説明

ピアシング方法及びピアシング装置

【課題】 本発明は、ピアシング時に発生するスラグを処理すると共に連続的に切断を開始するための新たな提案を行うものであり、ガス切断法、プラズマ切断法及びレーザ切断法のいずれにも共通して適用し得るピアシング方法及びピアシング装置を提供する。
【解決手段】 切断トーチ16の加工中心線と一致した軸線3を有し、該軸線3を中心として設定された円周上で且つ該軸線3を通る複数の直線4上にピアシング時に発生するスラグ25を吹き飛ばすためのスラグ排除ガスを噴射する噴射口2を形成し、該切断トーチ16に装着したノズルAによって被切断材Dに対するピアシングを実施する際に噴射口2からピアシング部の周囲にスラグ排除ガスを噴射し、ピアシング後で切断を開始する前にスラグ排除ガスを停止するか、或いはピアシング時のスラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減して発生したスラグ25を排除することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被切断材にピアシング(穴あけ)する際に発生するスラグを一定の方向に排除して円滑に切断作業を開始させるためのピアシング方法及びピアシング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板や非鉄系の板材等の被切断材の一部を酸化及び又は溶融させて母材から排除することで切断する熱化学切断法が広く実施されている。この熱化学切断法としては、ガス切断火口を用いて主として鋼板を切断するガス切断法、プラズマ切断火口を用いて鋼板及びステンレス鋼板を切断するプラズマ切断法、レーザ切断火口を用いて金属材料及び非金属材料を切断するレーザ切断法が実用化されている。
【0003】
上記各切断法を採用して金属材料からなる被切断材を型切断する場合、この被切断材を穴あけ(ピアシング)し、形成された穴を始点として目的の型切断を開始するのが一般的である。
【0004】
被切断材に対してピアシングを行うに際し、穴の成長に伴って酸化生成物や溶融母材からなるスラグが発生し、このスラグが吹き上げて被切断材の表面に付着する。そして被切断材に対する切断を開始する際に、表面に付着したスラグが母材の酸化,溶融を阻害して円滑に切断を開始することが出来ないという問題がある。
【0005】
上記問題を解決するために、例えば穴の成長に伴って火口を移動させる方法や吹き上げたスラグを一定方向に吹き飛ばす方法等、スラグの影響を排除して切断を開始し得るようにした幾つかの提案がなされている。また、本出願人は、切断トーチに装着されるノズルにピアシングを実施する際に噴射孔からピアシングの周囲にスラグ排除ガスを噴射して発生したスラグを排除する技術を提案している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3751728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の技術であってもピアシング後で切断を開始する前のスラグ排除ガスの取り扱いについては開示されておらず、その対応が望まれていた。
【0008】
本発明の目的は、ピアシング時に発生するスラグを処理すると共に連続的に切断を開始するための新たな提案を行うものであり、ガス切断法、プラズマ切断法及びレーザ切断法のいずれにも共通して適用し得るピアシング方法及びピアシング装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明に係るピアシング方法の第1の構成は、被切断材の一部を酸化及び又は溶融させると共に母材から排除して切断するに際し発生するスラグを排除するピアシング方法であって、ガス切断トーチ又はプラズマ切断トーチ或いはレーザ切断トーチから選択された切断トーチの加工中心線と一致した軸線を有し、前記軸線を中心として設定された円周上で且つ軸線を通る複数の直線上にピアシング時に発生するスラグを吹き飛ばすためのスラグ排除ガスを噴射する噴射口を形成し、前記切断トーチに装着したノズルによって前記被切断材に対するピアシングを実施する際に前記噴射口からピアシング部の周囲に前記スラグ排除ガスを噴射し、ピアシング後で切断を開始する前に前記スラグ排除ガスを停止するか、或いは前記ピアシング時の前記スラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減して発生したスラグを排除することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るピアシング方法の第2の構成は、前記第1の構成において、前記被切断材が鉄または鉄合金の場合には、ピアシング時に前記噴射口から噴射するスラグ排除ガスとして、空気