説明

ピストンピンならびにピストンアッセンブリ

【課題】ピストン2とコネクティングロッド1とを連結するピストンピン3において、ピストン2のボス部22,23のピン孔22a,23aに対する嵌合部分の耐焼付き性を向上可能とする。
【解決手段】ピストンピン3の外周面においてボス部22,23のピン孔22a,23aの内側開口側および外側開口側に対応する場所に、それぞれ周方向に連続する油溝31〜34が設けられている。この油溝31〜34に貯留された潤滑油は、徐々にピストンピン3とボス部22,23のピン孔22a,23aとの嵌合面へ供給されて、当該嵌合面に油膜を作ることになる。これにより、ピストンピン3とボス部22,23のピン孔22a,23aとが油膜を介して接触する状態となって潤滑条件が良好となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車、農耕機械、航空機等に使用される内燃機関においてピストンとコネクティングロッドとを連結するためのピストンピン、ならびにピストンアッセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関の運転中において、例えばピストンのボス部への応力集中を緩和するために、当該ボス部の内周面に対策を施すことが考えられている(例えば特許文献1,2参照。)。
【0003】
このようにピストンのボス部に設けてあるピン孔に、いろいろな加工を施すことは困難かつ煩雑であることが指摘される。
【0004】
ところで、ピストンが往復運動中に揺れてシリンダ内周面に当接することにより、スラップ音が発生することを防止するために、ピストンのスカート部に外環部材を取り付け、スカート部外面と外環部材の内面との間に、クランクシャフト側からコネクティングロッド、ピストンピンならびにピストンのスカート部等にそれぞれ設けた油溝や油通路を経て、潤滑油を供給させるように対策した構造が提案されている(例えば特許文献3参照。)。
【0005】
この従来例では、ピストンピンの外周面における軸方向両端と軸方向中央に周方向に連続する油溝を一つ設けるとともに、この油溝の底とピストンピンの中心孔とを連通する径方向孔を設けている。ピストンピンの中心孔両端には、それぞれキャップが取り付けられて閉塞されている。
【特許文献1】特開平10−103513号公報
【特許文献2】特開平11−303993号公報
【特許文献3】国際公開WO97/02418号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、内燃機関の高出力化を図るに伴い、内燃機関の運転中には、ピストンの上昇過程におけるコネクティングロッドによる突き上げ荷重、ピストン慣性力、さらには、爆発行程における燃焼室内の爆発荷重等によって、ピストンピンが撓むという現象が発生しやすくなる。
【0007】
本願発明者は、上記ピストンピンの撓みに伴いピストンのボス部とピストンピンとの嵌合部分に、過大な応力が作用しやすく、そこの耐焼付き性が低下するおそれがあることを知見し、このような知見に基づき本発明を提案するに至った。
【0008】
なお、上記特許文献3では、ピストンピンの外周面の軸方向両端に油溝を設けているが、この油溝は、あくまでも、ピストンピンの中心孔に供給された潤滑油をピストンのスカート部に設けられる油通路を経て、スカート部外面と外環部材の内面との間に導くための通路であって、ピストンのボス部ピン孔とピストンピンとの嵌合面全体に油を供給保持するためのものではなく、また、そのようなことを示唆する記載や、そのようにすることの必要性に関する記載等ない。しかも、ピストンピンの外周面の軸方向両端に設ける油溝について、ピストンのボス部ピン孔に対する設置場所を特定するような記載や、その特定が優位になることを示唆するような記載もない。
【0009】
本発明は、ピストンピンにおいて、ピストンのボス部ピン孔に対する嵌合部分の耐焼付き性を向上可能とすることを目的としている。また、本発明は、ピストンアッセンブリにおいて、寿命ならびに信頼性の向上を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ピストンとコネクティングロッドとを連結するピストンピンであって、その外周面において前記ピストンのボス部ピン孔の内側開口側および外側開口側に対応する場所に、それぞれ周方向に連続する油溝が設けられていることを特徴としている。
