説明

ピルビン酸の製造方法

【課題】 従来のピルビン酸の製造方法の改善し、新しい微生物を利用した、より効率的なビルビン酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、ミクロバクテリウム属に属するピルビン酸生産菌を好気的条件下で培養し、培養液中に放出されるピルビン酸を採取することを特徴とする、ピルビン酸の製造方法である。ピルビン酸生産菌としては、ミクロバクテリウムT−595またはミクロバクテリウムT-596等が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しい微生物を利用したピルビン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピルビン酸は解糖系で生じる中間代謝産物であり、生体細胞の中では、糖代謝、アミノ酸代謝において重要な役割を果たしており、細胞に対して代謝促進物質として作用することが知られている。また、工業的には、アラニン、チロシン等の各種のアミノ酸の製造原料として、さらには医薬品、農薬、香料などの製造の中間原料として広い用途を有している。従って、ピルビン酸を安価に製造することができれば、種々の合成原料として、また代謝促進物質として有用である。
【0003】
従来から、微生物を利用してピルビン酸を製造する方法としては、例えば、サッカロミセス属、キャンディダ属、トルロプシス属、ハンゼヌラ属などの微生物(酵母)を用いて、炭素源として炭水化物(糖類)を原料として発酵法によりピルビン酸を製造する方法が提案されていた(例えば、特許文献1乃至4参照)。また、細菌を用いる方法として、ペヂオコッカス属またはアエロコッカス属の微生物を用いてピルビン酸を製造する方法が提案されていた(例えば、特許文献5参照)。遺伝子工学的手法を用いて得られた多くの細菌に、好気的条件下で培養を行いピルビン酸を製造する方法も提案されている(例えば、特許文献6参照)。
しかし、これらのうちの酵母を用いる方法では嫌気的条件下で数日間という長い時間をかけて発酵させる必要があり、製造に長い時間を必要とし、生産効率が悪いという問題があった。また、遺伝子工学的手法を用いる方法では、使用する細菌が時間を経過するとともに弱体化し、生産能力が低下するという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特公昭51−34475号公報
【特許文献2】特公平3−5800号公報
【特許文献3】特公平3−58275号公報
【特許文献4】特開平6−91号公報
【特許文献5】特開昭61−227789号公報
【特許文献6】特表2002−511250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような従来からの方法によるピルビン酸の製造方法を改善し、新しい微生物を利用して、より効率よく多量のビルビン酸を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行い、種々の微生物分離源から入手した微生物を用いて検討した結果、食品工場の工場排水の処理を行なう活性汚泥の中から得たある種の細菌を培養することによって高い生産効率でピルビン酸を製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、以下の内容をその要旨とするものである。
(1)ミクロバクテリウム属に属するピルビン酸生産菌を好気的条件下で培養し、培養液中に放出されたピルビン酸を採取することを特徴とする、ピルビン酸の製造方法。
(2)ピルビン酸生産菌が、ミクロバクテリウムT-595またはミクロバクテリウムT-596であることを特徴とする、前記(1)に記載のピルビン酸の製造方法。
(3)グルコースを含む培養液を用いて前記ピルビン酸生産菌を生産することを特徴とする、前記(1)または(2)に記載のピルビン酸の製造方法。
(4)培養液組成が、グルコース1質量部に対して、ペプトン0.3〜0.6質量部、酵母抽出物0.3〜0.6質量部であることを特徴とする、前記(1)乃至(3)に記載のピルビン酸の製造方法。
(5)ピルビン酸生産菌として、一定期間栄養源の有機物を与えない状態を経過した細胞(定常期細胞)の細菌を用い、この細菌に対してグルコースを添加しピルビン酸を生産させることを特徴とする、前記(1)乃至(4)に記載のピルビン酸の製造方法。
