説明

ピロリ菌感染を治療するための新規の方法

本発明は、アミノ酸配列を含むポリペプチドであって、ポリペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1に対応するアミノ酸配列を含むHPGGTの領域の一続きの連続アミノ酸配列と少なくとも80%同一であり、そのような領域が、(a)配列番号1に従ったアミノ酸配列のアミノ酸位置150〜200、又は(b)配列番号1に従ったアミノ酸配列のアミノ酸位置410〜480によって規定され、及びポリペプチドが、HPGGTの触媒活性を阻害することができる免疫応答を惹起するのに適する、前記ポリペプチドに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリコバクターピロリのγ−グルタミルトランスペプチダーゼ(HPGGT)のフラグメントであるポリペプチド、それらを含む免疫原性組成物、不活化形態のHPGGTを含む免疫原性組成物、そのようなポリペプチド及びHPGGTの不活性フラグメントの使用、そのようなポリペプチド及び不活性形態のHPGGTに対する及びそれらに特異的に結合する抗体、アプタマー及びスピーゲルマー、薬剤候補物質を同定するための方法、ワクチンを開発するための方法、およびHPGGTのリガンドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコバクターピロリはヒト胃粘膜に選択的にコロニー形成するグラム陰性病原体であり、世界人口の50%以上にまん延している。感染は、ほとんどが生涯にわたって持続し、胃及び十二指腸潰瘍、胃粘膜に関連するリンパ様組織リンパ腫及び胃癌の病因に関係づけられてきた。ピロリ菌感染の顕著な特徴は、好中球性顆粒球、リンパ球及び単球/マクロファージによる粘膜の密な浸潤を特徴とする、慢性活動性胃炎である。いくつかの試験は、ピロリ菌に関連する胃炎においてヘルパーT細胞1型が増加し、活性化されることの証拠を提供し、インビボでのCD25及びCD69の上方調節を示した。様々なピロリ菌抗原に対する強い体液性応答も惹起される。この炎症性応答にもかかわらず、感染は宿主免疫系によって除去されない。このことから、ピロリ菌は免疫系に干渉すると思われるが、その明確な仕組みはまだ曖昧なままである。
【0003】
いくつかの研究がこの問題を取り上げ、ピロリ菌が免疫応答を免れる受動的経路と能動的経路を説明した。食菌作用に対するピロリ菌の抵抗性が報告されており、これは、IV型分泌装置の成分をコードする、virB7及びvirB11のようなビルレンス遺伝子に依存する。Zabaleta et al.は、ピロリ菌アルギナーゼがT細胞増殖を阻害し、T細胞受容体ζ鎖の発現を低下させることを報告した。ピロリ菌のプロ炎症性ペプチドは、単球を活性化して反応性酸素ラジカルを産生することによってリンパ球機能不全を誘導することが示された。これらのデータは、細菌と非特異的免疫応答の相互作用を強調する。しかし、T細胞又はインターフェロン−γ(IFN−γ)欠損マウスにおけるワクチン接種試験が失敗に終わったことから、特異的T細胞応答は細菌の除去のために決定的に重要であると思われる。
【0004】
これらの取り組みにもかかわらず、胃病原体の慢性的残存の理由は曖昧なままである。CD4陽性T細胞は細菌の除去のために極めて重要であるが、ピロリ菌によってそれらの増殖が阻害されることが示された。これに関していくつかのグループは、ピロリ菌からのタンパク質の免疫抑制作用を検討した。Knippとその共同研究者達は、ビルレンス因子CagA(細胞毒関連遺伝子A)及びVacA(空胞化細胞毒A)とは無関係にリンパ球及び単球の増殖を低下させる、いわゆる「増殖阻害タンパク質(PIP)」を部分的に精製した
【0005】
これに対し、2つのグループが最近、高濃度の精製VacAの存在下でリンパ球増殖が抑制されることを報告した5,6。逆説的に、しかしながら、VacA欠損のピロリ菌突然変異体はその増殖阻害特性に欠陥を有していなかった。加えて、VacAを発現するヘリコバクター株に感染した患者において胃の炎症は変化しないか、さらには上昇することが早期に認識されている7,8
【0006】
ピロリ菌の分泌産物は、G1期での細胞周期停止を誘導することによってTリンパ球増殖を阻害することが先に示された。この作用は、VacA及びCagAタンパク質を含む公知のビルレンス因子とは無関係であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ピロリ菌が宿主による除去を免れる、考えられる機構について研究が増えつつあるにもかかわらず、ピロリ菌感染を特異的に治療する又は予防するための臨床手段を開発する上で実質的な成功はまだ得られていない。
【0008】
本発明の基礎をなす問題は、動物又はヒトにおいて免疫応答を惹起するのに適したポリペプチドを提供することであり、そのような免疫応答は、ピロリ菌感染及びピロリ菌に関連する又はピロリ菌によって引き起こされる疾患に対する防護を与える。
【0009】
そのような免疫応答を惹起するのに適した免疫原性組成物を提供することが、本発明の基礎をなすさらなる問題である。
【0010】
本発明の基礎をなすもう1つの問題は、ピロリ菌感染を治療する及び/又は予防するための新規薬剤候補物質を同定するための手段並びにこの感染を治療し、予防するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらや他の問題は、独立請求項の内容によって解決される。好ましい実施形態は従属請求項から理解され得る。
【0012】
より詳細には、前記問題は、第1の側面の実施形態において、アミノ酸配列を含むポリペプチドであって、アミノ酸配列が、配列番号1に対応するアミノ酸配列を含むHPGGTの領域の一続きの連続アミノ酸配列と少なくとも80%同一であり、そのような領域が、
(a)配列番号1に従ったアミノ酸配列のアミノ酸位置150〜200、又は
(b)配列番号1に従ったアミノ酸配列のアミノ酸位置410〜480
によって規定され、HPGGTの触媒活性を阻害することができる免疫応答を惹起するのに適するポリペプチドによって解決される。
【0013】
第1の側面の1つの実施形態では、ポリペプチドは約15〜約30個のアミノ酸を含む。
【0014】
前記問題は、第2の側面において、
(a)配列番号1に従ったアミノ酸配列のアミノ酸位置150〜200、又は
(b)配列番号1に従ったアミノ酸配列のアミノ酸位置410〜480
に対応するアミノ酸配列を含み、及び約15〜約30個のアミノ酸を含むポリペプチド、好ましくは1番目の態様に従ったポリペプチドによって解決される。
【0015】
第2及び第1の側面の1つの実施形態では、ポリペプチドのアミノ酸配列は、前記位置の一続きの15〜30個の切れ目のないアミノ酸に対応する。
【0016】
第2及び第1の側面の1つの実施形態では、ポリペプチドは、
QRQAETLKEARERFLKY(配列番号2)、
FDIKPGNPNLYGLVGGDANAI(配列番号3)、
DFSIKPGNPNLYGLVGGDANAIEANKRPL(配列番号4)及び
SSMSPTIVLKNNKVFLVVGSP(配列番号5)
を含む群から選択される配列を含む。
【0017】
前記問題は、第3の側面の1つの実施形態において、第1及び第2の側面に従ったポリペプチドの1つ又は数個を含む免疫原性組成物によって解決される。
【0018】
前記問題は、第4の側面の1つの実施形態において、不活化形態のHPGGTを含む免疫原性組成物によって解決される。
【0019】
前記問題は、第5の側面の1つの実施形態において、HPGGTのフラグメントを含む免疫原性組成物であって、そのようなフラグメントが、HPGGTのアミノ酸451及び452を含む一続きの切れ目のないアミノ酸から成る免疫原性組成物によって解決される。
【0020】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、組成物は動物又はヒトのワクチン接種用である。
【0021】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、組成物は、動物又はヒトの体内で免疫応答を誘導することができる。
【0022】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、前記免疫応答は抗体応答である。
【0023】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、前記抗体応答は、HPGGTに対する、より好ましくはHPGGTの特異的活性に対する阻害作用及び/又はリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする作用を有する抗体を含む。
【0024】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、組成物は、ピロリ菌感染に罹患している又はピロリ菌による感染を発症する危険度が高い患者においてリンパ球の活性化及び増殖を促進することを目的とする。
【0025】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、リンパ球はB又はT細胞である。
【0026】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、組成物は1又は複数のアジュバントを含む。
【0027】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、組成物は、ピロリ菌からの1又は複数の抗原を含む。
【0028】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、抗原は、外膜タンパク質を含む群から選択される。
【0029】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、抗原は、HpaA、Omp 18及びそれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0030】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、組成物は、ピロリ菌によって引き起こされる又はピロリ菌に関連する疾患、より好ましくはピロリ菌感染によって引き起こされる又はピロリ菌感染に関連する疾患の予防及び/又は治療を目的とする。
【0031】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、疾患は、ピロリ菌による感染、ピロリ菌によって引き起こされる胃十二指腸障害、胃炎、慢性胃炎、胃又は十二指腸潰瘍、胃癌及び(MALT)リンパ腫を含む群から選択される。
【0032】
第3、第4及び第5の側面の1つの実施形態では、免疫原性組成物はワクチンである。
【0033】
本発明の基礎をなす問題は、第6の側面によれば、薬剤の製造のための、本発明の第1の側面に従ったポリペプチドの使用によって解決される。
【0034】
本発明の基礎をなす問題は、第7の側面において、薬剤の製造のための、本発明の第3、第4及び第5の側面に従った免疫原性組成物の使用によって解決される。
【0035】
本発明の第6及び第7の側面の1つの実施形態では、薬剤はワクチンである。
【0036】
本発明の第6及び第7の側面1つの実施形態では、薬剤は、ピロリ菌によって引き起こされる又はピロリ菌に関連する疾患、より好ましくはピロリ菌感染によって引き起こされる又はピロリ菌感染に関連する疾患の予防及び/又は治療を目的とする。
【0037】
本発明の基礎をなす問題は、第8の側面において、試料中のHPGGTに対する抗体を検出するための、第1の側面に従ったポリペプチドの使用によって解決される。
【0038】
第8の側面の1つの実施形態では、前記抗体は、HPGGTの酵素活性及び/又はリンパ球増殖へのHPGGTの阻害活性を阻害することができる。
【0039】
本発明の基礎をなす問題は、第9の側面において、第1の側面に従ったポリペプチドに特異的に結合する抗体によって解決される。
【0040】
第9の側面の1つの実施形態では、前記抗体は、HPGGTに対する、より好ましくはHPGGTの特異的活性に対する阻害作用及び/又はリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする作用を有する。
【0041】
本発明の基礎をなす問題は、第10の側面において、第9の側面に従った抗体をコードする核酸によって解決される。
【0042】
本発明の基礎をなす問題は、第11の側面において、第1の側面に従ったポリペプチドに特異的に結合するか又はHPGGTのアミノ酸451及び452を含む一続きの切れ目のないアミノ酸から成るHPGGTのフラグメントに特異的に結合する核酸分子であって、アプタマー及びスピーゲルマーを含む群から選択される核酸分子によって解決される。
【0043】
11番目の態様の1つの実施形態では、核酸は、HPGGTに対する、より好ましくはHPGGTの特異的活性に対する阻害作用及び/又はリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする作用を有する。
【0044】
本発明の基礎をなす問題は、第12の側面において、薬剤の製造のための、第9の側面に従った抗体の使用によって解決される。
【0045】
本発明の基礎をなす問題は、第13の側面において、薬剤の製造のための、第11の側面に従った核酸の使用によって解決される。
【0046】
第12及び第13の側面の1つの実施形態では、薬剤は、ピロリ菌によって引き起こされる又はピロリ菌に関連する疾患、より好ましくはピロリ菌感染によって引き起こされる又はピロリ菌感染に関連する疾患の治療及び/又は予防を目的とする。
【0047】
本発明の基礎をなす問題は、第14の側面において、薬剤候補物質の、
a.ピロリ菌のγ−グルタミルトランスペプチダーゼの特異的活性に対する阻害作用、及び
