説明

ピラー下部構造

【課題】生産性の大幅な低下を招くことなくピラー下部とロッカとの結合強度を従来より向上し得るピラー下部構造を提供する。
【解決手段】ピラーリインフォース6の下部をロッカアウタリインフォース3の下面部に回り込む位置まで延長し、しかも、その延長部6aをロッカアウタリインフォース3の下面部に沿わせてスポット溶接(図1中にyで溶接箇所を示す)する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラー下部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、図2に示す如き4ドアタイプの車両においては、車両前後方向に延びるロッカ1の適宜位置から立ち上がるセンタピラー2により、前部座席側のドア開口と後部座席側のドア開口との間が区画されるようになっているが、このセンタピラー2の下部とロッカ1との結合強度は、車両側方からの衝突に対し重要な意味を持っており、特に近年における車高の高い車両が増加してきている状況下では、センタピラー2の下部とロッカ1との結合強度を従来以上に高めることが必要と考えられている。
【0003】
図3及び図4は従来のピラー下部構造の一例を示すもので、車両の前後方向の剛性を担うロッカ1は、ロッカアウタリインフォース3とロッカインナパネル4とにより中空の閉断面骨格部材として構成されており、これらロッカアウタリインフォース3とロッカインナパネル4とは、夫々の上下部に形成したフランジ同士を重ね合わせてスポット溶接することにより接合されるようになっている。
【0004】
この際、センタピラー2が立ち上がる位置では、ロッカアウタリインフォース3とロッカインナパネル4との間にピラーインナパネル5が挟み込まれて一緒にスポット溶接されるようになっている。
【0005】
また、このピラーインナパネル5の外側(車外側)には、前記ロッカアウタリインフォース3の側面部から上方に立ち上がるピラーリインフォース6が配設され、該ピラーリインフォース6と前記ピラーインナパネル5とが、夫々の両側部に形成したフランジ同士を重ね合わせてスポット溶接されることにより互いに接合されるようになっており、これによりセンタピラー2が中空の閉断面骨格部材として構成されるようになっている。
【0006】
そして、このように構成されたロッカ1及びセンタピラー2の外側には、車両前後方向に延びて前記ロッカ1の外側を覆うロッカアウタパネル7aと、該ロッカアウタパネル7aの長手方向の適宜位置で上方へ立ち上がって前記センタピラー2の外側を覆うピラーアウタパネル7bとを一体的に形成したサイドメンバ7が配設されている。
【0007】
このサイドメンバ7は、前記ロッカ1に沿って延びているロッカアウタパネル7aの上下部に形成したフランジをロッカアウタリインフォース3及びロッカインナパネル4のフランジと重ね合わせて一緒にスポット溶接され、前記センタピラー2に沿って立ち上がるピラーアウタパネル7bの両側部に形成したフランジをピラーリインフォース6及びピラーインナパネル5のフランジと重ね合わせて一緒にスポット溶接されるようになっている。
【0008】
尚、ロッカアウタリインフォース3及びロッカインナパネル4の下部のフランジにロッカアウタパネル7aの下部のフランジを重ね合わせて一緒にスポット溶接するにあたっては、該ロッカアウタパネル7aの下部のフランジとロッカインナパネル4の下部のフランジとの間に、ピラーインナパネル5の下部とロッカアウタリインフォース3の下部のフランジとを互い違いに挟み込み、何れの溶接箇所でも三枚合わせの状態となるようにしてある(四枚以上ではスポット溶接困難)。
【0009】
また、前記ピラーリインフォース6の下部とロッカアウタリインフォース3の側面部とは、サイドメンバ7が邪魔になってスポット溶接で接合を行うことができないため、前記ロッカアウタリインフォース3の側面部に穿設した溶接孔8を介し内側からアーク溶接(図4中にxで溶接箇所を示す)で接合を行うようにしてあり、ロッカ1を組み付ける前の段階でピラーリインフォース6とロッカアウタリインフォース3とが予めアッセンブリ化されることになる。
【0010】
尚、図4中における符号の9はロッカインナパネル4の上面部に溶接されて車室の床面を成すフロアパネル、10はロッカ1の下面部を回り込んでいるロッカアウタパネル7aの下部から塗装工程時の電着液を抜き出すための電着液抜出孔、11は該電着液抜出孔10を塞ぐためのホールカバーを示す。
【0011】
また、この種のピラー下部構造に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【特許文献1】特開2000−95151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、斯かる従来構造において、センタピラー2の下部とロッカ1との結合強度を高める場合、ピラーリインフォース6の下部とロッカアウタリインフォース3の側面部とのアーク溶接による接合箇所xの溶接長や溶接箇所の増加を図る必要があるが、このようなアーク溶接での対策では、その接合作業に要する時間が長くなって生産性の大幅な低下を招く虞れがあった。
