説明

ピンホールの占有割合を調整したスパッタリングターゲットおよびその製造方法

【課題】高い投入電力を導入してもスパッタリング時に発生するアーキングを低減しつつ、かつスパッタリングターゲット自体の割れが発生するのを有効に防止するスパッタリングターゲットを提供すること。
【解決手段】本発明のスパッタリングターゲットは、粉末冶金法により作製されてなる板状のスパッタリングターゲットであって、該スパッタリングターゲット内に存在するピンホールによって占有される割合が、該スパッタリングターゲット内の上面側近傍よりも下面側近傍の方が高いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンホールの占有割合が特定の関係に保持されたスパッタリングターゲットおよびその製造方法に関し、特に高速成膜時に発生する割れを効果的に防止することができるスパッタリングターゲットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング処理による成膜工程は、より高速に行うことが強く望まれている。成膜工程を高速化するためには、可能な限りスパッタリング時の投入電力を上げる必要がある。このように投入電力を上げると、必然的にスパッタリングターゲットの加熱度合が増す状況となる。
【0003】
スパッタリングターゲットは、通常、板状を呈しており、上面または下面の一方をスパッタリング面、他方をボンディング面としてスパッタリング処理を施す。スパッタリング処理の際、成膜速度を上げるために高い電力を投入すると、スパッタリング面側の加熱度合が増し、スパッタリング面側とボンディング面側との間に温度差が生じるおそれがある。また、高い投入電力によりスパッタリング時に発生するアーキングの衝撃度が増すおそれもある。さらに、こうしたスパッタリング面側とボンディング面側との間に温度差が生じたり、アーキングの衝撃度が増強したりすることにより、スパッタリングターゲットの割れを誘因する結果となる。
【0004】
一般に、住宅建材に用いられる断熱材などでは、こうした割れを防止するために敢えて内部に空隙を設けて製造する方法が採用されている。しかしながら、スパッタリングターゲットの内部にこうした空隙を設けると、密度が低下したり、スパッタリング時にアーキングが多発したりするため、このような技術をそのまま適用することは困難である。
【0005】
一方、従来より、スパッタリング時に発生するアーキング、またはノジュールを低減するために、種々のスパッタリングターゲットおよびその製造方法が提案されている。
たとえば、特許文献1には、原料粉末を特定の条件下で混合して得られる酸化インジウム・酸化錫焼結体の製造方法が開示されている。該文献では、高電圧下のスパッタリングターゲットの割れを低減することにも着目してはいるものの、ターゲット内の空孔の粗大化を抑制すべく、より均一で微細な空孔を有するターゲットが開示されているにすぎない。
【0006】
また、特許文献2には、より高密度のものとすべく、最大気孔を特定値以下のスパッタリングターゲットが開示され、特許文献3には、特定の大きさのボイド数を一定値以下に低減したスパッタリングターゲットが開示されている。さらに、特許文献4には、特定値以上の直径を有する空孔の形状を特定した酸化物焼結体が開示されており、いずれの文献においても、スパッタリングターゲット内に存在するピンホール(空孔、気孔またはボイド)を微細化したり、均一に分散させたりする思想が開示されているに留まっている。
【特許文献1】特開平10−147861号公報
【特許文献2】特開2005−41776号公報
【特許文献3】特開平5−148636号公報
【特許文献4】特許第3755159号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、こうした従来のスパッタリングターゲットでは、たとえスパッタリング時に発生するアーキングを抑制し得るものであっても、投入電力を上げた際におけるスパッタリングターゲット自体の割れを充分に回避し得るものではなく、高速成膜を行う上での支障となりがちであった。
【0008】
したがって、本発明では、高い投入電力を導入してもスパッタリング時に発生するアーキングを低減しつつ、かつスパッタリングターゲット自体の割れが発生するのを有効に防止するターゲットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、スパッタリングターゲット内に存在し得るピンホールによって占有される割合が、特定の関係を保持するように調整することにより、上記課題を解決し得うることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明のスパッタリングターゲットは、粉末冶金法により作製されてなる板状のスパッタリングターゲットであって、該スパッタリングターゲット内に存在するピンホールによって占有される割合が、該スパッタリングターゲット内の上面側近傍よりも下面側近傍の方が高いことを特徴としている。
【0011】
また、本発明のスパッタリングターゲットは、該スパッタリングターゲット内に存在するピンホールによって占有される割合が、該スパッタリングターゲットの上面側近傍から下面側近傍へ移行するにつれて、連続的に高くなるのが望ましい。
【0012】
さらに、該スパッタリングターゲット内の縦方向中心部近傍に存在するピンホールによって占有される割合と上面側近傍に存在するピンホールによって占有される割合との変化量よりも、該スパッタリングターゲット内の縦方向中心部近傍に存在するピンホールによって占有される割合と下面側近傍に存在するピンホールによって占有される割合との変化量の方が大きいスパッタリングターゲットであるのが望ましい。
【0013】
