説明

ビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法

【課題】本発明の課題は、抽出に用いる極性溶媒の使用量を抑制することで製造コストの軽減を目的としたビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法を提供することである。また、その方法によって得られる安価でBSEの危険性のない植物性セラミド関連物質を含む健康食品、又は刺激が少なく皮膚に優しい植物性セラミド関連物質を含む保湿剤を提供することである。
【解決手段】ビール等の製造工程で得られるビール粕を十分に乾燥させることで当該ビール粕への極性溶媒の浸透性を高め、また抽出液中への水分の混入を抑える。さらに得られた抽出液を再度抽出用の極性溶媒として用いるサイクルを所定の回数繰り返すことによって、極性溶媒の必要量を従来の約1/10量にまで抑えながら目的の植物性セラミド関連物質を抽出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール等の製造工程で得られるビール粕から効率的に植物性セラミド関連物質を製造する方法と、当該方法によって得られる植物性セラミド関連物質を含む製品に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミドはスフィンゴシンと脂肪酸がアミド結合した構造を有する脂質である。当該セラミドに加えてセラミドに糖鎖が結合したグリコシルセラミド等が、セラミド関連物質として知られている。セラミド関連物質は動物組織に多く見られ、主に細胞間脂質として知られている。セラミド関連物質は種々の機能を有するが、皮膚においては角質層からの水分蒸発を防ぐ保湿成分として働いている。セラミド関連物質は加齢に伴いその生成量が減少する。年齢と共に皮膚の乾燥化やシワの発生が進行することや、アトピー性皮膚炎等の原因は、皮膚におけるセラミド関連物質の減少によるところが大きい。そこで、当該セラミド関連物質は、クリームや軟膏等に配合され皮膚の保湿剤として利用されている。
【0003】
従来、セラミド関連物質は牛等の家畜の脳をはじめとする動物の脳や神経組織からエタノール等を用いて抽出する方法が一般的であった。しかし、近年、BSE(牛海綿状脳症)のヒトへの感染が国際問題化したことや動物愛護の観点から、これに代わる人体に安全なセラミド関連物質の原料が求められていた。
【0004】
セラミド関連物質はそれぞれ分子構造が判明していることから、化学合成することも可能である。しかし、そのような合成セラミドは使用する薬剤の残存、あるいは製造過程で発生する副産物の混入等の種々の問題を残しており、人体に対する安全面で十分とは言い難かった。
【0005】
上記の安全面の問題点を解決するために、近年では植物性のセラミド関連物質が注目され始めている。ところが、植物細胞は糖脂質としてグリセロ糖脂質を主に含有しており、グリコシルセラミド等のスフィンゴ糖脂質の存在量は動物に比べると僅かしか含有しない。十分量のセラミド関連物質を得るためには大量の原料が必要となるため、製造コストが高くなり、必然的に製品自体が非常に高価となってしまうという新たな問題を生じていた。
【0006】
そこで、植物を原料としながら安価で、かつ大量に入手する方法として、特許文献1のようなビールの製造過程で発生するビール粕からセラミド関連物質を製造する方法が知られている。当該方法は、上記利点に加えてビール製造の副産物であるビール粕をリサイクル資源として利用する点でも優れた方法と言える。
【0007】
しかし、ビール粕は通常大量の水分を含有しているため抽出に用いるエタノール等の極性溶媒はすぐに希釈されてしまう。このような極性溶媒への水分の混入は、植物性セラミド関連物質の抽出効率の低下に繋がる。これを解消するためには希釈を上回る大量の極性溶媒を使用する必要があった。このような極性溶媒の大量使用が、結局ビール粕から植物性セラミド関連物質を製造する上でのコスト削減を阻んでいた。
【特許文献1】特開平11−193238
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記製造コスト問題を解決するためにビール粕から植物性セラミド関連物質を抽出する際に極性溶媒の使用量を抑制し、かつ抽出効率を低下させずにビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法を提供することである。また、その方法によって得られるビール粕由来の植物性セラミド関連物質を含む健康食品、又は保湿剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる実情に鑑み、ビール等の製造工程で得られるビール粕から、浸漬工程で用いる極性溶媒の使用量を抑え、かつ効率よくビール粕由来の植物性セラミド関連物質を製造する方法等に関する。また、当該方法で得られたビール粕由来の植物性セラミド関連物質を含む健康食品、及び保湿剤に関する。即ち、以下の発明を提供する。
【0010】
