説明

ピレン誘導体の製造方法

【課題】溶媒そのものの反応性が低くかつ穏便な条件でピレン誘導体のモノハロゲン化、及びジハロゲン化反応を行う方法の提供。
【解決手段】ハロゲン化剤としてハロゲン化スクシンイミドを使用し、テトラヒドロフランを除く有機溶媒(例えば、メチルエチルケトン、2−メチルテトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなど)中でt−ブチル基を有するピレン誘導体に反応させるピレン誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピレン誘導体の製造方法に関し、特にモノハロゲン化、及びジハロゲン化反応を選択的に行う条件に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピレン誘導体のハロゲン化は古くから行われており、例えば、ピレン誘導体をジクロロメタン溶媒中、−78℃下、臭素等のハロゲン単体と反応させ、モノブロモピレン誘導体やジブロモピレン誘導体を得る方法が知られている(例えば、非特許文献1〜2参照)。しかしながら、これらの方法は反応温度が−78℃という超低温であることにより、工業的に実施するのは困難であり、かつ、臭素等のハロゲン単体は毒性が高く、取り扱いが困難である。また、ベンジルトリメチルアンモニウムトリブロミド等の特殊なハロゲン化剤を用いて、モノブロモピレン誘導体やジブロモピレン誘導体を得る方法が知られている(例えば、非特許文献3参照)。しかしながら、そのような特殊なハロゲン化剤は、N−ハロゲン化スクシンイミドのような一般的なハロゲン化剤と比べ非常に高価であり、工業的に実施するのはコスト面で困難である。
【0003】
また、テトラヒドロフラン溶媒中でN−ハロゲン化スクシンイミドのような一般的なハロゲン化剤を用いて、モノブロモピレン誘導体やジブロモピレン誘導体を得る方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2010/113743号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Angew.Chem. Int.Ed. 2008, 47, 10175
【非特許文献2】Adv. Mater. 2010, 22, 990
【非特許文献3】J.Chem.Res, 2006, 12, 762
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、テトラヒドロフランは反応性がかなり高い溶媒であり、ハロゲン化水素等などの影響でエーテル結合が開裂し、副生成物が生じることがあるという問題があった。また、過酸化物を生成しやすい溶媒であるため、濃縮等を行った場合、爆発等の危険があり、特に大量に使用する場合に安全性の問題があった。本発明は、溶媒そのものの反応性が低くかつ穏便な条件でピレン誘導体のモノハロゲン化、及びジハロゲン化反応を行うことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、一般式(1)で表されるピレン誘導体を製造する方法であって、一般式(2)で表されるピレン誘導体と一般式(3)で表されるハロゲン化スクシンイミドを、テトラヒドロフランを除く有機溶媒中で反応させることを特徴とするピレン誘導体の製造方法である。
【0008】
【化1】

【0009】
(R〜Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)Rからなる群より選ばれる。RおよびRはアリール基またはヘテロアリール基であり、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Aは水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリール基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基およびハロゲンからなる群より選ばれる。Bはアルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基およびハロゲンからなる群より選ばれる。Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶媒そのものの反応性が低くかつ穏便な条件でピレン誘導体のモノハロゲン化、及びジハロゲン化を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第一は、一般式(2)で表されるピレン誘導体のモノハロゲン化反応に関する。すなわち、一般式(2)で表されるピレン誘導体と一般式(3)で表されるハロゲン化スクシンイミドを、テトラヒドロフランを除く有機溶媒中で反応させて、一般式(1)で表されるピレン誘導体を製造する方法である。
【0012】
【化2】

