説明

フェナンスレン化合物及びこれを用いた有機発光素子

【課題】高発光効率の有機発光素子を提供する。
【解決手段】陽極と陰極と、前記陽極と前記陰極との間に挟持される有機化合物層と、から構成される有機発光素子において、前記有機化合物層に下記一般式[1]で示されるフェナンスレン化合物が含まれることを特徴とする、有機発光素子。


(式[1]において、R1乃至R3は、それぞれ水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。Arは、場合によってはSあるいはOを含むアリール基からなる置換基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェナンスレン化合物及びこれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は、陽極と陰極と、これら両電極間に配置される有機化合物層とを有する電子素子である。各電極からそれぞれ注入させる正孔(ホール)及び電子が、有機化合物層、特に発光層内で再結合することで生成する励起子が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放出する。
【0003】
有機発光素子の最近の進歩は著しく、その特徴として、低駆動電圧、多様な発光波長、高速応答性、発光デバイスの薄型化・軽量化が可能であることが挙げられる。
【0004】
ところで有機発光素子は、発光に関与する励起子の種類によって蛍光発光素子と燐光発光素子とに大別される。そのうち燐光発光素子では三重項励起子が発光に関与し、有機発光素子を構成する有機化合物層、具体的には発光層中に燐光発光材料を有する電子素子である。ここで燐光発光材料は、正孔及び電子の再結合によって三重項状態に励起され、基底状態に戻る際に燐光を放出する。このため燐光発光素子は、この三重項励起子由来の発光が得られる有機発光素子である。
【0005】
ところで、燐光発光素子の内部量子収率は、理論上蛍光発光素子の内部量子収率の4倍になるので、近年では燐光発光素子に注目が集まっている。しかし燐光発光素子において、発光効率についてはさらなる改善の余地がある。
【0006】
一方、燐光発光素子で使用される材料について様々な提案がなされている。燐光発光層のホストとして、例えば、下記に示される化合物H01が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
【化1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−215333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし上記化合物H01は、最低励起三重項状態のエネルギー(T1エネルギー)が波長換算値で480nmと低いものであり、またLUMO準位が−2.82eVと浅い(電子親和力が小さい)。ここで発光効率の観点からすれば、LUMO準位をさらに深くする必要がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされるものであり、その目的は、高発光効率の有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
下記一般式[1]で示されることを特徴とするフェナンスレン化合物。
【0012】
【化2】

(式[1]において、R1乃至R3は、それぞれ水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。Arは、下記式[2a]乃至[2h]に示されるアリール基群のいずれかから選ばれる置換基である。
【0013】
【化3】

(式[2a]乃至[2f]において、R4乃至R21は、それぞれ水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。式[2e]及び[2f]において、X1乃至X4は、それぞれ水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。式[2a]乃至[2h]において、*は、結合手を表す。))
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高発光効率の有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の有機発光素子を使用した表示装置の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず本発明のフェナンスレン化合物について説明する。本発明のフェナンスレン化合物は、下記一般式[1]で示される化合物である。
【0017】
【化4】

【0018】
式[1]において、R1乃至R3は、それぞれ水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。
【0019】
1乃至R3で表されるアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0020】
尚、上記アルキル基はさらに置換基を有してもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、フルオレニル基等の炭化水素芳香環基、チエニル基、ピロリル基、ピリジル基等の複素芳香環基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジアニソリルアミノ基等の置換アミノ基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基等のアリールオキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基等を上記アルキル基にさらに置換してもよい。
【0021】
式[1]において、Arは、下記式[2a]乃至[2h]に示されるアリール基群のいずれかから選ばれる置換基である。
【0022】
【化5】

【0023】
式[2a]乃至[2f]において、R4乃至R21は、それぞれ水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。尚、R4乃至R21で表されるアルキル基の具体例は、式[1]中のR1乃至R3で表されるアルキル基の具体例と同様である。
【0024】
式[2e]及び[2f]において、X1乃至X4は、それぞれ水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。尚、X1乃至X4で表されるアルキル基の具体例は、式[1]中のR1乃至R3で表されるアルキル基の具体例と同様である。
【0025】
式[2a]乃至[2h]において、*は、結合手、具体的には、式[1]の化合物に含まれるフェナンスレン−ビフェニル骨格に結合する位置を表す。
【0026】
次に、本発明のフェナンスレン化合物の合成方法について説明する。
【0027】
本発明のフェナンスレン化合物は、下記に示されるように、フェナンスレンユニット、m−ビフェニレン連結基及びアリール基に分けることができる。
【0028】
【化6】

【0029】
この構造上の特性から、本発明のフェナンスレン化合物は、例えば、下記に示される合成スキームを利用して合成される。尚、下記合成スキームにおいて、Arは、式[2a]乃至[2h]のいずれかで示されるアリール基であり、R1乃至R3は、水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基である。
【0030】
【化7】

