説明

ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法、並びにこれを重合してなるポリマー

【課題】光学用ポリエステル樹脂の原料で有用なフルオレン骨格を有すジカルボン酸化合物を工業的なスケールで安全に効率よく高純度な製造方法とこの方法で得るビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを用いたポリマー及び光学部品用ポリマーの提供。
【解決手段】9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(i)を無機塩基の存在下、溶媒中でα−ハロ酢酸エステル(ii)と反応させて、ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを製造する方法において、溶媒として20℃における比誘電率が6以上で且つ沸点が120℃以下の反応溶媒を用いる、ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法、及びこれを重合して得られるポリマー。


(式(I)中、Rは炭素数6以下の有機置換基、Xはフッ素を除くハロゲン原子)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学用ポリエステル樹脂の原料として有用な、フルオレン骨格を有するジカルボン酸ジエステルであるビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法と、この方法で製造されたビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを用いて得られるポリマー及び光学部品用ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル用液晶表示装置は、今後高画質の動画配信などが一般化されると、より一層の高輝度化、高視野角化、高精細化などの性能が要求されるものと考えられている。モバイル液晶表示装置は、その使用目的により、屋内での暗い環境から屋外での太陽光下での明るい環境まで、様々な外光条件下で優れた視認性が要求される。そこで、近年は、透過型液晶表示装置及び反射型液晶表示装置の利点を活かした半透過型液晶表示装置が広く用いられる様になってきた。
【0003】
半透過型液晶表示装置は、明表示・暗表示などの各状態における透過部及び反射部での偏光状態を一致させるため、直線偏光と円偏光を制御して画像を表示させている。その為に、半透過型液晶表示装置では、例えば液晶セルの両面に1/4波長板(入射した光と出射する光の位相が1/4波長ずれるフィルム)が少なくとも1枚ずつ必要になる。
【0004】
1/4波長板は、可視光領域である測定波長400〜780nmで直線偏光を円偏光に、円偏光を直線偏光に変換することが必要である。しかし、一般に高分子フィルムの複屈折は、測定波長が短波長ほど大きく、長波長ほど小さくなる(位相差が正の波長分散をもつ)。それゆえ、通常高分子フィルム1枚だけでは可視光の全波長領域において位相差が1/4λ(ここで、λは波長を示す。)とすることが困難であった。
【0005】
そこで、波長の広帯域において位相差が1/4λとなるような、広帯域1/4波長板が求められている。
【0006】
このような位相差フィルムとして、特許文献1,2には、フルオレン骨格を有するジオール成分を原料として製造したポリエステルが位相差フィルムとして有用であると記載されている。
【0007】
このようにフルオレン骨格をポリエステル樹脂に導入することにより、高特性の位相差フィルムを提供することができることが報告されているが、既存技術において、フルオレン骨格は、ポリエステル原料モノマーのうちジオールに導入されたものしか工業的には知られていなかった。これは、フルオレン骨格を有するジオールは工業的な製造が比較的容易であり、モノマーが入手しやすいためであった。
【0008】
一方、ポリエステル樹脂の中にフルオレン骨格を導入する方法としては、フルオレン骨格を有するジカルボン酸エステルモノマーないしジカルボン酸モノマーを用いてこれを導入することも考えられるが、この方法は、光学的に良好な物性が期待されるにもかかわらず長らく実現されてこなかった。これは、フルオレン骨格を有する既知のジカルボン酸ジエステルモノマーないしジカルボン酸モノマーがごく限られている上に、工業的な製造方法も確立されていないためであった。
【0009】
すでに公知となっているフルオレン骨格を有するジカルボン酸ないしそのジエステルの例としては、特許文献3において、9,9−ビス[(4−メトキシカルボニルメトキシ)フェニル]フルオレンの製造方法が記載されている。しかしながら、このものは、皮膚刺激性が極めて強い9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPF)を原料として合成されており、製造は厳しい管理下に行う必要がある。また、溶媒として沸点の高いジメチルホルムアミドを使用しているため、溶媒の完全な除去が難しく、精製に大きな負荷がかかる上に、最終的に除去されないで製品中に残留する溶媒には窒素成分が含まれていることから、高温で重合した際に着色するという問題点があり、ポリエステルを製造するモノマーとしては課題が多かった。
【0010】
さらに、特許文献4には、9,9−ビス[(4−アリロキシカルボニルメトキシ)フェニル]フルオレンの合成方法が記載されている。しかしながら、このものを合成する際の原料となる9,9−ビス[(4−カルボキシメトキシ)フェニル]フルオレンの製造法の記載はなく、その合成法の詳細は明らかにされていない。
【特許文献1】特開2007−4143号公報
【特許文献2】特開2006−215064号公報
【特許文献3】米国特許公開2002/52354号公報
【特許文献4】特開平5−170702号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来の実情から、光学用ポリエステル樹脂の原料として有用なフルオレン骨格を有するジカルボン酸化合物を工業的なスケールで安全に、しかも効率よく、高純度で得ることを目的とした場合、次のようなことが言える。
【0012】
即ち、まず、製造上の安全性の確保、得られる樹脂の物性の向上が期待されることから、製造目的とするジカルボン酸化合物は、9,9−ビス[(3−メチル−4−アルキルオキシカルボニルメトキシ)フェニル]フルオレン等の、後掲の一般式(iii)で表されるビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルが好適である。このものが、製造上安全性が高い理由は、このものを合成する際の原料となる9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンの皮膚刺激性が、メチルのない9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに比較して格段に低いためである。しかしながら、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンは、合成上は、3位にメチル基が入ることによって9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンの4位のヒドロキシ基の反応性がメチル基のないものに比べて低下するという問題が生じる。
一方、得られる目的物の中に溶媒が残存するのを防ぐためには、反応溶媒として高沸点の極性溶媒の使用を避ける必要があるが、特許文献3に示されるように、通常フェノール性水酸基をα−ハロ酢酸メチルでエーテル化する場合には、無機塩基と原料、及びα−ハロ酢酸メチルの各試剤の溶解性を確保する必要があることから、高沸点の極性溶媒を使用する必要があるとされている。
【0013】
従って、本発明が解決すべき課題は、反応性の低い9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを原料としてビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを製造するにあたり、除去容易な低沸点の溶媒を使用した上で、実用的な反応速度を確保して純度の高い目的物を製造すること、に存する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを無機塩基の存在下、α−ハロ酢酸エステルと反応させて、9,9−ビス[(3−メチル−4−アルキルオキシカルボニルメトキシ)フェニル]フルオレン等のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを製造する方法において、溶媒として20℃における比誘電率が6以上で且つ沸点が120℃以下の溶媒を用いて反応を行うと、目的物を工業的なスケールで安全に効率よく且つ、高純度で得ることができることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0016】
