説明

フィルム冷却を高めるためのシステム及び方法

【課題】フィルム冷却を高める少なくとも1つのトレンチ(44)をサンプル(92)内に形成するためのシステム(80)を提供する。
【解決手段】本システム(80)は、少なくとも1つのパルスレーザビーム(84)を出力する少なくとも1つのレーザ発生源(82)を含む。パルスレーザビーム(84)は、約50μsよりも小さい範囲を備えたパルス幅と、約0.1ジュールよりも小さい範囲を有するパルス当たりエネルギーと、約1000Hzよりも大きい範囲になった繰返し速度とを含む。本システム(80)はまた、レーザ発生源(82)に結合された制御サブシステム(98)を含み、制御サブシステム(98)は、サンプル(92)の位置をパルス幅及びエネルギーレベルと同期させて、該サンプル(92)内の断熱皮膜、ボンディングコート及び基体金属の少なくとも1つを選択的に除去して少なくとも1つのトレンチ(44)を形成するように構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、総括的には高温度におけるフィルム冷却に関し、より具体的には、フィルム冷却を高めるトレンチの形成に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機エンジン及び定置式発電システムにおける様々な構成要素は、非常に高温の環境で作動する。これらの構成要素は、航空機用途の場合には最大約3800°Fまでのまた定置式発電用途の場合には最大約2700°Fまでの温度を有する高温ガスに曝される。高温ガスに曝される構成要素を冷却するために、これらの「高温ガス通路」の構成要素は一般的に、内部対流冷却及び外部フィルム冷却の両方を有する。例えば、幾つかの冷却孔が、構成要素の比較的低温表面から該構成要素の「高温」表面まで延びることができる。フィルム冷却は、それが高温ガスから構成要素の表面への入射熱流束を減少させるので、より多くの利点を有するものとなる。
【0003】
冷却媒体は一般的に、圧縮機から抽気された加圧空気であり、この加圧空気は次に、エンジンの燃焼ゾーンをバイパスしかつ冷却孔を通して高温表面に供給される。冷却媒体は、高温構成要素表面と高温ガス流との間に保護「フィルム」を形成し、それによって構成要素を加熱から保護するのを助ける。さらに、高温表面上において例えば断熱皮膜(TBC)のような保護皮膜を用いて、構成要素の作動温度を上昇させることができる。フィルム冷却は、冷却媒体流が高温表面に沿って進む時に最も高温となる。それ故に、それに限定されないがトレンチ及びクレータのような異なる表面ジオメトリ及び形状を形成して、冷却媒体流と高温表面及び/又は表面上のより低温の有効なガス温度層との間の接触のより長い持続時間を可能にしている。
【0004】
レーザ穿孔法及び放電加工法(EDM)は、フィルム冷却孔を形成するための通常使用される方法である。現在では、フィルム孔は、皮膜の施工の前又は後に穿孔される。さらに、一般的に様々なマスキング法を用いて、様々な表面ジオメトリ及び形状を形成してフィルム冷却作用を高めている。しかしながら、マスキング法は、所定の寸法のジオメトリを形成することに関して十分なほど正確なものでなく、またフィルム孔の内部の望ましくない位置にTBCのような皮膜の堆積を引き起こす。
【0005】
従来型の冷却孔穿孔のためのレーザは、高パルスエネルギー、ほぼミリセカンドのパルス幅、比較的低い繰返し速度(<1000Hz)を有するレーザを使用しており、その波長は一般的に、1064nm又は10640nmである。そのようなレーザ処理では、大きなパルスエネルギー及び高い平均出力のために高い穿孔速度が得られる。しかしながら、そのようなレーザ処理はまた、大きな熱影響部、望ましくない程度の層剥離及び過剰穿孔を引き起こす。他方で、より短いパルス(<200ナノセカンド)レーザは、浅い構造(<500ミクロン特徴形状のような)にとっては良好であるが、その低い平均出力(<20W)及び低いパルスエネルギー(<1mJ)ためにまたフィルム冷却孔(航空における厚さが>2mmの特殊用途など)の特殊性のために、これらのレーザは、フィルム冷却孔用途には十分に開発されてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,267,902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、上述した既存のレーザシステムには、所望の用途に対して実用可能性及び費用効果の両方があるようにするためのさらなる開発が必要である。
