説明

フィルム基材の接着方法

【課題】異種材料からなるフィルムどうしを互いに接着して袋状とした包装体を製造する方法において、ラミネート樹脂を用いることなく強固に接着でき、異物や残留溶剤等が滲出することがなく耐候性にも優れた接着方法を提供する。
【解決手段】異種材料からなるフィルム基材どうしを互いに接着して袋状とした包装体を製造する方法であって、異種材料からなる一対のフィルム基材1、2を準備し、少なくとも一方の前記フィルム基材1の接着しようとする部分に電子線4を照射し、前記電子線4が照射された部分のみを他方のフィルム基材2に接着して袋状とすることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム基材の接着方法に関し、より詳細には、ラミネート加工等を行わずに異種材料からなるフィルムどうしを接着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルム等を袋状に加工した包装体が使用されている。このような包装体は、充填される内容物に応じて所望される機能を発現させるために、使用するフィルムとして種々の材料を積層した多機能フィルム等が使用されている。例えば、内容物の紫外線等による劣化を抑止するために、紫外線吸収機能を有するフィルムを用いたり、また、内容物が酸素により変質してしまうのを防ぐために、ガス非透過性のフィルムや酸素吸収機能を有するフィルム等が用いられている。
【0003】
包装体は、一般的に長尺状のフィルムを加工することより行われているが、袋状に加工するには、フィルムどうしを重ね合わせてその端部を接着することが行われている。フィルムどうしを接着する方法としては、ラミネート樹脂(接着剤)を接着しようとするフィルムの端部に塗布してフィルムどうしを押圧してシールしたり、フィルムどうしを重ね合わせて、その端部に熱を加えて融着させるいわゆるヒートシール加工が行われるのが一般的である。
【0004】
ヒートシール加工は、フィルムどうしを接着する際にラミネート樹脂等を用いないため、簡易かつ簡便にフィルムどうしを接着することができる。しかしながら、ヒートシール加工は、フィルムを部分的に溶融ないし半溶融させて、互いのフィルムを融着させて接着する方法であるため、異種のフィルムどうし、例えば、ポリオレフィン系フィルムとポリエステル系フィルムとをヒートシール加工により接着することができない。また、ヒートシール加工においては、比較的低温で融着可能な樹脂からなるフィルムを用いる必要があるため、最表面層にポリオレフィン系樹脂等のヒートシール性樹脂層を設けた多層フィルムが用いられていた(例えば、特開昭55−107428号公報等)。
【0005】
一方、ラミネート加工によりフィルムどうしを接着する場合には、使用するフィルムの種類(樹脂の種類)に応じてラミネート樹脂の成分を適宜選択することが行われている。例えば、ポリエステル系フィルムとナイロン系フィルムとを接着することにより袋状に加工する際には、ウレタン系接着剤が使用されていた(例えば、特開昭52−82594号公報等)。
【0006】
しかしながら、異種材料からなるフィルムどうしをラミネート樹脂を介して接着し包装体としたものは、ラミネート樹脂成分が徐々に包装体内に溶出または揮発し、内容物を変質させる場合があり、特に、安全性やクリーン性が重視される医療用分野においては、ラミネート樹脂による内容物の汚染が問題となることがあった。また、包装体の長期使用によりラミネート樹脂自体が劣化することもあり、特に屋外等で使用される外装用途においては、ラミネート加工した包装体の耐候性が問題となることもあった。また、接着剤を用いたラミネート技術においては、一般的に溶剤に希釈した樹脂成分を塗布することが行われるため、ラミネートして包装体等のような最終製品となった後にも溶剤が残留してしまうことがあった。
【0007】
ところで、放射線や電子線を用いて材料の表面改質を行うことが従来から行われている。例えば、特開2003−119293号公報(特許文献3)には、フッ素系樹脂に放射線を照射することにより架橋複合フッ素系樹脂が得られることが提案されている。また、Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127(非特許文献1)には、ポリテトラフルオロエチレンフィルムとポリイミドフィルムとを積層させて高温下で電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、互いを接着することが提案されている。また、Material Transactions Vol.50, No.7 (2009), pp1859-1863(非特許文献2)には、ポリカーボネート樹脂の表面をナイロンフィルムで覆い、その上から電子線(以下、EBと略す場合もある)を照射することにより、ポリカーボネート樹脂表面にナイロンフィルムを接着する技術が提案されている。さらに、日本金属学会誌第72巻第7号(2008)、pp526−531(非特許文献3)には、シリコーンゴム上に置いたナイロンフィルムの上からEBを照射することにより、互いを接着できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭55−107428号公報
