説明

ビシクロヘキシルの製造方法

【課題】193nmにおける透過性に優れる液浸露光用液体として好適なビシクロヘキシルの吸光度をより低下させることができる。
【解決手段】原料ビシクロヘキシルを吸着剤に接触させることにより、波長193nmにおける液体の光路長1mmあたりの透過率の平均値が99.40%以上であるビシクロヘキシルを製造する方法であって、上記原料ビシクロヘキシルを純度が99.999体積%以上である不活性ガス雰囲気内で上記吸着剤と接触させる工程を含み、上記原料となるビシクロヘキシルを上記吸着剤と接触させる工程の後、容器に充填する前に一時的に保存できる貯留槽を設置し、その貯留槽内で不活性ガスによる置換を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビシクロヘキシルの製造方法に関し、特に液浸露光装置または液浸露光方法に用いるために吸光度を低下させることができる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子等を製造するのに際し、フォトマスクとしてのレチクルのパターンを投影光学系を介して、フォトレジストが塗布されたウエハ上の各ショット領域に転写するステッパー型、またはステップアンドスキャン方式の投影露光装置が使用されている。
投影露光装置に備えられている投影光学系の解像度の理論限界値は、使用する露光波長が短く、投影光学系の開口数が大きいほど高くなる。そのため、集積回路の微細化に伴い投影露光装置で使用される放射線の波長である露光波長は年々短波長化しており、投影光学系の開口数も増大してきている。
このように、半導体素子等の製造分野においては、従来、露光光源の短波長化、開口数の増大により集積回路の微細化要求に応えてきており、現在では露光光源としてArFエキシマレーザ(波長193nm)を用いた1L1S(1:1ラインアンドスペース)ハーフピッチ90nmノードの量産化が検討されている。しかしながら、更に微細化が進んだ次世代のハーフピッチ65nmノードあるいは45nmノードについてはArFエキシマレーザの使用のみによる達成は困難であるといわれている。そこで、これらの次世代技術についてはF2エキシマレーザ(波長157nm)、EUV(波長13nm)等の短波長光源の使用が検討されている。しかしながら、これらの光源の使用については技術的難易度が高く、現状ではまだ使用が困難な状況にある。
【0003】
ところで、上記の露光技術においては、露光されるウエハ表面にはフォトレジスト膜が形成されており、このフォトレジスト膜にパターンが転写される。従来の投影露光装置では、ウエハが配置される空間は屈折率が1の空気または窒素で満たされている。
屈折率nの液体を投影露光装置のレンズとウエハの間に満たし、適当な光学系を設定することにより、解像度の限界値および焦点深度をそれぞれn分の1、n倍にすることが理論的に可能である。例えば、ArFプロセスで、レンズとウエハの間に満たす液体として水を使用すると波長193nmの光の水中での屈折率nはn=1.44であるから、空気または窒素を媒体とする露光時と比較し、解像度が69.4%、焦点深度が144%となる光学系の設計が理論上可能となる。
このように露光するための放射線の実効波長を短波長化し、より微細なパターンを転写できる投影露光する方法を液浸露光といい、今後のリソグラフィーの微細化、特に数10nm単位のリソグラフィーには、必須の技術と考えられている。
【0004】
本願出願人は、液浸露光方法において、従来の純水よりも屈折率が大きく、優れた透過性を有し、フォトレジスト膜あるいはその上層膜成分(とりわけ親水性成分)の溶出や溶解を防ぎ、レンズを浸食せずレジストパターンの生成時の欠陥を抑えることができ、液浸用液体として使用した場合、より解像度および焦点深度の優れたパターンを形成できる液浸露光用液体の提供を目的として、種々の化合物について検討を行なった結果、遠紫外領域における吸収が小さく、液浸露光用液体として好適な高屈折率を有するデカリン、ビシクロヘキシルなどの脂環式飽和炭化水素化合物について出願している(特許文献1)。
しかし、公知の方法で合成され、または市場で入手できるビシクロヘキシルを液浸露光用液体に用いた場合、透過率の不足により、感度低下に伴うスループットの低下、液体の光吸収による液体の発熱による屈折率変動に起因する光学像のデフォーカス、歪み、あるいは光学像のデフォーカスによる解像度、パターン形状の劣化等の問題が生じる場合があった。
【0005】
