説明

ビニル系樹脂粒子の製造方法

【課題】粒子表面に窪みを有するビニル系樹脂粒子を、煩雑な工程を必要とせず効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】可塑剤を含むビニル系単量体の液滴が水性媒体中に懸濁状態又は乳化状態で分散してなる混合液中の該ビニル系単量体を反応器内で重合する際に、該ビニル系単量体の重合転化率が95%以下の状態で、反応器内を二酸化炭素で加圧することにより、粒子表面に窪みを有する平均粒径が1〜200μmのビニル系樹脂粒子を製造する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビニル系樹脂粒子の製造方法に関する。さらに詳しくは、電機、電子分野、医療分野、化学分野、化粧品分野、その他工業分野において有用な粒子表面に窪みを有する平均粒径1〜200μmのビニル系樹脂粒子を効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、平均粒径が数μm〜数十μm程度の樹脂微粒子が塗料、化粧品、光拡散剤等の分野において多様な目的で使用されている。
しかしながら、一般的に用いられている樹脂微粒子は、その形状が真球状であることから、塗料の艶消し性や隠蔽性の付与、化粧品の散乱性や付着性の付与などの高機能化が求められる場合には、上記機能を充分に発揮することができず、改善の余地を有するものであった。
例えば、真球状の樹脂微粒子の機能をより高めるために、特許文献1では円板状樹脂微粒子、特許文献2では板状樹脂微粒子、特許文献3では中空非球状樹脂微粒子の製造方法が開示されている。
また、真球状の樹脂微粒子の機能をより高めるために、粒子表面に窪みを有する樹脂微粒子の開発が試みられてきた。しかしながら、得られる粒子が多孔質であったり、窪みの形状が歪んでいたりするものが多かった。
【0003】
これらに対し、特許文献4に開示されている方法により、粒子表面に良好な窪みを有する樹脂微粒子を得ることができるようになった。特許文献4の方法は、架橋剤の不存在下で、重合性ビニルモノマー100質量部に、この重合性ビニルモノマーと共重合性を有さず、かつ25℃における粘度が0.1〜3cSt未満である疎水性のフッ素系液状有機化合物3〜40質量部を溶解し水系懸濁重合することで、その粒子表面に椀状の窪みを有する球状樹脂粒子を得るというものである。しかしながら、この方法においては、特殊なフッ素系の液状化合物を用いるため最終的に樹脂粒子とフッ素系化合物との分離操作が必要であり、工業的規模で生産し使用することについてのコスト上の困難性があった。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−117040号公報
【特許文献2】特開平3−234734号公報
【特許文献3】特開平7−157672号公報
【特許文献4】特開2002−88102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の問題を解消するためになされたものであり、煩雑な製造工程を改善し、粒子表面に窪みを有するビニル系樹脂粒子を安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するために種々検討を重ねた結果、可塑剤を含むビニル系単量体の液滴が懸濁状態又は乳化状態に分散してなる混合液中の該ビニル系単量体を反応器内で重合する際に、反応器内を二酸化炭素により加圧して重合することにより、粒子表面に窪みを有するビニル系樹脂粒子が製造できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下に示すビニル系樹脂粒子の製造方法を提供する。
1.ビニル系単量体の液滴が水性媒体中に懸濁状態又は乳化状態で分散した混合液中の該ビニル系単量体を反応器内で重合する工程を含む、粒子表面に窪みを有する平均粒径が1〜200μmのビニル系樹脂粒子の製造方法であって、
前記ビニル系単量体の液滴は、流動パラフィン、脂肪酸エステル及び炭素数10〜40のオレフィンの群から選択される少なくとも1種である可塑剤をビニル系単量体100質量部に対して0.1〜5質量部含み、
ビニル系単量体の重合転化率が95%以下の状態で、反応器内を二酸化炭素で加圧することを特徴とするビニル系樹脂粒子の製造方法。
2.二酸化炭素により反応器内の圧力を0.2〜5MPa(ゲージ圧力)に加圧することを特徴とする上記1に記載のビニル系樹脂粒子の製造方法。
3.ビニル系単量体が、(メタ)アクリル酸エステル、又は、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸エステル以外の1種以上のビニル系単量体からなることを特徴とする上記1又は2に記載のビニル系樹脂粒子の製造方法。
4.ビニル系単量体が、メタクリル酸メチル、あるいはメタクリル酸メチルとスチレン及び/又はα−メチルスチレンとからなることを特徴とする上記1又は2に記載のビニル系樹脂粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、ビニル系単量体の重合時に、重合転化率が95%以下の状態で反応器内を二酸化炭素で加圧することにより、平均粒径が1〜200μmであって、粒子表面に窪みを有するビニル系樹脂粒子を容易に得ることができる。また、二酸化炭素の加圧による窪みの形成は煩雑な工程を必要としないため、粒子表面に窪みを有するビニル系樹脂粒子を工業的規模で大量かつ安価に製造することができる。
さらに、本発明によれば、可塑剤の量や、二酸化炭素による加圧の度合い、二酸化炭素の添加時期を調整すること等により樹脂粒子表面に形成される窪みの数や大きさを調整することが容易にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のビニル系樹脂粒子の製造方法について詳細に説明する。