本発明は、ビール等の製造工程で得られるビール粕を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程で得られる乾燥させたビール粕を極性溶媒中に浸たす浸漬工程と、前記浸漬工程で得られる浸漬液からビール粕を除去して抽出液を得るビール粕除去工程と、前記ビール粕除去工程で得られた抽出液を前記極性溶媒として前記浸漬工程からビール粕除去工程を所定回数繰り返すサイクル工程と、前記サイクル工程後に得られる抽出液である最終抽出液を濃縮する濃縮工程とからなるビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記濃縮工程が最終抽出液から極性溶媒を蒸発させて残渣を得る蒸発工程を含むことを特徴とするビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記濃縮工程が冷却沈殿処理により沈殿物を得る沈殿工程を含み、前記沈殿工程にて得られた沈殿物を乾燥して固体状ビール粕由来の植物性セラミド関連物質を得る工程である第二乾燥工程をさらに有することを特徴とするビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記極性溶媒がエタノールであることを特徴とするビール粕由来の植物性セラミド関連物質物質製造方法を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、前記いずれかの方法で得られるビール粕由来の植物性セラミド関連物質を含む健康食品を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記いずれかの方法で得られるビール粕由来の植物性セラミド関連物質を含む保湿剤を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、従来、ビール粕から植物性セラミド関連物質を抽出する際に大量に必要であった極性溶媒であるエタノールを約1/10容量にまで低減することができる。これは当該植物性セラミド関連物質の製造コストの大幅な削減を可能にする。
【0017】
本発明の製造方法によれば、ビール製造工程で大量に発生するビール粕を再資源として有効に利用できる。また、原料の入手が容易、かつ安価であることから、結果的に生産される製品に関しても他の植物原料と比較して、安価な植物性セラミド関連物質を安定して提供することができる。
【0018】
本発明の製造方法によれば、既存のビール生産ラインを利用することが可能である。さらに工程が単純なため自動化も容易であることから、発明の事業化に要するコストを最低限に抑制することができる。
【0019】
本発明によれば、日々の摂取が可能でBSEの危険性が無い植物性セラミド関連物質含有の健康食品を提供することができる。
【0020】
本発明によれば、一般に皮膚に対して刺激性が少ないとされる植物性保湿剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、各発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる様態で実施しうる。
【0022】
実施形態1は、請求項1、4等について説明する。実施形態2は、請求項2、4等について説明する。実施形態3は、請求項3、4等について説明する。実施形態4は、請求項5等について説明する。実施形態5は、請求項6等について説明する。
【0023】
<<実施形態1>>
<実施形態1:概要> 実施形態1について説明する。本実施形態は、ビール粕から植物性セラミド関連物質を製造する方法に関する。本実施形態は、極性溶媒の浸透を促進させて植物性セラミド関連物質の抽出効率を上げるためにビール等の製造工程で得られるビール粕を乾燥させることを特徴とする。また、本実施形態は、植物性セラミド関連物質の抽出に用いる極性溶媒の容量を抑えるために、抽出液を極性溶媒として繰り返し用いることと特徴とする。
【0024】
<実施形態1:構成> 実施形態1のビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法の構成について説明をする。図1は本実施形態における各工程の流れ図の一例である。この図で示すように、本実施形態のビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法は、乾燥工程(S0101)と、浸漬工程(S0102)と、ビール粕除去工程(S0103)と、サイクル工程(S0104)と、濃縮工程(S0105)とから構成されている。以下、本実施形態の各構成について説明する。
【0025】
「乾燥工程」(S0101)は、ビール等の製造工程で得られるビール粕を乾燥させる工程である。
【0026】
本実施形態の各工程の説明に入る前に、ビールの製造工程について簡単に説明しておく。図2は一般的なビールの製造工程を示している。まず最初の工程は、麦芽製造工程(0201)である。当該工程では大麦を発芽させた後に、熱風等で乾燥させて成長を止め、乾燥麦芽を得る。次は仕込み工程(0202)である。当該工程では前記乾燥麦芽を粉砕し、温水と副原料であるコーンスターチ等を加えて麦芽酵素の働きによってデンプンの糖化処理を行う。当該処理後、麦汁を濾過する。残った残渣であるビール粕は主に家畜の飼料や作物の肥料として利用される。続いて煮沸工程(0203)を行う。当該工程では前記麦汁を煮沸して苦味成分であるホップを加える。煮沸によって生じるタンパク質やホップ粕を澱(オリ)として沈殿させて除去する。次は発酵工程(0204)である。当該工程では、前記煮沸後の麦汁を冷却し、酵母を加えて1週間から2週間程度(発酵温度により異なる)発酵させる。続いて熟成工程(0205)に入る。当該工程では、発酵工程後の麦汁を0℃近くまで冷却して発酵を抑える。ここで、炭酸ガスが蓄積されるとともに、味がまろやかになる。最後が濾過工程(0206)である。当該工程では、前記熟成工程後の液から酵母等を濾過して生ビールを得る。濾過後、加熱殺菌したビールが通常のビールである。以上の工程を経て一般的なビールは製造されている。
【0027】
「ビール等」とは、ビール、若しくはビール類似酒を意味する。ここで「ビール類似酒」とは、ビールに類似した外見や風味を有するアルコール飲料を言う。例えば、発泡酒や第三のビールと呼ばれるアルコール飲料が該当する。当該ビール類似酒は酒税法で定めるビールとは原材料面で相違が見られるが、製造工程の基本は通常ビールの製造工程とほとんど同様である。
【0028】
