フィルタ及び電子部品
【課題】通過域において低損失の特性を備えると共に、通過域よりも低域側の複数の減衰域において各々大きな減衰量が得られ、更にこれら複数の減衰域よりも低域側及び高域側において急峻な減衰傾度を得ることのできるフィルタを提供すること。
【解決手段】複数の減衰域に夫々対応する周波数で並列共振を起こす複数のSAW共振子1を互いに直列に接続して一つの組10を構成し、このSAW共振子1の組10を互いに直列に複数接続すると共に、互いに隣接する組10、10同士の間の信号路に位相反転用のインダクタ21を各々並列に設ける。このようにフィルタを構成すると、複数の減衰域間には減衰極(直列共振点)が形成される一方、複数の組10のうち一の組10と他の組10とにおいて各々形成される零(ゼロ)点(並列共振点)同士の間には減衰極が形成されないので、各々の減衰域では大きな減衰量が得られる。
【解決手段】複数の減衰域に夫々対応する周波数で並列共振を起こす複数のSAW共振子1を互いに直列に接続して一つの組10を構成し、このSAW共振子1の組10を互いに直列に複数接続すると共に、互いに隣接する組10、10同士の間の信号路に位相反転用のインダクタ21を各々並列に設ける。このようにフィルタを構成すると、複数の減衰域間には減衰極(直列共振点)が形成される一方、複数の組10のうち一の組10と他の組10とにおいて各々形成される零(ゼロ)点(並列共振点)同士の間には減衰極が形成されないので、各々の減衰域では大きな減衰量が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSAW(surface acoustic wave:弾性表面波)フィルタ、このフィルタを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯端末(携帯電話端末)には、通話機能やデータ通信機能に加えて、例えば無線LAN(データ通信)などの機能が付加されて高機能化が進んでいるが、更なる小型化が求められている。これら通話及びデータ通信(UMTS)と無線LANとは、使用される周波数帯域(通過域)が互いに異なる(通話及びデータ通信:1749.9MHz〜1784.9MHz及び1920MHz〜1980MHz、無線LAN:2400MHz〜2483.5MHz)ことから、一つの共通の携帯端末に夫々専用に設けられたアンテナを用いて電波の送信や受信が各々行われている。
【0003】
このように、通話及びデータ通信と無線LANとの周波数帯域が互いに近接し、また携帯端末の内部において既述の専用のアンテナ同士が互いに近接配置されている。そのため、無線LAN用のアンテナと携帯端末の内部との間には、通話及びデータ通信の電波によって無線LANの電波が妨害されないようにするためのフィルタが設けられている。
【0004】
このフィルタとしては、例えばBEF回路(バンド・エリミネーション・フィルタ回路)が知られており、無線LAN用の周波数帯域においては低損失であり(減衰量が小さく)、通話及びデータ通信の周波数帯域においては減衰量が大きく、且つ通話及びデータ通信の周波数帯域の低域側及び高域側において急峻な減衰傾度となる特性を持っていることが求められている。このフィルタは、具体的には例えば図21に示すように、複数例えば7つのSAW共振子100を互いに直列に接続すると共に、これらSAW共振子100、100間にインダクタ101を各々並列に接続して構成される。そして、既述の通話及びデータ通信の2つの周波数帯域について、1749.9MHz〜1784.9MHzを第1の帯域、1920MHz〜1980MHzを第2の帯域と呼ぶと、これら7つのSAW共振子100のうち、例えば3つの共振子100について第1の帯域で並列共振するものを割り当て、残りの4つについて第2の帯域で並列共振するものを割り当てている。そのため、このフィルタでは、図22に模式的に示すように、第1の帯域及び第2の帯域が各々阻止域となり、これら帯域よりも高域側が通過域となる。そして、SAW共振子100及びインダクタ101の接続数を多くする程、第1の帯域及び第2の帯域における減衰量が大きくなる。尚、インダクタ101は、位相を反転させる(90°ずらす)ためのものである。図21中110は入力ポート、111は出力ポートである。
【0005】
ここで、インダクタ101としては、配線パターンにより作成しようとすると大きなパターンを屈曲させかつ膜厚を厚くする必要があるため、導体損失が大きくなってQ値が低くなることから、現実的には外付けのコイルが用いられる。従って、インダクタ101の個数が多くなる程、携帯端末に搭載される部品点数が増大することになる。そのため、例えば後述の図17に示すように、第1の帯域及び第2の帯域で夫々50dB以上の減衰量を得ようとすると、インダクタ101の個数が例えば6個以上になってしまうので、携帯端末のサイズが大きくなってしまう。
【0006】
特許文献1には、阻止域よりも低域側を通過域とするローパスフィルタについて記載されているが、ハイパスフィルタについては記載されていない。また、特許文献2には、ローパスフィルタやハイパスフィルタ、あるいはバンドパスフィルタについて記載されているが、既述の課題については触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−35132号公報
【特許文献2】特開2004−104799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、要求される通過域において低損失の特性を備えると共に、通過域よりも低域側の複数の減衰域において各々大きな減衰量が得られ、更にこれら複数の減衰域よりも低域側及び高域側において急峻な減衰傾度を得ることのできるフィルタを提供することにある。本発明の他の目的は、位相反転用のインダクタの使用個数を低減してデバイスの小型化に寄与できるフィルタを提供することにある。更に本発明の他の目的は、前記フィルタを備えた電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィルタは、
