説明

ファイバーヒューズ遠隔検知装置

【課題】光ファイバーでファイバーヒューズが発生した場合に、光ファイバーの損傷を抑制するために、容易にその発生を検知し、できるだけ早く措置を取れる様にする。
【解決手段】光パルス発生器と、その出力を光ファイバーに入射する光結合手段と、発生したファイバーヒューズによる戻り光を分岐する分岐手段と、戻り光から光パルスの戻り光を選択する盧波手段と、その出力光を光電変換する変換手段と、その出力を時間の関数として測定する測定手段と、その測定手段の出力で一方向に移動する特徴点を見出す信号処理手段と、このような特徴点を見出した場合に警報信号を発する警報手段と、を備える。この警報信号で、例えば、光伝送を中断して、損傷を抑制する。特徴点を見出すには、パルスの往復時間の変化を検出するか、シングルパルスやダブルパルスまたはマルチパルスの短縮を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光ファイバーで高強度の光を伝送する際に発生するファイバーヒューズの検知装置であって、特に、光時間領域反射測定法(OTDR:Optical Time Domain Reflectometry)を基にしたファイバーヒューズ遠隔検知装置に関している。
【背景技術】
【0002】
無中継距離の延伸や、波長分割多重(WDM)技術による多重数の増加により、通信用途でも光ファイバーを伝搬する光パワーが増加する傾向にあり、やがて、平均パワーが数Wに達するのではないかと考えられる。また、光ファイバーでパワーを伝送しようとする試みもある。
【0003】
光ファイバー中を高強度光が伝搬する際、光伝送路中または光コネクタ部の微細なゴミなどによって、「ファイバーヒューズ」と言われる光ファイバーの破壊現象が起こることが知られている。具体的には、例えばゴミ部分で発火して光ファイバーのコアが溶融し、その溶融現象が光源に向かって進行する現象であり、時間の経過とともに突然、反射光の平均強度が増大する。突然ファイバーヒューズが発生すると、光ファイバー内では、周期的に空洞が形成され、これらの空洞が、戻り光に強度変調をもたらす。例えば、ファイバーヒューズの進む速度をv(m/s)、光ファイバー中に生じる周期構造の空洞のピッチをp(m)とすると、1ピッチ分、進むために必要な時間はp/vとなる。ファイバーヒューズの光源方向への進行により、ファイバーヒューズの起きている場所で反射して逆方向に伝搬する戻り光は、強度変調を受けることになり、その強度変調の基本繰返し周波数f0は、f0=v/p、となる。
【0004】
例えば、米国コーニング社の単一モード光ファイバーSMF−28を使ったファイバーヒューズの実験では、2.75Wのレーザー光を入射したときに、ファイバーヒューズの進行速度vが0.46m/s、周期構造のピッチ15μmであり、上記式から得られる基本変調周波数f0は、31kHzである。この様な強度変調が、ノイズレベルの増大をもたらすと考えられる。
【0005】
ファイバーヒューズによる破壊は、コアにおける光パワー密度が一定値以下にならない限り進行する。光源に近いほど、光パワーは大きいので、ファイバーヒューズ現象を放置すれば、最終的に光源にまで到達することになり、光源をも損傷する。
【0006】
光ファイバー伝送路における異常は、通常、OTDR装置で観測される。これは、光ファイバー伝送路を光が伝搬する際レイリー(Rayleigh)散乱による散逸やコネクタの接続面からの反射のため入射方向へ進む逆向きの反射光による散逸を観測するものである。光伝送路にナノ秒の短光パルスを入力パルス(Input Pulse)として入力し、ファイバー線路からの戻り光パルス(Reflected Pulse)の強度の時間分布を検知することによって、ファイバー中で起こる長手方向の散乱光の強度や、反射端のからの反射強度を測定することができる。伝送路に起きるこれらの反射光はOTDR法を用いて、容易に測定することが可能となっており、多数のメーカーからこのためのOTDR装置が市販されている。
【0007】
図14は、OTDRの代表的なブロックダイアグラム(Block Diagram)を示している。ここでは、半導体レーザーにパルスジェネレータからの電気パルスを印加し、ナノ秒(ns)から数十ns幅の光パルスを発生させ、その光パルスを、光カプラーを通じて光ファイバーによる被測定伝送路に入力する構造になっている。上記伝送路からの戻り光を光検出器で検出する。この光検出器から出力される電気信号を、増幅後に、タイムベース(Time Base)制御器からの信号によって、サンプリングを行いアナログ信号からデジタル信号へ変換する。また、繰り返し、各パルスから得られる反射光の強度について時間的平均化を行い、最終的に表示器で表示する。
