説明

ビスフェノール化合物の顆粒状粉末及びその製造方法

【課題】ハンドリング性に優れるビスフェノール化合物の顆粒状粉末を提供すること。
【解決手段】本発明のビスフェノール化合物の顆粒状粉末は、下記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物の顆粒状粉末であって、目開き850μmの篩を通過しない粉末の割合が40重量%以上であり、かつ安息角が5〜45°であることを特徴とする。



[式中の各記号の定義は明細書に記載のとおりである。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体特性が改善され、ハンドリング性に優れるビスフェノール化合物の顆粒状粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAを始めとするビスフェノール化合物は、ポリカーボネート樹脂又はエポキシ樹脂の原料として従来から使用されている。近年、ビスフェノール化合物は、ポリカーボネートやエポキシ樹脂などの電子材料などの原料として需要が拡大していることから、色相及び耐熱安定性などにおいて高い品質が要求されている。
【0003】
ビスフェノール化合物は、フェノール類と、縮合剤であるケトン類又はアルデヒド類とを塩酸などの酸性触媒下で縮合させてビスフェノール化合物を得、次いでこれを乾燥し解砕して粉末状の製品として得られる。しかし、ビスフェノール化合物のほとんどが帯電性を有するために、解砕時において壁面に付着し、またポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂の製造時に原料投入口などへ付着して詰まるなど、ハンドリング性が著しく悪化する。また、ビスフェノール化合物の粉塵が舞うために人体への悪影響が懸念されるなど、作業環境面でも問題がある。
【0004】
ビスフェノール化合物の製造方法として、リン含有無機酸塩・窒素含有無機酸塩・硫黄含有無機酸塩存在下でフェノール付加物の脱水を行う方法(例えば、特許文献1参照)や、酸性白土・シリカゲル・アルミナなどの吸着剤を使う方法(例えば、特許文献2)などが提案されているが、これらは品質を改善するのみであり、ハンドリング性の向上には効果がない。また、ビスフェノールAのプリルの製造方法(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、専用の製造設備が必要となりコストが増大する。さらに、ローラーコンパクターを用いた機械的な造粒方法は、金属汚染が懸念され、また工程数の増加に繋がるため経済的ではない。
【特許文献1】特開昭61−12640号公報
【特許文献2】特開2000−256242号公報
【特許文献3】特開2005−213190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、精製方法の改善による高品質なビスフェノール化合物の製造方法や、精製工程後に機械的に造粒する方法などは報告されているが、ハンドリング性に優れるビスフェノール化合物を得る方法は未だ報告されていない。
【0006】
本発明はこのような実情に鑑みなされたものであり、その解決しようとする課題はハンドリング性に優れるビスフェノール化合物の顆粒状粉末を提供することにある。本発明はまた、ハンドリング性に優れるビスフェノール化合物の顆粒状粉末を簡便にかつ効率的に製造可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、粒度分布が狭い略均一な平均粒径を有するビスフェノール化合物とするのではなく、粒度分布が広くても特定粒径以上の粉末の存在率を高め、安息角を特定範囲とすることで流動性が大きく改善され、その結果ハンドリング性に優れる顆粒状のビスフェノール化合物となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下の特徴を有する。
[1]下記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物の顆粒状粉末であって、目開き850μmの篩を通過しない粉末の割合が40重量%以上であり、かつ安息角が5〜45°である、ビスフェノール化合物の顆粒状粉末。
【0009】
【化1】



【0010】
式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアリール基を示す。但し、R〜Rが水素原子であり、かつR及びRがメチル基である場合を除く。
【0011】
[2]目開き500μmの篩を通過する粉末の割合が45重量%以下である、上記[1]記載のビスフェノール化合物の顆粒状粉末。
[3]圧縮度が0.5〜20%である、上記[1]又は[2]記載のビスフェノール化合物の顆粒状粉末。
