説明

フェライトバルーン−高分子複合凝集剤、その製造方法及び凝集沈降方法

【課題】従来の凝集処理剤や凝集沈降方法は、いずれも処理の簡便性や安定性において、必ずしも十分な性能を有しているとはいえず、改善が求められていた。
【解決手段】フェライトバルーン表面を加水分解性ケイ素基又はグリシジル基含有不飽和化合物で処理した後、高分子凝集剤をグラフト重合することにより得られたものであることを特徴とするフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業廃棄物等の処理の過程で発生する排水や汚濁水に添加することにより、排水や汚濁水中に含まれる汚染物質、汚濁物等を短時間に効果的に凝集沈降させて水質を浄化させる凝集剤、その製造方法及び凝集沈降方法に関するものである。
【0002】
具体的には、フェライトバルーン表面を加水分解性ケイ素基又はグリシジル基含有不飽和化合物で処理した後、高分子凝集剤モノマーをグラフト重合することにより得られたものであることを特徴とするフェライトバルーン−高分子複合凝集剤及びその製造方法に関するものであり、さらに、このフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を用いた凝集沈降方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
近年、有機系凝集剤又は無機系凝集剤のいずれにおいても、凝集力の向上だけではなく、凝集によって生じたフロックと水分との分離効率の向上が図られてきている。これは、フロックと水分との分離が不十分な場合、その後の脱水工程で汚泥を濃縮し、さらに脱水して汚濁成分を脱水ケーキとして回収することが必要となり、処理にコストと手間が係ることを避けるためである。
【0004】
このような分離効率を向上させる方法としては、無機系の凝集剤に比重増加剤として磁性材料粉末を使用する方法(特許文献1)、カチオン性高分子液体凝集剤とフェライト粉末とを混合した凝集沈降剤を使用する方法(特許文献2)、さらに、軟磁性材粉末を無機系の凝集剤又は高分子系の凝集剤と混合することにより軟磁性材粉末の表面特性を改質した沈降剤を使用する方法(特許文献3)、微粉末凝集剤にFe等の磁性体微粉末を混入した磁性体凝集剤を使用する方法(特許文献4)などが提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1の方法では、磁性材料粉末であるフェライトを含む無機系凝集剤はその凝集能力が低く、適応範囲が限られており、その適用範囲の拡大には凝集能力の向上が問題点として残されている。
また、特許文献2の方法は、カチオン性高分子液体凝集剤とフェライト粉末とを混合した凝集沈降剤を物理混合して利用するものであるが、単に高分子液体凝集剤とフェライト粉末との混合物であるため、沈降分離効果や高分子凝集剤の効率的な活用にも問題点を有していた。
【0006】
特許文献3の方法では、軟磁性材粉末を無機系の凝集剤又は高分子系の凝集剤と混合し、無機表面の改質を行なっているが、該文献で採用されている方法は単なる混合であるため、特許文献2と同様な問題点を抱えていた。
また、特許文献4の方法は、微粉末凝集剤にFe等の磁性体微粉末を混入した磁性体凝集剤を凝集剤として利用し、さらに、微粉末化する手法でその表面積を大きくしている。
しかし、該文献の方法も凝集剤と磁性微粉末とを単に混合するものであり、上記特許文献2〜3と同様な問題点を有しており、その表面積の増大についても未だ十分なものではなかった。
【0007】
さらに、上記のいずれの方法においても、磁性材料粉末等と排水中の汚濁物質との結合性が悪い場合は、別に有機又は無機の凝集剤を注入することが必要となる。ところが、この凝集剤の注入操作が複雑であると同時に、凝集を効率よく進めるための条件設定が難しく、安定した処理操作を行うには種々の困難があった。また、汚染物質である重金属類の
除去についても十分なものではなかった。
以上のとおり、これらの特許文献に記載された凝集処理剤や凝集沈降方法は、いずれも処理の簡便性や安定性において、必ずしも十分な性能を有しているとはいえず、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−095880号公報
【特許文献2】特開2004−154684号公報
【特許文献3】特開平07−008968号公報
【特許文献4】特開平10−165712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明は、優れた凝集沈降作用を有する新規なフェライトバルーン−高分子複合凝集剤及びその製造方法を提供すると同時に、該複合凝集剤を用いた短時間で効果的に作用する凝集沈降方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、上記課題を解決するために、次の構成1〜8を採用する。
1.フェライトバルーン表面を加水分解性ケイ素基又はグリシジル基含有不飽和化合物で処理した後、高分子凝集剤をグラフト重合することにより得られたものであることを特徴とするフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。
【0011】
2.上記加水分解性ケイ素基含有又はグリシジル基不飽和化合物がトリアルコキシシリル基含有アルキル(メタ)アクリレートであることを特徴とする上記1に記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。