【0013】
一般式(1)におけるR〜Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)Rからなる群より選ばれる。RおよびRはアリール基またはヘテロアリール基であり、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
【0014】
これらの置換基のうち、水素は重水素であってもよい。アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。置換されている場合の追加の置換基には特に制限は無く、例えば、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、この点は、以下の記載にも共通する。また、アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、通常1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0015】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル、シクロヘキシル、ノルボルニル、アダマンチルなどの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキル基部分の炭素数は特に限定されないが、通常、3以上20以下の範囲である。
【0016】
複素環基とは、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの炭素以外の原子を環内に有する脂肪族環を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。複素環基の炭素数は特に限定されないが、通常、2以上20以下の範囲である。
【0017】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、通常、2〜20の範囲である。
【0018】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。
【0019】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、通常、2以上20以下の範囲である。
【0020】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、この脂肪族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、通常、1以上20以下の範囲である。
【0021】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、通常、1以上20以下の範囲である。
【0022】
アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介した芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、通常、6以上40以下の範囲である。
【0023】
アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールエーテル基における芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、通常、6以上40以下の範囲である。
【0024】
アリール基とは、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、ターフェニル基、ピレニル基などの芳香族炭化水素基を示す。アリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリール基の炭素数は特に限定されないが、通常、6〜40の範囲である。
【0025】
ヘテロアリール基とは、フラニル基、チオフェニル基、ピリジル基、キノリニル基、ピラジニル基、ナフチリジル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基などの炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、通常、2〜30の範囲である。
【0026】
ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を示す。カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基は、置換基を有していても有していなくてもよく、置換基としては例えばアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられ、これら置換基はさらに置換されてもよい。
【0027】
シリル基とは、例えば、トリメチルシリル基などのケイ素原子への結合を有する官能基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、通常、3〜20の範囲である。また、ケイ素数は、通常、1〜6である。
【0028】
隣接する置換基同士で環を形成する場合、任意の隣接2置換基(例えば一般式(1)のRとR)が互いに結合して共役または非共役の縮合環を形成できる。縮合環の構成元素として、炭素以外にも窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素原子を含んでいてもよいし、さらに別の環と縮合してもよい。
【0029】
一般式(1)および(2)におけるAは水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリール基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基およびハロゲンからなる群より選ばれる。中でも、水素、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基およびハロゲンからなる群より選ばれることが好ましい。
【0030】
一般式(1)および(2)におけるBはアルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基およびハロゲンからなる群より選ばれる。中でも、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基およびヘテロアリール基からなる群より選ばれることが好ましい。また、アルキル基の中でもt−ブチル基が好ましい。Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。
【0031】
一般式(2)で表されるピレン誘導体は例えば次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、一般式(1)で表されるピレン誘導体はこれらがモノハロゲン化されたピレン誘導体である。
【0032】
【化3】

【0033】
【化4】

【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
上記の式中、Meはメチル基、Etはエチル基、Prはn−プロピル基、Brはn−ブチル基、Brはt−ブチル基を表す。
【0043】
また、本発明の第二は、一般式(5)で表されるピレン誘導体のジブロモ化反応に関する。すなわち、一般式(5)で表されるピレン誘導体と一般式(6)で表されるハロゲン化スクシンイミドを、テトラヒドロフランを除く有機溶媒中で反応させて、一般式(4)で表されるピレン誘導体を製造する方法である。
【0044】
【化13】

【0045】
一般式(4)で表されるR11〜R17はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R1819からなる群より選ばれる。R18およびR19はアリール基またはヘテロアリール基であり、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。
【0046】
Bはアルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基およびハロゲンからなる群より選ばれる。Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。
【0047】
これらの置換基の説明は一般式(1)の場合と同様である。
【0048】
一般式(5)で表されるピレン誘導体は例えば次のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、一般式(4)で表されるピレン誘導体はこれらがジハロゲン化されたピレン誘導体である。
【0049】
【化14】