このため、脂環式飽和炭化水素化合物には、非常に微量であっても透過率に大きく影響する炭素−炭素不飽和結合または芳香族環を有する化合物、カルボニル基、水酸基等の官能基を有する化合物が不純物として僅かに存在しているためと考えられることから、処理温度の異なる複数の硫酸洗浄処理工程を含み、少なくとも最終硫酸洗浄処理工程の処理温度が該洗浄処理工程より前の処理工程の処理温度よりも低い処理温度で処理することを特徴とする方法を本発明者等は既に提案している(特許文献2)。
また、吸着剤を用いて脂環式飽和炭化水素化合物を精製する方法が開示されている(特許文献3および4)。
しかしながら、上記精製方法であってもビシクロヘキシルの193nmにおける透過率が十分に向上しなかったり、工数が煩雑になったりするという問題がある。例えば特許文献3の方法では193nmにおける透過率を光路長1mmあたり99.40%以上に高められない。また特許文献4の方法では透過率を高めるのに2種類の吸着剤を使用しなくてはならないという問題がある。
【特許文献1】WO2005/114711
【特許文献2】特願2006−329265
【特許文献3】WO2005/119371
【特許文献4】WO2006/115268
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、吸着剤を用いる精製方法で、193nmにおける透過率に優れる液浸露光用液体として好適なビシクロヘキシルの透過率をより向上させることができる製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
吸着剤を用いる精製方法は、吸着剤の種類だけでなく、吸着剤の精製能力を決定する重要な因子として精製時の雰囲気が挙げられる。例えば、大気下で精製した場合には、大気中に含まれる酸素が液体に溶解することにより、193nmにおける透過率を劣化させるため、吸着剤を用いて精製した後に脱酸素工程が必要となる。また、大気中に含まれる不純物も液体に溶解し、吸着剤に吸着することで、吸着剤の精製能力の低下を招くおそれがある。精製時の雰囲気を不活性ガスとすることで、精製後の脱酸素工程を必要とせず、かつ精製処理を複数回実施しても193nmにおける透過率のばらつきが大気下で実施した場合よりも小さくできることを見出した。
本発明は上記知見に基づきなされたものである。すなわち、本発明に係るビシクロヘキシルの製造方法は、波長193nmにおける液体の光路長1mmあたりの透過率の平均値が99.40%以上であるビシクロヘキシルの製造方法であって、原料ビシクロヘキシルを吸着剤に接触させる工程を含み、該工程は、上記原料ビシクロヘキシルを純度が99.999体積%以上である不活性ガス雰囲気内で上記吸着剤と接触させることを特徴とする。
また、上記原料となるビシクロヘキシルを上記吸着剤と接触させる工程の後、精製ビシクロヘキシルを貯留槽に保存する工程を有することを特徴とする。
また、上記貯留槽に保存された精製ビシクロヘキシルが純度が99.999体積%以上である不活性ガスで置換される雰囲気に保存されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法は、純度99.999体積%の窒素雰囲気中で原料ビシクロヘキシルを吸着剤と接触させることにより、得られる液体の透過率のばらつきを小さくでき、かつ吸着処理後に再度透過率を低下させることなく高透過率のビシクロヘキシルを得ることができる。また、精製工程が終了したビシクロヘキシルを一時的に貯留しておける貯留槽を設置することによって、その貯留槽内で不活性ガスによるバブリングあるいは流通置換を実施することが可能となる。製造途中で空気が混入した場合においても貯留槽内で除去することができ、透過率の平均値が99.40%以上、好ましくは99.50%以上であるビシクロヘキシルを安定的に製造することが可能となる。また、生産量の変動や生産開始/停止などの事態においても、一時貯留の貯留槽を設置することによって、安定的に製品の充填を行なうことができる。
この製造方法で精製されたビシクロヘキシルを使用することにより、光吸収による発熱を抑えることができ、屈折率変動に起因する光学像のデフォーカス、歪み、あるいは光学像のデフォーカスによる解像度、パターン形状の劣化等の問題を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法により製造されるビシクロヘキシルは、波長193nmにおける光の透過率が液体の光路長1mmあたり99.40%以上である。
光路長1mmあたりの透過率Tと光路長1cmあたりの吸光度Aとの間には、

T(%) = 100 × 10−0.1A

