説明

ビニルフェノールの製造方法

【課題】 金属不純物の含有量が低いビニルフェノールを、効率よく製造する方法、及びそれを付加重合して得られる重合体。
【解決手段】 酵素触媒の存在下、芳香族ビニル化合物を酸化させ、濾過膜により酵素触媒を除去するビニルフェノールの製造方法。酵素触媒除去後に、ビニルフェノールをアルカリ抽出により未反応芳香族ビニル化合物から抽出し、さらにビニルフェノールを酸中和により単離する方法が好ましい。また、酵素触媒としては好熱菌由来の酵素が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビニルフェノールの製造方法、その製造方法により製造されたビニルフェノール、それを付加重合させて得られるビニルフェノール付加重合体、及びその付加重合体を使用した半導体用フォトレジストに関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルフェノールは、半導体用フォトレジスト、金属防錆剤、エポキシ系接着剤等広範囲の用途に使用されているビニルフェノールの付加重合体の原料単量体として使用されている。
ビニルフェノールの製造方法としては、エチルベンゼンを三酸化硫黄によりスルホン化したのち、アルカリ溶融し、得られたエチルフェノールから脱水素反応によりビニルフェノールを製造する方法(非特許文献1)、バクテリア抽出物を用いて酸化反応により製造する方法(非特許文献2)等が知られている。
また、ビニルフェノール付加重合体としては、重合後、イオン交換膜を使用して金属を除去することで、金属含有量を低減したビニルフェノール付加重合体(特許文献1)等が知られている。
【非特許文献1】「ビニルフェノール基礎と応用」28〜31頁、丸善石油化学研究所編、(株)教育出版センター 1991年5月25日発行
【非特許文献2】J.C.S.CHEM.COMM(1981)、482〜483頁
【特許文献1】特開平10−237125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ビニルフェノール付加重合体は半導体用フォトレジスト、IC封止材、プリント配線基板などの素材として、これらの分野に多くの用途があるが、これらの分野では、高性能の電気特性を発揮するために素材中の金属不純物の含有量を低減する必要がある。しかし、ビニルフェノールをエチルベンゼンから製造する方法(非特許文献1)では、金属触媒を使用するため、金属含量の低いビニルフェノールを製造することは困難である。バクテリア抽出物を用いた場合(非特許文献2)、金属含量は低いが、生産性が悪く、工業的に生産することが困難である。また、ビニルフェノールは不安定であるため、蒸留等により高純度化することが困難であり、付加重合して得られた重合体から濾過により金属を除去する方法(特許文献1)があるが、経済性、金属除去効率の点で十分ではない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、酵素触媒の存在下、芳香族ビニル化合物を酸化させ、濾過膜により酵素触媒を除去するビニルフェノールの製造方法、この方法で製造されたビニルフェノール、それが付加重合されてなるビニルフェノール付加重合体、金属の合計含有量が1ppb以下であるビニルフェノール付加重合体、及びビニルフェノール付加重合体を使用した半導体用フォトレジストである。
【発明の効果】
【0005】
本発明のビニルフェノールの製造方法によれば、酵素触媒を使用してビニルフェノールを製造し、濾過膜により酵素を除去するするため、効率よく、金属含有量の低いビニルフェノールを得ることが出来る。また、得られたビニルフェノールを使用することで、金属含有量の低いビニルフェノール付加重合体を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の製造方法においては、必要により水性媒体中にて、酵素触媒を使用して芳香族ビニル化合物を酸化してビニルフェノールを製造し、酵素触媒は濾過膜により除去する。
【0007】
本発明において、酵素触媒としては、芳香族ビニル化合物を酸化し、ビニルフェノールを生成するものであれば、特に制限はなく、アルコール酸化酵素(アルコールデヒドロゲナーゼ、アルコールオキシダーゼ、フェノールオキシダーゼ等)、アルデヒド酸化酵素(アルデヒドオキシダーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼ等)、炭化水素酸化酵素(メタンモノオキシゲナーゼ、プロパンモノオキシゲナーゼ、トルエンモノオキシゲナーゼ)等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。これらの中では、反応活性の観点から炭化水素酸化酵素が好ましい。