【0012】
3.上記加水分解性ケイ素基含有又はグリシジル基不飽和化合物がグリシジル(メタ)アクリレートであることを特徴とする上記1に記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。
【0013】
4.上記高分子凝集剤がポリアクリルアミド誘導体、ポリアクリル酸及びアミノ基含有(メタ)アクリレート重合体から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。
【0014】
5.上記ポリアクリルアミド誘導体がポリアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であり、上記アミノ基含有(メタ)アクリレート重合体がメチルジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート重合体であることを特徴とする上記4に記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。
【0015】
6.フェライトバルーンを溶媒中に分散し、該溶媒中で酸又はアミンで処理した後、加水分解性ケイ素基又はグリシジル基含有不飽和化合物を添加し、加熱処理、ろ過分離処理、乾燥処理を施すことにより処理フェライトバルーンを製造し、さらに、高分子凝集剤モノマーを溶解した水溶液中に上記処理フェライトバルーン及び重合開始剤を添加し、処理フェライトバルーンの表面に高分子凝集剤をグラフト重合することを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤の製造方法。
【0016】
7.上記1〜5のいずれかに記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を被処理水に添加し、被処理水中の汚染物質又は汚濁物質を磁性を持った凝集沈殿物とした後、磁力に
より上記凝集沈殿物を被処理水から分離することを特徴とする凝集沈降処理方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の新規なフェライトバルーン−高分子複合凝集剤は、水に添加分散されると、フェライトバルーン表面にグラフト重合された高分子凝集剤が被処理水中に溶解して、そのままフェライトバルーンと汚濁物質とを架橋結合し、効果的に凝集を起こさせることができる。
【0018】
さらに、生成した凝集物は、重質であるのでそのままでも速やかに沈降分離することができるが、磁力を用いることにより、さらに濃縮された重質の凝集物とすることができ、その後の分離処理が容易となる。
【0019】
前記の特許文献1〜4と比較すると、適応範囲が限られていた特許文献1の方法に対し、本発明ではこれを嵩高いフェライトバルーンとし、さらに、イオン性高分子との複合化を図ることにより、ポリマー系の利点を無機系凝集剤に付与することができる。
また、特許文献2の混合物を利用する方法に対して、本発明の複合凝集剤は、カチオン性合成高分子をグラフトしたフェライトバルーン複合体であり、そのことにより無機系凝集剤特有の比重増加効果と高分子鎖特有の保水力効果を併せ持つことができる。
その結果、吸着回収を効果的に行なうことができ、その後の沈降分離特性にも優れた特性を有すると共に、高分子成分が無機系フェライトバルーンに共有結合しているため、高分子凝集剤成分の処理水中での浮遊量が極めて少ないこともその特徴である。
【0020】
特許文献3の方法も軟磁性材粉末と凝集剤との単なる混合であるのに対し、本発明の複合凝集剤は、単なる混合物ではなく、フェライトバルーン−高分子複合体であり、特許文献3等とはその材料設計コンセプトが全く異なるものである。
【0021】
また、特許文献4の方法は、微粉末凝集剤に磁性体微粉末を混入した磁性体凝集剤を、さらに、微粉末化する手法でその表面積を大きくするものであるが、本発明では、フェライトバルーンの嵩高性や、さらに、それを多孔質化することで大きな表面積としており、フェライトバルーン単体でも凝集剤としての特性は高く、さらに、該フェライトバルーンを高分子凝集剤と複合化することで保水性は向上し、吸着回収能が著しく向上し、フロック形成が容易となり分離回収に優れた効果を有するものである。
以上のとおり、フェライトバルーン−高分子複合凝集剤を用いることにより生成した凝集沈殿物は、磁力により容易に被処理水から分離することが可能であり、簡便な操作で処理時間の短縮も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】フェライトバルーン−高分子複合凝集剤の写真である。
【図2】フェライトバルーン−高分子複合凝集剤と磁石との反応を示す写真である。
【図3】発酵糖蜜廃液(酒造廃液)に対してフェライトバルーン−高分子複合凝集剤(アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(MPSA))を添加し、30分後、1時間後の被処理液の吸光度を測定したものである
【図4】500倍に希釈した緑色ポスターカラー廃液に対して、フェライトバルーン−高分子複合凝集剤(メチルジエチルアミノエチルメタアクリレート(MDAMA))を添加し、30分後の被処理液の吸光度を測定したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用されるフェライトバルーンの一例としては、NiO,ZnO,Fe
