説明

フィルムコンデンサ及びフィルムコンデンサ素子の製造方法

【課題】インバータ装置の内部の凹凸スペースを有効利用できるフィルムコンデンサ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】インバータ装置1の内部に配置され、フィルムコンデンサCO1を構成するフィルムコンデンサ素子10の製造方法は、巻回工程と、プレス工程とを備える。巻回工程では、二枚の金属フィルムをテンションTが付与された状態で巻取軸に巻回して直線状コンデンサ素子を製造する。プレス工程では、直線状コンデンサ素子を上型及び下型により押圧して屈曲部を有するL字状のフィルムコンデンサ素子10を製造する。特に、巻回工程では、金属フィルムの一巻において、屈曲部の外側部分となる部位に付与されるテンションを最も小さくするとともに、屈曲部の内側部分となる部位に付与されるテンションを最も大きくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
インバータ装置の内部に配置されるフィルムコンデンサ、及びフィルムコンデンサを構成するフィルムコンデンサ素子の製造方法に関し、特にインバータ装置の内部の凹凸スペースに配置することができるフィルムコンデンサ及びフィルムコンデンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界において、環境保護の観点から電気モータとエンジンとで走行するハイブリッド自動車が導入されていて、このようなハイブリッド自動車用では電気モータを駆動するインバータ装置が搭載されている。インバータ装置の概略的な構成として、例えば図13に示したように、駆動素子を含むモールド部102と、このモールド部102の下に設けられた冷却器103と、駆動素子の駆動を制御するためのプリント基板104と、このプリント基板104を支持する支持ケース105と、モールド部102の駆動素子に接続されている配線106とを備えたものがある。このようなインバータ装置101では、内部のスペースに高耐圧で低損失の電気特性を有するフィルムコンデンサFCが搭載されている。
【0003】
ここで、フィルムコンデンサFCを構成するコンデンサ素子は、例えば下記特許文献1に記載されたものがある。このコンデンサ素子を製造する場合には、先ず誘電体フィルムの片面又は両面に蒸着電極を形成した金属フィルムを一対として、上記蒸着電極が誘電体フィルムを介して対向する状態で巻回し、次に両端面に溶射したメタリコン電極を形成する。このようにして、図14(a)に示した円筒形状のフィルムコンデンサ素子FC1が製造される。また、図14(a)に示したフィルムコンデンサ素子FC1を上下方向から潰すことにより、図14(b)に示した扁平形状(断面が小判形状)のフィルムコンデンサ素子FC2が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−188158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図13に示したように、インバータ装置101の内部では、駆動素子を含むモールド部102等によって凹凸スペースSPが生じていて、従来では凹凸スペースSPが利用できない空間になっていた。即ち、従来では、フィルムコンデンサ素子FC1,FC2で構成されるフィルムコンデンサFCが図13に示したように配置されていて、凹凸スペースSPが有効活用されず、インバータ装置101の高さ寸法Vが大きくなっていた。
【0006】
本発明は、上記した課題を解決すべく、インバータ装置の内部の凹凸スペースを有効利用できるフィルムコンデンサを提供すること、及びフィルムコンデンサ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るフィルムコンデンサ素子の製造方法は、インバータ装置の内部に配置され、フィルムコンデンサを構成するフィルコンデンサ素子の製造方法であって、二枚の金属フィルムをテンションが付与された状態で巻取軸に巻回して直線状コンデンサ素子を製造する巻回工程と、前記直線状コンデンサ素子を押圧して屈曲部を有するフィルムコンデンサ素子を製造するプレス工程と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係るフィルムコンデンサ素子の製造方法において、前記巻回工程では、前記金属フィルムの一巻部分において、前記屈曲部の外側部分となる部位に付与されるテンションを最も小さくするとともに、前記屈曲部の内側部分となる部位に付与されるテンションを最も大きくすることを特徴とする。