上記酵素は、種々の起源(植物由来、細菌由来、担子菌類由来、好熱菌由来等)のものが知られているが、反応活性の観点から好熱菌由来のものが好ましい。
【0008】
上記酵素は各種細菌等を培養後、抽出せずに使用してもよいが、必要により抽出し、単離して使用することもできる。
例えば、「J.C.S.CHEM.COMM(1981)、482〜483頁」に記載の方法に準拠し、米国菌株保存機関より、Methylococcus Capsulate(ATCC 19069)を入手し、培養後、抽出することにより、メタンモノオキシゲナーゼを得ることが出来る。
【0009】
また、本発明における酵素触媒は上記に例示の酵素を固定化した固定化酵素であってもよい。固定化方法としては、特に制限はなく、「固定化生体触媒」〔千畑一郎編、講談社(株)、1986年8月10日発行〕等に記載の固定化法等が挙げられる。具体的には坦体結合法(酵素を水不溶性の坦体に結合させる方法)、架橋法(2個もしくはそれ以上の官能基を持つ試薬を用いて酵素同士を架橋することによって固定化する方法)、包括法(酵素をゲルの微細な格子の中に包み込むか、半透膜性のポリマーの皮膜によって被覆する方法)等である。
反応活性の観点から包括法が好ましい。
【0010】
酵素触媒の使用量〔重量%(今後wt%と記載)〕としては、芳香族ビニル化合物に対して0.001〜10が好ましく、さらに好ましくは0.005〜8,特に好ましくは0.01〜5である。
【0011】
本発明において濾過膜としては、酵素を濾別することが出来れば特に制限はなく、精密濾過膜、限外濾過膜、透析膜、逆浸透膜等が挙げられる。濾過効率の観点から限外濾過膜が好ましい。
また、上記の濾過膜は市場から容易に入手でき、たとえば、以下の商品が好ましいものとして例示できる。
精密濾過膜:「マイクローザMF」旭化成(株)製、「ドリコ外圧式MF濾過装置」ドリコ(株)製、「ポアフロンPM200シリーズ」「ポアフロンPM300シリーズ」住友電工ファインポリマー(株)製等。
限外濾過膜:「マイクローザUF」旭化成(株)製、「ドリコ外圧式UF濾過装置」「ドリコ内圧式UF濾過装置」ドリコ(株)製、「UF−MH25−NN−DUS0410」ダイセンメンブレンシステムズ(株)製等。
透析膜:「アシプレックスF」旭化成(株)製、「透析膜シリーズ」「セルロースチューブシリーズ」三光純薬(株)製等。
逆浸透膜:「ロメンブラ」東レ(株)製、「ESシリーズ」日東電工(株)製等。
【0012】
本発明に用いる芳香族ビニル化合物としては、炭素数8〜24のものが好ましく、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、シクロヘキシルスチレン、ベンジルスチレン、クロチルベンゼン、ビニルナフタレン、ジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、及びトリビニルベンゼン等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。フォトレジストとして使用する際の透明性の観点から、スチレンが好ましい。
【0013】
本発明の製造方法により得られるビニルフェノールとしては、4−ビニルフェノール、3−ビニルフェノール、2−ビニルフェノール、α−メチル−4−ビニルフェノール、α−メチル−3−ビニルフェノール、α−メチル−2−ビニルフェノール、2−ビニル−4−メチルフェノール、4−ビニル−2−メチルフェノール、3−ビニル−2,4−ジメチルフェノール、2−ビニル−4−エチルフェノール、4−ビニル−2−エチルフェノール、2−ビニル−4−イソプロピルフェノール、4−ビニル−2−イソプロピルフェノール、2−ビニル−4−プロピルフェノール、4−ビニル−2−プロピルフェノール、2−ビニル−4−ブチルフェノール、4−ビニル−2−ブチルフェノール、2−ビニル−4−フェニルフェノール、4−ビニル−2−フェニルフェノール、2−ビニル−4−シクロヘキシルフェノール、4−ビニル−2−シクロヘキシルフェノール、2−ビニル−4−ベンジルフェノール、4−ビニル−2−ベンジルフェノール、クロチルフェノール、4−ビニルナフトール、及び3,5−ジビニルフェノール等が挙げられる。
