説明

フェライト磁性材料、フェライト磁石、フェライト焼結磁石

【課題】高いBr、HcJ及びHk/HcJを有する永久磁石を得ることが出来るフェライト磁性材料、ならびにフェライト磁石を提供する。
【解決手段】六方晶構造を有するフェライト相からなる主相を有するフェライト磁性材料であって、Ca1−w−x−ySrBaFeで表される金属元素の組成を有し、0.25<w<0.5、0.01<x<0.35、0.0001<y<0.013、y<x、8.7<z<9.9、1.0<w/m<2.1、0.017<m/z<0.055を満たし、副成分として少なくともSi成分を含み、前記フェライト磁性材料中の前記Si成分のSiO換算での含有量y1質量%をY軸に表わし、前記zとmの合計量x1をX軸に表わしたときに、x1とy1の関係が、X−Y座標における所定の4つの点で囲まれる範囲内にあるフェライト磁性材料、ならびにそのフェライト磁性材料からなるフェライト磁石。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト磁性材料、ならびにそのフェライト磁性材料からなるフェライト磁石及びフェライト焼結磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物からなる永久磁石の材料としては、六方晶系のM型(マグネトプランバイト型)Srフェライト又はBaフェライトが知られている。これらのフェライトからなるフェライト磁性材料は、フェライト焼結体やボンド磁石の形で永久磁石として供されている。近年、電子部品の小型化、高性能化に伴って、フェライト磁性材料からなる永久磁石に対しても、小型でありながら高い磁気特性を有することが要求されつつある。
【0003】
永久磁石の磁気特性の指標としては、一般に、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)が用いられ、これらが高いほど高い磁気特性を有していると評価される。従来、永久磁石のBr及びHcJを向上させる観点から、フェライト磁性材料に所定の元素を含有させるなど、組成を変えて検討が行われてきた。
【0004】
例えば、特許文献1には、M型Caフェライトに、La、Ba及びCoを少なくとも含有させることで、高いBr及びHcJを有するフェライト焼結磁石が得られる酸化物磁性材料が示されている。
【0005】
また、特許文献2には、M型Caフェライトに、La、Sr及びCoを含有させることで、高いBr及びHcJを有するフェライト焼結磁石が得られる酸化物磁性材料が示されている。更に、特許文献3には、M型Srフェライトに、Sr、La及びCoを含むことによって、高いBr及びHcJを有する焼結磁石が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4078566号公報
【特許文献2】国際公開第2007/077811号パンフレット
【特許文献3】特許第3163279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、Br及びHcJの両方を良好に得るために、主組成に添加する元素の組み合わせを種々に変える試みがなされているが、どのような添加元素の組み合わせが高い磁気特性を与えるのかは、未だ明らかではない。
【0008】
また、永久磁石には、高いBr及びHcJを有することに加え、HcJに対する磁化がBrの90%であるときの磁界の値(Hk)の比率、いわゆる角型比(Hk/HcJ)も高いことが好ましい。Hk/HcJが高いと、外部磁界や温度変化による減磁が小さく、安定した磁気特性が得られるようになる。
【0009】
したがって、フェライト磁性材料を用いた永久磁石においては、高いBr及びHcJを得るとともに、優れたHk/HcJを得ることが出来ることが好ましい。しかしながら、いずれかの磁気特性が向上すると他の磁気特性が低下してしまうなど、このような3つの磁気特性を有する永久磁石が得られるフェライト磁性材料を得ることは従来、決して容易なことではなかった。
【0010】
更に、Brを高めるためには、フェライト相を構成する結晶粒子の磁化容易軸(M型フェライトの場合はc軸方向)の向きを揃える、すなわち、磁化容易軸の配向性を高め、異方性化を図ることが有効である。しかし、配向性を高めていくと、M型フェライトでは、磁化容易軸と垂直方向の磁化困難軸方向に結晶粒子が成長しやすい傾向があるため、磁化困難軸方向の平均結晶粒子径と磁化容易軸方向の平均結晶粒子径の比で示されるアスペクト比が高くなりやすい。アスペクト比が高くなると、結晶粒子内で反磁場の影響を受けやすくなる。また、磁化困難軸方向の平均結晶粒子径が大きくなることは、単磁区粒子(M型フェライトの場合、約1μm)となる結晶粒子数が減少することを示している。これらの影響により、HcJが低下し、高Brとの両立を図るのが困難となる。
【0011】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高いBr及びHcJが維持され、しかも高いHk/HcJを有する永久磁石を得ることが出来るフェライト磁性材料、及び係るフェライト磁性材料からなる磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明のフェライト磁性材料は、六方晶構造を有するフェライト相からなる主相を有するフェライト磁性材料であって、下記式(1)で表される金属元素の組成を有し、
Ca1−w−x−ySrBaFe (1)
ただし、式(1)中、Rは希土類元素(Yを含む)及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であってLaを少なくとも含み、Mは、Co、Mn、Mg、Ni、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であってCoを少なくとも含み、
式(1)中、w、x、y、z及びmは、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)及び(8)を満たし、
0.25<w<0.5 (2)
0.01<x<0.35 (3)
0.0001<y<0.013 (4)
y<x (5)
8.7<z<9.9 (6)
1.0<w/m<2.1 (7)
0.017<m/z<0.055 (8)
副成分として少なくともSi成分を含み、
前記フェライト磁性材料中のこのSi成分のSiO換算での含有量y1をY軸に表わし、
前記zとmの合計量x1をX軸に表わしたときに、
x1とy1の関係が、前記X軸及びY軸を持つX−Y座標における4つの点a(8.9,1.2)、b(8.3,0.95)、c(10.0,0.35)及びd(10.6,0.6)で囲まれる範囲内にあることを特徴とする。
【0013】
上記本発明のフェライト磁性材料は、前記の式(1)で表され、各元素が式(2)〜(8)の条件を満たすとともに、副成分としてSi成分を更に含有し、