(モル比0.27, 0.23, 0.50)を蒸留水(40 wt%)で練り、ポリビニ
ールアルコール(分子量4万)を固形分に対して0.5wt%加えた後、これらをボールミルで混合・粉砕し、10μmほどに粉砕する。さらに、スプレードライヤー(12000 rpm、熱風温度:320 ℃)にて造粒・加熱乾燥した後、1200℃で4時間焼成してフェライトバルーンを得た。
このような方法により製造されたフェライトバルーンは、一般式 AFeで表されるフェライト化合物である。ここで、AはNi、Znである。
【0024】
本発明で使用されるフェライトバルーンは粒径が1μm〜100μmのサイズで、表面積が0.1m/g〜1m/g、比重が0.05〜0.2 g/cmの特性を持つ。これらの中でも、特に粒径20μm、比重0.07g/cmのものを主に利用した。
【0025】
本発明で使用される加水分解性ケイ素基又はグリシジル基含有不飽和化合物としては、トリアルコキシシリル基含有アルキル(メタ)アクリレート又はグリシジル(メタ)アクリレートである。
【0026】
具体的には、トリアルコキシシリル基含有アルキル(メタ)アクリレートとして、トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリエトキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリプロポキシシリルプロピル(メタ)アクリレート、トリメトキシシリルエチル(メタ)アクリレート、トリエトキシシリルエチル(メタ)アクリレート、トリプロポキシシリルエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、グリシジル(メタ)アクリレートとしては、グリシジルメタアクリレート、グリシジルアクリレートなどが挙げられる。
【0027】
本発明で使用される高分子凝集剤のモノマーとしては、ビニル基を有するビニル重合性モノマー、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸、メタアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、ビニルリン酸、リン酸エステルメタアクリレート、アミノプロピルメタアクリレート、アミノプロピルアクリレートやそれらの4級化物モノマー、スチレンスルホン酸、ビニルピリジン、アリルアミンおよびその4級化物などが挙げられる。それらの中でも、アクリルアミド誘導体、アクリル酸及びアミノ基含有(メタ)アクリレート又はその4級化物から選ばれる1種又は2種以上を使用することが好ましい。
そして、上記アクリルアミド誘導体としては、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、などを使用することができるが、好ましくはアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸である。
【0028】
また、アミノ基含有(メタ)アクリレート重合体としては、ジメチルアミノ(メタ)クリレートやジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどを使用することができるが、好ましくはその4級化モノマーである、メチルジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートもしくはアクリルアミド重合体である。
【0029】
次に、フェライトバルーンの表面に、高分子凝集剤をグラフト重合する方法について説明する。
【0030】
フェライトバルーン10〜100gを100mlのエタノール中に分散し、該分散液中に37%HCl又はアミンを0.1〜10g添加して、5〜30分程度放置する。
その後、加水分解性ケイ素基又はグリシジル基含有不飽和化合物、例えば、トリエトキシシリルプロピルメタアクリレートを0.1〜10g程度添加し、50〜90℃で10分〜1時間程度加熱する。加熱終了後、30分〜1時間程度かけて徐冷した後、濾過して、得られた処理フェライトを50〜90℃の温度で乾燥する。
【0031】
上記処理後のフェライトバルーンに対して、高分子凝集剤をグラフトする条件について
記載する。
フェライトバルーンの表面を、加水分解性ケイ素基又はグリシジル基含有不飽和化合物で処理後、ポリアクリルアミド誘導体、ポリアクリル酸及びアミノ基含有(メタ)アクリレート又はその4級化物等の高分子凝集剤モノマー、例えば、アクリルアミド−2メチルプロパンスルホン酸(MPSA)、アクリル酸又はメチルジエチルアミノエチルメタアクリレート(MDAMA)を水100mlに対し、0.1×10−3〜1モル、KPS等の開始剤を0.01〜1g溶解させた水溶液中に、上記の処理フェライトを10〜50g程度添加し、10分〜1時間の窒素置換の後、撹拌しながら40〜80℃の温度に昇温させ、撹拌下で重合を10〜30時間行なう。
重合終了後、上澄み液を捨て、生成したフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を水で良く洗浄した後に、50〜90℃の温度で乾燥する。
【0032】
次に、以上の方法により得られたフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を用いた凝集沈降処理方法について説明する。
