説明

ビスフェノールAの製造方法

【課題】異性化反応工程を有するビスフェノールAの製造方法における異性化反応触媒の寿命を延ばし、ビスフェノールAを効率良く製造する方法を提供する。
【解決手段】ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類を含む液を強酸性陽イオン交換樹脂と接触させて、ビスフェノールA〔2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〕以外のビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類をビスフェノールAに異性化するに際し、前記ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類を含む液の水分濃度を0.2〜0.9質量%とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異性化反応工程を有するビスフェノールA〔2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〕の製造方法に関し、詳しくは異性化反応触媒の寿命を延ばし。ビスフェノールAを効率良く製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールAはエポキシ樹脂或いはポリカーボネート樹脂の原料として重要な化合物であり、近年その用途及び需要が増大している。
ビスフェノールAは、通常、過剰量のフェノールとアセトンとを酸性触媒の存在下で縮合反応させることにより得られ、反応混合物の濃縮液を冷却することによりビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析させて該付加物と母液に分離し、該付加物(アダクト)を分解することにより製造される。
【0003】
上記ビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析させる際に得られる母液には、ビスフェノールAの他に、2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、o,p'−体と称する)を始めとする多くのp,p'−体へ異性化しうる成分が含まれており、従って製品ビスフェノールAの得率を高めるためには、これらの異性化しうる成分を、p,p'−体へ異性化して回収することが重要である。この異性化処理には、通常、スルホン酸型陽イオン交換樹脂が触媒として用いられるが、この触媒の劣化速度が大きいために触媒交換頻度が多くなり、ビスフェノールA製造装置の稼働率が低下することになる。
【0004】
フェノールとアセトンとの縮合反応混合物からビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析分離した後の母液の異性化処理に関しては、スルホン酸型陽イオン交換樹脂をフェノール類などで洗浄して用いる方法(例えば、特許文献1参照)、反応初期に水を共存させる方法(例えば、特許文献2参照)、該母液の一部を異性化処理した後、縮合反応工程や濃縮工程などに再循環する方法(例えば、特許文献3参照)、該母液の全量を異性化処理して、異性化処理液の一部を縮合反応工程や、濃縮工程、晶析・固液分離工程に循環し、残りの異性化処理液からビスフェノールAやフェノールを回収する方法(例えば、特許文献4参照)などが知られている。
しかしながら、現状では、触媒として用いられるスルホン酸型陽イオン交換樹脂の寿命を延ばすことについて論じた文献は見当たらない。
【0005】
【特許文献1】特開昭62−201833号公報
【特許文献2】特開平5−339187号公報
【特許文献3】特開平8−333290号公報
【特許文献4】特開2004−359594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記のような状況下で、異性化反応工程を有するビスフェノールAの製造方法における異性化反応触媒の寿命を延ばし、ビスフェノールAを効率良く製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、異性化反応触媒に接触させるビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類を含む液の水分濃度を制御することによって、異性化反応触媒の寿命を延ばすことができ、商業生産装置において2年ないし3年の連続運転が可能となり、ビスフェノールを効率的に良く製造し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち本発明は、以下のビスフェノールAの製造方法を提供するものである。
1. ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類を含む液を強酸性陽イオン交換樹脂と接触させて、ビスフェノールA〔2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〕以外のビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類をビスフェノールAに異性化するに際し、前記ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類を含む液の水分濃度を0.2〜0.9質量%とすることを特徴とするビスフェノールAの製造方法。
2. (A)過剰量のフェノールとアセトンとを酸性触媒の存在下、縮合反応させる縮合反応工程、(B)縮合反応工程で得られた反応混合物を濃縮する濃縮工程、(C)濃縮工程で得られた濃縮液を冷却することによりビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析させ、該付加物と母液に分離する晶析・固液分離工程、(D)晶析・固液分離工程で得られた母液の全量を強酸性陽イオン交換樹脂と接触させてビスフェノールA以外のビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類をビスフェノールAに異性化する異性化工程、(E)異性化処理液の一部を(A)縮合反応工程、(B)濃縮工程および(C)晶析・固液分離工程の少なくとも何れかに再循環すると共に、異性化処理液の一部からビスフェノールAとフェノールとを回収する異性化処理液の回収工程、(F)ビスフェノールAとフェノールとの付加物からフェノール除去し、ビスフェノールAを回収するアダクト分解工程および(G)アダクト分解工程で得られたビスフェノールAを造粒化する造粒工程を有し、前記(D)異性化工程において、母液の水分濃度を0.2〜0.9質量%とする上記1のビスフェノールAの製造方法。
3. (C)晶析・固液分離工程において、水を添加した真空蒸発晶析により冷却を行う上記2のビスフェノールAの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のビスフェノールAの製造方法においては、フェノールとアセトンとの縮合反応混合物からビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析分離した後の異性化反応触媒に供給する母液の水分濃度を制御することによって、異性化反応触媒の寿命を延ばすことができ、商業生産装置において2年ないし3年の連続運転が可能となり、ビスフェノールを効率良く製造できるようになる。また、これにより廃棄される触媒の処理量が削減され、触媒を安全に廃棄するために発生する大量のフェノール排水を削減出来るといった環境への効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のビスフェノールAの製造方法は、ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類を含む液を強酸性陽イオン交換樹脂と接触させて、ビスフェノールA以外のビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類をビスフェノールAに異性化するに際し、前記ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類を含む液の水分濃度を0.2〜0.9質量%とすることを特徴とする。具体的には、以下の(A)縮合反応工程、(B)濃縮工程、(C)晶析・固液分離工程、(D)異性化工程、(E)異性化処理液の回収工程、(F)アダクト分解工程および(G)造粒工程を経てビスフェノールAが製造される。次に各工程について詳細に説明する。
【0011】
(A)縮合反応工程
