説明

フェムト秒レーザパルスによって眼組織を処理するための装置

【課題】フェムト秒レーザパルスによって眼組織を処理するための眼科用装置であって、より柔軟性の高い切断誘導を使用することを可能にする眼科用装置を提供する。
【解決手段】眼科用装置1は、フェムト秒レーザパルスを眼組織8に集光して投射するための投射光学ユニット2を備えている。第1のビーム偏向スキャナシステム3と第2のビーム偏向スキャナシステム5が配置され、眼組織を走査するように構成されている。第2のスキャナシステムは、第1のスキャナシステムの走査速度の倍数の走査速度を有し、少なくとも1つの偏向ミラーと、第1の走査軸51と、第2の走査軸52と、を備えている。制御モジュール7は、走査曲線fの所定の曲線形状、所定の曲線振幅、および所定の曲線の向きに従って、第1の走査軸を中心とするフェムト秒レーザパルスの偏向および第2の走査軸を中心とするフェムト秒レーザパルスの偏向を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェムト秒レーザパルスによって眼組織を処理するための眼科用装置に関し、特に、フェムト秒レーザパルスを眼組織に集光して投射するための投射光学ユニットを備えた眼科用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームによって眼組織を処理するには、適切なスキャナシステム(偏向装置)によってパルス状のレーザビームを1つまたは2つの走査方向に偏向することにより、レーザパルスで像領域または作業領域を走査する。光ビームの偏向またはフェムト秒レーザパルスのようなレーザパルスの偏向は普通、1つまたは2つの走査軸を中心とする揺動が可能な可動ミラーによって、例えばガルバノスキャナ、ピエゾスキャナ、またはポリゴンスキャナによって実施される。
【0003】
特許文献1は、眼組織を処理するための装置であって、レーザパルスを発生するためのレーザ源を備えた基台と、その基台の中に配置された、そのレーザパルスを走査方向に偏向するための可動偏向ミラーを備えたスキャナと、を有する装置について記載している。偏向されたレーザパルスは、伝送光学系を介して、基台からアプリケーションヘッドまで伝送される。このヘッドは、機械的手段で移動させられる投光機による走査パターンに従って、作業領域上を移動する。機械運動よりもはるかに速い走査方向の偏向は、アプリケーションヘッドにおいて、投光動作の機械運動に、したがってその走査パターンに重ね合わされる。基台のスキャナシステムが高速であれば、レーザパルスの微細な移動が可能になる(微小走査)。この微細移動は、目全体といった広い作業領域を対象として含む可動投光機の走査パターンに重ね合わされる。
【0004】
例えば100万パルス/秒(MHz)を超える、一層速いパルス速度を実現する高速レーザパルスが利用可能であるため、既知のスキャナシステムでは、複数のパルスを離して位置させる能力に物理的な限界が生じ、レーザのパルス速度をわざと低下させなければならなくなっている。詳細には、大きな方向転換は回避されなければならないという意味、および折り返し点等で最小走査速度に満たないときにはパルス速度を積極的に低下させなければならない(複雑な態様で)またはレーザを止めなければならないという意味で、作業領域を走査するための投光機またはレンズの機械運動、さらには自由な高速化を妨げているガルバノメーターのスキャナシステムの質量慣性も、走査パターンおよび走査軌跡に対する制約となっている。結果として、既知のスキャナシステムは、実現可能な切断誘導にかなりの制約を課している。しかし、臨床上の観点からは、組織の生体力学的挙動には従うが、スキャナシステムの速度および帯域には、既知のスキャナシステムで行われているようには必ずしも従わない切断形状を計画することが望まれている。眼組織のような柔軟な組織を切断する場合、表面処理とは対照的に、線状またはらせん状のパターンのような単純なパルス走査パターンを用いることが常に可能であるとは限らない。というのは、ガスの内部放出または応力の解放によって組織の変形が生じる可能性があるからである。しかも、組織の変形は、予期される組織の生体力学的挙動を考慮した、適度により複雑化した走査パターンによって回避する必要がある。組織を、縁の形状が単純な大面積のセグメントとなるフラップ状に切断するような単純な走査パターンの処理を行うことは、既知のスキャナシステムで行うことができる。しかしながら、例えば屈折補正に対して要求される、縁の形状が複雑な分離された処理領域の場合、または他の生体力学的に支配されたより複雑な走査パターンの場合、処理は、そのような単純なやり方では、もはや不可能である。例として、その場合、1つの大面積走査パターンをマスクで覆う(電子的にまたは光学的に)必要があり、または、複数の小さな領域で、走査等の処理が個々に行われ、それによって、スキャナシステムは、走査対象のセクションに対して非常に頻繁に減速と加速を行わなければならないので、相当分だけ処理速度が落ちることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7,621,637号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、フェムト秒レーザパルスによって眼組織を処理するための眼科用装置であって、既知のシステムが持つ不都合の少なくともいくつかを無くした装置を提案することである。特に、本発明の目的は、フェムト秒レーザパルスによって眼組織を処理するための眼科用装置であって、レンズを機械運動させなくても処理領域を走査することができ、処理時間を短縮するために、パルス周波数が高いレーザ光源、詳細には1秒当たりのパルス数が100万を超えるMHz領域の周波数のレーザ光源を使用すること、およびより柔軟性の高い切断誘導を使用することを可能にする眼科用装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、これらの目標は、独立請求項の特徴によって達成される。加えて、その他の有利な態様が、従属請求項および明細書から得られる。
【0008】
