説明

フェノール樹脂成形材料

【課題】 特にコンミテータに用いた場合に、回転破壊強度が高く、片間段差の少ない一体成形品を得ることができるフェノール樹脂成形材料を提供する。
【解決手段】 フェノール樹脂と、アミノシラン及びカチオニック・アンモニウム塩で表面処理されたロックウールと、を含有することを特徴とし、好ましくは上記ロックウールの含有量は、成形材料全体に対して5〜20重量%であり、更に、無機充填材としてガラス繊維と、クレー、炭酸カルシウム、タルクの中から選ばれた1種以上とを含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂成形材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂成形材料は、機械的特性、電気的特性に優れ、軽量な成形品を得られるため、電子・電気部品、各種機構部品から日用品に至るまで、広範な用途に適用されている。
広範囲の分野に利用されているフェノール樹脂成形材料の用途のひとつとしてコンミテータ(整流子)がある。コンミテータはモーターの一部品であり、一般的には、銅セグメントとフェノール樹脂成形材料に代表される熱硬化性樹脂成形材料で成形された絶縁体により構成されている。
コンミテータの絶縁体に使用される材料に要求される基本的な特性には、機械的強度、耐熱性(特に、熱時の強度・加熱寸法安定性)や寸法安定性などがあるため、ガラス繊維で強化されたフェノール樹脂成形材料が多く使用されている。
【0003】
しかしながら近年、モーターの小型・高出力化にともない、高温高速回転下で使用可能なコンミテータへの要求が高まっているものの、このようなガラス繊維強化フェノール樹脂成形材料をもってしても、高温高速回転中に生じる銅セグメント間段差(以下、単に「片間段差」ということがある)が大きくなり、モーターの騒音増大や寿命低下につながるという問題点があった。片間段差を少なくする事に関して、粘土鉱物を添加する技術が公開されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平09−095595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、特にコンミテータに用いた場合に、回転破壊強度が高く、片間段差の少ない一体成形品を得ることができるフェノール樹脂成形材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記(1)〜(4)に記載の本発明により達成される。
(1)フェノール樹脂と、アミノシラン及びカチオニック・アンモニウム塩で表面処理されたロックウールと、を含有することを特徴とするフェノール樹脂成形材料。
(2)前記ロックウールの含有量は、成形材料全体に対して5〜20重量%である(1)に記載のフェノール樹脂成形材料。
(3)更に、前記ロックウール以外の無機充填材として、ガラス繊維と、クレー、炭酸カルシウム、タルクの中から選ばれた1種以上とを含むものである(1)又は(2)のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
(4)コンミテータ用に用いられるものである、(1)ないし(3)のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフェノール樹脂成形材料は、フェノール樹脂と、アミノシラン及びカチオニック・アンモニウム塩で表面処理されたロックウールと、を含有することを特徴とするものであり、特にコンミテータに用いた場合に、回転破壊強度が高く、片間段差の少ない一体成形品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明のフェノール樹脂成形材料(以下、単に「成形材料」ということがある)について詳細に説明する。
本発明の成形材料は、フェノール樹脂と、アミノシラン及びカチオニック・アンモニウム塩で表面処理されたロックウール(以下、単に「表面処理済ロックウール」ということがある)と、を含有することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の成形材料に用いられるフェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂が挙げられ、これらを単独、あるいは両者を併用することができる。
ノボラック型フェノール樹脂を使用する場合、通常硬化剤としてヘキサメチレンテトラミンを使用する。ヘキサメチレンテトラミンを用いる場合、その含有量は特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して、10〜30重量部配合することが好ましく、特に15〜20重量部配合することが好ましい。ヘキサメチレンテトラミンの含有量が上記上限値を超えると、成形品の機械的強度が低下する場合があり、上記下限値未満では、成形収縮が大きくなり、成形品の機械的強度が低下する場合がある。
【0010】
本発明の成形材料においては、アミノシラン及びカチオニック・アンモニウム塩で表面処理されたロックウールを使用する。これにより、特にコンミテータ成形品に用いた場合に、回転破壊強度を低下させることなく片間段差を低減することが可能となる。
本発明の成形材料に用いられるロックウールは、玄武岩などの天然鉱物を溶融し、加工精製した鉱物繊維である。このロックウールの融点は、1000℃以上であることから、充填材として用いると耐熱性・耐摩耗性・耐久性・機械的強度を向上させることができる。
【0011】
本発明の成形材料で用いられるロックウールは、アミノシラン及びカチオニック・アンモニウム塩で表面処理されたものである。これにより、フェノール樹脂との親和性、濡れ性を向上させ、成形品に高い機械的強度を付与することができる。
