説明

ピストンおよびその製造方法

【課題】ピストンの所要の剛性を確保しながら軽量化を図ると共に、ピストンのコスト削減を図る。
【解決手段】ピストンPは、ピストンピンを支持する第1,第2ピンボス12,13と、第1ピンボス12とピストンスカート11とを連結する第1側壁14と、第2ピンボス13とピストンスカート11とを連結する第2側壁15と、第1側壁14と第2側壁15とを連結すると共に真上に上方空間23,33をそれぞれ形成する1対のブリッジ21,31を有する。第1,第2側壁14,15には第1貫通孔41および第2貫通孔51が形成される。第1,第2貫通孔41,51および上方空間23,33は、ポンチ72による打抜き加工による1工程で形成され、同時に各ブリッジ21,31が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダに往復運動可能に嵌合するピストンおよび該ピストンの製造方法に関し、該ピストンは例えば内燃機関に使用される。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用ピストンにおいて、ピストンヘッドと、ピストンスカートと、ピン軸線を中心にピストンピンを支持する1対のピンボスと、平面視でピン軸線に直交する方向に延びていて各ピンボスおよびピストンスカートを連結する1対の側壁とを有し、各側壁には、ピン軸線方向に該側壁を貫通する貫通孔が形成されたものは知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、内燃機関用ピストンの剛性を高めるために、各ピンボスおよびピストンスカートを連結する1対の側壁を連結する1対の連結壁が、平面視でピン軸線に直交方向でピン軸線を挟む位置に形成されたピストンも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−337212号公報
【特許文献2】特開2007−309271号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ピストンの軽量化のために、ピンボスおよびピストンスカートを連結する側壁に貫通孔を形成し、さらに1対の側壁同士を連結する連結壁にも貫通孔を形成する場合、鋳造では、鋳型の構造が複雑化したり、該複雑化に伴う歩留まりの低下により、ピストンのコスト増加を招来し、また切削などの機械加工では、側壁に貫通孔を形成する工程と、連結壁に貫通孔を形成する工程が必要になって、加工工数が多くなることがあり、やはりピストンのコストが増加する原因になる。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、請求項1〜7記載の発明は、ピストンの所要の剛性を確保しながら軽量化を図ると共に、ピストンのコスト削減を図ることを目的とする。そして、請求項4記載の発明は、さらに、ピストンが冷却液で冷却される場合のピストンの冷却性の向上を図ることを目的とし、請求項5記載の発明は、さらに、ピストンの加工性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明は、頂面(10a)を有するピストンヘッド(10)と、ピストンスカート(11)と、ピン軸線(L2)を中心にピストンピン(4)を支持する第1ピンボス(12)および第2ピンボス(13)と、平面視で前記ピン軸線(L2)に直交する方向(A3)に延びていて前記第1ピンボス(12)と前記ピストンスカート(11)とを連結する第1側壁(14)と、前記直交方向(A3)に延びていて前記第2ピンボス(13)と前記ピストンスカート(11)とを連結する第2側壁(15)とを有するピストン(P)において、ピストン軸線(L1)に平行な方向を上下方向とするとき、前記直交方向(A3)で前記ピン軸線(L2)を挟む位置に、前記第1側壁(14)と前記第2側壁(15)とを連結すると共に真上に上方空間(23,33)をそれぞれ形成する1対のブリッジ(21,31)を有し、前記第1側壁(14)および前記第2側壁(15)には、前記ピン軸線(L2)に平行なピン軸線方向(A2)に前記第1側壁(14)および前記第2側壁(15)をそれぞれ貫通する第1貫通孔(41)および第2貫通孔(51)が形成され、前記第1貫通孔(41)および前記第2貫通孔(51)は、前記直交方向(A3)で前記各ブリッジ(21,31)よりも前記各ピンボス(12,13)側に位置するピンボス側端部(41i,51i)を有し、前記上方空間(23,33)は、前記直交方向(A3)で前記各ピンボス側端部(41i,51i)よりも前記ピストンスカート(11)側の位置において、前記ピン軸線方向(A2)で前記第1貫通孔(41)および前記第2貫通孔(51)に連なるピストン(P)である。
