説明

ピストンピンを製造するための方法

硬い周縁領域を有するピストンピンを製造するために、比較的安価なチル鋳造法が使用される。ピストンピンのための金型キャビティを有するチルフォームが注型用金型内に埋め込まれ、鋳鉄がチルフォームの金型キャビティ内に注入され、次いでこのプロセスによって製造されたピストンピンの周縁領域が、チルフォームによって冷却され、白色固化され、これにより、硬い耐摩耗性の表面を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は、硬い周縁領域を有するピストンピンを製造するための方法及び装置に関する。
【0002】
2.従来技術
十分に大きな硬度を有する周縁領域を有し、ベアリングシェルの使用が排除されるピストンピンを製造することが従来技術から知られている。ドイツ連邦共和国特許出願公開第19704224号明細書には、外套面が非晶質炭素の層を有する円筒状ピストンピンが記載されている。このピストンピンは、コネクティングロッドのアイとピストンのピンボスに直接に取り付けられており、摺動ベアリングシェルを回避する。
【0003】
米国特許第1742015号明細書から、ピストンピンを製造するために鋼管を収容することが知られており、この後、鋳造材料は、冷媒が供給される冷却外套を使用して急速冷却によって硬化される。
【0004】
従来技術から知られた硬化された外面を有するピストンピンを製造するための方法は、極めて複雑でかつコストが高いという欠点を有する。
【0005】
発明の概要
本発明の目的は、単純に、したがって安価に行われることができる、硬い面を有するピストンピンを製造するための方法を提供することである。
【0006】
これらの及びその他の問題は、本発明によるチル鋳造方法及び装置によって解決される。1つの態様において、少なくとも1つのピストンのための金型キャビティを有するチルフォームが注型用金型に埋め込まれる。鋳鉄がチルフォームの金型キャビティに注入される。この方法によって製造される1つ又は複数のピストンピンの周縁領域は、冷却され、硬いレデブライト構造を形成する。
【0007】
別の態様において、注型用金型が砂型である、本発明による方法を実施するための装置が提供される。実用的なさらなる発展は以下で説明される。
【0008】
図面の簡単な説明
本発明のその他の目的及び特徴は、添付の図面に関連して考慮された以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、図面は例示の目的のために設計されており、本発明の制限の定義として設計されているのではないことが理解されるべきである。
図1は、ピストンピンを製造するための、既に固化された鋳鉄で充填された、チルフォームを有する砂型の断面図である。
【0009】
図2は、2つのピストンピンを同時に製造するための、2つの半シェルから成るチルフォームの実施形態の側面図である。
【0010】
図3は、図2におけるIII−IIIに沿ったチルフォームの断面図である。
【0011】
図3Aは、チルフォームの別の実施形態の斜視図である。
【0012】
図4は、ピンの周縁領域と内部領域とにおける鋳造材料の構造を示すためのピストンピンの顕微鏡写真である。
【0013】
好適な実施形態の詳細な説明
ここで図面を詳細に見ると、図1は、ピストンピンのための金型キャビティを有する、円筒状の管の形式のチルフォーム3が埋め込まれた、円筒状のピストンピンを鋳造するための砂型1の部分を示している。この金型を用いて行われることができる鋳造方法は、チル鋳造方法と呼ばれる。
【0014】
砂型1は、固化の後の完成した鋳造ピストンピン2と共に示されており、この場合、ピストンピン2の周縁領域4は、チルフォーム3によって行われる急速冷却により白色に固化しており、周縁領域4よりもゆっくりと冷却する内部領域5は暗い色を示している。鋳造プロセスに続いて、鋳物はチルフォーム3から取り出され、この鋳物の外套面は慣用の形式で仕上げされる、すなわち鋳物は研削及び研磨される。
【0015】
顕著な炭化物組織を有するレデブライト構造は、高い冷却速度により、鋳造プロセスの範囲内で周縁領域4において形成され、この領域に高い硬度及び耐摩耗性を提供する。ピストンピン2の内部領域5は周縁領域4によって達成される硬さを有していない。より低い冷却速度により、内部領域5において、炭素が少なくとも部分的に黒鉛として存在するパーライト構造が形成されている。この黒鉛により内部領域は暗い色を示している。
【0016】
これに関連して、球状黒鉛を備えた鋳鉄が使用される。すなわち黒鉛として存在するその炭素含有量がほとんど完全に実質的に球状で存在する、鉄/炭素鋳造材料が使用される。
【0017】
このような鋳造部品は、硬い耐摩耗性表面と、コアにおける改良された延性とを有しており、したがって、衝撃及び衝撃応力をより一層吸収することができる。
【0018】
鋳鉄のこのような科学的組成の例は以下の通りである。
【0019】
材料の例(a)
炭素(C)3.4〜3.9重量%
ケイ素(Si)1.7〜2.6重量%
マンガン(Mn)0.2〜0.4重量%
リン(P)0〜0.1重量%
マグネシウム(Mg)0.03〜0.08重量%
硫黄(S)0〜0.015重量%
材料の例(b)
炭素(C)3.0〜3.8重量%
ケイ素(Si)1.2〜1.6重量%
マンガン(Mn)0.2〜1.0重量%
リン(P)0〜0.1重量%
銅(Cu)0.2〜1.0重量%
モリブデン(Mo)0.2〜0.4重量%
硫黄(S)0〜0.02重量%。
【0020】
図2は、チルフォーム6の別の実施形態を側面図で示している。チルフォーム6は、E字形の断面の2つの半シェル7及び8によって形成されており、互いに対面して配置された場合に、チルフォームによって製造される2つのピストンピンのための金型キャビティ9,10を形成する。チルフォーム6は、高い熱伝導性を備えた材料、例えばねずみ鋳鉄から形成されている。
【0021】
図3は、チルフォーム6を図2におけるIII−III線に沿って示している。