[4]スパテュラ角が30〜60°である、上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載のビスフェノール化合物の顆粒状粉末。
[5]当該ビスフェノール化合物の融点より10℃高い温度で1時間溶融した時のAPHA値が100以下となる、上記[1]〜[4]のいずれか一つに記載のビスフェノール化合物の顆粒状粉末。
[6]ビスフェノール化合物を芳香族炭化水素又は含水アルコールに溶解した溶液を、30℃/時間以上の速度で冷却して上記ビスフェノール化合物を顆粒状にて析出させる、目開き850μmの篩を通過しない粉末の割合が40重量%以上であり、かつ安息角が5〜45°であるビスフェノール化合物の顆粒状粉末の製造方法。
[7]ビスフェノール化合物を芳香族炭化水素又は含水アルコールに溶解した溶液を、冷却した溶媒に添加して上記ビスフェノール化合物を顆粒状にて析出させる、目開き850μmの篩を通過しない粉末の割合が40重量%以上であり、かつ安息角が5〜45°であるビスフェノール化合物の顆粒状粉末の製造方法。
[8]上記冷却した溶媒の温度が−20〜30℃である、上記[7]記載の製造方法。
[9]ビスフェノール化合物が下記一般式(2)で表される化合物である、上記[6]〜[8]のいずれか一つに記載の製造方法。
【0012】
【化2】



【0013】
式中、R11〜R14はそれぞれ独立に水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を示し、R15及びR16はそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアリール基を示す。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粉塵の舞いなどが抑制され、しかもポリカーボネートやエポキシ樹脂などの製造設備の原料投入口への付着や詰まりが防止されることから、ハンドリング性に優れるビスフェノール化合物の顆粒状粉末が提供される。また、本発明の製造方法によれば、ハンドリング性に優れるビスフェノール化合物の顆粒状粉末を簡便な手段により効率的に製造することが可能であり、しかも着色のない高品質の製品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
まず、本明細書において使用する各式中の記号の定義を説明する。
〜R及びR11〜R16におけるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの直鎖状、分岐状又は環状の炭素数1〜8のアルキル基が好適である。中でも、炭素数1〜6(より好ましくは炭素数1〜4)の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好適である。
〜R及びR15〜R16におけるアリール基としては、炭素数6〜14(より好ましくは炭素数6〜8)のアリール基が好適である。具体的には、フェニル基、トリル基、キシリル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基などが例示され、中でもフェニル基が好適である。
【0016】
〜R及びR11〜R16における置換アルキル基とは、ハロゲン原子(特にフッ素原子)、水酸基、炭素数1〜6(好ましくは1〜4)のアルコキシ基、アリール基などで1又はそれ以上置換されているアルキル基をいい、例えば、ベンジル基、エチルフェニル基(例えば、炭素数7〜10のアラルキル基)、トリフルオロメチル基、メトキシメチル基が例示される。
〜R及びR15〜R16における置換アリール基とは、ハロゲン原子(上記と同義)、炭素数1〜6のアルコキシ基(上記と同義)、トリフルオロメチル基などで1又はそれ以上置換されているアリール基をいい、例えば、o−、m−又はp−メトキシフェニル基、o−、m−又はp−トリフルオロメチルフェニル基が例示される。
【0017】
〜R及びR11〜R14としては、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基が好適であり、またR、R、R15及びR16としては水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基(置換アルキル基)又は炭素数6〜14のアリール基が好適である。但し、上記一般式(1)で表されるビスフェノール化合物においては、R〜Rが水素原子であり、かつR及びRがメチル基であるビスフェノールAを包含しない。
【0018】
次に、本発明のビスフェノール化合物の顆粒状粉末(以下、「顆粒状ビスフェノール化合物」と称することがある)の粉体特性について説明する。
本発明の顆粒状ビスフェノール化合物は、目開き850μmの篩を通過しない粉末の割合が40重量%以上であるが、好ましくは50重量%以上、より好ましくは53重量%以上、更に好ましくは65重量%以上である。
