクル35により、冷媒/クーラント熱交換器28で加熱されたクーラントがクーラント循環回路5を介してヒータコア10に循環され、該ヒータコア10でブロア7から送風される外気または内気を加熱することによって、ヒートポンプ暖房運転が行われる。
【0037】
このように、原形となる冷房用の冷凍サイクル27の吐出配管(吐出回路)26Aに冷媒/クーラント熱交換器28、車外凝縮器21の入口側に設けられた三方切替え弁29とレシーバ22との間に第1暖房用回路30、更にレシーバ22の出口側と電動圧縮機20の吸入側との間に第1電磁弁31、第2膨張弁32および車外蒸発器33が設けられている第2暖房用回路35等の最小限の暖房用回路および機器を接続することによって、圧力条件が同一となる回路部分および機器類を共用化して暖房用のヒートポンプサイクル36を構成することができる。
【0038】
[ヒートポンプ暖房(着霜後)]
上記のように、車外蒸発器33を蒸発器として機能させ、外気から吸熱して暖房運転を行うと、低外気温時に、車外蒸発器33の表面に着霜し、着霜が進むに連れて暖房能力が低下して行き、暖房不能に陥る虞がある。このため、本実施形態では、車外蒸発器33に対して着霜が検知された場合、図5に示されるように、第1電磁弁23を開、第2電磁弁31を閉とし、車内蒸発器8を利用したヒートポンプ暖房サイクル36に切替えるようにしている。
【0039】
この場合、電動圧縮機20から吐出されたホットガス冷媒は、着霜前の暖房運転時と同様、まず吐出配管26Aにより冷媒/クーラント熱交換器28に導入され、ここで、クーラント循環回路5を循環するクーラントに放熱して凝縮される。この液冷媒は、三方切替え弁29を介して第1暖房用回路30に導かれ、逆止弁39を経てレシーバ22内に導入される。レシーバ22でいったん貯留された冷媒は、冷媒配管26D、第1電磁弁23を経由して第1膨張弁24に導かれ、減圧されて気液二相状態となり、車内蒸発器9に供給される。
【0040】
車内蒸発器9において、ブロア7から送風されてくる内気と熱交換されて蒸発ガス化された冷媒は、逆止弁25、吸入配管26Eを経由して電動圧縮機20に吸入され、再圧縮される。以下、同様のサイクルを繰り返すことになる。この間、車内蒸発器9で冷媒に吸熱されることによって冷却除湿された空気(内気)は、上記の如く車内蒸発器9の下流側に設置されているヒータコア10で加熱され、デフ吹出し口12、フェイス吹出し口13およびフット吹出し口14のいずれかから車内に吹出されることにより、車室内の暖房に供される。
【0041】
このように、車外蒸発器33に着霜した後は、車内蒸発器9を蒸発器として利用した除湿暖房運転に切替え、冷媒/クーラント熱交換器28で加熱されたクーラントをヒータコア10に循環させることによって、暖房運転を継続することができる。また、この車外蒸発器33に着霜後の暖房運転は、除湿暖房運転となる。このため、窓の曇りを心配する必要がなく、内気循環モードに切替え、車内蒸発器9で温度の高い空気から吸熱することにより暖房能力を高めることができる。
【0042】
[除霜(デフロスト)]
車外蒸発器33を機能させて暖房運転しているときに、車外蒸発器33に着霜した場合でも、直ちに除霜せず、車内蒸発器9を利用した除湿暖房運転に切替えることにより、そのまま暖房運転を継続するようにしている。このように、本実施形態では、暖房運転を中断した強制的な除霜運転は行わないようにしており、暖房運転を行いながら、以下によりデフロストするようにしている。
【0043】
外気温が氷点下でない場合、自然風もしくは必要に応じて車外ファン37を運転して車外蒸発器33に外気を通風し、外気により自然デフロストを行い、除霜が完了した時点で車外蒸発器33を用いた暖房運転に復帰させるようにしている。一方、外気温が氷点下の場合、自然デフロストが困難なため、図5に示されるように、車両駆動用機器4を冷却して昇温されたクーラントの一部を、クーラント循環回路5を介してラジエータ40に循環させて外気に放熱し、その熱で加温された外気をラジエータ40の下流側に設けられている車外蒸発器33に吹き付けることにより、デフロストするようにしている。
【0044】
