説明

ピロール置換2−インドリノンの固体塩形態

【課題】容易に結晶化する、5-[5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-インドール-(3Z)-イリデンメチル]-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸(2-ピロリジン-1-イル-エチル)-アミド化合物の提供。
【解決手段】次式


で示されるアミド化合物のリン酸塩並びにその溶媒和物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ピロール置換2-インドリノン化合物、5-[5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-インドール-(3Z)-イリデンメチル]-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸 (2-ピロリジン-1-イル-エチル)-アミドの固体塩形態に関する。この化合物は、タンパク質キナーゼ(「PK」)の活性を調節する。したがって、本発明の化合物は、異常なPK活性に関連する障害の治療に有用である。この化合物の塩を含有する医薬組成物及びその製造方法が開示される。本発明はまた、該アミドのリン酸塩形態の多形体に関する。
【背景技術】
【0002】
以下は、単なる背景技術情報として提示するもので本発明の先行技術であることを是認するものではない。
【0003】
医薬物質を含む固体は、しばしば1より多くの結晶形態を有し、そしてこれは多形体として知られる。化合物が、結晶充填が異なる多様な固相で結晶化する場合に、多形体が生じる。医薬物質の固体状態の特性についての標準的な参考文献(Byrn, S. R., Solid-State Chemistry of Drugs, New Your, Academic
Press (1982);Kuhnert-Brandstatter, M.,
Thermomiscroscopy In The Analysis of Pharmaceuticals, New York, Pergamon Press
(1971)及びHaleblian, J. K. and McCrone, W. Pharmaceutical
applications of polymorphism. J. Pharm. Sci., 58, 911 (1969))において、多くの例が挙げられている。Byrnは、多形体は一般的に異なる物理的特性、例えば溶解性並びに物理的及び化学的安定性を示す、と述べている。
【0004】
分子充填の相違のために、多形体は、薬物放出、固体状態の安定性及び医薬製造に影響を与える形で相違し得る。多形体の相対的安定性及び相互変換は、市販薬の選択に特に重要である。好適な多形体は、物理的安定性の問題により左右され得る。例えば、市販薬の選択は、例えば優れた物理的安定性又は大規模製造することができるといった所望の特徴を有する、好適な多形体の利用可能性及び選択に依存し得る。固体投薬形態の性能は、製品の貯蔵寿命中の多形転移により限定されるべきではない。所与の薬物の観測され得る結晶構造を予測するための、又は望ましい物理的特性を有する多形体の存在を予測するための信頼性のある方法は存在しない、ということに注目しておくことが重要である。
【0005】
PKは、タンパク質のチロシン、セリン及びトレオニン残基のヒドロキシ基のリン酸化を触媒する酵素である。細胞の活動(例えば、細胞成長、分化及び増殖)の全態様は実質的に何らかの形でPK活性に依存しているため、この表面上は単純な活性の影響は非常に大きい。更に、異常なPK活性は、乾癬のような比較的生死に関わらない疾患から膠芽細胞腫(脳腫瘍)のような極めて悪性の疾患まで、多くの障害に関連している。
【0006】
PKの1種である受容体チロシンキナーゼ(RTK)は、細胞増殖及び細胞生存の制御において中心的な役割を果たし、そして種々の悪性腫瘍においてしばしば異常調節されているため、分子標的療法の優れた候補である。異常調節機構としては、過剰発現(乳癌におけるHer2/neu、非小細胞肺癌における上皮成長因子受容体)、活性化突然変異(消化管間質腫瘍におけるKIT、急性骨髄性白血病におけるfms関連チロシンキナーゼ3/Flk2(FLT3))、及び活性化の自己分泌ループ(メラノーマにおける血管内皮成長因子/VEGF受容体(VEGF/VEGFR)、肉腫における血小板由来成長因子/PDGF受容体(PDGF/PDGFR))が挙げられる。
【0007】
異常調節されているRTKは、比較可能なヒト及びイヌの癌において説明されている。例えば、Met癌遺伝子の異常発現は、ヒト及びイヌの両方の骨肉種で起きる。興味深いことに、c-kitの膜近傍(JM)のドメインにおける比較可能な活性化突然変異は、ヒト消化管間質腫瘍(GIST)の50〜90%で見られ、そして進行性のイヌMCT(肥満細胞腫)の30〜50%で見られる。ヒトGISTの突然変異はJMドメインの欠失からなり、そしてイヌMCTの突然変異はJMドメインの内部直列重複(ITD)からなるが、いずれも、リガンド結合の非存在下でKITの構成的リン酸化をもたらす。RTK並びにそのリガンドであるVEGF、PDGF及びFGFは、充実性腫瘍において血管形成として知られる新脈管化を仲介する。したがって、RTKの阻害により、腫瘍への新しい血管の成長を阻害することができる。
【0008】
抗血管形成剤は、腫瘍への血管の成長を阻害する分子のクラスであり、慣用の抗癌剤に比べて身体への毒性がかなり低い。米国特許第6,573,293号(参照により本明細書に加入される)は、とりわけ、化合物5-[5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-インドール-(3Z)-イリデンメチル]-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸 (2-ピロリジン-1-イル-エチル)-アミド(以下「化合物I」)を開示する。これは、以下の構造:
【0009】
【化1】

を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
米国特許第6,573,293号
【0011】
化合物Iは、PK調節能を示す小分子である。したがって、この化合物は、異常なPK活性に関連する障害の治療に有用である。これはRTK、PDGFR、VEGFR、KIT及びFLT3の阻害剤である。化合物Iは、インビトロで様々な形態の突然変異KITを発現する悪性肥満細胞系において、KITリン酸化を阻害し、細胞増殖を妨げ、そして細胞周期停止及びアポトーシスを誘導することが分かっている。化合物I及び関連分子は、種々のヒト腫瘍起源の細胞系に由来する腫瘍異種移殖片に対する前臨床モデルにおいて有効である。
【0012】
化合物Iは、コンパニオン・アニマル、主にイヌの癌の治療に有用であり、そしてまた、特にヒトの癌の治療に有用である。このような癌としては、白血病、脳腫瘍、非小細胞肺癌、扁平上皮癌、星状細胞腫、カポジ肉腫、膠芽細胞腫、肺癌、膀胱癌、頭頸部癌、小細胞肺癌、神経膠腫、結腸直腸癌、泌尿生殖器癌及び消化管間質癌が挙げられるが、これらに限定されない。また、化合物Iは、肥満細胞(例えば、ヒトの肥満細胞症及びイヌの肥満細胞腫が挙げられるが、これらに限定されない)の過剰発現に関連する疾患の治療に有用である。
【0013】
近年、化合物Iは、イヌの多くの自然発生悪性腫瘍に対して臨床的に有効であることが明らかになった。この研究において、22個中11個のイヌMCTが、化合物Iによる処理に対し、永続的な他覚的反応(部分反応及び完全反応)を示し;そのうち9個のMCTがc-kitのJMドメインにITDを有していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
化合物Iは容易に結晶化する。その溶解性は、25℃のリン酸バッファー(pH6)中で約10μg/mLである。化合物を合成したところ、合成の最終工程中に微細粒子が溶液から沈殿した。次いで、これらの微細粒子を濾過によりゆっくりと単離し、そして濾過後、硬いケーキが得られた。物理的に安定であり、そして所望の物理的特性を有する化合物Iの塩が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、化合物Iの塩形態を含む。化合物Iの5種の異なる塩形態を合成した。これらを本明細書に記載する(表1参照)。これらは、化合物Iの塩酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リン酸塩及びアスコルビン酸塩である。これらの塩の特性に基づき、1:1リン酸塩である化合物Iリン酸塩を、非常に望ましい特性を有する塩形態として同定した。多形体スクリーニングにより、化合物Iリン酸塩の10種の多形体(本明細書ではI〜X型と呼ぶ)の存在が明らかになった。
【0016】
1つの態様において、本発明は、クエン酸塩及びリン酸塩から選択される化合物Iの2種の塩形態、並びにその溶媒和物及び多形体を提供する。1つの実施態様において、分子式C22H25FN4O2・H3O4Pのリン酸塩形態が選択される。別の実施態様において、融点が約285〜約290℃であるリン酸塩形態が選択される。化合物Iリン酸塩は、
【0017】
【化2】

の構造を有する。
【0018】
別の実施態様において、分子式C22H25FN4O2・C6H8O7のクエン酸塩である化合物Iクエン酸塩が選択される。更に別の実施態様において、融点が約178〜約183℃であるクエン酸塩形態が選択される。化合物Iクエン酸塩は、
【0019】
【化3】

の構造を有する。
【0020】
本発明の第2の態様は、化合物Iのリン酸塩若しくはクエン酸塩又はその溶媒和物若しくは多形体、及び医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含有する医薬組成物である。
【0021】
本発明の第3の態様は、タンパク質キナーゼを、化合物Iのリン酸塩若しくはクエン酸塩又はその溶媒和物若しくは多形体と接触させることを含む、タンパク質キナーゼの触媒活性の調節方法である。タンパク質キナーゼは、受容体チロシンキナーゼ、非受容体タンパク質チロシンキナーゼ及びセリン/トレオニンタンパク質キナーゼからなる群より選択することができる。
【0022】
