説明

ピンスライド形ディスクブレーキ装置

【課題】簡易な手段で以ってキャリパの過剰な移動を制限してピンブーツの損傷を防止すること。
【解決手段】ブレーキパッド摩耗表示器100を具備するピンスライド形ディスクブレーキ装置において、キャリパ30のハウジング31がキャリヤ20に接近する方向に向けて移動するとき、ブレーキパッド摩耗表示器100で以って、キャリヤ20に対するキャリパ30の過剰な移動を制限するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用、特にバスやトラック等の大型自動車用に好適なピンスライド形ディスクブレーキ装置に関し、より詳細にはピンブーツの損傷を防止するピンスライド形ディスクブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピンスライド形ディスクブレーキ装置は、例えば特許文献1により公知である。
ピンスライド形ディスクブレーキ装置を構成するキャリパとキャリヤのピンスライド機構部には、キャリパとガイドピンを覆うブーツが配設されていて、ピンスライド機構部への異物の侵入を防止して、キャリヤに対するキャリパの円滑な摺動性を確保している。
【0003】
ピンスライド形ディスクブレーキ装置を単品で運搬するときや、或いは分解、組立てするときにおいては、キャリヤに対してキャリパが自由に移動する。
特に、ピンスライド形ディスクブレーキ装置全体が傾いて置かれたときには、外力を加えない場合においても、キャリパの自重により、キャリヤに対してキャリパが移動する。
【0004】
キャリパのハウジングがキャリヤに接近する方向の移動を制限なく許容すると、キャリパのガイド孔の孔口にキャリヤやキャリヤに固定したガイドピンが衝突して、ブーツを挟み込んで破損したり、ブーツリテーナの端部が変形したりする危険性がある。
特に、ブーツの損傷が小さな亀裂である場合は、目視しただたけでは発見が難しく、さらに、ブーツリテーナの端部はブーツで覆われているため、ブーツリテーナの端部に生じた変形を目視により発見することは極めて難しい。
【0005】
ブーツが損傷すると、損傷部からブーツ内に水が浸入してガイドピンが錆付いたり、異物が侵入してスライド抵抗が大きくなったりするおそれがある。また、ブーツリテーナの端部が変形すると、ガイドピンが摺接してスライド抵抗が大きくなり、キャリヤに対するキャリパの円滑な摺動性が損なわれる。
これらの要因によりピンスライド機構部の円滑な摺動性が損なわれて、例えばブレーキの解除操作をしてもキャリパが戻らずにブレーキが引き摺りを起こしたり、アウタパッドがインナパッドと比べて過剰に摩耗したりする現象を生じる。これらの現象はディスクブレーキ装置のブレーキ性能に重大な悪影響を及ぼすことが知られている。
【0006】
ところで、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限する手段を具備したピンスライド形ディスクブレーキ装置を採用した自動車が市販されている。
このディスクブレーキ装置は、キャリパにストッパ機能を有する突起部を一体形成し、キャリパのガイド孔の孔口にキャリヤまたはキャリヤに固定したガイドピンが衝突する前に突起部をキャリヤに当接させて、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限できる構造になっている。
【0007】
【特許文献1】特開2007−17004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限できる構造のピンスライド形ディスクブレーキ装置で市販されているものは、大型車両用への採用が技術的に困難な場合がある。
その理由は、大型車両用のディスクブレーキ装置は、ブレーキパッドの大型化に伴いキャリヤが設計上レイアウトの制約を受けて、キャリパに形成した突起部が当たる部位をキャリヤに設けることができないためである。
【0009】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、従来からディスクブレーキ装置に配備されているブレーキパッド摩耗表示器で以って、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限してピンブーツの損傷を防止できる、大型車両用にも適用可能なピンスライド形ディスクブレーキ装置を提供することにある。
