説明

ファイバーレーザー共振器およびファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法

【課題】光学非線形性を利用することで発振されるレーザー光の同調波長域を拡張することで、広帯域性を保持し、また、レーザー共振器内に発生するASEノイズを低減する。
【解決手段】広帯域の波長の光を高反射率で反射する第1の帰還素子と、上記第1の帰還素子の後段に配置された利得ファイバーと、上記利得ファイバーに励起光を入力する光源と、上記利得ファイバーの後段に配置されるとともに供給されたRF信号の周波数に応じた波長の光を回折する音響光学波長可変フィルターと、上記音響光学波長可変フィルターへRF信号を供給するRF電源と、上記音響光学波長可変フィルターにより回折された光を部分反射する第2の帰還素子とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバーレーザー共振器およびファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法に関し、さらに詳細には、ファイバーレーザー共振器内に配置された利得ファイバーにより発生する非線形光学効果を利用してレーザー光を発生させ、かつ、不要なレーザー光の発生を抑制することが可能なファイバーレーザー共振器およびファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信などで使用されている光ファイバーのガラスにレーザー活性な元素を添加した利得ファイバーを用いて構成したファイバーレーザー共振器が、例えば、半導体製造工程などの電子産業分野などにおける微細加工技術への応用を目指して種々提案されている。
【0003】
なお、利得ファイバーとは、具体的には、光ファイバーの光導波層にレーザーの活性媒質として、例えば、エルビウム(Er)イオンやイットリビウム(Yb)イオンなどの希土類イオンをドープするようにして構成されたものである。

ここで、上記した従来のファイバーレーザー共振器は、高強度の光を伝播するものであるが、この際、断面積が小さく、かつ、細長い利得ファイバー内に高強度の光が閉じこめられるため、様々な非線形光学効果が誘起されることが知られている。
【0004】
例えば、ファイバーレーザー共振器においてラマン散乱が発生した場合には、信号光に対して利得ファイバーのファイバー材質が有する材質固有のフォノン振動数の分だけシフトした波長にストークスシフトしたストークス光が発生する。
【0005】
このようなラマン散乱による非線形効果は、信号光からエネルギーを散逸させるため、通常はファイバーレーザー共振器の問題点として捉えられるが、これを積極的に利用して発振波長の拡張を行うことが可能である。
【0006】
例えば、利得ファイバーと複数のファイバーブラッググレーティング(Fiber Bragg Grating:FBG)とよりなるファイバーレーザー共振器を構成し、内側の共振器で基本波を共振させるとともに、外側の共振器でストークス光を共振させることにより、ストークスシフトした波長でレーザー発振を行う技術が非特許文献1に開示されている。
【0007】
こうしたラマン散乱による非線形効果を利用したファイバーレーザー共振器によると、例えば、利得ファイバーとしてイットリビウム(Yb)イオンを添加した石英ファイバーを用いた場合には、基本波として1080nmの光を発生させると、その1次ストークス光として約1140nmの光が発生され、また、2次ストークス光として約1210nmの光が発生されるため、発光イオンが有する本来の波長とは異なる波長を有する光を多種発振させることが可能となる。
【0008】

しかしながら、ファイバーブラッググレーティングやミラーはある決まった帯域のみを反射させるものであるため、これらを利用して反射帯域を大きく変化させることは不可能である。
【0009】
即ち、発振されるスペクトルはファイバーブラッググレーティングやミラーの反射特性に依存するものであり、ファイバーレーザー共振器を一度構成した後では、異なる波長の光を発振させるなど波長を制御することは容易でないという問題点があった。
【0010】

また、ファイバーレーザー共振器は、一般的に線幅の広い発光スペクトルを示すレーザー光を発生させるものであるため、波長範囲が広帯域の反射素子を用いた場合には広帯域での発振となるので、線幅の狭いレーザー光が必要であるような用途には適していないものである。
【0011】
ここで、非特許文献2には、ファイバーレーザー共振器内部にプリズムをおいて、取り出したい波長に応じた回折角でファイバーレーザー共振器を構成する方法で基本波を閉じこめ、ストークス光を透過するミラーから波長可変ストークス光だけを取り出すという例が開示されているが、線幅はプリズム分散で制限されるため一般にブロードになることや、また、機械的な回転機構がファイバーレーザー共振器に存在するために、機械的に不安定であるという問題点があった。
【0012】

一方、ファイバーレーザー共振器の他の問題点として、強い光増幅自然放出(Amplified Spontaneous Emission:ASE)ノイズを有するという問題点があった。
【0013】
上記ASEノイズは、自然散乱光が利得ファイバーレーザー内で増幅されることにより励起エネルギーがノイズとなり、相対的に信号光へのエネルギーが低下するため、効率の低下やノイズの増加といった問題を招くおそれがあり、特に、小径の利得ファイバーに励起光が閉じこめられるファイバーレーザー共振器において問題となるものであった。
【0014】

より詳細には、パルス動作をさせたファイバーレーザー共振器においては、特に繰り返し周波数が低い場合には、パルスとパルスとの間においてASEノイズが急増するものである。
【0015】
ここで、ASEノイズを低減するための手法としては、ASEノイズが成長する前にASEノイズをファイバーレーザー共振器外に取り出してしまう手法が挙げられる。
【0016】
一般的によく知られているファブリペロー型ファイバーレーザー共振器では、ファイバーブラッググレーティングや狭帯域ミラーなどの帯域反射素子をファイバーレーザー共振器内に配置しており、それらの素子の持つ反射帯域のレーザー光のみがファイバーレーザー共振器内に戻って増幅させるためASEノイズの増加を抑えることが可能である。
【0017】

しかしながら、このような帯域反射素子はその反射帯域が固定されているか、わずかにしか調整することができないものであるため、ファイバレーザー共振器の特徴の一つである、広帯域性は完全に損なわれてしまうという新たな問題点を招来するものであった。
【0018】

