説明

フィルム状遮光板、及び、それを用いた絞り、光量調整用絞り装置、又はシャッター

【課題】光学部材に広範に適用可能な可視域における十分な遮光性と低反射性を有する遮光性薄膜を、ベース基材となる該樹脂フィルム上に形成したフィルム状遮光板、さらには、該フィルム状遮光板を適用した、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラの絞り、プロジェクターの光量調整用絞り装置、又はシャッターを提供する。
【解決手段】樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に結晶性の炭化酸化チタン膜からなる遮光性薄膜(B)が形成されたフィルム状遮光板であって、遮光性薄膜(B)は、炭素量がC/Ti原子数比として0.6以上、かつ酸素量がO/Ti原子数比として0.2〜0.6であり、しかも遮光性薄膜(B)の膜厚が総和で260nm以上となるようにして、波長400〜800nmにおける平均光学濃度を4.0以上としたことを特徴とするフィルム状遮光板により提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状遮光板、及び、それを用いた絞り、光量調整用絞り装置、又はシャッターに関し、より詳しくは、光学部材に広範に適用可能な可視域における十分な遮光性と低反射性を有する遮光性薄膜を、ベース基材となる樹脂フィルム上に形成したフィルム状遮光板、さらには、該フィルム状遮光板を適用した、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラの絞り、プロジェクターの光量調整用絞り装置、又はシャッターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラの高速(機械式)シャッターの開発が活発に行われている。これは、シャッタースピードを高速にすることで、超高速の被写体をブレ無く撮影することにより鮮明な画像を得ることを目的としている。一般に、シャッターは、シャッター羽根と呼ばれる複数の羽根が回転、移動することで開閉が行われる。シャッタースピードを高速に行うためには、シャッター羽根が極めて短時間に動作と停止を行えるよう、軽量化かつ高摺動性が必要不可欠である。更に、シャッター羽根は、シャッターが閉の状態では、フィルムなどの感光材やCCD、CMOSなどの撮像素子の前面を覆って光を遮る役割を有しているので、完全な遮光性を必要とするだけでなく、シャッター羽根の複数枚が互いに重なり合って動作する際に、各羽根間の漏れ光の発生を防ぐために羽根表面の光反射率が低いこと、すなわち黒色度が高いことが望まれる。
デジタルカメラのレンズユニット内に挿入され、一定の光量に絞って光を撮像素子に送る役割の固定絞りについても、絞りの表面の光反射が生じると迷光となり鮮明な撮像を損なうため、表面の低反射性、すなわち黒色性が高いことが要求される。
【0003】
撮影機能を有した携帯電話、すなわちカメラ付携帯電話でも、近年、高画素で高画質の撮影が行えるよう、小型の機械式シャッターがレンズユニットに搭載され始めている。またレンズユニット内には固定絞りが挿入されている。携帯電話に組み込まれる機械式シャッターは、一般のデジタルカメラよりも、省電力による作動が要求されるためシャッター羽根の軽量化の要求が特に強くなっている。
更に、最近の携帯電話におけるレンズユニットの組み立ては、製造コストを低減する目的で、レンズ、固定絞り、シャッターなどの各パーツがリフロー工程で行えることが要望されている。このような工程でも利用できるシャッター羽根や固定絞りには、表面の低反射性・黒色性だけでなく耐熱性が要求されている。リフロー工程でも利用可能なシャッター羽根、固定絞り部材に求められる耐熱性は270℃程度である。
【0004】
次に、車載モニターであるが、最近の動向として、車載モニターにバックビューモニターなどが搭載される場合が増えている。このモニターのレンズユニット内にも、固定絞りが使われているが、同様に迷光防止のためにも表面の低反射性・黒色性が要求される。そして車載用モニターに用いられているレンズユニットは、真夏の炎天下などのような高温の使用環境下でも機能を損なうことが無いよう、固定絞り部材にも耐熱性が要求されている。車載モニター等に使われる固定絞り部材には、一般に約120℃程度の耐熱性が必要であるとされている。
【0005】
一方、液晶プロジェクターは、大部屋で大画面のホームシアターとして鑑賞できるため、最近、一般家庭に急速に普及され始めている。リビングルームといった明るい環境下でも鮮やかなハイコントラスト映像が楽しめるような高画質化の要望が強く、ランプ光源を高出力にして画質を高輝度化する技術が進んでいる。液晶プロジェクターの光学系には、ランプ光源からの光量を調整する光量調整用絞り装置(オートアイリス)がレンズ系の内部や側面に用いられている。光量調整用の絞り装置は、シャッターと同様に絞り羽根が複数枚互いに重なって光を通す開口部の面積を調整している。このような光量調整用絞り装置の絞り羽根も、シャッター羽根の場合と同様の理由から表面の低反射性と軽量化が要求されている。すなわち、光照射によって羽根材の低反射性が変質すると、迷光が生じて鮮明な映像を写すことができなくなるからである。また、同時に、ランプ光の照射による加熱に対する耐熱性も必要となっている。液晶プロジェクターの光量調整用絞り装置の絞り羽根材には、一般に270℃程度の耐熱性が必要であると言われている。
【0006】
上述のシャッター羽根や固定絞り材、光量調整用絞り装置の絞り羽根に用いる遮光板として下記のものが一般に用いられている。
すなわち、耐熱性を要求される遮光板には、基材として、SUS、SK材、Al、Ti等の金属薄板が一般的に用いられている。金属薄板自体を遮光板としたものもあるが、金属光沢を有するため、表面の反射光による迷光の影響を回避したい場合には好ましくない。これに対して、金属薄板上に黒色潤滑塗装した遮光板は、低反射性・黒色性を有するが、塗装部が耐熱性に劣るため、高温環境下では一般に使えない。
【0007】
特許文献1では、アルミニウム合金などの金属製羽根材料の表面に硬質炭素膜を形成した遮光材が提案されている。しかし、硬質炭素膜を金属製羽根材料の表面に形成しても十分な低反射特性は実現できず、反射光による迷光の発生は避けられない。また、金属薄板を基材に用いた遮光板をシャッター羽根や絞り羽根として使用すると、重量が大きいので、羽根を駆動する駆動モーターのトルクが大きくなり消費電力が大きくなる、シャッタースピードが上げられない、羽根同士の接触による騒音が発生する、などの問題が生じていた。これに対して、樹脂フィルムを基材として用いた遮光板もあり、特許文献2には、表面の反射を低減するためにマット加工した樹脂フィルムを使用したものや、微細な多数の凹凸面を形成することで艶消し性を付与したフィルム状の遮光板が提案されている。
また、特許文献3では、樹脂フィルム上に、艶消し塗料を含有した熱硬化性樹脂を塗膜した遮光フィルムが提案されている。しかし、これらは、樹脂フィルム自体の加工や艶消し剤の添加により表面の反射を低減させているに過ぎず、遮光羽根からの反射による迷光の影響を防止することは難しかった。
【0008】
樹脂フィルム基材については、低比重、安価、可とう性の観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)を基材とした遮光フィルムが多い。また、カーボンブラックやチタンブラックなどの黒色微粒子を内部に含浸させて透過率を低減したPETフィルムが広範に用いられている。しかし、PET材は、耐熱性が150℃より低く、引張弾性率などの機械的強度が弱い。よって、高出力のランプ光が照射されて使用されるプロジェクターの光量調整用絞り部材、リフロー工程に対応するための固定絞り部材、あるいはシャッター部材とする場合は、耐熱性に劣るため利用することができない。また、高速シャッターの羽根部材としてみると、シャッター羽根の高速化に応じてフィルム厚みを低減することになるが、黒色微粒子を内部に含浸させて得た樹脂フィルムの場合は、フィルム厚が薄くなり、特に38μm以下になると、可視域で十分な遮光性を発揮することができず、シャッター羽根には使用できない。さらに、このような黒色微粒子を内部に含浸させて得た樹脂フィルムは絶縁性であるため、シャッター羽根に用いると、羽根同士が擦れて静電気が発生し、粉塵を吸着するなどの問題が生じる。
【0009】
そのため特許文献4では、フィルム状の基材と、その片面又は両面に形成された遮光性を有する遮光膜と、その上に形成された保護膜とを含み、この保護膜により導電性、潤滑性及び耐擦傷性のうち一つ以上の特性を満たすようにした遮光羽根材料が提案されている。前記基材は、少なくとも150℃の処理温度に耐える樹脂材料からなり、前記遮光膜は150℃以下の処理温度を維持できる真空蒸着法、スパッタリング法又はプラズマCVD法にて成膜された金属を含む薄膜から構成している。ただし、遮光羽根の要求特性の一つである低反射性、黒色性については言及されておらず、保護膜が耐擦傷性に関して効果が確認されたカーボンのみが具体的に示されている。