本発明のビニル系樹脂粒子(以下、単に樹脂粒子ともいう。)の製造方法は、可塑剤を含むビニル系単量体が水性媒体中に懸濁状態又は乳化状態で分散してなる混合液中の該ビニル系単量体を重合させる際に、該ビニル系単量体の重合転化率が95%以下の状態で、反応器内を二酸化炭素で加圧するものである。
本発明において、樹脂粒子表面に窪みを有する樹脂粒子を得るためには、混合液中のビニル系単量体に、特定の化合物から選択された可塑剤をビニル系単量体100質量部に対して0.1〜5質量部含有させることを要し、該ビニル系単量体の重合転化率が95%以下の状態で、反応器内を二酸化炭素で加圧することを要する。
ビニル単量体を重合させる重合方法としては、乳化重合法、懸濁重合法等が挙げられ、そのなかでも懸濁重合法が好ましい。
本明細書では、懸濁重合法を例にとって説明するが、本発明の技術に基づき他の重合法においても当然に樹脂粒子表面に窪みを有するビニル系樹脂粒子が製造できる。
【0010】
[混合液]
本発明における混合液とは、水性媒体中で可塑剤を含むビニル系単量体の液滴が懸濁状態や乳化状態で分散されたものであり、該ビニル系単量体と可塑剤とを攪拌する等の物理的手段で分散混合された懸濁液や乳化液である。
具体的には、例えば、微細化装置を備えた容器に、水性媒体、懸濁剤や乳化剤、アニオン系界面活性剤等を投入し、次いで、ビニル系単量体、重合開始剤、可塑剤等を投入する。微細化装置の高せん断撹拌により、容器内のビニル系単量体を水性媒体中に微細な液滴として分散させ懸濁液や乳化液とする。
【0011】
(水性媒体)
本発明において使用される水性媒体としては、例えば、脱イオン水及び純水等が挙げられる。
【0012】
(懸濁剤)
本発明で使用される懸濁剤としては、例えば、リン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ピロリン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化第2鉄、水酸化チタン、水酸化マグネシウム、リン酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン及びベントナイト等の微粒子状の難水溶性無機塩が挙げられる。好ましくは、リン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト及びピロリン酸マグネシウムである。
懸濁剤の使用量は、系内の水性媒体(反応生成物含有スラリー等の水を含む系内の全ての水をいう)100質量部に対して、通常、固形分量として0.05〜20質量部、好ましくは0.3〜15質量部である。0.05質量部以上であれば、ビニル系単量体を懸濁安定化することができ、樹脂の塊状物が発生することがない。20質量部以下であれば、製造コストの面から好ましく、さらに粒度分布が広くなるという問題が生じることもない。
【0013】
(アニオン系界面活性剤)
本発明で使用されるアニオン系界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、α−オレインスルホン酸ナトリウム及びドデシルフェニルオキサイドジスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。好ましくは炭素数8〜20のアルキルスルホン酸アルカリ金属塩(好ましくはナトリウム塩)、より好ましくはラウリルスルホン酸アルカリ金属塩(好ましくはナトリウム塩)である。アニオン系界面活性剤を添加することにより、優れた懸濁安定化の効果が得られる。また、混合液中に必要に応じて、例えば、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム等の無機塩類等の電解質を加えることができる。
【0014】
(ビニル系単量体)
本発明において使用されるビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、o−クロロスチレン、m−クロロスチレン、p−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−オクチルスチレン、スチレンスルホン酸及びスチレンスルホン酸ナトリウム等のビニル芳香族系化合物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル及びアクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸の炭素数が1〜10のアルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル及びメタクリル酸−2−エチルヘキシル等のメタクリル酸の炭素数が1〜10のアルキルエステル;アクリロニトリル及びメタクリロニトリル等のニトリル基含有不飽和化合物等が挙げられる。
【0015】
ビニル系単量体は、得られる樹脂粒子の使用目的に応じて、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、本発明において樹脂粒子表面の窪み形状を調整し易くなることから、ビニル系単量体が、(メタ)アクリル酸エステルであるか、又は、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸エステル以外の1種以上のビニル系単量体とからなることが好ましい。
さらに、ビニル系単量体が、メタクリル酸メチルであるか、あるいはメタクリル酸メチルとスチレン及び/又はα−メチルスチレンとからなることがより好ましい。
なお、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルの両方を指す。以下、類似の表現も同様である。
【0016】