前記フェライト磁性材料中の前記Si成分のSiO換算での比率y1質量%をY軸に表わし、
前記zとmの合計量x1をX軸に表わしたときに、
x1とy1の関係が、前記X軸及びY軸を持つX−Y座標における4つの点a(8.9,1.2)、b(8.3,0.95)、c(10.0,0.35)及びd(10.6,0.6)で囲まれる範囲内にあることで、高いBr及びHcJを有するのみならず、高いHk/HcJを有するフェライト磁石又はフェライト焼結磁石となる。
【0014】
好ましくは、前記フェライト磁石又はフェライト焼結磁石において、X線回折測定により求めた結晶配向度Or(f)=Σ(001)/Σ(hkl)が0.9以上である。
【0015】
好ましくは、前記フェライト磁石又はフェライト焼結磁石を構成する結晶粒子をc軸方向に平行な面で切断した切断面において、
前記各結晶粒子の断面の重心を通る粒径の最大値と最小値をそれぞれ求め、所定数以上の結晶粒子における前記粒径の最大値と最小値の平均をそれぞれL(μm)、S(μm)としたとき、
前記L及びSが、下記式(9)及び(10)を満たす。
L≦1.4 (9)
L/S≦2.4 (10)
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本願の実施例の各試料について、フェライト磁性材料中の前記Si成分のSiO換算での含有量y1質量%をY軸に表わし、前記zとmの合計量x1をX軸に表わしたときに、x1とy1の関係をX軸及びY軸を持つX−Y座標に示した図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係るフェライト焼結磁石を構成する、結晶粒子の結晶粒子径及びアスペクト比の測定方法を説明するための、結晶粒子の断面図である。
【図3】図3(A)は本発明の実施例に係るフェライト焼結磁石の断面SEM写真であり、図3(B)は本発明の比較例に係るフェライト焼結磁石の断面SEM写真である。
【図4】図4は本発明の一実施形態に係る、焼結磁石の製造方法に用いる磁場射出成形機の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0018】
(フェライト焼結磁石)
本発明の一実施形態に係るフェライト焼結磁石を構成するフェライト磁性材料は、六方晶構造を有するフェライト相からなる主相を有するものである。前記フェライト相としてはマグネトプランバイト型(M型)フェライト(以下では、「M型フェライト」とする。)が好ましい。なお、マグネトプランバイト型(M型)フェライトからなる主相を特に「M相」という。ここで「フェライト相からなる主相」とは、通常、フェライト焼結磁石は「主相(結晶粒子)」と「粒界部分」とからなるところ、この「主相」がフェライト相であることを意味する。焼結体に占める主相の割合としては、好ましくは95体積%以上である。
【0019】
フェライト焼結磁石を構成するフェライト磁性材料は、前述の如く、焼結体の形態であり、結晶粒子(主相)と粒界とを含む構造を有している。この焼結体における結晶粒子の平均結晶粒径は、好ましくは1.4μm以下であり、より好ましくは0.5〜1.4μmである。このような平均結晶粒径を有することで、高いHcJが得られ易くなる。なお、ここで述べた平均結晶粒径とは、M型フェライトの焼結体における結晶粒子の、磁化困難軸(a軸)方向の粒子径の相加平均値のことである。フェライト磁性材料の焼結体の結晶粒径は、走査型電子顕微鏡によって測定することが出来る。
【0020】
本実施形態のフェライト磁性材料は、下記式(1)で表される金属元素の組成を有する。
Ca1−w−x−ySrBaFe (1)
【0021】
ここで、式(1)中、Rは希土類元素(Yを含む)及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であってLaを少なくとも含み、Mは、Co、Mn、Mg、Ni、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であってCoを少なくとも含む。
【0022】
式(1)中、w、x、y、z及びmは、それぞれ、R、Sr、Ba、Fe及びMの原子比率を示しており、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)及び(8)の全てを満たす。
0.25<w<0.5 (2)
0.01<x<0.35 (3)
0.0001<y<0.013 (4)
y<x (5)
8.7<z<9.9 (6)
1.0<w/m<2.1 (7)
0.017<m/z<0.055 (8)
【0023】
また、フェライト磁性材料は、前述した金属元素の組成以外の副成分として、少なくともSi成分を含み、図1に示すように、前記フェライト磁性材料中の前記Si成分のSiO換算での含有量y1質量%をY軸に表わし、前記zとmの合計量x1をX軸に表わしたときに、x1とy1の関係が、前記X軸及びY軸を持つX−Y座標における4つの点a(8.9,1.2)、b(8.3,0.95)、c(10.0,0.35)及びd(10.6,0.6)で囲まれる範囲内にある。
【0024】
なお、酸素の組成比は、各金属元素の組成比、各元素(イオン)の価数に影響され、結晶内で電気的中性を維持するように増減する。また、後述する焼成工程の際に、焼成雰囲気を還元性雰囲気にすると酸素欠損が生じる場合もある。
【0025】
以下、前述したフェライト磁性材料の組成について、より詳細に説明する。
【0026】
前述のフェライト磁性材料を構成する金属元素の組成におけるCaの原子比率(1−w−x−y)は、0.25を超え、0.59未満であると好ましい。Caの原子比率が小さすぎると、フェライト磁性材料がM型フェライトとならない場合がある。
【0027】
また、α−F等の非磁性相の割合が増加する他、Rが余剰となってオルソフェライト等の非磁性の異相が生成し、磁気特性(特にBrやHcJ)が低下する傾向にある。一方、Caの原子比率が大きすぎると、M型フェライトとならない場合がある他、CaFeO3−x等の非磁性相が多くなって、磁気特性が低下するおそれがある。
【0028】
本実施形態のフェライト焼結磁石は、後述するように副成分としてSiO を含むほか、他の副成分を更に含んでいても良い。例えば、まず、副成分としてCa成分を含んでいても良い。ただし、本実施形態のフェライト焼結磁石は、前述したように主相であるフェライト相を構成する成分としてCaを含む。したがって、副成分としてCaを含有させた場合、例えば焼結体から分析されるCaの量は主相及び副成分の総量となる。すなわち、副成分としてCa成分を用いた場合には、一般式(1)におけるCaの原子比率(1−w−x−y)は副成分をも含んだ値となる。原子比率(1−w−x−y)の範囲は、焼結後に分析された組成に基づいて特定されるものであるから、副成分としてCa成分を含む場合と含まない場合との両方に適用出来る。