、或いは酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスで且つ該混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で50%以下の混合ガスを噴射させることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るピアシング方法の第3の構成は、前記第1の構成において、前記被切断材がステンレスまたは非鉄合金の場合には、ピアシング時に前記噴射口から噴射するスラグ排除ガスとして、酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスで且つ該混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で55%以上の混合ガスを噴射させることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るピアシング装置の第1の構成は、被切断材の一部を酸化及び又は溶融させると共に母材から排除して切断するに際し発生するスラグを排除するピアシング装置であって、ガス切断トーチ又はプラズマ切断トーチ或いはレーザ切断トーチから選択された切断トーチと、前記切断トーチの加工中心線と一致した軸線を有し、前記軸線を中心として設定された円周上で且つ軸線を通る複数の直線上にピアシング時に発生するスラグを吹き飛ばすためのスラグ排除ガスを噴射する噴射口を形成し、前記切断トーチに装着されるノズルと、前記被切断材に対するピアシングを実施する際に前記噴射口からピアシング部の周囲に前記スラグ排除ガスを噴射し、ピアシング後で切断を開始する前に前記スラグ排除ガスを停止するか、或いは前記ピアシング時の前記スラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減するガス供給制御手段とを有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るピアシング装置の第2の構成は、前記第1の構成において、前記ガス供給制御手段は、前記被切断材が鉄または鉄合金の場合には、ピアシング時に前記噴射口から噴射するスラグ排除ガスとして、空気、或いは酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスで且つ該混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で50%以下の混合ガスを前記噴射口から噴射させることを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るピアシング装置の第3の構成は、前記第1の構成において、前記ガス供給制御手段は、前記被切断材がステンレスまたは非鉄合金の場合には、ピアシング時に前記噴射口から噴射するスラグ排除ガスとして、酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスで且つ該混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で55%以上の混合ガスを前記噴射口から噴射させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るピアシング方法、並びにピアシング装置の各第1の構成によれば、ピアシング時に発生したスラグはピアシング穴の周囲に放射状に付着することとなり、スラグが付着していない穴の端部を起点として円滑な切断を開始することが出来る。また、ピアシング後で切断を開始する前にスラグ排除ガスを停止するか、或いはピアシング時のスラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減することで、切断時にスラグ排除ガスの影響を受け難くすることが出来る。
【0016】
また、本発明に係るピアシング方法、並びにピアシング装置の各第2〜3の構成によれば、スラグ排除ガスに含まれる酸素ガス濃度が高いと、ピアシング穴が大きくなり、その分だけ排出されるスラグが抑制できず、歩留まりが悪くなるため、被切断材が鉄または鉄合金の場合には、混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で50%以下とすることで、スラグ排除ガスに含まれる酸素ガス濃度を低く抑えることで、ピアシング穴が小さくなり、その分だけ排出され被切断材に付着するスラグ量が抑制でき、歩留まりが良くなる。また、被切断材がステンレスまたは非鉄合金の場合には、混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で55%以上とすることで、スラグ排除ガスに含まれる酸素ガス濃度を高くしてスラグの酸化を促進し、溶融して被切断材に付着したスラグを剥離し易くすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るピアシング装置をレーザ切断装置に適用した場合の構成を示す模式説明図である。
