説明

フェニルカルバメートを得る方法

本発明は、L−(S)−3−[(1−メチルアミノ)エチル]フェノールを、塩基の存在下で、ハロゲン化カルバモイルと反応させて中間体を得て、続いて前記中間体に還元的アミノ化反応を又は前記中間体をハロゲン化メチルと反応させることによりメチル化反応をさせることにあるフェニルカルバメート(I)を得る方法に関し、式中のRはC〜C低級アルキル又はベンジルであり、Rはメチル、エチル又はプロピルである。上述の化合物(I)には中枢神経系中のコリンエステラーゼを阻害し、神経変性疾患(例えば、老年性認知症及びアルツハイマー病)の治療において使用することができる化合物リバスチグミンが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニルカルバメート、それらのエナンチオマー若しくは混合物、又は薬剤として許容されるそれらの塩、及び前記フェニルカルバメートを調製するために有用な中間体を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一部のフェニルカルバメート誘導体、詳細には化合物リバスチグミン(化合物(S)−N−エチル−3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]−N−メチル−フェニルカルバメートの国際的一般名)は、中枢神経系における例外的なコリンエステラーゼ阻害剤作用を有し、それによってセチルコリンの寿命を延長し、コリン作動性伝達を向上させる化合物である。これらの化合物は、神経変性疾患の治療において、特に老年性認知症及びアルツハイマー病の治療において有用であることが証明されている。チェコ国特許出願PV1991−4110では、in vitro及びin vivo実験によって、活性な(S)異性体が、2つの異性体のラセミ混合物よりもはるかに有効且つ選択的なコリンエステラーゼ阻害剤であることがさらに証明されている。
【0003】
リバスチグミン及び他のフェニルカルバメートは、イスラエル国特許IL74497(EP193926)で、最初に記載された。前記出願は、3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]ヒドロキシフェニルの、イソシアネートとの又はハロゲン化カルバモイルとのアミド化反応によってリバスチグミンを得ることを記載している。しかし、この特許は、得られたラセミ混合物を光学活性なエナンチオマーに転換する可能性についてはまったく述べていない。
【0004】
先に挙げたチェコ国特許出願PV1991−4110は、(+)−O,O−ジ−(p−トルオイル)−D−酒石酸とのジアステレオ異性体の塩を調製すること及び結晶化によるこれらの分離から成る、ラセミ混合物からリバスチグミンの(S)エナンチオマーを調製する方法を記載している。リバスチグミンの(S)エナンチオマーは、得られた塩から水酸化ナトリウム溶液を用いて分離される。
【0005】
国際特許出願WO03/101917は、3−(1−ジメチルアミノエチル)フェノールをN−エチル−N−メチル−4−ニトロフェニルカルバメートと反応させ、続いてラセミ混合物を(+)−p−トルオイル酒石酸一水和物を用いて治療上関心のある(S)エナンチオマーを得ることにより、リバスチグミン及び他のフェニルカルバメートを得ることを記載している。
【0006】
PV1991−4110及びWO03/101917に記載されているとおり、合成の最後の段階でラセミ混合物を分割することに伴う技術上の主要な欠点は、調製したラセミ混合物の50%、すなわち(R)エナンチオマーがこの段階で失われるという事実に基づいている。事実、光学分割が決してエナンチオマーを定量的には分離せず、さらなる再結晶化の段階が必要であるということがあるので、この損失はもっと大きい。これが原因で、全合成収率に加えて、この方法の費用効率も低いものになる。
【0007】
前述の欠点を克服することを目指したリバスチグミンを得る別法が、国際特許出願WO2004/03771に記載されている。IL74497に記載されている方法と同様に、この方法は、3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]フェノールのハロゲン化カルバモイルとのアミド化反応を含むが、この場合は、アミド化反応は、予め分割によって分離された3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]フェノールの(S)エナンチオマーに対して行われる。したがって、一連の合成の最終段階では、ラセミ混合物を分割する必要がない。それにもかかわらず、やはりこの合成法の主要な欠点は、前段階で行うにしても、得られる収率は25%にすぎないので、エナンチオマー混合物を分割する段階である。
【0008】
したがって、最新技術に属する方法に付随する問題を解決すること、及びリバスチグミン及び他のフェニルカルバメートを得るための代替方法であって、これらの合成の収率を高めることによって方法の対費用効果を高め、且つ(S)エナンチオマーを定量的に得ることを可能にする方法を提供することが必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、さまざまな先述の最新技術に存在する問題を克服する、フェニルカルバメート、特にリバスチグミンを得る代替法を提供するという問題に立ち向かうものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によって提供される解決策は、本発明者らが、一般式(IV)の化合物(以下に規定する)と一般式(III)のハロゲン化カルバモイル(以下に規定する)から塩基の存在下での求核置換反応及びそれに続くエチルアミノ基の還元的アミノ化によってフェニルカルバメート、これらの溶媒和物、水和物又は薬剤として許容される塩を得ることが可能であることを観察したという事実に基づいている。前記一般式(IV)の化合物は、高価でない市販の化合物から得ることができる。
【0011】
本発明によって提供される方法などの方法は、エナンチオマー混合物を合成経路に先行する段階において分割して、所望のエナンチオマーを良好な収率と高い品質で得ることが可能であるという利点を有する。これはすべてこの方法の全体的な費用を低減するのに貢献し、前記方法を商業的に興味あるものにし、且つそれを工業的なレベルで実施することを可能にする。
【0012】
したがって、一態様において本発明は、式(IV)の化合物を式(III)の化合物と反応させて式(II)の化合物を得ること、及び次いで前記式(II)の化合物に還元的アミノ化反応を、或いはハロゲン化メチルと反応させることによりメチル化反応をさせて、式(I)の化合物を得ることを含む、前記一般式(I)のフェニルカルバメート(以下で規定する)を得る方法に関する。
【0013】
式(I)の化合物を得るために有用な前記式(II)の化合物は、本発明のさらなる一態様である。
【0014】
他の一態様において本発明は、式(I)のフェニルカルバメートを式(VII)の化合物(以下で規定する)から得る方法に関し、式(VII)の化合物は還元剤の存在下におけるメチルアミンとの還元的アミノ化によって式(VI)の化合物になり、これを脱メチル化反応させて式(V)の化合物を得て、これは、分割によって、式(IV)のエナンチオマーを生じ、これから先に規定した方法によって式(I)の化合物を得る。
【0015】
他の一態様において本発明は、式(I)のフェニルカルバメートを得る別の方法に関し、この方法は式(VI)の化合物を分割工程に掛けて式(VIa)(以下で規定する)のエナンチオマーを得て、これから脱メチル化によって直接式(IV)のエナンチオマーを得て、この化合物から式(I)の化合物が先に規定した方法によって得られる。
【0016】
他の一態様において本発明は、エナンチオマー混合物の相当するエナンチオマーをキラル酸と反応させることにより得たジアステレオ異性体塩の分別結晶化、続いて再結晶化させて所望のエナンチオマーのジアステレオ異性体塩を得ること、及び前記塩を水性有機媒体中に再懸濁し、媒体を中和し、エナンチオマーを塩基の形態又は酸付加塩の形態で単離することにより前記エナンチオマーを得ることによって、式(VI)の化合物のエナンチオマー混合物を分割する方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
一態様において本発明は、以後本発明の方法[1]と呼ぶ、一般式(I)
【化1】