【0008】
従って、1つ又はそれ以上の前述の問題点に対処するレーザ方法の改善に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態によると、フィルム冷却を高める少なくとも1つのトレンチをサンプル内に形成するためのシステムを提供する。本システムは、少なくとも1つのパルスレーザビームを出力する少なくとも1つのレーザ発生源を含む。パルスレーザビームは、約50μsよりも小さい範囲を備えたパルス幅と、約0.1ジュールよりも小さい範囲を有するパルス当たりエネルギーと、約1000Hzよりも大きい範囲になった繰返し速度とを含む。本システムはまた、レーザ発生源に結合された制御サブシステムを含み、制御サブシステムは、サンプルの位置をパルス幅及びエネルギーレベルと同期させて、該サンプル内の断熱皮膜、ボンディングコート及び基体金属の少なくとも1つを選択的に除去して少なくとも1つのトレンチを形成するように構成される。
【0010】
本発明の別の実施形態によると、フィルム冷却を高める少なくとも1つのトレンチをサンプル内に形成する方法を提供する。本方法は、少なくとも1つのレーザビームをサンプルに適用するステップを含み、ここで、レーザビームは、約50μsよりも小さい範囲を備えたパルス幅と、約0.1ジュールよりも小さい範囲を有するパルス当たりエネルギーと、約1000Hzよりも大きい範囲になった繰返し速度とを含む。本方法はさらに、サンプルの位置をパルス幅と同期させることにより該サンプル内のTBC、ボンディングコート及び基体金属の少なくとも1つを選択的に除去して少なくとも1つのトレンチを形成するステップを含む。
【0011】
本発明のこれら及びその他の特徴、態様並びに利点は、図面全体を通して同じ参照符号が同様の部品を表している添付図面を参照して以下の詳細な説明を読むことにより一層良好に理解されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】その各々が本発明の実施形態によるシェブロンフィルム冷却孔の列によって冷却される加熱壁を備えた様々な構成要素を有する例示的なガスタービンエンジンの概略図。
【図2】改善型のレーザ方法を用いて図1における冷却孔に適応するように形成されて、冷却作用を高めた例示的な表面ジオメトリの概略図。
【図3】本発明の実施形態による、フィルム冷却を高める少なくとも1つのトレンチをサンプル内に形成するためのシステムの概略図。
【図4】本発明の実施形態による、フィルム冷却を高める少なくとも1つのトレンチをサンプル内に形成する方法におけるステップを表すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
下記で詳細に説明するように、本発明の実施形態は、フィルム冷却を高める1つ又はそれ以上の表面ジオメトリ及び形状をサンプル内に形成するためのシステム及び方法を含む。本システム及び方法は、より短いパルス幅、より低いパルスエネルギー、好適な波長及びより高いサイクル時間を備えたパルスレーザを用いることによる改善型のレーザ加工方法を開示している。本明細書で使用する場合に、「パルス幅」という用語は、レーザからの各エネルギーパルス出力の持続時間を意味し、また「サイクル時間」というは、レーザからのパルス出力の繰返し速度又は周波数を意味している。下記で詳細に説明するレーザの例示的な用途は、それに限定されないがタービンエンジンにおける翼形部のような基体上に形成されたフィルム冷却孔におけるものである。本方法は、それに限定されないが燃焼器構成要素、タービン端部壁及びプラットフォーム、タービンシュラウド、補修構成要素のフィルム冷却、また該フィルム冷却以外の目的のためにそのような構成要素上の1つまたそれ以上の外表面皮膜の選択的除去のような様々なその他の用途で用いることができる。
【0014】