また、本発明に係るフィルムコンデンサ素子の製造方法において、前記プレス工程では、前記直線状コンデンサ素子からL字状又はT字状或いはコ字状のフィルムコンデンサ素子を製造することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るフィルムコンデンサは、インバータ装置の内部に配置されるものであって、複数のフィルムコンデンサ素子により構成され、前記複数のフィルムコンデンサ素子のうち少なくとも一つは、プレス加工により形成された屈曲部を有し、前記インバータ装置の内部の凹凸スペースに配置されるものであることを特徴とする。
また、本発明に係るフィルムコンデンサにおいて、前記コンデンサ素子は、L字状又はT字状或いはコ字状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
よって、本発明のコンデンサ素子の製造方法によれば、直線状コンデンサ素子をプレス加工することによって、屈曲部を有するフィルムコンデンサ素子を製造する。即ち、既存の円筒形状又は扁平形状のフィルムコンデンサ素子(直線状コンデンサ素子)をプレス加工するだけであるため、インバータ装置の内部の凹凸スペースに配置するフィルムコンデンサ素子を安価かつ容易に製造できる。
特に、金属フィルムの巻回工程で、一巻部分において、屈曲部の外側部分となる部位に付与されるテンションを最も小さくするとともに、屈曲部の内側部分となる部位に付与されるテンションを最も大きくする場合には、製造されたフィルムコンデンサ素子において、屈曲部の外側部分では、蒸着電極が誘電体フィルムから剥がれてコンデンサ素子としての機能が損なわれることを防止でき、屈曲部の内側部分では、縮むように緩められてコンデンサ素子としての電気特性にバラツキが生じることを防止できる。
【0011】
また、本発明のフィルムコンデンサによれば、フィルムコンデンサ素子が、プレス加工により形成された屈曲部を有し、インバータ装置の内部の凹凸スペースに配置されるものである。このため、インバータ装置の内部の凹凸スペースを有効利用することができ、インバータ装置の高さ寸法を、従来のインバータ装置の高さ寸法に比して、小さくすることができる。この結果、インバータ装置の内部の部品を小型化することができて、コストを低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】内部にフィルムコンデンサが配置されたインバータ装置を示した概略図である。
【図2】図1に示したコンデンサ素子の斜視図である。
【図3】円筒形状のフィルムコンデンサ素子(直線状素子)を示した模式図である。
【図4】蒸着工程を示す説明図である。
【図5】二枚の金属フィルムを巻回する状態を示した斜視図である。
【図6】直線状素子からL字状のコンデンサ素子を製造するためのプレス工程を示す説明図である。
【図7】図5に示したテンション調整部の構成を示した概略図である。
【図8】図5に示した金属フィルムが巻取軸に巻回された状態を示した概略図である。
【図9】図8で示した金属フィルムが巻取軸で巻回される前の搬送状態を示した平面図である。
【図10】テンション調整部が金属フィルムに付与するテンションと巻回時間との関係を示した図である。
【図11】第2実施形態において、内部にフィルムコンデンサが配置されたインバータ装置を示した概略図である。
【図12】直線状素子からT字状のコンデンサ素子を製造するためのプレス工程を示す説明図である。
【図13】内部に従来のフィルムコンデンサが配置されたインバータ装置を示した概略図である。
【図14】従来のコンデンサ素子を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明に係るフィルムコンデンサ及びフィルムコンデンサ素子の製造方法について、図面を参照しながら以下に説明する。図1は、インバータ装置1を示した概略図である。インバータ装置1は、ハイブリッド自動車の電気モータを駆動するためのものであり、図1に示したように、IGBT,ダイオード等の駆動素子を含むモールド部2と、このモールド部2の下に設けられている冷却器3と、駆動素子の駆動を制御するためのプリント基板4と、このプリント基板4を支持する支持ケース5と、モールド部2の駆動素子に接続されている配線6とを備えている。また、このインバータ装置1には、内部にT字状のフィルムコンデンサCO1が配置されていて、このフィルムコンデンサCO1は、二個のL字状のフィルムコンデンサ素子10,10(以下、「コンデンサ素子10」と適宜省略する)が並べられた状態でモールドされたものである。なお、二個のコンデンサ素子10の構成は同様である。