【0031】
上記合成スキームは、Pd触媒によるカップリング反応を利用して、m−ビフェニレン連結基の基礎となる化合物(3−ブロモ−3’−クロロビフェニル)に、アリール基及びフェナンスレンユニットの基礎となる化合物を順次反応させる方法である。例えば、以下の工程(a)乃至(b)を経ることで本発明のフェナンスレン化合物が合成される。
工程(a):3−ブロモ−3’−クロロビフェニルと、アリール基(Ar−)の基礎となるボロン酸誘導体とのPd触媒によるカップリング反応を行う工程
工程(b):工程(a)で得られた化合物と、フェナンスレンユニットの基礎となるビスピナコールボロン酸エステル誘導体とのPd触媒によるカップリング反応を行う工程
尚、上記合成スキームにおいて、本発明の要旨の範囲内でAr及びRをそれぞれ適宜選択することができ、所望のフェナンスレン化合物を合成することができる。
【0032】
また本発明のフェナンスレン化合物を有機発光素子の構成材料として使用する場合には、直前の精製として昇華精製を行うことが好ましい。なぜなら有機化合物を高純度化する手段の中でも昇華精製は高純度化の効果が大きいからである。ここで昇華精製を行う際には、一般に、対象となる有機化合物の分子量が大きいほど高温が必要とされる。このため高分子量の有機化合物について昇華精製を行うと、高温による熱分解等を起こしやすい。従って、過大な加熱なく昇華精製を行うことができるようにする観点から、有機発光素子の構成材料として使用される有機化合物は、その分子量が1000以下であることが好ましい。
【0033】
上述したように、本発明のフェナンスレン化合物は、フェナンスレンユニット、m−ビフェニレン連結基及びアリール基に分けることができる。
【0034】
本発明のフェナンスレン化合物において、フェナンスレンユニットは主骨格であり、アリール基は副骨格であり、m−ビフェニレン連結基(3,3’−ビフェニレン基(m−ビフェニレン基))で主骨格と副骨格とを連結している。
【0035】
ここで主骨格たるフェナンスレンユニットは、本発明のフェナンスレン化合物において中心的な部分構造であって、化合物全体のS1エネルギー、T1エネルギー、HOMO準位、LUMO準位等の物性値を決定付ける部分構造となる。これに対して副骨格たるアリール基は、本発明のフェナンスレン化合物において補助修飾的な部分構造であって、上記の化合物全体の物性値の微調整に用いられる部分構造となる。
【0036】
まず主骨格たるフェナンスレンユニットの特徴を説明する。下記表1は、主な芳香族化合物のT1エネルギー、S1エネルギー及びLUMO準位を表す表である。尚、表1において、T1エネルギー及びS1エネルギーは波長に換算した値であり、LUMO準位は計算値である。
【0037】
【表1】

【0038】
表1よりフェナンスレンは、他の化合物と比較すると、T1エネルギーが高い一方でS1エネルギーが低く、同等のT1エネルギーを有する芳香族化合物の中でLUMO準位が最も深いという特徴を有している。
【0039】
本発明者は、上述したフェナンスレンの特徴、及び後述する理由から、フェナンスレンユニットを主骨格とする化合物が、燐光発光する有機発光素子における発光層のホストとして適していると考えた。
【0040】
一般に、燐光発光素子では、ホストのT1からの非放射失活による発光効率の低下を防ぐために、ホストのT1エネルギーをゲスト(燐光発光材料)のT1エネルギーよりも高くする必要がある。
【0041】
例えば、発光色が緑色である燐光発光素子(緑色燐光発光素子)においては、発光材料のT1エネルギーよりも十分に高くなるように、ホストのT1エネルギーを波長換算で490nm以下にする必要がある。ここでフェナンスレン環単独のT1エネルギーを考慮すると、フェナンスレンユニットを主骨格とする化合物のT1エネルギーは、低くても波長換算で480nm以下である。これは上述したホストの条件を満たしている。従って、フェナンスレンユニットを主骨格とする化合物を発光層のホストとして使用すると、素子の発光効率が向上する。
【0042】
一方、燐光発光素子では、発光層のホストのS1エネルギーをなるべく低くする方がよい。ホストのS1エネルギーが低くすることで、ホスト自体のHOMO準位とLUMO準位との準位差(以下、エネルギーギャップという)を小さくすることができる。またホストのS1エネルギーが低いことは、ホスト自体のHOMO準位が極端に浅い場合を除き、通常ではホストのLUMO準位が深いことを意味する。
【0043】
燐光発光素子において、LUMO準位が深い化合物を発光層のホストとして使用すると、発光層の陰極側に隣接する電子輸送層又はホールブロッキング層からの電子注入障壁が小さくなるので、発光層へ電子を注入する性能が向上する。このとき発光層内のキャリア再結合領域、即ち、発光領域は発光層の内部へと拡大し、その分布は発光層の中央部が中心になるようになる。これにより発光層と電子輸送層又はホールブロッキング層との界面において発生し得る局所的な発光が抑制されるため、励起子漏れ等による発光効率の低下を防ぐことができる。
【0044】
一般に、燐光発光素子において、発光層のホストとなる化合物について高いT1エネルギーの確保を優先すると、その化合物のS1エネルギーは非常に高く(エネルギーギャップが非常に大きく)なるために、LUMO準位がかなり浅くなる場合が多い。これに対して、フェナンスレンユニットを主骨格とする化合物では、高いT1エネルギーと低いS1エネルギー(深いLUMO準位)とを両立させることができる。従って、フェナンスレンユニットを主骨格とする本発明に係る化合物を発光層のホストとして使用することによって素子の発光効率が高くなる。
【0045】
ただし上述したように、化合物のS1エネルギーが低くてもHOMO準位が極端に浅い場合にはLUMO準位はそれほど深くならない。しかし表1によると、フェナンスレンのLUMO準位は同等のT1エネルギーを有する芳香族化合物の中でも最も深いことが示されている。従って、フェナンスレンユニットを主骨格とする本発明のフェナンスレン化合物は、LUMO準位が深くなる傾向があるため、発光層のホストとして導入すると、素子の発光効率を向上させることができる。
【0046】
次に、副骨格たるアリール基(−Ar)について説明する。
【0047】
本発明のフェナンスレン化合物の主骨格たるフェナンスレンユニットは、上述したように、T1エネルギーが高い一方でS1エネルギーが低く、同等のT1エネルギーを有する芳香族化合物の中でLUMO準位が最も深いという特徴を有している。しかしフェナンスレンそのものを無置換のままで有機発光素子の構成材料として使用するのは非現実的である。フェナンスレンそのものの結晶性が高くて安定なアモルファス膜が得られないからである。そこで主骨格たるフェナンスレンユニットに何らかの副骨格を導入する必要がある。ここで副骨格となるユニット又は置換基の条件として、主骨格たるフェナンスレンユニットよりもS1エネルギー及びT1エネルギーが高いユニット又は置換基であることを要する。ここで表1を考慮すると、主骨格たるフェナンスレンユニットに導入するに相応しい副骨格としては、ベンゼン、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、フルオレン、ビフェニル、m−ターフェニル及びフェナンスレンの7種である。尚、主骨格たるフェナンスレンユニットとは別のフェナンスレン環を副骨格として導入してもよい。この場合、導入したフェナンスレン環も主骨格として機能する。
【0048】
ただし上述した7種の副骨格のうちの一部は、その置換位置によっては化合物全体のT1エネルギーを大きく低下させたり、S1エネルギーを大きく増加させたりすることがある。ここで主骨格への導入形式(結合手の位置)まで考慮すると、副骨格たるArは、下記式[2a]乃至[2h]で示される8種類のアリール基である。
【0049】
【化8】

