説明

フィルドスクッテルダイト系合金を用いた熱電変換システム。

【課題】金属の粉砕および焼結の工程を行う必要なしに、そのまま熱電変換素子に使用することができるフィルドスクッテルダイト系合金の製造方法と、その方法で製造された熱電変換素子に好適な合金を提供し、高効率の熱発電システムを提供する。
【解決手段】希土類金属R(但し、RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ybのうちの少なくとも1種)、遷移金属T(但し、TはFe、Co、Ni、Os、Ru、Pd、Pt、Agのうちの少なくとも1種)、金属アンチモン(Sb)からなる合金原料を溶解し、その溶湯をストリップキャスト法により急冷凝固してフィルドスクッテルダイト系合金を製造し、熱電変換モジュールを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換素子を利用した熱電発電装置および熱電発電方法に関し、特にゼーベック効果により熱を電気に直接変換する熱電変換素子に用いられるフィルドスクッテルダイト系合金を使用する熱電変換システムに関する。
【背景技術】
【0002】
フィルドスクッテルダイト(Filled Skutterudite)系合金からなる熱電変換材料は、従来の熱電変換材料のひとつである、スクッテルダイト型結晶構造を有するCoSb等の金属間化合物と比較して、熱伝導度が低いことから、特に高温域での熱電変換材料として有望である。
【0003】
フィルドスクッテルダイト系合金は、一般式がRTPn12(但し、Rは希土類金属、Tは遷移金属、PnはP、As、Sbなどの元素)で表される金属間化合物であり、一般式TPn(但し、Tは遷移金属、PnはP、As、Sbなどの元素)で示されるスクッテルダイト型構造の結晶に存在する空孔の一部に、希土類金属(R)などの質量の大きい原子を充填したものである。スクッテルダイト型構造の結晶の空孔に希土類金属原子を充填することによって、Pnとの弱い結合によって希土類金属原子が振動するため、これがフォノンの散乱中心となり、フィルドスクッテルダイト系合金からなる熱電変換材料は熱伝導率が低くなると説明されている。
【0004】
また、フィルドスクッテルダイト系合金は、RまたはTを適切に選択することで、p型およびn型双方を作り分けることができると考えられている。そのためp型およびn型を制御する目的で、FeからなるT成分の一部をCoやNiなどで置換される試みがなされている。
【0005】
上記のようにして作製したブロック状のp型およびn型のフィルドスクッテルダイト系合金を、直接にあるいは金属導体を介して間接に接合させ、p−n接合を形成することにより、熱電変換素子を作製することが出来る。あるいはp型およびn型のフィルドスクッテルダイト系合金からなる熱電変換材料を、馬蹄形状に接触させてp−n接合を作製し、熱電変換素子のモジュールを作製することができる。さらにp−n接合を有する複数の熱電変換素子をつなぎ合わせて、熱交換器を接合したものが熱電変換システムであり、温度差から電気を取り出すことができる。
【特許文献1】特開2000−252526号公報
【特許文献2】特開2002−26400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、フィルドスクッテルダイト系合金を用いて熱電変換素子を作製するためには、希土類金属、遷移金属、およびP、As、Sb等の高純度の粉末原料を目的とするフィルドスクッテルダイト合金の組成になるように秤量して混合し、一旦800℃以下の温度で仮焼し、再び粉砕した後ホットプレスあるいはプラズマ放電焼結によって800℃まで加熱して焼結体を作製し、これを切断して素子としていた。
【0007】
しかし上記の方法では、粉末原料の状態によりフィルドスクッテルダイト系合金の結晶粒径が大きく左右されることになる。また焼結条件を厳密に制御しないと結晶粒径が粗大化して、熱電変換素子の性能が低下する問題があった。
【0008】
そこで上記の問題を防止する目的で、フィルドスクッテルダイト系熱電変換材料のひとつであるSb含有スクッテルダイト系熱電材料について、その焼結体をスクッテルダイト構造の微細化された結晶粒から構成し、かつ該結晶粒の粒界に金属酸化物を分散させる技術が提案されている(特許文献1)。
【0009】