また、安息角は5〜45°であるが、安息角の下限は、好ましくは10°、より好ましくは15°であり、その上限は好ましくは40°、より好ましくは35°である。これにより、ポリカーボネートやエポキシ樹脂などの製造設備の原料投入口などへの付着、それに伴う投入口の詰まりなどが防止される。なお、本発明において、粒度はJIS Z 8801に準拠した篩を用いて、JIS K 0069に準拠したふるい分け試験方法により得られたものであり、また安息角(θ)とは、パウダーテスター(形式PT−N型、ホソカワミクロン社製)を用いて測定したものをいう。
【0019】
本発明においては、より一層優れたハンドリング性を実現するために、上記粉体特性に加えて、目開き500μmの篩を通過する粉末の割合が、好ましくは45重量%以下、より好ましくは30重量%以下、更に好ましくは27重量%以下であるものが望ましい。これにより、上記した原料投入口などへの付着や詰まりなどがより確実に防止されるとともに、粉塵の舞いが抑制されるため、ハンドリング性だけでなく作業環境をも大きく改善することができる。
【0020】
また、本発明の顆粒状ビスフェノール化合物は、圧縮度(C)が好ましくは0.5〜20%であるが、その上限は、より好ましくは15%、更に好ましくは10%である。また、スパテュラ角(θ)が好ましくは30〜60°であるが、その上限は、より好ましくは50°、更に好ましくは45°である。更に、均一度(U)が好ましくは1〜15%であるが、その上限は、より好ましくは13%、更に好ましくは10%である。これにより、ハンドリング性が格段に改善された顆粒状ビスフェノール化合物とすることができる。
【0021】
なお、本発明において、圧縮度(C)とは、パウダーテスター(形式PT−N型、ホソカワミクロン社製)を用いて測定された、ゆるめ嵩密度(ρ)と固め嵩密度(ρ)とから下式(a)により求められるものをいう。
(%)=(ρ−ρ)/ρ×100 …(a)
また、スパテュラ角(θ)とは上記パウダーテスターを用いて測定したものをいい、均一度(U)とは上記パウダーテスターを用いて粒度分布を求め累積分布曲線を作成し、その累積分布曲線に基づいて求めた60%径(X60、μm)と10%径(X10、μm)とから下式(b)より求められるものをいう。
(%)=X60/X10×100 …(b)
【0022】
さらに、本発明の顆粒状ビスフェノール化合物は、R.L.Carr, “Evaluating Flow Properties of Solid”, Che. Eng. January 18,1965に記載のCarrの指数が、好ましくは70〜100、より好ましくは80〜100であるものが望ましい。なお、本発明において、Carrの指数とは、上記した安息角(θ)、圧縮度(C)、スパテュラ角(θ)及び均一度(U)の各測定値に対して表1に記載の指数を個別に付与し、それらの指数を合計したものをいう。このように、Carrの指数は、安息角(θ)、圧縮度(C)、スパテュラ角(θ)及び均一度(U)に基づいて総合的に粉体特性が判断されるために、より確実にハンドリング性に優れる顆粒状ビスフェノール化合物となる。
【0023】
【表1】

【0024】
また、本発明の顆粒状ビスフェノール化合物は、例えば、融点より10℃高い温度で1時間溶融した時にAPHA値が好ましくは100以下、より好ましくは50以下となる。このような優れた色相を有するために、ポリカーボネートやエポキシ樹脂などの電子材料などの原料として好適な高品質の製品を提供することが可能になり、また制振剤や酸化防止剤などの樹脂改質剤としても有用である。
【0025】
次に、本発明のビスフェノール化合物の顆粒状粉末の製造方法について説明する。
本発明の顆粒状ビスフェノール化合物の製造方法は、ビスフェノール化合物を芳香族炭化水素又は含水アルコールに溶解した溶液を、30℃/時間以上の速度で冷却することを特徴とする。これにより、目開き850μmの篩を通過しない粉末の割合が40重量%以上(好ましくは50重量%以上)であり、かつ安息角が5〜45°という粉体特性を有する顆粒状ビスフェノール化合物を析出させることができる。すなわち、本発明においては、ビスフェノール化合物を芳香族炭化水素又は含水アルコールに溶解し得られた溶液を30℃/時間以上の速度で冷却することで、原料化合物とは粉体特性の異なる顆粒状ビスフェノール化合物として析出させることができる。冷却速度が30℃/時間未満であると、粒度の小さなビスフェノール化合物が多量に生成し、粉塵が舞いやすく、原料投入口などへ付着しやすいビスフェノール化合物になる。なお、冷却速度の上限は、通常140℃/時間であり、好ましくは120℃/時間である。
【0026】
