ファブリペロー干渉計及びその製造方法
【課題】従来よりも分光帯域の広いファブリペロー干渉計及びその製造方法を提供する。
【解決手段】初期状態で、固定ミラーと可動ミラーの対向距離が固定電極と可動電極の対向距離以下である。固定電極と固定ミラー構造体の他の部分及び可動電極と動ミラー構造体の他の部分の少なくとも一方が電気的に分離されている。メンブレンは、外端から中心に向けて、第1ばね変形部、可動電極を含む高剛性部、第2ばね変形部、可動ミラーM2の順に有する。2つのばね変形部は可動ミラー及び高剛性部よりも剛性が低くされている。また、可動電極における固定電極との対向部分は、メンブレンの中心から外端に向かう方向において、高剛性部の一部のみを占めており、可動電極における固定電極との対向部分の中心と高剛性部における第1ばね変形部側の端部との距離をL1、高剛性部の長さをL2とすると、L2/L1≧3/2を満たすように構成されている。
【解決手段】初期状態で、固定ミラーと可動ミラーの対向距離が固定電極と可動電極の対向距離以下である。固定電極と固定ミラー構造体の他の部分及び可動電極と動ミラー構造体の他の部分の少なくとも一方が電気的に分離されている。メンブレンは、外端から中心に向けて、第1ばね変形部、可動電極を含む高剛性部、第2ばね変形部、可動ミラーM2の順に有する。2つのばね変形部は可動ミラー及び高剛性部よりも剛性が低くされている。また、可動電極における固定電極との対向部分は、メンブレンの中心から外端に向かう方向において、高剛性部の一部のみを占めており、可動電極における固定電極との対向部分の中心と高剛性部における第1ばね変形部側の端部との距離をL1、高剛性部の長さをL2とすると、L2/L1≧3/2を満たすように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定ミラー構造体と、ギャップを介して固定ミラー構造体に対向配置されるとともに、ギャップを架橋する部位が変位可能なメンブレンとされた可動ミラー構造体と、を備えるファブリペロー干渉計及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1,2に示されるファブリペロー干渉計が知られている。このファブリペロー干渉計は、ポリシリコンからなる高屈折率層の間に、低屈折率層を配置してなる一対のミラー構造体(固定ミラー構造体及び可動ミラー構造体)を備える。これらミラー構造体はエアギャップを介して対向配置されており、特許文献1では、低屈折率層としての二酸化シリコン層が分光領域に配置されてミラーが構成されている。一方、特許文献2では、低屈折率層としての空気層が分光領域に配置されてミラーが構成されている。
【0003】
また、各ミラー構造体の高屈折率層には、不純物がドーピングされて電極が形成されている。したがって、各ミラー構造体の電極に電圧を印加して生じる静電気力により、ギャップ上に位置する可動ミラー構造体のメンブレンを変位させ、これによりギャップ長さを変化させて、ギャップにおけるミラーの対向距離に応じた波長の光を選択的に透過させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3457373号公報
【特許文献2】特開2008−134388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ファブリペロー干渉計の分光帯域を広くするには、広帯域にわたるミラーの高反射率に加え、可動ミラー構造体のメンブレンにおける分光領域部分(可動ミラー形成部分)の変位量が大きいことが必要である。
【0006】
各ミラー構造体の電極に電圧を印加して生じる静電気力は、電極の対向距離deの2乗に反比例し、メンブレンの変位に伴うばね復元力は、対向距離deの変化量Δdeに正比例する。このため、変化量Δdeが対向距離deの初期長さdeiの1/3となった状態がプルイン限界である。したがって、変化量Δdeが初期長さdeiの1/3よりも大きくなると、静電気力がばね復元力を上回り、両ミラー構造体が静電気力で引き込まれ、スティッキングし、電圧を除去しても元の状態に戻らなくなる(プルイン現象が生じる)。
【0007】
特許文献1に示されるファブリペロー干渉計では、ポリシリコンのミラー形成部分に不純物がドーピングされて電極が構成されており、電極の対向距離deとミラーの対向距離dmが等しくなっている。このため、対向距離dm(=de)の変化量Δdm(=Δde)が初期長さdmi(=dei)の1/3となった状態がプルイン限界である。一方、特許文献2に示されるファブリペロー干渉計では、ポリシリコンに部分的に不純物をドーピングして電極としており、ミラーを構成するポリシリコンの部分が電極と電気的に結合されている。すなわち、ミラー部分も、静電気力の生じる電極として実質的に作用するようになっている。このため、ミラーの対向距離dmの変化量Δdmが初期長さdmiの1/3となった状態がプルイン限界である。
【0008】
このように、従来は、ミラーの対向距離dmと電極の対向距離deがほぼ等しいため、変化量Δdmが初期長さdmiの1/3よりも大きくなるようにメンブレンを変位させ、ひいては分光帯域を広くすることが困難であった。
【0009】
また、透過光の波長λは、λ=2×dm/nで示される。nは干渉光の次数を示す正の整数である。したがって、プルイン限界でのミラーの対向距離dmの変化量をΔdmpとすると、1次の干渉光(n=1)の波長可変帯域は、理想的には2dmi〜2(dmi−Δdmp)となる。また、2次の干渉光(n=2)の波長可変帯域は、理想的にはdmi〜(dmi−Δdmp)となる。このように、次数の異なる干渉光、特に次数が小さく、波長可変帯域の広い1次と2次の干渉光を利用することで、分光帯域を広くすることも考えられる。
【0010】
しかしながら、上記したように、従来のファブリペロー干渉計では、プルイン限界によってメンブレンの変位量を大きくとることができないため、1次の干渉光と2次の干渉光の可変透過波長帯域の間に、分光不可能な波長帯域(分光不可域)が存在していた。そして、この分光不可域が、広帯域化の障害となっていた。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑み、従来よりも分光帯域の広いファブリペロー干渉計及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する為に請求項1に記載の発明は、
固定ミラー構造体と、ギャップを介して固定ミラー構造体に対向配置されるとともに、ギャップを架橋する部位が変位可能なメンブレンとされた可動ミラー構造体と、を備え、
ギャップを介した対向部位として、
固定ミラー構造体は、固定ミラーと、固定電極とを有し、
可動ミラー構造体は、固定ミラーに対向して形成された可動ミラーと、可動電極とを有し、
固定電極と可動電極の間に印加された電圧に基づいて生じる静電気力によりメンブレンが変位され、ギャップにおける固定ミラーと可動ミラーとの対向距離に応じた波長の光を選択的に透過させるファブリペロー干渉計であって、
電圧が印加されない初期状態で、固定ミラーと可動ミラーの対向距離が、固定電極と可動電極の対向距離以下とされ、
固定電極と該固定電極を除く固定ミラー構造体の他の部分、及び、可動電極と該可動電極を除く可動ミラー構造体の他の部分、の少なくとも一方が電気的に分離され、
メンブレンは、可動ミラーと、可動電極を含み、可動ミラーを取り囲む高剛性部と、メンブレンの外端に設けられ、高剛性部と接続された第1ばね変形部と、高剛性部と可動ミラーとの間に設けられ、高剛性部及び可動ミラーと接続された第2ばね変形部を有し、
可動ミラーを取り囲むように多重に設けられた2つのばね変形部は、メンブレンを構成する他の可動ミラー及び高剛性部よりも剛性が低くされ、
可動電極における固定電極との対向部分が、メンブレンの中心から外端に向かう方向において、高剛性部の一部のみを占めており、
メンブレンの中心から外端に向かう方向において、可動電極における固定電極との対向部分の中心と高剛性部における第1ばね変形部側の端部との距離をL1、高剛性部の長さをL2とすると、
L2/L1≧3/2
を満たすように構成されていることを特徴とする。
【0013】
ここで、可動ミラーと固定ミラーとの対向距離をdm、特に電圧が印加されない初期状態の対向距離をdmi、電圧印加による変位量をΔdm、特にプルイン限界での変位量をΔdmpとする。上記したように、1次の干渉光の波長可変帯域は、理想的には2dmi〜2(dmi−Δdmp)となる。2次の干渉光の波長可変帯域は、理想的にはdmi〜(dmi−Δdmp)となる。1次の干渉光と2次の干渉光との分光不可域を無くすには、1次の干渉光の波長可変帯域の下限値が、2次の干渉光の波長可変帯域の上限値以下となれば良い。プルイン限界での変位量Δdmpが初期長さdmiの1/2以上となると、1次の干渉光の波長可変帯域の下限値が2次の干渉光の波長可変帯域の上限値dmi以下となる。
【0014】
そこで本発明では、メンブレンの外端から中心に向けて、第1ばね変形部、可動電極を含む高剛性部、第2ばね変形部、可動ミラーの順に設けた。すなわち、第1ばね変形部及び第2ばね変形部とは別に、これらばね変形部よりも剛性の高い高剛性部を設けた。したがって、電極間に電圧を印加し、電極間に生じる静電気力により可動電極が固定電極に向けて変位しようとすると、高剛性部は、第2ばね変形部との接続端が第1ばね変形部との接続端よりも固定ミラー構造体に近づくように傾斜しつつ変位する。また、ばね変形部よりも剛性の高い高剛性部は、ばね変形部のように撓むことなく平坦な状態で傾斜しつつ変位することができる。
【0015】
また、高剛性部における可動電極と固定電極との対向部分(以下、単に電極対向部分と示す)の位置に着目し、電極対向部分の中心と高剛性部における第1ばね変形部側の端部との距離L1と高剛性部の長さL2が、L2/L1≧3/2を満たすように構成した。高剛性部の長さが第1ばね変形部の長さに対して十分に長く、電圧が印加されない状態での高剛性部(可動電極)と固定ミラー構造体(固定電極)との対向距離をd、高剛性部における第1ばね変形部側の端部を基準端とし、基準端に対する電極対向部分でのプルイン限界の変位量をd×1/3、このときの高剛性部における第2ばね変形部側の端部での変位量をd×1/2とする。上記したように高剛性部は平坦な状態で傾斜しつつ変位するので、比例関係からL2/L1=3/2となる。したがって、L2/L1≧3/2を満たすことで、高剛性部における第2ばね変形部側の端部での変位量はd×1/2以上となる。可動ミラーは高剛性部と第2ばね変形部を介して接続されているため、可動ミラーと固定ミラーとの対向距離dmの変位量Δdmpも、初期長さdmiの1/2以上となる。
【0016】
このように本発明によれば、可動ミラーを初期長さdmiの1/2以上変位させ、これにより1次の干渉光の可変波長帯域を長くして、1次の干渉光の可変波長帯域と2次の干渉光の可変透過波長帯域を連続させることができる。すなわち、分光不可域を無くすことができる。したがって、1次の干渉光と2次の干渉光により、分光帯域をより広くすることができる。
【0017】
なお、本発明では、高剛性部と可動ミラーとが、高剛性部及び可動ミラーよりも剛性の低い(ばね定数が小さい)第2ばね変形部によって力学的(構造的)に分離されている。したがって、電極間に電圧を印加し、可動電極を含む高剛性部が変位しても、可動ミラーを固定ミラー構造体(固定ミラー)に対してほぼ平行に保持することができる。また、固定電極と該固定電極を除く固定ミラー構造体の他の部分、及び、可動電極と該可動電極を除く可動ミラー構造体の他の部分、の少なくとも一方が電気的に分離されているため、電極間に電圧を印加してもミラー間に静電気力が殆ど生じず(又は全く生じず)、可動ミラー及び固定ミラーを平坦に保持することができる。これにより、透過波長の半値幅(FWHM)を低減することができる。すなわち、分光帯域を広くしつつ、透過波長の半値幅を低減することができる。
【0018】
より好ましくは、請求項2に記載のように、L2/L1≧3を満たして構成すると良い。この場合、可動電極がプルイン限界まで変位した状態で、可動ミラーを初期長さdmiまで、すなわち固定ミラーに接触するまで変位させることができる。このため、1次の干渉光の波長可変帯域が2dmiから理想的にはゼロまでの範囲となり、1次の干渉光のみで分光帯域をさらに広くすることができる。なお、可動ミラーが固定ミラーに接触すると、スティッキングの状態となり、電圧の印加を解除しても可動ミラーが固定ミラーから離れがたくなる。したがって、実際は、可動ミラーが固定ミラーに接触しないように電圧を調整すると良い。
【0019】
具体的には、請求項3に記載のように、2つのばね変形部は、メンブレンを構成する他の可動ミラー及び高剛性部よりも厚さが薄くされ、可動ミラー及び高剛性部よりも剛性が低くされても良い。この場合、厚さが薄いほど、剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。
【0020】
また、請求項4に記載のように、2つのばね変形部は、メンブレンを貫通し、ギャップに連通する貫通孔により、メンブレンを構成する他の可動ミラー及び高剛性部よりも剛性が低くされても良い。例えば、エッチングによりギャップを形成する場合には、貫通孔をエッチング用の貫通孔として利用しつつ、ばね定数を設定することができる。したがって、製造工程の簡素化することができる。
【0021】
なお、2つのばね変形部は、請求項5に記載のように、貫通孔により梁構造をなしても良い。梁の本数が少ないほど、梁の長さが長いほど、梁の幅が短いほど、剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。また、請求項6に記載のように、貫通孔を有する環状構造とされても良い。貫通孔の大きさが大きいほど、密度が高いほど、メンブレンの外端から遠い位置ほど、剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。
【0022】
また、請求項7に記載のように、2つのばね変形部は、一部にメンブレンを構成する他の可動ミラー及び高剛性部とはヤング率の異なる構成材料を用いることで、剛性が低くされても良い。この場合、メンブレンにおいて、可動ミラーを除く周辺領域全域において厚さを均一とすることもできる。厚さを均一とすると、局所的な応力の集中を抑制し、メンブレンを壊れにくくすることができる。なお、ヤング率が低いほど剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。
【0023】
請求項8に記載のように、固定ミラー及び可動ミラーとして、シリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなる高屈折率層間に、該高屈折率層よりも低屈折率の空気層を介在させてなる光学多層膜構造のミラーを採用すると良い。このようにエアミラーを採用すると、低屈折率層に対する高屈折率層の屈折率比が大きくなり、固定ミラー及び可動ミラーが広帯域にわたって高反射率となる。したがって、上記した効果と合わせて、より分光帯域の広いファブリペロー干渉計を提供することができる。
【0024】
請求項9に記載のように、高剛性部が、2つの高屈折率層と、該高屈折率層の間に介在された、高屈折率層を構成する元素の酸化物層とを有する構成とすると良い。一般的に、エアミラーの空気層は、高屈折率層を構成する元素の酸化物層(例えば二酸化シリコン層)をエッチングにより除去して形成される。このため、本発明によれば、エアミラーとともに高剛性部を形成し、製造工程を簡素化することができる。
【0025】
また、静電気力のために電極の対向面積を稼ぎつつ、上記したように距離L2と距離L1の比をできるだけ大きくするには、高剛性部として所定の長さを必要とする。長さが長くなると剛性は低下するから、本発明によれば、長さを確保しつつ、酸化物層を有することで、酸化物層を有さない高剛性部に較べて剛性を高めることができる。
【0026】
請求項10に記載のように、高剛性部が、高屈折率層の一面上に内部応力が引張応力に調整された引張応力層を有すると良い。通常、上記した酸化物層(例えば二酸化シリコン層)の内部応力は圧縮応力(−300MPa程度)となっている。一方、高屈折率層を構成する半導体薄膜(例えばポリシリコン)は、エアミラー構造を成立させるため、内部応力がほぼゼロ又は数十MPa程度の弱い引張応力に調整される。このため、高剛性部が酸化物層を有すると、座屈する恐れがある。これに対し、本発明では、高剛性部に引張応力層を設けるので、引張応力層を有さない構成に較べてメンブレンの座屈を抑制することができる。
【0027】
請求項11に記載のように、引張応力層として、高屈折率層を構成する元素のLP−窒化膜(減圧化学気相成長法(Low Pressure Chemical Vapor Deposition法)によって成膜された窒化膜)を採用すると良い。このように低圧にて形成された窒化膜を採用すると、プラズマなどその他の製法にて形成された窒化膜に較べて引張応力を大きくすることができる。このため、メンブレンの座屈を効果的に抑制することができる。また、膜内のピンホールも少ないため、引張応力層が破壊の起点となりにくく、これによりメンブレンの信頼性を高めることもできる。
【0028】
請求項12に記載のように、高剛性部において、酸化物層に対するLP−窒化膜の膜厚比を0.25以上とすることが好ましい。LP−窒化膜の内部応力は1200MPa程度の引張である。したがって、膜厚比を0.25以上とすることで、高剛性部の平均応力をゼロ又は引張応力とすることができる。これにより、メンブレンの座屈をより効果的に抑制することができる。
【0029】
次に、請求項13に記載の発明は、請求項9に記載のファブリペロー干渉計の製造方法であって、
シリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなる高屈折率層間の固定ミラー形成領域に、高屈折率層を構成する元素の酸化膜からなる酸化物層を配置して、固定ミラー構造体を基板の一面上に形成する工程と、
低屈折率層と同じ材料からなる犠牲層を、固定ミラー構造体の前記基板と反対の面上に形成する工程と、
固定ミラー構造体と同じ半導体薄膜からなる高屈折率層間の可動ミラー形成領域に、固定ミラー構造体と同じ酸化膜からなる酸化物層を配置して、可動ミラー構造体を犠牲層を覆うように形成する工程と、
エッチングにより、メンブレンに対応する犠牲層の部分を除去して、固定ミラー構造体と可動ミラー構造体とを対向させるギャップを設けるとともに、固定ミラー構造体及び可動ミラー構造体の酸化物層を除去してエアミラーとする工程と、備え、
可動ミラー構造体を形成する工程において、酸化物層を、可動ミラー形成領域だけでなく、高剛性部の形成領域にも配置し、
エッチングの工程において、高剛性部の酸化物層を除去せずに残すことを特徴とする。
【0030】
本発明の作用効果は、請求項9に記載の発明の作用効果と同じであるので、その記載を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施形態に係るファブリペロー干渉計の概略構成を示す断面図であり、電圧が印加された状態を示している。