上記の方法は、スクッテルダイト構造の結晶粒の平均結晶粒径を20μm以下にすることが可能であるとされている。しかしこの方法は、結晶粒界に金属酸化物が介在するため、電気伝導度が低下する問題がある。
【0010】
また、フィルドスクッテルダイト系合金からなる熱電変換材料を製造する別の方法として、液体急冷法により作製したリボンを熱処理する方法がある(特許文献2)。一般的に液体急冷法は、石英で作製した管の先端に1mm程度の穴を開けたノズルから、高速で回転するロールの上に溶湯を加圧しながら注ぐものである。
【0011】
しかしこの方法では、リボンが非晶質あるいはSbFe、Sbといった分解生成物を含んでいるために十分な純度のフィルドスクッテルダイト素子を得ることが難しく、873K〜1073Kで5時間以上熱処理しないと実用できないという問題がある。
【0012】
さらに、上記のいずれの方法においても、大気など酸素が存在する雰囲気下で原料調整から焼結までの工程を行うと、希土類金属の酸化によりフィルドスクッテルダイト構造の結晶中の希土類金属原子が格子中から除去され、フィルドスクッテルダイト構造の一部がSbFeとSbに分解される問題があった。
【0013】
本発明は、フィルドスクッテルダイト系合金をストリップキャスト法で製造することにより、従来のフィルドスクッテルダイト系熱電変換材料の製造方法の問題を解決したものである。すなわち本発明は、金属の粉砕および焼結の工程を行う必要なしに、そのまま熱電変換素子に使用することができるフィルドスクッテルダイト系合金の製造方法と、その方法で製造された熱電変換素子に好適な合金を提供する。
さらに本発明は、フィルドスクッテルダイト相のみからなる合金で熱変換素子を作成し、熱変換効率を大幅に増大させた熱電変換モジュールを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以下の各発明を含む。
(1)希土類金属R(但し、RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ybのうちの少なくとも1種)、遷移金属T(但し、TはFe、Co、Ni、Os、Ru、Pd、Pt、Agのうちの少なくとも1種)、金属アンチモン(Sb)からなる合金原料を溶解し、その溶湯をストリップキャスト法により急冷凝固して製造したフィルドスクッテルダイト系合金を用いた熱電変換モジュール。
(2)(1)に記載の熱電変換モジュールを用いた熱電発電装置。
(3)(1)に記載の熱電変換モジュールを用いた熱電発電方法。
(4)(2)に記載の熱電発電装置を用いた廃熱回収システム。
(5)(2)に記載の熱電発電装置を用いた太陽熱利用システム。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ほぼ均一なフィルドスクッテルダイト系合金を、ストリップキャスト法を用いた鋳造法により大量に簡便に生産できる。また、本発明の製造方法により製造されたフィルドスクッテルダイト系合金は、粉砕および焼結の工程を省略してそのまま熱電変換素子に用いることができるために、熱電変換素子の生産コストが大幅に低減できる。
希土類金属の中でも資源的な制約が少ないLaを使用しているため、工業的利用価値が高いだけでなく、有害物質(Pb(鉛)、Te(テルル)等を含まない金属を使用しているため、環境負荷低減に有効である。また、本発明のフィルドスクッテルダイト系合金は、300℃以上の高温域で高い性能を発揮するため、発電量が大きい。さらに、連続製造が可能な急冷鋳造法の採用と粉砕・焼結技術の組み合わせにより、高性能成分であるフィルドスクッテルダイト相のみからなる合金で素子を作成できるので、従来品であるPb-Te系と同等以上の性能を達成でき、高いゼーベック係数と低い電気抵抗を両立することが可能となった。さらに、熱伝導度も低いために熱電変換モジュールをコンパクトにできる。
【0016】
また、本願発明の好ましい実施態様である熱電変換モジュールは、700℃の高温領域まで使用可能であるので、廃熱利用システムに組み込んだ場合において、熱交換器で回収できる熱量を増加させることができるため、未利用熱量を減らすことができる。すなわち、動作温度を下げるために捨てる熱を減らすことが可能であるために、熱変換効率が大幅に向上し、発電量が顕著に増大する。