本発明の他の目的は、ピンブーツの損傷を防止できるだけでなく、ブーツリテーナの変形を防止できるピンスライド形ディスクブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した目的を達成するために、本発明によるピンスライド形ディスクブレーキ装置は、一対のブレーキパッドと、それらのブレーキパッドの少なくとも一方のブレーキパッドを支持するキャリヤと、一方のブレーキパッドがブレーキディスクに係合するように作動するブレーキアクチュエータを収容するハウジング、そのハウジングから前記ブレーキディスクを跨いで延びるブリッジ、およびハウジングの反対側でブリッジに配設されて他方のブレーキパッドに作用する爪部とを有するキャリパと、前記キャリヤまたはキャリパの一方に固設されたガイドピン、および前記キャリヤまたはキャリパの他方に配設されたガイド孔を封止するピンブーツを含み、前記キャリパを前記キャリヤに対して摺動可能に支持するピンスライド機構部と、前記キャリパに摺動自在に貫挿されてブレーキパッドの摩耗量を目視で確認できるブレーキパッド摩耗表示器とを具備するピンスライド形ディスクブレーキ装置において、前記キャリパのハウジングが前記キャリヤに対して接近する方向に向けて前記キャリパが移動するとき、前記ブレーキパッド摩耗表示器で以って、前記キャリヤに対する前記キャリパの過剰な移動を制限する構造としたことを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、ブレーキパッド摩耗表示器にキャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限するストッパ機能を併有させたので、ピンスライド形ディスクブレーキ装置の運搬時や、或いはピンスライド形ディスクブレーキ装置の分解、組立て時におけるキャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限して、ピンブーツの損傷とブーツリテーナの変形を防止することができる。
【0012】
又、本発明によるピンスライド形ディスクブレーキ装置は、前記ブレーキパッド摩耗表示器が、キャリパの摺動孔に摺動自在に貫挿したピン状のウェアインジケータを含み、このウェアインジケータの一部をキャリパに当接させて、前記キャリヤに対する前記キャリパの過剰な移動を制限することを特徴とする。
【0013】
又、本発明によるピンスライド形ディスクブレーキ装置は、前記ブレーキパッド摩耗表示器が、キャリパの摺動孔に摺動自在に貫挿したピン状のウェアインジケータと、そのウェアインジケータに外装して、前記ウェアインジケータが前記キャリヤに弾接するようにウェアインジケータとキャリパ間に縮設したばね部材を含み、このばね部材により、前記キャリヤに対する前記キャリパの過剰な移動を制限することを特徴とする。
【0014】
又、本発明によるピンスライド形ディスクブレーキ装置は、前記ばね部材が圧縮限界に達したときに、前記キャリヤに対する前記キャリパの過剰な移動を制限することを特徴とする。
【0015】
又、本発明によるピンスライド形ディスクブレーキ装置は、前記ばね部材がコイルばね、また竹の子ばねであることを特徴とする。
【0016】
又、本発明によるピンスライド形ディスクブレーキ装置は、前記ブレーキパッド摩耗表示器が、キャリパの摺動孔に摺動自在に貫挿したピン状のウェアインジケータと、そのウェアインジケータに外装したカラーとよりなり、前記カラーにより、前記キャリヤに対する前記キャリパの過剰な移動を制限することを特徴とする。
【0017】
又、本発明によるピンスライド形ディスクブレーキ装置は、前記カラーの内側または外側で、前記ウェアインジケータが前記キャリヤに弾接するように配設したばね部材を含むことを特徴とする。
【0018】
又、本発明によるピンスライド形ディスクブレーキ装置は、前記キャリパにブーツリテーナが固着され、このブーツリテーナに前記ピンブーツを取着したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明はつぎのような効果を得ることができる。