【0022】
図3Aは、E字形の2つの半シェル7′及び8′から形成されたチルフォーム6′の別の実施形態を断面図で示している。中空の円筒状のチルフォーム6′は、2つの端部14,16及び中央領域15においてウェブを有する。この構成は、ピストンピン/コネクティングロッドの接触領域を形成する中央部と、ピストンピン/ピンボスの接触領域を形成する2つの端部とにおいて硬い耐摩耗性周縁領域を備えたピストンピンを形成する。
【0023】
図4はピストンピン2の顕微鏡写真を示しており、この場合、顕微鏡写真11はピストンピンの全体的な断面図を示しており、顕微鏡写真12はピストンピン2の周縁領域の構造を示しており、顕微鏡写真13はピストンピン2の内部領域5の構造を拡大して示している。ピストンピン2の外側の白色領域4の顕微鏡写真12は、鋳物の周縁領域が急速に冷却された場合に形成されるレデブライト金属構造の炭化物組織を示している。
顕微鏡写真13は、ゆっくりとした冷却速度の結果として球状に形成された黒鉛を示している。
【0024】
本発明の幾つかの実施形態が説明されたが、添付の請求項に定義されたような発明の精神及び範囲から逸脱することなくこれらの実施形態に多くの変更を加えることができることが理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ピストンピンを製造するための、既に固化された鋳鉄で充填された、チルフォームを有する砂型の断面図である。
【図2】2つのピストンピンを同時に製造するための、2つの半シェルから成るチルフォームの実施形態の側面図である。
【図3】図2におけるIII−IIIに沿ったチルフォームの断面図である。
【図3A】チルフォームの別の実施形態の斜視図である。
【図4】ピンの周縁領域と内部領域とにおける鋳造材料の構造を示すためのピストンピンの顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0026】
1 砂型、 2 ピストンピン、 3 チルフォーム、 4 周縁領域、 5 内部領域、 6 チルフォーム、 7,8 半シェル、 9,10 金型キャビティ、 14,16 端部、 15 中央領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬い周縁領域を有するピストンピンを製造する方法において、
(a)少なくとも1つのピストンのための金型キャビティを有するチルフォームを注型用金型に埋め込み:
(b)少なくとも1つのピストンピンを形成するためにチルフォームの金型キャビティに鋳鉄を注入し;
(c)硬いレデブライト構造を形成するためにチルフォームによって少なくとも周縁領域の部分の加速された冷却を行うことを特徴とする、硬い周縁領域を有するピストンピンを製造する方法。
【請求項2】
鋳鉄が、主に球状の黒鉛を含んだノジュラー鋳鉄を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
注型用金型が砂型である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
チルフォームが円筒状の管を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
チルフォームが、第1の端部と、第2の端部と、これらの端部の間の中央領域とを有する中空の円筒体を含み、端部と中央領域とが、中央領域及び端部の周縁領域に冷却効果を集中させるためのウェブを有しており、中央領域がコネクティングロッドに対するピストンピンの接触領域を形成しており、各端部がピンボスに対するピストンピンの個々の接触領域を形成している、請求項1記載の方法。
【請求項6】
チルフォームが8の字の形状を有しており、かつ断面がE字形の2つの半部から成っている、請求項1記載の方法。
【請求項7】
硬い周縁領域を有するピストンピンを製造するための装置において、
(a)砂型と、
(b)該砂型に埋め込まれた、金型キャビティを有するチルフォームとが設けられていることを特徴とする、硬い周縁領域を有するピストンピンを製造するための装置。
【請求項8】
チルフォームが円筒状の管を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
チルフォームが、第1の端部と、第2の端部と、これらの端部の間の中央領域とを有する中空の円筒体を含み、前記端部と前記中央領域とが、冷却効果を、コネクティングロッドへのピストンピンの接触領域を形成するための中央領域の周縁領域と、ピンボスへのピストンピンの個々の接触領域をそれぞれの端部において形成するための端部の周縁領域とに集中させるためのウェブを有する、請求項7記載の装置。
【請求項10】
チルフォームが8の字の形状を有しており、かつ断面がE字形の2つの半部から成っている、請求項7記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図3A】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−534907(P2007−534907A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−509959(P2007−509959)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2005/004483
【国際公開番号】WO2005/106292
【国際公開日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(390009069)マーレ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (39)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26−46, D−70376 Stuttgart,Germany
【Fターム(参考)】