【0050】
次に、m−ビフェニレン連結基について説明する。
【0051】
上述した8種類の副骨格のうち、縮合多環基であるジベンゾチオフェニル基、ジベンゾフラニル基、フルオレニル基及びフェナントリル基の4種の置換基は、主骨格たるフェナンスレンユニットと直接結合させることは好ましくない。なぜならこの結合の形成により、化合物全体のπ共役長が過度に拡大してT1エネルギーが著しく低下し、化合物としてフェナンスレン骨格由来の高いT1エネルギーを維持できないからである。
【0052】
このT1エネルギーの低下を防ぐために、本発明のフェナンスレン化合物は、主骨格と副骨格との間に連結基となるユニットが設けられている。ここで連結基とは、具体的には、下記に示されるm−ビフェニレン基である。尚、下記構造式において、*は、結合手を表す。
【0053】
【化9】

【0054】
m−ビフェニレン基は、ビフェニレン基のうち上記のように結合手の位置(結合位置)が指定された連結基である。m−ビフェニレン基として結合手の位置(結合位置)を指定するのは、この位置でビフェニレン基を連結することによって、化合物全体のπ共役をm−ビフェニレン基中の中央の結合(m−ビフェニレン基を構成するベンゼン環同士をつなぐ結合)で切断するためである。その結果、化合物全体におけるT1エネルギーは、「副骨格−ベンゼン」部分よりもT1エネルギーが小さい「フェナンスレン−ベンゼン」部分で決まり、主骨格たるフェナンスレンユニットのT1エネルギーから大きくは低下しない。
【0055】
同様の効果がある連結基として1,3−フェニレン基(m−フェニレン基)も考えられるが、表1より、m−ビフェニレン基の方がLUMO準位がより深いことが分かっている。また上述したように、本発明のフェナンスレン化合物においては、LUMO準位を深くするのが望ましいので、m−ビフェニレン基の方が望ましい。
【0056】
次に、主骨格(フェナンスレン骨格)と連結基(m−ビフェニレン基)との結合位置について説明する。本発明のフェナンスレン化合物は、フェナンスレン骨格の2位の炭素原子にm−ビフェニレン基が置換されているが、この理由を以下に説明する。
【0057】
以下にフェナンスレンの置換位置番号を示す。
【0058】
【化10】

【0059】
フェナンスレン骨格にフェニル基が置換された化合物は、フェニル基の置換位置によって化合物自体の物性(T1エネルギー等)が異なる。下記表2に、フェナンスレン骨格の所定の位置にフェニル基が置換された化合物のS1エネルギー、T1エネルギー、S1エネルギーとT1とのエネルギー差(ΔS−T)及びフェナンスレン環とベンゼン環との二面角を示す。尚、表2は、分子軌道計算による構造最適化を行ったときの計算結果である。
【0060】
【表2】