(6)ピルビン酸生産菌としての定常期細胞の細菌に、ペプトンと酵母抽出物を添加して細菌量を増加させ、次いでグルコースを添加してピルビン酸の生産を行なうことを特徴とする、前記(1)乃至(5)のいずれかに記載のピルビン酸の製造方法。
(7)ピルビン酸生産菌としての定常期細胞の細菌に、ペプトンと酵母抽出物を添加して培養し、次いでグルコースを添加してピルビン酸の生産を行なう操作を2回以上繰り返すことを特徴とする、前記(1)乃至(6)のいずれかに記載のピルビン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
自然界から分離したミクロバクテリウム属に属するピルビン酸生産菌を用いて、これをグルコースを主体とする培養基質で培養することにより、従来の種々の微生物を用いた方法に比べて、ピルビン酸を短い時間で多量に生産することができ、非常に高い効率でピルビン酸を製造することができる。即ち、グルコースを主体とする培養基質を用いてこれらの菌を培養することにより、添加グルコースの20%を超える量の代謝生産物としてのピルビン酸を短い時間で生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
活性汚泥にグルコースを主体とする有機物を加えて長期間培養するとある種の代謝廃物を放出する。本発明者は、食品製造工場の排水を処理する活性汚泥を入手し、この活性汚泥に対して、毎日、一日あたり微生物濃度(g)あたり回分法によるBOD負荷が0.3gになるようにグルコースを含む有機物を添加する操作を繰り返し、ほぼ1年間にわたり微生物の馴致培養を行なった。そして、ここで放出される代謝廃物中に著量のピルビン酸が存在していることを見出し、この活性汚泥からピルビン酸生産能の高い細菌としてミクロバクテリウム属に属する微生物2株を分離し、この微生物をそれぞれミクロバクテリウムT−595、およびミクロバクテリウムT−596と命名した。ミクロバクテリウム属に属する微生物が著量のピルビン酸を放出することはこれまで知られていなかった。
【0010】
本発明に用いられる微生物は、ピルビン酸生産能を有する細菌であり、かつミクロバクテリウム属(Microbacterium sp)に属する微生物であればいかなるものであってもよい。このような本発明に好適に用いられるピルビン酸生産菌として、ミクロバクテリウムT−595、ミクロバクテリウムT−596を見出したものであるが、これ以外にも、例えばミクロバクテリウム パラオキシダンス CF36(Microbacterium Paraoxydans)、ミクロバクテリウム ルテオラム(Microbacterium Luteolum)等のミクロバクテリウム属の微生物を挙げることができる。
これらのピルビン酸生産菌のうちでミクロバクテリウムT−595株を、2005年3月10日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)へ寄託した。その寄託の受領番号は、FERM AP−20456である。また、ミクロバクテリウムT−596株は、16SrDNA相同性解析や菌学的諸性質を調べたところミクロバクテリウムT−595株とほとんど同じ性質を有する細菌であった。
【0011】
本発明の方法によれば、上記したようなミクロバクテリウム属に属するピルビン酸生産菌を好気的条件下で培養し、培養液中に放出された代謝生産物を分離・採取することによって、ピルビン酸を生産することができるものである。
【0012】
この微生物の培養には、菌株等を適当な炭素源、窒素源、無機塩類、有機促進物質等を含む栄養培地で、好気的条件下でに培養すればよく、振とう培養法、通気攪拌培養法等を採用すればよい。炭素源として例えば、グルコース、シュクロース、ガラクトース、でんぷん等の糖類、コハク酸、クエン酸等の有機酸、エタノール、マンニトール等のアルコール類を単独または混合して使用すればよく、特にグルコースを使用することが好ましい。窒素源としては、例えば硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム等の無機窒素源、尿素、ペプトン、肉エキス、酵母エキス等の有機窒素源を単独または混合して使用すればよく、特にペプトンを添加するとピルビン酸の生産量の増加が大きく好ましい。また、無機塩類としては、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン等が用いられ、さらに必要に応じてチアミン、ビオチンなどのビタミン類またはこれらを含有する酵母抽出物等を添加すればよい。