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、粉末冶金法により作製されてなり、該スパッタリングターゲット内に存在するピンホールによって占有される割合が、該スパッタリングターゲット内の上面側近傍よりも下面側近傍の方が高い板状のスパッタリングターゲットの製造方法であって、原料粉末を用いて得られた成形体を焼結する際、該成形体上面側の焼結温度が高くなるように上面側と下面側との間に温度差を設けることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスパッタリングターゲットによれば、該スパッタリングターゲットに発生する熱応力を充分に緩和する特性を有するため、スパッタリング時に高い投入電力を投入しても、アーキングの発生を抑制しつつスパッタリングターゲットの割れの発生をも充分に防止でき、成膜工程をより高速化することが可能である。
【0015】
したがって、安定した成膜が実現できる上、スパッタリングターゲットの使用効率の向上をも図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明について、必要に応じて図面を参照しながら具体的に説明する。
なお、本明細書において「ピンホール」とは、一般に、スパッタリングターゲット内に存在する空隙、空孔、気孔またはボイドとも称されるものであり、焼結時の収縮または速度等に起因して、焼結後のスパッタリングターゲットの内部に残る微細な空洞である。特
に本明細書では、スパッタリングターゲットの縦断面のSEM像を観察した際、微細な空洞の内壁に結晶粒が観察されるものを「ピンホール」と称する。この結晶粒は、原料粉末の残余分がピンホールの内壁に付着した状態で観察され得るものであり、通常その形状は略球状を呈している。ピンホールの内壁には、これら複数の結晶粒が癒着し合うように付着しており、ピンホールの内壁の表面は、結晶粒の略球状面の一部が次々に連なった形状を呈している。
【0017】
そして、上記ピンホールは、後述する、スパッタリングターゲットの縦断面のSEM像において粒子解析ソフト(粒子解析 Version3.0、住友金属テクノロジー株式会社製)により測定される長軸フェレ径が、50μm以下のものをいう。
【0018】
さらに、各図面において、同一部位には同一の参照番号を付して、その詳細な説明を省略する。
<スパッタリングターゲット>
本発明のスパッタリングターゲットは、粉末冶金法により作製されてなる板状のスパッタリングターゲットであって、該スパッタリングターゲット内に存在するピンホールによって占有される割合が、該スパッタリングターゲット内の上面側近傍よりも下面側近傍の方が高いことを特徴としている。
【0019】
粉末冶金法は、所定の割合で混合した原料粉末、または共沈法などにより均一な混合物として得られた原料粉末を、従来公知の各種乾式法または湿式法を用いて成形体を得た後、該成形体を焼結する方法である。本発明のスパッタリングターゲットは、この粉末冶金法において、板状の成形型を用いて得られる板状のターゲットである。
【0020】
こうしたスパッタリングターゲット内には、焼結の際に原料粉末の収縮具合、または焼結速度の相違などにより、通常ピンホールが発生する。本発明のスパッタリングターゲットは、このピンホールによって占有される割合が、該スパッタリングターゲット内の上面側近傍よりも下面側近傍の方が高い。
【0021】
図1は本発明のスパッタリングターゲットの縦断面の概略図であり、図2は、図1のスパッタリングターゲット1の縦断面において、上面領域、中心部領域および下面領域を示した図である。Tがスパッタリングターゲットの上面、Bがスパッタリングターゲットの下面を示す。
【0022】
上面側近傍とは、スパッタリングターゲット内において、少なくともスパッタリングターゲット1の横中心線Xから縦上方向a側に位置し、かつ上面Tにより近い領域STを意
味する。好ましくは、図2に示すようにスパッタリングターゲットの縦断面において、縦方向に上面領域St、中心部領域Smおよび下面領域Sbと3等分した際における、上面領
域Stに相当する部位を意味する。下面側近傍とは、上記上面側近傍と同様、スパッタリ
ングターゲット内において、少なくともスパッタリングターゲット1の横中心線Xから縦下方向b側に位置し、かつ下面Bにより近い領域SBを意味する。好ましくは、図2に示
す下面領域Sbに相当する部位を意味する。
【0023】
ピンホールは、上述したとおり、原料粉末または焼結具合等に起因して、およそほとんどのスパッタリングターゲットの内部に存在する空隙である。本発明のスパッタリングターゲットは、このピンホールによって占有される割合が、上面側近傍STよりも下面側近
傍SBの方が高い。すなわち、ピンホールはスパッタリングターゲット1の下面側近傍SBにより多くの領域を占め、上面側近傍STよりも下面側近傍SBの方に偏って存在している。
【0024】
このように、ピンホールが下面側近傍SBの方に偏って存在していると、たとえば上面
Tの方から強い衝撃を受けた際、このピンホールが緩衝作用を奏することによってスパッタリングターゲットの割れを有効に防止することが可能となる。また、上面側近傍ST
下面側近傍SBよりもピンホールの占める領域が少ないため、必要以上に密度が低下する
おそれがない。そのため、たとえば上面側近傍STをスパッタリング面とすれば、優れた
特性を有する膜を容易に得ることができる。
【0025】