「ビール粕」とは、前記ビール等の製造工程において発生する植物搾汁液の残渣、即ち搾り粕を言う。ビール粕はモルトフィードとも呼ばれ、一般にはビール等の製造工程の仕込み工程(0202)後において麦汁等を濾過した際の残渣として得られるものである。したがって、通常のビール粕は、発酵原料として用いられるでんぷん、若しくは糖を含有する穀物、又は芋類等から構成されている。しかし、本発明においてはそれに限定せず、ビール等の製造工程で副産物として得られる他の残渣等も含んいてもよいものとする。例えば、煮沸工程(0203)後の澱である苦味原料のホップ粕等を含んでいてもよいし、発酵工程後の残渣として得られる酵母を含んでいてもよい。
【0029】
「乾燥」とは、蒸発、若しくは昇華によって水分を減ずることを言う。当該乾燥により前記ビール粕の含水率が低くなるほどよい。好ましくはビール粕の含水率を40%以下にすることである。さらに好ましくはビール粕の含水率を20%以下にすることである。
【0030】
当該乾燥により極性溶媒の植物組織内への浸透性が高まる。なぜなら、ビール粕を構成する植物組織中の水分による阻害が少なくなるためである。これによって、極性溶媒が植物組織の細胞間、及び細胞内にまで行き渡る。結果として脂質成分である植物性セラミド関連物質が当該極性溶媒中に抽出され易くなり抽出効率が上がる。また、乾燥したビール粕であれば、浸漬に用いた極性溶媒がビール粕に含まれる水分で希釈(水との親和性が高い極性溶媒の場合)されにくい、若しくは極性溶媒中に水分が混入しにくい(疎水性の極性溶媒の場合)。したがって、脂溶性である植物性セラミド関連物質の溶媒として高い溶解性を維持できる。当該高い溶解性の維持により、浸漬に一回以上用いた抽出液を極性溶媒として再度浸漬工程で用いることが可能となる。
【0031】
当該乾燥工程における乾燥方法は、ビール粕中に含まれる水分を減じることができれば特には問わない。例えば、単に外気に晒すのみの自然乾燥法でもよいし、除湿剤とともに密閉空間内で一定期間置く除湿乾燥法でもよいし、日光と外気に当てて乾燥させる天日干し法でもよいし、送風装置等を用いて温風や冷風を当てる風乾法でもよいし、セラミド関連物質が変質しない温度下でヒーター等の熱源を用いて乾燥させる加熱乾燥法でもよいし、容器内で真空ポンプ等を用いて脱気して蒸発させる減圧乾燥法でもよいし、ビール粕を凍らせたままの状態で乾燥する凍結乾燥(フリーズドライ)法でもよいし、又はそれらの組み合わせであってもよい。また、当該乾燥の方法はビール等の製造工程で発生する余剰熱をリサイクル利用して行えば、さらにコスト軽減を行う事ができることから便利である。例えば、煮沸工程で発生する余剰熱を空気等の気体媒体、若しくは水等の液体媒体で回収し、それらの媒体が有する熱によって乾燥してもよい。
【0032】
ビール粕の乾燥時間は、含水率、前記乾燥方法等、その場合に応じて適宜変えればよい。
【0033】
「浸漬工程」(S0102)は、前記乾燥工程で得られる乾燥させたビール粕を極性溶媒中に浸たす工程である。
【0034】
「極性溶媒」とは、電荷の偏りを持つ極性分子からなる溶媒である。例えば、低級アルコール、ベンゼン、若しくはトルエン等の極性有機溶媒、水、又はそれらの組み合わせによる混合液が該当する。当該極性溶媒の機能はビール粕中に含まれる植物性セラミド関連物質を当該溶媒中に抽出することである。植物性セラミド関連物質は脂溶性であることから、効率のよい抽出のためには脂質溶解性を有する極性溶媒であり、かつ含有、若しくは混入する水分は少ないほうが好ましい。極性溶媒の種類や組み合わせは問わない。ただし、本発明において得られるビール粕由来の植物性セラミド関連物質中を人体に使用する場合には、人体に対して毒性が非常に低いエタノールを使用することが望ましい。
【0035】
通常、サイクル工程を考慮した場合にビール粕に残存する水分は、サイクル数が増加するに従い極性溶媒中へと随時混入していくことになる。後述するビール粕の含水率を0%にしない限り避けることはできない。そこで、当該極性溶媒の水分混入を少しでも長く抑制するために、最初に使用する極性溶媒は親水性、疎水性を問わず100%のものを使用することが好ましい。例えば、極性溶媒が親水性のエタノールであれば最初に使用する濃度は95%よりも100%(通常は水が僅かに混在し、99.5%となっている。)を使用することが好ましい。
【0036】
極性溶媒の分量は、使用する乾燥したビール粕の重量に対して当該極性溶媒の容量を、容量/重量(V/W)で2倍から8倍にするとよい。さらに好ましくは4倍から6倍である。
【0037】
ビール粕中に含まれる植物性セラミド関連物質を極性溶媒中に短時間で抽出するために、当該極性溶媒を加熱してもよい。このとき当該極性溶媒の温度は、使用する極性溶媒を取り扱う際に安全上問題のない温度であり、かつ植物性セラミド関連物質が加熱により変質しない範囲であれば特に問わない。加熱する極性溶媒の温度は当該極性溶媒の種類、又は加熱の際に加える圧力によって異なるが、例えば、エタノールの場合、常圧では55℃から65℃の範囲が好ましい。
【0038】
極性溶媒を加熱する方法は、極性溶媒の温度を指定する温度付近まで加熱できる方法であれば特に問わない。例えば、温度調節装置が設置された恒温槽内でヒーター等の熱源によって加熱してもよいし、容器に入れて直火、若しくは湯煎によって火力を調節しながら加熱してもよい。また、ビール粕の浸漬と極性溶媒の加熱の順序は問わない。例えば、指定する温度まで極性溶媒を加熱した後にビール粕を浸漬してもよいし、室温状態の極性溶媒にビール粕を浸漬して指定する温度まで加熱してもよい。
【0039】
当該極性溶媒全体の温度、及び濃度を均一化するために、加熱と共に当該極性溶媒の撹拌を行ってもよい。撹拌方法は、例えば、撹拌棒で撹拌してもよいし、撹拌装置を用いて撹拌してもよい。
【0040】
