説明

フェライトコア

【課題】連続的に励磁するような環境にあっても、コア温度が上昇するのを十分に抑制でき且つ飽和磁束密度が十分に高いフェライトコアを提供すること。
【解決手段】本発明に係るフェライトコアは、それぞれ酸化物に換算したとき、51.0〜54.0モル%のFe、34.5〜40.0モル%のMnO、及び、9.0〜11.5モル%のZnOからなる主成分と、所定量のCo、Ti、Si及びCaを含む副成分とを含有しており、Feの含有率をAモル%とし、ZnOの含有率をBモル%としたとき、比率A/Bの値が4.5〜6.0であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe、Mn及びZnを含む主成分と、Co、Ti、Si及びCaを含む副成分とを含有する焼結体からなるフェライトコアに関する。
【背景技術】
【0002】
電源用トランスなどの磁心材料として、フェライト焼結体が使用されている。コア(磁心)を形成するフェライト焼結体は、フェライトコアと呼ばれ、Mn及びZnを含有するMnZn系フェライトが広く使用されている。機器の使用時における発熱量を低減する観点から、フェライトコアは、電力損失(コアロス)の値が広い温度範囲にわたって小さいことが求められる(下記特許文献1参照)。
【0003】
近年、電子機器や電源の小型化に対応するため、大きな部品容積を占めるコアの小型化、薄型化が強く望まれている。また、電子機器においては、部品の高密度化も進展している。かかる状況下、発熱による温度上昇が大きくなる傾向にあり、これに伴い、フェライトコアの温度も高くなる傾向にある。例えば、特許文献2には、高温条件下における使用に好適なフェライト焼結体及びその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−119892号公報
【特許文献2】特開2009−227554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、磁心材料が高温条件下における使用に適したものであるか否かについて、磁心材料の「ボトム温度」を測定して評価を行っていた。このボトム温度は、電力損失が極小値を示す温度を意味する。特許文献1,2においても動作温度と電力損失の関係から磁心材料の温度特性を評価し、その適否を評価している。
【0006】
従来、電子機器や電源などの動作温度がボトム温度よりも低ければ、使用時にコアの温度が徐々に上昇したとしても、発熱量が徐々に小さくなるため、熱暴走の発生を十分に防止できるものと考えられていた。しかし、本発明者らは、コアが実装された機器を連続的に運転した場合を想定し、連続的に励磁してコアの温度変化を測定したところ、動作温度がボトム温度よりも低い場合でもコアの温度が上昇を続ける場合があることを見出した。
【0007】
上記のボトム温度による評価と、連続運転時におけるコアの温度測定の結果との乖離は、ボトム温度の測定方法に起因すると本発明者らは推察する。すなわち、ボトム温度は、コアを所定の温度とした後、瞬間的に又はごく短時間(5秒程度)励磁してコアの電力損失を測定し、設定温度を変更しながら当該測定を繰り返し行うことによって求められる値である。つまり、ボトム温度が連続的に励磁して測定される値ではないことが上記乖離の主因と推察される。
【0008】
ボトム温度が比較的高く、ボトム温度における電力損失が十分に小さい磁心材料は、励磁開始時における初期特性(静特性)が良好であるといえるが、かかる材料の中には連続的な励磁によってコア温度が上昇するものがある。
【0009】
そこで、本発明は、連続的に励磁するような環境にあっても、コア温度が上昇するのを十分に抑制でき且つ飽和磁束密度が十分に高いフェライトコアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、連続的に励磁した場合でもコア温度の上昇を十分に抑制でき且つ飽和磁束密度が十分に高いフェライト焼結体の組成について鋭意検討したところ、FeとZnの比率を適正な範囲内としたフェライト焼結体がコアとして有用であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明に係るフェライトコアは、それぞれ酸化物に換算したとき、51.0〜54.0モル%のFe、34.5〜40.0モル%のMnO、及び、9.0〜11.5モル%のZnOからなる主成分と、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、以下の(1)〜(4)に示す量のCo、Ti、Si及びCaを含む副成分とを含有し、Feの含有率をAモル%とし、ZnOの含有率をBモル%とすると比率A/Bの値が4.5〜6.0である。