【0029】
Rで示される元素は、Laを少なくとも含むほか、La以外としては、希土類元素(Yを含む)及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、希土類元素からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。ただし、Rとしては、Laのみを含むことが、異方性磁界を向上させる観点から特に好適である。
【0030】
前記フェライト磁性材料を構成する金属元素の組成中のRの原子比率(w)は、0.25を超え、0.5未満であり、この範囲であると、Br及びHcJ及びHk/HcJが良好に得られる。Rの原子比率が小さすぎると、フェライト磁性材料におけるMの固溶量が不十分となり、Br及びHcJが低下する。一方、大きすぎると、オルソフェライト等の非磁性の異相が生じ、Hk/HcJが低くなって実用的な磁石を得ることが困難となる。このような観点から、Rの原子比率は、0.3以上0.5未満であると好ましく、0.3〜0.45であるとより好ましい。
【0031】
Srの原子比率(x)は、0.01を超え、0.35未満であり、この範囲であることで、良好なBr、HcJ及びHk/HcJが満たされる。Srの原子比率が小さすぎると、Ca及び/又はLaの比率が大きくなり、Hk/HcJが低下する。一方、Srの原子比率が大きすぎると、Br及びHcJが不十分となる。このような観点から、Srの原子比率は、0.05〜0.25であると好ましく、0.1〜0.2であるとより好ましい。
【0032】
Baの原子比率(y)は、0.0001を超え、0.013未満であり、この範囲であることで、良好なBr、HcJ及びHk/HcJが満たされる。Baの原子比率が小さすぎると、十分なHk/HcJの向上効果が得られない。一方、大きすぎると、Br及びHcJが不都合に低下してしまう。このような観点から、Baの原子比率は、0.0004〜0.01であると好ましい。
【0033】
また、Srの原子比率(x)及びBaの原子比率(y)は、y<xの関係を満たす。このように、Srの原子比率がBaの原子比率よりも大きくなるようにすることで、良好なBrに加え、十分に高いHk/HcJが得られ易くなる。
【0034】
Feの原子比率(z)は、8.7を超え9.9未満であり、この範囲であることで、良好なBr、HcJ及びHk/HcJが満たされる。Feの原子比率が小さすぎても大きすぎても、Br及びHcJが不都合に低下する。Feの原子比率は、8.8〜9.6であると好ましい。
【0035】
Mで示される元素は、Coを少なくとも含むほか、Co以外としては、Mn、Mg、Ni、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、Mn、Ni及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。ただし、Mとしては、Coのみを含むことが、異方性磁界を向上させる観点から特に好適である。
【0036】
フェライト磁性材料を構成する金属元素の組成は、Mの原子比率(m)について、まず、m/zが、0.017を超え、0.055未満である条件を満たす。また、w/mが、1.0を超え、2.1未満である条件を満たす。これらの条件を満たすことで、良好なBr、HcJ及びHk/HcJが得られる。Mの原子比率が小さすぎる場合、良好なBr及びHcJが得られず、特にCoの比率が小さすぎると良好なHcJが得られない。一方、Mの比率が大きすぎる場合、Br及びHcJがむしろ低下してしまう傾向にある。
【0037】
これらの観点から、m/zは0.02〜0.035であると好ましい。また、w/mは、1.2〜1.9であると好ましく、1.4〜1.8であるとより好ましい。
【0038】
本発明におけるフェライト磁性材料は、前述した金属元素の組成に加えて後述する副成分を含む。副成分は、フェライト磁性材料の主相と粒界のどちらにも含まれ得る。フェライト磁性材料においては、全体のうちの副成分以外が主組成である。十分な磁気特性を得る観点からは、フェライト磁性材料中、主相の含有割合は90質量%以上であると好ましく、95〜100質量%であるとより好ましい。
【0039】
本実施形態のフェライト磁性材料は、副成分として、少なくともSi(ケイ素)成分を含む。ここで、Si成分とは、Si原子そのものや、Siを含む化合物(SiO等)の両方を含む。Siを含む化合物としては、Siを含有する組成を有する限り、特に限定されないが、例えば、SiO、NaSiO、SiO・nHO等が挙げられる。フェライト磁性材料は、Si成分を含むことにより、焼結性が良好となり、また焼結体の結晶粒径が適度に調整され、良好に磁気特性が制御されたフェライト焼結磁石となる。その結果、Br及びHcJを良好に維持しつつ、高いHk/HcJを得ることが可能となる。
【0040】
本実施形態のフェライト磁性材料は、図1に示すように、前記フェライト磁性材料中の前記Si成分のSiO換算での比率y1質量%をY軸に表わし、前記zとmの合計量x1をX軸に表わしたときに、x1とy1の関係が、前記X軸及びY軸を持つX−Y座標における4つの点a(8.9,1.2)、b(8.3,0.95)、c(10.0,0.35)及びd(10.6,0.6)で囲まれる範囲内にある。
【0041】
x1とy1、すなわちSi成分の比率とzとmの合計量y1の関係がこの領域内であることによって、良好なBr、HcJ、及びHk/HcJが得られる。Si成分の含有量が多すぎると、非磁性成分であるSi成分がフェライト焼結磁石中に多量に含まれることになるため、磁気特性(特にBr)が低くなる傾向となる。一方、Si成分が少なすぎても、前述した良好な効果が得られず、HcJが低下する傾向となる。
【0042】
本発明のフェライト磁性材料において、Si成分の含有量は、全てのSi成分の合計で、好ましくはSiOに換算して0.35〜1.2質量%、より好ましくは0.4〜1.1質量%である。Si成分がこのような含有量であると、高いHcJが得られる。
【0043】
フェライト磁性材料は、前述した金属元素の組成、及び少なくともSi成分を含む副成分を含有しているが、フェライト磁性材料の組成は、蛍光X線定量分析によって測定することが出来る。また、主相の存在は、X線回折や電子線回折によって確認することが出来る。
【0044】
本実施形態のフェライト磁性材料は、副成分として、Si成分以外の成分を含んでいても良い。その他の副成分としては、例えば、Al及び/又はCrを有していても良い。これらにより、フェライト焼結磁石のHcJが向上する傾向にある。良好なHcJの向上効果を得る観点からは、Al及び/又はCrの含有量は、フェライト磁性材料全体に対し、AlやCrに換算して合計で0.1質量%以上であることが好ましい。ただし、これらの成分はフェライト焼結磁石のBrを低下させる場合があるため、良好なBrを得る観点からは、3質量%以下とすることが望ましい。