フォトレジストとして使用する際の透明性の観点から、4−ビニルフェノールが好ましい。
【0014】
酵素触媒による酸化時に、必要により用いる水性媒体としては、水を必須構成成分とする液体であれば制限なく使用でき、水、並びに水溶性有機溶剤及び/又は塩を含む水溶液等を用いることができる。
水溶性有機溶剤としては、公知の水溶性溶剤(例えば、特開2002−284881号公報に記載の溶剤)等を用いることが出来る。
酵素触媒の安定性の観点から水を使用することが好ましい。
水性媒体を用いる場合の使用量(wt%)としては、特に制限はないが、芳香族ビニル化合物に対して100〜100000が好ましく、さらに好ましくは500〜80000、特に好ましくは1000〜50000である。
【0015】
ビニルフェノールを製造する方法としては、(1)反応容器に、芳香族ビニル化合物、酵素触媒、水性媒体を加え、撹拌しながら所定時間反応させた後、濾過することにより製造する方法(バッチ式製造法)、(2)反応容器に、芳香族ビニル化合物、酵素触媒、必要により水性媒体を加え撹拌し、生成したビニルフェノールを濾過により除きながら、芳香族ビニル化合物、酵素触媒、必要により水性媒体を循環させ、製造する方法(循環式製造法)等が挙げられる。
【0016】
バッチ式製造法(1)について詳細に説明する。
反応容器に芳香族ビニル化合物、酵素触媒、水性媒体を一括投入し、撹拌しながら反応させた後、酸素触媒を濾過することによりビニルフェノールを製造することができる。
反応時の温度(℃)は酵素の熱安定性の観点から5〜90が好ましく、さらに好ましくは10〜80、特に好ましくは20〜70である。
反応時間(時間)は反応率の観点から0.1〜10が好ましく、さらに好ましくは0.2〜8、特に好ましくは0.3〜5である。
【0017】
酵素触媒による酸化では、通常、反応生成物中には、用いた芳香族ビニル化合物の一部が未反応物として残存し、さらに酵素触媒も含有される。したがって、得られたビニルフェノールをこれらの成分から単離する必要がある。
酵素触媒を前記の濾過膜を用いた濾過により除去した後、アルカリ中和し、水性媒体中に得られたビニルフェノールを溶解させることで、未反応の芳香族ビニル化合物を容易に除去することができる。
アルカリ中和時に使用するアルカリ性化合物としては、フェノール性水酸基を中和し、水溶性にできるものであれば特に制限はないが、無機化合物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アンモニア等)、有機化合物(メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミンなどの炭素数1〜8の脂肪族アミン等)が挙げられ、2種以上を併用してもよい。
金属含量低減の観点から、アンモニアおよび有機化合物が好ましい。
中和時のPHとしては、ビニルフェノールが水溶性となれば特に制限はないが、6〜14が好ましく、さらに好ましくは6.2〜13.5であり、特に好ましくは6.5〜13である。
アルカリ性化合物の使用量(フェノール性水酸基に対する当量%)としては、特に制限はなく、90〜110が好ましく、さらに好ましくは95〜105、特に好ましくは98〜102である。
【0018】
抽出されたビニルフェノールのアルカリ中和物は、酸処理することにより、ビニルフェノールとなり、水性媒体から容易に分離することができる。
酸処理時に使用する酸性化合物としては特に制限はなく、炭素数2〜18の有機酸(フタル酸、マレイン酸、酢酸等)、無機酸(硫酸、塩酸、硝酸、炭酸、二酸化炭素、塩化鉄、塩化アルミニウム等)等が挙げられる。
金属含量低減の観点から二酸化炭素が好ましい。
酸処理後のPHとしては、ビニルフェノールが水性媒体から単離する範囲であれば特に制限はないが、4〜10が好ましく、さらに好ましくは5〜9であり、特に好ましくは5.5〜8.5である。
酸性化合物の使用量(フェノール性水酸基に対する当量%)としては、特に制限はなく、90〜200が好ましく、さらに好ましくは95〜150、特に好ましくは98〜120である。
【0019】
循環式製造法(2)について詳細に説明する。
反応容器に芳香族ビニル化合物、酵素触媒、必要により水性媒体を加え撹拌し、生成物から濾過膜濾過により酵素触媒を除去して、ビニルフェノール、芳香族ビニル化合物、及び必要により水性媒体の混合物を得る。得られた混合物をアルカリ中和することにより、ビニルフェノールを溶解させて、未反応の芳香族ビニル化合物を除去し、それを反応容器に循環させる。得られたビニルフェノールのアルカリ中和物は酸処理することにより、ビニルフェノールとなり、水性媒体から単離することができる。