[1] 下記反応式(I)に従って、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(i)を無機塩基の存在下、溶媒中でα−ハロ酢酸エステル(ii)と反応させて、ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステル(iii)を製造する方法において、溶媒として20℃における比誘電率が6以上で且つ沸点が120℃以下の溶媒を用いることを特徴とするビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【化3】

(式(I)中のRは炭素数6以下の有機置換基を表し、Xはフッ素を除くハロゲン原子を表す。)
【0017】
[2] 溶媒の20℃における比誘電率が15以上であることを特徴とする[1]に記載のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【0018】
[3] 無機塩基が金属の炭酸塩であり、且つα−ハロ酢酸エステルがα−クロロ酢酸アルキルエステルであることを特徴とする[1]又は[2]に記載のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【0019】
[4] 窒素含有量が10ppm以下のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステル(iii)を製造することを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【0020】
[5] [1]ないし[4]のいずれかに記載の方法により製造されたビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルをモノマーとして用い、重合して得られるポリマー。
【0021】
[6] 光学部品用ポリマーである[5]に記載のポリマー。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、安全性が高い反面、反応性が低い9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを原料として用い、溶媒残留による純度の低下を防止した上で十分な反応速度を確保することができる。このため、9,9−ビス[(3−メチル−4−アルキルオキシカルボニルメトキシ)フェニル]フルオレン等のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを、工業的なスケールで安全に効率よく且つ、高純度で製造することができる。
【0023】
本発明で提供される高純度ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルは、フルオレン骨格を有するジカルボン酸ジエステルであり、ポリエステル樹脂にフルオレン骨格を導入するためのジカルボン酸エステルモノマーとして用いることができる。
本発明により提供される高純度ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルによれば、不純物による着色等の問題のない高品質のポリマーを得ることができ、このポリマーは、光学特性に優れ、位相差フィルム等の光学部品用ポリマーとして工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
[1] ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法
本発明で目的とするビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステル(iii)は、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(i)及びα−ハロ酢酸エステル(ii)から、無機塩基の存在下、溶媒中で下記式(I)で表される反応(以下「本反応(I)」と称す場合がある。)に従って製造される。
【0026】
【化5】

(式(I)中のRは炭素数6以下の有機置換基を表し、Xはフッ素を除くハロゲン原子を表す。)
【0027】
<9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン>
出発原料となる9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンは、上記反応式(I)における構造式(i)で表されるものである。
【0028】
<α−ハロ酢酸エステル>
反応試剤としてのα−ハロ酢酸エステルは、上記反応式(I)における一般式(ii)で表されるものであり、一般式(ii)中、α−ハロ酢酸エステルのエステル基のRは、炭素数6以下の有機置換基を表す。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基などの鎖状(直鎖であっても分岐鎖であっても良い。)のアルキル基、シクロヘキシル基などの環状のアルキル基、ビニル基、i−プロペニル基、アリル基等のアルケニル基などの二重結合を含む基、エチニル基等のアルキニル基などの三重結合を含む基、フェニル基などアリール基といった炭化水素基が挙げられる。これらの置換基は、本反応(I)を阻害しない範囲で更に任意の置換基で置換されていても良い。
【0029】
Rは中でも鎖状、及び環状のアルキル基が好ましく、さらにはメチル基、エチル基が、重合の際のエステル交換反応の進行が速いことからより好ましい。即ち、α−ハロ酢酸エステルは、α−ハロ酢酸アルキルエステルであることが好ましい。
【0030】
また、Xはフッ素を除くハロゲン原子を表す。具体的には、塩素、臭素、ヨウ素が好ましく、中でも試剤の入手性、価格の点から塩素がより好ましい。
【0031】
具体的に好ましいα−ハロ酢酸エステルとしては、クロロ酢酸メチル、クロロ酢酸エチル、ブロモ酢酸メチル、ブロモ酢酸エチルなどが挙げられるが、特にα−クロロ酢酸アルキルエステルが好ましく、とりわけ、クロロ酢酸メチル、クロロ酢酸エチルが好ましい。
【0032】
α−ハロ酢酸エステルについても異なるものを2種以上用いることも可能であるが、精製の簡便性からは、通常は1種類のα−ハロ酢酸エステルが用いられる。
【0033】
α−ハロ酢酸エステルの使用量は、原料である9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに対して、上限は特に制限はないが、使用量が多すぎると反応後の精製負荷が大きくなるので、通常、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに対して20倍モル以下、好ましくは10倍モル以下、さらに好ましくは5倍モル以下である。下限は、原料に対して理論量で2モル倍であるのでこれ以上である必要があり、通常は2倍モル以上である。反応の進行を速めまた原料や中間体を残存させないために、α−ハロ酢酸エステルを原料の9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに対して多少過剰に使用することは何ら問題ない。その際の好ましいα−ハロ酢酸エステルの量は、原料の9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに対して2.1倍モル以上、さらに好ましくは2.2倍モル以上である。
【0034】
<無機塩基>
無機塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどのアルカリ土類金属の炭酸塩、燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸カリウムなどの燐酸のアルカリ金属塩などが用いられる。中でもアルカリ金属の炭酸塩が好ましく、特に反応性が高いことから炭酸カリウムが好ましい。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0035】
無機塩基の使用量は、原料である9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに対して、上限は特に制限はないが、使用量が多すぎると攪拌や反応後の精製負荷が大きくなるので、通常、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに対して20倍モル以下、好ましくは15倍モル以下、さらに好ましくは10倍モル以下である。下限は、原料に対して2倍モルである必要がある。反応の進行を速め、また原料や中間体を残存させないために、無機塩基を多少過剰に使用することは何ら問題ない。その際の好ましい無機塩基の量は、原料の9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに対して2.5倍モル以上、さらに好ましくは3倍モル以上である。