【0014】
図2は、図1に示したコンデンサ素子10の斜視図である。このコンデンサ素子10は、円筒形状のフィルムコンデンサ素子を製造し、製造された円筒形状のフィルムコンデンサ素子をプレス加工することにより、製造される。ここで、先ず円筒形状のフィルムコンデンサ素子の構造について図3を用いて説明する。図3は、円筒形状のフィルムコンデンサ素子10Aを示した模式図である。円筒状のフィルムコンデンサ素子10Aは直線状に延びているため、以下、円筒状のフィルムコンデンサ素子10Aを「直線状素子10A」と適宜省略する。図3における破線部分は、説明のために巻回された金属フィルムの一部をほどいたものである。この破線部分では、ほどき始めの部位Pから、金属フィルムの先端Qにかけて、図示するXY座標のうちY方向へ次第に拡大して示している。
【0015】
直線状素子10Aは,N型金属フィルム20とP型金属フィルム30とを重ねて円筒状に巻回したものである。この直線状素子10Aの寸法は、例えば52mm×38mm×100mm程度であり、巻数は、例えば3174回程度である。N型金属フィルム20は、N型誘電体フィルム21の上に、N型蒸着電極22を形成したものである。P型金属フィルム30は、P型誘電体フィルム31の上に、P型蒸着電極32を形成したものである。
【0016】
また、直線状素子10Aにおける図中X方向の端面には、N型電極を統合するN型メタリコン23と、P型電極を統合するP型メタリコン33とが形成されている。N型メタリコン23は、N型蒸着電極22に接していて、P型メタリコン33は、P型蒸着電極32に接している。N型誘電体フィルム21及びP型誘電体フィルム31は、厚さが3μm程度であり、その材質には、PP(ポリプロピレン)が用いられている。なお、N型誘電体フィルム21及びP型誘電体フィルム31の材質は、PPに限定されるものではなく、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)であっても良い。N型蒸着電極22及びP型蒸着電極32は、アルミ蒸着電極22aと亜鉛蒸着電極22bとで構成されていて、アルミ蒸着電極22aの厚さは10nm程度であり、亜鉛蒸着電極22bの厚さは30nm程度である。なお、N型蒸着電極22及びP型蒸着電極32の構成は、上記した構成に限定されるものではなく、適宜変更可能である。
【0017】
次に、直線状素子10Aの製造方法について図4及び図5を用いて説明する。図4は、この製造方法の蒸着工程を示す説明図である。図5は、二枚の金属フィルムを巻回する状態(巻回工程)を示した斜視図である。蒸着工程は、電極材料を誘電体フィルムの上に蒸着する工程であり、巻回工程は、蒸着後の二枚の金属フィルム(N型金属フィルム20及びP型金属フィルム30)を重ね合わせて巻回する工程である。なお、N型電極材料の蒸着工程と、P型電極材料の蒸着工程とは、基本的に同じであるため、N型電極材料の蒸着工程を例に挙げて具体的に説明する。
【0018】
蒸着工程では、図4に示したように、先ず巻出軸40から蒸着前のN型誘電体フィルム21を巻き出す。巻き出されたN型誘電体フィルム21は、電極蒸着機41へと搬送されて、片面にアルミ電極材料41aが蒸着される。そして、アルミ電極材料41aが蒸着されたN型誘電体フィルム21は、電極蒸着機42へと搬送されて、片面に亜鉛電極材料42aが蒸着される。こうして、蒸着工程が完了し、蒸着されたものがN型金属フィルム20である。蒸着されたN型誘電体フィルム21(N型金属フィルム20)は、搬送ローラ43に搬送され、後述するテンション調整部50を通過する。
【0019】
巻回工程では、図5に示したように、蒸着工程を経て形成されたN型金属フィルム20とP型金属フィルム30とが、搬送ローラ43により巻取軸44へと搬送される。そして、N型金属フィルム20の蒸着面とは逆側の面Aと、P型金属フィルム30の蒸着面Bとを重ね合わせた状態で、巻取軸44で巻回される。このように巻回されることで、N型蒸着電極22とP型蒸着電極32とが、各誘電体フィルム21,31を介して交互に配置される。その後、各端面にN型メタリコン23及びP型メタリコン33を形成して、図3に示す直線状素子10Aが製造される。
【0020】
続いて、直線状素子10AからL字状のコンデンサ素子10を製造するためのプレス工程について図6を用いて説明する。図6は、プレス工程を示す説明図である。プレス工程では、図6(a)に示したように、上型61で直線状素子10Aの図中右側を下方へ押圧するとともに、下型62で直線状素子10Aの図中左側を上方へ押圧する。これにより、直線状素子10Aの長手方向中間部が屈曲し、図6(b)に示したように、屈曲部10aが形成されたコンデンサ素子10が製造される。