[式中、
は、C〜C低級アルキル又はベンジルであり、
は、メチル、エチル又はプロピルである]
のフェニルカルバメート、その溶媒和物、水和物又は薬剤として許容される塩を得る方法であって、
a)式(IV)
【化2】


の化合物を、式(III)
【化3】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有し、Xは、ハロゲンである]
の化合物と塩基の存在下で反応させて式(II)
【化4】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有する]
の化合物を得る段階と、
b)前記式(II)の化合物に還元的アミノ化反応を、或いは前記式(II)の化合物をハロゲン化メチルと反応させることによりメチル化反応をさせて式(I)の化合物を得る段階と
を含む。
【0018】
式(IV)のエナンチオマーと合成段階a)で規定されたハロゲン化カルバモイル[式(III)の化合物]の間の反応は、式(I)の化合物のカルバメート基を形成することを可能にする求核置換反応である。この反応は、フェノールのプロトンを引き抜く塩基の存在下で行われ、より高い求核性を形成された塩に与える。予想とは異なって、本発明者らは、意外にも前記塩をハロゲン化カルバモイルと、分子中に存在するモノメチル化アミンによる競争がなく、化学選択的な仕方で反応させることを成し遂げ、したがって出発物質の光学異性が得られた生成物中で維持されていた。
【0019】
この求核置換反応においては、事実上任意の塩基を使用することができるが、それでも、特定の実施形態においては、前記塩基はフェノールからプロトンを完全に引き抜いて対応する塩又はフェノキシドを与えることができる有機又は無機の塩基、例えばNaOH、KOH、t−BuOK、NaH若しくはNaOMeなど、好ましくはNaH若しくはt−BuOKである。
【0020】
この求核置換反応は、適当と考えられる任意の溶媒中で行われる。特定の一実施形態においては、非プロトン性溶媒、エーテル、ジクロロメタン、トルエンなど又は双極性溶媒、例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)若しくはジメチルスルホキシド(DMSO)、好ましくはテトラヒドロフラン(THF)が使用される。この反応は、−20℃〜20℃、好ましくは−5℃〜5℃の温度で行われる。前記求核置換反応は、一般的には70%〜100%通常85%〜95%の高い収率で起こり、したがって本方法によって提供される式(I)の化合物を得る方法の高い全収率に寄与する。
【0021】
本発明の方法[1]の第2段階[段階b]は、第一級アミン(式(II)の化合物)をメチル化することから成り、これは当業者に知られているどの方法ででも行うことができる。例示のためには、前記段階は式(II)の化合物を還元的アミノ化反応させることによって、或いは前記式(II)の化合物をハロゲン化メチルと反応させることによって行うことができる。
【0022】
特定の一実施形態においては、段階b)は、式(II)の化合物とホルムアルデヒドを還元剤及び酸の存在下で反応させることによる還元的アミノ化反応によって行う。事実上任意の適当な還元剤を使用することができるが、それでも、特定の実施形態においては、還元剤として、とりわけ水素化物、例えばナトリウムシアノボロハイドライド、ナトリウムボロハイドライドを、Ti(OiPr)と共に使用することができる。酸としては、有機酸、例えばギ酸、酢酸などを使用することができる。本発明の好ましい一実施形態においては、ホルムアルデヒド、ナトリウムシアノボロハイドライド及び酢酸が使用される。別法として、還元的アミノ化は、所望とあれば、還元剤としても働きうるギ酸だけを使用して行うことができる。アルコール、例えば、1〜5個の炭素原子[C〜C]を有するアルコール、メタノール、エタノール及びイソプロパノール、好ましくはメタノールを溶媒として使用することができるが、他のアルコールも使用することができる。反応は、20℃〜40℃、好ましくは15℃〜30℃の温度で行う。
【0023】
他の一実施形態においては、段階b)は、式(II)の化合物をハロゲン化メチルと反応させることを含むメチル化反応によって行う。事実上任意のハロゲン化メチルを使用することができるが、好ましい一実施形態においては、臭化メチル又はヨウ化メチルが使用される。この反応において使用する溶媒は、とりわけ、アセトン、トルエン、DMF、DMSO、アセトニトリル、ジクロロメタン、酢酸エチル又はアルコール全般でよく、アセトン、アセトニトリル又はジクロロメタン、好ましくはアセトンが好都合に使用される。反応は0℃〜30℃、好ましくは15℃〜25℃の温度で行う。
【0024】
式(IV)の化合物は、反応スキームIで示される一連の合成反応によって得ることができる。
【化5】