【0008】
図15に、後方レイリー散乱光を対数表示したOTDRトレースの代表的な例を示す。一般に、距離に従って指数関数的に減衰するが、光路上に、コネクタ、溶融接合、屈曲部、メカニカルスプライス、などがあると強い反射があることが分かる。また、ファイバー解放端からの反射は、通常、最大のピークとなり、その端部では急激にノイズレベルまで落ち込むことが分かる。ここで、OTDRからの任意の反射点までの距離をz、光パルスを入力して前記反射点で反射されて戻ってくるまでの時間をt、とすれば、z=t×(c/2)となる。
【0009】
この様なOTDR装置は、単体のファイバー伝送路中の反射分布を測定に使用する他に、ポン(PON:Passive Optical Network)等のシステム維持などにも適用されている。これによって、光通信の最中に電送路に切断などの異常が起こった場合を検知し、その対策を打つことができる。
【0010】
例えば、T=ToからT=To+Δ(Δは十分小さい)までの時間で測定されたOTDRトレースに変化が見られた場合は、その時間帯で異常が起こったことを検知したことになる。通常、伝送路途中で破断や切断などによる異常が発生した場合は、その場所が固定しているため、OTDRの表示に時間的な変化はない。すなわち、一定の波形を表示し続けることとなる。
【0011】
また、光ファイバーに入射した光の強度は、上記のように指数関数的に減少するため、上記の様なファイバーヒューズは、通常、光入射端近辺で発生する。本発明は、このファイバーヒューズ現象の発生を上記のOTDRと同様な構成の装置を用いて検知するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−184264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
高強度のレーザー光を伝送する光ファイバーでファイバーヒューズが発生した場合に、光ファイバーの損傷を抑制するために、容易にその発生を検知し、できるだけ早くレーザー光の伝送を中断するなどの措置を取れる様にする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一般に、ファイバーヒューズは発生の場所に止まらず、ファイバーを破壊しながら光源の方へ進む現象である。この破壊された点で反射が起こり、また、上記の様にファイバーヒューズの先端が一定の速度で光源に向かって進行するため、反射端の位置も時間に依存して変化することになる。この様なファイバーヒューズによる被害を抑制するための本発明のファイバーヒューズ遠隔検知装置は、光信号を光ファイバーで伝送する際に該光信号で引き起こされるファイバーヒューズ現象の発生を検知し警報を発する装置であって、次の構成を備えるものである。
【0015】
つまり、光信号を光ファイバーで伝送する際に該光信号で引き起こされるファイバーヒューズの発生あるいは発生箇所を検知し警報を発する装置であって、光パルス発生器と、該光パルス発生器からの光パルスを上記光ファイバーに入射する光結合手段と、発生したファイバーヒューズによる該光ファイバーの戻り光を分岐する分岐手段と、上記戻り光から上記光パルスの戻り光を選択する盧波手段と、上記盧波手段の出力光を光電変換する変換手段と、上記変換手段の出力を時間の関数として測定する測定手段と、上記測定手段の出力において一方向に移動する特徴点を見出す信号処理手段と、上記特徴点が見出された場合に警報信号を発する警報手段と、を備える。上記特徴点が発生した場合に、警報信号を出力する。この警報信号を用いて、例えば、上記光ファイバーによる光信号の伝送を中断して、ファイバーヒューズによる光ファイバーの損傷を抑制するものである。上記分岐手段としては、方向性光結合器を用いることができる。
【0016】
上記光結合手段には、方向性光結合器を用いて、上記光パルス発生器からの光が、ファイバーヒューズの発生を監視する方向に伝播する様に入射することが望ましい。
【0017】
上記光結合手段には、波長分割多重結合素子を用いて、上記光パルス発生器からの光が、ファイバーヒューズの発生を監視する方向に伝播する様に入射するようにしてもよい。
【0018】
また、上記信号処理手段としては、上記測定手段の出力において光強度が急激に低下する直前の時点での光反射強度のピークの場所の移動を観測するものである。これは、ファイバーヒューズが発生すると、伝送用の光ファイバーがそこで切断され、その切断箇所で光反射が起こり、その先の地点の反射光がなくなるためである。
【0019】