このように、車外蒸発器33に着霜したときには、車内蒸発器9に切替えて除湿暖房運転により暖房運転を継続しながら、車外蒸発器33の着霜を自然デフロストまたはラジエータ40からの放熱を利用してデフロストし、各々のデフロストが完了した時点で車外蒸発器33を用いた暖房運転に復帰させることにより、その間に効率よく効果的にデフロストすることができる。
【0045】
以上の各運転は、図6に示されている空調用制御装置50を介して制御されるようになっている。この制御装置50は、車両側の上位制御装置51と接続され、車両側から関係情報が入力可能とされているとともに、コントロールパネル52を備えており、以下のセンサー群からの検出信号と、上位制御装置51およびコントロールパネル52からの入力情報とに基づいて、車両用空調装置1の運転制御を行うものである。
【0046】
制御装置50には、車両の適所に設置されている車内温度センサー(Tr)53、外気温度センサー(Tamb)54、日射センサー(Ts)55、車速センサー56の他、車両用空調装置1側の車内蒸発器9に設置されているフロストセンサー(FS)57、車外蒸発器33に設置されている車外蒸発器冷媒温度センサー(T1)58、吐出配管26Aに設置されている高圧センサー(HP)59、ヒータコア10に設置されているヒータコア吹出し温度センサー(Tc)60、クーラント温度センサー61、車外蒸発器フィン温度センサー(Tf)62等からの検出信号が入力されるようになっている。
【0047】
制御装置50は、上記各センサー53−62からの検出信号と、コントロールパネル52および上位制御装置51からの入力情報とに基づいて、予め設定されているプログラムに従って所要の演算、処理等を行い、吹出しモード切替えダンパ15,16,17用のアクチエータ63、内外気切替えダンパ6用のアクチエータ64、温調ダンパ11用のアクチエータ65、ブロア6用のモータ66、車外ファン37用のモータ67、電動圧縮機20用のモータ68、クーラントポンプ41用のモータ69、三方切替え弁29用の電磁コイル70、電磁弁23,31用の電磁コイル71および三方制御弁42用のモータ72等を制御し、上記の如く車両用空調装置1を運転制御する機能を担っているものである。
【0048】
以下に、この制御装置50による車両用空調装置1の運転制御を、図7ないし図12に示すフロー図を参照して説明する。
図7は、車両用空調装置1のメイン制御フロー図であり、制御が開始されると、まずステップS1において、コントロールパネル52の設定を読み込み、更にステップS2において、各センサー53−62からの検出値を読み込む。これらの設定値および検出値に基づき、ステップS3において、目標吹出し温度Ttarを算出し、ステップS4に移行する。ここで、除湿運転ありか否かが判定され、「YES」であれば、ステップS5に移行して「冷房運転制御」に入り、「NO」であれば、ステップS6に移行して「暖房運転制御」に入る。その後、ステップS7において、各センサー53−62の検出値を出力し、スタート点に戻る。
【0049】
上記ステップS5において「冷房運転制御」に入ると、図8に示される冷房運転制御に移行される。冷房運転制御では、まずステップS10において、三方切替え弁29の流路が決定され、冷媒を車外凝縮器21側に流す回路に接続される。続いて、ステップS11において、電磁弁の開閉が決定され、電磁弁23が開、電磁弁31が閉とされる。これによって、冷房用サイクル27が設定される。
【0050】
引き続き、ステップS12において、電動圧縮機20の回転数、ステップS13において、内外気切替えダンパ6の切替えによる吸込みモード、ステップS14において、吹出しモード切替えダンパ15,16,17の切替えによる吹出しモード、ステップS15において、温調ダンパ11の開度、ステップS16において、ブロア7の駆動電圧、ステップS17において、車外ファン37の駆動電圧等がそれぞれ決定され、モータおよびアクチエータ63−68、70,71が駆動されることによって、車内温度が設定温度となるように冷房運転が実行される。その後、S1(=ステップS7)に戻り、冷房運転が継続される。
【0051】