また、2種以上を組み合わせて使用する場合の配合量は樹脂粒子の使用目的に応じて決定されるものであるが、その配合量としては、ビニル系単量体が(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸エステル以外の1種以上のビニル系単量体とからなる場合には、好ましくは(メタ)アクリル酸エステルを10質量%以上100質量%未満、(メタ)アクリル酸エステル以外の1種以上のビニル系単量体を0質量%超90質量%以下(ただし、これらの合計は100質量%である。)であり、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステルを50質量%以上100質量%未満、(メタ)アクリル酸エステル以外の1種以上のビニル系単量体を0質量%超50質量%以下(ただし、これらの合計は100質量%である。)である。
【0017】
ビニル系単量体がメタクリル酸メチルとスチレンとからなる場合には、好ましくはメタクリル酸メチルを10質量%以上100質量%未満、スチレンを0質量%超90質量%以下(ただし、これらの合計は100質量%である。)であり、より好ましくはメタクリル酸メチルを50質量%以上100質量%未満、スチレンを0質量%超50質量%以下(ただし、これらの合計は100質量%である。)である。
ビニル系単量体がメタクリル酸メチルとα−メチルスチレンとからなる場合には、好ましくはメタクリル酸メチルを10質量%以上100質量%未満、α−メチルスチレンを0質量%超90質量%以下(ただし、これらの合計は100質量%である。)であり、より好ましくはメタクリル酸メチルを50質量%以上100質量%未満、α−メチルスチレンを0質量%超50質量%以下(ただし、これらの合計は100質量%である。)である。
ビニル系単量体がメタクリル酸メチル、スチレン及びα−メチルスチレンとからなる場合には、好ましくはメタクリル酸メチルとスチレンとの合計量85質量%以上100質量%未満、α−メチルスチレンを0質量%超15質量%以下(ただし、これらの合計は100質量%である。)であり、より好ましくはメタクリル酸メチルとスチレンとの合計量90質量%以上100質量%未満、α−メチルスチレンを0質量%超10質量%以下(ただし、これらの合計は100質量%である。)である。
【0018】
(重合開始剤・連鎖移動剤)
本発明において使用される重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル及び2,2’−アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物;クメンヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート及びラウロイルパーオキサイド等のビニル系単量体に可溶な開始剤が挙げられる。重合開始剤の量は、通常、ビニル系単量体の全量100質量部に対して0.01〜3質量部が好ましい。
本発明においては、得られる樹脂粒子の分子量を調整するために、例えば、n−ドデシルメルカプタンやα−メチルスチレンダイマー等の連鎖移動剤をビニル系単量体に添加しても良い。
【0019】
(可塑剤)
本発明において、粒子表面に窪みを形成するには、ビニル系単量体が特定の可塑剤を含むことを要する。
本発明において使用される可塑剤としては、流動パラフィン、脂肪酸エステル及び炭素数10〜40のオレフィンの群から選択される少なくとも1種のものが使用される。これらのなかでも、窪みの数及び開口部の直径を調整することが比較的容易にできる観点から、流動パラフィンが好ましく使用される。なお、窪みの数及び大きさ(開口部の平均直径)については、後で詳述する。
【0020】
流動パラフィンとしては、CmHn(n<2m+2、mは炭素数)で示される分岐構造、環構造を有する脂環式炭化水素化合物又はそれらの混合物が挙げられる。窪みの数及び開口部の平均直径を調整する観点から、流動パラフィンの平均炭素数は20〜40であることが好ましく、より好ましくは25〜40である。炭素数が小さすぎる場合や大きすぎる場合には、窪みが形成され難くい。
【0021】
脂肪酸エステルとしては、例えば、2−エチルヘキサン酸ヘキサデシル、ヤシ脂肪酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、牛脂脂肪酸メチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸イソトリデシル、カプリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル、オレイン酸イソブチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸ラウリル、オレイン酸オレイル、ミリスチン酸ミリスチル、ステアリン酸ステアリル、オレイン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸デシル及びオレイン酸イソブチル等の脂肪酸と1価のアルコールとのエステル;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、ポリエチレングリコールモノラウエート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリンモノオレエート、グリセリントリ−2−エチルヘキサレート、硬化牛脂及び硬化ヒマシ油等の脂肪酸と多価アルコールとのエステル等が挙げられる。また、これらの脂肪酸エステルは、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0022】
炭素数10〜40のオレフィンとしては、炭素数が10〜40のオレフィン又はこれらの混合物を意味するが、炭素数が15〜35のもの又はこれらの混合物が好ましい。そのなかでも、炭素数が20〜30のα−オレフィンが好ましい。オレフィンの炭素数が小さすぎる場合や大きすぎる場合には、窪みが形成され難くい。
【0023】