また、分光などのように、信号光に極めて高いスペクトル純度を要求される応用においては、連続波ファイバーレーザー共振器においても避けることができない非常に低出力のASEノイズが測定に影響を与える恐れがあるという問題点があった。
【0019】

こうしたノイズの低減のため、複屈折性を有する結晶などにより構成される音響光学波長可変フィルター(AOTF:Acoust Optic Tunable Filter)と利得ファイバーとを組み合わせて波長可変ファイバーレーザー共振器を構成する技術が、以下に示した非特許文献3に開示されているが、利得ファイバーに由来する非線形光学効果を含めて制御しようとする技術は示されていない。
【0020】

また、以下に示した特許文献1乃至3には、波長可変固体ファイバーレーザー共振器内に音響光学波長可変フィルターを配置し、外部からの電気信号により波長同調を実現した技術が開示されているが、これは固体レーザーの持つ発振波長の同調のみを目的としたものである。
【非特許文献1】S.A.Skubchenko、M.Y.Vyatkin、D.V.Gapontsev、IEEE Photon、Technol.Lett.16、1014(2004)
【非特許文献2】R.H.Stolen、C.Lin、J.Shah、R.F.Leheny、IEEE J.Quantum Electron.14、860(1978)
【非特許文献3】D.A.Smith,M.W.Maeda,J.J.Johnson,J.S.Patel,M.A.Saifi,A.Von Lehman,Opt.Lett.16,387(1991)
【特許文献1】特開平8−139398号公報
【特許文献2】特開平9−298331号公報
【特許文献3】特開平9−298332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、従来の技術の有する上記したような種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、光学非線形性を利用することで発振されるレーザー光の同調波長域を拡張することにより、波長範囲の広帯域性を保持するようにしたファイバーレーザー共振器およびファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法を提供しようとするものである。
【0022】
また、本発明は、従来の技術の有する上記したような種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ファイバーレーザー共振器内に発生するASEノイズを低減するようにしたファイバーレーザー共振器およびファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明は、ファイバーレーザー共振器内に音響光学波長可変フィルターを挿入し、ファイバーレーザー共振器内に発生する所望の波長を有するレーザー光以外の光の強度を任意に制御可能であるようにしたものである。
【0024】

従って、本発明によれば、利得ファイバーの利得の存在する波長を指定してレーザー発振された場合には、音響光学波長可変フィルタの透過スペクトル幅に応じた狭線幅のレーザーが発振されるようになり、このとき一方の反射素子の反射率を当該波長に対してやや低下させたものを適用することで、基本波での発振が可能となり、かつ、音響光学波長可変フィルタに印加する電気信号の周波数を増減させると、利得ファイバーの利得の範囲内で波長可変することができ、波長範囲の広帯域性を保持することができる。
【0025】
また、本発明によれば、機械的な可動による動作を行わないので、機械的に安定で、かつ、再現性が高いレーザー発振を実現でき、ファイバーレーザー共振器内に発生するASEノイズを低減することができる。
【0026】

即ち、本発明のうち請求項1に記載のファイバーレーザー共振器は、広帯域の波長の光を高反射率で反射する第1の帰還素子と、上記第1の帰還素子の後段に配置された利得ファイバーと、上記利得ファイバーに励起光を入力する光源と、上記利得ファイバーの後段に配置されるとともに供給されたRF信号の周波数に応じた波長の光を回折する音響光学波長可変フィルターと、上記音響光学波長可変フィルターへRF信号を供給するRF電源と、上記音響光学波長可変フィルターにより回折された光を部分反射する第2の帰還素子とを有するようにしたものである。
【0027】
また、本発明のうち請求項2に記載のファイバーレーザー共振器は、広帯域の波長の光を高反射率で反射する第1の帰還素子と、上記第1の帰還素子の後段に配置された利得ファイバーと、上記利得ファイバーに励起光を入力する光源と、上記利得ファイバーの後段に配置されるとともに供給されたRF信号の周波数に応じた波長の光を回折する音響光学波長可変フィルターと、上記音響光学波長可変フィルターへRF信号を供給するRF電源と、上記音響光学波長可変フィルターにより回折された光を全反射する第2の帰還素子とを有するようにしたものである。
【0028】
また、本発明のうち請求項3に記載のファイバーレーザー共振器は、広帯域の波長の光を高反射率で反射する第1の帰還素子と、上記第1の帰還素子の後段に配置された利得ファイバーと、上記利得ファイバーに励起光を入力する光源と、上記利得ファイバーの後段に配置されるとともに供給された周波数の異なる複数種類のRF信号の周波数に応じて、それぞれ異なる波長の光を回折する音響光学波長可変フィルターと、上記音響光学波長可変フィルターに周波数の異なる複数種類のRF信号を供給するRF電源と、上記音響光学波長可変フィルターにより回折されたそれぞれ異なる波長の光のなかで、所定の波長の光を全反射するととともに上記所定の波長とは異なる波長の光を部分反射する第2の帰還素子とを有するようにしたものである。
【0029】
また、本発明のうち請求項4に記載のファイバーレーザー共振器は、広帯域の波長の光を高反射率で反射する第1の帰還素子と、上記第1の帰還素子の後段に配置された利得ファイバーと、上記利得ファイバーに励起光を入力する光源と、上記利得ファイバーの後段に配置されるとともに供給された周波数の異なる複数種類のRF信号の周波数に応じて、それぞれ異なる波長の光を回折する音響光学波長可変フィルターと、上記音響光学波長可変フィルターに周波数の異なる複数種類のRF信号を供給するRF電源と、上記音響光学波長可変フィルターにより回折されたそれぞれ異なる波長の光を全反射する第2の帰還素子とを有するようにしたものである。
【0030】
また、本発明のうち請求項5に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法は、本発明のうち請求項1に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法であって、上記光源により上記利得ファイバーに入力された励起光を第1の帰還素子と第2の帰還素子との間で増幅し、上記RF電源により供給されたRF信号の周波数に応じて上記音響光学波長可変フィルターにより回折された光を上記第2の帰還素子により部分反射して、上記第2の帰還素子から上記音響光学波長可変フィルターにより回折された光の一部を出力するようにしたものである。
【0031】
また、本発明のうち請求項6に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法は、本発明のうち請求項2に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法であって、上記光源により上記利得ファイバーに入力された励起光を第1の帰還素子と第2の帰還素子との間で増幅し、上記RF電源により供給されたRF信号の周波数に応じて上記音響光学波長可変フィルターにより回折された光を上記第2の帰還素子により全反射して、上記音響光学波長可変フィルターにより回折されない光を出力するようにしたものである。
【0032】
また、本発明のうち請求項7に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法は、本発明のうち請求項3に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法であって、上記光源により上記利得ファイバーに入力された励起光を第1の帰還素子と第2の帰還素子との間で増幅し、上記RF電源により供給された周波数の異なる複数種類のRF信号の周波数に応じて上記音響光学波長可変フィルターにより回折されたそれぞれ異なる波長の光のなかで、上記第2の帰還素子により所定の波長の光を全反射するととともに上記所定の波長とは異なる波長の光を部分反射して、上記第2の帰還素子から上記所定の波長とは異なる波長の光を出力するようにしたものである。
【0033】
また、本発明のうち請求項8に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法は、本発明のうち請求項4に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法であって、上記光源により上記利得ファイバーに入力された励起光を第1の帰還素子と第2の帰還素子との間で増幅し、上記RF電源により供給された周波数の異なる複数種類のRF信号の周波数に応じて上記音響光学波長可変フィルターにより回折されたそれぞれ異なる波長の光を全反射して、上記音響光学波長可変フィルターにより回折されない光を出力するようにしたものである。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、以上説明したように構成されているため、光学非線形性を利用することで発振されるレーザー光の同調波長域を拡張することにより、波長範囲の広帯域性を保持したファイバーレーザー共振器およびファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法を提供することができるという優れた効果を奏する。
【0035】
また、本発明は、以上説明したように構成されているため、ファイバーレーザー共振器内に発生するASEノイズを低減したファイバーレーザー共振器およびファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法を提供することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明によるファイバーレーザー共振器およびファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法の実施の形態について詳細に説明するものとする。
【0037】