(1)CoOに換算すると1200×10−6〜5000×10−6質量部に相等する量のCo、
(2)TiOに換算すると1200×10−6〜6000×10−6質量部に相等する量のTi、
(3)SiOに換算すると50×10−6〜150×10−6質量部に相等する量のSi、
(4)CaCOに換算すると500×10−6〜1500×10−6質量部に相等する量のCa。
【0012】
上記フェライトコアは、温度上昇をより一層抑制する観点から、Moの含有量が上記主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、MoO換算で50×10−6質量部未満であることが好ましい。また、上記フェライトコアは、副成分が主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、以下の(5),(6)に示す量のNb及び/又はVを更に含むことが好ましい。
(5)Nbに換算すると100×10−6〜400×10−6質量部に相等する量のNb、
(6)Vに換算すると50×10−6〜400×10−6質量部に相等する量のV。
【0013】
フェライトコアが、副成分として上記(5),(6)に示す量のNb及び/又はVを含むものであると、フェライトコアの粒界が高抵抗化して、電力損失を一層低減できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、連続的に励磁するような環境にあっても、コア温度が上昇するのを十分に抑制でき且つ飽和磁束密度が十分に高いフェライトコアが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るフェライトコアの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】本焼成工程における温度設定の一例を示すグラフである。
【図3】Feの含有率とZnOの含有率の比(A/B)とコアの上昇温度(ΔT)の関係を示すグラフである。
【図4】Feの含有率とZnOの含有率の比(A/B)と飽和磁束密度の関係を示すグラフである。
【図5】Feの含有率とZnOの含有率の比(A/B)とボトム温度における電力損失の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本実施形態に係るフェライトコア(磁心)を示す斜視図である。図1に示すように、E字型のフェライトコア10は、E型コアなどと呼ばれ、トランスなどに使用される。フェライトコア10のようなE型コアが採用されたトランスとしては、内部に2つのE型コアが対向配置されたものが知られている。
【0018】
<フェライトコア>
フェライトコア10はフェライト焼結体で構成され、Fe、Mn及びZnを含む主成分と、Co、Ti、Si及びCaを含む副成分とを含有する。フェライトコアの主成分は、それぞれ酸化物に換算したとき、51.0〜54.0モル%のFe、34.5〜40.0モル%のMnO、及び、9.0〜11.5モル%のZnOからなる。フェライト焼結体の副成分は、主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、以下の(1)〜(4)に示す量のCo、Ti、Si及びCaを含有する。
(1)CoOに換算すると1200×10−6〜5000×10−6質量部に相等する量のCo、
(2)TiOに換算すると1200×10−6〜6000×10−6質量部に相等する量のTi、
(3)SiOに換算すると50×10−6〜150×10−6質量部に相等する量のSi、
(4)CaCOに換算すると500×10−6〜1500×10−6質量部に相等する量のCa。
【0019】
フェライトコア10をなすフェライト焼結体は、Feの含有率をAモル%とし、ZnOの含有率をBモル%とすると、比率A/Bの値が4.5〜6.0である。A/Bの値が4.5未満であると、飽和磁束密度が低くなり、6.0を超えると、コアの上昇温度が高くなる。かかる観点から、A/Bの値は好ましくは4.5〜5.9であり、より好ましくは4.5〜5.8である。フェライトコア10は、高温条件下(100〜150℃程度)における高い信頼性を有するため、動作温度が高温となりやすい小型化機器又は部品が高密度に実装された機器にも好適に用いることができる。
【0020】
フェライトコア10をなすフェライト焼結体を上記のような組成とした理由は以下の通りである。
【0021】
(主成分)
フェライト焼結体のFeの含有率が51.0モル%未満であると、飽和磁束密度が低くなる。他方、Feの含有率が54.0モル%を超えると、高温条件下で使用した場合に性能の経時劣化が顕著となる。Feの含有率は、51.5〜53.5モル%であることがより好ましい。
【0022】