通過域よりも低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で並列共振を起こす素子部を互いに直列に接続して素子部の組を形成することと、
この素子部の組を信号路に互いに直列に複数接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に、並列腕をなす位相反転用のインダクタの一端を接続したことと、を備えたことを特徴とする。
本発明の電子部品は、
既述のフィルタを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、複数の減衰域に夫々対応する周波数で並列共振を起こす複数の素子部を互いに直列に接続して素子部の組を構成し、この素子部の組を互いに直列に複数接続すると共に、互いに隣接する組同士の間の信号路に、並列腕をなす位相反転用のインダクタの一端を接続している。そのため、複数の減衰域間には減衰極(直列共振点)が形成される一方、複数の組のうち一の組と他の組とにおいて各々形成される零(ゼロ)点(並列共振点)同士の間には減衰極が形成されないので、通過域では低損失の特性が得られると共に、通過域よりも低域側の各々の減衰域では大きな減衰量が得られ、更にこれら複数の減衰域よりも低域側及び高域側では急峻な減衰傾度が得られる。また、位相反転用のインダクタの使用個数を低減できるので、デバイスの小型化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】SAW共振子の等価回路を示す回路図、及びアドミタンスの周波数特性を示す特性図である。
【図2】SAW共振子を1個用いたSAWフィルタを示す回路図である。
【図3】図2のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図4】2個のSAW共振子を互いに直列に接続したSAWフィルタの一例を示す回路図である。
【図5】図4のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図6】並列共振回路を互いに直列に接続し、これか回路間に並列にインダクタを接続したフィルタを示す回路図である。
【図7】図6の回路におけるインピーダンスの周波数特性と伝送特性とを対応付けて示す説明図である。
【図8】並列共振回路を互いに直列に接続したフィルタを示す回路図である。
【図9】図8の回路におけるインピーダンスの周波数特性と伝送特性とを対応付けて示す説明図である。
【図10】本発明の実施の形態のSAWフィルタの一例を示す回路図である。
【図11】図10に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図12】本発明の他の実施の形態のSAWフィルタを示す回路図である。
【図13】従来のフィルタを示す回路図である。
【図14】従来のフィルタを示す回路図である。
【図15】図12及び図13のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図16】図12及び図13のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図17】図12及び図14のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図18】図12及び図14のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図19】本発明の更に他の実施の形態のSAWフィルタを示す回路図である。
【図20】図19に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図21】従来のフィルタを示す回路図である。
【図22】ハイパスフィルタにおいて求められる伝送特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態のフィルタの説明に先立って、本発明の構成に至った背景及び本発明のフィルタにおいて既述の要請に見合った伝送特性(周波数特性)が得られる理由などについて述べておく。図1(a)は、弾性波共振子であるSAW共振子(素子部)1の等価回路を示しており、図1(b)はSAW共振子1の周波数に対するアドミタンス特性を示している。Rsは直列抵抗(動抵抗)、Lsは直列インダクタンス(動インダクタンス)、Csは直列容量(動容量)、Cdは電極容量(制動容量)、R0は外部抵抗である。SAW共振子1はこのようなアドミタンス特性を有するため、図2に示すように各々終端インピーダンスが50Ωである入力ポート4と出力ポート5との間に、SAW共振子1を直列に接続してフィルタを構成すると、図3に模式的に示す伝送特性が得られる。
【0013】
図3中、P1は通過特性、P2は反射特性であり、SAW共振子1が短絡する周波数即ち直列共振周波数(共振点)において通過特性が最も落ち込んで極が形成され、またSAW共振子1がオープンになる周波数即ち並列共振周波数(反共振点)において反射特性が最も落ち込んで零点が形成される。図4は、互いに近接する2つの周波数帯域(1749.9MHz〜1784.9MHz及びび1920MHz〜1980MHz)に夫々減衰域が形成されるように、これら2つの帯域の一方及び他方に対応する周波数に反共振点が夫々設定された2個のSAW共振子1、2を信号路に互いに直列に接続したSAWフィルタである。図5は図4のSAWフィルタにおいて得られる伝送特性を模式的に示しており、目的とする2つの減衰域において各々反射特性の零点が存在すると共に、これら2つの零点の間に通過特性の極が存在することが分かる。即ちこの伝送特性は、2つの減衰域の間に極めて低損失な領域が存在する。尚、図5では、実際のフィルタの特性とは零点をずらしてシミュレーションを行った。以降の図7及び図9についても同様である。
【0014】