【図2】図1に示すファブリペロー干渉計において、高剛性部における可動電極と固定電極の対向部分の位置及びその効果を説明するための図である。
【図3】(a)は、比較例として従来のファブリペロー干渉計の分光帯域を示す図、(b)は第1実施形態に係るファブリペロー干渉計の分光帯域を示す図である。
【図4】図1に示すファブリペロー干渉計の具体例として、第2実施形態に係るファブリペロー干渉計の概略構成を示す可動ミラー構造体側から見た平面図である。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】ファブリペロー干渉計の製造工程を示す断面図である。
【図7】変形例を示す断面図である。
【図8】変形例を示す断面図である。
【図9】変形例を示す断面図である。
【図10】変形例を示す断面図である。
【図11】製造工程の変形例を示す断面図である。
【図12】第3実施形態に係るファブリペロー干渉計の概略構成を示す可動ミラー構造体側から見た平面図である。
【図13】変形例を示す平面図である。
【図14】変形例を示す平面図である。
【図15】第4実施形態に係るファブリペロー干渉計の概略構成を示す断面図である。
【図16】第5実施形態に係るファブリペロー干渉計の概略構成を示す断面図である。
【図17】膜厚比と高剛性部の平均応力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態において、共通乃至関連する要素には同一の符号を付与するものとする。
【0033】
(第1実施形態)
以下においては、固定ミラー構造体30と可動ミラー構造体70との間のギャップがエアギャップAG(空隙)である例を示す。また、エアギャップAGの長さ方向、換言すればメンブレンMEMの変位方向を単に変位方向と示し、該変位方向に垂直な方向を単に垂直方向と示す。また、平面形状とは、特に断りのない限り、上記垂直方向に沿う形状を示すものとする。
【0034】
また、ミラーM1,M2の対向領域を分光領域S1とし、可動ミラー構造体70のメンブレンMEMに対応する領域であって、分光領域S1を除く領域を周辺領域X1とする。この周辺領域X1は、垂直方向に沿う少なくとも一方向において分光領域S1を挟むように設けられれば良く、本実施形態では、分光領域S1を取り囲むように周辺領域X1が設定されている。換言すれば、メンブレンMEMの中心を含む領域(中央領域)に可動ミラーM2が設けられている。
【0035】
また、以下においては、固定電極E1と可動電極E2の対向距離をde、特に電圧が印加されない初期状態での対向距離をdei、プルイン限界での対向距離をdep、対向距離の変化量をΔde、特にプルイン限界での変化量をΔdepとする。また、固定ミラーM1と可動ミラーM2の対向距離をdm、特に電圧が印加されない初期状態での対向距離をdmi、プルイン限界での対向距離をdmp、対向距離の変化量をΔdm、特にプルイン限界での変化量をΔdmpとする。
【0036】
図1に示すように、本実施形態に係るファブリペロー干渉計100は、エアギャップAGを介して対向配置された固定ミラー構造体30及び可動ミラー構造体70を備えている。可動ミラー構造体70のエアギャップAGを架橋する部分は、後述する電極E1,E2間への電圧の印加により変位可能なメンブレンMEMとなっている。また、エアギャップAGを介した対向部位として、固定ミラー構造体30は、固定ミラーM1と固定電極E1を有している。一方、可動ミラー構造体70は、エアギャップAGを介して固定ミラーM1に対向配置された可動ミラーM2と、エアギャップAGを介して少なくとも一部が固定電極E1に対向配置された可動電極E2を有している。なお、図1に示す例では、支持部材50を介して可動ミラー構造体70が固定ミラー構造体30の一面上に支持(固定)されている。
【0037】
そして、固定電極E1と可動電極E2の間に印加される電圧Vに基づいて静電気力が生じると、可動ミラー構造体70のメンブレンMEMが変位し、エアギャップAGの長さが変化する。これにより、エアギャップAGにおける固定ミラーM1と可動ミラーM2との対向距離dmに応じた波長の光を選択的に透過させることができる。
【0038】
なお、ミラーM1,M2間の対向距離の変化量Δdmをできるだけ大きくするために、ミラーM1,M2間の初期長さdmiは、電極E1,E2間の初期長さdei以下とされる。本実施形態では、dmi=deiとなっている。
【0039】
特に本実施形態では、固定電極E1と該固定電極E1を除く固定ミラー構造体30の他の部分(固定ミラーM1など)、及び、可動電極E2と該可動電極E2を除く可動ミラー構造体70の他の部分(可動ミラーM2など)、の少なくとも一方が電気的に分離されている。したがって、エアギャップAGを変化させるべく固定電極E1と可動電極E2の間に電圧を印加しながらも、固定ミラーM1と可動ミラーM2をほぼ同電位または完全に同電位とすることができる。このため、固定ミラーM1と可動ミラーM2との間で静電気力が殆ど生じないか、全く生じない状態となり、プルイン限界は、固定電極E1と可動電極E2との対向距離deに依存する。なお、このような電気的な分離構造としては、pn接合分離や、ポリシリコンをエッチングによりパターニングし、空間的に分離するトレンチ絶縁分離を採用することができる。
【0040】
また、図1及び図2(a),(b)に示すように、メンブレンMEMが、可動ミラーM2と、可動ミラーM2を取り囲む高剛性部H1と、メンブレンMEMの外端に設けられ、高剛性部H1と接続された第1ばね変形部B1と、高剛性部H1と可動ミラーM2との間に設けられ、高剛性部H1及び可動ミラーM2と接続された第2ばね変形部B2と、を有している。すなわち、メンブレンMEMの外端から中心に向けて、第1ばね変形部B1、可動電極E2を含む高剛性部H1、第2ばね変形部B2、可動ミラーM2の順に設けられている。
【0041】
高剛性部H1は、メンブレンMEMの変位時に撓まず平坦なまま変位するようにばね変形部B1,B2よりも剛性が高く設定された部分であり、少なくとも一部に可動電極E2を含んでいる。図2(a)〜(c)において、高剛性部H1のうち、外側の端部、すなわち第1ばね変形部B1と接続される側の端部をH1aと示し、内側の端部、すなわち第2ばね変形部B2と接続される側の端部をH1bと示す。この高剛性部H1は、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において、固定ミラー構造体30との初期状態での対向距離が全域で等しくなっている。すなわち、高剛性部H1全域で初期長さがdeiとなっている。
【0042】
2つのばね変形部B1,B2は、可動ミラーM2を取り囲むように多重(2重)に設けられ、メンブレンMEMを構成する他の部分、すなわち可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも剛性が低くされて、変形しやすくされた部分である。より具体的には、可動ミラー構造体70における固定ミラー構造体30との固定部分(図1の支持部材50による支持部分)と高剛性部H1(メンブレンMEMにおける第1ばね変形部B1以外の部分)とを力学的(構造的に)分離してメンブレンMEMを変位可能とすべく、剛性が低く設定された部分である。第1ばね変形部B1は、可動電極E2よりも外側に位置しており、電圧印加時にメンブレンMEMを変位させるべく、剛性が低く(ばね定数が低く)設定されている。また、第1ばね変形部B1の長さが、高剛性部H1の長さに対して十分に短い長さに設定されている。一方、第2ばね変形部B2は、可動電極E2(高剛性部H1)よりも内側に位置しており、高剛性部H1と可動ミラーM2とを力学的(構造的に)分離すべく、剛性が低く(ばね定数が低く)設定されている。
【0043】
さらに本実施形態では、固定電極E1及び可動電極E2は、可動電極E2における固定電極E1との対向部分(換言すれば、可動電極E2と固定電極E1との対向部分)が、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において高剛性部H1の一部のみを占めるように設けられている。そして、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において、可動電極E2における固定電極E1との対向部分(換言すれば、可動電極E2と固定電極E1との対向部分)の中心Ecと高剛性部H1における第1ばね変形部B1側の端部H1aとの距離L1、高剛性部H1の長さ(端部H1aから端部H1bまでの長さ)L2が、少なくともL2/L1≧3/2を満たすように構成されている。より好ましくは、L2/L1≧3を満たすように構成されている。このように、2つのばね変形部B1,B2の間に、可動電極E2を含む高剛性部H1を設けた点と、高剛性部H1と可動電極E2における固定電極E1との対向部分とを所定の位置関係とする点が、本実施形態の主たる特徴部分である。なお、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において、固定電極E1と可動電極E2の寸法の関係は特に限定されるものではない。固定電極E1のほうが長くても良いし、可動電極E2のほうが長くても良い。また、固定電極E1と可動電極E2の長さが等しくても良い。
【0044】
次に、上記特徴点の効果を説明する。
【0045】
ここで、透過光の波長λは次式で示される。なお、nは干渉光の次数を示す正の整数である。
(数1)λ=2×dm/n
したがって、1次の干渉光(n=1)の波長可変帯域は、理想的には2dmi〜2(dmi−Δdmp)となる。また、2次の干渉光(n=2)の波長可変帯域は、理想的にはdmi〜(dmi−Δdmp)となる。1次の干渉光と2次の干渉光との分光不可域を無くすには、1次の干渉光の波長可変帯域の下限値[2(dmi−Δdmp)]が、2次の干渉光の波長可変帯域の上限値[dmi]以下となれば良い。プルイン限界での変化量Δdmpが初期長さdmiの1/2以上となると、1次の干渉光の波長可変帯域の下限値が2次の干渉光の波長可変帯域の上限値dmi以下となる。
【0046】
これに対し、本実施形態では、第1ばね変形部B1の長さが、高剛性部H1の長さに対して十分に短い長さに設定されており、これにより、第1ばね変形部B1が変位方向の長さに殆ど影響を与えないようになっている。このため、電圧Vを印加し、メンブレンMEMが、図2(a)に示す初期状態から図2(b)に示す状態に変位したときの高剛性部H1の外側の端部H1aの変化量はほぼゼロとみなすことができる。高剛性部H1の外側の端部H1aを基準端とし、電圧Vを印加したときの基準端に対する可動電極E2における固定電極E1との対向部分の中心Ecの変化量を上記Δde、基準端に対する高剛性部H1の内側の端部H1bの変化量をΔd1とする。
【0047】
ここで、本実施形態では、第1ばね変形部B1及び第2ばね変形部B2とは別に高剛性部H1を設け、この高剛性部H1の少なくとも一部に可動電極E2を設けている。したがって、電圧Vを印加し、電極E1,E2間に生じる静電気力により可動電極E2が固定電極E1に向けて変位しようとすると、図2(b)に示すように、高剛性部H1は、内側の端部H1bが外側の端部H1aよりも固定ミラー構造体30に近づくように傾斜しつつ変位する。また、ばね変形部B1,B2よりも剛性の高い高剛性部H1は、ばね変形部B1,B2のように撓むことなく平坦な状態で傾斜しつつ変位する。
【0048】
このように、高剛性部H1は平坦な状態で傾斜しつつ変位する。したがって、距離L1,L2と変化量Δde、Δd1との間に下記比例関係が成立する。
(数2)L2/L1=Δd1/Δde
可動ミラーM2は、第2ばね変形部B2を介して高剛性部H1の端部H1bに接続されている。したがって、電極間の対向距離の変化量Δdeがプルイン限界Δdep(=dei×1/3)のとき、高剛性部H1の内側の端部H1bの変化量Δd1は、下記式で示されることとなる。
(数3)L2/L1=3Δd1/dei
上記したように、プルイン限界での変化量Δdmpが初期長さdmiの1/2以上となると、1次の干渉光の波長可変帯域の下限値が2次の干渉光の波長可変帯域の上限値dmi以下となる。また、ミラーM1,M2間の初期長さdmiは電極E1,E2間の初期長さdei以下である。したがって、高剛性部H1の端部H1bの変化量Δd1が、電極E1,E2間の初期長さdeiの1/2以上となれば、ミラーM1,M2間のプルイン限界での変化量Δdmpが初期長さdmiの1/2以上となる。本実施形態に示すように、初期長さdeiと初期長さdmiが等しい場合には、Δd1が初期長さdeiの1/2で、変化量Δdmpが初期長さdmiの1/2となる。これを満たす式は、数式3から下記の通りとなる。
(数4)L2/L1≧3/2
このように、数式4の関係を満たすと、可動ミラーM2を初期長さdmiの1/2以上変位させ、これにより、図3(b)に示すように、1次の干渉光の可変波長帯域を長くして、1次の干渉光の可変波長帯域と2次の干渉光の可変透過波長帯域を連続させることができる。すなわち、分光不可域を無くすことができる。したがって、1次の干渉光と2次の干渉光により、分光帯域をより広くすることができる。
【0049】
なお、図3(a),(b)は、本実施形態同様、初期長さdei,dmiが等しい構成での結果を示している。図3(b)では、エアギャップ4200nmが初期長さdmiであり、エアギャップ2100nmが可動ミラーM2を初期長さdmiの1/2変位させた状態を示している。比較例として示す図3(a)では、初期長さdmi(4200nm)に対し、プルイン限界の2800nm(dmi×1/3)までしか可動ミラーM2を変位させることができないため、1次干渉光の可変波長帯域が狭く、分光不可域が存在している。
【0050】
また、ミラーM1,M2間の初期長さdmiは電極E1,E2間の初期長さdei以下であるので、高剛性部H1の端部H1bの変化量Δd1が、電極E1,E2間の初期長さdeiとなれば、ミラーM1,M2間の変化量Δdmpが初期長さdmiとなる。したがって、好ましくは、下記式を満たすと良い。
(数5)L2/L1≧3
このように、数式5の関係を満たすと、可動電極E2がプルイン限界まで変位した状態で、可動ミラーM2を初期長さdmiまで、すなわち固定ミラーM1に接触するまで変位させることができる。このため、1次の干渉光の波長可変帯域が2dmiから理想的にはゼロまでの範囲となり、1次の干渉光のみで分光帯域をさらに広くすることができる。なお、可動ミラーM2が固定ミラーM1に接触すると、スティッキングの状態となり、電圧Vの印加を解除しても可動ミラーM2が固定ミラーM1から離れがたくなる。したがって、実際は、可動ミラーM2が固定ミラーM1に接触しないように電圧を調整すると良い。
【0051】
また、本実施形態では、高剛性部H1と可動ミラーM2とが、高剛性部H1及び可動ミラーM2よりも剛性の低い第2ばね変形部B2によって力学的(構造的)に分離されている。したがって、電極E1,E2間に電圧Vを印加し、可動電極E2を含む高剛性部H1が変位しても、可動ミラーM2を固定ミラー構造体30(固定ミラーM1)に対してほぼ平行に保持することができる。また、固定電極E1と該固定電極E1を除く固定ミラー構造体30の他の部分、及び、可動電極E2と該可動電極E2を除く可動ミラー構造体70の他の部分、の少なくとも一方が電気的に分離されているため、電極E1,E2間に電圧を印加しながらも、固定ミラーM1と可動ミラーM2をほぼ同電位または完全に同電位とすることができる。このため、ミラーM1,M2間に静電気力が殆ど生じず(又は全く生じず)、可動ミラーM2及び固定ミラーM1を平坦に保持することができる。これにより、透過波長の半値幅(FWHM)を低減することができる。すなわち、分光帯域を広くしつつ、透過波長の半値幅を低減することができる。
【0052】
以下、第1実施形態に示したファブリペロー干渉計100の具体的な構成例について説明する。また、以下に示すファブリペロー干渉計100は、所謂エアミラー構造のファブリペロー干渉計であり、上記した本出願人による特許文献1(特開2008−134388号公報)に示されるものと基本構造が同じである。したがって、ミラーM1,M2などの詳細構造については説明を割愛し、異なる部分を重点的に説明する。
【0053】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るファブリペロー干渉計を、図4及び図5を用いて説明する。
【0054】
図5に示すファブリペロー干渉計100は、基板10の一面上に、絶縁膜12を介して固定ミラー構造体30が配置されている。本実施形態では、基板10として、例えば単結晶シリコンからなる平面矩形状の半導体基板を採用している。また、基板10の一面上には、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの絶縁膜12が略均一の厚みをもって形成されている。そして、絶縁膜12を介して、基板10の一面上に固定ミラー構造体30が配置されている。さらに、本実施形態では基板10の一面側表層には、不純物がドーピングされてなる吸収領域11が、垂直方向において、分光領域S1を除く領域に選択的に設けられ、これにより、分光領域S1外での光の透過を抑制するようになっている。この吸収領域11を有さない構成を採用することもできる。
【0055】
固定ミラー構造体30は、空気よりも屈折率の高い材料、例えばシリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなり、基板10の一面全面に絶縁膜12を介して積層された高屈折率下層31と、該高屈折率下層31に同じくシリコンなどの高屈折率材料からなり、高屈折率下層31上に積層された高屈折率上層32とを有する。本実施形態においては、高屈折率層31,32が、ともにポリシリコンからなる。
【0056】
そして、分光領域S1における高屈折率下層31と高屈折率上層32との間には、低屈折率層としての空気層33が介在され、この部分が実際にミラーとして機能する光学多層膜構造の固定ミラーM1となっている。このように、固定ミラーM1は空気層33が介在されたエアミラーとなっている。この固定ミラーM1は、平面円形状のメンブレンMEMの中央領域に形成された可動ミラーM2に対向している。
【0057】
なお、図5に示す符号34は、固定ミラー構造体30において、固定ミラーM1における空気層33の上面を覆う高屈折率上層32の部分に形成された貫通孔であり、この貫通孔34を介してエッチングすることで、空気層33が形成される。
【0058】
また、固定ミラー構造体30の周辺領域X1では、高屈折率層31,32間に酸化物層35が介在されている。より詳しくは、酸化物層35が、少なくとも高剛性部H1全域と対向する部分に設けられている。これにより、固定ミラーM1と周辺領域X1のエアギャップAG側の表面が略面一となっている。換言すれば、電極E1,E2間の初期長さdeiとミラー間の初期長さdmiを等しくすべく、空気層33に対応して酸化物層35が配置されている。本実施形態では、分光領域S1を除く領域のほぼ全域に酸化物層35が設けられている。酸化物層35としては、高屈折率層31,32を構成する元素の酸化物を採用することができ、本実施形態では、二酸化シリコン層となっている。
【0059】