また、上記信号処理手段は、上記変換手段の出力を所定の時間に渡って平均化する機能を備え、平均化された上記測定手段の出力において光強度が急激に低下する直前の時点での光強度のピークの拡幅を観測するものであってもよい。これは、移動しつつあるピークを十分に長い時間に渡って平均化すると、そのピークの幅が、見かけ上増大するためである。
【0020】
上記の様にファイバーヒューズの先端が一定の速度で光源に向かって進行するため、例えば2つの光パルスを伝送すると、光路長については、先の光パルスよりも後の光パルスの場合の方が短い。このため、ファイバーヒューズによる破壊が進行しつつある光ファイバー端で反射された2つのパルス間の時間間隔は、当初のものよりも短くなる。このため、上記信号処理手段としては、戻り光に含まれる上記パルス列におけるパルス間隔の短縮を検出するものであってもよい。
【0021】
上記の様に、戻り光に含まれる上記パルス列におけるパルス間隔の短縮を検出する方法としては、パルス列のもつ周波数成分を検出することと同等であることは知られている。この場合は、パルス間隔が短かくなるため、戻り光に含まれるパルス列に含まれる高周波数化した周波数成分を検出するものである。
【0022】
上記の例の様に、2つの光パルスを伝送することに代わって、充分に長いパルス長の光パルスを伝送し、その立ち上がり点と立ち下がり点とで、前記の2つのパルスの代用とすることができる。このため、上記光パルス発生器は、所定のパルス列を生成し出力するものであり、上記信号処理手段は、戻り光に含まれる上記パルス列における個々のパルスの時間長の短縮を検出するものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
このファイバーヒューズ遠隔検知装置では、ファイバーヒユーズが発生した際、遠隔地からそれを瞬時に検知すると共にその発生場所およびその移動の様子ならびにファイバーヒユーズの進行速度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のファイバーヒューズ遠隔検知装置を光通信システムに適用した例を示すブロック図である。
【図2】ファイバーヒューズ遠隔検知装置の構成例を示すブロック図である。
【図3】ファイバーヒューズ進行中に、時間t=t1及びt=t2の時点で測定したOTDR出力のトレース例を表す模式図である。
【図4】ファイバーヒューズ進行中に、OTDRの出力の際に、図3の場合よりも長く平均化することで、反射端の構造が図3に比べ広い幅となることを示す模式図である。
【図5】ファイバーヒューズが進行中のOTDRトレースと測定の平均時間の依存性例を示す図である。
【図6】ファイバーヒューズを引き起こす光源(高出力レーザで代表)からの光とOTDRからの光パルスが同じ波長帯を用いる場合の、ファイバーヒューズの発生を検知するための装置構成例を示すブロック図である。
【図7】OTDRのパルス光の波長が、ファイバーヒューズを引き起こす光源(高出力レーザで代表)からのASE(Amplified Spontaneous Emission:光増幅器から発する自然放出光雑音)ラマンスペクトルと重なる場合の装置構成例を示す図である。
【図8】図6に示す装置を用いて、(a)ファイバーヒューズが発生した際に得られたOTDRトレース、および(b)高出力レーザーを止め、ファイバーヒューズを防止した状態で得られたOTDRトレース、を示す図である。
【図9】図7の装置を用いてヒューズを発生した際に得られたOTDRトレースを示す図である。
【図10】図7の装置構成で、平均化の時間を(a)10s、(b)20s、および(c)30sにしたときの、ファイバーヒューズ発生時のOTDR出力表示例を示す図である。
【図11】所定の間隔の2つの光パルス(ダブルパルス)を間歇的に出力するレーザーパルス光源とパルス間隔測定器を用いるファイバーヒューズ遠隔検知装置例を示すブロック図である。
【図12】上記ダブルパルス分の長さをもった光パルスを間歇的に出力するレーザーパルス光源とパルス長測定器を用いるファイバーヒューズ遠隔検知装置例を示すブロック図である。
【図13】所定の間隔の複数(3以上)の光パルスからなる光パルス列を間歇的に出力するレーザーパルス光源と繰返し周波数測定器を用いるファイバーヒューズ遠隔検知装置例を示すブロック図である。
【図14】OTDRの代表的なブロックダイアグラムを示す図である。
【図15】後方レイリー散乱光を対数表示したOTDRトレースの代表的な例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明においては、同じ機能あるいは類似の機能をもった装置に、特別な理由がない場合には、同じ符号を用いるものとする。