【0045】
また、副成分としては、ホウ素Bを例えばBとして含んでいても良い。Bを含むことで、フェライト磁性材料を得る際の仮焼温度や、フェライト磁性材料からなる焼結体を得る際の焼成温度を低くすることができ、フェライト焼結磁石が生産性良く得られるようになる。ただし、Bが多すぎるとフェライト焼結磁石の飽和磁化が低下する場合があるため、Bの含有量は、フェライト磁性材料全体に対し、Bとして0.5質量%以下であることが好ましい。
【0046】
更に、本実施形態のフェライト磁性材料は、副成分として、Ga、Mg、Cu、Mn、Ni、Zn、In、Li、Ti、Zr、Ge、Sn、V、Nb、Ta、Sb、As、W、Mo等を、酸化物の形態で含んでいても良い。これらの含有量は、各原子の化学量論組成の酸化物に換算して、酸化ガリウム5質量%以下、酸化マグネシウム5質量%以下、酸化銅5質量%以下、酸化マンガン5質量%以下、酸化ニッケル5質量%以下、酸化亜鉛5質量%以下、酸化インジウム3質量%以下、酸化リチウム1質量%以下、酸化チタン3質量%以下、酸化ジルコニウム3質量%以下、酸化ゲルマニウム3質量%以下、酸化スズ3質量%以下、酸化バナジウム3質量%以下、酸化ニオブ3質量%以下、酸化タンタル3質量%以下、酸化アンチモン3質量%以下、酸化砒素3質量%以下、酸化タングステン3質量%以下、酸化モリブデン3質量%以下であることが好ましい。ただし、これらを複数種類組み合わせて含む場合は、磁気特性の低下を避けるため、その合計が5質量%以下となるようにすることが望ましい。
【0047】
本実施形態のフェライト磁性材料は、副成分として、アルカリ金属元素(Na、K、Rb等)は含まないことが好ましい。アルカリ金属元素は、磁石1の飽和磁化を低下させやすい傾向にある。ただし、アルカリ金属元素は、例えばフェライト磁性材料を得るための原料中に含まれている場合もあり、そのように不可避的に含まれる程度であれば、フェライト磁性材料中に含まれていても良い。磁気特性に大きく影響しないアルカリ金属元素の含有量は、3質量%以下である。
【0048】
(フェライト焼結磁石の結晶配向度)
本実施形態に係るフェライト焼結磁石について、X線回折(XRD)測定により求めた結晶配向度Or(f)=Σ(00l)/Σ(hkl)は、0.9以上であることが好ましく、より好ましくは0.92以上である。
【0049】
ここで結晶配向度Or(f)の測定方法について説明する。まず、例えば円板あるいは円柱状のフェライト焼結磁石の片面を平滑に研磨し、この平滑研磨面に対してXRD測定を行い、回折パターンを得て、フェライト焼結磁石に由来する回折ピークを同定する。そして、この回折ピークの面指数とピーク強度から、フェライト焼結磁石の結晶学的配向度(X線配向度)を求める。
【0050】
なお、本発明において、フェライト焼結磁石の結晶配向度Or(f)=ΣI(00L)/ΣI(hkL)としたが、この式の(00L)は、(004)、(006)等の結晶構造におけるc面(c軸に垂直な面)を総称する表示であり、ΣI(00L)は、(00L)面に帰属する全てのピーク強度の合計を示す。また、(hkL)は、検出された全ての回折ピークを示し、ΣI(hkL)は、それらのピーク強度の合計である。
【0051】
また、(00L)で表されるc面は、本実施形態のフェライト焼結磁石における磁化容易軸方向に垂直な面である。(00L)面のピーク強度の合計が高いほど、すなわち、Or(f)=ΣI(00L)/ΣI(hkL)が高いほど、結晶学的に磁化容易軸が揃っていることになり、Brが向上する。
【0052】
(フェライト焼結磁石の結晶粒子)
本実施形態に係るフェライト焼結磁石は、図2に示すように、断面が楕円状の結晶粒子から構成される。本実施形態では前記フェライト焼結磁石を構成する結晶粒子をc軸方向に平行な面で切断した切断面において、前記各結晶粒子の断面の重心を通る粒径の最大値と最小値をそれぞれ求め、所定数以上の結晶粒子の平均をそれぞれL(μm)、S(μm)としたとき、前記L及びSが、下記式(9)及び(10)を満たすことが好ましい。
L≦1.4 (9)
L/S≦2.4 (10)
【0053】
Lの範囲として、より好ましくは、L≦1.37であり、更に好ましくは0.6≦L≦1.37である。また、L/Sの範囲として、より好ましくは、L/S≦2.35であり、更に好ましくは1.7≦L/S≦2.35である。
【0054】
前記L/Sとは、いわゆるアスペクト比と呼ばれるパラメータである。M型フェライトでは、配向度が高くなると、磁化容易軸(六方晶構造のc軸、図2におけるLの方向)に対して垂直方向の磁化困難軸(六方晶構造のa軸、図2におけるSの方向)方向に結晶粒子が成長しやすい傾向がある。このため、磁化困難軸方向の平均結晶粒子径と磁化容易軸方向の平均結晶粒子径の比で示されるアスペクト比が高くなりやすい。そして、アスペクト比が高くなると、結晶粒子内で反磁場の影響を受けやすくなる。また、磁化困難軸方向の平均結晶粒子径が大きくなることは、単磁区粒子(M型フェライトの場合、約1μm)となる結晶粒子数が減少することを示している。これらの影響により、HcJが低下し、高Brとの両立を図るのが困難になる。
【0055】
しかし、本実施形態のフェライト磁性材料では、前記の式(9)及び(10)で表される条件を満たすことにより、高いBrとHcJを維持することが出来る。
【0056】
以下では、前記平均最大粒径L及び前記平均最小粒径Sについて、図2及び図3を参照しながら詳細に説明する。M型フェライトは、前記の通り、c軸方向に磁化容易軸を有する。このため、平均最大粒径L及び平均最小粒径Sを測定するために、まず、フェライト焼結磁石のc軸方向に平行な断面を切り出す。次いで、その断面に鏡面研磨及びフッ酸によるエッチング処理を施す。エッチング処理により結晶粒界部分が除去され、結晶粒子が観察しやすくなる。次に、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、c軸方向に平行な粒子断面像を得る。得られた断面像の一例を図3(a)に示す。
【0057】
続いて、粒子断面像に対して画像解析処理を行い、それぞれの結晶粒子について、その粒子断面の重心を通る粒径の最大値及び最小値をそれぞれ測定する。本実施形態においては、図2に示すように、1つの結晶粒子20の粒子断面の重心Jを通る粒径の最大値である最大粒径l(μm)と、重心Jを通る粒径の最小値である最小粒径s(μm)をそれぞれ導出する。そして、結晶粒子の所定数について、上記最大粒径と最小粒径の相加平均値を算出し、それぞれ平均最大粒径L及び平均最小粒径Sと定義する。なお、平均を求めるための結晶粒子の所定数としては、好ましくは500個以上である。
【0058】
また、本実施形態におけるフェライト磁性材料からなる磁石としては、上記のようなフェライト焼結磁石に限られず、例えば、フェライト磁性材料の粉末が、バインダによって結合されてなるボンド磁石などが挙げられる。