ビール粕中に含まれる植物性セラミド関連物質を十分に抽出するための浸漬の時間は、抽出するビール粕の含水率、又は極性溶媒の種類、若しくは温度に依存する。例えば、常温のエタノールに含水率40%まで乾燥させたビール粕を浸漬する場合には数日を要するが、60℃に加熱したエタノールに含水率5%まで乾燥させたビール粕を浸漬する場合であれば約30分でよい。
【0041】
上記浸漬工程における各抽出条件は、後述するサイクル工程のサイクル回数に応じて適宜変えるようにしてもよい。なぜなら、極性溶媒中に含有する植物性セラミド関連物質の濃度が高くなるほど同条件下で同様の抽出効率が望めなくなるためである。したがって、サイクルを重ねることにより植物性セラミド関連物質の濃度が高くなるほど、当該浸漬工程で極性溶媒の温度を上げる、若しくは圧力を加える、浸漬時間を長くする等の条件を変え、抽出効率を少しでも高い状態に維持するようにしてもよい。
【0042】
「ビール粕除去工程」(S0103)は、前記浸漬工程で得られる浸漬液からビール粕を除去して抽出液を得る工程である。
【0043】
「浸漬液」とは、前記浸漬工程で得られる固体成分であるビール粕と、液体成分である極性溶媒、若しくは後述するサイクル工程を1回以上経た抽出液とからなる混合物である。
【0044】
「抽出液」は、前記浸漬液からビール粕を除いて得られる液体成分である。ただし、ビール粕の主たる固形物を除去した後に残存する目視が容易でないレベルの微小な固体粒子であれば当該抽出液中に混在していてもよい。当該抽出液は、ビール粕より溶出した植物性セラミド関連物質をはじめとする各種脂溶性成分を含有している。
【0045】
ビール粕を除去する方法は、浸漬液の固体成分と液体成分を分離可能な方法であれば特に問わない。例えば、濾過、遠心分離、静置沈殿、あるいはそれらの組み合わせのいずれであってもよい。
【0046】
濾過の場合、濾過方式はその方式は問わない。例えば、自然落下式、減圧濾過等の圧力制御式のいずれであってもよい。また、フィルター部は、ペーパーフィルター、メンブレンフィルター、布フィルター、チャコールフィルター、中空枝糸膜フィルター、ミクロフィルター、セライトフィルター、珪藻土、それらの組み合わせ等のいずれであってもよい。フィルター部は単一層、多層を問わない。多層フィルターの場合には同一、若しくは異なる複数の層から構成されていてもよい。さらに、多層フィルターの場合には液体成分が各層を経由可能なように構成されていれば、必ずしも上下、若しくは左右に重層されている必要はない。例えば、フィルター成分を充填した複数のカラムを配管を介して連結して濾過可能なようにしている場合は、各層が分離していてもよい。
【0047】
遠心分離の場合、固体成分と液体成分の分離方式は問わない。例えば、浸漬液を多孔管内に導入し、遠心機内で遠心させることによって孔から放出する抽出液を回収する方式であってもよいし、無孔管内に導入し、遠心後に上清である抽出液を回収する方式であってもよい。また、遠心の重力加速度(G)についても、液体成分と固体成分をある程度分離できれば、特に限定はしない。
【0048】
「サイクル工程」(S0104)は、前記ビール粕除去工程で得られた抽出液を前記極性溶媒として前記浸漬工程からビール粕除去工程を所定回数繰り返す工程である。
【0049】
「抽出液を前記極性溶媒として」とは、抽出液を極性溶媒とみなしてと言う意味である。通常浸漬工程で使用する極性溶媒は純粋なものを使用する。しかし、本実施形態では一回以上の浸漬工程を経た抽出液を再度極性溶媒として使用する点を最大の特徴とする。即ち、抽出液に乾燥工程を経た新たなビール粕を再度浸漬させるのである。抽出液を極性溶媒として用いる際は、容量の調整、若しくは含有する植物性セラミド関連物質の濃度の調整を目的として極性溶媒を追加混合してもよい。あるいは、同様の目的により別工程で得られた抽出液を混合してもよい。この時、混合する極性溶媒は同種のものを用いることが好ましい。
【0050】
「所定の回数」とは、前記浸漬工程で使用する極性溶媒中への植物性セラミド関連物質の溶解限界回数内であれば特に制限はしない。当該溶解限界回数は、極性溶媒の種類、浸漬に用いたビール粕の含水率、当該極性溶媒に溶解し得る他の植物構成物質の量等によって左右されるため、状況に応じて適宜調整すればよい。例えば、含水率5%以下まで乾燥させた大麦からなるビール粕と、極性溶媒として最初に100%エタノールをV/Wで5倍量で使用した場合には、20回ほどのサイクルで当該エタノールに溶解するビール粕由来の植物性セラミド関連物質は溶解限界、即ち飽和に達する。したがって、この場合、所定の回数は溶解限界回数である20回以内であればよい。最少量の極性溶媒を用いて効率よく、また扱い易い状態で植物性セラミド関連物質を抽出するためには5回から15回の範囲で行う事が好ましい。
【0051】
「濃縮工程」(S0105)は、前記サイクル工程後に得られる抽出液である最終抽出液を濃縮する工程である。当該工程では抽出液中の極性溶媒を減じた濃縮液として得てもよいし、実施形態2で詳述するように極性溶媒を蒸発させて残渣として得てもよいし、あるいは実施形態3で詳述するように冷却沈殿させて固体状として得てもよい。ここでは、濃縮液として得る場合について説明をする。
【0052】
「最終抽出液」とは、前記サイクル工程において所定の回数のサイクルを経て最終的に得られた抽出液である。
【0053】
「濃縮」とは、本発明では前記抽出液から浸漬に用いた極性溶媒を全部、又は部分的に除去して最終抽出液中に存在するビール粕由来の植物性セラミド関連物質の濃度を高めることを言う。植物性セラミド関連物質の濃度は、最終抽出液の濃度よりも高ければ特には問わないが、好ましくは最終抽出液に含有する植物性セラミド関連物質の濃度に対して、5倍以上の濃度、さらに好ましくは10倍以上の濃度である。
【0054】