【実施例1】
【0026】
図1に、本発明のファイバーヒューズ遠隔検知装置100を光通信システムに適用した例を示す。この例では、交換器側の回線終端装置(OCU:Official Channel Unit)110と加入者側の回線終端装置(DSU:Digital Service Unit)120間で光通信を行う。OCU110からDSU120への送信は、光送信機(OT)111のレーザーダイオード(LD)112からの光をローパスフィルター(長波長側透過濾波器)113に通して高周波側成分を除去した後、光ファイバー130の1つを通じてDSU120に向けて送信する。光ファイバー130の伝送路途中に設けられたコネクタ131、132は、任意の長さの光ファイバーを接続するためのものである。DSU120では、ローパスフィルター123で盧波した後、伝送された光信号を光受信機121のフォトダイオード122で検出する。
【0027】
OCU110側に設置したファイバーヒューズ遠隔検知装置100からの光は、ハイパスフィルター(短波長側透過濾波器)102を通した後、まずファイバー選択器103で光路を選択する。選択された光路には、光結合器105があり、これを通じて上記光ファイバー130に入射する。光結合器105には方向性光結合器を用いることができる。また、光ファイバー130の光路上にファイバーヒューズが起こることで反射された光は戻り光となり、光結合器105を通じてファイバー選択器103に戻り、ハイパスフィルター102を透過した後、OTDR101に入射する。ファイバーヒューズ遠隔検知装置200は、DSU120のOTからOCU110のOR向けの伝送に対して適用するものであり、ファイバーヒューズ遠隔検知装置100と同じ構成のものである。
【0028】
ファイバーヒューズ遠隔検知装置100としては、例えば、図2の構成の装置を用いることができる。この装置は、パルスジェネレータ8で発振タイミングを制御するレーザーパルス光源1からの光を、光結合器2を通して光結合器10に出力する。また、光ファイバーカプラー10からの戻り光は、光結合器2によって分離し、光検出器3に入力する。つまり光結合器2は光分岐器として動作する。光検出器3の出力である検出光信号については、増幅器4で増幅した後、時間測定器5に入力して、検出された光が往復した時間を測定する。この測定に当たっては、発射時刻として、タイムベースユニット(時間基準制御ユニット)7からの信号を用いる。また、タイムベースユニットは、パルスジェネレータ8からの信号を受けて、クロック信号を時間測定器5に送るものである。判定部6では、時間測定器5からのデータを用いて、反射点を見出す。特に、漸次接近しつつあり、ファイバーヒューズによる反射点が発生した場合には、表示器9に警報を表示するか信号線11を通じて警報を発する。このような判定部6は、判定基準を備えたプログラムで処理をするコンピュータを用いて容易に実現することができる。また、図には記載していないが、この警報を用いて、光通信回線を遮断したり迂回したりする措置を取る。
【0029】
図3に、ファイバーヒューズが進行中に、時間t=t1及びt=t2の時点で測定したOTDR出力のトレース例を表す。ファイバーヒューズの進行で、ファイバー端が移動することになる。ここで平均時間τavg<<(t2−t1)と仮定した。時間t=t1では、ファイバーヒューズの位置はL1、時間t=t2ではL2となるときに、ファイバーヒューズの速度vはv=(L1−L2)/(t2−t1)で表すことができる。ここでは、反射構造のピークの幅は、OTDR装置のパルス幅や分解能で決まる。
【0030】
また、ファイバーヒューズが進行中にOTDRの出力の際に、図3の場合よりも長く平均化すると、図4に示す様に、反射端の構造が図3に比べ広い幅を示すことになる。図4はt=t1時間で測定始め、τavgの間で平均化を行う場合のOTDR波形を示す図である。平均化によって、ファイバー端からの反射波形には平らな構造が見られ、ファイバーヒューズの速度は、v=(L1−L2)/τavgで表すことが出来る。図に示すように、平均化によるトレースは移動途中の多くの場所から反射の平均が蓄積されたものである。
【0031】
図5は、ファイバーヒューズが進行中のOTDRトレースと測定の平均時間の依存性例を示す図である。縦軸はデシベル表示であり、平均化する際のサンプル数で除算することによる落ち込みは、あまり目立たない。また、OTDRトレース上のファイバー端からの平らな反射構造の幅は反射時間に依存することが分かる。
【実施例2】
【0032】