基体は、高温度に曝されかつ冷却を必要とするあらゆる材料とすることができる。実施例には、セラミック又は金属ベース材料が含まれる。「金属ベース」というのは、主として単一金属又は金属合金で形成されるが、さらに幾らかの非金属構成要素、例えばセラミック、金属間化合物相、中間相又はセラミックマトリックス複合材なども含むことができる基体を意味している。本発明と関連する金属の非制限的な実施例には、鋼、アルミニウム、チタンのような耐熱金属、及びニッケル又はコバルト基合金のような超合金がある。
【0015】
図1は、長手方向又は軸方向中心軸線12周りで軸対称であるガスタービンエンジン10である。エンジンは、直列流れ連通状態で、ファン14、多段軸流圧縮機16及び環状燃焼器18を含み、環状燃焼器18には次に、高圧タービン(HPT)及び低圧タービン(LPT)が後続する。HPTは、内側及び外側ノズルバンド内に支持された中空ステータベーンの列を有するタービンノズル20を含む。第1段タービン22は、第1段タービンノズルに後続しており、支持ロータディスクから半径方向外向きに延びかつ環状タービンシュラウドによって囲まれた中空ロータブレードの列を含む。
【0016】
低圧タービン(LPT)24は、高圧タービンに後続しており、エンジン設計に応じて内部冷却回路を備えることができるか又は備えることができない付加的ノズル及びロータブレードを含む。排気ライナ26は低圧タービンに後続する。作動時に、周囲空気28はファン14によって加圧され、この加圧空気の下方部分は、圧縮機16に流入してさらに加圧されるようになり、一方、加圧空気の外側部分は、ファン出口から吐出されてターボファンエンジン用途では推進スラストをもたらすようになる。圧縮機において加圧された空気は、燃焼器内で燃料と混合されて高温燃焼ガス30を発生するようになる。作動時に、燃焼ガスは、様々なタービンブレード段を通って流れ、タービンブレード段は、燃焼ガスからエネルギーを取出して圧縮機及びファンに動力供給するようにする。図1に示す例示的なターボファンエンジン10は、あらゆる従来型の構成及び作動を有することができるが、本明細書で説明するように変更してフィルム冷却の改善を導入するようにする。高温燃焼ガス30による加熱を受ける上記に開示した様々なエンジン構成要素のいずれか1つ又はそれ以上は、作動時に圧縮機16から加圧空気の一部分を抽気することによって好適に冷却することができる。この点に関して、冷却を必要とするこれら加熱構成要素のいずれか1つには、その中でフィルム冷却を利用することができるエンジンの様々な構成要素の代表的なものとして、図1にその一部分を示す金属薄肉壁32が含まれることになる。
【0017】
薄肉壁32は一般的に、ガスタービンエンジンの作動時に高温燃焼ガス30による加熱によって生じる高温度において高い強度を有するコバルトベース材料のような従来型の超合金金属で形成される。図1にその一部を平面図で示す流路構成要素つまり壁32は、対向する内壁及び外壁表面34、36を含む。壁の内面つまり内部表面は、構成要素内に設けられた好適な冷却回路の外側境界を形成し、この冷却回路は、あらゆる従来通りの方法で圧縮機から抽気された加圧空気を受ける。外表面36は、運転時に高温燃焼ガス30に曝されかつ好適なフィルム冷却保護を必要とする。
【0018】
図1に示す例示的な構成要素壁32は、一般的な実施例としてその内部でフィルム冷却孔の様々な形態を利用する内側又は外側燃焼器ライナ、タービンノズルベーン、タービンノズルバンド、タービンロータブレード、タービンシュラウド、或いは排気ライナの形態のものとすることができる。冷却作用向上方法のさらなる詳細は、本出願と同一の出願人による出願でありかつ2001年5月22日に発行された、「ガス状冷却媒体ストリームの冷却作用を高めるための方法及びその関連製造物品」の名称の米国特許第6,234,755号から得ることができ、本明細書には、本特許の全体を参考文献としてここに組入れている。孔38の各々は、その入口から出口端部までほぼ一定の流れ面積を有する円筒形入口ボア41を含むのが好ましい。
【0019】