上記のように、これまでシャッター羽根や固定絞り、光量調整用絞り装置の絞り羽根などに利用できる遮光板で、可視域における十分な遮光性と低反射性、軽量性、導電性を併せ持つものは知られていなかった。特に軽量性に有利な樹脂フィルム基材を用いたフィルム状遮光板において、板厚が38μm以下でも完全な遮光性を有するものはなかった。また、各パーツの組み立てをリフロー工程で行う場合でも、リフロー工程で品質が低下せず、270℃の耐熱性を有する樹脂フィルムベースのフィルム状遮光板は存在しなかった。
【0010】
このようなことから、軽量性に有利な薄い樹脂フィルム基材を用いたフィルム状遮光板であって、リフロー工程で各パーツを組み立てることができ、可視域における十分な遮光性と低反射性、軽量性、導電性を併せ持つシャッター羽根や固定絞り、光量調整用絞り装置の絞り羽根が必要とされていた。
【特許文献1】特開平2−116837号公報
【特許文献2】特開平1−120503号公報
【特許文献3】特開平4−9802号公報
【特許文献4】特開2006−138974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これら従来の問題点に鑑み、光学部材に広範に適用可能な可視域における十分な遮光性と低反射性を有する遮光性薄膜を、ベース基材となる該樹脂フィルム上に形成したフィルム状遮光板、さらには、該フィルム状遮光板を適用した、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラの絞り、プロジェクターの光量調整用絞り装置、又はシャッターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決するために、可視域(波長400〜800nm)における完全な遮光性と低反射性を有しており、樹脂フィルム基材に対する付着力に優れている遮光性薄膜を鋭意探索した結果、特定の含有炭素量、含有酸素量である炭化酸化チタン焼結体ターゲットを用いて、スパッタリングすることで、膜中の炭素量、酸素量が特定範囲にあり、結晶膜である炭化酸化チタン膜が樹脂フィルム基材に形成され、これを遮光性薄膜として用いることで、可視域における十分な遮光性と低反射性を兼ね備え、樹脂フィルム基材に対する高い付着力と270℃における耐熱性を有するフィルム状遮光板が得られることを見出し、このフィルム状遮光板は、完全な遮光性と低反射性、導電性を発揮するだけでなく、軽量性ゆえに低電力駆動に対応可能な高速シャッターのシャッター羽根材としても利用でき、駆動モーターの小型化にも貢献でき、光量調整用絞り装置や機械式シャッターの小型化も実現できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に結晶性の炭化酸化チタン膜からなる遮光性薄膜(B)が形成されたフィルム状遮光板であって、遮光性薄膜(B)は、炭素量がC/Ti原子数比として0.6以上、かつ酸素量がO/Ti原子数比として0.2〜0.6であり、しかも遮光性薄膜(B)の膜厚が総和で260nm以上となるようにして、波長400〜800nmにおける平均光学濃度を4.0以上としたことを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、遮光性薄膜(B)の膜厚の総和が260〜500nmであることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、樹脂フィルム基材(A)が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、アラミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、又はポリエーテルサルフォン(PES)から選択される一種以上からなることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3の発明において、樹脂フィルム基材(A)が、200℃以上の温度でも耐熱性を有するポリイミド(PI)、アラミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、又はポリエーテルサルフォン(PES)から選択されることを特徴としたフィルム状遮光板が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、樹脂フィルム基材(A)の厚みが38μm以下であることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、樹脂フィルム基材(A)の厚みが25μm以下であることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
一方、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、樹脂フィルム基材(A)の両面に遮光性薄膜(B)が形成されており、遮光性薄膜(B)が、いずれも実質的に同じ組成、同じ膜厚であることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、遮光性薄膜(B)の表面が、導電性であることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、遮光性薄膜(B)の表面の正光反射率が、波長400〜800nmにおいて平均39%以下であることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明において、遮光性薄膜(B)の表面粗さが、0.15〜0.70μm(算術平均高さ)であることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第11の発明によれば、第9の発明において、遮光性薄膜(B)の表面の正光反射率が、波長400〜800nmにおいて平均1.5%以下であることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第12の発明によれば、第10の発明において、遮光性薄膜(B)の表面粗さが、0.32〜0.70μm(算術平均高さ)であることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第13の発明によれば、第11の発明において、遮光性薄膜(B)の表面の正光反射率が、波長400〜800nmにおいて平均0.8%以下であることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第14の発明によれば、第1〜13のいずれかの発明において、樹脂フィルム基材(A)が、スパッタリング装置のフィルム搬送部にロール状にセットされたのち、巻き出し部から巻き取り部へと巻き取られる時に、スパッタリング法で樹脂フィルム基材(A)表面に遮光性薄膜(B)が成膜されることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第15の発明によれば、第1〜14のいずれかの発明において、遮光性薄膜(B)が、炭化酸化チタン焼結体ターゲットを用いたスパッタリング法で樹脂フィルム基材(A)上に形成されることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第16の発明によれば、第15の発明において、炭化酸化チタン焼結体ターゲットが、炭素をC/Ti原子数比として0.6以上、酸素をO/Ti原子数比として0.17〜0.53含有することを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第17の発明によれば、第1〜16のいずれかの発明において、スパッタリング時の樹脂フィルム基材(A)の表面温度が、100℃以下であることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
また、本発明の第18の発明によれば、第1〜17のいずれかの発明において、270℃の高温環境下において耐熱性を有していることを特徴とするフィルム状遮光板が提供される。
【0015】
また、本発明の第19の発明によれば、第1〜18のいずれかの発明に係り、前記フィルム状遮光板を加工してなる絞りが提供される。
一方、本発明の第20の発明によれば、第1〜18のいずれかの発明に係り、前記フィルム状遮光板を加工した羽根材を用いてなる光量調整用絞り装置が提供される。
さらに、本発明の第21の発明によれば、第1〜18のいずれかの発明に係り、前記フィルム状遮光板を加工した羽根材を用いてなるシャッターが提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明に用いる遮光性薄膜は、結晶性の炭化酸化チタン膜であって、膜中の含有炭素量がC/Ti原子数比で0.6以上であり、膜中に含有する酸素量がO/Ti原子数比で0.2〜0.6である薄膜であり、可視域(波長400〜800nm)における完全な遮光性と低反射性を有しており、樹脂フィルム基材に対する付着力に優れている。しかも大気中270℃の高温環境下でもそれらの特徴を損なうことがない。
