説明

フィルムコンデンサの製造方法

【課題】フィルムコンデンサのコンデンサ素子に設けたメタリコン電極に引き出し電極を半田付け作業において、半田コテによる手作業では、作業バラツキにより接合不足や素子への過大な熱ストレスとなる場合が有り、また作業時間を短縮できなかった。本発明は、大きな電流容量が必要なフィルムコンデンサの、メタリコン電極と引き出し電極との最適な半田接合方法を提供することを目的としている。
【解決手段】メタリコンと引き出し電極を、クリーム半田を介した状態で当接させ、当接部分が耐熱性絶縁物からなる誘導加熱装置を押し当てながら誘導加熱することで半田付けをすることにより
再現性の高い半田接合を実現でき、加熱時間が短いことより素子への過大な熱ストレスを抑制できるとともに作業時間を短縮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサの製造方法に関し、特にフィルムコンデンサの電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムコンデンサのコンデンサ素子は、電極に金属箔を使用しセパレータにフィルムを使用したものを、またはフィルムに蒸着により薄膜金属電極を設けたものを、巻回または積層したもので、両端面に亜鉛、銅またはアルミニウムなどの金属をメタリコンにより付着させ、素子外部電極(以下メタリコン電極と呼ぶ)を形成している。
このメタリコン電極には引き出し電極が接合される。この引き出し電極が、小径のリード線などの場合では、抵抗溶接による接合も可能であるが、コンデンサとして大きな電流容量が必要な場合では、大形の引き出し電極が必要となり、半田付けによる接合となる。この半田付けに半田コテを使用した場合、引き出し電極が大形のため熱容量も大きく、半田を溶融させる温度に加熱するまでに時間がかかる。また、長時間半田コテが当てられるため大面積が加熱され、半田付け後の降温にも時間がかかる。その結果、コンデンサ素子に使用されているフィルムは長時間高温に晒されてしまう。
ところで、フィルムコンデンサに使用されるフィルムには、熱に弱いものが多く、高温では収縮によりメタリコンと蒸着金属の接合が外れ、tanδが増加したりして、耐圧低下の要因となる。
そのためこの耐熱対策として、特許文献1には、大形の引き出し電極に、この引き出し電極から一体的に延びた小片を設け、この小片部分に半田コテを使用した半田付けによる接合の提案が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−349447公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、半田コテによる作業では、以下の問題を有している。
1)引き出し電極またはそれから一体的に延びた小片部分を加熱する場合でも、半田コテを使用した場合、加熱の伝達方法が機械的な接触によるために、半田を溶融させる温度に加熱するまでに時間がかかってしまいやすい。そのためフィルムは長時間高温に晒されやすい。
2)半田コテを接触させる角度、押付け力、時間、半田コテ先をスライドさせる方法、半田材料の供給タイミングなど作業者によるバラツキが発生しやすい。また半田コテ先温度は、半田コテのヒーターからの熱供給と作業物への放熱により決定されるため、作業状態によりばらつく。
3)上記のバラツキにより、接続部分の半田の盛上り高さにもバラツキを生じ、小形化の障害になる場合がある。
4)熱伝導に頼るため、作業時間の短縮が困難であり、自動化も困難で高価となりやすい。
【0005】
本発明は、大きな電流容量が必要なフィルムコンデンサの、メタリコン電極と引き出し電極との良好な半田接合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために、下記のフィルムコンデンサの製造方法を提供するものである。
(1)フィルムコンデンサのコンデンサ素子に設けたメタリコン電極に、金属板または金属箔からなる引き出し電極を半田付けするフィルムコンデンサの製造方法において、前記メタリコン電極と引き出し電極とをその間にクリーム半田を介した状態で当接させ、誘導コイルとその表面側に耐熱性絶縁物とを有する誘導加熱装置を使用して、前記耐熱性絶縁物の面を前記当接部分に押し当てて、誘導加熱することで前記引き出し電極を半田付けするフィルムコンデンサの製造方法。
(2)上記(1)において、取っ手を有する誘導加熱装置を使用したフィルムコンデンサの製造方法。
(3)上記(1)または(2)において、内部に水冷パイプを有する誘導加熱装置を使用したフィルムコンデンサの製造方法。