【0021】
ここで、図4に示したテンション調整部50について説明する。テンション調整部50は、N型金属フィルム20,P型金属フィルム30に対して適正なテンションを付与するためのものである。以下、N型金属フィルム20にテンションを付与する場合と、P型金属フィルム30にテンションを付与する場合とは同様であるため、N型金属フィルム20又はP型金属フィルム30を代表して、金属フィルム20,30と呼ぶ。
【0022】
金属フィルム20,30は適正なテンションが付与された状態で巻取軸44により巻回される必要がある。なぜなら、付与されるテンションが適正でない場合には、製品としてのコンデンサの電気特性に問題が生じるためのである。例えば、付与されるテンションが大きすぎる場合には、金属フィルム20,30が伸びて局所的にしわが生じる。一方、付与されるテンションが小さすぎる場合には、搬送される金属フィルム20,30が蛇行する。何れの場合においても、コンデンサの電気特性にバラツキが生じることになる。なお、付与されるテンションの適正値は、金属フィルム20,30の材質、厚み、幅等によって適宜設定されるものである。
【0023】
次に、テンション調整部50の構成について図7を用いて説明する。テンション調整部50は、図7に示したように、ダンサローラ51と、金属フィルム20,30の移動をガイドする二個のガイドローラ52と、ダンサローラ51に接続されたスイングアーム53と、このスイングアーム53の回転角を検出するポテンショメータ54と、スイングアーム53に回転力を付与するDCモータ55と、このDCモータ55の駆動を制御する電子制御装置56とを備えている。このテンション調整部50では、電子制御装置56が、金属フィルム20,30の移動速度及びポテンショメータ53により検出された回転角とに基づいて、DCモータ54の駆動を制御する。これにより、DCモータ55の回転軸55aが回転し、スイングアーム53が回転することにより、ダンサローラ51が上下動する。この結果、搬送される金属フィルム20,30に付与されるテンションTが調整されるようになっている。
【0024】
ところで、この実施形態のコンデンサ素子10Aは上述したようにL字状に折り曲げられるため(図2参照)、コンデンサ素子10の屈曲部10aの外側部分10bでは、引張られて大きな負荷がかかる。このため、屈曲部10aの外側部分10bで蒸着電極22,32が誘電体フィルム21,31から剥がれて、コンデンサ素子10としての機能が損なわれるおそれがある。また、コンデンサ素子10の屈曲部10aの内側部分10cでは、縮むように弛められるため、コンデンサ素子10としての電気特性にバラツキが生じるおそれがある。そこで、この実施形態では、テンション調整部50が金属フィルム20,30に付与するテンションを適切に調整することにより、上記した問題に対処できるようになっている。以下、調整されるテンションについて図8、図9及び図10を用いて説明する。
【0025】
図8は、直線状素子10Aを構成する金属フィルム20,30が巻取軸44に巻回された状態を示した概略図である。図8では、屈曲部10aの外側部分10bとなる部位がa1〜a5で示され、屈曲部10aの内側部分10cとなる部位がb1〜b5で示されている。a1〜a5で示した部位とb1〜b5で示した部位とは、直線状素子10Aの周方向で180度離れている。
【0026】
図9は、図8で示した金属フィルム20,30が巻取軸44で巻回される前の搬送状態を示した平面図である。図9に示したように、a1,b1,a2,b2,a3,b3,a4,b4,a5で示した部位が搬送先の方から順に位置している。ここで、a1とa2との間、b1とb2との間が巻回工程における一巻(一周期)である。なお、一巻部分において、巻取軸44から径外方向に向かうに従って巻く長さが長くなるため、a1とa1との間、b1とb2との間、……、b3とb4との間、a4とa5との間が順に大きくなっている。
【0027】
図10は、テンション調整部50が金属フィルム20,30に付与するテンションTと、巻回時間tとの関係を示した図である。図10に示したように、テンション調整部50は、テンションTが波形状になるように調整する。具体的に、屈曲部10aの外側部分10bとなる部位であるa1〜a5は、一巻部分(一周期)において最も小さいテンションTとなるように調整される。これにより、屈曲部10aの外側部分10bでは、蒸着電極22,32が誘電体フィルム21,31から剥がれて、コンデンサ素子10としての機能が損なわれることを防止できる。一方、屈曲部10aの内側部分10cとなる部位であるb1〜b4は、一巻(一周期)において最も大きいテンションTとなるように調整される。これにより、屈曲部10aの内側部分10cでは、弛むように縮められて、コンデンサ素子10としての電気特性にバラツキが生じることを防止できる。