また、固定ミラー構造体30の周辺領域X1には、少なくともエアギャップAG側の高屈折率上層32に、p導電型又はn導電型の不純物が導入されて固定電極E1が形成されている。本実施形態では、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において、高剛性部H1の一部のみと対向すべく、高屈折率上層32にリン(P)がイオン注入されてn導電型の固定電極E1が形成されている。この固定電極E1は、固定ミラーM1(分光領域S1)を取り囲んで環状に形成されている。また、高剛性部H1と対向する部分であって固定電極E1の周囲には、高屈折率上層32に硼素(B)がイオン注入されてp導電型の絶縁分離領域36が形成されている。このように、本実施形態では、固定電極E1と固定ミラー構造体30の他の部分とがpn接合分離によって電気的に分離されている。なお、絶縁分離領域36の形成範囲は上記例に限定されるものではない。例えば、固定ミラーM1、固定電極E1、及び該固定電極E1とパッド37とを繋ぐ配線部(図示略)を除く部分を絶縁分離領域としても良い。パッド37は、Au/Cr等からなり、可動ミラー構造体70のメンブレンMEMとの対向部位を除く領域の高屈折率上層32上に形成されている。
【0060】
この固定ミラー構造体30における高屈折率上層32上には、メンブレンMEMと固定ミラー構造体30におけるメンブレンMEMと対向する部分との間にエアギャップAGを有するように、可動ミラー構造体70が配置されている。図4及び図5に示すように、メンブレンMEMよりも外側に位置する可動ミラー構造体70の部分が、固定ミラー構造体30に接して、メンブレンMEMを支持する支持部材としての機能を果たしている。このメンブレンMEMよりも外側の部分には、パッド37を形成するための開口部51が形成されている。
【0061】
可動ミラー構造体70も、固定ミラー構造体30同様、空気よりも屈折率の高い材料、例えばシリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなり、固定ミラー構造体30と対向する高屈折率下層71と、該高屈折率下層71に同じくシリコンなどの高屈折率材料からなり、高屈折率下層71上に積層された高屈折率上層72とを有する。本実施形態においては、高屈折率層71,72が、ともにポリシリコンからなる。
【0062】
そして、分光領域S1における高屈折率下層71と高屈折率上層72との間には、低屈折率層としての空気層73が介在され、この部分が実際にミラーとして機能する光学多層膜構造の可動ミラーM2となっている。このように、可動ミラーM2も空気層73が介在されたエアミラーとなっている。この可動ミラーM2を構成する高屈折率下層71のエアギャップAG側表面と、上記した固定ミラーM1を構成する高屈折率上層32のエアギャップAG側表面とは、少なくとも電極E1,E2に電圧が印加されない状態で略平行となっている。すなわち、電極E2,E2間の初期長さdeiとミラーM1,M2間の初期長さdmiがほぼ等しくなっている。また、可動電極E2を含む高剛性部H1全域において、対向する固定ミラー構造体30の部分との初期状態での対向距離が等しく(dei)となっている。
【0063】
なお、図5に示す符号74は、可動ミラー構造体70において、可動ミラーM2における空気層73の上面を覆う高屈折率上層72の部分に形成された貫通孔であり、この貫通孔74を介してエッチングすることで、空気層73が形成される。
【0064】
図4及び図5に示すように、上記した可動ミラーM2は、メンブレンMEMの中央領域に形成されている。そして、メンブレンMEMにおける分光領域S1(可動ミラーM2の形成領域)を除く周辺領域X1に、2つのばね変形部B1,B2が、分光領域S1をそれぞれ取り囲みつつ多重に設けられている。これらばね変形部B1,B2は、可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも剛性が低くなっている。詳しくは、図5に示すように、ばね変形部B1,B2が高屈折率下層71のみからなり、高屈折率層71,72を有する可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも厚さが薄いことで、可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも剛性が低く(ばね定数が小さく)なっている。また、各ばね変形部B1,B2は、円環状に設けられており、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向における長さが、可動ミラーM2や高剛性部H1と較べて十分短い長さとされている。
【0065】
メンブレンMEMにおける周辺領域X1のうち、ばね変形部B1,B2の形成領域を除く領域、すなわちばね変形部B1,B2間の円環状領域には、高剛性部H1が構成されている。この高剛性部H1は、高屈折率層71,72間に酸化物層75が介在されてなる主要部分と、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において主要部分の両端に位置する高屈折率層71,72の積層部分からなる。酸化物層75は、高剛性部H1のほぼ全域に設けられている。このように、酸化物層75を有することで、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向での長さを確保しつつ、厚さを稼いで、高剛性部H1の剛性を高めるようにしている。酸化物層75としては、高屈折率層71,72を構成する元素の酸化物を採用することができ、本実施形態では、二酸化シリコン層となっている。
【0066】
また、高屈折率下層71のうち、可動ミラーM2(分光領域S1)を除く領域に、p導電型又はn導電型の不純物が導入されて可動電極E2が構成されている。この可動電極E2は、高屈折率層71,72におけるイオン注入されていない部分(可動ミラーM2)と接している。すなわち、可動ミラーM2は、可動電極E2と電気的且つ機械的に結合されており、可動ミラー構造体70全体が、可動電極E2と同電位の領域となっている。また、可動電極E2は、高屈折率下層71上であって高屈折率上層72の開口部内に形成された、Au/Cr等からなるパッド77と接続されている。
【0067】
なお、可動ミラーM2を構成する高屈折率下層71にイオン注入することも可能であるが、不純物による可動ミラーM2での光の透過阻害を抑制するには、上記したようにイオン注入しないか、若しくは、イオン注入のドーズ量を高剛性部H1などの他の部分よりも少なくすることが好ましい。また、高屈折率下層71だけでなく、高屈折率上層72にもイオン注入して可動電極E2を構成しても良い。
【0068】
このように、ミラー構造体30,70を構成する高屈折率層31,32,71,72としてポリシリコンを採用すると、波長2〜10μm程度の赤外光に対して透明であるので、赤外線ガス検出器の波長選択フィルターとして好適である。なお、ポリシリコン以外にも、ポリゲルマニウムやポリシリコンゲルマニウムなど、シリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜を採用すると、同様の効果を期待することができる。
【0069】
加えて、上記したように、ミラーM1,M2の低屈折率層として空気層33,73を採用すると、高屈折率層の屈折率nH(例えばSiでは3.45、Geでは4)と低屈折率層の屈折率nL(空気では1)とのn比(nH/nL)を大きく(例えば3.3以上と)して、上記した波長2〜10μm程度の赤外光を選択的に透過させることのできるファブリペロー干渉計100を安価に実現することができる。
【0070】
また、本実施形態では、第1実施形態で示した数式4、より好ましくは数式5の関係を満たしてファブリペロー干渉計100が構成されている。したがって、第1実施形態に記載のした効果を奏することができる。
【0071】
また、静電気力のために電極E1,E2の対向面積を稼ぎつつ、上記したように距離L2と距離L1の比をできるだけ大きくするには、高剛性部H1として所定の長さを必要とする。反面、長さが長くなると剛性は低下する。これに対し、本実施形態では、高剛性部H1が、高屈折率層71,72だけでなく、さらに酸化物層75も有する。したがって、酸化物層75を有さない高剛性部H1に較べて、長さを確保しつつ剛性を高めることができる。また、酸化物層75を採用するので、後述するように製造工程を簡素化することもできる。
【0072】
次に、上記したファブリペロー干渉計100の製造方法の一例について、図6を用いて説明する。
【0073】
先ず、図6(a)に示すように、基板10として、単結晶シリコンからなる半導体基板を準備し、基板10の一面側表層のうち、ミラーM1,M2による分光領域S1を除く部分に、硼素(B)などの不純物を導入して吸収領域11を形成する。次いで、次いで、基板10の平坦な一面全面に、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などからなる絶縁膜12を均一に堆積形成する。
【0074】
そして、絶縁膜12上に、ポリシリコンなどからなる高屈折率下層31、シリコン酸化膜(二酸化シリコン)の順に、堆積形成する。次いで、シリコン酸化膜の表面にレジストなどからなるマスク(図示略)を形成し、該マスクを介してシリコン酸化膜をエッチング(例えばRIEなどの異方性のドライエッチング)し、シリコン酸化膜をパターニングする。このパターニングにより、後にエッチングされて、固定ミラーM1の空気層33となる酸化物層33aと、酸化物層35が形成される。
【0075】
次に、マスクを除去し、酸化物層33a,35を覆うように、高屈折率下層31上に、ポリシリコンなどからなる高屈折率上層32を堆積形成する。次いで、高屈折率上層32の表面にレジストなどからなるマスク(図示略)を形成し、マスクを介してドライエッチング(異方性エッチング)を行うことにより、分光領域S1の酸化物層33a上に位置する高屈折率上層32の一部に、酸化物層33aに達する貫通孔34を形成する。
【0076】
このマスクを除去した後、高屈折率上層32の表面に新たなマスク(図示略)を形成し、該マスクを介して、少なくとも高屈折率上層32に不純物をイオン注入する。本実施形態では、また、固定電極E1及び配線を含む所定領域にp型導電型の不純物であるボロンをイオン注入し、次いで固定電極E1及び配線の形成位置に、n導電型の不純物であるリンをイオン注入する。このようにして、固定電極E1及び配線を形成するとともに、絶縁分離領域36を形成する。なお、固定ミラーM1となる領域に不純物が存在すると、光が不純物によって吸収されることとなる。したがって、本実施形態では、固定ミラーM1を構成する高屈折率層31,32に不純物をイオン注入しないようにする。
【0077】
次に、マスクを除去し、図6(b)に示すように、高屈折率膜上層32の表面のうち、エアギャップAGに対応する部分に、例えば二酸化シリコンからなる犠牲層52を堆積形成する。これにより、貫通孔34内にも犠牲層52の構成材料が配置される。犠牲層52の構成材料としては、電気絶縁材料であれば特に限定されるものではないが、好ましくは酸化物層33aと同一材料とすると良い。犠牲層52の膜厚は、電圧が印加されない初期状態での、固定ミラー構造体30と可動ミラー構造体70(メンブレンMEM)との対向距離dei,dmiに対応する厚さとする。
【0078】
次いで、必要に応じて犠牲層52の表面を平坦化処理し、図6(b)に示すように、犠牲層52を覆うように固定ミラー構造体30の高屈折率上層32上全域に、ポリシリコンなどからなる高屈折率下層71を堆積形成する。そして、高屈折率下層71の表面にマスク(図示略)を形成し、該マスクを介して、高屈折率下層71に不純物をイオン注入する。これにより、可動電極E2が形成される。なお、可動ミラーM2となる領域に不純物が存在すると、光が不純物によって吸収されることとなる。したがって、本実施形態では、可動ミラーM2を構成する高屈折率下層71に不純物をイオン注入しないようにする。
【0079】
次いで、高屈折率下層71上にシリコン酸化膜(二酸化シリコン)を堆積形成する。そして、シリコン酸化膜の表面にレジストなどからなるマスク(図示略)を形成し、該マスクを介したエッチング(例えばRIEなどの異方性のドライエッチング)により、シリコン酸化膜をパターニングする。このパターニングにより、後にエッチングされて、可動ミラーM2の空気層73となる酸化物層73aと、高剛性部H1を構成する酸化物層75が形成される。また、本実施形態では、ばね変形部B1,B2にも酸化物層78a,78bが形成される。
【0080】
次に、マスクを除去後、パターニングされた酸化物層73a,75,78a,78bを覆うように、高屈折率下層71上に、ポリシリコンなどからなる高屈折率上層72を堆積形成する。そして、高屈折率上層72の表面に新たなマスクを形成し、図6(c)に示すように、高屈折率層71,72を、エッチングにより選択的に除去する。これにより、高屈折率層71,72を貫通する、犠牲層エッチング用の貫通孔76が形成される。また、酸化物層73a上における高屈折率上層72の一部に、酸化物層73aに達する貫通孔74が形成される。
【0081】
さらには、図6(c)に示すように、酸化物層78a,78b上における高屈折率上層72を、酸化物層78a,78bをエッチングストッパとして除去する。ここで、酸化物層78a,78b上における高屈折率上層72の除去については、少なくともエッチングにより後工程で酸化物層78a,78bを除去できる程度、であれば良い。本実施形態では、図6(c)に示すように、酸化物層78a,78b上の高屈折率上層72をほぼ全て除去する。
【0082】
次いで、図6(d)に示すように、貫通孔76を通じて、エッチングにより犠牲層52を全て除去し、エアギャップAGを形成する。このとき、貫通孔34,74を介して、分光領域S1における酸化物層33a及び酸化物層73aもエッチングし、これら酸化物層33a,73aを除去して空気層33,73を形成する。さらには、ばね変形部B1,B2に対応する部分の酸化物層78a,78bもエッチングし、酸化物層78a,78bを除去する。これにより、メンブレンMEMにおいて、酸化物層78a,78bを除去した部分が、高屈折率下層71のみのばね変形部B1,B2となる。このように、このエッチングでは、酸化物層73a,75,78a,78bのうち、高剛性部H1をなす酸化物層75のみが残るようにエッチングする。
【0083】
本実施形態では、これらエッチングが、フッ酸(HF)の気相エッチング乃至液相エッチングにより同一工程で実施される。すなわち、酸化物層73a,75,78a,78bのうち、高剛性部H1をなす酸化物層75のみが残るようにエッチングする。このエッチングにより、犠牲層52が除去されてエアギャップAGが形成される。また、空気層33,73が形成されてエアミラー構造のミラーM1,M2となる。また、酸化物層78a,78bが除去されて、ばね変形部B1,B2が形成される。
【0084】
そして、開口部51、パッド37,77の形成を経て、図4及び図5に示すファブリペロー干渉計100を得ることができる。
【0085】
このように本実施形態では、メンブレンMEMを有する可動ミラー構造体70の周辺領域X1において、高屈折率層71,72間に酸化物層78a,78bを介在させた後、酸化物層78a,78bをエッチングストッパとして酸化物層78a,78b上の高屈折率上層72を除去する。そして除去してなる高屈折率上層72の開口部を介して、酸化物層78a,78bを選択的に除去する。したがって、ばね変形部B1,B2の厚さを、高屈折率上層72と酸化物層78a,78bの厚さ分除去してなる厚さ、すなわち高屈折率下層71の厚さとすることができる。このため、製品ごとの膜厚ばらつきを抑制し、ひいては製品ごとの波長分解能のばらつきを抑制することができる。
【0086】
また、酸化物層78a,78bの除去により、メンブレンMEMの酸化物層78a,78b除去部分を、高屈折率下層71の単層のみが存在する構造とすることができる。これにより、ばね変形部B1,B2の剛性を、メンブレンMEMにおける他の部分の剛性よりも低くすることができる。
【0087】
また、酸化物層75のみを残しつつ、酸化物層73a,78a,78bをエッチングにより除去することで、エアミラー構造の可動ミラーM2、高剛性部H1、ばね変形部B1,B2を形成することができる。したがって、製造工程を簡素化することができる。
【0088】
また、本実施形態では、エッチングにより、酸化物層78a,78b上に位置する高屈折率上層72を除去するとともに、犠牲層エッチング用の貫通孔76を形成する。このように、高屈折率上層72の除去と貫通孔76の形成を同時に行うと、製造工程を簡素化することができる。特に本実施形態では、該エッチングにより、分光領域S1の酸化物層73a上に位置する高屈折率上層72に、エッチング用の貫通孔74も形成する。したがって、製造工程をさらに簡素化することができる。しかしながら、酸化物層78a,78b上に位置する高屈折率上層72の除去と貫通孔76,74の形成を異なるタイミング(工程)で行うこともできる。
【0089】
また、本実施形態では、酸化物層73a,78a,78bと犠牲層52がともに同一材料(二酸化シリコン)からなり、同一工程で、エッチングにより、酸化物層73a,78a,78bと犠牲層52を除去する。このように、犠牲層52のエッチングと酸化物層73a,78a,78bの除去を同時に行うと、製造工程を簡素化することができる。
【0090】
特に本実施形態では、酸化物層33a,73aも除去し、光学多層膜構造のミラーM1,M2をエアミラーとする。したがって、製造工程をさらに簡素化することができる。また、可動ミラーM2及び固定ミラーM1がエアミラーとなるので、高反射な帯域が広いミラーM1,M2、ひいては分光帯域の広いファブリペロー干渉計100とすることができる。なお、酸化物層78a,78bの除去と犠牲層52、酸化物層33a,73aの除去を異なるタイミング(工程)で行うこともできる。
【0091】
(変形例)
上記例では、可動ミラー構造体70が、エアギャップAG上に位置するメンブレンMEMと、メンブレンMEMと固定ミラー構造体30との間にエアギャップAGを構成すべくメンブレンMEMを固定ミラー構造体30上に支持する部分を有する例を示した。しかしながら、図7に示すように、固定ミラー構造体30と可動ミラー構造体70の間に、スペーサとしての機能を果たす支持部材50を介在させても良い。図7に示す例では、二酸化シリコンからなる犠牲層の一部をエッチングにより除去してエアギャップAGを形成しつつ、残った犠牲層の部分を支持部材50としている。これによれば、上記例に較べて、メンブレンMEMを支持する部分の剛性を確保しやすくなる。反面、犠牲層の一部を除去してエアギャップAGを形成しつつ残った部分を支持部材50とするので、エアギャップAG(メンブレンMEM)の垂直方向の寸法精度が上記例よりも劣ることとなる。第1べナ変形部B1の垂直方向の長さ(剛性)の調整の観点では、上記例のほうが好ましい。
【0092】