b.リンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする作用
を評価する工程を含む疾患の治療のための薬剤候補物質を同定するための方法によって解決される。
【0048】
第14の側面の1つの実施形態では、疾患は、ピロリ菌によって引き起こされるか又はピロリ菌に関連し、より好ましくは疾患は、ピロリ菌感染、より好ましくはヒトにおけるピロリ菌感染によって引き起こされるか又はそれに関連する。
【0049】
本発明の基礎をなす問題は、第15の側面において、
a)HPGGT又はその少なくとも1つのフラグメントを含む免疫原性組成物を提供する工程と、
b)該免疫原性組成物で動物を免疫し、それによって抗体を作製する工程と、
c)該抗体を、ピロリ菌のγ−グルタミルトランスペプチダーゼの特異的活性に対するそれらの阻害作用及びリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にするそれらの作用に関して評価する工程と、
d)適切な免疫原性組成物を選択する工程とを含むワクチンを開発するための方法によって解決される。
【0050】
第15の側面の1つの実施形態では、前記ワクチンは、ヒトにおけるピロリ菌感染に対するワクチンである。
【0051】
本発明の基礎をなす問題は、第16の側面において、予防及び/又は疾患のための薬剤の製造のためのHPGGTのリガンドの使用であって、リガンドが、HPGGT活性を有意に阻害し、リンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする、前記使用によって解決される。
【0052】
第16の側面の1つの実施形態では、前記疾患は、ピロリ菌によって引き起こされる又はピロリ菌に関連する、より好ましくはピロリ菌感染によって引き起こされる又はピロリ菌感染に関連する。
【0053】
第16の側面の1つの実施形態では、リガンドは、9番目の態様に従った抗体、又は11番目の態様に従った核酸である。
【0054】
第16の側面の1つの実施形態では、リンパ球増殖及び/又は活性化は、リンパ球増殖アッセイにおいて評価される。
【0055】
本発明の基礎をなす問題は、第17の側面において、免疫抑制剤組成物の製造のためのHPGGTの使用によって解決される。
【0056】
本発明の基礎をなす問題は、第18の側面において、HPGGTとグルタミンを、HPGGT特異的活性を可能にする培地でインキュベートした後に上清として得られる免疫抑制剤組成物によって解決される。
【0057】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、発明者は、意外にも、ヘリコバクターピロリのγ−グルタミルトランスペプチダーゼ(HPGGT)に対するリガンド(E.C.2.3.2.2.)が、ピロリ菌感染、特に胃十二指腸障害の治療及び/又は予防のために使用でき、前記リガンドが、HPGGTの触媒活性の阻害剤であり、この酵素の存在下で抑制される対照と比較してリンパ球増殖を回復されることを見出した。さらに、本発明の発明者は、HPGGTと共にインキュベートしたとき、前記リンパ球増殖が、リンパ球においてG1細胞周期停止を導き、それによってリンパ球増殖を阻害する、HPGGT特異的活性によってブロックされることを認めた。その結果として、HPGGT特異的活性の阻害はリンパ球増殖の阻害を無効にし、その結果ピロリ菌が宿主の免疫系を免れることを不可能にする。そこで、本発明によって示唆されるようなリガンドの使用は、宿主/患者の体内でのピロリ菌のコロニー形成を予防する又は少なくとも実質的に低減する。最後に、発明者は、ピロリ菌のγ−グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)の触媒活性がリンパ球増殖、特に宿主の体内でのT細胞増殖の抑制のために必要であることを見出した。これは、GGT活性を欠く突然変異型細菌がリンパ球の増殖を廃する能力を喪失し、同時にマウスにコロニー形成することができないことを示すことによって明らかに実証された。リンパ球への阻害作用は、組換えHPGGTに関して完全に存在した。T細胞におけるシグナル伝達へのその作用の分析は、G1細胞周期停止の誘導を導くRasシグナル伝達経路の崩壊を示唆する。あらゆるピロリ菌株がHPGGTを有すること、及び阻害性リガンドによるこの酵素の標的は、あらゆるピロリ菌感染に適用し得る新規治療を提供し、それによって抗生物質療法に関連する問題(耐性、副作用、突然変異の選択等)を回避することに留意することが重要である。本発明に従って、HPGGTの触媒活性を阻害し、それにより、さもなければピロリ菌に対する有効な免疫応答を妨げる免疫抑制を打破することによって、好ましくはピロリ菌感染に対する防護が与えられる。
【0058】
HPGGTは、動物、植物及び細菌の間に広く分布する。ヘテロ二量体タンパク質であり、1本のポリペプチド鎖として翻訳され、翻訳後、異なる分子量を有する2つのサブユニットに切断される。この酵素の哺乳動物形態は膜結合タンパク質であり、主として全身の腺及び細管の管腔表面で発現される。ヘリコバクターピロリのホモログを含む一部の細菌GGTの細胞局在は、哺乳動物酵素のものとは異なる。HPGGTは、細胞外液中に分泌されることが以前に示された(Bumann et al.,2002)。加えて、種々のGGTホモログのアミノ酸配列のアラインメントは、HPGGTとヒト及び他の哺乳動物のGGTとの間の22%という低い相同性を明らかにしたが、細菌ホモログに対してはより高い相同性を示した。HPGGTと他の種からのホモログとの間のもう1つの重要な相違は、HPGGTのC末端におけるGY残基の欠如である(Chevalier et al.,1999)。したがって、HPGGTとその哺乳動物ホモログとの間での細胞局在及びタンパク質構造に関する実質的な相違は明白である。
【0059】
γ−グルタミルトランスペプチダーゼはまた、グルタミルトランスペプチダーゼ;α−グルタミルトランスペプチダーゼ;g−グルタミルペプチジルトランスフェラーゼ;g−グルタミルトランスペプチダーゼ;g−GPT;g−GT;g−GTP;L−g−グルタミルトランスペプチダーゼ;L−g−グルタミルトランスフェラーゼ;L−グルタミルトランスフェラーゼ;GGT;g−グルタミルトランスペプチダーゼとしても知られる。特異的(触媒)活性は、以下で概説するようなグルタミル残基の転移である。
(5−L−グルタミル)−ペプチド+アミノ酸=ペプチド+5−L−グルタミルアミノ酸
【0060】
この反応又はそのような反応を実施する能力を、ここではまた、HPGGTの酵素活性又はHPGGTの特異的活性とも称する。
【0061】
GTT活性は、当業者に公知の方法で(例えばL−γ−グルタミル−p−ニトロアニリドを供与体基質として使用して;以下参照)評価することができる。HPGGT及び/又はリガンドの存在下又は不在下でのリンパ球増殖アッセイは、ここで詳細に述べるように実施できる。
【0062】
GGTは、以前に他のグループによって、インビボでのコロニー形成のために重要なピロリ菌からの因子であると述べられた11,13。しかし、この所見の根拠となる理由は曖昧なままであった。
【0063】
本発明は、ヒトTリンパ球増殖のGGT依存性阻害及びピロリ菌によるG1停止の誘導についての明確な証拠を提供する。これは、一方では、細菌の同質遺伝子的GGTノックアウト突然変異体の使用によって明らかにされ、前記突然変異体は、抗原刺激した一次ヒトT細胞並びにPBMCの増殖を抑制することができなかった。他方で、大腸菌(E.coli)において発現された組換えHPGGTは、ピロリ菌によって分泌される他のタンパク質の不在下でT細胞増殖を阻害した。興味深いことに、我々のデータは、哺乳動物GGTがこの阻害作用を欠如していたことを示す。上述したように、哺乳動物とHPGGTの構造及び局在性の相違が報告されている。我々の結果は、哺乳動物GGTがリンパ球の増殖を阻害できないことの原因である、哺乳動物とHPGGTの触媒機構及び/又は基質特異性のさらなる違いを示すものである。
【0064】
セリン残基451及び452がGGTの触媒活性のために必須であることを同定するために構造試験及び突然変異誘発実験が使用された21。アミノ酸位置380(T380)がHPGGTの触媒活性のために極めて重要であると報告されている先行技術の学術的教示31と異なり、HPGGTのセリン451/452のアラニンへの部位指定突然変異誘発が、リンパ球に対するその触媒活性、特にその阻害活性の完全な廃止を生じさせることがここで示される。よって、GGT阻害剤であるアシビシン(acivicin)とのHPGGTのインキュベーションは、酵素の触媒活性並びに阻害作用を完全に無効にする。したがって、我々のデータは、HPGGTの触媒ドメインの構造的完全性がその免疫抑制作用のために必要な前提条件であることを明らかにする。インビボでのコロニー形成におけるピロリ菌からのGGTの重要な役割と一致して11,13、我々は、この酵素が宿主の胃粘膜中に存在する低いpH値でも触媒的に活性であることを認めた。
【0065】
ヒトの胃における上皮細胞が、内側区画と外側区画との間の分子の移動を制限する連続的なバリアを形成することは広く確立されている。加えて、このバリアの細胞間空隙を通しての高分子の受動拡散は、タイト結合及び接着結合を含む様々な機構によって妨げられる。そこで、ヘリコバクターピロリによって分泌されるGGTタンパク質は、T細胞増殖を抑制するために上皮バリアの反対側の宿主免疫系とどのようにして相互作用し得るのかという疑問が生じる。これに関して、以前に、HPはいくつかの機構によって胃上皮のバリア機能を弱めることができることが明らかにされた。加えて、HPタンパク質VacA及びCagAタンパク質による上皮結合複合体の破壊並びにピロリ菌ウレアーゼによって誘導される上皮バリアを横断するトランスサイトーシスタンパク質輸送の上昇が、以前に明らかにされている。これらの機構が最終的に、粘膜固有層内のHPタンパク質の存在増加及びピロリ菌感染の結果として胃粘膜を浸潤する免疫系の細胞とのそれらの相互作用を導く。HPGGTによる胃粘膜内のT細胞の障害の裏付けとして、我々の結果は、HP感染患者で認められるが非感染対照患者では認められない、このビルレンス因子に対する著明な血清抗体応答を示す。これは、GGTタンパク質成分の抗原プロセシング及び胃粘膜内のTリンパ球を含む免疫系の成分に対するこれらの抗原の提示という概念を裏付ける。したがって、HPGGTによる胃粘膜内のTリンパ球増殖の抑制は、ヘリコバクターピロリの、ヒトの胃におけるその慢性的残存を促進する免疫回避機構に寄与し得る。
【0066】
本発明の基礎をなす研究の結果は、T細胞活性化の重要な機構が、ピロリ菌野生型上清及びまた組換えHPGGTとのインキュベーションの間も無傷であることを明らかにする。これは、細胞表面抗原CD69及びCD25(IL−2受容体α鎖)の発現がピロリ菌上清の存在下で低下しないことを示した本発明の発明者の以前の試験と一致する。加えて、アネキシンV−FITC染色によって測定されるホスファチジルセリンの露出がピロリ菌上清及び組換えHPGGTの存在下で上昇しなかったことから、リンパ球へのHPGGTの抑制作用がアポトーシス非依存性機構によって媒介されることが明らかにされる。HPGGTは胃上皮細胞において酸化的ストレス及びアポトーシスを誘導することが以前に記述されている12,16。免疫系の細胞へのこの酵素の作用は、しかしながら、これまで測定されておらず、認められた相違は標的細胞の間の相違を反映する可能性がある。
【0067】
発明者は、T細胞における細胞周期進行へのHPGGTの干渉を分析し、HPGGTが、細胞周期のG1期で停止を生じさせることによってリンパ球の増殖を阻害することを認めた。G1停止は、Cdk阻害剤p27の量の増加並びにサイクリンタンパク質の細胞レベル低下によって特徴づけられた。Ras及びPI3K依存性経路は、その触媒パートナーによるD型サイクリンの誘導、合成及び構築において中心的な重要性を持つ22,23。Rasシグナル伝達経路の活性化は、c−Raf及び他のキナーゼを含むタンパク質カスケードを通してサイクリンDの転写を誘導する24。加えて、Rasシグナル伝達の誘導は、細胞周期、細胞増殖及び形質転換において重要な役割を果たすc−Mycタンパク質の合成増強を導くことが確立されている25。これまでの試験は、PI3Kシグナル伝達がT細胞内でRasシグナル伝達とは独立して進行することを明らかにした17。PI3Kシグナル伝達の重要なメディエイター(AKT、p70S6K及びFoxo3)の活性化状態はHPGGTの存在下で不変であったが、我々は、HPGGTと共にインキュベートした細胞においてc−Rafリン酸化及びc−Mycタンパク質のレベル低下を認めた。よって、我々のデータは、ピロリ菌からのGGTによる、PI3K依存性シグナル伝達ではなくRas依存性シグナル伝達の破壊が、細胞増殖の排除を導くT細胞における細胞周期停止の誘導において役割を果たすことを示唆する。
【0068】
もう1つの重要な疑問は、HPGGTのような酵素が、細胞周期停止及び増殖阻害を導く細胞内シグナル伝達事象にどのようにして影響を及ぼし得るかということである。ペプチド転移反応において、GGTは供与体から受容体基質へのγ−グルタミル部分の転移を触媒する27。体系的なアミノ酸枯渇分析により、発明者は、HPGGTの阻害作用が培地からのアミノ酸グルタミンの不在下では完全に無効化され、ピロリ菌からのGGTの阻害作用がペプチド転移の間の転写産物の形成によって間接的に媒介されることを示唆することを認めた。これは、HPGGTと培養基のプレインキュベーション及びその後の細胞添加に先立つ酵素の不活化が、リンパ球増殖の阻害のために十分であるという我々の所見によって裏付けられる。
【0069】