また、上記ステップS6において「暖房運転制御」に入ると、図9および図11に示される暖房運転制御に移行される。暖房運転制御では、まずステップS20において、外気温度Tambが、設定値a(例えば、aは氷点の0℃)以上か否か(Tamb≧a)が判定され、「YES」の場合、ステップS21に移行され、「NO」の場合、ステップS22に移行される。ステップS21においては、三方切替え弁29の流路が決定され、冷媒を第1暖房用回路30側に流す回路に接続される。続いて、ステップS23において、電磁弁の開閉が決定され、電磁弁23が閉、電磁弁31が開とされる。これにより、冷媒を第2暖房用回路35側、すなわち車外蒸発器33に流す着霜前の暖房用ヒートポンプサイクル36が設定される。
【0052】
その後、ステップS24に移行され、ここで内外気切替えダンパ6が外気導入モードに決定され、ステップS25に移行される。ステップS25においては、車外蒸発器33に対する着霜の有無が判定される。この着霜判定は、車外蒸発器冷媒温度センサー58の検出値T1と外気温度センサー54の検出値Tambとの差が、設定値a以上か否か(T1−Tamb≧a)で判定され、「YES」(着霜あり)と判定されると、ステップS26に移行され、「NO」(着霜なし)と判定されると、ステップS27に移行される。
【0053】
着霜なしによりステップS27に移行されると、ここで、電動圧縮機20の回転数が決定され、更に、ステップS28において、吹出しモード切替えダンパ15,16,17の切替えるによる吹出しモード、ステップS29において、温調ダンパ11の開度、ステップS30において、ブロア7の駆動電圧、ステップS31において、車外ファン37の駆動電圧等が順次決定され、モータおよびアクチエータ63,65−68が駆動されることにより、車内温度が設定温度となるように暖房運転が実行される。その後、S1(=ステップS7)に戻り、暖房運転が継続される。
【0054】
一方、ステップS25で着霜ありと判定されてステップS26に移行すると、「除霜運転制御」に入り、図12に示されるように、除霜運転制御が実行される。
この除霜運転制御では、まずステップS80において、三方切替え弁29の流路が決定され、冷媒を第1暖房用回路30側に流す回路に接続される。続いて、ステップS81において、電磁弁の開閉が決定され、電磁弁23が開、電磁弁31が閉とされ、蒸発器が車内蒸発器9に切替えられた着霜後の暖房用ヒートポンプサイクル36が設定される。
【0055】
引き続き、ステップS82において、電動圧縮機20の回転数、ステップS83において、内外気切替えダンパ4の切替えによる吸込みモード(この場合、内気循環モード)、ステップS84において、吹出しモード切替えダンパ15,16,17の切替えによる吹出しモード、ステップS85において、温調ダンパ11の開度、ステップS86において、ブロア7の駆動電圧、ステップS87において、車外ファン37の駆動電圧等が順次決定され、モータおよびアクチエータ63−68が駆動されることによって、車内温度が設定温度となるように、車内蒸発器9を用いた除湿暖房運転が実行される。
【0056】
このように、除霜運転制御される間、空調装置1は除湿暖房運転され、この間に車外蒸発器33に着霜していた霜は、自然風もしくは車外ファン37を介して通風される外気によって自然にデフロストされる。そして、除霜運転制御が終了すると、S2(=ステップS32)に戻り、ここで、車外蒸発器フィン温度センサー(Tf)62の検出値が、設定値b以下か否か(Tf<b)が判定される。「YES」の場合は、デフロスト未完了と判断され、ステップS26に戻り、除霜運転制御が継続される。また、「NO」の場合は、ステップS33に移行して除霜運転制御が終了される。その後、S1(=ステップS7)に戻って、暖房運転が継続されることになる。
【0057】
一方、上記ステップS20において、「NO」と判定され、ステップS22に移行された場合、ここで、クーラント温度センサー61により検出されたクーラントの温度(または水温)Twが、設定値c以下か否か(Tw<c)が判定される。クーラントの温度Twが非常に高く、「NO」と判定されると、ステップS34に移行され、車両駆動用機器4のエンジンがオフとされ、更にステップS35でクーラントポンプ(ウォーターポンプ)41がオフ、ステップS36で電動圧縮機20がオフとされる。続いて、ステップS37で吹出しモード切替えダンパ15,16,17の切替えによる吹出しモード、ステップS38で温調ダンパ11の開度、ステップS39でブロア7の駆動電圧が決定され、モータおよびアクチエータ63,65,66が駆動される。これによって、排熱暖房が行われることになる。