(1)ブレーキパッド摩耗表示器に、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限するストッパ機能を付与したので、新たに構成部品を追加することなく、キャリパの過剰な移動を確実に制限することができる。
したがって、キャリパが不用意に移動した際に生じていたピンブーツの損傷を防止できて、ピンスライド形ディスクブレーキ装置のピンスライド機構部の円滑な摺動性能が保証される。
(2)ブレーキパッド摩耗表示器の仕様を小変更するだけの改良で以って、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限できるので、既に市販されているブレーキパッド摩耗表示器を具備したピンスライド形ディスクブレーキ装置への適用が可能であり、部品の有効活用を図れる。
(3)本発明の一実施態様では、前記ブレーキパッド摩耗表示器が、キャリパの摺動孔に摺動自在に貫挿したピン状のウェアインジケータを含み、このウェアインジケータの一部をキャリパに当接させて、前記キャリパの過剰な移動を制限してもよい。この態様によれば、ブレーキパッド摩耗表示器を構成するウェアインジケータの小変更のみの容易な方法で、前記キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限できる。
(4)本発明の一実施態様では、前記ブレーキパッド摩耗表示器が、キャリパの摺動孔に摺動自在に貫挿したピン状のウェアインジケータと、そのウェアインジケータに外装して、前記ウェアインジケータが前記キャリヤに弾接するようにウェアインジケータとキャリパ間に縮設したばね部材を含み、このばね部材により前記キャリパの過剰な移動を制限してもよい。この態様によれば、ブレーキパッド摩耗表示器を構成するばね部材の小変更のみの容易な方法で、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限できる。
(5)本発明の一実施態様では、前記ばね部材が圧縮限界に達したときに、前記キャリパの過剰な移動を制限してもよい。この態様によれば、ブレーキパッド摩耗表示器を構成するばね部材の小変更のみで、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を確実に制限できる。
(6)本発明の一実施態様では、前記ばね部材がコイルばねであってもよい。この態様によれば、その製作が容易なコイルばねを用いる安価な方法で、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限できる。
(7)本発明の一実施態様では、前記ばね部材が竹の子ばねであってもよい。この態様によれば、その姿勢が安定している竹の子ばねを用いる正確な方法で、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限できる。
(8)本発明の一実施態様では、前記ブレーキパッド摩耗表示器が、キャリパの摺動孔に摺動自在に貫挿したピン状のウェアインジケータと、そのウェアインジケータに外装したカラーとよりなり、前記カラーにより前記キャリパの過剰な移動を制限してもよい。この態様によれば、従来のウェアインジケータとばね部材を使って部品の有効活用を図りつつ、カラーを追加するのみで、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を確実に制限できる。
(9)本発明の一実施態様では、前記カラーの内側または外側で、前記ウェアインジケータが前記キャリヤに弾接するように配設したばね部材を含んでもよい。この態様によれば、従来のウェアインジケータとばね部材を使って部品の有効活用を図りつつ、カラーでばね部材の姿勢を安定させることができ、キャリヤに対するキャリパの過剰な移動を正確に制限できる。
(10)本発明の一実施態様では、前記キャリパにブーツリテーナが固着され、このブーツリテーナに前記ピンブーツを取着してもよい。この態様によれば、キャリパが不用意に移動した際に生じていたブーツリテーナの変形を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係わるピンスライド形ディスクブレーキ装置について説明する。
【実施例1】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例1について説明する。