【0013】
これらのうちで好ましい基本培養液としては、グルコース1質量部に対して、ペプトン0.3〜0.6質量部、酵母抽出物0.3〜0.6質量部であり、最も典型的にはグルコース1質量部に対して、ペプトンが0.4〜0.5質量部、酵母抽出物が0.4〜0.5質量部のものが使用できる。
【0014】
培養温度は、20〜30℃であり、25℃付近が特に好ましい。pHは、6〜8の範囲で培養可能あり、中性付近が特に好ましい。培養が進行すると培地中にピルビン酸が蓄積するため、pHが下がり、ピルビン酸の生産効率が低下する。このため炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基性物質を添加し、或いはリン酸カルシウム緩衝液を用いて、好ましいpHに調節するとよい。
【0015】
培養終了後、培養液を遠心分離して菌体と上澄液とに分離し、培養液中に放出されたピルビン酸を加熱減圧蒸発等により濃縮することによって、ピルビン酸を得ることができる。
【0016】
本発明の方法によってピルビン酸を製造する場合には、ピルビン酸生産菌を栄養培地で培養した後、菌体を例えば数時間〜数日程度の一定期間、栄養成分であるグルコースなどの有機物質を与えることなく通気攪拌等を継続して、細胞が栄養分の欠乏した状態(このような状態の細胞を「定常期細胞」という)とした後、再び適量のグルコースのみを添加してピルビン酸を生産する。その後、この細菌に対してペプトンと酵母抽出物を添加して細菌を増殖させる。このような方法を数回繰り返して培養することが好ましい。この方法によって、同じピルビン酸生産菌であってもピルビン酸の生産量を指数増殖期に比べて消費グルコース当たり1.5〜2倍に増加させることができる。また、このような方法によって生産されたピルビン酸は、その他の有機酸を殆ど含有しないので、ピルビン酸の精製工程を簡略化することができる。
【0017】
従来のピルビン酸の製造方法としては酵母を用いて嫌気的に培養する方法が知られており、グルコースに対するピルビン酸の収率は50%程度であるが、3〜5日という長い培養期間を必要としている。さらに、これらの方法ではピルビン酸とともに多量のその他の有機酸も生成してしまい、高純度のピルビン酸の入手が困難であったり、精製のためのコストがかさむという問題がある。
一方、本発明の方法によれば、2日間という比較的短い培養期間で、ピルビン酸の収率がグルコース消費量に対して20〜25%を達成することができ、さらに上述の定常期細胞に対してのグルコースのみを添加するという処理操作を取り入れることによりピルビン酸の収率を30〜40%とすることができる。さらに、本発明の方法、即ち、定常期細胞にグルコースのみを添加する方法では、数時間程度という短期間の培養でピルビン酸を製造することができる。なお、この方法においては、その他の有機酸の生成量が極めて少なく、容易に高純度のピルビン酸を得ることができる。
【0018】
次に、以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。尚、各実施例中「%」は特に注記しない限り質量基準である。
【実施例1】
【0019】
(1) ピルビン酸生産菌の取得
食品工場の排水処理設備から入手した活性汚泥を用い、グルコース:ペプトン:酵母抽出物(2:1:1)の培養液によって、1年間の間毎日馴致培養を行なった。
この活性汚泥の混合液10mLを滅菌したトリポリリン酸ナトリウム(5mg/L)を含む生理食塩水40mLと混合し、5分間ホモジナイザーで処理した。その1mLを24mLの同上の滅菌した生理食塩水と混合し、さらに10分間ホモジナイザー処理し、活性汚泥フロックを分散した。得られた懸濁液を同上の滅菌した生理食塩水で10倍ずつ希釈し、希釈液0.1mLを人工下水寒天培地平板に塗沫し、20℃で10日間培養した。人工下水寒天培地の組成は、グルコース1g/L、ペプトン0.5g/L、酵母エキス0.5g/L、活性汚泥抽出液200mL/L(pH7)である。
寒天培地平板に出現したコロニーから、色、形状の異なる約10個を選び、人工下水寒天培地平板に画線培養をくり返し、純粋培養を得た。液体人工下水培地に0.2%ブロムチモールブルー溶液を12mL/L加えた培地をL字管に入れ、単離菌を接種して20℃で培養した。培養液の黄変により、酸生成が認められた培養液を遠心して菌体を除去し、上清を有機酸分析に供した。これらの中から著量のピルビン酸の生成が認められた菌株を2株単離し、ピルビン酸生産菌とした。