【0061】
まずフェナンスレン骨格にフェニル基が一個置換されたフェニルフェナンスレンで比較すると、2−フェニルフェナンスレン(2位置換体)が、S1エネルギーが最小でありT1エネルギーが最大であるため他の置換体よりもΔS−Tが小さいことがわかる。このように2位置換体のS1エネルギーが小さいのは、フェナンスレン環とベンゼン環との二面角が最も小さいことで、π共役が適度に広がるからである。従って、本発明のフェナンスレン化合物においては、主骨格たるフェナンスレンユニットの2位の炭素がm−ビフェニレン基と結合することで、上述したフェナンスレンユニットの特徴を化合物全体の物性に最も強く反映させることができる。
【0062】
ただし、この2−フェニルフェナンスレンにさらにフェニル基が置換された化合物、例えば、2,7−ジフェニルフェナンスレンでは、2−フェニルフェナンスレンと比べてT1エネルギーが大きく減少している。
【0063】
以上を考慮すると、主骨格たるフェナンスレンユニットの特長を生かしつつこのフェナンスレンユニットにm−ビフェニレン基を結合させる際には、フェナンスレン骨格の2位の位置にm−ビフェニレン基を一個だけ結合させなければならないといえる。
【0064】
尚、本発明のフェナンスレン化合物は、化合物を構成するフェナンスレンユニットやアリール基にアルキル基を導入してもよい。具体的には、式[1]及び[2a]乃至[2fで示されるR1乃至R21の位置のいずれかにアルキル基を導入してもよい。アルキル基が有する排除体積効果によりのアモルファス膜状態における化合物間の距離(分子間距離)が大きくできるので、キャリア移動度を低く調節することが可能である。またアルキル基を導入することによって化合物自体の有機溶媒に対する溶解性を向上させることができる。
【0065】
ところで、式[1]及び[2a]乃至[2f]で示されるR1乃至R21の位置は、その位置にアルキル基を導入しても化合物自体のS1エネルギー及びT1エネルギーにほとんど影響を与えない位置である。即ち、式[1]及び[2a]乃至[2f]で示されるR1乃至R21の位置にアルキル基を導入したとしても、導入されたアルキル基が本発明のフェナンスレン化合物の立体配座にはほとんど影響を与えない。ここで言う立体配座とは、化合物中のアリール−アリール結合軸回りの結合の捻れ、即ち、アリール−アリール結合で結合している2つの芳香環間の二面角の大きさのことである。そしてこの立体配座が変化して二面角が大きくなると、化合物のS1エネルギーも大きくなってしまう。しかし本発明では、導入され得るアルキル基で本発明のフェナンスレン化合物の立体配座は捻れることがなく、各アリール−アリール結合での二面角が大きくならないので、化合物自体のS1エネルギーは大きくなることはない。
【0066】
またR1乃至R21の位置にアルキル基を導入したとしても芳香環の平面構造が歪まずに化学安定性が低下しない。例えば、フェナンスレン骨格の5位にアルキル基を導入すると、このアルキル基と4位の炭素原子に結合する水素原子との立体反発が大きくなりフェナンスレン環自体が歪んでしまう。そこで本発明のフェナンスレン化合物のようにアルキル基を導入する位置をフェナンスレン骨格の6位、7位及び8位(m−ビフェニレン基との結合位置を2位としたときの位置)にすれば、上述した立体反発が生じないので化学安定性は低下しない。
【0067】
以上より、本発明のフェナンスレン化合物は、その特異的な分子構造により、T1エネルギーが高く、かつLUMO準位が深い化合物である。
【0068】
以下に、本発明のフェナンスレン化合物の具体例を示す。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0069】
【化11】

【0070】
【化12】

【0071】
上記例示化合物のうち、A群に属する化合物は、式[1]及び式[2a]乃至式[2f]で示されるR1乃至R21で表される置換基が全て水素原子である化合物である。
【0072】
これらA群の化合物は、フルオレン骨格の9位に置換し得るアルキル基を除き、分子中に電子供与基として作用するアルキル置換基がない。従って、A群の化合物は、本発明のフェナンスレン化合物の中でもLUMO準位がより深い化合物である。このためA群の化合物を発光層のホストとして用いると、発光層への電子注入の効率がより向上するので素子の発光効率をより高くすることができる。
【0073】
上記例示化合物のうち、B群に属する化合物は、式[1]及び式[2a]乃至式[2f]で示されるR1乃至R21で表される置換基のいずれかに炭素数1乃至4のアルキル基が置換されている化合物である。置換するアルキル基の数及び種類によっては化合物自体の溶解性が向上するので、B群に属する化合物は、材料のハンドリングを向上させたり、塗布プロセスにより有機発光素子を作製したりする場合に効果的である。また、アルキル基の排除体積効果により化合物自体のアモルファス膜状態における分子間距離が大きくなる。このため、B群に属する化合物は、キャリア移動度がより低い材料である。A群の化合物と同様に、B群の化合物は発光層のホストとして使用されるが、発光層内でのキャリア移動度を低くしたい場合に特に有用である。
【0074】
次に、本発明の有機発光素子を説明する。本発明の有機発光素子は、互いに対向しあう一対の電極である陽極と陰極と、陽極と陰極との間に挟持される有機化合物層と、から構成される。本発明の有機発光素子においては、有機化合物層には、発光層又は発光機能を担う層が含まれている。またこの有機化合物層に本発明のフェナンスレン化合物が含まれる。以下に本発明の有機発光素子の構成例を以下に示す。
(i)(基板/)陽極/発光層/陰極
(ii)(基板/)陽極/ホール輸送層/電子輸送層/陰極
(iii)(基板/)陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(iv)(基板/)陽極/ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
(v)(基板/)陽極/ホール輸送層/発光層/ホール・エキシトンブロッキング層/電子輸送層/陰極
【0075】
ただし本発明の有機発光素子は、上記(i)乃至(v)の態様に限定されるものではない。例えば、電極と有機化合物層と界面に絶縁性層、接着層あるいは干渉層を設けてもよい。また電子輸送層もしくはホール輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されていてもよい。このように、本発明の有機発光素子は、多様な層構成をとることができる。
【0076】
また本発明の有機発光素子は、基板の反対側の電極から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式であってもよいし、基板側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式であってもよい。また基板を透明基板とし、陽極及び陰極を透明電極にすることで両面から光を取り出す構成にしてもよい。
【0077】
本発明のフェナンスレン化合物は、有機発光素子を構成する有機化合物層、具体的には、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホール・エキシトンブロッキング層、電子輸送層又は電子注入層に含まれる。好ましくは、発光層に含まれる。
【0078】
本発明の有機発光素子において、発光層は、発光材料のみで構成されていてもよいし、ホストとゲストとで構成されていてもよい。好ましくは、発光層はホストとゲストとで構成されている。
【0079】
発光層がホストとゲストとで構成されている場合、ホストは、発光層を構成する化合物のうち主成分となる化合物であって、発光層を構成する全化合物の中で重量比が最大の化合物である。またホストは、発光層内でゲストの周囲を取り囲むマトリックスとしての機能を有するものであり、さらにキャリアの輸送やゲストへの励起エネルギーの供与という機能をも併せ持つ化合物である。
【0080】
一方、ゲストとは、主成分(ホスト)に対して副成分に相当する化合物であって、主として発光機能を有する化合物である。発光層内に含まれるゲストの濃度は、発光層の構成材料の全体量を基準として、0.01重量%以上50重量%以下である。好ましくは0.1重量%以上20重量%以下である。またゲストは、発光層全体に対して均一に含まれてもよいし、濃度勾配を有して含まれてもよい。また特定の領域に局所的にゲストを含ませて、発光層内においてゲストが存在しない領域を設けてもよい。
【0081】
ここで発光層がホストとゲストとで構成されている場合、本発明のフェナンスレン化合物は、発光層のホストとして使用することが好ましい。一方、このホストに対するゲストとして燐光発光材料を使用することが好ましい。このとき燐光発光材料の発光色は、特に限定されないが、その最大発光ピーク波長が500nm以上530nm以下の範囲にある緑色であることが好ましい。
【0082】
本発明に係るフェナンスレン化合物を発光層のホストとして使用する場合、対応するゲストである燐光発光材料として、例えば、イリジウム錯体、白金錯体、レニウム錯体、銅錯体、ユーロピウム錯体、ルテニウム錯体等の金属錯体が挙げられる。中でも燐光発光性の強いイリジウム錯体が好ましい。また、励起子やキャリアの伝達を補助することを目的として、発光層内に複数の燐光発光材料を含ませてもよい。
【0083】
以下に、燐光発光材料として使用されるイリジウム錯体の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
【化13】