本発明の第4の態様は、化合物Iのリン酸塩若しくはクエン酸塩又はその溶媒和物若しくは多形体、及び医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含有する医薬組成物の治療有効量を生物に投与することを含む、生物におけるタンパク質キナーゼ関連障害の予防方法又は治療方法である。1つの実施態様において、生物はヒトである。別の実施態様において、生物はコンパニオン・アニマルである。更に別の実施態様において、コンパニオン・アニマルはネコ又はイヌである。タンパク質キナーゼ関連障害は、受容体チロシンキナーゼ関連障害、非受容体タンパク質チロシンキナーゼ関連障害及びセリン/トレオニンタンパク質キナーゼ関連障害からなる群より選択することができる。タンパク質キナーゼ関連障害は、EGFR関連障害、PDGFR関連障害、IGFR関連障害、c-kit関連障害及びFLK関連障害からなる群より選択することができる。このような障害としては、一例として、白血病、脳腫瘍、非小細胞肺癌、扁平上皮癌、星状細胞腫、カポジ肉腫、膠芽細胞腫、肺癌、膀胱癌、頭部癌、頸部癌、メラノーマ、卵巣癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、神経膠腫、肥満細胞症、肥満細胞腫、結腸直腸癌、泌尿生殖器癌、消化管癌、糖尿病、自己免疫疾患、過剰増殖障害、再狭窄、線維症、乾癬、フォンヒッペルリンドウ病、変形性関節症、関節リウマチ、血管形成、炎症性疾患、免疫障害及び心血管疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明の第5の態様は、塩基である5-[5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-インドール-(3Z)-イリデンメチル]-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸 (2-ピロリジン-1-イル-エチル)-アミドのリン酸塩結晶の製造方法であり、該方法は、化学量論的量のリン酸を溶媒又は溶媒混合物を含む溶液中の塩基に導入し、溶液中のリン酸塩を結晶化させ、リン酸塩結晶を溶媒溶液から分離し、そして結晶を乾燥させることを含む。リン酸は、塩基に対して40%モル過剰となる量で導入することができる。溶媒はイソプロパノールを含んでもよい。結晶を溶媒溶液から分離する工程は、アセトニトリルを該溶液に添加し、そしてこの溶液をロータリーエバポレーターで蒸発させることを含み得る。結晶を溶媒溶液から分離する工程はまた、濾過を含み得る。
【0024】
本発明の第6の態様は、塩基である5-[5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-インドール-(3Z)-イリデンメチル]-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸 (2-ピロリジン-1-イル-エチル)-アミドのクエン酸塩結晶の製造方法であり、該方法は、化学量論的量のクエン酸を溶媒又は溶媒混合物を含む溶液中の塩基に導入し、溶液中のクエン酸塩を結晶化させ、クエン酸塩結晶を溶媒溶液から分離し、そして結晶を乾燥させることを含む。クエン酸は、塩基に対して40%モル過剰となる量で導入することができる。溶媒はメタノールを含んでもよい。結晶を溶媒溶液から分離する工程は、アセトニトリルを該溶液に添加し、そしてこの溶液をロータリーエバポレーターで蒸発させることを含み得る。結晶を溶媒溶液から分離する工程は、濾過を含み得る。
【0025】
第7の態様において、本発明は、化合物Iのリン酸塩の多形体I〜X型(本明細書に記載される)を提供する。1つの実施態様において、I型が提供される。
【0026】
本発明の第8の態様は、化合物Iリン酸塩のI型多形体及び医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含有する医薬組成物である。
【0027】
本発明の第9の態様は、タンパク質キナーゼを化合物Iリン酸塩のI型多形体と接触させることを含む、タンパク質キナーゼの触媒活性の調節方法である。
【0028】
本発明の第10の態様は、治療有効量の化合物Iリン酸塩のI型多形体を生物に投与することを含む、生物におけるタンパク質キナーゼ関連障害の予防方法又は治療方法である。1つの実施態様において、生物はヒト又はコンパニオン・アニマルである。別の実施態様において、コンパニオン・アニマルはネコ又はイヌである。このような障害としては、一例として、肥満細胞腫及び肥満細胞症が挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
本発明の第11の態様は、化合物Iリン酸塩の多形体の製造方法であり、該方法は、リン酸塩を溶媒又は溶媒混合物を含む溶液に導入し、場合により架橋溶媒(bridging solvent)を該溶液に添加し、そして多形体結晶を溶媒溶液から分離することを含む。該溶液は水とアセトニトリルとを含むことができる。該溶液はメタノールを含むことができる。架橋溶媒はメタノールであってよい。
【0030】
本発明の第12の態様は、異常なPK活性が仲介する疾患の治療に有用である医薬の製造における、化合物Iのリン酸塩若しくはクエン酸塩、又は該リン酸塩のI型多形体の使用である。
【0031】
図面の説明
図1は、化合物Iの塩の吸湿データである。
図2は、化合物Iクエン酸塩及び化合物Iリン酸塩の粉末X線回折図形である。
図3は、多形体スクリーニング研究から得られた10種の独特な固体の粉末X線回折図形である(実施例5参照)。表5及び6に示されるI型〜X型が提示される。
図4は、CH2Cl2(VI型、沈殿反応の直後)、ヘキサン(VII型、一晩静置後)及びアセトニトリル(VIII型、3日静置後)からの固体のTGA曲線である。
図5は、実施例7で評価したMCTからのPCR産物のアガロースゲル電気泳動の結果である。レーン1〜5は表8の患者1〜5に対応し;レーン6〜14は表8の患者6〜14に対応する。対照は、48-bp ITDを含むC2イヌ肥満細胞系(レーン15)及び正常なイヌ小脳(野生型;レーン16)から生成したPCR産物からなる。
図6は、MCTにおける、化合物Iリン酸塩の単回投与後のリン酸化KIT及びリン酸化細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)1/2の減少を示す。
【0032】
発明の詳細な説明
定義
特に明記しない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用される次の用語は、以下に論じられる意味を有する:
用語「C」は、温度に関して用いられる場合、摂氏又はセルシウスを意味する。
用語「触媒活性」は、RTK及び/又はCTKの直接的又は間接的影響下でのチロシンのリン酸化速度、又はSTKの直接的又は間接的な影響下でのセリン及びトレオニンのリン酸化速度を意味する。
用語「コンパニオン・アニマル」は、ヒトに交友を提供する家畜を意味し、そして例えばネコ及びイヌが挙げられるが、これらに限定されない。
用語「接触させる」とは、直接的に、すなわちキナーゼ自体との相互作用により、又は間接的に、すなわちキナーゼの触媒活性を左右する別の分子との相互作用により、PKの触媒活性に化合物が影響を与え得るような方法で、本発明の化合物と標的PKとを一緒にすることを意味する。
【0033】
用語「IC50」は、PK活性の最大阻害の半分を達成する試験化合物の濃度を意味する。
用語「調節」又は「調節する」とは、RTK、CTK及びSTKの触媒活性の変調を意味する。特に、調節するとは、RTK、CTK及びSTKの触媒活性の活性化又は阻害、好ましくはRTK、CTK又はSTKが暴露される化合物又は塩の濃度に依存するRTK、CTK及びSTKの触媒活性の活性化、又はより好ましくは、RTK、CTK及びSTKの触媒活性の阻害を意味する。
用語「PK」は、受容体タンパク質チロシンキナーゼ(RTK)、非受容体すなわち「細胞内(cellular)」チロシンキナーゼ(CTK)、及びセリン−トレオニンキナーゼ(STK)を意味する。
【0034】
用語「多形体」は、結晶格子中の分子の異なる配置及び/又は構造に起因する幾つかの別個の形態において生じる物質の固相を意味する。多形体は、典型的には、異なる化学的及び物理的特性を有する。
用語「医薬として許容し得る賦形剤」は、医薬組成物に添加される、本発明の化合物以外の任意の物質を意味する。
用語「医薬組成物」は、本明細書に記載される本発明の1又はそれ以上の塩又は該塩の多形体と、他の化学成分、例えば生理学的/薬学的に許容し得る担体及び賦形剤との混合物を意味する。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
用語「生理学的/薬学的に許容し得る担体」は、生物に有意な刺激を引き起こさず、そして投与する化合物の生物活性及び特性を無効にしない担体又は希釈剤を意味する。
【0035】
用語「多形体」はまた、化合物の種々の非溶媒和結晶形態と定義することもできる。この用語はまた、溶媒和物(すなわち、溶媒又は水を含有する形態)、非晶質形態(すなわち、非結晶形態)、及び脱溶媒和した溶媒和物(すなわち、溶媒和物から溶媒を除去することによってのみ製造することができる形態)を包含する。
【0036】
用語「溶媒和物」は、本発明の化合物、及び1又はそれ以上の医薬として許容し得る溶媒分子、例えばエタノールを含む分子錯体を説明するために使用される。用語「水和物」は、該溶媒が水である場合に用いられる。
【0037】
用語「実質的に含まない」とは、サンプル中の或る種の多形体の量に関して、他の多形体が約15質量パーセント未満の量で存在することを意味する。別の実施態様において、「実質的に含まない」は約10質量パーセント未満を意味する。別の実施態様において、「実質的に含まない」は約5質量パーセント未満を意味する。更に別の実施態様において、「実質的に含まない」は約1質量パーセント未満を意味する。当業者には明らかなように、語句「約15質量パーセント未満の量」とは、問題のある多形体が約85質量パーセントより多い量で存在することを意味する。同様に、語句「約10質量パーセント未満」は、問題のある多形体が約90質量パーセントより多い量で存在することを意味する。他も同様である。
【0038】
用語「治療有効量」は、治療される障害の1又はそれ以上の症状を予防、緩和又は改善するか、又は治療される対象の生存期間を延長させる化合物の投与量を意味する。癌の治療に関して、治療有効量は以下の効果を有する量を意味する:
(1) 腫瘍サイズの減少;
(2) 腫瘍転移の阻害(すなわち、ある程度までの緩徐化又は停止);
(3) 腫瘍成長の阻害(すなわち、ある程度までの緩徐化又は停止);及び/又は、
(4) 癌に伴う1又はそれ以上の症状のある程度までの緩和(又は除去)。
【0039】