上記ピンホールによって占有される割合は、上記上面側近傍STから下面側近傍SBへ移行するにつれて、連続的に高くなることが好ましい。具体的には、たとえば、スパッタリングターゲット内の各領域においてピンホールによって占有される割合を測定した際、その割合が図3に示すような曲線を描いて変化する状態を意味する。図3のx軸はスパッタリングターゲットの上面側近傍から下面側近傍への厚さの変移を表し、y軸はピンホールによって占有される割合を表す。このように連続的に変化することにより、スパッタリング時においてアーキングの発生または衝撃の伝導度合いなどが急激に変化することを防止し、スパッタリングターゲットが受ける衝撃をより緩和することが可能となる。
【0026】
さらに、上記ピンホールによって占有される割合は、上記中心部領域Smに存在するピ
ンホールによって占有される割合と上面領域Stに存在するピンホールによって占有され
る割合との変化量に比べ、中心部領域Smに存在するピンホールによって占有される割合
と下面領域Sbとに存在するピンホールによって占有される割合との変化量の方が大きい
のが望ましい。具体的には、たとえば図3に示すような曲線を描くように、上面側近傍STから中心部領域Smまではピンホールによって占有される割合が徐々に変化し、中心部領域Smから下面にかけては上記割合が顕著に増していく状態となるのが望ましい。このよ
うに上面領域St−中心部領域Smと、下面領域Sb−中心部領域Smとの間でピンホールによって占有される割合の変化量に格差を設けることで、スパッタリングターゲット内の上面側近傍における密度を可能な限り一定に保持してスパッタリング時のアーキングの発生を低減し、かつ下面側近傍におけるピンホールの緩衝作用を強化させることによって、スパッタリング時における割れを有効に防止することができる。したがって、膜特性を維持し得るスパッタ領域をより広く確保することが可能となるとともに、割れを有効に防止してスパッタリングターゲットの使用寿命を引き延ばすことが可能となる。
【0027】
本発明のスパッタリングターゲットは、スパッタリングターゲット内に存在し得るピンホールによって占有される割合が、上記のような特定の関係を保持するように調整されたターゲットである。この特定の関係とは、より具体的には以下に示すような関係であるのが望ましい。
【0028】
すなわち、スパッタリングターゲット1の縦断面において、同一の断面積を有するよう上面領域Stおよび下面領域Sbを抽出し、それぞれの領域に存在するピンホールの占有面積をPtおよびPbとした際、これらPtおよびPbが下記式(I)
【0029】
【数1】

の関係を満たすことが望ましい。
上面領域Stおよび下面領域Sbの断面積は、たとえばSEM像(100〜1000倍の視野)を用いてピンホールを確認する場合、その視野面積に相当する。これら断面積の値は、スパッタリングターゲットのサイズにより変動し得るが、通常、1視野あたり5×104〜5×106μm2程度となるよう抽出する。
【0030】
ピンホールの占有面積PtおよびPbは、たとえばスパッタリングターゲット1の縦断面
のSEM像を用い、粒子解析ソフト(粒子解析 Version3.0、住友金属テクノロジー株式会社製)を利用することにより、ピンホールを粒子とみなして所望の値を測定することができる。
【0031】
ピンホールの占有面積PtおよびPbは、具体的には、上記SEM像をトレースしてスキャナで画像認識させ、この画像を二値化する。この際、1画素がμm単位で表示されるように換算値を設定する。次いで、計測項目として「面積」を選択することにより、ピンホールの占有面積PtおよびPbの値を得ることができる。また、「総面積」を選択することにより、視野内におけるピンホールの総面積の値を得ることもできる。また、これらピンホールの占有面積PtおよびPbは、SEM像をトレースした紙の所望の部分を切り取り、その重量を測定する方法によっても得ることもできる。なお、計測項目として「長軸フェレ径」を選択すれば、所望のピンホールの長軸フェレ径の値を得ることができ、「総粒子数」を選択すれば、視野内におけるピンホールの個数をカウントすることもできる。
【0032】
これらピンホールの占有面積PtおよびPbは、単一の視野から求めてもよいが、連続する複数の視野から求めるのが望ましい。
このように、PtおよびPbが上記式(I)の関係を満たすことにより、スパッタリングターゲット1内に存在するピンホールによって占有される割合を、該スパッタリングターゲット1内の上面側近傍STよりも下面側近傍SBの方が高くなるようにすることができる。
【0033】
上記のように、スパッタリングターゲット1の縦断面において、同一の断面積を有するよう上面領域Stおよび下面領域Sbを抽出する際、StおよびSbは次のような領域であるのが好ましい。
【0034】
図4は、スパッタリングターゲット1の縦断面におけるStおよびSbの好ましい態様を示す概念図である。Dはスパッタリングターゲット1の厚さを示し、d1およびd2は、上面TからStの最上端部および最下端部までの距離を示す。d1およびd2は、同時に下面
BからのSbの最下端部および最上端部までの距離を示す。なお、d1<d2であり、かつ
2d1+2d2<Dである。
【0035】
このようにすることで、上面からStの最上端部までの距離と、下面からSbの最下端部までの距離を同一とし、かつ上面からStの最下端部までの距離と、下面からSbの最上端部までの距離を同一とすることができる。これらd1およびd2の具体的な値は、スパッタリングターゲット1の厚さDの値および観察条件に伴って変動し得るものであり、特に限定されないが、測定の容易さの観点から、たとえばスパッタリングターゲット1の厚さDが3〜20mm程度である場合、通常d1=300〜1000μm、d2=3000〜10000μmであり、好ましくはd1=500μm、d2=5000μmである。
【0036】
上記特定の関係は、さらに、以下のような関係であるのがより望ましい。
すなわち、スパッタリングターゲット1の縦断面において、同一の断面積を有するよう上面領域St、中心部領域Smおよび下面領域Sbを抽出し、それぞれの領域に存在するピ