請求項2記載の発明は、請求項1記載のピストン(P)において、前記第1貫通孔(41)、前記第2貫通孔(51)および前記上方空間(23,33)のそれぞれの輪郭(42,52,24,34)は、前記ピン軸線(L2)に平行な直線からなる母線を有する仮想柱体(B)の柱面(B1)上にあるものである。
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のピストン(P)において、前記各貫通孔(41,51)は、前記ピンボス側端部(41i,51i)と、前記直交方向(A3)で前記ピストンスカート(11)側のスカート側端部(41o,51o)とを有し、前記ピンボス側端部(41i,51i)の輪郭(42i,52i)は円弧状であり、前記スカート側端部(41o,51o)の輪郭(42o,52o)は上下方向にほぼ平行な直線状部分(42o1,52o1)を有するものである。
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載のピストン(P)において、前記各ピンボス(12,13)には、平面視で前記ピン軸線(L2)を挟んで前記直交方向(A3)で対向する1対の補強リブ(16,17)が形成され、前記各補強リブ(16,17)の下端部(16a,17a)は、前記各ピンボス(12,13)から、上方に、かつ前記ピン軸線方向(A2)に延びて前記ピストンヘッド(10)の外周部(10c)の下面(10c1)に連なるものである。
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項記載のピストン(P)において、前記各ブリッジ(21,31)は、前記第1側壁(14)の厚み(t1)および前記第2側壁(15)の厚み(t2)にほぼ等しい厚み(t3)を有するものである。
請求項6記載の発明は、請求項1記載のピストン(P)の製造方法であって、前記ピストンヘッド(10)と、前記ピストンスカート(11)と、前記第1ピンボス(12)および前記第2ピンボス(13)と、前記第1側壁(14)と、前記第2側壁(15)と、平面視において前記直交方向(A3)で前記ピン軸線(L2)を挟む位置で前記第1側壁(14)と前記第2側壁(15)とを連結する1対の連結壁(26,36)とを有する素材ピストン(P1)を形成する素材ピストン形成工程と、前記第1側壁(14)および前記第2側壁(15)にそれぞれ前記第1貫通孔(41)および前記第2貫通孔(51)を形成すると共に、前記第1貫通孔(41)および前記第2貫通孔(51)の形成過程で前記各連結壁(26,36)に前記上方空間(23,33)を形成することにより前記ブリッジ(21,31)を形成する孔形成工程とを含むピストン(P)の製造方法である。
請求項7記載の発明は、請求項6記載のピストン(P)の製造方法において、前記孔形成工程において、前記第1貫通孔(41)および前記第2貫通孔(51)および前記上方空間(23,33)が打抜き加工による1工程で形成されるものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1記載の発明によれば、第1側壁および第2側壁を連結する連結部であるブリッジにより、ピストンの所要の剛性が確保される一方、ブリッジの真上には上方空間が形成され、さらに第1,第2側壁にはそれぞれ第1,第2貫通孔が形成されるので、ピストンが軽量化される。また、第1,第2貫通孔のピンボス側端部が各ブリッジよりも各ピンボス側に位置し、上方空間がピン軸線方向で第1,第2貫通孔に連なるので、第1,第2貫通孔を形成する工程で上方空間を形成することが可能になるため、上方空間およびブリッジの形成が容易になり、ピストンのコスト削減が可能になる。そして、第1,第2貫通孔のピンボス側端部がブリッジよりも各ピンボス側に位置することで、直交方向で第1,第2貫通孔を大きくできるので、ピストンの軽量化に寄与する。
請求項2記載の事項によれば、第1,第2貫通孔および上方空間の各輪郭が、1つの仮想柱体の柱面上にあるので、仮想柱体を加工具とする孔形成により、第1,第2貫通孔および上方空間を1工程で形成することが可能になり、コストを削減できる。
請求項3記載の事項によれば、第1,第2貫通孔のスカート側端部では、その輪郭が直線状部分を有することにより、上下方向に渡ってピストンスカートの剛性を高めながら、スカート側端部が円弧状である場合に比べて側壁における駄肉を少なくできて、ピストンを軽量化できる。また、ピンボス側端部の輪郭は円弧状であるので、貫通孔が直交方向で各ピンボスに近接した位置にあるにも拘わらず、各貫通孔によるピンボスの剛性の低下が防止される。
請求項4記載の事項によれば、各ピンボスにおいてピストンヘッドの外周部よりも下方位置から、上方に、かつピン軸線方向に延びている補強リブによりボス部の剛性が高められる。しかも、ピストンを冷却液で冷却する場合に、補強リブの分、ピストンでの冷却液の付着面積を増加させることが可能になるので、ピストンの冷却性を向上させることができる。