【特許文献2】特開昭52−82594号公報
【特許文献3】特開2003−119293号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Photopolymer Science and Technology Vol.19, No. 1 (2006), pp123-127
【非特許文献2】Material Transactions Vol.50, No. 7(2009), pp1859-1863
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、今般、異種材料からなるフィルムどうしを接着する場合であっても、フィルムに電子線を照射することにより、ラミネート樹脂等を用いることなく、互いを強固に接着することができる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、異種材料からなるフィルムどうしを互いに接着する方法において、ラミネート樹脂を用いることなく強固に接着でき、異物や残留溶剤等が滲出することがなく耐候性にも優れた接着方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による方法は、異種材料からなるフィルム基材どうしを互いに接着する方法であって、
異種材料からなる一対のフィルム基材を準備し、
少なくとも一方の前記フィルム基材の接着しようとする部分に電子線を照射し、
前記電子線が照射された部分のみを他方のフィルム基材に接着する、
ことを含んでなることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の態様によれば、前記一対のフィルム基材を重ね合わせた後に、いずれか一方のフィルム基材側から電子線照射を行うことが好ましい。
【0014】
また、本発明の態様によれば、前記一対のフィルム基材を重ね合わせる前に、いずれか一方のフィルム基材側から電子線照射を行うことが好ましい。
【0015】
また、本発明の態様によれば、前記フィルム基材の電子線を照射した側の面に、他方のフィルム基材を重ね合わせることが好ましい。
【0016】
また、本発明の態様によれば、前記一対のフィルム基材を重ね合わせる前に、両方のフィルム基材に電子線を照射することがこのましい。
【0017】
また、本発明の態様によれば、前記フィルム基材の電子線を照射した側の面どうしが対向するように、両方のフィルム基材を重ね合わせることが好ましい。
【0018】
また、本発明の態様によれば、前記異種材料からなるフィルム基材が、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン、ポリエチレンテレフタレート/ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレン/ナイロン、ポリエチレン/ポリアミド、ポリプロピレン/ナイロン、ポリプロピレン/ポリアミド、エチレンビニルアセテート/ポリエチレン、エチレンビニルアセテート/ポリプロピレン、ポリビニルアルコール/ポリエチレン、ポリビニルアルコール/ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体/ポリエチレン、およびエチレン−ビニルアルコール共重合体/ポリプロピレン、から選択される組み合わせであることが好ましい。
【0019】
また、本発明の態様によれば、前記一対のフィルム基材を重ね合わせた後に、加熱しながら両フィルム基材を押圧することが好ましい。
【0020】
また、本発明の態様によれば、押圧をヒートローラで行うことが好ましい。
【0021】
また、本発明の態様によれば、前記一対のフィルム基材を重ね合わせて押圧した後に、いずれか一方のフィルム基材側から電子線照射を行うことが好ましい。
【0022】
また、本発明の態様によれば、前記電子線の照射強度が、20〜750kGyであり、また、前記電子線の照射を、30〜300kVの加速電圧において行うことが好ましい。
【0023】
さらに、本発明の別の態様によれば、上記した方法により異種材料からなるフィルムどうしを接着させた積層体や包装体も提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、異種材料からなるフィルム基材どうし、とりわけ、極性材料からなる樹脂フィルムと非極性材料からなる樹脂フィルムとを接着する場合、融点やガラス転移温度差が大きい樹脂フィルムどうしを接着する場合、また、延伸樹脂フィルムと未延伸樹脂フィルムとを接着する場合などの異種フィルムどうしを互いに接着して袋状とした包装体を製造する方法において、ラミネート樹脂を用いることなく強固に接着でき、異物や残留溶剤等が滲出することがなく耐候性にも優れた包装体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明によるフィルム基材の接着方法の一実施形態を示した概略模式図である。