化合物Iの種々の塩形態を合成して、より優れた物理的特性を有する形態を得ることができる。塩基化合物は溶液中に存在してよい。該溶液は、一般的には溶媒である。1つの実施態様において、該溶液はアルコールである。別の実施態様において、溶媒はイソプロパノール、メタノール、アセトニトリル、又は水とアセトニトリルであってよい。該溶液は、溶媒混合物を含んでもよい。
【0040】
塩は、化学量論的添加/結晶化技術を用いて結晶化させることができる。化学量論的量の対イオンを、溶液中の塩基に導入する。1つの実施態様において、対イオンの量は、塩基に対して1:1比である。別の実施態様において、対イオンの量は、塩基に対して0%〜約60%モル過剰である。別の実施態様において、対イオンの量は、塩基に対して約10%〜約50%モル過剰である。更に別の実施態様において、対イオンの量は、塩基に対して約40%モル過剰である。対イオンとしては、塩酸イオン、フマル酸イオン、クエン酸イオン、リン酸イオン及びアスコルビン酸イオンを挙げることができる。1つの実施態様において、対イオンはリン酸イオンである。別の実施態様において、対イオンはクエン酸イオンである。
【0041】
次いで、溶液中の塩を、当業者に既知の種々の一般的な技術、例えば冷却、蒸発、ドラウニング(drowning)等により結晶化させる。過剰の溶媒を、当業者に既知の方法でサンプルから除去することができる。1つの実施態様において、溶媒は、アセトニトリル(ACN)を添加し、そして該溶液をロータリーエバポレーターで蒸発させることにより、溶液から除去される。溶液は、約40℃〜約60℃でロータリーエバポレーターで蒸発させることができる。別の実施態様において、ロータリーエバポレーターで蒸発させる前に、追加の溶媒を該溶液に添加してもよい(例えばイソプロパノール及びメチルエチルケトン)。結晶化は、光により誘導される異性化を防ぐために暗所で実施することができる。1つの実施態様において、結晶は濾過により取り出される。別の実施態様において、濾過は、周囲研究室雰囲気下で実施することができる。
【0042】
これらの方法により、化合物Iのアスコルビン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩及びリン酸塩が結晶化された。結晶化方法の具体的な例は、以下に示される。HPLC分析を用いて、得られたサンプルの純度を測定することができる。化合物の物理的特性は、当業者に既知の試験、例えば融点測定、粉末X線回折及び動的吸湿重量測定(dynamic moisture sorption gravimetry)により決定することができる。これらの試験についてのパラメータは、以下で説明される。
【0043】
これらの5種の塩形態は、本明細書において記載される(表1参照)。化合物Iのこれらの塩は、しばしば吸湿性である。例えば、表1に見られるように、湿度80%で、塩酸塩は約20%が水であり、フマル酸塩は約9%が水であり、そしてアスコルビン酸塩は約6.5%が水であった。この性質は、医薬製剤における塩の使用を困難なものにし、そして製剤の貯蔵寿命を縮め得る。しかしながら、リン酸塩及びクエン酸塩の2種の塩は、予想外にも吸湿性が低いことが分かり、相対湿度80%でそれぞれ約1%及び約3.8%の水を有した。
【0044】
これらの塩の性質に基づき、1:1リン酸塩である化合物Iリン酸塩を、例えば良好な結晶化度、低い吸湿性、結晶化の容易さ、良好な純度及び水和物の欠如等の非常に望ましい性質を有する塩形態として同定した。化合物Iリン酸塩の10種の多形体(本明細書ではI〜X型と呼ぶ)についても記載する。クエン酸塩もまた、低い吸湿性及び良好な結晶化度等の望ましい性質を示す。
【0045】
本発明の化合物の多形体は、化合物の特定の多形体が、該化合物の他の多形相より良好な物理的及び化学的特性を有し得るため、望ましい。例えば、1種の多形体は、特定の溶媒中で高い溶解性を示し得る。このような追加の溶解性は、本発明の化合物の製剤化又は投与を容易にすることができる。異なる多形体はまた、異なる機械的特性(例えば異なる圧縮性、ちゅう密化性、錠剤成形性(tabletability))を有し得、これは、薬物の錠剤化性能に影響を与える可能性があり、そしてしたがって薬物の製剤化に影響を与え得る。特定の多形体はまた、同じ溶媒中の溶解速度が別の多形体と異なることもある。異なる多形体はまた、異なる物理的(準安定な多形体からより安定した多形体への固体状態の変換)及び化学的(反応性)安定性を有し得る。本発明の実施態様では、本明細書に記載される化合物Iリン酸塩のI型多形体が考慮される。
【0046】
本発明の実施態様においては、純粋な単一の多形体のみならず、2又はそれ以上の異なる多形体を含む混合物も考慮される。純粋な単一の多形体は、他の多形体を実質的に含まないものであってよい。
【0047】
本発明の幾つかの実施態様では、本明細書に記載される化合物Iの1又はそれ以上の塩、又は該塩の多形体及び医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含有する医薬組成物が考慮される。
【0048】
多形体は、化合物Iリン酸塩の濃溶液から生成された。濃溶液は、溶液1mLあたり、化合物Iリン酸塩60〜100mgの範囲であってよい。1つの実施態様において、約70mgの化合物Iをリン酸1mL中に溶解することができる。
【0049】
多形体結晶は、種々の方法、例えばゆっくりとした蒸発、過飽和溶液の冷却、アンチ溶媒(anti-solvent)からの沈殿等(これらは当業者に既知である)により、溶媒から沈殿させることができる。1つの実施態様において、多形体結晶は、溶液をアンチ溶媒に添加することによって生成される。アンチ溶媒は、水とアセトニトリル(ANC)、エタノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル、THF、酢酸エチル、ヘキサン、塩化メチレン(CH2Cl2)、イソプロピルアルコール(IPA)、メチルエチルケトン(MEK)及びジオキサンであってよい。1つの実施態様において、追加の溶媒(例えばメタノール)を添加してもよい。別の実施態様において、結晶を除く前にサンプルを一晩静置させる。更に別の実施態様において、結晶を除く前にサンプルを3日間静置させる。
【0050】
結晶は、PXRD動的吸湿重量測定法、示差走査熱量測定法、熱重量分析法及び光学顕微鏡法を含む当業者に既知の標準的方法を用いて特性評価をすることができる。これらの技術は以下で説明される。
【0051】
本発明の化合物の送達に好適な医薬組成物、及びその製造方法は、当業者には容易に理解されよう。このような組成物及びその製造方法は、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences、第19版 (Mack Publishing Company、1995)において見ることができる。
【0052】
医薬として許容し得る賦形剤の選択は、特定の投与様式、溶解性及び安定性への賦形剤の影響、及び投薬形態の性質といった因子に大きく依存する。
賦形剤の例としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖類及びデンプン類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油及びポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
化合物Iを含有する医薬として許容し得る組成物を製剤化するための担体及び賦形剤は、技術的に周知であり、そして例えば米国特許第6,573,293号(これはその全体が本明細書に加入される)に開示される。該組成物の投与方法もまた、技術的に既知であり、そして例えば米国特許第6,573,293号に記載される。同様の方法もまた、本発明の化合物Iの塩又は該塩の多形体の医薬として許容し得る組成物を製剤化及び投与するために使用することができる。
【0054】
適切な製剤は、選択される投与経路に応じて決まる。注射のためには、本発明の化合物は、水溶液、好ましくはHanks溶液、Ringer溶液又は生理的食塩水バッファーのような生
理学的に適合し得るバッファー中に製剤化することができる。経粘膜投与のためには、浸透させるバリアに適切な浸透剤を製剤中に使用する。このような浸透剤は、一般的に技術的に既知である。例えばボーラス注射又は持続注入による非経口投与のためには、製剤は、アンプル又はマルチ投与容器のような単位投薬形態で存在してもよい。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁剤、液剤又はエマルジョン剤のような形態であってよく、そして懸濁化剤、安定化剤又は分散剤のような製剤化物質を含有してもよい。
【0055】
本発明の化合物は、血流中、筋中又は内部器官中に直接投与してもよい。非経口投与に適切な手段としては、静脈内、動脈内、腹腔内、くも膜下腔内、脳室内、尿道内、胸骨内(intrasternal)、頭蓋内、筋内、滑液嚢内及び皮下が挙げられる。非経口投与に適切なデバイスとしては、針(微針を含む)注射器、無針注射器及び輸液技術が挙げられる。非経口製剤は、典型的には、塩、炭水化物及び緩衝剤(好ましくはpH3〜9に調整されたもの)のような賦形剤を含有し得る水性液剤であるが、幾つかの用途のためには、無菌非水性液剤として、又は無菌のパイロジェンフリー水のような好適なビヒクルと共に使用する乾燥形態として、より適切に製剤化することができる。更に、本発明の化合物の懸濁剤は、親油性ビヒクル中に製造することができる。好適な親油性ビヒクルとしては、脂肪油、例えばゴマ油、合成脂肪酸エステル、例えばオレイン酸エチル及びトリグリセリド、又はリポソームのような物質が挙げられる。
【0056】
本発明の化合物は、経口投与してもよい。経口投与は、化合物が胃腸管に入るように嚥下すること、及び/又は口腔投与、舌側又は舌下投与を包含し得、これにより、化合物が直接口から血流中に入る。経口投与のためには、本発明の化合物を技術的に周知の医薬として許容し得る担体と混合することにより、化合物を製剤化することができる。経口投与に適切な製剤としては、固体、半固体及び液体系、例えば錠剤;多粒子若しくはナノ粒子、液体又は粉末を含有するソフト又はハードカプセル剤;トローチ剤(例えば液体入り);チューズ剤(chews);ゲル剤;急速分散投薬形態;フィルム剤;オビュール(ovules);噴霧剤;及び口腔/粘膜接着パッチが挙げられる。
【0057】