上記遮光性薄膜を用いた本発明のフィルム状遮光板は、上記遮光性薄膜を、ベース基材である樹脂フィルム上に形成したものであり、従来の金属薄板をベースにした遮光板と比べて軽量性に優れる。また、更なる軽量化のため38μm以下の樹脂フィルム基材を用いた本発明のフィルム状遮光板は、同じ厚みの従来からある樹脂フィルムの内部に黒色微粒子を含浸させた遮光板と比べて、完全な遮光性と低反射性を発揮することができ、低電力駆動に対応可能な高速シャッターのシャッター羽根材としても利用でき、駆動モーターの小型化にも貢献できる。軽量化による光量調整用絞り装置や機械式シャッターの小型化が実現するなどのメリットもあるため、工業的に極めて有用といえる。
また、本発明のフィルム状遮光板は、ポリイミドなどの耐熱性の樹脂フィルムをベース基材に用いることで、大気中270℃の耐熱性を発揮することができる。すなわち、270℃の高温環境下でも低反射性、遮光性を損なわないことから、液晶プロジェクターの光量調整用絞り装置の絞り羽根材や、リフロー工程による組み立てに対応できる固定絞り材やシャッター羽根材として利用することができるため、この点でも工業的価値が極めて高いといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のフィルム状遮光板、及びそれを用いた絞り、光量調整用絞り装置、又はシャッターについて説明する。
【0018】
1.フィルム状遮光板
本発明のフィルム状遮光板は、樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に結晶性の炭化酸化チタン膜からなる遮光性薄膜(B)が形成されたフィルム状遮光板であって、遮光性薄膜(B)は、炭素量がC/Ti原子数比として0.6以上、かつ酸素量がO/Ti原子数比として0.2〜0.6であり、しかも遮光性薄膜(B)の膜厚が総和で260nm以上となるようにして、波長400〜800nmにおける平均光学濃度を4.0以上としたことを特徴とする。
【0019】
(A)樹脂フィルム基材
樹脂フィルムとは、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、アラミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、又はポリエーテルサルフォン(PES)から選択される1種類以上の材質で構成されているフィルムや、これらのフィルムの表面にアクリルハードコートが施されたフィルムやカーボンブラックやチタンブラックなどの黒色微粒子を内部に含浸させて透過率を低減したフィルムも利用できる。
【0020】
高温環境下でも使用可能で軽量なフィルム状遮光板を実現するためには、耐熱性を有する樹脂フィルムをベースとした基材を使うことが好ましい。120〜150℃程度の耐熱性を付与する場合には、ポリエチレンナフタレート(PEN)が有効である。車載のモニターに使われる固定絞り部材には、約120℃程度の耐熱性が必要であるが、ポリエチレンナフタレートを用いることで実現できる。
200℃以上の耐熱性を付与する場合には、ポリイミド(PI)、アラミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、又はポリエーテルサルフォン(PES)から選択される1種類以上の耐熱性材料で構成されているフィルムが好ましい。その中でもポリイミドフィルムは、耐熱温度が270℃以上と最も高く、特に好ましいフィルムである。リフロー工程による組み立てに対応できる固定絞り材やシャッター羽根材として利用できるフィルム状遮光板を得るためにはポリイミドフィルムを使用することが有効である。
【0021】
樹脂フィルム基材の厚みは、200μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以下、最も好ましくは50μm以下である。200μmより厚いと、小型化が進む絞り装置や光量調整用装置へ遮光羽根を複数枚搭載することができないなどの用途によっては不適となってしまうため好ましくない。
また、フィルム状遮光板をレンズユニットの固定絞りとして利用するときは、光路内の絞りの端面での光反射が迷光となり、鮮明な画質の撮影を妨げる要因となる。絞り端面での光反射を極力低減させるためには、絞りの厚みを極力薄くすることが効果的である。薄い絞りを得るためには、薄いフィルム状遮光板が有用となる。具体的には、厚み38μm以下が好ましく、さらには厚み25μm以下が最も好ましい。しかし、5μmより薄いものでは、ハンドリング性が悪くて取り扱いにくく、フィルムに傷や折れ目などの表面欠陥が付きやすくなるため好ましくない。
【0022】
また、樹脂フィルム基材は、ナノインプリンティング加工やショット材を使用したマット処理加工によって所定の表面凹凸性を有していることが好ましい。樹脂フィルム基材が表面凹凸性を有していることで遮光性薄膜に表面凹凸が生じ光の正反射率(ここで、遮光性薄膜の光の正反射率とは、反射光が反射の法則に従い、入射光の入射角に等しい角度で表面から反射していく光の反射率を言う。)を低減する、すなわち艶消しの効果をもたらすことができるので、遮光板としては好ましい。
【0023】
(B)遮光性薄膜
本発明に用いる遮光性薄膜は、結晶性の炭化酸化チタン膜であって、含有炭素量がC/Ti原子数比で0.6以上であり、含有酸素量がO/Ti原子数比で0.2〜0.6である。
遮光性薄膜の含有炭素量が、C/Ti原子数比で0.6未満であると、膜が、金色を呈するようになり、可視域での反射率が高くなってしまい好ましくない。また、C/Ti原子数比が0.6未満であると、大気中で270℃に加熱したときに膜の酸化による変色がみられるため、270℃における耐熱性を発揮させるためにも、膜のC/Ti原子数比は0.6以上である必要がある。
【0024】
本発明に用いる遮光性薄膜は、樹脂フィルム基材に対する密着性に着眼すると、膜のO/Ti原子数比が0.2未満であると、膜を構成する原子の結合が金属結合性の割合が強まり、イオン結合性の割合が弱まるため樹脂フィルムに対する付着力が弱まる。O/Ti原子数比が0.2以上の場合は、膜の構成原子の結合にイオン結合性の割合が強くなるため、フィルム基材とイオン結合性が発生して付着力が強まるため好ましい。
【0025】
本発明における遮光性薄膜は、上記のチタン、炭素、酸素の構成元素の他、他の金属元素や、窒素やフッ素などの他の元素が、本発明の特性を損なわない程度に含まれていても構わない。遮光性薄膜へ窒素を導入するには、それぞれ、遮光性薄膜を成膜する時のスパッタリングガス中に窒素ガスの添加ガスを導入してスパッタリング成膜することで可能であるが、上記のような添加ガスを用いなくても、ターゲット中に窒素を含有させることでも導入することができる。また遮光性薄膜へのフッ素の導入には、ターゲット中にフッ化物を含有させることで可能である。
また本発明に用いる遮光性薄膜は、炭素含有量および/または酸素含有量の組成の異なる炭化酸化チタン膜が積層されていても、各層の組成範囲が本発明の規定内であればかまわない。また本発明に用いる遮光性薄膜は、膜厚方向に炭素含有量および/または酸素含有量が連続的に変化した炭化酸化チタン膜であっても、膜全体の平均組成が本発明で規定する組成範囲内であればかまわない。
【0026】
一般に、有機物である樹脂フィルムと無機物である金属膜などとの結合は弱い。本発明の遮光性薄膜を樹脂フィルムの表面に形成するときも同じである。また、膜の付着力を高めるためには、成膜時のフィルム表面温度を高めることが有効である。しかし、フィルムの種類によっては、130℃以上に温度を上げると、ガラス転移点や分解温度を越えてしまうPETなどもあるため、成膜時のフィルム表面温度はなるべく低温、例えば100℃以下で行えることが望ましい。100℃以下の樹脂フィルム表面に、本発明の遮光性薄膜を高付着力で形成するためには、膜中のO/Ti原子数比を0.2以上に設定した炭化酸化チタン膜を用い、更に、結晶膜とすることが必要不可欠である。
【0027】
本発明に用いる遮光性薄膜は、膜の光学特性に着目すると、含有酸素量をO/Ti原子数比で0.2未満の場合は、炭化酸化チタン膜は金属色を呈し、低反射性や黒色性に劣ってしまうため好ましくなく、O/Ti原子数比で0.6を超える場合は、膜の透過率が高すぎて光吸収機能に劣り、低反射性や遮光性を損なってしまうため、好ましくない。
遮光性薄膜中のC/Ti原子数比やO/Ti原子数比は、例えばXPSにて分析できる。膜の最表面は酸素量が多く結合されているため、真空中で数十nmの深さまでスパッタリングで除去した後に測定して膜中のC/Ti原子数比やO/Ti原子数比を定量化することができる。
【0028】
本発明における遮光性薄膜は、膜厚が総和で260nm以上であると、波長400〜800nmにおける平均光学濃度を4.0以上にすることができる。しかし、膜厚の総和は260〜500nmであればより好ましい。可視域における完全な遮光性を発揮するためには、膜厚の総和が260nm以上でなければならないが、膜厚の総和が500nmより厚くなると、遮光性薄膜を成膜するのに要する時間が長くて製造コストが高くなったり、必要な成膜材料が多くなって材料コストが高くなるので好ましくない。
【0029】
2.遮光性薄膜の形成方法
本発明に用いる遮光性薄膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、CVD法などの真空プロセスを用いた成膜法の他、炭化酸化チタン微粒子を分散させたインクを塗布する方法でも製造することができる。しかし、これらの中でも、スパッタリング法で製造することは、大面積の基板上に均一に形成することができるだけでなく、基材に対して高い密着力を有して形成することができるため好ましい。