反応時の温度、アルカリ性化合物の種類及び量、酸性化合物の種類及び量等は前記製造法(1)と同様である。
製造効率の観点から、製造法(2)が好ましい。
【0020】
次に、本発明で得られたビニルフェノールを用いてビニルフェノール付加重合体を製造する方法を説明する。ビニルフェノール付加重合体を製造する方法としては、(1)カチオン重合法、(2)ラジカル重合法等が挙げられる。
【0021】
カチオン重合法(1)の例について以下に詳細に説明する。
上記の方法により製造したビニルフェノール及び必要により他のビニル化合物を反応容器内で、溶剤中にてカチオン重合触媒を使用し、付加重合することによりカチオン重合を行うことが出来る。
ビニルフェノールの投入方法としては、連続滴下、分割、一括等が挙げられ、生産性の観点から一括にて投入する方法が好ましい。
重合触媒の投入方法としては、連続滴下、分割、一括等が挙げられ、分子量制御の観点から連続滴下にて投入する方法が好ましい。
【0022】
必要により使用する他のビニル化合物としては、特に制限はないが、公知のビニル化合物{特開2002−284881号公報、特再表WO99/40132号公報、特開平10−251315号公報、高分子合成の化学〔大津隆行著、1979年1月10日、(株)化学同人発行〕等に記載}等が使用でき、たとえば、スチレン、アクリル酸t−ブチル、p−ビニルトルエン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルイミダゾール、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ー2−ヒドロキシエチル、マレイン酸メチル、フマル酸エチル、フェニルマレイミド、アクリル酸ブチル、マレイン酸、フマル酸、マレイミド、無水マレイン酸、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、メタクリル酸ブチル等が挙げられ、2種以上用いてもよい。他のビニル化合物としては、金属含有量が少ないものが好ましい。
ビニルフェノールと他のビニル化合物の合計中の他のビニル化合物の含有量(wt%)としては、特に制限はないが、20以下が好ましく、さらに好ましくは15以下であり、特に好ましくは10以下である。
【0023】
溶剤としては、公知の有機溶剤(例えば、特開2002−284881号公報に記載)等を添加することができ、例えば、エステル溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、ケトン溶剤(アセトン、メチルエチルケトン等)、アルコール溶剤(メタノール、エタノール等)、及び圧縮性流体等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。これらの中で、好ましくは圧縮性流体である。
【0024】
上記圧縮性流体としては、例えば、二酸化炭素(31.0,7.4)、メタン(−82.5,4.6)、エタン(31.1,4.9)、プロパン(96.7,4.2)、ヘキサン(234.2,3.0)、メタノール(239.4,8.2)、エタノール(240.7,6.1)、水(374.2,22.1)等の、臨界点以上の温度及び圧力における流体が挙げられる。尚、カッコ内は順に、臨界温度(℃)及び臨界圧力(MPa)である。 超臨界流体は物質に固有の気液臨界温度、圧力を超えた非凝縮性流体と定義される。臨界温度を超えているために分子の熱運動が激しく、かつ密度を理想気体に近い希薄な状態から液体に対応するような高密度な状態まで圧力を変えることによって連続的に変化させることができる。
【0025】
本発明において、圧縮性流体は超臨界流体で使用するのが好ましい。
これらのうち取扱い易さの観点等から、二酸化炭素、メタン、エタンが好ましく、さらに好ましくは二酸化炭素である。
【0026】
反応中における溶剤の使用量(wt%)は、ビニルフェノールおよび必要により用いる他のビニル化合物の合計重量に対して10〜1000が好ましく、さらに好ましくは30〜800,特に好ましくは50〜500である。
【0027】
本発明において、カチオン重合触媒としては特に制限はないが、ルイス酸、プロトン酸等が用いられる。
ルイス酸としては、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素錯体、塩化アルミニウム、四塩化錫、四塩化チタン、ヨード等が含まれる。