上記の目標は、本発明によって達成される。詳細には、フェムト秒レーザパルスによって、特に目全体にわたって眼組織を処理するための眼科用装置には、フェムト秒レーザパルスを眼組織に集光して投射するための投射光学ユニットが備わっているが、他にも、投射光学ユニットの上流側に配置され、フェムト秒レーザパルスによって処理線に沿って眼組織を走査するための第1のビーム偏向スキャナシステムと、第1のスキャナシステムの上流側に配置され、フェムト秒レーザパルスによって、処理線に重ね合わされた走査曲線上で、第1のスキャナシステムの走査速度の倍数の走査速度で眼組織を走査するための第2のビーム偏向スキャナシステムであって、少なくとも1つの偏向ミラーと、第1の走査軸と、第2の走査軸と、を備える第2のビーム偏向スキャナシステムと、走査曲線の所定の曲線形状、所定の曲線振幅、および/または所定の曲線の向きに従って、第1の走査軸を中心とするフェムト秒レーザパルスの偏向および第2の走査軸を中心とするフェムト秒レーザパルスの偏向を制御するための制御モジュールと、が設けられているという事実によって達成される。
【0009】
ミラーを利用したスキャナシステムの場合、走査軸なる用語はミラー軸と等価であると理解されるべきであり、したがって、走査軸を中心としてミラーを偏向させると、偏向平面内を延伸する走査方向にレーザビームが偏向される。ミラー軸を持たない他のスキャナシステムの場合、走査軸なる用語は、相応な走査方向にレーザビームを偏向するためにミラーをそれを中心として回転させることになる仮想的な軸として理解されるべきである。
【0010】
機器の実用上の理由およびコスト上の理由で、概して、90度よりもかなり小さい偏倚角度または走査角度を都合よく実現できるように、投射光学ユニットおよび伝送光学ユニットの大きさ(例えば直径)を制限する必要がある。レーザパルスの集光点(スポット)が、組織を保護するために、および正確に処理するために要求されるように、例えばスポットの直径が5μm未満、特に3μm未満、好ましくは1μm未満のような微小な集光点の場合に、像領域(処理領域)が大きいと、そのために大きなビーム直径を走査させなければならず、それによって大きく重いミラーが必要になり、したがって、機械運動するレンズについての方策の場合と同様に、低走査周波数が必要になる。換言すると、基本的な物理的理由で、小さな(すなわち、高速に偏向可能)ミラーで、同時に上記の処理品質を得るのに望ましい小ささの直径を有するスポットで、大きな像領域を走査することはできない。
【0011】
可動偏向ミラーを有する2つのビーム偏向スキャナシステムを多段状にすれば、柔軟な構成および制御可能な態様で眼組織を処理することが可能になる。この場合、第1のスキャナシステムが、目全体といった広大な処理領域を受け持ち、上流側に配置された第2のスキャナシステムが、高速で微細な走査移動を重ね合わせる。その形態、大きさ、および向きは柔軟に調節することができ、過度に大きな投射光学ユニットおよび伝送光学系を使用する必要はなく、走査に必要なレンズまたは投射対物レンズの機械運動は不要であり、結果として、高走査周波数または高走査速度を実現することができる。レーザ光源と、「高速主スキャナシステム」である第1のスキャナシステムとの間に、より速い「超高速スキャナシステム」である第2のスキャナシステムを配置することで、小さなビーム開口部、例えばミラーを使用することが可能になり、したがって、眼組織の高速、高周波数走査が可能になる。この場合、比較的小さな偏倚で、眼組織の高周波数での走査および処理、すなわち切断を行えるように、速い方の第2のスキャナシステムを最適化することができ、広大な処理領域(像領域)で任意のアドレス可能点に迅速に移動できるように、第1のスキャナシステムを最適化することができる。偏向平面が、したがって、超高速スキャナシステムの微細な走査移動が、例えば垂直にまたは何か他の所定の角度で、主スキャナシステムの処理線に対して自動的に位置合わせされることによって、ラスター型の走査パターンに限定されない複雑な切断が可能になる。
【0012】
一変形態様では、制御モジュールは、第1のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅と第2のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅を、連携させて制御することによって、走査曲線の曲線の向きを決めるように構成されている。偏倚振幅に基づく曲線の向きの制御が単純である結果として、全面的に電子的手段および/またはプログラミング手段によって制御がなされるため、高価で低速な機械的および/または光学的像回転器が無用になる。
【0013】
一変形態様では、制御モジュールは、第1のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅、第2のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅、および第1のミラー軸を中心とする偏向と第2のミラー軸を中心とする偏向の相対的な位相を、連携させて制御することによって、走査曲線の曲線の向きを決定するように構成されている。偏倚振幅と相対的な位相を、連携させて制御することによって、例えば楕円の向きを制御することが可能になる。
【0014】
さらに別の変形態様では、制御モジュールは、第1のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅と第2のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅を、連携させて制御することによって、走査曲線の曲線振幅を決定するように構成されている。
【0015】
一変形態様では、制御モジュールは、第1のミラー軸を中心とする偏向と第2のミラー軸を中心とする偏向との間の相対的な位相を制御することによって、走査曲線の曲線形状を決定するように構成されている。
【0016】
さらに別の変形態様では、制御モジュールは、第1のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅と第2のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅を、連携させて制御することによって、走査曲線の曲線形状を決定するように構成されている。
【0017】
さらに別の変形態様では、制御モジュールは、第1のミラー軸を中心とする偏倚周波数と第2のミラー軸を中心とする偏倚周波数を、連携させて制御することによって、走査曲線の曲線形状を決定するように構成されている。
【0018】
一変形態様では、制御モジュールは、第1のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅、第2のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅、第1のミラー軸を中心とする偏向と第2のミラー軸を中心とする偏向との間の相対的な位相、第1のミラー軸を中心とする偏倚周波数、および/または第2のミラー軸を中心とする偏倚周波数を制御することによって、走査曲線の曲線形状−フーリエ合成による規定が可能−を決定するように構成されている。