「濃縮液」は、濃縮工程後に極性溶媒が重量比で10%以上残存している液体を言う。なお、後述する実施形態2において得られた残渣を、極性溶媒に再溶解して得られる濃縮液も本実施形態で言う濃縮液の一形態と解することができることから当該濃縮液に含めるものとする。また、再懸濁に用いる極性溶媒は、必ずしも浸漬工程で用いた極性溶媒と同一である必要はない。
【0055】
濃縮液を得る方法は、植物性セラミド関連物質の性質を変えずに抽出液から極性溶媒を所定の量、除去できる方法であれば特に問わない。例えば、エバポレーターを用いた蒸発濃縮法でもよいし、風乾等で極性溶媒を蒸発させる風乾蒸発濃縮法でもよい。
【0056】
本実施形態の方法で得られる濃縮液は、ビール粕由来の植物性セラミド関連物質を高濃度で含有する。この事実は、例えば、本実施形態で得られた濃縮液である試料を薄層クロマトグラフィー(Thin−Layer Chromatography:以下TLCとする。)上で展開した後、アンスロン硫酸で処理する呈色実験で確認できる。アンスロン硫酸は植物性セラミド関連物質の主要な成分の一つであるグリコシルセラミドの糖鎖を構成するヘキソースを紫色に発色させることができる。TLCで展開した物質が紫色に呈色すれば濃縮液中にグリコシルセラミドが含まれることを意味する。
【0057】
<実施形態1:処理の流れ> 図1に示すように本実施形態では、まず、ビール等の製造工程で得られるビール粕を乾燥させる(乾燥工程:S0101)。次に、前記乾燥工程で得られる乾燥させたビール粕を極性溶媒中に浸たす(浸漬工程:S0102)。続いて、前記浸漬工程で得られる浸漬液からビール粕を除去して抽出液を得る(ビール粕除去工程:S0103)。その後、前記ビール粕除去工程で得られた抽出液を前記極性溶媒として前記浸漬工程に再度戻す回数が予め決められた所定のサイクル回数に達しているかどうかを判断し、所定回数に達していなければ前記浸漬工程に再度戻すことによって浸漬工程からビール粕除去工程を繰り返し、所定回数に達した場合には次の濃縮工程へ進ませる(サイクル工程:S0104)。最後に、最終サイクル工程後に得られる最終抽出液を濃縮して濃縮液を得る(濃縮工程:S0105)。以上の、流れによってビール粕由来の植物性セラミド関連物質を得る。
【0058】
なお、ビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法の各工程を装置を用いて処理する場合には、当該装置を上記手順で操作する計算機に実行させるためのプログラムで実行することができる。
【0059】
<実施形態1:効果> 本実施形態の方法によれば、乾燥させたビール粕を極性溶媒中に浸漬することによりビール粕を構成する植物細胞間や細胞内に当該極性溶媒を容易に行き渡らせる事ができる。それにより植物性セラミド関連物質の溶出が促進され、抽出効率を上げることができる。また、抽出液を浸漬工程へ循環させる前記サイクル工程により従来技術で必要とされた極性溶媒の容量を1/10程度にまで削減できる。
【0060】
<<実施形態2>>
<実施形態2:概要> 実施形態2について説明する。本実施形態は極性溶媒を蒸発させた残渣としての植物性セラミド関連物質製造方法に関する。当該方法は、前記実施形態1の濃縮工程でさらに蒸発工程を含むビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法に有することを特徴とする。
【0061】
<実施形態2:構成> 実施形態2のビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法の構成について説明をする。図3は本実施形態における処理の流れの一例である。この図で示すように実施形態2は、前記実施形態1を基本とする。したがって、本実施形態における工程のうち、乾燥工程(S0301)と、浸漬工程(S0302)と、ビール粕除去工程(S0303)と、サイクル工程(S0304)については前記実施形態1と同様であることからそれらの説明は省略する。本実施形態における濃縮工程(S0306)は、前記実施形態1を基本とするが、「蒸発工程」において最終抽出液から極性溶媒を蒸発させて、その残渣として植物性セラミド関連物質を得る点で異なる。以下、本実施形態に特徴的な蒸発工程(S0305)について説明をする。
【0062】
「蒸発工程」(S0305)は最終抽出液から極性溶媒を蒸発させた残渣を得る工程である。極性溶媒は最終的に得られる残渣中に残存しないことが好ましいが、重量比で10%に達しない容量であれば残渣中に残存していてもかまわない。通常、本実施形態で得られる残渣としての植物性セラミド関連物質は、油状、若しくは油泥状の液体状態であるが、使用目的に応じては賦形剤等を添加して蒸発、乾燥させて固体状態としてもよい。
【0063】
蒸発の方法は、極性溶媒を蒸発できれば特に限定はしない。例えば、加熱法、風乾法、減圧吸引法、又は、それらの組み合わせ等が挙げられる。
【0064】
<実施形態2:方法> 図3に示すように本実施形態では、まず、ビール等の製造工程で得られるビール粕を乾燥させる(乾燥工程:S0301)。次に、前記乾燥工程で得られる乾燥させたビール粕を極性溶媒中に浸たす(浸漬工程:S0302)。続いて、前記浸漬工程で得られる浸漬液からビール粕を除去して抽出液を得る(ビール粕除去工程:S0303)。その後、前記ビール粕除去工程で得られた抽出液を前記極性溶媒として前記浸漬工程に再度戻す回数が予め決められた所定のサイクル回数に達しているかどうかを判断し、所定回数に達していなければ前記浸漬工程に再度戻すことによって浸漬工程からビール粕除去工程を繰り返し、所定回数に達した場合には次の濃縮工程へ進ませる(サイクル工程:S0304)。ここまでは、前記実施形態1と同様である。本実施形態では、最終サイクル工程後に得られる最終抽出液を濃縮する際に、浸漬に用いた極性溶媒を蒸発によって除去してその残渣を得る(蒸発工程:S0305)。以上の流れによってビール粕由来の植物性セラミド関連物質を得る。