【0058】
また、ステップS22で「YES」と判定されると、ステップS40に移行され、クーラントの温度Twが、設定値d以上か否か(Tw>d)が判定される。クーラントの温度Twが非常に低く、「NO」と判定されると、ステップS41に移行され、設定値d以上の場合、「YES」と判定され、ステップS42に移行される。ステップS42では、三方切替え弁29の流路が決定され、冷媒を第1暖房用回路30側に流す回路に接続される。続いて、ステップS43において、電磁弁の開閉が決定され、電磁弁23が閉、電磁弁31が開とされ、これにより、冷媒を車外蒸発器33に流す着霜前の暖房用ヒートポンプサイクル36が設定される。
【0059】
その後、ステップS44に移行され、ここで、内外気切替えダンパ6が外気導入モードと決定され、ステップS45に移行される。ステップS45では、車外蒸発器33に対する着霜の有無が判定される。この着霜判定は、車外蒸発器冷媒温度センサー58の検出値T1と外気温度センサー54の検出値Tambとの差が、設定値e以上か否か(T1−Tamb≧e)で判定され、「YES」(着霜あり)と判定されると、ステップS46に移行され、「NO」(着霜なし)と判定されると、ステップS47に移行される。
【0060】
ステップS45で着霜なしと判定され、ステップS47に移行すると、ここで、車両駆動用機器4のエンジンがオフとされ、更にステップS48でクーラントポンプ(ウォーターポンプ)41がオフとされる。続いて、ステップS49において、電動圧縮機20の回転数、ステップS50において、吹出しモード切替えダンパ15,16,17の切替えるによる吹出しモード、ステップS51において、温調ダンパ11の開度、ステップS52において、ブロア7の駆動電圧、ステップS53において、車外ファン37の駆動電圧等がそれぞれ決定され、モータおよびアクチエータ63,65−68が駆動されることによって、車内温度が設定温度となるように暖房運転が実行される。その後、S1(=ステップS7)に戻り、暖房運転が継続される。
【0061】
また、ステップS45で着霜ありと判定され、ステップS46に移行すると、ここで、車両駆動用機器4のエンジンがオンとされ、更にステップS54でクーラントポンプ(ウォーターポンプ)41がオンとされる。その後、ステップS55に移行して、「除霜運転制御」に入り、図12の通り除霜運転制御が実行される。なお、この除霜運転制御は、上述した通りであり、説明は省略する。一方、この除霜運転制御の間は、車両駆動用機器4のエンジンおよびクーラントポンプ41がオンとされているため、エンジンの排熱で温度上昇されたクーラントがラジエータ40に循環され、外気に放熱される。従って、その熱で加熱された温風を利用して車外蒸発器33の霜を効率よくデフロストすることができる。
【0062】
除霜運転制御が終了すると、S2(=ステップS56)に戻り、車外蒸発器フィン温度センサー(Tf)62の検出値が、設定値b以下か否か(Tf<b)が判定される。「YES」と判定された場合、デフロスト未完了と判断され、ステップS55に戻って、除霜運転制御が継続される。また、「NO」と判定された場合、ステップS57に移行して除霜運転制御が終了される。その後、S1(=ステップS7)に移行され、暖房運転が継続されることになる。
【0063】
さらに、上記ステップS40において、クーラントの温度Twが非常に低く、「NO」と判定されてステップS41に移行された場合、ここで、車両駆動用機器4のエンジンがオンとされ、続くステップS58で、クーラントポンプ(ウォーターポンプ)41がオンとされる。次いで、ステップS59において、三方切替え弁29の流路が決定され、冷媒を第1暖房用回路30側に流す回路に接続される。更にステップS60において、電磁弁の開閉が決定され、電磁弁23が閉、電磁弁31が開とされる。これにより、冷媒を車外蒸発器33に流す着霜前の暖房用ヒートポンプサイクル36が設定される。