【0020】
(2) 入手ピルビン酸生産菌の相同性解析
この活性汚泥から分離した2株のピルビン酸生産菌を、16SリボソームDNAの1500塩基の塩基配列の相同性解析により相同性検索を、Micro Seqデータベースおよび国際塩基配列データベースによって行なった。その結果、この2株ともミクロバクテリウム パラオキシダンスCF36(Microbacterium paraoxydans CF36)とミクロバクテリウム ルテオラム(Microbacterium luteolum)に対して、それぞれ99.5%と98.8%という高い相同性を示した。従って、上記の活性汚泥から分離した2つの菌株がコリネフォームバクテリア(Coryneform Bacteria)の一群であるミクロバクテリウム属に属する細菌であると判断し、それぞれミクロバクテリウムT−595とミクロバクテリウムT−596と命名した。
【0021】
(3) ピルビン酸生産菌の菌学的性質
以上のようにして得たミクロバクテリウムT−595の菌学的性質を以下に示す。
(a)形態的性質
細胞の形及び大きさ:桿菌、0.5μm×(0.6−1.0)μm
運動性の有無: 無
胞子の有無: 無
(b)培養的性質
Nutrient Agar培養:クリーム色の表面が滑らかな円形でレンズ状に隆起したコロニ
ーを形成する。透明度は半透明、粘ちょう度はバター様である

(c)生理学的性質
グラム染色: 陽性
硝酸塩還元: 陰性
好気条件での生育: 陽性
嫌気条件での生育: 陰性
酸/ガス産生: 陰性/陰性
OFテスト(グルコース):陰性/陰性
生化学試験:
カタラーゼ: +
オキシダーゼ: −
ピラジナミダーゼ: +
ピロリドニルアリルアミダーゼ:−
アルカリフォスファターゼ: +
β−グルクロニターゼ: −
β−ガラクトシダーゼ: +
α−グルコシダーゼ: +
N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ:+
エスクリン(β−グルコシダーゼ):+
ウレア−ゼ: −
ゼラチン加水分解: +
糖類の発酵性:
ブドウ糖 −
リボース −
キシロース −
マンニトール −
マルトース −
乳糖 −
白糖 −
グリコーゲン −
以上の菌学的性質も、ミクロバクテリウムT−595がコリネフォームバクテリア(Coryneform Bacteria)の一群であるミクロバクテリウム属の細菌の特徴を示している。また、ミクロバクテリウムT−596も上記の菌学的性質に非常に類似した性質を有する細菌であった。
【0022】
(4) ピルビン酸の好気的発酵生産
ピルビン酸を生産するための培養液として、次の組成の基本培養液を用いた。
基本培養液:
pH緩衝液(KHPO:0.6g、NaPO:1.35g)
ペプトン 0.8g
酵母抽出物 0.8g
この基本培養液を蒸留水1Lに、またグルコース2gを蒸留水0.1Lに溶かし、120℃で20分間オートクレーブで滅菌した。500mLの坂口フラスコに基本培養液を180mLとグルコース溶液を20mL入れ、上記(2)で分離・入手したピルビン酸生産菌2株(T−595、T−596)をそれぞれスラントから植種し、振とう培養器にて20℃の温度で2日間好気的条件下で振とう培養を行ない増殖させた。
【0023】
培養終了後、それぞれの培養液を遠心分離(8000回転/分、20分、20℃)して、上澄液中に放出された有機酸を、順相有機酸分析用カラムを備えた高速液体クロマトグラフィーで分析した。その結果、この有機酸はピルビン酸の標準液と同じ保持時間にピークが現れた。好気条件下でピルビン酸を放出する細菌は非常に少ないので、放出された有機酸がピルビン酸であることを確認するため為、逆相有機酸分析用カラムを備えた高速液体クロマトグラフィーで分析した。この場合も、放出された有機酸はピルビン酸の標準液と同じ保持時間にピークが現れた。この両操作により放出された有機酸はピルビン酸であることが確認された。上澄液中のピルビン酸の濃度の測定結果から、得られたピルビン酸の生産量は、グルコース消費量に対してT−595株は22%、またT−596株は20%であった。
【0024】
(5) 定常期細胞の菌株によるピルビン酸の生産
上記の(4)の操作で得られた培養液に対して、2日後と4日後に、基本培養液を30mLとグルコース液3mLを添加した。翌日、この溶液を2分割し、遠心分離(8000回転/分、20分、20℃)にかけ、細菌を沈殿させ、上澄液を廃棄した。遠心容器に残った細菌に対して、一方はpH緩衝液95mLとグルコース溶液を5mL入れ、他方にはpH緩衝液85mLとグルコース液を15mL入れ、振とう培養器にて20℃の温度で1日間好気的条件下で振とう培養を行った。