(4)上記(1)〜(3)の何れかにおいて、半田付け状態を目視確認するための孔を設けた引き出し電極を使用したフィルムコンデンサの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、メタリコン電極と引き出し電極とをその間にクリーム半田を介した状態で当接させ、誘導コイルとその表面側に耐熱性絶縁物とを有する誘導加熱装置を使用して、前記耐熱性絶縁物の面を前記当接部に押し当てて、誘導加熱することで半田付けをするため、必要な半田付け部分を必要なだけ局所的、直接的に瞬時に加熱でき、短時間にバラツキの少ない加熱ができ、降温時間も短くなる。この結果、接合不足やフィルムへの過度な熱ストレスが軽減でき品質バラツキが抑えられると共に作業時間も短縮できる。また従来の半田コテによる作業では、熟練を要したが本作業方法では必要としないため、全自動化も容易である。
そのため、大きな電流容量が必要なフィルムコンデンサの、メタリコン電極と引き出し電極との良好な半田接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の誘導加熱装置の外観とそれを手で握った状態を示している。
【図2】本発明の別の誘導加熱装置の概略断面図を示している。
【図3】本発明のフィルムコンデンサを引き出し電極側から見た一部を示している。
【図4】本発明の製造方法の一例を示す側面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に述べるコンデンサ素子は、電極に金属箔を用いセパレータにフィルムを使用したものを、またはフィルムに蒸着により薄膜金属電極を設けたものを巻回または積層したもので、その両端面には、金属をメタリコンにより付着させた素子外部電極が形成されている。フィルムは、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレン等を使用でき、金属箔や薄膜金属の金属としては、アルミニウム、銅、亜鉛またはそれらの合金などが使用できる。
断面形状は巻回した場合は円形、それをつぶした場合は偏平形、積層したものは四角形となるが、偏平形や四角形の方がその側面が平面となり収納効率、放熱性が向上する。
【0010】
本発明に述べるメタリコン電極は、コンデンサ素子の電極の端部に接続する素子外部電極で、亜鉛、銅またはアルミニウムなどの金属をメタリコンにより付着させたものが使用できる。
【0011】
本発明に述べる引き出し電極は、フィルムコンデンサ素子に設けたメタリコン電極と外部との接続のための電極で、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、ステンレス、燐青銅等の金属または合金からなる金属板または金属箔で、表面に錫、半田等をめっきする場合もある。錫めっきを施した銅が好適である。厚さ、形状は、製品の要求する許容電流やESL(等価直列インダクタンス)または強度やストレスから設計されるが、厚さが選定できるのであれば、薄い方が小電力で半田付けができ、素子への熱ストレスを軽減できる。
また、単純な短冊形状のほか、切れ目や孔を設けることにより熱ストレスを軽減したり、表面を粗面化したりして半田接続強度を改善させても良い。分散した孔を設けることにより半田付け状態を目視確認することができる。粗面化方法は、特に限定されず、エッチング、サンドブラスト等の公知の技術を用いることができる。
【0012】
本発明に述べる誘導加熱装置は、誘導コイルと誘導コイルの軸方向の表面に耐熱性絶縁物とを有する。メタリコン電極と引き出し電極とをその間にクリーム半田を介した状態で当接させ、この耐熱性絶縁物の表面側を当接部分に押し当てて、誘導加熱する。
また、必要に応じて、取っ手、または内部に冷却用の水冷パイプを追加する。水冷パイプは誘導コイルのコイル部分を兼用してもよい。水冷が難しい場合には空冷でもよい。
誘導コイルは、一般的に銅線が使用され、数十kHz〜数百kHzで稼動する。局部的加熱が望ましいのでコイル径は半田付け面積程度以下の小径が望ましく、近傍のみの加熱とするには高周波が望ましい。また、フィルムコンデンサ素子や引き出し電極の仕様に適した形状、大きさ、巻き数のコイルおよび定格電力のものが選定され、事前の実験結果に基づいて最適な周波数、コイル電流、通電時間とする。また素子や引き出し電極の仕様に応じて周波数、コイル電流、通電時間を調整出来ることが好ましい。
誘導加熱後は、熱は速やかに冷却されることが望ましい。従って当接面に配する耐熱性絶縁物は熱伝導性の良い材質が好ましく、ガラス、セラミック、フッ素樹脂またはそれらの複合・積層体などが適宜選定される。
【0013】