フィルム冷却孔は、様々な形状の構成とすることができる。孔のスロート部は通常、はほぼ円筒形である。この図示した実施形態では、孔はシェブロン形孔である。孔は通常、「より低温表面」又は「低温表面」或いは低温側とも呼ばれる背部(例えば、内部)表面からより高温表面又は「高温表面」或いは高温側まで延びる。タービンエンジンのケースでは、高温表面は一般的に、少なくとも約1000℃、より多くの場合に少なくとも約1400℃のガス温度に曝される。
【0020】
冷却孔の深さ(すなわち、基体に対してある角度で配置されている時の孔の「長さ」)は通常、約20ミル(508ミクロン)〜約4000ミル(102ミリ)の範囲内にある。一般的に、外表面の平方インチ当たり約5〜約200個の孔が設けられる。本発明は、あらゆる数の冷却孔に関するものであることを理解されたい。さらに、本発明は、個々の孔の列に特に適しているが、その他の孔のパターンも実施可能である。さらに、冷却孔は、フィルム冷却孔である必要はないが、それらの孔の形式が、タービンエンジン構成要素内で通常見られる形式である。
【0021】
図2は、改善型のレーザ方法を用いて冷却孔43に適応するように形成されて、冷却作用を高めた例示的な表面ジオメトリの概略図である。本明細書で形成した例示的な表面ジオメトリは、トレンチ44である。基体48はここでも同様に、サンプル、例えば高温表面50及びより低温表面52を含む翼形部などの壁を表している。基体は、ボンディング層(図示せず)及び上にあるTBC54で部分的に被覆されているが、その他の形式の皮膜も実施可能である。TBCは、翼形部の高温側に施工してその作動温度能力をさらに高めることができる。実施例として、ボンディング層は、翼形部を覆って最初に施工することができる。ボンディング層は、PVD、CVD又は熱溶射法のような様々な従来通りの方法で施工することができる。熱溶射法の実施例には、真空プラズマ蒸着、高速ガス式溶射(HVOF)又は空気プラズマ溶射(APS)がある。熱溶射及びCVD方法の組合せもまた、用いることができる。通常使用されるボンディング層は、「MCrAlY」のような材料で形成され、ここで「M」は、鉄、ニッケル又はコバルトを表している。別の形式のボンディング層は、アルミナイド又は貴金属アルミナイド材料(例えば、プラチナ−アルミナイド)に基づいている。そのような材料は、パック拡散法のような様々な公知の方法によって施工することができる。次に、TBCが、ボンディング層を覆って施工される。タービン翼形部のケースでは、TBCは、イットリアのような酸化物で安定化されたジルコニアベースの材料であることが多い。TBCは一般的に、熱溶射法によって又は電子ビーム物理的気相成長法(EB−PVD)によって施工される。
【0022】
トレンチ44は、皮膜の厚さの範囲内に形成されかつ所定の深さDを有する。特定の実施形態では、トレンチの深さDは、フィルム冷却孔の平均スロート部直径dよりも小さい。「スロート部直径」という用語は、冷却媒体が孔から流出する位置での孔の直径を意味している。別の実施形態では、トレンチの深さDは、平均スロート部直径dの約50%よりも小さい。さらに別の実施形態では、トレンチの深さは、孔直径の少なくとも2倍であるのが好ましい。そのような深いトレンチは、時として、基体の強度を高めること、例えばより大きい壁厚さを必要とすることになる可能性がある。トレンチはまた、基体内に部分的に形成することができることに注目されたい。冷却媒体空気46は、より低温表面52からフィルム冷却孔42を通って上向きに流れる。本明細書に示すように、フィルム冷却孔は、たまたま拡散形になっているが、その他の形状とすることもできる。燃焼ガス56は、従来と同様に基体上を流れる。
【0023】
図2のこの図示した実施形態では、皮膜は、デルタ形特徴形状60にパターン化されている。デルタ特徴形状は、基部62及び個々の頂部64を有することができる。デルタ特徴形状の寸法は大幅に変更することができ、またトレンチ44内でのその配向もまた、変更することができる。(本明細書に示した教示に基づいて、当業者は、模擬の又は実際の冷却媒体流れ試験を行なうことができる。それらの試験は、デルタ状特徴形状の形状又は配向を変更することの、高温表面50に対する冷却媒体流への影響を当業者が容易に判定するのを助けることになる)。この例示的な実施形態では、デルタ特徴形状の各頂部は、対向する冷却孔42の方向に向けられる。このように、デルタ特徴形状は、各箇所から流出する冷却媒体流の経路内に直接位置している。従って、この形状は、意図した障害物として機能して、冷却媒体の流れを分裂させる。冷却媒体の流れのこうした幾分突然の分裂により、高温表面のより大きな領域と接触する冷却媒体ストリームが生じると同時に、燃焼ガスと混合する傾向を最少にして、より大きな冷却作用がもたらされる。