本発明の化合物はまた、局所的に、皮膚(皮内)的又は経皮的に、皮膚又は粘膜に投与することもできる。この目的に典型的な製剤としては、ゲル剤、ヒドロゲル剤、ローション剤、液剤、クリーム剤、軟膏剤、粉剤、包帯剤、フォーム剤、フィルム剤、皮膚パッチ、ウエハー剤、インプラント剤、スポンジ剤、ファイバー剤、バンデージ及びマイクロエマルジョン剤が挙げられる。リポソームも使用することができる。典型的な担体としては、アルコール、水、鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、グリセリン、ポリエチレングリコール及びプロピレングリコールが挙げられる。浸透促進剤を組み込んでもよく、例えばFinnin及びMorganによるJ
Pharm Sci, 88 (10), 955-958(1999年10月)を参照されたい。局所投与のその他の手段としては、エレクトロポレーション、イオントフォレーゼ、フォノフォレシス、ソノフォレシス及び微針又は無針(例えばPowderjectTM、BiojectTM等)注射器による送達が挙げられる。
【0058】
本発明の化合物は、例えばカカオ脂又は他のグリセリドのような慣用の坐剤基材を用いて、坐剤又は停留浣腸のような直腸投与用に製剤化することができる。
【0059】
本発明の化合物はまた、非溶媒和形態及び溶媒和形態で存在することもできる。
【0060】
本発明の実施態様にはまた、PKを本発明の1又はそれ以上の化合物Iの塩又は該塩の多形体と接触させることを含む、PKの触媒活性の調節方法が考慮される。このような「接触」は、「インビトロ」で、すなわち試験管、ペトリ皿等において行うことができる。試験管において、接触は、化合物と興味のあるPKのみに関するか、又は細胞全体に関する。細胞は、細胞培養皿中で維持又は培養してもよく、そしてその環境中で化合物と接触させてもよい。これに関連して、特定の化合物のPK関連障害に作用する能力、すなわち以下で定義される化合物のIC50は、より複雑な生物の生体内で該化合物の使用を試みる前に決定することができる。生物外部の細胞について、PKを化合物と接触させるための多くの方法が存在し、そしてそれらは当業者に周知であり、例えば直接細胞マイクロインジェクション及び多くの膜貫通型担体技術が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
本発明の実施態様では、本発明の化合物Iの塩又は該塩の多形体の1又はそれ以上及び医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含有する治療有効量の医薬組成物を生物(例えばコンパニオン・アニマル又はヒト)に投与することを含む、該生物におけるタンパク質キナーゼ関連障害の治療又は予防方法が考慮される。
【0062】
本発明の実施態様において、タンパク質キナーゼ関連障害は、受容体チロシンキナーゼ関連障害、非受容体チロシンキナーゼ関連障害、及びセリン−トレオニンキナーゼ関連障害からなる群より選択される。別の本発明の実施態様において、タンパク質キナーゼ関連障害は、EGFR関連障害、PDGFR関連障害、IGFR関連障害及びFLK関連障害からなる群より選択される。
【0063】
本発明の化合物により触媒活性が調節される受容体タンパク質キナーゼは、EGF、HER2、HER3、HER4、IR、IGF-1R、IRR、PDGFRα、PDGFRβ、CSFIR、C-Kit、C-fms、Flk-1R、Flk4、KDR/Flk-1、Flt-1、FGFR-1R、FGFR-2R、FGFR-3R及びFGFR-4Rからなる群より選択される。本発明の化合物により触媒活性が調節される細胞内チロシンキナーゼは、Src、Frk、Btk、Csk、Abl、ZAP70、Fes/Fps、Fak、Jak、Ack、Yes、Fyn、Lyn、Lck、Blk、Hck、Fgr及びYrkからなる群より選択される。本発明の化合物により触媒活性が調節されるセリン−トレオニンタンパク質キナーゼは、CDK2及びRafからなる群より選択される。
【0064】
更に本発明の別の実施態様において、タンパク質キナーゼ関連障害は、扁平上皮癌、星状細胞腫、カポジ肉腫、膠芽細胞腫、肺癌、膀胱癌、頭頸部癌、メラノーマ、卵巣癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、神経膠腫、結腸直腸癌、泌尿生殖器癌、消化管癌、肥満細胞症及び肥満細胞腫からなる群より選択される。本発明の1つの実施態様において、タンパク質キナーゼ関連障害は、糖尿病、自己免疫疾患、過剰増殖障害、再狭窄、線維症、乾癬、フォンヒッペルリンドウ病、変形性関節症、関節リウマチ、血管形成、炎症性疾患、免疫障害及び心血管疾患からなる群より選択される。
【0065】
本発明で使用するのに好適な医薬組成物は、例えばPK活性の調節又はPK関連障害の治療若しくは予防のような意図する目的を達成するのに十分な量で、活性成分を含有する組成物を包含する。
【0066】
治療有効量の決定は、特に、本明細書で提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。本発明の方法で使用される任意の化合物について、治療有効量又は投与量は、最初に細胞培養分析から推定することができる。次いで、細胞培養において決定されたIC50を含む血中濃度範囲を達成するように動物モデルで使用するために、投与量を製剤化することができる。次いで、このような情報を用いて、ヒト又はコンパニオン・アニマルにおける有用な投与量をより正確に決定することができる。
【0067】
実践上では、投与される化合物の量は、体重1kgあたり約0.001〜約100mgの範囲であり、このような総投与量は、1回で又は分割量で投与される。投与される組成物の量は、当然ながら、治療される対象、病気の重篤度、投与様式、処方を行う医師又は獣医師の判断等に依存する。局所投与又は選択的取り込みの場合、薬物の有効な局所濃度は、血漿濃度に関連していないかもしれず、そして技術的に既知のその他の手順を用いて、正確な投与量及び投与間隔を決定することができる。
【0068】
本発明の実施態様ではまた、本発明の化合物Iの塩又は該塩の多形体の1又はそれ以上及び医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含有する医薬組成物を投与することを含む、コンパニオン・アニマルにおける癌の治療方法が考慮される。
【0069】
更に、本明細書に記載される化合物Iの塩又は該塩の多形体は、コンパニオン・アニマル又はヒトのような生物の体内で酵素により代謝され、タンパク質キナーゼの活性を調節することができる代謝産物を生成すると考えられる。このような代謝産物は、本発明の範囲内である。
【0070】
本発明の化合物は、単独で、又は本発明の1又はそれ以上の他の化合物と組合わせて、又は1又はそれ以上の他の薬物と組合わせて(又はこれらの任意の組み合わせとして)投与することができる。また、本明細書に記載される化合物Iの塩又は該塩の多形体は、上述の疾患及び障害を治療するための他の化学療法薬と組み合わせることもできると考えられる。例えば、本発明の化合物は、フルオロウラシルのみと組み合わせても、又は更にロイコボリン若しくはその他のアルキル化剤と組み合わせてもよい。本発明の化合物は、他のアンチメタボライト化学療法薬、例えば葉酸類似体又はプリン類似体(ただしこれらに限定されない)と組み合わせて使用することができる。化合物はまた、天然物をベースとする化学療法薬、抗生物質化学療法薬、酵素的化学療法薬、白金配位錯体、並びにホルモン及びホルモンアンタゴニストと組み合わせて使用することもできる。また、本発明の化合物は、充実性腫瘍(solid tumor cancer)又は白血病の治療用のミトキサントロン又はパクリタキセルと組み合わせて使用することもできると考えられる。
【0071】
更に詳細に説明せずとも、当業者であれば、上述の説明を用いて、本発明を十分に実施することができると考えられる。以下の詳細な実施例は、本発明の種々の化合物の製造方法及び/又は種々の手順の実施方法を説明し、そしてこれは、単に説明するだけのものとしてみなされるべきであり、上述の開示を限定するものでは決してない。当業者は、反応物質並びに反応条件及び技術に関する方法から、適切な変化型を直ぐに見出すであろう。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】化合物Iの塩の吸湿データである。
【図2】化合物Iクエン酸塩及び化合物Iリン酸塩の粉末X線回折図形である。
【図3】化合物Iの10種の独特な多形体の粉末X線回折図形である。
【図4】CH2Cl2(VI型)、ヘキサン(VII型)及びアセトニトリル(VIII型)からの固体のTGA曲線である。
【図5】実施例7で評価したMCTからのPCR産物のアガロースゲル電気泳動の結果である。
【図6】MCTにおける、化合物Iリン酸塩の単回投与後のリン酸化KIT及びリン酸化ERK1/2の減少を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0073】
実施例1. 化合物I、すなわち5-(5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-インドール-3-イリデンメチル)-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸 (2-ピロリジン-1-イル-エチル)-アミドの合成
米国特許第6,574,293号(実施例129)に記載されるように、5-フルオロ-1,3-ジヒドロ-インドール-2-オンを5-ホルミル-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸(2-ピロリジン-1-イル-エチル)-アミドと縮合して化合物Iを得た。
【0074】
スケールアップ手順:5-ホルミル-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸(61g)、5-フルオロ-1,3-ジヒドロ-インドール-2-オン(79g)、エタノール(300mL)及びピロリジン(32mL)を4.5時間還流した。酢酸(24mL)を混合物に加え、そして還流を30分間続けた。混合物を室温に冷却し、そして固体を吸引濾過により回収し、そしてエタノールで2回洗浄した。12N 塩酸(6.5mL)を含有し40%のアセトンを含む水(400mL)中において、固体を130分間撹拌した。固体を吸引濾過により回収し、そして40%のアセトンを含む水中で2回洗浄した。固体を真空下で乾燥させて、5-[5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-インドール-(3Z)-イリデンメチル]-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸(86g、収率79%)を橙色固体として得た。