【0030】
膜の結晶性は成膜条件に依存するが、結晶性の炭化酸化チタン膜であることによって、フィルム基材に対して高付着力を発揮することから、結晶性の炭化酸化チタン膜であることが必要である。
本発明のフィルム状遮光板に用いる遮光性薄膜をスパッタリング法で製造する場合、含有炭素量がC/Ti原子数比で0.6以上であり、含有酸素量がO/Ti原子数比で0.17〜0.53である炭化酸化チタン焼結体ターゲットを用いることが望ましい。炭化酸化チタンターゲットは、酸化チタンと炭化チタンと金属チタンの粉末の混合体からホットプレス法で作製した。各原料の配合割合を変えることで種々のC/Ti原子数比、O/Ti原子数比の炭化酸化チタンターゲットを作製することができる。
O/Ti原子数比が0.17未満の炭化酸化チタンターゲット、もしくは、炭化チタンターゲットを用いても、Oを多めに混合したArガスをスパッタリングガスとして用いることで、膜中に酸素を多く取り込むことができ、本発明の組成範囲内の遮光性薄膜を成膜することができる。しかし、この場合、スパッタリングガスに酸素を多めに混合することになり、膜の結晶性が低下する場合があるため、結晶膜が得られる酸素混合量の条件範囲内での作製が必要となる。スパッタリングガス中にOガスが多く含まれると結晶性を低下させるのは、Oガスがプラズマによって電離し、負に電離した酸素イオンが電界で加速して膜を衝撃するためである。
本発明のフィルム状遮光板においては、遮光性薄膜は、例えばアルゴン雰囲気中において炭化酸化チタン焼結体のスパッタリングターゲットを使用した直流マグネトロンスパッタリング法により樹脂フィルム基材上に成膜形成される。放電方式は、高周波放電でもかまわないが、直流放電の方が、高速成膜が可能となるため好ましい。
【0031】
樹脂フィルム基材上に炭化酸化チタン膜をスパッタリング法で成膜して、本発明のフィルム状遮光板を製造するには、例えば、図3に示した巻き取り式スパッタリング装置を用いることができる。この装置は、ロール状の樹脂フィルム基材1が巻き出しロール5にセットされ、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプ6で成膜室である真空槽7内を排気した後、巻き出しロール5から搬出されたフィルム1が途中、冷却キャンロール8の表面を通って、巻き取りロール9で巻き取られていく構成をとる。冷却キャンロール8の表面の対向側にはマグネトロンカソード10が設置され、このカソードには膜の原料となるターゲット11が取り付けてある。なお、巻き出しロール5、冷却キャンロール8、巻き取りロール9などで構成されるフィルム搬送部は、隔壁12でマグネトロンカソード10と隔離されている。
まず、ロール状の樹脂フィルム基材1を巻き出しロール5にセットし、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプ6で真空槽7内を排気する。その後、巻き出しロール5から樹脂フィルム基材1を供給し、途中、冷却キャンロール8の表面を通って、巻き取りロール9で巻き取られていくようにしながら、冷却キャンロール8とカソード間で放電させて、冷却キャンロール表面に密着搬送されている樹脂フィルム基材1に成膜する。なお、樹脂フィルム基材は、スパッタリング前にガラス転移温度前後の温度で加熱し、乾燥しておくことが望ましい。
【0032】
本発明に用いる遮光性薄膜を製造するためのスパッタリング成膜では、ガス圧は、装置の種類などによっても異なるので一概に規定できないが、例えば、0.2〜0.8Paのスパッタリングガス圧で、Arガス、もしくは、Oを0.05%以内で混合したArガスを、スパッタリングガスとして用いる方法が採用できる。
これにより、基板(樹脂フィルム)に到達するスパッタリング粒子が高エネルギーとなるため、結晶性の膜が耐熱樹脂フィルム基材上に形成され、膜とフィルムとの間に強い密着性が発現される。成膜時のガス圧が0.2Pa未満であると、ガス圧が低いためスパッタリング法でのアルゴンプラズマが不安定となり、成膜した膜の膜質が悪くなる。また、0.2Pa未満であると、反跳アルゴン粒子が基板上に堆積した膜を再スパッタリングする機構が強くなり、緻密な膜の形成を阻害しやすくなる。また、成膜時のガス圧が0.8Paを超えた場合では、基板に到達するスパッタリング粒子のエネルギーが低いため膜が結晶成長しにくく、金属炭化物膜の粒が粗くなり、高緻密な結晶性の膜質でなくなるので樹脂フィルム基材との密着力が弱くなり、膜が剥がれてしまう。このような膜は耐熱性用途の遮光膜に用いることはできない。これにより、純Arガスもしくは微量にOを混合(例えば0.05%以内)したArガスをスパッタリングガスに用いて、結晶性の優れた本発明の遮光性薄膜を安定に製造することができる。Oを0.1%以上混合すると薄膜の結晶性が悪化する場合があり好ましくない。
【0033】
また、成膜時のフィルム表面温度は、金属炭化物膜の結晶性に影響を及ぼす。成膜時のフィルム表面温度が高温であるほど、スパッタリング粒子の結晶配列が起こりやすくなり、結晶性が良好となる。しかし、耐熱樹脂フィルムの加熱温度にも限界があり、最も耐熱性の優れたポリイミドフィルムでも表面温度は400℃以下で成膜する必要がある。フィルムの種類によっては、130℃以上に温度を上げると、ガラス転移点や分解温度を越えてしまうため、例えば、PETなどでは、成膜時のフィルム表面温度はなるべく低温、例えば100℃以下で行うことが望ましい。また、製造コストに着目しても、加熱時間や加熱のための熱エネルギーを考慮すると、なるべく低温で成膜を行うことがコスト低減には有効である。成膜時のフィルム表面温度は、90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましい。
また、成膜中には樹脂フィルム基材はプラズマから自然加熱される。ガス圧とターゲットへの投入電力やフィルム搬送速度を調整することで、ターゲットから基材に入射する熱電子やプラズマからの熱輻射によって成膜中の樹脂フィルム基材の表面温度を所定の温度に維持することは容易である。ガス圧は低いほど、投入電力は高いほど、フィルム搬送速度は遅いほどプラズマからの自然加熱による加熱効果は高くなる。成膜時、フィルムを冷却キャンに接触させている場合でも、自然加熱の影響でフィルム表面の温度は冷却キャン温度よりはるかに高い温度となる。しかし、ターゲットを冷却キャンと対向する位置に設置するスパッタリング装置では、自然加熱によるフィルム表面の温度は、フィルムが冷却キャンで冷却されながら搬送されるため、キャンの温度にも大きく依存し、なるべく成膜時の自然加熱の効果を利用するのであれば、冷却キャンの温度を高めにして搬送速度を遅くすることが効果的である。金属炭化物膜の膜厚は、成膜時のフィルムの搬送速度とターゲットへの投入電力で制御され、搬送速度が遅いほど、またターゲットへの投入電力が大きいほど厚くなる。
【0034】
3.フィルム状遮光板の構造
本発明のフィルム状遮光板は、樹脂フィルム基材の片面もしくは両面に、遮光性薄膜が形成された構造であり、該遮光性薄膜が、結晶性の炭化酸化チタン膜であり、膜中の含有炭素量がC/Ti原子数比で0.6以上であり、膜中に含有する酸素量がO/Ti原子数比で0.2〜0.6であり、各面に形成された遮光性薄膜の膜厚の総和が260nm以上であり、波長400〜800nmにおける平均光学濃度が4.0以上であることを特徴としている。
【0035】
また、本発明のフィルム状遮光板は、樹脂フィルムの両面に遮光性薄膜が形成されており、両面に形成された遮光性薄膜が、同じ組成であり、実質的に同じ膜厚であって、各面に形成された遮光性薄膜の膜厚の総和が260nm以上であることが好ましい。
樹脂フィルム基材の各面に形成した遮光性薄膜の膜厚の総和を260nm以上と規定しているのは、フィルム状遮光板の遮光性は、薄膜の膜厚に大きく依存するからである。膜厚の総和が260nm以上であれば膜による光吸収が充分に行われ、完全な遮光性を発揮することができる。膜厚の総和が260nm未満であると、膜の光通過が生じて十分な遮光機能を持たないので好ましくない。ただし、膜厚が厚くなると遮光性が良くなるが、600nmを超えると、材料コストや成膜時間の増加による製造コスト高につながり、また膜の応力も大きくなって変形しやすくなる。より好ましい膜厚は、300〜500nmである。上記のような炭化酸化チタン膜の膜厚とすることにより、十分な遮光性と低膜応力、低製造コストを達成することができる。
【0036】
図1に片面に遮光性薄膜が形成された構造の本発明のフィルム状遮光板を示し、図2に両面に遮光性薄膜が形成された構造の本発明のフィルム状遮光板を示す。上記炭化酸化チタン膜2は、図1に示すように樹脂フィルム基材の片面に形成されていてもよいが、図2に示すように両面に形成されている方が好ましい。両面に形成される場合は、各面の膜の材質と厚みが同じで、樹脂フィルム基材を中心として対称の構造であることが、より好ましい。基板の上に形成された薄膜は、基板に対して応力を与えるため、変形の要因となる。応力による変形は、成膜直後の遮光性薄膜でも見られる場合があるが、特に155〜300℃程度に加熱されると変形が大きくなり顕著となりやすい。しかし、上記のように基板の両面に形成する炭化酸化チタン膜の材質、膜厚を同じにして、基板を中心として対称の構造にすることで、加熱条件下でも応力のバランスが維持され、フラットなフィルム状遮光板を実現しやすい。