原料であるビスフェノール化合物としては、フェノール類と、ケトン類又はアルデヒド類との縮合反応により得られたビスフェノール化合物の粗結晶だけでなく、精製後のビスフェノール化合物の結晶をも使用することができる。中でも、上記一般式(2)で表されるビスフェノール化合物を含む粗結晶又はその精製物が好適に使用される。
【0027】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが好適に使用される。また、含水アルコールにおけるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルコールが好適に使用される。アルコールと水との割合は、重量比(アルコール/水)で、好ましくは50/50〜90/10、より好ましくは65/35〜75/25である。なお、アセトンやTHFなどの溶媒の場合、ビスフェノール化合物に対する溶解性が高過ぎるために、顆粒状ビスフェノール化合物を得難いとの知見を本発明者は得ている。なお、これらの溶媒の使用量はビスフェノール化合物を溶解できれば特に限定されるものではなく、ビスフェノール化合物の溶解度に基づいて適宜選択することができる。
【0028】
また、本発明においては、顆粒状ビスフェノール化合物を析出させる際に、ビスフェノール化合物の溶液に種結晶を添加してもよい。種結晶としては、析出すべきビスフェノール化合物の結晶を使用するが、その製造方法は特に限定されるものではない。また、種結晶の形状も特に限定されず、例えば、微粉末状でも顆粒状であってもよいが、顆粒状のものが好適に使用される。
【0029】
種結晶の使用量は、原料であるビスフェノール化合物に対して、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%である。
また、種結晶の添加は、例えば、原料としてビスフェノールCの粗結晶を用い、該粗結晶に対して溶媒であるトルエンを160重量%用いた場合、粗結晶は75℃以上で完全に溶解し、55℃以下まで冷却すると結晶が析出することから、粗結晶を完全に溶解後結晶が析出するまでの温度、すなわち55〜75℃(好ましくは65〜75℃)で行なうのが好ましい。このように、過飽和状態のうちに種結晶を添加することで、効率的に顆粒状にすることが可能になる。
【0030】
本発明の顆粒状ビスフェノール化合物は、析出したビスフェノール化合物の結晶を濾過により分取し、次いでコニカル乾燥機、棚式送風乾燥機などの公知の乾燥機により乾燥することで得られる。このように、本発明においては、専用の製造装置や造粒装置を必要としないために、顆粒状ビスフェノール化合物を低コストで、しかも簡便かつ効率的に製造することができる。更には、造粒装置などによる金属汚染がないために、ビスフェノール化合物の融点より10℃高い温度で1時間溶融した時のAPHA値が、好ましくは100以下、より好ましくは50以下という優れた色相を有するビスフェノール化合物を得ることができる。なお、本発明者の知見によれば、ローラーコンパクターなどの公知の造粒装置を用いて塊粒状にしたビスフェノール化合物の場合、上記APHA値は、少なくとも200程度になる。このように、造粒装置による塊粒状ビスフェノール化合物の製造は、金属汚染を回避することが困難であるため、高品質のものが得難くなる。
【0031】
また、本発明の顆粒状ビスフェノール化合物を1.5mol%のアルカリ水溶液に溶解した場合にも、殆ど着色することがない。例えば、UV測定器(形式:Lanbda Bio40、パーキンエルマー社製)を用いて測定した、450nmにおける吸光度は0.30程度である。なお、本発明者の知見によれば、ローラーコンパクターを使用して塊粒状にしたビスフェノール化合物を1.5mol%のアルカリ水溶液に溶解した溶液の、450nmにおける吸光度は2.10である(図1参照)。
【0032】
また、本発明の顆粒状ビスフェノール化合物は、ビスフェノール化合物を芳香族炭化水素又は含水アルコールに溶解した溶液を、冷却した溶媒に添加しても、目開き850μmの篩を通過しない粉末の割合が40重量%以上(好ましくは50重量%以上)であり、かつ安息角が5〜45°という粉体特性を有する顆粒状ビスフェノール化合物を得ることができる。
【0033】
原料であるビスフェノール化合物、これを芳香族炭化水素又は含水アルコールに溶解した溶液の構成は、上記において説明したとおりである。
ビスフェノール化合物の溶液を添加すべき溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素が例示され、これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、トルエンが好適に使用される。かかる溶媒の使用量は、例えば、ビスフェノール化合物に対して、好ましくは50〜200重量%、より好ましくは70〜100重量%である。50重量%未満であると溶解度が低いため溶媒の沸点付近でも完全に溶解し難い場合があり、他方、200重量%を越えると遠心ろ過の際に歩留まりが低下する傾向にある。