【0036】
なお、本反応(I)は、無機塩基の代りに有機塩基を用いて行うことも可能ではあるが、着色、コストの面で無機塩基を用いる。
【0037】
<溶媒>
本反応(I)は、溶媒を用いて行う。
本発明で用いる反応溶媒は、反応後に反応系から除去する際の負荷を軽減するために、沸点が120℃以下であり、また反応に使用する無機塩基、原料である9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、α−ハロ酢酸エステルのいずれの溶解性をも確保するために、20℃における比誘電率が6以上の有機溶媒である必要がある。特に、本反応(I)においては、無機塩基の溶解性が反応速度に大きく影響を与えることが解っており、その溶解性を確保するために一定以上の誘電率を持った溶媒を使用する必要がある。このように限られた溶媒を選択して用いることで本発明の効果が得られる。
【0038】
具体的に使用可能な溶媒としては次のようなものが挙げられる。
アセトニトリル(沸点;81.8℃、比誘電率;37.5(20℃) 文献c)、プロピオニトリル(沸点;97.4℃、比誘電率;27.2(20℃) 文献b)などのアルキルニトリル系溶媒;
アセトン(沸点;56.3℃、比誘電率;20.1(20℃) 文献d)、メチルエチルケトン(沸点;79.6℃、比誘電率;18.6(20℃) 文献d)、メチルイソブチルケトン(沸点;116℃、比誘電率;13.1(20℃) 文献b)などのケトン系溶媒;
酢酸エチル(沸点;77.1℃、比誘電率;6.1(20℃) 文献d)、酢酸n−プロピル(沸点;102℃、比誘電率;6.00(20℃) 文献b)などのエステル系溶媒;
テトラヒドロフラン(沸点;65℃、比誘電率;8.2(20℃) 文献a)などのエーテル系溶媒;
1,2−ジクロロエタン(沸点;83.4℃、比誘電率;10.5(20℃) 文献a)などのハロゲン系溶媒
(出典文献)
a;新版 溶剤ポケットブック H6.6.10 発行 (株)オーム社 発行
b;Techniques of Chemistry Vol.II Organic Solvents Third Edition Wiley-Interscience(1970)
c;化学便覧 基礎編 改訂3版 S.56.6.25.丸善(株)発行
d;化学便覧 基礎編 改訂5版 H.16.2.20.丸善(株)発行
【0039】
中でも反応の進行が良好であることから誘電率の高いアルキルニトリル系溶媒、ケトン系溶媒といった20℃における比誘電率が12以上の有機溶媒が好ましい。さらには、沸点がより低いことからアセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトンが好ましい。
【0040】
これらの溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
なお、本発明においては、反応に供する溶媒が沸点120℃以下で20℃における比誘電率が6以上であれば良く、溶媒中にこれらの条件を満足しない溶媒が含まれていても、混合溶媒としての沸点及び20℃における比誘電率が本発明の条件を満たすものであれば良い。
【0041】
溶媒の使用量は、上限は特に制限はないが、反応器あたりの目的物の生成効率を考えると、通常、原料の9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンの濃度として50g/L、好ましくは100g/L、さらに好ましくは150g/Lとなるような量が使用される。一方、溶媒の使用量が少なすぎると試剤の溶解性が悪くなり攪拌が難しくなるとともに反応の進行が遅くなるので、下限としては、通常、原料の9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンの濃度として1000g/L、好ましくは750g/L、さらに好ましくは500g/Lとなるような量が使用される。
【0042】
<反応形式>
本反応(I)を行う際、反応の形式はバッチ型反応でも流通型反応でも特にその形式は制限なく採用できる。
バッチ式の場合の反応試剤の反応器への投入方法は、原料の9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、α−ハロ酢酸エステル、無機塩基、及び溶媒を反応開始時に一括で仕込んでも良いし、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、無機塩基、及び溶媒を反応開始時に仕込み、所定温度とした後にα−ハロ酢酸エステルを滴下してもよい。ここで、α−ハロ酢酸エステルを滴下する際の所定温度は、室温から反応温度までの間で自由に選択できる。
【0043】
<反応条件>
本反応(I)は、十分な反応速度を得るために加温して実施するのが好ましい。反応温度としては、具体的には、通常下限が20℃、好ましくは40℃、さらに好ましくは50℃、上限が通常200℃、好ましくは180℃、さらに好ましくは150℃で実施される。この温度が高すぎると副生物の生成が多くなり、また低すぎると十分な反応速度が得られない可能性がある。
本反応(I)における一般的な反応時間は、通常下限が10分、好ましくは30分、さらに好ましくは1時間で、上限は特に限定はされないが通常50時間、好ましくは30時間である。
【0044】
<目的物の分離・精製>
反応終了後、目的物であるビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルは、副成した金属ハロゲン化物、及び残存した無機塩基を濾過して反応液から除去した後に、溶媒を濃縮する方法、或いは目的物の貧溶媒を添加する方法などを採用して、目的物であるビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを析出させることにより単離することができる。
また、反応終了後、反応液に水と目的物であるビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルが可溶な溶媒とを添加して抽出してもよい。溶媒により抽出された目的物は、溶媒を濃縮する方法、或いは貧溶媒を添加する方法などにより単離することができる。
【0045】
抽出の際に使用可能な溶媒としては、目的物であるビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルが溶解するものであれば良く、特に制限はないが、溶解性が高いことから酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素化合物、ジエチルエーテルなどのエーテル系化合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒などの1種又は2種以上が好適に用いられる。
【0046】
得られたビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルは、ポリマー原料としてそのまま重合に使用することも可能であるが、精製を行った後に重合しても良い。精製法としては、通常の精製法、例えば、再結晶や、再沈法、抽出精製など制限なく採用可能である。また、ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを適当な溶媒に溶解して活性炭で処理することも可能である。その際に使用可能な溶媒は、抽出の際に使用可能な溶媒と同じである。
【0047】
[2] ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステル
上述の本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法に従って得られるビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステル(以下「本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステル」と称す場合がある。)は、通常純度が90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。含まれる不純物としては、試剤として使用したα−ハロ酢酸エステル、無機塩基、金属成分、残存溶媒、及び反応中間体である後掲の一般式(iv)で表される化合物、副生物である後掲の一般式(v)で表される化合物などがある。また、含まれる不純物元素としては窒素(N)、硫黄(S)、ハロゲン(Cl、Br)がある。このうち、窒素は溶媒等に由来するものであり、また、硫黄は原料である9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンに混入しているもの等であり、いずれも目的物中に残存して検出される可能性がある。また、ハロゲンは反応試剤のα−ハロ酢酸エステル等に由来するものである。