【図2】フィルム基材の接着方法の好ましい実施形態を示した概略拡大図である。
【図3】本発明によるフィルム基材の接着方法の別の実施形態を示した概略図である。
【図4】本発明によるフィルム基材の接着方法の別の実施形態を示した概略図である。
【図5】本発明によるフィルム基材の接着方法の別の実施形態を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明による包装体の製造方法を説明する。図1は、本発明による包装体の製造方法の一実施形態を示した概略模式図であり、異種材料からなるフィルム基材どうしを互いに接着する工程の概略を示したものである。まず、異種材料からなる二種のフィルム基材を準備する(図1(1))。フィルム基材としては、特に制限さるものではなく、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、酢酸セルロース、ポリエチレンビニルアセテート、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、アイオノマー等のプラスチックフィルム等が挙げられ、これら中から選択される二種のフィルム基材を組み合わせることができる。
【0027】
通常、上記したような異種材料からなるフィルム基材どうしは、接着剤を用いなければ互いを接着することができない。異種材料からなるフィルムどうしを接着する場合に、その間に接着剤を介在させると、接着剤(ラミネート樹脂)を介して水素結合やファンデルワールス力が形成されることにより、異種材料からなるフィルム基材どうしでも接着する。本発明においては、ラミネート樹脂等の接着剤を全く使用することなく、両フィルム基材どうしを接着するものである。
【0028】
本発明において、互いを接着するフィルム基材の組み合わせとしては、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン、ポリエチレンテレフタレート/ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレン/ナイロン、ポリエチレン/ポリアミド、ポリプロピレン/ナイロン、ポリプロピレン/ポリアミド、エチレンビニルアセテート/ポリエチレン、エチレンビニルアセテート/ポリプロピレン、ポリビニルアルコール/ポリエチレン、ポリビニルアルコール/ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体/ポリエチレン、およびエチレン−ビニルアルコール共重合体/ポリプロピレン、から選択される組み合わせであることが好ましい。
【0029】
次に、準備した異種材料からなる一対のフィルム基材を重ね合わせて、図1(2)に示すように、少なくとも一方のフィルム基材の接着しようとする部分5に電子線を照射する。その結果、図1(3)に示すように、電子線が照射された部分のみ、互いのフィルム基材が接着される。この理由は定かではないが、以下のように考えられる。高分子からなる樹脂フィルムに電子線を照射すると、樹脂フィルムの表面にラジカルが発生する。異種材料からなる樹脂フィルムどうしであっても、両フィルムの表面に発生したラジカルが互いに結合して共有結合を形成したり、あるいは、ラジカルの発生により樹脂フィルムの表面に形成された官能基が水素結合を形成し、この水素結合と供給結合との組み合わせにより、異種材料からなる樹脂どうしであっても互いに強固に結合するものと考えられる。
【0030】
本発明においては、フィルム基材に電子線を照射した直後に、図2に示すようにローラー等を用いて重ね合わせたフィルム基材を押圧することが好ましい。フィルム基材の表面は、図2に示すようにミクロレベルで凹凸があるため、互いのフィルム基材を重ね合わせても完全に密着しておらず、両フィルム基材1,2の接触界面5での接触面積が小さい。本発明においては、電子線を照射した直後にローラー等でフィルム基材1,2を押圧することにより、フィルム基材界面5での接触面積が増加するため、密着性が向上する。
【0031】
フィルム基材を重ね合わせた後フィルム基材を押圧する際には、加熱しながら両フィルム基材1,2を押圧することが好ましい。加熱しながら押圧することにより、フィルム基材の柔軟性が向上し、フィルム基材界面での接触面積をより増加させることができるため、密着性がより向上する。加熱する温度は、用いるフィルム基材の組み合わせにもよるが、樹脂フィルムが熱変形できる温度であればよく、例えば、フィルム基材を構成する樹脂のガラス転移温度以上に加熱することができる。例えば、異種材料からなるフィルム基材の組み合わせとして、ポリエチレンテレフタレートフィルムとポリエチレンフィルムとを重ね合わせる場合には、加熱温度は80〜180℃、好ましくは130〜160℃とする。加熱温度を高くしすぎると、発生したラジカルが失活してしまい、強固な結合を実現できなくなる。なお、押圧の力(接圧)を高くしてもよく、接圧を高くすることにより、加熱温度を低くすることができる。