図1はブレーキパッド摩耗表示器を具備したピンスライド形ディスクブレーキ装置の一例を示す平面図、図2はその正面図、図3は図2の断面図、図4,5はキャリヤとキャリパのピンスライド機構部の拡大部分断面図、図6はブレーキパッド摩耗表示器の斜視図、図7,8は図3のブレーキパッド摩耗表示器およびその周辺の拡大断面図である。
【0022】
本発明に係わるピンスライド形ディスクブレーキ装置は、ブレーキパッド摩耗表示器を具備していて、このブレーキパッド摩耗表示器にキャリヤに対するキャリパの過剰な移動を制限する機能を付与したものである。
【0023】
まず、本発明に係わるピンスライド形ディスクブレーキ装置について説明する。
ピンスライド形ディスクブレーキ装置は、図1〜3に示すように、ロータ10の外周上を横切って車両の不動部に固着されるキャリヤ20と、ロータ10の外周上を横切って跨座するキャリパ30と、このキャリパ30をロータ10の軸と平行な方向に案内する一対のピンスライド機構部60,70と、ロータ10の両側面に摩擦係合可能なインナパッド40、アウタパッド50とを主要な構成要素としている。
【0024】
キャリパ30は、インナパッド40を押圧するためのブレーキアクチュエータ32を収容したハウジング31と、ハウジング31からロータ10を跨いで延びるブリッジ35とをボルト36で固定して構成され、ブリッジ35は、ハウジング31の反対側において、アウタパッド50に作用する爪部35aを有している。
【0025】
ブレーキアクチュエータ32は、詳細な図示を省略した公知のタペット組立体を通じてブレーキ力をかけるよう作動させることができる。ブレーキアクチュエータ32としては、例えば特開2007−17004号公報に開示された公知のタペット組立体を適用可能であるが、タペット組立体の他に液圧でシリンダ内のピストンを作動させる液圧式アクチュエータなども適用可能である。
ブレーキアクチュエータ32はブレーキパッド40,50の摩擦材の摩耗量が所定値に達した時に摩擦材の摩耗量を補正する間隙自動調整作動機構(図示を省略)を具備している。
【0026】
ブレーキアクチュエータ32を作動してインナパッド40をロータ10の一面に押圧すると、その押圧反力により、各ピンスライド機構部60,70で支持されたキャリパ30が図3の左方へ向けて退動し、キャリパ30の爪部35aがアウタパッド50をロータ10の他面に押圧する。
このようなフローティングタイプのピンスライド形ディスクブレーキ装置は公知であるから詳しい説明を省略する。
【0027】
ピンスライド機構部60,70は同一の構造であるため、図1に示した右方のピンスライド機構部60について説明して左方のピンスライド機構部70(キャリパ30の腕部34側)の説明を省略する。
ピンスライド機構部60は、キャリパ30の腕部33にブッシュ37を介して摺動可能に貫挿された筒状のガイドスリーブ81と、ガイドスリーブ81に貫挿してキャリヤ20に組付けた取付ボルト82とにより構成されるガイドピン80を含んでいる。
【0028】
図4に拡大して示すようにガイドスリーブ81はブッシュ37の内側に形成されたガイド孔37aに摺動自在に貫挿されている。
ガイドスリーブ81の露出部は、ピンブーツ90で覆った構造になっている。
腕部33のピン穴33aの入口側には金属製のブーツリテーナ91の胴部91aが圧入固定されている。
ピンブーツ90の一端90aは、ガイドピン80の固定端側に位置するガイドスリーブ81の大径フランジ81aの外周に設けた係止溝81bに係止させ、他端90bはブーツリテーナ91の鍔91bに係止させている。
【0029】
本発明は、少なくともピンブーツ90の損傷を回避するために、ブレーキパッドの摩擦材の摩耗量を表示する機能を具備したブレーキパッド摩耗表示器100に、キャリヤ20に対するキャリパ30の過剰な移動を一定範囲内に制限するストッパ機能を付与したものである。
【0030】
なお、本発明は、ブーツリテーナ91が例えば切削加工でキャリパ30に一体形成されるタイプでもよく、ピンブーツ90の他端をキャリパに形成した内溝に係合するタイプやピンブーツ90の他端に金属環を一体モールドして、その部分をキャリパの穴に圧入するタイプ等でもよい。ピンブーツ90でガイドピン80の露出部を覆う構造の様々なタイプに適用することができる。