反応中間体である後掲の一般式(iv)で表される化合物の含有量は通常5モル%以下、好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。副生物である後掲の一般式(v)で表される化合物の含有量は通常5モル%以下、好ましくは3モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下である。
【0048】
本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステル中の窒素含有量は、N量として、通常100ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下、最も好ましくは10ppm以下である。また、硫黄含有量はS量としては、通常10ppm以下、好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下である。
特に、本発明では、反応に沸点が120℃以下の低沸点溶媒を用いることにより、目的物中の溶媒の残留量を著しく低減することができ、従って、溶媒に由来する窒素含有量が10ppm以下という高純度ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを製造することができる。
【0049】
なお、本反応(I)で製造される目的物であるビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルは、下記一般式(iii)で表されるものであるが、前述の如く、反応試剤として用いるα−ハロ酢酸エステルは、Rがアルキル基であるα−ハロ酢酸アルキルエステルであることが好ましいことから、得られるビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルは、下記一般式(iii)のRがアルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基である9,9−ビス[(3−メチル−4−アルキルオキシカルボニルメトキシ)フェニル]フルオレンであることが好ましい。
【0050】
【化6】

(式(iii)中のRは炭素数6以下の有機置換基を表す。)
【0051】
[3] ポリマー
本発明のポリマーは、上述のような9,9−ビス[(3−メチル−4−アルキルオキシカルボニルメトキシ)フェニル]フルオレン等の本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルをモノマーとして、これを重合(本明細書において、「重合」とは「共重合」を包含する広義の重合を意味する。)して得られるものであるが、このポリマーは、特にポリエステル樹脂であることが好ましい。
以下に本発明のポリマーを、ポリエステル樹脂(以下「本発明のポリエステル樹脂」と称す。)を例示して説明する。
【0052】
このポリエステル樹脂は、本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルのエステル交換反応によりジオール化合物と重合させることにより製造される。
本発明で得られるビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを原料に用いたポリエステル樹脂は、従来公知のポリエステルの重縮合方法に準じて製造することができる。重縮合方法としては、例えば、界面重合法、溶液重合法や溶融重合法等が挙げられるが、溶融重合法がより重合度が向上しやすく、また安価に製造できる点で好ましい。
【0053】
<ジカルボン酸成分>
本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルはジカルボン酸ジエステルであり、ポリエステル樹脂においてジカルボン酸由来の部分を構成することになる。
【0054】
本発明のポリエステル樹脂は、原料ジカルボン酸系モノマーとして本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを必須成分とするが、その他のジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体の1種又は2種以上を用いても良い。
【0055】
その際に利用可能な他のジカルボン酸系モノマーとしては、得られるポリエステル樹脂の透明性と耐熱性の向上に有効であることから、脂環式構造にカルボキシル基が2つ結合した脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体が好ましく、例えば、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、1,5−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,6−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,7−デカヒドロナフタレンジカルボン酸、2,3−ノルボルナンジカルボン酸、2,5−ノルボルナンジカルボン酸、1,3−アダマンタンジカルボン酸及びそれらのエステル形成性誘導体、例えば炭素数1〜4程度のアルキルエステル等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0056】
これらの中でも、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体は、得られるポリエステル樹脂の成形温度が従来のポリエステル樹脂の成形温度に近く、また、工業的に入手しやすい点で好ましく、この場合、得られるポリエステル樹脂の耐熱性の観点から1,4−シクロヘキサンジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体のトランス体とシス体との比率は、80/20〜100/0の範囲が好ましく85/15〜100/0がより好ましく、更に好ましくは90/10〜100/0である。特に1,4−シクロヘキサンジカルボン酸は、そのエステル形成性誘導体に比べてコストがかからない点で最も好ましい。
【0057】
ジカルボン酸成分として、本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルと、上述のような脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体とを併用する場合、その使用割合は、本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを30〜90モル%、脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を70〜10モル%とすることが好ましい。この範囲よりもジカルボン酸成分中の本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの割合が少ないと、得られるポリエステル樹脂の光学材料としての位相差の負の波長分散性の発現が充分でなく、また耐熱性の効果が得られない。また、この範囲よりも本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの割合が多いと、得られるポリエステル樹脂の配向複屈折が小さくなりすぎ、位相差フィルムとして使用する場合、所定の位相差を発現するため、フィルムの厚みを厚くしなければならず、画像表示装置を薄くしようとする方向性に反する。
【0058】
本発明においては、特に、ジカルボン酸成分中に本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを40〜80モル%で、脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を60〜20モル%、とりわけ本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを50〜70モル%で脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を30〜50モル%含むことが好ましい。
【0059】