【図2】ノズルの構成を示す断面説明図である。
【図3】図2の正面図である。
【図4】ピアシングにより被切断材に形成された穴及び発生したスラグを説明する模式図である。
【図5】ノズルの他の構成を説明する断面説明図である。
【図6】(a)は従来のピアシング方法により被切断材表面に発生するスラグの様子を示す図、(b)は本発明に係るピアシング装置によりピアシングした際に被切断材表面に発生するスラグの様子を示す図である。
【図7】本発明に係るピアシング装置により厚さ25mmの鋼板材とステンレス材にそれぞれスラグ排除ガスの混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率(モル比)を変えてピアシングした際に発生したスラグの重量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図により本発明に係るピアシング方法及びピアシング装置の一実施形態を具体的に説明する。
【0019】
図1において、15は被切断材Dの一部を酸化及び又は溶融させると共に母材から排除して切断するに際し発生するスラグ25を排除するピアシング装置である。ピアシング装置15は、図2及び図3に示すように、ガス切断トーチ又はプラズマ切断トーチ或いはレーザ切断トーチから適宜選択された切断トーチ16と、該切断トーチ16の加工中心線と一致した軸線3を有し、該軸線3を中心として設定された円周上で且つ該軸線3を通る複数の直線4上にピアシング時に発生するスラグ25を吹き飛ばすためのスラグ排除ガスを噴射する噴射口2を形成し、該切断トーチ16に装着されるノズルAと、被切断材Dに対するピアシングを実施する際に噴射口2からピアシング部の周囲にスラグ排除ガスを噴射し、ピアシング後で切断を開始する前に該スラグ排除ガスを停止するか、或いはピアシング時のスラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減するガス供給制御手段となるガス供給装置Eを有して構成されている。
【0020】
ガス供給装置Eは、図1に示すように、窒素ガスを収容したガスボンベ21a、酸素ガスを収容したガスボンベ21b、アルゴンガスを収容したガスボンベ21c、大気中の空気を圧縮するエアコンプレッサ21dを有し、それぞれのガスボンベ21a〜21c及びエアコンプレッサ21dには圧力調整装置22a〜22dが接続され、その下流側には電磁弁からなる流量調整弁23a〜23dが接続され、それぞれのガス配管13a〜13dはミキサー14に接続され、更にその下流側にはミキサー14により混合された混合ガスの流量を制御する流量制御部17が設けられている。流量制御部17により流量を制御された混合ガスはガス配管24からノズルAの供給孔8に供給される。
【0021】
流量制御部17の構成としては、例えば、ミキサー14により混合された混合ガスが流通するガス配管24の途中に、口径が大小の2つのガス配管を並列に接続しておき、ピアシング時には口径が大きいガス配管を開放すると共に口径が小さいガス配管を閉塞し、ピアシング後で切断を開始する前に口径が大きいガス配管を閉塞すると共に口径が小さいガス配管を開放するか、或いは大小何れの配管も閉塞することで、ピアシング後で切断を開始する前に該スラグ排除ガスを停止するか、或いはピアシング時のスラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減することが出来る。
【0022】
また、流量制御部17の他の構成としては、例えば、流体の質量流量を計測して流量制御を行う定流量素子による流量制御や、電気信号を気体圧力信号に変換する電空レギュレータ(電空変圧器)による圧力制御を行うことで、ピアシング後で切断を開始する前に該スラグ排除ガスを停止するか、或いはピアシング時のスラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減することが出来る。
【0023】
ここで、定流量素子とは、粒体の流量を計測することにより流量制御するもので、予め設定される指令(設定)電気信号と、配管内を実際に流れる実流量を電気信号に変換した流量出力信号とを比較し、それらの信号レベルが一致するように自動的にバルブ開度を調整するものである。
【0024】
また、電空レギュレーター(電空変換器)とは、コンピュータ等の電気的指令信号により、気体圧力を連続的にコントロールするものである。
【0025】