図1には、本発明の第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器10の概念構成説明図が示されており、この本発明の第1の実施の形態によるによるファイバーレーザー共振器10は、所謂、ファブリペロー型共振器であって、反射素子である出力ミラー12とファイバーブラッググレーティング(FBG)14との間に、励起用半導体レーザー光源26(後述する。)により生成されたレーザー光たる励起光を利得ファイバー18(後述する。)に導入するカップラー16と、その端部をカップラー16に接続されるとともに光ファイバーのコアにレーザー活性媒質をドープされてなり励起用半導体レーザー光源26により生成された励起光によって励起されてレーザー光を出力する利得ファイバー18と、利得ファイバー18の端部18bに接続されるとともに利得ファイバー18より出力されたレーザー光をコリメートレンズ22(後述する。)に入射するためのカップラー20と、カップラー20の後段に配置されるとともにカップラー20より出射されたレーザー光を平行光とするコリメートレンズ22と、ファイバーレーザー共振器10の光路上のコリメートレンズ22と出力ミラー12との間に配置されるとともに図示しない高周波電源(RF電源)より高周波信号(RF信号)を供給することにより所定の波長のレーザー光を回折することが可能になる音響光学波長可変フィルター24とを有して構成されている。
【0038】
なお、レーザー共振器10においては、励起光はレーザー共振器10の外部に配設された励起用半導体レーザー光源26により生成されるものであり、当該励起用半導体レーザー光源26は利得物質を持たないパッシブファイバー28を介してカップラー16に接続されている。
【0039】
即ち、励起用半導体レーザー光源26により生成された励起光は、パッシブファイバー28を介してファイバーレーザー共振器10内に配設されたカップラー16に入射するようになされている。
【0040】
また、上記した音響光学波長可変フィルター24近傍には、音響光学波長可変フィルター24へRF信号を入力する手段として、図示しないRF電源が配置されており、当該RF電源は、図示しないパーソナルコンピューターによって音響光学波長可変フィルター24へ供給するRF信号の周波数を制御可能であるようになされている。
【0041】
なお、音響光学波長可変フィルター24内部で回折されるレーザー光は、こうしたRF電源より供給されるRF信号の周波数によって決定されるものである。
【0042】
そして、音響光学波長可変フィルター24によって回折されたレーザー光たる回折光は、出力ミラー12の反射率に応じてファイバーレーザー共振器10内に反射されるとともに、出力ミラー12の透過率に応じてファイバーレーザー共振器10の外部へ出射される。
【0043】
一方、音響光学波長可変フィルター24によって回折されない非回折光は、ファイバーレーザー共振器10の外部に出力されるようになされている。
【0044】

なお、本実施の形態においては、一方の帰還素子である出力ミラー12は、波長1030nmの光に対して30%の反射率を備えるとともに70%の透過率を備えるように構成するものとする。
【0045】
また、本実施の形態においては、他方の帰還素子であるファイバーブラッググレーティング14は、広帯域の波長の光を高反射率で反射することができるものを用いるが、具体的には、波長1030nmの光に対して99%の反射率を有することにより波長を特定することが可能であるものとする。
【0046】
さらに、利得ファイバー18としては、本実施の形態においては、利得媒質としてイッテルビウム(Yb)を用いており、波長範囲を1000〜1120nmとした利得ファイバーを用いた。
【0047】
さらにまた、本実施の形態においては、音響光学波長可変フィルター24として、空間型の音響光学波長可変フィルターを用いるようにした。
【0048】
また、励起用半導体レーザー光源26は、本実施の形態においては、励起光として波長975nmのレーザー光を生成するものとした。
【0049】