コジェネシステムに組み込んだ場合、利用しきれない熱(不要な温水)を電気に変換できることから燃費が向上できる発電量も大きくなり、熱電発電モジュールの心臓部品として、発電の高効率化に寄与することが可能である。
希土類焼結磁石生産で確立されている生産プロセスの採用により、従来のバッチ式生産方式に比べ、工業的規模での低コストでの量産が容易である。
本発明によって製造された、高性能な熱電素子は工業用各種炉ならびに焼却炉をはじめとする大規模廃熱のみならず、各種コジェネレーション、給湯器、自動車の排ガス、地熱や太陽熱等の自然エネルギー等、小規模ながら未利用な廃熱を熱源として電気に変換する熱電発電モジュールの心臓部品として、発電の高効率化に寄与することが可能となり、地球温暖化対策へも大いに有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係るフィルドスクッテルダイト系合金は、一般式がRTSb12(但し、RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ybのうちの少なくとも1種、TはFe、Co、Ni、Os、Ru、Pd、Pt、Agのうちの少なくとも1種)で表されるフィルドスクッテルダイト相が体積比で95%以上を占める合金である。なおSbは、その一部をAsまたはPで置換しても良い。
【0018】
本発明のフィルドスクッテルダイト系合金の原料として、希土類金属Rとしては希土類メタル(純度90質量%以上、残部はAl、Fe、Mo、W、C、O、Nなど不可避不純物)あるいはCe、Laからなるミッシュメタル(希土類金属成分90質量%以上、残部はAl、Fe、Mo、W、C、O、Nなど不可避不純物)などを用いることが出来る。また遷移金属Tとしては、純鉄(純度99質量%以上)あるいはCo、Niなどのメタル(純度99質量%以上)等を用いることが出来る。またSbとしては、金属アンチモン(純度95質量%以上、残部はPb、As、Fe、Cu、Bi、Ni、C、O、Nなど不可避不純物)を用いることが出来る。本発明のフィルドスクッテルダイト系合金の原料は、これらのR、Tおよび金属アンチモンの原料を、合金組成がRTSb12になるように秤量して調整する。本発明の合金を製造するため、原料のR、T、Sbの組成比は、それぞれ7.5〜8.3質量%、12.1〜12.3質量%、79.5〜80.2質量%の範囲とするのが好ましい
【0019】
本発明では、ストリップキャスト法(SC法)により、フィルドスクッテルダイト系合金を製造する。合金の製造に用いるSC法の製造装置を図1に示す。図1で、1は坩堝、2はタンディッシュ、3は銅ロール、4は回収箱、5は溶湯、6は凝固した合金の薄片である。
【0020】
本発明のフィルドスクッテルダイト系合金の製造方法では、上記のようにして調整した合金原料を、Ar、Heなどの不活性ガス雰囲気中で、800〜1800℃の温度で坩堝1内で溶解する。この際、雰囲気の圧力を大気圧(0.1MPa)より大きく0.2MPa以下の範囲とすると、Sbの蒸発量を抑えることができるため好ましい。
【0021】
合金原料を溶解した溶湯5は、タンディッシュ2を経由して、図1の矢印方向に回転する水冷した銅ロール3上に注湯することによって急冷凝固させる。この際の冷却速度は、溶解した溶湯の温度から800℃までの範囲で10〜10℃/秒とするのが、フィルドスクッテルダイト相で均一な合金組織を得るに好ましく、5×10〜3×10℃/秒とするのがさらに好ましい。溶湯の冷却速度は、銅ロール3の周速度または銅ロール3への溶湯の注湯量を制御することにより、所望の値にコントロールすることが出来る。
【0022】
溶湯が凝固した合金は、銅ロール3から剥離して薄片6となって回収箱4に集積される。そして回収箱4中で室温まで冷却して取り出される。ここで回収箱4を断熱あるいは強制冷却することにより、凝固した後の合金薄片の冷却速度を制御することができる。このように凝固した後の合金薄片の冷却速度を制御することにより、合金中のフィルドスクッテルダイト相の均一性をさらに向上することが可能となる。
【0023】
本発明でSC法により製造されるフィルドスクッテルダイト系合金の薄片の厚さは、0.1〜2mmとするのが好ましい。合金片の厚さを0.1〜2mmとすることにより、機械的強度が十分で、熱電変換素子に用いる際に加工が容易なフィルドスクッテルダイト系合金を得ることができる。