ンホールの占有面積をPt、PmおよびPbとした際、これらPt、PmおよびPbが下記式(II)
【0037】
【数2】

の関係を満たすことがより望ましい。中心部領域Smおよび占有面積Pmについても、上記上面領域Stおよび下面領域Sbの断面積、ならびにピンホールの占有面積PtおよびPb
同様の方法により、その値を求めることができる。なお、上面領域Stおよび下面領域Sbを抽出する際、上記図4に示すような領域となるようにするのが好ましい。
【0038】
このように、さらにPt、PmおよびPbが上記式(II)を満たすことにより、スパッタ
リングターゲット内に存在するピンホールによって占有される割合を、上記中心部領域Smに存在するピンホールによって占有される割合と上面領域Stに存在するピンホールによって占有される割合との変化量に比して、中心部領域Smに存在するピンホールによって
占有される割合と下面領域Sbとに存在するピンホールによって占有される割合との変化
量の方が大きくなるようにすることができる。
【0039】
また、上記下面領域(Sb)に存在するピンホールの占有面積(Pb)、上面領域(St
)に存在するピンホールの占有面積(Pt)、および中心部領域(Sm)に存在するピンホールの占有面積(Pm)より下記式(III)で求められる占有面積割合(Q)が、37%以上、好ましくは52%以上であるのが望ましい。上限値については、特に制限されず、通常100%以下である。
【0040】
【数3】

このようにすることで、スパッタリングターゲット内に存在するピンホールは、スパッタリングターゲット1の下面側近傍SBにより多くの領域を占め、上面側近傍STよりも下面側近傍SBの方により偏って存在させることができる。したがって、他の領域に関して
は必要以上に密度を低下させることなく、下面側の割れに対する強度を増すことができる。
【0041】
さらに、上述した上面領域Stに存在するピンホールの占有面積Ptと、前記下面領域Sbに存在するピンホールの占有面積Pbとの比であるPt/Pbの値は、通常0.9以下、好ましくは0.05〜0.7、より好ましくは0.05〜0.6である。Pt/Pbの値を上記範囲とすることにより、ピンホールが下面側近傍SBの方により偏って存在させること
ができ、ピンホールの緩衝作用を有効に活用することができるとともに、上面側近傍ST
の密度を必要以上に低下させるおそれもない。
【0042】
本発明のスパッタリングターゲットは、上面Tをスパッタリング面とし、下面Bをボンディング面とするのが望ましい。上述したように、本発明のスパッタリングターゲットは、上面側近傍STの密度が高く保持されたまま下面側近傍SBの方にピンホールが偏って存在しているため、上面T側でスパッタリング処理を施すことによってアーキングの発生を抑制した成膜工程を遂行することができるとともに、下面B側でピンホールによる衝撃緩和作用を充分に発揮させることができる。したがって、スパッタリングターゲットの割れの発生を顕著に防止することができ、該スパッタリングターゲットの有効利用を容易に実現できる。
【0043】
本発明のスパッタリングターゲットの材質は特に限定されず、たとえば、酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物などを主成分としたターゲットが挙げられる。なかでも、スパッタリングターゲットの割れの発生防止効果をより効果的に得る観点から、セラミックスを含むのが好ましく、酸化インジウムを含むのがより好ましい。また、透明電導膜用として有望視され、かつ高い性能を期待されるITO(Indium-Tin-Oxide)を含むターゲットであれば、さらに有用性が高く好適である。
【0044】
なお、本発明のスパッタリングターゲットの相対密度は、その材質等により変動し得るものであって特に限定されないが、たとえば上記ITOを含むターゲットである場合、通
常99%以上から100%未満とすることができる。
【0045】
<スパッタリングターゲットの製造方法>
次に、本発明のスパッタリングターゲットの製造方法について詳細に説明する。
本発明のスパッタリングターゲットは、上記のとおり、粉末冶金法により製造されるものであり、より具体的には原料粉末を必要に応じて、仮焼、分級処理を施した後、ボールミルなどにより混合する。次いで、混合した原料粉末を成形型に充填して圧縮成型する。この際、大気雰囲気下または酸素雰囲気下で脱脂してもよく、あるいは特開平11−286002号公報に記載の濾過式成形法のように、スラリーから水分を減圧排水して成形体を得るための非水溶性材料からなる濾過式成形型に、混合した原料粉末、イオン交換水、有機添加材とからなるスラリーを注入し、スラリー中の水分を減圧排水して成形体を作製し、この成形体を乾燥脱脂してもよい。
【0046】
スラリーを用いて成形体を作製する場合、スラリーを注入した成形型の底面側を下面として次工程の焼成処理を施すのが好ましい。成形型の底面側は上面側に比べて比較的粒径の大きな原料粉末が沈降しやすい傾向にあるため、上面側に比較的粒径の小さい原料粉末が浮上しやすく、該底面側を下面として焼成することにより、得られるスパッタリングターゲット1の上面側近傍STをより高密度とすることができる。すなわち、スパッタリン
グターゲット1内に存在するピンホールによって占有される割合を、上面側近傍STより
も下面側近傍SBの方が高くなるようにすることが容易となる。
【0047】
このようにして得られた成形体を、以下に説明する条件下で焼成処理することにより、本発明のスパッタリングターゲットを得ることができる。
