説明

フィルタ回路及び通信装置

【課題】電荷の移動に伴う過渡現象が出力に与える影響を抑止すること。
【解決手段】入力端に入力された電圧信号を電流信号に変換するトランスコンダクタンスアンプ102と、複数のキャパシタから構成され、トランスコンダクタンスアンプ102から出力された電流信号が周期毎に各キャパシタへ順次に入力されるキャパシタ集合体と、電流信号が入力された1群のキャパシタを互いに接続し、当該1群のキャパシタに蓄積された電荷を加算するシェアスイッチS1aS〜S4aS,S1bS〜S4bSと、シェアスイッチS1aS〜S4aS,S1bS〜S4bSにより電荷が加算された後、1群のキャパシタのうちの少なくとも1つのキャパシタを出力端に接続するダンプスイッチS1aD〜S4aDと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ回路及び通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時では、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)プロセスの微細化に伴い、RF(Radio Frequency)回路の電源電圧は低下する傾向にある。CMOSプロセスが微細化している状況下において、従来の回路手法でRF回路を実装しようとすると、電圧余裕が不足して信号振幅のダイナミックレンジが狭くなる問題がある。一方、CMOSプロセスの微細化によりトランジスタの遮断周波数は上昇するので、高速なスイッチング動作を時間に正確に行う動作に適しているという利点がある。また、リソグラフィーが高精度化するため、キャパシタの容量比が正確になる利点もある。
【0003】
CMOSプロセスの微細化で生じる問題点を回避して、上述のような利点を享受するために、RF回路に離散時間信号処理の概念を取り入れた新しい技術が、デジタルRF技術である。そして、デジタルRF技術分野の主要な回路として、チャージドメインフィルタ(Charge Domain Filter)がある。チャージドメインフィルタは、トランスコンダクタンスアンプ(Transconductance Amplifier)とスイッチとキャパシタから構成されるフィルタ回路である。チャージドメインフィルタは、クロックに同期して電荷の蓄積と放出を行うことでアナログ信号のサンプリングを行い、離散時間信号処理によるフィルタリングやデシメーションなどを行う回路である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−17220号公報
【特許文献2】特開2009−27389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、チャージドメインフィルタにおいて、クロックに同期して電荷の蓄積と放出を行う際に、電荷が移動する際の過渡現象による影響が出力波形に現れる問題が生じる。特に、複数のキャパシタの電荷を加算しつつ、加算した後の電荷を放出する構成のフィルタを想定すると、電荷加算時の過渡現象による波形の乱れが出力波形に現れてしまい、良好なフィルタ特性を確保できない問題が懸念される。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、電荷の移動に伴う過渡現象が出力に与える影響を抑止することが可能な、新規かつ改良されたフィルタ回路及び通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、入力端に入力された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換部と、複数のキャパシタから構成され、前記電圧電流変換部から出力された電流信号が周期毎に各キャパシタへ順次に入力されるキャパシタ集合体と、電流信号が入力された1群のキャパシタを互いに接続し、当該1群のキャパシタに蓄積された電荷を加算する第1のスイッチと、前記第1のスイッチにより電荷が加算された後、前記1群のキャパシタのうちの少なくとも1つのキャパシタを出力端に接続する第2のスイッチと、を備える、フィルタ回路が提供される。
【0008】
また、前記1群のキャパシタを構成するキャパシタがN個であり、前記第1のスイッチがN−1個であってもよい。
【0009】
また、前記電圧電流変換部から出力された電流信号を前記周期毎に前記キャパシタ集合体の各キャパシタへ順次に入力する第3のスイッチと、各キャパシタに蓄積された電荷を前記周期毎に順次に消去する第4のスイッチと、を更に備えるものであってもよい。
【0010】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、入力端に入力された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換部と、複数のキャパシタから構成され、前記電圧電流変換部から出力された電流信号が周期毎に各キャパシタへ順次に入力されるキャパシタ集合体と、電流信号が入力された1群のキャパシタを互いに接続し、当該1群のキャパシタに蓄積された電荷を加算する第1のスイッチと、前記第1のスイッチにより電荷が加算された後、前記1群のキャパシタのうちの少なくとも1つのキャパシタを出力端に接続する第2のスイッチと、を有するフィルタ回路、を備える、通信装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電荷の移動による過渡現象が出力に与える影響を抑止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】チャージドメインFIRフィルタの一例として、2タップのFIRフィルタを示す回路図である。
【図2】各クロック波形Φ1〜Φ4がハイレベルとなるタイミングを示すタイミングチャートである。
【図3】各サンプリングキャパシタのタイミングフェーズと状態の関係を示す模式図である。
【図4】電圧波形の乱れが出力端子OUTに出力される様子を示す特性図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタの構成を示す回路図である。
【図6】図5のチャージドメインFIRフィルタにおいて、各サンプリングキャパシタのタイミングフェーズと状態の関係を示す模式図である。