また、このように、アミノシラン及びカチオニック・アンモニウム塩で表面処理されているロックウールは、例えばアミノシラン単独で表面処理されたロックウールと比較して、成形材料中における分散性にきわめて優れるという特徴を有する。これにより、上記効果をさらに高めることができる。
さらに、ガラス繊維など配向性を有する無機充填材を併用する場合においては、例えばガラス繊維の一部を置換して上記ロックウールを配合することにより、機械的強度を実質的に低下させることなく、ガラス繊維の配向性による影響を大きく低減させることができる。
【0012】
一方、ガラス繊維を高充填した成形材料を用いたコンミテータ成形品の場合、成形品の機械的強度は向上する反面、配向差が大きくなり、高温高速回転中にコンミテータの真円度が悪化し、片間段差増大に至る可能性がある。このため、無機の粒子状充填材或いは板状充填材を併用して用いることが一般的に行われてきた。しかしながら、無機の粒子状充填材或いは板状充填材を多く配合すると機械的強度が低下するという問題があった。
【0013】
本発明の成形材料に用いる表面処理済ロックウールの繊維径は特に限定されないが、1〜20μmが好ましく、5〜10μmが更に好ましい。繊維径が上記範囲を外れると成形品の機械的強度が不十分となる場合がある。
また、繊維長は特に限定されないが100〜650μmが好ましい。更に好ましくは100〜300μmである。繊維長が上記下限値未満では成形品の機械的強度が不十分となる場合があり、上記上限値を超えると成形材料製造時の作業性や分散性が低下する場合がある。
【0014】
上記表面処理済ロックウールの含有量は特に限定されないが、成形材料全体に対して5〜20重量%が好ましく、更に好ましくは5〜15重量%である。上記下限値未満では、成形品の機械的強度が不十分となる場合があり、上記上限値を超えると、成形材料製造時の作業性や分散性が低下する場合がある。
【0015】
本発明の成形材料は、上記表面処理済ロックウールのほか、ガラス繊維を含む無機充填材を含有することが好ましい。ガラス繊維を含有することにより、得られる成形品の機械的強度が向上する。
ガラス繊維の繊維径は、特に限定されないが、10〜15μmが好ましい。この範囲の繊維径のガラス繊維を用いることにより、成形材料化段階での作業性を向上させることができる。また、ガラス繊維の繊維長は、特に限定されないが、1〜3mmのチョップドストランドタイプのものを使用することが好ましい。この範囲の繊維長のガラス繊維を用いることにより、成形材料化時の作業性、成形性及び成形品の機械的強度を向上させることができる。
【0016】
上記ガラス繊維の含有量は、特に限定されないが、成形材料全体に対して30〜50重量%が好ましく、特に40〜50重量%が好ましい。ガラス繊維の含有量が上記下限値未満では成形品の機械的強度が不十分となる場合があり、上記上限値を超えると、成形材料製造時の作業性が低下や成形品の配向差が大きくなる場合がある。
【0017】
本発明の成形材料は、さらに、粉末状の無機充填材を含有することが好ましい。これにより、成形品の配向差がさらに小さくなり寸法安定性をより向上させることができる。
上記粉末状の無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、未焼成クレー、焼成クレー、ウォラスナイト、炭酸カルシウム、タルク、シリカ等を挙げることができる。これらの中でもクレー、炭酸カルシウム、タルクが好ましく、これらの中から1種以上を選択し使用することができる。これにより成形品の寸法安定性をさらに向上させることができる。
【0018】
上記粉末状の無機充填材の含有量は、特に限定されないが、成形材料全体の5〜20重量%が好ましく、特に5〜15重量%が好ましい。かかる含有量が上記下限値未満では成形品の寸法安定性などが充分でない場合があり、上記上限値を超えると成形材料製造時の作業性や、成形品の機械的強度が低下する場合がある。
【0019】
本発明の成形材料には、本発明の目的を損なわない範囲で、離型剤、硬化助剤、顔料、エラストマ等の添加剤を添加することができる。
【0020】
本発明の成形材料を製造する方法は通常の混練方法が適用できる。例えば、フェノール樹脂、ガラス繊維、表面処理済ロックウール及びその他無機充填材を均一に混合した後、ロール、コニーダ、二軸押出し機等の混錬機単独またはロールと他の混合機との組み合わせで加熱混練した後、粉砕して得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例により本発明を説明する。
【0022】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
成形材料全体に対して、レゾール型フェノール樹脂を6重量%、ノボラック型フェノール樹脂を24重量%、ヘキサメチレンテトラミン4重量%、ガラス繊維を45重量%、表面処理済ロックウールを10重量%、粉末状無機充填材として未焼成クレーを8重量%、および離型剤を1重量%、顔料を1重量%、硬化助剤として酸化マグネシウムを1重量%配合し、約90℃の加熱ロールで約5分間混練し、冷却後粉砕して成形材料を得た。
【0024】
(実施例2)
レゾール型フェノール樹脂を用いず、ノボラック型フェノール樹脂を29重量%に増量、ヘキサメチレンテトラミンを5重量%に増量した以外は、実施例1と同様にして成形材料を得た。
【0025】
(比較例1)
表面処理済ロックウールを用いずに、成形材料全体に対して、レゾール型フェノール樹脂を6重量%、ノボラック型フェノール樹脂を24重量%、ヘキサメチレンテトラミン4重量%、ガラス繊維を55重量%、粉末状無機充填材として未焼成クレーを8重量%、及び離型剤を1重量%、顔料を1重量%、硬化助剤として酸化マグネシウムを1重量%配合し、約90℃の加熱ロールで約5分間混練し、冷却後粉砕して成形材料を得た。