以上の構成において、本発明の第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器10においては、音響光学波長可変フィルター24にRF電源よりRF信号が入力されると、音響光学波長可変フィルター24はRF電源より入力されたRF信号の周波数に応じて、音響光学波長可変フィルター24内に発生される音響波の周波数によって決定された光のみを回折するようになる。
【0050】
一方、励起用半導体レーザー光源26により生成された励起光が、パッシブファイバー28およびカップラー16を介して利得ファイバー18の端部18aより利得ファイバー18へ入射され、この励起光により利得ファイバー18のレーザー活性媒質が励起される。
【0051】

ファイバーレーザー共振器10は、ファイバーブラッググレーティング14と出力ミラー12との間で、音響光学波長可変フィルター24の回折光に対して構成されている。利得ファイバー18は広い利得波長帯域を持っているが、波長可変フィルター24によりそのうちの制限された狭い波長域だけが回折され、ファイバーレーザー共振器10の内部を循環することが可能となるため、この選択された狭い帯域の光のみがレーザー光となって出力ミラー12から外部へと出射される。
【0052】

次に、上記したファイバーレーザー共振器10の動作についてより詳細に説明することとするが、音響光学波長可変フィルター24は、例えば、特開平9−172215号公報に開示されるレーザー共振器に用いられる音響光学波長可変フィルタと同様な構成のものを用いればよいので、それに関する構成や作用など詳細な説明は省略するものとする。
【0053】
また、以下の説明においては、出力ミラー12より回折光として波長1030nmのレーザー光(以下、適宜にレーザー光λ1と称するものとする。)を出力する場合について説明する。
【0054】
このように、波長1030nmのレーザー光λ1を回折光として得るため、音響光学波長可変フィルター24としては、TeO結晶等を用い、RF電源より供給されるRF信号の周波数は、当該波長1030nmのレーザー光λ1を回折するのに適した周波数を設定するものとする。
【0055】

はじめに、励起用半導体レーザー光源26を駆動してレーザー光を発振させ、そのレーザー光を励起光としてパッシブファイバー28を介してカップラー16に入射する。
【0056】
カップラー16に入射された励起光は、カップラー16から利得ファイバー18の端部18aを通って利得ファイバー18内に入射され、利得ファイバー18内ではレーザー活性媒質が励起される。
【0057】
そして、レーザー光は利得ファイバー18の端部18bより出射され、カップラー20を通過した後にコリメートレンズ22により集光される。
【0058】
こうしてコリメートレンズ22により平行光とされたレーザー光は、音響光学波長可変フィルター24に入射されることになる。
【0059】
このとき、音響光学波長可変フィルター24には、波長1030nmのレーザー光λ1を回折するのに適した周波数のRF信号がRF電源より供給されているので、音響光学波長可変フィルター24により波長1030nmのレーザー光λ1が回折され、当該回折された回折光たるレーザー光λ1が出力ミラー12に到達する。
【0060】
ここで、本実施の形態においては、出力ミラー12は、波長1030nmの光、即ち、回折光たるレーザー光λ1に対して30%の反射率を備えるとともに70%の透過率を備えているので、出力ミラー12に到達したレーザー光λ1は、上記した反射率に応じて出力ミラー12により反射されてファイバーブラッググレーティング14まで帰還し、また、上記した透過率に応じて出力ミラー12を透過してファイバーレーザー共振器10の外部へ出射される。
【0061】

つまり、出力ミラー12に到達したレーザー光λ1の一部は、出力ミラー12により反射されて、再び、音響光学波長可変フィルター24、コリメートレンズ22およびカップラー20を通過して利得ファイバー18の端部18bより利得ファイバー18に入射される。
【0062】
さらに、利得ファイバー18を通過したレーザー光λ1は、利得ファイバー18の端部18aより出射されてカップラー16に入射する。
【0063】
次に、カップラー16から出射されたレーザー光λ1は、ファイバーブラッググレーティング14へ到達する。
【0064】
そして、ファイバーブラッググレーティング14へ到達したレーザー光のうちレーザー光λ1のみがファイバーブラッググレーティング14により反射されて、再度カップラー16に入射され、上記と同様に、レーザー光λ1はカップラー16を出射し、利得ファイバー18の端部18bより利得ファイバー18に入射し、レーザー光λ1は利得ファイバー18の端部18bより出射され、カップラー20およびコリメートレンズ22を通過して音響光学波長可変フィルター24に到達することになる。
【0065】
上記したように、音響光学波長可変フィルター24にはレーザー光λ1を回折するのに適した周波数のRF信号がRF電源より供給されているので、レーザー光λ1は音響光学波長可変フィルター24において回折され、回折光が出力ミラー12に到達する。
【0066】
このようにして、レーザー光λ1は、ファイバーレーザー共振器10内の出力ミラー12とファイバーブラッググレーティング14との間を往復して増幅される。
【0067】

ところで、上記のようにして基本波となるレーザー光、即ち、レーザー光λ1をファイバーレーザー共振器10内部に閉じこめて発振している状態で、ファイバーレーザー共振器10内で増幅されたレーザー光の強度がラマン散乱の発生の閾値を上回った際には、基本波となるレーザー光と比べて利得ファイバーが有する利得媒質のフォノン周波数に相応する分だけ波長シフトした光である1次ストークス光S1が、ファイバーレーザ共振器10内部に新たに発生する。
【0068】
本実施の形態においては、基本波となるレーザー光λ1のみを回折するようなRF信号を音響光学波長可変フィルター24に供給しているため、こうして発生した1次ストークス光S1は、音響光学波長可変フィルター24において回折されず、非回折光として音響光学波長可変フィルター24よりレファイバーレーザー共振器10の外部へ出射される。
【0069】

ここで、図2には、ファイバーレーザー共振器における出力ミラーの反射率の状態と、音響光学波長可変フィルターの状態(音響光学波長可変フィルターが回折するレーザー光の種類を示す。)と、ファイバーレーザー共振器より出力される回折光および非回折光の出力強度を概念的に示した説明図とをまとめた図表が示されている。
【0070】
また、図3には、本実施の形態によるファイバーレーザー共振器10より出力される回折光および非回折光について図示した概念説明図が示されている。
【0071】