この理由について、SAW共振子1、2の代わりに並列共振回路を用いて考察する。図6は並列共振回路11、12を互いに直列に配置したフィルタであり、これら並列共振回路11、12の間の信号路には、位相を反転させるためのインダクタ21が並列に接続されている。並列共振回路11、12の共振周波数は、夫々f1(1749.9MHz〜1784.9MHz)及びf2(1920MHz〜1980MHz)に調整されている。この場合、各並列共振回路11、12の周波数に対するインピーダンス特性は、図7の上段に示すように夫々Y1、Y2として表されるが、これら並列共振回路11、12間にインダクタ21が介在している。そのため、インピーダンス特性Y2がインピーダンス特性Y1に対して左右反転している(左右対称となっている)ので、フィルタ回路全体のインピーダンス特性はY0のように表される。従って、図7の下段に示すように、伝送特性においては周波数f1とf2との間の帯域が減衰しており、f1〜f2に亘る帯域阻止フィルタが形成されることになる。
【0015】
これに対して、図8に示すように、f1、f2に共振周波数が夫々調整された並列共振回路11、12を互いに直列に接続し、インダクタ21を設けない場合には、インピーダンス特性Y1、Y2は、図9の上段に示すように表される。即ち、並列共振回路11、12間にインダクタ21が介在していないので、インピーダンス特性Y2が反転していない。そして、フィルタ回路全体におけるインピーダンス特性Y0は、図9の中段に示すように表される。このため、周波数f1、f2の間にインピーダンスがゼロになる周波数(極)が存在するので、伝送特性は図9の下段に示すように表される。即ち通過特性は、周波数f1、f2において各々急峻に落ち込むが、これら周波数f1、f2間に通過域が存在し、このため周波数f1〜f2に亘る帯域阻止フィルタとしては不都合がある。
【0016】
一方、既述の図22に示したように、無線LANの帯域を通過域とし、通信事業者が使用する通話やデータ通信の送信帯域を減衰域とするためのフィルタにおいては、図9の伝送特性はむしろ都合がよいといえる。即ち、各々狭い帯域である複数の減衰域が形成されたフィルタとしては、各減衰域に対応する複数のSAW共振子1を信号路に互いに直列に接続することにより、目的とする伝送特性を得ることができると共に、既述の図21のように各々のSAW共振子100、100間にインダクタ101を並列に接続する場合に比べて、インダクタ21の使用個数を低減できる。例えば通過域の低域側に設けられる2つの狭い減衰域において大きな減衰量が要求される場合、並列共振周波数が夫々前記2つの減衰域内に調整されている2つのSAW共振子1、2が用いられる。
【0017】
しかしながら図4及び図5に示すように、2つのSAW共振子1、2からなる組が一組だけの場合には、減衰域において十分な減衰量を確保することが困難である。そこで本発明では、図10に示すように、互いに直列に接続した2個のSAW共振子1、2を一つの組10と呼ぶと、2つの組10、10を互いに直列に接続し、これら組10、10間に、例えばコイルからなるインダクタ21を並列腕として並列に接続している。図10において、SAW共振子1、1はいずれも第1の減衰域(1749.9MHz〜1784.9MHz)において大きな減衰量を確保するためのものであり、SAW共振子2、2はいずれも第2の減衰域(1920MHz〜1980MHz)において大きな減衰量を確保するためのものである。従って、SAW共振子1、1の各並列共振周波数及びSAW共振子2、2の各並列共振周波数は、第1の減衰域に対応する周波数及び第2の減衰域に対応する周波数に夫々設定されている。ここで、SAW共振子1、1の各並列共振周波数は、第1の減衰域内に調整されているが、第1の減衰域から少し外れていてもよい。また、SAW共振子2、2の各並列共振周波数は、第2の減衰域内に調整されているが、第2の減衰域から少し外れていてもよい。
【0018】
また、この場合において、第1の減衰域及び第2の減衰域について、夫々ある程度広い帯域幅が確保されるようにしている。具体的には、SAW共振子1、1の各並列共振周波数は、第1の減衰域内において互いに異なる周波数に設定されている。また、SAW共振子2、2の各並列共振周波数についても、第2の減衰域内において互いに異なる周波数に設定されている。このようにSAW共振子1、2の並列共振周波数を設定することにより、図11に示す伝送特性が得られる。ここで、2つの組10、10について、入力ポート4側の組10のSAW共振子1、2に夫々符号「31」、「32」を付し、出力ポート5側の組10のSAW共振子1、2に夫々符号「41」、「42」を付すと、これらSAW共振子31、32、41、42は、図11に括弧内に示した数字のように、第1の減衰域及び第2の減衰域に反共振点(減衰曲線のピーク)が形成されている。尚、第1の減衰域及び第2の減衰域について、各々ある程度の帯域幅を確保できるのであれば、SAW共振子1、1(31、41)の並列共振周波数が互いに同じであっても良く、またSAW共振子2、2(32、42)の並列共振周波数が互いに同じであっても良い。
【0019】
図11の伝送特性から分かるように、図10の回路では、図4に示す1組の場合の伝送特性(図5参照)に比べて、第1の減衰域及び第2の減衰域において各々大きな減衰量を確保できる。また、これら減衰極よりも低域側及び高域側において、急峻な減衰傾度となっていることが分かる。尚、信号路における各組10、10の間(SAW共振子31、32及びSAW共振子41、42の間)には、インダクタ21が設けられているが、このインダクタ21を設けないとSAW共振子31、41(あるいは32、42)により形成される各零点の間に極が形成されてしまう。従って、インダクタ21は、位相を反転させるためのものであり、更にまた第1の減衰域よりも低域側の信号レベルを減衰させる役割をも果たすものである。
【0020】
既述の例では、SAW共振子1、2からなる組10を2つ直列に接続し、これら組10、10の間にインダクタ21を並列に接続したが、この組10の数量としては3つ以上であっても良く、その場合には第1の減衰域及び第2の減衰域において更に大きな減衰量が得られる。図12には、SAW共振子1、2の組10を直列に4つ接続し、互いに隣接する組10、10間にインダクタ21を各々並列に設けた例を示している。この例では、4つのSAW共振子1における各反共振周波数は、第1の減衰域内において互いに異なる周波数に夫々設定されている。また、4つのSAW共振子2における各反共振周波数は、第2の減衰域内において互いに異なる周波数に設定されている。