【0019】
制御モジュールは、第1のスキャナシステムと第2のスキャナシステムを、連携させるように制御するように構成されることが好ましい。
【0020】
制御モジュールは、処理線に応じて、第1のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅、第2のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅、第1のミラー軸を中心とする偏向と第2のミラー軸を中心とする偏向との間の相対的な位相、第1のミラー軸を中心とする偏向周波数、および/または第2のミラー軸を中心とする偏向周波数を制御するように構成されることが好ましい。
【0021】
一変形態様では、制御モジュールは、処理線の方向が変わった場合に、第1のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅を大きくするとともに、第2のミラー軸を中心とする偏向の偏倚振幅を小さくするように構成されている。例えば、上記の各偏倚振幅は、連続的に減少しまたは増加する。
【0022】
さらに別の変形態様では、制御モジュールは、第1のミラー軸を中心とする偏向が、第2のミラー軸を中心とする偏向に対して2倍の偏向周波数で行われ、第1のミラー軸を中心とする偏向によって、第1のスキャナシステムによって処理線の方向に生じさせられる偏向が少なくとも部分的に補償されるように、第1のミラー軸を中心とする偏向および第2のミラー軸を中心とする偏向を制御するように構成されている。
【0023】
さらに別の変形態様では、装置は、第1のスキャナシステムと第2のスキャナシステムとの間に配置され、第2のスキャナシステムによって所定の走査幅の外側の領域へと偏向されたフェムト秒レーザパルスを遮光する働きをする絞りを備えている。
【0024】
さらに別の変形態様では、装置は、走査曲線の所定領域でフェムト秒レーザパルスを選択的に排除するための、制御可能なフィルタモジュールを備えている。
【0025】
好ましくは、第2のスキャナシステムの第1のミラー軸と第2のミラー軸は相互に直交するように向けられ、第2のスキャナシステムは、第1のミラー軸および第2のミラー軸を中心として、振動する態様でフェムト秒レーザパルスを偏向するように構成され、および第1のスキャナシステムは、第2のスキャナシステムに比べて偏倚が著しく大きい。
【0026】
一変形態様では、制御モジュールは、走査曲線が丸い曲線形状を有するように、第1のミラー軸を中心とするフェムト秒レーザパルスの偏向および第2のミラー軸を中心とするフェムト秒レーザパルスの偏向を制御するように構成されるとともに、結果として得られる所定の軌跡形状を有する走査軌跡が、走査曲線の処理線への重ね合わせから生じさせられるように、第1のスキャナシステムの走査速度を制御するように構成されている。円形の走査曲線が処理線に重ね合わされたときは、対称性の理由により、その向きを目的とした走査曲線の制御は不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】縦続接続された2つのスキャナシステムを備えた、フェムト秒レーザパルスによって眼組織を処理するための眼科用装置を模式的に示したブロック図であり、図1(a)は、相互に直交するように向けられた2つの走査軸を有する上記2つのスキャナシステムのうちの一方の投射平面を示す模式図で、図1(b)は、スキャナシステムを縦続接続して得られる走査軌跡を付した処理平面の模式図である。
【図2】相互に直交して配置された2つのミラー軸または走査軸を中心とする走査移動であって、位相のずれしない態様で振動している走査移動を重ね合わせる様子を示した説明図である。
【図3】相互に直交して配置された2つのミラー軸または走査軸を中心とする走査移動であって、位相がπ/2だけ位相のずれした態様で振動している走査移動を重ね合わせる様子を示した説明図である。
【図4】相互に直交して配置された2つのミラー軸または走査軸を中心とする走査移動であって、位相がπ/2だけ位相のずれしおよび周波数が異なる態様で振動している走査移動を重ね合わせる様子を示した説明図である。
【図5】2つのミラー軸または走査軸を有するあるスキャナシステムの走査曲線の、別のスキャナシステムの処理線への重ね合わせであって、一方のミラー軸を中心とする偏向が、エッジを直線化する目的で、他方のミラー軸を中心とする偏向に対して2倍の偏向周波数で行われるような態様での重ね合わせを示した説明図である。
【図6】2つのミラー軸または走査軸を有するあるスキャナシステムの走査曲線の、別のスキャナシステムの処理線への重ね合わせであって、直線的な走査パターンを形成する目的で、その走査曲線の各立ち上がりエッジが、いずれの場合も遮光されるような態様での重ね合わせを示す説明図である。
【図7】2つのミラー軸または走査軸を有するあるスキャナシステムの走査曲線の、別のスキャナシステムの処理線への重ね合わせであって、走査幅およびその処理線に対する向きを保つ目的で、その処理線の方向が変わった場合に、それらのミラー軸または走査軸を中心とする偏向の偏倚振幅が適合するような態様での重ね合わせを示す説明図である。
【図8a】2つのミラー軸または走査軸を有するあるスキャナシステムの丸い走査曲線の、別のスキャナシステムの丸い処理線への重ね合わせを示す説明図である。
【図8b】上記丸い走査曲線の上記丸い処理線への重ね合わせであって、その走査曲線が、図8aの走査曲線とは逆方向の回転を有するような態様での重ね合わせを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
例に基づき、以下で本発明の一実施形態について説明する。下記の添付図面を使って、その実施形態を示す。
【0029】
図1において、参照符号1は、フェムト秒レーザパルスを有するパルス状のレーザビームL1によって眼組織8を処理するための眼科用装置を示している。好ましくは1秒当たりのパルス数が100万を超えるMHz領域のパルス周波数を有するパルス状のレーザビームL1は、ビーム源6によって供給され、伝送光学系10によって、パルス状の処理ビームL5として、走査軌跡tに沿って眼組織8上、または眼組織8中に集光されて投射される。実施形態によっては、ビーム源6は、伝送光学系10の一部であり、または、光ファイバー線および/またはミラー/レンズ系といった光伝送システムを介して伝送光学系10に接続される独立したユニットとして構成されている。