廃液中に含まれる汚濁物等の濃度にもよるが、例えば、実施例で行なった通常の発酵糖蜜廃液(酒造廃液)であれば、廃液100mlに対して0.1〜10g程度、好ましくは0.5〜5g程度のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を添加攪拌した後、10分〜2時間程度、好ましくは15分〜1時間程度静置し、生成した凝集物を磁力により被処理水から分離する。これらの処理は、室温で行なうことができる。
また、金属イオンの捕集処理に際しても、廃液に対するフェライトバルーン−高分子複合凝集剤の添加量は、上記の汚濁物含有廃液の場合と同程度であり、金属イオン捕集後の被処理液は、簡単なろ過操作によりフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を分離除去することができる。回収されたフェライトバルーン−高分子複合凝集剤は、再生後再使用が可能である。
【実施例】
【0033】
次に、本発明のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤、その製造方法及び該複合凝集剤を用いた凝集沈降処理方法について、実施例によりさらに詳細に説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
【0034】
(フェライトバルーン−高分子複合凝集剤の製造)
(実施例1)
フェライトバルーン50gを100mLのエタノール中に分散し、37%HClを1g添加してしばらく放置し、トリエトキシシリルプロピルメタアクリレートを1g添加し、70℃で30分間加熱する。その後1時間室温で徐冷した後、ろ過してフェライトバルーンを乾燥する。
その後、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(MPSA)8.8gを水100mLに溶かし、KPS(開始剤)を0.1g、上記の処理を施したフェライトバルーンを25g添加後、30分間窒素置換した後、攪拌しながら60℃に昇温させ、20時間攪拌しながら重合を行なう。上澄み液を捨て、水でよく洗浄した後に、70℃で乾燥しフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を得た。得られたフェライトバルーン−高分子複合凝集剤の写真を図1及び図2に示す。
【0035】
(実施例2)
高分子凝集剤モノマーとして、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(MPSA)に代えてメチルジエチルアミノエチルメタアクリレート(MDAMA)を使用する以外は実施例1と同様の処理を行い、メチルジエチルアミノエチルメタアクリレート(MDAMA)をグラフト重合したフェライトバルーン−高分子複合凝集剤の粉体を得た。
【0036】
(実施例3)
フェライトバルーン50gを100mLのTHF中に分散し、トリエチルアミンを1g添加してしばらく放置し、グリシジルメタアクリレートを1g添加し、60℃で30分間加熱する。その後1時間室温で徐冷した後、ろ過してフェライトバルーンを乾燥する。
その後、実施例1と同様に、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(MPSA)8.8gを水100mLに溶かし、KPS(開始剤)を0.1g、上記の処理を施したフェライトバルーンを25g添加後、30分間窒素置換した後、攪拌しながら60℃に昇温させ、20時間攪拌しながら重合を行なう。上澄み液を捨て、水でよく洗浄した後に、60℃で乾燥しフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を得た。
【0037】
(実施例4)
高分子凝集剤モノマーとして、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(MPSA)に代えてメチルジエチルアミノエチルメタアクリレート(MDAMA)を使用する以外は実施例3と同様の処理を行い、メチルジエチルアミノエチルメタアクリレート(MDAMA)をグラフト重合したフェライトバルーン−高分子複合凝集剤の粉体を得た。
【0038】
(凝集沈降処理)
実施例1〜4で得られたフェライトバルーン−高分子複合凝集剤及び比較のために未処理の鉄粉、フェライトバルーン粉を用いて、発酵糖蜜廃液(酒造廃液)、500倍に希釈した緑色ポスターカラー廃液、塩化第2銅を10ppm含有する水溶液の3種を用いて凝集沈降処理の試験を行なった。
ここで、発酵糖蜜廃液(酒造廃液)は、酵母の発酵化処理過程で排出される廃液であり、その廃液中には汚濁物としてメラノイジン色素が50ppm程度含まれるものである。
また、緑色ポスターカラー廃液は、市販の絵の具を水に溶かした廃液で、その廃液中には汚濁物として緑色有機顔料成分が100ppm程度含まれるものであり、塩化第2銅含有水溶液は、凝集沈降処理試験、金属イオン成分捕集試験のために、所定量の塩化第2銅を水中に溶解させて作成したものである。
いずれの試験例も、廃液100mlに対してフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を1.0g添加し、30分静置した後、波長400nm、630nmを用いて吸光度を測定した。
なお、測定装置は、紫外可視光分光光度計, 日本分光(株)V570であった。また、塩化第2銅含有水溶液の濃度は、島津製作所製の原子分光光度計を用いて測定した。
【0039】
試験結果を以下の表1に示す。