縮合反応工程は、酸性触媒の存在下、フェノールとアセトンとを縮合反応させる工程である。原料のフェノールとアセトンは、化学量論的にフェノール過剰で反応させる。フェノール/アセトンのモル比は、通常、3〜30、好ましくは、5〜20の範囲である。反応温度は、通常、50〜100℃、反応圧力は、通常、常圧〜1.5MPa、好ましくは常圧〜0.6MPaである。触媒としては、通常、スルホン酸型等の強酸性陽イオン交換樹脂が用いられる。更に、強酸性陽イオン交換樹脂触媒の一部をメルカプトアルキルアミン等の助触媒により中和された触媒を用いることもある。例えば、2−メルカプトエチルアミン、3−メルカプトプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−メルカプトプロピルアミン、N,N−ジ−n−ブチル−4−メルカプトブチルアミン、2,2−ジメチルチアゾリジン等でスルホン酸基の5〜30モル%程度が中和されたものが挙げられる。フェノールとアセトンとの縮合反応は、連続方式でしかも押し流れ方式である固定床流通方式、或いは懸濁床回分方式で行われる。固定床流通方式の場合、反応器に供給する原料液の液空間速度は、0.2〜50hr-1程度である。また、懸濁床回分方式で行う場合、反応温度、反応圧力によって異なるが、一般的に、該原料液に対して20〜100質量%の範囲の樹脂触媒量であり、処理時間は、0.5〜5時間程度である。
【0012】
(B)濃縮工程
濃縮工程は縮合反応工程で得られた反応混合物を濃縮する工程である。縮合反応工程からの反応混合物は通常二段の工程で濃縮が行なわれる。第一濃縮工程において、減圧蒸留等の方法により未反応アセトン、反応生成水等が除かれる。減圧蒸留は、通常、温度30〜180℃、圧力13〜67kPaで実施される。続いて、第二濃縮工程において、フェノールを留去し、ビスフェノールAの濃度を調整する。この際のビスフェノールAの濃度は20〜60質量%とすることが好ましい。ビスフェノールAの濃度が20質量%以上とすることにより収率が向上し、また、60質量%以下とすることにより固化温度が低下するので輸送が容易となる。従って、通常は第一濃縮工程において反応混合液を予め濃縮することにより前記濃度に調整する。この第二濃縮工程は、通常、圧力4〜40kPa、温度70〜140℃の条件下で実施することが好ましい。
【0013】
(C)晶析・固液分離工程
晶析・固液分離工程は、濃縮工程で得られた濃縮液を冷却することによりビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析させ、該付加物と母液に分離する工程である。濃縮工程からの濃縮液は、通常、70〜140℃から35〜60℃まで冷却され、ビスフェノールAとフェノールとの付加物(アダクト)を晶析し、スラリー状になる。この冷却は、外部熱交換器や、晶析器に加えられる水の蒸発により除熱する真空蒸発晶析によって行われる。
次にスラリー状の液は固液分離される。この晶析・固液分離工程で得られる母液は反応生成水を含むので通常は脱水塔に導入される。但し、この含水母液の一部を晶析器に循環しても良い。脱水後の母液組成は、通常、フェノール:65〜85質量%、ビスフェノールA:10〜20質量%、2,4'−異性体等の副生物:5〜15質量%であり、2,4'−異性体等の不純物を多く含んでいる。この母液は、本発明においては、異性化処理工程にて処理される。
【0014】
固液分離により回収されたアダクトは、(F)アダクト分解工程に送られてフェノールを除去することによって高純度のビスフェノールAが得られる。
そのため固液分離機器のフィルター表面に濾過されて堆積されたアダクトを主成分とする固体成分は、洗浄液による洗浄が行われる。洗浄液としては、蒸発して回収したフェノール、原料フェノール、水、水−フェノール混合液の他、ビスフェノールAの飽和フェノール溶液と同じものも使用される。使用される洗浄液の量は多い方が、洗浄効率の点で良いことは当然であるが、結晶の再溶解ロス、洗浄液の循環、回収、再使用の観点から自ずと上限があり、通常は、質量基準で結晶量の0.1〜10倍程度が最も効率的である。
なお、晶析・固液分離の後に結晶を再溶解し、再度晶析と固液分離を繰り返しても良い。この晶析と固液分離を多段で繰り返すことによりアダクト結晶内に取り込まれた不純物が順次減少する。
この場合、再溶解の溶解液ならびに固液分離で得られるアダクトを主成分とする固体成分の洗浄液としては、蒸発して回収したフェノール、原料フェノール、水、水−フェノール混合液の他、ビスフェノールAの飽和フェノール溶液と同じものを各段で使用できる。また、再度の晶析と固液分離で得られた母液は、前段の晶析工程にリサイクルすることも出来る。
固液分離において使用される固液分離機器としては通常使用されるものであれば特に制限されないが、ベルトフィルター、ドラムフィルター、トレイフィルター、遠心分離器等が使用される。