請求項5記載の事項によれば、ブリッジの厚みが、第1,第2側壁の厚みよりも厚い場合に比べて、上方空間およびブリッジを形成するための加工が容易になる。
請求項6記載の事項によれば、素材ピストンに形成された各連結壁に、第1,第2貫通孔を形成する工程で上方空間を形成することにより、1工程により第1,第2貫通孔および上方空間を形成でき、さらにブリッジを形成できるので、ピストンのコスト削減が可能になる。
請求項7記載の事項によれば、1回の打抜き加工により、第1,第2貫通孔および上方空間を形成できるので、コストが削減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図1〜図9を参照して説明する。
図1〜図4を参照すると、本発明が適用されたピストンPは、内燃機関用ピストンであり、4ストローク内燃機関が備えるシリンダ1(図4参照)に往復運動可能に嵌合する。該シリンダ1と共に内燃機関の機関本体を構成するシリンダヘッド2には、ピストンPのピストン軸線L1に平行なピストン軸線方向A1においてピストンPに対向して燃焼室3が設けられる。そして、燃焼室3での混合気の燃焼により発生する燃焼ガスの圧力により駆動されて往復運動するピストンPは、ピストンピン4(図5も参照)を介して該ピストンPに連結されるコンロッド5(図5も参照)を介して内燃機関のクランク軸に連結されて、該クランク軸を回転駆動する。
【0008】
ピストンPは、燃焼圧力を受ける頂面10aを有するピストンヘッド10と、ピストン軸線L1を中心線とする円柱状ピストンヘッド10からピストン軸線方向A1で下方に延びているピストンスカート11と、コンロッド5の小端部5aに挿入されて該コンロッド5と連結されるピストンピン4をピン軸線L2を中心に支持する第1,第2ピンボス12,13と、平面視でピン軸線L2に直交する方向A3に延びていて第1ピンボス12とピストンスカート11とを連結する第1側壁14と、直交方向A3に延びていて第2ピンボス13とピストンスカート11とを連結する第2側壁15と、平面視において直交方向A3で第1,第2ピンボス12,13またはピン軸線L2を挟む位置に設けられて1対の側壁14,15を連結する1対の第1,第2連結部20,30と、各ピンボス12,13とピストンヘッド10の外周部10cとを連結する補強リブ16,17とを有する。
ピストンPは、軽金属としてのアルミニウム合金から形成されて、鍛造により形成される。
【0009】
なお、明細書および特許請求の範囲において、上下方向はピストン軸線方向A1であるとし、上方向は、上下方向でピン軸線L2に対して頂面10aが位置する方向であるとし、さらに、平面視とは、上下方向(またはピストン軸線方向A1)から見ることを意味するものとする。また、実施形態において、周方向および径方向は、ピストン軸線L1を中心としたときのものである。
【0010】
ピストンヘッド10において、円環状の外周部10cの外周面には、圧縮リング6およびオイルリング7がそれぞれ装着される第1リング溝10hおよび第2リング溝10kが設けられる。各ピンボス12,13、各側壁14,15,および各補強リブ16,17は、それぞれの上部で、ピストンヘッド10の裏面10bに連なる。
シリンダ1の内周壁面に摺接するピストンスカート11は、周方向に間隔をおいて形成された第1,第2スカート部分11a,11bから構成される。直交方向A3で対向する第1,第2スカート部分11a,11bのそれぞれは、周方向での所定範囲で外周部10cから下方に延びている。
【0011】
1対のスカート部分11a,11bの周方向での一方の端部を第1ピンボス12を介して連結する第1側壁14は、直交方向A3で第1ピンボス12と第1スカート部分11aとを連結する第1壁部分14aと、直交方向A3で第1ピンボス12と第2スカート部分11bとを連結する第2壁部分14bとを有する。
同様に、1対のスカート部分11a,11bの周方向での他方の端部を第2ピンボス13を介して連結する第2側壁15は、直交方向A3で第2ピンボス13と第1スカート部分11aとを連結する第1壁部分15aと、直交方向A3で第2ピンボス13と第2スカート部分11bとを連結する第2壁部分15bとを有する。
【0012】
各ピンボス12,13には、ピストンピン4が挿入されて回動可能に嵌合する挿入部としての円柱状のピン孔12a,13aが設けられる。ピン孔12a,13aの周壁面には、ピストンピン4の抜止用クリップが装着される溝12b,13b(図5も参照)が設けられる。
ピン軸線L2は、ピストンピン4に連結されるコンロッド5の揺動中心線であり、この実施形態では、ピン孔12a,13aの中心線、および両ピンボス12,13に支持された状態でのピストンピン4の中心線でもある。
【0013】