【0064】
その後、ステップS61に移行され、ここで、内外気切替えダンパ6が外気導入モードと決定され、ステップS62に移行される。ステップS62では、車外蒸発器33に対する着霜の有無が判定される。この着霜判定は、車外蒸発器冷媒温度センサー58の検出値T1と外気温度センサー54の検出値Tambとの差が、設定値e以上か否か(T1−Tamb≧e)で判定される。「YES」(着霜あり)と判定されると、ステップS63に移行され、「NO」(着霜なし)と判定されると、ステップS64に移行される。
【0065】
ステップS62で着霜なしと判定され、ステップS64に移行すると、ここで、電動圧縮機20の回転数が決定される。続いて、ステップS65において、吹出しモード切替えダンパ15,16,17の切替えるによる吹出しモード、ステップS66において、温調ダンパ11の開度、ステップS67において、ブロア7の駆動電圧、ステップS68において、車外ファン37の駆動電圧等が順次決定され、モータおよびアクチエータ63,65−68が駆動されることによって、車内温度が設定温度となるように暖房運転が実行される。その後、S1(=ステップS7)に戻り、暖房運転が継続される。
【0066】
また、ステップS62で着霜ありと判定されると、ステップS63に移行して「除霜運転制御」に入り、図12の通り除霜運転制御が実行される。この除霜運転制御は、上述した通りであり、説明は省略する。一方、この除霜運転制御の間は、車両駆動用機器4のエンジンおよびクーラントポンプ41がオンとされているため、エンジンの排熱により温度上昇されたクーラントがラジエータ40に循環され、外気に放熱される。従って、その熱で加熱された温風を利用して車外蒸発器33の霜を効率よく除霜することができる。
【0067】
除霜運転制御が終了すると、S2(=ステップS69)に戻り、車外蒸発器フィン温度センサー(Tf)62の検出値が、設定値b以下か否か(Tf<b)が判定される。「YES」と判定された場合、デフロスト未完了と判断され、ステップS63に戻って、除霜運転制御が継続される。また、「NO」と判定された場合、ステップS70に移行して除霜運転制御が終了される。その後、S1(=ステップS7)に移行され、暖房運転が継続されることになる。
【0068】
斯くして、本実施形態によると、以下の作用効果が奏される。
本実施形態のヒートポンプ式車両用空調装置1によれば、ブロア7からの空気流路8中に車内蒸発器9、ヒータコア10および温調ダンパ11等が順次配設され、車内蒸発器9およびヒータコア10で温調された空気をその下流側に設けられている複数の吹出し口のいずれかから車内に吹出して車室内を空調するHVACユニット2として、現行のガソリン車用の空調装置に適用されているHVACユニットを略同一構成のまま適用することができる。
【0069】
さらに、現行のガソリン車用の空調装置に適用されている電動圧縮機20、車外凝縮器21、レシーバ22、第1膨張弁24およびHVACユニット2内に設けられた車内蒸発器9等からなる冷房用の冷凍サイクル27に対し、冷媒/クーラント熱交換器28、第1暖房用回路30、第2膨張弁32および車外蒸発器33を備えた第2暖房用回路35等の最小限の暖房用回路および機器を接続することにより、圧力条件が同一となる冷媒回路および機器類を共用化して暖房用のヒートポンプサイクル36を構成することができる。
【0070】
このため、冷暖房双方の運転に耐え得る仕様のヒートポンプおよびHVACユニットを新たに開発することなく、ガソリン車に適用されている現行の車両用空調装置の冷房サイクルと圧力条件が同一となる冷媒回路や機器類をそのまま共用化し、圧力条件が異なる最小限の暖房用回路および機器を追加するだけで、構成が比較的簡素で低コストでかつ搭載性に優れ、電気自動車やハイブリッド車等に好適に適用できる信頼性の高い高効率のヒートポンプ式車両用空調装置1を提供することができる。
【0071】
また、暖房用ヒートポンプサイクル36は、低外気温時、車外蒸発器33に着霜した場合に、第2暖房用回路35側への冷媒流れを遮断して車内蒸発器9側に冷媒を流し、車内蒸発器8を利用した除湿暖房に切替え可能とされている。このため、車外蒸発器33に対する着霜時には、蒸発器を車内蒸発器8側に切替えることにより、そのまま効率のよいヒートポンプ暖房運転を継続することができ、従って、暖房運転中に除霜運転に切替えることによる暖房運転の中断や消費電力のロスを解消することができる。