フェライト焼結体のZnOの含有率が9.0モル%未満であると、コアの上昇温度が高くなる。他方、ZnOの含有率が11.5モル%を超えると、飽和磁束密度が低くなる。ZnOの含有率は、9.0〜11.0モル%であることがより好ましい。
【0023】
フェライト焼結体のMnOの含有率は、他の主成分であるFe及びZnOの含有率を定めると、主成分のうちの残部として定まるものである。
【0024】
(副成分)
機器の熱暴走を一層確実に防止するためには、連続的に励磁して長期にわたって運転しても電力損失が著しく増大することなく、なるべく低い電力損失を維持することが望ましい。Coは、磁気異方性定数K1が比較的大きな正の値であるため、適量のCoを含有せしめることで、高温条件下における電力損失の温度変化率を十分に抑制できるという効果が奏される。
【0025】
フェライト焼結体のCoの含有量(CoO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、1200×10−6質量部未満であると、高温条件下における電力損失の増大が顕著となる。他方、Coの含有量(CoO換算)が5000×10−6質量部を超えると、高温条件下における電力損失の温度変化率は抑制されるものの、電力損失の低減が不十分となる。Coの含有量(CoO換算)は、1500×10−6質量部より多く且つ4500×10−6質量部未満であることが好ましく、1800×10−6〜4000×10−6質量部であることがより好ましい。
【0026】
Coを含有するフェライト焼結体に、適量のTiを含有せしめることで、電力損失の増大を招来することなく、高温条件下での使用による性能の経時劣化を抑制できるという効果が奏される。フェライト焼結体のTiの含有量(TiO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、1200×10−6質量部未満であると、高温条件下で使用した場合に性能の経時劣化が顕著となる。他方、Tiの含有量(TiO換算)が6000×10−6質量部を超えると、飽和磁束密度が低下する。Tiの含有量(TiO換算)は、1500×10−6質量部より多く且つ5000×10−6質量部未満であることが好ましく、1500×10−6〜4000×10−6質量部であることがより好ましい。
【0027】
Siは、フェライト焼結体の焼結性を高める作用を有するとともに、粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のSiを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。フェライト焼結体のSiの含有量(SiO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、50×10−6質量部未満であると、フェライト焼結体における高抵抗層の形成が不十分となり、電力損失の低減が不十分となる。他方、Siの含有量(SiO換算)が150×10−6質量部を超えると、異常な粒成長を招来し、電力損失の低減が不十分となる。Siの含有量(SiO換算)は、60×10−6〜130×10−6質量部であることが好ましい。
【0028】
Caは、上述のSiと同様、フェライト焼結体の焼結性を高める作用を有するとともに、粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のCaを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。フェライト焼結体のCaの含有量(CaCO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、500×10−6質量部未満であると、フェライト焼結体における高抵抗層の形成が不十分となり、電力損失の低減が不十分となる。他方、Caの含有量(CaCO換算)が1500×10−6質量部を超えると、異常な粒成長を招来し、電力損失の低減が不十分となる。Caの含有量(CaCO換算)は、600×10−6〜1300×10−6質量部であることが好ましい。
【0029】
本実施形態に係るフェライト焼結体は、副成分が主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、以下の(5),(6)に示す量のNb及び/又はVを更に含むことが好ましい。
(5)Nbに換算すると100×10−6〜400×10−6質量部に相等する量のNb、
(6)Vに換算すると50×10−6〜400×10−6質量部に相等する量のV。
【0030】