プロトン酸としては、硫酸、リン酸、過塩素酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフロロメタンスルホン酸、シュウ酸、ギ酸、マレイン酸等が含まれる。
これらの触媒は2種以上を混合して用いてもよい。
これらのうち、反応性の観点から、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素錯体、及びトリフロロメタンスルホン酸が好ましく、さらに好ましくは三フッ化ホウ素、及び三フッ化ホウ素錯体である。
カチオン重合触媒の使用量(モル%)は、ビニルフェノール、又はビニルフェノール及び他のビニル化合物の合計モル数に基づいて、0.01〜2が好ましく、さらに好ましくは0.05〜1,特に好ましくは0.1〜0.7である。
【0028】
反応時の温度(℃)は、用いる溶剤の種類等により異なるが、分子量制御の観点から、例えば二酸化炭素の場合31〜150が好ましく、さらに好ましくは40〜120、特に好ましくは50〜100である。
反応時間(時間)は反応温度に応じて調整すればよいが、生産性の観点から0.1〜10が好ましく、さらに好ましくは0.3〜8、特に好ましくは0.5〜5である。
【0029】
ラジカル重合法(2)について詳細に次に説明する。
上記の方法により製造したビニルフェノール及び必要により前記の他のビニル化合物を反応容器内で、必要により前記の溶剤中でラジカル重合触媒を使用し、付加重合することによりラジカル重合を行うことが出来る。
ビニルフェノール、他のビニル化合物、及び触媒の仕込み方法;反応時の温度、圧力、時間;他のビニル化合物及び溶剤の種類、使用量、好ましい範囲については上記の方法(1)と同様である。
【0030】
ラジカル重合触媒としては、特に制限はないが、過酸化物、アゾ化合物等が用いられる。
過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、t−ブチルヒドロパーオキシド、ヘプタフルオロブチルパーオキシヘプタフルオロブチレート、トリフルオロメチルパーオキシトリフルオロメチレート、パーフルオロペンチルパーオキシパーフルオロペンチレート等が挙げられる。
アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビスイソ酪酸ジメチル、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−バレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)又はジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
これらのうち、開始剤効率の観点から、アゾ化合物が好ましい。さらに好ましいものはアゾビスイソブチロニトリルである。
ラジカル重合触媒の使用量の好ましい範囲はカチオン重合触媒の使用量と同様である。
【0031】
本発明の製造方法で得られた本発明のビニルフェノール付加重合体の分子量は、数平均分子量(以下Mnと記載する。)1、000〜30、000、重量平均分子量(以下Mwと記載する。)2、000 〜60、000が好ましい。本発明において分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと記載する。)で測定した、ポリスチレン換算の分子量である。
【0032】
本発明の製造方法で得られたビニルフェノール付加重合体の金属含有量は原子吸光法により測定することができる。
本発明の製造方法によって初めて、金属の合計含有量が1ppb以下(好ましくは0.6ppb以下)のビニルフェノール付加重合体を得ることが可能となった。
ここで、金属の合計含有量の対象となる金属とは、ビニルフェノール付加重合体に含有する可能性の高い金属のことであり、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、およびアルミニウムである。
【0033】
本発明のビニルフェノール付加重合体を使用した半導体用フォトレジストは、金属含有量が低いため、半導体製造時の歩留まり率等が良好である。また、濾過等の必要がないため、ビニルフェノール付加重合体の透明性が高く、微細加工に適している。
【実施例】
【0034】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部、%は重量%を意味する。
【0035】
<実施例1>