【0037】
上記の通り、各面に形成された遮光性薄膜の膜厚の総和は260nm以上である。上記構造を有することで、可視域、すなわち、波長400〜800nmにおける平均光学濃度が4.0以上であり、波長400〜800nmにおける膜表面の正反射率の平均値を39%以下と低くすることができる。よって、光学部材として有用なフィルム状遮光板を実現できる。
ここで光学濃度とは、光の遮光性を示す指標であり、光学媒質で透過率の逆数の10を底とした対数で表す。4.0以上で完全な遮光性を示すとしている。
また、樹脂フィルムは柔らかいため、表面に形成する膜の応力の影響を受けて変形しやすい。これを回避するため、フィルムの両面に同じ組成・膜厚の遮光性薄膜を対称に形成することが有効であり、好ましい。
【0038】
本発明のフィルム状遮光板に用いる遮光性薄膜は、上記のような組成、構造を有するため膜表面は導電性を有する。そのため、シャッター羽根として利用すると、シャッター駆動時に羽根同士が擦れたとき、静電気が発生しにくく、粉塵を吸着しにくいという利点がある。静電気が発生しにくい導電性としては、100kΩ/□(キロオーム・パー・スクエアと読む)以下の表面抵抗であれば十分であるが、本発明のフィルム状遮光板の遮光膜は、例え膜厚10nmとしても、3〜4kΩ/□の表面抵抗を実現でき、また、単膜で十分な遮光性を発揮する260nmでも100〜200Ω/□の表面抵抗を実現できる。
【0039】
樹脂フィルム基材の表面粗さは、0.15〜0.72μm(算術平均高さ)であると、波長400〜800nmにおける遮光性薄膜表面の正光反射率が1.5%以下とすることができる。また、表面粗さが、0.35〜0.72μmであると、正反射率は0.8%以下となり、非常に低反射なフィルム状遮光板が実現できるため好ましい。
ここで算術平均高さ(Ra)とは、算術平均粗さとも言われ、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計して平均した値である。基材表面の凹凸は、ナノインプリンティング加工やショット材を使用したマット処理加工によって所定の表面凹凸を形成することができる。マット処理の場合は、ショット材に砂を使用したマット処理加工が一般的であるが、ショット材はこれに限定されない。金属遮光膜を施した樹脂フィルムを基材として用いる場合は、樹脂フィルムの表面を上記の方法で凹凸化しておくと有効である。
遮光性薄膜の表面粗さ(算術平均高さRa)は、概ね基板の表面粗さに近いが、遮光性薄膜の表面粗さが0.15〜0.70μm(算術平均高さ)であると、波長400〜800nmにおける遮光性薄膜表面の正光反射率を平均1.5%以下とすることができる。また、遮光性薄膜の表面粗さが、0.32〜0.70μmであると、正反射率は0.8%以下となり、非常に低反射なフィルム状遮光板が実現できるため好ましい。
【0040】
4.フィルム状遮光板の用途
本発明のフィルム状遮光板は、端面クラックが生じないように特定の形状に打ち抜き加工を行って、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラの固定絞りや機械的シャッターや、一定の光量のみ通過させる絞り(アイリス)、更には液晶プロジェクターの光量調整用装置(オートアイリス)の絞り羽根として利用できる。
【0041】
光量調整用絞り装置(オートアイリス)の絞り羽根には、複数の絞り羽根として用い、それらの絞り羽根を可動させ、絞り開口径を可変して光量の調整が可能となる機構用として用いることができる。図4は、本発明のフィルム状遮光板を打ち抜き加工して製造された黒色遮光羽根を搭載した光量調整用絞り装置の絞り機構を示す模式図である。
本発明のフィルム状遮光板を用いて作製された黒色遮光羽根には、ガイド孔、駆動モーターと係合するガイドピンと遮光羽根の稼働位置を制御するピンを設けた基板に取り付けるための孔を設けている。また、基板の中央にはランプ光が通過する開口部があるが、絞り装置の構造により遮光羽根は、さまざまな形状をとりうる。樹脂フィルムをベース基材として用いたフィルム状遮光板は、軽量化できるので、遮光羽根を駆動する駆動部材の小型化と消費電力の低減が可能となる。
液晶プロジェクターの光量調整装置は、ランプ光の照射による加熱が顕著である。そのため、本発明のフィルム状遮光板を加工して製造された耐熱性と遮光性に優れた絞り羽根を搭載された光量調整装置は有用といえる。また、リフロー工程で固定絞りや機械式シャッターを組み立ててレンズユニットを製造する場合においても、本発明のフィルム状遮光板を加工して得た固定絞りやシャッターを用いると、リフロー工程中の加熱環境下において特性が変化しないため非常に有用である。車載モニターのレンズユニット内の固定絞りは、夏場の太陽光による加熱が顕著であるが、同様の理由で本発明のフィルム状遮光板から作製した固定絞りは有用といえる。
【実施例】
【0042】
次に、本発明について、実施例、比較例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって限定されるものではない。遮光性薄膜の成膜は以下の手順で実施した。
【0043】
図3に示した巻き取り式スパッタリング装置を用いて、樹脂フィルム基材に炭化酸化チタン膜の成膜を行った。まず、冷却キャンロール8の表面の対向側にマグネトロンカソード10が設置された装置のカソードに膜の原料となる下記の炭化酸化チタンターゲット11を取り付けた。巻き出しロール5、冷却キャンロール8、巻き取りロール9などで構成されるフィルム搬送部は、隔壁12でマグネトロンカソード10と隔離されている。次に、ロール状の樹脂フィルム基材1を巻き出しロール5にセットした。
樹脂フィルム基材は、スパッタリング前に、真空中にて70℃の温度に加熱したキャンロール表面に密着搬送することで、十分に乾燥した。
次に、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプ6で真空槽7内を排気した後、冷却キャンロール8とカソード間で放電させて、樹脂フィルム基材1を冷却キャンロール表面に密着搬送しながら成膜を行った。このときの冷却キャンロールの設定温度は50℃とし、ターゲットと基板との距離は50mmとした。成膜前の真空槽内の到達真空度は2×10−4Pa以下であった。
まず、炭化酸化チタン焼結体ターゲットをカソードに設置し、このカソードから直流スパッタリング法で炭化酸化チタン膜を成膜した。炭化酸化チタン膜は、スパッタリングガスに純アルゴンガス(純度99.999%)を用いてスパッタリングガス圧0.2Paにて成膜を行った。ターゲットには1.2〜3.0W/cmの直流電力密度(ターゲットのスパッタリング面における単位面積当たりの直流投入電力)を投入して成膜を実施した。成膜時のフィルムの搬送速度とターゲットへの投入電力を制御することで炭化酸化チタン膜の膜厚を制御した。巻き出しロール5から搬出された樹脂フィルム基材1は、途中、冷却キャンロール8の表面を通って、巻き取りロール9で巻き取った。
炭化酸化チタン膜のスパッタリング時の、フィルムの表面温度は、フィルム基材に貼り付けたサーモラベル(日油技研工業製)と赤外線放射温度計で測定した。赤外放射温度計は、巻き取り式スパッタリング装置の石英ガラスののぞき窓から測定した。
【0044】
また、得られた耐熱遮光フィルムの評価は以下の方法で行った。
(膜厚測定)
表面平滑性が非常に優れたPESフィルム(住友ベークライト製、FST−U1340、厚み200μm)の小片(50mm×50mm)に油性マジックで印を付けておき、この小片を搬送成膜するロール状の樹脂フィルムに耐熱粘着テープ(日東電工製 No.360UL)を用いて貼り付けた。成膜した後に、マジックの印部分をエタノールで溶かし、印上に成膜された膜を除去した。このようにして形成された膜の段差を、段差・表面あらさ・微細形状測定装置(KLA―Tencor Japan製、Alpha−Step IQ)を用いて測定した。
(遮光膜の組成)
得られた膜の組成(C/Ti原子数比、O/Ti原子数比)をXPS(VG Scientific社製ESCALAB220i−XL)で定量分析した。なお定量分析の際には、膜の表面20〜30nmをスパッタエッチングしてから、膜内部の組成分析を実施した。膜の表面粗さは接触式表面粗さ計((株)東京精密社製サーフコム570A)を用いて測定した。
(遮光膜の結晶性)
膜の結晶性はCuKα線を利用したX線回折測定において評価した。
【0045】
(膜の反射率と透過率)
波長400〜800nmにおける膜の反射率と透過率は、分光光度計(日本分光社製V−570)にて測定し、透過率から光学濃度を算出した。得られた膜の組成(C/Ti原子数比、O/Ti原子数比)をXPS(VG Scientific社製ESCALAB220i−XL)で定量分析した。なお定量分析の際には、膜の表面20〜30nmをスパッタエッチングしてから、膜内部の組成分析を実施した。膜の表面粗さは接触式表面粗さ計((株)東京精密社製サーフコム570A)を用いて測定した。