図5を併せて参照すると、第1連結部20は、両第1壁部分14a,15aの下部同士または下端部14a1,15a1同士を連結する第1下部連結部としての第1ブリッジ21と、平面視で第1ブリッジ21と重なる位置に設けられて、両第1壁部分14a,15aの上部同士を連結する第1上部連結部としての第1突条壁22,32とから構成される。
同様に、第2連結部30は、両第2壁部分14b,15bの下部同士または下端部14b1,15b1同士を連結する第2下部連結部としての第2ブリッジ31と、平面視で第2ブリッジ31と重なる位置に設けられて、両第2壁部分14b,15bの上部同士を連結する第2上部連結部としての第2突条壁32とから構成される。
【0014】
各ブリッジ21,31および各突条壁22,32は、直交方向A3で両ピンボス12,13と第1スカート部分11aまたは第2スカート部分11bとの間で、両ピンボス12,13寄りに配置されて、ピン軸線L2に平行なピン軸線方向A2に平行に延びており、平面視において直交方向A3で、両ピンボス12,13、ピストンピン4およびピン軸線L2を挟む位置にある。
【0015】
各突条壁22,32は、ピストンヘッド10の裏面10bから下方に突出していることから、その上部で裏面10bに連なる。上下方向で、第1ブリッジ21と第1突条壁22との間、および、第2ブリッジ31と第2突条壁32との間には、上下方向で各ブリッジ21,31の真上であって、かつ各突条壁22,32の真下に、上方空間23,33の少なくとも一部、この実施形態では上方空間23,33のほぼ全部が形成されている。したがって、この実施形態では、各上方空間23,33は、上下方向に平行な方向でのブリッジ21,31または突条壁22,32の投影内に少なくともその一部(この実施形態ではほぼ全部)が位置する空間であり、また各連結部20,30を直交方向A3に貫通する貫通孔である。
【0016】
各ブリッジ21,31は、第1壁部分14a,15aの下端部14a1,15a1同士および第2壁部分14b,15bの下端部14b1,15b1同士またはその近傍同士を連結することにより、ピストンPに作用する荷重で、直交方向A3から見て両ピンボス12,13がピン軸線方向A2に「ハ」字状に広がる曲げ変形を抑制するための剛性を高めるうえで効果的な部分である。一方、突条壁22,32はピストンヘッド10における曲げ変形を抑制する補強リブとして機能する。したがって、上下方向でブリッジ21,31と突条壁22,32との間に上方空間23,33を形成することにより、ピストンPの所要の剛性を確保しながら、ピストンPの軽量化ができる。
【0017】
また、ブリッジ21,31はピン軸線方向A2でのブリッジ21,31のほぼ全幅に渡って、また突条壁22,32はピン軸線方向A2で両ピンボス12,13間の間隔W(図2参照)にほぼ等しい幅の中央部分において、両第1壁部分14a,15aの、ピン軸線方向A2での互いにほぼ等しい厚みt1,t2、および、両第2壁部分14b,15bの、ピン軸線方向A2での互いにほぼ等しい厚みt1,t2にほぼ等しい直交方向A3での厚みt3を有する。なお、別の例では、突条壁22,32が、ピン軸線方向A2でのほぼ全幅に渡ってほぼ均一の厚みt3を有していてもよい。
【0018】
各側壁14,15において、第1壁部分14aおよび第1壁部分15aには、ピン軸線方向A2に該第1壁部分14aおよび該第1壁部分15aをそれぞれ貫通する第1貫通孔41および第2貫通孔51が形成され、同様に第2壁部分14bおよび第2壁部分15bには、ピン軸線方向A2に該第2壁部分14bおよび該第2壁部分15bをそれぞれ貫通する第1貫通孔41および第2貫通孔51が形成される。
第1貫通孔41および第2貫通孔51は、特定方向としてのピン軸線方向A2から見て同一形状で、ピストン軸線L1を含むと共にピン軸線方向A2に直交する平面に関して面対称である。また、1対の第1貫通孔41同士および1対の第2貫通孔51同士は、ピストン軸線L1を含むと共に直交方向A3に直交する平面に関して面対称である。
【0019】
図3,図4を参照すると、第1貫通孔41および第2貫通孔51は、ピン軸線方向A2から見て、同一の輪郭42および輪郭52をそれぞれ有し、したがって輪郭42,52同士はピン軸線方向A2から見てそれらの全体で重なる。また、第1貫通孔41および第2貫通孔51は、ピン軸線方向A2から見て、直交方向A3で、ピンボス12,13寄りの内側端部であるピンボス側端部41i,51iと、各スカート部分11a,11b寄りの外側端部であるスカート側端部41o,51oとを有する。
【0020】