【0065】
<実施形態2:効果> 本実施形態の効果は実施形態1の効果に加えて次の効果を有する。本実施形態で得られた残渣は極性溶媒をほとんど含まない言わばビール粕由来のエキスである。当該残渣は植物性セラミド関連物質を高濃度で含有していることから、実施形態4で詳述する健康食品や実施形態5で詳述する保湿剤の原料として利用することができる。
【0066】
<<実施形態3>>
<実施形態3:概要> 実施形態3について説明する。本実施形態は前記実施携帯を基本として、最終抽出液に対して冷却沈殿処理を行い、固体状のビール粕エキスを得ることを特徴とする。
【0067】
<実施形態3:構成> 実施形態3のビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法の構成について説明をする。図4は本実施形態における処理の流れの一例である。この図で示すように実施形態3は、前記実施形態1を基本とする。したがって、本実施形態における工程のうち、乾燥工程(S0401)と、浸漬工程(S0402)と、ビール粕除去工程(S0403)と、サイクル工程(S0404)については前記実施形態1と同様であることからそれらの説明は省略する。本実施形態における濃縮工程(S0407)は、実施形態1を基本とするが、沈殿工程(S0405)と第二乾燥工程(S0406)において最終抽出液から沈殿物を得た後、当該沈殿物を乾燥して固体状植物性セラミド関連物質を得る点で異なる。以下、本実施形態に特徴的な沈殿工程(S0405)と第二乾燥工程(S0406)について説明をする。
【0068】
「沈殿工程」(S0405)は、濃縮工程において、前記サイクル工程後に得られる抽出液である最終抽出液を冷却沈殿処理することにより沈殿物を得る工程である。
【0069】
「冷却沈殿処理」とは、植物性セラミド関連物質が低温化で溶解度の低下から析出して沈殿するという性質を利用して、当該植物性セラミド関連物質の濃縮を行うことである。例えば、極性溶媒がエタノールの場合、最終抽出液を0℃以下に冷却することで当該液中に含有する植物性セラミド関連物質を沈殿物として生じさせ、当該沈殿物と極性溶媒とを分離するまでが該当する。
【0070】
沈殿物と極性溶媒を分離する方法は、両者をお互いにある程度分離ことができれば特に問わない。例えば、濾過、遠心分離、又は極性溶媒の蒸発等が該当する。迅速に分離するためには濾過、又は遠心分離が便利である。濾過、又は遠心分離による方法は、前記実施形態1のビール粕除去工程で述べた方法と同様でよい。
【0071】
「第二乾燥工程」(S0406)は、前記沈殿工程で得られた沈殿物を乾燥してビール粕由来の植物性セラミド関連物質を得る工程である。
【0072】
本実施形態の「乾燥」は、蒸発、若しくは昇華によって前記冷却沈殿処理後に得られる沈殿物中に残存する極性溶媒、若しくは水分を減ずることを言う。乾燥は冷却沈殿物中の液体含有率(完全乾燥重量に対する液体重量比)を5%以下にすることが好ましい。
【0073】
当該工程で沈殿物を乾燥する方法は、前記沈殿工程で得られる沈殿物中に存在する植物性セラミド関連物質の抽出に使用した極性溶媒、又は水分等の液体成分を除去することができ、かつ植物性セラミド関連物質が分解等の性質上の変化を起こさない方法であれば特に問わない。例えば、外気に晒して放置するだけの自然乾燥法でもよいし、除湿剤とともに密閉容器内に入れる除湿乾燥法でもよいし、晴天の昼間に外気に晒して乾燥させる天日干し法でもよいし、送風装置等を用いて温風や冷風を送り乾燥させる風乾燥法でもよいし、ヒーター等の熱源を用いた加熱乾燥法でもよいし、容器内で真空ポンプ等を用いて脱気する減圧乾燥法でもよいし、沈殿物を凍結後に減圧下で乾燥する凍結乾燥(フリーズドライ)法でもよい、またそれらの組み合わせであってもよい。
【0074】
好ましくは凍結乾燥法がよい。これは、当該方法が低温下で水分を除去することから、植物性セラミド関連物質の性質を変化させにくいためである。当該方法で乾燥する場合、所定の液体含有率以下に乾燥することができれば、凍結乾燥の温度や時間は特に問わない。例えば、沈殿物を凍結乾燥装置にて−50℃で6時間以上凍結乾燥すればよい。また、乾燥後、当該工程で得られた乾燥物は必要に応じて粉砕してもよい。
【0075】
本実施形態で得られる固体乾燥物はビール粕由来の植物性セラミド関連物質を含有する。この事実を証明する実験結果は、当該固体乾燥物を再度エタノール等に再溶解することで、実施例1と同様の方法により検証できる。
【0076】
<実施形態3:方法> 図4に示すように本実施形態では、まず、ビール等の製造工程で得られるビール粕を乾燥させる(乾燥工程:S0401)。次に、前記乾燥工程で得られる乾燥させたビール粕を極性溶媒中に浸たす(浸漬工程:S0402)。続いて、前記浸漬工程で得られる浸漬液からビール粕を除去して抽出液を得る(ビール粕除去工程:S0403)。その後、前記ビール粕除去工程で得られた抽出液を前記極性溶媒として前記浸漬工程に再度戻す回数が予め決められた所定のサイクル回数に達しているかどうかを判断し、所定回数に達していなければ前記浸漬工程に再度戻すことによって浸漬工程からビール粕除去工程を繰り返し、所定回数に達した場合には次の濃縮工程(S0407)へ進ませる(サイクル工程:S0404)。ここまでは、前記実施形態1と同様である。本実施形態では、次に、最終サイクル工程後に得られる最終抽出液を冷却沈殿処理して沈殿物を得る(沈殿工程:S0405)。最後に前記沈殿工程にて得られた沈殿物を乾燥して固体状ビール粕由来の植物性セラミド関連物質を得る(第二乾燥工程:S0406)。以上の、流れによってビール粕由来の植物性セラミド関連物質を得る。