【図7】本発明の第1の実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタの出力波形を示す特性図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタの構成を示す回路図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタ200の構成の一部を示す回路図である。
【図10】本発明の各実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタを備えた通信装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
なお、説明は以下の順序で行うものとする。
1.第1の実施形態(2タップのチャージドメインFIRフィルタの例)
(1)前提となる技術
(2)本発明の第1の実施形態に係るフィルタ回路の構成とその動作
2.第2の実施形態(シェアスイッチを共通にして構成を簡素化した例)
3.第3の実施形態(NタップのチャージドメインFIRフィルタの例)
4.第4の実施形態(各実施形態に係るフィルタ回路を備える通信装置の例)
【0015】
<1.第1の実施形態>
(1)前提となる技術
本実施形態に係るチャージドメインフィルタの前提となる技術として、チャージドメインFIRフィルタについて説明する。図1は、チャージドメインFIRフィルタの一例として、2タップのFIRフィルタ500を示す回路図である。以下、図1に示す2タップのFIRフィルタ500の構成及び動作について説明する。
【0016】
図1に示すINは入力端子、OUTは出力端子である。Gm502は、入力端子INに印加された電圧信号を電流信号に変換して出力するトランスコンダクタンスアンプである。Gm502の出力端には、8個のサンプリングキャパシタC1a,C1b,C2a,C2b,C3a,C3b,C4a,C4bが並列に接続されており、これらのキャパシタによりキャパシタ集合体が構成されている。サンプリングキャパシタC1a,C1b,C2a,C2b,C3a,C3b,C4a,C4bのそれぞれは、全て同じ容量Cである。
【0017】
各々のサンプリングキャパシタC1a,C1b,C2a,C2b,C3a,C3b,C4a,C4bには、リセット(Reset)スイッチS1aR,S1bR,S2aR,S2bR,S3aR,S3bR,S4aR,S4bRが接続されている。また、各サンプリングキャパシタC1a,C1b,C2a,C2b,C3a,C3b,C4a,C4bには、チャージ(Charge)スイッチS1aC,S1bC,S2aC,S2bC,S3aC,S3bC,S4aC,S4bCが接続されている。また、各サンプリングキャパシタC1a,C1b,C2a,C2b,C3a,C3b,C4a,C4bには、シェア(Share)スイッチS1aS,S1bS,S2aS,S2bS,S3aS,S3bS,S4aS,S4bSが接続されている。このように、各サンプリングキャパシタC1a,C1b,C2a,C2b,C3a,C3b,C4a,C4bのそれぞれには、リセットスイッチ、チャージスイッチ、シェアスイッチの3種類のスイッチが接続されている。
【0018】
図1に示すリセットスイッチ、チャージスイッチ、シェアスイッチのそれぞれは、図1において各スイッチに記されたΦ1〜Φ4のクロック波形によってそれぞれ駆動され、Φ1〜Φ4がハイ(Hi)レベルとなるタイミングフェーズでオン(ON)になる。例えば、シェアスイッチS1aS及びシェアスイッチS1bSは、クロック波形Φ1がハイレベルとなるタイミングフェーズでオン(ON)になる。また、チャージスイッチS1bCは、クロック波形Φ3がハイレベルとなるタイミングフェーズでオンになり、チャージスイッチS1aCは、クロック波形Φ4がハイレベルとなるタイミングフェーズでオンになる。
【0019】
図2は、各クロック波形Φ1〜Φ4がハイレベルとなるタイミングを示すタイミングチャートである。図2に示すように、各クロック波形Φ1〜Φ4は、区間Tsで順次にオンとなるように駆動される。
【0020】
各スイッチは、図2に示すクロック波形Φ1〜Φ4がHiレベルとなるタイミングフェーズでオンになる。各サンプリングキャパシタは、各サンプリングキャパシタに接続された3種類のスイッチのうち、いずれか1つのスイッチがオンとなるタイミングフェーズでリセット(Reset)状態、チャージ(Charge)状態、シェア(Share)状態のいずれかとなる。すなわち、各サンプリングキャパシタは、各サンプリングキャパシタに接続されたリセットスイッチがオンとなるタイミングフェーズでリセット状態となる。また、各サンプリングキャパシタは、各サンプリングキャパシタに接続されたチャージスイッチがオンとなるタイミングフェーズでチャージ状態となり、各サンプリングキャパシタに接続されたシェアスイッチがオンとなるタイミングフェーズでシェア状態となる。更に、各サンプリングキャパシタは、各サンプリングキャパシタに接続された全てのスイッチがオフになるタイミングフェーズでは、ホールド(Hold)状態になる。
【0021】
図3は、各サンプリングキャパシタのタイミングフェーズと状態の関係を示す模式図であって縦軸は各サンプリングキャパシタを、横軸はΦ1〜Φ4がハイになるタイミングフェーズを示している。ここでは、C2bとC2aからなる1群のサンプリングキャパシタを例に挙げて回路の動作を説明する。まず、サンプリングキャパシタC2bの状態について図3を参照すると、Φ3がハイになるタイミングでリセットスイッチS2bRがオンとなり、サンプリングキャパシタC2bはリセット状態となる。これにより、サンプリングキャパシタC2bに蓄積されていた過去の電荷が放電される。次に、Φ4がハイになるタイミングにおいてチャージスイッチS2bC,S1aCがオンになると、サンプリングキャパシタC2bは、サンプリングキャパシタC1aとともにチャージ状態となる。この状態では、図3に示す全てのサンプリングキャパシタのうち、サンプリングキャパシタC1aとサンプリングキャパシタC2bのみがチャージ状態となる。従って、Gm502から供給された電流の半分がサンプリングキャパシタC2bに流れ込み、残りの半分がサンプリングキャパシタC1aに流れ込む。これにより、サンプリングキャパシタC2b,C1aに電荷が蓄えられる。次に、Φ1がハイになるタイミングでは、サンプリングキャパシタC2bに接続されたスイッチS2bR,S2bC,S2bSの全てがオフ(OFF)となり、サンプリングキャパシタC2bはホールド状態となる。これにより、サンプリングキャパシタC2bに蓄積された電荷が保持される。次に、Φ2がハイになるタイミングでは、シェアスイッチS2aS,S2bSがオンとなり、サンプリングキャパシタC2bは、サンプリングキャパシタC2aとともにシェア状態となる。これにより、2個のサンプリングキャパシタC2b,C2aが結合され、2個のサンプリングキャパシタC2b,C2aに蓄えられた電荷が加算されて、出力端子OUTから信号が出力される。