上記した図2の(a)の欄には、ファイバーレーザー共振器10における出力ミラー12の反射率の状態と、音響光学波長可変フィルター24の状態(音響光学波長可変フィルター24が回折するレーザー光の種類を示す。)と、ファイバーレーザー共振器10より出力される回折光および非回折光の出力強度を概念的に示した説明図が示されているが、この図2の(a)の欄および図3に図示されているように、ファイバーレーザー共振器10においては、出力ミラー12としてレーザー光λ1を部分反射するものを用い、さらに、レーザー光λ1のみを回折するように音響光学波長可変フィルター24に対してRF信号を供給したので、1次ストークス光S1が非回折光として得られるとともに、レーザー光λ1が回折光として得られる。
【0072】
そして、1次ストークス光S1は非回折光として音響光学波長可変フィルター24を出射されてからはファイバーレーザー共振器10内に帰還し増幅されずに外部へ出力されるため、得られる光の強度は弱いものであり、ブロードな波形を有するものとなる。
【0073】
一方、回折光であるレーザー光λ1は、ファイバーレーザー共振器10内で増幅されて出射されるため、得られる光の強度は強いものであり、線幅の狭い波形を有するものとなる。
【0074】

このように、上記した本実施の形態によるファイバーレーザー共振器10によれば、ファイバーレーザー共振器10を構成する部材の角度を変更するなどの操作を行わずに、機械的な可動部分を持たない素子を用いて、非線形光学効果によって発生された1次ストークス光などのレーザー光と基本波であるレーザー光とを分離することが可能であり、ASEノイズに対しては高い損失を与えたまま、信号光の共振波長をRF信号で制御することが可能となるため、結果として低ノイズの波長可変レーザー装置となるファイバーレーザー共振器を実現することができる。
【0075】
また、上記した本実施の形態によるファイバーレーザー共振器10によれば、音響光学波長可変フィルター24に供給するRF信号の周波数で制御することにより、非線形光学効果によって信号光から派生して発生するレーザー光を音響光学波長可変フィルター24により回折することも可能である。
【0076】
即ち、ファイバーレーザー共振器10においては、ファイバーレーザー共振器10から出力されるレーザー光の波長の制御およびレーザー光の外部への取り出しを、音響光学波長可変フィルター24に供給するRF信号の周波数で制御することができる。
【0077】

次に、図4を参照しながら、本発明による第2の実施の形態によるファイバーレーザー共振器200について説明する。
【0078】
このファイバーレーザー共振器200は、上記の第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器10と比較すると、出力ミラー12に代えて出力ミラー220を備える点と、音響光学波長可変フィルター24に異なる2種類の周波数のRF信号を与える点とが異なるものである。
【0079】
なお、以下の説明においては、図1乃至図3を参照しながら説明した本発明の第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器と同一または相当する構成については、上記において用いた符号と同一の符号を用いて示すことにより、その構成ならびに作用の詳細な説明は適宜に省略することとする。
【0080】
ファイバーレーザー共振器200における出力ミラー220は、ファイバーレーザー共振器200内で発生するレーザー光λ1に対して全反射し、かつ、ファイバーレーザー共振器200内で発生する1次ストークス光S1に対して部分反射するように構成されたミラーである。
【0081】
また、音響光学波長可変フィルター24に与えられる異なる2種類の周波数のRF信号とは、レーザー光λ1を回折するために要する周波数のRF信号と1次ストークス光S1を回折するために要する周波数のRF信号とである。
【0082】
即ち、ファイバーレーザー共振器200は、出力ミラー220からファイバーレーザー共振器200の外部へ1次ストークス光S1を出力することを目的とするものである。
【0083】
このため、音響光学波長可変フィルター24には、レーザー光λ1を回折するのに適した周波数のRF信号と1次ストークス光であるレーザー光を回折するのに適した周波数のRF信号との異なる2種類の周波数のRF信号が供給されることになる。
【0084】

以下に、ファイバーレーザー共振器200の動作について詳細に説明するが、上記構成を有するファイバーレーザー共振器200内で発生したレーザー光λ1は、出力ミラー220において全反射されるため、上記の第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器10の場合と同様の原理により、出力ミラー220とFBG14との間で往復することで増幅し、出力ミラー220より出力されずに増幅し続けるものである。
【0085】
そして、増幅されたレーザー光λ1の強度がラマン散乱の発生の閾値を上回ったところで、基本波に比べて利得ファイバーが有する媒質のフォノン周波数に相応する分だけ波長シフトした光である1次ストークス光S1が、ファイバーレーザー共振器200内部に新たに発生する。
【0086】
ファイバーレーザー共振器200においては、音響光学波長可変フィルター24に対してレーザー光λ1と同様に1次ストークス光S1も回折されるようにRF信号が供給されているため、こうしてファイバーレーザー共振器200内に発生した1次ストークス光S1が音響光学波長可変フィルター24より回折されて第2の回折光として出力ミラー220へ出射され、出力ミラー220でその一部が反射されるとともにその一部がファイバーレーザー共振器200の外部に出射される。
【0087】

上記した図2の(c)の欄には、ファイバーレーザー共振器200における出力ミラー220の反射率の状態と、音響光学波長可変フィルター24の状態(音響光学波長可変フィルター24が回折するレーザー光の種類を示す。)と、ファイバーレーザー共振器200より出力される回折光および非回折光の出力強度を概念的に示した説明図が示されているが、この図2の(c)の欄および図4に図示されているように、ファイバーレーザー共振器200においては、出力ミラー220としてレーザー光λ1を全反射するとともに1次ストークス光S1を部分反射するものを用い、さらに、レーザー光λ1と1次ストークス光S1とを回折するように音響光学波長可変フィルター24に対してRF信号を供給したので、レーザー光λ1と1次ストークス光S1とがともに回折光として得られ、音響光学波長可変フィルター24を出射した回折光たるレーザー光λ1は、出力ミラー220により全反射されてファイバーレーザー共振器200内に帰還され、一方、音響光学波長可変フィルター24を出射した回折光たる1次ストークス光S1は、強度が強く、かつ、線幅の狭い波形を有するレーザー光としてファイバーレーザー共振器200の外部に出力される。
【0088】