【0030】
図1に模式的に例示しているように、眼科用装置1または伝送光学系10は、2つのビーム偏向スキャナシステム3,5と、ビーム源6から投射光学ユニット2までのビーム経路(L1−L2−L3−L4)中に配置された任意構成のフィルタモジュール4と、を備えている。
【0031】
ビーム偏向スキャナシステム5の走査速度は、スキャナシステム3の走査速度の倍数である。したがって、以下の説明では、スキャナシステム5を高速スキャナシステム5と呼び、スキャナシステム3を低速スキャナシステム3と呼ぶ。結果として、高速スキャナシステム5は、低速スキャナシステム3で実現可能なものに対して、整数倍だけ速い偏向速度、および振動スキャナシステムの場合は整数倍だけ高い振動周波数(ω、ω)を有している。特に、高速スキャナシステム5は、投射目標(切断目標)の像領域、すなわち投射光学ユニット2の像領域で高い走査速度を有し、および/または、高い走査周波数を有している。一方、低速スキャナシステム3は、投射光学ユニットの像領域で、高速スキャナシステム5に比べてはるかに大きな可動域を有している。結果として、フェムト秒レーザパルスで、眼組織8を、目全体にわたって完全に走査し処理することができるように、低速スキャナシステム3によって、高速スキャナシステム5に比べてはるかに広い像領域および処理領域をカバーし、扱うことが可能になる。
【0032】
高速スキャナシステム5は、ビーム源6と低速スキャナシステム3との間に配置されていることが好ましい。高速スキャナシステム5は、例えばビーム経路中でビーム源6の直ぐ下流側に配置されている。
【0033】
低速スキャナシステム3は、高速スキャナシステム5と投射光学ユニット2との間に配置されていることが好ましい。低速スキャナシステム3は、例えばビーム経路中で投射光学ユニット2の直ぐ上流側に配置されている。
【0034】
高速スキャナシステム5は、相互に直交するように向けられていることが好ましい2つのミラー軸51,52を有している。変形実施形態によっては、走査軸(ミラー軸)51,52は、傾斜可能な(チップ−チルトモード)共通の偏向ミラー、または多段状に配置されたそれぞれに専用の別個の偏向ミラーに結合されている。2つの走査軸51,52および傾斜可能な共通の偏向ミラーを有するスキャナシステムを使用することには、高価な中間光学ユニットを省くことができ、装置1の全体の構成が比較的コンパクトになるという利点がある。後で、図2、図3、および図4を参照して詳細に説明するように、高速スキャナシステム5は、ビーム源6からのパルス状のレーザビームL1またはそのフェムト秒レーザパルスを、所定の走査移動によって、投射平面Pxy内で規定される走査曲線f上に偏向する。図1(a)は、高速スキャナシステム5の投射平面Pxyを模式的に示しており、走査軸51はx軸に沿うように向けられ、走査軸52はy軸に沿うように向けられている。移動ベクトルaは、偏倚振幅がx方向にAである、走査軸52(y軸)を中心とする偏向ミラーの偏倚を指し、移動ベクトルbは、偏倚振幅がy方向にBである、走査軸51(x軸)を中心とする偏向ミラーの偏倚を示している。2つの走査軸51,52を中心とする偏倚が同期している場合、すなわち周波数が同一(ω=ω)で位相のずれが無い(φ=0)場合、フェムト秒レーザパルスは走査曲線fに沿うように偏向され、これは、図1(a)に、対応する移動ベクトルによって表されている。したがって、偏倚振幅A,Bによって、スキャナシステム5の、結果として得られる投射平面Pxy上の走査移動または走査曲線fの向きθおよび偏倚振幅Fが決まる。
【0035】
低速スキャナシステム3も同様に、相互に直交するように向けられ、傾斜可能な共通偏向ミラーまたは別個の2つの偏向ミラーに結合された、2つの走査軸(ミラー軸)を有することが好ましい。
【0036】
低速スキャナシステム3は、2つのガルバノメータースキャナの形態で、またはチップ−チルトモードで傾斜可能な2軸偏向ミラー(例えばピエゾ素子で管理される)によって、自由にアドレス可能に実現されることが好ましい。高速スキャナシステム5は、動作モードまたは構成に応じて、共振スキャナ、振動スキャナ、または自由にアドレス可能なスキャナとして実現される。正弦波動作モードは、特に振動ミラーを有する機械式の共振スキャナ(MEM(マイクロエレクトロメカニカル)スキャナとも呼ばれる、またはピエゾ駆動部を有する)の場合に、ガルバノメータースキャナで実現できる周波数および偏向速度よりも高い周波数および偏向速度を可能にする。したがって、共振動作モードでは振動する高速スキャナシステム5を使用することが好ましい。というのは、その走査周波数が高いということを考慮すると、その具体的な用途に、それが特に有利だからである。幾つかの例でさらに高い周波数が可能な他のスキャナのタイプが、文献から知られている(例えば、AOM(音響光学変調器)スキャナまたはEOM(電子光学変調器))。高速スキャナシステム5および低速スキャナシステム3は、直交する複数の走査軸(ミラー軸)を有するように実現し動作させることが好ましい。
【0037】
任意構成のフィルタモジュール4が、ビーム経路中に、好ましくは高速スキャナシステム5と低速スキャナシステム3との間に配置されている。変形実施形態によっては、フィルタモジュール4は、固定された、および/または制御可能な絞り41を備えている。この絞り41は、シャッタとして実現することも可能である。この場合、このシャッタは、レーザの所に配置され、ビーム源6の直ぐ下流側に配置されることが好ましい。一変形実施形態では、絞り41は、視野絞りとして実現され、すなわち、中間像平面に配置される。この場合、変形実施形態によっては、この視野絞りは、さらに、可変に、および/または非対称に構成されている。
【0038】
低速スキャナシステム3は、処理線sに沿って拡大された処理領域で、フェムト秒レーザパルスによって眼組織8を走査するように構成されている。この場合、低速スキャナシステム3は、高速スキャナシステム5によって偏向されたフェムト秒レーザパルスL2、またはフィルタモジュール4でフィルタリングされて遮光されなかったフェムト秒レーザパルスL3を偏向する。処理線sの方向および形状は、図1(a)を参照して高速スキャナシステム5について上述したように、低速スキャナシステム3のスキャナ軸(ミラー軸)31,32を中心とする偏倚の偏倚振幅によって決められる。したがって、高速スキャナシステム5によって生じさせられる走査移動または走査曲線fは、低速スキャナシステム3によって連続的に走査される処理線sに重ね合わされ、それによって、図1(b)に示すように、結果としての走査軌跡tが処理平面Txy内に形成れ、この軌跡によって、眼組織8が実際に処理される。図5、図6、図7、図8a、および図8bは、眼組織8を処理するために処理平面Txy上に生じさせられる様々な走査軌跡tの例を示している。これについては、後で詳細に論じる。