また、本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分としては、本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルと、脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分を含んでいても良く、この場合、その他のジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、及びこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。具体的にはテレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、フェニレンジオキシカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸、並びに、これらの炭素数1〜4程度のアルキルエステル等が挙げられる。これらの他のジカルボン酸成分は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0060】
このような本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルと脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体以外のその他のジカルボン酸成分は、本発明のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを用いることによる上記効果と、脂環式ジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を用いることによる透明性と耐熱性の向上効果を確実に得る上で、全ジカルボン酸成分中に20モル%以下、特に10モル%以下であることが好ましい。
【0061】
なお、ポリエステル樹脂の製造に界面重合法を用いる場合は、エステル形成性誘導体としては、上記に記載のジカルボン酸のジハライドが用いられる。この場合、ハロゲンとしては塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができ、好ましくは、塩素である。
【0062】
<ジオール成分>
本発明のポリエステル樹脂を構成するジオール成分は、脂環式ジオールを含むことが好ましく、この脂環式ジオール化合物としては、脂環式構造にヒドロキシ基が2つ結合したものであればよく特に限定されるものではないが、不飽和結合を含まない環状構造を有し、また、5員環、6員環、好ましくは共有結合によって椅子形又は舟形に固定されている6員環、又はスピロ環に水酸基が2つ結合したジオールであることが好ましい。
【0063】
脂環式ジオールが、不飽和結合を含まない環状構造を有し、また、5員環、6員環、又はスピロ環の構造の脂環式ジオールであることにより、得られるポリエステル樹脂の透明性及び耐熱性を高くすることができ、光学特性に優れた特性を得ることができる。
【0064】
このような脂環式ジオールとしては、例えば、1,2−シクロペンタンジメタノール、1,3−シクロペンタンジメタノール、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ−[5.2.1.0]デカン、エリスリタン、イソソルバイド等の5員環ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン、1,3−アダマンタンジオール、1,3−アダマンタンジメタノール、4,9:5,8−ジメタノ−1(2),6(7)−ヒドロキシメチル−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ペンゾインデン、2,3−ノルボルナンジオール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジメタノール等の6員環ジオール、スピログリコール等のスピロ環ジオール等が挙げられる。これらの脂環式ジオール化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0065】
これらの中でも、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ、[5.2.1.0]デカン、4,9:5,8−ジメタノ−1(2),6(7)−ヒドロキシメチル−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ペンゾインデン、スピログリコールが好ましく、特に1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ、[5.2.1.0]デカン、4,9:5,8−ジメタノ−1(2),6(7)−ヒドロキシメチル−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ペンゾインデン、スピログリコールが好ましい。これらは、高いガラス転移温度のポリエステル樹脂が得られること、及び光弾性係数が優れたポリエステル樹脂が得られるという利点があるからである。
【0066】
また、ジオール成分としては、下記一般式(II)で表されるビスフェニルフルオレン系化合物を用いても良い。
【0067】
【化7】

(式中、R5a、R5bは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基を示し、R6a、R6b、R7a、R7bは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。)
【0068】
上記一般式(II)において、R5a,R5bは、各々独立に、水素原子又は炭素数1又は2のヒドロキシアルキル基であることが好ましく、R6a、R6b、R7a、R7bは、各々独立に、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基が好ましい。
【0069】
一般式(II)で表されるビスフェニルフルオレン系化合物としては、例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−エチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジエチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−プロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソプロピルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジ−n−ブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジイソブチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ビス(1−メチルプロピル)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジフェニルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−ベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジベンジルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(4−ヒドロキシブトキシ)フェニル]フルオレン等のジヒドロキシ化合物類等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0070】
これらの中でも、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンが光学特性、成形性の面から最も好ましい。
【0071】
なお、界面重合法を用いる場合のジオールとしては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等のビスフェノール類等を挙げることができる。
【0072】
なお、本発明のポリエステル樹脂に係るジオール成分は、脂環式ジオール化合物、上記ビスフェニルフルオレン系化合物以外の他のジオール成分を含むこともできる。
【0073】
本発明のポリエステル樹脂において用いられるその他のジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール類、及びキシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール等が挙げられる。アルキレングリコール、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール類、及びキシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール類等が挙げられる。これらの他のジオール成分は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0074】