【0022】
同様に、サンプリングキャパシタC2aは、Φ4がハイになるタイミングでリセットスイッチS2aRがオンとなり、リセット状態となる。これにより、サンプリングキャパシタC2aに蓄積されていた過去の電荷が放電される。次に、Φ1がハイになるタイミングにおいてチャージスイッチS2aC,S3bCがオンになると、サンプリングキャパシタC2aは、サンプリングキャパシタC3bとともにチャージ状態となり、Gm502から供給された電流の半分がキャパシタC2aに流れ込む。これにより、サンプリングキャパシタC2aに電荷が蓄えられる。次に、Φ2がハイになるタイミングでは、シェアスイッチS2aS,S2bSがオンとなり、サンプリングキャパシタC2aは、サンプリングキャパシタC2bとともにシェア状態となる。これにより、2個のサンプリングキャパシタC2a,C2bが結合され、2個のサンプリングキャパシタC2a,C2bに蓄えられた電荷が加算されて、出力端子OUTから信号が出力される。次に、Φ3がハイになるタイミングでは、サンプリングキャパシタC2aに接続されたスイッチS2aR,S2aC,S2aSの全てがオフ(OFF)となり、サンプリングキャパシタC2aはホールド状態となる。これにより、サンプリングキャパシタC2aに蓄積された電荷が保持される。
【0023】
図1に示すFIRフィルタ500の回路は、並列巡回形回路と呼ばれる構成であり、他の1群のサンプリングキャパシタ(キャパシタC1aとC1b、C3aとC3b、C4aとC4b)についても同様の状態遷移がタイミングフェーズをシフトして実行される。そして、FIRフィルタ500の出力端子(OUT)には、C1〜C4の何れかのサンプリングキャパシタ対が接続されて、電荷の出力が絶え間なく連続して行われることになる。
【0024】
図3に示すように、シェア状態では、1クロック前に蓄えられた電荷と2クロック前に蓄えられた電荷が加算される。例えば、サンプリングキャパシタC2a,C2bがシェア状態となるΦ2では、1クロック前のΦ1でC2aに蓄えられた電荷と2クロック前のΦ4でC2bに蓄えられた電荷が加算される。一方、チャージについては、サンプリングキャパシタC2aはΦ1においてサンプリングキャパシタC3bとともにチャージされ、サンプリングキャパシタC2bはΦ4においてサンプリングキャパシタC1aとともにチャージされる。このように、シェア状態で加算される2つのキャパシタとチャージが同時に行われる2つのキャパシタは相違している。
【0025】
シェア状態において、各サンプリングキャパシタには、Gm502から供給された電流の1/2が電荷として蓄えられていたのであるから、出力電荷は以下の数式1のようになる。
【0026】
【数1】

(数式1)
【0027】
数式1において、Qout(n)は、クロックがnのタイミングフェーズにおいて出力端子outから出力された電荷である。また、Qin(n−1)はクロックがn−1のタイミングフェーズにおいてGm502から供給された電荷を示している。各サンプリングキャパシタにはGm502から供給された電荷の1/2が蓄えられるため、n−1のタイミングフェーズにおいてGm502から供給された電荷のうち、クロックnのタイミングフェーズで出力される電荷はQin(n−1)/2となる。また、Qin(n−2)はクロックがn−2のタイミングフェーズにおいてGm502から供給された電荷を示している。各サンプリングキャパシタにはGm502から供給された電荷の1/2が蓄えられるため、n−2のタイミングフェーズにおいてGm502から供給された電荷のうち、クロックnのタイミングフェーズで出力される電荷はQin(n−2)/2となる。従って、数式1に示すように、クロックnのタイミングフェーズで出力端子outから出力された電荷は、Qin(n−1)/2とQin(n−2)/2を加算した値となる。
【0028】
数式1をz変換すると、QoutとQinの関係を表す式として、以下の数式2が得られる。
【数2】

(数式2)
【0029】
以上のように、数式2によれば、図1に示すFIRフィルタ500が2タップのFIRフィルタになることが判る。
【0030】
図1に示すチャージドメインFIRフィルタ500は、4フェーズのクロックΦ1〜Φ4を用いて、8個のサンプリングキャパシタをリセット、チャージ、ホールド、シェアの4状態で並列巡回させる。そして、シェア状態の2個のサンプリングキャパシタを同時に出力端子OUTに接続させることで2タップのFIRフィルタを実現している。このため、シェア状態では、2個のサンプリングキャパシタを接続することによる電荷の加算と、2個のサンプリングキャパシタを出力端(OUT)に接続することによる電圧信号の出力が同時進行している。
【0031】
しかしながら、Gm502からの出力信号は刻々と変化するため、各キャパシタへの入力信号はタイミングフェーズ毎に異なる。従って、異なるタイミングフェーズで充電された2つのサンプリングキャパシタに蓄えられた電荷量は異なる。そして、チャージ量の異なるサンプリングキャパシタをシェアスイッチによって接続すると、電荷を加算する際にキャパシタ間で過渡的に電荷の移動が生じる。この状態で出力端から電圧信号を出力すると、過渡状態での電圧波形が出力されてしまう。
【0032】
また、各サンプリングキャパシタのリセットスイッチに接続された各GNDの電位は、FIRフィルタ500を構成するIC中での電位差等により、全てが完全に0Vとならず、各GND間で電位差が生じている場合がある。この場合、リセット状態で設定されたコモンモード電圧は、各サンプリングキャパシタにおいて僅かに相違してしまい、各キャパシタに蓄積される電荷もコモンモード電圧に応じて相違してしまう。
【0033】
以上のような要因から、シェア状態において接続されたサンプリングキャパシタ間で電荷の授受を行う際に、定常状態に達するまでに過渡現象が生じてしまい、電圧波形の乱れが出力端子OUTに出力されてしまう。図4は、過渡現象による出力波形の乱れを示す特性図であって、縦軸は出力端OUTからの出力電圧を、横軸は時間を示している。図4に示すように、クロック波形Φ1〜Φ4のハイ/ローの切り換わりのタイミングで、出力電圧に乱れが生じてしまう。