【0024】
様々な方法を利用してデルタ特徴形状又はその他の形状をトレンチ44内に組込むことが可能である。図3には、1つのそのような例示的な方法を示しており、図3は、フィルム冷却を高める少なくとも1つのトレンチ44をサンプル内に形成するためのシステム80の概略図である。この例示的な実施形態では、システム80は、図2に説明したようなトレンチ44を形成する。さらに別の実施形態では、孔は、約0.005インチ〜約0.070インチの範囲内にある直径を有しかつ卵形又は円錐形とすることができる。別の実施形態では、サンプルは、タービンにおける翼形部又は端部壁である。システム80は、パルスレーザビームを出力するレーザ発生源82を含む。レーザ発生源82は、約0.1ジュールよりも小さいパルス当たりエネルギーをもつ約50μsよりも小さいパルス幅を有する。パルスは、約1000Hzよりも大きい繰返し速度で発生する。1つの実施形態では、レーザビーム84の波長は、約200nm〜約1100nmの範囲内にある。別の実施形態では、レーザビームの平均出力は、約200ミクロンよりも小さいスポットサイズまで集束させた望ましいビーム質を有する状態で20Wよりも大きい。例示的な実施形態では、パルス幅は、約10μs〜約200nsである。別の実施形態では、パルス幅は、約50μs〜約1フェムト秒である。そのようなレーザの場合には、広範囲のレーザ強度を得ることができると同時に、より小さいパルスエネルギー、好適な波長及びより短いパルス幅のためにレーザ加工のマイナスの影響が軽減され、取り敢えず、高い材料除去速度を達成することができる。
【0025】
レーザ発生源82に結合されたレーザビーム発射システム88は、サンプル92の表面90上に1つ又はそれ以上のビーム89を送る。1つの実施形態では、レーザビーム発射システム88は、ミラー−レンズ−加工ヘッドベースのビーム発射を用いている。別の実施形態では、レーザビーム発射システム88は、ファイバ−加工ヘッドベースのビーム発射を用いる。さらに別の実施形態では、レーザビーム発射システム88は、光学検流計スキャナベースのビーム発射を用いる。レーザビーム発射システム88に対してモーションシステム94がさらに結合されて、レーザビームファイアリングとサンプル92との間の相対的位置を同期させる。監視サブシステム96が、レーザ印加経路の位置及びレーザ加工の進行を検出する。監視サブシステム96はまた、情報を収集しかつ必要に応じてかつ必要な場合にレーザ加工を自動的に停止させまた次の機械加工位置に移動させる制御サブシステムつまりプロセッサ98と行きつ戻りつ通信する。制御サブシステム98は、レーザ発生源82、レーザビーム発射システム88、監視サブシステム96及びモーションシステム94と通信状態になっている。
【0026】
約0.1ジュールよりも小さいレーザパルスエネルギーにより、参照符号102によって示した所望の特徴形状を層間に完全に機械加工することが可能になる。レーザビーム89をオーバラップさせて、フィルム冷却孔104の3Dジオメトリを完全に機械加工する。サンプル92に対するレーザビーム89の方向は、望ましいレーザ加工品質を得るように調整することができる。特定の実施形態では、高出力ナノセコンドレーザ又はマイクロセコンドレーザのような単一のレーザにより、上部3Dジオメトリ及び下部計量孔の両方が形成される。別の実施形態では、全サイクル時間を改善するために、上部3D特徴形状は、ns/ps/fsレーザのような短パルスレーザによって形成すると同時に、下部計量孔は、高出力ms又はμsレーザを用いて穿孔する。3Dジオメトリは、主として切除法で形成され、一方、下部計量孔は、直接切除及び溶解排出の両方の複合作用によって形成される。
【0027】