【0011】
この構成によれば、前記ボス部ピン孔とピストンピンとの嵌合部分へ、シリンダ内の潤滑油が入ると、当該嵌合面で油膜を形成するとともに、前記油溝に入り込んで貯留されることになる。この油溝に貯留された潤滑油は、徐々に前記嵌合面へ供給されて、当該嵌合面に油膜を作ることになる。これにより、前記ピストンピンとボス部ピン孔とが油膜を介在した流体潤滑状態あるいは境界潤滑状態となって潤滑条件が良好となるから、耐焼付き性が向上することになる。
【0012】
また、本発明は、ピストンとコネクティングロッドとがピストンピンで連結されるピストンアッセンブリであって、前記ピストンピンが、前記ピストンのボス部ピン孔にすきま嵌めにより装着され、かつ、前記ボス部ピン孔の外側開口側に装着される止め輪でもって抜け止めされており、このピストンピンが、上記構成とされていることを特徴としている。
【0013】
この構成によれば、前記ボス部ピン孔にピストンピンがすきま嵌め状態で嵌合されているから、その嵌合部分へシリンダ内の潤滑油が入りやすくなるとともに、油溝へ溜まりやすくなる。また、上記のような嵌め合い関係では、ピストンの往復運動過程において、ピストンピンとピストンのピン孔との嵌合部分が、周方向両方向に所定角度範囲で摺接するようになるが、この嵌合部分で油膜切れが発生しにくくなる。これらのことから、前記嵌合部分の潤滑条件が長期にわたって良好となり、寿命ならびに信頼性の向上が可能となる。
【0014】
好ましくは、前記ピストンアッセンブリにおいて、前記ボス部に、シリンダ内の潤滑油を前記ピストンピンの油溝へ供給するための通路が設けられたものとすることができる。
【0015】
この構成によれば、シリンダ内の潤滑油が前記通路を通じて油溝に供給されるようになるから、油溝へ潤滑油がさらに溜まりやすくなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のピストンピンによれば、ピストンのボス部ピン孔に対する嵌合部分の耐焼付き性を向上することが可能になる。本発明のピストンアッセンブリによれば、寿命ならびに信頼性の向上が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。図1から図4に、本発明の一実施形態を示している。
【0018】
図1に示すように、コネクティングロッド1の小端側円筒部11に、ピストン2がピストンピン3を介して連結されている。コネクティングロッド1の大端側円筒部12は、公知のようにクランクシャフト(図示省略)に連結される。
【0019】
ピストン2におけるクラウン部21の下方には、周方向で対向する一対のボス部22,23が設けられている。このボス部22,23には、ピストンピン3を装着するためのピン孔22a,23aが設けられている。
【0020】
このピン孔22a,23aの外側開口端には、ピストンピン3を抜け止めするためのサークリップ等の止め輪4が装着される係止溝24が設けられている。
【0021】
ピストンピン3は、金属製の円筒部材からなり、ピストン2のピン孔22a,23aに挿入されると共に、コネクティングロッド1の小端側円筒部11に複数個のころ5を介して挿入される。
【0022】
ところで、コネクティングロッド1の小端側円筒部11とピストン2とをピストンピン3によって連結する際は、ピストンピン3を、ピストン2の一方のボス部22のピン孔22a側から挿入して、コネクティングロッド1の小端側円筒部11を挿通してピストン2の他方のボス部23のピン孔23a内に挿入し、最後に、ピストン2の両ピン孔22a,23aの外側開口に止め輪4を装着して、ピストンピン3を抜け止めする。
【0023】
このとき、ピストンピン3とピストン2のピン孔22a,23aとの嵌め合い部分は、正の隙間を持つようにすきま嵌めとされており、その関係より、止め輪4でもってピストンピン3の軸方向への抜け出しを防止するようになっている。
【0024】
このような嵌め合い関係では、ピストン2の往復運動過程において、ピストンピン3とピストン2のピン孔22a,23aとの嵌合部分が、周方向両方向に所定角度範囲で摺接するようになる。