本実施形態において、ガス供給装置Eは、被切断材Dが鉄または鉄合金の場合には、ピアシング時に噴射口2から噴射するスラグ排除ガスとして、空気、或いは酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスで且つ該混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で50%以下の混合ガスを噴射口2から噴射させる。
【0026】
大気中の空気は混合比率がモル比で、窒素ガス78%、酸素ガス21%、それにわずかな二酸化炭素と水蒸気、アルゴン等で構成されており、被切断材Dが鉄または鉄合金の場合には、ピアシング時に噴射口2から噴射するスラグ排除ガスとして、エアコンプレッサ21dにより圧縮された空気のみをガス配管24に供給して噴射口2から噴射させることが出来る。
【0027】
一方、被切断材Dがステンレスまたは非鉄合金の場合には、ピアシング時に噴射口2から噴射するスラグ排除ガスとして、酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスで且つ該混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で55%以上の混合ガスを噴射口2から噴射させる。ピアシング後は、スラグ排除ガスとしての酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスの噴射口2からの噴射を停止した後、不活性ガスとして、窒素ガス或いはアルゴンガスを噴射口2から噴射し、被切断材Dの切断を開始する。
【0028】
混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率は、図示しない制御装置により流量調整弁23a〜23dを制御することで、混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で50%以下或いは55%以上に設定することが出来る。また、他の例としては予め混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で50%以下或いは55%以上に設定された混合ガスを生成して各ガスボンベに収容し、それぞれ圧力調整装置、流量調整弁を介してガス配管24に接続し、流量制御部17を介してノズルAの供給孔8に供給しても良い。
【0029】
図2及び図3に示すように、ノズルAは、中心に火口Bを嵌合する嵌合穴1が形成され、且つ該嵌合穴1の周囲に複数の噴射口2を形成して構成されている。噴射口2は、ノズルAの嵌合穴1に火口Bを嵌合したとき、該火口Bの加工中心線と一致した軸線3を通る複数の直線4上に各1個形成されている。即ち、噴射口2と軸線3を結ぶ直線4の延長線上には他の噴射口2は存在しない。
【0030】
本実施形態に於いて、ノズルAは中心に火口Bを嵌合し得る嵌合穴1を有する本体部材5と、該本体部材5に固着され予め設定された位置にスラグ排除ガスを噴射する複数の噴射口2を有するノズル部材6とを有して構成されている。
【0031】
ノズルAは火口Bを嵌合したとき、該火口Bと強固に一体化することが必要である。このため、本体部材5及び火口Bにはネジ部7a,7bが形成されており、これらのネジ部7a,7bを締結することで、ノズルAと火口Bを一体化し得るように構成されている。
【0032】
ノズルAの本体部材5には噴射口2から噴射するスラグ排除ガスが供給される供給孔8が形成されており、この供給孔8は本体部材5とノズル部材6とによって形成されたリング状のグルーブ9に接続している。そしてノズル部材6の予め設定された位置にグルーブ9と接続した噴射口2が形成されている。
【0033】
従って、供給孔8に被切断材Dの材質に応じて酸化性ガス或いは不活性ガス等から選択されたスラグ排除ガスを供給することによって、供給されたスラグ排除ガスを噴射口2から外部に噴射することが可能である。
【0034】
本実施形態に於いて、ノズルAの嵌合穴1に火口Bを嵌合したとき、該火口Bの外周面に沿ってリング状のスリット10が形成される。このスリット10は、被切断材Dの材質に応じて酸化性ガス或いは不活性ガスを噴射するためのものであり、火口Bとしてレーザ切断火口を用いた場合にのみ形成されるものである。このため、本体部材5にはスリット10に連通した供給孔11が形成されている。
【0035】
そして供給孔11に選択されたガスを供給すると、このガスはスリット10から噴射し、火口Bから被切断材Dに向けて照射されるレーザ光を鞘状に包み、該レーザ光によって加熱した被切断材Dの燃焼を促進し、或いは生成した溶融物を被切断材Dから排除して切溝を形成する。従って、火口Bから被切断材Dに向けてレーザ光を照射しつつ、スリット10からガスを噴射し、この状態を維持して火口Bを移動させることで被切断材Dを切断することが可能である。