の関係があるので、光路長1mmあたり99%以上の透過率は、光路長1cmあたりの吸光度0.0437以下に相当する。本発明の製造方法において、透過率は複数の測定結果の平均値として表される値であり、1ロット当り3個の試料の平均値である。透過率が上記範囲となることにより、光吸収による発熱を抑えることができ、屈折率変動に起因する光学像のデフォーカス、歪み、あるいは光学像のデフォーカスによる解像度、パターン形状の劣化等の問題を抑えることができる。
【0010】
原料となるビシクロヘキシルと吸着剤との接触は、吸着剤を適当な時間原料化合物に浸漬させる方法、吸着剤と原料化合物を適当な時間撹拌混合する方法、吸着剤をカラムに充填して原料化合物を通過させるカラムクロマトグラフィー法が挙げられる。
吸着剤との接触は、複数回接触させることが好ましい。具体的には、吸着剤を適当な時間原料化合物に浸漬または吸着ろ過させた後に、その吸着剤を新しい吸着剤に代えて浸漬または吸着ろ過させる方法、複数本のカラムを用いる方法が挙げられる。複数本のカラムは、未使用カラムを2本以上準備して直列に接続して使用することが好ましい。カラムの形状は、同一であっても異なっていてもよい。同一の吸着剤が充填された2本以上のカラムを使用することが吸着剤の品質管理のし易さの理由で好ましい。複数の吸着剤を使用する場合には、吸着剤の種類の数だけ品質管理に労力がかかるためである。
【0011】
上記カラムは、吸着剤が内部に充填されている容器である。好ましくは両端に開口部を有する筒状の容器であり、一方の開口部より原料となるビシクロヘキシルを投入し、精製物が他方の開口部より回収できる容器である。カラムに充填した吸着剤の粒子密度(ρp(g/cm3))と嵩密度(ρ(g/cm3))とから算出される充填率(100ρb/ρp)は15%以上が好ましい。粒子密度ρpは、ピクノメーターを用いて測定することができ、嵩密度ρb(g/cm3)はカラムに吸着剤をいれ、そのときの単位体積あたりの吸着剤の質量として算出できる。
【0012】
本発明で使用できる吸着剤は、アルミナ、シリカアルミナ、ゼオライト、またはこれらを組み合わせて得られる酸化物である。
アルミナは組成式がAl23で表される酸化物である。シリカアルミナは無定形シリカ・アルミナと称されるものであり、ゼオライトは、結晶性アルミノケイ酸塩と称されるものである。
本発明で使用できる吸着剤は、以下の方法により評価したとき、上記吸着剤に接触させた後の吸光度と、上記吸着剤に接触させる前のビシクロヘキシルの吸光度との比が1.1以下であれば使用できる。
<評価方法>
ガラス製容器内に波長193nmにおける液体の光路長1cmあたり0.0437以下のビシクロヘキシル30mlを入れ、このビシクロヘキシル中に1.5gの吸着剤を加えて窒素雰囲気下において、25℃で72時間静置する。吸着剤に接触させる前の吸光度(A)と、接触させた後の吸光度(B)とを波長193nmの光で測定し、その吸光度比(B/A)を算出する。
【0013】
本発明で使用するために、吸着剤は200〜500℃、好ましくは250〜500℃の温度で使用前に焼成することが好ましい。200℃未満の焼成であったり、未焼成であったりする場合は、上記評価の値を達成することができなくなる。
【0014】
本発明の製造方法において、原料となるビシクロヘキシルを上記吸着剤と不活性ガス雰囲気内で接触させる。
本発明に使用できる不活性ガスは、25℃で大気圧下においてビシクロヘキシルと接触することにより、該化合物の193nmにおける透過率を低下させない気体をいう。
上記不活性ガスとしては、ヘリウム、アルゴンなどの希ガス、窒素ガス等が挙げられる。工業的利用のしやすさから窒素ガスが好ましい。
また、上記不活性ガスはビシクロヘキシルの透過率を低下させる要因となる成分を含まないことが好ましい。透過率を低下させる成分としては酸素、炭化水素(特に不飽和炭化水素)等が挙げられる。
本発明の製造方法において、純度が99.999体積%以上である不活性ガス、特に純度が99.999体積%以上である窒素ガスが好ましい。純度が99.999体積%以上である窒素ガス雰囲気下で原料となるビシクロヘキシルと吸着剤とを接触させることにより、透過率の平均値が99.40%以上のビシクロヘキシルが得られる。
なお、窒素純度P[%]は、次式で算出する。

P = 100 − CO − CW − C

Oは酸素濃度[%]、CWは水分濃度[%]、Cはその他不純物濃度[%]を示している。酸素濃度はジルコニア式微量酸素濃度計によって測定し、水分濃度はSHAW露点計によって測定する。その他不純物濃度は熱伝導率式検出器を備えたガスクロマトグラフィーによって測定する。
【0015】