本発明の実施例1及び3で示される、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(MPSA)をグラフト重合した高分子凝集剤を表面に有するフェライトバルーン−高分子複合凝集剤は、発酵糖蜜廃液、緑色ポスターカラー廃液の処理だけでなく、塩化第2銅含有水溶液に対しても有効である。
また、本発明の実施例2及び4で示される、メチルジエチルアミノエチルメタアクリレート(MDAMA)をグラフト重合した高分子凝集剤を表面に有するフェライトバルーン−高分子複合凝集剤は、発酵糖蜜廃液、緑色ポスターカラー廃液の処理においてきわめて優れた効果を有するものである。
【0040】
【表1】

【0041】
凝集沈降処理の試験結果について、さらに、図3及び図4に基づき説明する。
図3は、発酵糖蜜廃液(酒造廃液)の標準溶液200mlに対してアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(MPSA)をグラフト重合した高分子凝集剤を表面に有するフェライトバルーン−高分子複合凝集剤1.0gを添加し、30分後、1時間後の被処理液の吸光度を測定したものである。
この図から、本発明のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を用いた処理では、大凡30分程度の処理時間で十分であることが示されている。
【0042】
図4は、500倍に希釈した緑色ポスターカラー廃液の標準溶液100mlに対して、メチルジエチルアミノエチルメタアクリレート(MDAMA)をグラフト重合した高分子凝集剤を表面に有するフェライトバルーン−高分子複合凝集剤1.0gを添加し、30分後の被処理液の吸光度を測定したものである。
この図から、本発明のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を用いた処理では、緑色ポスターカラー廃液のほとんどの成分が実質的に除去され本発明複合凝集剤の脱色有効性が示されている。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤は優れた凝集沈降作用を有する凝集剤であり、また、その取り扱いも容易であり、産業排水などの各種の汚濁水や汚染水の浄化処理に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライトバルーン表面を加水分解性ケイ素基又はグリシジル基含有不飽和化合物で処理した後、高分子凝集剤をグラフト重合することにより得られたものであることを特徴とするフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。
【請求項2】
上記加水分解性ケイ素基含有又はグリシジル基不飽和化合物がトリアルコキシシリル基含有アルキル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1に記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。
【請求項3】
上記加水分解性ケイ素基含有又はグリシジル基不飽和化合物がグリシジル(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項1に記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。
【請求項4】
上記高分子凝集剤がポリアクリルアミド誘導体、ポリアクリル酸及びアミノ基含有(メタ)アクリレート重合体又はその4級化物から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。
【請求項5】
上記ポリアクリルアミド誘導体がポリアクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であり、上記アミノ基含有(メタ)アクリレート重合体又はその4級化物がメチルジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート重合体であることを特徴とする請求項4に記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤。
【請求項6】
フェライトバルーンを溶媒中に分散し、該溶媒中で酸又はアミンで処理した後、加水分解性ケイ素基又はグリシジル基含有不飽和化合物を添加し、加熱処理、ろ過分離処理、乾燥処理を施すことにより処理フェライトバルーンを製造し、さらに、高分子凝集剤モノマーを溶解した水溶液中に上記処理フェライトバルーン及び重合開始剤を添加し、処理フェライトバルーンの表面に高分子凝集剤をグラフト重合することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のフェライトバルーン−高分子複合凝集剤を被処理水に添加し、被処理水中の汚染物質又は汚濁物質を磁性を持った凝集沈殿物とした後、磁力により上記凝集沈殿物を被処理水から分離することを特徴とする凝集沈降処理方法。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−83653(P2011−83653A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235857(P2009−235857)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【出願人】(503162265)株式会社カサイ (3)
【Fターム(参考)】