これらの他のジオール成分は、全ジオール成分中に5モル%以下であることが好ましい。
【0075】
<その他の共重合成分>
本発明においては、前記ジカルボン酸成分及びジオール成分以外の少量共重合成分として、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能成分、等が用いられてもよい。
ただし、これらのその他の共重合成分は、ポリエステル樹脂原料中に1重量%以下、特に0.5重量%以下であることが好ましい。
【0076】
<ポリエステル樹脂の製造>
溶融重合法の場合、本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分と、ジオール成分と、必要に応じて用いられるその他の共重合成分とをエステル化反応又はエステル交換反応させ、引き続いて重縮合反応をすることにより製造することができる。
エステル化又はエステル交換反応は、ジカルボン酸成分とジオール成分と、必要に応じて用いられるその他の共重合成分とを、攪拌機及び留出管を備えたエステル化反応槽に仕込み、触媒を加え、不活性ガス雰囲気常圧又は減圧下攪拌しつつ、反応により生じた水分などの副生成物を留去しながら反応を進行させることにより行われる。原料の使用比率、すなわち、ジカルボン酸成分の合計に対するジオール成分の合計のモル比は通常1.0〜2.0モル倍である。
【0077】
ポリエステル化反応の際に十分な反応速度を得るために触媒を使用するのが好ましい。触媒としては、通常、エステル化又はエステル交換反応に使用される触媒であれば特に限定されないが、例えば、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、スズ化合物などが挙げられる。また必要に応じてナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、などのアルカリ性金属の化合物を使用することもできる。
【0078】
チタン化合物は、エステル化又はエステル交換反応、続いて行われる重縮合反応の両反応において活性が高いことから好ましい。チタン化合物の具体例としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、これらの有機チタネートの加水分解物などの1種又は2種以上が挙げられる。これらのチタン化合物は、マグネシウム化合物やリン化合物と併用することにより、重縮合反応時の黄変着色を抑制することができる点で好ましい。
【0079】
ゲルマニウム化合物は色調良好なポリエステルを得やすく好ましく用いられる。ゲルマニウム化合物の具体例としては、酸化ゲルマニウムや塩化ゲルマニウム等の無機ゲルマニウム化合物、テトラアルコキシゲルマニウムなどの有機ゲルマニウム化合物などの1種又は2種以上が挙げられる。価格や入手の容易さなどから、酸化ゲルマニウム、テトラエトキシゲルマニウム及びテトラブトキシゲルマニウムなどが好ましく、特に、酸化ゲルマニウム及びそのアルコール溶液、水溶液が好ましい。
【0080】
本発明のポリエステル樹脂を用いて位相差フィルムを製造する際、流延法(キャスト法)にて無配向フィルムを作製する場合は、フィルムのヘーズを考慮して、触媒としてチタン化合物を用いることが好ましい。
【0081】
触媒は2種類以上組み合わせて使用してもよく、また、必要に応じ、例えばチタン化合物とマグネシウム化合物やリン化合物などを組み合わせて使用してもよい。
触媒の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対し、通常50〜2000ppm、好ましくは100〜1000ppmである。
エステル化又はエステル交換反応の触媒は、そのまま重縮合反応触媒としても使用することもできる。
【0082】
反応温度は、通常150〜230℃、好ましくは180℃〜220℃であり、反応時間は、通常10分から10時間、好ましくは30分から5時間である。
エステル化反応又はエステル交換反応終了時の反応率は90〜100%である。ここで、反応率は、仕込んだ全カルボン酸成分に対する反応によりエステル化又はエステル交換されたカルボン酸成分の比を百分率で表す。
【0083】
本発明において、重縮合反応は、エステル化又はエステル交換反応終了後の反応液を、攪拌機、留出管及び減圧付加装置を備えた重縮合槽に移送し、これに必要に応じ、触媒を加え、重縮合槽内を徐々に減圧にしながら反応を進行させることにより行う。
十分な反応速度を得るために触媒を使用するのが好ましい。触媒としては、通常、重縮合反応使に使用される触媒であれば特に限定されず、上記のエステル化又はエステル交換反応において例示した触媒と同じものをそのまま重縮合反応触媒として使用することができる。また、好ましい触媒についても上述した通りである。
重縮合反応で新たに触媒を使用する場合の使用量は、生成するポリエステル樹脂に対し、通常50〜2000ppm、好ましくは100〜1000ppmである。
【0084】
重縮合反応は、反応槽内を徐々に減圧にしながら行う。槽内の圧力は、大気圧雰囲気下から最終的には1kPa以下で行い、特に0.5kPa以下とするのが好ましい。反応温度は、上記のエステル化又はエステル交換反応の反応終了後の温度ないし300℃、好ましくは反応終了後の温度ないし265℃である。反応時間は、通常10分から10時間の範囲内、好ましくは30分から5時間である。
【0085】
なお、エステル化反応槽に減圧付加装置を備え、一槽でエステル化又はエステル交換反応と重縮合反応を行うことも可能である。また、エステル化、エステル交換、重縮合反応は、回分方式でも連続方式でもよい。
【0086】
反応終了後は、例えば回分式の場合、槽底部から反応生成物を抜き出すことにより回収する。通常はストランド状に抜き出し、水冷しながらカッティングしてペレット状のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0087】
<物性>
本発明のポリエステル樹脂の固有粘度は、通常0.3〜1.5dl/g、好ましくは0.4〜1.0dl/gである。固有粘度が0.3dl/g未満の場合はこれを原料として溶融成形してフィルムを得るときその機械的強度が十分でなく、1.5dl/gより大きい場合は溶融時の流動性が低下して成形性に劣る。
【0088】
また、本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度は90℃以上230℃以下が好ましい。ガラス転移温度が90℃未満であるとこれを原料とするフィルムの耐熱性が劣る傾向となり、230℃超過ではフィルムに延伸するとき延伸むらが起きやすい。
【0089】
また、本発明のポリエステル樹脂の光弾性係数は25×10−12Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは20×10−12Pa−1以下である。光弾性係数が25×10−12Pa−1を超過するとこれを原料としてフィルムにしたときフィルム面内での位相差のばらつきが大きくなる。
【0090】
なお、ポリエステル樹脂の固有粘度、ガラス転移温度、光弾性係数は、後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0091】
[4] 光学用フィルム
本発明のポリエステル樹脂は、特に光学部品用として有用であり、特に、本発明のポリエステル樹脂より得られる光学用フィルムは例えば位相差フィルムとして利用することができる。
位相差フィルムは、本発明のポリエステル樹脂から得られるフィルムを製膜、又は製膜後に延伸することにより製造することができる。フィルムの製膜方法としては、従来公知の溶融押出法、溶液キャスト法等を用いることができる。
【0092】
なお、本発明の目的にかなえば、上記位相差フィルムの原料は、上述の本発明のポリエステル樹脂と、ポリカーボネト樹脂、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどにより変性されたポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリナフタレンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンシクロヘキサンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂などの他の樹脂の1種又は2種以上との組成物であってもよい。
【0093】
また、本発明の目的にかなえば、上記位相差フィルムに用いられるポリエステル樹脂に、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤を添加することもできる。
【0094】