【0072】
さらに、車内蒸発器9を利用した除湿暖房運転に切替えられた時、内気循環モードで運転されるようにしているため、車内蒸発器9を利用した除湿暖房運転時、比較的温度の高い車内空気を熱源としてヒートポンプ暖房運転を行うことができ、従って、暖房能力を十分に確保することができる。また、通常、低外気温時には、窓の曇りを防止するために外気導入モードにより暖房運転しているが、車内蒸発器9を利用した除湿暖房運転とすることによって、内気循環モードとしても窓曇りを防止することができる。
【0073】
また、冷媒/クーラント熱交換器28は、電動圧縮機20から吐出されるホットガス冷媒と、クーラント循環回路5を循環するクーラントとが常時熱交換可能な構成とされているため、暖房運転中だけでなく、冷房運転中や除湿運転中でも常にヒータコア10に高温のクーラントを循環させながら運転することができる。従って、最大冷房運転時に、コントローラ側から急に吹出し温度変更指令が出された場合でも、温調ダンパ11で温調制御することにより瞬時に目標の吹出し温度に制御することが可能であり、温調制御の応答性を確保することができる。
【0074】
また、本実施形態では、車外蒸発器33を、車外凝縮器用車外ファン37の通風路中の車外凝縮器21および/またはクーラント循環回路5に接続されている放熱用のラジエータ40の下流側に配設した構成としており、冬期の降雪時や積雪時等にも、車外蒸発器33に対する雪の付着や堆積等を車外凝縮器21および/またはラジエータ40によってブロックし、低減することができる。このため、雪の付着や堆積による車外蒸発器33の凍結を防止することができるとともに、車外蒸発器33による熱交換性能を確保し、暖房性能を向上することができる。加えて、ラジエータ40から放熱がある場合には、その熱を車外蒸発器33で吸熱することにより、暖房能力の一層の向上を図ることができる。
【0075】
さらに、暖房用ヒートポンプサイクル36による暖房時、車外蒸発器33に対して着霜が検知されたとき、第2暖房用回路35側への冷媒流れを遮断して車内蒸発器9側に冷媒を流通させ、暖房を継続するとともに、外気温度が所定値以上の場合、車外蒸発器33を外気によって自然デフロストし、外気温度が所定値以下の場合、ラジエータ40にクーラント循環回路5を介して昇温されたクーラントを循環させて外気に放熱させ、その熱を利用して車外蒸発器33をデフロストするようにしている。
【0076】
このため、低外気温下の暖房運転時において、車外蒸発器33に対して着霜が検知された場合、エンジン、モータおよびインバータ等の車両駆動用機器4の排熱を利用してクーラントの温度を上昇させ、暖房性能を高めることができるとともに、ラジエータ40からその一部を放熱させ、加熱された温風を利用して車外蒸発器33を効率よく効果的に除霜することができる。従って、車両駆動用機器4の排熱を有効に利用して暖房および除霜を行うことができ、省動力化を図ることができる。
【0077】
なお、本発明は、上記実施形態にかかる発明に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、適宜変形が可能である。例えば、上記実施形態では、第1膨張弁24および第2膨張弁32の入口側に、それぞれ第1電磁弁23および第2電磁弁31を設けているが、これらの第1電磁弁23と第1膨張弁24および第2電磁弁31と第2膨張弁32は、それぞれが一体化された電磁開閉弁付き温度式自動膨張弁を用いた構成としてもよい。
【0078】
また、上記実施形態では、吹出しモード切替えダンパが、デフダンパ15、フェイスダンパ16およびフットダンパ17からなる3ダンパ方式とされているが、デフダンパ15およびフェイスダンパ16を1つのダンパで兼用化し、該ダンパとフットダンパ17との2ダンパ方式としてもよい。さらに、上記実施形態では、クーラント循環回路5に三方制御弁42を設けた構成としているが、この三方制御弁42は、パラフィンワックス等が充填されたサーモエレメントにより、クーラントの温度に応答して流量割合を自動調整するサーモスタット弁としてもよく、この場合、制御装置50による弁の制御は不要となる。