焼成処理は、通常、加熱工程、保温工程および冷却工程からなり、焼成処理に使用できる炉は、公知の構造の炉であれば特に限定されないが、本発明のスパッタリングターゲットを得るためには加熱工程に特徴を有する。すなわち、成形体上面側の焼結温度が高くなるように上面側と下面側との間に温度差を設ける。
【0048】
具体的には、加熱工程において、まず上記成形体を炉内に入れ、炉内を連続的にあるいは段階的に、通常、1450〜1700℃の温度範囲内で焼結する。この際、必要に応じて成形体を焼成板に載置してもよい。炉内の平均昇温速度は、通常50〜500℃/hour程度である。
【0049】
また、得られる焼結体の密度向上の観点からは、前記加熱工程は、炉内に酸素を導入して酸素雰囲気内で行うことが望ましい。炉内に導入する酸素の流量は、炉内体積1m3
たり、通常0.1〜500m3/hourの範囲内の量である。
【0050】
そして、加熱工程において、成形体の上面側の焼結温度と、下面側の焼結温度とに差が生じるように温度設定する。この温度差は、下面側よりも上面側が高ければよく、特に限定されないが、通常30℃以上、好ましくは80℃以上である。上限値については特に制限されないが、通常200℃以下である。また、温度設定の具体的な方法についても特に限定されないが、たとえば、成形体を焼成板に載置した後、成形体上面側からのみ加熱ヒーターを照射する方法、または上面側の加熱ヒーターの温度設定と下面側の加熱ヒーターの温度設定との間に差を設ける方法が挙げられる。
【0051】
このように、下面側に比して上面側からより高い温度にて焼結することにより、成形体の上面部位と下面部位との間に温度差が生じ、これに伴ってこれらの部位における熱収縮度にも差異が生じる。すなわち、加熱度合の高い上面部位の方が下面部位よりもより収縮しやすい状況にあり、スパッタリングターゲット内の上面側近傍STにはピンホールが発
生しにくく、より密度の高い部位となり得る。一方、下面部位は上面部位よりも収縮率が
低くなりがちであるため、スパッタリングターゲット内の下面側近傍SBにピンホールが
発生しやすい状況となる。こうした状況が主な要因となって、スパッタリングターゲット1内に存在するピンホールによって占有される割合が、上面側近傍STよりも下面側近傍
Bの方が高いスパッタリングターゲットが得られるものと推定される。
【0052】
また、成形体上面側からのみ加熱ヒーターを照射する方法などを採用して上面からの加熱温度と下面からの加熱温度とに差異を生じさせる際、さらに成形体と加熱ヒーターとの間、すなわち成形体上面上に収縮促進板を載置するのが好ましい。収縮促進板とは、成形体の熱収縮を促進する機能を有する板であり、こうした機能を発揮し得る限りその材質は特に限定されないが、成形体よりも熱収縮率の高い材質であるのが好ましく、具体的にはアルミナ、アルミナ−シリカ材、アルミナ−シリカ−マグネシア材、ITOなどが挙げられ、成形体の材質がITOの場合には、同じ材質のITOであるのが好ましい。
【0053】
このような収縮促進板を成形体上面上に載置することにより、収縮促進板と成形体との間の摩擦力などの作用により、成形体の上面部位の熱収縮をより促進させることが容易となる傾向にある。また、下面側に比して上面側からより高い温度にて焼結することにより、スパッタリングターゲットに反りが生じやすくなる可能性があるが、このような収縮促進板を載置することで比較的反りの発生を抑制しやすくなる。なお、成形体上面上に収縮促進板を載置した後、さらに収縮促進板上部に焼成蓋を配置してもよい。
【0054】
次いで、炉内の平均降温速度を、通常300〜20℃/hour程度とし、室温まで降温する。
保温工程においては、通常1〜20時間程度、温度を保持する。
【0055】
さらに冷却工程では、上記炉内を連続的にあるいは段階的に室温まで冷却し、上記加熱工程及び保温工程を経た成形体を冷却する。
このようにして得られた焼結体を、必要に応じて所望の形状に切り出し、研削等した後、冷却板であるバッキングプレートとを接合することで、スパッタリングターゲットを得ることができる。
【0056】
この場合、バッキングプレートは、通常スパッタリングターゲットのバッキングプレートとして用いられるものであればよく、銅製、銅合金製、またはTi製のバッキングプレートが挙げられる。またその形状も公知のものでよく、とくに限定されない。
【0057】
上記焼結体とバッキングプレートとの接合は、公知の方法で適宜行うことができ、特に限定されないが、コストや生産性の点からは、In半田などのボンディング剤を介して接合する方法が好ましく挙げられる。具体的には、焼結体を必要に応じて所望の形状に切り出し、必要に応じて研削等した後、In半田の融点以上の温度に加熱し、該温度を保持した状態で、焼結体のバッキングプレートと接合する面に溶融したIn半田を塗布し、バッキングプレートと貼り合せ、加圧しながら放冷して室温まで冷却するなどの方法により接合できる。この焼結体において、加熱温度をより高く設定した面側、すなわち上面側をスパッタリング面とし、下面側をバッキングプレートと接合する面とするのが望ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各測定項目および各評価は以下の手順に従って行った。
【0059】
《相対密度》
アルキメデス法に基づき測定した。具体的には、スパッタリングターゲット焼結体の空
中重量を、体積(=スパッタリングターゲット焼結体の水中重量/計測温度における水比
重)で除し、真密度7.155(g/cm3)に対する百分率の値を相対密度(単位:%
)とした。
【0060】
《ピンホールの個数》
得られたスパッタリングターゲットの一部を切り出し、その縦断面を研磨して鏡面に仕上げた。この縦断面において、図4に示すように、d1=500μm、d2=5000μmとなるよう、SEM観察(倍率;200倍、JSM−6380A;JEOL製)を行って、上面領域(St)および下面領域(Sb)を抽出した。中心部領域(Sm)についても、