【0028】
また、図10に示したように、巻回数(巻回時間t)が増えるに従って、テンションTを大きくする必要がある。即ち、a1〜a5においてテンションTを順に大きくするとともに、b1〜b4においてテンションTを順に大きくする。これは、巻取軸44から遠い(径外方向側にある)金属フィルム20,30は巻取軸44から近い(径内方向側にある)金属フィルム20,30に比べて弛み易いため、テンションTを順に大きくすることで、金属フィルム20,30を弛むことなく適切に巻回できるためである。このようにして、金属フィルム20,30は、テンション調整部50でテンションTが調整された後、巻取軸44に巻回されて、直線状素子10Aを構成する。
【0029】
次に、フィルムコンデンサCO1及びコンデンサ素子10の製造方法の作用効果について説明する。
この実施形態のコンデンサ素子10の製造方法によれば、直線状素子10Aをプレス加工することによって、屈曲部10aを有するコンデンサ素子10を製造する。即ち、既存の円筒形状又は扁平形状のフィルムコンデンサ素子(直線状素子10A)をプレス加工するだけであるため、インバータ装置1の内部の凹凸スペースSPに配置するフィルムコンデンサ素子を安価かつ容易に製造できる。
特に、この実施形態のコンデンサ素子10の製造方法によれば、巻回工程で、金属フィルム20,30の一巻部分において、屈曲部10aの外側部分10bとなる部位a1〜a5に付与されるテンションTを最も小さくするとともに、屈曲部10aの内側部分10cとなる部位b1〜b4に付与されるテンションTを最も大きくする。これにより、製造されたコンデンサ素子10において、屈曲部10aの外側部分10bでは、蒸着電極22,32が誘電体フィルム21,31から剥がれてコンデンサ素子10としての機能が損なわれることを防止でき、屈曲部10aの内側部分10cでは、縮むように緩められてコンデンサ素子10としての電気特性にバラツキが生じることを防止できる。
【0030】
また、この実施形態のフィルムコンデンサCO1によれば、L字状のフィルムコンデンサ素子10が、インバータ装置1の内部の凹凸スペースSPに配置されるため、インバータ装置1の内部の凹凸スペースSPを有効利用することができる。このため、インバータ装置1の高さ寸法W(図1参照)を、従来のインバータ装置101の高さ寸法V(図13参照)に比して、小さくすることができる。この結果、インバータ装置1の内部の部品を小型化することができて、コストを低くすることができる。
【0031】
次に、第2実施形態について図11及び図12を用いて説明する。図11は、内部にT字状のフィルムコンデンサCO2を配置したインバータ装置1を示した概略図である。このフィルムコンデンサCO2は、T字状のフィルムコンデンサ素子70(以下、「コンデンサ素子70」と適宜省略する)が並べられた状態でモールドされたものである。第2実施形態では、第1実施形態と同一部材については同一符号を付して、その説明を省略する。
【0032】
図12は、直線状素子70AからT字状のコンデンサ素子70を製造するためのプレス工程を示した説明図である。直線状素子70Aは、上述した直線状素子10Aと同様に製造されたものであって、直線状素子10Aより長いものである。プレス工程では、先ず、図12(a)に示したように、下型82の上に直線状素子70Aを配置する。次に、図12(b)に示したように、直線状素子70Aの長手方向中間部に対して、上型81を下型82の凹部92aに向けて押圧する。これにより、直線状素子70Aにハット状の屈曲部70aを形成する。続いて、図12(c)に示したように、直線状素子70Aの鍔部70bを上型83と左金型84及び右金型85との間で挟みながら、ハット状の屈曲部70aを左金型84で右方向に押圧するとともに、ハット状の屈曲部70aを右金型85で左方向に押圧する。最後に、ハット状の屈曲部80aの底部分が直線状になるように形を整える。このようにして、図11に示したT字状のコンデンサ素子70が製造される。
【0033】
この第2実施形態においては、一つの直線状素子70Aを用いてT字状のフィルムコンデンサCO2が構成されているため、二つの直線状素子10Aを用いてT字状のフィルムコンデンサCO1が構成された第1実施形態に比して、T字状のフィルムコンデンサを構成する部品数(フィルムコンデンサ素子の数)を少なくすることができる。第2実施形態のその他の作用効果は、第1実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0034】