Nbは、フェライト焼結体の粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のNbを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。フェライト焼結体のNbの含有量(Nb換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、100×10−6質量部未満であると、粒界の高抵抗化が不十分となりやすく、電力損失の低減が不十分となる傾向がある。他方、Nbの含有量(Nb換算)が400×10−6質量部を超えると、結晶組織の不均一性を助長する傾向がある。Nbの含有量(Nb換算)は、150×10−6〜400×10−6質量部であることが好ましい。
【0031】
Vは、上述のNbと同様、フェライト焼結体の粒界の高抵抗化に寄与するため、適量のVを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。フェライト焼結体のVの含有量(V換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、50×10−6質量部未満であると、粒界の高抵抗化が不十分となりやすく、電力損失の低減が不十分となる傾向がある。他方、Vの含有量(V換算)が400×10−6質量部を超えると、結晶組織の不均一性を助長する傾向がある。Vの含有量(V換算)は、50×10−6〜300×10−6質量部であることが好ましい。
【0032】
フェライト焼結体に、Nb及びVの両方を含有せしめる場合は、Nb及びVの分子量に基づき、Nb及びVの合計含有量を適宜調整すればよい。
【0033】
本実施形態に係るフェライト焼結体は、副成分が主成分の上記酸化物の合計質量1質量部に対し、Moを以下の(7)に示す量とすることが好ましい。
(7)MoOに換算すると50×10−6質量部未満に相等する量のMo。
【0034】
Moは、フェライトの異常粒成長を抑制するため、適量のMoを含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。ただし、フェライト焼結体のMoの含有量(MoO換算)が、主成分の酸化物の合計質量1質量部に対し、50×10−6質量部以上であると、コアの上昇温度が増大する傾向がある。Moの含有量(MoO換算)は、40×10−6質量部未満であることが好ましく、20×10−6未満であることがより好ましい。
【0035】
本実施形態に係るフェライト焼結体は、上記以外の成分を更に含有するものであってもよい。例えば、Ta(Ta)、Zr(ZrO)及びHf(HfO)は、上述のNb,Vと同様、フェライト焼結体の粒界の高抵抗化に寄与するため、これらを適量含有せしめることで、電力損失の低減化が図られる。
【0036】
<フェライトコアの製造方法>
次に、フェライトコア10の製造方法について説明する。
【0037】
はじめに、主成分をなす酸化鉄α−Fe、酸化マンガンMn及び酸化亜鉛ZnOを用意し、これら酸化物を混合して混合物を得る。このとき、Feの含有率Aが51.0〜54.0モル%であり且つZnOの含有率Bが9.0〜11.5モル%であるとともに、A/B(モル比)が4.5〜6.0となるように原料を混合し、残部を主としてMnで構成する。このとき、最終的に得られる混合物中の各酸化物成分の構成比が上記酸化物に換算して上記範囲内となるように上記酸化物とともに他の化合物を混合してもよい。
【0038】
次いで、上記主成分の混合物を仮焼成して仮焼成物を得る(仮焼工程)。仮焼は通常は空気中で行えばよい。仮焼温度は混合物を構成する成分に依存するが、800〜1100℃とすることが好ましい。また、仮焼時間は、混合物を構成する成分に依存するが、1〜3時間とすることが好ましい。その後、得られた仮焼成物をボールミル等により粉砕して粉砕粉を得る。
【0039】
他方、副成分をなす酸化コバルトCoO、酸化チタンTiO、酸化ケイ素SiO、炭酸カルシウムCaCOを用意し、所定量の上記副成分を混合して混合物を得る。上述の主成分原料の仮焼成物を粉砕する際、副成分原料の上記混合物を添加し、両者を混合する。これにより、本焼成用の原料混合粉を得る(混合工程)。ここで、上記成分以外の副成分(Nb,V,Ta,ZrO,HfOなど)を適宜添加してもよい。なお、最終的に得られる混合物中の各副成分の含有量が上記範囲内となるように上記化合物の代わりに他の化合物を用いてもよい。また、例えば、CoOの代わりにCoやCaCOの代わりにCaOを使用してもよい。
【0040】
続いて、上記のようにして得られる原料混合粉と、ポリビニルアルコール等の適当なバインダとを混合し、フェライトコア10と同形状、即ちE字型に成型して成型体を得る。
【0041】
次に、成型体を加熱炉内において焼成する(本焼成工程)。図2は、本焼成工程における温度設定の一例を示すグラフである。図2に示すように、本焼成工程は、加熱炉内の成型体を徐々に加熱する昇温工程S1と、温度を1250〜1350℃に保持する温度保持工程S2と、保持温度から徐々に降温する徐冷工程S3と、徐冷工程S3の終了後に急冷する急冷工程S4とを少なくとも有する。