【0050】
本発明の製造方法において用いられるハロゲン化スクシンイミドとしては、N−ブロモスクシンイミド、N−クロロスクシンイミド、N−ヨードスクシンイミドを例示することができる。これらは、目的とするハロゲン種に応じて選択することができる。ハロゲン化スクシンイミドの使用量は出発物質であるピレン誘導体に対して、モノハロゲン化の場合、0.5〜2当量が好ましく、ジハロゲン化の場合、1.5〜4当量が好ましい。
【0051】
反応工程に使用する溶媒は、溶媒そのものの反応性が低く、かつ穏便な条件で反応を行うことが可能なものであることが要求される。したがって、テトラヒドロフランのように、溶媒そのものの反応性が高く、かつ過酸化物を生成しやすく、安全性の問題がある溶媒は好ましくない。
【0052】
本発明においては、ケトン系、エーテル系(ただしテトラヒドロフランを除く)、ニトリル系、カルボン酸系またはハロゲン系の溶媒であることが好ましい。ケトン系の溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。エーテル系の溶媒としては、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。ニトリル系の溶媒としては、アセトニトリルなどが挙げられる。カルボン酸系の溶媒としては、酢酸などが挙げられる。ハロゲン系の溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などが挙げられる。なお、これらは例示であり、これらに限られるものではない。
【0053】
これらの中でも、反応終了後の抽出工程において、疎水性の高い溶媒を加えることなく、そのまま抽出することができる溶媒であることから、通常、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などが好ましく用いられるが、これらに限られない。さらに環境負荷を低減する観点から、ハロゲンを含まない溶媒を用いることが好ましい。
【0054】
本発明において、用いられる溶媒を選択すると、ハロゲン化の位置選択性が向上する。一般に、一般式(2)や(5)で表されるような、7位(Bが置換している位置)に置換基を有するピレン誘導体をモノハロゲン化する場合、ハロゲンの導入位置候補としては、ピレンの1位または3位の他、4位、5位、9位、10位が挙げられる。ピレン骨格の活性およびBで表される置換基の存在による立体選択性から、これらの位置が優先的に反応するためである。ジハロゲン化の場合は、前記の候補のうち任意の2ヶ所が選ばれる。
【0055】
これに対し、特定の溶媒を用いると、一般式(2)で表されるピレン誘導体から一般式(1)で表されるピレン誘導体が得られる割合、および一般式(5)で表されるピレン誘導体から一般式(4)で表されるピレン誘導体が得られる割合が大きくなる。そのような溶媒の具体例として、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0056】
上記溶媒の使用量としては原料のピレン誘導体に対して、0.5〜50倍重量、好ましくは1〜10倍重量である。これらの溶媒は単独または2種以上を混合して使用してもよい。
【0057】
反応を促進させる等の目的で、反応液にハロゲン化剤以外の成分を添加しても良い。この目的の例としては、酢酸やトリフルオロ酢酸のようなプロトン酸、AlCl、FeCl、ZrClなどのルイス酸が挙げられる。反応温度は使用している溶媒が液体である範囲であれば特に制限はないが、通常−20℃〜150℃以下の範囲好ましく、更に好ましくは0℃〜120℃の範囲である。反応時間は目的のピレン誘導体の収率が最大になるように設定されるが、通常は0.5時間から12時間が好ましい。
【0058】
本発明の製造方法の具体的な手順に特に制限はないが、例えば一般式(2)や(5)で表されるピレン誘導体を溶媒に溶解もしくは分散した後にハロゲン化剤を添加する方法、もしくは、ハロゲン化剤を溶解させた溶液に一般式(2)や(5)で表されるピレン誘導体を添加する方法などにより行われる。
【0059】
反応の圧力は特に限定されないが、通常1気圧の空気中や不活性ガス下で行われる。反応後は抽出や再沈殿などの方法を用いて目的のピレン誘導体を単離する。
【0060】
本発明の製造方法により得られるピレン誘導体は、さらにハロゲンを他の置換基により置換することにより、さらなる誘導化を行うことができる。誘導化の具体例としては、例えば、一般式(1)または(4)で表されるピレン誘導体を、パラジウムやニッケル触媒下で芳香族ボロン酸や芳香族ボロン酸エステルと反応させることにより、ハロゲンを芳香族基に置換することができる。そのような反応の例は国際公開WO2007/29798や国際公開WO2010/113743に記載されており、これらに記載されたようなピレン誘導体、例えば一般式(1)または(4)で表されるピレン誘導体におけるハロゲンがアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などで置換されたものを得ることができる。具体的には、WO2007/29798の化合物168〜228、266〜267、331〜357などや、WO2010/113743の化3〜化14に記載された化合物などである。また、一般式(1)または(4)で表されるピレン誘導体を、マグネシウムやアルキルリチウムと反応させた後にトリアルキルボレートを作用させたり、パラジウムやニッケル触媒下でボロンやジボロンを作用させたりすることにより、ハロゲンをホウ酸基またはホウ酸エステル基に置換することができる。
【0061】
このようにして得られるピレン誘導体は、農薬、医薬品、抗菌剤および顔料や、色素材料、蛍光材料およびこれらを用いた電子情報材料、特にレーザー色素材料や有機電界発光素子材料として有用である。したがって、本発明の製造方法により得られるハロゲン化されたピレン誘導体は、上記のような用途に供されるピレン誘導体を製造するための中間体として有用である。
【実施例】
【0062】
以下、実施例および比較例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。(株)島津製作所製HPLC分析装置LC−10を使用し、常法の逆相クロマトグラフィー法を用いて、得られた化合物の分析を行った。
【0063】
<1−ブロモ−7−tert−ブチルピレンの合成>
実施例1〜5
2−tert−ブチルピレン6.15g(23.8mmol)を溶媒150mlに溶解した後、N−ブロモスクシンイミド4.24g(23.8mmol)を添加した。溶媒は各実施例で以下の通りとした。
実施例1:メチルエチルケトン。
実施例2:2−メチルテトラヒドロフラン。
実施例3:メチルイソブチルケトン。
実施例4:N,N−ジメチルホルムアミド。
実施例5:N−メチル−2−ピロリドン。
【0064】
実施例1〜3においては、40℃で約2時間反応させた後、反応生成物を食塩水で水洗し、有機層を濃縮後、メタノールを加えて目的物を結晶にて回収した。実施例4〜5においては、40℃で約2時間反応させた後、反応生成物をトルエンで抽出、食塩水で水洗し、有機層を濃縮後、メタノールを加えて目的物を結晶にて回収した。上記のHPLC分析で2−tert−ブチルピレン、1−ブロモ−7−tert−ブチルピレン、5−ブロモ−2−tert−ブチルピレン、及び、1,3−ジブロモ−7−tert−ブチルピレンの含有率を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
いずれの実施例においても、穏便な条件で1−ブロモ−7−tert−ブチルピレンを得ることができた。また、実施例1〜3においては、1−ブロモ−7−tert−ブチルピレンを特に選択的に得ることができた。なお、実施例4〜5においては、反応生成物をトルエンで抽出しなければならなかったため、廃液量が増加した。
【0066】
【表1】