【0024】
本発明で上記のようにして作製したフィルドスクッテルダイト系合金は、SC法の製造装置から取出したままの状態で新たに熱処理をしなくても、粉末X線回折法により生成相を同定すると、フィルドスクッテルダイト相の最強ピークの強度比が95%以上となる。本発明のフィルドスクッテルダイト系合金の生成相を粉末X線回折法により同定した一例を図2に示す。
【0025】
図2は、SC法の製造装置から取り出したままの合金を粉砕して測定したX線回折測定の結果を示す図である。フィルドスクッテルダイト相の最高強度を示すピークの積分強度とSbFe、Sbといったそれ以外の相の最高強度を示すピークの積分強度を算出し、フィルドスクッテルダイト相とこれらの総和との比を算出することでフィルドスクッテルダイト相の存在比率を知ることができる。例えば、図2に示したX線回折図ではフィルドスクッテルダイト相の存在比率は99質量%以上となる。
【0026】
また、本発明で上記のようにして作製したフィルドスクッテルダイト系合金は、フィルドスクッテルダイト相が体積比で95%以上を占め、フィルドスクッテルダイト相以外の相が体積比で5%以下である。ここでフィルドスクッテルダイト相以外の相とは、例えばSbFe、Sb等の相である。また、本発明の合金内では、フィルドスクッテルダイト相以外の相の最大直径は10μm以下である。
【0027】
合金中のフィルドスクッテルダイト相およびフィルドスクッテルダイト相以外の相の体積比は、走査電子顕微鏡の反射電子像によりフィルドスクッテルダイト相と異なるコントラストの領域の面積比を算出し、これから算出することにより測定することができる。また反射電子像より、フィルドスクッテルダイト相以外の相の最大直径を知ることも出来る。本発明のフィルドスクッテルダイト系合金の走査電子顕微鏡による反射電子像の一例を図3に示す。合金はほぼ均一にフィルドスクッテルダイト相であり、体積比は95体積%以上であり、フィルドスクッテルダイト相以外の相の最大直径は10μm以下であることが分かる。
【0028】
また、本発明のフィルドスクッテルダイト系合金は、不活性雰囲気で溶解、鋳造するため、酸素、窒素および炭素の含有量の総計を0.2質量%以下とすることが出来る。
【0029】
熱電変換素子を作製する場合、本発明で得られたフィルドスクッテルダイト系合金は、p型材料として好適に用いることができる。またn型材料としては、既存のPb−Te系材料などのフィルドスクッテルダイト系合金以外の物質を用いることができる。これらのp型およびn型の熱電変換材料を、直接にあるいは金属導体を介して間接に接合させ、p−n接合を形成することにより、熱電変換素子を作製することが出来る。また、熱電素子モジュールを作製する場合には、低温での特性が優れたBi−Te系材料やSe系化合物、高温での特性が優れたCo酸化物系化合物と組み合わせて使用することができる。
【0030】
熱電変換素子の製造方法は特に限定されないが、図4のような製造工程を例示することが可能である。
本願発明の好ましい実施態様である熱電変換素子から製造される、熱電変換モジュールおよび熱電変換システムの構成は特に限定されないが、図5のようなシステムが例示できる。熱電変換素子を構成するp型半導体およびn型半導体は、例えば、電気的に直列、あるいは並列に接続されて熱電変換モジュールを構成している。構成された熱電変換素子の高温接触部側は、絶縁体を介して、廃熱側熱交換器に密着させられている。一方、熱電変換素子の低温接触部側は、絶縁体を介して冷却水側熱交換器に密着させられている。
このようにして構成された熱電変換システムでは、高温接触部側および低温接触部側に接続されたp型半導体、n型半導体のそれぞれに温度差を発生させて、ゼーベック効果に基づく温度差に応じた電気が熱電変換
により発電されることとなる。
本発明によって製造された、熱電変換システムを採用することで、工業用各種炉ならびに焼却炉をはじめとする大規模廃熱のみならず、各種コジェネレーション、給湯器、自動車の排ガス、地熱や太陽熱等の自然エネルギー等を高効率に利用することが可能となる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
(参考例1)