これまでの試験は、ヒトTリンパ球の増殖を阻害する、GGTとは異なるピロリ菌のいくつかの因子を記述した。Wangとその共同研究者達は、300のMOI(T細胞当たり300細菌)のピロリ菌がアポトーシスの誘導によってT細胞の増殖を阻害することを示した。しかし、そのような高い量の細菌がヒトの胃の粘膜固有層においてT細胞と接触するかどうかは疑わしいと考えられる。我々の以前の公表文献において((Gastroenterology 2005 2005:128(5):1327−39)、発明者は、300倍低い1のMOI(T細胞当たり1細菌)でさえも我々の系においてリンパ球増殖を阻害するために十分であることを示した。リンパ球と共にインキュベートしたHP培養上清の濃度を100μg/ml以上に上げたとき、Wang et al.と同等の量でアポトーシスが観察された。これは、ここで述べるリンパ球に対するHPの阻害作用が、このグループによって記述された機構よりも著明であり、その機構とは異なることを示唆する。
【0070】
Zabaleta et al.によるもう1つの試験は、細胞質HPタンパク質アルギナーゼによるT細胞増殖の阻害を述べた30。著者らは、細菌の細胞質タンパク質及び膜結合タンパク質を含むHPからの全細胞溶解産物を使用した。これに対し本発明の発明者は、HPの分泌タンパク質を含むHPからの培養上清を使用した。アルギナーゼはHPによって分泌されないので、この酵素のT細胞に対する阻害作用はここで使用した系では検出できず、インビボで起こる可能性は低い。
【0071】
Gebert et al.による研究は、ピロリ菌によって分泌される空胞化細胞毒A(VacA)がT細胞の増殖を阻害することを示唆した。著者らは、我々が本試験において使用した(10μg/ml)よりも25倍高い濃度(250μg/ml)の細菌上清を使用した。以前の試験で、本発明の発明者は、高濃度のHP培養上清(≧110μg/ml)がリンパ球において有意量のアポトーシスを誘導することを明らかにした。加えて、VacAの存在又は不在は、我々の系ではリンパ球に対するHPの阻害作用に影響を及ぼさなかった(Gastro 2005)。
【0072】
したがって、これまでに記述されたピロリ菌によるT細胞阻害の他の方法にもかかわらず、細菌によって分泌されるGGTが、ここで使用した系においてT細胞増殖を阻害するために必要且つ十分である。
【0073】
要するに、本出願の基礎となるデータは、免疫エフェクター細胞の細胞周期進行を阻害するために分泌タンパク質を利用する、ピロリ菌によって適用される免疫回避のための新規機構を提供する。この細菌のGGT欠損突然変異体では阻害作用が完全に無効化されたので、酵素GGTがピロリ菌によるT細胞増殖の阻害に関与することが示される。組換えHPGGTタンパク質の酵素的に不活性な突然変異体はT細胞増殖を抑制する能力を欠如していたので、この作用は明らかにGGTの触媒活性に依存した。加えて、T細胞のG1期における細胞周期停止がピロリ菌からのGGTの存在下でのみ誘導されたことが示される。やはり特定の理論に縛られることを望むものではないが、さらなる結果は、G1停止及びT細胞増殖抑制の原因として、HPGGTによる、PI3K依存性シグナル伝達ではなくRas依存性シグナル伝達の破壊を示唆する。リンパ球阻害因子としてのHPGGTの同定は、ピロリ菌コロニー形成のためのHPGGTの重要な役割を示す、動物モデルでの所見に関する生物学的根拠を形成する。HPGGT及び宿主のコロニー形成におけるその役割の可能性は、WO00/01825及びWO98/17804で論じられている。どちらの資料も、しかしながら、HPGGT活性が宿主の免疫系の抑制に関与することの証拠を提示しておらず、宿主におけるT細胞増殖及び免疫抑制へのHPGGTの作用については記述していない。
【0074】
本発明の発明者は、HPGGT自体、好ましくは配列番号1に従ったアミノ酸配列を有する野生型HPGGTだけでなく、その特定フラグメントも、各々が好ましくはHPGGTに特異的に結合し、HPGGTの特異的活性を阻害する及び/又はリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制の無効化効果に適する抗体、アプタマーならびにスピーゲルマーの作製のための抗原として使用し得ることを見出した。
【0075】
したがって、本発明の1つの側面は、特異的ポリペプチドに関する。そのようなポリペプチドは、HPGGTの特定領域のアミノ酸の部分又は一続きのアミノ酸に同一である又は対応するアミノ酸の配列を含む。好ましくは、HPGGTのアミノ酸配列は、配列番号1に従ったアミノ酸配列を含む。
【0076】
ここで好ましく使用されるように、2つのアミノ酸の配列もしくは順序がアミノ酸の性質及び互いに対する相対的位置に関して同じである場合、1つのアミノ酸配列はもう1つのアミノ酸配列に同一である。もう1つの実施形態では、同一である配列の一次アミノ酸配列は同じである。
【0077】
ここで好ましく使用されるように、2つのアミノ酸の配列又は順序がアミノ酸の性質及び互いに対する相対的位置に関して同じである場合、1つのアミノ酸配列はもう1つのアミノ酸配列に同一である。もう1つの実施形態では、互いに対応する配列の一次アミノ酸配列は同じであり、両方の対応するアミノ酸配列の全体的状況は同じであるか又は異なる。アミノ酸の全体的状況は、アミノ酸配列の一方又は両方の末端に隣接するアミノ酸によって定義される。
【0078】
同一である又は互いに対応する配列が少なくとも80%、85%、90%、95%又は100%の配列相同性を有することは当業者に認識される。
【0079】
1つの実施形態では、本発明によるポリペプチドは、HPGGTの一続きの連続アミノ酸に同一である又は対応するアミノ酸配列を含む又は前記アミノ酸配列から成る。好ましくは、及び本発明のいずれかの実施形態及び態様に該当する場合、HPGGTは配列番号1に従ったアミノ酸配列を有する。HPGGTの用語に包含されるHPGGTの変異体及び突然変異体が存在し得ることは当業者に認識される。また、HPGGTの配列が配列番号1で規定されるHPGGTのものと異なる場合、配列番号1で規定されるアミノ酸配列を有するHPGGTに関してここで開示されるものがそのような異なる形態のHPGGTにも適用されることは本発明の範囲内である。より詳細には、当業者は、それぞれその位置、化学的性質及び/又は機能に関して配列番号1で規定されるアミノ酸配列を有するHPGGTにおいて同定されるものに対応し、指定されるそのような異なる形態のアミノ酸を同定する。
【0080】
ここで開示されるように、本出願によるポリペプチドは、HPGGTの特定領域のアミノ酸配列に同一であるか又は対応する。1つの実施形態では、そのような領域は、配列番号1に従ったアミノ酸配列のアミノ酸位置150〜200によって定義される領域である。もう1つの実施形態では、そのような領域は、配列番号1に従ったアミノ酸配列のアミノ酸位置410〜480によって定義される領域である。
【0081】
本発明の発明者は、意外にも、アミノ酸150〜200によって定義されるHPGGTの部分及びアミノ酸410〜480によって定義されるHPGGTの部分が、HPGGTの触媒活性を阻害することができ、したがってピロリ菌に感染している又はピロリ菌に感染する危険度が高い生物においてピロリ菌に対する又は少なくともHPGGTに対する免疫応答を惹起する前提条件を提供する、抗体の作製のための抗原又はワクチンとして使用されるために特に有益であることを見出した。
【0082】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、発明者は、アミノ酸位置150〜200及びアミノ酸位置410〜480によって定義される領域の両方がHPGGTの酵素活性と特別な関係を有すると推測する。より詳細には、アミノ酸位置410〜480によって定義されるHPGGTの領域は、HPGGTの活性中心に関連する又は近接すると言われている。より詳細には、HPGGTのこの領域は、直接活性中心と接するループ領域及び活性中心自体の部分を含む。したがって、HPGGTのこの部分のブロッキングは、おそらくHPGGTの触媒活性の基質の侵入をブロックすることによって、HPGGTの酵素活性を阻害するための適切な手段である。同じことが、原則として、アミノ酸位置150〜200によって定義されるHPGGTの領域にも当てはまる。配列番号1に従ったHPGGTのアミノ酸位置150〜200のこの領域は、HPGGTの活性中心の外側のループに関連する又はループ(の部分)を形成するが、基質に対する結合ポケットに空間的に近接する。これを考慮すると、これらの領域に特異的に干渉する分子は、ここでより詳細に述べるように、この種の結合特性を有する抗体に関して使用できる作用物質である。抗体のほかに、先行技術において記述されているペプチドアプタマー、アンチカリン、アプタマー及びスピーゲルマーは、抗体に関してここで開示する様々な目的のために、それぞれ作製され、使用され得る。
【0083】
本出願は、その配列が以下のアミノ酸位置に対応する又は同一であるポリペプチドを提供する。
(a)(150+n)から(150+n+m)まで[式中、nは0から35までの何らかの整数であり、mは15から30までの何らかの整数である]。このようにして定義される位置は、nとmの何らかの組み合わせから生じるものであることが了解される。そのような組み合わせは、好ましくは、そのように定義される上限位置が約200である範囲に限定されることがさらに了解される。(150+n)によって定義される位置は下限位置とも称され、及び(150+n+m)によって定義される位置は上限位置とも称される。
(b)(410+n)から(410+n+m)まで[式中、nは0から55までの何らかの整数であり、mは15から30までの何らかの整数である]。このようにして定義される位置は、nとmの何らかの組み合わせから生じるものであることが了解される。そのような組み合わせは、好ましくは、そのように定義される上限位置が約200である範囲に限定されることがさらに了解される。(410+n)によって定義される位置は下限位置とも称され、及び(410+n+m)によって定義される位置は上限位置とも称される。
【0084】
さらなる実施形態では、本発明によるポリペプチドは、HPGGTのフラグメント、好ましくはHPGGTの免疫原性フラグメント、より好ましくは宿主生物において免疫応答、好ましくは抗体応答を惹起するのに適したHPGGTの免疫原性フラグメントであり、抗体は、HPGGTに対する、より好ましくはHPGGTの特異的活性に対する阻害作用及び/又はリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする作用を有する。好ましくは、本発明による免疫原性フラグメントは、HPGGTのアミノ酸451及び/又は452を含む。フラグメントはいかなる長さであってもよい。しかし、10〜約50アミノ酸残基のペプチド、より好ましくは10〜40、10〜30又は最も好ましくは10〜20アミノ酸残基のペプチドが使用される。ペプチドに基づくワクチンのためのエピトープ予測アルゴリズムがここで適用される。ここで好ましく使用されるように、宿主生物は、好ましくは、抗原に対する免疫応答を発現することができる動物、好ましくは哺乳動物又はヒトである。
【0085】
ここで好ましく使用されるように、アミノ酸はα−アミノ酸である。同じくここで好ましく使用されるように、アミノ酸はD−又はL−アミノ酸のいずれか、好ましくはL−アミノ酸である。さらに好ましくは、アミノ酸は天然に生じるアミノ酸である。
【0086】
本発明の発明者はまた、驚くべきことに、HPGGTのセリン残基451及び/又は452からアラニンへの突然変異誘発が、組換えHPGGTの酵素活性を完全に排除し、そのT細胞増殖の阻害を無効にすることを認めた。しかし、セリン残基385(S385A)の置換はT細胞増殖へのHPGGT依存性阻害作用を低減しなかったが、この突然変異型HPGGTの触媒活性は有意に(すなわち約50%)低下した。したがって、ピロリ菌感染の治療のための適切な薬剤物質は、2つの必要条件、すなわち(i)HPGGTの触媒活性への阻害作用を示さなければならないこと、さらに、HPGGTと共にインキュベートしたときT細胞増殖を回復しなければならないこと、を満たす必要がある。適切な薬剤候補物質の同定のための本発明による有効な方法は、両方の評価を含む。
【0087】
この所見を踏まえて、本発明のもう1つの側面は不活化形態のHPGGTの使用に関する。
【0088】
不活化形態のHPGGTは、1つの実施形態では、ここで示すHPGGTの酵素活性を欠くHPGGTである。そのような不活化形態のHPGGTを提供するために、常に酵素的に活性なHPGGTと比較して、1又は複数のアミノ酸の欠失、1又はそれ以上のアミノ酸の変化を含む、様々な方法が存在することは当業者に認識される。不活化形態のHPGGTの1つの実施形態は、配列番号1に従ったアミノ酸配列の451位及び452位のセリンアミノ酸を欠くものである。1つの実施形態では、不活化形態のHPGGTは、ここで述べる免疫応答、好ましくは野生型HPGGTへの阻害作用、より好ましくはHPGGTの特異的活性への阻害作用及び/又はリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制に対する無効化作用を有する抗体を含む動物及び/又はヒトにおける抗体応答を、まだ惹起することができる。ここで好ましく使用されるように、HPGGTの特異的活性という用語は、酵素活性、より詳細にはここで述べるHPGGTの酵素活性と同義的に使用される。不活化形態のHPGGTのさらなる実施形態は、野生型アミノ酸配列を有するHPGGTであるが、その酵素作用はHPGGTの酵素活性に対する阻害剤の添加によって抑制されている。そのような阻害剤は、抗体、スピーゲルマー、アプタマー、又はHPGGTの酵素活性のために必要とされるイオンを含む因子をHPGGTから奪う何らかの分子であり得る。
【0089】
ポリペプチド、不活化形態のHPGGT及びHPGGTは、ここではまた、特にそれに特異的に結合する抗体、アプタマー及びスピーゲルマーの作製に関連して標的分子とも称される。
【0090】
本発明のさらなる態様は、本発明によるポリペプチド、不活化形態のHPGGT又はHPGGT、好ましくは、典型的には配列番号1に従ったアミノ酸配列を有する野生型のHPGGTに対する抗体に関する。