また、上記例では、高剛性部H1が酸化物層75を有する例を示した。しかしながら、図8に示すように、酸化物層75を有さず、高屈折率下層71に高屈折率上層72が接してなる積層構造を採用することもできる。このような積層構造においても、高屈折率下層71のみのばね変形部B1,B2より厚いので、剛性をばね変形部B1,B2より高くすることができる。
【0093】
また、上記例では、ミラーM1,M2として、空気層33,73を有するエアミラーの例を示した。しかしながら、図9に示すように、空気層33,73に代えて、高屈折率層31,32,71,72よりも低屈折率の固体材料からなる低屈折率層33b,73bが配置された構成としても良い。これによれば、ばね変形部B1,B2の剛性を可動ミラーM2の剛性よりも低くしやすくなる。なお、このような低屈折率層33b,73bとしては、二酸化シリコンなどを採用することができる。高剛性部H1を構成する酸化物層75やばね変形部B1,B2を構成するための酸化物層78a,78bと同一材料とすると、製造工程を簡素化することができる。なお、ミラーM1,M2を構成する低屈折率層としては、それ以外にも、液体、空気以外の気体、ゾル、ゲル、真空などを採用することも可能である。
【0094】
また、上記例では、固定ミラー構造体30の固定ミラー形成領域(分光領域S1)を除く領域において、高屈折率層31,32間に酸化物層35が介在される例を示した。しかしながら、図10に示すように、固定ミラー構造体30が酸化物層35を有さず、上記領域において、高屈折率下層31に高屈折率上層32が接してなる積層構造を採用することもできる。この場合、電圧Vが印加されない初期状態において、ミラーM1,M2の対向距離dmiのほうが、電極E1,E2の対向距離deiよりも狭くなる。したがって、初期長さがdmi=deiの構成に較べて、ミラーM1,M2の対向距離の変化量Δdmを大きくとることができる。
【0095】
また、上記例では、酸化物層78a,78bをエッチングストッパとして高屈折率上層72を除去し、その後、酸化物層78a,78bを除去することで、厚さの薄いばね変形部B1,B2を形成する例を示した。しかしながら、例えば図11に示すように、酸化物層73a,75を形成し、高屈折率上層72を堆積形成後、ばね変形部B1,B2に対応する部分に開口を有するマスク79を介して高屈折率上層72側から熱酸化し、少なくとも高屈折率上層72の一部を二酸化シリコン部80a,80bとしても良い。そして、二酸化シリコン部80a,80bを選択的に除去することで、厚さの薄いばね変形部B1,B2を形成しても良い。この場合、酸化物層33a,73aや犠牲層52と同一工程で除去することもできる。また、熱酸化の深さを制御し、例えば高屈折率上層72の一部のみが熱酸化された構造、高屈折率下層71の一部まで熱酸化された構造とすることもできる。
【0096】
また、上記例では、ミラー構造体30,70のうち、固定ミラー構造体30のみに絶縁分離領域36が設けられ、これにより、高剛性部H1における、可動電極E2と固定電極E1との対向部分の位置が決定される例を示した。しかしながら、可動ミラー構造体70において、可動電極E2と他の部分とを電気的に分離する絶縁分離領域が設けられ、これにより、高剛性部H1における、可動電極E2と固定電極E1との対向部分の位置が決定されても良い。また、ミラー構造体30,70に絶縁分離領域がそれぞれ設けられた構成とすることも可能である。なお、絶縁分離構造としてpn接合分離のみを示したが、ポリシリコンをエッチングによりパターニングし、空間的に分離するトレンチ絶縁分離を採用することができるのは言うまでもない。
【0097】
(第3実施形態)
第2実施形態では、厚さにより、ばね変形部B1,B2の剛性を、可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも低くする例を示した。これに対し、本実施形態においては、メンブレンMEMを貫通し、エアギャップAGに連通する貫通孔76により、メンブレンMEMを構成する他の可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも剛性が低くなっている点を特徴とする。
【0098】
図12に示す例では、高屈折率層71,72の積層部分に、メンブレンMEMを貫通する貫通孔76を形成することで、梁構造のばね変形部B1,B2が構成されている。なお、梁の本数が少ないほど、梁の長さが長いほど、梁の幅が短いほど、剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。ばね変形部B1,B2はともに、回転対称位置に4つの梁構造部分を有している。また、各梁部分において、梁の幅は厚さ(変位方向の厚さ)に較べて十分に長くなっている。一方、可動ミラーM2及び高剛性部H1の形成領域は梁構造となっておらず、特に高剛性部H1は円環状の構造となっている。これにより、可動ミラーM2及び高剛性部H1は、ばね変形部B1,B2に較べて剛性が高まっている。
【0099】
このように梁構造を採用すると、ばね変形部B1,B2の剛性の設計自由度を高くすることができる。また、犠牲層52をエッチングしてエアギャップAGを形成する場合には、梁構造のばね変形部B1,B2を形成するとともに、犠牲層52エッチング用の貫通孔76を形成することができる。したがって、製造工程の簡素化することができる。
【0100】
なお、可動ミラーM2及び高剛性部H1の形成領域には、可動ミラーM2及び高剛性部H1を梁構造とせず、且つ、ばね変形部B1,B2よりも高剛性を確保できる範囲で、犠牲層52をエッチングするための貫通孔76が形成されても良い。
【0101】
このようなファブリペロー干渉計100は、第2実施形態に示した製造方法とほぼ同じ方法にて形成することができる。異なる点は、第2実施形態で示したばね変形部B1,B2に対応する酸化物層78a,78bの形成及び薄肉化処理が不要である点と、貫通孔76により梁構造のばね変形部B1,B2を形成する点である。
【0102】
(変形例)
上記例では、ばね変形部B1,B2を梁構造とする例を示した。しかしながら、図13に示すように、ばね変形部B1,B2とともに高剛性部H1を梁構造としても良い。図13では、ばね変形部B1,B2の間に高剛性部H1が接続された梁構造部が、回転対称位置に4つの配置されている。また、各梁部分において、梁の幅は厚さ(変位方向の厚さ)に較べて十分に長くなっている。
【0103】
この構成では、梁構造とすることで高剛性部H1の剛性も低下するので、図13に示す例では、図示しないが、ばね変形部B1,B2が高屈折率層71,72からなり、高剛性部H1は、高屈折率層71,72間に酸化物層75が介在されてなる。このように、第2実施形態に示した厚さによる剛性の調整を本実施形態と組み合わせても良い。また、図13に示す例では、固定電極E1と可動電極E2の対向面積が減少するので、固定電極E1と可動電極E2の対向面積の観点では、図12に示す構成のほうが好ましい。
【0104】
また、上記例では、ばね変形部B1,B2が梁構造とされる例を示した。しかしながら、図14に示すように、ばね変形部B1,B2が、貫通孔76を有する環状構造とされても良い。貫通孔76の大きさが大きいほど、密度が高いほど、メンブレンMEMの外端から遠い位置ほど、剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。
【0105】
(第4実施形態)
本実施形態では、ばね変形部B1,B2が、一部にメンブレンMEMを構成する他の可動ミラーM2及び高剛性部H1よりもヤング率の小さい構成材料を用いることで、剛性が低くされている点を特徴とする。
【0106】
図15に示す例では、ばね変形部B1,B2が、ポリシリコンからなる高屈折率下層71上に、ポリイミドからなる樹脂層81を積層してなる。また、樹脂層81の厚さは、酸化物層73a、75と同程度となっている。ポリシリコン(シリコン)のヤング率は160GPa、ポリイミドのヤング率は10GPa、二酸化シリコンのヤング率は70GPaである。このため、高屈折率層71,72からなる可動ミラーM2、高屈折率層71,72及び酸化物層75からなる高剛性部H1に較べて、ばね変形部B1,B2の剛性が低くなっている。
【0107】
なお、図15では、高剛性部H1とばね変形部B1,B2の厚さが異なるが、高剛性部H1とばね変形部B1,B2を同程度の厚さとすることもできる。例えば、樹脂層81の厚さを酸化物層75及び高屈折率上層72の厚さの和と同程度としても良い。また、高剛性部H1を酸化物層75を有さない構成とし、樹脂層81の厚さを高屈折率上層72の厚さと同程度としても良い。これによれば、メンブレンMEMの周辺領域X1において厚さがほぼ均一となる。したがって、電圧Vを印加し、メンブレンMEMが変位したときの局所的な応力の集中を抑制し、メンブレンMEMを壊れにくくすることができる。すなわち、信頼性の高いファブリペロー干渉計100を提供することができる。
【0108】
このようなファブリペロー干渉計100は、第2実施形態に示した製造方法とほぼ同じ方法にて形成することができる。異なる点は、高屈折率上層72を除去したあとに、除去した部分にポリイミドからなる樹脂層81を配置して、ばね変形部B1,B2とする点である。
【0109】
なお、高剛性部H1及びばね変形部B1,B2の材料構成は上記例に限定されるものではない。高剛性の材料としては、上記したポリシリコン以外にも、窒化シリコン(300GPa)などがある。したがって、ばね変形部B1,B2を、高屈折率下層71と二酸化シリコン層からなる構成とし、高剛性部H1を高屈折率層71,72間に窒化シリコン層が介在された構成としても良い。
【0110】
(第5実施形態)
本実施形態では、ミラーM1,M2がエアミラーであり、高剛性部H1が酸化物層75を有する構成において、高剛性部H1が、高屈折率上層72上に、内部応力が引張応力に調整された引張応力層82を、少なくとも酸化物層75に対応して有する点を特徴とする。なお、少なくとも酸化物層75に対応するとは、酸化物層75上に引張応力層82が位置する位置関係である。
【0111】
通常、酸化物層75(例えば二酸化シリコン層)の内部応力は圧縮応力(−300MPa程度)となっている。一方、高屈折率層71,72を構成する半導体薄膜(例えばポリシリコン)は、エアミラー構造を成立させるため、内部応力がほぼゼロ又は数十MPa程度の弱い引張応力に調整される。このため、高剛性部H1が酸化物層75を有すると、座屈する恐れがある。
【0112】
これに対し、図16に示す例では、高剛性部H1が引張応力層82を有するので、引張応力層82を有さない構成に較べてメンブレンMEMの座屈を抑制することができる。特に図16に示す例では、引張応力層82が、減圧化学気相成長法(Low Pressure Chemical Vapor Deposition法)によって成膜されたシリコン窒化膜(以下、LP−シリコン窒化膜と示す)からなる。このように、引張応力層82として、高屈折率層71,72を構成する元素の、低圧にて形成された窒化膜を採用すると、プラズマなどその他の製法にて形成された窒化膜に較べて引張応力を大きくすることができる。このため、メンブレンMEMの座屈を効果的に抑制することができる。また、膜内のピンホールも少ないため、引張応力層82が破壊の起点となりにくく、これによりメンブレンMEMの信頼性を高めることもできる。
【0113】
図17には、シリコン酸化膜(二酸化シリコン)に対するLP−シリコン窒化膜の膜厚比と、高剛性部H1の平均応力との関係を示す図である。LP−シリコン窒化膜の内部応力は1200MPa程度の引張である。したがって、図17に示すように、膜厚比を0.25以上とすることで、高剛性部H1の平均応力をゼロ又は引張応力とすることができる。これにより、メンブレンMEMの座屈をより効果的に抑制することができる。
【0114】
なお、このようなファブリペロー干渉計100は、第2実施形態に示した製造方法とほぼ同じ方法にて形成することができる。異なる点は、高屈折率上層72を堆積形成したあとに、高屈折率上層72上に、例えばLP−シリコン窒化膜からなる引張応力層82を堆積形成し、パターニングして、高剛性部H1における少なくとも酸化物層75上のみを残す点である。その後、酸化物層33a,73a,78a,78b及び犠牲層52の除去を行えば良い。
【0115】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0116】
本実施形態では、基板10として、一面側表層に吸収領域11を有するとともに、一面上に絶縁膜12を備えた半導体基板の例を示した。しかしながら、基板10としては上記例に限定されるものではなく、ガラスなどの絶縁基板を採用することも可能である。その場合、絶縁膜12を不要とすることができる。
【0117】
また、吸収領域11についても、蒸着などにより、基板10の表面に形成されたものを採用することもできる。例えば、固定ミラー構造体30などが形成される側の面の裏面上に形成されても良い。
【0118】
本実施形態では、光学多層膜構造の固定ミラーM1及び可動ミラーM2を構成する各膜の厚さについて特に言及しなかった。しかしながら、ミラーM1,M2を構成する高屈折率層31,32,71,72と空気層33,73の厚みを、光学長で、所定の検出対象波長に対して全て1/4程度とすると、吸収スペクトルの半値幅(FWHM)を小さくし、ひいては検出精度を向上することができる。
【符号の説明】
【0119】
30・・・固定ミラー構造体
70・・・可動ミラー構造体
100・・・ファブリペロー干渉計
AG・・・エアギャップ(ギャップ)
B1・・・第1ばね変形部
B2・・・第2ばね変形部
E1・・・固定電極
E2・・・可動電極
Ec・・・電極E1,E2の対向部分の中心
H1・・・高剛性部
H1a,H1b・・・端部
M1・・・固定ミラー
M2・・・可動ミラー
MEM・・・メンブレン
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定ミラー構造体と、ギャップを介して固定ミラー構造体に対向配置されるとともに、ギャップを架橋する部位が変位可能なメンブレンとされた可動ミラー構造体と、を備えるファブリペロー干渉計及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1,2に示されるファブリペロー干渉計が知られている。このファブリペロー干渉計は、ポリシリコンからなる高屈折率層の間に、低屈折率層を配置してなる一対のミラー構造体(固定ミラー構造体及び可動ミラー構造体)を備える。これらミラー構造体はエアギャップを介して対向配置されており、特許文献1では、低屈折率層としての二酸化シリコン層が分光領域に配置されてミラーが構成されている。一方、特許文献2では、低屈折率層としての空気層が分光領域に配置されてミラーが構成されている。
【0003】
また、各ミラー構造体の高屈折率層には、不純物がドーピングされて電極が形成されている。したがって、各ミラー構造体の電極に電圧を印加して生じる静電気力により、ギャップ上に位置する可動ミラー構造体のメンブレンを変位させ、これによりギャップ長さを変化させて、ギャップにおけるミラーの対向距離に応じた波長の光を選択的に透過させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3457373号公報
【特許文献2】特開2008−134388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ファブリペロー干渉計の分光帯域を広くするには、広帯域にわたるミラーの高反射率に加え、可動ミラー構造体のメンブレンにおける分光領域部分(可動ミラー形成部分)の変位量が大きいことが必要である。
【0006】
各ミラー構造体の電極に電圧を印加して生じる静電気力は、電極の対向距離deの2乗に反比例し、メンブレンの変位に伴うばね復元力は、対向距離deの変化量Δdeに正比例する。このため、変化量Δdeが対向距離deの初期長さdeiの1/3となった状態がプルイン限界である。したがって、変化量Δdeが初期長さdeiの1/3よりも大きくなると、静電気力がばね復元力を上回り、両ミラー構造体が静電気力で引き込まれ、スティッキングし、電圧を除去しても元の状態に戻らなくなる(プルイン現象が生じる)。
【0007】
特許文献1に示されるファブリペロー干渉計では、ポリシリコンのミラー形成部分に不純物がドーピングされて電極が構成されており、電極の対向距離deとミラーの対向距離dmが等しくなっている。このため、対向距離dm(=de)の変化量Δdm(=Δde)が初期長さdmi(=dei)の1/3となった状態がプルイン限界である。一方、特許文献2に示されるファブリペロー干渉計では、ポリシリコンに部分的に不純物をドーピングして電極としており、ミラーを構成するポリシリコンの部分が電極と電気的に結合されている。すなわち、ミラー部分も、静電気力の生じる電極として実質的に作用するようになっている。このため、ミラーの対向距離dmの変化量Δdmが初期長さdmiの1/3となった状態がプルイン限界である。
【0008】
このように、従来は、ミラーの対向距離dmと電極の対向距離deがほぼ等しいため、変化量Δdmが初期長さdmiの1/3よりも大きくなるようにメンブレンを変位させ、ひいては分光帯域を広くすることが困難であった。
【0009】
また、透過光の波長λは、λ=2×dm/nで示される。nは干渉光の次数を示す正の整数である。したがって、プルイン限界でのミラーの対向距離dmの変化量をΔdmpとすると、1次の干渉光(n=1)の波長可変帯域は、理想的には2dmi〜2(dmi−Δdmp)となる。また、2次の干渉光(n=2)の波長可変帯域は、理想的にはdmi〜(dmi−Δdmp)となる。このように、次数の異なる干渉光、特に次数が小さく、波長可変帯域の広い1次と2次の干渉光を利用することで、分光帯域を広くすることも考えられる。
【0010】
しかしながら、上記したように、従来のファブリペロー干渉計では、プルイン限界によってメンブレンの変位量を大きくとることができないため、1次の干渉光と2次の干渉光の可変透過波長帯域の間に、分光不可能な波長帯域(分光不可域)が存在していた。そして、この分光不可域が、広帯域化の障害となっていた。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑み、従来よりも分光帯域の広いファブリペロー干渉計及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する為に請求項1に記載の発明は、
固定ミラー構造体と、ギャップを介して固定ミラー構造体に対向配置されるとともに、ギャップを架橋する部位が変位可能なメンブレンとされた可動ミラー構造体と、を備え、
ギャップを介した対向部位として、
固定ミラー構造体は、固定ミラーと、固定電極とを有し、
可動ミラー構造体は、固定ミラーに対向して形成された可動ミラーと、可動電極とを有し、
固定電極と可動電極の間に印加された電圧に基づいて生じる静電気力によりメンブレンが変位され、ギャップにおける固定ミラーと可動ミラーとの対向距離に応じた波長の光を選択的に透過させるファブリペロー干渉計であって、
電圧が印加されない初期状態で、固定ミラーと可動ミラーの対向距離が、固定電極と可動電極の対向距離以下とされ、
固定電極と該固定電極を除く固定ミラー構造体の他の部分、及び、可動電極と該可動電極を除く可動ミラー構造体の他の部分、の少なくとも一方が電気的に分離され、