【0021】
ここで、本発明のフィルタ例えば図12のフィルタと、従来の手法(既述の図21と同じ手法)を用いて得られるフィルタとについて、周波数特性及びインダクタ21(101)の個数について比較した結果を説明する。図13は、図12と同じ数量(3つ)だけインダクタ101を配置した場合に、従来の手法によって得られるフィルタを示している。このフィルタにおいて、SAW共振子100が互いに直列に4つ設けられ、互いに隣接するSAW共振子100、100間に各々インダクタ101が並列に接続されている。また、図14は、従来の手法において、SAW共振子100を例えば7つ直列に接続すると共に、各SAW共振子100、100間に各々インダクタ101を並列に接続したフィルタを示している。図14では、インダクタ101の個数は例えば6つとなる。
【0022】
図15及び図16には、本発明のフィルタ(図12)と従来のフィルタ(図13)とにおける周波数特性を比較した特性図を示している。図16は、図15における2つの減衰域付近を拡大した図である。第1の減衰域及び第2の減衰域において、図12のフィルタと図13のフィルタとでは、以下の表1に示す減衰量となっていた。
(表1)
【0023】
そのため、本発明のフィルタでは、従来のフィルタとインダクタ21(101)の個数が同じ(3つ)であっても、即ちデバイス(携帯端末等の電子部品)の大きさがほとんど同じであっても、図13の特性と比べて、第1の減衰域及び第2の減衰域において大きな減衰量の得られることが分かった。図16から、既述のように4つのSAW共振子1(2)において各反共振周波数をずらすことにより、第1の減衰域及び第2の減衰域には、これらSAW共振子1(2)の各反共振周波数に対応するように、夫々4つのピークが形成されていることが分かる。
【0024】
また、図17及び図18には、本発明のフィルタ(図12)と従来のフィルタ(図14)とにおける周波数特性を比較した特性図を示している。図18は、図17における2つの減衰域付近を拡大した図である。本発明のフィルタでは、第1の減衰域及び第2の減衰域における減衰量は、以下の表2に示すように、従来の図14のフィルタと比べて僅かに大きくなっている。
(表2)
従って、本発明では、従来のフィルタと同等の周波数特性を持ちながら、インダクタ21(101)の個数を半分程度(6個→3個)まで減らすことができ、そのため従来のフィルタよりもデバイスの寸法を小さくすることができる。
【0025】
既述の例では、2つの減衰域を形成するフィルタについて説明したが、例えば3つの減衰域を形成しても良い。図19は、3つの減衰域を形成するためのフィルタの一例を示しており、SAW共振子1、2、3が互いに直列に接続されて一つの組10をなすと共に、この組10が互いに直列に2つ接続され、これら組10、10間にインダクタ21が並列に接続されている。これら3つの減衰域を第1の減衰域、第2の減衰域及び第3の減衰域と夫々呼ぶと、SAW共振子1、1は、各々第1の減衰域内において互いに異なる反共振周波数に設定されている。また、SAW共振子2、2は、各々第2の減衰域内において互いに異なる反共振周波数に設定され、SAW共振子3、3は、各々第3の減衰域内において互いに異なる反共振周波数に設定されている。図20には、図19のフィルタにより得られる周波数特性を示しており、第1の減衰域、第2の減衰域及び第3の減衰域の3つの減衰域が形成されると共に、これら減衰域の各々において、2つのSAW共振子1、1(2、2)(3、3)に対応して、2つの極が各々形成されていることがわかる。
【0026】
以上のように本発明の実施の形態によれば、従来のフィルタと同じ個数のインダクタ21を設けた場合には、従来のフィルタに比べて、各々の減衰域において大きな減衰量を確保できる。また、従来のフィルタと同程度の減衰特性を得ようとする場合には、インダクタ21の個数を減らすことができる。言い換えると、本発明では、インダクタ21の個数を少なくしながら、目的とする伝送特性、即ち通過域の低域側に設定されている複数の減衰域にて急峻で大きな減衰量を確保できると言える。既述のように、インダクタ21が現実的には外付け部品であるコイルにより構成されるので、インダクタ21の個数を低減することによって、デバイスの小型化に寄与できる。従って、本発明のフィルタは、例えば携帯端末に組み込む弾性波フィルタとしては極めて好適である。
【0027】
以上において、SAW共振子1は、弾性表面波を利用した共振子に代えて、圧電基板の内部を伝播する弾性波を利用した共振子であっても良い。
更に、並列共振を起こす素子部としては、SAW共振子1に代えて、水晶共振子、圧電薄膜共振子、MEMS共振子、誘電体を用いても良い。圧電薄膜共振子としては、例えばFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)やSMR(Solid Mounted Resonator)などが挙げられる。誘電体を素子部として用いる場合には、マイクロストリップラインの両側に誘電体を設けた構成となる。更に前記素子部としては、コイルとコンデンサとを並列に接続した共振回路(LC共振回路)も含まれる。LC共振回路を用いる場合であっても、LC共振回路を用いて従来のフィルタを構成する場合と比べて位相反転用のインダクタ21の数量を減らすことができるので、部品点数を少なくできるという効果がある。
また、本発明の電子部品としては、例えばSAWBEFに上述の実施の形態の弾性表面波フィルタを適用した無線LANモジュールを挙げることができる。
【符号の説明】
【0028】
1、2、31、32、41、42 SAW共振子
4 入力ポート
5 出力ポート
10 組
11、12 並列共振回路
21 インダクタ
Y0、Y1、Y2 特性
f1、f2 周波数