【0036】
従って、火口Bとしてガス切断火口或いはプラズマ切断火口を用いた場合にはスリット10を形成する必要がなく、本体部材5に形成した嵌合穴1はこれらの切断火口の外径と等しい内径を有し、且つ本体部材5に供給孔11を形成する必要もない。
【0037】
またレーザ切断用の火口Bでは、図示しないトーチホルダーに保持されたトーチ本体16a(図1参照)を有しており、火口Bはこのトーチ本体16aの先端に着脱可能に装着される。このため、火口Bのトーチ本体16a側の端部には着脱用のネジ12が形成されている。そしてノズルAは、トーチ本体16aに装着された火口Bに対しネジ部7a,7bの螺合によって取り付けられることで、図示しないトーチホルダーによって保持されている。
【0038】
尚、火口Bがガス切断火口或いはプラズマ切断火口である場合であっても、これらの火口Bがトーチ本体16aに着脱可能に装着されることは、レーザ切断火口の場合と同様である。
【0039】
次に、上記の如く構成されたノズルAによって被切断材Dにピアシングを実施する際の手順について図1,図4により説明する。図1に於いて、火口Bを嵌合したノズルAには、ガス供給装置Eが接続される。ガス供給装置Eは、ガスボンベ21a〜21c及びエアコンプレッサ21dと、圧力調整装置22a〜22dと、電磁弁からなる流量調整弁23a〜23dと、ミキサー14と、流量制御部17とを有して構成されており、ノズルAの供給孔8とガス配管24を介して接続されている。
【0040】
ガスボンベ21a〜21c及びエアコンプレッサ21dには、被切断材Dの材質に応じて選択されたガスが充填されており、ピアシング時には、この選択されたガスがスラグ排除ガスとしてノズルAに供給される。即ち、被切断材Dが軟鋼である場合、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス、或いは空気,窒素ガスに僅かに酸素ガスを混合させたガス等のガスが選択され、また被切断材Dが非鉄金属である場合、酸素ガスを代表とする酸化性ガスが選択される。
【0041】
圧力調整装置22a〜22dはノズルAに供給するスラグ排除ガスの圧力を調整する機能を有するものであり、電磁弁からなる流量調整弁23a〜23d、流量制御部17はノズルAに対するスラグ排除ガスの供給及び遮断の制御を行う機能を有するものである。
【0042】
上記の如くしてノズルAにガス供給装置Eを接続し、このノズルAを被切断材Dに対向させて火口Bを作動させると、被切断材Dが酸化し或いは溶融した溶融物(スラグ)が被切断材Dの表面に吹き上げる。このとき、ノズルAの噴射口2からスラグ排除ガスを噴射すると、噴射したスラグ排除ガスよってスラグは吹き飛ばされる。
【0043】
図4に示すように、スラグ25は、ピアシング穴26を中心として噴射口2の反対側に吹き飛ばされ、該ピアシング穴26の周囲に放射状に付着する。即ち、ノズルAに於ける噴射口2と対応する位置にはスラグ25が付着することがない。従って、ノズルAに嵌合した火口Bの作動状態を維持しつつ、該火口Bをスラグ25の付着していない方向(噴射口2の方向)に移動させることで、被切断材Dに対する切断を円滑に開始することが可能となる。
【0044】
ピアシング後で切断を開始する前に流量調整弁23a〜23dを操作してスラグ排除ガスを停止するか、或いはピアシング時のスラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減してノズルAの噴射口2からスラグ排除ガスを噴射し、発生したスラグ25を排除することが出来る。
【0045】
本願発明者等の実験では、ピアシング時にノズルAから被切断材Dに向けて噴射するスラグ排除ガスは、連続的な噴射よりも断続させて噴射した方が有効であることが判明した。前記断続とは、時間的な断続と圧力の高低と、時間及び圧力を混合させた場合とがある。例えば、時間的に断続させる場合、0.3秒〜1秒の範囲が好ましく、圧力を変化させる場合、0.1MPa〜0.3MPa(1kg/cm2〜3kg/cm2)の範囲が好ましく、両者を混合させる場合、前記範囲の値を適宜選択して変動させることが好ましい。更に、ピアシングが完了し、スラグ25が凝固する以前に噴射するようにしても良い。
【0046】
上記構成によれば、ピアシング時に発生したスラグ25はピアシング穴26の周囲に放射状に付着することとなり、スラグ25が付着していないピアシング穴26の端部を起点として円滑な切断を開始することが出来る。また、ピアシング後で切断を開始する前にスラグ排除ガスを停止するか、或いはピアシング時のスラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減することで、切断時にスラグ排除ガスの影響を受け難くすることが出来る。