【0091】
好ましくはここで使用される抗体は、それぞれその製造と作製が当業者に周知である、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の両方を含む。
【0092】
標的に特異的な抗体の製造は当業者に公知であり、例えばHarlow,E.,and Lane,D.,「Antibodies:A Laboratory Manual」,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY,(1988)に述べられている。好ましくは、Koehler and Milsteinのプロトコール及びそれに基づくさらなる開発に従って製造され得るモノクローナル抗体は、本発明に関連して使用され得る。
【0093】
ここで使用される抗体は、それらが適切であり、標的に結合することができる限り、完全抗体、抗体フラグメント又は誘導体、例えばFabフラグメント、Fcフラグメント及び一本鎖抗体、又はアンチカリンを含むが、これらに限定されない。モノクローナル抗体のほかに、ポリクローナル抗体も使用及び/又は作製され得る。ポリクローナル抗体の作製も当業者に公知であり、例えばHarlow,E.,and Lane,D.,「Antibodies:A Laboratory Manual」,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY,(1988)に述べられている。好ましくは、治療のために使用される抗体は、ヒト化又はヒト抗体である。
【0094】
本発明に従って使用され得る抗体は、1又はいくつかのマーカー又は標識を有し得る。そのようなマーカー又は標識は、その診断適用又はその治療適用において抗体を検出するために有用であり得る。好ましくは、マーカー及び標識は、アビジン、ストレプトアビジン、ビオチン、金及びフルオレセインを含む群から選択され、例えばELISA法において使用される。これらやさらなるマーカー並びに方法は、例えばHarlow,E.,and Lane,D.,「Antibodies:A Laboratory Manual」,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,NY,(1988)に述べられている。加えて又は選択的に、ここで述べる抗体並びに他のいずれかの標的アンタゴニスト又は相互作用パートナーは、ここでより一般的に述べるような標識アンタゴニストであり得る。
【0095】
標識又はマーカーが、他の分子との相互作用のような、検出以外の付加的な機能を示すことも本発明の範囲内である。そのような相互作用は、例えば他の化合物との特異的相互作用であり得る。これら他の化合物は、ヒト又は動物の身体のような抗体が使用される系、又はそれぞれの抗体を使用することによって分析される試料に固有のものであり得る。適切なマーカーは、例えば、ビオチン又はフルオレセインと、アビジン及びストレプトアビジン及びそのようにマーク又は標識された抗体と相互作用するためにそれぞれの化合物又は構造上に存在する同様のもののような、その特異的相互作用パートナーであり得る。やはりこれも、アプタマー及びスピーゲルマーのようなここで述べるその他の標的相互作用パートナーにも当てはまる。
【0096】
1つの実施形態では、抗体は、組換えHPGGTのアミノ酸451及び/又は452を含むHPGGTのエピトープに対して特異的活性を有する抗体、好ましくはモノクローナル抗体である。もう1つの実施形態では、抗体は、これらのアミノ酸位置に空間的に近接するエピトープを標的し、好ましくは前記位置に隣接するループを標的して特異的に結合し、より好ましくはエピトープは、配列番号1のHPGGTのアミノ酸位置150〜200、より好ましくはアミノ酸位置174〜190によって定義される、又は配列番号1のHPGGTのアミノ酸位置410〜480、より好ましくはアミノ酸位置423〜443によって定義されるHPGGTの一続きの範囲、及びそれらが基本的に同一の免疫反応性を示すことを条件とするそれらの誘導体によって定義される又はそれらに含まれる。
【0097】
好ましくは、本発明の抗体は、HPGGT特異的活性を阻害し、宿主内でのリンパ球増殖のHPGGT依存性阻害を少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、最も好ましくは少なくとも80%又は90%抑制する。同じく好ましくは、本発明による抗体はさらに、HPGGT特異的活性への阻害作用を示し、インビトロで評価されるT細胞増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする。
【0098】
抗体と同じ方法で、したがって同じ目的のために本発明に従って使用できる相互作用パートナーのもう1つのクラスは、標的結合ポリペプチドの特定形態である、いわゆる「アンチカリン」である。アンチカリン及びそれらの製造方法は、中でも特に、ドイツ特許出願第DE 197 42 706号に述べられている。
【0099】
抗体と同じ方法で、したがって同じ目的のために使用できる分子のさらなるクラスは、いわゆるペプチドアプタマーである。標的を使用して、ペプチドアプタマーは、ここでより詳細に説明するポリペプチドライブラリーを利用したスクリーニング工程を用いて作製できる。選択基準は、選択されたポリペプチドが実際に及び特異的に標的に結合することである。
【0100】
より詳細には、そのようなペプチドアプタマーは、ファージディスプレイのような技術水準に従った方法を使用することによって作製され得る。基本的には、ファージの形態などの、ペプチドのライブラリーを作製し、この種のライブラリーを標的分子と接触させる。標的分子に結合しているペプチドを、その後、好ましくは標的分子との複合体として、それぞれの反応から取り出す。結合特性が、少なくともある程度までは、塩濃度等のような個々に実施される実験設定に依存することは当業者に公知である。より高い親和性又はより大きな力で標的分子に結合しているポリペプチドをライブラリーの非結合成員から分離した後、また場合により標的分子とポリペプチドの複合体から標的分子を分離した後、続いてそれぞれのポリペプチドを特性決定し得る。特性決定の前に、場合により、例えばポリペプチドをコードするファージを増殖させることによって、増幅工程が実施される。特性決定は、好ましくは標的結合ポリペプチドの、及び最終的にはここで定義される標的のアンタゴニスト又は相互作用パートナーとして働くポリペプチドの配列決定を含む。基本的には、ポリペプチドはそれらに長さに関して限定されないが、好ましくは約8〜20アミノ酸長を有するポリペプチドが、好ましくはそれぞれの方法で入手される。ライブラリーの大きさは、約10〜1018、好ましくは10〜1015の異なるポリペプチドであり得るが、それらに限定されない。
【0101】
本発明のさらなる側面は、本発明によるポリペプチドに対する、不活化形態のHPGGT又はHPGGTに対する、好ましくは、典型的には配列番号1に従ったアミノ酸配列を有する野生型のHPGGTに対するアプタマーに関する。
【0102】
アプタマーは、一本鎖又は二本鎖であり、標的分子と特異的に相互作用するD−核酸である。アプタマーの製造と選択は、例えば欧州特許第EP 0 533 838号に述べられている。基本的には、以下の工程が実施される。第一に、各々の核酸が、典型的には数個の、好ましくは少なくとも8個のその後ランダム化されるヌクレオチドのセグメントを含む、核酸の混合物、すなわち潜在的アプタマーを提供する。この混合物を、その後、標的分子と接触させ、それにより核酸は、候補混合物と比較して、例えば標的に対する高い親和性に基づいて又はそれに対するより大きな力で標的分子に結合する。結合核酸を、その後、残りの混合物から分離する。場合により、このようにして得られた核酸を、例えばポリメラーゼ連鎖反応を用いて増幅する。これらの工程を数回反復して、最後に、標的に特異的に結合する核酸の高い比率を有する核酸の混合物を得、場合によりそこから最終的な結合核酸を選択する。これらの特異的に結合する核酸をアプタマーと称する。アプタマーの作製又は同定のための方法のいかなる段階でも、個々の核酸の混合物の試料を、標準手法を用いてその配列を決定するために採取し得る。アプタマーを、例えばアプタマーを作製する技術分野の当業者に公知である定義された化学基を導入することなどにより、安定化し得ることは本発明の範囲内である。そのような修飾は、例えばヌクレオチドの糖部分の2’位置にアミノ基を導入することであり得る。アプタマーは現在、治療薬及び診断薬の両方として使用されている。しかし、そのように選択又は作製されたアプタマーを、標的の確認のため及び/又は薬剤、好ましくは低分子に基づく薬剤の開発のための先導物質として使用し得ることも本発明の範囲内である。これは、実際には競合アッセイによって実施され、競合アッセイでは、標的分子とアプタマーとの間の特異的相互作用が候補薬剤によって阻害され、標的とアプタマーの複合体からのアプタマーの置換後、それぞれの薬剤候補物質は標的とアプタマーとの間の相互作用の特異的阻害を可能にし、相互作用が特異的である場合、前記候補薬剤は、少なくとも原理上、標的をブロックするのに適しており、したがってそのような標的を含むそれぞれの系においてその生物学的アベイラビリティー又は活性を低下させると推測され得る。そのようにして得られた低分子を、次に、毒性、特異性、生分解性及びバイオアベイラビリティーのようなその物理的、化学的、生物学的及び/又は医学的特性を最適化するためにさらなる誘導体化及び修飾に供し得る。
【0103】
本発明のさらなる側面は、本発明によるポリペプチド、不活化形態のHPGGT又はHPGGT、好ましくは、典型的には配列番号1に従ったアミノ酸配列を有する野生型のHPGGTに対するスピーゲルマーに関する。
【0104】
スピーゲルマーはアプタマーの特殊形態である。標的を用いて本発明に従って使用又は作製し得るスピーゲルマーの作製又は製造は、同様の原理に基づく。スピーゲルマーの製造は、WO98/08856に述べられている。スピーゲルマーはL−核酸であり、これは、それらが、D−ヌクレオチドで構成されるアプタマーと異なり、L−ヌクレオチドから成ることを意味する。スピーゲルマーは、生物系において非常に高い安定性を有し、アプタマーと遜色なく、それらが対象とする標的分子と特異的に相互作用するという事実によって特徴づけられる。スピーゲルマーを作製するには、D−核酸の不均一な集団を創製し、この集団を標的分子の光学的対掌体と、ここでは、例えば標的の天然に生じるL−鏡像異性体のD−鏡像異性体と接触させる。その後、標的分子の光学的対掌体と相互作用しないD−核酸を分離する。しかしながら、標的分子の光学的対掌体と相互作用するD−核酸を分離して、場合により測定及び/又は配列決定し、その後、D−核酸から得られた核酸配列情報に基づいて対応するL−核酸を合成する。標的分子の光学的対掌体と相互作用する前記D−核酸と配列に関して同一であるこれらのL−核酸は、標的分子の光学的対掌体ではなく天然に生じる標的分子と特異的に相互作用する。アプタマーの作製のための方法と同様に、様々な工程を数回反復し、標的分子の光学的対掌体と特異的に相互作用する核酸を冨化することも可能である。
【0105】
さらなる側面では、本発明は免疫原性組成物に関する。免疫原性組成物は、本発明によるポリペプチド及び/又は不活化形態のHPGGT、特にここで述べるような不活化形態のHPGGT、及び/又は野生型HPGGTの少なくとも1つを含む。本発明による前記ポリペプチド及び/又は前記不活化形態のHPGGT、特にここで述べるような不活化形態のHPGGT、及び/又は前記野生型HPGGTが、1つの実施形態では、免疫応答の惹起を可能にする又は促進する方法で宿主の免疫系にそれぞれの抗原を提示し、高力価の抗体を惹起するために、KLH又はキーホールリンペットヘモシアニン、BSA、オボアルブミン等のような担体物質に結合されることは了解される。
【0106】
本発明に関連して、免疫原性組成物がインビトロ又はインビボで使用できることは了解される。後者の場合そのような免疫原性組成物は、典型的にはワクチンであり、好ましくはそのようなワクチンとして製剤される。免疫原性組成物、及びそれぞれ免疫原性組成物を含有する薬剤及びワクチンは、好ましくは小児における、ピロリ菌感染の予防のため、又は、ピロリ菌感染及びそのような生物によって引き起こされるもしくはそのような生物に関連する何らかの疾患に罹患しているもしくは罹患する危険度が高い動物及びヒトの治療ならびに/又は予防のために使用できる。
【0107】
1つの実施形態では、本発明の免疫原性組成物は1又はいくつかのアジュバントを含む。好ましくは、アジュバントは、免疫系の全身性刺激を提供する物質である。アジュバントは当分野において公知であり、ポリカチオン性ポリマー、免疫刺激性デオキシヌクレオチド(ODN)、合成KLKペプチド、神経活性化合物、ミョウバン、フロイント完全又は不完全アジュバント、コレラ毒素を含むが、これらに限定されない。好ましくは、ポリカチオン性ポリマーはポリカチオン性ペプチドであり及び/又は神経活性化合物はヒト成長ホルモンである。
【0108】
さらなる実施形態では、免疫原性組成物は、Bab A、HpaA、Omp 18及びそれらの組み合わせのような、ピロリ菌の外膜タンパク質を含む。HpaA及びOmp 18は、例えばVoland p.et al.,Infection and Immunity,July 2003,p.3837−3843に述べられている。Bab A、HpaA及びOmp 18という用語が、完全長ポリペプチドだけでなく、そのいかなる免疫原性フラグメント又はペプチドも包含することは本発明の範囲内である。HpaAは、推定上のN−アセチルノイラミニルラクトース結合赤血球凝集素であり、Bab Aは、ルイス血液型抗原に結合する接着タンパク質である。他の抗原ならびに好ましくはタンパク質及びポリペプチド、及びそれらのそれぞれのフラグメントが、ピロリ菌に対する免疫応答を高めるために使用され得ることは了解される。それぞれ、本発明の1つの実施形態において使用され得る好ましいタンパク質及びポリペプチドは、典型的にはピロリ菌の外形質膜に組み込まれ、及び例えばイオン輸送、接着、構造的及び浸透圧安定性、及び細菌ビルレンスのために重要である、外膜タンパク質である。