本発明の実施形態は、本発明の処理タスクを行なうためのあらゆる特定のプロセッサに限定されるものではないことに注目されたい。本明細書で使用する場合に、「プロセッサ」という用語は、本発明のタスクを行なうのに必要な計算又は演算を実行することができるあらゆる機械を意味することを意図している。「プロセッサ」という用語は、出力を発生させるために規定のルールに従って構造化入力を受けかつ該入力を処理することができるあらゆる機械を意味することを意図している。また、本明細書で使用する場合における「〜のように構成された」という語句は、当業者には分かるように、プロセッサが本発明のタスクを実行するためのハードウェア及びソフトウェアの組合せを備えていることを意味していることに注目されたい。
【0028】
図4は、フィルム冷却を高める少なくとも1つのトレンチをサンプル内に形成する方法130におけるステップを表すフローチャートである。本方法130は、ステップ132において、レーザビームをサンプルに適用する(当てる)ステップを含む。レーザビームは、約0.1ジュールよりも小さいパルス当たりエネルギーをもつ約50μsよりも小さいパルス幅を有する。パルスは、約1000Hzよりも大きい繰返し速度で発生する。特定の実施形態では、レーザビームは、制御サブシステムによりサンプル上に位置合せされる。サンプルにおけるTBC、ボンディングコート及び基体金属の少なくとも1つが、ステップ134において、サンプルの位置をパルス幅と同期させることにより選択的に除去されて、少なくとも1つのトレンチを形成する。1つの実施形態では、レーザビームのファイアリングとサンプルとの間の相対的位置を同期させる。別の実施形態では、レーザビームの位置及びレーザ加工の進行は、監視サブシステムにより監視される。
【0029】
従って、上述したフィルム冷却を高めるシステム及び方法の様々な実施形態により、冷却孔からの冷却媒体流を修正するための少なくとも1つのトレンチの効果的な形成が可能になる。それらの方法及びシステムはまた、それに限定されないがタービンエンジンのようなフィルム冷却式部品のための補修方法を改善するのを可能にする。さらに、本方法により、表面ジオメトリの形成の費用効果がある方法が得られる。
【0030】
言うまでもなく、上記した全てのそのような目的又は利点は、あらゆる特定の実施形態により必ずしも達成することができるとは限らないことを理解されたい。従って、例えば、本明細書に記載したシステム及び方法は、本明細書に教示し又は提案している場合もあるようなその他の目的又は利点を必ずしも達成しない状態で、本明細書に教示した1つの利点又は群の利点を達成又は最適化するように具現化又は実行することができることは当業者には分かるであろう。
【0031】
さらに、当業者には、異なる実施形態による様々な特徴要素が互換可能であることが分かるであろう。当業者には、説明した様々な特徴要素並びに各特徴要素におけるその他の公知の均等物を混合しかつ調和させて本発明の原理に従った付加的なシステム及び方法を構成することができる。
【0032】
本明細書では、本発明の一部の特徴のみを例示しかつ説明してきたが、当業者には多くの修正及び変更が想起されるであろう。従って、特許請求の範囲は、全てのそのような修正及び変更を本発明の技術思想の範囲内に属するものとして保護することを意図していることを理解されたい。
【符号の説明】
【0033】
10 ガスタービンエンジン
12 中心軸線
14 ファン
16 多段軸流圧縮機
18 環状燃焼器
20 タービンノズル
22 第1段タービン
24 低圧タービン(LPT)
26 排気ライナ
28 周囲空気
30 高温燃焼ガス
32 薄肉壁
34 内壁表面
36 外壁表面
38 孔
43 フィルム冷却孔
44 トレンチ
46 冷却媒体空気
48 基体
50 高温表面
52 より低温表面
54 TBC
56 燃焼ガス
60 デルタ形特徴形状
62 基部
64 個々の頂部
80 少なくとも1つのトレンチを形成するためのシステム
82 レーザ発生源
84 レーザビーム
88 レーザビーム発射システム
89 1つ又はそれ以上のビーム
90 表面
92 サンプル
94 モーションシステム
96 監視サブシステム
98 制御サブシステム
102 所望の特徴形状