メンブレンは、可動ミラーと、可動電極を含み、可動ミラーを取り囲む高剛性部と、メンブレンの外端に設けられ、高剛性部と接続された第1ばね変形部と、高剛性部と可動ミラーとの間に設けられ、高剛性部及び可動ミラーと接続された第2ばね変形部を有し、
可動ミラーを取り囲むように多重に設けられた2つのばね変形部は、メンブレンを構成する他の可動ミラー及び高剛性部よりも剛性が低くされ、
可動電極における固定電極との対向部分が、メンブレンの中心から外端に向かう方向において、高剛性部の一部のみを占めており、
メンブレンの中心から外端に向かう方向において、可動電極における固定電極との対向部分の中心と高剛性部における第1ばね変形部側の端部との距離をL1、高剛性部の長さをL2とすると、
L2/L1≧3/2
を満たすように構成されていることを特徴とする。
【0013】
ここで、可動ミラーと固定ミラーとの対向距離をdm、特に電圧が印加されない初期状態の対向距離をdmi、電圧印加による変位量をΔdm、特にプルイン限界での変位量をΔdmpとする。上記したように、1次の干渉光の波長可変帯域は、理想的には2dmi〜2(dmi−Δdmp)となる。2次の干渉光の波長可変帯域は、理想的にはdmi〜(dmi−Δdmp)となる。1次の干渉光と2次の干渉光との分光不可域を無くすには、1次の干渉光の波長可変帯域の下限値が、2次の干渉光の波長可変帯域の上限値以下となれば良い。プルイン限界での変位量Δdmpが初期長さdmiの1/2以上となると、1次の干渉光の波長可変帯域の下限値が2次の干渉光の波長可変帯域の上限値dmi以下となる。
【0014】
そこで本発明では、メンブレンの外端から中心に向けて、第1ばね変形部、可動電極を含む高剛性部、第2ばね変形部、可動ミラーの順に設けた。すなわち、第1ばね変形部及び第2ばね変形部とは別に、これらばね変形部よりも剛性の高い高剛性部を設けた。したがって、電極間に電圧を印加し、電極間に生じる静電気力により可動電極が固定電極に向けて変位しようとすると、高剛性部は、第2ばね変形部との接続端が第1ばね変形部との接続端よりも固定ミラー構造体に近づくように傾斜しつつ変位する。また、ばね変形部よりも剛性の高い高剛性部は、ばね変形部のように撓むことなく平坦な状態で傾斜しつつ変位することができる。
【0015】
また、高剛性部における可動電極と固定電極との対向部分(以下、単に電極対向部分と示す)の位置に着目し、電極対向部分の中心と高剛性部における第1ばね変形部側の端部との距離L1と高剛性部の長さL2が、L2/L1≧3/2を満たすように構成した。高剛性部の長さが第1ばね変形部の長さに対して十分に長く、電圧が印加されない状態での高剛性部(可動電極)と固定ミラー構造体(固定電極)との対向距離をd、高剛性部における第1ばね変形部側の端部を基準端とし、基準端に対する電極対向部分でのプルイン限界の変位量をd×1/3、このときの高剛性部における第2ばね変形部側の端部での変位量をd×1/2とする。上記したように高剛性部は平坦な状態で傾斜しつつ変位するので、比例関係からL2/L1=3/2となる。したがって、L2/L1≧3/2を満たすことで、高剛性部における第2ばね変形部側の端部での変位量はd×1/2以上となる。可動ミラーは高剛性部と第2ばね変形部を介して接続されているため、可動ミラーと固定ミラーとの対向距離dmの変位量Δdmpも、初期長さdmiの1/2以上となる。
【0016】
このように本発明によれば、可動ミラーを初期長さdmiの1/2以上変位させ、これにより1次の干渉光の可変波長帯域を長くして、1次の干渉光の可変波長帯域と2次の干渉光の可変透過波長帯域を連続させることができる。すなわち、分光不可域を無くすことができる。したがって、1次の干渉光と2次の干渉光により、分光帯域をより広くすることができる。
【0017】
なお、本発明では、高剛性部と可動ミラーとが、高剛性部及び可動ミラーよりも剛性の低い(ばね定数が小さい)第2ばね変形部によって力学的(構造的)に分離されている。したがって、電極間に電圧を印加し、可動電極を含む高剛性部が変位しても、可動ミラーを固定ミラー構造体(固定ミラー)に対してほぼ平行に保持することができる。また、固定電極と該固定電極を除く固定ミラー構造体の他の部分、及び、可動電極と該可動電極を除く可動ミラー構造体の他の部分、の少なくとも一方が電気的に分離されているため、電極間に電圧を印加してもミラー間に静電気力が殆ど生じず(又は全く生じず)、可動ミラー及び固定ミラーを平坦に保持することができる。これにより、透過波長の半値幅(FWHM)を低減することができる。すなわち、分光帯域を広くしつつ、透過波長の半値幅を低減することができる。
【0018】
より好ましくは、請求項2に記載のように、L2/L1≧3を満たして構成すると良い。この場合、可動電極がプルイン限界まで変位した状態で、可動ミラーを初期長さdmiまで、すなわち固定ミラーに接触するまで変位させることができる。このため、1次の干渉光の波長可変帯域が2dmiから理想的にはゼロまでの範囲となり、1次の干渉光のみで分光帯域をさらに広くすることができる。なお、可動ミラーが固定ミラーに接触すると、スティッキングの状態となり、電圧の印加を解除しても可動ミラーが固定ミラーから離れがたくなる。したがって、実際は、可動ミラーが固定ミラーに接触しないように電圧を調整すると良い。
【0019】
具体的には、請求項3に記載のように、2つのばね変形部は、メンブレンを構成する他の可動ミラー及び高剛性部よりも厚さが薄くされ、可動ミラー及び高剛性部よりも剛性が低くされても良い。この場合、厚さが薄いほど、剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。
【0020】
また、請求項4に記載のように、2つのばね変形部は、メンブレンを貫通し、ギャップに連通する貫通孔により、メンブレンを構成する他の可動ミラー及び高剛性部よりも剛性が低くされても良い。例えば、エッチングによりギャップを形成する場合には、貫通孔をエッチング用の貫通孔として利用しつつ、ばね定数を設定することができる。したがって、製造工程の簡素化することができる。
【0021】
なお、2つのばね変形部は、請求項5に記載のように、貫通孔により梁構造をなしても良い。梁の本数が少ないほど、梁の長さが長いほど、梁の幅が短いほど、剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。また、請求項6に記載のように、貫通孔を有する環状構造とされても良い。貫通孔の大きさが大きいほど、密度が高いほど、メンブレンの外端から遠い位置ほど、剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。
【0022】
また、請求項7に記載のように、2つのばね変形部は、一部にメンブレンを構成する他の可動ミラー及び高剛性部とはヤング率の異なる構成材料を用いることで、剛性が低くされても良い。この場合、メンブレンにおいて、可動ミラーを除く周辺領域全域において厚さを均一とすることもできる。厚さを均一とすると、局所的な応力の集中を抑制し、メンブレンを壊れにくくすることができる。なお、ヤング率が低いほど剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。
【0023】
請求項8に記載のように、固定ミラー及び可動ミラーとして、シリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなる高屈折率層間に、該高屈折率層よりも低屈折率の空気層を介在させてなる光学多層膜構造のミラーを採用すると良い。このようにエアミラーを採用すると、低屈折率層に対する高屈折率層の屈折率比が大きくなり、固定ミラー及び可動ミラーが広帯域にわたって高反射率となる。したがって、上記した効果と合わせて、より分光帯域の広いファブリペロー干渉計を提供することができる。
【0024】
請求項9に記載のように、高剛性部が、2つの高屈折率層と、該高屈折率層の間に介在された、高屈折率層を構成する元素の酸化物層とを有する構成とすると良い。一般的に、エアミラーの空気層は、高屈折率層を構成する元素の酸化物層(例えば二酸化シリコン層)をエッチングにより除去して形成される。このため、本発明によれば、エアミラーとともに高剛性部を形成し、製造工程を簡素化することができる。
【0025】
また、静電気力のために電極の対向面積を稼ぎつつ、上記したように距離L2と距離L1の比をできるだけ大きくするには、高剛性部として所定の長さを必要とする。長さが長くなると剛性は低下するから、本発明によれば、長さを確保しつつ、酸化物層を有することで、酸化物層を有さない高剛性部に較べて剛性を高めることができる。
【0026】
請求項10に記載のように、高剛性部が、高屈折率層の一面上に内部応力が引張応力に調整された引張応力層を有すると良い。通常、上記した酸化物層(例えば二酸化シリコン層)の内部応力は圧縮応力(−300MPa程度)となっている。一方、高屈折率層を構成する半導体薄膜(例えばポリシリコン)は、エアミラー構造を成立させるため、内部応力がほぼゼロ又は数十MPa程度の弱い引張応力に調整される。このため、高剛性部が酸化物層を有すると、座屈する恐れがある。これに対し、本発明では、高剛性部に引張応力層を設けるので、引張応力層を有さない構成に較べてメンブレンの座屈を抑制することができる。
【0027】
請求項11に記載のように、引張応力層として、高屈折率層を構成する元素のLP−窒化膜(減圧化学気相成長法(Low Pressure Chemical Vapor Deposition法)によって成膜された窒化膜)を採用すると良い。このように低圧にて形成された窒化膜を採用すると、プラズマなどその他の製法にて形成された窒化膜に較べて引張応力を大きくすることができる。このため、メンブレンの座屈を効果的に抑制することができる。また、膜内のピンホールも少ないため、引張応力層が破壊の起点となりにくく、これによりメンブレンの信頼性を高めることもできる。
【0028】
請求項12に記載のように、高剛性部において、酸化物層に対するLP−窒化膜の膜厚比を0.25以上とすることが好ましい。LP−窒化膜の内部応力は1200MPa程度の引張である。したがって、膜厚比を0.25以上とすることで、高剛性部の平均応力をゼロ又は引張応力とすることができる。これにより、メンブレンの座屈をより効果的に抑制することができる。
【0029】
次に、請求項13に記載の発明は、請求項9に記載のファブリペロー干渉計の製造方法であって、
シリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなる高屈折率層間の固定ミラー形成領域に、高屈折率層を構成する元素の酸化膜からなる酸化物層を配置して、固定ミラー構造体を基板の一面上に形成する工程と、
低屈折率層と同じ材料からなる犠牲層を、固定ミラー構造体の前記基板と反対の面上に形成する工程と、
固定ミラー構造体と同じ半導体薄膜からなる高屈折率層間の可動ミラー形成領域に、固定ミラー構造体と同じ酸化膜からなる酸化物層を配置して、可動ミラー構造体を犠牲層を覆うように形成する工程と、
エッチングにより、メンブレンに対応する犠牲層の部分を除去して、固定ミラー構造体と可動ミラー構造体とを対向させるギャップを設けるとともに、固定ミラー構造体及び可動ミラー構造体の酸化物層を除去してエアミラーとする工程と、備え、
可動ミラー構造体を形成する工程において、酸化物層を、可動ミラー形成領域だけでなく、高剛性部の形成領域にも配置し、
エッチングの工程において、高剛性部の酸化物層を除去せずに残すことを特徴とする。
【0030】
本発明の作用効果は、請求項9に記載の発明の作用効果と同じであるので、その記載を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1実施形態に係るファブリペロー干渉計の概略構成を示す断面図であり、電圧が印加された状態を示している。
【図2】図1に示すファブリペロー干渉計において、高剛性部における可動電極と固定電極の対向部分の位置及びその効果を説明するための図である。
【図3】(a)は、比較例として従来のファブリペロー干渉計の分光帯域を示す図、(b)は第1実施形態に係るファブリペロー干渉計の分光帯域を示す図である。
【図4】図1に示すファブリペロー干渉計の具体例として、第2実施形態に係るファブリペロー干渉計の概略構成を示す可動ミラー構造体側から見た平面図である。
【図5】図4のV−V線に沿う断面図である。
【図6】ファブリペロー干渉計の製造工程を示す断面図である。
【図7】変形例を示す断面図である。
【図8】変形例を示す断面図である。
【図9】変形例を示す断面図である。
【図10】変形例を示す断面図である。
【図11】製造工程の変形例を示す断面図である。
【図12】第3実施形態に係るファブリペロー干渉計の概略構成を示す可動ミラー構造体側から見た平面図である。
【図13】変形例を示す平面図である。
【図14】変形例を示す平面図である。
【図15】第4実施形態に係るファブリペロー干渉計の概略構成を示す断面図である。
【図16】第5実施形態に係るファブリペロー干渉計の概略構成を示す断面図である。
【図17】膜厚比と高剛性部の平均応力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態において、共通乃至関連する要素には同一の符号を付与するものとする。
【0033】
(第1実施形態)
以下においては、固定ミラー構造体30と可動ミラー構造体70との間のギャップがエアギャップAG(空隙)である例を示す。また、エアギャップAGの長さ方向、換言すればメンブレンMEMの変位方向を単に変位方向と示し、該変位方向に垂直な方向を単に垂直方向と示す。また、平面形状とは、特に断りのない限り、上記垂直方向に沿う形状を示すものとする。
【0034】
また、ミラーM1,M2の対向領域を分光領域S1とし、可動ミラー構造体70のメンブレンMEMに対応する領域であって、分光領域S1を除く領域を周辺領域X1とする。この周辺領域X1は、垂直方向に沿う少なくとも一方向において分光領域S1を挟むように設けられれば良く、本実施形態では、分光領域S1を取り囲むように周辺領域X1が設定されている。換言すれば、メンブレンMEMの中心を含む領域(中央領域)に可動ミラーM2が設けられている。
【0035】
また、以下においては、固定電極E1と可動電極E2の対向距離をde、特に電圧が印加されない初期状態での対向距離をdei、プルイン限界での対向距離をdep、対向距離の変化量をΔde、特にプルイン限界での変化量をΔdepとする。また、固定ミラーM1と可動ミラーM2の対向距離をdm、特に電圧が印加されない初期状態での対向距離をdmi、プルイン限界での対向距離をdmp、対向距離の変化量をΔdm、特にプルイン限界での変化量をΔdmpとする。
【0036】
図1に示すように、本実施形態に係るファブリペロー干渉計100は、エアギャップAGを介して対向配置された固定ミラー構造体30及び可動ミラー構造体70を備えている。可動ミラー構造体70のエアギャップAGを架橋する部分は、後述する電極E1,E2間への電圧の印加により変位可能なメンブレンMEMとなっている。また、エアギャップAGを介した対向部位として、固定ミラー構造体30は、固定ミラーM1と固定電極E1を有している。一方、可動ミラー構造体70は、エアギャップAGを介して固定ミラーM1に対向配置された可動ミラーM2と、エアギャップAGを介して少なくとも一部が固定電極E1に対向配置された可動電極E2を有している。なお、図1に示す例では、支持部材50を介して可動ミラー構造体70が固定ミラー構造体30の一面上に支持(固定)されている。
【0037】
そして、固定電極E1と可動電極E2の間に印加される電圧Vに基づいて静電気力が生じると、可動ミラー構造体70のメンブレンMEMが変位し、エアギャップAGの長さが変化する。これにより、エアギャップAGにおける固定ミラーM1と可動ミラーM2との対向距離dmに応じた波長の光を選択的に透過させることができる。
【0038】
なお、ミラーM1,M2間の対向距離の変化量Δdmをできるだけ大きくするために、ミラーM1,M2間の初期長さdmiは、電極E1,E2間の初期長さdei以下とされる。本実施形態では、dmi=deiとなっている。
【0039】
特に本実施形態では、固定電極E1と該固定電極E1を除く固定ミラー構造体30の他の部分(固定ミラーM1など)、及び、可動電極E2と該可動電極E2を除く可動ミラー構造体70の他の部分(可動ミラーM2など)、の少なくとも一方が電気的に分離されている。したがって、エアギャップAGを変化させるべく固定電極E1と可動電極E2の間に電圧を印加しながらも、固定ミラーM1と可動ミラーM2をほぼ同電位または完全に同電位とすることができる。このため、固定ミラーM1と可動ミラーM2との間で静電気力が殆ど生じないか、全く生じない状態となり、プルイン限界は、固定電極E1と可動電極E2との対向距離deに依存する。なお、このような電気的な分離構造としては、pn接合分離や、ポリシリコンをエッチングによりパターニングし、空間的に分離するトレンチ絶縁分離を採用することができる。
【0040】
また、図1及び図2(a),(b)に示すように、メンブレンMEMが、可動ミラーM2と、可動ミラーM2を取り囲む高剛性部H1と、メンブレンMEMの外端に設けられ、高剛性部H1と接続された第1ばね変形部B1と、高剛性部H1と可動ミラーM2との間に設けられ、高剛性部H1及び可動ミラーM2と接続された第2ばね変形部B2と、を有している。すなわち、メンブレンMEMの外端から中心に向けて、第1ばね変形部B1、可動電極E2を含む高剛性部H1、第2ばね変形部B2、可動ミラーM2の順に設けられている。
【0041】
高剛性部H1は、メンブレンMEMの変位時に撓まず平坦なまま変位するようにばね変形部B1,B2よりも剛性が高く設定された部分であり、少なくとも一部に可動電極E2を含んでいる。図2(a)〜(c)において、高剛性部H1のうち、外側の端部、すなわち第1ばね変形部B1と接続される側の端部をH1aと示し、内側の端部、すなわち第2ばね変形部B2と接続される側の端部をH1bと示す。この高剛性部H1は、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において、固定ミラー構造体30との初期状態での対向距離が全域で等しくなっている。すなわち、高剛性部H1全域で初期長さがdeiとなっている。
【0042】
2つのばね変形部B1,B2は、可動ミラーM2を取り囲むように多重(2重)に設けられ、メンブレンMEMを構成する他の部分、すなわち可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも剛性が低くされて、変形しやすくされた部分である。より具体的には、可動ミラー構造体70における固定ミラー構造体30との固定部分(図1の支持部材50による支持部分)と高剛性部H1(メンブレンMEMにおける第1ばね変形部B1以外の部分)とを力学的(構造的に)分離してメンブレンMEMを変位可能とすべく、剛性が低く設定された部分である。第1ばね変形部B1は、可動電極E2よりも外側に位置しており、電圧印加時にメンブレンMEMを変位させるべく、剛性が低く(ばね定数が低く)設定されている。また、第1ばね変形部B1の長さが、高剛性部H1の長さに対して十分に短い長さに設定されている。一方、第2ばね変形部B2は、可動電極E2(高剛性部H1)よりも内側に位置しており、高剛性部H1と可動ミラーM2とを力学的(構造的に)分離すべく、剛性が低く(ばね定数が低く)設定されている。