図4に示すように、縦断面の横中心線XがSmの横中心を横断し、かつStおよびSbと同
一の断面積(3×105μm2)となるように抽出した。
【0061】
次いで、SEM像において上記領域内に確認されたピンホールの個数をカウントした。なお、各領域とも視野間におけるスパッタリングターゲット横方向の間隔が500μmとなるように15視野抽出して、そのピンホールの個数の平均値を求め、該値をピンホールの個数として評価した。
【0062】
《ピンホールの占有面積》
上記SEM像において確認されたピンホールをトレースしてスキャナで画像認識させ、この画像を二値化する。この際、1画素がμm単位で表示されるように換算値を設定する。次いで、粒子解析ソフト(粒子解析 Version3.0、住友金属テクノロジー株式会社製)を用い、計測項目として「面積」を選択することにより、個々のピンホールの占有面積の値(単位:μm2)を確認し、1μm2以上の占有面積が計測されたピンホールを測定対象とした。次いで、計測項目として「総面積」を選択することにより、視野内におけるピンホールの総占有面積の値(単位:μm2)を得た。なお、各領域とも15視野抽出してそ
のピンホールの総占有面積の平均値を求め、該値をピンホールの占有面積PtおよびPbの値として評価した。
【0063】
《長軸フェレ径》
ピンホールの占有面積を求めたときに画像認識させて二値化したピンホールについて、同様に粒子解析ソフトを用い、計測項目として長軸フェレ径を選択し、上記視野内に確認されたピンホールの長軸フェレ径の平均値を算出した。なお、各領域とも15視野抽出して、上記長軸フェレ径の平均値を算出し、さらにその長軸フェレ径の平均値を求め、該値を長軸フェレ径の値として評価した。
【0064】
《ピンホールの占有面積割合(Q)》
上記上面領域(St)に存在するピンホールの占有面積(Pt)、中心部領域(Sm)に
存在するピンホールの占有面積(Pm)、および下面領域(Sb)に存在するピンホールの占有面積(Pb)の値から、上記式(III)で求められる占有面積割合(Q:単位%)を算出した。
【0065】
《占有面積比(Pt)/(Pb)》
上面領域Stに存在するピンホールの占有面積Ptと、前記下面領域Sbに存在するピン
ホールの占有面積Pbとの値から、これらの比であるPt/Pbの値を算出した。
【0066】
《アーキングの発生回数・投入電力量(スパッタリングターゲットの割れ発生時)》
得られたスパッタリングターゲットをバッキングプレートに接合し、下記のスパッタリング条件にしたがってスパッタリング処理を施した。この際、投入電力量を0.3〜10W/cm2の範囲内で徐々に出力アップしながらスパッタリングターゲットを観察し、割
れが発生した時点の投入電力量の値を確認した。また、以下のアーキングカウンターを用
いて、割れが発生するまでの間に発生したアーキング回数をカウントした。
【0067】
<スパッタリング条件>
装置;DCマグネトロンスパッタ装置、排気系クライオポンプ、ロータリーポンプ
到達真空度;3×10-6Pa
スパッタ圧力;0.4Pa
酸素分圧;1×10-3Pa
<アーキングカウンター>
型式;μArc Moniter MAM Genesis MAM データコレクター Ver.2.02
(LANDMARK TECHNOLOGY社製)
《スパッタリングターゲットの反り》
得られたスパッタリングターゲットの反りが生じている面側を、ストレートエッジと突合せ、面中心部においてストレートエッジからの離間隔が最大である部位について、その長さ(単位:mm)を隙間ゲージで測定し、スパッタリングターゲットの反りの程度を評
価した。該数値が0に近似するほどフラットな状態、すなわち反りが抑制された良好なスパッタリングターゲットであることを示す。
【0068】
[実施例1]
ポリプロピレン製20Lポット内に、酸化インジウム(In23)の粉末と酸化錫(SnO2)の粉末とを90:10(重量比)の割合とした原料粉末と、水、アクリルエマル
ジョンバインダー(0.5%)、および分散剤(カルボン酸アンモニウム、0.5%)を加えてボールミル混合(Φ10mmZrO2ボール、33rpm)を20h行い、スラリ
ーを得た。用いた原料粉末のBETは5.5m2/g、得られたスラリーの粘度は138
cps(スパイラル粘度計 PC−1TL:(株)マルコム社製、測定温度:20℃)であった。該スラリー100重量%中の原料粉末、水、バインダー、および分散剤の量比(重量%)を表1に示す。得られたスラリーを成形型に入れ、ろ過成形を行って成形体を得た。
【0069】
このようにして得られた成形体を、成形型の底面側が下面となるように焼成板に載置した状態でバッチ炉内に入れ、さらに成形体上面上に収縮促進板(Al23)を載置した。次いで、炉内に酸素濃度100%の酸素ガスを流しながら(炉内体積1m3あたりに1m3/h)、成形体上面の上部ヒーターを1650℃、下部ヒーターを1500℃に設定して、上部と下部の温度差が150℃となるようにし、20h焼成した。この際、リファサーモを用いて成形体の上面および下面の温度を測定し、上記温度差が保持されていることを確認した。その後、室温まで冷却し、厚さ10mmのITO焼結体を得た。
【0070】
得られたITO焼結体の反りおよび相対密度を測定した結果を表1に示す。また、ピンホールの個数、占有面積等、アーキング発生回数、およびスパッタリング時に割れが発生した時点の投入電力に関する測定結果および評価結果を表2に示す。
【0071】
[実施例2〜11、比較例1〜4]
表1に示す原料粉末および条件を採用した以外、実施例1にしたがって成形体を得た。得られた成形体を用い、表1に示す焼成条件にしたがって、実施例1と同様にITO焼結体を得た。得られたITO焼結体の各測定結果および評価結果を表2に示す。