【0077】
<実施形態3:効果> 本実施形態の効果は実施形態1の効果に加えて、乾燥して固体状にすることにより保存性と携帯性を高めることができる。また、健康食品として錠剤や粉末剤に加工する上でも便利である。
【0078】
<<実施形態4>>
<実施形態4:概要> 実施形態4について説明する。本実施形態は、実施形態1から3の方法によって得られるビール粕由来の植物性セラミド関連物質を含む健康食品の提供である。
【0079】
<実施形態4:構成> 本実施形態の構成について以下で説明する。
【0080】
「健康食品」は、通常健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般を言う。例えば、栄養補助食品や、栄養強化食品や、機能性食品や、特定保健用食品等が該当する。しかし、本発明における「健康食品」は前記の意味に留まらず、実施形態1から3の方法で得られるビール粕由来の植物性セラミド関連物質を混入する食品全般を意味する。
【0081】
健康食品としてビール粕由来の植物性セラミド関連物質を使用する場合には、当該植物性セラミド関連物質の状態は経口できれば特に問わない。例えば、未加工状態で直接使用してもよいし、未加工状態のままカプセルに充填されたものであってもよいし、圧縮成型により錠剤等に加工されたものでもあってもよい。あるいは、賦形剤を添加して粉状に加工された後に錠剤状に成型されたものであってもよいし、当該粉状に加工された後に植物油等と混合してカプセルに充填されたものであってもよい。賦形剤はデキストリン、又はデンプン、又は乳糖等が該当するが、同様の効果が得られるものであれば、これらに限定されない。また、賦形剤の含有率は40%〜90%の範囲が好ましい。さらに、他の健康食品や甘味料等と混合された状態であってもよいし、加工食品の素材、又は添加物として原料に加えてもよいし、液体であれば飲用前に加えて混合してもよいし、香辛料のように食用前に振り掛けた状態でもよい。
【0082】
<実施形態4:効果> 本実施形態によれば、BSEの危険性もなく安全な植物性セラミド関連物質を健康食品として容易に日々効率よく摂取することができる。
【0083】
<<実施形態5>>
<実施形態5:概要> 実施形態5について説明する。本実施形態は、実施形態1から3の方法によって得られるビール粕由来の植物性セラミド関連物質を含む保湿剤の提供である。
【0084】
<実施形態5:構成> 本実施形態の構成について以下で説明する。
【0085】
「保湿剤」は、皮膚角質層に含まれる水分の蒸発を防ぎ、皮膚の潤いを維持させる作用を有する他、製品に配合することで当該製品の保水効果を与える作用を有する物質を言う。例えば、グリセリン等の多価アルコール類、椿油やオリーブ油等の油脂、セラミド等が該当する。
【0086】
保湿剤としての利用の方法は、問わない。例えば、ハンドクリーム、口紅等の化粧品、整髪剤やリンス、若しくはアトピー性皮膚炎用等の軟膏等のように角質層からの水分蒸発を目的として皮膚、又は毛髪等に直接塗布するものに配合して利用してもよいし、下着や靴下のように皮膚に直接接触する衣類の繊維に添加、若しくは織り込む等して利用してもよい。
【0087】
<実施形態5:効果> 本実施形態によれば、一般に動物性と比較してアレルギーを発症させにくく皮膚に優しいと言われる植物性脂質である保湿剤を提供できる。
【実施例1】
【0088】
以下の実施例1、2をもって本発明をより具体的に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0089】
<ビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法>
前記実施形態1によるビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法に関する実施例を以下で説明する。
【0090】
(乾燥工程)ビール製造工程で得られたビール粕2kgを遠心脱水機で5分、1000Gで脱水処理した後、減圧乾燥機を用いて残存する水分を蒸発させ、ビール粕を乾燥させた。
【0091】
(浸漬工程)得られたビール粕の乾燥体200gを測り取り、恒温槽内で60℃にプレヒートしたエタノール(99.5%含有)1L(V/Wで5倍量)に浸した後、撹拌をしながら60℃で30分間抽出を行った。
【0092】
(ビール粕除去工程)前記浸漬工程後、浸漬液を吸引ビンに繋いだ漏斗内に移し、ビール粕をアスピレーターにより吸引除去した。吸引ビン内の液体を抽出液として回収した。なお、漏斗内の残渣は再資源物として肥料等に利用できる。
【0093】
(サイクル工程)
前記ビール粕除去工程で得られた抽出液1Lを恒温槽内で60℃にプレヒートし、その中に乾燥工程で得られた新たなビール粕の乾燥体200gを再度浸漬する。当該サイクル工程では前記浸漬工程とビール粕除去工程を5回繰り返した。各回数ごとに1mlの抽出液を取り出し、それぞれをビール粕由来のサンプルとして実施例2に用いた。
【0094】
(濃縮工程)
本来の製造工程であれば、前記サイクル工程後の最終抽出液をロータリーエバポレーター(EYELA社)を用いて、40℃で10から30分間濃縮する。この処理によって抽出液中に残存する極性溶媒や水分が蒸発し、10から20分間であれば濃縮液として、またそれ以上であれば残渣として油状のビール粕由来の植物性セラミド関連物質を得ることができる。しかし、本実施例では次の実施例2に必要なサンプル量で十分であることから、当該濃縮工程は省略する。
【実施例2】
【0095】
<ビール粕由来の植物性セラミド関連物質の分析>
実施例1の方法で得られたビール粕由来のサンプル中に植物性セラミド関連物質の一つであるグリコシルセラミドが含まれること、及びサイクルの回数ごとのグリコシルセラミドの含有状態を確認するためにTLCによって分析した。