ピンボス側端部41i,51iは、各貫通孔41,51において、直交方向A3での位置が、直交方向A3でのブリッジ21,31および突条壁22,32の位置と同じ位置からピンボス12,13寄りの部分であり、直交方向A3でブリッジ21,31および突条壁22,32よりもピンボス12,13側に突出する突出部分41i1,51i1を有する。したがって、ピンボス側端部41i,51iは、直交方向A3で各ブリッジ21,31および突条壁22,32よりも第1,第2ピンボス12,13側に位置する。また、ピンボス側端部41i,51iの輪郭42i,52iは、ピン軸線方向A2から見て円弧状である。
【0021】
そして、ピンボス側端部41i,51iの輪郭42i,52iの形状が円弧状であることにより、ピン軸線方向A2から見て円弧状である各貫通孔41,51の各ブリッジ21,31および各突条壁22,32ブリッジの上下方向での突出量である突出高さは、直交方向A3でピンボス12,13側に近づくほど高くなるので、ピンボス12,13付近の剛性が高められる。
【0022】
スカート側端部41o,51oは、各貫通孔41,51において、直交方向A3での位置が、ピストン軸線L1を含むと共にピン軸線L2に直交する平面上での外周部10cの内周面10c2(図2も参照)とほぼ同じ位置において上下方向にほぼ平行な直線状部分42o1,52o1を有する輪郭42o,52oを有する。直線状部分42o1,52o1は、上下方向でスカート部分11a,11bの過半と同じ位置にある。
【0023】
そして、各上方空間23,33は、直交方向A3で各ピンボス側端部41i,51iよりもスカート部分11a,11b側の位置において、ピン軸線方向A2で第1貫通孔41,51および第2貫通孔41,51に連なる(図5参照)。
【0024】
第1貫通孔41の輪郭42は、第1側壁14の第1,第2壁部分14a,14bの周壁面14c,14dにより規定され、第2貫通孔51の輪郭52は、第2側壁15の第1,第2壁部分15a,15bの周壁面15c,15dにより規定される。また、上方空間23,33の輪郭24,34は、ブリッジ21,31の上壁面21c,31cにより規定される下輪郭24a,34a(図5も参照)と、突条壁22,32の下壁面22c,32c(図1も参照)により規定される下輪郭24b,34bとから構成される。そして、それぞれの輪郭42,52,24,34は、ピン軸線L2に平行な直線からなる母線を有する仮想柱体B(図1,図5参照)の柱面B1上にある。この仮想柱体Bは、ピン軸線L2に直交する平面での断面形状として、ピン軸線方向A2から見たときの第1貫通孔41または第2貫通孔51の形状を有する。各貫通孔41,51の輪郭42,52の最上部42a,52aは、上下方向で外周部10cの下面10c1とほぼ同じ位置にある。
【0025】
図1〜図3を参照すると、第1ピンボス12には、平面視において直交方向A3でピン軸線L2を挟んで、ピン孔12aの直径にほぼ等しい間隔をおいて直交方向A3で対向する1対の補強リブ16が、ピン軸線方向A2に平行に形成され、第2ピンボス13には、平面視において直交方向A3でピン軸線L2を挟んで、ピン孔13aの直径にほぼ等しい間隔をおいて直交方向A3で対向する1対の補強リブ17が、ピン軸線方向A2に平行に形成される。
【0026】
各補強リブ16,17は、その上部でピストンヘッド10の裏面10bに連なると共にピン軸線方向A2に延びている。各補強リブ16,17の下端部16a,17aは、かつ上下方向でピンボス12,13の下半部から外周部10cの下面10c1に向かって、上方に、かつピン軸線方向A2に滑らかに傾斜して延びていて(図1参照)、径方向での最外方部が外周部10cの下面10c1に連なる。それゆえ、1対の補強リブ16は、外周部10cよりも下方において、直交方向A3でピン孔12aを挟む位置にあり、同様に、1対の補強リブ17は、外周部10cよりも下方において、直交方向A3でピン孔13aを挟む位置にある。
【0027】
ピストンPには、シリンダ1やコンロッド5(図4参照)などに設けられた冷却液供給部としてのオイルジェットから噴射された冷却液としてのオイルが供給される。そして、噴射されたオイルは、裏面10b、各ピンボス12,13、各突条壁22,32および各補強リブ16,17などに当たり、かつ付着することにより、ピストンPを冷却すると共に、ピンボス12,13とピストンピン4との摺動部や小端部5aとピストンピン4との摺動部に供給されて、それら摺動部を潤滑する。
【0028】
図1,図6〜図9を参照して、ピストンPの製造方法について説明する。
図6を参照すると、素材ピストン形成工程において、ダイスが使用される鍛造により図6に示される1次素材ピストンP1が形成される。1次素材ピストンP1は、ピストンヘッド10と、1対のスカート部分11a,11bから構成されるピストンスカート11と、第1,第2ピンボス12,13と、第1,第2側壁14,15と、直交方向A3で第1,第2ピンボス12,13を挟む位置で第1側壁14と第2側壁15とを連結する1対の連結壁26,36と、補強リブ16,17とを有する。
【0029】