遮光性の指標である光学濃度は、分光光度計で測定される透過率(T)を次式により換算した。光学濃度は4以上、最大反射率は10%未満であることが必要である。
光学濃度=Log(1/T)
【0046】
(表面粗さ)
樹脂フィルム基材と、その基材上に得られた遮光性薄膜の表面粗さ(算術平均高さ)は、表面粗さ計((株)東京精密製、サーフコム570A)で測定した。
(膜の表面抵抗)
得られた遮光膜の表面抵抗は、抵抗率計(ダイアインスツルメンツ製 Loresta―EP MCP−T360)を用いて四探針法で測定した。表面抵抗が100kΩ/□以下である場合は導電性が良好と判断した。
(耐熱性)
膜の耐熱性については、大気オーブンにて、270℃で1時間の条件で、加熱処理を行い、膜の色味変化の有無をチェックした。
(密着性)
膜のフィルム基材に対する密着性については、JIS C0021(クロスカット試験)で評価し、膜剥がれが生じたときは×、膜が剥がれなかったときは○とした。
【0047】
(炭化酸化チタン焼結体ターゲット)
C/Ti原子数比が0.44〜1.21、O/Ti原子数比が0.10〜0.61の組成の異なる炭化酸化チタン焼結体ターゲット(6インチΦ×5mmt、純度4N)を用いた。
炭化酸化チタンターゲットは、酸化チタンと炭化チタンと金属チタンの粉末の混合体からホットプレス法で作製した。各原料の配合割合を変えることで種々のC/Ti原子数比、O/Ti原子数比の炭化酸化チタンターゲットを作製することができた。作製した焼結体の組成は、焼結体破断面の表面をスパッタリング法で削った後、XPS(VG Scientific社製ESCALAB220i−XL)にて定量分析を行った。
【0048】
(実施例1〜5、比較例1〜3)
フィルム表面の表面粗さ(Ra)が0.05μmであり、厚みが25μmであるポリイミド(PI)フィルムを用いて、前記の成膜手順で、非加熱の基板に所定の膜厚の膜を形成した。フィルムの両面に同じ膜厚で同じ組成の炭化酸化チタン膜を同じ製法にて形成した。成膜中の基板表面の温度は、フィルム基材に貼り付けたサーモラベル(日油技研工業製)と放射温度計で測定した。成膜中の基板表面温度は、いずれも80〜85℃であった。
表1に、こうしてポリイミド(PI)フィルム基材に炭化酸化チタン膜を形成してフィルム状遮光板を作製した結果を示す。表中には、膜の作製に使用した焼結体ターゲットの組成と成膜条件、得られた膜の組成、各面の膜厚の総和、波長400〜800nmにおける膜の正反射率の平均値、波長400〜800nmにおける光学濃度の平均値、膜表面の粗さ(Ra)、表面抵抗値、大気加熱時の色味変化についてまとめた。
【0049】
【表1】

【0050】
表1の実施例1〜5、比較例1〜3を参照すると、膜組成はターゲット組成がほぼ反映されていることがわかる。
実施例1〜5の膜は、C/Ti原子数比が0.62〜1.23で、O/Ti原子数比が0.21〜0.58の炭化酸化チタン膜であり、本発明の遮光性薄膜であることが確認された。実施例1〜5の結果から、本発明の遮光性薄膜は、含有炭素量がC/Ti原子数比で0.6〜1.21であり、含有酸素量がO/Ti原子数比で0.17〜0.53である炭化酸化チタン焼結体ターゲットを用いて、スパッタリング法で製造できることがわかる。
膜の結晶性をX線回折で測定した結果、実施例1〜5、比較例1〜3で作製された膜は、全て岩塩型結晶構造の結晶性に優れた膜であることが確認された。図5に実施例1の膜のX線回折パターンを示した。岩塩型結晶構造に起因する111回折ピークが35.8度付近に、200回折ピークが41.0度付近に観察され、これら以外の回折ピークはみられなかった。TiC(JCPDSカード32−1383)、TiO(JCPDSカード08−0117)も岩塩型結晶構造であることから、これらの固溶体である炭化酸化チタンも同じ岩塩型構造を有するのである。
実施例1〜5の表面抵抗値は、452Ω/□以下であり、高い導電性を示している。よって、静電気の帯電による粉塵吸着を抑制することができるため光学部材として有効である。
一方、表1の比較例1〜2で作製された膜は、膜のO/Ti原子数比が本発明の組成範囲から逸脱しており、比較例3の膜は、膜のC/Ti原子数比が本発明で規定した組成範囲から逸脱している。
比較例1、実施例1〜3、比較例2の膜の平均反射率に着目すると、膜のO/Ti原子数比が大きくなると、平均反射率は減少する傾向を示した。比較例2の膜はO/Ti原子数比が0.72と多く含まれるが、平均光学濃度が4.0未満であり、十分な遮光性を有していない。低反射性と十分な遮光性を発揮するためには、実施例1〜3のような、O/Ti原子数比が0.20〜0.60である薄膜を使うことが重要である。
また、比較例3のフィルム状遮光板は、膜のO/Ti原子数比が0.43であり上記の範囲内であるが、膜のC/Ti原子数比が0.42であり、本発明で規定したC/Ti原子数比の範囲から逸脱して少ない。このような膜は、平均光学濃度は4.0より大きくて十分な遮光性を有しているが、膜色が金色を呈していて反射率が非常に高い。膜中のC量が少なくなると、TiO膜に近い物性が現れ、金色を呈するのである。よって、このような反射率の高い膜は、光学部材の表面薄膜として利用することができず、これを覆って得たフィルム状遮光板は光学部材として有用でない。
実施例4〜5も、膜の組成は本発明の範囲内であるため、比較例1〜3のフィルム状遮光板と比べて反射率が低く、また平均光学濃度も4.0を超えているため十分な遮光性を有している。よって、光学部材用のフィルム状遮光板として利用することができる。
【0051】
(実施例6、比較例4)
フィルム表面に形成した炭化酸化チタン膜の膜厚の総和を360nm(各面180nm)に変えるか(実施例6)、240nm(各面120nm)に変えた(比較例4)以外は、実施例1と全く同様の方法でフィルム状遮光板を作製した。この結果を表1に示す。
表中の表面抵抗値が示すように、何れも、導電性を示している。よって、静電気の帯電による粉塵吸着の問題は発生しにくいといえる。
実施例6、比較例4の膜のX線回折測定から、何れも実施例1と同様に結晶性に優れた膜が得られていることがわかった。
総膜厚240nmの炭化酸化チタン膜を形成して作製した比較例4のフィルム状遮光板は、波長400〜800nmにおける平均光学濃度が4.0未満であり、十分な遮光性を獲ることができなかった。これに対して、総膜厚を360nmに変えた実施例6のフィルム状遮光板は、平均光学濃度が4.0を超えているため、十分な遮光性を有しているといえる。
【0052】
(実施例7、比較例5)
フィルム表面に形成した炭化酸化チタン膜の総膜厚を500nm(各面250nm)に変えるか(実施例7)、220nm(各面110nm)に変えた(比較例5)以外は、実施例3と全く同様の方法でフィルム状遮光板を作製した。この結果を表1に示す。
表中の表面抵抗値が示すように、何れも、導電性を示している。よって、静電気の帯電による粉塵吸着の問題は発生しにくいといえる。
実施例7、比較例5の膜のX線回折測定から、何れも実施例1と同様に結晶性に優れた膜が得られていることがわかった。
総膜厚220nmの炭化酸化チタン膜を形成して作製した比較例5のフィルム状遮光板は、波長400〜800nmにおける平均光学濃度が3.68であり、十分な遮光性を獲ることができなかった。これに対して、総膜厚を500nmに変えた実施例7のフィルム状遮光板は、平均光学濃度が4.0を超えているため、十分な遮光性を有しているといえる。
【0053】
(実施例8〜12、比較例6〜8)
フィルム表面の表面粗さ(Ra)が0.35μmであり、厚みが38μmであるポリイミドフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして炭化酸化チタン膜を形成し、フィルム状遮光板を作製した。フィルムの表面粗さは、サンドブラストによるマット処理において形成した。各面の膜厚は200nmと共通であり(総膜厚は400nm)、各面の膜の製法も同じである。この結果を表2に示す。
表2中の何れのフィルム状遮光板は、表面抵抗値が示すように、導電性を示している。よって、静電気の帯電による粉塵吸着の問題は発生しにくいといえる。
表2中の、フィルム状遮光板の炭化酸化チタン膜のX線回折測定から、何れも実施例1と同様に結晶性に優れた膜が得られていることがわかった。また、炭化酸化チタン膜の表面の表面粗さ(Ra)は何れも0.32μmであった。よって、表2中のフィルム状遮光板の400〜800nmにおける正反射率の平均値は、表面粗さが小さかった実施例1〜11のフィルム状遮光板と比べて小さい。しかし、表2中の実施例と比較例とを比較すると正反射率でも相違がみられる。すなわち、実施例8〜12は、本発明の組成範囲の炭化酸化チタン膜を用いて作製した本発明のフィルム状遮光板であるが、O/Ti原子数比が本発明の組成範囲を逸脱した炭化酸化チタン膜を用いた比較例6のフィルム状遮光板と比べて、波長400〜800nmにおける平均反射率の平均が低い。よって実施例8〜12のフィルム状遮光板の方が光学部材として有用である。また、このフィルム状遮光板は、膜がフィルム基材に対して強く付着している。よって、耐久性に優れるため、シャッターなどの光学部材に特に有用である。さらに実施例8〜12のフィルム状遮光板は、平均光学濃度も4.0以上であるため完全な遮光性を有している。