図6は、ファイバーヒューズを引き起こす光源(高出力レーザで代表する)からの光とOTDRからの光パルスが同じ波長帯(例えば1.55μm)を用いる場合の、ファイバーヒューズの発生を検知するための装置構成例を示すブロック図である。この場合は、高強度励起光源(1.55μm)の光とOTDRからの1.54μm波長の光とを光カプラーを用いて合成し、光ファイバーに入力する。被測定ファイバーからの反射光のうちOTDR用のパルス成分のみをバンドパスフィルターを用いて取り出し、OTDR装置に戻すようになっている。OTDR装置の光ファイバー接続端子からの反射によるデッドゾーンを避けるため適当な長さのシングルモード光ファイバーであるSMF−28ファイバー(例えば650m)などを繋ぐことが望ましい。
【実施例3】
【0033】
また図7は、OTDRのパルス光の波長が、ファイバーヒューズを引き起こす光源(高出力レーザで代表する)からのASE(Amplified Spontaneous Emission:光増幅器から発する自然放出光雑音)ラマンスペクトルと重なる場合の装置構成例を示す。ここでは、ファイバーヒューズを引き起こす上記光源は1.48μmで、OTDRパルスの波長は1.55μm、であり、WDM(Wave-length Division Multiplexing:波長分割多重)カプラーを用いてこれらの光を合成し、ファイバーヒューズが発生する光ファイバーに入力している。ここではWDMカプラーの盧波機能を用いることで反射光の1.48μm波長成分がOTDRへ戻ることを防止することができる。しかし、光ファイバー内で広帯域のラマンASE成分が発生するため、この成分がOTDRへ入射することを抑制することが必要である。このために、バンドパスフィルター利用している。
【実施例4】
【0034】
図6に示す装置を用いて、ファイバーヒューズが発生した際に得られたOTDRトレースを図8(a)に示す。次に、高出力レーザーを止め、ファイバーヒューズを防止した状態で得られたOTDRトレースを図8(b)に示す。尚、装置調整の際に、試しにファイバーヒューズを発生させるには、例えば、SMF(シングルモード光ファイバー)に入力する励起光の強度を3W程度まで上げ、ファイバー出射端に修正液を付けることによって引き起こすことができる。
【0035】
これらの測定では、OTDR装置の平均化時間は30sと設定した。上記で説明したように、平均時間が長いため、図8(a)では広い平らな反射構造が見られる。この反射構造の幅(ΔL)は約8.5mで、平均(τavg)時間は30sであるため、ヒューズの速度(v=ΔL/τavg)は0.43m/s、と算出される。図2の判定部6をコンピュータとソフトウェアで構成した場合は、このような算出をそのコンピュータを用いて行うことができる。
【0036】
また、図7の装置を用いてヒューズを発生した際に得られたOTDRトレースを図9(a)から図9(d)に示す。この図は、バンドパスフィルターを導入した場合において、(a)pump off (励起光なし)、(b)pump on ((励起光あり)、 (c) during fuse (ファイバーヒューズあり)、 (d)after fuse termination(ファイバーフューズが終わった後)の場合のOTDR波形を示すものである。ファイバーヒューズが発生中のOTDR波形には平な反射構造が見られ、ファイバーヒューズを止めた後は細い(測定の分解能で決まる幅を有する)反射構造が見られる。
また図9(e)から図9(h)までは、バンドパスフィルターを導入しない場合において、pump off (励起光なし)、 pump on (励起光あり)、 during fuse (ファイバーヒューズあり)、 after fuse termination(ファイバーヒューズが終わった後の場合のOTDR波形を示す。
また、図9(f)および図9(g)では、自発ラマン(spontaneous Raman)散乱による連続光をOTDRに入射することになり、雑音レベルが増え、ファイバーヒューズによる反射構造と雑音レベルの差が減少していることが分かる。
【0037】
上記に説明したように、図8の装置構成でバンドパスフィルターを利用することによって、ラマンASEによる雑音を減らすことができ、従って、ファイバーヒューズが発生したことを高い確率で効果的に検出することができる様になることは明らかである。
【0038】
また、平均化の時間依存性については、図7の装置構成で、平均化の時間を(a)10s、(b)20s、および(c)30sにしたとき、ファイバーヒューズ発生時のOTDR出力表示例を図10に示す。平均化時間に比例して反射構造の幅は拡大していくことが容易に分かる。
【実施例5】
【0039】