【0025】
グルコース液を5mL入れた実験では、グルコース濃度はほぼ直線的に減少し実験開始後8時間で零となった。一方ピルビン酸量は直線的に増加した。この実験では、グルコース消費量に対して、T−595株は37%とT−596株は27%のピルビン酸を生産した。グルコース液を15mL入れたグルコース濃度の高い実験においても、グルコース消費量とピルビン酸生産量はグルコース濃度の低い場合とほぼ同一であった。この生産量は指数増殖期におけるピルビン酸生産量の1.7倍(T−595株)である。なお、この実験においては、他の有機酸の生産量は指数増殖期に比べて著しく減少していた。従って、定常期細胞におけるピルビン酸製造の方が、指数増殖期の場合より、ピルビン酸の精製工程が簡略化されることになる。
【0026】
(6) 繰り返し培養によるピルビン酸の生産
上記の(5)の操作で得られた培養液を遠心分離機にかけ(8000回転/分、20分、20℃)、ピルビン酸生産菌を分離した。グルコース液を5mL入れた実験では、基本培地を45mL添加し、55mLのpH緩衝液を添加した。20℃で一晩好気的条件下で振とう培養を行なったところ、ピルビン酸生産菌はもとの定常期の生理状態に回復したようである。そこで、培養液を遠心分離した後、グルコース5mLとpH緩衝液95mL添加し、20℃で8時間、好気的条件下で振とう培養を行なったところ、グルコースは約7時間で消失した。グルコース消費量に対して、T−595株は38%のピルビン酸を生産した。この操作を繰り返しているとピルビン酸生産菌の濃度が増加するので、より短い時間でピルビン酸を生産することが推定できる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により、細胞の代謝促進物質として、また、工業的には、アラニン、チロシン等の各種のアミノ酸の製造原料や、医薬品、農薬、香料などの製造の中間原料として有用なピルビン酸を効率よく製造することができ、このような産業分野への利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロバクテリウム属に属するピルビン酸生産菌を好気的条件下で培養し、培養液中に放出されたピルビン酸を採取することを特徴とする、ピルビン酸の製造方法。
【請求項2】
ピルビン酸生産菌が、ミクロバクテリウムT-595またはミクロバクテリウムT-596であることを特徴とする、請求項1に記載のピルビン酸の製造方法。
【請求項3】
グルコースを含む培養液を用いて前記ピルビン酸生産菌を培養することを特徴とする、請求項1または2に記載のピルビン酸の製造方法。
【請求項4】
培養液組成が、グルコース1質量部に対して、ペプトン0.3〜0.6質量部、酵母抽出物0.3〜0.6質量部であることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載のピルビン酸の製造方法。
【請求項5】
ピルビン酸生産菌として、一定期間栄養源の有機物を与えない状態を経過した細胞(定常期細胞)の細菌を用い、この細菌に対してグルコースを添加しピルビン酸を生産させることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載のピルビン酸の製造方法。
【請求項6】
ピルビン酸生産菌としての定常期細胞の細菌に、ペプトンと酵母抽出物を添加して培養を行い細菌量を増加させ、次いでグルコースを添加してピルビン酸の生産を行なうことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載のピルビン酸の製造方法。
【請求項7】
ピルビン酸生産菌としての定常期細胞の細菌に、ペプトンと酵母抽出物を添加して培養し、次いでグルコースを添加してピルビン酸の生産を行なう操作を2回以上繰り返すことを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載のピルビン酸の製造方法。

【公開番号】特開2006−254863(P2006−254863A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79923(P2005−79923)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】