【0034】
以上のように、図1のチャージドメインFIRフィルタ500は、4フェーズのクロックを用いて、8個のサンプリングキャパシタをリセット、チャージ、ホールド、シェアの4状態で並列巡回させている。そして、シェア状態の2個のサンプリングキャパシタをOUT端子に接続させている。このため、シェア状態で電荷の加算が行われる際の過渡現象が電圧波形として出力されてしまう問題があった。
【0035】
(2)本発明の第1の実施形態に係るフィルタ回路の構成とその動作
以上のような点に鑑みて、本発明の一実施形態にかかるフィルタ回路は、図4に示すような電圧波形の乱れを生じないチャージドメインフィルタを提供することを目的としている。図5は、本発明の第1の実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタ100の構成を示す回路図である。図1と同様、図5に示すINは入力端子、OUTは出力端子である。また、Gm102は、入力端子INに印加された電圧信号を電流信号に変換して出力するトランスコンダクタンスアンプである。図1と同様に、Gm102の出力端には、8個のサンプリングキャパシタC1a,C1b,C2a,C2b,C3a,C3b,C4a,C4bが並列に接続されており、これらのキャパシタによりキャパシタ集合体が構成されている。サンプリングキャパシタC1a,C1b,C2a,C2b,C3a,C3b,C4a,C4bは、全て同じ容量Cである。図1と同様に、サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aには、リセットスイッチS1aR,S2aR,S3aR,S4aRと、チャージスイッチS1aC,S2aC,S3aC,S4aCが接続されている。また、サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aには、シェアスイッチS1aS,S2aS,S3aS,S4aSが接続されている。更に、図5に示す本実施形態のチャージドメインFIRフィルタ100には、サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aに対してダンプ(Dump)スイッチS1aD,S2aD,S3aD,S4aDが接続されている。このように、本実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタ100では、サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aに対して4種類のスイッチが接続されている。
【0036】
サンプリングキャパシタC1b,C2b,C3b,C4bには、リセットスイッチS1bR,S2bR,S3bR,S4bR、チャージスイッチS1bC,S2bC,S3bC,S4bC、シェアスイッチS1bS,S2bS,S3bS,S4bSが接続されている。このように、サンプリングキャパシタC1b,C2b,C3b,C4bには、図1と同様に3種類のスイッチが接続されている。
【0037】
図5に示すリセットスイッチ、チャージスイッチ、シェアスイッチ、ダンプスイッチのそれぞれは、図5において各スイッチに記されたΦ1〜Φ4のクロック波形によってそれぞれ駆動される。リセットスイッチ、チャージスイッチ、シェアスイッチ、ダンプスイッチのそれぞれは、クロック波形Φ1〜Φ4がハイ(Hi)レベルとなるタイミングフェーズでオン(ON)になる。各クロック波形Φ1〜Φ4がハイレベルとなるタイミングは、図2と同様である。
【0038】
サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aでは、各サンプリングキャパシタに接続された4種類のスイッチのうち、いずれか1つのスイッチがオンとなるタイミングフェーズでリセット状態、チャージ状態、シェア状態、ダンプ状態のいずれかとなる。すなわち、各サンプリングキャパシタは、各キャパシタに接続されたリセットスイッチがオンとなるタイミングフェーズでリセット状態となり、各キャパシタに接続されたチャージスイッチがオンとなるタイミングフェーズでチャージ状態となる。また、各サンプリングキャパシタは、各キャパシタに接続されたシェアスイッチがオンとなるタイミングフェーズでシェア状態となり、各キャパシタに接続されたダンプスイッチがオンとなるタイミングフェーズでダンプ(Dump)状態となる。更に、各サンプリングキャパシタは、各サンプリングキャパシタに接続された全てのスイッチがオフになるタイミングフェーズでは、ホールド(Hold)状態になる。
【0039】
図1と同様に、サンプリングキャパシタC1b,C2b,C3b,C4bは、各サンプリングキャパシタに接続された3種類のスイッチのうち、いずれか1つのスイッチがオンとなるタイミングフェーズでリセット状態、チャージ状態、シェア状態のいずれかとなる。更に、各サンプリングキャパシタC1b,C2b,C3b,C4bは、各サンプリングキャパシタC1b,C2b,C3b,C4bに接続された全てのスイッチがオフになるタイミングフェーズでは、ホールド(Hold)状態になる。
【0040】
図6は、各サンプリングキャパシタのタイミングフェーズと状態の関係を示す模式図であって縦軸は各サンプリングキャパシタを、横軸はタイミングフェーズを示している。ここでも、C2bとC2aからなる1群のサンプリングキャパシタを例に挙げて回路の動作を説明する。先ず、サンプリングキャパシタC2bの状態について図6を参照すると、Φ3がハイになるタイミングでリセットスイッチS2bRがオンとなり、サンプリングキャパシタC2bはリセット状態となる。これにより、サンプリングキャパシタC2bに蓄積されていた過去の電荷が放電される。次に、Φ4がハイになるタイミングにおいてチャージスイッチS2bC,S1aCがオンになると、サンプリングキャパシタC2bは、キャパシタC1aとともにチャージ状態となり、Gm502から供給された電流の半分がサンプリングキャパシタC2bに流れ込む。これにより、サンプリングキャパシタC2bに電荷が蓄えられる。次に、Φ1がハイになるタイミングでは、サンプリングキャパシタC2bに接続されたスイッチS2bR,S2bC,S2bSの全てがオフ(OFF)となり、サンプリングキャパシタC2bはホールド状態となる。これにより、サンプリングキャパシタC2bに蓄積された電荷が保持される。次に、Φ2がハイになるタイミングでは、シェアスイッチS2aS,S2bSがオンとなり、サンプリングキャパシタC2bは、サンプリングキャパシタC2aとともにシェア状態となる。これにより、2個のサンプリングキャパシタC2b,C2aが結合され、2個のサンプリングキャパシタC2b,C2aに蓄えられた電荷が加算される。