一方、比較例6は、膜のフィルム基材に対する付着力が弱く、この面でも光学部材として利用できない。比較例7は、O/Ti原子数比が、本発明の組成範囲より多く含まれる炭化酸化チタン膜を用いたフィルム状遮光板であるが、波長400〜800nmにおける平均光学濃度が3.83であるため、十分な遮光性を有していない。また比較例8は、C/Ti原子数比が、本発明の組成範囲より少ない炭化酸化チタン膜を用いたフィルム状遮光板である。波長400〜800nmにおける平均反射率は、同じフィルム基材を用いて作製した実施例8〜12と比べて高く、270℃の加熱試験における変色もみられた。よって、リフロー工程で組み立てるような光学部材として利用することはできない。
【0054】
【表2】

【0055】
(実施例13〜17、比較例9〜11)
フィルム表面の表面粗さ(Ra)が0.17μmであり、厚みが50μmであるポリイミド(PI)フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして炭化酸化チタン膜を形成し、フィルム状遮光板を作製した。フィルムの表面粗さは、サンドブラストによるマット処理において形成した。各面の膜厚は180nmと共通であり(総膜厚は360nm)、各面の膜の製法も同じである。結果を表3に示す。
表3中の何れのフィルム状遮光板は、表面抵抗値が示すように、導電性を示している。よって、静電気の帯電による粉塵吸着の問題は発生しにくいといえる。
表3中のフィルム状遮光板は、炭化酸化チタン膜のX線回折測定から、何れも実施例1と同様に結晶性に優れた膜が得られていることがわかった。また、表3中のフィルム状遮光板は、炭化酸化チタン膜の表面の表面粗さ(Ra)が何れも0.15μmであった。よって、表3中のフィルム状遮光板の400〜800nmにおける正反射率の平均値は、表面粗さが小さかった実施例1〜11のフィルム状遮光板と比べて小さい。しかし、表3中の実施例と比較例とを比較すると正反射率でも相違がみられる。すなわち、実施例13〜17は、本発明の組成範囲の炭化酸化チタン膜を用いて作製した本発明のフィルム状遮光板であるが、O/Ti原子数比が本発明の組成範囲を逸脱した炭化酸化チタン膜を用いた比較例9のフィルム状遮光板と比べて、波長400〜800nmにおける平均反射率の平均が低い。よって実施例13〜17のフィルム状遮光板の方が、光学部材として有用である。このフィルム状遮光板は、膜がフィルム基材に対して強く付着している。よって、耐久性に優れるため、シャッターなどの光学部材に特に有用である。実施例13〜17のフィルム状遮光板は、平均光学濃度も4.0以上であるため完全な遮光性を有している。
一方、比較例9は、膜のフィルム基材に対する付着力が弱く、この面でも光学部材として利用できない。比較例10は、O/Ti原子数比が、本発明の組成範囲より多く含まれる炭化酸化チタン膜を用いたフィルム状遮光板であるが、波長400〜800nmにおける平均光学濃度が3.71であるため、十分な遮光性を有していない。また、比較例11は、C/Ti原子数比が、本発明の組成範囲より少ない炭化酸化チタン膜を用いたフィルム状遮光板である。波長400〜800nmにおける平均反射率は、同じフィルム基材を用いて作製した実施例13〜17と比べて高く、金色を呈していた。よって、光学部材として利用することができない。
【0056】
【表3】

【0057】
(実施例18〜22、比較例12〜14)
フィルム表面の表面粗さ(Ra)が0.72μmであり、厚みが100μmであるポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして炭化酸化チタン膜を形成してフィルム状遮光板を作製した。フィルムの表面粗さは、サンドブラストによるマット処理において形成した。各面の膜厚は180nmと共通であり(総膜厚は360nm)、各面の膜の製法も同じである。結果を表4に示す。
表4中の何れのフィルム状遮光板は、表面抵抗値が示すように、導電性を示している。よって、静電気の帯電による粉塵吸着の問題は発生しにくいといえる。
表4中のフィルム状遮光板は、炭化酸化チタン膜のX線回折測定から、何れも実施例1と同様に結晶性に優れた膜が得られていることがわかった。また、表4中のフィルム状遮光板は、炭化酸化チタン膜の表面の表面粗さ(Ra)が何れも0.69μmであった。よって、表4中のフィルム状遮光板の400〜800nmにおける正反射率の平均値は、表面粗さが小さかった実施例1〜11のフィルム状遮光板と比べて全体的に小さい。しかし、表4中の実施例と比較例とを比較すると正反射率でも相違がみられる。すなわち、実施例18〜22は、本発明の組成範囲の炭化酸化チタン膜を用いて作製した本発明のフィルム状遮光板であるが、O/Ti原子数比が本発明の組成範囲を逸脱した炭化酸化チタン膜を用いた比較例12のフィルム状遮光板と比べて、波長400〜800nmにおける平均反射率が低い。よって実施例18〜22のフィルム状遮光板の方が、光学部材として有用である。このフィルム状遮光板は、膜がフィルム基材に対して強く付着しており、耐久性に優れるため、シャッターなどの光学部材に特に有用である。実施例18〜22のフィルム状遮光板は、平均光学濃度も4.0以上であるため完全な遮光性を有している。
一方、比較例12は、膜のフィルム基材に対する付着力が弱く、この面でも光学部材として利用できない。比較例13は、O/Ti原子数比が、本発明の組成範囲より多く含まれる炭化酸化チタン膜を用いたフィルム状遮光板であるが、波長400〜800nmにおける平均光学濃度が3.73であるため、十分な遮光性を有していない。また、比較例14は、C/Ti原子数比が、本発明の組成範囲より少ない炭化酸化チタン膜を用いたフィルム状遮光板である。波長400〜800nmにおける平均反射率は、同じフィルム基材を用いて作製した実施例18〜22と比べて高く、金色を呈していた。よって、光学部材として利用することができない。
【0058】
【表4】

【0059】
(実施例23〜25、比較例15)
表5には、厚みが188μmであるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み3μmのアクリルハードコートがフィルムの両面に施されている)を用いた以外は、実施例1と同様にして、その片面のみに炭化酸化チタン膜を形成してフィルム状遮光板を作製した。成膜するフィルム面は、サンドブラストによるマット処理において表面凹凸を形成し、その表面粗さ(Ra)を0.20μmとした。炭化酸化チタン膜は実施例1と同じターゲットを使用し、酸素を0.05%ほど混合したアルゴンガスを成膜ガスとして用いた条件で成膜した。成膜ガスに酸素を混合せずに成膜した実施例1の膜と比べて、酸素が多めで炭素が少なめに含まれた膜が得られたが、本発明の組成範囲内であった。膜厚は、400nm(実施例23)、310nm(実施例24)、262nm(実施例25)、245nm(比較例15)と変えたものを作製した。結果を表5に示す。
表5中の何れのフィルム状遮光板も、膜表面の表面抵抗値が示すように、導電性を示している。よって、静電気の帯電による粉塵吸着の問題は発生しにくいといえる。
表5中のフィルム状遮光板の膜は、何れも弱い回折ピークが観察され、実施例1〜22の膜と比べて結晶性に劣ってはいるが、何れも結晶膜であることを確認した。結晶膜であるため、同様の条件で評価した膜の密着性についても十分であった。また、表5中のフィルム状遮光板は、炭化酸化チタン膜の表面の表面粗さ(Ra)が何れも0.18μmであった。よって、表5中のフィルム状遮光板の400〜800nmにおける正反射率の平均値は、表面粗さが小さかった実施例1〜11のフィルム状遮光板と比べて全体的に小さい。また、実施例23〜25は、膜の総膜厚が本発明の範囲内であるが、波長400〜800nmにおける平均光学濃度は4.0以上であり、十分な遮光性を示した。
これに対して、比較例15は、膜厚が本発明の範囲から少ないが、平均光学濃度は4.0未満であり、十分な遮光性を示さず、光学部材として利用することができない。
よって、片面に膜を形成する場合でも、膜厚は260nm以上必要であるといえる。
【0060】
【表5】

【0061】
(比較例16)
実施例1において、ターゲットと基板間距離を200mmと広げた以外は同じ条件で、同じ構造のフィルム状遮光フィルムを試作した。
得られた膜は、組成がC/Ti原子数比が0.92、O/Ti原子数比が0.57であり、実施例1の膜と比べて酸素の含有量が多く含まれることがわかったが、本発明の組成範囲内であった。波長400〜800nmにおける平均反射率は37.5%であり、平均光学濃度も4.0を超えていた。270℃の大気加熱試験における膜の色味変化もみられなかった。
しかし、XRD測定による膜の結晶性評価では、図6に示すようなX線回折パターンとなり、膜は非晶質構造となっていることがわかった。同様の条件で評価した膜の密着性については、膜剥がれが見られ、光学部材として利用できないことがわかった。
【0062】
(比較例17)
実施例24において、C/Ti原子数比が0.99でO/Ti原子数比が0.05の炭化酸化チタン焼結体ターゲットを用いたことと、成膜時のスパッタリングガス中への酸素混合量を0.10%に変えた以外は同じ製造条件で、膜厚・膜構成が実施例24と同様のフィルム状遮光板を作製した。