【0072】
[実施例12]
ポリプロピレン製20Lポット内に、酸化インジウム(In23)の粉末と酸化錫(SnO2)の粉末とを90:10(重量比)の割合とした原料粉末を入れ、ボールミル混合
(Φ10mmZrO2ボール、33rpm、20h)をして、バインダーとしてポリビニ
ルアルコール溶液(4%)を添加し、粉末を得た。バインダーの添加量は原料粉末100
重量%に対し、6重量%の量であった。得られた粉末を成形型に入れ、800kgf/cm2の圧力でプレス成形を行って成形体を得た。
【0073】
このようにして得られた成形体を、成形型の底面側が下面となるように焼成板に載置した状態でバッチ炉内に入れ、さらに成形体上面上に収縮促進板(Al23)を載置した。次いで、炉内に酸素濃度100%の酸素ガスを流しながら(炉内体積1m3あたりに1m3/h)、成形体上面の上部ヒーターを1570℃、下部ヒーターを1500℃に設定して、上部と下部の温度差が70℃となるようにし、20h焼成した。この際、リファサーモを用いて成形体の上面および下面の温度を測定し、上記温度差が保持されていることを確認した。その後、室温まで冷却し、厚さ18mmのITO焼結体を得た。
【0074】
得られたITO焼結体の反りおよび相対密度を測定した結果を表1に示す。また、ピンホールの個数、占有面積等、アーキング発生回数、およびスパッタリング時に割れが発生した時点の投入電力に関する測定結果および評価結果を表2に示す。
【0075】
[実施例13、比較例5]
表1に示す原料粉末および条件を採用した以外、実施例12にしたがって成形体を得た。得られた成形体を用い、表1に示す焼成条件にしたがって、実施例12と同様にITO焼結体を得た。得られたITO焼結体の各測定結果および評価結果を表2に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

表1および表2に示した結果に基づき、グラフ化したものを図5〜図8に示す。図5は表2における占有面積(Q)とアーキング発生回数との関係を示すものであり、図6は表2における占有面積(Q)とスパッタリングターゲットの割れが発生した時点の投入電力量との関係を示す。これによれば、占有面積(Q)が高い値を示すほど、アーキング発生回数が低減されるとともに、スパッタリングターゲットの割れを有効に防止する傾向にあることがわかる。
【0078】
図7は、表1における焼成時のスパッタリングターゲットの上部と下部との温度差、収
縮促進板の載置の有無、および表2におけるピンホールの占有面積比((Pt)/(Pb))の関係を示すものである。これによれば、焼結時において上部と下部との温度差が大きいほど(Pt)/(Pb)の値が小さくなり、また収縮促進板を載置すればより(Pt)/
(Pb)の値が小さくなる傾向にあることがわかる。
【0079】
図8は、表1における焼成時のスパッタリングターゲットの上部と下部との温度差、収縮促進板の載置の有無、およびスパッタリングターゲットの反りの関係を示すものである。これによれば、焼結時において上部と下部との温度差が大きいほどスパッタリングターゲットの反りは大きくなるおそれがあるが、収縮促進板を載置すればこの反りを効果的に抑制できる傾向にあることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のスパッタリングターゲット1の縦断面の概略図であり、上面側近傍STおよび下面側近傍SBを示す図である。
【図2】スパッタリングターゲット1の縦断面における上面領域St、中心部領域Smおよび下面領域Sbを示す図である。
【図3】スパッタリングターゲット1内の各領域におけるピンホールによって占有される割合を模式化したグラフである。x軸は、スパッタリングターゲット1の上面側近傍STから下面側近傍SBへの厚さの変移を表し、y軸はピンホールによって占有される割合を表す。
【図4】スパッタリングターゲット1の縦断面における上面領域Stおよび下面領域Sbの好ましい態様を示す概念図である。
【図5】占有面積(Q)とアーキング発生回数との関係を示すグラフである。
【図6】占有面積(Q)とスパッタリングターゲット1の割れが発生した時点の投入電力量との関係を示すグラフである。
【図7】焼成時のスパッタリングターゲット1の上部と下部との温度差、収縮促進板の載置の有無、およびおけるピンホールの占有面積比((Pt)/(Pb))の関係を示すグラフである。
【図8】焼成時のスパッタリングターゲット1の上部と下部との温度差、収縮促進板の載置の有無、およびスパッタリングターゲット1の反りの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0081】
1: 本発明のスパッタリングターゲット
T: スパッタリングターゲット1の上面
B: スパッタリングターゲット1の下面
a: 縦上方向
b: 縦下方向
X: スパッタリングターゲット1の横中心線
T: スパッタリングターゲット1の横中心線Xから縦上方向a側に位置する領域で
ある上面側近傍
B: スパッタリングターゲット1の横中心線Xから縦下方向b側に位置する領域で
ある下面側近傍
t: スパッタリングターゲット1を縦方向に3等分した際における上面領域
m: スパッタリングターゲット1を縦方向に3等分した際における中心部領域
b: スパッタリングターゲット1を縦方向に3等分した際における下面領域
1: 上面Tから上面領域Stの最上端部および下面Bから下面領域Sbの最下端部
2: 上面Tから上面領域Stの最下端部および下面Bから下面領域Sbの最上端部