【0015】
(D)異性化工程
異性化工程は、晶析・固液分離工程で得られた母液を強酸性陽イオン交換樹脂と接触させてビスフェノールA以外のビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類をビスフェノールAに異性化する工程である。
なお、異性化処理方法として、(D1)特許文献4に記載のように、晶析・固液分離工程で得られた母液の全量を異性化工程で処理し、異性化処理液の一部を(A)縮合反応工程、(B)濃縮工程および(C)晶析・固液分離工程の少なくともいずれかに再循環すると共に、残りの異性化処理液からビスフェノールAやフェノールを回収する方法と、(D2)特許文献3に記載のように、晶析・固液分離工程で得られた母液の一部を異性化工程で処理して(A)縮合反応工程や(C)晶析・固液分離工程に再循環し、残り母液からフェノールを回収する方法がある。本発明においては、(D1)、(D2)のいずれの方法も用いることができるが、(D1)の方法のように、母液の全量を異性化工程で処理した場合に異性化が効率的に行われ、多量のビスフェノールAを回収することができるので、(D1)の方法が有利である。
【0016】
晶析・固液分離工程で得られた母液中に含まれるビスフェノールA以外のビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類としては、ビス(ヒドロキシフェニル)プロパンのo,p'−体の他に、2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパン(o,m'−体);2−(2−ヒドロキシフェニル)−2−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン(o,o'−体);2−(3−ヒドロキシフェニル)−2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパン(m,m'−体);2−(3−ヒドロキシフェニル)−2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(m,p'−体);トリスフェノール類などが挙げられる。
【0017】
本発明において、強酸性陽イオン交換樹脂と接触させるビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類を含む母液として、フェノールとアセトンとを縮合させて得られた反応混合物からビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析分離した後の母液をそのまま用いることができるが、晶析分離した付加物を洗浄して得られたフェノール洗浄液を該母液に加えたものを用いてもよく、また、該母液にフェノールを加えたりフェノールを留去したりして濃度調整した母液を用いてもよい。
【0018】
本発明における異性化反応において用いられるスルホン酸型陽イオン交換樹脂については、スルホン酸基を有する強酸性陽イオン交換樹脂であればよく特に制限されず、例えばスルホン化スチレン・ジビニルベンゼンコポリマー,スルホン化架橋スチレンポリマー,フェノールホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂,ベンゼンホルムアルデヒド−スルホン酸樹脂などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
更に、異性化反応触媒として、強酸性陽イオン交換樹脂触媒の一部をメルカプトアルキルアミン等の助触媒により中和された触媒を用いることもある。例えば、2−メルカプトエチルアミン、3−メルカプトプロピルアミン、N,N−ジメチル−3−メルカプトプロピルアミン、N,N−ジ−n−ブチル−4−メルカプトブチルアミン、2,2−ジメチルチアゾリジン等でスルホン酸基の5〜30モル%が中和されたものが挙げられる。
【0019】
前述のように濃縮工程で得られた濃縮液の冷却は、外部熱交換器や、晶析器に加えられる水の蒸発により除熱する真空蒸発晶析によって行われるが、蒸発熱が有効に利用されることから水を添加した真空蒸発晶析が好適に用いられる。
水を添加した真空冷却晶析法によって晶析操作が行われた場合、母液中に水が3〜8質量%残存する。そこで、母液中の水の脱水処理を一般的に行う。
母液中の水濃度を調整する好ましい脱水方法としては、減圧下での蒸発器あるは充填物が充填された蒸留塔(以下、脱水塔と称する。)が挙げられる。