以上、本発明に係るフィルムコンデンサ及びフィルムコンデンサ素子の製造方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、第1実施形態において、プレス工程で直線状素子10AからL字状のコンデンサ素子10を製造したが、このL字状コンデンサ素子10から更に図6に示したプレス工程でコ字状のコンデンサ素子を製造しても良い。
また、第1実施形態において、屈曲部10aを有する二個のコンデンサ素子10,10を並べてT字状のフィルムコンデンサCO1を構成したが、屈曲部10aを有する1個のコンデンサ素子と屈曲部10aを有さない1個のコンデンサ素子(直線状素子)を並べてT字状のフィルムコンデンサを構成しても良く、屈曲部10aを有する二個のコンデンサ素子10,10を並べてL字状のフィルムコンデンサを構成しても良い。
【0035】
また、各実施形態において、直線状素子10A,70Aとして円筒形状のフィルムコンデンサ素子(図14(a)参照)を用いる場合について説明したが、直線状素子として円筒形状のフィルムコンデンサ素子を潰して形成された扁平形状(断面が小判形状)のフィルムコンデンサ素子(図14(b)参照)を用いても良い。
また、各実施形態において、コンデンサ素子10,70では屈曲された角度が90度であるが、屈曲される角度は90度に限定されるものではなく、例えば45度等であって良い。即ち、コンデンサ素子はV字状であっても良い。
【符号の説明】
【0036】
1 インバータ装置
2 モールド部
3 冷却器
4 プリント基板
5 支持ケース
6 配線
CO1 フィルムコンデンサ
10 コンデンサ素子(フィルムコンデンサ素子)
10A 直線状素子(直線状コンデンサ素子)
10a 屈曲部
10b 外側部分
10c 内側部分
20 N型金属フィルム
30 P型金属フィルム
20,30 金属フィルム
44 巻取軸
50 テンション調整部
51 ダンサローラ
55 電気モータ
56 電子制御装置
61 上型
62 下型
70 コンデンサ素子
70A 直線状素子
CO2 フィルムコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ装置の内部に配置され、フィルムコンデンサを構成するフィルムコンデンサ素子の製造方法において、
二枚の金属フィルムをテンションが付与された状態で巻取軸に巻回して直線状コンデンサ素子を製造する巻回工程と、
前記直線状コンデンサ素子を押圧して屈曲部を有するフィルムコンデンサ素子を製造するプレス工程と、を備えていることを特徴とするフィルムコンデンサ素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載するフィルムコンデンサ素子の製造方法において、
前記巻回工程では、前記金属フィルムの一巻部分において、前記屈曲部の外側部分となる部位に付与されるテンションを最も小さくするとともに、前記屈曲部の内側部分となる部位に付与されるテンションを最も大きくすることを特徴とするフィルムコンデンサ素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載するフィルムコンデンサ素子の製造方法において、
前記プレス工程では、前記直線状コンデンサ素子からL字状又はT字状或いはコ字状のフィルムコンデンサ素子を製造することを特徴とするフィルムコンデンサ素子の製造方法。
【請求項4】
インバータ装置の内部に配置されるフィルムコンデンサにおいて、
複数のフィルムコンデンサ素子により構成され、
前記複数のフィルムコンデンサ素子のうち少なくとも一つは、プレス加工により形成された屈曲部を有し、前記インバータ装置の内部の凹凸スペースに配置されるものであることを特徴とするフィルムコンデンサ。
【請求項5】
請求項4に記載するフィルムコンデンサにおいて、
前記コンデンサ素子は、L字状又はT字状或いはコ字状であることを特徴とするフィルムコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−89799(P2012−89799A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237616(P2010−237616)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】