【0085】
ここで、本発明のフェナンスレン化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系の化合物を使用することができる。具体的には、ホール注入・輸送性化合物、ホスト材料、発光性化合物、電子注入・輸送性化合物等を一緒に使用することができる。以下にこれらの化合物例を挙げる。
【0086】
ホール注入・輸送性材料としては、陽極からのホールの注入が容易で、注入されたホールを発光層へと輸送することができるように、ホール移動度が高い材料が好ましい。ホール注入輸送性能を有する低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。
【0087】
主に発光機能に関わる発光材料としては、前述の燐光発光ゲスト材料、もしくはその誘導体以外に、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、テトラセン誘導体、アントラセン誘導体、ルブレン等)、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機ベリリウム錯体、及びポリ(フェニレンビニレン)誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。
【0088】
電子注入・輸送性材料としては、陰極からの電子の注入が容易で注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、ホール注入輸送性材料のホール移動度とのバランス等を考慮して選択される。電子注入輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等が挙げられる。
【0089】
陽極を構成する材料としては仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれら金属単体を複数種組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。またポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0090】
一方、陰極を構成する材料としては仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を複数種組み合わせた合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等の合金が使用できる。また酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極は一層構成でもよく、多層構成でもよい。
【0091】
本発明に係る有機発光素子において、本発明に係る有機化合物を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。一般には真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0092】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として一種単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0093】
以下本実施形態に係る有機発光素子を有する装置について説明する。
【0094】
本実施形態に係る有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライトなどがある。
【0095】
表示装置は本実施形態に係る有機発光素子を表示部に有する。この表示部とは複数の画素を有しており、この画素は本実施形態に係る有機発光素子とスイッチング素子の一例であるTFT素子とを有し、この有機発光素子の陽極または陰極とTFT素子のドレイン電極またはソース電極とが接続されている。表示装置はPC等の画像表示装置として用いることができる。表示装置は画像情報を入力する入力部をさらに有する画像入力装置でもよい。
【0096】
画像入力装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する入力部と、入力された情報を表示する表示部とを有する。これに撮像光学系をさらに有すればデジタルカメラ等の撮像装置となる。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部として、外部から入力された画像情報に基づいて画像を表示する画像出力機能と操作パネルとして画像への加工情報を入力する入力機能との両方を有していてもよい。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0097】
図1は、本発明の有機発光素子を使用した表示装置の例を示す断面模式図である。図1の表示装置1は、有機発光素子とTFT素子との組み合わせが2組図示されている。尚、図示されてはいないが、発光輝度を制御するトランジスタをさらに有してもよい。図1の表示装置1は、情報に応じてスイッチング素子を駆動することで、有機発光素子を点灯あるいは消灯することによって表示を行い、情報を伝える。構造の詳細を以下に説明する。
【0098】
図1の表示装置1は、ガラス等の基板11とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜12が設けられている。また符号13は金属のゲート電極13である。符号14はゲート絶縁膜であり、符号15は半導体層である。
【0099】
TFT素子18は半導体層15とドレイン電極16とソース電極17とを有している。TFT素子18の上部には絶縁膜19が設けられている。コンタクトホール20を介して有機発光素子の陽極21とソース電極17とが接続されている。表示装置はこの構成に限られず、陽極または陰極のうちいずれか一方とTFT素子のソース電極またはドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0100】
また図1の表示装置1において、有機化合物層22は、単一の層として表記されている。ただし、本発明において、有機化合物層22は単一の層に限定されるものではなく、複数の層からなる積層体であってもよい。また陰極23の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層24や第二の保護層25が設けられている。
【実施例】
【0101】
[実施例1]例示化合物A04の合成
【0102】
(1)2−クロロフェナンスレンの合成
【0103】
【化14】