【0025】
これらの段階は、以下に詳細に記載する。とはいえ、見て分かるとおり、本発明の方法[1]の出発化合物[式(IV)の化合物]は、それを含むエナンチオマー混合物を分割することによって高収率で得ることができ、このことは重要な利点である。なんらかの理論に関係付けられることを望むものではないが、その中のアミンがモノアルキル化されている式(IV)の化合物を分割することは、最新の技術で使用されるアミンがジアルキル化されているものなどの類似の化合物を分割するよりも容易であり効率的であると考えられている。
【0026】
代わりに、式(IV)の化合物を、反応スキームIIに示す一連の合成反応によって得ることができる。
【化6】

【0027】
これらの段階も以下に詳細に記載する。反応スキームIに示した一連の合成と異なって、エナンチオマー混合物は、メトキシ化された本体[式(VI)の化合物]について分割されて相当する所望のエナンチオマー[式(VIa)の化合物]を高収率で生じさせる。
【0028】
本発明の方法[1]は、式(I)の化合物を提供する。特定の一実施形態において、前記方法は、Rがメチルであり、Rがエチルである式(I)の化合物、すなわちリバスチグミン、及び薬剤として許容されるその塩を提供する。
【0029】
式(I)の化合物はアミンであり、水中、有機溶媒中又は両方の混合物中で適当な酸の化学量論量と反応すると、有機又は無機の酸と付加塩を形成することができる。普通は、好ましい非水媒体はエーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール又はアセトニトリルである。酸付加塩には、鉱酸の付加塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩及びリン酸塩、並びに有機酸付加塩、例えば、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩及びp−トルエンスルホン酸塩が含まれる。前記塩は、従来の方法で、遊離のアミンを問題の酸と反応させることによって得ることができる。特定の一実施形態においては、前記塩は、薬剤として許容される塩、例えば酒石酸塩である。前記塩は、遊離のアミンを酒石酸と反応させることによって得ることができる。前記付加塩は、所望とあれば対応する遊離のアミンに、従来の方法によって、例えば前記塩を含む溶液のpHを遊離のアミンが得られるまで変化させることによって、場合により転換することができる。
【0030】
式(I)の化合物は、遊離塩基形態又は塩形態で得ることができる。両方の場合に、好ましくは結晶形態で、遊離の化合物として及び溶媒和物(例えば、水和物)としての両方で得ることができ、両方の形態が本発明の範囲内に含まれる。溶媒和の方法は、最新技術において一般的に知られている。
【0031】
他の一態様において、本発明は式(II)
【化7】


[式中、
は、C〜C低級アルキル又はベンジルであり、
は、メチル、エチル又はプロピルである]
の化合物又はその塩に関する。
【0032】
式(II)の化合物は、先に本発明の方法[1]において記載した方法に従って、式(IV)の化合物から式(III)の化合物と反応させることによって得ることができる。前記式(II)の化合物を、式(I)の化合物を得るために使用することができる。特定の一実施形態においては、式(II)の化合物中のRはメチルであり、Rはエチルであり、すなわち式(II)の化合物は、L−(S)−N−エチル−3−[1−(メチルアミノ)エチル]−N−メチル−フェニルカルバメートである。
【0033】
式(II)の化合物はアミンであり、従来の方法によって適当な酸と反応すると、有機又は無機の酸と塩、例えば付加塩を形成することができる。前記塩の例には塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、リン酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩などが含まれる。前記塩は、従来の方法で遊離のアミンを問題の酸と反応させることによって得ることができる。特定の一実施形態においては、前記塩は塩酸塩又は酒石酸塩である。
【0034】
他の一態様において、本発明は式(I)
【化8】


[Rは、C〜C低級アルキル又はベンジルであり、
は、メチル、エチル又はプロピルである]
のフェニルカルバメート又はその溶媒和物、水和物若しくは薬剤として許容される塩を得る方法、以後本発明の方法[2]、に関し、
その方法は、
a)式(VII)の化合物をメチルアミンと還元剤の存在下で反応させて、以下に示す還元的アミノ化によって式(VI)
【化9】