上記吸着剤を用いる精製法において、原料となるビシクロヘキシルは吸着剤に接触させる前のガスクロマトグラフィ法による純度(以下、GC純度と略称する)が99質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは99.9質量%以上である。GC純度は、Agilent6890ガスクロマトグラフィシステム、カラム(TC1701)、キャリアガス(ヘリウム)、検出器(TCD)で測定できる。
【0016】
本発明の製造方法において、原料となるビシクロヘキシルを上記吸着剤と接触させる工程の後、容器に充填する前に一時的に保存できる貯留槽を設置し、その貯留槽内でさらに上述の純度が99.999体積%以上である不活性ガスによる置換を行なう。
工業的なビシクロヘキシル製造設備においては、製造途中で空気が混入する可能性があるが、精製工程が終了した精製ビシクロヘキシルを一時的に貯留しておける貯留槽を設置することによって、その貯留槽内で不活性ガスによるバブリングあるいは流通置換が可能となり、製造途中で空気が混入した場合においても貯留槽内で除去することができ、透過率の平均値が99.40%以上であるビシクロヘキシルを安定的に製造することが可能となる。また、生産量の変動や生産開始/停止などの事態においても、一時貯留の貯留槽を設置することによって、安定的に製品の充填を行なうことができる。
【0017】
本発明方法で製造されたビシクロヘキシルは、レジスト成分とりわけ、揮発性不純物の溶出が少ないため、簡便な方法で回収、精製を行なうことにより、光学特性を再現性よく回復し、再利用することができる。
再利用する場合の精製の方法としては、水洗処理、酸洗浄(硫酸洗浄)、アルカリ洗浄、精密蒸留、適当なフィルター(充填カラム)を用いた精製、ろ過等の方法および、上記に述べた精製法、あるいはこれらの精製法の組み合わせによる方法が挙げられる。この中で、水洗処理、アルカリ洗浄、酸洗浄、精密蒸留、酸化物吸着あるいはこれらの精製法の組み合わせにより精製を行なうのが好ましい。
上記アルカリ洗浄は液浸露光用液体に溶出した露光により発生した酸の除去、酸洗浄は液浸露光用液体に溶出したレジスト中の塩基性成分の除去、水洗処理は液浸露光用液体に溶出したレジスト膜中の光酸発生剤、塩基性添加剤、露光時に発生した酸等の溶出物の除去に対して有効である。
本発明で開示したビシクロヘキシルの製造方法は上記回収、精製においても有効であり、本方法により、樹脂中の酸解離性保護基の分解または、液体への放射線の照射により生じる光反応生成物である炭素、炭素不飽和結合を有する不純物の除去を有効にできるため、透過率の変動を防ぐことが可能である。
なお、精製時において精密蒸留を行なうことができる。精密蒸留は、上記添加剤のうち低揮発性の化合物の除去に対して有効な他、露光時にレジスト中の保護基の分解により発生する疎水性成分を除去するのに有効である。
【0018】
フォトレジスト膜、または液浸用上層膜が形成されたフォトレジスト膜に本発明のビシクロヘキシルを媒体として、所定のパターンを有するマスクを通して放射線を照射し、次いで現像することにより、レジストパターンを形成することができる。
液浸露光に用いられる放射線は、使用されるフォトレジスト膜およびフォトレジスト膜と液浸用上層膜との組み合わせに応じて、例えば可視光線;g線、i線等の紫外線;エキシマレーザ等の遠紫外線;シンクロトロン放射線等のX線;電子線等の荷電粒子線の如き各種放射線を選択使用することができる。特にArFエキシマレーザ(波長193nm)あるいはKrFエキシマレーザ(波長248nm)が好ましい。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を示す。なお、吸光度は酸素濃度50ppm以下に管理した窒素雰囲気のグローブボックス中でポリテトラフルオロエチレン製蓋付の光路長1cmおよび2cmのセルに液体のサンプリングを行ない、日本分光社製JASCO−V7100を用いて、上記液体の入ったセルをサンプル、空気をリファレンスとして吸光度を測定し、両者の差を1cmあたりの吸光度とした。測定温度は23℃である。この値を元にランベルトベールの法則により1mmあたりの透過率を算出した。サンプルの透過光強度をl0、リファレンスの透過光強度をlとすると、吸光度はlog10(l0/l)で示される。各実施例で示す値はセルの反射を計算により補正した値である。なお、窒素純度P[%]は、上述の式により算出した。
【0020】
吸着剤は以下のものを使用した。吸着剤は500℃で3時間焼成して使用した。
ゼオライト−1:東ソー社製、F−9(形状:粉末)
【0021】
実施例1