【0039】
フィルタモジュール4は、高速スキャナシステム5によって偏向されたフェムト秒レーザパルスL2のうち一定のものを、所定のフィルタ基準に従って遮光するように構成されている。絞り41は、例えば、高速スキャナシステム5によって所定の走査幅Eの外側の領域へと偏向されたフェムト秒レーザパルスL2を、固定された、または制御可能なやり方で遮光するように、または偏向されたフェムト秒レーザパルスL2を完全に、または走査曲線fの所定の領域R1,R2で遮蔽するように構成されている。図5の例では、フィルタモジュール4は、領域R1において、走査偏倚bのピーク部、例えば、所定の振幅値Bを超える部分を遮光するように構成されている。図6の例では、フィルタモジュール4は、実質的に平行な走査部分を有する走査パターンが形成されるように、領域R2において走査軌跡tの立ち上がりエッジを、いずれの場合も遮光するように構成されている。例えばミラー軸51,52を中心とする偏倚a,bに応じて、および/または処理線sの方向に応じて、遮光領域R1、R2は、例えば動的に、かつ自由に、規定することができおよび変更することができる。
【0040】
投射光学ユニット2は、低速スキャナシステム3によって偏向されたフェムト秒レーザパルスL4を、眼組織8上または眼組織8中に焦点を合わせて投射するように構成されている。この場合、眼組織8は、処理線sの方向への走査速度に応じて、個々のフェムト秒レーザパルスによって、または重なるように続けて投射された複数のフェムト秒レーザパルスによって、いずれの場合も、焦点Qの所で分解される。一変形実施形態では、投射光学ユニット2は、さらに、集光され、偏向されたパルス状のレーザビームL5の焦点Qを、例えば上下の変位によって、投射方向に設定するように構成されている。そうでなければ、投射光学ユニット2は、処置時に静止しており、すなわち、投射光学ユニット2のレンズは、予定された処置に備えて投射光学ユニット2を患者の目に位置合わせした後は、眼組織8を走査し処理するのに、いかなる横方向の機械運動(x方向および/またはy方向)も不要である。目に対する固定は、例えば真空によって制御される吸引リングによって行われる。
【0041】
図1で見て取れるように、眼科用装置1は、制御モジュール7を備えており、この制御モジュール7は、実施形態に応じて、伝送光学系10の一部として構成され、または、制御する目的で、制御線、または1つまたは複数のデータ通信接続、例えば、複数の信号線および/またはデータ線および/またはデータバスを介して伝送光学系10に接続されている独立したユニットとして構成されている。実施形態によっては、制御モジュール7は、ビーム源6、高速スキャナシステム5、フィルタモジュール4、低速スキャナシステム3、および/または投射光学ユニット2に接続されている。制御モジュール7は、1つまたは複数のプロセッサと、そのプロセッサに固定されて、または着脱可能に接続され、そのプロセッサを制御するためのコンピュータプログラムコードを含むプログラムされたソフトウェアモジュールが少なくとも1つ格納されている、アクセス可能なコンピュータ読み取り可能なデータキャリア(コンピュータプログラム製品)と、を備えていることが好ましい。様々な変形実施形態で制御モジュール7は、完全にまたは少なくとも部分的にハードウェアコンポーネントによって実現できることが、当業者には理解できる。
【0042】
以下の段落では、図2、図3、図4、図5、図6、図7、図8a、および図8bを参照して、制御モジュール7の機能、およびそれによって行われるプロセッサの、したがって、眼科用装置1の制御について説明する。
【0043】
変形実施形態によっては、制御モジュール7は、ビーム源6および/または投射光学ユニット2を、例えばパルスエネルギー、パルス周波数、または焦点深度について制御するように構成されているが、これについては、以降の段落では、より詳細には説明しない。
【0044】
制御モジュール7は、特に、高速スキャナシステム5のミラー軸51,52を中心とするフェムト秒レーザパルスの偏向a,bを制御するための高速スキャナ制御部を備えている。表1に示すように、高速スキャナ制御部は、様々な曲線形状、曲線の向き、および曲線振幅(または曲線の大きさ)によって規定され、例えば、特有の曲線識別子を割り当てられた所定の走査曲線fを実現するために、ミラー軸51,52を中心とする偏向a,bを制御するように構成されている。選択された所定の走査曲線f上にフェムト秒レーザパルスを偏向するために、制御モジュール7は、当該走査曲線fに割り当てられた、高速スキャナシステム5を制御するための相応の制御パラメータを使用する。ミラー軸51,52を中心とする偏倚は、特に、偏倚振幅A,B、偏倚周波数ω,ω、および/またはミラー軸51,52を中心とする偏倚a,b(振動)間の相対的な位相φ(位相のずれ)のそれぞれを制御するためのパラメータによって決められる。
【0045】
【表1】

【0046】
図2は、走査軸51,52を中心とする偏倚振幅A,Bを制御することによって、投射平面Pxy上での、結果として得られる走査移動fの向きθおよび偏倚Fを、2つの走査軸51,52を中心とする偏向a,bが、同一の周波数ω=ωおよび偏倚振動間の位相のずれを伴わないφ=0の状態で行われるように、残りの制御パラメータが設定された場合に、制御モジュール7がどのように設定できるのか、その例を示している。
【0047】
図3は、走査軸51,52を中心として正弦波状に振動している偏倚a,b間の相対的な位相φも、例えば制御モジュール7の一部分である位相変更エレメントによって付加的に設定することができる例を示している。この例は、高速スキャナシステム5によって、結果として楕円形状を有する走査曲線fが投射平面Pxyに形成されるように、図2のものと同じ偏倚振幅A,Bを用いて、走査軸51,52を中心とする偏倚間の位相のずれをφ=π/2にして高速スキャナシステム5を駆動するのを示している。結果として得られる楕円の向きθは、偏倚振幅A,Bおよび相対的な位相φを同時に設定することによって設定することができる。偏倚振幅A,Bの大きさを同じにすると、円形の走査曲線fが得られる。
【0048】