【0059】
ボンド磁石の場合、前述したようなフェライト磁性材料の条件は、フェライト磁性材料の粉末において満たされれば良い。フェライト磁性材料の粉末を構成している一次粒子の平均粒径は、特に制限されないが、2μm以下であると好ましく、1.5μm以下であるとより好ましく、0.1〜1μmであると更に好ましい。この平均粒径が大きすぎると、粉末中の多磁区粒子の比率が高くなり、HcJが低下するおそれがある。一方、平均粒径が小さすぎると、熱擾乱によって磁性が低下したり、また磁場中で成形する際の配向性や成形性が悪くなったりする。
【0060】
バインダとしては、ニトリルゴム(例えばNBRゴム)、塩素化ポリエチレン、ポリアミド樹脂(例えばナイロン6、ナイロン12(以上、登録商標))等が挙げられる。
【0061】
(フェライト焼結磁石の製造方法)
以下の実施形態では、フェライト磁性材料からなるフェライト焼結磁石の製造方法の一例を示す。本実施形態では、フェライト焼結磁石は、配合工程、仮焼工程、粉砕工程、成形工程及び焼成工程を経て製造することが出来る。また、粉砕工程と成形工程の間に、微粉砕スラリーの乾燥工程、混練工程が含まれる場合があり、成形工程と焼成工程の間に、脱脂工程が含まれる場合がある。各工程について、以下に説明する。
【0062】
<配合工程>
配合工程では、フェライト磁性材料の原料を配合して、原料混合物を得る。まず、フェライト磁性材料の原料としては、これを構成する元素のうちの1種又は2種以上を含む化合物(原料化合物)が挙げられる。原料化合物は、例えば粉末状のものが好適である。原料化合物としては、各元素の酸化物、又は焼成により酸化物となる化合物(炭酸塩、水酸化物、硝酸塩等)が挙げられる。例えばSrCO、La(OH)、Fe、BaCO、CaCO及びCo等が例示出来る。原料化合物の粉末の平均粒径は、例えば、均質な配合を可能とする観点から、0.1〜2.0μm程度とすることが好ましい。
【0063】
また、フェライト磁性材料におけるSi成分の原料としては、SiOが挙げられるが、Siを含有する化合物等であれば特に制限されない。また、原料粉末には、必要に応じてその他の副成分の原料化合物(元素単体、酸化物等)を配合しても良い。
【0064】
配合は、例えば、各原料を、所望とするフェライト磁性材料の組成が得られるように秤量し、混合した後、湿式アトライタ、ボールミル等を用い、0.1〜20時間程度、混合、粉砕処理することにより行うことが出来る。
【0065】
なお、この配合工程においては、全ての原料を混合する必要はなく、一部を後述する仮焼後に添加するようにしても良い。例えば、副成分であるSiの原料(例えばSiO)や、金属元素の組成の構成元素であるCaの原料(例えばCaCO)は、後述する仮焼後、粉砕(特に微粉砕)工程において添加しても良い。添加の時期は、所望とする組成や磁気特性が得られ易いように調整すれば良い。
【0066】
<仮焼工程>
仮焼工程では、配合工程で得られた原料粉末を仮焼する。仮焼は、例えば、空気中等の酸化性雰囲気中で行うことが好ましい。仮焼の温度は、1100〜1400℃の温度範囲とすることが好ましく、1100〜1300℃がより好ましく、1150〜1300℃が更に好ましい。仮焼の時間は、1秒間〜10時間とすることができ、1秒間〜5時間であると好ましい。仮焼により得られる仮焼体は、前述したような主相(M相)を70%以上含む。仮焼体の一次粒子径は、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは5μm以下であり、更に好ましくは2μm以下である。
【0067】
<粉砕工程>
粉砕工程では、仮焼工程で顆粒状や塊状となった仮焼体を粉砕し、再び粉末状にする。これにより、後述する成形工程での成形が容易となる。この粉砕工程では、前述したように、配合工程で配合しなかった原料を添加しても良い(原料の後添加)。粉砕工程は、例えば、仮焼体を粗い粉末となるように粉砕(粗粉砕)した後、これを更に微細に粉砕する(微粉砕)、2段階の工程で行っても良い。
【0068】
粗粉砕は、例えば、振動ミル等を用いて、平均粒径が0.5〜5.0μmとなるまで行われる。微粉砕では、粗粉砕で得られた粗粉砕材を、更に湿式アトライタ、ボールミル、ジェットミル等によって粉砕する。微粉砕では、得られた微粉砕材の平均粒径が、好ましくは0.08〜2.0μm、より好ましくは0.1〜1.0μm、更に好ましくは0.1〜0.5μm程度となるように、微粉砕を行う。微粉砕材の比表面積(例えばBET法により求められる。)は、4〜12m/g程度とすることが好ましい。好適な粉砕時間は、粉砕方法によって異なり、例えば湿式アトライタの場合、30分間〜20時間程度が好ましく、ボールミルによる湿式粉砕では10〜50時間程度が好ましい。
【0069】
粉砕工程で原料の一部を添加する場合、例えば、添加は微粉砕時において行うことが出来る。本実施形態では、Si成分であるSiOや、Ca成分であるCaCOを、微粉砕の際に添加することが出来るが、これらを配合工程や粗粉砕工程において添加しても良い。
【0070】
微粉砕工程では、湿式法の場合、分散媒として水の他、トルエン、キシレン等の非水系溶媒を用いることが出来る。非水系溶媒を用いた方が、後述の湿式成形時において高配向性が得られる傾向がある。一方、水系溶媒を用いる場合、生産性の観点で有利である。
【0071】
また、微粉砕工程では、焼成後に得られる焼結体の配向度を高めるため、例えば一般式C(OH)n+2で示される多価アルコールを添加しても良い。ここで、多価アルコールとしては、一般式において、nが4〜100であるものが好ましく、4〜30であるものがより好ましく、4〜20であるものが更に好ましく、4〜12であるものが一層好ましい。多価アルコールとしては、例えばソルビトールが挙げられる。また、2種類以上の多価アルコールを併用しても良い。更に、多価アルコールに加えて、他の公知の分散剤を併用しても良い。
【0072】
多価アルコールを添加する場合、その添加量は、添加対象物(例えば粗粉砕材)に対して、0.05〜5.0質量%であると好ましく、0.1〜3.0質量%であるとより好ましく、0.2〜2.0質量%であると更に好ましい。なお、微粉砕工程で添加した多価アルコールは、後述する焼成工程で熱分解除去される。
【0073】
ただし、粉砕材(好ましくは微粉砕材)の成形方法として、後述のCIM(C−eramic Injection Molding(セラミック射出成形)、