窒素雰囲気下(酸素濃度50ppm以下、窒素純度99.999%)で、GC純度が99.9質量%である1,1'−ビシクロヘキシル 50ml に対してゼオライト−1を3.1g用いて攪拌吸着した後に、193nmにおける透過率を測定したところ、99.23%/mmであった。
この液体を新たにゼオライト−1を3.1g用いて攪拌吸着した後に、193nmにおける透過率を測定したところ、99.42%/mmであった。
【0022】
比較例1
窒素雰囲気下(酸素濃度2000ppm以下、窒素純度99.98%)で、GC純度が99.9質量%である1,1'−ビシクロヘキシル 50ml に対してゼオライト−1を3.1g用いて攪拌吸着した後に、193nmにおける透過率を測定したところ、99.20%/mmであった。
この液体を新たにゼオライト−1を3.1g用いて攪拌吸着をした後に、193nmにおける透過率を測定したところ、99.27%/mmであった。
【0023】
実施例2
193nmにおける透過率が99.51%/mmの1,1'−ビシクロヘキシル 100ml を窒素雰囲気(酸素濃度50ppm以下、窒素純度99.999%)に接触させた。
接触開始から24h経過した後、液体の193nmにおける透過率を測定したところ、99.55%/mmであった。
【0024】
比較例2
193nmにおける透過率が99.53%/mmの1,1'−ビシクロヘキシル 100ml を窒素雰囲気(酸素濃度2000ppm以下、窒素純度99.98%)に接触させた。
接触開始から24h経過した後、液体の193nmにおける透過率を測定したところ、99.45%/mmであった。
【0025】
比較例3
193nmにおける透過率が99.43%/mmの1,1'−ビシクロヘキシル 4ml を接触面積1cm2で空気に接触させた。接触開始から10h経過した後、液体の193nmにおける透過率を測定したところ、78.70%/mmであった。
この液体を窒素雰囲気下(酸素濃度50ppm以下、窒素純度99.999%)で72h静置した後、193nmにおける透過率を測定したところ、99.43%/mmまで回復した。
【0026】
実施例1〜2および比較例1〜2より、1,1'−ビシクロヘキシルを、純度99.999%以上の窒素雰囲気中で吸着剤と接触させることにより、193nmにおける透過率が99.40%/mm以上となり、純度99.98%以上の窒素雰囲気中で同様の操作を実施した比較例と比較して、得られる液体の透過率のばらつきを小さくでき、かつ吸着処理後に再度透過率を低下させることなく高透過率の1,1'−ビシクロヘキシルを得ることができた。
【0027】
比較例3に示すように、空気と接触させることによって波長193nmにおける光路長1mmあたりのビシクロヘキシルの透過率は著しく低下するが、窒素で置換することによって再び高透過率を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のビシクロヘキシルの製造方法は、原料ビシクロヘキシルを純度が99.999体積%以上である不活性ガス雰囲気内で吸着剤と接触させることにより、193nmにおける透過率が高い液浸露光用ビシクロヘキシルとなる。そのため、今後更に微細化が進行すると予想される半導体デバイスの製造に必須の技術である液浸露光に用いられる液体として極めて好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長193nmにおける液体の光路長1mmあたりの透過率の平均値が99.40%以上であるビシクロヘキシルの製造方法であって、
原料ビシクロヘキシルを吸着剤に接触させる工程を含み、
該工程は、前記原料ビシクロヘキシルを純度が99.999体積%以上である不活性ガス雰囲気内で前記吸着剤と接触させることを特徴とするビシクロヘキシルの製造方法。
【請求項2】
前記原料となるビシクロヘキシルを前記吸着剤と接触させる工程の後、精製ビシクロヘキシルを貯留槽に保存する工程を有することを特徴とする請求項1記載のビシクロヘキシルの製造方法。
【請求項3】
前記貯留槽に保存された精製ビシクロヘキシルが純度が99.999体積%以上である不活性ガスで置換される雰囲気に保存されることを特徴とする請求項1または請求項2記載のビシクロヘキシルの製造方法。

【公開番号】特開2009−215265(P2009−215265A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63284(P2008−63284)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】