可塑剤の含有量(複数の可塑剤を使用する場合は、それらの合計含有量)は、ビニル系単量体の全量100質量部に対して、0.1〜5質量部であり、好ましくは0.5〜4質量部であり、より好ましくは1〜3質量部である。0.1質量部未満では、樹脂粒子の表面に窪みを形成するという目的が達成できない。また、5質量部超では、樹脂粒子が凝集する。上記範囲内であると、得られる樹脂粒子表面に窪みを容易に形成することができる。
可塑剤を添加する方法としては、特に制限はないが、重合に使用するビニル系単量体中に予め所定量を添加して溶解させておく方法が好ましい。
【0024】
[重合反応]
本発明における重合反応は、前記混合液中のビニル系単量体を重合反応系内で重合するものである。
具体的には、例えば、前記混合液を撹拌装置を備えた反応器に投入し、好ましくは窒素置換により反応器内の酸素を除去した後、(a)二酸化炭素で反応器内を加圧し、撹拌しながら反応器を加熱し、所定の温度及び時間、ビニル系単量体を重合させる工程、又は、(b)攪拌しながら反応器を加熱してビニル系単量体を特定の重合転化率まで重合させた状態で二酸化炭素で反応器内を加圧し、所定の温度及び時間、さらにビニル系単量体を重合させる工程である。
【0025】
本発明において、粒子表面に窪みが形成される機構は完全には解明されていないが、添加された二酸化炭素がビニル系単量体の液滴に溶解し、ビニル系単量体の重合が進行して単量体が重合体へと転化する過程で、重合体中に二酸化炭素が溶解しきれなくなり、二酸化炭素が相分離を起こし、その跡が窪みになると考えられる。また可塑剤は、二酸化炭素に相分離を起こさせる補助的な働きをすると推察され、可塑剤の存在により二酸化炭素が容易に相分離を起こすものと考えられる。
【0026】
ここで、本発明の発明者らは、特願2006−284956にて、粒子表面に窪みを有する粒子を製造するために、ビニル系単量体の重合転化率が40〜98%の状態で、異形化剤として特定の炭化水素化合物を重合系に添加する工程を含む製造方法を提案している。
異形化剤として特定の炭化水素化合物を使用する場合には、製造しようとする窪みの直径によっては、α−メチルスチレンを使用して重合速度を制御する必要があった。また、炭化水素化合物は添加タイミングや添加量によっては、懸濁系が不安定になり凝結してしまうことがあり、さらに炭化水素化合物は粒子内に残存するため、粒子から炭化水素化合物を逸散させる逸散工程が必要であった。
しかしながら、本発明では、異形化剤として二酸化炭素を使用することにより、重合速度を特に制御しなくても広いタイミングで二酸化炭素を添加でき、窪みの大きさを容易に調製することができる。また、二酸化炭素は炭化水素化合物に比べてビニル系単量体又は重合体を可塑化する度合いが小さいため樹脂粒子の凝結も起こり難い。さらに、二酸化炭素は樹脂粒子を製造後、早い段階で粒子から逸散してしまうので逸散工程を必要とせず、かつ二酸化炭素は不燃性であるため製造時の安全性も高い。
【0027】
(二酸化炭素の加圧条件)
本発明の重合反応系における二酸化炭素による加圧は、下記の重合転化率によるタイミングにおいて行われる。また、二酸化炭素は、ビニル系単量体に対する溶解度が低いため、容器内を二酸化炭素で加圧することにより、窪みを形成させるのに必要な量の二酸化炭素をビニル系単量体中に溶解させることを要する。
〈重合転化率〉
反応器内を二酸化炭素で加圧するタイミングとしては、ビニル系単量体の重合転化率が95%以下の状態であり、好ましくは93%以下の状態で、より好ましくは90%以下の状態である。重合転化率が95%を超える場合では、樹脂粒子の表面に窪みがある樹脂粒子は得られない。また、二酸化炭素による圧入は、重合開始前、つまりビニル系単量体の重合転化率が0%の状態においても行うことができる。
【0028】
なお、本発明における重合転化率は次の通り求めることができる。
二酸化炭素で加圧する前の反応容器から餅状ポリマーあるいは粒子状ポリマー(重合転化率によってポリマーの状態が異なる)約5gをろ紙に取り出し、ポリマーをろ紙で軽く押さえつけ水分をろ紙に吸い取る。ろ紙上から上記ポリマー約1.5gを20mlのビーカに取って、小数点以下4桁まで秤量(g)し「再沈前の質量」とする。
次いで、ポリマー1g(純度100%として)につき5〜6mlのクロロホルムで溶解させる。別に用意した200mlビーカに120〜130mlのメタノールを入れ、スターラーチップで撹拌しながら、メタノールを入れたビーカに先に用意したクロロホルム溶液を少しずつ滴下させる。最後に、20mlのビーカにもメタノール10mlを注ぎ、器壁についたポリマーを回収して、その溶液を200mlビーカに加える。次いで該200mlビーカ中の溶液を数時間撹拌した後にろ過して、ポリマーを回収する。回収したポリマーを風乾後、80℃で24時間以上の条件にて真空乾燥器にて乾燥を行う。この操作により得られたポリマーの回収量を小数点以下4桁まで秤量(g)し「再沈後の質量」とする。
前記の通り求められた「再沈前の質量」と「再沈後の質量」とを下記(2)式に代入することにより、重合転化率(%)を求めることができる。
重合転化率(%)=「再沈後の質量」/「再沈前の質量」×100 …(2)
【0029】
〈圧力〉
二酸化炭素は、ビニル系単量体に対する溶解度が低いため、二酸化炭素により反応器内の圧力を0.2〜5MPa(ゲージ圧力)に加圧することが好ましく、より好ましくは0.5〜3MPa(ゲージ圧力)である。0.2MPa(ゲージ圧力)以上とすることにより、樹脂粒子の表面に窪みを容易に形成することができる。また、5MPa(ゲージ圧力)以下とすることにより、懸濁系が不安定になり樹脂粒子が凝結することがなく、固まって一体化するおそれもなく、密閉容器の耐圧を高めることもないので経済で好ましい。
【0030】
(重合温度及び時間)
二酸化炭素により反応器内を加圧する際に、重合転化率を95%以下の状態とするための具体的な温度及び時間の反応条件調整は、ビニル系単量体の種類や、各種組成物の配合割合、重合条件等により一概に決定することはできないが、例えば、通常、70℃まで0.3〜0.8℃/分で昇温した後、115℃程度まで0.05〜0.3℃/分で昇温し、該温度にて3〜9時間、撹拌しながら保持することにより調整できる。