の化合物を得る段階と、
b)前記式(VI)の化合物に脱メチル化反応をさせて式(V)
【化10】


の化合物を得る段階と、
c)段階b)において得たエナンチオマー混合物を分割して式(IV)
【化11】


のエナンチオマーを得る段階と、
d)前記式(IV)の化合物を式(III)
【化12】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有し、Xは、ハロゲンである]
の化合物と塩基の存在下で反応させて式(II)
【化13】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有する]
の化合物を得る段階と、
e)前記式(II)の化合物に還元的アミノ化反応を、或いは前記式(II)の化合物をハロゲン化メチルと反応させることによりメチル化反応をさせて、式(I)の化合物を得る段階と
を含む。
【0035】
本発明の方法[2]の第1段階[段階a]は、式(VII)の化合物に、還元的アミノ化させて、そのためにはメチルアミンを還元剤の存在下で使用して、式(VI)の化合物を得ることから成る。任意の適当な還元剤を使用することができるが、特定の一実施形態においてはハイドライド、例えばナトリウムシアノボロハイドライド、チタンテトライソプロポキシド(Ti(OiPr)と一緒のナトリウムボロハイドライド、酢酸と一緒のナトリウムボロハドライドなど、又は他の還元剤、例えば、Pd、Niなどの金属触媒と一緒の水素を還元剤として使用することができる。本発明の好ましい一実施形態においては、メチルアミン、ナトリウムボロハイドライド及びTi(OiPr)が使用される。使用する溶媒は、一般的には、アルコール、例えば炭素原子1〜5個を有するアルコール、好ましくはエタノールである。反応は、−20℃〜40℃、好ましくは15℃〜25℃の温度で行うことができる。
【0036】
モノメチル化アミンを有する式(VI)の化合物が得られたら、すぐに無機酸の存在下で脱メチル化反応が行われる。事実上任意の無機酸を使用することができるが、特定の一実施形態においては、臭化水素酸又はヨウ化水素酸が使用され、脱メチル化反応は、好ましくは臭化水素酸水溶液を使用して行う。モノメチル化アミンを有する化合物(VI)の脱メチル化反応は、ジメチル化アミンを有する対応する出発化合物を使用する場合よりも高い収率で起こることを述べておかなければならない。
【0037】
式(V)の化合物は、1つのキラル炭素を有し、そのエナンチオマーの混合物、すなわちエナンチオマー混合物の形態で見出される。この説明書で使用する「エナンチオマーの混合物」又は「エナンチオマー混合物」は、ラセミ混合物及びどちらか一方のエナンチオマーに富む混合物の両方を含む。所望のエナンチオマー[式(IV)の化合物]を得る目的のためには、式(V)の化合物に、任意の従来の方法、例えばキラルクロマトグラフカラムを使用して、又は適当なキラル酸に対応するエナンチオマーの塩の分別結晶化によって行うことができる分割工程を施す。特定の一実施形態においては、式(V)の化合物の(S)エナンチオマーは、エナンチオマーの混合物をJ. Chem. Soc. 1932、2513頁に記載されているブロモカンファースルホン酸を用いて処理することによる光学分割によって分離される。得られた塩は、所望の純度を有する式(V)の化合物の(S)エナンチオマーを得るのに必要な回数だけ再結晶化させることができる。
【0038】
本発明の方法[2]の段階d)及びe)は、本発明の方法[1]の段階a)及びb)に相当し、上で記載されている。
【0039】
式(I)の化合物を得るための上記の本発明の方法[2]に対する別法として、段階b)(脱メチル化)及びc)(分割)に相当する反応の順序を逆にすることがあり得る、すなわち式(VI)の化合物を分割するための分割段階を最初に行って所望のエナンチオマーを得て、次いで前記の得られたエナンチオマーを脱メチル化するための脱メチル化反応を行って式(IV)の光学活性中間体を提供するということもあり得る。
【0040】
したがって、他の一態様において本発明は、式(I)
【化14】


[Rは、C〜C低級アルキル又はベンジルであり、
は、メチル、エチル又はプロピルである]
のフェニルカルバメート、その溶媒和物、水和物又は薬剤として許容される塩を得る別法、以後本発明の方法[3]、に関し、
その方法は、
a)式(VII)の化合物をメチルアミンと還元剤の存在下で反応させて、以下に示す還元的アミノ化によって式(VI)
【化15】


の化合物を得る段階と、
b)段階a)において得たエナンチオマー混合物を分割して式(VIa)
【化16】


のエナンチオマーを得る段階と、
c)前記式(VIa)のエナンチオマーに脱メチル化反応をさせて式(IV)
【化17】


の化合物を得る段階と、
d)前記式(IV)の化合物を式(III)
【化18】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有し、Xは、ハロゲンである]
の化合物と塩基の存在下で反応させて式(II)
【化19】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有する]
の化合物を得る段階と、
e)前記式(II)の化合物に還元的アミノ化反応を、或いは前記式(II)の化合物をハロゲン化メチルと反応させることによりメチル化反応をさせて式(I)の化合物を得る段階と
を含む。
【0041】
本発明の方法[3]の第1段階(段階a)は、本発明の方法[2]において記載した段階a)と共通であり、すなわちそれは使用する反応剤も反応条件もすでに指定したものと同じであり、先の方法とはまったく変わりがない。
【0042】
段階a)を行った後に得られる式(VI)の化合物は、1つのキラル炭素を有し、したがってそのエナンチオマー混合物の形態になっている。
【0043】
所望のエナンチオマー[式(VIa)の化合物]を得る目的のためには、式(VI)の化合物に分割工程を施す。式(VI)の化合物のエナンチオマー混合物を分割することは、従来の方法によって行うことができるが、それでも特定の一実施形態においては、式(VI)の化合物のエナンチオマー混合物を分割することは、相当するエナンチオマーと適当なキラル酸との反応から形成されるジアステレオ異性体塩の分別結晶化によって行われる。
【0044】
特定の一実施形態においては、キラル(S)エナンチオマー、すなわち式(VIa)の化合物のキラル(S)エナンチオマーは、アルコール溶媒中、例えば、1〜5個の炭素原子を有するアルコール中、又はアルコール−水混合物中、好ましくはメタノール中でのD−(−)−酒石酸との対応する塩の分別結晶化によって分離される。
【0045】
これらの条件下において、所望のエナンチオマー、例えば、式(VIa)のエナンチオマーに富むジアステレオ異性体塩が得られ、これに、必要とあれば、第2の再結晶化をアルコール溶媒中、好ましくはメタノール中、又はアルコール/水混合物中で、或いは所望の光学純度が得られるまで繰り返して再結晶化を施すことができる。
【0046】
所望のエナンチオマーは、得られたジアステレオ異性体塩を、水及び少なくとも1つの有機溶媒、例えば、ジクロロメタン又は酢酸エチルなど、好ましくはジクロロメタンを含む水性有機媒体中に再懸濁させ、且つ生成物を、無機塩基などの塩基、例えばとりわけ炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、好ましくは水酸化ナトリウムを用いてpHが7〜12、好ましくは8〜9に達するまで中和することによって開放する。
【0047】
他の特定の一実施形態においては、キラル(S)エナンチオマー、すなわち式(VIa)の化合物は、ジベンゾイル−L−酒石酸一水和物との対応する塩を、アルコール溶媒中、例えば、1〜5個の炭素原子を有するアルコール中、又はアルコール/水混合物中、好ましくはエタノール中又はエタノール/水中で再結晶化させることによって分離される。
【0048】
これらの条件下において、所望のエナンチオマー、例えば、式(VIa)のエナンチオマーに富むジアステレオ異性体塩が得られ、これに、必要とあれば、第2の再結晶化をアルコール溶媒中、好ましくはエタノール中、又はアルコール/水混合物、例えば、エタノール/水中で、或いは所望の光学純度が得られるまで繰り返して再結晶化を施すことができる。最後に、所望のエナンチオマーを、D−(−)−酒石酸の場合について記載した条件で塩を開放することによって得ることができる。
【0049】
最後に、式(VIa)のエナンチオマーは、有機相から分離され、且つオイルなどの塩基、又は適当な酸付加塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩など、好ましくは塩酸塩の形態で単離することができる。
【0050】
この場合、式(VIa)のエナンチオマーは、式(IV)のフェノール誘導体と異なって、光学活性な酸を用いて形成された塩が開放されると有機溶媒で容易に抽出することができ、それに対して残留している酸は水溶液中に留まる。
【0051】
式(VI)の化合物のエナンチオマー混合物の分割は、非常に良好な収率を有し、且つ本発明のさらなる1つの態様である。
【0052】
得られたエナンチオマー[式(VIa)の化合物]に、続いて脱メチル化反応(段階c)をさせて光学活性中間体[式(IV)の化合物]を得る。この反応は、本発明の方法[2]の段階b)に記載された同じ方法によって行われ、使用する反応剤も規定されている反応条件も両方に共通である。得られる光学純度が、本発明の方法[2]を用いて得られる光学純度に類似であることが、旋光性を測定することによって検証されている。
【0053】
本発明の方法[3]の段階d)及びe)も、本発明の方法[1]の段階a)及びb)に相当し、上に記載されている。
【0054】
式(VI)の化合物のエナンチオマー混合物は、独自の方法によって分割され、これは本発明のさらなる1つの態様である。したがって、他の一態様において本発明は、式(VI)
【化20】