【0031】
図6に例示したブレーキパッド摩耗表示器100は、ピン状のウェアインジケータ110と、ウェアインジケータ110に外装したばね部材120としてのコイルばねとにより構成される。
ウェアインジケータ110は目盛りを表示したロッド部110aと、ストッパ軸部110bと、座部110cとを連続して樹脂等で一体成形したものである。
【0032】
ウェアインジケータ110のロッド部110aをハウジング31に穿設したロッドガイド孔31aに摺動自在に貫挿するとともに、ばね部材120をウェアインジケータ110に外装し、座部110cとハウジング31の間に縮設する。このばね部材120のばね力で以って座部110cの端面がキャリヤ20に常時当接されている。
アウタパッド50の摩擦材が摩耗すると、ロッドガイド孔31aから突き出たウェアインジケータ110の目盛りを表示したロッド部110aの突出量が減少する。ロッドガイド孔31aから突き出たロッド部110aの目盛りを目視で読み取ることでアウタパッド50の摩耗量を確認することができる。
【0033】
ウェアインジケータ110の各部の寸法関係について説明すると、ロッド部110aは、ロッドガイド孔31aに内挿可能な断面形状を有するとともに、その長さはハウジング31から目盛りが露出する寸法になっている。
これに対して、ストッパ軸部110bは、ロッドガイド孔31aに内挿不能な断面形状になっていて、ストッパ軸部110bのロッド部110a側の端部がロッドガイド孔31aの周囲のハウジング31に当接するようになっている。
ハウジング31がストッパ軸部110bに当接することで、キャリパ30のハウジング31がキャリヤ20に接近する方向へ向けた過剰な移動を制限できる。
さらに、ストッパ軸部110bは、ばね部材120を外装可能な断面形状になっている。
座部110cは、ばね部材120を外装不能な断面形状になっていて、ばね部材120を着座させることができる。
なお、キャリヤ20に対するキャリパ30の過剰な移動の制限位置は、ストッパ軸部110bと座部110cの長さによって決まるから、それらの長さはピンスライド機構部のピンブーツ90をブーツリテーナ91とガイドスリーブ81の大径フランジ81a間に挟み込んだり、大径フランジ81aがブーツリテーナ91の鍔91bと衝当したりしない寸法になっている。
【0034】
ウェアインジケータ110を構成するロッド部110a、ストッパ軸部110bおよび座部110cの形状は図示した形態に限定されず、上記したブレーキパッド摩耗表示機能と、キャリパ30のストッパ機能を併有していればどのような形状の組み合わせであってもよい。
【0035】
つぎに、ブレーキパッド摩耗表示器100の作用について説明する。
【0036】
ピンスライド形ディスクブレーキ装置を単品で運搬するときや、或いは分解、組立てするときにおいては、ピンスライド機構部60,70を通じて、キャリパ30がキャリヤ20に対して自由に摺動する。
【0037】
キャリパ30がキャリヤ20に対して過剰に接近移動していない状態におけるピンスライド機構部60を図4の拡大断面図で示し、同じくブレーキパッド摩耗表示器100を図7の拡大断面図で示す。
【0038】
この状態におけるピンスライド機構部は、キャリパ30の腕部33に穿設したピン穴33aの入口側に設置したブーツリテーナ91の鍔91bがガイドスリーブ81の固定端側の大径フランジ81aから離隔している。
したがって、ピンブーツ90およびブーツリテーナ91がガイドスリーブ81の大径フランジ81aによって損傷を受けることがない。
【0039】
また正常状態におけるブレーキパッド摩耗表示器100は、座部110cとハウジング31の間に縮設したばね部材120のばね力で座部110cの底面がキャリヤ20に常時当接されている。
ストッパ軸部110bのロッド部110a側端部はハウジング31から離隔していて、ストッパ軸部110bの端部とハウジング31との間に間隙Gを形成している。
【0040】
図7において、キャリヤ20に対してキャリパ30のハウジング31が接近する方向に移動すると、座部110cとハウジング31の間に縮設したばね部材120を圧縮しながらハウジング31がストッパ軸部110bに接近する。キャリヤ20に対してハウジング31が接近するほど、ストッパ軸部110bの端部とハウジング31間の間隙Gが徐々に狭く変化する。