【0031】
[樹脂粒子の平均粒径]
本発明の製造方法により得られる樹脂粒子の平均粒径は1〜200μmである。この範囲内に平均粒径を調整するには、懸濁剤に添加されるアニオン系界面活性剤等の種類や量、撹拌条件等によりビニル系単量体の分散状態を制御すればよい。用途にもよるが、例えば化粧品等の光拡散剤用途に用いる場合、樹脂粒子の平均粒径は、好ましくは3〜100μmであり、より好ましくは5〜50μmである。なお、当然のことながら、得られた樹脂粒子を分級することにより平均粒径を調整することができる。
ここで、樹脂粒子の平均粒径とは、体積平均粒子径のことをいう。体積平均粒子径は、樹脂粒子を水中に分散させ、レーザー回折散乱法により粒度分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になる時の粒子径として求められる。測定装置としては、例えば日機装株式会社製、マイクロトラックMT−3300EX等が使用できる。
【0032】
[粒子表面の窪みの数及び開口部の平均直径]
次に、本発明の製造方法によって得られるビニル系樹脂粒子の樹脂粒子表面の窪みについて詳述する。
本発明の製造方法により得られるビニル系樹脂粒子は、図1の概念図で示すように、その粒子表面に窪みを有するものである。窪みの形状は、例えば図2〜4に示されるような窪みの開口部の形状が概ね円形に窪んだ形状や、窪みの開口部の形状が楕円形のもの、窪みの深さが浅い皿上のもの、窪みの深さが深い椀状のもの等、すなわち略半球状に窪んだ形状をしており、さながらクレーター状のものである。樹脂粒子の表面には、このような窪みが1つの樹脂粒子に対して1個以上、好ましくは複数個形成される。
【0033】
本発明の製造方法により形成される樹脂粒子の窪みの数は、後述するとおり製造条件により適宜調整することができるが、通常、0.3〜200個/100μm2である。樹脂粒子の用途にもよるが、例えば光拡散剤に用いる場合、窪みの数は好ましくは0.5〜20個/100μm2である。
ここで、窪みの数とは、樹脂粒子表面を走査型電子顕微鏡により拡大して写真撮影し、任意の樹脂粒子20個について、各々の樹脂粒子表面の窪みの数を計測すると共に、計測した樹脂粒子の直径等に基づき樹脂粒子の表面積を計算し、各々の樹脂粒子の表面積100μm2当たりの窪みの数を算出し、算出した20個の樹脂粒子の表面積100μm2当たりの窪みの数の算術平均値として算出される値である。なお、窪みの一部しか観察できない場合にも、一つの窪みとして計測する。また、一個の樹脂粒子の全体が写真内に収まらない場合には、その全体が収まるように拡大倍率を変更して顕微鏡写真撮影を行うこととする。
【0034】
また、樹脂粒子の窪みの開口部の平均直径は、後述するとおり製造条件により適宜調製することができるが、通常、0.1〜10μm程度であり、かつ平均粒径に対して1〜20%の長さである。樹脂粒子の用途にもよるが、例えば光拡散剤に用いる場合、開口部の平均直径は好ましくは0.8〜5μmである。
ここで、窪みの開口部の平均直径とは、樹脂粒子表面の任意の窪み20箇所について開口部の直径を計測し、得られた値の算術平均値として算出される値である。具体的には、ビニル系樹脂粒子表面を走査型電子顕微鏡により拡大して写真撮影し、任意の20箇所の窪み開口部について最大径を測定し、測定した20箇所の最大径の算術平均値として算出される値である。なお、窪み開口部の最大径の測定は、一個の粒子について20箇所測定してもよく、複数の粒子にわたって20箇所測定してもよい。ただし、一個の粒子に20箇所の窪みが存在しない場合には、複数の粒子にわたって20箇所測定するものとする。
【0035】
また、窪みの平均深さは、樹脂粒子の平均粒径にもよるが、通常0.02〜5μm程度、好ましくは0.05〜3μmであり、かつ平均粒径に対して0.1〜10%の深さである。
窪みの平均深さとは、具体的には以下のようにして測定することができる。ビニル系樹脂粒子をナノスケールハイブリッド顕微鏡等を使用して、任意の20箇所について、樹脂粒子表面の窪みの深さをカンチレバーのたわみ量により計測し、20箇所の計測値の算術平均値を窪みの平均深さとする。窪み開口部の平均直径と同様に、窪みの深さの測定は、一個の粒子について20箇所測定してもよく、複数の粒子にわたって20箇所測定してもよい。ただし、一個の粒子に20箇所の窪みが存在しない場合には、複数の粒子にわたって20箇所測定するものとする。
【0036】
[粒子表面の窪みと製造条件との関係]
粒子表面にできる窪みの数及び開口部の平均直径は、二酸化炭素による加圧のタイミング(加圧時のビニル系単量体の重合転化率)及び加圧の度合い、可塑剤の添加量によって適宜調整することができる。ビニル系単量体の重合速度は、重合開始剤の種類及び配合割合、重合温度条件等を調整すること、あるいは、α−メチルスチレンやα−メチルスチレンダイマー等を用いることで制御することが可能である。
例えば、二酸化炭素の圧入により反応器内の圧力を高くするほど、窪みの数が少なくなり、窪みの開口部の平均直径が大きくなる。また、重合転化率が低い段階で二酸化炭素を添加するほど、窪みの数が少なくなり、窪みの開口部の平均直径が大きくなる。また、可塑剤の添加量が多いほど、窪みの数が少なくなり、窪みの開口部の平均直径が大きくなる。
【0037】
使用される用途によって要求される粒子表面の窪みの数及び開口部の平均直径は異なり、またビニル系単量体の組成や二酸化炭素による加圧のタイミング及び反応器内の加圧度、可塑剤の添加量等の製造条件により、形成される粒子表面の窪みの数及び開口部の平均直径は異なるため、一概にはいえないが、例えば、窪みの開口部の平均直径が2〜3μm程度である粒子を製造するためには、二酸化炭素によって容器内の圧力を1〜3MPa(ゲージ圧力)に加圧すること、二酸化炭素の添加のタイミングは重合転化率50%未満であること、さらに可塑剤として流動パラフィンを使用し、その含有量はビニル系単量体100質量部に対して2〜3質量部程度であることが好ましい。