【0032】
重ね合わせたフィルム基材1,2を押圧するには、上記したようにヒートローラ6等を好適に使用できる。また、図2に示すように、重ね合わせたフィルム基材1,2がヒートローラ6と支持ローラー7との間で圧接可能となるように、ヒートローラ6と対向する位置に支持ローラー7を載置してもよい。このようにヒートローラ6と対向する位置に支持ローラー7を載置することにより、フィルム基材1,2とヒートローラ6との接触を線接触に近づけて、ヒートローラ6からの熱によりフィルム基材1,2に発生する変形を最小限に抑えることができる。
【0033】
図3は、本発明による接着方法の別の態様を示した概略図である。異種材料からなる一対のフィルム基材1,2を重ね合わせて接着する工程において、それぞれのフィルム基材をガイドローラにより電子線照射位置3まで導き、電子線4をフィルム基材1,2に照射した後にヒートローラ6により互いのフィルム基材1,2を押圧する工程を連続的に行うものである。それぞれのフィルム基材はロール状形態として供給されてもよい。
【0034】
電子線照射装置3からフィルム基材1,2に電子線4を照射する場合、厚みがより小さい方のフィルム基材側から電子線4を照射することが好ましい。電子線は加速電圧が増加するほどその透過力も増大する性質を有しているため、何れか一方のフィルム基材側から電子線を照射した場合に、フィルム基材の厚さによっては、他方のフィルム基材まで電子線が届かないことがある。その場合には、電子線の加速電圧を増加させることにより、他方のフィルム基材の深部まで電子線を到達させることができるが、電子線エネルギーが高くなるに従い、フィルム基材自体を劣化させてしまう。そのため、厚肉のフィルム基材と薄肉のフィルム基材とを重ね合わせて接着する際には、電子線エネルギーをそれほど増大させることなく、薄肉のフィルム基材側から電子線を照射するのが好ましい。このような電子線照射方法を採用することにより、フィルム基材の劣化を最小限に留めることができる。
【0035】
重ね合わせるフィルム基材が両方とも厚肉である場合には、図3に示すように両方のフィルム基材側から電子線が照射できるように、電子線照射装置3と対向する位置に、別の電子線照射装置3’を設けてもよい。この態様によれば、フィルム基材の厚みに応じて電子線の照射エネルギーを調整することができるため、フィルム基材を劣化させることなく両フィルム基材どうしを接着することができる。
【0036】
図4は、本発明によるフィルム基材の接着方法の別の態様を示した概略図である。この実施態様においては、電子線の照射が、フィルム基材を重ね合わせる前に行われる。先ず、供給されてきた一対のフィルム基材1,2は、両フィルム基材が重ね合わされる前に、電子線照射装置3(3’)により、フィルム基材1(2)へ電子線4(4’)が照射される。図3に示した実施態様では、フィルム基材の電子線照射側と反対側の面どうしが対向するように両フィルム基材を重ね合わせたのに対し、図4に示す実施態様では、フィルム基材の電子線照射側の面どうしが対向するように両フィルム基材を重ね合わせる点が相違している。このように、フィルム基材1の電子線を照射した側の面に他方のフィルム基材2を重ね合わせることにより、フィルム基材の厚みによらず、電子線の照射エネルギーをより小さくすることができ、その結果、フィルム基材の電子線照射による劣化をより低減することができる。
【0037】
また、図4に示した実施態様においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図3に示した実施態様と同様に両方のフィルム基材1,2へそれぞれ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、よりフィルム基材の劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0038】
図5は、本発明によるフィルム基材の接着方法の別の態様を示した概略図である。この実施態様においては、両フィルム基材1,2を重ね合わせてヒートローラ6により押圧した後に電子線照射を行うものである。先ず、供給されてきた一対のフィルム基材1,2は、ガイドローラに導かれて重ね合わされる。続いて、ヒートローラ6と支持ローラー7とにより両フィルム基材1,2が押圧されるとともに、ヒートローラ6により加熱が行われる。その後、電子線照射装置3によりフィルム基材1,2の表面に電子線4が照射されてフィルム基材の接着が連続的に行われる。また、図5に示した実施態様においても、一対の電子線照射装置3,3’を設けて、図3及び4に示した実施態様と同様に両方のフィルム基材1,2へそれぞれ電子線4,4’を照射してもよい。これらの組み合わせにより、よりフィルム基材の劣化を少なくして接着強度を向上させることができる。