【0109】
ピロリ菌から採取でき、本発明による免疫原性組成物の一部であり得るさらなる抗原は、米国特許出願公開第20070042448号に記載されているものである。
【0110】
不活化形態のHPGGT及び野生型HPGGTを含む、本発明のポリペプチド及びタンパク質、並びに動物又はヒトの身体への投与用のここで述べるいずれかの他の化合物は、好ましくは製剤されることが認識される。そのような製剤は当業者に公知である。1つの実施形態では、製剤は米国特許第6,838,089号に述べられているものである。この米国特許に述べられている製剤は、複数のポリマー粒子を含む送達システムであって、水不溶性タンパク質抗原がそのポリマー粒子と共に組み込まれており、ポリマー粒子は、1又はそれ以上のホモポリマー及び/又はコポリマーを含むマトリックスポリマーであり、その方法は以下を含む:(a)タンパク質のような水不溶性物質及びその臨界ミセル濃度の0.1〜100倍の濃度の1又はそれ以上の親水性界面活性剤を含む水相(W)を、タンパク質抗原を変性させない有機溶媒中にマトリックスポリマーを含む有機相(O)と混合して、W/O乳剤を生成すること、但しOはWと不混和性であり、W又はO又はその両方が、可溶化剤の存在下でW/O乳剤を安定化し、工程(b)の間のポリマー粒子内への水不溶性タンパク質の組込みを促進するために混合の前に添加される1又はそれ以上の安定剤をさらに含む、及び(b)乳剤を液体媒質に分散させることによって前記W/O乳剤の液滴を形成し、W/O乳剤液滴のO相から前記溶媒を除去して、水不溶性タンパク質抗原を組み込んだポリマー粒子を形成すること。
【0111】
さらなる実施形態では、ここで述べる作用物質及び化合物のための製剤及び送達物質は、米国特許第6,372,260号に述べられているようなミクロスフェアシステムである。
【0112】
本発明の1つの側面では、本発明によるポリペプチド、不活化形態のHPGGT、抗体、スピーゲルマー及びアプタマー、本発明に従ってこれらのいずれかを含む免疫原性組成物、医薬組成物は、好ましくはピロリ菌によって引き起こされる又はピロリ菌に関連する、より好ましくはピロリ菌感染によって引き起こされる疾患の予防及び/又は治療において使用される。1つの実施形態では、疾患は、ピロリ菌感染によって引き起こされる胃十二指腸障害である。さらなる実施形態では、疾患は、胃炎、特に慢性胃炎である。慢性胃炎は、胃又は十二指腸潰瘍、さらには胃癌及びMALTリンパ腫の病因に関与するので、本発明の方法及び上記作用物質はこれらの疾患を予防するために使用できる。また、例えば胃及び十二指腸潰瘍疾患及び(MALT)リンパ腫を治療するためにも使用できる。本発明によれば、一般的用語「治療」は、明白に異なる定義が為されない限り、病的障害の何らかの形態の治療・治癒(curing)、緩和、診断又は予防として使用される。
【0113】
本発明のさらなる態様では、及びリンパ球増殖、特にT細胞増殖へのその抑制作用に関して、HPGGTは宿主において免疫抑制を引き起こし、したがって新規免疫抑制剤として適用され得る。免疫抑制剤は、例えば移植後の臓器移植拒絶反応の危険性を低減するため、又は慢性関節リウマチ、クローン病又はアトピー性湿疹のような自己免疫疾患の治療のために使用できる。HPGGTの触媒活性は、γ−グルタミルのための供与体/受容体として機能するためにグルタミンの存在を必要とする。そこで、HPGGTを含有する免疫抑制剤組成物は、好ましくはグルタミンをさらに含む。
【0114】
さらに、発明者は、リンパ球増殖アッセイのために適用される細胞培養基の、グルタミン、ロイシン及びヒスチジン及び活性HPGGTとのプレインキュベーションが、HPGGTがその後不活性化されたときでも、T細胞に対する抗増殖作用を示すことを明らかにすることができた。よって、免疫抑制作用はHPGGT依存性であると結論された。しかしながら、酵素反応のまだ同定されていない直接又は間接産物が作用の形態に関わっている。したがって、本発明の1つの実施形態は、好ましくは医薬的に許容されるインキュベーション培地内で、HPGGTとグルタミン、ロイシン及びヒスチジンをインキュベートし、HPGGT特異的反応を可能にすることによって得られる免疫抑制組成物に関する。この反応の上清は、その後、適切な免疫抑制組成物として適用され得る。好ましくは、この組成物は、そのような基質へのグルタミンの転移によって生成されるグルタミル−ペプチド、例えばポリ−グルタミル−グルタメート又はグルタミル誘導体を含む。
【0115】
この態様に関して使用されるHPGGTが、ここで述べる特異的酵素活性を有する何らかのHPGGTであることは本発明の範囲内である。HPGGTという用語が野生型HPGGT、完全長HPGGT及び何らかの誘導体、より詳細にはこの種の酵素活性を有する何らかのフラグメントを包含する。そのような誘導体及びフラグメントは、当分野において周知の方法を使用することにより、当業者によって生産され得る。
【0116】
ここで好ましく使用されるように、リンパ球の増殖を促進するという用語は、好ましい実施形態では、リンパ球の活性化及び増殖を促進することを意味する。
【0117】
さらなる態様では、本発明は、HPGGT、より詳細には分泌配列(シグナルペプチド)を欠く又は非機能性の分泌配列を有する組換えHPGGTを生産する方法に関する。機能的分泌配列、すなわちアミノ酸1〜26、26位と27位の間の切断部位:LSA−ASを欠くそのようなHPGGTは、そのようなHPGGTが宿主細胞における生産の間にそのような宿主細胞から分泌されない限りにおいて好都合である。この態様に関して、宿主生物は、好ましくは大腸菌のような原核生物であるが、それらに限定されない。
【0118】
当業者は、機能的分泌配列を欠くそのようなHPGGTを作製する方法を認識する。例えばこれは、タンパク質をコードする遺伝子を分泌リーダー配列なしで発現することによって達成され得る。そのような改変されたHPGGTタンパク質はまだその宿主細胞内にとどまり、それにより、そこから精製することができる。
【0119】
さらなる態様では、本発明は、抗体の作製のための本発明によるポリペプチド及び本発明に従った不活性HPGGTの使用に関する。密接に関連する態様では、抗体の作製のために動物を免疫化するため、及び当業者に公知であるように、ハイブリドーマ細胞系の作製のためにそれぞれスターター細胞及び細胞系を提供するために使用される。そのようなハイブリドーマはさらに培養され、さらに選択され得ることが当業者に認識される。したがって、本発明によるポリペプチド及び本発明による活性及び不活性HPGGTが、本発明によるポリペプチド及び本発明による不活性HPGGTに対する及び/又はそれらと特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を同定するためのスクリーニングアッセイにおいて使用されることも本発明の範囲内である。詳細には、ハイブリドーマは、HPGGTの触媒及び阻害機能を無効にする抗体を産生するハイブリドーマを同定するためにHPGGT活性アッセイをスクリーニングに適用することによって選択され得る。
【0120】
さらなる態様では、本発明は、本発明によるポリペプチド及び本発明による不活性HPGGTをコードする核酸に関する。そのような核酸を発現する宿主生物における遺伝暗号、及び場合によりコドン使用頻度を知ることにより、当業者がそのような核酸を作製し得ることは当業者に認識される。さらなる態様では、核酸は、ベクター、好ましくは発現ベクター内に含まれる。1つの実施形態では、ベクターという用語は、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ及び遺伝子工学の分野で通常使用される他のベクターを含む。尚さらなる態様では、本発明は、そのようなベクターを含む宿主生物に関する。1つの実施形態では、宿主生物、特に宿主細胞は、本発明の核酸分子又はベクターを一過性に又は安定に含む組換え宿主細胞である。宿主細胞又は宿主生物は、インビトロで組み換えDNAを受け入れることができ、場合によっては、本発明の核酸分子によってコードされるタンパク質を合成することができる生物であると理解される。好ましくは、これらの細胞は、原核又は真核細胞、例えば哺乳動物細胞、細菌細胞、昆虫細胞又は酵母細胞である。本発明の宿主細胞は、好ましくは本発明の導入核酸分子が形質転換細胞に対して異種である、すなわち天然ではこれらの細胞において生じない又は対応する天然に生じる配列とは異なるゲノム内の位置に局在するという事実によって特徴づけられる。
【0121】
本発明のさらなる実施形態は、HPGGT、好ましくは通常生じる分泌配列が除去されているか又は非機能性であるHPGGTの生物学的性質を示し、及び本発明の核酸分子によってコードされる単離タンパク質、並びに、例えば本発明の宿主細胞を、前記タンパク質の合成を可能にする条件下で培養し、その後タンパク質を培養細胞及び/又は培養基から単離することによる、前記タンパク質の生産のための方法に関する。組換え生産されたタンパク質の単離と精製は、分取クロマトグラフィー、及びモノクローナル又はポリクローナル抗体によるアフィニティークロマトグラフィーを含むアフィニティー及び免疫学的分離を包含する従来の手段によって実施される。ここで使用されるように、「単離タンパク質」という用語は、それが天然に結合している他のタンパク質、核酸、脂質、炭水化物又は他の物質を実質的に含まないタンパク質を包含する。そのようなタンパク質は、しかし、組換え生産されたタンパク質を含むのみならず、単離された天然に生じるタンパク質、合成生産されたタンパク質又はこれらの方法の組み合わせによって生産されたタンパク質を包含する。そのようなタンパク質を作製するための手段は当分野において広く理解されている。本発明のタンパク質は、好ましくは実質的に精製された形態である。
【0122】
そこで、本発明はまた、原核又は宿主細胞において、外部から適用されたとき前記細胞に対して有害であるタンパク質を作製する一般的方法であって、(a)分泌シグナル配列を欠失している又は非機能性分泌シグナル配列を有する前記タンパク質をコードする核酸配列でトランスフェクトした宿主細胞を、前記タンパク質が発現される条件下で培養することと、(b)前記タンパク質を細胞から回収することと、を含む方法に関する。これはまた、前記細胞から回収され得る、本発明によるポリペプチドをコードする核酸でトランスフェクトした宿主細胞にも当てはまる。
【0123】
本発明による抗体、アンチカリン、ペプチドアプタマー、アプタマー及びスピーゲルマーが、好ましくはヘリコバクターピロリのγ−グルタミルトランスペプチダーゼ(HPGGT)に対するリガンドとみなされ得ることは了解される。
【0124】
本発明の範囲内で、野生型HPGGTという用語又は同様の表現は、好ましくは、分泌配列を欠くが触媒的に活性である、より詳細にはHPGGTに関してここで述べる酵素反応を触媒する、野生型のHPGGTを指す。
【0125】
本発明を、ここで図面及び実施例によってさらに説明し、それらからさらなる特徴、実施形態及び利点が理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】図1Aは、Kim et al.及びBumann et al.9,10に従った、分子量30〜66kDaを有するピロリ菌からの分泌タンパク質を示す表である。図1Bは、サイズ排除クロマトグラフィーからの溶出分画中のタンパク質を示す銀染色後のSDS−PAGEであり、b−fの分画だけがヒトT細胞の増殖を阻害し、他のすべての分画は増殖を阻害しなかった。分画の阻害プロフィールに対応するタンパク質バンドを矢印で示す。図1Cは、実施例1で述べる分光光度アッセイによって測定したゲルろ過分画の酵素GGT活性を示す棒グラフである。(HP=ピロリ菌)
【図2】H−チミジン取込みアッセイによって測定した、指示されているHPSNの存在下又は不在下での刺激PBMC(A)及び単離一次ヒトTリンパ球(C)の細胞増殖を示す棒グラフである。構築したノックアウト菌株のGGT表現型を、酵素活性アッセイ及び大型GGTサブユニットに対して惹起したポリクローナル抗体を使用した免疫ブロット法によって確認した(B)。免疫ブロット法のためにHPSNのタンパク質30μgを使用した。抗VacA抗体による免疫ブロットを負荷対照として使用した(挿入図参照)。データは3回の独立した実験の平均±標準偏差(SD)を示す。スチューデントt検定によって決定したP値<0.001を有意とみなした。(HP=ピロリ菌、SN=上清、WT=野生型)
【図3】図3A及び図3Bは、GGTの大型サブユニットに対する抗GGT抗体による精製組換えHPGGT分画の銀染色(A)及び免疫ブロット法(B)後のゲルがGGTのプロセシングを示すことを明らかにする。星印は以下を示す:***プロ形態、**大型及び小型サブユニット。図3C〜図3Eは、大腸菌において発現された組換えHPGGT(rHPGGT)によるヒトPBMCの酵素活性(C)及び増殖阻害(D)を示す棒グラフである。対照として使用した大腸菌からのLPSはPBMCの増殖を阻害しなかった。組換えHPGGTは、pH2〜10で触媒活性を示した(E)。データは3回の独立した実験の平均±標準偏差(SD)を示す。スチューデントt検定によって決定したP値<0.001を有意とみなした。(FT=フロースルー、HP=ピロリ菌)
【図4】ウマ腎臓からの精製GGTは触媒GGT活性を示すが(A)、リンパ球に対する増殖阻害作用を欠く(B)ことを示す棒グラフである。Ser451/452(S451/452A)における組換えHPGGTの部位指定突然変異誘発は、GGT酵素活性(A)及び阻害作用(B)を無効にした。37℃で2時間のアシビシン(50μM)とHPWTSNのプレインキュベーションは、GGT活性(C)及びPBMC増殖の阻害(D)を無効にした。データは3回の独立した実験の平均±標準偏差(SD)を示す。スチューデントt検定によって決定したP値<0.05を有意とみなした。(HP=ピロリ菌、SN=上清、WT=野生型)