の化合物のエナンチオマー混合物を分割する方法に関し、
その方法は、
a)エナンチオマー混合物の相当するエナンチオマーを光学活性な酸と反応させることによってジアステレオ異性体塩を形成する段階と、
b)段階a)で得られたジアステレオ異性体塩をアルコール溶媒中、又はアルコール溶媒/水混合物中で再結晶化して所望のエナンチオマーに富むジアステレオ異性体塩を得る段階と
c)所望のエナンチオマーを
c.1)段階b)で得たジアステレオ異性体塩を水性有機媒体中に再懸濁させること、
c.2)塩基を使用して媒体をpHが7〜12に達するまで中和すること、及び
c.3)有機相を分離し、所望のエナンチオマーを塩基の形態又は酸付加塩の形態で単離すること
によって得る段階と
を含む。
【0055】
使用する光学活性な酸は、式(VI)の化合物のエナンチオマー混合物のエナンチオマーとジアステレオ異性体塩を形成し、且つ所望のエナンチオマーを分離することを可能にする任意の光学活性な酸であればよい。特定の一実施形態においては、前記光学活性な酸は、D−(−)−酒石酸又はジベンゾイル−L−酒石酸である。こうして得られたジアステレオ異性体塩は、アルコール中、一般的には1〜5個の炭素原子を有するアルコール、好ましくはメタノール若しくはエタノール中、又はアルコール溶媒/水混合物、例えばエタノール/水中で再結晶化させて所望のエナンチオマーに富むジアステレオ異性体塩を得る。所望のエナンチオマーは、次いで先に得た所望のエナンチオマーに富むジアステレオ異性体塩を水並びに少なくとも1つの有機溶媒、例えばとりわけジクロロメタン及び酢酸エチル、好ましくはジクロロメタンを含む水性有機媒体中に再懸濁させることによって得られる。所望のエナンチオマーは、次いで塩基をpHが7〜12、好ましくは8〜9に達するまで塩基を加えて中和することによって開放される。前記塩基の例示的で非限定的な例は、例えばとりわけ炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、好ましくは水酸化ナトリウムである。最終的には、所望のエナンチオマーは、有機相を分離することから得られ、前記化合物をオイルなどの塩基の形態で、又は適当な酸付加塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩など、好ましくは塩酸塩を形成させることによって単離することができる。特定の好ましい一実施形態においては、所望のエナンチオマーは、キラル(S)エナンチオマー、すなわち式(VIa)の化合物[L−(S)−[1−(3−メトキシフェニル)エチルメチルアミン]]である。
【0056】
式(VIa)の化合物は、式(I)の化合物を得るために使用することができ、本発明のさらなる1つの態様である。
【0057】
したがって、他の一態様において本発明は、式(VIa)
【化21】


の化合物又はその塩に関する。
【0058】
式(VIa)の化合物はアミンであり、適当な酸と反応する場合に塩、例えば無機酸又は有機酸との付加塩を、通常の方法によって形成することができる。前記塩の例示的な例には、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、メタンスルホン酸塩、リン酸塩、硝酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩など、好ましくは塩酸塩が含まれる。前記塩は、従来の方法によって、遊離のアミンを問題の酸と反応させることによって得ることができる。
【0059】
前記式(VIa)の化合物は、上記で本発明の方法[3]に関して記載したものなどの方法によって得ることができ、且つ適当な有機溶媒、例えばジクロロメタンを用いて抽出することによって水性媒体から容易に抽出することができる。加えて、前記式(VIa)の化合物は、式(VI)の化合物のエナンチオマー混合物から以下に記載するとおり分割によって得ることができ、このことは本発明のさらなる1つの態様である。
【0060】
他の一態様において、本発明はさらに、式(VI)
【化22】