すなわち、PIM(Powder Injection Molding)、粉末射出成形の一種)成形を用いる場合、前記のソルビトール等の多価アルコールの添加は、微粉砕スラリー乾燥時において粉末の凝集発生が顕著となったり、バインダ樹脂中への粉末の分散が悪くなる等の要因となり、好ましくない。その場合、分散剤を何も添加しないか、シランカップリング剤等の同一分子内に親水性基と疎水性(親油性)基を有する分散剤で、粉末を表面処理しても良い。その分散剤の添加量は、添加対象物(例えば粗粉砕材)に対して、0.3〜3.0質量%であれば良い。このような分散剤は、微粉砕終了後のスラリーに添加して混合するのが好ましいが、この例に制限されることなく、乾燥後の粉末に添加したり、バインダ樹脂との混練工程で添加されても良い。
【0074】
<成形・焼成工程>
成形・焼成工程では、粉砕工程後に得られた粉砕材(好ましくは微粉砕材)を成形して成形体を得た後、この成形体を焼成して焼結体を得る。成形は、乾式成形、湿式成形又はCIM成形のいずれの方法でも行うことが出来る。乾式成形法では、例えば、乾燥した磁性粉末を加圧成形しつつ磁場を印加して成形体を形成し、その後に、成形体を焼成する。湿式成形法では、例えば、磁性粉末を含むスラリーを磁場印加中で加圧成形しながら液体成分を除去して成形体を形成し、その後に、成形体を焼成する。
【0075】
なお、一般的に、乾式成形法では、乾燥した磁性粉末を金型内で加圧成形するので、成形工程に要する時間が短いという利点を有するが、成形時の磁場による磁性粉末の配向度の向上が困難であり、結果として得られる焼結磁石の磁気特性が、湿式成形法により得られる焼結磁石に劣る。また、湿式成形法では、成形時の磁場により磁性粉末が配向し易く、焼結磁石の磁気特性が良好であるが、液体成分を抜きながら加圧を行うために、成形に時間がかかるという課題がある。
【0076】
また、CIM成形法は乾燥させた磁性粉末をバインダ樹脂と共に加熱混練して、形成したペレットを、磁場が印加された金型内で射出成形して予備成形体を得て、この予備成形体を脱バインダ処理した後、焼成する方法である。
【0077】
前述した実施形態に係るフェライト磁性材料の成形方法は特に限定されないが、好ましくは、CIM成形、湿式成形、特に好ましくはCIM成形である。以下ではCIM成形と、湿式成形について詳細に説明する。
【0078】
(CIM成形・焼成)
CIM成形法によってフェライト焼結磁石を得る場合には、湿式粉砕後、磁性粉末を含む微粉砕スラリーを乾燥させる。乾燥温度は、好ましくは80〜150°C、更に好ましくは100〜120°Cである。また、乾燥時間は、好ましくは1〜40時間、更に好ましくは5〜25時間である。乾燥後の磁性粉末の一次粒子の平均粒径は、好ましくは0.08〜2μmの範囲内、更に好ましくは0.1〜1μmの範囲内である。
【0079】
この乾燥後の磁性粉末を、バインダ樹脂、ワックス類、滑剤、可塑剤、昇華性化合物など(以下これらを、「有機成分」とする。)と共に混練し、ペレタイザなどで、ペレットに成形する。前記有機成分は、成形体中に好ましくは35〜60体積%、より好ましくは40〜55体積%含まれる。混練は、例えば、ニーダーなどで行えば良い。ペレタイザとしては、例えば、2軸1軸押出機が用いられる。また、混練及びペレット成形は、使用する有機成分の溶融温度に応じて、加熱しながら実施しても良い。
【0080】
バインダ樹脂としては、熱可塑性樹脂などの高分子化合物が用いられ、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、アタクチックポリプロピレン、アクリルポリマー、ポリスチレン、ポリアセタールなどが用いられる。
【0081】
ワックス類としては、カルナバワックス、モンタンワックス、蜜蝋などの天然ワックス以外に、パラフィンワックス、ウレタン化ワックス、ポリエチレングリコールなどの合成ワックスが用いられる。
【0082】
滑剤としては、例えば、脂肪酸エステルなどが用いられ、可塑剤としては、例えば、フタル酸エステルが用いられる。
【0083】
バインダ樹脂の添加量は、磁性粉末100質量%に対して、好ましくは3〜20質量%、ワックス類の添加量は、好ましくは3〜20質量%、滑剤の添加量は、好ましくは0.1〜5質量%である。可塑剤の添加量は、バインダ樹脂100質量%に対して、好ましくは0.1〜5質量%である。
【0084】
本実施形態では、たとえば、図4に示す磁場射出成形装置2を用いて、前記ペレット10を、金型8内に射出成形する。金型8への射出前に、金型8は閉じられ、内部にキャビティ12が形成され、金型8には磁場が印加される。なお、ペレット10は、押出機6の内部で、たとえば160〜230°Cに加熱溶融され、スクリューにより金型8のキャビティ12内に射出される。金型8の温度は、20〜80°Cである。金型8への印加磁場は398〜1592kA/m(5〜20kOe)程度とすれば良い。
【0085】
次に、CIM成形により得られた予備成形体を、大気中又は窒素中において100〜600℃の温度で熱処理して、脱バインダ処理を行って成形体を得る。脱バインダ処理が不十分であったり、脱バインダ時の昇温速度が急激であると、前述の有機成分の急激な揮発や分解ガスの発生により、成形体や焼結体にワレやクラックを生じてしまう。そこで、脱バインダ処理する有機成分に応じて、揮発したり分解したりする温度域の昇温速度を、例えば、0.01〜1℃/分程度のゆっくりとした昇温速度に適宜調整して、脱バインダ処理をすれば良い。逆に、脱バインダ処理が過剰であると、成形体の保形力が不足し、カケを生じるので、熱処理温度や温度プロファイル制御が必要である。また、有機成分を複数種使用している場合、脱バインダ処理を複数回に分けて実施しても良い。
【0086】
次いで焼結工程において、脱バインダ処理した成形体を、例えば、大気中で好ましくは1100〜1250℃、より好ましくは1160〜1230℃の温度で0.2〜3時間程度焼結して、本発明に係るフェライト焼結磁石を得る。温度が低温すぎたり、温度保持する時間が短すぎると、十分な焼結体密度が得られなかったり、添加されている元素の反応が不十分である等の原因により、所望の磁気特性が得られない。また、焼成温度が高温すぎたり、温度保持時間が長すぎたりすると、結晶粒子が異常成長したり、M型フェライト以外の異相が生成したり等の原因により、同じく所望の磁気特性が得られない。なお、焼成工程は、前述の脱バインダ工程と連続で実施しても、一度脱バインダ処理した後に室温まで冷却してから、焼成を実施しても良い。
【0087】
(湿式成形・焼成)
湿式成形法によってフェライト焼結磁石を得る場合は、例えば、上述した微粉砕工程を湿式で行うことでスラリーを得た後、このスラリーを所定の濃度に濃縮して、湿式成形用スラリーを得、これを用いて成形を行うことが好ましい。スラリーの濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行うことが出来る。湿式成形用スラリーは、その全量中、微粉砕材が30〜80質量%程度を占めるものであると好ましい。スラリーにおいて、微粉砕材を分散する分散媒としては水が好ましい。この場合、スラリーには、グルコン酸、グルコン酸塩、ソルビトール等の界面活性剤を添加しても良い。また、分散媒としては非水系溶媒を使用しても良い。非水系溶媒としては、トルエンやキシレン等の有機溶媒を使用することが出来る。この場合には、オレイン酸等の界面活性剤を添加することが好ましい。なお、湿式成形用スラリーは、微粉砕後の乾燥状態の微粉砕材に、分散媒等を添加することによって調製しても良い。