【0104】
滴下漏斗を備えた500mL三口フラスコに、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
4−クロロ−2,2’−ジホルミルビフェニル:5.33g(21.8mmol)
酢酸:250mL
【0105】
次に、窒素下において、この反応溶液を撹拌しながら加熱還流させ、そこへ、滴下漏斗から、酢酸30mLとヒドラジン1水和物1.42g(28.4mmol)とを混合させた溶液を45分間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、さらに4時間反応溶液の加熱還流を続けた。反応終了後、反応溶液に水100mLを加えて撹拌し、析出した生成物をろ別した。次に、この生成物をメタノール/アセトン混合溶媒で加熱分散洗浄して精製することにより、2−クロロフェナンスレンを3.24g得た(収率70%)。
【0106】
(2)例示化合物A04の合成
【0107】
【化15】

【0108】
200mLのナスフラスコに、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
mBP−Bpin2(ボロン酸エステル):1.50g(3.69mmol)
2−クロロフェナンスレン:1.65g(7.76mmol)
酢酸パラジウム:83mg(0.37mmol)
XPhos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル):528mg(1.11mmol)
リン酸カリウム:2.35g(11.1mmol)
トルエン:80mL
水:2mL
【0109】
次に、窒素下において、この反応溶液を、100℃にて10時間撹拌した。反応終了後、反応溶液に水を加えて撹拌して析出した結晶をろ別した。次に、この結晶を水、エタノール、アセトンで順次洗浄することで粗生成物を得た。次に、この粗生成物をトルエンに加熱溶解した後、熱時ろ過し、クロロベンゼン溶媒を用いた再結晶を2回行った。次に、得られた結晶を150℃で真空乾燥した後、1×10-4Pa、350℃の条件下で昇華精製を行うことにより、高純度の例示化合物A04を777mg得た(収率42%)。
【0110】
得られた化合物の同定を行った結果を以下に示す。
【0111】
[MALDI−TOF−MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)]
実測値:m/z=506.34、計算値:C4026=506.20
1H−NMR(400MHz、CDCl3)]
δ 8.79(d,2H),8.73(d,2H),8.19(d,2H),8.08(s,2H),8.01(dd,2H),7.92(d,2H),7.90−7.60(m,14H).
【0112】
また以下の方法により、例示化合物A04の物性を測定・評価した。
【0113】
(1)三重項励起エネルギー(T1エネルギー)
例示化合物A04のトルエン希薄溶液を調製した後、この希薄溶液について、アルゴン雰囲気下、77K、励起波長350nmの条件下で燐光スペクトルの測定を行った。得られた燐光スペクトルの第一発光ピークのピーク波長からT1エネルギーを求めた。その結果、T1エネルギーは波長換算値で466nmであった。
【0114】
(2)エネルギーギャップ
ガラス基板上に、加熱蒸着により、例示化合物A04を成膜して測定用の薄膜を形成した。このとき測定用の薄膜の膜厚を20nmとした。次に、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製V−560)を用いて、上記測定用の薄膜について吸光スペクトルを測定した。得られた吸光スペクトルの吸収端よりエネルギーギャップを求めた。その結果、吸光スペクトルの吸収端は347nmであり、例示化合物A04のエネルギーギャップは3.57eVであった。
【0115】
(3)イオン化ポテンシャル
上記のエネルギーギャップの測定に用いた測定用の薄膜を用いて、光電子分光装置AC−3(理研計器株式会社製)によりイオン化ポテンシャルを測定した。測定の結果、例示化合物A04のイオン化ポテンシャルは6.43eVであった。
【0116】
(4)LUMO準位
LUMO準位は、イオン化ポテンシャル値とエネルギーギャップ値の差から見積ることができる。ここで例示化合物A04では、LUMO準位は−2.86eVであった。
【0117】
[実施例2]例示化合物A09の合成
【0118】
(1)中間体PT−Bpinの合成
【0119】
【化16】

【0120】
300mLのナスフラスコに、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
2−クロロフェナンスレン:3.00g(14.1mmol)
ビス(ピナコラト)ジボロン:4.30g(16.9mmol)
ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0):406mg(0.71mmol)
トリシクロヘキシルホスフィン:593mg(2.12mmol)
酢酸カリウム:2.77g(28.2mmol)
1,4−ジオキサン:100mL
【0121】
次に、窒素下において、この反応溶液を、95℃にて7時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後、この溶液を減圧濃縮することで粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/トルエン=1/1)で精製することにより、中間体PT−Bpinを3.23g得た(収率75%)。
【0122】
(2)例示化合物A09の合成
【0123】
【化17】