の化合物のエナンチオマー混合物を分割することによって前記式(VIa)の化合物を得る方法に関し、
この方法は、
a)エナンチオマー混合物の相当するエナンチオマーを光学活性な酸と反応させることによってジアステレオ異性体塩を形成する段階、
b)段階a)で得られたジアステレオ異性体塩をアルコール溶媒中、又はアルコール溶媒/水混合物中で再結晶化して式(VIa)のエナンチオマーに富むジアステレオ異性体塩を得る段階、及び
c)式(VIa)のエナンチオマーを
c.1)段階b)で得たジアステレオ異性体塩を水性有機媒体中に再懸濁させること、
c.2)塩基を使用して媒体をpHが7〜12に達するまで中和すること、及び
c.3)有機相を分離し、(VIa)のエナンチオマーを塩基の形態又は酸付加塩の形態で単離すること、
によって得る段階
を含む。
【0061】
段階a)〜c)を行う実用的な方法は、上記で式(VI)の化合物のエナンチオマー混合物を分割するための方法に関して記載した。特定の一実施形態においては、前記光学活性な酸は、D−(−)−酒石酸又はジベンゾイル−L−酒石酸であり、ジアステレオ異性体塩は、アルコール、一般的には1〜5個の炭素原子を有するアルコール、好ましくはメタノール若しくはエタノール中、又はアルコール溶媒/水混合物、例えばエタノール/水中で再結晶化させて式(VIa)のエナンチオマーに富むジアステレオ異性体塩を得て、これを水並びに有機溶媒、例えばジクロロメタン及び酢酸エチル、好ましくはジクロロメタンを含む水性有機媒体中に再懸濁させることによって得られる。式(VIa)のエナンチオマーは、次いで塩基、例えば無機塩基(例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム、好ましくは水酸化ナトリウム)をpHが7〜12、好ましくは8〜9に達するまで加えて中和することによって開放される。最後に、式(VIa)のエナンチオマーは、有機相を分離することから得られ、前記化合物をオイルなどの塩基の形態で、又は適当な酸付加塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩など、好ましくは塩酸塩を形成させることによって単離することができる。
【0062】
以下の実施例は、本発明を例示するものであり、その範囲を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
α−3−メトキシフェニルエチルメチルアミン[式(VI)の化合物]を得ること
不活性条件下で、チタンイソプロポキシド348gを、予め10℃に冷却したメチルアミン38gのエタノール2.2L中溶液に加える。次いで、3−メトキシアセトフェノン108gを、温度を15℃〜20℃に維持しながら加え、反応混合物を室温で10時間撹拌放置する。この時間が過ぎた後、ナトリウムボロハイドライド41gを、温度を20℃〜25℃に維持しながら1時間で加える。室温で15時間後に、反応は完了していると考えられ、25%アンモニア溶液500mLを30分間で加えることによって処理し、反応混合物を2時間撹拌放置する。得られた懸濁液をろ過し、ろ液をエタノール300mLで洗浄する。得られたアルコール溶液を残留物になるまで減圧で蒸留し、水500mLで再懸濁し、塩化メチレン300mLで3回抽出する。合わせた塩化メチレン抽出液を硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧下で黄色のオイルが得られるまで蒸留すると103gをもたらす。
【化23】

【0064】
(実施例2)
3−[(1−メチルアミノ)エチル]フェノール[式(V)の化合物]を得ること
実施例1で得たオイルを48%臭化水素酸水溶液412mLに溶解させ、次いで加熱還流させる。反応が終了したらすぐに、減圧で残留物になるまで蒸留し、水200mLを加え、50%水酸化ナトリウム溶液でpH8.7に調節する。得られた懸濁液を0℃まで冷却し、ろ過してピンクの固体72gを得る。
【化24】

【0065】
(実施例3)
L−(S)−3−[(1−メチルアミノ)エチル]フェノール[式(IV)の化合物]を得ること
実施例2で得た化合物の塩酸塩60gを、D−ブロモカンファースルホン酸アンモニウム55gと混合し、得られた混合物を還流下で水300mLに溶解させる。溶液を固体が結晶化し始めるまで徐々に冷却し、固体をろ過し、洗浄する。母液及び洗液をpH8.7に達するまで調節すると目指すエナンチオマーに富む塩基に達する。塩酸塩の形態で得られた個体(23g)をL−ブロモカンファースルホン酸アンモニウム40gと混合し、水120mLを加えて加熱還流させる。溶液が冷めたら、所望の塩に相当する沈殿が形成され、これをろ過によって単離する。最終的に47gの塩が得られ、これをもう一度水から再結晶化させる。塩基は、得られた塩を水に再懸濁させ、pHを8.7に調節することによって回収され、目指す化合物が沈殿する。
[α]:−68(c:5 ピリジン中)
【0066】
この化合物の塩酸塩は、エタノール中での結晶化によって得られる。
[α]:−20(c:10 水中)
【0067】
(実施例4)
L−(S)−N−エチル−3−[1−(メチルアミノ)エチル]−N−メチル−フェニルカルバメート[式(II)の化合物]を得ること
式(IV)の化合物[実施例3]2gを、予め0〜−5℃に冷却した水酸化ナトリウム(鉱油中60%)0.6gのテトラヒドロフラン20mL中懸濁液に加える。得られた懸濁液はこの温度範囲内に45分間維持し、次いで塩化エチルメチルカルバモイルの0.5Mトルエン中溶液(2当量)を加える。反応は終わるまで20℃〜25℃に維持し、次いで1%水酸化ナトリウム水溶液20mLを加える。得られた混合物を乾固するまで減圧で蒸留し、得られた残留物を塩化メチレン20mLと10%塩酸水溶液20mLの間で分配させる。分離された水相に塩化メチレン20mLを加え、10%水酸化ナトリウム水溶液を使用して混合物をpH8.7に調節する。硫酸ナトリウムで乾燥した分離された有機相を黄色のオイルを得るまで減圧で蒸留し、オイルを所望の生成物として同定する(2.5g)。
【化25】

【0068】
(実施例5)
(S)−N−エチル−3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]−N−メチル−フェニルカルバメート[リバスチグミン]を得ること
実施例4で得たオイル1gを、メタノール10mL及び酢酸1.4mLに溶解させ、混合物を0℃〜−5℃に冷却し、混合物にナトリウムシアノボロハイドライド0.32gを加え、温度を0℃未満に維持する。添加が完了したら、37%ホルムアルデヒド水溶液0.53mLのメタノール10mL中溶液を加え、反応終了まで室温で撹拌を維持する。次いで10%塩酸水溶液10mLを加え、残留メタノールを減圧で蒸留し、塩化メチレン10mLで抽出する。塩化メチレン20mLを分離された水相に加え、混合物を水酸化ナトリウム水溶液でpH8.7に調節する。分離された有機相を、重量0.8gの黄色のオイルが得られるまで減圧で蒸留し、所望の生成物として同定する。
【化26】