また、ファイバーレーザー共振器200においては、上記した1次ストークス光S1が発生された原理と同様な原理で、ファイバーレーザー共振器200内で増幅された1次ストークス光S1の強度がラマン散乱の発生の閾値を上回った際には、1次ストークス光S1と比べて利得ファイバーが有する媒質のフォノン周波数に相応する分だけ波長シフトした光である2次ストークス光S2が、ファイバーレーザー共振器200内部に新たに発生する。
【0089】
こうした2次ストークス光S2は、音響光学波長可変フィルター24において回折されずに出射されるため、非回折光としてファイバーレーザー共振器200外部に出射される(図4を参照する。)。
【0090】
なお、上記した図2の(c)の欄には、音響光学波長可変フィルター24より出射された2次ストークス光の波形が示されているが、この2次ストークス光は、ファイバーレーザー共振器200内で増幅されずにファイバーレーザー共振器200の外部へ出射されるため、出力強度が弱く、かつ、ブロードな波形の光となるものである。
【0091】

上記したように、第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器10で得られる効果に加えて、第2の実施の形態によるファイバーレーザー共振器200において、線幅を狭くした1次ストークス光を音響光学波長可変フィルター24の回折光として取り出すことが可能となる。
【0092】
即ち、音響光学波長可変フィルター24に供給するRF信号の周波数を適当に選ぶことにより、利得ファイバーが有する発振波長の拡張を行うことが可能になり、従来の技術では実現し得なかった、任意の波長で発振する狭線幅レーザー光を生成し、かつ、波長可変可能であるファイバーレーザー共振器を実現できるものである。
【0093】

以上において説明したように、ファイバーレーザー共振器10、200は、機械的な可動部分を持たない素子を用いて構成しているため、従来の利得ファイバーを用いたファイバーレーザー共振器とは異なり、一連の動作に機械的な可動による部分を全く含まないため、機械的安定性が高く、かつ、高い再現性を有するファイバーレーザー共振器を実現することが可能となる。
【0094】
さらに、ファイバーレーザー共振器10、200において音響光学波長可変フィルター24を動作させることは、共振器のQ値に対して任意のスペクトルプロファイルを与えることとなるため、レーザー発振装置として様々な機能を付加することが可能となる。
【0095】

一般的に、音響光学波長可変フィルター24を制御するパラメータとして、入力するRF信号の周波数および入力強度がある。
【0096】

上記RF信号の周波数については、回折されるレーザー光の波長に対して一意に決まるため、入力するRF周波数に応じてレーザー光に対する回折波長が選択されることとなる。
【0097】

また、上記RF信号の入力強度については、音響光学波長可変フィルター24におけるレーザー光の回折効率を決定するものである。ここで、回折効率が高い場合、ファイバーレーザー共振器の損失が低い状態になるものである。また、回折効率が低い場合、ファイバーレーザー共振器の損失が大きい状態になるものであり、全体の利得を低下させていることを意味する。
【0098】

一方、レーザー媒質である利得ファイバーの利得は波長に依存性があり、利得を持つ波長の範囲であったとしても、波長によって利得の高いものと低いものがある。
【0099】

さらに、ファイバーレーザー共振器の他の構成部材が、波長に対する依存性を持つと言えるものであるため、ある波長では損失が少なくなり、また、ある波長では損失が大きくなるということが一般的である。
【0100】

従って、音響光学波長可変フィルタ24においてもファイバーレーザー共振器全体においても、波長によって利得の高い波長と低い波長とがあることになる。
【0101】

そして、一般的に利得が高いほどレーザーからの出力強度を取り出しやすい。
【0102】

そのため、上記した本発明によるファイバーレーザー共振器において、RF信号の入力強度によって回折効率を波長ごとにきめ細かく制御すれば、ファイバーレーザー共振器全体の利得が波長依存しないように設定することが可能になり、波長可変領域の中で、いずれの波長を選択したとしても常に一定の強度を出力させることができる。
【0103】

さらにまた、この手法により、出力強度に対して任意の波長依存性を持たせることも可能になるものである。
【0104】

さらに、ファイバーレーザー共振器10、200によれば、基本波の共振波長を変化させることにより、取り出されるストークス光の波長もまた変化するので、簡易な構成で利得ファイバーが持つ高い非線形光学効果を積極的に利用して、利得ファイバー18によって発生できる波長範囲を拡張することが可能となる。
【0105】
さらにまた、ファイバーレーザー共振器10、200は、音響光学波長可変フィルター24の後段に出力ミラー12、220を配置することによって利得ファイバ18から出力される不要なスペクトルの光を抑制できるため、分光などスペクトルノイズを嫌う応用にも適している。
【0106】