【0043】
さらに本実施形態では、固定電極E1及び可動電極E2は、可動電極E2における固定電極E1との対向部分(換言すれば、可動電極E2と固定電極E1との対向部分)が、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において高剛性部H1の一部のみを占めるように設けられている。そして、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において、可動電極E2における固定電極E1との対向部分(換言すれば、可動電極E2と固定電極E1との対向部分)の中心Ecと高剛性部H1における第1ばね変形部B1側の端部H1aとの距離L1、高剛性部H1の長さ(端部H1aから端部H1bまでの長さ)L2が、少なくともL2/L1≧3/2を満たすように構成されている。より好ましくは、L2/L1≧3を満たすように構成されている。このように、2つのばね変形部B1,B2の間に、可動電極E2を含む高剛性部H1を設けた点と、高剛性部H1と可動電極E2における固定電極E1との対向部分とを所定の位置関係とする点が、本実施形態の主たる特徴部分である。なお、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において、固定電極E1と可動電極E2の寸法の関係は特に限定されるものではない。固定電極E1のほうが長くても良いし、可動電極E2のほうが長くても良い。また、固定電極E1と可動電極E2の長さが等しくても良い。
【0044】
次に、上記特徴点の効果を説明する。
【0045】
ここで、透過光の波長λは次式で示される。なお、nは干渉光の次数を示す正の整数である。
(数1)λ=2×dm/n
したがって、1次の干渉光(n=1)の波長可変帯域は、理想的には2dmi〜2(dmi−Δdmp)となる。また、2次の干渉光(n=2)の波長可変帯域は、理想的にはdmi〜(dmi−Δdmp)となる。1次の干渉光と2次の干渉光との分光不可域を無くすには、1次の干渉光の波長可変帯域の下限値[2(dmi−Δdmp)]が、2次の干渉光の波長可変帯域の上限値[dmi]以下となれば良い。プルイン限界での変化量Δdmpが初期長さdmiの1/2以上となると、1次の干渉光の波長可変帯域の下限値が2次の干渉光の波長可変帯域の上限値dmi以下となる。
【0046】
これに対し、本実施形態では、第1ばね変形部B1の長さが、高剛性部H1の長さに対して十分に短い長さに設定されており、これにより、第1ばね変形部B1が変位方向の長さに殆ど影響を与えないようになっている。このため、電圧Vを印加し、メンブレンMEMが、図2(a)に示す初期状態から図2(b)に示す状態に変位したときの高剛性部H1の外側の端部H1aの変化量はほぼゼロとみなすことができる。高剛性部H1の外側の端部H1aを基準端とし、電圧Vを印加したときの基準端に対する可動電極E2における固定電極E1との対向部分の中心Ecの変化量を上記Δde、基準端に対する高剛性部H1の内側の端部H1bの変化量をΔd1とする。
【0047】
ここで、本実施形態では、第1ばね変形部B1及び第2ばね変形部B2とは別に高剛性部H1を設け、この高剛性部H1の少なくとも一部に可動電極E2を設けている。したがって、電圧Vを印加し、電極E1,E2間に生じる静電気力により可動電極E2が固定電極E1に向けて変位しようとすると、図2(b)に示すように、高剛性部H1は、内側の端部H1bが外側の端部H1aよりも固定ミラー構造体30に近づくように傾斜しつつ変位する。また、ばね変形部B1,B2よりも剛性の高い高剛性部H1は、ばね変形部B1,B2のように撓むことなく平坦な状態で傾斜しつつ変位する。
【0048】
このように、高剛性部H1は平坦な状態で傾斜しつつ変位する。したがって、距離L1,L2と変化量Δde、Δd1との間に下記比例関係が成立する。
(数2)L2/L1=Δd1/Δde
可動ミラーM2は、第2ばね変形部B2を介して高剛性部H1の端部H1bに接続されている。したがって、電極間の対向距離の変化量Δdeがプルイン限界Δdep(=dei×1/3)のとき、高剛性部H1の内側の端部H1bの変化量Δd1は、下記式で示されることとなる。
(数3)L2/L1=3Δd1/dei
上記したように、プルイン限界での変化量Δdmpが初期長さdmiの1/2以上となると、1次の干渉光の波長可変帯域の下限値が2次の干渉光の波長可変帯域の上限値dmi以下となる。また、ミラーM1,M2間の初期長さdmiは電極E1,E2間の初期長さdei以下である。したがって、高剛性部H1の端部H1bの変化量Δd1が、電極E1,E2間の初期長さdeiの1/2以上となれば、ミラーM1,M2間のプルイン限界での変化量Δdmpが初期長さdmiの1/2以上となる。本実施形態に示すように、初期長さdeiと初期長さdmiが等しい場合には、Δd1が初期長さdeiの1/2で、変化量Δdmpが初期長さdmiの1/2となる。これを満たす式は、数式3から下記の通りとなる。
(数4)L2/L1≧3/2
このように、数式4の関係を満たすと、可動ミラーM2を初期長さdmiの1/2以上変位させ、これにより、図3(b)に示すように、1次の干渉光の可変波長帯域を長くして、1次の干渉光の可変波長帯域と2次の干渉光の可変透過波長帯域を連続させることができる。すなわち、分光不可域を無くすことができる。したがって、1次の干渉光と2次の干渉光により、分光帯域をより広くすることができる。
【0049】
なお、図3(a),(b)は、本実施形態同様、初期長さdei,dmiが等しい構成での結果を示している。図3(b)では、エアギャップ4200nmが初期長さdmiであり、エアギャップ2100nmが可動ミラーM2を初期長さdmiの1/2変位させた状態を示している。比較例として示す図3(a)では、初期長さdmi(4200nm)に対し、プルイン限界の2800nm(dmi×1/3)までしか可動ミラーM2を変位させることができないため、1次干渉光の可変波長帯域が狭く、分光不可域が存在している。
【0050】
また、ミラーM1,M2間の初期長さdmiは電極E1,E2間の初期長さdei以下であるので、高剛性部H1の端部H1bの変化量Δd1が、電極E1,E2間の初期長さdeiとなれば、ミラーM1,M2間の変化量Δdmpが初期長さdmiとなる。したがって、好ましくは、下記式を満たすと良い。
(数5)L2/L1≧3
このように、数式5の関係を満たすと、可動電極E2がプルイン限界まで変位した状態で、可動ミラーM2を初期長さdmiまで、すなわち固定ミラーM1に接触するまで変位させることができる。このため、1次の干渉光の波長可変帯域が2dmiから理想的にはゼロまでの範囲となり、1次の干渉光のみで分光帯域をさらに広くすることができる。なお、可動ミラーM2が固定ミラーM1に接触すると、スティッキングの状態となり、電圧Vの印加を解除しても可動ミラーM2が固定ミラーM1から離れがたくなる。したがって、実際は、可動ミラーM2が固定ミラーM1に接触しないように電圧を調整すると良い。
【0051】
また、本実施形態では、高剛性部H1と可動ミラーM2とが、高剛性部H1及び可動ミラーM2よりも剛性の低い第2ばね変形部B2によって力学的(構造的)に分離されている。したがって、電極E1,E2間に電圧Vを印加し、可動電極E2を含む高剛性部H1が変位しても、可動ミラーM2を固定ミラー構造体30(固定ミラーM1)に対してほぼ平行に保持することができる。また、固定電極E1と該固定電極E1を除く固定ミラー構造体30の他の部分、及び、可動電極E2と該可動電極E2を除く可動ミラー構造体70の他の部分、の少なくとも一方が電気的に分離されているため、電極E1,E2間に電圧を印加しながらも、固定ミラーM1と可動ミラーM2をほぼ同電位または完全に同電位とすることができる。このため、ミラーM1,M2間に静電気力が殆ど生じず(又は全く生じず)、可動ミラーM2及び固定ミラーM1を平坦に保持することができる。これにより、透過波長の半値幅(FWHM)を低減することができる。すなわち、分光帯域を広くしつつ、透過波長の半値幅を低減することができる。
【0052】
以下、第1実施形態に示したファブリペロー干渉計100の具体的な構成例について説明する。また、以下に示すファブリペロー干渉計100は、所謂エアミラー構造のファブリペロー干渉計であり、上記した本出願人による特許文献1(特開2008−134388号公報)に示されるものと基本構造が同じである。したがって、ミラーM1,M2などの詳細構造については説明を割愛し、異なる部分を重点的に説明する。
【0053】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るファブリペロー干渉計を、図4及び図5を用いて説明する。
【0054】
図5に示すファブリペロー干渉計100は、基板10の一面上に、絶縁膜12を介して固定ミラー構造体30が配置されている。本実施形態では、基板10として、例えば単結晶シリコンからなる平面矩形状の半導体基板を採用している。また、基板10の一面上には、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などの絶縁膜12が略均一の厚みをもって形成されている。そして、絶縁膜12を介して、基板10の一面上に固定ミラー構造体30が配置されている。さらに、本実施形態では基板10の一面側表層には、不純物がドーピングされてなる吸収領域11が、垂直方向において、分光領域S1を除く領域に選択的に設けられ、これにより、分光領域S1外での光の透過を抑制するようになっている。この吸収領域11を有さない構成を採用することもできる。
【0055】
固定ミラー構造体30は、空気よりも屈折率の高い材料、例えばシリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなり、基板10の一面全面に絶縁膜12を介して積層された高屈折率下層31と、該高屈折率下層31に同じくシリコンなどの高屈折率材料からなり、高屈折率下層31上に積層された高屈折率上層32とを有する。本実施形態においては、高屈折率層31,32が、ともにポリシリコンからなる。
【0056】
そして、分光領域S1における高屈折率下層31と高屈折率上層32との間には、低屈折率層としての空気層33が介在され、この部分が実際にミラーとして機能する光学多層膜構造の固定ミラーM1となっている。このように、固定ミラーM1は空気層33が介在されたエアミラーとなっている。この固定ミラーM1は、平面円形状のメンブレンMEMの中央領域に形成された可動ミラーM2に対向している。
【0057】
なお、図5に示す符号34は、固定ミラー構造体30において、固定ミラーM1における空気層33の上面を覆う高屈折率上層32の部分に形成された貫通孔であり、この貫通孔34を介してエッチングすることで、空気層33が形成される。
【0058】
また、固定ミラー構造体30の周辺領域X1では、高屈折率層31,32間に酸化物層35が介在されている。より詳しくは、酸化物層35が、少なくとも高剛性部H1全域と対向する部分に設けられている。これにより、固定ミラーM1と周辺領域X1のエアギャップAG側の表面が略面一となっている。換言すれば、電極E1,E2間の初期長さdeiとミラー間の初期長さdmiを等しくすべく、空気層33に対応して酸化物層35が配置されている。本実施形態では、分光領域S1を除く領域のほぼ全域に酸化物層35が設けられている。酸化物層35としては、高屈折率層31,32を構成する元素の酸化物を採用することができ、本実施形態では、二酸化シリコン層となっている。
【0059】
また、固定ミラー構造体30の周辺領域X1には、少なくともエアギャップAG側の高屈折率上層32に、p導電型又はn導電型の不純物が導入されて固定電極E1が形成されている。本実施形態では、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において、高剛性部H1の一部のみと対向すべく、高屈折率上層32にリン(P)がイオン注入されてn導電型の固定電極E1が形成されている。この固定電極E1は、固定ミラーM1(分光領域S1)を取り囲んで環状に形成されている。また、高剛性部H1と対向する部分であって固定電極E1の周囲には、高屈折率上層32に硼素(B)がイオン注入されてp導電型の絶縁分離領域36が形成されている。このように、本実施形態では、固定電極E1と固定ミラー構造体30の他の部分とがpn接合分離によって電気的に分離されている。なお、絶縁分離領域36の形成範囲は上記例に限定されるものではない。例えば、固定ミラーM1、固定電極E1、及び該固定電極E1とパッド37とを繋ぐ配線部(図示略)を除く部分を絶縁分離領域としても良い。パッド37は、Au/Cr等からなり、可動ミラー構造体70のメンブレンMEMとの対向部位を除く領域の高屈折率上層32上に形成されている。
【0060】
この固定ミラー構造体30における高屈折率上層32上には、メンブレンMEMと固定ミラー構造体30におけるメンブレンMEMと対向する部分との間にエアギャップAGを有するように、可動ミラー構造体70が配置されている。図4及び図5に示すように、メンブレンMEMよりも外側に位置する可動ミラー構造体70の部分が、固定ミラー構造体30に接して、メンブレンMEMを支持する支持部材としての機能を果たしている。このメンブレンMEMよりも外側の部分には、パッド37を形成するための開口部51が形成されている。
【0061】
可動ミラー構造体70も、固定ミラー構造体30同様、空気よりも屈折率の高い材料、例えばシリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなり、固定ミラー構造体30と対向する高屈折率下層71と、該高屈折率下層71に同じくシリコンなどの高屈折率材料からなり、高屈折率下層71上に積層された高屈折率上層72とを有する。本実施形態においては、高屈折率層71,72が、ともにポリシリコンからなる。
【0062】
そして、分光領域S1における高屈折率下層71と高屈折率上層72との間には、低屈折率層としての空気層73が介在され、この部分が実際にミラーとして機能する光学多層膜構造の可動ミラーM2となっている。このように、可動ミラーM2も空気層73が介在されたエアミラーとなっている。この可動ミラーM2を構成する高屈折率下層71のエアギャップAG側表面と、上記した固定ミラーM1を構成する高屈折率上層32のエアギャップAG側表面とは、少なくとも電極E1,E2に電圧が印加されない状態で略平行となっている。すなわち、電極E2,E2間の初期長さdeiとミラーM1,M2間の初期長さdmiがほぼ等しくなっている。また、可動電極E2を含む高剛性部H1全域において、対向する固定ミラー構造体30の部分との初期状態での対向距離が等しく(dei)となっている。
【0063】
なお、図5に示す符号74は、可動ミラー構造体70において、可動ミラーM2における空気層73の上面を覆う高屈折率上層72の部分に形成された貫通孔であり、この貫通孔74を介してエッチングすることで、空気層73が形成される。
【0064】
図4及び図5に示すように、上記した可動ミラーM2は、メンブレンMEMの中央領域に形成されている。そして、メンブレンMEMにおける分光領域S1(可動ミラーM2の形成領域)を除く周辺領域X1に、2つのばね変形部B1,B2が、分光領域S1をそれぞれ取り囲みつつ多重に設けられている。これらばね変形部B1,B2は、可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも剛性が低くなっている。詳しくは、図5に示すように、ばね変形部B1,B2が高屈折率下層71のみからなり、高屈折率層71,72を有する可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも厚さが薄いことで、可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも剛性が低く(ばね定数が小さく)なっている。また、各ばね変形部B1,B2は、円環状に設けられており、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向における長さが、可動ミラーM2や高剛性部H1と較べて十分短い長さとされている。
【0065】
メンブレンMEMにおける周辺領域X1のうち、ばね変形部B1,B2の形成領域を除く領域、すなわちばね変形部B1,B2間の円環状領域には、高剛性部H1が構成されている。この高剛性部H1は、高屈折率層71,72間に酸化物層75が介在されてなる主要部分と、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向において主要部分の両端に位置する高屈折率層71,72の積層部分からなる。酸化物層75は、高剛性部H1のほぼ全域に設けられている。このように、酸化物層75を有することで、メンブレンMEMの中心から外端に向かう方向での長さを確保しつつ、厚さを稼いで、高剛性部H1の剛性を高めるようにしている。酸化物層75としては、高屈折率層71,72を構成する元素の酸化物を採用することができ、本実施形態では、二酸化シリコン層となっている。
【0066】
また、高屈折率下層71のうち、可動ミラーM2(分光領域S1)を除く領域に、p導電型又はn導電型の不純物が導入されて可動電極E2が構成されている。この可動電極E2は、高屈折率層71,72におけるイオン注入されていない部分(可動ミラーM2)と接している。すなわち、可動ミラーM2は、可動電極E2と電気的且つ機械的に結合されており、可動ミラー構造体70全体が、可動電極E2と同電位の領域となっている。また、可動電極E2は、高屈折率下層71上であって高屈折率上層72の開口部内に形成された、Au/Cr等からなるパッド77と接続されている。
【0067】
なお、可動ミラーM2を構成する高屈折率下層71にイオン注入することも可能であるが、不純物による可動ミラーM2での光の透過阻害を抑制するには、上記したようにイオン注入しないか、若しくは、イオン注入のドーズ量を高剛性部H1などの他の部分よりも少なくすることが好ましい。また、高屈折率下層71だけでなく、高屈折率上層72にもイオン注入して可動電極E2を構成しても良い。
【0068】
このように、ミラー構造体30,70を構成する高屈折率層31,32,71,72としてポリシリコンを採用すると、波長2〜10μm程度の赤外光に対して透明であるので、赤外線ガス検出器の波長選択フィルターとして好適である。なお、ポリシリコン以外にも、ポリゲルマニウムやポリシリコンゲルマニウムなど、シリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜を採用すると、同様の効果を期待することができる。
【0069】