また、例えば、窪みの開口部の平均直径が1〜2μm程度である粒子を製造するためには、二酸化炭素によって容器内の圧力を0.5〜1MPa(ゲージ圧力)に加圧すること、二酸化炭素の添加のタイミングは重合転化率50〜90%であること、さらに可塑剤として流動パラフィンを使用し、その含有量はビニル系単量体100質量部に対して1〜2質量部程度であることが好ましい。
さらに、例えば、窪みの開口部の平均直径が0.5〜1μm程度である粒子を製造するためには、二酸化炭素によって容器内の圧力を0.2〜0.5MPaに加圧すること、二酸化炭素の添加のタイミングは重合転化率90〜95%であること、さらに可塑剤として流動パラフィンを使用し、その含有量はビニル系単量体100質量部に対して0.5〜1質量部程度であることが好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について具体的な実施例により詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0039】
〈混合液の製造例1〉
撹拌翼を備えた容量3Lの容器に脱イオン水1.2kgを入れ、さらにピロリン酸ナトリウム19.4gを加えて溶解させた後、粉末状の硝酸マグネシウム・6水和物45gを加え、室温で30分撹拌して懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムスラリーを合成した。
次いで、この反応生成物含有スラリーに、ラウリルスルホン酸ナトリウム10質量%水溶液6gと、予めビニル系単量体としてメタクリル酸メチル300gに重合開始剤としてラウロイルパーオキサイド1.5g(日本油脂社製、パーロイルL)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート0.4g、可塑剤として流動パラフィン(松村石油研究所社製、モレスコホワイトP350P、平均炭素数33)9gを溶解させた溶液を加えた後、その混合液をホモジナイザー(Mテクニック社製)にて、回転数10000rpmで10分間撹拌し、水中にビニル系単量体を微細に分散させた混合液を製造した。
【0040】
〈実施例1〉
上記製造例1で製造した混合液全量を、撹拌翼を備えた容量3Lのオートクレーブに入れて窒素置換した後、オートクレーブ内の圧力が1.0MPa(ゲージ圧力)になるよう二酸化炭素で加圧し、二酸化炭素の圧入を停止した。撹拌翼を回転数200rpmで撹拌しながら、昇温を開始し、1時間30分かけて70℃(重合開始温度)まで一定昇温速度で昇温した。70℃到達後、115℃まで6.5時間かけて一定昇温速度で昇温し、そのまま115℃で5時間保持した後、30℃まで約2時間かけて冷却した。冷却後、内容物を取り出し、硝酸(67.5質量%)を25ml添加し、15分間撹拌して、樹脂粒子の表面に付着した懸濁剤を溶解させた。その後、遠心分離機で脱水・洗浄し、真空乾燥機で水分を除去し、樹脂粒子を得た。
なお、実施例1で得られた樹脂粒子の顕微鏡写真を図2に示す。
【0041】
〈製造例2〉
ビニル系単量体としてメタクリル酸メチル225g、スチレン75gを用いた以外は製造例1と同様に混合液を製造した。
〈実施例2〉
製造例2で製造した混合液全量を用いて実施例1と同様に行った。
〈製造例3〉
ビニル系単量体としてメタクリル酸メチル150g、スチレン150gを用いた以外は製造例1と同様に混合液を製造した。
〈実施例3〉
製造例3で製造した混合液全量を用いて実施例1と同様に行った。なお、実施例3で得られた樹脂粒子の顕微鏡写真を図3に示す。
〈製造例4〉
ビニル系単量体としてメタクリル酸メチル75g、スチレン225gを用いた以外は製造例1と同様に混合液を製造した。
〈実施例4〉
製造例4で製造した混合液全量を用いて実施例1と同様に行った。
【0042】
〈実施例5〉
オートクレーブ内の圧力が3MPa(ゲージ圧力)になるよう二酸化炭素で加圧した以外は実施例1と同様に行った。
〈実施例6〉
オートクレーブ内の圧力が0.3MPa(ゲージ圧力)になるよう二酸化炭素で加圧した以外は実施例1と同様に行った。
〈実施例7〉
70℃到達後、2時間後にオートクレーブ内の圧力が3MPa(ゲージ圧力)になるよう二酸化炭素で加圧した以外は実施例1と同様に行った。
〈実施例8〉
70℃到達後、1時間30分後にオートクレーブ内の圧力が3MPa(ゲージ圧力)になるよう二酸化炭素で加圧した以外は実施例1と同様に行った。
〈実施例9〉
70℃到達後、30分後にオートクレーブ内の圧力が3MPa(ゲージ圧力)になるよう二酸化炭素で加圧した以外は実施例1と同様に行った。
【0043】
〈実施例10〉
(1)撹拌翼を備えた容量3Lの反応容器(オートクレーブ)に脱イオン水1.2kgを入れ、さらにピロリン酸ナトリウム19.4gを加えて溶解させた後、粉末状の硝酸マグネシウム・6水和物45gを加え、室温で30分撹拌して懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムスラリーを合成した。
次いで、この反応生成物含有スラリーに、ラウリルスルホン酸ナトリウム10質量%水溶液6gと、予めビニル系単量体としてメタクリル酸メチル300gに重合開始剤としてラウロイルパーオキサイド1.5g(日本油脂社製、パーロイルL)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート0.4g、可塑剤として流動パラフィン(松村石油研究所社製、モレスコホワイトP260、平均炭素数30)9gを溶解させた溶液を加えた後、その混合液をホモジナイザー(Mテクニック社製)にて、回転数10000rpmで10分間撹拌し、水中にビニル系単量体を微細に分散させた。
【0044】