【0069】
(実施例6)
式(VI)の化合物を分割することによって得たL−(S)−[1−(3−メトキシフェニル)エチルメチルアミン][式(VIa)の化合物]からL−(S)−3−[1−(メチルアミノ)エチル]フェノール[式(IV)の化合物]を得ること
a)分割
式(VI)の化合物[実施例1]100gをメタノール394mL中に溶解させ、D−(−)−酒石酸93.8gを加える。得られた混合物を加熱還流させて1時間保持する。得られた溶液を室温まで冷却すると固体の沈殿が観察され、それを0℃まで冷却し、ろ過する。さらに2回の結晶化を行い最終的に酒石酸塩の形態の固体76gを得る。この塩を水760mL及び塩化メチレン1,400mLに溶解させ、無機塩基(NaOH)の水溶液を用いてpHを8.7に調節することによって所望の塩基が開放される。分離した有機相から、溶媒を減圧で除去すると、無色のオイルが得られる。このオイルは所望の生成物(式VIaの化合物)に相当する。この生成物は、塩酸塩が結晶化するエタノール中のHClから塩酸塩形態として単離することもできる。
[α]:−18(c:10 水中の塩酸塩として)
b)式(IV)の化合物を得ること
先に得たオイルを、BrH水溶液で実施例2に記載したのと同じ反応条件下に置いて、式(IV)の化合物を固体として同様の収率で得た。それを塩酸塩として単離した後、これが文献に記載されているものと同じ旋光度値を有することを検証した。
【0070】
(実施例7)
L−(S)−N−エチル−3−[1−(メチルアミノ)エチル]−N−メチル−フェニルカルバメート[Rがメチルであり、Rがエチルである式(II)の化合物]を得ること
式(IV)の化合物[L−(S)−3−[1−(メチルアミノ)エチル]フェノール]0.5gを、予め0℃〜−5℃に冷却したカリウムtert−ブトキシドの1Mテトラヒドロフラン溶液3.3mLに加える。得られた懸濁液をこれらの条件に45分間保持し、次いでエチルメチルカルバモイルクロライドの0.5Mトルエン溶液(2当量)を加える。反応(混合物)を同じもの(エチルメチルカルバモイルクロライド)が消費され尽すまで20℃〜25℃に保持する。得られた混合物を真空蒸留し、塩化メチレン20mL及び10%塩酸水溶液20mLを残留物に加える。塩化メチレン20mLを再度水相に加え、これを10%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.7に調節する。有機相を硫酸ナトリウムで乾燥し、黄色のオイル(0.5g)が得られるまで減圧蒸留し、オイルをカラムクロマトグラフィーによって精製後、所望の生成物として同定する。
【化27】

【0071】
(実施例8)
(S)−N−エチル−3−[1−(ジメチルアミノ)エチル]−N−メチル−フェニルカルバメート[リバスチグミン]を得ること
98%ギ酸2.5mL、ナトリウムホルミエート0.4g及び37%ホルムアルデヒド水溶液1mLを、式(II)の化合物[実施例7]0.5gに加える。混合物を加熱還流し、反応の終了までこの温度に保持する。これを塩化メチレン5mLを加えることによって処理し、混合物をpH8.7に調節する。分離した有機相を残留物を得るまで蒸留し、それをカラムクロマトグラフィーによって精製し、所望の生成物として同定する。
【化28】

【0072】
(実施例9)
ジベンゾイル−L−酒石酸を用いて分割することによりL−(S)−[1−(3−メトキシフェニル)エチルメチルアミン][化合物(VIa)]を得ること
ジベンゾイル−L−酒石酸一水和物(45.6g、0.1212モル)のエタノール(100mL)中懸濁液を溶解するまで加熱する。得られた混合物を加熱還流し、もう一方の[1−(3−メトキシフェニル)エチルメチルアミン](化合物IV)(20g、0.1212(モル))のエタノール(20mL)溶液をゆっくり30分間で加える。得られた溶液を70℃まで冷却すると固体の沈殿が観察される。この温度で2時間撹拌を維持し、得られた懸濁液を25℃に達するまでゆっくり冷却する。得られた固体をろ過し、エタノールで洗浄して重量23.15gの白色固体をモル収率36.49%で生じさせる。
【0073】
それぞれの比率70:30のエタノール:水混合物7倍容を溶媒として使用してさらに結晶化を行う。最後にろ過し、乾燥して全収率27%に相当する17gの塩を得る。
【0074】
所望の塩基は、この塩をジクロロメタン及び水に溶解させてpH=12に調節すると開放される。
[α]=−65.01(c=1 メタノール中)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
【化1】


[式中、
は、C〜C低級アルキル又はベンジルであり、
は、メチル、エチル又はプロピルである]
のフェニルカルバメート、その溶媒和物、水和物又は薬剤として許容される塩を得る方法であって、
a)式(IV)
【化2】


の化合物を、式(III)
【化3】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有し、Xは、ハロゲンである]
の化合物と塩基の存在下で反応させて式(II)
【化4】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有する]
の化合物を得る段階と、
b)前記式(II)の化合物に還元的アミノ化反応を、或いは前記式(II)の化合物にハロゲン化メチルと反応させることによりメチル化反応をさせて式(I)の化合物を得る段階と
を含む上記方法。
【請求項2】
得られた式(I)の化合物において、Rがメチルであり、Rがエチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階a)において使用される塩基が、NaOH、KOH、NaH、t−BuOK又はNaOMeである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
還元的アミノ化が、ホルムアルデヒド、ナトリウムシアノボロハイドライド及び酢酸の存在下で行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化メチルが、臭化メチル及びヨウ化メチルから選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
式(II)
【化5】


[式中、
は、C〜C低級アルキル又はベンジルであり、
は、メチル、エチル又はプロピルである]
の化合物及びその塩。
【請求項7】
がメチルであり、Rがエチルである、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
式(I)
【化6】