【0039】
電子線の照射エネルギーは、上記したようにフィルム基材の材質や厚みに応じて適宜調整する必要がある。本発明においては、20〜750keV、好ましくは25〜400keV、より好ましくは30〜300keV程度の照射エネルギー範囲で電子線を照射するが、より低い照射エネルギーとすることが好ましく、20〜200keVとすることができる。このように低い照射エネルギーとすることにより、フィルムの劣化を抑制できるだけでなく、フィルム表面のラジカル発生がより効率的におこるため、より強固な結合を実現することができる。また、電子線の加速電圧は、30〜300keV、好ましくは30〜200keVの範囲で行う。
【0040】
このような電子線照射装置としては、従来公知のものを使用でき、例えばカーテン型電子照射装置(LB1023、株式会社アイ・エレクトロンビーム社製)やライン照射型低エネルギー電子線照射装置(EB−ENGINE、浜松フォトニクス株式会社製)等を好適に使用することができる。
【0041】
電子線を照射する際には、酸素濃度を100ppm以下とすることが好ましい。酸素存在下で電子線を照射するとオゾンが発生するため環境に悪影響を及ぼすとともにフィルム基材の表面がオゾンと反応してフィルム特性が変化してしまう場合があるからである。酸素濃度を100ppm以下とするには、真空下または窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下において、フィルム基材に電子線を照射すればよく、例えば、電子線照射装置内を窒素充填することにより、酸素濃度100ppm以下を達成することができる。
【0042】
上記した接着方法によって、異種材料からなるフィルム基材どうしを接着すると、従来のラミネート樹脂を用いた接着と同等またはそれ以上の接着強度を実現できる。また、ラミネート樹脂等を全く用いていないため、積層フィルムを使用する際にも異物や残留溶剤等が滲出することがなく、また耐候性にも優れるものとなる。
【0043】
異種材料からなる基材フィルムを貼り合わせて積層フィルムを製造する場合に限らず、多層積層フィルムにように表と裏とが異種材料フィルム基材からなる場合に、多層積層フィルムの表面と裏面とを貼り合わせて袋状とする場合にも、本発明による接着方法が好適に適用できる。特に、医療分野で使用されている包装体、例えばシリンジ包装袋や粉末あるいは顆粒状の医薬品を充填包装するための包装体等は、上記のような機能性多層フィルムが使用されており、これら機能性多層フィルムから包装体を製造する際に本発明による接着方法を用いれば、ラミネート樹脂等を全く使用することなく包装体を製造することができるため、充填物である医薬品の品質を保持することができる。
【実施例】
【0044】
実施例1
<フィルム基材の準備>
2種の異なる材料からなるフィルム基材として、厚み25μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(エスペットT4102、東洋紡株式会社製)と、厚み80μmの未延伸直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(エボリューSP2020、株式会社プライムポリマー製)を準備した。
【0045】
<フィルム基材の接着>
二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの未処理面と未延伸直鎖状低密度ポリエチレンフィルムとが対向するように互いのフィルムを重ね合わせた。次いで、カーテン型電子線照射装置(LB1023、株式会社アイ・エレクトロンビーム製)を用いて、下記の照射条件にて、積層フィルム表面にポリエチレンテレフタレートフィルム側から電子線を照射した。
電圧:165kV、電流値:3.9mA、照射線量:750kGy
装置内フィルム搬送速度:5m/分
装置内酸素濃度:100ppm以下
続いて、電子線照射した後すぐに、重ね合わせたフィルム上からゴム製のヒートロールにより、150℃、0.6Mpaの条件でフィルムの押圧を行った。
【0046】
実施例2
電子線の照射を下記の条件を代えた以外は実施例1と同様にして、異種材料からなるフィルムどうしの接着を行った。
電圧:165kV、電流値:3.9mA、照射線量:500kGy
【0047】
実施例3
電子線の照射を下記の条件を代えた以外は実施例1と同様にして、異種材料からなるフィルムどうしの接着を行った。
電圧:165kV、電流値:3.9mA、照射線量:250kGy
【0048】
比較例1
実施例1で用いた2種のフィルムと同じものを互いに重ね合わせ、フィルム上からゴム製のヒートロールにより、150℃、0.6Mpaの条件でフィルムの押圧を行った。
【0049】
比較例2
実施例1で用いた2種のフィルムと同じものを用意し、これらフィルムを、下記の組成のウレタン系接着剤を介して重ね合わせ、フィルム上からゴム製のヒートロールにより、150℃、0.6Mpaの条件でフィルムの押圧を行った。