【0041】
同様にサンプリングキャパシタC2aは、Φ4がハイになるタイミングでリセットスイッチS2aRがオンとなり、リセット状態となる。これにより、サンプリングキャパシタC2aに蓄積されていた過去の電荷が放電される。次に、Φ1がハイになるタイミングにおいてチャージスイッチS2aC,S3bCがオンになると、サンプリングキャパシタC2aは、キャパシタC3bとともにチャージ状態となり、Gm502から供給された電流の半分がサンプリングキャパシタC2aに流れ込む。これにより、サンプリングキャパシタC2aに電荷が蓄えられる。次に、Φ2がハイになるタイミングでは、シェアスイッチS2aS,S2bSがオンとなり、サンプリングキャパシタC2aは、サンプリングキャパシタC2bとともにシェア状態となる。これにより、2個のサンプリングキャパシタC2a,C2bが結合され、2個のサンプリングキャパシタC2a,C2bに蓄えられた電荷が加算される。
【0042】
このようにして2個のサンプリングキャパシタC2a,C2bの電荷が加算された後、本実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタ100では、次のΦ3がハイになるタイミングにおいて、ダンプスイッチS2aDがオンとなる。これにより、サンプリングキャパシタC2aが出力端子Outに接続され、サンプリングキャパシタC2aに蓄積されていた電荷が出力端子Outに流れることにより、出力端子Outから出力波形が得られる。一方、サンプリングキャパシタC2bについては、Φ3がハイになるタイミングでリセットスイッチS2bRがオンになることから、蓄積されていた電荷が消去されてリセット状態となる。
【0043】
他の1群のサンプリングキャパシタ(サンプリングキャパシタC1aとC1b、サンプリングキャパシタC3aとC3b、サンプリングキャパシタC4aとC4b)についても、同様の状態遷移がタイミングフェーズをシフトして実行される。そして、FIRフィルタ100の出力端子(OUT)には、ダンプ状態においてサンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aのいずれか1つが接続されて、電荷の出力が絶え間なく連続して行われることになる。
【0044】
図5に示す本実施形態のチャージドメインFIRフィルタ100では、シェア状態で電荷を加算する際には、ダンプスイッチがオフとされる。従って、シェア状態で電荷を加算する際には、出力端子(OUT)から信号が出力されることがない。従って、図4に示したような過渡状態における出力波形が出力端子(OUT)から出力されてしまうことを確実に抑止できる。
【0045】
シェア状態で電荷を加算した後、1つタイミングを遅らせてダンプスイッチがオンとなる。ダンプ状態では、既に電荷の加算が終了しているため、電荷の加算の際に生じる過渡状態は既に収束しており、定常状態となっている。従って、シェア状態の完了後にダンプスイッチをオンにすることで、電荷が加算されたキャパシタの一方から定常状態となった電圧信号波形をそのまま出力することができる。従って、過渡現象による電圧波形の乱れが出力端子(OUT)から出力されることを確実に抑えることができる。
【0046】
図6と図3を比較すると、図6に示す本実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタ100においては、図3で元々ホールド状態であったタイミングフェーズをダンプ状態に変更している。ホールド状態では、チャージ、リセット、シェアの各状態と異なり、電荷の蓄積、消去など電荷の移動に関わる動作が行われないため、ダンプ状態に変更しても問題は生じない。従って、元々は電荷の蓄積状態を維持していたホールド期間をダンプ状態による信号出力期間に変更することで、新たにタイミングフェーズを増加させることなく、過渡現象による波形の乱れを抑えた良好な信号波形を得ることが可能となる。
【0047】
ここで、図5の回路において、シェア状態では、1クロック前に蓄えられた電荷と2クロック前に蓄えられた電荷が加算されるが、各サンプリングキャパシタには、Gm102から供給された電流の半分が電荷として蓄えられている。従って、シェア状態のクロックnのタイミングフェーズで加算された電荷Qsum(n)は以下の数式3で表すことができる。
【0048】
【数3】

(数式3)
【0049】
更に、図5の回路では、シェア状態ではダンプスイッチがオフでありため、出力端子からは出力されず、シェア状態から1クロック後に、サンプリングキャパシタ対のうちの片側のキャパシタのみがOut端子に接続される。このため、ダンプ状態のクロックnのタイミングで出力される電荷Qout(n)は、数式3で加算された値の1/2となり、以下の数式4が成立する。
【0050】
【数4】

(数式4)
【0051】
このように、図5の回路では、電荷が加算された一方のサンプリングキャパシタから電荷を出力するため、数式1と比較すると、出力される電荷量は1/2となる。数式3と数式4をz変換すると、QoutとQinの関係表す式として、以下の数式5が得られる。
【数5】

(数式5)
【0052】
数式5に示されるように、図5に示す回路では、シェア状態の後にダンプ状態となるため、伝達関数としては数式2よりも1クロックだけ遅延が生じる。数式5によれば、図5に示すチャージドメインFIRフィルタ100も2タップのFIRフィルタになることが判る。図5に示すFIRフィルタ100は、4フェーズのクロックを用いて、4個のキャパシタをリセット、チャージ、ホールド、シェアの4状態で並列巡回させ、4個のキャパシタをリセット、チャージ、シェア、ダンプの4状態で並列巡回させている。そして、ダンプ状態の1個のサンプリングキャパシタだけを出力端子OUTに接続させることで、2タップのFIRフィルタを実現している。このため、シェア状態で電荷の加算が行われた後、定常状態に達した電圧が出力端子Outから出力されるので、乱れのない電圧波形を得ることができる。
【0053】