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSAW(surface acoustic wave:弾性表面波)フィルタ、このフィルタを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯端末(携帯電話端末)には、通話機能やデータ通信機能に加えて、例えば無線LAN(データ通信)などの機能が付加されて高機能化が進んでいるが、更なる小型化が求められている。これら通話及びデータ通信(UMTS)と無線LANとは、使用される周波数帯域(通過域)が互いに異なる(通話及びデータ通信:1749.9MHz〜1784.9MHz及び1920MHz〜1980MHz、無線LAN:2400MHz〜2483.5MHz)ことから、一つの共通の携帯端末に夫々専用に設けられたアンテナを用いて電波の送信や受信が各々行われている。
【0003】
このように、通話及びデータ通信と無線LANとの周波数帯域が互いに近接し、また携帯端末の内部において既述の専用のアンテナ同士が互いに近接配置されている。そのため、無線LAN用のアンテナと携帯端末の内部との間には、通話及びデータ通信の電波によって無線LANの電波が妨害されないようにするためのフィルタが設けられている。
【0004】
このフィルタとしては、例えばBEF回路(バンド・エリミネーション・フィルタ回路)が知られており、無線LAN用の周波数帯域においては低損失であり(減衰量が小さく)、通話及びデータ通信の周波数帯域においては減衰量が大きく、且つ通話及びデータ通信の周波数帯域の低域側及び高域側において急峻な減衰傾度となる特性を持っていることが求められている。このフィルタは、具体的には例えば図21に示すように、複数例えば7つのSAW共振子100を互いに直列に接続すると共に、これらSAW共振子100、100間にインダクタ101を各々並列に接続して構成される。そして、既述の通話及びデータ通信の2つの周波数帯域について、1749.9MHz〜1784.9MHzを第1の帯域、1920MHz〜1980MHzを第2の帯域と呼ぶと、これら7つのSAW共振子100のうち、例えば3つの共振子100について第1の帯域で並列共振するものを割り当て、残りの4つについて第2の帯域で並列共振するものを割り当てている。そのため、このフィルタでは、図22に模式的に示すように、第1の帯域及び第2の帯域が各々阻止域となり、これら帯域よりも高域側が通過域となる。そして、SAW共振子100及びインダクタ101の接続数を多くする程、第1の帯域及び第2の帯域における減衰量が大きくなる。尚、インダクタ101は、位相を反転させる(90°ずらす)ためのものである。図21中110は入力ポート、111は出力ポートである。
【0005】
ここで、インダクタ101としては、配線パターンにより作成しようとすると大きなパターンを屈曲させかつ膜厚を厚くする必要があるため、導体損失が大きくなってQ値が低くなることから、現実的には外付けのコイルが用いられる。従って、インダクタ101の個数が多くなる程、携帯端末に搭載される部品点数が増大することになる。そのため、例えば後述の図17に示すように、第1の帯域及び第2の帯域で夫々50dB以上の減衰量を得ようとすると、インダクタ101の個数が例えば6個以上になってしまうので、携帯端末のサイズが大きくなってしまう。
【0006】
特許文献1には、阻止域よりも低域側を通過域とするローパスフィルタについて記載されているが、ハイパスフィルタについては記載されていない。また、特許文献2には、ローパスフィルタやハイパスフィルタ、あるいはバンドパスフィルタについて記載されているが、既述の課題については触れられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−35132号公報
【特許文献2】特開2004−104799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、要求される通過域において低損失の特性を備えると共に、通過域よりも低域側の複数の減衰域において各々大きな減衰量が得られ、更にこれら複数の減衰域よりも低域側及び高域側において急峻な減衰傾度を得ることのできるフィルタを提供することにある。本発明の他の目的は、位相反転用のインダクタの使用個数を低減してデバイスの小型化に寄与できるフィルタを提供することにある。更に本発明の他の目的は、前記フィルタを備えた電子部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィルタは、
通過域よりも低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で並列共振を起こす素子部を互いに直列に接続して素子部の組を形成することと、
この素子部の組を信号路に互いに直列に複数接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に、並列腕をなす位相反転用のインダクタの一端を接続したことと、を備えたことを特徴とする。
本発明の電子部品は、
既述のフィルタを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、複数の減衰域に夫々対応する周波数で並列共振を起こす複数の素子部を互いに直列に接続して素子部の組を構成し、この素子部の組を互いに直列に複数接続すると共に、互いに隣接する組同士の間の信号路に、並列腕をなす位相反転用のインダクタの一端を接続している。そのため、複数の減衰域間には減衰極(直列共振点)が形成される一方、複数の組のうち一の組と他の組とにおいて各々形成される零(ゼロ)点(並列共振点)同士の間には減衰極が形成されないので、通過域では低損失の特性が得られると共に、通過域よりも低域側の各々の減衰域では大きな減衰量が得られ、更にこれら複数の減衰域よりも低域側及び高域側では急峻な減衰傾度が得られる。また、位相反転用のインダクタの使用個数を低減できるので、デバイスの小型化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】SAW共振子の等価回路を示す回路図、及びアドミタンスの周波数特性を示す特性図である。
【図2】SAW共振子を1個用いたSAWフィルタを示す回路図である。