【0088】
湿式成形では、次いで、この湿式成形用スラリーに対し、磁場中成形を行う。その場合、成形圧力は、9.8〜49MPa(0.1〜0.5ton/cm)程度であると好ましく、印加磁場は398〜1592kA/m程度とすれば良い。また、成形時の加圧方向と磁場印加方向は、同一方向でも直交方向でも良い。
【0089】
湿式成形により得られた成形体の焼成は、大気中等の酸化性雰囲気中で行うことが出来る。焼成温度は、1050〜1270℃であると好ましく、1080〜1240℃であるとより好ましい。また、焼成時間(焼成温度に保持する時間)は、0.5〜3時間程度であると好ましい。
【0090】
なお、前述したような湿式成形で成形体を得た場合、この成形体を充分に乾燥させないまま焼成を行うことで急激に加熱すると、分散媒等の揮発が激しく生じて成形体にクラックが発生する可能性がある。そこで、このような不都合を避ける観点から、前記の焼結温度まで到達させる前に、例えば、室温から100℃程度まで、0.5℃/分程度のゆっくりとした昇温速度で加熱して成形体を充分に乾燥させることで、クラックの発生を抑制することが好ましい。更に、界面活性剤(分散剤)等を添加した場合は、例えば、100〜500℃程度の温度範囲において、2.5℃/分程度の昇温速度で加熱を行うことで、これらを充分に除去する(脱脂処理)ことが好ましい。なお、これらの処理は、焼成工程の最初に行ってもよく、焼成工程よりも前に別途行っておいても良い。
【0091】
以上、フェライト焼結磁石の好適な製造方法について説明したが、少なくとも本発明のフェライト磁性材料を用いる限り、製造方法は上記には限定されず、条件等は適宜変更することが出来る。
【0092】
また、磁石として、フェライト焼結磁石ではなく、ボンド磁石を製造する場合は、例えば、前述した粉砕工程までを行った後、得られた粉砕物とバインダとを混合し、これを磁場中で成形することで、本発明のフェライト磁性材料の粉末を含むボンド磁石を得ることが出来る。あるいは、粉砕工程で得られたスラリーを乾燥したフェライト磁性材料粉末を、例えば、1000〜1200℃程度の、焼結しない温度で熱処理した後、アトマイザ等で解砕して得られた磁性粉末とバインダとを混合し、ボンド磁石を得ることが出来る。
【0093】
本発明により得られる磁石は、本発明のフェライト磁性材料からなるものである限り、形態は限定されない。例えば、フェライト磁石は、異方性を有するアークセグメント形状、平板状、円柱状等、種々の形状を有することが出来る。なお、前記アークセグメント形状とは、平板状のものが一方向に円弧状に湾曲した形状である。本発明のフェライト磁性材料によれば、磁石の形状によらず高いBr及びHcJを維持しつつ、高いHk/HcJが得られ、特にアークセグメント形状の磁石であっても、高いBr及びHcJを維持しつつ、高いHk/HcJが得られる。
【0094】
本実施形態におけるフェライト磁石は、例えば、フューエルポンプ用、パワーウィンドウ用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータの部材として使用することが出来る。
【0095】
また、FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD/DVD/MDスピンドル用、CD/DVD/MDローディング用、CD/DVD光ピックアップ用等のOA/AV機器用モータの部材として使用することが出来る。
【0096】
更に、エアコンコンプレッサー用、冷凍庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータの部材としても使用することが出来る。更にまた、ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータの部材としても使用することが可能である。その他の用途としては、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネトラッチ、アイソレータ等の部材が挙げられる。あるいは、磁気記録媒体の磁性層を蒸着法又はスパッタ法等で形成する際のターゲット(ペレット)として用いることも出来る。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0098】
[実施例1〜6]
<配合工程>
まず、出発原料としてフェライト焼結磁石を構成する金属元素の化合物の粉末を準備した。出発原料は、酸化鉄(Fe;不純物として、Mn、Cr、Al、Si、Clを含む)、水酸化ランタン(La(OH))、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、炭酸バリウム(BaCO)、酸化コバルト(Co)を準備し、表1〜6に記載の各試料の組成になるように秤量した。また、Si成分原料として、酸化ケイ素(SiO、含水率:約20%前後、以後も同一原料使用)を出発原料の総量に対して、表1〜6に記載の各試料の組成になるように秤量した。
【0099】
なお、実施例1(表1)では、Srの比率(x)とCaの比率(1−w−x−y)を、実施例2(表2)では、Laの比率(w)及びLa/Coの比(w/m)を、実施例3(表3)では、Baの比率(y)を、実施例4(表4)ではCo/Feの比(m/z)を、実施例5(表5)ではFeの比率(z)を、実施例6(表6)ではSiOの含有量を、それぞれ変化させた試料を作製した。
【0100】
<仮焼工程>
前記出発原料及びSiO、それぞれの粉末を湿式アトライタにて混合、粉砕し、スラリー状の原料混合物を得た。この原料混合物を乾燥後、大気中、1225℃で2時間保持する仮焼処理を行い、仮焼体を得た。
【0101】
<粉砕工程>
得られた仮焼体を小型ロット振動ミルにて粗粉砕し、粗粉砕材を得た。焼成後のフェライト焼結磁石を構成する金属元素の比率が、表1〜6に記載の各試料に示す値となるように、得られた粗粉砕材に対して、酸化鉄(Fe;不純物として、Mn、Cr、Al、Si、Clを含む)、炭酸カルシウム(CaCO)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化コバルト(Co)、及び副成分として酸化ケイ素(SiO)を、それぞれ適宜添加するとともにソルビトールを0.45wt%添加した。次いで、湿式ボールミルにて、BET法により求められる比表面積(SSA)が、8.0〜9.0m/gとなるように微粉砕し、スラリーを得た。得られたスラリーを乾燥、整粒し、フェライト材料粉末を得た。
【0102】
<成形・焼成工程>