【0047】
また、スラグ排除ガスに含まれる酸素ガス濃度が高いと、ピアシング穴26が大きくなり、その分だけ排出されるスラグ25が抑制できず、歩留まりが悪くなる。このため、被切断材Dが鉄または鉄合金の場合には、混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で50%以下とすることで、スラグ排除ガスに含まれる酸素ガス濃度を低く抑えることで、ピアシング穴26が小さくなり、その分だけ排出され被切断材Dに付着するスラグ25の量が抑制でき、歩留まりが良くなる。また、被切断材Dがステンレスまたは非鉄合金の場合、或いは被切断材Dが鉄または鉄合金で板厚が25mm程度を超える場合には、混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で55%以上とすることで、スラグ排除ガスに含まれる酸素ガス濃度を高くしてスラグ25の酸化を促進し、溶融して被切断材Dに付着したスラグ25を剥離し易くすることが出来る。尚、図示しない液体供給装置に接続された配管をノズルAの供給孔8に接続して噴射口2から界面活性剤または水の何れかを噴射することも出来る。
【0048】
次に図5を用いて他のノズルFについて説明する。尚、図5に於いて、前述の第1実施形態と同一部分及び同一の機能を有する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0049】
図5に示すノズルFは、トーチ本体16aを嵌合する嵌合穴1に該トーチ本体16aを嵌合させたとき、軸線3がトーチ本体16aの加工中心となる火口Bの中心線と一致し得るように構成されており、該軸線3を中心とする円周上で且つ軸線3を通る直線4上に1個の噴射口2が形成されている。
【0050】
ノズルFの嵌合穴1にはネジ31が形成されており、トーチ本体16aには該ネジ31と螺合するネジ32が形成されている。従って、トーチ本体16aを嵌合穴1に挿通すると共にネジ31,32を螺合することで、該トーチ本体16aとノズルFを一体化することが可能である。
【0051】
上記の如く構成されたノズルFであっても、前述のノズルAと同様にしてスラグ25を吹き飛ばすことが可能であり、且つピアシング後、切断を円滑に開始することが可能である。
【0052】
また本実施形態のノズルFでは、図5に破線で示すように、ノズルF全体をトーチ本体16aの内部に組み込んでも良い。このように、トーチ本体16aの内部にノズルFを構成した場合でも、前述の第1実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0053】
図6(a)は従来のピアシング方法により被切断材Dの表面に発生するスラグ25の様子を示す図であり、図6(b)はピアシング装置15によりピアシングした際に被切断材Dの表面に発生するスラグ25の様子を示す図である。また、図7はピアシング装置15により厚さ25mmの鋼板材とステンレス材にそれぞれスラグ排除ガスの混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率(モル比)を変えてピアシングした際に発生したスラグ25のうち、被切断材Dの表面に付着したスラグ25の重量を示すグラフである。ピアシング装置15としては、小池酸素工業株式会社製の出力400Aのプラズマ切断トーチを使用した。図7に示すように、被切断材Dが鉄または鉄合金の一例として鋼板材の場合にはスラグ排除ガスの混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で50%以下であれば被切断材Dの表面に付着するスラグ25の重量は30g程度と低く維持され、被切断材Dがステンレスまたは非鉄合金の一例としてステンレス材の場合にはスラグ排除ガスの混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で55%以上であれば被切断材Dの表面に付着するスラグ25の重量は25g程度と低く維持されることが分る。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の活用例として、被切断材にピアシング(穴あけ)する際に発生するスラグを一定の方向に排除して円滑に切断作業を開始させるためのピアシング方法及びピアシング装置に適用出来る。
【符号の説明】
【0055】
A …ノズル
B …火口
D …被切断材
E …ガス供給装置(ガス供給制御手段)
F …ノズル
1 …嵌合穴
2 …噴射口
3 …軸線
4 …直線
5 …本体部材
6 …ノズル部材
7a,7b …ネジ部
8 …供給孔
9 …グルーブ
10 …スリット
11 …供給孔
12 …ネジ
13a〜13d …ガス配管
14 …ミキサー
15 …ピアシング装置