【0034】
また、ビスフェノール化合物の溶液を添加すべき溶媒の冷却温度は、好ましくは−20〜30℃、より好ましくは0〜20℃である。−20℃未満であると結晶中の不純物が増加する傾向にあり、他方、30℃を越えると粒径の小さな微粉が増加する傾向にある。
【0035】
析出したビスフェノール化合物の結晶は、上記と同様の処理を行なうことで顆粒状のビスフェノール化合物として得ることができる。本製造方法によっても、上記製造方法と同様の色相及びハンドリング性を有する顆粒状ビスフェノール化合物を簡便且つ効率的に製造することが可能である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、説明において「純度」は、下記条件での高速液体クロマトグラフィー(HPLC、型式LC−10A、島津製作所製)による分析で面積%として求めたものであり、また「%」は特に断りがない限り重量%を示す。
【0037】
カラム:ジーエルサイエンス社製 Inertsil ODS−2(6mm×150mm)
移動層:アセトニトリル/0.05%リン酸水溶液(70/30(v/v%))
検出波長:280nm
流速:0.8ml/min
カラム温度:40℃
【0038】
(実施例1)
35%塩酸315g、3−メルカプトプロピオン酸15gを4つ口フラスコに仕込み、20℃の水浴で保温した。o−クレゾール300g、アセトン120gの混合溶液を調製した後、温度を20℃に保ったまま4つ口フラスコ内にゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応液の温度を30〜40℃に保ち一定撹拌した。6時間経過後、トルエン500gを滴下し、75℃まで昇温して粗生成物を完全に溶解させた。35%塩酸を分液後、トルエン層を水、5%重曹水、水で順次洗浄し、次いで冷却して結晶を析出させた。ろ過によって得られた粗結晶310gを4つ口フラスコに仕込んだ後、トルエン500gを滴下して75℃まで昇温し完全に溶解させた。次いで、トルエン溶液に種結晶(ビスフェノールC)0.3gを添加した後、トルエン溶液を30℃/時間の冷却速度で冷却した。次いで、トルエン溶液を濾過・乾燥して2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンの顆粒状粉末を258.8g得た。純度は99.9%であった。
【0039】
(実施例2)
粗結晶をトルエンに溶解したトルエン溶液を40℃/時間の冷却速度で冷却したこと以外は、実施例1と同様の方法により2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを259.0g得た。純度は99.9%であった。
【0040】
(実施例3)
粗結晶をトルエンに溶解したトルエン溶液を120℃/時間の冷却速度で冷却したこと以外は、実施例1と同様の方法により2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを259.3g得た。純度は99.9%であった。
【0041】
(実施例4)
実施例1と同様の方法により得た粗結晶310gを4つ口フラスコに仕込んだ後、トルエン310gを滴下して95℃まで昇温し完全に溶解させた。溶解直後のトルエン溶液を、0℃に冷却しておいたトルエン310g中にゆっくりと滴下した。滴下終了時の温度は30℃だったので、再度10℃以下になるまで冷却し、濾過・乾燥して2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを260.1g得た。純度は99.9%であった。
【0042】
(比較例1)
粗結晶をトルエンに溶解したトルエン溶液を10℃/時間の冷却速度で冷却したこと以外は、実施例1と同様の方法により2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを258.5g得た。純度は99.9%であった。
【0043】
(比較例2)
粗結晶をトルエンに溶解したトルエン溶液を20℃/時間の冷却速度で冷却したこと以外は、実施例1と同様の方法により2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンを259.2g得た。純度は99.9%であった。
【0044】
(評価試験)
実施例1〜4及び比較例1〜2で得たビスフェノール化合物を用いて、下記の(1)〜(8)の評価項目について試験を行なった。(1)〜(7)の試験結果を表2に示し、(8)の測定結果を図1に示す。
【0045】
(1)粒度分布
JIS Z 8801に準拠した篩を用いて、JIS K 0069に準拠した方法によりふるい分けを行い測定した。
【0046】
(2)安息角