加えて、上記したように、ミラーM1,M2の低屈折率層として空気層33,73を採用すると、高屈折率層の屈折率nH(例えばSiでは3.45、Geでは4)と低屈折率層の屈折率nL(空気では1)とのn比(nH/nL)を大きく(例えば3.3以上と)して、上記した波長2〜10μm程度の赤外光を選択的に透過させることのできるファブリペロー干渉計100を安価に実現することができる。
【0070】
また、本実施形態では、第1実施形態で示した数式4、より好ましくは数式5の関係を満たしてファブリペロー干渉計100が構成されている。したがって、第1実施形態に記載のした効果を奏することができる。
【0071】
また、静電気力のために電極E1,E2の対向面積を稼ぎつつ、上記したように距離L2と距離L1の比をできるだけ大きくするには、高剛性部H1として所定の長さを必要とする。反面、長さが長くなると剛性は低下する。これに対し、本実施形態では、高剛性部H1が、高屈折率層71,72だけでなく、さらに酸化物層75も有する。したがって、酸化物層75を有さない高剛性部H1に較べて、長さを確保しつつ剛性を高めることができる。また、酸化物層75を採用するので、後述するように製造工程を簡素化することもできる。
【0072】
次に、上記したファブリペロー干渉計100の製造方法の一例について、図6を用いて説明する。
【0073】
先ず、図6(a)に示すように、基板10として、単結晶シリコンからなる半導体基板を準備し、基板10の一面側表層のうち、ミラーM1,M2による分光領域S1を除く部分に、硼素(B)などの不純物を導入して吸収領域11を形成する。次いで、次いで、基板10の平坦な一面全面に、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜などからなる絶縁膜12を均一に堆積形成する。
【0074】
そして、絶縁膜12上に、ポリシリコンなどからなる高屈折率下層31、シリコン酸化膜(二酸化シリコン)の順に、堆積形成する。次いで、シリコン酸化膜の表面にレジストなどからなるマスク(図示略)を形成し、該マスクを介してシリコン酸化膜をエッチング(例えばRIEなどの異方性のドライエッチング)し、シリコン酸化膜をパターニングする。このパターニングにより、後にエッチングされて、固定ミラーM1の空気層33となる酸化物層33aと、酸化物層35が形成される。
【0075】
次に、マスクを除去し、酸化物層33a,35を覆うように、高屈折率下層31上に、ポリシリコンなどからなる高屈折率上層32を堆積形成する。次いで、高屈折率上層32の表面にレジストなどからなるマスク(図示略)を形成し、マスクを介してドライエッチング(異方性エッチング)を行うことにより、分光領域S1の酸化物層33a上に位置する高屈折率上層32の一部に、酸化物層33aに達する貫通孔34を形成する。
【0076】
このマスクを除去した後、高屈折率上層32の表面に新たなマスク(図示略)を形成し、該マスクを介して、少なくとも高屈折率上層32に不純物をイオン注入する。本実施形態では、また、固定電極E1及び配線を含む所定領域にp型導電型の不純物であるボロンをイオン注入し、次いで固定電極E1及び配線の形成位置に、n導電型の不純物であるリンをイオン注入する。このようにして、固定電極E1及び配線を形成するとともに、絶縁分離領域36を形成する。なお、固定ミラーM1となる領域に不純物が存在すると、光が不純物によって吸収されることとなる。したがって、本実施形態では、固定ミラーM1を構成する高屈折率層31,32に不純物をイオン注入しないようにする。
【0077】
次に、マスクを除去し、図6(b)に示すように、高屈折率膜上層32の表面のうち、エアギャップAGに対応する部分に、例えば二酸化シリコンからなる犠牲層52を堆積形成する。これにより、貫通孔34内にも犠牲層52の構成材料が配置される。犠牲層52の構成材料としては、電気絶縁材料であれば特に限定されるものではないが、好ましくは酸化物層33aと同一材料とすると良い。犠牲層52の膜厚は、電圧が印加されない初期状態での、固定ミラー構造体30と可動ミラー構造体70(メンブレンMEM)との対向距離dei,dmiに対応する厚さとする。
【0078】
次いで、必要に応じて犠牲層52の表面を平坦化処理し、図6(b)に示すように、犠牲層52を覆うように固定ミラー構造体30の高屈折率上層32上全域に、ポリシリコンなどからなる高屈折率下層71を堆積形成する。そして、高屈折率下層71の表面にマスク(図示略)を形成し、該マスクを介して、高屈折率下層71に不純物をイオン注入する。これにより、可動電極E2が形成される。なお、可動ミラーM2となる領域に不純物が存在すると、光が不純物によって吸収されることとなる。したがって、本実施形態では、可動ミラーM2を構成する高屈折率下層71に不純物をイオン注入しないようにする。
【0079】
次いで、高屈折率下層71上にシリコン酸化膜(二酸化シリコン)を堆積形成する。そして、シリコン酸化膜の表面にレジストなどからなるマスク(図示略)を形成し、該マスクを介したエッチング(例えばRIEなどの異方性のドライエッチング)により、シリコン酸化膜をパターニングする。このパターニングにより、後にエッチングされて、可動ミラーM2の空気層73となる酸化物層73aと、高剛性部H1を構成する酸化物層75が形成される。また、本実施形態では、ばね変形部B1,B2にも酸化物層78a,78bが形成される。
【0080】
次に、マスクを除去後、パターニングされた酸化物層73a,75,78a,78bを覆うように、高屈折率下層71上に、ポリシリコンなどからなる高屈折率上層72を堆積形成する。そして、高屈折率上層72の表面に新たなマスクを形成し、図6(c)に示すように、高屈折率層71,72を、エッチングにより選択的に除去する。これにより、高屈折率層71,72を貫通する、犠牲層エッチング用の貫通孔76が形成される。また、酸化物層73a上における高屈折率上層72の一部に、酸化物層73aに達する貫通孔74が形成される。
【0081】
さらには、図6(c)に示すように、酸化物層78a,78b上における高屈折率上層72を、酸化物層78a,78bをエッチングストッパとして除去する。ここで、酸化物層78a,78b上における高屈折率上層72の除去については、少なくともエッチングにより後工程で酸化物層78a,78bを除去できる程度、であれば良い。本実施形態では、図6(c)に示すように、酸化物層78a,78b上の高屈折率上層72をほぼ全て除去する。
【0082】
次いで、図6(d)に示すように、貫通孔76を通じて、エッチングにより犠牲層52を全て除去し、エアギャップAGを形成する。このとき、貫通孔34,74を介して、分光領域S1における酸化物層33a及び酸化物層73aもエッチングし、これら酸化物層33a,73aを除去して空気層33,73を形成する。さらには、ばね変形部B1,B2に対応する部分の酸化物層78a,78bもエッチングし、酸化物層78a,78bを除去する。これにより、メンブレンMEMにおいて、酸化物層78a,78bを除去した部分が、高屈折率下層71のみのばね変形部B1,B2となる。このように、このエッチングでは、酸化物層73a,75,78a,78bのうち、高剛性部H1をなす酸化物層75のみが残るようにエッチングする。
【0083】
本実施形態では、これらエッチングが、フッ酸(HF)の気相エッチング乃至液相エッチングにより同一工程で実施される。すなわち、酸化物層73a,75,78a,78bのうち、高剛性部H1をなす酸化物層75のみが残るようにエッチングする。このエッチングにより、犠牲層52が除去されてエアギャップAGが形成される。また、空気層33,73が形成されてエアミラー構造のミラーM1,M2となる。また、酸化物層78a,78bが除去されて、ばね変形部B1,B2が形成される。
【0084】
そして、開口部51、パッド37,77の形成を経て、図4及び図5に示すファブリペロー干渉計100を得ることができる。
【0085】
このように本実施形態では、メンブレンMEMを有する可動ミラー構造体70の周辺領域X1において、高屈折率層71,72間に酸化物層78a,78bを介在させた後、酸化物層78a,78bをエッチングストッパとして酸化物層78a,78b上の高屈折率上層72を除去する。そして除去してなる高屈折率上層72の開口部を介して、酸化物層78a,78bを選択的に除去する。したがって、ばね変形部B1,B2の厚さを、高屈折率上層72と酸化物層78a,78bの厚さ分除去してなる厚さ、すなわち高屈折率下層71の厚さとすることができる。このため、製品ごとの膜厚ばらつきを抑制し、ひいては製品ごとの波長分解能のばらつきを抑制することができる。
【0086】
また、酸化物層78a,78bの除去により、メンブレンMEMの酸化物層78a,78b除去部分を、高屈折率下層71の単層のみが存在する構造とすることができる。これにより、ばね変形部B1,B2の剛性を、メンブレンMEMにおける他の部分の剛性よりも低くすることができる。
【0087】
また、酸化物層75のみを残しつつ、酸化物層73a,78a,78bをエッチングにより除去することで、エアミラー構造の可動ミラーM2、高剛性部H1、ばね変形部B1,B2を形成することができる。したがって、製造工程を簡素化することができる。
【0088】
また、本実施形態では、エッチングにより、酸化物層78a,78b上に位置する高屈折率上層72を除去するとともに、犠牲層エッチング用の貫通孔76を形成する。このように、高屈折率上層72の除去と貫通孔76の形成を同時に行うと、製造工程を簡素化することができる。特に本実施形態では、該エッチングにより、分光領域S1の酸化物層73a上に位置する高屈折率上層72に、エッチング用の貫通孔74も形成する。したがって、製造工程をさらに簡素化することができる。しかしながら、酸化物層78a,78b上に位置する高屈折率上層72の除去と貫通孔76,74の形成を異なるタイミング(工程)で行うこともできる。
【0089】
また、本実施形態では、酸化物層73a,78a,78bと犠牲層52がともに同一材料(二酸化シリコン)からなり、同一工程で、エッチングにより、酸化物層73a,78a,78bと犠牲層52を除去する。このように、犠牲層52のエッチングと酸化物層73a,78a,78bの除去を同時に行うと、製造工程を簡素化することができる。
【0090】
特に本実施形態では、酸化物層33a,73aも除去し、光学多層膜構造のミラーM1,M2をエアミラーとする。したがって、製造工程をさらに簡素化することができる。また、可動ミラーM2及び固定ミラーM1がエアミラーとなるので、高反射な帯域が広いミラーM1,M2、ひいては分光帯域の広いファブリペロー干渉計100とすることができる。なお、酸化物層78a,78bの除去と犠牲層52、酸化物層33a,73aの除去を異なるタイミング(工程)で行うこともできる。
【0091】
(変形例)
上記例では、可動ミラー構造体70が、エアギャップAG上に位置するメンブレンMEMと、メンブレンMEMと固定ミラー構造体30との間にエアギャップAGを構成すべくメンブレンMEMを固定ミラー構造体30上に支持する部分を有する例を示した。しかしながら、図7に示すように、固定ミラー構造体30と可動ミラー構造体70の間に、スペーサとしての機能を果たす支持部材50を介在させても良い。図7に示す例では、二酸化シリコンからなる犠牲層の一部をエッチングにより除去してエアギャップAGを形成しつつ、残った犠牲層の部分を支持部材50としている。これによれば、上記例に較べて、メンブレンMEMを支持する部分の剛性を確保しやすくなる。反面、犠牲層の一部を除去してエアギャップAGを形成しつつ残った部分を支持部材50とするので、エアギャップAG(メンブレンMEM)の垂直方向の寸法精度が上記例よりも劣ることとなる。第1べナ変形部B1の垂直方向の長さ(剛性)の調整の観点では、上記例のほうが好ましい。
【0092】
また、上記例では、高剛性部H1が酸化物層75を有する例を示した。しかしながら、図8に示すように、酸化物層75を有さず、高屈折率下層71に高屈折率上層72が接してなる積層構造を採用することもできる。このような積層構造においても、高屈折率下層71のみのばね変形部B1,B2より厚いので、剛性をばね変形部B1,B2より高くすることができる。
【0093】
また、上記例では、ミラーM1,M2として、空気層33,73を有するエアミラーの例を示した。しかしながら、図9に示すように、空気層33,73に代えて、高屈折率層31,32,71,72よりも低屈折率の固体材料からなる低屈折率層33b,73bが配置された構成としても良い。これによれば、ばね変形部B1,B2の剛性を可動ミラーM2の剛性よりも低くしやすくなる。なお、このような低屈折率層33b,73bとしては、二酸化シリコンなどを採用することができる。高剛性部H1を構成する酸化物層75やばね変形部B1,B2を構成するための酸化物層78a,78bと同一材料とすると、製造工程を簡素化することができる。なお、ミラーM1,M2を構成する低屈折率層としては、それ以外にも、液体、空気以外の気体、ゾル、ゲル、真空などを採用することも可能である。
【0094】
また、上記例では、固定ミラー構造体30の固定ミラー形成領域(分光領域S1)を除く領域において、高屈折率層31,32間に酸化物層35が介在される例を示した。しかしながら、図10に示すように、固定ミラー構造体30が酸化物層35を有さず、上記領域において、高屈折率下層31に高屈折率上層32が接してなる積層構造を採用することもできる。この場合、電圧Vが印加されない初期状態において、ミラーM1,M2の対向距離dmiのほうが、電極E1,E2の対向距離deiよりも狭くなる。したがって、初期長さがdmi=deiの構成に較べて、ミラーM1,M2の対向距離の変化量Δdmを大きくとることができる。
【0095】
また、上記例では、酸化物層78a,78bをエッチングストッパとして高屈折率上層72を除去し、その後、酸化物層78a,78bを除去することで、厚さの薄いばね変形部B1,B2を形成する例を示した。しかしながら、例えば図11に示すように、酸化物層73a,75を形成し、高屈折率上層72を堆積形成後、ばね変形部B1,B2に対応する部分に開口を有するマスク79を介して高屈折率上層72側から熱酸化し、少なくとも高屈折率上層72の一部を二酸化シリコン部80a,80bとしても良い。そして、二酸化シリコン部80a,80bを選択的に除去することで、厚さの薄いばね変形部B1,B2を形成しても良い。この場合、酸化物層33a,73aや犠牲層52と同一工程で除去することもできる。また、熱酸化の深さを制御し、例えば高屈折率上層72の一部のみが熱酸化された構造、高屈折率下層71の一部まで熱酸化された構造とすることもできる。
【0096】
また、上記例では、ミラー構造体30,70のうち、固定ミラー構造体30のみに絶縁分離領域36が設けられ、これにより、高剛性部H1における、可動電極E2と固定電極E1との対向部分の位置が決定される例を示した。しかしながら、可動ミラー構造体70において、可動電極E2と他の部分とを電気的に分離する絶縁分離領域が設けられ、これにより、高剛性部H1における、可動電極E2と固定電極E1との対向部分の位置が決定されても良い。また、ミラー構造体30,70に絶縁分離領域がそれぞれ設けられた構成とすることも可能である。なお、絶縁分離構造としてpn接合分離のみを示したが、ポリシリコンをエッチングによりパターニングし、空間的に分離するトレンチ絶縁分離を採用することができるのは言うまでもない。
【0097】
(第3実施形態)
第2実施形態では、厚さにより、ばね変形部B1,B2の剛性を、可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも低くする例を示した。これに対し、本実施形態においては、メンブレンMEMを貫通し、エアギャップAGに連通する貫通孔76により、メンブレンMEMを構成する他の可動ミラーM2及び高剛性部H1よりも剛性が低くなっている点を特徴とする。
【0098】
図12に示す例では、高屈折率層71,72の積層部分に、メンブレンMEMを貫通する貫通孔76を形成することで、梁構造のばね変形部B1,B2が構成されている。なお、梁の本数が少ないほど、梁の長さが長いほど、梁の幅が短いほど、剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。ばね変形部B1,B2はともに、回転対称位置に4つの梁構造部分を有している。また、各梁部分において、梁の幅は厚さ(変位方向の厚さ)に較べて十分に長くなっている。一方、可動ミラーM2及び高剛性部H1の形成領域は梁構造となっておらず、特に高剛性部H1は円環状の構造となっている。これにより、可動ミラーM2及び高剛性部H1は、ばね変形部B1,B2に較べて剛性が高まっている。
【0099】
このように梁構造を採用すると、ばね変形部B1,B2の剛性の設計自由度を高くすることができる。また、犠牲層52をエッチングしてエアギャップAGを形成する場合には、梁構造のばね変形部B1,B2を形成するとともに、犠牲層52エッチング用の貫通孔76を形成することができる。したがって、製造工程の簡素化することができる。
【0100】
なお、可動ミラーM2及び高剛性部H1の形成領域には、可動ミラーM2及び高剛性部H1を梁構造とせず、且つ、ばね変形部B1,B2よりも高剛性を確保できる範囲で、犠牲層52をエッチングするための貫通孔76が形成されても良い。
【0101】
このようなファブリペロー干渉計100は、第2実施形態に示した製造方法とほぼ同じ方法にて形成することができる。異なる点は、第2実施形態で示したばね変形部B1,B2に対応する酸化物層78a,78bの形成及び薄肉化処理が不要である点と、貫通孔76により梁構造のばね変形部B1,B2を形成する点である。
【0102】
(変形例)
上記例では、ばね変形部B1,B2を梁構造とする例を示した。しかしながら、図13に示すように、ばね変形部B1,B2とともに高剛性部H1を梁構造としても良い。図13では、ばね変形部B1,B2の間に高剛性部H1が接続された梁構造部が、回転対称位置に4つの配置されている。また、各梁部分において、梁の幅は厚さ(変位方向の厚さ)に較べて十分に長くなっている。
【0103】
この構成では、梁構造とすることで高剛性部H1の剛性も低下するので、図13に示す例では、図示しないが、ばね変形部B1,B2が高屈折率層71,72からなり、高剛性部H1は、高屈折率層71,72間に酸化物層75が介在されてなる。このように、第2実施形態に示した厚さによる剛性の調整を本実施形態と組み合わせても良い。また、図13に示す例では、固定電極E1と可動電極E2の対向面積が減少するので、固定電極E1と可動電極E2の対向面積の観点では、図12に示す構成のほうが好ましい。
【0104】
また、上記例では、ばね変形部B1,B2が梁構造とされる例を示した。しかしながら、図14に示すように、ばね変形部B1,B2が、貫通孔76を有する環状構造とされても良い。貫通孔76の大きさが大きいほど、密度が高いほど、メンブレンMEMの外端から遠い位置ほど、剛性が低く(ばね定数が小さく)なる。
【0105】
(第4実施形態)
本実施形態では、ばね変形部B1,B2が、一部にメンブレンMEMを構成する他の可動ミラーM2及び高剛性部H1よりもヤング率の小さい構成材料を用いることで、剛性が低くされている点を特徴とする。
【0106】