【0075】
5-[5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-インドール-(3Z)-イリデンメチル]-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸(100g)及びジメチルホルムアミド(500mL)を撹拌し、そしてベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム
ヘキサフルオロホスフェート(221g)、1-(2-アミノエチル)ピロリジン(45.6g)及びトリエチルアミン(93mL)を加えた。混合物を周囲温度で2時間撹拌した。固体生成物を吸引濾過により回収し、そしてエタノールで洗浄した。エタノール(500mL)中で1時間、64℃で撹拌することにより固体をスラリー洗浄し、そして室温に冷却した。固体を吸引濾過により回収し、エタノールで洗浄し、そして真空下で乾燥させて5-[5-フルオロ-2-オキソ-1,2-ジヒドロ-インドール-(3Z)-イリデンメチル]-2,4-ジメチル-1H-ピロール-3-カルボン酸(2-ピロリジン-1-イル-エチル)-アミド(101.5g、収率77%)を得た。
【0076】
実施例2. 化合物Iの塩の合成
実施例2A. 化合物Iリン酸塩
化合物I 2.67mMを、0.092Mリン酸 40mL(1:1塩と仮定して約40%モル過剰)及びイソプロパノール 40mLを入れたフラスコに加えた。次いで、アセトニトリルをアリコート30mL中の水溶液に連続的に加え、その間、溶液を60℃でロータリーエバポレーターで蒸発させて水を除去した。合計で120mLのアセトニトリルを用いて、水を溶液から除去した。結晶を濾過し、そして風乾させた。結晶は自由流動性であり、そして橙色であった。1.09グラムを回収し、収率は83%であった。
【0077】
実施例2B. 化合物Iクエン酸塩
化合物I 2.64mMを、0.1Mクエン酸 34mL(3.4mM)及びメタノール35mLを入れたフラスコに加えた。この溶液をロータリーエバポレーターで50℃で蒸発させた。この溶液の体積を減らしたところ、結晶化度の低い結晶が生成したため、イソプロパノール20mL及びメチルエチルケトン10mLを加えて、固体を溶解した。この混合物を、ロータリーエバポレーターで60℃で蒸発させ、そして橙色結晶を得た。この結晶を濾過し、そして風乾した。この方法の収率は約60%であり、そしてこの収率は、濾過前に更に溶媒体積を減らすことによって改善された可能性がある。
【0078】
実施例3. 化合物Iの塩の物理的特性
方法:化合物Iの塩の物理的特性を決定するための試験としては、融点測定、HPLC純度、粉末X線回折、及び動的吸湿重量測定が挙げられる。
【0079】
粉末X線回折(PXRD)
粉末XRDは、Scintag X2
Advanced Diffraction System (lab 259-1088、Scintag
DMS/NT 1.30a及びMicrosoft Windows NT 4.0ソフトウェアにより制御)を用いて行った。このシステムは、1.5406ÅのCuKα1放射を与えるCopper X線源(45kV及び40mA)、及び固体状態Peltier冷却検出器を使用する。ビームアパーチャを、2mm及び4mmの管発散スリット及び抗散乱スリット、並びに幅0.5mm及び0.2mmの検出器抗散乱スリット及び受入スリットを用いて制御した。ステップあたり計数時間1秒で、0.03°/ステップのステップスキャンを用いて2〜35°2θのデータを回収した。9mmの直径インサートを有する、円形のScintag製トップローディングステンレス鋼性サンプルホルダーを実験に用いた。粉末をホルダー中に充填し、そしてスライドガラスでそっと押し、サンプル表面とホルダー表面が共平面性であるようにした。
【0080】
動的吸湿重量測定(DMSG)
DMSG等温線を、温度制御された大気圧微量天秤で集めた。約10mgのサンプルを、はかりのサンプル皿に置いた。湿度を、部屋の相対湿度(RH)から0% RHまで連続的に変化させ、次いで90%
RHまで増加させ、次いで再度3% RHずつ0% RHまで減少させた。次いで、重量を2分毎に測定した。サンプル重量の変化が10分間で0.5μg未満であったときに、RHを次の標的値に進めた。Visual Basicプログラムdmsgscn2.exeを用いて、データコレクションを制御し、そしてExcel表計算ソフトに情報をエクスポートした。
【0081】
結果
表1は、化合物Iのアスコルビン酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、塩酸塩及びリン酸塩のデータのまとめである。HPLC分析は、塩が比較的高い純度を有するが、塩の形成過程を通じて、純度の有意な変化は誘導されなかったことを示唆した。
【0082】
【表1】

【0083】
塩酸塩、フマル酸塩及びアスコルビン酸塩は、非常に吸湿性であった(図1参照)。他の2種の塩(クエン酸塩及びリン酸塩)は、より低い吸湿プロフィールを有し、相対湿度70%で水3%未満を吸水した。
【0084】
粉末X線図形は、リン酸塩及びクエン酸塩が比較的高い結晶化度を有することを示した(表2及び3;及び図2参照)。
【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
実施例4. 化合物Iリン酸塩の製造及び特性決定
実施例4A. 化合物Iリン酸塩の製造
化合物I遊離塩基を用いて、リン酸塩を製造した。化合物Iリン酸塩のサンプル(ロット番号35282-CS-51)を、上述のように製造した。0.977Mリン酸4mLを、フラスコ中の遊離塩基1.095gに加え、直後にアセトニトリル4mLを加えた。懸濁液が得られた。この懸濁液を、ホットプレート上で僅かに加熱した。水40mLを加え、そして約1時間撹拌しながら加熱したが、固体は完全には溶解しなかった。固体を濾過し、そしてアセトニトリル10mLで洗浄した。PXRDにより、この固体が化合物Iのリン酸塩であることが示された。)
【0088】
実施例4B. 化合物Iリン酸塩の特性決定
ロット35282-CS-51を、化合物Iリン酸塩の多形体I型と命名した。これは高い結晶化度、良好な流動性及び大きな結晶サイズを有した。化合物I遊離塩基の融点(遊離塩基多形体A型、256℃;遊離塩基多形体B型、259℃)で溶融事象が起きなかったこと、及び固体の高い融点(281〜297℃)の存在、の両方から、ロット35282-CS-51の結晶は異なる塩形態であり、そして化合物I遊離塩基ではないことが示唆された。ロットの純度は、HPLCによれば99.6%であった。
【0089】
実施例4C. 化合物Iリン酸塩の溶解性の評価
化合物Iリン酸塩(ロット35282-CS-51)のサンプル1〜2mgを10mLガラス・バイアル(風袋計量済)に移し、そして秤量した(0.1mgまで正確に)。溶媒をバイアルに段階的に、各回に溶媒0.5mLずつ加えた(核バイアルに1種の溶媒)。使用した溶媒は、バッファー(pH=2)、バッファー(pH=5)、水、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル及びアセトンであった。各添加後に、バイアルに蓋をして振盪した。固体の溶解が視覚的に観察された。明白な溶解が観察されない場合、すぐに追加の溶媒を加えた。溶解が明白であった場合、バイアルをベンチ上に少なくとも30分間放置し、次いで溶媒の次の添加を行った。この工程を、黒色及び白色背景で結晶が見えなくなるまで繰り返した。次いで、化合物の重量を最終体積及び最後の添加前の体積で割ることにより、溶解性を一括した。溶媒10mLを添加した後で固体が残っている場合、溶解性は、最終体積で割った重量より小さい、と表した。溶媒を最初に添加した後で固体が完全に溶解した場合、溶解性は、溶媒体積で割った重量より大きい、と表した。全ての実験を室温で実施した。
【0090】
種々の溶媒中の化合物Iリン酸塩の溶解性を評価し、これを遊離塩基の溶解性と共に表4に示す(mg/mLで表記)。化合物Iリン酸塩の溶解性は、水を除き、同じ溶媒(種々のpHレベル)中で化合物I遊離塩基よりも低い。化合物Iリン酸塩の溶解性は、溶液のpH値に依存し、そしてpH2又はそれ以下でかなり高くなる(>3mg/mL)。化合物Iリン酸塩(ロット35282-CS-51)の融点は約281〜297℃であり、これは化合物I遊離塩基の融点(遊離塩基多形体A型、256℃;遊離塩基多形体B型、260℃)より実質的に高い。化合物Iリン酸塩の水による湿潤性が、化合物I遊離塩基よりもかなり良好であることは、重要な結果の1つである。
【0091】
【表4】

【0092】
実施例5. 化合物Iリン酸塩多形体の生成
実施例4Cで見られる化合物Iリン酸塩の低い溶解性は、高濃度(60〜100mg/mL、暗橙赤色)の化合物Iリン酸塩の溶液が、種々の溶媒から化合物Iリン酸塩の多形体を沈殿させるのに有利となることを示唆した。このような濃溶液を、約1Mリン酸中に化合物I遊離塩基を溶解することによって調製した。例えば、約70mgの化合物I遊離塩基は、1Mリン酸1mLに溶解することができた。しかしながら、使用する化合物I遊離塩基及びリン酸の量は、溶液の所望の濃度及びバッチサイズに依存した。沈殿反応の直後に沈殿を吸引濾過した実施例において、その後、望ましい溶液約1mLを10種のアンチ溶媒(約10mL)中に滴下して塩結晶を析出させた。これらの溶媒は、水とアセトニトリル(ANC)、エタノール、メタノール、アセトン、アセトニトリル、THF、酢酸エチル、ヘキサン、塩化メチレン(CH2Cl2)及びイソプロピルアルコール(IPA)であった。一晩又は3日間静置後に沈殿を吸引濾過した実施例において、追加の溶媒としてメチルエチルケトン(MEK)及びジオキサンを用いた。或る種の有機溶媒、例えば酢酸エチル、ヘキサン、CH2Cl2は水と混和性ではなく、そして2層の溶媒が観察された。添加後何分経っても、僅かな沈殿が界面に見られるだけであった。これらの場合、メタノール約1mLを架橋溶媒として添加して、2層間の混和性を高めた。メタノールを添加してすぐに無色有機相が黄色になったため、メタノールは混和性を高めるのに良好に作用すると考えられる。次いで、バイアルを約1分間、手で激しく振盪した。有機溶媒から沈殿した固体を、沈殿反応の直後(20分以内)及び一晩又は3日間静置後に吸引濾過し、準安定な多形体及び安定した多形体の両方を単離した。次いで、粉末を分析した。種々の固体を、発見した順に番号付けした。
【0093】
実施例6. 化合物Iリン酸塩の多形体の特性決定
実施例6A. 特性決定法