【0013】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、生産性の大幅な低下を招くことなくピラー下部とロッカとの結合強度を従来より向上し得るピラー下部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ロッカアウタリインフォースの側面部に接合されて立ち上がるピラーリインフォースの下部を前記ロッカアウタリインフォースの下面部に回り込む位置まで延長し且つ該下面部に沿わせてスポット溶接したことを特徴とするピラー下部構造、に係るものである。
【0015】
而して、このようにすれば、車両側方から衝突されてピラーが内側(車室側)へ倒れようとしても、ピラーリインフォースの下部がロッカアウタリインフォースの下面部に回り込んだ位置で剪断方向に荷重を受けて強く抵抗するので、ピラーリインフォースをロッカアウタリインフォースの側面部だけに接合した場合よりもピラー下部とロッカとの結合強度が著しく向上される。
【0016】
しかも、この種のスポット溶接を追加する程度の作業は、アーク溶接で接合箇所の溶接長や溶接箇所の増加を図る場合よりも手間がかからなくて済み、ピラー下部とロッカとの結合強度を向上するにあたり、接合作業に要する時間が長くなって生産性の大幅な低下を招いてしまうような事態が回避される。
【0017】
尚、ピラーリインフォースの下部は、ロッカアウタリインフォースの下面部に回り込む位置までしか延長しておらず、このロッカアウタリインフォースの下面部に対してスポット溶接するようにしているので、ロッカアウタリインフォースやロッカインナパネル、ピラーインナパネル、サイドメンバ等の下部のフランジと一緒に四枚合わせ以上での困難なスポット溶接を行わなくて済む。
【0018】
また、本発明においては、ロッカ及びピラーの外側を覆うサイドメンバの下部に、ピラーリインフォースの下部とロッカアウタリインフォースの下面部とのスポット溶接箇所に対応させて電着液抜出孔を開口するようにしても良い。
【0019】
このようにすれば、ロッカ及びピラーの外側がサイドメンバにより覆われていても、もともと必要な電着液抜出孔を有効に利用することで新たに孔を開けずにピラーリインフォースの下部とロッカアウタリインフォースの下面部とのスポット溶接を行うことが可能となり、しかも、サイドメンバの下部に開けた電着液抜出孔は、特に下から覗き込まない限り通常視点からは見えないため、見栄えの悪化も回避することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
上記した本発明のピラー下部構造によれば、下記の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0021】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、車両側方から衝突されてピラーが内側(車室側)へ倒れようとした際に、ピラーリインフォースの下部にロッカアウタリインフォースの下面部に回り込んだ位置で剪断方向に荷重を受けさせて強く抵抗させることができ、しかも、ピラーリインフォースの下部とロッカアウタリインフォースの下面部との接合をアーク溶接より手間がかからないスポット溶接で行うことで作業時間の大幅な増加を回避することもできるので、生産性の大幅な低下を招くことなくピラー下部とロッカとの結合強度を従来より向上することができる。
【0022】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、サイドメンバの下部に新たに孔を開けずに電着液抜出孔を利用してピラーリインフォースの下部とロッカアウタリインフォースの下面部とのスポット溶接を行うことができるので、新たなスポット溶接の追加に伴うコスト増を必要最小限に抑えることができ、しかも、この電着液抜出孔は、特に下から覗き込まない限り通常視点からは見えないため、見栄えの悪化も回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、本形態例においては、前述した図4の従来構造におけるピラーリインフォース6の下部をロッカアウタリインフォース3の下面部に回り込む位置まで延長し、しかも、その延長部6aをロッカアウタリインフォース3の下面部に沿わせてスポット溶接(図1中にyで溶接箇所を示す)するようにしている。
【0025】
この際、ロッカ1及びセンタピラー2の外側を覆うサイドメンバ7の下部に、ピラーリインフォース6の下部とロッカアウタリインフォース3の下面部とのスポット溶接による溶接箇所yに対応させて電着液抜出孔10を開口させておき、この電着液抜出孔10を利用してピラーリインフォース6の下部とロッカアウタリインフォース3の下面部とのスポット溶接を行い得るようにしておくと良い。
【0026】
また、ここに図示している例では、ロッカアウタリインフォース3の内側(車室側)に補強プレート12が追加されており、ピラーリインフォース6の下部とロッカアウタリインフォース3の下面部とのスポット溶接の際に三枚合わせで一緒に接合されるようになっており、しかも、この補強プレート12は、ピラーリインフォース6がロッカアウタリインフォース3の側面部に対しアーク溶接されている位置で同じように溶接孔13を介してアーク溶接(図1中にx’で溶接箇所を示す)されるようにもなっている。