図15に示す例では、ばね変形部B1,B2が、ポリシリコンからなる高屈折率下層71上に、ポリイミドからなる樹脂層81を積層してなる。また、樹脂層81の厚さは、酸化物層73a、75と同程度となっている。ポリシリコン(シリコン)のヤング率は160GPa、ポリイミドのヤング率は10GPa、二酸化シリコンのヤング率は70GPaである。このため、高屈折率層71,72からなる可動ミラーM2、高屈折率層71,72及び酸化物層75からなる高剛性部H1に較べて、ばね変形部B1,B2の剛性が低くなっている。
【0107】
なお、図15では、高剛性部H1とばね変形部B1,B2の厚さが異なるが、高剛性部H1とばね変形部B1,B2を同程度の厚さとすることもできる。例えば、樹脂層81の厚さを酸化物層75及び高屈折率上層72の厚さの和と同程度としても良い。また、高剛性部H1を酸化物層75を有さない構成とし、樹脂層81の厚さを高屈折率上層72の厚さと同程度としても良い。これによれば、メンブレンMEMの周辺領域X1において厚さがほぼ均一となる。したがって、電圧Vを印加し、メンブレンMEMが変位したときの局所的な応力の集中を抑制し、メンブレンMEMを壊れにくくすることができる。すなわち、信頼性の高いファブリペロー干渉計100を提供することができる。
【0108】
このようなファブリペロー干渉計100は、第2実施形態に示した製造方法とほぼ同じ方法にて形成することができる。異なる点は、高屈折率上層72を除去したあとに、除去した部分にポリイミドからなる樹脂層81を配置して、ばね変形部B1,B2とする点である。
【0109】
なお、高剛性部H1及びばね変形部B1,B2の材料構成は上記例に限定されるものではない。高剛性の材料としては、上記したポリシリコン以外にも、窒化シリコン(300GPa)などがある。したがって、ばね変形部B1,B2を、高屈折率下層71と二酸化シリコン層からなる構成とし、高剛性部H1を高屈折率層71,72間に窒化シリコン層が介在された構成としても良い。
【0110】
(第5実施形態)
本実施形態では、ミラーM1,M2がエアミラーであり、高剛性部H1が酸化物層75を有する構成において、高剛性部H1が、高屈折率上層72上に、内部応力が引張応力に調整された引張応力層82を、少なくとも酸化物層75に対応して有する点を特徴とする。なお、少なくとも酸化物層75に対応するとは、酸化物層75上に引張応力層82が位置する位置関係である。
【0111】
通常、酸化物層75(例えば二酸化シリコン層)の内部応力は圧縮応力(−300MPa程度)となっている。一方、高屈折率層71,72を構成する半導体薄膜(例えばポリシリコン)は、エアミラー構造を成立させるため、内部応力がほぼゼロ又は数十MPa程度の弱い引張応力に調整される。このため、高剛性部H1が酸化物層75を有すると、座屈する恐れがある。
【0112】
これに対し、図16に示す例では、高剛性部H1が引張応力層82を有するので、引張応力層82を有さない構成に較べてメンブレンMEMの座屈を抑制することができる。特に図16に示す例では、引張応力層82が、減圧化学気相成長法(Low Pressure Chemical Vapor Deposition法)によって成膜されたシリコン窒化膜(以下、LP−シリコン窒化膜と示す)からなる。このように、引張応力層82として、高屈折率層71,72を構成する元素の、低圧にて形成された窒化膜を採用すると、プラズマなどその他の製法にて形成された窒化膜に較べて引張応力を大きくすることができる。このため、メンブレンMEMの座屈を効果的に抑制することができる。また、膜内のピンホールも少ないため、引張応力層82が破壊の起点となりにくく、これによりメンブレンMEMの信頼性を高めることもできる。
【0113】
図17には、シリコン酸化膜(二酸化シリコン)に対するLP−シリコン窒化膜の膜厚比と、高剛性部H1の平均応力との関係を示す図である。LP−シリコン窒化膜の内部応力は1200MPa程度の引張である。したがって、図17に示すように、膜厚比を0.25以上とすることで、高剛性部H1の平均応力をゼロ又は引張応力とすることができる。これにより、メンブレンMEMの座屈をより効果的に抑制することができる。
【0114】
なお、このようなファブリペロー干渉計100は、第2実施形態に示した製造方法とほぼ同じ方法にて形成することができる。異なる点は、高屈折率上層72を堆積形成したあとに、高屈折率上層72上に、例えばLP−シリコン窒化膜からなる引張応力層82を堆積形成し、パターニングして、高剛性部H1における少なくとも酸化物層75上のみを残す点である。その後、酸化物層33a,73a,78a,78b及び犠牲層52の除去を行えば良い。
【0115】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0116】
本実施形態では、基板10として、一面側表層に吸収領域11を有するとともに、一面上に絶縁膜12を備えた半導体基板の例を示した。しかしながら、基板10としては上記例に限定されるものではなく、ガラスなどの絶縁基板を採用することも可能である。その場合、絶縁膜12を不要とすることができる。
【0117】
また、吸収領域11についても、蒸着などにより、基板10の表面に形成されたものを採用することもできる。例えば、固定ミラー構造体30などが形成される側の面の裏面上に形成されても良い。
【0118】
本実施形態では、光学多層膜構造の固定ミラーM1及び可動ミラーM2を構成する各膜の厚さについて特に言及しなかった。しかしながら、ミラーM1,M2を構成する高屈折率層31,32,71,72と空気層33,73の厚みを、光学長で、所定の検出対象波長に対して全て1/4程度とすると、吸収スペクトルの半値幅(FWHM)を小さくし、ひいては検出精度を向上することができる。
【符号の説明】
【0119】
30・・・固定ミラー構造体
70・・・可動ミラー構造体
100・・・ファブリペロー干渉計
AG・・・エアギャップ(ギャップ)
B1・・・第1ばね変形部
B2・・・第2ばね変形部
E1・・・固定電極
E2・・・可動電極
Ec・・・電極E1,E2の対向部分の中心
H1・・・高剛性部
H1a,H1b・・・端部
M1・・・固定ミラー
M2・・・可動ミラー
MEM・・・メンブレン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定ミラー構造体と、ギャップを介して前記固定ミラー構造体に対向配置されるとともに、前記ギャップを架橋する部位が変位可能なメンブレンとされた可動ミラー構造体と、を備え、
前記ギャップを介した対向部位として、
前記固定ミラー構造体は、固定ミラーと、固定電極とを有し、
前記可動ミラー構造体は、前記固定ミラーに対向して形成された可動ミラーと、可動電極とを有し、
前記固定電極と前記可動電極の間に印加された電圧に基づいて生じる静電気力により前記メンブレンが変位され、前記ギャップにおける前記固定ミラーと前記可動ミラーとの対向距離に応じた波長の光を選択的に透過させるファブリペロー干渉計であって、
電圧が印加されない初期状態で、前記固定ミラーと前記可動ミラーの対向距離が、前記固定電極と前記可動電極の対向距離以下とされ、
前記固定電極と該固定電極を除く前記固定ミラー構造体の他の部分、及び、前記可動電極と該可動電極を除く前記可動ミラー構造体の他の部分、の少なくとも一方が電気的に分離され、
前記メンブレンは、前記可動ミラーと、前記可動電極を含み、前記可動ミラーを取り囲む高剛性部と、前記メンブレンの外端に設けられ、前記高剛性部と接続された第1ばね変形部と、前記高剛性部と前記可動ミラーとの間に設けられ、前記高剛性部及び前記可動ミラーと接続された第2ばね変形部を有し、
前記可動ミラーを取り囲むように多重に設けられた2つの前記ばね変形部は、前記メンブレンを構成する他の前記可動ミラー及び前記高剛性部よりも剛性が低くされ、
前記可動電極における前記固定電極との対向部分が、前記メンブレンの中心から外端に向かう方向において、前記高剛性部の一部のみを占めており、
前記メンブレンの中心から外端に向かう方向において、前記可動電極における前記固定電極との対向部分の中心と前記高剛性部における第1ばね変形部側の端部との距離をL1、前記高剛性部の長さをL2とすると、
L2/L1≧3/2
を満たすように構成されていることを特徴とするファブリペロー干渉計。
【請求項2】
L2/L1≧3
を満たすように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項3】
2つの前記ばね変形部は、前記メンブレンを構成する他の前記可動ミラー及び前記高剛性部よりも厚さが薄くされ、前記可動ミラー及び前記高剛性部よりも剛性が低くされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項4】
2つの前記ばね変形部は、前記メンブレンを貫通し、前記ギャップに連通する貫通孔により、前記メンブレンを構成する他の前記可動ミラー及び前記高剛性部よりも剛性が低くされていることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項5】
2つの前記ばね変形部は、前記貫通孔により梁構造をなしていることを特徴とする請求項4に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項6】
2つの前記ばね変形部は、前記貫通孔を有する環状構造とされていることを特徴とする請求項4に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項7】
2つの前記ばね変形部は、一部に前記メンブレンを構成する他の前記可動ミラー及び前記高剛性部よりもヤング率の小さい構成材料を用いることで、剛性が低くされていることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項8】
前記固定ミラー及び前記可動ミラーは、シリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなる高屈折率層間に、該高屈折率層よりも低屈折率の空気層を介在させてなる光学多層膜構造を有していることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項9】
前記高剛性部は、2つの前記高屈折率層と、該高屈折率層の間に介在された、前記高屈折率層を構成する元素の酸化物層と、を有することを特徴とする請求項8に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項10】
前記高剛性部は、前記高屈折率層の一面上に、内部応力が引張応力に調整された引張応力層を有することを特徴とする請求項9に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項11】
前記引張応力層は、前記高屈折率層を構成する元素のLP−窒化膜からなることを特徴とする請求項10に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項12】
前記高剛性部において、酸化物層に対するLP−窒化膜の膜厚比が0.25以上であることを特徴とする請求項11に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項13】
請求項9に記載のファブリペロー干渉計の製造方法であって、
シリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなる高屈折率層間の固定ミラー形成領域に、前記高屈折率層を構成する元素の酸化膜からなる酸化物層を配置して、固定ミラー構造体を基板の一面上に形成する工程と、
前記低屈折率層と同じ材料からなる犠牲層を、前記固定ミラー構造体の前記基板と反対の面上に形成する工程と、
前記固定ミラー構造体と同じ半導体薄膜からなる高屈折率層間の可動ミラー形成領域に、前記固定ミラー構造体と同じ酸化膜からなる酸化物層を配置して、可動ミラー構造体を前記犠牲層を覆うように形成する工程と、
エッチングにより、前記メンブレンに対応する前記犠牲層の部分を除去して、前記固定ミラー構造体と前記可動ミラー構造体とを対向させるギャップを設けるとともに、前記固定ミラー構造体及び前記可動ミラー構造体の酸化物層を除去してエアミラーとする工程と、備え、
前記可動ミラー構造体を形成する工程において、前記酸化物層を、前記可動ミラー形成領域だけでなく、前記高剛性部の形成領域にも配置し、
前記エッチングの工程において、前記高剛性部の酸化物層を除去せずに残すことを特徴とするファブリペロー干渉計の製造方法。
【請求項1】
固定ミラー構造体と、ギャップを介して前記固定ミラー構造体に対向配置されるとともに、前記ギャップを架橋する部位が変位可能なメンブレンとされた可動ミラー構造体と、を備え、
前記ギャップを介した対向部位として、
前記固定ミラー構造体は、固定ミラーと、固定電極とを有し、
前記可動ミラー構造体は、前記固定ミラーに対向して形成された可動ミラーと、可動電極とを有し、
前記固定電極と前記可動電極の間に印加された電圧に基づいて生じる静電気力により前記メンブレンが変位され、前記ギャップにおける前記固定ミラーと前記可動ミラーとの対向距離に応じた波長の光を選択的に透過させるファブリペロー干渉計であって、
電圧が印加されない初期状態で、前記固定ミラーと前記可動ミラーの対向距離が、前記固定電極と前記可動電極の対向距離以下とされ、
前記固定電極と該固定電極を除く前記固定ミラー構造体の他の部分、及び、前記可動電極と該可動電極を除く前記可動ミラー構造体の他の部分、の少なくとも一方が電気的に分離され、
前記メンブレンは、前記可動ミラーと、前記可動電極を含み、前記可動ミラーを取り囲む高剛性部と、前記メンブレンの外端に設けられ、前記高剛性部と接続された第1ばね変形部と、前記高剛性部と前記可動ミラーとの間に設けられ、前記高剛性部及び前記可動ミラーと接続された第2ばね変形部を有し、
前記可動ミラーを取り囲むように多重に設けられた2つの前記ばね変形部は、前記メンブレンを構成する他の前記可動ミラー及び前記高剛性部よりも剛性が低くされ、
前記可動電極における前記固定電極との対向部分が、前記メンブレンの中心から外端に向かう方向において、前記高剛性部の一部のみを占めており、
前記メンブレンの中心から外端に向かう方向において、前記可動電極における前記固定電極との対向部分の中心と前記高剛性部における第1ばね変形部側の端部との距離をL1、前記高剛性部の長さをL2とすると、
L2/L1≧3/2
を満たすように構成されていることを特徴とするファブリペロー干渉計。
【請求項2】
L2/L1≧3
を満たすように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項3】
2つの前記ばね変形部は、前記メンブレンを構成する他の前記可動ミラー及び前記高剛性部よりも厚さが薄くされ、前記可動ミラー及び前記高剛性部よりも剛性が低くされていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項4】
2つの前記ばね変形部は、前記メンブレンを貫通し、前記ギャップに連通する貫通孔により、前記メンブレンを構成する他の前記可動ミラー及び前記高剛性部よりも剛性が低くされていることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項5】
2つの前記ばね変形部は、前記貫通孔により梁構造をなしていることを特徴とする請求項4に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項6】
2つの前記ばね変形部は、前記貫通孔を有する環状構造とされていることを特徴とする請求項4に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項7】
2つの前記ばね変形部は、一部に前記メンブレンを構成する他の前記可動ミラー及び前記高剛性部よりもヤング率の小さい構成材料を用いることで、剛性が低くされていることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項8】
前記固定ミラー及び前記可動ミラーは、シリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなる高屈折率層間に、該高屈折率層よりも低屈折率の空気層を介在させてなる光学多層膜構造を有していることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項9】
前記高剛性部は、2つの前記高屈折率層と、該高屈折率層の間に介在された、前記高屈折率層を構成する元素の酸化物層と、を有することを特徴とする請求項8に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項10】
前記高剛性部は、前記高屈折率層の一面上に、内部応力が引張応力に調整された引張応力層を有することを特徴とする請求項9に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項11】
前記引張応力層は、前記高屈折率層を構成する元素のLP−窒化膜からなることを特徴とする請求項10に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項12】
前記高剛性部において、酸化物層に対するLP−窒化膜の膜厚比が0.25以上であることを特徴とする請求項11に記載のファブリペロー干渉計。
【請求項13】
請求項9に記載のファブリペロー干渉計の製造方法であって、
シリコン及びゲルマニウムの少なくとも一方を含む半導体薄膜からなる高屈折率層間の固定ミラー形成領域に、前記高屈折率層を構成する元素の酸化膜からなる酸化物層を配置して、固定ミラー構造体を基板の一面上に形成する工程と、
前記低屈折率層と同じ材料からなる犠牲層を、前記固定ミラー構造体の前記基板と反対の面上に形成する工程と、
前記固定ミラー構造体と同じ半導体薄膜からなる高屈折率層間の可動ミラー形成領域に、前記固定ミラー構造体と同じ酸化膜からなる酸化物層を配置して、可動ミラー構造体を前記犠牲層を覆うように形成する工程と、
エッチングにより、前記メンブレンに対応する前記犠牲層の部分を除去して、前記固定ミラー構造体と前記可動ミラー構造体とを対向させるギャップを設けるとともに、前記固定ミラー構造体及び前記可動ミラー構造体の酸化物層を除去してエアミラーとする工程と、備え、
前記可動ミラー構造体を形成する工程において、前記酸化物層を、前記可動ミラー形成領域だけでなく、前記高剛性部の形成領域にも配置し、
前記エッチングの工程において、前記高剛性部の酸化物層を除去せずに残すことを特徴とするファブリペロー干渉計の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−108371(P2012−108371A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258028(P2010−258028)
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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