各連結壁26,36は、その上部にてピストンヘッド10の裏面10bに連なる。1次素材ピストンP1においては、ピストンヘッド10に溝10h,10k(図5参照)が形成されておらず、各ピンボス12,13にはピン孔12a,13a(図1参照)および溝12b,13b(図1参照)が形成されておらず、第1,第2側壁14,15において、第1側壁14の第1,第2壁部分14a,14bには第1貫通孔41(図3参照)が形成されておらず、第2側壁15の第1,第2壁部分15a,15bには第2貫通孔51(図4参照)が形成されていない。
【0030】
ピストン素材形成工程の後に、第1側壁14および第2側壁15にそれぞれ第1貫通孔41および第2貫通孔51を形成すると共に、第1,第2貫通孔41,51の形成過程で各連結壁26,36に上方空間23,33を形成することによりブリッジ21,31(図1参照)および突条壁22,32(図1参照)を形成する孔形成工程が行われる。
【0031】
併せて図7〜図9を参照すると、孔形成工程では、1次素材ピストンP1が下ダイス70および上ダイス71により形成される空間内に配置された状態で孔形成加工としての塑性加工である打抜き加工が行われる。下ダイス70および上ダイス71には、仮想柱体Bと同一形状の孔成形具としてのポンチ72(図1,図5には、二点鎖線で示されている。)が、挿入されてピン軸線方向A2に平行に案内される案内孔70a,71aが設けられている。ここで、下ダイス70、上ダイス71およびポンチ72は、孔形成用ダイスを構成する。
【0032】
そして、図7に示される加工開始前の位置にあるポンチ72が、ピン軸線方向A2に駆動されて、図7においてピン軸線方向A2に平行な方向である左方向に移動することにより、先ず外周部10cの一部が削り取られて除去されて凹部10d(図1参照)が形成され、さらに、第1側壁14の第1,第2壁部分14a,14b、連結壁26,36および、第2側壁15の第1,第2壁部分15a,15bの一部が打ち抜かれて除去される。
【0033】
このように、ポンチ72による1工程で、図1に示される第1,第2貫通孔41,51および上方空間23,33が形成され、連結壁26,36の残りの部分としてのブリッジ21,31および突条壁22,32が形成されて、ブリッジ21,31および突条壁22,32を有する2次素材ピストンが形成される。
その後、該2次素材ピストンに、ピン孔12a,13aや溝6,7,12b,13bなどを形成するための機械加工が施され、さらに仕上げ加工が施されて、図1に示されるピストンPが完成する。
【0034】
次に、前述のように構成された実施形態の作用および効果について説明する。
ピストンPは、直交方向A3でピン軸線L2を挟む位置に、第1側壁14と第2側壁15とを連結すると共に真上に上方空間23,33をそれぞれ形成する1対のブリッジ21,31を有し、第1側壁14および第2側壁15には、ピン軸線方向A2に第1側壁14および第2側壁15をそれぞれ貫通する第1貫通孔41および第2貫通孔51が形成され、第1貫通孔41および第2貫通孔51は、直交方向A3で各ブリッジ21,31よりも各ピンボス12,13側に位置するピンボス側端部41i,51iを有し、上方空間23,33は、直交方向A3で各ピンボス側端部41i,51iよりもピストンスカート11側の位置において、ピン軸線方向A2で第1貫通孔41および第2貫通孔51に連なる。この構造により、第1側壁14および第2側壁15を連結する連結部20,30であるブリッジ21,31により、ピストンPの所要の剛性が確保される一方、ブリッジ21,31の真上には上方空間23,33が形成され、さらに第1,第2側壁14,15にはそれぞれ第1,第2貫通孔41,51が形成されるので、ピストンPが軽量化される。また、第1,第2貫通孔41,51のピンボス側端部41i,51iの突出部分41i1,51i1が各ブリッジ21,31よりも各ピンボス12,13側に位置し、上方空間23,33がピン軸線方向A2で第1,第2貫通孔41,51に連なるので、第1,第2貫通孔41,51を形成する工程で上方空間23,33を形成することが可能になるため、上方空間23,33およびブリッジ21,31の形成が容易になり、ピストンPのコスト削減が可能になる。そして、ピンボス側端部41i,51iがブリッジ21,31よりも各ピンボス12,13側に位置することで、直交方向A3で第1,第2貫通孔41,51を大きくできるので、ピストンPの軽量化に寄与する。
【0035】
第1貫通孔41、第2貫通孔51および上方空間23,33のそれぞれの輪郭42,52,24,34は、ピン軸線L2に平行な直線からなる母線を有する仮想柱体Bの柱面B1上にあることにより、第1,第2貫通孔41,51および上方空間23,33の各輪郭42,52,24,34が、1つの仮想柱体Bの柱面B1上にあるので、仮想柱体Bを加工具とする孔形成により、第1,第2貫通孔41,51および上方空間23,33を1工程で形成することが可能になり、コストを削減できる。