図4は、制御モジュール7により走査軸51,52を中心とする偏倚a,bの偏倚周波数ω,ωを設定し制御することによって、結果として得られる走査曲線fの形状を、どのように決定できるのかの例を示している。この例は、制御モジュール7によって、走査軸52(y軸)を中心とするx方向の偏倚xの偏倚周波数ωを走査軸51(x軸)を中心とするy方向の偏倚bの偏倚周波数ωの2倍の値、ω=2ωに設定した場合に、結果としてリサジュ形状の走査曲線fが生じるのを示している。
【0049】
制御モジュール7または高速スキャナ制御部は、古典的リサジュ形状に加えて、フーリエ合成で生成可能な正弦波、のこぎり歯形状、台形、または長方形の振動または他の形状を有する走査曲線fが結果として生じるように、ミラー軸51,52を中心とするフェムト秒レーザパルスの偏向a,bを、それらの偏倚振幅A,B、偏倚周波数ω,ω、および相対的な位相φに関して制御するように構成されている。走査軸51,52を自由に駆動できる場合は、上記に加えて、非周期的な図形も生じさせることができる。
【0050】
制御モジュール7は、他にも、低速スキャナシステム3のミラー軸31,32を中心とするフェムト秒レーザパルスの偏向を制御するための低速スキャナ制御部を備えている。この低速スキャナ制御部は、様々な処理パターンによって規定され、例えば割り当てられた特有のパターン識別子または線識別子を有する所定の処理線に従って、例えばミラー軸31,32を中心とする偏向を制御するように構成されている。例えば格納された処理パターンまたは時間関数によって規定される処理線s上にフェムト秒レーザパルスを偏向するために、制御モジュール7は、低速スキャナシステム3を制御するのに、当該処理線sに割り当てられた相応の制御パラメータを用いる。
【0051】
制御モジュール7による高速スキャナシステム5および低速スキャナシステム3の制御では、実質的に3つの動作モードを区別することができる。
【0052】
a)完全連携動作では、高速スキャナシステム5の2つの走査軸51,52を中心とする偏向a,bの偏倚振幅A,Bおよび相対的な位相φの両方が、低速スキャナシステム3と(例えば、基準点としてのTxyでの開始点または絶対位相値と)同期される。この動作モードまたは変形実施形態は、走査曲線fの向きθおよび形状の両方を、処理線sに対し処理線sに応じて、特に、処理線sの方向および走査速度(進行速度)に応じて制御することを意図する場合に、例えば、結果として得られる走査軌跡t上で連続するレーザパルスの、特定の、定義された(意図可能な)位置合わせを行うように位相角を制御するために、選択される。
【0053】
b)部分連携動作では、高速スキャナシステム5の2つの走査軸51,52の偏倚振幅A,B、偏倚周波数ω,ω、および相対的な位相φの部分集合が、低速スキャナシステム3の処理線sに応じて制御されまたは設定される。この動作モードまたは変形実施形態は、所望の走査軌跡tを生じさせるために、処理線sに対して、主として走査曲線fの向きθおよび/または大きさを制御することを意図する場合に選択される。
【0054】
c)非連係動作では、処理線sに対する走査曲線fの向きθは重要ではなく、大きさ(振幅F)は予め一定に規定される。
【0055】
図5は、走査軸51を中心とする偏倚bの、−処理線sに直交する−振動からなる直線状のエッジtを有する走査軌跡tがどのように生じさせられるのかの例を示している。図5に模式的に示しているように、制御モジュール7または直線化モジュールは、走査軸52を中心とするx方向の偏倚aが、走査軸51を中心とするy方向の偏倚bの2倍の偏倚周波数ω=2ωで行われるように、高速スキャナシステム5を制御するように構成されている。この場合、振動エッジtを直線状にするために、直交する偏倚振動の立ち上がりエッジおよび立ち下がりエッジtの所で処理線sの(x)方向の移動成分を補償するように、処理線sの方向の低速スキャナシステム3の偏倚振幅Bおよび走査速度に応じて偏倚振幅Aが設定される(したがって、都合のよいことに、軌跡tの一部を遮光せずに済ませることができる)。
【0056】
図7は、走査軌跡tが、例えばx方向からy方向への処理線s、sの方向の変化にどのように適合させられるのかの例を示している。図7に模式的に示されているように、高速スキャナシステム5が、処理線s,sの方向に応じて、走査軸51を中心とするy方向の偏倚bの偏倚振幅Bおよび走査軸52を中心とするx方向の偏倚aの偏倚振幅Aを設定するように、例えば、低速スキャナシステム3による処理がx方向の処理線sに沿って行われている間、高速スキャナシステム5の偏倚振幅Bが所定の走査幅Eに設定され、高速スキャナシステム5の偏倚振幅Aがゼロに設定され、逆に低速スキャナシステム3による処理がy方向の処理線sに沿って行われている間、高速スキャナシステム5の偏倚振幅Aが所定の走査幅Eに設定され、偏倚振幅Bがゼロに設定されるように、制御モジュール7または回転モジュールは高速スキャナシステム5を制御するように構成されている。x方向の処理からy方向の処理に移行する遷移領域Uでは、例えば、高速スキャナシステム5の偏倚aの偏倚振幅Aは、連続的に増加させられ、偏倚bの偏倚振幅Bは、連続的に減少させられる。
【0057】
図5〜7において、いずれの場合も、円は、パルス状のレーザビーム(処理ビームL5)またはフェムト秒レーザパルスの、焦点Qでの焦点の中心点を模式的に表している。図5,6,7,8a,8bに示されている走査軌跡tでは、レーザパルスの分布が特定の領域で不均一になっている。その対策として、変形実施形態および/または用途によっては、レーザビームまたはレーザパルスは、フィルタモジュール4によって、例えばシャッタまたは絞り41によって遮光され、その結果として、走査軌跡tの、選択的に定められた領域が選択される。図5の例では、例として、任意構成として、連続するレーザパルスが比較的密集している振動のピーク部が、領域R1において、フィルタモジュール4によって、好ましくは視野絞りによって遮光されている。図6の例では、走査軌跡tの立ち下がり枝部だけが選択的に処理に使用されるように、領域R2における走査軌跡tの各立ち上がりエッジが、いずれの場合も遮光されている。この場合、例として、振動のピーク部も切り取られている。領域R2は、レーザの所に配置され、ビーム源6の下流側に配置され、領域R2を遮光するときは閉じられ、そうでなければ開いているシャッタによって遮光することが好ましい。さらに別の変形実施形態では、枝部またはエッジ内にパルスの分離を整合させるように、制御モジュール7によって、走査軌跡tにおける位置に応じてパルス周波数を適合させ(例えばパルスピッカーによって)、または、高速スキャナシステム5の偏倚振幅A,Bを動的に変化させている。結果として生じる、走査移動fの偏倚振幅Fにおける動的な増大(拡張)または減少(圧縮)のために、走査移動fまたは走査軌跡t上の連続する個々のフェムト秒レーザパルス間の距離を、簡素なやり方で、sとは独立して、拡大し、または短縮することができ、それによって、遮光されない走査幅E内のレーザパルスの数を、可変に制御することができる。