【図3】図2のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図4】2個のSAW共振子を互いに直列に接続したSAWフィルタの一例を示す回路図である。
【図5】図4のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図6】並列共振回路を互いに直列に接続し、これか回路間に並列にインダクタを接続したフィルタを示す回路図である。
【図7】図6の回路におけるインピーダンスの周波数特性と伝送特性とを対応付けて示す説明図である。
【図8】並列共振回路を互いに直列に接続したフィルタを示す回路図である。
【図9】図8の回路におけるインピーダンスの周波数特性と伝送特性とを対応付けて示す説明図である。
【図10】本発明の実施の形態のSAWフィルタの一例を示す回路図である。
【図11】図10に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図12】本発明の他の実施の形態のSAWフィルタを示す回路図である。
【図13】従来のフィルタを示す回路図である。
【図14】従来のフィルタを示す回路図である。
【図15】図12及び図13のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図16】図12及び図13のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図17】図12及び図14のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図18】図12及び図14のSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図19】本発明の更に他の実施の形態のSAWフィルタを示す回路図である。
【図20】図19に示すSAWフィルタの伝送特性を示す特性図である。
【図21】従来のフィルタを示す回路図である。
【図22】ハイパスフィルタにおいて求められる伝送特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態のフィルタの説明に先立って、本発明の構成に至った背景及び本発明のフィルタにおいて既述の要請に見合った伝送特性(周波数特性)が得られる理由などについて述べておく。図1(a)は、弾性波共振子であるSAW共振子(素子部)1の等価回路を示しており、図1(b)はSAW共振子1の周波数に対するアドミタンス特性を示している。Rsは直列抵抗(動抵抗)、Lsは直列インダクタンス(動インダクタンス)、Csは直列容量(動容量)、Cdは電極容量(制動容量)、R0は外部抵抗である。SAW共振子1はこのようなアドミタンス特性を有するため、図2に示すように各々終端インピーダンスが50Ωである入力ポート4と出力ポート5との間に、SAW共振子1を直列に接続してフィルタを構成すると、図3に模式的に示す伝送特性が得られる。
【0013】
図3中、P1は通過特性、P2は反射特性であり、SAW共振子1が短絡する周波数即ち直列共振周波数(共振点)において通過特性が最も落ち込んで極が形成され、またSAW共振子1がオープンになる周波数即ち並列共振周波数(反共振点)において反射特性が最も落ち込んで零点が形成される。図4は、互いに近接する2つの周波数帯域(1749.9MHz〜1784.9MHz及びび1920MHz〜1980MHz)に夫々減衰域が形成されるように、これら2つの帯域の一方及び他方に対応する周波数に反共振点が夫々設定された2個のSAW共振子1、2を信号路に互いに直列に接続したSAWフィルタである。図5は図4のSAWフィルタにおいて得られる伝送特性を模式的に示しており、目的とする2つの減衰域において各々反射特性の零点が存在すると共に、これら2つの零点の間に通過特性の極が存在することが分かる。即ちこの伝送特性は、2つの減衰域の間に極めて低損失な領域が存在する。尚、図5では、実際のフィルタの特性とは零点をずらしてシミュレーションを行った。以降の図7及び図9についても同様である。
【0014】
この理由について、SAW共振子1、2の代わりに並列共振回路を用いて考察する。図6は並列共振回路11、12を互いに直列に配置したフィルタであり、これら並列共振回路11、12の間の信号路には、位相を反転させるためのインダクタ21が並列に接続されている。並列共振回路11、12の共振周波数は、夫々f1(1749.9MHz〜1784.9MHz)及びf2(1920MHz〜1980MHz)に調整されている。この場合、各並列共振回路11、12の周波数に対するインピーダンス特性は、図7の上段に示すように夫々Y1、Y2として表されるが、これら並列共振回路11、12間にインダクタ21が介在している。そのため、インピーダンス特性Y2がインピーダンス特性Y1に対して左右反転している(左右対称となっている)ので、フィルタ回路全体のインピーダンス特性はY0のように表される。従って、図7の下段に示すように、伝送特性においては周波数f1とf2との間の帯域が減衰しており、f1〜f2に亘る帯域阻止フィルタが形成されることになる。
【0015】
これに対して、図8に示すように、f1、f2に共振周波数が夫々調整された並列共振回路11、12を互いに直列に接続し、インダクタ21を設けない場合には、インピーダンス特性Y1、Y2は、図9の上段に示すように表される。即ち、並列共振回路11、12間にインダクタ21が介在していないので、インピーダンス特性Y2が反転していない。そして、フィルタ回路全体におけるインピーダンス特性Y0は、図9の中段に示すように表される。このため、周波数f1、f2の間にインピーダンスがゼロになる周波数(極)が存在するので、伝送特性は図9の下段に示すように表される。即ち通過特性は、周波数f1、f2において各々急峻に落ち込むが、これら周波数f1、f2間に通過域が存在し、このため周波数f1〜f2に亘る帯域阻止フィルタとしては不都合がある。
【0016】