なお、上記した各実施の形態は、以下の(1)乃至(6)に示すように変形することができるものである。
【0107】
(1)上記した第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器10では、発生するレーザー光λ1に対して部分反射する出力ミラー12を用いるものとしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、ファイバーレーザー共振器10の変形例である図5に図示したファイバーレーザー共振器100のように、レーザー光λ1に対して全反射する出力ミラー120を用いてもよいものである。
【0108】
より詳細には、ファイバーレーザー共振器100は、上記の第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器10と比べると、出力ミラー12に代えて出力ミラー120を備える点においてのみ異なる。
【0109】
なお、以下の説明においては、図1乃至図3を参照しながら説明したファイバーレーザー共振器10と同一または相当する構成については、上記において用いた符号と同一の符号を用いて示すことにより、その構成ならびに作用の詳細な説明は適宜に省略することとする。
【0110】
ここで、ファイバーレーザー共振器100の動作について説明すると、ファイバーレーザー共振器100内で発生したレーザー光λ1は出力ミラー120において全反射され、出力ミラー120とファイバーブラッググレーティング14との間で往復することで増幅し続けるものである。
【0111】
そして、ファイバーレーザー共振器100内に発生した1次ストークス光S1は、音響光学波長可変フィルター24より非回折光としてファイバーレーザー共振器100の外部へ出射されるものであり、ファイバーレーザー共振器100の外部へ出射される非回折光である1次ストークス光S1は、図2の(b)の欄に示されるように、出力強度が強く、かつ、ブロードな波形の形状を有するレーザー光である。
【0112】
一方、回折光であるレーザー光λ1は、出力ミラー120によって全反射されるため、出力ミラー120から出力される回折光の出力強度は微弱なものとなる。
【0113】
従って、上記したファイバーレーザー共振器100によれば、1次ストークス光S1をファイバーレーザー共振器100の外部へ出力することができるものである。
【0114】
(2)上記した第2の実施の形態によるレーザー共振器200では、発生するレーザー光λ1に対して全反射し、かつ、1次ストークス光S1に対して部分反射する出力ミラー220を用いるものとしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、ファイバーレーザー共振器200の変形例である図6に図示したレーザー共振器300のように、レーザー光λ1および1次ストークス光S1の双方に対して全反射する出力ミラー320を用いてもよいものである。
【0115】
より詳細には、ファイバーレーザー共振器300は、上記の第2の実施の形態によるファイバーレーザー共振器200と比べると、出力ミラー220に代えて出力ミラー320を有する点においてのみ異なる。
【0116】
なお、以下の説明においては、図1乃至図4を参照しながら説明したファイバーレーザー共振器200と同一または相当する構成については、上記において用いた符号と同一の符号を用いて示すことにより、その構成ならびに作用の詳細な説明は適宜に省略することとする。
【0117】
ここで、ファイバーレーザー共振器300の動作について説明すると、ファイバーレーザー共振器300内で発生したレーザー光λ1および1次ストークス光S1は出力ミラー320において全反射され、出力ミラー320とファイバーブラッググレーティング14との間で往復することで増幅し続けるものである。
【0118】
そして、ファイバーレーザー共振器300内に発生したレーザー光λ1および1次ストークス光S1は、外部へ取り出されることなく増幅を続けるため、出力ミラー320から出力される回折光の出力強度は微弱なものとなる。
【0119】
また、ファイバーレーザー共振器300においても、ファイバーレーザー共振器200と同様の原理により、増幅された1次ストークス光S1から2次ストークス光S2が発生するものである。
【0120】
こうした2次ストークス光S2は、図2の(d)の欄に示されるように、強い出力強度を有するとともにブロードな波形の形状を有するレーザー光である。
【0121】
従って、上記したファイバーレーザー共振器300によれば、2次ストークス光S2をファイバーレーザー共振器300の外部へ出力することができるものである。
【0122】
(3)上記した各実施の形態においては、広帯域の波長の光を反射する反射素子を用いたファブリペロー型共振器により上記した各実施の形態のファイバーレーザー共振器を構成したが、これに限られるものではないことは勿論であり、部分結合デバイスを使用したリング型共振器により上記した各実施の形態のレーザー共振器を構成してもよい。
【0123】
(4)上記した各実施の形態においては、ファイバーレーザー共振器を構成する帰還素子の一方をミラーとするとともに他方をファイバーブラッググレーティングとしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、例えば、双方の帰還素子にファイバーブラッググレーティングを用いてもよいし、また、ファイバーループなどの素子を適用するようにしてもよい。
【0124】
(5)上記した各実施の形態や各変形例においては、空間導波用の音響光学波長可変フィルターを用いた場合について説明したが、これに限られるものではないことは勿論であり、ファイバー結合された音響光学波長可変フィルターを用いるようにしてもよい。
【0125】
(6)上記した各実施の形態や各変形例においては、RF電源より2種類の周波数のRF信号を音響光学波長可変フィルター24に供給する場合について説明したが、これに限られるものではないことは勿論であり、3種類以上の複数種類の周波数のRF信号を音響光学波長可変フィルター24に供給するようにして、それに応じて出力ミラー12、120、220、320の反射率を選択し、出力ミラー12、120、220、320から複数種類のレーザー光を音響光学波長可変フィルター24の回折光として出力するようにしてもよいし、また、複数種類のレーザー光を音響光学波長可変フィルター24の非回折光として出力するようにしてもよい。
【0126】
(7)上記した各実施の形態や各変形例においては、音響光学波長可変フィルタにより回折された回折光を直接出力ミラーに入射するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、音響光学波長可変フィルタと出力ミラーとの間に、回折光の分散を補正するための分散補正用プリズムを配設してもよいものである。
【0127】
図7には、ファイバーレーザー共振器400が図示されている。レーザー共振器400は、上記第1の実施の形態によるレーザー共振器10と比べると、出力ミラー12と音響光学波長可変フィルタ24との間に補正用プリズム402を有する点においてのみ異なる。
【0128】
このように、出力ミラーと音響光学波長可変フィルタとの間に補正用プリズムを配置することにより、出力ミラーより出射されるレーザー光の方向性を一定にすることが可能になる。
【0129】
(8)上記した各実施の形態や各変形例においては、光出力を音響光学波長可変フィルター側に配置した出力ミラーから取り出す場合について説明したが、これに限られるものではないことは勿論であり、レーザー共振器を循環する回折光を、音響光学波長可変フィルターと利得ファイバーとを挟んで反対側に配置される帰還素子から取り出しても良いものである。
【0130】
(9)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(8)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明は、分光装置などのようなスペクトルノイズを嫌う分野に用いるレーザー発振装置などに利用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器の概念構成説明図である。