図7は、本実施形態に係るFIRフィルタ100の出力波形を示す特性図であって、縦軸は出力端OUTからの出力電圧を、横軸は時間を示している。図7に示すように、シェア状態で電荷の加算が行われた後、定常状態に達した電圧が出力端子Outから出力されるため、クロック波形Φ1〜Φ4のハイ/ローの切り換わりのタイミングで、電圧波形に乱れが生じること確実に抑えることができる。
【0054】
なお、図5では、電荷が加算された後、一方のキャパシタに蓄積された電荷により出力端子OUTから電圧波形が出力されるが、図1の場合と比較すると、出力に関わるサンプリングキャパシタの容量が1/2にとなるため、出力電圧値は図1の回路と同一である。
【0055】
以上説明したように第1の実施形態によれば、電荷が加算されるキャパシタの一方と出力端OUTとの間にダンプスイッチを設け、シェア状態で電荷を加算してから1つタイミングを遅らせてダンプスイッチがオンとなるように構成した。従って、シェア状態の完了後にダンプスイッチをオンにすることで、電荷が加算されたキャパシタの一方から定常状態となった電圧信号波形をそのまま出力することができ過渡現象による電圧波形の乱れを確実に抑えることが可能となる。
【0056】
<2.第2の実施形態>
図8は、本発明の第2の実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタ100の構成を示す回路図である。図8に示すチャージドメインFIRフィルタ100は、シェアスイッチS1aS,S2aS,S3aS,S4aSが設けられていない点で、図5のチャージドメインFIRフィルタ100と相違している。
【0057】
図8に示すように、サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aには、リセットスイッチS1aR,S2aR,S3aR,S4aRと、チャージスイッチS1aC,S2aC,S3aC,S4aCが接続されている。また、サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aには、ダンプスイッチS1aD,S2aD,S3aD,S4aDが接続されている。このように、図8に示すチャージドメインFIRフィルタ100では、サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aに対して3種類のスイッチが接続されている。
【0058】
サンプリングキャパシタC1b,C2b,C3b,C4bには、リセットスイッチS1bR,S2bR,S3bR,S4bR、チャージスイッチS1bC,S2bC,S3bC,S4bC、シェアスイッチS1bS,S2bS,S3bS,S4bSが接続されている。このように、サンプリングキャパシタC1b,C2b,C3b,C4bに対しては、3種類のスイッチが接続されている。
【0059】
図8に示すリセットスイッチ、チャージスイッチ、シェアスイッチ、ダンプスイッチのそれぞれは、図8において各スイッチに記されたΦ1〜Φ4のクロック波形によってそれぞれ駆動される。リセットスイッチ、チャージスイッチ、シェアスイッチ、ダンプスイッチのそれぞれは、クロック波形Φ1〜Φ4がハイ(Hi)レベルとなるタイミングフェーズでオン(ON)になる。各クロック波形Φ1〜Φ4がハイレベルとなるタイミングは、図2と同様である。
【0060】
サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aでは、各サンプリングキャパシタに接続された4種類のスイッチのうち、いずれか1つのスイッチがオンとなるタイミングフェーズでリセット状態、チャージ状態、ダンプ状態のいずれかとなる。更に、各サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aは、各サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aに接続された全てのスイッチがオフになるタイミングフェーズでは、シェア状態となる。
【0061】
サンプリングキャパシタC1b,C2b,C3b,C4bは、各サンプリングキャパシタに接続された3種類のスイッチのうち、いずれか1つのスイッチがオンとなるタイミングフェーズでリセット状態、チャージ状態、シェア状態のいずれかとなる。更に、各サンプリングキャパシタC1b,C2b,C3b,C4bは、各サンプリングキャパシタC1b,C2b,C3b,C4bに接続された全てのスイッチがオフになるタイミングフェーズでは、ホールド(Hold)状態になる。
【0062】
第2の実施形態において、各サンプリングキャパシタのタイミングフェーズと状態との関係は、図6に示した第1の実施形態と同様である。ここでは、C2bとC2aからなる1群のサンプリングキャパシタ対を例に挙げて回路の動作を説明する。
【0063】
先ず、サンプリングキャパシタC2bの状態について図6を参照すると、Φ3がハイになるタイミングでリセットスイッチS2bRがオンとなり、サンプリングキャパシタC2bはリセット状態となる。これにより、サンプリングキャパシタC2bに蓄積されていた過去の電荷が放電される。次に、Φ4がハイになるタイミングにおいてチャージスイッチS2bC,S1aCがオンになると、サンプリングキャパシタC2bは、サンプリングキャパシタC1aとともにチャージ状態となる。これにより、Gm502から供給された電流の半分がサンプリングキャパシタC2bに流れ込み、サンプリングキャパシタC2bに電荷が蓄えられる。次に、Φ1がハイになるタイミングでは、サンプリングキャパシタC2bに接続されたスイッチS2bR,S2bC,S2bSの全てがオフ(OFF)となり、サンプリングキャパシタC2bはホールド状態となる。次に、Φ2がハイになるタイミングでは、シェアスイッチS2bSがオンとなり、サンプリングキャパシタC2bは、サンプリングキャパシタC2aとともにシェア状態となり、2個のサンプリングキャパシタC2b,C2aに蓄えられた電荷が加算される。
【0064】
同様にサンプリングキャパシタC2aは、Φ4がハイになるタイミングでリセットスイッチS2aRがオンとなり、リセット状態となる。これにより、サンプリングキャパシタC2aに蓄積されていた過去の電荷が放電される。次に、Φ1がハイになるタイミングにおいてチャージスイッチS2aC,S3bCがオンになると、サンプリングキャパシタC2aは、サンプリングキャパシタC3bとともにチャージ状態となる。これにより、Gm502から供給された電流の半分がサンプリングキャパシタC2aに流れ込み、サンプリングキャパシタC2aに電荷が蓄えられる。次に、Φ2がハイになるタイミングでは、シェアスイッチS2bSがオンとなり、サンプリングキャパシタC2aは、サンプリングキャパシタC2bとともにシェア状態となり、2個のサンプリングキャパシタC2a,C2bに蓄えられた電荷が加算される。そして、次のΦ3がハイになるタイミングではダンプスイッチS2aDがオンとなり、キャパシタC2a,C2bは出力端子Outに接続される。