【0041】
ストッパ軸部110bがロッドガイド孔31aに内挿不能な断面形状に形成されているため、キャリヤ20にハウジング31が接近すると、そのハウジング31がストッパ軸部110bの端部に衝当して、キャリヤ20に対するキャリパ30の移動が物理的に制限される。
【0042】
ブレーキパッド摩耗表示器100によりキャリパ30の過剰な移動を制限したときにおける、ピンスライド機構部60を図5の拡大断面図で示し、同じくブレーキパッド摩耗表示器100を図8の拡大断面図で示す。
キャリパ30の移動に伴い、ブーツリテーナ91の鍔91bがガイドスリーブ81の固定端側の大径フランジ81aに接近するものの、その衝突前にブレーキパッド摩耗表示器100のストッパ機能によってキャリパ30の過剰な移動を制限することができる。
したがって、ピンブーツ90が損傷を受けることがなく、ブーツリテーナ91が変形することもない。
【0043】
また、ピンスライド形ディスクブレーキ装置を車両に組付けた後において、ブレーキパッド摩耗表示器100は、本来の摩擦材の摩耗量の表示機能を発揮する。
ロッドガイド孔31aから突き出たウェアインジケータ110のロッド部110aの目盛りを目視して読み取ることでアウタパッド50の摩耗量を確認することができる。
【0044】
以上説明したように、本実施例1ではブレーキパッド摩耗表示器100に摩擦材の摩耗量の表示機能とキャリパ30のストッパ機能を併有させたものである。
換言すれば摩擦材の摩耗量の表示機能を有するブレーキパッド摩耗表示器100に、ピンブーツ90の破損防止機能と、ブーツリテーナ91の変形防止機能を併有させたものである。
この方法によれば、キャリパ30の過剰な移動を制限するために、キャリヤ20またはキャリパ30に特別な成形加工を施したり、新たにストッパ部品を追加したりする必要がない。
ブレーキパッド摩耗表示器100の設置位置は、ブレーキパッド40,50の寸法に影響を受けないので、ブレーキパッドの面積が大きいピンスライド形ディスクブレーキ装置を適用する大型自動車にも適用することができる。
【0045】
以降に他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【実施例2】
【0046】
先の実施例1ではウェアインジケータ110の一部をキャリパ30に当接させてキャリパの過剰な移動を制限するブレーキパッド摩耗表示器100について説明したが、図9〜11に示すようにウェアインジケータ110に外装したばね部材120A,120Bによって、キャリヤ20に対するキャリパ30の過剰な移動を制限するブレーキパッド摩耗表示器100A,100Bであってもよい。
【0047】
図9,10に示したブレーキパッド摩耗表示器100Aは、ばね部材120Aをコイルばねで構成していて、ばね部材120Aはウェアインジケータ110の座部110cとハウジング31間に縮設されている。
本例ではコイル状のばね部材120Aが座部110c側の略半分を密着ばねとして圧縮不能とし、反対側の略半分を非密着ばねとして圧縮可能にした場合を図示する。
【0048】
図9はキャリパ30がキャリヤ20に対して過剰に移動していない状態におけるブレーキパッド摩耗表示器100Aを示し、図10はキャリパ30の過剰な移動を制限したときにおけるブレーキパッド摩耗表示器100Aを示す。
【0049】
ウェアインジケータ110に外装したばね部材120Aのばね力で以って、ウェアインジケータ110の座部110cの端面をキャリヤ20に常時当接させている(図9)。
【0050】
キャリパ30が過剰に移動すると、ばね部材120Aが圧縮されて非密着ばねのコイル部の隙間が徐々に狭くなり、遂には圧縮不能な圧縮限界に達することで、キャリパ30の過剰な移動を制限することができる。
ばね部材120Aが圧縮限界に達したときにおけるばね部材120Aの長さは、キャリヤ20に対するキャリパ30の過剰な移動の制限位置に合わせて適宜の寸法に設定する。
【0051】
図11はウェアインジケータ110に外装したばね部材120Bを竹の子ばねで構成したブレーキパッド摩耗表示器100Bを示す。
竹の子ばねは長方形断面の板ばね材の長辺をコイル中心線に沿って平行な円錐形状に加工した公知の圧縮ばねである。
竹の子ばねのばね部材120Bはハウジング31の裏面とウェアインジケータ110の座部110cとの間に縮設されている。