16 …切断トーチ
16a …トーチ本体
17 …流量制御部
21a〜21c …ガスボンベ
21d …エアコンプレッサ
22a〜22d …圧力調整装置
23a〜23d …流量調整弁
24 …ガス配管
25 …スラグ
26 …ピアシング穴
31,32 …ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被切断材の一部を酸化及び又は溶融させると共に母材から排除して切断するに際し発生するスラグを排除するピアシング方法であって、
ガス切断トーチ又はプラズマ切断トーチ或いはレーザ切断トーチから選択された切断トーチの加工中心線と一致した軸線を有し、前記軸線を中心として設定された円周上で且つ軸線を通る複数の直線上にピアシング時に発生するスラグを吹き飛ばすためのスラグ排除ガスを噴射する噴射口を形成し、前記切断トーチに装着したノズルによって前記被切断材に対するピアシングを実施する際に前記噴射口からピアシング部の周囲に前記スラグ排除ガスを噴射し、ピアシング後で切断を開始する前に前記スラグ排除ガスを停止するか、或いは前記ピアシング時の前記スラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減して発生したスラグを排除することを特徴とするピアシング方法。
【請求項2】
前記被切断材が鉄または鉄合金の場合には、ピアシング時に前記噴射口から噴射するスラグ排除ガスとして、空気、或いは酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスで且つ該混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で50%以下の混合ガスを噴射させることを特徴とする請求項1に記載したピアシング方法。
【請求項3】
前記被切断材がステンレスまたは非鉄合金の場合には、ピアシング時に前記噴射口から噴射するスラグ排除ガスとして、酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスで且つ該混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で55%以上の混合ガスを噴射させることを特徴とする請求項1に記載したピアシング方法。
【請求項4】
被切断材の一部を酸化及び又は溶融させると共に母材から排除して切断するに際し発生するスラグを排除するピアシング装置であって、
ガス切断トーチ又はプラズマ切断トーチ或いはレーザ切断トーチから選択された切断トーチと、
前記切断トーチの加工中心線と一致した軸線を有し、前記軸線を中心として設定された円周上で且つ軸線を通る複数の直線上にピアシング時に発生するスラグを吹き飛ばすためのスラグ排除ガスを噴射する噴射口を形成し、前記切断トーチに装着されるノズルと、
前記被切断材に対するピアシングを実施する際に前記噴射口からピアシング部の周囲に前記スラグ排除ガスを噴射し、ピアシング後で切断を開始する前に前記スラグ排除ガスを停止するか、或いは前記ピアシング時の前記スラグ排除ガスの流量或いは圧力よりも該スラグ排除ガスの流量或いは圧力を低減するガス供給制御手段と、
を有することを特徴とするピアシング装置。
【請求項5】
前記ガス供給制御手段は、前記被切断材が鉄または鉄合金の場合には、ピアシング時に前記噴射口から噴射するスラグ排除ガスとして、空気、或いは酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスで且つ該混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で50%以下の混合ガスを前記噴射口から噴射させることを特徴とする請求項4に記載したピアシング装置。
【請求項6】
前記ガス供給制御手段は、前記被切断材がステンレスまたは非鉄合金の場合には、ピアシング時に前記噴射口から噴射するスラグ排除ガスとして、酸素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスで且つ該混合ガス全体に対する酸素ガスの混合比率がモル比で55%以上の混合ガスを前記噴射口から噴射させることを特徴とする請求項4に記載したピアシング装置。

【図5】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−212709(P2011−212709A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82459(P2010−82459)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000185374)小池酸素工業株式会社 (64)
【Fターム(参考)】