希土類金属としてLaメタルを用い、その他に電解鉄、SbをLaFeSb12の化学量論組成に相当するよう秤量し、1400℃まで0.1MPaのAr雰囲気中で溶解させた。その後、図1に示したストリップキャスト鋳造装置を用いて、横幅85mm、150g/sの注湯量で、周速度0.92m/sの水冷銅ロール上に溶湯を注湯し、厚さ0.28mmの合金薄片を作製した。なお、このときの冷却速度は1×10℃/sec程度と思われる。
【0032】
製造した合金薄片を粉砕して粉末X線回折測定を行ったところ、図2に示すようにSb2FeあるいはSbのピークはほとんど観測されず、この図からフィルドスクッテルダイト相の存在比率を算出すると98%以上がLaFeSb12フィルドスクッテルダイト相であり、SbFeは2%以下であった。
【0033】
さらにこの合金薄片を、550℃で1時間、大気圧のArフロー中で熱処理すると、粉末X線回折測定ではほぼ100%がLaFeSb12フィルドスクッテルダイト相となった。熱処理後の合金について反射電子像から微細構造および生成相について確認したところ、相の分離は全く見られず、合金のほぼ全体が均一なフィルドスクッテルダイト相であった。
【0034】
(参考例2)
希土類金属としてCeが53質量%、Laが47質量%のミッシュメタルを用いて、その他に電解鉄、Sb(99%)を(Ce,La1−x)FeSb12の化学量論組成になるよう秤量し、1400℃まで0.1MPaのAr雰囲気中で溶解した。その後、図1に示したストリップキャスト鋳造装置を用いて、横幅85mm、150g/sの注湯量で、周速度0.92m/sの水冷銅ロール上に溶湯を注湯し、厚さ0.28mmの合金薄片を作製した。
【0035】
この合金を粉砕して粉末X線回折測定を行ったところ、最強ピークの強度比で98%以上が(Ce,La1−x)FeSb12フィルドスクッテルダイト相であり、SbFeは2%以下であった。
【0036】
さらにこの合金の鋳造直後、回収箱の冷却速度を700℃から500℃まで2℃/secとなるように大気圧のAr雰囲気中で制御すると、粉末X線回折測定では99%以上が(Ce,La1−x)FeSb12フィルドスクッテルダイト相となった。熱処理後の合金について反射電子像から微細構造および生成相について確認したところ、相の分離は全く見られず、合金全体がほぼ均一なフィルドスクッテルダイト相であった。
【0037】
(参考例3)
希土類金属としてLaメタルを用い、その他に電解鉄、SbをLaFeSb12の化学量論組成に相当するよう秤量し、1400℃まで0.2MPaのAr雰囲気中で溶解させた。その後、図1に示したストリップキャスト鋳造装置を用いて、横幅85mm、150g/sの注湯量で、周速度0.92m/sの水冷銅ロール上に溶湯を注湯し、厚さ0.28mmの合金薄片を作製した。
【0038】
製造した合金薄片を粉砕して粉末X線回折測定を行ったところ、最強ピークの強度比で95%以上がLaFeSb12フィルドスクッテルダイト相であり、SbFeは5%以下であった。
【0039】
さらにこの合金薄片を、550℃で1時間、大気圧のArフロー中で熱処理すると、粉末X線回折測定では99%以上がLaFeSb12フィルドスクッテルダイト相となった。熱処理後の合金について反射電子像から微細構造および生成相について確認したところ、相の分離は全く見られず、合金全体がほぼ均一なフィルドスクッテルダイト相であった。
【0040】
(実施例1)
p型素子として参考例3に記載の合金、n型素子としてCeCoSb12を参考例1〜3と同様の方法で作製し、ジェットミル粉砕して平均粒度2.5umの粉末を作製、1.2t/cmの圧力にて成形、800〜900℃アルゴンフロー中で焼結して2mm角に素子を切り出して、電極としてCu、拡散防止層としてTi、NiメッキののちAgロウで700℃で貼り合わせモジュールを作製した。
【0041】
この素子を用いてp、n素子70対でモジュールを作製したところ、その変換効率は低温側30℃、高温側500℃のとき入熱に対して13%であった。
【0042】
(比較例1)
希土類金属としてLaメタルを用い、その他に電解鉄、SbをLaFeSb12の化学量論組成に相当するよう秤量し、1400℃まで10Paの減圧雰囲気中で溶解させた。さらに減圧に保ったまま、実施例1と同様にして、横幅85mm、150g/sの注湯量で周速度0.92m/sの水冷銅ロール上に溶湯を注湯し、厚さ0.28mmのストリップキャスト合金を作製した。