【0042】
昇温工程S1は、加熱炉内の温度を後述の保持温度にまで昇温する工程である。昇温速度は、10〜300℃/時間とすることが好ましい。
【0043】
昇温工程S1によって所定の温度(1250〜1350℃)に到達すると、この温度に維持する温度保持工程S2を行う。温度保持工程S2における保持温度が1250℃未満であると、フェライト焼結体の粒成長が不十分となり、ヒステリシス損失が増大するため、電力損失の低減が不十分となる。他方、保持温度が1350℃を超えると、フェライト焼結体の粒成長が過剰となり、渦電流損失が増大するため、電力損失の低減が不十分となる。保持温度を1250〜1350℃とすることで、ヒステリシス損失と渦電流損失とのバランスがとれ、高温領域における電力損失を十分に低減できる。
【0044】
上述の保持温度で焼成を行う時間(保持時間)は、2時間30分以上であることが好ましい。保持時間が2時間30分未満であると、温度1250〜1350℃で焼成を行った場合でも粒成長が不十分となり、電力損失の低減が不十分となりやすい。保持時間は粉砕粉を構成する原料に依存するが、3〜10時間とすることがより好ましい。
【0045】
温度保持工程S2の終了後、徐冷工程S3を行う。徐冷工程S3における徐冷速度は、150℃/時間以下であることが好ましい。徐冷速度が150℃/時間を超えると、フェライト焼結体の粒内の残留応力が大きくなりやすく、これにより電力損失の低減が不十分となる傾向がある。なお、上記徐冷速度は、徐冷帯域での平均値を意味するものであり、これを超える速度で温度が低下する部分があってもよい。
【0046】
徐冷工程S3において保持温度から降温するに際し、加熱炉内の酸素濃度を制御し、連続的又は段階的に下げる操作を行う(酸素濃度調整工程)。このような操作を行うことで、温度1200℃における酸素濃度を0.2〜2.0体積%とし且つ温度1100℃における酸素濃度を0.020〜0.60体積%とすることが好ましい。
【0047】
徐冷工程S3を終了し、急冷工程S4を開始する温度(徐冷終了温度)は、950〜1150℃であることが好ましい。徐冷終了温度が1150℃よりも高いと、フェライト焼結体の粒界の形成が不十分になりやすく、これにより電力損失の低減が不十分となる傾向がある。他方、徐冷終了温度が950℃よりも低いと、フェライト焼結体の粒界に異相が生じやすく、これにより電力損失の低減が不十分となる傾向がある。
【0048】
徐冷工程S3の終了後、急冷工程S4を行う。少なくとも徐冷終了温度から800℃に到達するまで温度範囲については、降温速度を150℃/時間以上とすることが好ましい。当該温度領域における降温速度が150℃/時間未満であると、フェライト焼結体の粒界に異相が生じやすく、これにより電力損失の低減が不十分となる傾向がある。徐冷工程S3の終了後は、フェライトの酸化を防止する観点から、加熱炉内を窒素雰囲気(酸素濃度0.03体積%以下)とすることが好ましい。
【0049】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記フェライトコア10の製造方法においては、フェライトコア10を所定形状(E字型)とするために、本焼成の前に粉砕粉とバインダとの混合物を成型しているが、粉砕粉を本焼成した後、加工することによって所定形状のフェライトコアを製造してもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、主成分原料を仮焼して得られた仮焼成物を粉砕する際、副成分原料を添加することで本焼成用の混合粉を調製する場合を例示したが、当該混合粉は次のようにして調製してもよい。例えば、仮焼前の主成分原料と副成分原料とを混合して得られた混合物を仮焼した後、仮焼成物を粉砕することによって本焼成用の混合粉を得てもよい。あるいは、仮焼前の主成分原料と副成分原料とを混合して得られた混合粉を仮焼した後、仮焼成物を粉砕する際、更に副成分原料などを添加することによって本焼成用の混合粉を得てもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、E字形状のフェライトコア10を例示したが、フェライトコアの形状は、これに限定されるものではない。フェライトコアの形状は、そのフェライトコアが内蔵される機器の形状や用途に応じて決定することができる。
【実施例】
【0052】
(試料1〜33の調製)
各成分原料を最終的に表1,2に示した組成になるように秤量し、ボールミルを用いて湿式混合した。原料混合物を乾燥させた後、空気中において、900℃程度の温度で仮焼した。得られた仮焼粉をボールミルに投入し、所望の粒子径となるまで湿式粉砕を3時間行った。