【0065】
他のサンプリングキャパシタ対についても、同様の状態遷移がタイミングフェーズをシフトして実行される。そして、FIRフィルタ100の出力端子(OUT)には、サンプリングキャパシタC1a,C2a,C3a,C4aのいずれか1つが接続されて、電荷の出力が絶え間なく連続して行われることになる。
【0066】
図5に示す回路において、シェアスイッチS1aSとS1bS、シェアスイッチS2aSとS2bS、シェアスイッチS3aSとS3bS、シェアスイッチS4aSとS4bSは、Φ1〜4の各タイミングフェーズにてそれぞれ同じ動作を行う。従って、シェアスイッチS1aS,S2aS,S3aS,S4aS(またはシェアスイッチS1bS,S2bS,S3bS,S4bS)は省略することができ、回路構成をより簡素にすることができる。
【0067】
図8の回路においても、シェア状態では、1クロック前に蓄えられた電荷と2クロック前に蓄えられた電荷が加算されるが、各サンプリングキャパシタには、Gm102から供給された電流の半分が電荷として蓄えられている。従って、シェア状態のクロックnのタイミングフェーズで加算された電荷Qsum(n)は、第1の実施形態と同様に数式3で表すことができる。
【0068】
そして、図8の回路においても、シェア状態から1クロック後に、サンプリングキャパシタ対のうちの片側のキャパシタのみが出力端子Outに接続される。このため、ダンプ状態のクロックnのタイミングで出力される電荷Qout(n)は、第1の実施形態と同様に、数式4で表すことができ、数式3と数式4をz変換して数式5が得られる。従って、図8の回路も2タップのFIRフィルタになることが判る。
【0069】
第2の実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタ100においても、図7に示すような乱れのない電圧波形を出力することができる。更に、第2の実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタ100によれば、図5の回路におけるシェアスイッチS1aS,S2aS,S3aS,S4aSが不要となるため、回路構成をより簡素にすることができる。従って、ダンプスイッチを設けていない図1の回路と同じスイッチの数で、ダンプスイッチを設けることができ、電圧波形に乱れのない回路構成を実現できる。
【0070】
以上説明したように第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様にシェア状態の次にダンプ状態を設けた場合において、スイッチ数を増加させることなくダンプ状態を実現することができる。
【0071】
<3.第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。図9は、本発明の第3の実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタ200の構成の一部を示す回路図である。第1及び第2の実施形態では、2タップのチャージドメインFIRフィルタ100に本発明を適用した例を示したが、第3の実施形態は、3タップのチャージドメインFIRフィルタ200に本発明を適用した例を示す。
【0072】
図9に示すように、第3の実施形態に係るチャージドメインFIRフィルタ200では、サンプリングキャパシタC1a,C1bに対して並列に接続されるサンプリングキャパシタC1cが追加されている。サンプリングキャパシタC1cには、リセットスイッチS1cR、チャージスイッチS1cC、シェアスイッチS1cSが接続されている。また、ダンプスイッチS1aDはサンプリングキャパシタC1aに接続され、ダンプスイッチS1bDはサンプリングキャパシタC1bに接続されている。なお、図9では図示を省略するが、第3の実施形態に係るFIRフィルタ200では、サンプリングキャパシタC1aとC1bとC1cからなる1群のキャパシタの他に、キャパシタC2aとC2bとC2c、キャパシタC3aとC3bとC3c、キャパシタC4aとC4bとC4c、キャパシタC5aとC5bとC5cからなる1群のキャパシタがあり、各サンプリングキャパシタC2c,C3c,C4c,C5cには、サンプリングキャパシタC1cと同様に、リセットスイッチ、チャージスイッチ、シェアスイッチ、及びダンプスイッチが接続される。Mタップの並列巡回形フィルタ回路には、(M+2)組以上の1群のサンプリングキャパシタが必要になる。
【0073】
図9に示す3タップのFIRフィルタ200の基本的な動作は、第1及び第2の実施形態と同様であり、各サンプリングキャパシタにはタイミングフェーズ毎に電荷が蓄積され、シェアスイッチによって電荷が加算される。サンプリングキャパシタC1a,C1b,C1cからなる1群のキャパシタを例に挙げると、各タイミングフェーズでサンプリングキャパシタC1a,C1b,C1cに順次に電荷が蓄積された後、シェアスイッチS1aS,S1bS,S1cSがオンとされる。これにより、各サンプリングキャパシタC1a,C1b,C1cに蓄積された電荷が加算される。
【0074】
その後、ダンプ状態では、ダンプスイッチS1aD,S1bDがオンとされ、他のスイッチはオフとされる。これにより、サンプリングキャパシタC1a,C1bに蓄積されていた電荷が出力端子OUTに流れ、出力が得られる。
【0075】
他の1群のキャパシタC2a,C2b,C2c、1群のキャパシタC3a,C3b,C3c、1群のキャパシタC4a,C4b,C4c、1群のキャパシタC5a,C5b,C5cについても同様に、シェア状態において3つのキャパシタの電荷が加算された後、ダンプスイッチがオンとされる。これにより、2つのキャパシタに蓄積された電荷から出力波形が得られる。なお、図9では、サンプリングキャパシタC1aに接続されるダンプスイッチS1aDと、サンプリングキャパシタC1bに接続されるダンプスイッチS1bDを設けているが、ダンプスイッチはいずれか1つでも構わない。
【0076】