D: スパッタリングターゲット1の縦断面における厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末冶金法により作製されてなる板状のスパッタリングターゲットであって、該スパッタリングターゲット内に存在するピンホールによって占有される割合が、該スパッタリングターゲット内の上面側近傍よりも下面側近傍の方が高いことを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記スパッタリングターゲット内に存在するピンホールによって占有される割合が、該スパッタリングターゲットの上面側近傍から下面側近傍へ移行するにつれて、連続的に高くなることを特徴とする請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記スパッタリングターゲット内の縦方向中心部近傍に存在するピンホールによって占有される割合と上面側近傍に存在するピンホールによって占有される割合との変化量よりも、
該スパッタリングターゲット内の縦方向中心部近傍に存在するピンホールによって占有される割合と下面側近傍に存在するピンホールによって占有される割合との変化量の方が大きいことを特徴とする請求項1または2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記スパッタリングターゲットの縦断面において、前記上面側近傍の領域を上面領域(St)、前記下面側近傍の領域を下面領域(Sb)とした場合に、
該上面領域(St)に存在するピンホールの占有面積(Pt)と該下面領域(Sb)に存
在するピンホールの占有面積(Pb)とが、下記式(I)
【数1】

を満たす(ただし、StおよびSbの断面積は同一である。)ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記スパッタリングターゲットの縦断面において、該スパッタリングターゲットの厚さをDとした場合に、
前記上面領域(St)が、上面からの距離d1と距離d2との間に位置する領域であり、
前記下面領域(Sb)が、下面からの距離d1と距離d2との間に位置する領域である(
ただし、StおよびSbの断面積は同一であり、d1≧300μmであり、d1<d2であり
、かつ2d1+2d2<Dである。)ことを特徴とする請求項4に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項6】
前記スパッタリングターゲットの縦断面において、縦方向中心部近傍の領域を中心部領域(Sm)とした場合に、該中心部領域(Sm)に存在するピンホールの占有面積(Pm
、前記上面領域(St)に存在するピンホールの占有面積(Pt)、および前記下面領域(Sb)に存在するピンホールの占有面積(Pb)が、下記式(II)
【数2】

を満たす(ただし、St、SmおよびSbの断面積は同一である。)ことを特徴とする請求
項4または5に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記スパッタリングターゲットの縦断面において、前記下面領域(Sb)に存在するピ
ンホールの占有面積(Pb)、前記上面領域(St)に存在するピンホールの占有面積(Pt)、および前記中心部領域(Sm)に存在するピンホールの占有面積(Pm)より下記式
(III)で求められる占有面積割合(Q)が、37%以上であることを特徴とする請求項
6に記載のスパッタリングターゲット;
【数3】

【請求項8】
前記上面領域(St)に存在するピンホールの占有面積(Pt)と、前記下面領域(Sb
)に存在するピンホールの占有面積(Pb)との比(Pt)/(Pb)が、0.9以下であ
る(ただし、StおよびSbの断面積は同一である。)ことを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記上面をスパッタリング面とし、前記下面をボンディング面とすることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項10】
前記スパッタリングターゲットがセラミックスを含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項11】
前記スパッタリングターゲットが、酸化インジウムを含むことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項12】
前記スパッタリングターゲットが、ITO(Indium-Tin-Oxide)を含むことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のスパッタリングターゲット。
【請求項13】
粉末冶金法により作製されてなり、該スパッタリングターゲット内に存在するピンホールによって占有される割合が、該スパッタリングターゲット内の上面側近傍よりも下面側近傍の方が高い板状のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
原料粉末を用いて得られた成形体を焼結する際、該成形体上面側の焼結温度が高くなるように上面側と下面側との間に温度差を設けることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項14】
前記原料粉末を用いて得られた成形体を焼結する際、さらに、前記成形体の上面に収縮促進板を配置することを特徴とする請求項13に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−197273(P2009−197273A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39953(P2008−39953)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】