パウダーテスター(形式PT−N型、ホソカワミクロン社製)にて測定した。
【0047】
(3)圧縮度
パウダーテスター(形式PT−N型、ホソカワミクロン社製)にてゆるめ嵩密度(ρ)及び固め嵩密度(ρ)を測定し、これらの測定値に基づいて上記式(a)により求めた。
【0048】
(4)スパテュラ角度
パウダーテスター(形式PT−N型、ホソカワミクロン社製)にて測定した。
【0049】
(5)均一度
パウダーテスター(形式PT−N型、ホソカワミクロン社製)を用いて粒度分布を求め累積分布曲線を作成し、その累積分布曲線からX60及びX10を求め、これらの測定値に基づいて上記式(b)より求めた。
【0050】
(6)Carrの指数
上記(2)〜(5)で得られた各測定値について上記表1に記載の指数を付与し、指数の合計を算出した。
【0051】
(7)APHA
ビスフェノール化合物を150℃で1時間溶融した後、JIS K 0071に準拠した標準液と、溶解させた溶液とを目視により比較してAPHAを測定した。
【0052】
(8)アルカリ溶解色
ビスフェノール化合物を、1.5mol%水酸化ナトリウム水溶液に溶解し、得られた各アルカリ水溶液の吸光度(アルカリ溶解色)をUV測定器(形式:Lanbda Bio40、パーキンエルマー社製)にて測定した。その結果を図1に示す。なお、表中の数値は450nmにおける吸光度である。
【0053】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1〜4及び比較例1〜2で得たビスフェノール化合物を1.5mol%水酸化ナトリウム水溶液に溶解したアルカリ溶液の吸光度を測定した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】



[式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアリール基を示す。但し、R〜Rが水素原子であり、かつR及びRがメチル基である場合を除く。]
で表されるビスフェノール化合物の顆粒状粉末であって、
目開き850μmの篩を通過しない粉末の割合が40重量%以上であり、かつ安息角が5〜45°である、
ビスフェノール化合物の顆粒状粉末。
【請求項2】
目開き500μmの篩を通過する粉末の割合が45重量%以下である、請求項1記載のビスフェノール化合物の顆粒状粉末。
【請求項3】
圧縮度が0.5〜20%である、請求項1又は2記載のビスフェノール化合物の顆粒状粉末。
【請求項4】
スパテュラ角が30〜60°である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のビスフェノール化合物の顆粒状粉末。
【請求項5】
当該ビスフェノール化合物の融点より10℃高い温度で1時間溶融した時のAPHA値が100以下となる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のビスフェノール化合物の顆粒状粉末。
【請求項6】
ビスフェノール化合物を芳香族炭化水素又は含水アルコールに溶解した溶液を、30℃/時間以上の速度で冷却して前記ビスフェノール化合物を顆粒状にて析出させる、
目開き850μmの篩を通過しない粉末の割合が40重量%以上であり、かつ安息角が5〜45°であるビスフェノール化合物の顆粒状粉末の製造方法。
【請求項7】
ビスフェノール化合物を芳香族炭化水素又は含水アルコールに溶解した溶液を、冷却した溶媒に添加して前記ビスフェノール化合物を顆粒状にて析出させる、
目開き850μmの篩を通過しない粉末の割合が40重量%以上であり、かつ安息角が5〜45°であるビスフェノール化合物の顆粒状粉末の製造方法。
【請求項8】
前記冷却した溶媒の温度が−20〜30℃である、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
ビスフェノール化合物が下記一般式(2):
【化2】



[式中、R11〜R14はそれぞれ独立に水素原子又は置換若しくは非置換のアルキル基を示し、R15及びR16はそれぞれ独立に水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基又は置換若しくは非置換のアリール基を示す。]
で表される化合物である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−290983(P2008−290983A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139595(P2007−139595)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(396020464)株式会社エーピーアイ コーポレーション (39)
【Fターム(参考)】