本発明に述べるクリーム半田は、半田の粒子ボールをフラックスで練った一般的なもので、市販のものが使用でき、半田ボールの大きさや、バインダなど最適なものを選定する。
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の誘導加熱装置の外観とそれを手で握った状態を示している。半田付け作業を手作業で行う場合の例で,同図の通り、指が入って握れる取っ手2を有している。取っ手2には指で操作できる位置に誘導加熱装置1の電源スイッチ8を設けている。また、取っ手2の反対側には耐熱性絶縁物5を有していて、この耐熱性絶縁物5を、メタリコン電極と引き出し電極とをその間にクリーム半田を介した状態で当接させた部分に押し当てて、誘導加熱する。
【0015】
図2は、本発明の別の誘導加熱装置の概略断面図を示している。2が取っ手、3が誘導コイル、4が水冷パイプ、5が耐熱性絶縁物を示している。誘導コイル3の軸方向は、耐熱性絶縁物5の表面から垂直方向に設置する。
【0016】
図3は、本発明のフィルムコンデンサを引き出し電極側から見た一部を示している。コンデンサ素子の端面に設けたメタリコン電極7と引き出し電極10とをその間にクリーム半田を介した状態で当接させた部分の引き出し電極10部分に、孔11を一つまたは複数設けることにより、半田付け時に孔11に流入する半田量により、半田付け状態を目視確認することができる。
【実施例1】
【0017】
図4は、本発明の製造方法の一例を示す側面図を示している。
まず、片面にアルミニウムを蒸着して、金属電極を形成した薄い帯状のポリエステルフィルムを2枚重ね合わせて巻回し、端面が円形の柱状体とし、その両端面に、銅、その表面に錫のメタリコンによって形成されるメタリコン電極7を設けたコンデンサ素子6を複数用意する。
次に、コンデンサ素子6のメタリコン電極7の面を一列にそろえてコンデンサ素子6を仮固定した。
次に、コンデンサ素子6のメタリコン電極7に、スクリーン印刷法によりクリーム半田9を厚さ20μmになるように塗布した。
次に、クリーム半田9を乾燥後、0.3mm厚の銅箔からなる引き出し電極10をクリーム半田9の塗布した所定の位置に配置した。その後、誘導加熱装置1の取っ手をつかんで、加熱コイルが半田付けする位置の真上に来るように配置し、誘導加熱装置1の耐熱性絶縁物の面側で引き出し電極10を押付けながら、誘導加熱装置1を半田が溶融する所定の条件で作動させた。この時、誘導加熱装置1の押付け部分の引き出し電極10部分は下に沈み込んだ。
次に、誘導加熱装置1の電源スイッチを切る。誘導加熱装置1には、水冷パイプが内蔵されていて循環水により要部が冷却される。半田が冷え固まるまで、押付け続ける。
以上、必要な接続箇所の数だけ繰り返し、一方の引き出し電極10を半田付けした。
次に、コンデンサ素子6の反対面も同様に行い、もう一方の引き出し電極10も半田付けした。
【符号の説明】
【0018】
1…誘導加熱装置、2…取っ手、3…誘導コイル、4…水冷パイプ、5…耐熱性絶縁物
6…コンデンサ素子、7…メタリコン電極、8…電源スイッチ、9…クリーム半田、
10…引き出し電極、11…孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムコンデンサのコンデンサ素子に設けたメタリコン電極に、金属板または金属箔からなる引き出し電極を半田付けするフィルムコンデンサの製造方法において、前記メタリコン電極と引き出し電極とをその間にクリーム半田を介した状態で当接させ、誘導コイルとその表面側に耐熱性絶縁物とを有する誘導加熱装置を使用して、前記耐熱性絶縁物の面を前記当接部分に押し当てて、誘導加熱することで前記引き出し電極を半田付けするフィルムコンデンサの製造方法。
【請求項2】
取っ手を有する誘導加熱装置を使用した請求項1に記載のフィルムコンデンサの製造方法。
【請求項3】
内部に水冷パイプを有する誘導加熱装置を使用した請求項1または2に記載のフィルムコンデンサの製造方法。
【請求項4】
半田付け状態を目視確認するための孔を設けた引き出し電極を使用した請求項1、2または3に記載のフィルムコンデンサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−249434(P2011−249434A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118902(P2010−118902)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(309035062)日立エーアイシー株式会社 (47)
【Fターム(参考)】