【0124】
200mLのナスフラスコに、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
3−ブロモ−3’−クロロビフェニル:3.00g(11.2mmol)
4−ジベンゾチオフェンボロン酸:2.63g(11.6mmol)
テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0):352mg(0.31mmol)
トルエン:60mL
エタノール:30mL
10重量%炭酸ナトリウム水溶液:30mL
【0125】
次に、窒素下において、この反応溶液を撹拌しながら5時間加熱還流させた。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後、この溶液を減圧濃縮することで粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン)で精製することにより、4−(3’−クロロビフェニル−3−イル)ジベンゾチオフェンを3.75g得た(収率90%)。
【0126】
続いて、50mLナスフラスコに、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
PT−Bpin:583mg(1.92mmol)
4−(3’−クロロビフェニル−3−イル)ジベンゾチオフェン:646mg(1.74mmol)
酢酸パラジウム:24mg(0.11mmol)
SPhos(2―ジシクロヘキシルホスフィノ―2’,6’−ジメトキシビフェニル):130mg(0.32mmol)
リン酸カリウム:1.11g(5.23mmol)
トルエン:25mL
水:0.6mL
【0127】
次に、窒素下において、この反応溶液を、100℃にて9時間半撹拌した。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後、この溶液を減圧濃縮することで粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=3/1)で精製した後、トルエン/オクタン混合溶媒で再結晶を行った。次に、得られた結晶を150℃で真空乾燥させた後、1×10-4Pa、330℃の条件下で昇華精製を行うことにより、高純度の例示化合物A09を360mg得た(収率40%)。
【0128】
得られた化合物の同定を行った結果を以下に示す。
【0129】
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=512.30、計算値:C3824S=512.16
1H−NMR(400MHz、CDCl3)]
δ 8.77(d,1H),8.72(d,1H),8.30−8.15(m,3H),8.09(d,2H),7.98(dd,1H),7.91(d,1H),7.88−7.55(m,13H),7.48(m,2H).
【0130】
また例示化合物A09について、実施例1と同様の方法でT1エネルギー、エネルギーギャップ、イオン化ポテンシャル及びLUMO準位の評価を行った。結果は、T1エネルギーが466nm、エネルギーギャップが3.43eV(吸収端:361nm)、イオン化ポテンシャルが6.36eV、LUMO準位が−2.93eVであった。
【0131】
[実施例3]例示化合物B08の合成
【0132】
(1)中間体MePT−Bpinの合成
【0133】
【化18】

【0134】
まず4−クロロ−4’−メチル−2,2’−ジホルミルビフェニルを出発原料として、実施例1(1)と同様の方法により、2−クロロ−7−メチルフェナンスレンを合成した。次に、実施例2(1)と同様の方法により、2−クロロ−7−メチルフェナンスレンからMePT−Bpinを合成した。
【0135】
(2)例示化合物B08の合成
【0136】
【化19】

【0137】
50mLのナスフラスコに、以下に示す試薬、溶媒を投入した。
MePT−Bpin:440mg(1.38mmol)
4−(3’−クロロビフェニル−3−イル)ジベンゾチオフェン:394mg(1.06mmol)
酢酸パラジウム:14mg(0.062mmol)
SPhos(2―ジシクロヘキシルホスフィノ―2’,6’−ジメトキシビフェニル):78mg(0.19mmol)
リン酸カリウム:675mg(3.18mmol)
トルエン:18mL
水:0.4mL
【0138】
次に、窒素下において、この反応溶液を、100℃にて10時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を水で洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥させた後、この溶液を減圧濃縮することで粗生成物を得た。次に、この粗生成物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘプタン/クロロホルム=3/1)で精製した後、トルエン/オクタン混合溶媒で再結晶を行った。次に、得られた結晶を150℃で真空乾燥させた後、1×10-4Pa、340℃の条件下で昇華精製を行うことにより、高純度の例示化合物B08を257mg得た(収率46%)。
【0139】
得られた化合物の同定は質量分析により行った。
【0140】
[MALDI−TOF−MS]
実測値:m/z=526.37、計算値:C3926S=526.18
【0141】
また例示化合物B08について、実施例1と同様の方法でT1エネルギー、エネルギーギャップ、イオン化ポテンシャル及びLUMO準位の評価を行った。結果は、T1エネルギーが468nm、エネルギーギャップが3.43eV(吸収端:362nm)、イオン化ポテンシャルが6.29eV、LUMO準位が−2.86eVであった。
【0142】
[比較例1乃至5]
下記に示す比較化合物H01乃至H05について、実施例1と同様の方法でT1エネルギー及びLUMO準位の評価を行った。結果を表3に示す。実施例1乃至3の結果と合わせて、結果を表3に示す。
【0143】
【化20】