【図5A.5B】実施例で述べるように24時間後にELISAによって測定したPBMCによるサイトカインIL−2(A)及びIFN−γ(B)の産生を示すグラフである。データは3回の独立した実験の平均±標準偏差(SD)を示す。スチューデントt検定によって決定したP値を示す。
【図5C】指示されているように24時間処理し(灰色の曲線)、アネキシンV−FITC及びヨウ化プロピジウムで染色したジャーカットT細胞のFACS分析の結果を示す。アポトーシスしたジャーカットT細胞の割合を、FACS分析によって10000事象を取得して測定した。陽性対照として使用した抗癌剤、スタウロスポリン(白色の曲線)は、1μMの濃度でアポトーシスを強力に誘導した。(HP=ピロリ菌、WT=野生型)
【図6A】指示されているHPSNと共に又はHPSNなしで24時間処理したジャーカットT細胞の細胞周期分析の結果を示す。G1期(左下)、初期及び後期S期(左上及び右上)及びG2期(右下)の細胞のパーセンテージが示されている(y軸:BrdU−FITC;x軸:PI)。細胞周期調節タンパク質の細胞レベルを同じ細胞において免疫ブロット法によって測定した。
【図6B】種々の濃度のHPWT及びHPΔGGTSN又はrHPGGTと共に24時間及び48時間インキュベートし、その後溶解した10PBMCから得られたタンパク質のSDS−PAGEを示す。全タンパク質35μgをSDS−PAGEによって分離し、免疫ブロット法によって分析した。指示されているタンパク質のレベルを、対応する抗体を用いて測定した。データを2回再現し、同様の結果を得た。(HP=ピロリ菌、SN=上清、WT=野生型)
【図7】ピロリ菌陽性(レーン1〜9)及び陰性(レーン10〜14)患者からの血清の免疫ブロットであり、患者を、実施例1で述べるように免疫ブロット法によってHPGGTに対する抗体の存在に関して試験した。ウサギ抗GGT抗体(αGGT)を陽性対照として使用した。星印は以下を示す:***HPGGTタンパク質のプロ形態及び**大型サブユニット。
【図8】HPGGTによるリンパ球増殖の阻害がグルタミンに依存し、グルタメート又はg−グルタミルグルタミンによって又はグルタミン枯渇によって媒介されるのではないことを示す棒グラフである。PBMCをPMA/イオノマイシンで刺激し(基礎を除くすべて)、指示されているように処理した。2μg/mlで使用したRek.HPGGTを24時間後に不活化した。次に培地を交換し、HPGGT処理した培地を刺激後のPBMCに添加した。グルタミンを同時に(図示しない)又はグルタミン枯渇の可能性を検討するために24時間後に2mMで添加した。阻害作用の可能性を検討するためにPBMC刺激後にグルタメート又はg−グルタミルグルタミンを添加した。グルタミンに対する阻害作用の依存性を示すためにグルタミンを含まない(w/o)アミノ酸を使用した。
【図9】HPGGTの酵素活性に対する免疫化された又は感染マウスからの血清の阻害作用を示すグラフである。マウスを指示されている製剤で免疫するか又は対照としてPBSを与えるか又は生ピロリ菌に感染させた。免疫化又は感染の6週間後に尾静脈から血清を採取し、GGT触媒活性に対する阻害活性に関して検定した。CT_GGT、可溶性CT及び不活性GGTタンパク質、[CT_GGT]enc、CT及び不活性GGTタンパク質は、ミクロスフェアに封入された。
【実施例1】
【0127】
実験材料及び方法
細菌培養。この試験で使用したピロリ菌野生型株G27 WT(vacAcagA)はA.Covacci(IRIS,Siena,Italy)より入手した。細菌を、先に述べられているように29Dent supplement antibiotic mix(Oxoid,Wesel,Germany)を添加したウィルキンス‐チャルグレン(Wilkins−Chalgren)又はブレインハートインフュージョン(Brain−Heart−Infusion)(BHI)プレートで培養した。HPの液体培養を、10%FCS(Sigma,Munich,Germany)及び1%Dent supplementを添加したBHIブロにおいて実施した。HP上清の生成のために、細菌をプレートで48時間増殖させ、リン酸緩衝食塩水(PBS)で3回洗浄し、1のOD600nm(約2×10細菌/mlに相当する)に調整した。細菌を、微好気的条件下で強く振とうしながらPBS中で2時間インキュベートし、その後の、細菌と膜を除去するための3000×g及び10000×gでの遠心分離工程によってペレット化した。その後、限外ろ過(Amicon Ultra MWCO 10kDa,Millipore,Schwalbach,Germany)を用いて上清を濃縮した。上清の総タンパク質含量を、ウシ血清アルブミンを標準品としてBradfordアッセイ(Bio−Rad Laboratories,Richmond,VA)によって測定し、−80℃で保存した。大腸菌をルリアブロス(LB)寒天プレート(USB,Cleveland,OH)で培養し、液体培養については適切な抗生物質を添加したLBブロス(USB)中で培養した。
【0128】
ピロリ菌上清のゲルろ過クロマトグラフィー。ピロリ菌野生型株G27からの上清を上述したように調製した。サイズ排除クロマトグラフィーを以前に述べられているように実施した。簡単に述べると、タンパク質500μgをSuperdex 200 10/300カラム(GE Healthcare,Munich,Germany)に負荷し、4℃にて脱気したPBSで溶出した。標準タンパク質α−アミラーゼ(200kDa)、アルコールデヒドロゲナーゼ(150kDa)、ウシ血清アルブミン(66kDa)及びカルボニックアンヒドラーゼ(29kDa)を溶出タンパク質の分子量評価のために使用した。各々の分画を増殖阻害及び以下で述べるGGT活性に関して試験した。
【0129】
GGT突然変異株の作製。GGT k.o.プラスミドを自然形質転換によってピロリ菌株G27に形質転換した。形質転換体を、25μg/mlカナマイシン(Sigma)を含む寒天プレートでインキュベートした。3日後、クローンを採取し、カナマイシンを含む新鮮寒天プレートに塗布した。プラスミドの挿入を、細菌DNAのPCR(プライマー:センス5’−AAACGATTGGCTTGGGTGTGATAG−3’(配列番号6);アンチセンス5’−GACCGGCTTAGTAACGATTTGATAG−3’(配列番号7))及びピロリ菌△GGT上清からのタンパク質のウエスタンブロット法によって確認した。
【0130】
細胞培養。末梢血リンパ球(PBMC)の単離を以前に述べられているように実施した。すべての細胞を37℃、5%COでインキュベートした。ジャーカットT細胞及びPBMCを、10%FCSを含むRPMI 1640(Invitrogen,Karlsruhe,Germany)で培養した。EL−4 T細胞を、10%ウマ血清(Cambrex,Verviers,Belgium)を添加したDMEM(Invitrogen)で培養した。
【0131】
一次ヒトリンパ球の単離。一次ヒトT細胞を、Pan T cell Isolation Kit II(Miltenyi Biotech,Bergisch Gladbach,Germany)を製造者の指示に従って使用して、ピロリ菌非感染健常志願者からのバフィーコート又はヘパリン化末梢静脈血から陰性選択によって単離した。
【0132】
細胞増殖アッセイ。細胞(10PBMC、精製一次T細胞又は10ジャーカット/EL−4細胞/穴)を96穴平底プレートにて完全培地中で培養した。PBMCをPMA(20ng/ml;Sigma)及びイオノマイシン(100ng/ml;Sigma)で3回刺激し、すべての細胞を、指示されている総タンパク質濃度のピロリ菌上清又は組換えタンパク質と共に又はそれらなしで増殖させた。一次ヒトT細胞を、上述したようにPMA/イオノマイシンで又は1ビーズ/T細胞の抗−CD3/CD28ビーズ(Invitrogen)で刺激した。細胞増殖を、48時間後にPackard Direct Beta Counter Matrix 9600(Packard Instruments Co.,Downer’s Grove,IL)を使用してメチル−[H]−チミジン(GE Healthcare)取込みによって測定した。
【0133】
組換えタンパク質の作製。ピロリ菌のGGTタンパク質を、製造者の指示に従って(Qiagen,Hilden,Germany)6×Hisタグタンパク質として発現させた。ピロリ菌からのGGTタンパク質のコード領域をPCR(プライマー センス:5’−TGAAAGGAAAACCCATGGGACGGAG−3’(配列番号8);アンチセンス:5’−CAAAGGTACCAAATTCTTTCCTTGG−3’(配列番号9))によって増幅した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分離し、ゲル抽出(Qiagen)によって精製した。それを次にNcoIとKpnI(New England Biolabs,Ipswich,MA)で制限し、続いて再精製後にpQE−Tri Systemベクター(Qiagen)に連結した。生じたベクターを大腸菌株M15に形質転換した。100μg/mlアンピシリン(Sigma)及び25μg/mlカナマイシンを添加したLBブロスに形質転換細菌の一晩培養物を接種し、OD600が0.6に達するまで強く振とうしながら37℃で増殖させた。最終濃度1mMのイソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG;Applichem,Darmstadt,Germany)を添加することによって組換えHPGGTの発現を誘導し、封入体の量を最小限に抑えるために25℃で4時間実施した。その後全培養物を4℃で10分間遠心分離した(5000×g)。非変性条件下での溶解のために、ペレットを、プロテアーゼ阻害剤(Hisタグタンパク質のためのプロテアーゼ阻害剤カクテル、Sigma)を含む氷冷結合緩衝液(20mMトリス/HCl、500mM NaCl、20mMイミダゾール(Sigma)、pH7.4)に可溶化した。次に液体N中での2回の凍結/解凍サイクル及びその後の氷上での超音波処理(氷上で5分間の休止をはさんで1分間の超音波処理を2回)によって細胞を溶解した。10分間の遠心分離(4℃で17500×g)後、上清をDNA及びRNA消化に供した。さらなる遠心分離工程(4℃、22000×gで10分間)後、上清を精製のために調製した。最初の精製工程では、5ml HisTrapHPカラム(GE Healthcare)を使用した。室温で精製を実施し、全体を通じて試料を氷上に保持した。大腸菌の溶解産物を1ml/分でNi−セファロースカラムに負荷し、フロースルーを収集した。試料負荷後、カラムを10カラム容量(cv)の結合緩衝液、10cv洗浄緩衝液(20mMトリス/HCl、900mM NaCl、20mMイミダゾール、pH7.4)及びもう一度10cv結合緩衝液で洗浄した。結合タンパク質を、段階イミダゾール勾配(100mM段階)を用いて溶出緩衝液(20mMトリス/HCl、500mM NaCl、100〜1000mMイミダゾール、pH7.4)で溶出した。溶出液を勾配の段階につき1分画で収集した。次に各々の分画をGGT酵素活性に関して試験し、SDS−PAGE及び免疫ブロット分析に供した。組換えHPGGTのさらなる精製のために、Ni−セファロースアフィニティークロマトグラフィーからの酵素的に活性な分画をプールし、4℃で20mMトリス/HCl pH7.5に対して透析して、2回目の精製工程に供した。透析した試料をAffi−Gel(登録商標) Blue(BioRad)カラム(cv:12.3ml)に負荷した。カラムを2cvの結合緩衝液で洗浄し、結合タンパク質を、段階NaCl勾配(50mM段階)を用いて溶出緩衝液(20mMトリス/HCl、50〜1000mM NaCl、pH7.5)で溶出した。収集したすべての分画を、抗GGT抗体(以下参照)を用いた免疫ブロット法によって又はGGT酵素活性アッセイ(以下参照)によって組換えHPGGTの存在に関して分析した。活性分画をプールし、4℃で90分間、20mMトリス/HCl pH7.5に対して透析して、アリコートに分け、さらなる使用時まで−80℃で保存した。
【0134】
部位指定突然変異誘発。HPGGTの部位指定突然変異誘発を、製造者のプロトコールに従ってQuikChange 部位指定突然変異誘発キット(Stratagene,Amsterdam,The Netherlands)で実施した。プライマー配列は以下の通りであった:S451/452Aセンス:5’−CCAATAAGCGCCCTTTAGCCGCCATGTCGCCTACGATTGTG−3’(配列番号10);S451/452Aアンチセンス:5’−CACAATCGTAGGCGACATGGCGGCTAAAGGGCGCTTATTGG−3’(配列番号11)。突然変異誘発の成功を配列決定によって確認した。
【0135】