【0058】
図8aおよび図8bは、高速スキャナシステム5の丸い走査曲線fを低速スキャナシステム3の丸い処理線sに重ね合わせることによって生じさせられるサイクロイド走査軌跡tの例を示している。図8aおよび図8bに模式的に示すように、制御モジュール7または高速スキャナ制御部は、投射平面Pxy上のレーザパルスが、丸い、例えば、円形または楕円形の走査曲線f上に偏向されるように、高速スキャナシステム5を制御するように構成され、制御モジュール7または低速スキャナ制御部は、高速スキャナシステム5によって偏向されたフェムト秒レーザパルスL2またはフィルタモジュール4によって遮光されなかったフェムト秒レーザパルスL3が、丸い処理線s、例えば円形または楕円形の処理線s上に偏向されまたは重ね合わされるように、低速スキャナシステム3を制御するように構成される。図8aおよび図8bから分かるように、結果として得られる両サイクロイド走査軌跡tは、重ね合わせ後の走査曲線fが逆方向の回転を有するという点で異なっている。
【0059】
サイクロイド走査軌跡tが特に最適な構成となるのは、レーザパルスのスポットの直径より大きくすることができる相互作用ゾーンの大きさの結果である(キャビテーション気泡)。用途によっては、走査軌跡tが重ね合わされれば、極めて好都合である。例として、サイクロイドのループは、隣接するサイクロイド間の間隙内に位置させることができる。この後者の変形例は、低速スキャナシステム3との連携を少ししかまたは全くさせなくても実現できるため、制御技術が簡単であるという利点を有している。
【0060】
最後に、上記の説明では、コンピュータプログラムコードを特定の機能モジュールに割り当てていたが、保護される主題から逸脱することなく、コンピュータプログラムコードを種々の構造的形態に変更できることが、当業者には理解でできるということを述べておきたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェムト秒レーザパルスによって眼組織(8)を処理するための眼科用装置(1)であって、
前記フェムト秒レーザパルスを前記眼組織(8)に集光して投射するための投射光学ユニット(2)と、
前記投射光学ユニット(2)の上流側に配置され、処理線(s)に沿って前記フェムト秒レーザパルスによって前記眼組織(8)を走査するための第1のビーム偏向スキャナシステム(3)と、
前記第1のスキャナシステム(3)の上流側に配置され、前記フェムト秒レーザパルスによって、前記処理線(s)に重ね合わされた走査曲線(f)上で、前記第1のスキャナシステム(3)の走査速度の倍数の走査速度で前記眼組織(8)を走査するための第2のビーム偏向スキャナシステム(5)であって、少なくとも1つの偏向ミラーと、第1の走査軸(51)と、第2の走査軸(52)と、を備える第2のビーム偏向スキャナシステム(5)と、
前記走査曲線(f)の所定の曲線形状、所定の曲線振幅、および所定の曲線の向きのうちの少なくとも1つに従って、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記フェムト秒レーザパルスの偏向(A),(b)および前記第2の走査軸(52)を中心とする前記フェムト秒レーザパルスの偏向を制御するための制御モジュール(8)と、
を備えている眼科用装置(1)。
【請求項2】
前記制御モジュール(8)は、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)の偏倚振幅(B)と前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の偏倚振幅(A)を、連携させて制御することによって、前記走査曲線(f)の前記曲線の向きを決めるように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
前記制御モジュール(8)は、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)の偏倚振幅(B)、前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の偏倚振幅(A)、および前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)と前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の相対的な位相を、連携させて制御することによって、前記走査曲線(f)の前記曲線の向きを決めるように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項4】
前記制御モジュール(8)は、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)の偏倚振幅(B)と前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の偏倚振幅(A)を、連携させて制御することによって、前記走査曲線(f)の前記曲線振幅(F)を決めるように構成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項5】
前記制御モジュール(8)は、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)と前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の相対的な位相を制御することによって、前記走査曲線(f)の前記曲線形状を決めるように構成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項6】
前記制御モジュール(8)は、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)の偏倚振幅(B)と前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の偏倚振幅(A)を、連携させて制御することによって、前記走査曲線(f)の前記曲線形状を決めるように構成されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項7】