[式中、
は、C〜C低級アルキル又はベンジルであり、
は、メチル、エチル又はプロピルである]
のフェニルカルバメート、その溶媒和物、水和物又は薬剤として許容される塩を得る方法であって、
a)式(VII)の化合物をメチルアミンと還元剤の存在下で反応させて、以下に示す還元的アミノ化によって式(VI)
【化7】


の化合物を得る段階と、
b)前記式(VI)の化合物に脱メチル化反応をさせて式(V)
【化8】


の化合物を得る段階と、
c)段階b)において得たエナンチオマー混合物を分割して式(IV)
【化9】


のエナンチオマーを得る段階と、
d)前記式(IV)の化合物を式(III)
【化10】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有し、Xは、ハロゲンである]
の化合物と塩基の存在下で反応させて式(II)
【化11】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有する]
の化合物を得る段階と、
e)前記式(II)の化合物に還元的アミノ化反応をさせて、或いは前記式(II)の化合物をハロゲン化メチルと反応させることによってメチル化反応をさせて、式(I)の化合物を得る段階
を含む上記方法。
【請求項9】
式(I)
【化12】


[式中、
は、C〜C低級アルキル又はベンジルであり、
は、メチル、エチル又はプロピルである]
のフェニルカルバメート、その溶媒和物、水和物又は薬剤として許容される塩を得る方法であって、
a)式(VII)の化合物をメチルアミンと還元剤の存在下で反応させて、以下に示す還元的アミノ化によって式(VI)
【化13】


の化合物を得る段階と、
b)段階a)において得たエナンチオマー混合物を分割して式(VIa)
【化14】


のエナンチオマーを得る段階と、
c)前記式(VIa)の化合物に脱メチル化反応をさせて式(IV)
【化15】


の化合物を得る段階と、
d)前記式(IV)の化合物を式(III)
【化16】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有し、Xは、ハロゲンである]
の化合物と塩基の存在下で反応させて式(II)
【化17】


[式中、R及びRは、先に述べた意味を有する]
の化合物を得る段階と、
e)前記式(II)の化合物に還元的アミノ化反応を、或いは前記式(II)の化合物をハロゲン化メチルと反応させることによってメチル化反応をさせて式(I)の化合物を得る段階と
を含む上記方法。
【請求項10】
エナンチオマー混合物を分割するための段階b)が、エナンチオマーを光学活性な酸と反応させることから形成されたジアステレオ異性体塩の分別結晶化によって行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記光学活性な酸が、D−(−)−酒石酸である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記光学活性な酸が、ジベンゾイル−(L)−酒石酸である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
式(VI)
【化18】


の化合物のエナンチオマー混合物を分割する方法であって、
a)エナンチオマー混合物の相当するエナンチオマーを光学活性な酸と反応させることによってジアステレオ異性体塩を形成する段階と、
b)段階a)で得られたジアステレオ異性体塩をアルコール溶媒中、又はアルコール溶媒/水混合物中で再結晶化して所望のエナンチオマーに富むジアステレオ異性体塩を得る段階と、
c)所望のエナンチオマーを
c.1)段階b)で得たジアステレオ異性体塩を水性有機媒体中に再懸濁させること、
c.2)塩基を使用して媒体をpHが7〜12に達するまで中和すること、及び
c.3)有機相を分離し、所望のエナンチオマーを塩基の形態又は酸付加塩の形態で単離すること
によって得る段階と
を含む上記方法。
【請求項14】
前記光学活性な酸が、D−(−)−酒石酸である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記光学活性な酸が、ジベンゾイル−(L)−酒石酸である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記アルコール溶媒が、メタノールである、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記アルコール溶媒が、エタノール/水混合物である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記水性−有機媒体が、水及び有機溶媒を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記有機溶媒が、ジクロロメタン又は酢酸エチルである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
段階c)で得られるエナンチオマーが、酸付加塩、好ましくは塩酸塩又は臭化水素酸塩である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
所望のエナンチオマーが、式(VIa)
【化19】


の(S)エナンチオマーである、請求項13から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
式(VIa)
【化20】


の化合物又はその塩。
【請求項23】
酸付加塩の形態である、請求項22に記載の化合物。
【請求項24】
前記酸付加塩が、塩酸塩又は臭化水素酸塩である、請求項23に記載の化合物。
【請求項25】
式(VI)
【化21】


の化合物のエナンチオマー混合物を分割することによって、請求項22に記載の式(VIa)の化合物を得る方法であって、
a)エナンチオマー混合物の相当するエナンチオマーを光学活性な酸と反応させることによってジアステレオ異性体塩を形成する段階と、
b)段階a)で得られたジアステレオ異性体塩をアルコール溶媒中、又はアルコール溶媒/水混合物中で再結晶化して式(VIa)のエナンチオマーに富むジアステレオ異性体塩を得る段階と
c)式(VIa)のエナンチオマーを
c.1)段階b)で得たジアステレオ異性体塩を水性有機媒体中に再懸濁させること、
c.2)塩基を使用して媒体をpHが7〜12に達するまで中和すること、及び
c.3)有機相を分離し、式(VIa)のエナンチオマーを塩基の形態又は酸付加塩の形態で単離すること
によって得る段階
を含む方法。
【請求項26】
前記光学活性な酸が、D−(−)−酒石酸である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記光学活性な酸が、ジベンゾイル−(L)−酒石酸である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記アルコール溶媒が、エタノール又はエタノール/水混合物である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記アルコール溶媒が、メタノールである、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記水性有機媒体が、水及び有機溶媒を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記有機溶媒が、ジクロロメタン又は酢酸エチルである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
段階c)で得られる式(VIa)のエナンチオマーが、酸付加塩、好ましくは塩酸塩又は臭化水素酸塩の形態である、請求項25に記載の方法。

【公表番号】特表2009−503036(P2009−503036A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524534(P2008−524534)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際出願番号】PCT/ES2006/000459
【国際公開番号】WO2007/014973
【国際公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(508036488)インテルキム、ソシエダッド アノニマ (6)
【Fターム(参考)】