一方、既述の図22に示したように、無線LANの帯域を通過域とし、通信事業者が使用する通話やデータ通信の送信帯域を減衰域とするためのフィルタにおいては、図9の伝送特性はむしろ都合がよいといえる。即ち、各々狭い帯域である複数の減衰域が形成されたフィルタとしては、各減衰域に対応する複数のSAW共振子1を信号路に互いに直列に接続することにより、目的とする伝送特性を得ることができると共に、既述の図21のように各々のSAW共振子100、100間にインダクタ101を並列に接続する場合に比べて、インダクタ21の使用個数を低減できる。例えば通過域の低域側に設けられる2つの狭い減衰域において大きな減衰量が要求される場合、並列共振周波数が夫々前記2つの減衰域内に調整されている2つのSAW共振子1、2が用いられる。
【0017】
しかしながら図4及び図5に示すように、2つのSAW共振子1、2からなる組が一組だけの場合には、減衰域において十分な減衰量を確保することが困難である。そこで本発明では、図10に示すように、互いに直列に接続した2個のSAW共振子1、2を一つの組10と呼ぶと、2つの組10、10を互いに直列に接続し、これら組10、10間に、例えばコイルからなるインダクタ21を並列腕として並列に接続している。図10において、SAW共振子1、1はいずれも第1の減衰域(1749.9MHz〜1784.9MHz)において大きな減衰量を確保するためのものであり、SAW共振子2、2はいずれも第2の減衰域(1920MHz〜1980MHz)において大きな減衰量を確保するためのものである。従って、SAW共振子1、1の各並列共振周波数及びSAW共振子2、2の各並列共振周波数は、第1の減衰域に対応する周波数及び第2の減衰域に対応する周波数に夫々設定されている。ここで、SAW共振子1、1の各並列共振周波数は、第1の減衰域内に調整されているが、第1の減衰域から少し外れていてもよい。また、SAW共振子2、2の各並列共振周波数は、第2の減衰域内に調整されているが、第2の減衰域から少し外れていてもよい。
【0018】
また、この場合において、第1の減衰域及び第2の減衰域について、夫々ある程度広い帯域幅が確保されるようにしている。具体的には、SAW共振子1、1の各並列共振周波数は、第1の減衰域内において互いに異なる周波数に設定されている。また、SAW共振子2、2の各並列共振周波数についても、第2の減衰域内において互いに異なる周波数に設定されている。このようにSAW共振子1、2の並列共振周波数を設定することにより、図11に示す伝送特性が得られる。ここで、2つの組10、10について、入力ポート4側の組10のSAW共振子1、2に夫々符号「31」、「32」を付し、出力ポート5側の組10のSAW共振子1、2に夫々符号「41」、「42」を付すと、これらSAW共振子31、32、41、42は、図11に括弧内に示した数字のように、第1の減衰域及び第2の減衰域に反共振点(減衰曲線のピーク)が形成されている。尚、第1の減衰域及び第2の減衰域について、各々ある程度の帯域幅を確保できるのであれば、SAW共振子1、1(31、41)の並列共振周波数が互いに同じであっても良く、またSAW共振子2、2(32、42)の並列共振周波数が互いに同じであっても良い。
【0019】
図11の伝送特性から分かるように、図10の回路では、図4に示す1組の場合の伝送特性(図5参照)に比べて、第1の減衰域及び第2の減衰域において各々大きな減衰量を確保できる。また、これら減衰極よりも低域側及び高域側において、急峻な減衰傾度となっていることが分かる。尚、信号路における各組10、10の間(SAW共振子31、32及びSAW共振子41、42の間)には、インダクタ21が設けられているが、このインダクタ21を設けないとSAW共振子31、41(あるいは32、42)により形成される各零点の間に極が形成されてしまう。従って、インダクタ21は、位相を反転させるためのものであり、更にまた第1の減衰域よりも低域側の信号レベルを減衰させる役割をも果たすものである。
【0020】
既述の例では、SAW共振子1、2からなる組10を2つ直列に接続し、これら組10、10の間にインダクタ21を並列に接続したが、この組10の数量としては3つ以上であっても良く、その場合には第1の減衰域及び第2の減衰域において更に大きな減衰量が得られる。図12には、SAW共振子1、2の組10を直列に4つ接続し、互いに隣接する組10、10間にインダクタ21を各々並列に設けた例を示している。この例では、4つのSAW共振子1における各反共振周波数は、第1の減衰域内において互いに異なる周波数に夫々設定されている。また、4つのSAW共振子2における各反共振周波数は、第2の減衰域内において互いに異なる周波数に設定されている。
【0021】
ここで、本発明のフィルタ例えば図12のフィルタと、従来の手法(既述の図21と同じ手法)を用いて得られるフィルタとについて、周波数特性及びインダクタ21(101)の個数について比較した結果を説明する。図13は、図12と同じ数量(3つ)だけインダクタ101を配置した場合に、従来の手法によって得られるフィルタを示している。このフィルタにおいて、SAW共振子100が互いに直列に4つ設けられ、互いに隣接するSAW共振子100、100間に各々インダクタ101が並列に接続されている。また、図14は、従来の手法において、SAW共振子100を例えば7つ直列に接続すると共に、各SAW共振子100、100間に各々インダクタ101を並列に接続したフィルタを示している。図14では、インダクタ101の個数は例えば6つとなる。
【0022】
図15及び図16には、本発明のフィルタ(図12)と従来のフィルタ(図13)とにおける周波数特性を比較した特性図を示している。図16は、図15における2つの減衰域付近を拡大した図である。第1の減衰域及び第2の減衰域において、図12のフィルタと図13のフィルタとでは、以下の表1に示す減衰量となっていた。
(表1)
【0023】
そのため、本発明のフィルタでは、従来のフィルタとインダクタ21(101)の個数が同じ(3つ)であっても、即ちデバイス(携帯端末等の電子部品)の大きさがほとんど同じであっても、図13の特性と比べて、第1の減衰域及び第2の減衰域において大きな減衰量の得られることが分かった。図16から、既述のように4つのSAW共振子1(2)において各反共振周波数をずらすことにより、第1の減衰域及び第2の減衰域には、これらSAW共振子1(2)の各反共振周波数に対応するように、夫々4つのピークが形成されていることが分かる。