【0052】
図11はキャリパ30がキャリヤ20に対して過剰に移動していない状態におけるブレーキパッド摩耗表示器100Bを示している。
【0053】
キャリパ30が過剰に移動するのに伴い、ばね部材120Bが圧縮を開始して、その後ばね部材120Bが圧縮不能な圧縮限界に達する。
ばね部材120Bが圧縮限界に達することで、キャリパ30の過剰な移動を制限することができる。
【0054】
本例にあっては、ばね部材120A,120Bのみの置き換えで以って、キャリヤ20に対するキャリパ30の過剰な移動を制限できるので、ウェアインジケータ110の製造コストをさらに低廉にできる利点がある。
【実施例3】
【0055】
図12にはウェアインジケータ110と、ウェアインジケータ110に外装した筒状のカラー130と、このカラー130の内側または外側に装着したばね部材120としてのコイルばねとにより構成した実施例3に係わるブレーキパッド摩耗表示器100Cを示す。
【0056】
本例ではハウジング31と座部110cとの間に縮設したばね部材120のばね力によって、ウェアインジケータ110の座部110cの端面をキャリヤ20に常時当接させている。
【0057】
図12はキャリパ30が過剰に移動していない状態におけるブレーキパッド摩耗表示器100Cを示していて、ハウジング31とカラー130の左端との間に間隙Gが形成されている。
【0058】
本実施例3にあっては、キャリパ30が過剰に移動するに伴って間隙Gが徐々に狭く変化していき、遂にはカラー130が座部110cとハウジング31との間に挟まれることで、キャリパ30の過剰な移動を制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施例1に係わるブレーキパッド摩耗表示器を具備したピンスライド形ディスクブレーキ装置の一例を示す平面図
【図2】図1の正面図
【図3】図2のIII−III断面図
【図4】キャリヤとキャリパのピンスライド機構部の断面図であって、キャリパが過剰に移動していない状態におけるピンスライド機構部の拡大部分断面図
【図5】キャリヤとキャリパのピンスライド機構部の断面図であって、キャリパの過剰な移動を制限している状態におけるピンスライド機構部の拡大部分断面図
【図6】ブレーキパッド摩耗表示器の斜視図
【図7】キャリパが過剰に移動していない状態におけるブレーキパッド摩耗表示器およびその周辺部の拡大断面図
【図8】キャリパの過剰な移動を制限している状態におけるブレーキパッド摩耗表示器およびその周辺部の拡大断面図
【図9】ばね部材でキャリパの過剰な移動を制限する他のブレーキパッド摩耗表示器を適用した実施例2に係わる図であって、キャリパが過剰に移動していない状態におけるブレーキパッド摩耗表示器およびその周辺部の拡大断面図
【図10】実施例2に係わるピンスライド機構部の断面図であって、キャリパの過剰な移動を制限している状態におけるブレーキパッド摩耗表示器およびその周辺部の拡大断面図
【図11】実施例2の応用例に係わる図であって、キャリパが過剰に移動していない状態におけるブレーキパッド摩耗表示器およびその周辺部の拡大断面図
【図12】カラーでキャリパの過剰な移動を制限する他のブレーキパッド摩耗表示器を適用した実施例3に係わる図であって、キャリパが過剰に移動していない状態におけるブレーキパッド摩耗表示器およびその周辺部の拡大断面図
【符号の説明】
【0060】
10 ロータ
20 キャリヤ
30 キャリパ
31 キャリパのハウジング
31a ハウジングのロッドガイド孔
32 キャリパのブレーキアクチュエータ
33,34 キャリパの腕部
33a 腕部のピン孔
35 キャリパのブリッジ
35a ブリッジの爪部
36 ボルト
37 ブッシュ
37a ブッシュのガイド孔
60,70 ピンスライド機構部
40 インナパッド
50 アウタパッド
80 ガイドピン
81 ガイドスリーブ
81a ガイドスリーブの大径フランジ
81b ガイドスリーブの係止溝
82 取付ボルト
90 ピンブーツ
90a ピンブーツの一端
90b ピンブーツの他端
91 ブーツリテーナ
91a ブーツリテーナの胴部
92b ブーツリテーナの鍔
100,100A,100B,100C ブレーキパッド摩耗表示器
110 ウェアインジケータ