【0053】
こうして得られた粉砕粉を乾燥し、粉砕粉100質量部に対してポリビニルアルコールを0.8質量部加えて造粒した後、得られた混合物を約150MPaの圧力で加圧成型し、トロイダル状成型体及びE字型成型体を得た。成型体を表3に示す条件で本焼成を行い、寸法が外径20mm、内径10mm、高さ5mmのトロイダル状及び複数のE字型フェライトコアを得た。E字型フェライトコアの中脚及び外脚の上面部を、面精度を向上させるために研磨加工した。
【0054】
(コア温度)
試料1〜33からそれぞれ製造した2個のE字型のフェライトコアを対向配置して閉磁路を形成した。フェライトコアの初期温度を100℃とし、その後、磁束密度230mT、周波数100kHzの条件で連続的に励磁してコア温度が安定したところで、熱電対でコア温度を測定した。これにより、コアの上昇温度(ΔT)を測定した。
【0055】
(電力損失)
トロイダル状のフェライトコアの電力損失を次のようにして測定した。すなわち、岩通計測製B−Hアナライザにて磁束密度200mT、周波数100kHzの条件で温度25〜150℃の範囲の電力損失を測定した。温度範囲25〜150℃において電力損失の測定値が極小値を示す温度(ボトム温度)を求めた。また、ボトム温度における電力損失の値(電力損失の極小値)を求めた。
【0056】
(飽和磁束密度)
トロイダル状のフェライトコアの150℃における飽和磁束密度を、メトロン技研製B−Hカーブトレーサーにて1200A/mの磁界を印加して測定した。
【0057】
(電力損失変化率)
電力損失の測定を行った後の各フェライトコアを温度200℃に設定された恒温槽内に56時間にわたって貯蔵した。その後、上記と同様の方法によって、各フェライトコアの電力損失の測定を再度行った。上記の貯蔵処理を行う前後の同一温度における電力損失の測定値を下記式に代入し、各温度の電力損失の変化率を算出した。温度25〜150℃の範囲で電力損失の変化率の最大値を電力損失変化率と定義した。
【数1】

【0058】
表1,2及び図3〜5に測定結果を示す。図3,4に示すとおり、実施例に係るフェライトコアはコア温度の上昇が十分に抑えられているとともに飽和磁束密度が十分に高い。なお、図5に示すとおり、Feの含有率とZnOの含有率の比(A/B)と電力損失の間には特段の相関は認められない。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【符号の説明】
【0062】
10…フェライトコア(磁心)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ酸化物に換算したとき、51.0〜54.0モル%のFe、34.5〜40.0モル%のMnO、及び、9.0〜11.5モル%のZnOからなる主成分と、
前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、CoOに換算すると1200×10−6〜5000×10−6質量部のCo、TiOに換算すると1200×10−6〜6000×10−6質量部のTi、SiOに換算すると50×10−6〜150×10−6質量部のSi、及び、CaCOに換算すると500×10−6〜1500×10−6質量部のCaを含む副成分と、
を含有し、
Feの含有率をAモル%とし、ZnOの含有率をBモル%とすると、比率A/Bの値が4.5〜6.0であるフェライトコア。
【請求項2】
Moの含有量は、前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、MoO換算で50×10−6質量部未満である、請求項1に記載のフェライトコア。
【請求項3】
前記副成分は、前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、Nbに換算で100×10−6〜400×10−6質量部のNbを更に含む、請求項1又は2に記載のフェライトコア。
【請求項4】
前記副成分は、前記主成分の前記酸化物の合計質量1質量部に対し、Vに換算すると50×10−6〜400×10−6質量部のVを更に含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のフェライトコア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−116700(P2012−116700A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267377(P2010−267377)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】