上記の多形体スクリーニング法から得られた全ての粉末を、上記実施例3で記載したようにPXRDにより分析した。新しいPXRD図形が観察された場合、補完的技術、例えば動的吸湿重量測定法(これも実施例3で記載した)、示差走査熱量測定法、熱重量分析法(必要な場合)、及び光学顕微鏡法も使用して、固体を特性決定した。
【0094】
示差走査熱量測定法(DSC)
DSCデータは、DSC熱量計(TA Instruments 2920)を用いて得られた。粉末(1〜5mg)をアルミニウム製DSCパン中に充填した。アルミニウム製の蓋をパンの上部に置き、そして圧着した。圧着したパンを、対照としての空のパンと共にサンプル・セル中に置いた。特に明記しない限り、温度は30℃から10℃/分の速さで300又は350℃まで上昇させた。
【0095】
熱重量分析法(TGA)
高分解能分析器(TA Instrumentsモデル2950)を用いてTGA実験を行った。NT用TA Instruments Thermal SolutionsTM(バージョン1.3L)をデータ収集に用い、そしてNT用Universal Analysis TM(バージョン2.4F)をデータ分析に用いた。サンプル(5〜10mg)をアルミニウム製パン上に置き、これを加熱前に白金製秤量パン上に置いた。アルミニウム製及び白金製パンの風袋を、サンプルを装荷する前に計量した。温度を、10℃/分の速さで30℃から300℃まで直線的に上昇させた。乾燥窒素パージを用いた。

【0096】
偏光顕微鏡法
顕微鏡法は、Olympus BHSP偏光顕微鏡で行った。粉末をシリコーン油中に懸濁させ、そして顕微鏡用スライドとカバースリップの間に分散させた。観察前に、カバースリップをスライドにそっとこすりつけて、粒子がよく分散するようにした。
【0097】
実施例6B. 沈殿反応の直後の特性決定
結果を表5にまとめた。酸性溶液をアンチ溶媒と混合してすぐに沈殿が生じた。最初、沈殿は遊離性の綿状物であった。色は、全体的に黄色又は淡橙色であった。得られた個体は粘着性であった。これらの固体の顕微鏡観察により、これらは偏光下で良好な複屈折性を有する微小晶子から成ることが分かった。9種の溶媒系から得られた固体について、少なくとも6種の異なるPXRD図形が観察された(図3参照)。この分子上のアミド側鎖は変動的であり、遊離塩基B型及びその塩酸塩中で異なる配置をとる。したがって、異なる固体形態中の分子は、立体配座の多形体でありうる。酢酸エチル、ヘキサン及びIPAから沈殿した固体のPXRD図形は同じに見えた。しかしながら、他のPXRD図形との詳細比較は、これらの3種の溶媒から得られた固体の回折シグナルが低いために困難であった。結果として、これらは新規形態とは特定されなかった。メタノールから得られた沈殿は、対照のロット35282-CS-51(I型として割り当てた)と同じであった。全ての沈殿のTGAデータは、1.7〜4.7%のレベルの残留溶媒の存在を示した。これらの固体のうち、CH2Cl2から得られたものは、結晶中に保持された溶媒を有する固体であると考えられた。TGA曲線は、約125℃の温度でサンプル重量の急激な減少を示した(図4参照)。この事象は、約125℃におけるDSCによる吸熱として記録した。更に、この粉末は、明確な形態の結晶から成り、そして自由流動性であり、他のロットの沈殿とは大きく異なる特性を有していた。粉末は、PXRDによれば中程度の結晶化度を示したが、偏光顕微鏡法により観察した場合は良好な結晶化度を示した。その他のロットは、微細な晶子から成る。これらの粉末のDSC曲線上で、サンプルをサンプル・セルに装荷してすぐに、幅広く浅い吸熱が見られた。これは、TGAにおいて加熱開始からの漸進的な重量損失としてのTGAを反映する。したがって、これらのロットについて、残留溶媒はおそらく表面上に吸着した溶媒であって、結晶格子中の溶媒ではない。
【0098】
【表5】

【0099】
実施例6C. 溶媒中で最大3日間静置した後の沈殿
これらの結果は、表6にまとめた。溶媒中で最大3日間静置した後、新規の、ふわふわしていない橙赤色の固相が現れた。メタノールから得られた沈殿を除き、全ての有機溶媒から得られたふわふわした沈殿は変化した。これらの場合において、析出直後に沈殿した固体は明らかに準安定であり、時間をかけてより安定した固体形態(I型)に変化した。この変化は、ほとんどの溶媒系において、2時間のうちに完了したようであった。しかしながら、2種の固体形態の混合物が得られるのを避けるために、更に長い時間静置して、プロセスが確実に完結するようにした。TGA曲線は、それぞれヘキサン及びアセトニトリルから得られた個体について、約124℃及び約153℃で突然の重量損失を示し、これはDSCにおける同様の温度での吸熱と結び付けられた。したがって、これらはまた、結晶格子中に保持された溶媒を含むと考えられる。保持された溶媒の化学量論は、アセトニトリルについて約0.6であり、そしてヘキサンについて約0.14である。針状結晶は、アセトニトリルから3日間静置後に生成した。アセトニトリルを保持している固体のPXRD図形は独特であったが、一方、ヘキサン溶媒和物のPXRD図形は、それより前に同定されたCH2Cl2を保持している固体に類似していた(図3)。溶媒を保持している固体(ヘキサン及びアセトニトリル)の両方が、TGAパン上で重量を損失した。両固体の独特のPXRD図形は、対応する保持されている溶媒が加熱により除去された後で観察され(表7、図3)、これは固体からの溶媒分子の除去が、溶媒和結晶の構造変化を引き起こしたことを示す(したがって、溶媒分子は結晶格子中に存在し、単に結晶表面上に存在するのではない)。しかしながら、アセトニトリル脱溶媒和物のPXRD図形は、シグナル強度が弱かった。アセトニトリル脱溶媒和物のDSCプロフィールは、アセトニトリル溶媒和物のDSCプロフィールと比較した場合、更に2つの熱事象を74℃及び174℃において示し、一方、153℃における脱溶媒和事象は起きなかった。脱溶媒和後のサンプルの冷却は、174℃においてエネルギー変化を受ける固体を変化させ得る。
【0100】
他の有機溶媒を使用した場合、より長い時間静置して沈殿させることにより、結晶の形態は異なるが、I型(ロット35282-CS-51)のものと同じPXRD図形の固体が得られた(表6)。同じPXRD図形は、これらの固体が同じ結晶格子構造を有することを表す。異なる形態は、溶媒効果に起因するに違いない。I型は、本明細書で報告する全ての非溶媒和多形体の中で、最も安定した固相であることは明白である。他の溶媒非含有固体形態は、準安定であり、溶媒と接触してすぐにI型に変化した。CH2Cl2からの固体は、ヘキサンからの固体よりも流動し易いようであった。TGA、形態学及び流動性は、これらが2種の異なる固体であることを示す。
【0101】
【表6】

【0102】
【表7】

【0103】
実施例7. イヌ肥満細胞腫におけるKITリン酸化の阻害
目的
癌の標的療法の開発は、分子標的への薬物の効果を直接評価する機会を提供し、そしてこれらの効果を腫瘍生物学及び薬物動態学と相関させる。これは、薬理学的/薬物動態学的関係を確立し、そして標的物質の治療的効果に関する重要な情報を提供するため、腫瘍用薬物の開発に有用となり得る。この研究の目的は、イヌ肥満細胞腫(MCT)において、進行性MCTを有するイヌ被験体において、KITリン酸化を直接的な標的阻害のマーカーとして使用し、受容体チロシンキナーゼ阻害剤である化合物Iリン酸塩の単回投与の、その分子標的KITの活性への効果を評価することであった。また、ERK1/2のリン酸化(KITシグナリングのマイトジェン活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)下流)、化合物Iリン酸塩血漿濃度、及びc-kitの突然変異状態について研究し、これらのパラメータが化合物Iリン酸塩で処理した後のKITリン酸化状態と如何に相関するかを決定した。
【0104】
研究薬物
化合物Iリン酸塩を、20mg分割錠で使用した。
研究設計
本研究は、再発性又は転移性の異型度II/IIIのMCTを有するイヌにおける標的調節研究を証明するものである。被験体に、化合物Iリン酸塩を3.25mg/kgで単回経口投与した。6mmのパンチ生検器具を用いて、化合物Iリン酸塩投与前及び処理の8時間後に、サンプルを腫瘍から得た。可能ならば、複数の生検を採取した。各サンプルを液体窒素中で急速冷凍し、そして分析前に−70℃で保存した。化合物Iリン酸塩の血漿濃度を分析するための血液サンプルは、腫瘍生検と同時に得た(以下参照)。
【0105】
化合物Iリン酸塩血漿濃度
血液サンプルを頸静脈から採取し、そしてred-top血清回収用真空ガラス管に入れた。試験片を室温で維持し、凝固させ、10分間、4℃で1500rpmで遠心分離し、低温バイアルに移し、そして分析まで血漿を−70℃で凍結させた。簡単には、血漿サンプル(20μl)又はイヌ血漿中の化合物Iリン酸塩標準を、96-ウェルポリプロピレンプレート(Orochem Technology、Westmont、IL)において、DL−プロプラノロール塩酸塩(内部標準)を含むメタノール(200μl)と混合した。プレートを1分間ボルテックス混合し、そしてサンプルを4000rpmで10分間遠心分離した。この上清10μlをLC/MS/MSシステムに注入し、BataBasic
C-18 (5μm、100×4.6 mm)逆相高速液体クロマトグラフィーカラム(Keystone Scientific、Foster City、CA)上で分離させた。各イヌ血漿サンプル中の化合物Iリン酸塩及び内部標準の量は、0.2〜500ng/mlの範囲の既知の量の化合物を用いて作成した標準曲線に基づいて定量化した。
【0106】
c-kit突然変異分析
サンプルの大部分について、TRIzol (Invitrogen、Carlsbad、CA)を用いて、製造元の使用説明書に従ってRNAを抽出した。次いで、dNTP、ランダムプライマー、5X First Strand Buffer、0.1M DTT及びSuperscript Taq ポリメラーゼ(全てPromega (Madison、WI)製)を用いて、RNAからcDNAを調製した。cDNAを、各サンプルについて定量化した。サンプルを維持するために、ゲノムDNAを、以前に記載されたように調製した(Downing, S., Chien, M. B., Kass, P. H., Moore, P. F., 及びLondon, C. A. Prevalence and importance of internal tandem
duplications in exons 11 and 12 of c-kit in mast cell tumors of dogs. Am. J.