脱水塔では、塔頂に水とフェノールが留出し、塔底に水濃度が調整された母液が抜き出される。塔底の温度をリボイラー熱媒にて調整することで、塔底の母液中水濃度の調整が行われる。
【0020】
なお、晶析・固液分離操作が複数回数行われる場合、2回目以降の母液中に残存する2,4−異性体等の不純物が少ないため、2回目以降の母液は異性化反応器には供給せずに(A)縮合反応工程、(B)濃縮工程および(C)前段の晶析工程(1回目の晶析槽など)の少なくともいずれかに再循環するのが良い。縮合反応工程に再循環する場合の母液中の水濃度は縮合触媒の活性を考慮し、0.01〜0.1質量%が好ましい。この晶析操作が真空蒸発晶析法で行われている場合は、前記同様の脱水方法にて、この水濃度が達成される。
晶析・分離工程から脱水工程に送られる母液は、予熱器にて予熱された後に、脱水塔に供給してもよい。また、複数回の水添加の真空蒸発晶析工程から送られてきた母液は、別々の脱水塔にて同じ減圧条件で処理するのが好ましい。同じ減圧条件とすれば、脱水塔の塔底温度を各々のリボイラー熱媒体で調整しながら、個々の脱水塔から塔頂に流出したフェノールと水は、一つの凝縮器にて凝縮することができて、凝縮水は真空蒸発晶析の添加水として再利用できるためである。
【0021】
異性化反応は、強酸性陽イオン交換樹脂を充填した固定床反応器(異性化反応器)に母液をダウンフローに供給することによって行うことが好ましい。強酸性陽イオン交換樹脂としては、前述のように、スルホン酸型陽イオン交換樹脂が用いられ、異性化反応温度は60〜100℃の範囲が好ましく、更に好ましくは70〜80℃である。60℃以上とすることにより母液中のビスフェノールAの固化が回避され、100℃以下とすることにより、スルホン酸の触媒よりの脱離やビスフェノールAの酸分解による製品品質悪化の問題が回避される。
固定床異性化反応器の場合、液空間速度(LHSV)は、通常0.1〜10hr-1が好ましく、更に好ましくは、0.2〜1.0hr-1である。LHSVを0.1hr-1以上とすることで副生成物量が少なくなり、10hr-1以下とすることにより高い転化率が得られる。
【0022】
本発明において前記異性化反応器に供給される母液中の水分濃度は、0.2〜0.9質量%であり、好ましくは0.3〜0.5質量%である。0.9質量%以下とすることにより、異性化触媒の高い活性が維持される。また、水分濃度を0.2質量%以上とすることにより、触媒のイオン交換樹脂が水で膨潤されるので樹脂中の細孔が大きくなり、重質不純物による閉塞がし難くなるため触媒劣化速度が低下して触媒寿命が長くなり、触媒交換頻度が少なくなる。
商業装置において、異性化反応器の触媒が劣化し始めると、不純物が濃縮され、製品品質が悪化する。そこで、製品品質を維持するために、稼動率を低下させて運転を継続するか、装置を停止し触媒交換が行われることとなる。即ち、異性化反応器触媒の高寿命化は、稼働率を落とさずに安定した運転を継続できるという効果や、触媒の交換時期を製造装置の停止・総点検時期と一致させることができるという利点をもたらす。また、廃棄される触媒(商業装置では通常30〜100m3)の処理量が削減され、触媒を安全に廃棄する目的に達成するために触媒に付着したフェノールを大量の水で洗浄する際に発生するフェノール排水(通常300〜1000m3)を削減出来るといった環境への効果をもたらす。
この異性化反応器の触媒劣化は、次に示す2,4−異性体転化率により評価することができる。商業装置における経済的な目安としては、この2,4−異性体転化率が30%程度となった時点で触媒交換を行うことが好ましい。
なお、2,4−異性体転化率とは{(反応器入口の2,4−異性体濃度)−(反応器出口の2,4−異性体濃度)}÷(反応器入口の2,4−異性体濃度)で計算される値である。
異性化反応器へ供給される母液中の水濃度は、脱水塔での運転温度により調整しても良いし、水を添加することにより調整しても良い。
【0023】
(E)異性化処理液の回収工程
異性化処理液は(A)縮合反応工程、(B)濃縮工程、(C)晶析・固液分離工程のいずれかの工程に循環することにより、ビスフェノールAが回収される。
前述の(D1)のフローの場合には、晶析・固液分離工程で得られた母液の全量を異性化工程で処理し、異性化処理液の一部を(A)縮合反応工程、(B)濃縮工程および(C)晶析・固液分離工程の少なくともいずれかに再循環し、残りの異性化処理液は不純物の蓄積を防ぐためにブローし、該異性化処理液からビスフェノールAやフェノールを回収する。