【0027】
而して、このようにすれば、車両側方から衝突されてセンタピラー2が内側(車室側)へ倒れようとしても、ピラーリインフォース6の下部がロッカアウタリインフォース3の下面部に回り込んだ位置で剪断方向に荷重を受けて強く抵抗するので、ピラーリインフォース6をロッカアウタリインフォース3の側面部だけに接合した場合よりもセンタピラー2の下部とロッカ1との結合強度が著しく向上されることになり、しかも、この種のスポット溶接を追加する程度の作業は、アーク溶接で接合箇所の溶接長や溶接箇所の増加を図る場合よりも手間がかからなくて済み、センタピラー2の下部とロッカ1との結合強度を向上するにあたり、接合作業に要する時間が長くなって生産性の大幅な低下を招いてしまうような事態が回避されることになる。
【0028】
更に、ピラーリインフォース6の延長部6aは、ロッカアウタリインフォース3の下面部に回り込んだ形状となっているため、センタピラー2の倒れ等の変形に対してロッカアウタリインフォース3により形状的に変形が拘束されることになる。
【0029】
尚、ピラーリインフォース6の下部は、ロッカアウタリインフォース3の下面部に回り込む位置までしか延長しておらず、このロッカアウタリインフォース3の下面部に対してスポット溶接するようにしているので、ロッカアウタリインフォース3やロッカインナパネル4、ピラーインナパネル5、サイドメンバ7等の下部のフランジと一緒に四枚合わせ以上での困難なスポット溶接を行わなくて済む。
【0030】
また、特に本形態例においては、ロッカ1及びセンタピラー2の外側を覆うサイドメンバ7の下部に、ピラーリインフォース6の下部とロッカアウタリインフォース3の下面部とのスポット溶接による溶接箇所yに対応させて電着液抜出孔10を開口するようにしているので、ロッカ1及びセンタピラー2の外側がサイドメンバ7により覆われていても、もともと必要な電着液抜出孔10を有効に利用することで新たに孔を開けずにピラーリインフォース6の下部とロッカアウタリインフォース3の下面部とのスポット溶接を行うことが可能となり、しかも、サイドメンバ7の下部に開けた電着液抜出孔10は、特に下から覗き込まない限り通常視点からは見えないため、見栄えの悪化も回避することが可能となる。
【0031】
従って、上記形態例によれば、車両側方から衝突されてセンタピラー2が内側(車室側)へ倒れようとした際に、ピラーリインフォース6の下部にロッカアウタリインフォース3の下面部に回り込んだ位置で剪断方向に荷重を受けさせて強く抵抗させることができ、しかも、ピラーリインフォース6の下部とロッカアウタリインフォース3の下面部との接合をアーク溶接より手間がかからないスポット溶接で行うことで作業時間の大幅な増加を回避することもできるので、生産性の大幅な低下を招くことなくセンタピラー2の下部とロッカ1との結合強度を従来より向上することができる。
【0032】
また、サイドメンバ7の下部に新たに孔を開けずに電着液抜出孔10を利用してピラーリインフォース6の下部とロッカアウタリインフォース3の下面部とのスポット溶接を行うことができるので、新たなスポット溶接の追加に伴うコスト増を必要最小限に抑えることができ、しかも、この電着液抜出孔10は、特に下から覗き込まない限り通常視点からは見えないため、見栄えの悪化も回避することができる。
【0033】
尚、本発明のピラー下部構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、4ドアタイプの車両のセンタピラーに適用することに限定されないこと、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す断面図である。
【図2】4ドアタイプの車両のセンタピラーを示す斜視図である。
【図3】従来例を示す斜視図である。
【図4】図3のIV−IV矢視の断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 ロッカ
2 センタピラー(ピラー)
3 ロッカアウタリインフォース
6 ピラーリインフォース
6a 延長部
7 サイドメンバ
9 フロアパネル
10 電着液抜出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッカアウタリインフォースの側面部に接合されて立ち上がるピラーリインフォースの下部を前記ロッカアウタリインフォースの下面部に回り込む位置まで延長し且つ該下面部に沿わせてスポット溶接したことを特徴とするピラー下部構造。
【請求項2】
ロッカ及びピラーの外側を覆うサイドメンバの下部に、ピラーリインフォースの下部とロッカアウタリインフォースの下面部とのスポット溶接箇所に対応させて電着液抜出孔を開口したことを特徴とする請求項1に記載のピラー下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−239026(P2008−239026A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84420(P2007−84420)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】