図11に示す装置の場合は、レーザーパルス光源1は、所定の間隔の2つの光パルス(ダブルパルス)を間歇的に出力するものである。このダブルパルスが伝送用光ファイバーでのファイバーヒューズ点で反射されて戻り光となり、この戻り光を、まず光結合器10で分岐し、次に光結合器2によってさらに分岐し、光検出器3に入力する。光検出器3の出力である検出光信号については、増幅器4で増幅した後、パルス間隔測定器21に入力する。このパルス間隔測定器21では、ダブルパルスの間隔を測定すると共に、検出された光が往復した時間を測定する。この測定に当たっては、発射時刻として、タイムベースユニット(つまり時間基準制御ユニット)7からの信号を用いる。また、タイムベースユニットは、パルスジェネレータ8からの信号を受けて、クロック信号をパルス間隔測定器21に送るものである。判定部6では、パルス間隔測定器21からのデータでパルス間隔が短縮されているものがあるかどうかを調べ、そのようなものがある場合に、信号線11を介して警報を発すると共に、表示器9に表示する。また、上記ダブルパルスの間隔は、パルス幅で決まる距離分解能で、前記間隔の間にファイバーヒューズによってファイバー端が移動する距離を検知できるように設定するものである。
【実施例6】
【0040】
図12に示す装置の場合は、レーザーパルス光源1は、上記ダブルパルス分の長さをもった光パルスを間歇的に出力するものである。この光パルスが伝送用光ファイバーでのファイバーヒューズ点で反射されて戻り光となり、この戻り光をまず光結合器10で分岐し、次に光結合器2によってさらに分岐し、光検出器3に入力する。光検出器3の出力である検出光信号については、増幅器4で増幅した後、パルス長測定器22に入力する。このパルス長測定器22では、光パルスの長さを測定すると共に、検出された光パルスが往復した時間を測定する。この測定に当たっては、発射時刻として、タイムベースユニット(つまり時間基準制御ユニット)7からの信号を用いる。また、タイムベースユニットは、パルスジェネレータ8からの信号を受けて、クロック信号をパルス長測定器22に送るものである。判定部6では、パルス間隔測定器21からのデータでパルス長が短縮されているものがあるかどうかを調べ、その様なものがある場合に、信号線11を介して警報を発すると共に表示器9に表示する。また、上記光パルスの長さは、パルスの立上がりと立下りとで決まる距離分解能で、光パルス長の間にファイバーヒューズによってファイバー端が移動する距離を検知できるように設定するものである。
【0041】
この場合の光パルスとしては、上記のファイバーヒューズによる変調をうけることができる程度に長く設定し、上記のパルス長の短縮と合わせてこの変調を検出することで、より的確にファイバーヒューズの発生を検出することができる。
【実施例7】
【0042】
図13に示す装置の場合は、レーザーパルス光源1は、所定の間隔の複数(3以上)の光パルスまたは繰り返しパルス列からなる光パルス列を間歇的に出力するものである。この光パルス列が伝送用光ファイバーでのファイバーヒューズ点で反射されて戻り光となり、この戻り光を、まず光結合器10で分岐し、次に光結合器2によってさらに分岐し、光検出器3に入力する。光検出器3の出力である検出光信号については、増幅器4で増幅した後、繰返し周波数測定器23に入力する。この繰返し周波数測定器23では、上記光パルス列の繰返し周波数を測定すると共に、検出された光パルス列が往復した時間を測定する。これは、ファイバーヒューズによる反射では、光パルス列の間隔が詰まることで繰返し周波数が上昇することを用いるものである。この測定に当たっては、発射時刻として、タイムベースユニット(つまり時間基準制御ユニット)7からの信号を用いる。また、タイムベースユニットは、パルスジェネレータ8からの信号を受けて、クロック信号を繰返し周波数測定器23に送るものである。判定部6では、繰返し周波数測定器23からのデータで繰返し周波数が高くなった(ドプラー周波数分、=2×ファイバ屈折率×ヒューズ速度/波長)光パルス列やパルス間隔が短縮されているものがあるかどうかを調べ、そのようなものがある場合に、信号線11を介して警報を発すると共に表示器9に表示する。また、上記光パルス列の間隔は、パルス幅で決まる距離分解能で、前記間隔の間にファイバーヒューズによってファイバー端が移動する距離を検知できるように設定するものである。
【0043】