【図2】図2は、ファイバーレーザー共振器における出力ミラーの反射率の状態と、音響光学波長可変フィルターの状態(音響光学波長可変フィルターが回折するレーザー光の種類を示す。)と、ファイバーレーザー共振器より出力される回折光および非回折光の出力強度を概念的に示した説明図とをまとめた図表であり、(a)の欄は第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器に関するものであり、また、(b)の欄は第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器の変形例に関するものであり、また、(c)の欄は第2の実施の形態によるファイバーレーザー共振器に関するものであり、また、(d)の欄は第2の実施の形態によるファイバーレーザー共振器の変形例に関するものである。
【図3】図3は、本発明の第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器より出力される回折光および非回折光について図示した概念説明図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施の形態によるファイバーレーザー共振器より出力される回折光および非回折光について図示した概念説明図である。
【図5】図5は、本発明の第1の実施の形態によるファイバーレーザー共振器の変形例であるレーザー共振器より出力される回折光および非回折光について図示した概念説明図である。
【図6】図6は、本発明の第2の実施の形態によるファイバーレーザー共振器の変形例であるレーザー共振器より出力される回折光および非回折光について図示した概念説明図である。
【図7】図7は、本発明の第1の実施の形態によるレーザー共振器の変形例であるファイバーレーザー共振器を図示した概念説明図である。
【符号の説明】
【0133】
10、100、200、300 ファイバーレーザー共振器
12、120、220、320 出力ミラー
14 ファイバーブラッググレーティング(FBG)
16、20 カップラ
18 利得ファイバー
22 コリメートレンズ
24 音響光学波長可変フィルター(AOTF)
26 励起半導体光源
28 パッシブファイバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域の波長の光を高反射率で反射する第1の帰還素子と、
前記第1の帰還素子の後段に配置された利得ファイバーと、
前記利得ファイバーに励起光を入力する光源と、
前記利得ファイバーの後段に配置されるとともに供給されたRF信号の周波数に応じた波長の光を回折する音響光学波長可変フィルターと、
前記音響光学波長可変フィルターへRF信号を供給するRF電源と、
前記音響光学波長可変フィルターにより回折された光を部分反射する第2の帰還素子と
を有することを特徴とするファイバーレーザー共振器。
【請求項2】
広帯域の波長の光を高反射率で反射する第1の帰還素子と、
前記第1の帰還素子の後段に配置された利得ファイバーと、
前記利得ファイバーに励起光を入力する光源と、
前記利得ファイバーの後段に配置されるとともに供給されたRF信号の周波数に応じた波長の光を回折する音響光学波長可変フィルターと、
前記音響光学波長可変フィルターへRF信号を供給するRF電源と、
前記音響光学波長可変フィルターにより回折された光を全反射する第2の帰還素子と
を有することを特徴とするファイバーレーザー共振器。
【請求項3】
広帯域の波長の光を高反射率で反射する第1の帰還素子と、
前記第1の帰還素子の後段に配置された利得ファイバーと、
前記利得ファイバーに励起光を入力する光源と、
前記利得ファイバーの後段に配置されるとともに供給された周波数の異なる複数種類のRF信号の周波数に応じて、それぞれ異なる波長の光を回折する音響光学波長可変フィルターと、
前記音響光学波長可変フィルターに周波数の異なる複数種類のRF信号を供給するRF電源と、
前記音響光学波長可変フィルターにより回折されたそれぞれ異なる波長の光のなかで、所定の波長の光を全反射するととともに前記所定の波長とは異なる波長の光を部分反射する第2の帰還素子と
を有することを特徴とするファイバーレーザー共振器。
【請求項4】
広帯域の波長の光を高反射率で反射する第1の帰還素子と、
前記第1の帰還素子の後段に配置された利得ファイバーと、
前記利得ファイバーに励起光を入力する光源と、
前記利得ファイバーの後段に配置されるとともに供給された周波数の異なる複数種類のRF信号の周波数に応じて、それぞれ異なる波長の光を回折する音響光学波長可変フィルターと、
前記音響光学波長可変フィルターに周波数の異なる複数種類のRF信号を供給するRF電源と、
前記音響光学波長可変フィルターにより回折されたそれぞれ異なる波長の光を全反射する第2の帰還素子と
を有することを特徴とするファイバーレーザー共振器。
【請求項5】
請求項1に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法であって、
前記光源により前記利得ファイバーに入力された励起光を第1の帰還素子と第2の帰還素子との間で増幅し、
前記RF電源により供給されたRF信号の周波数に応じて前記音響光学波長可変フィルターにより回折された光を前記第2の帰還素子により部分反射して、
前記第2の帰還素子から前記音響光学波長可変フィルターにより回折された光の一部を出力する
ことを特徴とするファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法。
【請求項6】
請求項2に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法であって、
前記光源により前記利得ファイバーに入力された励起光を第1の帰還素子と第2の帰還素子との間で増幅し、
前記RF電源により供給されたRF信号の周波数に応じて前記音響光学波長可変フィルターにより回折された光を前記第2の帰還素子により全反射して、
前記音響光学波長可変フィルターにより回折されない光を出力する
ことを特徴とするファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法。
【請求項7】
請求項3に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法であって、
前記光源により前記利得ファイバーに入力された励起光を第1の帰還素子と第2の帰還素子との間で増幅し、
前記RF電源により供給された周波数の異なる複数種類のRF信号の周波数に応じて前記音響光学波長可変フィルターにより回折されたそれぞれ異なる波長の光のなかで、前記第2の帰還素子により所定の波長の光を全反射するととともに前記所定の波長とは異なる波長の光を部分反射して、
前記第2の帰還素子から前記所定の波長とは異なる波長の光を出力する
ことを特徴とするファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法。
【請求項8】
請求項4に記載のファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法であって、
前記光源により前記利得ファイバーに入力された励起光を第1の帰還素子と第2の帰還素子との間で増幅し、
前記RF電源により供給された周波数の異なる複数種類のRF信号の周波数に応じて前記音響光学波長可変フィルターにより回折されたそれぞれ異なる波長の光を全反射して、
前記音響光学波長可変フィルターにより回折されない光を出力する
ことを特徴とするファイバーレーザー共振器を用いたレーザー発振方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−67698(P2010−67698A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230993(P2008−230993)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(597036581)株式会社メガオプト (15)
【Fターム(参考)】