【0025】
ここで、本発明の特徴部分について説明する。
【0026】
本願発明者は、内燃機関の高出力化を図るに伴い、内燃機関の運転中に、ピストン2の上昇過程におけるコネクティングロッド1による突き上げ荷重、ピストン2の慣性力、さらには、爆発行程における燃焼室内の爆発荷重等によって、ピストンピン3が撓むという現象が発生することを知見した。
【0027】
さらに、本願発明者は、上述したようなピストンピン3の撓みに伴い、ピストンピン3においてピストン2のボス部22,23のピン孔22a,23aの内側開口側と外側開口側とに対応する場所に、過大な応力が作用して、そこの耐焼付き性が低下することを知見した。
【0028】
このような知見に基づき、ピストンピン3の外周面の軸方向両端部分に、それぞれ二つずつ、周方向に連続する油溝31,32,33,34を設けるようにしている。
【0029】
なお、以下において、ピストンピン3の軸方向外端寄りの油溝31,33を、外側油溝と言い、ピストンピン3の軸方向中央寄りの油溝32,34を、内側油溝と言うことにする。
【0030】
具体的に、これらすべての油溝31〜34は、ピストン2のボス部22,23のピン孔22a,23aの軸方向幅内に配置されており、各油溝31〜34内には、ピストン2の往復運動に伴いシリンダ内に存在する潤滑油が貯留されるようになる。
【0031】
そして、図4中の二点鎖線で示すように、外側油溝31,33は、ピストンピン3の外周面においてピストン2のボス部22,23のピン孔22a,23aの外側開口側に対応する場所に設けられている。
【0032】
一方の内側油溝32,34は、ピストンピン3の外周面においてピストン2のボス部22,23のピン孔22a,23aの内側開口側に対応する場所に設けられている。
【0033】
なお、図4では、ピストンピン3の軸方向中間が上向きに張り出すように撓んだ状態を示しており、そのときに、図4中の二点鎖線で囲む場所に応力が集中する。
【0034】
但し、ピストン2の慣性力が作用するときには、図示していないが、図4に示す状態とは逆に、ピストンピン3の軸方向中間が下向きに張り出すように撓んだ状態となり、そのときに、図4中の二点鎖線で囲む場所と180度対向する場所に、応力が集中することになる。
【0035】
いずれにしても、外側油溝31,33および内側油溝32,34を周方向に連続するものとしているから、そこに貯留保持される潤滑油が、ピストンピン3の外周面においてピストン2のボス部22,23内端側とボス部22,23外端側とに対応する場所およびその周辺に安定的に供給されるようになって、ピストンピン3とボス部22,23のピン孔22a,23aとの嵌合面に油膜が途切れなく作られることになる。
【0036】
これにより、ピストンピン3とボス部22,23のピン孔22a,23aとが油膜を介在した流体潤滑状態あるいは境界潤滑状態となって潤滑条件が良好となるから、前記応力集中を受けた状態でピストンピン3とピン孔22a,23aとが摺接しても油膜切れが発生しにくくなり、耐焼付き性が向上する結果となる。
【0037】
ところで、ピストン2の往復運動に伴いピストンピン3が撓んだ場合に、ピストンピン3に径方向に沿うせん断応力が作用する。具体的に、前記せん断応力は、ピストンピン3においてピストン2のピン孔22a,23aの内側開口端縁に対応する位置で最大となり、その位置からピン孔22a,23aの外側開口へ向けて離れるに従い徐々に小さくなる。
【0038】
したがって、ピストンピン3における強度上の観点からすると、前記最大のせん断応力に耐えうる肉厚を確保するのが好ましいが、ピストンピン3の肉厚は、軽量化を図るために極力薄くすることも大事である。なお、ピストンピン3の軽量化は、ピストン2の慣性力を低減するうえで有利となる。
【0039】
これらのことを考慮し、油溝31〜34については、ピストンピン3の強度を低下させないようにしたうえで、十分な潤滑油の貯留量を確保するために、例えば図3に示すように、油溝31〜34は、軸方向幅Xが深さYよりも大きく設置されている。
【0040】