免疫ブロット法。免疫ブロット分析のために10ジャーカットT細胞又はPBMCを使用した。実験の前に、ジャーカット細胞を、0.2%FCSを含む培地で18時間血清飢餓させた。その後、10%FCSで細胞を放出させ、記述されているように処理した。指示されている時点で、細胞を採集し、氷冷PBSで1回洗浄して、プロテアーゼ阻害剤(2.5mMピロリン酸ナトリウム、1mM β−グリセロリン酸、1mM NaVO、1μg/mlロイペプチン、1mM PMSF;Sigma)を含む1×溶解緩衝液(Cell Signaling Technology,Danvers,MA)に再懸濁し、氷上で30秒間、マイクロチップソニファイアーで超音波処理した。溶解産物を4℃で10分間、10000×gで遠心分離し、上清を免疫ブロット法のために使用した。等量のタンパク質(Bradfordアッセイによって測定した、BioRad)をトリシン−SDS−PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜(BioRad)に電気転移した。検出のために、膜を一次抗体、抗p27、抗サイクリンD3、抗サイクリンE、抗c−Myc(Dianova,Hamburg,Germany)、抗Cdk2(Santa−Cruz Biotechnology,Heidelberg,Germany)、抗ホスホAKT(Ser 473)、抗ホスホc−Raf(Ser 338)、抗ホスホp70S6K(Thr 389;Cell Signaling)、抗ホスホFKHRL1/Foxo3(Thr 32;Upstate,Lake Placid,NY)、抗アクチン(Sigma)及び抗VacA(Austral Biologicals,San Ramon,CA)でプローブした。適切なペルオキシダーゼ結合二次抗体(Dianova)及び化学発光試薬(Perbio Science,Bonn,Germany)を用いて一次抗体の結合を明らかにした。HPGGTタンパク質の大型サブユニットの検出のために、HP 1118遺伝子産物のアミノ酸残基356〜371を含む合成ペプチドIQPDTVTPSSQIKPGM(Charles River,Kisslegg,Germany)に対して挙げられたポリクロナールウサギ抗GGT抗体を使用した。
【0136】
血清ブロット法。ヒト血清におけるHPGGT特異的抗体の検出のために、精製組換えHPGGTタンパク質0.1μgを上述したようにSDS−PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜に移した。膜をPonceau S溶液(0.2%Ponceaus S、HO中3%トリクロロ酢酸)で染色し、細片に切断した。ブロッキング(1×TBS+5%低脂肪粉乳)後、各々の細片をそれぞれピロリ菌感染患者及び非感染患者の血清(ブロッキング緩衝液で1:20000希釈)と共に4℃で攪拌しながら一晩インキュベートした。洗浄後、膜細片をHRP結合抗ウサギ二次抗体(Dianova;1:10000希釈)と共にインキュベートし、最後に、再度の洗浄工程後、HPGGTタンパク質への血清抗体の結合を上述したような化学発光反応によって明らかにした。患者のピロリ菌感染の状態を従来のピロリ菌IgG ELISAを用いて評価した。
【0137】
細胞周期分析。分析の前に、ジャーカットT細胞(5×10細胞/分析)を、0.2%FCSを含む培地で18時間血清飢餓させた。10%FCSで細胞を放出させ、指示されているピロリ菌株の上清で24時間処理した後、FITC結合抗BrdU抗体(BD Bioscience,Heidelberg,Germany)を使用し、製造者のプロトコールに従って、BrdU−FITC/PI(Sigma)染色によって細胞周期分析を実施した。その後の蛍光活性化セルソーター(FACS)分析において、Becton−Dickinson FACScanフローサイトメーターを使用して10000事象を取得した。Cell Questソフトウエアパッケージ(BD Biosciences)を用いてデータを解析した。
【0138】
γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)活性アッセイ。GGT活性についてのアッセイを、Meister et al.27の方法から適合させた。簡単に述べると、受容体としての20mMグリシルグリシン(Sigma)、供与体基質としての2.5mM L−γ−グルタミル−p−ニトロアニリド(Calbiochem,Schwalbach,Germany)及び100mMトリス−HCl(pH8.0)から成る反応緩衝液を調製した。一部の実験では、アッセイ緩衝液のpHを2〜10の間で変化させた。種々のピロリ菌株、精製組換えHPGGT又はウマ腎GGT(Sigma)の上清を添加し、37℃で30分間反応を進行させた。p−ニトロアニリドの放出を405nmで分光光度法によって観測した。活性の1単位は、37℃で1分当たり及びタンパク質1mg当たりにp−ニトロアニリド1μmolを放出する酵素の量と定義した。
【0139】
ELISA。PBMC(各々5×10)を表示されているように24時間処理した。指示されている時点で遠心分離によって細胞を除去し、上清を、ELISAにより製造者の指示に従ってIL−2(eBioscience,San Diego,CA)及びIFN−γ(Biosource,Solingen,Germany)の量に関して分析した。検出の下限は4pg/mlであった。
【0140】
アポトーシスの分析。5×10のジャーカットT細胞を指示されているように処理した。24時間後、細胞を遠心分離によって採集し、洗浄して、アネキシンV結合緩衝液(10mM HEPES/NaOH、pH7.4、140mM NaCl、2.5mM CaCl)500μlに再懸濁し、暗所にて室温で組換えアネキシンV−FITC(Caltag,Burlingame,CA)5μl及び0.5μg/ml PIで各々10分間染色した。アポトーシス細胞をFACS分析によって測定した(上記参照)。Cell Questソフトウエアを用いてデータを解析した。
【0141】
統計。データは、平均±標準偏差(SD)として提示している。統計解析のためにスチューデントt検定を使用した。P値<0.05を有意とみなした。
【実施例2】
【0142】
ピロリ菌の推定上のT細胞増殖阻害タンパク質としてのGGTの同定
ピロリ菌から分泌される低分子量タンパク質はTリンパ球の増殖を阻害することが以前に示された。免疫抑制因子を同定するため、ピロリ菌株G27からの上清に関するサイズ排除クロマトグラフィーを実施した。先の研究と一致して、30〜66kDaの分子量で溶出する分画だけがリンパ球の増殖を阻害し、他のすべての分画はリンパ球の増殖を阻害しなかった(データは示していない)。
【0143】
2つの独立したグループが以前に、種々のプロテオミクス手法によって分泌ピロリ菌タンパク質の体系的分析を実施した9,10。これらのデータを使用して、30〜66kDaの分子量を有するすべての分泌ピロリ菌タンパク質を列挙した(図1A)。得られたクロマトグラフィー分画のタンパク質をSDS−PAGE及び銀染色によってさらに分析した(図1A)。分画の阻害活性プロフィールに一致する溶出プロフィールを示す、30〜66kDaの大きさの4つの潜在的候補物質を認めた(図1B;矢印で示している)。阻害分画中の他のすべてのタンパク質バンドは非阻害分画にも存在し、したがってT細胞増殖の阻害の原因ではあり得なかった。4つの候補タンパク質のうち2つの分子量は(図1B)、分泌ピロリ菌タンパク質γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT、HP1118)のフラグメントに対応する。60kDaの1番目のバンドはGGTのプロ形態(分子量61kDa)を示すと考えられ、38kDaの他方のバンドはGGTの大型サブユニットを示すと考えられる11。これらの上清分画における触媒的に活性なHPGGTの存在を調べるため、分光光度GGT活性アッセイを実施した。図1Cは、リンパ球増殖を阻害する分画(b−f)だけが同時にGGT活性を示すことを明らかにする。
【実施例3】
【0144】
GGT欠損ピロリ菌突然変異化物はT細胞増殖を阻害する能力を欠く。
GGTが認められたリンパ球増殖阻害の原因であるかどうかを判定するため、ピロリ菌の同系GGTノックアウト突然変異株を作製した。突然変異株は、他のグループによって述べられているようにインビトロで正常に増殖し、GGTがピロリ菌の生存のために必須ではないことを示唆した11、12、13。これらの突然変異株の上清を、対応する野生型菌株と比較して、抗CD3/CD28又はPMA/イオノマイシンで刺激した単離ヒトT細胞及びPBMCに対するそれらの増殖阻害活性に関して試験した(図2A、2C)。野生型菌株と異なり、一次ヒトT細胞及びPBMCに対する△GGT細菌の阻害潜在能は完全に廃止された。GGTの自発的組換え及び活性化を排除するため、GGT欠損細菌からの上清を、酵素活性を測定することによって及びHPGGTの大型サブユニットに対して惹起したポリクローナル抗体を使用した免疫ブロット法によって確認した。負荷対照は、野生型及びGGT欠損細菌からの上清において分泌VacAタンパク質の存在を示す(図2B)。したがって、GGTはヘリコバクターピロリによるT細胞増殖の阻害の原因である。
【実施例4】
【0145】
組換えHPGGTはリンパ球の増殖を阻害する。
認められた阻害がHPGGTによってのみ媒介されることをさらに示すため、大腸菌において組換えHisタグHPGGTタンパク質を発現させた。タンパク質を、「実験材料及び方法」の章で述べたようにクロマトグラフィーによって精製し、均質にした。SDS−PAGE及び銀染色並びに免疫ブロット法は、組換えHPGGTがプロ形態として合成され、その後分子量約38及び約20kDaの分子量を有する大形及び小型サブユニットにそれぞれプロセシングされることを指示した(図3A,B)。組換えタンパク質は強力なGGT活性を示し(図3C)、PBMC増殖を効率的に阻害した(図3D)。加えて、さらなる実験は、2〜10のpH範囲でHPGGTの触媒活性を示し(図3E)、感染部位における機能的酵素の存在を裏付けた。
【実施例5】
【0146】
HPGGTの阻害作用は触媒的GGT活性に依存する。
GGTはまた、ヒトT細胞を含む哺乳動物細胞によっても発現されるので、哺乳動物GGTもリンパ球増殖を阻害するかどうかを判定することを試みた。ウマ腎からの精製GGTは触媒活性を示した(図4A)。しかし、HPGGTと比較して4倍高い量のウマGGTはPBMC増殖を阻害することができなかった(図4B)。GGT触媒的トランスペプチダーゼ活性がT細胞増殖の阻害のために必要とされるかどうかを探索するため、我々は組換えタンパク質の突然変異体を作製した。我々は、セリン残基451及び452のアラニンへの突然変異誘発(S451/452A)は組換えHPGGTの酵素活性を完全に廃止し(図4A)、同時にリンパ球増殖の阻害も無効にする(図4B)ことを認めた。
【0147】
これらの結果を確認するため、組換えHPGGT及びピロリ菌野生型株G27からの上清をGGT阻害剤、アシビシンと共にプレインキュベートした。この化合物は、GGTの不可逆性で競合的な阻害剤として働く。アシビシンによるGGTの阻害は、GGTの特定ヒドロキシル基に結合した阻害種における酵素への結合後のその形質転換を含むことが示された14,15。酵素GGT活性の測定及びリンパ球増殖の測定は、アシビシンによる前処理がピロリ菌野生型上清によるGGT活性(図4C)及びPBMC増殖の阻害(図4D)を完全に抑制することを示した。同様の結果が組換えHPGGTに関して得られた(データは示していない)。
【実施例6】
【0148】
HPGGTは、IL−2及びIFN−γの分泌を低下させることなく及びアポトーシスを誘導することなくリンパ球増殖を阻害する。
これまで、宿主の免疫応答の抑制におけるHPGGTの役割については全く知られていなかった。ここで報告するHPGGTによるリンパ球増殖阻害は、ヒトPBMCのサイトカイン分泌への干渉から生じると考えられる。この仮説を調べるため、細胞をPMA及びイオノマイシンで刺激し、種々の濃度のピロリ菌野生型及び△GGT上清又は組換えHPGGTと共に又はそれらなしで24時間インキュベートした。刺激した対照と比較して、これらの処理のいずれもが、リンパ球の増殖のために必須であることが知られる、IL−2分泌の低下を導かなかった(図5A)。加えてIFN−γの分泌も低下しなかった(図5B)。したがって我々は、HPGGTによるT細胞増殖の阻害がこれらの細胞の活性化低下によって引き起こされるのではないことを示す。これまでの報告は、胃上皮細胞でのHPGGTによる酸化的ストレス及びアポトーシスの誘導を示唆した12,16。しかし、ピロリ菌からのGGTのリンパ球に対する作用については不明である。
【0149】
さらなる報告は、ピロリ菌によるT細胞でのアポトーシスの誘導を、細菌によるT細胞増殖の阻害についての機構として示唆した(Wang et al.,J Immunol 2001)。アポトーシスがここで述べるHPGGTによるリンパ球増殖の低下の原因である可能性を検討するため、ジャーカットT細胞を使用したアネキシンV−FITC/PI染色及びその後のFACS分析を実施した(図5C)。リンパ球増殖の強力な阻害を引き起こす濃度で使用したピロリ菌野生型及び△GGT株又は組換えHPGGTからの上清のいずれもが、アポトーシスの上昇を誘導しなかった。したがって、HPGGTによるT細胞増殖の排除はアポトーシス非依存性機構によって媒介される。
【実施例7】
【0150】
T細胞における細胞周期進行へのHPGGTの作用
次に我々は、T細胞の増殖に関わる細胞過程へのHPGGTの作用をさらに特性決定することを試みた。BrdU/PI染色を用いた分析は、野生型によってジャーカットT細胞におけるG1細胞周期の停止が誘導されるが、ピロリ菌からのGGT欠損上清では細胞周期の停止が誘導されないことを示した(図6A)。この停止は、ピロリ菌GGTの存在下でのG1期の細胞の35%から46%への増加(図6A;左下象限)を特徴とした。したがって、野生型による処理においてはS基の細胞の量(左上及び右上象限)が対照(基礎、55%)と比較して38%に低下したが、ピロリ菌のGGT欠損上清では低下しなかった。これと一致して、同じ試料の免疫ブロット分析は、細胞サイクリンD3並びにE1タンパク質レベルの顕著な低下を明らかにした。加えて、Cdk阻害剤p27Kiplの量がGGT依存的に増加した(図6A)。10μg/mlと5μg/mlのHP野生型上清で処理した細胞の間でのサイクリンタンパク質レベルの差は、リンパ球増殖に拮抗するためにはGGT活性の閾値を上回らなければならないことを指示する。これは明らかに、上清中の総タンパク質10μg/mlの濃度に該当する。5μg/mlというより低い濃度では、GGTがリンパ球において細胞周期進行を阻害するためにより長い時間を要する。組換えHPGGTタンパク質を使用して、我々は2μg/mlという低濃度でサイクリンレベルの完全な低下を認めた。
【0151】