製膜されたフィルム厚みは、通常、10μmから200μmであり、好ましくは30μmから150μmである。また、製膜されたフィルムの位相差値は、20nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下である。フィルムの位相差値がこれ以上大きいと、延伸して位相差フィルムとした際に位相差値のフィルム面内バラツキが大きくなるので好ましくない。
【0095】
一方、延伸方法も公知の縦、横どちらか一方の一軸延伸、縦横にそれぞれ延伸する二軸延伸等の延伸方法を用いることができる。また、特開平5−157911号公報に示されるような特殊な二軸延伸を施し、フィルムの三次元での屈折率を制御することも可能である。
【0096】
位相差フィルム作製の延伸条件としては、フィルム原料のガラス転移温度の−20℃から+40℃の範囲で行うことが好ましい。より好ましくは、フィルム原料のガラス転移温度の−10℃から+20℃の範囲である。この延伸濃度がガラス転移温度−20℃より低いと、延伸フィルムの位相差が大きくなり易く、所望の位相差を得るためには延伸倍率を低くしなければならず、フィルム面内の位相差のばらつきが大きくなりやすい。一方、ガラス転移温度+40℃以上では、得られるフィルムの位相差が小さくなり、所望の位相差を得るための延伸倍率を大きくしなければならず適正な延伸条件幅が狭くなってしまう。
【0097】
フィルムの延伸倍率は目的とする位相差値により決められるが、縦一軸延伸の場合、通常1.05〜4倍、好ましくは1.1〜3倍である。延伸したフィルムはそのまま室温で冷却してもよいが、ガラス転移温度の−20℃から+40℃の温度雰囲気に少なくとも10秒間以上、好ましくは1分以上、更に好ましくは10分〜60分保持してヒートセットし、その後室温まで冷却することが好ましく、これにより安定した位相差特性と波長分散特性を有する位相差フィルムが得られる。
【0098】
上記位相差フィルムをSTN液晶表示装置の色補償用に用いる場合には、その位相差値は、一般的には、400nmから2000nmまでの範囲で選択される。
また、上記位相差フィルムを1/2波長板として用いる場合は、その位相差値は、200nmから400nmの範囲で選択される。
上記位相差フィルムを1/4波長板として用いる場合は、その位相差値は、90nmから200nmまでの範囲で選択される。1/4波長板としてのより好ましい位相差値は、100nmから180nmまでである。
【0099】
前記位相差板として用いる場合は、上記位相差フィルムを単独で用いることもできるし、2枚以上を組合わせて用いることもでき、他のフィルム等と組合わせて用いることもできる。
【0100】
上記位相差フィルムは、公知のヨウ素系或いは染料系の偏光板と粘着剤を介して積層貼合することができる。積層する際、用途によって偏光板の偏光軸と位相差フィルムの遅相軸とを、特定の角度に保って積層することが必要である。
上記位相差フィルムを1/4波長板とし、これを偏光板と積層貼合して円偏光板として用いることができる。その場合、一般には、偏光板の偏光軸と位相差フィルムの遅相軸は実質的に45°の相対角度を保ち積層される。
また、上記位相差フィルムを、偏光板を構成する偏光保護フィルムとして用いて積層してもかまわない。更に、上記位相差フィルムをSTN液晶表示装置の色補償板とし、これを偏光板と積層貼合することにより楕円偏光板として用いることもできる。
【実施例】
【0101】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
なお、以下の実施例及び比較例における各種分析方法及び評価方法は次の通りである。
【0103】
<液体クロマトグラフィー(LC)分析>
・カラム;ODS−3V
・溶離液;アセトニトリル/HO=70/30(体積比)、0.1体積%CFCOOH添加
・流量;1mL/min.
・検出器;UV(254nm)
・注入量;サンプル10mg/10mLアセトニトリル溶液を5.0μL注入
【0104】
<ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルのN,S含有量>
全S量の分析は、酸素燃焼法−イオンクロマト分析により行なった。
全N量の分析は、試料を石英製ボートに採取、全窒素測定装置(三菱化学社製;TN−05型)で測定した。
【0105】
<ポリエステル樹脂のモノマー組成>
サンプル約20mgを重クロロホルム溶媒約750μLに溶解し、外径5mmのNMR試料管に移し、Bruker社製AV400M分光計を使用して室温下で、H−NMRスペクトルを測定した。各帰属ピークより構成モノマー量を計算した。
【0106】
ここで、各略号は次の通りである。
BMACF:9、9−ビス[(3−メチル−4−メトキシカルボニルメトキシ)フェニル]フルオレン
DMCD:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル
CHDA:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
TCDDM:3(4),8(9)−ビス(ヒドロキシメチル)−トリシクロ−[5.2.1.02.6]デカン
【0107】
<固有粘度(IV)の測定方法>
ポリエステル樹脂試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合溶媒を用いて、濃度が約1.00g/dLとなるように溶解させ、濃度C(g/dL)を算出する。この試料溶液を、30℃まで冷却して保持し、全自動溶液粘度計(センテック社製「2CH型DJ504」)にて、試料溶液の落下秒数(t)及び溶媒のみの落下秒数(t)を測定し、下式により算出した。
固有粘度(IV)=((1+4Kηsp0.5−1)/(2KC)
ここで、 ηsp=t/t−1 であり、tは試料溶液の落下秒数、tは溶媒のみの落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、Kはハギンズの定数である。Kは0.33を採用した。
【0108】
<ガラス転移温度Tg>
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121に従い、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製、DSC220)を用いて測定した。ポリエステル樹脂約10mgを同社製アルミパンに入れて密封し、昇温速度20℃/分で室温から300℃まで昇温した。得られたDSCデータより、補外ガラス転移開始温度を採用した。
【0109】
<光弾性係数C>
He−Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製DVE−3)を組み合わせた装置を用いて測定した。(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19,p93−97(1991)を参照。)
80℃で5時間真空乾燥をしたポリエステル樹脂サンプル4.0gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度250℃で、予熱1分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し、水管冷却式プレスで、圧力20MPaで3分間加圧冷却し、シートを作製した。シートから幅5mm、長さ20mmの試料を切り出し、粘弾性測定装置に固定し、25℃の室温で貯蔵弾性率E’を周波数96Hzにて測定した。同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O’を求めた。このとき、偏光子と検光子の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。
光弾性係数Cは、貯蔵弾性率E’とひずみ光学係数O’を用いて次式より求めた。
C=O’/E’
【0110】
<位相差及び位相差の波長分散性>
80℃で5時間真空乾燥をしたポリエステル樹脂サンプル2.4gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.3mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度250℃で、予熱1分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し、水管冷却式プレスで圧力20MPaで3分間加圧冷却しシートを作製した。このシートから幅6cm、長さ6cmの試料を切り出した。この試料を、同時二軸延伸装置(T.M.Long社製)に装着し、所定の延伸温度で5分間加熱し、所定の倍率に一軸延伸し、1分間保持した後、試料を取り外した。このとき延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態(延伸倍率1.0)で延伸を行った。