【符号の説明】
【0079】
1 ヒートポンプ式車両用空調装置
2 HVACユニット
4 車両駆動用機器
5 クーラント循環回路
9 車内蒸発器
10 ヒータコア
12 デフ吹出し口
13 フェイス吹出し口
14 フット吹出し口
20 電動圧縮機
21 車外凝縮器
22 レシーバ
24 第1膨張弁
26A 吐出回路(吐出配管)
27 冷房用冷凍サイクル
28 冷媒/クーラント熱交換器
29 三方切替え弁(切替え手段)
30 第1暖房用回路
32 第2膨張弁
33 車外蒸発器
35 第2暖房用回路
36 暖房用ヒートポンプサイクル
37 車外ファン
40 ラジエータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車内蒸発器およびヒータコアを備え、前記車内蒸発器および前記ヒータコアにより温調された空気をその下流側に設けられている複数の吹出し口のいずれかから車内に吹出して車室内を空調するHVACユニットと、
前記ヒータコアに対して、エンジン、モータおよびインバータ等の車両駆動用機器を冷却するクーラントを循環可能なクーラント循環回路と、
電動圧縮機、車外凝縮器、レシーバ、第1膨張弁、前記車内蒸発器がこの順に接続されている冷房用の冷凍サイクルと、
前記電動圧縮機の吐出配管に設けられ、ホットガス冷媒と前記クーラント循環回路内を循環する前記クーラントとを熱交換する冷媒/クーラント熱交換器と、
前記車外凝縮器の入口側に設けられている切替え手段を介して前記レシーバに接続される第1暖房用回路と、
前記レシーバの出口側と前記電動圧縮機の吸入側との間に接続され、第2膨張弁および車外蒸発器が設けられている第2暖房用回路と、を備え、
前記電動圧縮機、前記冷媒/クーラント熱交換器、前記切替え手段、前記第1暖房用回路、前記レシーバ、前記第2膨張弁および前記車外蒸発器を備えた前記第2暖房用回路により暖房用のヒートポンプサイクルが構成され、前記冷媒/クーラント熱交換器で加熱された前記クーラントを前記ヒータコアに循環可能とし、
前記暖房用ヒートポンプサイクルによる暖房時、前記車外蒸発器に対して着霜が検知されたとき、前記第2暖房用回路側への冷媒流れを遮断して前記車内蒸発器側に冷媒を流通させ、該車内蒸発器を利用した除湿暖房に切替え可能とされていることを特徴とするヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項2】
前記冷媒/クーラント熱交換器は、前記電動圧縮機から吐出される前記ホットガス冷媒と前記クーラント循環回路を循環する前記クーラントとが常時熱交換可能な構成とされていることを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項3】
前記車外蒸発器は、前記車外凝縮器用車外ファンの通風路中の前記車外凝縮器および/または前記クーラント循環回路に接続されている放熱用のラジエータの下流側に配設されていることを特徴とする請求項1または2に記載のヒートポンプ式車両用空調装置。
【請求項4】
前記暖房用ヒートポンプサイクルによる暖房時、前記車外蒸発器に対して着霜が検知されたとき、前記第2暖房用回路側への冷媒流れを遮断して前記車内蒸発器側に冷媒を流通させ、暖房を継続するとともに、外気温度が所定値以上の場合、前記車外蒸発器を外気により自然除霜し、外気温度が所定値以下の場合、前記ラジエータに前記クーラント循環回路を介して昇温されたクーラントを循環させて外気に放熱させ、その熱により前記車外蒸発器を除霜可能な構成としていることを特徴とする請求項3に記載のヒートポンプ式車両用空調装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−162149(P2012−162149A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23162(P2011−23162)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】