これらの結果はヒトPBMCで確認され、ヒトPBMCは、組換えHPGGT又は種々の濃度のピロリ菌野生型からの上清で処理したとき、同じ細胞周期調節タンパク質のさらに強力な低下を示したが(図6B)、△GGT株で処理したときには低下を示さなかった。我々の結果は、GGTを、ピロリ菌によるTリンパ球でのG1細胞周期停止の誘導の原因となる因子として明らかに指し示す。
【実施例8】
【0152】
T細胞におけるRas依存性シグナル伝達へのHPGGTの干渉
Ras及びPI3K依存性経路は、細胞周期進行の鍵となる調節因子である。これらの経路はT細胞において互いに独立して進行することが示されているので17、我々は、両方の経路の重要な成員の活性化状態へのピロリ菌上清並びに組換えHPGGTの影響を検討した。ジャーカットT細胞及びPBMCからの細胞溶解産物の免疫ブロット分析は、PI3Kシグナル伝達の重要なメディエイターであるAKT、p70S6k及びFoxo 3の細胞レベル及びリン酸化がHPGGTの存在下で低下しないことを示した(図6A)。これに対し、Ras依存性経路の中心的メディエイターであるc−Mycの細胞レベル並びにc−Rafタンパク質のリン酸化は、同じ細胞においてHPGGTの存在下で低下した(図6A、B)。
【実施例9】
【0153】
HP陽性患者の血清中のHPGGTに対する抗体応答
ピロリ菌からのGGTは細菌によって細胞外液中に分泌されることが示されたが(Bumann et al.)、このタンパク質が粘膜固有層中のT細胞に達してその免疫抑制作用を及ぼすかどうかは不明である。この問題を調べるため、14名の患者(ピロリ菌感染患者9名と非感染患者5名)からの血清をHPGGT特異的抗体の存在に関して試験した。結果は、ピロリ菌陽性患者でのHPGGTのプロ形態及び大型サブユニットに対する強い抗体応答を示した(図7、1〜9)が、非感染患者では抗体応答を示さず(図7、10〜14)、ヒト免疫系とHPGGTの相互作用を示唆した。
【実施例10】
【0154】
免疫後のHPGGTに対する阻害性免疫応答と感染後の免疫応答の不在
動物を、アジュバントとしてのCTと組み合わせた、ヘリコバクターピロリのγ−グルタミルトランスペプチダーゼ(HPGGT)の触媒中心から遠く離れた場所に位置するペプチド356 IQPDTVTPSSQIKPGM 371又は不活性組換えHPGGTタンパク質のいずれかでワクチン摂取した。不活性形態のHPGGTでワクチン接種した動物においてのみ、標準HPGGT活性化アッセイを用いて血清中の阻害抗体が検出可能であった。緩衝液だけを摂取した対照動物、感染動物又はペプチド356〜371でワクチン接種した動物では阻害性免疫応答は検出されなかった。これらの結果は、HPGGTに対する阻害性免疫応答が達成され得、抗原の選択に高度に依存することを実証する。さらに、ピロリ菌による感染はそのような阻害応答を惹起しない。
【0155】
結果を図9に示す。
【0156】
参考文献
【表1A】

【表1B】

【表1C】

数字を使用してここで参照する先行技術の資料は以下の通りであり、それらの全体が参照によりここに組み込まれる。
【0157】
本明細書、特許請求の範囲、及び/又は図面に開示された本発明の特徴は、個別でも、またいずれかの組み合わせによっても、本発明を様々な形態で実現する材料であり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列を含むポリペプチドであって、該ポリペプチドのアミノ酸配列が、配列番号1に対応するアミノ酸配列を含むHPGGTの領域の一続きの連続アミノ酸配列と少なくとも80%同一であり、そのような領域が、
(a)配列番号1に従った前記アミノ酸配列のアミノ酸位置150〜200、又は
(b)配列番号1に従った前記アミノ酸配列のアミノ酸位置410〜480
によって規定され、HPGGTの触媒活性を阻害することができる免疫応答を惹起するのに適するポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、約15〜約30個のアミノ酸を含む請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチド、好ましくは請求項1もしくは2に記載のポリペプチドであって、
(a)配列番号1に従った前記アミノ酸配列のアミノ酸位置150〜200、又は
(b)配列番号1に従った前記アミノ酸配列のアミノ酸位置410〜480
に対応するアミノ酸配列を含み、
約15〜約30個のアミノ酸を含むポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドの前記アミノ酸配列が、前記位置の一続きの15〜30個の切れ目のないアミノ酸に対応する請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
QRQAETLKEARERFLKY(配列番号2)、
FDIKPGNPNLYGLVGGDANAI(配列番号3)、
DFSIKPGNPNLYGLVGGDANAIEANKRPL(配列番号4)及び
SSMSPTIVLKNNKVFLVVGSP(配列番号5)
を含む群から選択される配列を含む請求項1〜4のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリペプチドの1つ又は数個を含む免疫原性組成物。
【請求項7】
不活化形態のHPGGTを含む免疫原性組成物。
【請求項8】
HPGGTのフラグメントを含む免疫原性組成物であって、そのようなフラグメントが、HPGGTのアミノ酸451及び452を含む一続きの切れ目のないアミノ酸から成る免疫原性組成物。
【請求項9】
動物又はヒトのワクチン接種用である請求項6〜8のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
動物又はヒトの体内で免疫応答を誘導することができる請求項6〜9のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
前記免疫応答が、抗体応答である請求項6〜10のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
前記抗体応答が、HPGGTに対する、より好ましくはHPGGTの特異的活性に対する阻害作用及び/又はリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする作用を有する抗体を含む請求項6〜11のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
ピロリ菌感染に罹患している又はピロリ菌による感染を発症する危険度が高い患者においてリンパ球の活性化及び増殖を促進することを目的とする請求項6〜12のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
前記リンパ球が、B又はT細胞である請求項13に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
1又は複数のアジュバントを含む請求項6〜14のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項16】
ピロリ菌からの1又は複数の抗原を含む請求項6〜15のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項17】
前記抗原が、外膜タンパク質を含む群から選択される請求項16に記載の免疫原性組成物。
【請求項18】
前記抗原が、HpaA、Omp 18及びそれらの組み合わせを含む群から選択される請求項17に記載の免疫原性組成物。
【請求項19】
ピロリ菌によって引き起こされる、もしくは、ピロリ菌に関連する疾患、より好ましくはピロリ菌感染によって引き起こされる、もしくは、ピロリ菌感染に関連する疾患の予防ならびに/又は治療を目的とする請求項6〜18のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項20】
前記疾患が、ピロリ菌による感染、ピロリ菌によって引き起こされる胃十二指腸障害、胃炎、慢性胃炎、胃もしくは十二指腸潰瘍、胃癌ならびに(MALT)リンパ腫を含む群から選択される請求項19に記載の免疫原性組成物。
【請求項21】
ワクチンである請求項6〜20のいずれかに記載の免疫原性組成物。
【請求項22】
薬剤の製造のための請求項1〜5のいずれかに記載のポリペプチドの使用。
【請求項23】
薬剤の製造のための請求項6〜21のいずれかに記載の免疫原性組成物の使用。
【請求項24】
前記薬剤が、ワクチンである請求項22〜23のいずれかに記載の使用。
【請求項25】
前記薬剤が、ピロリ菌によって引き起こされる、もしくは、ピロリ菌に関連する疾患、より好ましくはピロリ菌感染によって引き起こされる、もしくは、ピロリ菌感染に関連する疾患の予防ならびに/又は治療を目的とする請求項22〜24のいずれかに記載の使用。
【請求項26】
試料中のHPGGTに対する抗体を検出するための請求項1〜5のいずれかに記載のポリペプチドの使用。
【請求項27】
前記抗体が、HPGGTの酵素活性及び/又はリンパ球増殖へのHPGGTの阻害活性を阻害することができる請求項26に記載の使用。
【請求項28】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリペプチドに特異的に結合する抗体。
【請求項29】
前記抗体が、HPGGTに対する、より好ましくはHPGGTの特異的活性に対する阻害作用及び/又はリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする作用を有する請求項28に記載の抗体。
【請求項30】
請求項28〜29のいずれかに記載の抗体をコードする核酸。
【請求項31】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリペプチドに特異的に結合するか又はHPGGTのアミノ酸451及び452を含む一続きの切れ目のないアミノ酸から成るHPGGTのフラグメントに特異的に結合する核酸分子であって、アプタマー及びスピーゲルマーを含む群から選択される核酸分子。
【請求項32】
前記核酸が、HPGGTに対する、より好ましくはHPGGTの特異的活性に対する阻害作用及び/又はリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする作用を有する請求項31に記載の核酸。
【請求項33】
薬剤の製造のための請求項28〜29のいずれかに記載の抗体の使用。
【請求項34】
薬剤の製造のための請求項31〜32のいずれかに記載の核酸の使用。
【請求項35】
前記薬剤が、ピロリ菌によって引き起こされる、もしくは、ピロリ菌に関連する疾患、より好ましくはピロリ菌感染によって引き起こされる、もしくは、ピロリ菌感染に関連する疾患の治療ならびに/又は予防を目的とする請求項33〜34のいずれかに記載の使用。
【請求項36】
薬剤候補物質の、
a.ピロリ菌のγ−グルタミルトランスペプチダーゼの特異的活性に対する阻害作用、及び
b.リンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする作用
を評価する工程を含む疾患の治療のための薬剤候補物質を同定するための方法。
【請求項37】
前記疾患が、ピロリ菌によって引き起こされる又はピロリ菌に関連するか、より好ましくはピロリ菌感染、より好ましくはヒトにおけるピロリ菌感染によって引き起こされる又はピロリ菌感染に関連する請求項36に記載の方法。
【請求項38】
a)HPGGT又はその少なくとも1つのフラグメントを含む免疫原性組成物を提供する工程と、
b)該免疫原性組成物で動物を免疫し、それによって抗体を作製する工程と、
c)該抗体を、ピロリ菌のγ−グルタミルトランスペプチダーゼの特異的活性に対するそれらの阻害作用及びリンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にするそれらの作用に関して評価する工程と、
d)適切な免疫原性組成物を選択する工程と、
を含むワクチンを開発するための方法。
【請求項39】
前記ワクチンが、ヒトにおけるピロリ菌感染に対するワクチンである請求項38に記載の方法。
【請求項40】
予防及び/又は疾患のための薬剤の製造のためのHPGGTのリガンドの使用であって、該リガンドが、HPGGT活性を有意に阻害し、リンパ球増殖のHPGGT依存性抑制を無効にする、前記使用。
【請求項41】
前記疾患が、ピロリ菌によって引き起こされる又はピロリ菌に関連する、より好ましくはピロリ菌感染によって引き起こされる又はピロリ菌感染に関連する請求項40に記載の使用。
【請求項42】
前記リガンドが、請求項28もしくは29のいずれかに記載の抗体、又は、請求項31〜32のいずれかに記載の核酸である請求項40〜41のいずれかに記載の使用。
【請求項43】
リンパ球増殖が、リンパ球増殖アッセイにおいて評価される請求項40又は42のいずれかに記載の使用。
【請求項44】
免疫抑制剤組成物の製造のためのHPGGTの使用。
【請求項45】
HPGGTとグルタミンを、HPGGT特異的活性を可能にする培地でインキュベートした後に上清として得られる免疫抑制剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A.5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−506575(P2010−506575A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532733(P2009−532733)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/009106
【国際公開番号】WO2008/046650
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(509111308)
【Fターム(参考)】