【0043】
この合金を粉砕して粉末X線回折測定を行ったところ、ほぼ全てがSbFeおよびSbであった。さらに熱処理後の合金について反射電子像から微細構造および生成相について確認したところ、合金は複数の相から構成されていた。またこの合金の酸素濃度は0.2質量%を超えており、Sbの量も化学量論に足りなかった。すなわち、スクッテルダイト相から希土類が除去されたことと溶解中にSbが蒸発して化学量論からずれたためにフィルドスクッテルダイト相が得られなかったと推測された。
【0044】
(比較例2)
希土類金属としてLaメタルを用い、その他に電解鉄、SbをLaFeSb12の化学量論組成に相当するよう秤量し、1400℃まで0.1MPaのAr雰囲気注で溶解させた。その後150g/sの注湯量で、幅10mm、厚さ20mmの銅板からなるブックモールド上に溶湯を注湯し合金を作製した。
【0045】
この合金を粉砕して粉末X線回折測定を行ったところ、ほぼ全てがSb2FeおよびSbであった。さらにこの合金を550℃、1時間Ar大気圧フロー中で熱処理したところ、粉末X線回折測定では依然としてSbFeがほとんどであり、フィルドスクッテルダイト相はほとんどみられなかった。また、熱処理後の合金について反射電子像から微細構造および生成相について確認したところ、合金は複数の相から構成されていた。この合金の酸素濃度は0.1質量%以下で、Sb量はほぼ化学量論であったが、この合金を均一なフィルドスクッテルダイト相にするためには、非常に長時間の熱処理が必要と思われた。
【0046】
(比較例3)
p型LaFeSb12、n型CeCoSb12素子用の合金を比較例2の方法で作製、熱処理せずにジェットミル粉砕して平均粒度2.5umの粉末を作製、1.2t/cmの圧力にて成形、800〜900℃アルゴンフロー中で焼結して2mm角に素子を切り出して、電極としてCu、拡散防止層としてTi、NiメッキののちAgロウで700℃で貼り合わせモジュールを作製した。
【0047】
この素子を用いてp、n素子70対でモジュールを作製したところ、その変換効率は低温側30℃、高温側500℃のとき入熱に対して8%であった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明で用いたストリップキャスト製造装置の模式図である。
【図2】本発明により得られたLaFeSb12フィルドスクッテルダイト合金のX線回折図である。
【図3】本発明により得られたLaFeSb12フィルドスクッテルダイト合金の断面の反射電子像である。
【図4】発熱用熱電素子モジュールの製造工程の一例を示した図である。
【図5】熱電変換モジュールおよび熱電変換システムの一例を示した図である。
【符号の説明】
【0049】
1 坩堝
2 タンディッシュ
3 銅ロール
4 回収箱
5 溶湯
6 合金薄片
7 廃熱
8 冷却水
9 熱電変換素子
10 電極
11 導線
12 絶縁板
13 熱交換器



【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属R(但し、RはLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ybのうちの少なくとも1種)、遷移金属T(但し、TはFe、Co、Ni、Os、Ru、Pd、Pt、Agのうちの少なくとも1種)、金属アンチモン(Sb)からなる合金原料を溶解し、その溶湯をストリップキャスト法により急冷凝固して製造したフィルドスクッテルダイト系合金を用いた熱電変換モジュール。
【請求項2】
請求項1に記載の熱電変換モジュールを用いた熱電発電装置。
【請求項3】
請求項1に記載の熱電変換モジュールを用いた熱電発電方法。
【請求項4】
請求項2に記載の熱電発電装置を用いた廃熱回収システム。
【請求項5】
請求項2に記載の熱電発電装置を用いた太陽熱利用システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−86512(P2006−86512A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233842(P2005−233842)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】