【0144】
【表3】

【0145】
表3より、本発明のフェナンスレン化合物は、T1エネルギーが高く、かつLUMO準位が深い(LUMO準位の絶対値が大きい)ことがわかる。
【0146】
ここで例示化合物A04は、化合物H01よりもT1エネルギーが高い。この差はフェナンスレン環に置換するアリール基の数の差から生じるものと考えられる。つまり、例示化合物A04は、フェナンスレン環に置換するアリール基の数が化合物H01よりも少ない(例示化合物A04:1個、化合物H01:2個)ので、T1エネルギーが高くなっている。
【0147】
また例示化合物A04は、化合物H02よりもLUMO準位が深い。これは、2個のフェナンスレン骨格が、LUMO準位がより深くなる連結基で連結されていることによるものである。即ち、m−フェニレン連結基よりもLUMO準位が深くなるm−ビフェニレン連結基で2個のフェナンスレン骨格を連結することで、化合物全体のLUMO準位がより深くなっている。
【0148】
また例示化合物A04は、化合物H03よりもT1エネルギーが高い。これは、フェナンスレン環とm−ビフェニレン連結基との連結位置の違いから生じるものである。つまり、フェナンスレン環の2位がm−ビフェニレン連結基との連結位置となる例示化合物A04は、フェナンスレン環の3位がm−ビフェニレン連結基との連結位置となる化合物H03よりもT1エネルギーが高くなっている。
【0149】
また例示化合物A04は、化合物H04よりもT1エネルギーが高い。化合物H04は、例示化合物A04を構成する2個のフェナンスレン骨格の内の1つをナフタレン骨格に変更した化合物である。ここでナフタレン骨格は、フェナンスレン骨格よりもT1エネルギーが低いため、化合物全体として、化合物H04は例示化合物A04よりもT1エネルギーが低くなる。
【0150】
また例示化合物A04は、化合物H05よりもLUMO準位が深い。両者は、m−ビフェニレン連結基で連結する縮合環が異なる(フェナンスレン環、フルオレン環)という相違点がある。ここで表1より、フェナンスレン環の方がフルオレン環よりもLUMO準位が深いので、同様に、例示化合物A04は化合物H05よりもLUMO準位が深くなっている。
【0151】
[実施例4]
基板上に、陽極/ホール輸送層/発光層/ホールブロッキング層/電子輸送層/陰極がこの順に設けられている有機発光素子を、以下に示す方法で作製した。尚、本実施例で使用した化合物の一部を下記に示す。
【0152】
【化21】

【0153】
ガラス基板上に、スパッタ法により、ITOを成膜して陽極を形成した。このとき陽極の膜厚を120nmとした。このようにITO膜が形成されている基板を透明導電性支持基板(ITO基板)として以後の工程で使用した。次に、陽極上に、表4に示す有機化合物層及び電極層を、抵抗加熱による真空蒸着によって連続的に成膜した。このとき真空チャンバー内の圧力を1×10-5Paとし、対向する電極面積を3mm2になるように作製した。
【0154】
【表4】

【0155】
次に、有機発光素子が水分の吸着によって素子劣化が起こらないように、乾燥空気雰囲気下で有機発光素子に保護用ガラス板をかぶせアクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機発光素子を得た。
【0156】
得られた有機発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、4.9Vの印加電圧をかけたところ、発光効率が67.5cd/A、外部量子効率が18.1%の輝度2000cd/m2の緑色発光が観測された。またこの素子においてCIE色度座標は、(x,y)=(0.35,0.61)であった。さらにこの発光素子において、100mA/cm2の定電流密度における輝度半減寿命は110時間であった。
【0157】
[実施例5]
実施例4において、発光層のホストとして、例示化合物A04に代えて例示化合物A09を使用した他は、実施例4と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例4と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0158】
[実施例6]
実施例4において、発光層のホストとして、例示化合物A04に代えて例示化合物B08を使用した他は、実施例4と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例4と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0159】
[比較例6]
実施例4において、発光層のホストとして、例示化合物A04に代えて化合物H02を使用した他は、実施例4と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例4と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0160】
[比較例7]
実施例4において、発光層のホストとして、例示化合物A04に代えて化合物H03を使用した他は、実施例4と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例4と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0161】
[比較例8]
実施例4において、発光層のホストとして、例示化合物A04に代えて化合物H05を使用した他は、実施例4と同様の方法で素子を作製した。また得られた素子について実施例4と同様に評価を行った。結果を表5に示す。
【0162】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0163】
以上より、本発明のフェナンスレン化合物は、T1エネルギーが高くLUMO準位が深い新規な化合物である。また本発明のフェナンスレン化合物を、有機発光素子を構成する発光層のホストとして使用することで発光効率が向上された発光素子が得られる。
【符号の説明】
【0164】
18:TFT素子、21:陽極、22:有機化合物層、23:陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で示されることを特徴とするフェナンスレン化合物。
【化1】

(式[1]において、R1乃至R3は、それぞれ水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。Arは、下記式[2a]乃至[2h]に示されるアリール基群のいずれかから選ばれる置換基である。
【化2】

(式[2a]乃至[2f]において、R4乃至R21は、それぞれ水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。式[2e]及び[2f]において、X1乃至X4は、それぞれ水素原子又は炭素数1乃至4のアルキル基を表す。式[2a]乃至[2h]において、*は、結合手を表す。))
【請求項2】
前記R1乃至R21がいずれも水素原子であることを特徴とする、請求項1に記載のフェナンスレン化合物。
【請求項3】
陽極と陰極と、
前記陽極と前記陰極との間に挟持される有機化合物層と、から構成される有機発光素子において、
前記有機化合物層に請求項1又は2に記載のフェナンスレン化合物が含まれることを特徴とする、有機発光素子。
【請求項4】
前記フェナンスレン化合物が発光層に含まれることを特徴とする、請求項3に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記発光層がホストとゲストとからなり、前記ホストが前記フェナンスレン化合物であることを特徴とする、請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記ゲストが燐光発光材料であることを特徴とする、請求項5に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記燐光発光材料がイリジウム錯体であることを特徴とする、請求項6に記載の有機発光素子。
【請求項8】
請求項3乃至7のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続するスイッチング素子とを有することを特徴とする、表示装置。
【請求項9】
画像を表示するための表示部と、画像情報を入力するための入力部と、を有し、
前記表示部が複数の画素を有し、
前記複数の画素が、請求項3乃至7のいずれか一項に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続するスイッチング素子と、を有することを特徴とする、画像入力装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−97056(P2012−97056A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248352(P2010−248352)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】