【0096】
(グリコシルセラミドの分析)前記実施例1で各サイクルごとに得られたサンプル1mlより10μlずつを取り、それぞれをTLCに添付した。TLCの下端が浸る程度の展開液(クロロホルム:メタノール:水=85:28.5:4.4)が入った容器内にTLCを入れて密封し、展開を行った。展開は、溶媒がTLCの上端付近に達した時に展開液からTLCを取り出すことにより止めた。展開後のTLCを十分に乾燥させた後、アンスロン硫酸を当該TLCに噴霧した。TLC上で展開した糖脂質が呈色するまで120℃のホットプレートにて数分間加温した。最後にTLCをデンシトメーター(Bio−Rad社)にて分析した。
【0097】
(結果)図5にTLCの展開結果を示す。レーンMは、大豆由来のグリコシルセラミド(Matreya社)であり、植物性グリコシルセラミドの位置マーカーとして展開した。レーン1、2、3、4、5はサイクル回数がそれぞれ1回由来(乾燥ビール粕200g由来)、2回由来(乾燥ビール粕400g由来)、3回由来(乾燥ビール粕600g由来)、4回由来(乾燥ビール粕800g由来)、5回由来(乾燥ビール粕1kg由来)のサンプルを示している。矢印で示すバンドAとDは、グリセロ糖脂質である。グリセロ糖脂質は植物細胞内に多量に含有し、糖脂質という点でグリコシルセラミドと同じではあるが、構造的に異なる分子である。バンドBは、ステロール配糖体である。ステロール配糖体は、ヘキソースを有するためアンスロン硫酸により呈色するが糖脂質ではない。バンド群Cが、目的のグリコシルセラミド群である。当該群として見られる理由は、構成脂肪酸の長さの違いなどによりいくつかの種類が存在する事に起因する。
【0098】
植物組織内には元来セラミド関連物質の存在量が少ない。含水率の高いビール粕からセラミド関連物質を抽出する従来技術では、ビール粕の含水率以外が全て同条件であっても当該ビール粕の水分によってエタノールが希釈されてしまうため、セラミド関連物質はレーン1以下の収量しか得ることができない。一方、本発明のビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法では、サイクル数を重ねるごとに収量は増加し、さらに使用した極性溶媒の容量は従来方法の1/5量に抑えている。このように本発明によってビール粕由来の植物性セラミド関連物質を効率よく得ることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】実施形態1の流れ図。
【図2】ビール製造工程の概念図。
【図3】実施形態2の流れ図。
【図4】実施形態3の流れ図
【図5】実施例2の結果
【符号の説明】
【0100】
S0101:乾燥工程
S0102:浸漬工程
S0103:ビール粕除去工程
S0104:サイクル工程
S0105:濃縮工程
図5−M:大豆由来のグリコシルセラミド(マーカー)
図5−1:サイクル回数が1回由来のサンプル
図5−2:サイクル回数が2回由来のサンプル
図5−3:サイクル回数が3回由来のサンプル
図5−4:サイクル回数が4回由来のサンプル
図5−5:サイクル回数が5回由来のサンプル
図5−A:グリセロ糖脂質
図5−B:ステロール配糖体
図5−C:グリコシルセラミド群
図5−D:グリセロ糖脂質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビール等の製造工程で得られるビール粕を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程で得られる乾燥させたビール粕を極性溶媒中に浸たす浸漬工程と、
前記浸漬工程で得られる浸漬液からビール粕を除去して抽出液を得るビール粕除去工程と、
前記ビール粕除去工程で得られた抽出液を前記極性溶媒として前記浸漬工程からビール粕除去工程を所定回数繰り返すサイクル工程と、
前記サイクル工程後に得られる抽出液である最終抽出液を濃縮する濃縮工程と、
からなるビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法。
【請求項2】
前記濃縮工程は、最終抽出液から極性溶媒を蒸発させて残渣を得る蒸発工程を含む請求項1に記載のビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法。
【請求項3】
前記濃縮工程は、冷却沈殿処理により沈殿物を得る沈殿工程を含み、
前記沈殿工程にて得られた沈殿物を乾燥して固体状ビール粕由来の植物性セラミド関連物質を得る工程である第二乾燥工程をさらに有する請求項1に記載のビール粕由来の植物性セラミド関連物質製造方法。
【請求項4】
前記極性溶媒はエタノールである請求項1から3のいずれか一に記載のビール粕由来の植物性セラミド関連物質物質製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一に記載の方法で得られるビール粕由来の植物性セラミド関連物質を含む健康食品。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一に記載の方法で得られるビール粕由来の植物性セラミド関連物質を含む保湿剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−82427(P2007−82427A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272639(P2005−272639)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(501060518)株式会社ディーエヌエーバンク (3)
【出願人】(399101463)オリオンビール株式会社 (6)
【Fターム(参考)】