Vet. Res., 63: 1718-1723, 2002;これは参照によりその全体が加入される)。いずれの反応についても、PCRは、94℃(1分)、59℃(1分)及び72℃(1分)から成るサイクルを40回実施し、そして反応の終わりに5分、72℃で伸張させた。イヌC2肥満細胞系から調製したc-kit cDNA及び健常なイヌ小脳から調製したcDNAを、対照として使用した。
【0107】
PCR産物を、電気泳動により4%アガロースゲル上で分離し;予想される野生型c-kit PCR産物は、cDNAからのPCRで196bpのサイズであり、そしてゲノムDNA PCRで190bpのサイズである。ITDが明確でない(単一のバンドのみが存在する)場合、Promega
PCR Wizard Clean-Upキット(Promega)を用いてPCR産物をゲル精製し、そしてCalifornia-Davis大学のコアシーケンス用設備で、P1(フォワード)及びP5又はP2(リバース)プライマーを用いてシーケンスを行い、非常に小さなITD、欠失又は点突然変異の存在を排除した。配列アラインメント及び配列比較を、DNASIS配列分析プログラムを用いて行った。
【0108】
KIT及びERKリン酸化の分析
腫瘍生検を液体窒素中で凍結させ、そしてその後、液体窒素で冷却した低温乳鉢及び乳棒を用いて粉砕し、次いで使用時まで−70℃で保存した。KITの分析のために、粉砕した腫瘍をホモジナイズし、溶解し、そして以前に記載されたようにして、KITに対するアガロース結合抗体(SC-1493AC;Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)を用いて、出発腫瘍溶解物1mgから免疫沈降した(Abrams, T. J., Lee, L. B.,
Murray, L. J., Pryer, N. K., Cherrington, J. M. SU11248 inhibits KIT and
platelet-derived growth factor receptor beta in preclinical models of human
small cell lung cancer. Mol. Cancer Ther. 2: 471-478,
2003;これは参照によりその全体が加入される)。複数の生検を使用した場合、別個の生検を用いて、免疫沈降/ウェスタン・ブロット分析を繰り返し実施した。各サンプル中のリン酸化KITの量は、マウスKITのホスホチロシン719(これは、イヌKITのチロシン721に対応し、そして自己リン酸化部位であり、そしてしたがってKITキナーゼ活性の代替である)に対する抗体(3391;Cell Signaling Technology (Beverly,
MA)製)を用いて、ウェスタン・ブロットにより決定した。総KITの分析のために、ブロットをストリップし、再ブロックし、そしてKITに対する抗体(A-4542;DAKO
Corp. (Carpinteria, CA)製)で再プローブした。p42/44 ERKの分析のために、KIT分析で使用したものと同じ腫瘍溶解物を、リン酸化-Thr 202/Tyr 204 ERK1/2に対する抗体(9101B;Cell Signaling Technology)を用いたウェスタン・ブロットによりプローブし、そして次いで、ストリップし、そして総ERKに対する抗体(9102;Cell
Signaling Technology)で再プローブした。KIT及びERK1/2の両方について評価可能な腫瘍生検対を、検出可能な総タンパク質が該対の両方の生検中に存在するものと考えた。標的調節を、JM状態及び血漿濃度に対して盲である3人の観察者により目測でスコア付けした。処理後に採取した生検サンプル中の総タンパク質シグナルに対するリン酸化タンパク質シグナルの割合が、処理前の生検と比べて≧50%減少している場合を、標的調節について陽性と記録し、一方、減少が<50%である場合を陰性と記録した。
【0109】
結果
化合物Iリン酸塩の単回経口投与後にKITチロシンリン酸化が減少するかどうかを決定することを第一の目的として、14匹のイヌをこの臨床研究に登録した。KITチロシンリン酸化を、KITキナーゼ活性の代替として作用する、KITにおける自己リン酸化部位に対するリン酸化特異抗体を用いて評価した。更に、c-kit JM突然変異状態(ITD+又はITD-)を、ベースライン腫瘍生検から決定し、そして化合物Iリン酸塩の血漿濃度を投与の8時間後に測定し、これらのパラメータをKITリン酸化の阻害と相関させた。14匹中11匹のイヌが、KIT標的調節について評価可能であった。評価不可能と考えられる3匹のイヌは、一方又は両方の生検中で総KITタンパク質が検出不可能であるか、又は著しく減少しており、したがって、標的調節についてスコア付けすることができなかった。該研究に登録された全てのイヌについてのデータを表8にまとめた。
【0110】
【表8】

【0111】
分析した14匹のイヌのうち、PCR分析によれば5匹(36%)はITDを有しており(図5、レーン1〜5);5個の腫瘍全てがITDの形跡を示した。興味深いことに、被験体2は、野生型c-kit対立遺伝子を明らかに欠失していた。ITDの形跡を示さなかった残る9匹のイヌから得られたPCR産物(図5、レーン6〜14)は、直接シーケンスし、そしてそのいずれも、いかなる種類の突然変異(挿入、欠失又は点突然変異)も示さなかった。レーン3、6、8及び9について、ゲノムDNAをPCR反応に用い、僅かに小さい(190bp)野生型産物が得られた。
【0112】
ベースライン時にMCT中で発現された総KIT量及びリン酸化KIT量は、動物間で変化した。KITの高発現は、高い腫瘍異型度に相関する。異型度IIIの8個の腫瘍のうち4個は、異型度IIの6個の腫瘍のうちの1個と比べて、KITを高発現した(図6)。例えば、被験体2の腫瘍(異型度III)における総KIT発現は、被験体11の腫瘍(異型度II)における場合と比べて著しく高かった。異型度IIIの腫瘍を有するイヌはまた、ベースライン時に、高レベルのリン酸化KITの発生率が、異型度IIの腫瘍を有するものよりも高かった。これは、進行性腫瘍におけるc-kit ITD突然変異の頻度の増加、及び結果として、リガンド独立性リン酸化KITのレベルの上昇と一致する。異型度IIIの腫瘍を有する評価可能な7匹のイヌのうちの5匹が、ベースライン時に高レベルのリン酸化KITを示し;これらのうちの4匹がc-kitにおけるITDの存在について陽性であった。異型度IIの腫瘍のうち1個のみが、有意な量のリン酸化KITを有し;この動物はまた、ITD突然変異したc-kitを発現した。
【0113】
化合物Iリン酸塩で処理後に採取した生検サンプル中の総KITに対するリン酸化KITの割合が、処理前のサンプルと比べて≧50%減少していることを指標として使用し、標的調節について、評価可能な11匹のイヌのうちの8匹が陽性と記録された。化合物Iリン酸塩で処理する前及び後に採取した腫瘍生検の免疫沈降における、リン酸化KIT及び総KITの例は、図6に示した。5個の腫瘍(図6、左)が、標的調節について陽性と記録され、一方、2個の腫瘍(図6、右)が陰性と記録された。化合物Iリン酸塩での処理後にKITリン酸化の阻害について陰性と記録された生検対は全て、陽性と記録されたものに比べて、ベースライン時に、リン酸化KITが著しく少なかった(図6)。
【0114】
KITリン酸化により調節される下流シグナリング経路への、化合物Iリン酸塩の阻害効果を評価するために、リン酸化MAPK ERK1/2のレベルを、KIT分析で使用されたものと同じ生検対のウェスタン・ブロット分析により評価した。14個の腫瘍のうちの11個は、リン酸化ERK1/2標的調節について評価可能であった(また、これらのうちの2個は、KIT標的調節について評価不可能であった)。評価可能な11個のうち7個は、化合物Iリン酸塩の投与後の腫瘍サンプルにおいて、総ERK1/2に対するリン酸化ERK1/2の割合がベースラインの腫瘍サンプルと比べて減少した(図6参照)。ERK標的調節は、低ERKのものの場合よりも、比較的高いベースラインERK発現及びリン酸化を示すMCTにおいて、より頻繁に検出された。
【0115】
げっ歯類モデルにおける前臨床研究に基づき、標的阻害のための化合物Iの治療範囲は、24時間投与期間のうちの12時間について、50〜100ng/mlであると考えられた。3.25mg/kgでの単回投与の8時間後の化合物Iリン酸塩の血漿濃度(ほぼCmax)は、33.2〜186ng/mlの範囲であり、平均105±9ng/mLであった(表8)。1匹の動物において、化合物Iリン酸塩の血漿濃度は、他のサンプルの範囲の外側であった(0.3ng/ml)。14匹のイヌのうちの12匹の血漿濃度は、化合物Iの第1相臨床研究において確立された治療範囲内であったと考えられる(London, C.
A., Hannah, A. L., Zadovoskaya, R., Chien M. B., Kollias-Baker, C., Rosenberg,
M., Downing, S., Post, G., Boucher, J., Shenoy, N., Mendel, D. B., and
Cherrington, J. M. Phase I dose-escalating study of SU11654, small molecule
receptor tyrosine kinase inhibitor, in dogs with spontaneous malignancies.