異性化工程から送られてきたブロー液には、ビスフェノールAが15〜20質量%程度、2,4′−異性体等の不純物が5〜10質量%程度が含まれており、残りがフェノールである。
このブロー液は、濃縮した後、冷却することによりビスフェノールAとフェノールとの付加物(アダクト)を晶析させ、固液分離後、該アダクトは溶融後、濃縮工程および/または晶析・固液分離工程に再循環する。固液分離後の母液は、フェノールを回収後、タールとして処理される。
ブローされた異性化処理液の濃縮は、通常3〜10kPa程度の圧力下、90〜130℃程度の温度で蒸留することにより行われ、フェノールが回収される。
得られた濃縮液を冷却してビスフェノールAとフェノールとの付加物(アダクト)を晶析させて固液分離し、濃縮工程などに再循環する。固液分離後の母液からのフェノール回収もほぼ同様の蒸留により行われ、回収されたフェノールは固液分離工程のリンス液や縮合反応の原料として再利用される。
【0024】
(F)アダクト分解工程
アダクト分解工程は、ビスフェノールAとフェノールとの付加物からフェノールを除去し、ビスフェノールAを回収する工程である。固液分離により回収されたアダクトは、アダクト分解工程でフェノールを除去することによって高純度のビスフェノールAが得られる。
すなわち、該付加物(アダクト)を100〜160℃程度で加熱溶融することによりビスフェノールAとフェノールとに分解し、この溶融液から蒸発缶などによって大部分のフェノールを除去し、更に、スチームストリッピングにより残存するフェノールを除去することによって、ビスフェノールAの溶融物が得られる。
【0025】
(G)造粒工程
造粒工程は、アダクト分解工程で得られた溶融ビスフェノールAを造粒して製品ビスフェノールAを分離する工程である。噴霧造粒の場合、アダクト分解で得られたビスフェノールAの溶融物は、通常、造粒塔の塔頂に送液され、塔頂に設置されたノズルプレートに設けられた多数の孔より噴霧される。噴霧された溶融液は、造粒塔の塔底から上昇する循環ガスにより冷却され、塔底よりプリルと呼ばれる粒子状の固体として抜き出され、製品ビスフェノールAプリルとなる。
また、別の造粒方法としては、溶融ビスフェノールAを冷却された回転ドラムに供給し、フレーク状の製品ビスフェノールAを得る方法がある。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の方法を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。
なお、以下の実施例において、2,4−異性体の転化率は{(反応器入口の2,4−異性体濃度)−(反応器出口の2,4−異性体濃度)}÷(反応器入口の2,4−異性体濃度)で計算される値である。
また、異性化触媒の交換時期は、2,4−異性体の転化率の転化率が30%となった時点とし、異性化触媒に接触させる母液に水分が殆ど含まない場合の比較例1の異性化触媒の交換時期(触媒寿命)に対する比率を触媒寿命比とする。
【0027】
実施例1
陽イオン交換樹脂〔三菱化学(株)製、「ダイヤイオンSK104H」〕のスルホン酸基を2−メルカプトエチルアミンにて20モル%部分中和したものを充填した固定床反応塔に、モル比10:1のフェノールとアセトンを連続的にLHSV3hr-1 で通液し、75℃で縮合反応を行った。
得られた反応混合液から、塔底温度170℃、圧力67kPaの条件で減圧蒸留によりアセトン、水等を除去した後、更に温度130℃、圧力14kPaの条件で減圧蒸留し、フェノールを留去させ、ビスフェノールA濃度が40質量%になるまで濃縮し、フェノール・ビスフェノールA溶液を得た。
次に、このビスフェノールA濃度が40質量%のフェノール・ビスフェノールA溶液に水を加え、減圧下で50℃に冷却保持することにより、ビスフェノールA・フェノール付加物(アダクト)を晶析させてスラリー溶液を得た。
【0028】
予めフェノールで膨潤させたスルホン酸型陽イオン交換樹脂(三菱化学(株)製ダイヤイオンSK−104H)を充填した固定床(径1.3cm、高さ64cm)を異性化反応器として用い、また原料液として上記により得られたスラリー溶液から晶析したビスフェノールA・フェノール付加物(アダクト)を濾過して得られた母液を用いて異性化反応を行った。
該母液を30kPaの減圧下で蒸留して水分を調整した。この母液の組成は、ビスフェノールA11.0質量%、2,4−異性体4.0質量%,その他不純物3.0質量%、水分0.40質量%であり、残りはフェノールであった。この母液を常圧下、75℃、LHSV=1hr-1の条件で異性化反応器に通液し、生成物を経時的に分析した。