【0111】
延伸された試料より幅4cm、長さ4cmに切り出し、位相差測定装置(大塚電子社製RETS100)を用いて測定波長450,500,550,590,630nmで位相差を測定し、波長分散性を測定した。波長分散性は、450nmと550nmで測定した位相差Re450とRe550の比(Re450/Re550)及び450nmと630nmの位相差Re450とRe630の比’(Re450/Re630)を計算した。それぞれ1より大きいと波長分散は正であり、1未満では負となる。それぞれの位相差の比が、1未満で小さい程、負の波長分散性が強いことを示している。
【0112】
[ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造]
下記反応に従って、ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造を行った。
【0113】
【化8】

【0114】
<実施例1>
【化9】

【0115】
乾燥窒素気流下反応器に、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BCF) 5.0g(13.21mmol)をメチルエチルケトン(MEK、比誘電率18.6(20℃))20mLに溶解させ、ここへ炭酸カリウム9.1g(66.06mmol)とクロロ酢酸メチル5.0g(46.24mmol)を添加した。この懸濁液を80℃に加熱し、還流条件下で10時間攪拌した後、40℃に冷却した。この時点で液体クロマトグラフィー分析により原料のBCFが全量消費されたことを確認した。
【0116】
この反応混合物にトルエン50mLと酢酸エチル30mLを追加した後、水50mLで3回洗浄した。分離された有機層はその体積が30mLほどになるまで減圧下で濃縮して、その溶液を70℃に加熱しながらヘプタン20mLを追加し、ヘプタン追加終了後、ゆっくり室温まで冷却し結晶を析出させた。この結晶が析出した溶液を室温で5時間ほど放置して析出した結晶を濾過して集め、減圧下に乾燥して4.8g(単離収率70%)の9、9−ビス[(3−メチル−4−メトキシカルボニルメトキシ)フェニル]フルオレン(BMACF)を白色の結晶として得た。反応成績(原料の転化率、生成物の選択性)と不純物量を表1に示す。
【0117】
<実施例2〜6>
実施例1において、溶媒をMEKから表1に示すアセトニトリル(MeCN;実施例2)、アセトン(実施例3)、メチルイソブチルケトン(MIBK;実施例4),酢酸エチル(EtOAc;実施例5)、テトラヒドロフラン(THF;実施例6)に置き換えたこと以外は、実施例1と同様の条件にて反応を行った。それぞれの反応成績と不純物量を表1に示す。
【0118】
<実施例7>
実施例1において、無機塩基を炭酸カリウムから燐酸カリウムに変更した以外は、実施例1と同様の条件にて反応を行った。反応終了後、液体クロマトグラフィー分析により確認された原料のBCFの変換率は66%であった。それぞれ生成された化合物の選択率はBMACFが28%、モノエステルが69%、BMAACFが3%である。
【0119】
<比較例1>
実施例1において、溶媒をMEKからトルエンに換えた他は、実施例1と同様の条件にて反応を行った。反応成績と不純物量を表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
表1より、本発明に従って、20℃における比誘電率が6以上で且つ沸点が120℃以下の溶媒を用いると、速やかに反応が進行し、目的物が選択性及び収率よく得られることが分かる。
【0122】
[ポリエステル樹脂の製造及び位相差フィルムの製造]
以下に、実施例1で得られた,9、9−ビス[(3−メチル−4−メトキシカルボニルメトキシ)フェニル]フルオレン(BMACF)を用いたポリエステル樹脂の製造例、及び位相差フィルムの製造例を挙げる。
【0123】
<実施例8:ポリエステル樹脂の製造>
攪拌機、還流冷却器、加熱装置、圧力計、温度計及び減圧装置を装備した容量450ccのガラス製反応器に、BMACF104.4重量部、DMCD(トランス体:シス体=95:5)17.1重量部、及びTCDDM55.1重量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。反応器内を窒素ガスでシールしながら、内温を160℃から200℃まで1時間で昇温して1時間保持し、エステル化反応を行った。その後、テトラ−n−ブチルチタネート6重量%の1,4−ブタンジオール溶液0.445gを仕込んだ後、内温を200℃から90分間かけて250℃まで昇温しつつ、反応器内の圧力を徐々に減圧にしながら重縮合反応を行った。反応器の絶対圧力0.1kPa、反応温度を250℃として、60分間維持し、重縮合反応を終了した。重縮合反応終了後直ちに、得られた樹脂を水中にストランド状に抜き出し、切断してペレット化してポリエステル樹脂とした。
【0124】
このものの固有粘度(IV)は0.460dL/g、光弾性係数は、18×10−12Pa−1、ガラス転移温度は127℃であった。
【0125】
<実施例9:位相差フィルムの製造>
実施例8で得たポリエステル樹脂2.4gを幅8cm、長さ8cm、厚さ0.3mmのスペーサーを用いて、熱プレス成形機(東洋精機社製)で、成形温度250℃で5分間予熱した後、1分間圧縮し、その後、取り出し、冷却用プレスで3分間圧縮した。得られたプレスシートを幅6cm、長さ6cmの正方形に切り出した。この試料を同時二軸延伸装置(T.M.Long社製)に装着し、延伸温度140℃で5分間加熱し、1.6倍に一軸延伸し、1分間保持した後、試料を取り外した。このとき延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態で延伸を行った。
【0126】
こうして得たフィルムの厚さは110μmで、各波長での位相差は、
Re450=27.97
Re500=31.30
Re550=33.98
Re590=35.30
Re630=36.56
であり、これから計算される波長分散性は
Re450/Re550=0.82
Re450/Re630=0.77
であった。
【0127】
以上の結果から、本発明の方法により製造されたビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルを用いたポリエステル樹脂によれば、光弾性係数が小さく、位相差のばらつきが小さく、可視光の全波長領域において、位相差が負の波長分散をもつ位相差フィルムが得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記反応式(I)に従って、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(i)を無機塩基の存在下、溶媒中でα−ハロ酢酸エステル(ii)と反応させて、ビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステル(iii)を製造する方法において、溶媒として20℃における比誘電率が6以上で且つ沸点が120℃以下の溶媒を用いることを特徴とするビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【化1】

(式(I)中のRは炭素数6以下の有機置換基を表し、Xはフッ素を除くハロゲン原子を表す。)
【請求項2】
溶媒の20℃における比誘電率が15以上であることを特徴とする請求項1に記載のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項3】
無機塩基が金属の炭酸塩であり、且つα−ハロ酢酸エステルがα−クロロ酢酸アルキルエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項4】
窒素含有量が10ppm以下のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステル(iii)を製造することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルの製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法により製造されたビスフェニルフルオレンジカルボン酸ジエステルをモノマーとして用い、重合して得られるポリマー。
【請求項6】
光学部品用ポリマーである請求項5に記載のポリマー。

【公開番号】特開2009−67681(P2009−67681A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−234243(P2007−234243)
【出願日】平成19年9月10日(2007.9.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】