【0067】
<1,3−ジブロモ−7−tert−ブチルピレンの合成>
実施例6
2−tert−ブチルピレン6.15g(23.8mmol)を溶媒150mlに溶解した後、N−ブロモスクシンイミド12.72g(71.4mmol)を添加した。溶媒は各実施例および比較例で以下の通りとした。
実施例6:メチルエチルケトン。
実施例7:2−メチルテトラヒドロフラン。
実施例8:メチルイソブチルケトン。
実施例9:N,N−ジメチルホルムアミド。
実施例10:N−メチル−2−ピロリドン。
【0068】
実施例6〜8においては、40℃で約2時間反応させた後、反応生成物を食塩水で水洗し、有機層を濃縮後、メタノールを加えて目的物を結晶にて回収した。実施例9〜10においては、40℃で約4時間反応させた後、反応生成物をトルエンで抽出、反応生成物を食塩水で水洗し、有機層を濃縮後、メタノールを加えて目的物を結晶にて回収した。上記のHPLC分析で2−tert−ブチルピレン、1−ブロモ−7−tert−ブチルピレン、5−ブロモ−2−tert−ブチルピレン、及び、1,3−ジブロモ−7−tert−ブチルピレンの含有率を測定した。結果を表2に示す。
【0069】
いずれの実施例においても、穏便な条件で1,3−ジブロモ−7−tert−ブチルピレンを得ることができた。また、実施例6〜8においては、1,3−ジブロモ−7−tert−ブチルピレンを特に選択的に得ることができた。なお、実施例9〜10においては、反応生成物をトルエンで抽出しなければならなかったため、廃液量が増加した。
【0070】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるピレン誘導体を製造する方法であって、一般式(2)で表されるピレン誘導体と一般式(3)で表されるハロゲン化スクシンイミドを、テトラヒドロフランを除く有機溶媒中で反応させることを特徴とするピレン誘導体の製造方法。
【化1】

(R〜Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)Rからなる群より選ばれる。RおよびRはアリール基またはヘテロアリール基であり、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Aは水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基およびハロゲンからなる群より選ばれる。Bはアルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基およびハロゲンからなる群より選ばれる。Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)
【請求項2】
一般式(4)で表されるピレン誘導体を製造する方法であって、一般式(5)で表されるピレン誘導体と一般式(6)で表されるハロゲン化スクシンイミドを、テトラヒドロフランを除く有機溶媒中で反応させることを特徴とするピレン誘導体の製造方法。
【化2】

(R11〜R17はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R1819からなる群より選ばれる。R18およびR19はアリール基またはヘテロアリール基であり、隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Bはアルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基およびハロゲンからなる群より選ばれる。Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)
【請求項3】
前記有機溶媒が、ケトン系、エーテル系、ニトリル系、カルボン酸系またはハロゲン系のいずれかから選択される請求項1または2に記載のピレン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、アセトニトリル、酢酸、ジクロロメタン、クロロホルムまたは四塩化炭素のいずれかから選択される請求項1または2に記載のピレン誘導体の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)〜(2)、一般式(4)〜(5)におけるBがt−ブチル基である請求項1〜4のいずれかに記載のピレン誘導体の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)〜(2)におけるAが水素、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、およびハロゲンからなる群より選ばれる請求項1または3〜5のいずれかに記載のピレン誘導体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法でハロゲン化されたピレン誘導体を製造した後、前記ハロゲンをアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ホウ酸基またはホウ酸エステル基で置換することを特徴とするピレン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2012−184186(P2012−184186A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47402(P2011−47402)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】