得られた310nmの膜の組成は、C/Ti原子数比が0.81であり、O/Ti原子数比が0.58であり、本発明で規定した膜の組成範囲内であった。
しかし、膜のX線回折測定では、回折ピークは観察されず、得られた膜は非晶質構造であることがわかった。スパッタリングガス中に導入した酸素量が多すぎため、プラズマ中に発生した酸素イオンが、ターゲット基板間の電界で加速されて膜を衝撃し、結晶膜の育成を妨げたものと思われる。
得られた膜の密着性を同様に評価したところ、膜剥がれがみられた。これは膜が非晶質膜であったからである。このような遮光膜が剥がれやすい製品は、光学部材として利用することができない。
【0063】
(比較例18)
従来からあるPETフィルムの内部に黒色微粒子を含浸させて得たフィルム状遮光板(ソマール社製ソマブラック)を試料として用い、これに遮光性薄膜を形成することなく、その光学濃度、表面抵抗値を評価した。
その結果、厚み50μmでは、波長400〜800nmにおける平均光学濃度は4.0以上であったが、厚みが38μmとなると平均光学濃度は3.7、厚みが25nmとなると平均光学濃度は2.5であり、薄くなるほど遮光性はより不十分になることがわかった。よって、フィルムの内部に黒色微粒子を含浸させて得たフィルム状遮光板では、本発明のフィルム状遮光板と比べて、遮光性も38μm以下になると不十分であり、シャッターや絞りなどの光学部材として利用できないことがわかった。
また、何れも導電性はないため、静電気が発生しやすく、帯電して粉塵を吸着するなどの問題が生じやすい。
【0064】
(実施例26)
本発明のフィルム状遮光フィルムの重量を測定したところ、50μmの厚みを有する遮光板(実施例13〜17)で70g/m、25μmの厚みを有する遮光板(実施例1〜7)で37g/mであった。これを同じ厚みのAl製の遮光板と比べると、本発明のフィルム状遮光フィルムの重量は45%程度であり、本発明の方が明らかに軽量であることを確認した。
よって、本発明のフィルム状遮光フィルムをシャッター羽根に用いると、軽量化による低電力駆動に対応可能となり、駆動モーターの小型化にも貢献できる。このことから、本発明のフィルム状遮光フィルムは、高速シャッターのシャッター羽根材として有用といえる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】樹脂フィルムの片面に遮光性薄膜を形成した、本発明のフィルム状遮光板の断面を示す概略図である。
【図2】樹脂フィルムの両面に遮光性薄膜を形成した、本発明のフィルム状遮光板の断面を示す概略図である。
【図3】本発明のフィルム状遮光板を製造するための、巻き取り式スパッタリング装置の概略図である。
【図4】本発明のフィルム状遮光板を打ち抜き加工して製造された、黒色遮光羽根を搭載した光量調整用絞り装置の絞り機構を示す模式図である。
【図5】本発明(実施例1)で得られた、炭化酸化チタン膜のX線回折パターン測定結果を示すチャートである。
【図6】比較例の条件で得られた、炭化酸化チタン膜のX線回折パターン測定結果を示すチャートである。
【符号の説明】
【0066】
0 フィルム状遮光板
1 樹脂フィルム
2 遮光性薄膜
5 巻き出しロール
6 真空ポンプ
7 真空槽
8 冷却キャンロール
9 巻き取りロール
10 マグネトロンカソード
11 ターゲット
12 隔壁
14 耐熱遮光羽根
15 ガイド孔
16 ガイドピン
17 ピン
18 基板
19 孔
20 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルム基材(A)の少なくとも一方の面に結晶性の炭化酸化チタン膜からなる遮光性薄膜(B)が形成されたフィルム状遮光板であって、
遮光性薄膜(B)は、炭素量がC/Ti原子数比として0.6以上、かつ酸素量がO/Ti原子数比として0.2〜0.6であり、しかも遮光性薄膜(B)の膜厚が総和で260nm以上となるようにして、波長400〜800nmにおける平均光学濃度を4.0以上としたことを特徴とするフィルム状遮光板。
【請求項2】
遮光性薄膜(B)の膜厚が、総和で260〜500nmであることを特徴とする請求項1に記載のフィルム状遮光板。
【請求項3】
樹脂フィルム基材(A)が、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、アラミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、又はポリエーテルサルフォン(PES)から選択される一種以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルム状遮光板。
【請求項4】
樹脂フィルム基材(A)が、200℃以上の温度でも耐熱性を有するポリイミド(PI)、アラミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、又はポリエーテルサルフォン(PES)から選択されることを特徴とした請求項1〜3に記載のフィルム状遮光板。
【請求項5】
樹脂フィルム基材(A)の厚みが38μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム状遮光板。
【請求項6】
樹脂フィルム基材(A)の厚みが25μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のフィルム状遮光板。
【請求項7】
樹脂フィルム基材(A)の両面に遮光性薄膜(B)が形成されており、遮光性薄膜(B)が、いずれも実質的に同じ組成、同じ膜厚であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフィルム状遮光板。
【請求項8】
遮光性薄膜(B)の表面が、導電性であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のフィルム状遮光板。
【請求項9】
遮光性薄膜(B)の表面の正光反射率が、波長400〜800nmにおいて平均39%以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のフィルム状遮光板。
【請求項10】
遮光性薄膜(B)の表面粗さが、0.15〜0.70μm(算術平均高さ)であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のフィルム状遮光板。
【請求項11】
遮光性薄膜(B)の表面の正光反射率が、波長400〜800nmにおいて平均1.5%以下であることを特徴とする請求項9に記載のフィルム状遮光板。
【請求項12】
遮光性薄膜(B)の表面粗さが、0.32〜0.70μm(算術平均高さ)であることを特徴とする請求項10に記載のフィルム状遮光板。
【請求項13】
遮光性薄膜(B)の表面の正光反射率が、波長400〜800nmにおいて平均0.8%以下であることを特徴とする請求項11に記載のフィルム状遮光板。
【請求項14】
樹脂フィルム基材(A)が、スパッタリング装置のフィルム搬送部にロール状にセットされたのち、巻き出し部から巻き取り部へと巻き取られる時に、スパッタリング法で樹脂フィルム基材(A)表面に遮光性薄膜(B)が成膜されることを特徴とする請求項1〜13に記載のフィルム状遮光板。
【請求項15】
遮光性薄膜(B)が、炭化酸化チタン焼結体ターゲットを用いたスパッタリング法で樹脂フィルム基材(A)上に形成されることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載のフィルム状遮光板。
【請求項16】
炭化酸化チタン焼結体ターゲットが、炭素をC/Ti原子数比として0.6以上、酸素をO/Ti原子数比として0.17〜0.53含有することを特徴とする請求項15に記載のフィルム状遮光板。
【請求項17】
スパッタリング時の樹脂フィルム基材(A)の表面温度が、100℃以下であることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載のフィルム状遮光板。
【請求項18】
270℃の高温環境下において耐熱性を有していることを特徴とする請求項1〜17に記載のフィルム状遮光板。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載のフィルム状遮光板を加工してなる絞り。
【請求項20】
請求項1〜18のいずれかに記載のフィルム状遮光板を加工した羽根材を用いてなる光量調整用絞り装置。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれかに記載のフィルム状遮光板を加工した羽根材を用いてなるシャッター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−8786(P2010−8786A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168995(P2008−168995)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】