反応時間毎の2,4−異性体の転化率の測定結果を第1表に示す。反応時間が8,000時間で2,4−異性体転化率が30%となり、触媒寿命比は2.29であった。これよりLHSV=0.3hr-1とした商業装置においては、2,4−異性体転化率が30%となる時間が24000時間となり、3年間の連続運転が可能であると判明した。
【0029】
実施例2
実施例1においてビスフェノールA・フェノール付加物(アダクト)を濾過して得られた母液の水分を0.80質量%に調整した以外は、実施例1と同様とした。反応時間毎の2,4−異性体の転化率の測定結果を第1表に示す。反応時間が8,000時間で2,4−異性体転化率が30%となり、触媒寿命比は2.29であった。これよりLHSV=0.3hr-1とした商業装置においては、2,4−異性体転化率が30%となる時間が24000時間となり、3年間の連続運転が可能であると判明した。
【0030】
比較例1
実施例1においてビスフェノールA・フェノール付加物(アダクト)を濾過して得られた母液の水分を0.03質量%に調整した以外は、実施例1と同様とした。500時間毎の2,4−異性体の転化率の測定結果を第1表に示す。反応時間3500時間における2,4−異性体の転化率が30%で、異性化触媒の交換時期(触媒寿命)となった。これよりLHSV=0.3hr-1とした商業装置においては、2,4−異性体転化率が30%となる時間が9000時間となり、2年以上の連続運転が不可能であると判明した。
【0031】
比較例2
実施例1においてビスフェノールA・フェノール付加物(アダクト)を濾過して得られた母液の水分を1.50質量%に調整した以外は、実施例1と同様とした。反応時間毎の2,4−異性体の転化率の測定結果を第1表に示す。反応時間200時間における2,4−異性体の転化率が30%で、異性化触媒の交換時期(触媒寿命)となった。これよりLHSV=0.3hr-1とした商業装置においては、2,4−異性体転化率が30%となる時間が500時間となり、商業装置の稼動条件では採用できない程度の性能であると判明した。
【0032】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類を含む液を強酸性陽イオン交換樹脂と接触させて、ビスフェノールA〔2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〕以外のビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類をビスフェノールAに異性化するに際し、前記ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類を含む液の水分濃度を0.2〜0.9質量%とすることを特徴とするビスフェノールAの製造方法。
【請求項2】
(A)過剰量のフェノールとアセトンとを酸性触媒の存在下、縮合反応させる縮合反応工程、(B)縮合反応工程で得られた反応混合物を濃縮する濃縮工程、(C)濃縮工程で得られた濃縮液を冷却することによりビスフェノールAとフェノールとの付加物を晶析させ、該付加物と母液に分離する晶析・固液分離工程、(D)晶析・固液分離工程で得られた母液の全量を強酸性陽イオン交換樹脂と接触させてビスフェノールA以外のビス(ヒドロキシフェニル)プロパン類をビスフェノールAに異性化する異性化工程、(E)異性化処理液の一部を(A)縮合反応工程、(B)濃縮工程および(C)晶析・固液分離工程の少なくとも何れかに再循環すると共に、異性化処理液の一部からビスフェノールAとフェノールとを回収する異性化処理液の回収工程、(F)ビスフェノールAとフェノールとの付加物からフェノール除去し、ビスフェノールAを回収するアダクト分解工程および(G)アダクト分解工程で得られたビスフェノールAを造粒化する造粒工程を有し、前記(D)異性化工程において、母液の水分濃度を0.2〜0.9質量%とする請求項1に記載のビスフェノールAの製造方法。
【請求項3】
(C)晶析・固液分離工程において、水を添加した真空蒸発晶析により冷却を行う請求項2に記載のビスフェノールAの製造方法。

【公開番号】特開2007−217301(P2007−217301A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−36829(P2006−36829)
【出願日】平成18年2月14日(2006.2.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】