図9の回路においても、シェア状態により電荷を加算した後にダンプスイッチがオンとされるため、電荷を加算する際に発生する過渡現象が出力に現れることを抑止できる。従って、定常状態になった後に出力を発生させることにより、図7に示すような乱れのない電圧波形を出力することができる。
【0077】
また、図9において、シェア状態では3つのシェアスイッチS1aS,S1bS,S1cSが同時にオンするため、S1aS,S1bS,S1cSのいずれか1つ(例えばスイッチS1cS)を常にオン状態とすることでスイッチを1つ省略することができる。これにより、回路構成をより簡素にすることができる。
【0078】
同様に、Nタップ(Nは2以上の整数)のFIRフィルタにおいては、N個のサンプリングキャパシタからなる1群のキャパシタのそれぞれのキャパシタに蓄積された電荷をシェア状態で加算した後、キャパシタに接続されたダンプスイッチをオンにする。これより、過渡現象が出力波形に及ぼす影響を確実に抑えることができ、乱れのない電圧波形を出力することが可能となる。
【0079】
また、図8では、2タップのFIRフィルタ100において、シェアスイッチを1つ省略して、各サンプリングキャパシタ対に1つのシェアスイッチを設けた。また、図9では、3タップのFIRフィルタ200において、シェアスイッチを1つ省略して、各サンプリングキャパシタ群に2つのシェアスイッチを設けた。従って、NタップのFIRフィルタでは、シェアスイッチを1つ省略することにより、各サンプリングキャパシタ群のシェアスイッチはN−1個のスイッチで構成できる。
【0080】
以上説明したように第3の実施形態によれば、Nタップ(Nは2以上の整数)のFIRフィルタにおいて、それぞれのサンプリングキャパシタに蓄積された電荷をシェア状態で加算した後、サンプリングキャパシタを出力端子に接続する。これにより、過渡現象が出力波形に及ぼす影響を確実に抑えることができ、乱れのない電圧波形を出力することが可能となる。また、N個のキャパシタからなる1群のキャパシタにおいて、シェアスイッチをN−1個で構成することで、スイッチの数を最小限に抑えて回路構成を簡素化することが可能となる。
【0081】
<4.第4の実施形態>
第4の実施形態は、上述した各実施形態のチャージドメインFIRフィルタを備えた通信装置300に関する。図10は、通信装置300の構成を示す模式図である。
【0082】
図10に示すように、第4の実施形態にかかる通信装置300は、データ生成部310と、信号処理回路320と、周波数変換器330と、ローカル信号発生器340と、電力増幅器350と、帯域制限用フィルタ360と、アンテナ370と、を含んで構成される。
【0083】
通信装置300から送信すべきデータはデータ生成部310で生成され、信号処理回路320に入力される。信号処理回路320では、D/A変換、符号化及び変調などの処理が施されることにより、ベースバンドまたはIF(Intermediate Frequency;中間周波数)帯の送信信号が生成される。信号処理回路320からの送信信号は周波数変換器(ミキサ)340に入力され、ローカル信号発生器330からのローカル信号と乗算される。送信信号がローカル信号と乗算されることによって、送信信号はRF(Radio Frequency;高周波)帯の信号に周波数変換、すなわちアップコンバートされる。
【0084】
周波数変換器340でアップコンバートされて得られるRF信号は、電力増幅器350によって増幅された後、帯域制限用フィルタ360に入力される。そしてRF信号は、帯域制限用フィルタ360で帯域制限を受けて不要な周波数成分が除去された後、アンテナ370に供給される。ここで、帯域制限用フィルタ360に、これまでに説明した各実施形態にかかる種々のチャージドメインFIRフィルタを用いることができる。
【0085】
以上説明したように第4の実施形態によれば、通信装置300の帯域制限用フィルタ360として、第1〜第3の実施形態に係るFIRフィルタを用いることにより、アンテナ370に供給される信号に波形の乱れが生じてしまうことを確実に抑止できる。
【0086】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0087】
100,200 チャージドメインFIRフィルタ
102,202 トランスコンダクタンスアンプ
300 通信装置
C1a〜C4a,C1b〜C4b サンプリングキャパシタ
S1aS〜S4aS,S1bS〜S4bS シェアスイッチ
S1aD〜S4aD ダンプスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端に入力された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換部と、
複数のキャパシタから構成され、前記電圧電流変換部から出力された電流信号が周期毎に各キャパシタへ順次に入力されるキャパシタ集合体と、
電流信号が入力された1群のキャパシタを互いに接続し、当該1群のキャパシタに蓄積された電荷を加算する第1のスイッチと、
前記第1のスイッチにより電荷が加算された後、前記1群のキャパシタのうちの少なくとも1つのキャパシタを出力端に接続する第2のスイッチと、
を備える、フィルタ回路。
【請求項2】
前記1群のキャパシタを構成するキャパシタがN個であり、前記第1のスイッチがN−1個である、請求項1に記載のフィルタ回路。
【請求項3】
前記電圧電流変換部から出力された電流信号を前記周期毎に前記キャパシタ集合体の各キャパシタへ順次に入力する第3のスイッチと、
各キャパシタに蓄積された電荷を前記周期毎に順次に消去する第4のスイッチと、
を更に備える、請求項1に記載のフィルタ回路。
【請求項4】
入力端に入力された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換部と、
複数のキャパシタから構成され、前記電圧電流変換部から出力された電流信号が周期毎に各キャパシタへ順次に入力されるキャパシタ集合体と、
電流信号が入力された1群のキャパシタを互いに接続し、当該1群のキャパシタに蓄積された電荷を加算する第1のスイッチと、
前記第1のスイッチにより電荷が加算された後、前記1群のキャパシタのうちの少なくとも1つのキャパシタを出力端に接続する第2のスイッチと、
を有するフィルタ回路、を備える、通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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