【0026】
(比較例2)
ガラス繊維を45重量%に減量し、アミノシランで表面処理されたロックウールを10重量%追加配合した以外は、比較例1と同様にして成形材料を得た。
【0027】
(比較例3)
アミノシランで表面処理されたロックウールの代わりに、表面処理されていないロックウールを配合した以外は、比較例2と同様にして成形材料を得た。
【0028】
(比較例4)
ロックウールを配合せず、未焼成クレーを18重量%に増量とした以外は、比較例2と同様にして成形材料を得た。
【0029】
【表1】

【0030】
(使用した原料)
(1)レゾールフェノール樹脂:以下の方法にて製造した。
還流コンデンサー撹拌機、加熱装置、真空脱水装置を備えた反応装置内に、フェノール(P)とホルムアルデヒド(F)とをモル比(F/P)=1.7で仕込み、これに酢酸亜鉛をフェノール100重量部に対して0.5重量部添加した。この反応系のpHを5.5に調整し、還流反応を3時間行った。その後、真空度100Torr、温度100℃で2時間水蒸気蒸留を行って未反応フェノールを除去し、さらに、真空度100Torr、温度115℃で1時間反応させ、数平均分子量800のレゾールフェノール樹脂(固形)を得た。
(2)ノボラック型フェノール樹脂:住友ベークライト社製、A−1082(数平均分子量800)
(3)ヘキサメチレンテトラミン:住友精化社製 ウロトロピン
(4)ガラス繊維:日本板硝子社製 RES03−BM38(平均繊維径11μm、平均繊維長3mmのチョップドストランド)
(5)表面処理済ロックウール:ラピナス社製 RF840(平均繊維径5.5μm、平均繊維長300μm)
(6)アミノシラン表面処理済ロックウール:ラピナス社製 RS440(平均繊維径5.5μm、平均繊維長300μm)
(7)表面処理無しロックウール:ラピナス社製 MS605(平均繊維径5.5μm、平均繊維長300μm)
(8)未焼成クレー:ECC社製 ECKALITE 1
(9)離型剤:日本油脂社製 ステアリン酸
(10)顔料:三菱化学社製 カーボンブラック#750B
(11)硬化助剤(酸化マグネシウム):協和化学社製 キョーワマグ30
【0031】
実施例および比較例により得られた成形材料を用いて、次の評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
(測定方法)
<1>シャルピー衝撃強さ、曲げ強さ、成形収縮率:
試験片は、トランスファ成形(175℃、3分間)により作製し、JIS K 6911に準拠して測定した。
【0034】
<2>線膨張係数の異方性:
上記で得られた成形材料を用い、<1>の方法にて曲げ強さ試験用の試料を成形した。この試料を用いて成形材料の流れ方向の線膨張係数(α)、および流れに対し直交方向の線膨張係数(α)を、TMA法を用いて測定した。
【0035】
<3>回転破壊強度と片間段差
トランスファ成形(175℃、硬化時間3分間)、アフタキュア(180℃×4時間+210℃×4時間)にて、図1に示す試験用コンミテータを作製し、250℃中でコンミテータを回転させ破壊した際の回転数(回転破壊強度)と250℃中、45000rpm、10分間回転させた後、コンミテータの高さ方向の中心部分について、隣り合ったセグメント間の段差を、全周真円度計にて測定し、最大段差を得た。
【0036】
表2の結果から、本発明の表面処理済ロックウールを含む成形材料を用いた成形品である実施例1ないし2は、シャルピー衝撃強さ、曲げ強さ及び曲げ弾性率は実用範囲であり、所定の表面処理を施していないロックウールを用いた比較例1〜4に比較して片間段差が大幅に低減されている。また、ガラス繊維が高充填されている比較例1と同等の高い回転破壊強度が維持されている。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のフェノール樹脂成形材料は、特に、コンミテータに用いた場合に、回転破壊強度が高く片間段差の少ない一体成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】評価用コンミテータの断面図。
【符号の説明】
【0039】
1:フェノール樹脂製絶縁体
2:銅セグメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂と、アミノシラン及びカチオニック・アンモニウム塩で表面処理されたロックウールと、を含有することを特徴とするフェノール樹脂成形材料。
【請求項2】
前記ロックウールの含有量は、成形材料全体に対して5〜20重量%である請求項1に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項3】
更に、前記ロックウール以外の無機充填材として、ガラス繊維と、クレー、炭酸カルシウム、タルクの中から選ばれた1種以上とを含むものである請求項1又は2に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項4】
コンミテータ用に用いられるものである、請求項1ないし3のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。

【図1】
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【公開番号】特開2006−257116(P2006−257116A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72400(P2005−72400)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】