【0036】
各貫通孔41,51において、ピンボス側端部41i,51iの輪郭42i,52iが円弧状であり、直交方向A3でピストンスカート11側のスカート側端部41o,51oの輪郭42o,52oが上下方向にほぼ平行な直線状部分42o1,52o1を有することにより、上下方向に渡ってピストンスカート11の剛性を高めながら、スカート側端部41o,51oが円弧状である場合に比べて側壁14,15における駄肉を少なくできて、ピストンPを軽量化できる。また、ピンボス側端部41i,51iの輪郭42i,52iは円弧状であるので、貫通孔41,51が直交方向A3で各ピンボス12,13に近接した位置にあるにも拘わらず、各貫通孔41,51によるピンボス12,13の剛性の低下が防止される。
【0037】
各ピンボス12,13には、ピン軸線L2を挟んで直交方向A3で対向する1対の補強リブ16,17が形成され、各補強リブ16,17の下端部16a,17aは、各ピンボス12,13から、上方に、かつピン軸線方向A2に延びてピストンヘッド10の外周部10cの下面10c1に連なることにより、各ピンボス12,13においてピストンヘッド10の外周部10cよりも下方位置から、上方に、かつピン軸線方向A2に延びている補強リブ16,17によりピンボス12,13の剛性が高められる。しかも、ピストンPをオイルで冷却する場合に、補強リブ16,17の分、ピストンPでのオイルの付着面積を増加させることが可能になるので、ピストンPの冷却性を向上させることができる。特に、前記オイルジェットからのオイルを、補強リブ16,17に向かって斜め上方に指向させて、補強リブ16,17の、直交方向A3での側面に指向するように噴射することにより、補強リブ16,17へのオイルの付着量が増加して、冷却性を一層向上させることができる。
【0038】
ブリッジ21,31は、第1側壁14の厚みt1および第2側壁15の厚みt2にほぼ等しい厚みt3を有することにより、ブリッジ21,31の厚みt3が、第1,第2側壁14,15の厚みt1,t2よりも厚い場合に比べて、上方空間23,33およびブリッジ21,31を形成するための加工が容易になる。
【0039】
素材ピストン形成工程において、鍛造により、第1側壁14と第2側壁15とを連結する1対の連結壁26,36を有する1次素材ピストンP1を形成し、孔形成工程において、第1,第2側壁14,15にそれぞれ第1,第2貫通孔41,51を形成すると共に、第1,第2貫通孔41,51の形成過程で各連結壁26,36に上方空間23,33およびブリッジ21,31を形成することにより、第1,第2貫通孔41,51を形成する工程で、1次素材ピストンP1の各連結壁26,36に上方空間23,33を形成することができる。この結果、1工程により第1,第2貫通孔41,51および上方空間23,33を形成でき、さらにブリッジ21,31および突条壁22,32を形成できるので、ピストンPのコスト削減が可能になる。
【0040】
また、孔形成工程において、第1,第2貫通孔41,51および上方空間23,33が打抜き加工による1工程で形成されることにより、1回の打抜き加工で第1,第2貫通孔41,51および上方空間23,33を形成できるので、コストが削減される。さらに、この打抜き加工では、ピストンヘッド10の外周部10cの下面10cに凹部10dが形成されるので、この凹部10dが形成されることによりピストンPが軽量化される。
【0041】
以下、前述した実施形態の一部の構成を変更した実施形態について、変更した構成に関して説明する。
素材ピストンP1は、鋳造により形成されてもよい。
第1,第2貫通孔41,51および上方空間23,33は、切削などの機械加工により1工程で形成されてもよい。
素材ピストンP1の連結壁26,36は、上部でピストンヘッド10の裏面10bに連なる形状であったが、該裏面10bとの間に上下方向の間隔が形成されていてもよい。この場合には、突条壁22,32が形成されないことになる。
ブリッジ21,31の真上に、両側壁14,15を連結する連結部20,30の一部として1以上の二次連結部としての2次ブリッジが形成され、上下方向で、ブリッジと2次ブリッジの間、さらに、複数の2次ブリッジが設けられる場合には2次ブリッジ同士の間、さらに突条壁22,32がある場合には2次ブリッジと突条壁22,32との間に、上方空間23,33が形成されてもよく、その場合には1つのブリッジ21,31の上方に複数の上方空間23,33が形成されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明が適用されたピストンを斜め下方から見た斜視図である。
【図2】図1のピストンの下平面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のV−V線断面図である。