(2)次に、オートクレーブ内を窒素置換した後、オートクレーブ内の圧力が1.0MPa(ゲージ圧力)になるよう二酸化炭素で加圧し、二酸化炭素の圧入を停止した。撹拌翼を回転数200rpmで撹拌しながら、昇温を開始し、1時間30分かけて70℃(重合開始温度)まで一定昇温速度で昇温した。70℃到達後、115℃まで6.5時間かけて一定昇温速度で昇温し、そのまま115℃で5時間保持した後、30℃まで約2時間かけて冷却した。冷却後、内容物を取り出し、硝酸(67.5質量%)を25ml添加し、15分間撹拌して、樹脂粒子の表面に付着した懸濁剤を溶解させた。その後、遠心分離機で脱水・洗浄し、真空乾燥機で水分を除去し、樹脂粒子を得た。
【0045】
〈実施例11〉
可塑剤として流動パラフィン(松村石油研究所社製、モレスコホワイトP150、平均炭素数27)を用いた以外は実施例10と同様に行った。
〈実施例12〉
可塑剤として流動パラフィン(松村石油研究所社製、モレスコホワイトP100、平均炭素数25)を用いた以外は実施例10と同様に行った。
【0046】
〈実施例13〉
可塑剤としてグリセリントリ−2−エチルヘキサレート(GT2H)(花王社製、エキセパールTGO)を用いた以外は実施例10と同様に行った。
〈実施例14〉
可塑剤としてソルビタンモノオレエート(SMO)(花王社製、エマゾールO10(F))を用いた以外は実施例10と同様に行った。
〈実施例15〉
可塑剤としてグリセリントリステアレート(GTS)(日本油脂社製、極度硬化牛脂)6gを用いた以外は実施例10と同様に行った。
【0047】
〈実施例16〉
可塑剤として炭素数20〜28の混合物からなるα−オレフィン混合物(三菱化学社製、ダイアレン208)を用いた以外は実施例10と同様に行った。
〈実施例17〉
可塑剤として流動パラフィン(松村石油研究所社製、モレスコホワイトP350P、平均炭素数33)6gを用いた以外は実施例10と同様に行った。
〈実施例18〉
可塑剤として流動パラフィン(松村石油研究所社製、モレスコホワイトP350P、平均炭素数33)3gを用いた以外は実施例10と同様に行った。
【0048】
〈実施例19〉
(1)撹拌翼を備えた容量3Lの反応容器(オートクレーブ)に脱イオン水1.2kgを入れ、さらにピロリン酸ナトリウム19.4gを加えて溶解させた後、粉末状の硝酸マグネシウム・6水和物45gを加え、室温で30分撹拌して懸濁剤としてのピロリン酸マグネシウムスラリーを合成した。
次いで、この反応生成物含有スラリーに、ラウリルスルホン酸ナトリウム10質量%水溶液6gと、予めビニル系単量体としてメタクリル酸メチル225g、スチレン54g、α−メチルスチレン21gに重合開始剤として過酸化ベンゾイル1.5g(日本油脂社製、ナイパーBW、水希釈粉体品)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルカーボネート0.4g、可塑剤として流動パラフィン(松村石油研究所社製、モレスコホワイトP350P、平均炭素数33)3gを溶解させた溶液を加えた後、その混合液をホモジナイザー(Mテクニック社製)にて回転数10000rpmで10分間撹拌して、水中にビニル系単量体を微細に分散させた。
【0049】
(2)次に、オートクレーブ内を窒素置換した後、撹拌翼を回転数200rpmで撹拌しながら、昇温を開始し、1時間30分かけて80℃(重合開始温度)まで一定昇温速度で昇温した。80℃到達後、115℃まで6.5時間かけて一定昇温速度で昇温し、そのまま115℃で5時間保持した後、30℃まで約2時間かけて冷却した。80℃(重合開始温度)到達から5時間後にオートクレーブ内の圧力が1.0MPa(ゲージ圧力)になるよう二酸化炭素で加圧し、二酸化炭素の圧入を停止した。冷却後、内容物を取り出し、硝酸(67.5質量%)を25ml添加し、15分間撹拌して、樹脂粒子の表面に付着した懸濁剤を溶解させた。その後、遠心分離機で脱水・洗浄し、真空乾燥機で水分を除去し、樹脂粒子を得た。
実施例19で得られた樹脂粒子の顕微鏡写真を図4に示す。
【0050】
〈比較例1〉
二酸化炭素を添加しない以外は実施例1と同様に実施して、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子表面には、窪みが形成されていなかった。なお、比較例1で得られた樹脂粒子の顕微鏡写真を図5に示す。
〈比較例2〉
可塑剤を用いない以外は実施例10と同様に実施して、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子表面には、窪みが形成されていなかった。
〈比較例3〉
可塑剤として流動パラフィン(松村石油研究所社製、モレスコホワイトP350P、平均炭素数33)0.18gを用いた以外は実施例10と同様に実施して、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子表面には、窪みが形成されていなかった。
〈比較例4〉
可塑剤として、流動パラフィン(松村石油研究所社製、モレスコホワイトP350P、平均炭素数33)18gを用いた以外は実施例10と同様に実施して、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子は凝結していた。
【0051】
〈比較例5〉
可塑剤としてシクロヘキサン(CH)9gを用いた以外は実施例10と同様に実施して、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子表面には、窪みが形成されていなかった。
〈比較例6〉
可塑剤としてブチルステアレート(BS)9gを用い、70℃到達後、2時間30分後にオートクレーブ内の圧力が1.0MPa(ゲージ圧力)になるよう二酸化炭素で加圧した以外は実施例10と同様に実施して、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子表面には、窪みが形成されていなかった。
【0052】
〈比較例7〉