反応容器にスチレン10部、メタンモノオキシゲナーゼ(Methylococcus Capsulatus抽出物(米国菌株保存機関より入手))4部、水400部を一括投入し、撹拌しながら45℃で1時間反応させた後、「マイクローザUF」旭化成(株)製を用いて濾過することによりモノメチルオキシダーゼを除去した。濾液に20wt%アンモニア水溶液を40部投入し、分液することで、未反応のスチレンを除去した。ついで、水層に二酸化炭素10部を投入し、分液して、油層を40℃、10mmHg、1時間減圧脱水することで、白色結晶(1)を得た。ガスクロマトグラフ(GC)で分析した結果、p−ビニルフェノール100%であった。
【0036】
<実施例2>
反応容器にスチレン10部、メタンモノオキシゲナーゼ(Methylococcus Capsulatus抽出物(米国菌株保存機関より入手))4部、水400部を一括投入し、45℃で撹拌しながら、「マイクローザUF」旭化成(株)製を用いて濾過することで、スチレン、4−ビニルフェノール、水の混合物を毎分1部ずつ濾別した。濾液の混合物に20wt%アンモニア水溶液を毎分0.1部投入し、分液することで、未反応のスチレンを除去した。ついで、水層に二酸化炭素を毎分0.1部投入し、分液して、油層を40℃、10mmHg、1時間減圧脱水することで、白色結晶(2)を得た。ガスクロマトグラフ(GC)で分析した結果、p−ビニルフェノール100%であった。
【0037】
<比較例1>
Cr23−ZnO触媒を充填した石英製反応管(内径20mm)を水を供給しながら550℃に昇温し、10ml/時間の速度でp−エチルフェノールを供給し、5時間反応させた。得られた淡黄褐色の混合物をエバポレーターにより減圧脱水(40℃、10mmHg、1時間)し、淡黄色結晶(1)を得た。ガスクロマトグラフ(GC)で分析した結果、p−ビニルフェノール46%、p−エチルフェノール48%、フェノール2%、クレゾール4%からなる混合物であった。
【0038】
<実施例3>
撹拌装置及び測温装置を有し、槽内圧力70MPa、槽内温度290℃まで設定可能な反応槽500mlに実施例1で得られた白色結晶(1)100部仕込み、、温度35℃、圧力8MPaに調整した。二酸化炭素を200部仕込み、撹拌下、温度35℃、圧力8MPaを保ちながらフッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体〔和光純薬工業(株)製〕0.1部を溶解させた温度35℃、圧力8MPaの超臨界二酸化炭素10部を滴下した。滴下後、30分間重合反応を行った。
反応終了後、80℃に昇温し、超臨界二酸化炭素を50部/分の流量で連続供給し、1時間、未反応単量体や不純物の抽出を行い、超臨界二酸化炭素を除去し、Mw13000の白色の重合体(1)を得た。
【0039】
<実施例4>
フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.1部をアゾビスイソブチロニトリル0.1部に変更し、重合時の温度を80℃に変更する以外は実施例3と同様にして、Mw11000の白色の重合体(2)を得た。
【0040】
<実施例5>
白色結晶(1)を白色結晶(2)に変更する以外は実施例3と同様にして、Mw10000の白色の重合体(3)を得た。
【0041】
<実施例6>
白色結晶(1)を白色結晶(2)に変更し、フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.1部をアゾビスイソブチロニトリル0.1部に変更し、重合時の温度を80℃に変更する以外は実施例3と同様にして、Mw11000の白色の重合体(4)を得た。
【0042】
<比較例2>
撹拌装置及び測温装置を有する反応槽500mlに、比較例1で得られた淡黄色結晶(1)100部仕込み、温度35℃に調整した。アセトニトリルを200部仕込み、撹拌下、温度35℃を保ちながらフッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体〔和光純薬工業(株)製〕0.1部を溶解させたアセトニトリル10部を滴下した。滴下後、30分間重合反応を行った。
反応終了後、反応終了後、反応生成物を1000mlのトルエンに投入、生成した沈殿を回収した。回収した沈殿を100mlのアセトンに溶解し、500mlのトルエンに投入、生成した沈殿を回収した。回収した沈殿を減圧乾燥することで、Mw12000の黄褐色の重合体(5)を得た。
【0043】
<比較例3>
フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.1部をアゾビスイソブチロニトリル0.1部に変更し、重合時の温度を80℃に変更する以外は比較例2と同様にして、Mw13000の黄褐色の重合体(6)を得た。
【0044】
<分子量測定法>
重合体(1)〜(6)をそれぞれ濃度2.5g/Lでテトラヒドロフランに溶解させ、ポリスチレンを標準物質として、GPCにより測定した。
GPC機種:HLC−8120GPC、東ソー(株)製
カラム :TSKgel GMHXL・2本+TSKgel Multipore
HXL−M〔東ソー(株)製〕
【0045】
<透明性評価>
重合体(1)〜(6)をJIS K0115に準拠して、それぞれ濃度0.1g/Lでエタノールに溶解させ、セルの長さ1cmの条件で波長248nmにおける光透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
<金属含量測定法>
試料1gをとり、メタノールを全量で100mlになるように加え、溶解させた。日本ジャーレル・アッシュ株式会社製原子吸光炎光共用分光分析装置 AA−860を用いて測定した金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、鉄、及びアルミニウム)含量を合計した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
以上の評価結果から、本発明の製造方法により、比較例と比較して効率よくビニルフェノールを製造することができたことがわかる。また、本発明により比較用の重合体に比較して、金属含量の低いビニルフェノール付加重合体を製造することができたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の製造方法により得られたビニルフェノールを用いて、金属含量の低いビニルフェノール付加重合体を効率的且つ経済的に製造することができる。
本発明により製造されたビニルフェノール付加重合体は半導体用フォトレジスト、感光性樹脂、熱硬化性樹脂、コーティング材料、防錆剤原料、固体電解質、フォトクロミック材料、光ディスク材料、光電池バインダー、感熱・感圧記録体用発色剤、マイクロカプセル、液晶配向剤、液晶高分子、非線型光学材料、抗菌剤、透過膜、イオン交換膜、高分子電解質、高分子触媒、難燃剤等に利用できる。金属含量が特に低いことから、中でも半導体用フォトレジストに用いるのが好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素触媒の存在下、芳香族ビニル化合物を酸化させ、濾過膜により酵素触媒を除去するビニルフェノールの製造方法。
【請求項2】
ビニルフェノールが4−ビニルフェノールである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酵素触媒除去後に、ビニルフェノールをアルカリ抽出により未反応芳香族ビニル化合物から抽出する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
アルカリ抽出後にビニルフェノールを酸中和により単離する請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
酵素触媒が好熱菌由来の酵素である請求項1〜4のいずれか記載の製造方法。
【請求項6】
酵素触媒が固定化酵素である請求項1〜5のいずれか記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載の製造方法で製造されたビニルフェノール。
【請求項8】
請求項7に記載のビニルフェノールが付加重合されてなるビニルフェノール付加重合体。
【請求項9】
圧縮性流体中で重合されてなる請求項8記載のビニルフェノール付加重合体。
【請求項10】
金属の合計含有量が1ppb以下であるビニルフェノール付加重合体。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか記載のビニルフェノール付加重合体を使用した半導体用フォトレジスト。

【公開番号】特開2007−9083(P2007−9083A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−192559(P2005−192559)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】