前記制御モジュール(8)は、前記第1の走査軸(51)を中心とする偏向周波数(ω)と前記第2の走査軸(52)を中心とする偏向周波数(ω)を、連携させて制御することによって、前記走査曲線(f)の前記曲線形状を決めるように構成されていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項8】
前記制御モジュール(8)は、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)の偏倚振幅(B)、前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の偏倚振幅(A)、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)と前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の相対的な位相、前記第1の走査軸(51)を中心とする偏向周波数(ω)、および前記第2の走査軸(52)を中心とする偏向周波数(ω)のうちの少なくとも1つを制御することによって、前記走査曲線(f)の、フーリエ合成によって規定可能な曲線形状を決めるように構成されていることを特徴とする、請求項5から7のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項9】
前記制御モジュール(8)は、前記処理線(s)に応じて、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)の偏倚振幅(B)、前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の偏倚振幅(A)、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)と前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の相対的な位相、前記第1の走査軸(51)を中心とする偏向周波数(ω)、および前記第2の走査軸(52)を中心とする偏向周波数(ω)のうちの少なくとも1つを制御するように構成されていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項10】
前記制御モジュール(8)は、前記処理線(s,s)の方向が変わった場合に、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)の前記偏倚振幅(B)を小さくするとともに、前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)の前記偏倚振幅(A)を大きくするように構成されていることを特徴とする、請求項1から9のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項11】
前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(b)が前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)に対して2倍の偏向周波数(ω)で行われ、前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)によって、前記第1のスキャナシステム(3)によって前記処理線(s)の方向に生じさせられる前記偏向が少なくとも部分的に補償されるように、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記偏向(b)および前記第2の走査軸(52)を中心とする前記偏向(a)を制御するように、前記制御モジュール(8)が構成されていることを特徴とする、請求項1から10のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項12】
前記第1のスキャナシステム(3)と前記第2のスキャナシステム(5)との間に配置され、前記第2のスキャナシステム(5)によって所定の走査幅の外側の領域(R1)へと偏向されたフェムト秒レーザパルスを遮光する働きをする絞り(41)を特徴とする、請求項1から11のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項13】
前記走査曲線(f)の所定の領域(R1、R2)でフェムト秒レーザパルスを選択的に排除するための、制御可能なフィルタモジュール(4)を特徴とする、請求項1から12のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項14】
前記第2のスキャナシステム(5)の第1の走査軸(51)と前記第2の走査軸(52)は、相互に直交するように向けられており、前記第2のスキャナシステム(5)は、前記第1の走査軸(51)を中心として、および前記第2の走査軸(52)を中心として、振動するように前記フェムト秒レーザパルスを偏向するように構成されており、前記第1のスキャナシステム(3)は、前記第2のスキャナシステム(5)に比べて偏倚が著しく大きいことを特徴とする、請求項1から13のいずれか1つに記載の装置(1)。
【請求項15】
前記走査曲線(f)が丸い曲線形状を有するように、前記第1の走査軸(51)を中心とする前記フェムト秒レーザパルスの前記偏向および前記第2の走査軸(52)を中心とする前記フェムト秒レーザパルスの前記偏向を制御するように、前記制御モジュール(8)が構成されており、結果として得られる所定の軌跡形状を有する走査軌跡(t)が前記走査曲線(f)の前記処理線(s)への重ね合わせから生じさせられるように、前記第1のスキャナシステム(3)の前記走査速度を制御するように、前記制御モジュール(8)が構成されていることを特徴とする、請求項1から14のいずれか1つに記載の装置(1)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8a】
image rotate

【図8b】
image rotate


【公開番号】特開2012−37883(P2012−37883A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−165506(P2011−165506)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(506198573)エスイーエー アクチェンゲゼルシャフト サージカル インストルメント エンジニアリング (4)
【氏名又は名称原語表記】SIE AG Surgical Instrument Engineering
【Fターム(参考)】