【図6】図1のピストンの製造過程で形成される素材ピストンを斜め下方から見た斜視図である。
【図7】図6の素材ピストンが孔形成工程で孔形成用ダイスに収容された状態での、図2のVII−VII線での断面に相当する要部断面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線での要部断面図である。
【図9】図7のIX−IX線での要部断面図である。
【符号の説明】
【0043】
12,13…ピンボス、14,15…側壁、16,17…補強リブ、21,31…ブリッジ、22,32…突条壁、23,33…上方空間、24,34…輪郭、26,36…連結壁、41,51…貫通孔、42,52…輪郭、72…ポンチ、
P…ピストン、L2…ピン軸線、A2…ピン軸線方向、A3…直交方向、B…仮想柱体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頂面を有するピストンヘッドと、ピストンスカートと、ピン軸線を中心にピストンピンを支持する第1ピンボスおよび第2ピンボスと、平面視で前記ピン軸線に直交する方向に延びていて前記第1ピンボスと前記ピストンスカートとを連結する第1側壁と、前記直交方向に延びていて前記第2ピンボスと前記ピストンスカートとを連結する第2側壁とを有するピストンにおいて、
ピストン軸線に平行な方向を上下方向とするとき、前記直交方向で前記ピン軸線を挟む位置に、前記第1側壁と前記第2側壁とを連結すると共に真上に上方空間をそれぞれ形成する1対のブリッジを有し、
前記第1側壁および前記第2側壁には、前記ピン軸線に平行なピン軸線方向に前記第1側壁および前記第2側壁をそれぞれ貫通する第1貫通孔および第2貫通孔が形成され、
前記第1貫通孔および前記第2貫通孔は、前記直交方向で前記各ブリッジよりも前記各ピンボス側に位置するピンボス側端部を有し、
前記上方空間は、前記直交方向で前記各ピンボス側端部よりも前記ピストンスカート側の位置において、前記ピン軸線方向で前記第1貫通孔および前記第2貫通孔に連なることを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記第1貫通孔、前記第2貫通孔および前記上方空間のそれぞれの輪郭は、前記ピン軸線に平行な直線からなる母線を有する仮想柱体の柱面上にあることを特徴とする請求項1記載のピストン。
【請求項3】
前記各貫通孔は、前記ピンボス側端部と、前記直交方向で前記ピストンスカート側のスカート側端部とを有し、
前記ピンボス側端部の輪郭は円弧状であり、前記スカート側端部の輪郭は上下方向にほぼ平行な直線状部分を有することを特徴とする請求項1または2記載のピストン。
【請求項4】
前記各ピンボスには、平面視で前記ピン軸線を挟んで前記直交方向で対向する1対の補強リブが形成され、
前記各補強リブの下端部は、前記各ピンボスから、上方に、かつ前記ピン軸線方向に延びて前記ピストンヘッドの外周部の下面に連なることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のピストン。
【請求項5】
前記各ブリッジは、前記第1側壁の厚みおよび前記第2側壁の厚みにほぼ等しい厚みを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のピストン。
【請求項6】
請求項1記載のピストンの製造方法であって、
前記ピストンヘッドと、前記ピストンスカートと、前記第1ピンボスおよび前記第2ピンボスと、前記第1側壁と、前記第2側壁と、平面視において前記直交方向で前記ピン軸線を挟む位置で前記第1側壁と前記第2側壁とを連結する1対の連結壁とを有する素材ピストンを形成する素材ピストン形成工程と、
前記第1側壁および前記第2側壁にそれぞれ前記第1貫通孔および前記第2貫通孔を形成すると共に、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔の形成過程で前記各連結壁に前記上方空間を形成することにより前記ブリッジを形成する孔形成工程とを含むことを特徴とするピストンの製造方法。
【請求項7】
前記孔形成工程において、前記第1貫通孔および前記第2貫通孔および前記上方空間が打抜き加工による1工程で形成されることを特徴とする請求項6記載のピストンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−71122(P2010−71122A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237433(P2008−237433)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】