二酸化炭素を添加しない以外は実施例19と同様に実施して、樹脂粒子を得た。得られた樹脂粒子表面には、窪みが形成されていなかった。
〈比較例8〉
80℃(重合開始温度)到達から6時間30分後にオートクレーブ内の圧力が1.0MPa(ゲージ圧力)になるよう二酸化炭素で加圧した以外は実施例19と同様に行った。
【0053】
〈物性評価〉
以上の各実施例及び各比較例で得られた樹脂粒子の体積平均粒径、分散度、窪みの数及び開口部の平均直径を下記の方法により測定し、その結果を表1〜3に示した。
(1)体積平均粒径(d50):樹脂粒子の50%粒子径の測定
樹脂粒子を水中に分散させ、レーザー回折散乱法(日機装株式会社製マイクロトラックMT−3300EX)により粒度分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が50%になる時の粒子径を50%粒子径として求めた。粒子の形状ファクターは非球形とした。
(2)分散度(d90/d10):樹脂粒子の10%粒子径に対する90%粒子径の比の測定
樹脂粒子を水中に分散させ、レーザー回折散乱法(日機装株式会社製マイクロトラックMT−3300EX)により粒度分布を測定し、全粒子の体積に対する累積体積が10%、90%になる時の粒子径をそれぞれ10%粒子径、90%粒子径とし、90%粒子径を10%粒子径で除した値を用いた。粒子の形状ファクターは非球形とした。
【0054】
(3)樹脂粒子の窪みの数及び開口部の平均直径(μm)
測定装置としてキーエンス社製走査型電子顕微鏡VE7800を使用し、樹脂粒子表面を2000倍に拡大して写真撮影した。
樹脂粒子の窪みの数は上記方法に基づき以下のように測定した。上記顕微鏡写真を使用し、任意の樹脂粒子20個について、各々の樹脂粒子表面の窪みの数を計測すると共に、計測した樹脂粒子の直径等に基づき樹脂粒子の表面積を計算し、各々の樹脂粒子の表面積100μm2当たりの窪みの数を算出した。20個の樹脂粒子の表面積100μm2当たりの窪みの数を求め、これらの値を算術平均値することにより、樹脂粒子の窪みの単位面積あたりの数(単位:個/100μm2)を求めた。
窪みの開口部の平均直径は上記方法に基づき以下のように測定した。上記顕微鏡写真を使用し、樹脂粒子表面の任意の窪み20箇所について開口部の最大径を計測し、得られた値を算術平均することによって、樹脂粒子の窪みの開口部の平均直径(単位:μm)を求めた。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
表1〜3から明らかなように、実施例1〜19で得られた樹脂粒子は、いずれも粒子表面に窪みが認められた。これに対し、重合転化率が95%超の状態で二酸化炭素を圧入した場合や、可塑剤の配合量が本発明で規定した範囲外である場合等の比較例1〜8で得られた樹脂粒子は、いずれも粒子表面に窪みが認められず、なかには凝結しているものもあった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明により得られる粒子表面に窪みを有するビニル系樹脂粒子は、光拡散剤や、化粧品、塗料等への添加剤用途に使用でき、さらに窪みを有することによる機能性を生かした各種用途に使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】表面に窪みを有する微粒子の概念図である。
【図2】実施例1にて得られた樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図3】実施例3にて得られた樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図4】実施例19にて得られた樹脂粒子の顕微鏡写真である。
【図5】比較例1にて得られた樹脂粒子の顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル系単量体の液滴が水性媒体中に懸濁状態又は乳化状態で分散した混合液中の該ビニル系単量体を反応器内で重合する工程を含む、粒子表面に窪みを有する平均粒径が1〜200μmのビニル系樹脂粒子の製造方法であって、
前記ビニル系単量体の液滴は、流動パラフィン、脂肪酸エステル及び炭素数10〜40のオレフィンの群から選択される少なくとも1種である可塑剤をビニル系単量体100質量部に対して0.1〜5質量部含み、
ビニル系単量体の重合転化率が95%以下の状態で、反応器内を二酸化炭素で加圧することを特徴とするビニル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項2】
二酸化炭素により反応器内の圧力を0.2〜5MPa(ゲージ圧力)に加圧することを特徴とする請求項1に記載のビニル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
ビニル系単量体が、(メタ)アクリル酸エステル、又は、(メタ)アクリル酸エステルと(メタ)アクリル酸エステル以外の1種以上のビニル系単量体とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のビニル系樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
ビニル系単量体が、メタクリル酸メチル、あるいはメタクリル酸メチルとスチレン及び/又はα−メチルスチレンとからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のビニル系樹脂粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−249434(P2009−249434A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96448(P2008−96448)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】