<ウレタン接着剤組成>
主剤:RU0004(ロックペイント製)
硬化剤:H−1(ロックペイント製)
混合比率:主剤/硬化剤=7.47/1(重量比率)
溶剤:酢酸エチル
【0050】
実施例4
実施例1で用いた二種のフィルムと同じものを用意し、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの未処理面と未延伸直鎖状低密度ポリエチレンフィルムとが対向するように互いのフィルムを重ね合わせる前に、各フィルムの接着面側の両方に、カーテン型電子線照射装置(LB1023、株式会社アイ・エレクトロンビーム製)を用いて、下記の照射条件にて電子線を照射した後、互いを重ね合わせた。次いで、重ね合わせたフィルム上からゴム製のヒートロールにより、150℃、0.6Mpaの条件でフィルムの押圧を行った。
電圧:90kV、電流値:4.9mA、照射線量:750kGy
装置内フィルム搬送速度:5m/分
装置内酸素濃度:100ppm以下
【0051】
実施例5
電子線の照射を下記の条件を代えた以外は実施例1と同様にして、異種材料からなるフィルムどうしの接着を行った。
電圧:90kV、電流値:4.9mA、照射線量:500kGy
【0052】
実施例6
<フィルム基材の準備>
2種の異なる材料からなるフィルム基材として、幅170mm、長さ200mのロール状形態で供給される厚み25μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(エスペットT4102、東洋紡株式会社製)と、同サイズのロール状形態で供給される厚み80μmの未延伸直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(エボリューSP2020、株式会社プライムポリマー製)を準備した。
【0053】
<フィルム基材の接着>
上記のフィルムを用い、電子線の照射を下記の条件を代えた以外は実施例1と同様にして、異種材料からなるフィルムどうしの接着を行った。
電圧:145kV、電流値:10mA、照射線量:690kGy
装置内のWEB搬送ラフィルム:3m/分
装置内酸素濃度:100ppm以下
【0054】
実施例7
電子線の照射を下記の条件を代えた以外は実施例1と同様にして、異種材料からなるフィルムどうしの接着を行った。
電圧:145kV、電流値:5.2mA、照射線量:360kGy
【0055】
実施例8
電子線の照射を下記の条件を代えた以外は実施例1と同様にして、異種材料からなるフィルムどうしの接着を行った。
電圧:145kV、電流値:2.9mA、照射線量:200kGy
【0056】
実施例9
実施例1で用いた二種のフィルムと同じものを用意し、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの未処理面と未延伸直鎖状低密度ポリエチレンフィルムとが対向するように互いのフィルムを重ね合わせる前に、各フィルムの接着面側の両方に、ライン照射型低エネルギー電子線照射装置(EB−ENGINE、浜松フォトニクス株式会社製)を用いて、下記の照射条件にて電子線を照射した後、互いを重ね合わせた。次いで、重ね合わせたフィルム上からゴム製のヒートロールにより、150℃、0.6Mpaの条件でフィルムの押圧を行った。
電圧:70kV、電流値:1mA、照射線量:650kGy
装置内フィルム搬送速度:20mm/秒
装置内酸素濃度:100ppm以下
【0057】
実施例10
電子線の照射線量及びフィルム搬送速度を下記に変更した以外は実施例9と同様にして、異種材料からなるフィルムどうしの接着を行った。
電圧:70kV、電流値:1mA、照射線量:430kGy
装置内フィルム搬送速度:30mm/秒
【0058】
実施例11
<フィルム基材の準備>
2種の異なる材料からなるフィルム基材として、厚み25μmの二軸延伸ナイロンフィルム(エンブレム、東洋紡株式会社製)と、厚み80μmの未延伸直鎖状低密度ポリエチレンフィルム(エボリューSP2020、株式会社プライムポリマー製)を準備した。
【0059】
<フィルム基材の接着>
二軸延伸ナイロンフィルムの未処理面と未延伸直鎖状低密度ポリエチレンフィルムとが対向するように互いのフィルムを重ね合わせる前に、各フィルムの接着面側の両方に、ライン照射型低エネルギー電子線照射装置(EB−ENGINE、浜松フォトニクス株式会社製)を用いて、下記の照射条件にて電子線を照射した後、互いを重ね合わせた。次いで、重ね合わせたフィルム上からゴム製のヒートロールにより、150℃、0.6Mpaの条件でフィルムの押圧を行った。
電圧:70kV、電流値:1mA、照射線量:650kGy
装置内のWEB搬送ライン速度:20mm/秒
装置内酸素濃度:100ppm以下
【0060】
実施例12
電子線の照射線量及びフィルム搬送速度を下記に変更した以外は実施例9と同様にして、異種材料からなるフィルムどうしの接着を行った。
電圧:70kV、電流値:1mA、照射線量:430kGy
装置内フィルム搬送速度:30mm/秒
【0061】