【0024】
また、図17及び図18には、本発明のフィルタ(図12)と従来のフィルタ(図14)とにおける周波数特性を比較した特性図を示している。図18は、図17における2つの減衰域付近を拡大した図である。本発明のフィルタでは、第1の減衰域及び第2の減衰域における減衰量は、以下の表2に示すように、従来の図14のフィルタと比べて僅かに大きくなっている。
(表2)
従って、本発明では、従来のフィルタと同等の周波数特性を持ちながら、インダクタ21(101)の個数を半分程度(6個→3個)まで減らすことができ、そのため従来のフィルタよりもデバイスの寸法を小さくすることができる。
【0025】
既述の例では、2つの減衰域を形成するフィルタについて説明したが、例えば3つの減衰域を形成しても良い。図19は、3つの減衰域を形成するためのフィルタの一例を示しており、SAW共振子1、2、3が互いに直列に接続されて一つの組10をなすと共に、この組10が互いに直列に2つ接続され、これら組10、10間にインダクタ21が並列に接続されている。これら3つの減衰域を第1の減衰域、第2の減衰域及び第3の減衰域と夫々呼ぶと、SAW共振子1、1は、各々第1の減衰域内において互いに異なる反共振周波数に設定されている。また、SAW共振子2、2は、各々第2の減衰域内において互いに異なる反共振周波数に設定され、SAW共振子3、3は、各々第3の減衰域内において互いに異なる反共振周波数に設定されている。図20には、図19のフィルタにより得られる周波数特性を示しており、第1の減衰域、第2の減衰域及び第3の減衰域の3つの減衰域が形成されると共に、これら減衰域の各々において、2つのSAW共振子1、1(2、2)(3、3)に対応して、2つの極が各々形成されていることがわかる。
【0026】
以上のように本発明の実施の形態によれば、従来のフィルタと同じ個数のインダクタ21を設けた場合には、従来のフィルタに比べて、各々の減衰域において大きな減衰量を確保できる。また、従来のフィルタと同程度の減衰特性を得ようとする場合には、インダクタ21の個数を減らすことができる。言い換えると、本発明では、インダクタ21の個数を少なくしながら、目的とする伝送特性、即ち通過域の低域側に設定されている複数の減衰域にて急峻で大きな減衰量を確保できると言える。既述のように、インダクタ21が現実的には外付け部品であるコイルにより構成されるので、インダクタ21の個数を低減することによって、デバイスの小型化に寄与できる。従って、本発明のフィルタは、例えば携帯端末に組み込む弾性波フィルタとしては極めて好適である。
【0027】
以上において、SAW共振子1は、弾性表面波を利用した共振子に代えて、圧電基板の内部を伝播する弾性波を利用した共振子であっても良い。
更に、並列共振を起こす素子部としては、SAW共振子1に代えて、水晶共振子、圧電薄膜共振子、MEMS共振子、誘電体を用いても良い。圧電薄膜共振子としては、例えばFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)やSMR(Solid Mounted Resonator)などが挙げられる。誘電体を素子部として用いる場合には、マイクロストリップラインの両側に誘電体を設けた構成となる。更に前記素子部としては、コイルとコンデンサとを並列に接続した共振回路(LC共振回路)も含まれる。LC共振回路を用いる場合であっても、LC共振回路を用いて従来のフィルタを構成する場合と比べて位相反転用のインダクタ21の数量を減らすことができるので、部品点数を少なくできるという効果がある。
また、本発明の電子部品としては、例えばSAWBEFに上述の実施の形態の弾性表面波フィルタを適用した無線LANモジュールを挙げることができる。
【符号の説明】
【0028】
1、2、31、32、41、42 SAW共振子
4 入力ポート
5 出力ポート
10 組
11、12 並列共振回路
21 インダクタ
Y0、Y1、Y2 特性
f1、f2 周波数
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過域よりも低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で並列共振を起こす素子部を互いに直列に接続して素子部の組を形成することと、
この素子部の組を信号路に互いに直列に複数接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に、並列腕をなす位相反転用のインダクタの一端を接続したことと、を備えたことを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルタを備えたことを特徴とする電子部品。
【請求項1】
通過域よりも低域側に複数の減衰域を形成するためのフィルタにおいて、
前記複数の減衰域を夫々形成するために、前記複数の減衰域に夫々対応する周波数で並列共振を起こす素子部を互いに直列に接続して素子部の組を形成することと、
この素子部の組を信号路に互いに直列に複数接続したことと、
互いに隣接する素子部の組の間における前記信号路に、並列腕をなす位相反転用のインダクタの一端を接続したことと、を備えたことを特徴とするフィルタ。
【請求項2】
請求項1に記載のフィルタを備えたことを特徴とする電子部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−156881(P2012−156881A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15588(P2011−15588)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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