110a ウェアインジケータのロッド部
110b ウェアインジケータのストッパ軸部
110c ウェアインジケータの座部
120,120A,120B ばね部材
130 カラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のブレーキパッドと、それらのブレーキパッドの少なくとも一方のブレーキパッドを支持するキャリヤと、一方のブレーキパッドがブレーキディスクに係合するように作動するブレーキアクチュエータを収容するハウジング、そのハウジングから前記ブレーキディスクを跨いで延びるブリッジ、およびハウジングの反対側でブリッジに配設されて他方のブレーキパッドに作用する爪部とを有するキャリパと、前記キャリヤまたはキャリパの一方に固設されたガイドピン、および前記キャリヤまたはキャリパの他方に配設されたガイド孔を封止するピンブーツを含み、前記キャリパを前記キャリヤに対して摺動可能に支持するピンスライド機構部と、前記キャリパに摺動自在に貫挿されてブレーキパッドの摩耗量を目視で確認できるブレーキパッド摩耗表示器とを具備するピンスライド形ディスクブレーキ装置において、
前記キャリパのハウジングが前記キャリヤに対して接近する方向に向けて前記キャリパが移動するとき、前記ブレーキパッド摩耗表示器で以って、前記キャリヤに対する前記キャリパの過剰な移動を制限する構造としたことを特徴とする、
ピンスライド形ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1において、前記ブレーキパッド摩耗表示器が、キャリパの摺動孔に摺動自在に貫挿したピン状のウェアインジケータを含み、このウェアインジケータの一部をキャリパに当接させて、前記キャリヤに対する前記キャリパの過剰な移動を制限することを特徴とする、ピンスライド形ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1において、前記ブレーキパッド摩耗表示器が、キャリパの摺動孔に摺動自在に貫挿したピン状のウェアインジケータと、そのウェアインジケータに外装して、前記ウェアインジケータが前記キャリヤに弾接するようにウェアインジケータとキャリパ間に縮設したばね部材を含み、このばね部材により、前記キャリヤに対する前記キャリパの過剰な移動を制限することを特徴とする、ピンスライド形ディスクブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3において、前記ばね部材が圧縮限界に達したときに、前記キャリヤに対する前記キャリパの過剰な移動を制限することを特徴とする、ピンスライド形ディスクブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4において、前記ばね部材がコイルばねであることを特徴とする、ピンスライド形ディスクブレーキ装置。
【請求項6】
請求項4において、前記ばね部材が竹の子ばねであることを特徴とする、ピンスライド形ディスクブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1において、前記ブレーキパッド摩耗表示器が、キャリパの摺動孔に摺動自在に貫挿したピン状のウェアインジケータと、そのウェアインジケータに外装したカラーとよりなり、前記カラーにより、前記キャリヤに対する前記キャリパの過剰な移動を制限することを特徴とする、ピンスライド形ディスクブレーキ装置。
【請求項8】
請求項7において、前記カラーの内側または外側で、前記ウェアインジケータが前記キャリヤに弾接するように配設したばね部材を含むことを特徴とする、ピンスライド形ディスクブレーキ装置。
【請求項9】
請求項1において、前記キャリパにブーツリテーナが固着され、このブーツリテーナに前記ピンブーツを取着したことを特徴とする、ピンスライド形ディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−243564(P2009−243564A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89916(P2008−89916)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】