この深さYは、ピストンピン3の肉厚を薄くするうえでの障害とならない深さに設定するのが好ましく、また、幅Xは、潤滑油の貯留量と、ピン孔22a23aに対するピストンピン3の嵌合面積との関係を考慮して適宜設定するのが好ましい。参考までに、その一例としては、例えば幅Xは、2mm〜5mmに、また、深さYは、15μm〜40μmに設定することができる。
【0041】
なお、外側油溝31,33と内側油溝32,34とは、同じサイズでなくてもよい。
【0042】
以下、本発明の他の実施形態を説明する。
【0043】
(1)上記実施形態において、例えば図5に示すように、ピストン2のボス部22,23に、内側油溝32,34の溝底に開口するように径方向内外に貫通する孔からなる通路25,26,27,28を設けてもよい。
【0044】
この場合、通路25〜28からピストンピン3の内側油溝32,34にシリンダ内の潤滑油が効率よく供給されることになる。そのため、この内側油溝32,34からピストンピン3とボス部22,23のピン孔22a,23aとの嵌合面に、十分な潤滑油が供給されやすくなるので、前記嵌合面に油膜を途切れなく形成するうえでさらに有利となる。
【0045】
なお、上記同様に、図示していないが、外側油溝31,33の溝底に開口するように径方向内外に貫通する孔からなる通路を設けてもよい。
【0046】
(2)上記実施形態において、油溝31〜34の数については、ピストンピン3の強度を必要十分に確保するよう考慮すれば、特に限定されるものではない。
【0047】
(3)上記実施形態において、コネクティングロッド1の小端側円筒部11とピストンピン3との間に複数のころ5を介装しただけの簡易な構造にしているが、そこに介装する転がり軸受としてのタイプは特に限定されない。また、そのような転がり軸受を用いずに、コネクティングロッド1の小端側円筒部11にピストンピン3を直接的に挿入させてすべり接触としたものも本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係るピストンピンの一実施形態で、ピストンアッセンブリを分解して示す断面図である。
【図2】図1のピストンアッセンブリの組立状態を示しており、ピストンピンの中心軸線に沿って径方向から断面にした図である。
【図3】図1のピストンピンにおける軸方向一端側部分の上半分を断面にして示す拡大側面図である。
【図4】図2においてピストンの往復運動過程でのピストンピンの様子を示す図である。
【図5】本発明に係るピストンピンの他の実施形態で、図2に対応する図である。
【符号の説明】
【0049】
1 コネクティングロッド
11 コネクティングロッドの小端側円筒部
2 ピストン
22,23 ピストンのボス部
22a,23a ボス部のピン孔
3 ピストンピン
31,33 ピストンピンの外側油溝
32,34 ピストンピンの内側油溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンとコネクティングロッドとを連結するピストンピンであって、
その外周面において前記ピストンのボス部ピン孔の内側開口側および外側開口側に対応する場所に、それぞれ周方向に連続する油溝が設けられていることを特徴とするピストンピン。
【請求項2】
ピストンとコネクティングロッドとがピストンピンで連結されるピストンアッセンブリであって、
前記ピストンピンが、前記ピストンのボス部ピン孔にすきま嵌めにより装着され、かつ、前記ボス部ピン孔の外側開口側に装着される止め輪でもって抜け止めされており、
このピストンピンが、請求項1に記載の構成とされていることを特徴とするピストンアッセンブリ。
【請求項3】
請求項2に記載のピストンアッセンブリにおいて、前記ボス部には、シリンダ内の潤滑油を前記ピストンピンの油溝へ供給するための通路が設けられていることを特徴とするピストンアッセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−146808(P2007−146808A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−345567(P2005−345567)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】