<フィルム接着強度の評価>
実施例1〜12及び比較例1,2において得られた積層フィルムを幅15mmの短冊状になるように切り出し、引張試験機(テンシロン万能材料試験機RTC−1310A、ORIENTEC社製)を用いて、50mm/分の剥離速度にて接着強度試験を行った。なお、比較例1の試験片は、剥離試験を行うまでもなく、互いのフィルムが接着していなかった。評価結果は下記の表1に示される通りであった。
【0062】
【表1】

【符号の説明】
【0063】
1,2 フィルム基材
3 電子線照射装置
4 電子線
5 フィルム基材接触界面
6 ヒートローラ
7 支持ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異種材料からなるフィルム基材どうしを互いに接着する方法であって、
異種材料からなる一対のフィルム基材を準備し、
少なくとも一方の前記フィルム基材の接着しようとする部分に電子線を照射し、
前記電子線が照射された部分のみを他方のフィルム基材に接着する、
ことを含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記一対のフィルム基材を重ね合わせた後に、いずれか一方のフィルム基材側から電子線照射を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一対のフィルム基材を重ね合わせる前に、いずれか一方のフィルム基材側から電子線照射を行う、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フィルム基材の電子線を照射した側の面に、他方のフィルム基材を重ね合わせる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記一対のフィルム基材を重ね合わせる前に、両方のフィルム基材に電子線を照射する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フィルム基材の電子線を照射した側の面どうしが対向するように、両方のフィルム基材を重ね合わせる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記異種材料からなるフィルム基材が、ポリエチレンテレフタレート/ナイロン、ポリエチレンテレフタレート/ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート/ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート/ポリプロピレン、ポリエチレン/ナイロン、ポリエチレン/ポリアミド、ポリプロピレン/ナイロン、ポリプロピレン/ポリアミド、エチレンビニルアセテート/ポリエチレン、エチレンビニルアセテート/ポリプロピレン、ポリビニルアルコール/ポリエチレン、ポリビニルアルコール/ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体/ポリエチレン、およびエチレン−ビニルアルコール共重合体/ポリプロピレンから選択される組み合わせである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記一対のフィルム基材を重ね合わせた後に、加熱しながら両フィルム基材を押圧する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
押圧をヒートローラで行う、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記一対のフィルム基材を重ね合わせて押圧した後に、いずれか一方のフィルム基材側から電子線照射を行う、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記電子線の照射強度が、25〜750kGyである、請求項1〜10に記載の方法。
【請求項12】
前記電子線の照射を、30〜300kVの加速電圧において行う、請求項1〜11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法により異種材料からなるフィルムどうしを接着させた積層体。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法を用いて包装体を製造する方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法により得られた包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−136492(P2011−136492A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298261(P2009−298261)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】