Clin. Cancer Res., 2755-2768, 2003)。KIT標的調節の徴候を有するイヌの平均血漿濃度(79.2±41ng/ml)及びKIT標的調節についてスコア付けしなかったもの(137±36ng/ml)は、有意に異なった(P=0.08)。
【0116】
考察
この相関研究は、イヌMCTにおける、単一の臨床的有効用量の化合物Iリン酸塩のKITリン酸化に対する効果、及び次いでMAPKを介するシグナリングに対する影響を研究することにより、比較可能な臨床集団における標的調節を調べるように設計した。この研究において得られた化合物Iリン酸塩の血漿濃度は、前臨床薬物動態学研究に基づき予測されたCmaxの近くで測定され、そして化合物Iの有効用量及び投薬計画を調べる第1相臨床研究において測定された薬物レベルと一致した(表8)。
【0117】
評価可能な11個のMCT生検対のうちの8個(73%)が、化合物Iリン酸塩の単回経口投与後のリン酸化KITの減少により判断されるKIT活性化の検出可能な阻害を示した。処理後に検出可能なKIT標的調節を示さない3匹の被験体は、ベースラインでKIT及びリン酸化KITを低レベルで発現するMCTを有していた。これらの被験体における有意な標的調節の損失は、検出方法における技術的限界に起因し得;非リン酸化KITに対するリン酸化KITのリン酸化特異抗体の感受性は、ベースラインKIT発現の低いサンプルにおいて不十分であり得る。KIT活性の阻害は、c-kit ITD遺伝子型よりもベースラインKITリン酸化とより密接に相関していた。細胞アッセイに基づき、野生型及びITD突然変異型KITの両方が、インビボで化合物Iリン酸塩により阻害されると予測される。なぜならば、化合物Iは、インビトロで、野生型及びITD突然変異型KITリン酸化を同等の効力で遮断したからである。
【0118】
化合物Iリン酸塩はまた、KITのシグナリング経路下流に影響を与える。GIST及び造血系悪性腫瘍のc-kitの突然変異は、互いに、そして野生型KITとは異なるシグナリング経路を活性化することが報告されている。イヌMCTにおいて、1個を除く全ての腫瘍サンプルは、ベースラインでリン酸化ERK1/2が検出可能であった。11個の評価可能な腫瘍生検対のうちの7個において、ERK1/2が阻害され、これは処理後のリン酸化ERK1/2の減少により判断された。ERK1/2阻害について陽性だった腫瘍の全てが、同時にKITリン酸化の阻害について陽性だったわけではない。ERK1/2標的調節は、腫瘍異型度又はc-kit ITD突然変異の有無と相関しなかった。KIT標的調節に関して、ERK1/2標的調節は、ベースラインで高レベルのERK1/2及びリン酸化ERK1/2を発現する腫瘍において、より頻繁に検出された。
【0119】
MCTの処理後の化合物Iリン酸塩の分子標的の阻害の検出は、この設定において、化合物Iリン酸塩についての標的調節の証拠として働く。この探索の臨床的関連は、分子標的の阻害と治療範囲における血漿薬物濃度との相関により支持され、そして、標的遺伝子において活性化突然変異を発現するMCTを有するイヌ被験体において、以前に報告された、化合物Iに対する臨床的な他覚的反応は、この被験体集団における化合物Iリン酸塩の概念を証明した。他の悪性腫瘍(例えば乳癌、軟部組織の肉腫及び多発性骨髄腫)を有するイヌはまた、化合物Iによる処理に対して永続的な他覚的反応を示すため、この血漿濃度でのKIT阻害は、化合物Iのインビトロ及びインビボ効力に基づき、これらの腫瘍により発現される化合物I標的である、他の密接に相関する受容体チロシンキナーゼの良好な阻害に無理なく外挿することができ、これらの腫瘍における他覚的反応のための分子レベルでの論拠を与える。例えば、イヌの乳腺腫瘍はVEGFRを発現し、これは細胞インビトロアッセイで、KITと同程度の濃度で、インドリノンチロシンキナーゼ阻害剤により阻害される(Liao, A. T., Chien, M. B., Shenoy, N., Mendel, D. B., McMahon, G.,
Cherrington, J. M., 及びLondon, C. A. Inhibition of
constitutively active forms of mutant kit by multitargeted indolinone tyrosine
kinase inhibitors. Blood, 100: 585-593, 2002)。化合物Iリン酸塩がMCTにおいて野生型及びITD突然変異型c-kitの両方を阻害することは、したがって、多くの異なる腫瘍タイプにより異常発現及び/又は異常調節される化合物Iリン酸塩、VEGFR及びPDGFRの関連RTK標的を阻害することの代替として機能し得る。最終的に、分子標的阻害は、イヌ腫瘍において臨床的な他覚的反応と一緒に、活性化KIT、VEGFR又はPDGFRを発現する臨床的集団に対して、ヒト癌における関連化合物の開発を進める。
【0120】
実施例8. 再発性の肥満細胞腫を有するイヌの治療における経口の化合物Iリン酸塩についての多施設、プラセボ対照、二重盲式、無作為研究
目的
術後に再発性の重度疾患を有する、クライエントが所有する動物において、肥満細胞腫の治療用の化合物Iリン酸塩経口錠剤の効果は、マスキングした陰性対照研究において評価した。この研究は、改変した(RECIST)反応基準を用いて、疾患反応に対し、3.25mg遊離塩基当量(FBE)/kg体重での化合物Iリン酸塩の1日おきの投与を評価した。肥満細胞腫におけるc-kit突然変異の有無は、この研究において共変量として評価した。方針を決定するために、この研究を6週間続けた。
【0121】
153匹のイヌを、2つの治療群:T01(プラセボ、n=65)及びT02(化合物Iリン酸塩、n=88)に4:3の比で無作為化した。米国の10の獣医癌診療(veterinary oncology practice)を選択し、そして登録した。登録のために、イヌは、再発性肥満細胞腫(少なくとも1つの標的病変は、長径が最小でも20mmを有しなければならなかった)±領域リンパ節転移を有しなければならなかった。3つの標的病変(測定可能な肥満細胞腫)及び全ての非標的病変(残る全ての病変、測定可能又は測定不可能)のうちの最大のものは、2人の評価者によりベースラインで同定された。効果は、6週目の他覚的反応(完全反応又は部分反応)に基づき、ここで、2人の評価者による標的病変の長径の合計の平均(平均合計LD)を、減少又は増加百分率の計算について、ベースラインの平均合計LDと比較した。非標的病変の評価は主観的であった。完全反応(CR)は、全ての標的及び非標的病変の消失、及び新たな病変の出現がないことと定義され;部分反応(PR)は、標的病変の平均合計LDが、ベースライン平均合計LDと比較して少なくとも30%減少し、そして非標的病変が進行せず、そして新たな病変の出現がないことと定義された。腫瘍及び遠位の健常皮膚から得られた組織サンプルを、無作為化の前に回収し、そしてc-kit突然変異状態について評価した。
【0122】
86匹のT02及び65匹のT01の動物に対して、有効性分析を行った。データの分析により、プラセボ(T01)と比較して化合物Iリン酸塩(T02)では、主用評価項目(他覚的反応)において統計的に有意な改善が示された。T02動物は、T01動物(7.9%;5/63)に比べて、他覚的反応率が有意に大きかった(38.3%;33/86)(p<0.001)。T02動物(33.7%;29/86)に比べてほぼ2倍のT01動物(66.7%;42/63)は、進行性疾患を経験した。c-kit突然変異が陽性であるT02群のイヌは、他覚的反応を有する可能性が、c-kit突然変異が陰性であるものに比べてほぼ2倍であった(それぞれ、60%、12/20対32.8%、21/64)。
【0123】
結論として、この研究により、クライエントが所有するイヌにおいて、再発性肥満細胞腫の治療に、化合物Iリン酸塩の経口錠剤は有効であることが示された。
【0124】
当業者には、上記の説明に役立つ実施例に記載された本発明において、多くの修飾及び改変が存在することが予測される。したがって、特許請求の範囲に示される限定のみが、本発明に課されるべきである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
5‐[5−フルオロ−2−オキソ−1,2−ジヒドロ‐インドール−(3Z)−イリデンメチル]−2,4−ジメチル−1H−ピロール−3−カルボン酸 (2−ピロリジン−1−イル-エチル)‐アミドのリン酸塩、並びにその溶媒和物。
【請求項2】
塩が、以下の構造:
【化1】

を有する請求項1記載のリン酸塩、並びにその溶媒和物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリン酸塩並びにその溶媒和物、及び、医薬として許容し得る担体又は賦形剤を含有する医薬組成物。
【請求項4】
タンパク質キナーゼの触媒活性の調節をするための、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の医薬組成物であって、タンパク質キナーゼが、受容体チロシンキナーゼ、非受容体タンパク質チロシンキナーゼ、及びセリン/トレオニンタンパク質キナーゼからなる群より選択される、当該医薬組成物。
【請求項6】
生物におけるタンパク質キナーゼ関連障害の予防又は治療するための請求項3に記載の医薬組成物であって、
当該タンパク質キナーゼ関連障害が、白血病、脳腫瘍、非小細胞肺癌、扁平上皮癌、星状細胞腫、カポジ肉腫、膠芽細胞腫、肺癌、膀胱癌、頭部癌、頸部癌、メラノーマ、卵巣癌、前立腺癌、乳癌、小細胞肺癌、神経膠腫、肥満細胞症、肥満細胞腫、結腸直腸癌、泌尿生殖器癌、消化管癌、糖尿病、自己免疫疾患、過剰増殖障害、再狭窄、線維症、乾癬、フォンヒッペルリンドウ病、変形性関節症、関節リウマチ、血管形成、炎症性疾患、免疫障害及び心血管疾患から選択される、
当該医薬組成物。
【請求項7】
タンパク質キナーゼ関連障害が肥満細胞腫又は肥満細胞症である請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項8】
(a) 化学量論的量のリン酸を、溶媒又は溶媒混合物を含む溶液中の塩基に導入し;
(b) 溶液からリン酸塩を結晶化させ;そして
(c) 溶媒溶液からリン酸塩の結晶を分離すること;
を含む、請求項1または2に記載の塩基のリン酸塩の結晶の製造方法。
【請求項9】
異常なPK活性が仲介する疾患の治療に有用な医薬の製造における、請求項1に記載のリン酸塩の使用であって、異常なPK活性が仲介する疾患が、乾癬または、膠芽細胞腫(脳腫瘍)である、当該使用。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−90152(P2010−90152A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279987(P2009−279987)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【分割の表示】特願2006−250347(P2006−250347)の分割
【原出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】