上記の実施例5、6あるいは7の様に、ダブルパルス、前記ダブルパルス分の長さを持った光パルス、あるいは、光パルス列を用いる利点は、分解能を独立に設定することができ、また、遠方のファイバーヒューズを検知する場合でも、例えば表示器の制約に合わせて分解能を緩和する、という必要がないことである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明を適用することで、パワー伝送用の光ファイバーについても、ファイバーヒューズの発生を検知することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 レーザーパルス光源
2 光結合器
3 光検出器
4 増幅器
5 時間測定器
6 判定部
7 タイムベースユニット
8 パルスジェネレータ
9 表示器
10 光結合器
11 信号線
21 パルス間隔測定器
22 パルス長測定器
23 繰返し周波数測定器
100 ファイバーヒューズ遠隔検知装置
101 OTDR
102 ハイパスフィルター
103 ファイバー選択器
104 光ファイバー
105 光結合器
110 交換器側の回線終端装置
111 光送信機
112 レーザーダイオード
113 ローパスフィルター
120 加入者側の回線終端装置
121 光受信機
122 フォトダイオード
123 ローパスフィルター
130 光ファイバー
131、132 コネクタ
200 ファイバーヒューズ遠隔検知装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光信号を光ファイバーで伝送する際に該光信号で引き起こされるファイバーヒューズ現象の発生を検知し警報を発する装置であって、
光パルス発生器と、
該光パルス発生器からの光パルスを上記光ファイバーに入射する光結合手段と、
該光ファイバーの戻り光を分岐する分岐手段と、
上記戻り光から上記光パルスの戻り光を選択する盧波手段と、
上記盧波手段の出力の光を光電変換する光検出手段と、
上記変換手段の出力を時間の関数として測定する測定手段と、
上記測定手段の出力からファイバーヒューズ現象の発生を判定する判定手段と、
上記特徴点が見出された場合に警報信号を発する警報手段と、
を備え、
上記特徴点が発生した場合に、警報信号を発することを特徴とするファイバーヒューズ遠隔検知装置。
【請求項2】
上記光結合手段は、方向性光結合器であることを特徴とする請求項1に記載のファイバーヒューズ遠隔検知装置。
【請求項3】
上記光結合手段は、波長分割多重結合素子であることを特徴とする請求項1に記載のファイバーヒューズ遠隔検知装置。
【請求項4】
上記判定手段は、上記測定手段の出力において光強度が急激に低下する直前の時点での光強度のピークの移動について判定するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のファイバーヒューズ遠隔検知装置。
【請求項5】
上記判定手段は、上記変換手段の出力を所定の時間に渡って平均化する機能を備え、平均化された上記測定手段の出力において光強度が急激に低下する直前の時点での光強度のピーク幅の拡大を判定するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のファイバーヒューズ遠隔検知装置。
【請求項6】
上記光パルス発生器は、所定のパルス列を生成し出力するものであり、
上記判定手段は、戻り光に含まれる上記パルス列におけるパルス間隔の短縮について判定するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のファイバーヒューズ遠隔検知装置。
【請求項7】
上記光パルス発生器は、所定のパルス列を生成し出力するものであり、
上記判定手段は、周波数成分について生成した上記パルス列と戻り光に含まれるパルス列との比較を行って、戻り光に含まれるパルス列に含まれる高周波数化した周波数成分の有無について判定するものであることを特徴とする請求項1、2、3あるいは6のいずれか1つに記載のファイバーヒューズ遠隔検知装置。
【請求項8】
上記光パルス発生器は、所定のパルス列を生成し出力するものであり、
上記判定手段は、戻り光に含まれる上記パルス列における個々のパルスの時間長の短縮について判定するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のファイバーヒューズ遠隔検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−252793(P2011−252793A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126785(P2010−126785)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【Fターム(参考)】