104 フィルム冷却孔
130 フィルム冷却を高める少なくとも1つのトレンチをサンプル内に形成する方法
132 レーザビームをサンプルに適用するステップ
134 サンプルの位置をパルス幅と同期させることにより該サンプル内のTBC、ボンディングコート及び基体金属の少なくとも1つを選択的に除去して少なくとも1つのトレンチを形成するステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム冷却を高める少なくとも1つのトレンチ(44)をサンプル(92)内に形成するためのシステム(80)であって、
少なくとも1つのパルスレーザビーム(84)を出力する少なくとも1つのレーザ発生源(82)と、
前記レーザ発生源(82)に結合された制御サブシステム(98)と、
を含み、前記レーザ発生源(82)が、
約50μsよりも小さいパルス幅と、
約0.1ジュールよりも小さいパルス当たりエネルギーと、
約1000Hzよりも大きい繰返し速度と、を含み、
前記制御サブシステム(98)が、前記サンプル(92)の位置を前記パルス幅及びエネルギーレベルと同期させて、該サンプル内の断熱皮膜、ボンディングコート及び基体金属の少なくとも1つを選択的に除去して前記少なくとも1つのトレンチ(44)を形成するように構成される、
システム(80)。
【請求項2】
前記レーザ発生源(82)及び制御サブシステム(98)に結合されたレーザビーム発射システム(88)及びモーションシステム(94)を含み、
前記モーションシステム(94)が、前記レーザビーム(84)のファイアリングと前記サンプル(92)との間の相対的位置を同期させるように構成される、
請求項1記載のシステム(80)。
【請求項3】
前記制御サブシステム(98)に結合された監視サブシステム(96)を含み、
前記監視サブシステム(96)が、前記レーザビーム(84)の位置を検出しかつレーザ加工の進行を監視するように構成される、
請求項1または2記載のシステム(80)。
【請求項4】
前記レーザビーム(84)の波長が、約200nm〜約1100nmの範囲を含む、請求項1乃至3のいずれか1項記載のシステム(80)。
【請求項5】
前記サンプル(92)が、1つ又はそれ以上のフィルム冷却孔(104)を含む、請求項1乃至4のいずれか1項記載のシステム(80)。
【請求項6】
前記トレンチ(44)の深さが、前記フィルム冷却孔(104)の平均直径とほぼ同じである、請求項5記載のシステム(80)。
【請求項7】
フィルム冷却を高める少なくとも1つのトレンチ(44)をサンプル内に形成する方法(130)であって、
約50μsよりも小さいパルス幅と、
約0.1ジュールよりも小さいパルス当たりエネルギーと、
約1000Hzよりも大きい繰返し速度と、
を備えた少なくとも1つのレーザビームを前記サンプルに適用するステップ(132)と、
前記サンプル(92)の位置を前記パルス幅と同期させることにより該サンプル内のTBC、ボンディングコート及び基体金属の少なくとも1つを選択的に除去して前記少なくとも1つのトレンチ(44)を形成するステップ(134)と、を含む、
方法(130)。
【請求項8】
前記適用するステップ(132)が、制御サブシステムにより前記サンプル上に前記レーザビームを位置合せするステップを含む、請求項7記載の方法(130)。
【請求項9】
前記選択的に除去するステップ(134)が、前記レーザビームの発射と前記サンプルとの間の相対的位置を同期させるステップを含む、請求項7記載の方法(130)。
【請求項10】
前記選択的に除去するステップ(134)が、前記レーザビームの位置を検出するステップと監視サブシステムによりレーザ加工の進行を監視するステップとを含む、請求項7記載の方法(130)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−260104(P2010−260104A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104694(P2010−104694)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】