成形は、CIM成形により行った。まず、前述の実施工程で得られたフェライト材料粉末、PP(ポリプロピレン、バインダ樹脂として使用)、パラフィンワックス、アクリル樹脂、及びDOP(フタル酸ジオクチル、可塑剤として添加)を準備し、これらを、フェライト材料粉末=87質量%、PP=5.1質量%、パラフィンワックス=5.1質量%、アクリル樹脂=1質量%、DOP=2質量%となるように秤量した。次いでこれらを加圧加熱ニーダーを用いて、165℃で2.5hr混練し、混練物(コンパウンド)をペレタイザでペレット状に成形し、図4に示すペレット10を得た。
【0103】
次に、図4に示す磁場射出成形装置2を用いてペレット10を、金型8内に射出成形した。金型8への射出前に、金型8は閉じられ、内部にキャビティ12が形成され、金型8には磁場が印加された。なお、ペレット10は、押出機6の内部で加熱溶融され、スクリューにより金型8のキャビティ12内に射出された。射出温度は185℃、金型温度は40℃、射出時の印加磁場は1273kA/mとした。磁場射出成形工程で得られた予備成形体は円板状であり、直径30mm、厚み3mmであった。
【0104】
予備成形体は、加湿された大気雰囲気中において、最高到達温度230℃でトータル50時間の熱処理を実施し、脱ワックス処理を行った。この脱ワックス処理した成形体を、大気中、150〜500℃を緩昇温して脱バインダ処理し、続けて大気中、1190〜1230℃で1時間保持する焼成を行い、焼結体であるフェライト焼結磁石を得た。
【0105】
[実施例7]
実施例7では、成形工程において、成形体中の有機成分の体積百分率を表7に示す値になるように変えた以外は、実施例1〜6と同様にしてフェライト焼結体を得た。なお、前記有機成分とは、PP(ポリプロピレン)、パラフィンワックス、アクリル樹脂、及びDOP(フタル酸ジオクチル)の合計であり、PP、パラフィンワックス、アクリル樹脂、DOPの混合比率は、成形体中の有機成分比率が変化しても、実施例1に示す比率となるように一定とした。
実施例7では、成形体中の有機成分の体積割合を変えることにより、焼結磁石の結晶配向度、結晶粒子径、アスペクト比を変化させた。
【0106】
[実施例8]
実施例8では、粉砕工程においてソルビトールを添加せず、フェライト材料粉末(フィラー)をシランカップリング剤処理した以外は実施例1〜6と同様にしてフェライト焼結磁石を作製し、評価を行った。具体的には、実施例8では粗粉砕材にソルビトールを添加せずに微粉砕を実施し、微粉砕終了後、シランカップリング剤(信越シリコーン(株)製KBM−503、KBM−1003)を粗粉砕材に対して1wt%、微粉砕スラリー中に添加し、更に湿式ボールミルにて0.5hr混合、分散処理を行った以外、実施例1〜6と同様にフェライト焼結磁石を得た。
【0107】
[実施例9]
実施例9は、CIM成形を湿式成形に変えた以外は実施例1〜6と同様にしてフェライト焼結磁石を得て、評価を行った。すなわち、実施例9では成形・焼成工程を以下の通り行った。
まず、トルエンを分散媒として微粉砕を実施し、微粉砕スラリーを得た。この微粉砕時にオレイン酸を、粗粉砕材に対して1.3wt%添加した。得られたスラリーを、固形分濃度が74〜76質量%となるように溶媒量を調整し、このスラリーを湿式磁場成形機を用いて印加磁場を1.2Tとして磁場中成形し、直径30mm、高さ15mmの円柱状成形体を作製した。次に、得られた成形体を大気中、室温にて十分に乾燥した後、大気中、1200〜1230℃で1時間保持する焼成を行い、焼結体であるフェライト焼結磁石を得た。
【0108】
実施例1〜9の各フェライト焼結磁石について、蛍光X線定量分析を行い、各フェライト焼結磁石がそれぞれ表1〜9に示す組成となっていることが確認できた。
【0109】
<磁気特性(Br、HcJ、Hk)の測定>
まず、実施例1〜9の各試料について、アルキメデス法により密度測定を行った。
次いで、実施例1〜9の各フェライト焼結磁石の上下面を加工した後、25℃の大気雰囲気中にて、最大印加磁場1989kA/mのB−Hトレーサを使用して磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力HcJ、角形比Hk/HcJ)を測定した。結果を表1〜9に示す。ここで、Hkは磁気ヒステリシスループの第2象限において、磁束密度が残留磁束密度の90%になるときの外部磁界強度である。
【0110】
<結晶配向度>
実施例1の試料番号1−4、実施例5の試料番号5−5、実施例6〜9の各試料について円板状のフェライト焼結磁石の片面を平滑に研磨し、この平滑研磨面に対してXRD(X線回折)測定を行い(X線源:CuKα)、フェライト焼結磁石に由来する回折ピークを同定した。同定した回折ピークの面指数とピーク強度から、焼結磁石の結晶配向度Or(f)を求めた。なお、表1の試料番号1−4、表5の試料番号5−4は同一試料であるため、表5の試料番号5−4の欄にも同様に結晶配向度を示す。
【0111】
<結晶粒子径、アスペクト比>
各フェライト焼結磁石について、次のようにして結晶粒子径及びアスペクト比を求めた。
まず、フェライト焼結磁石のc軸(磁化容易軸)方向に並行な断面を切り出し、その断面に鏡面研磨し、フッ酸(濃度36%)によるエッチング処理を行った。次いで、エッチング処理面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、結晶粒子の断面像を得た。試料番号1−4(もしくは3−3、4−4、5−4、7−8)のSEMによる断面像を図3(a)、試料番号7−1のSEMによる断面像を図3(b)にそれぞれ示す。
【0112】
そして、SEM観察により得られた結晶粒子断面像に対して、画像解析処理を行い、それぞれの結晶粒子に対して、図2に示すように、結晶粒子断面の重心Jを通る粒径の最大値l(μm)及び最小値s(μm)を測定した。このような手法で、結晶粒子500個についての粒径の最大値l及び最小値sを求め、これら最大値lの相加平均値(平均最大粒径L)、及び最小値sの相加平均値(平均最小粒径S)をそれぞれ算出し、平均最大粒径Lと平均最小粒径Sからアスペクト比L/Sを求めた。求めた平均最大粒径Lとアスペクト比L/Sを表1〜9に示す。なお、表1の試料番号1−4、表5の試料番号5−4は同一試料であるため、表5の試料番号5−4の欄にも同様に平均最大粒径Lとアスペクト比L/Sを示す。
【0113】
実施例1〜9の各試料の組成、磁気特性、結晶配向度、結晶粒子径及びアスペクト比を、まとめて表1〜9に示す。
【0114】
【表1】

【0115】
【表2】

【0116】
【表3】

【0117】
【表4】

【0118】
【表5】

【0119】
【表6】

【0120】
【表7】

【0121】
【表8】

【0122】
【表9】

【0123】
表1より、Srの比率(x)が、0.0003を超え0.373未満であり、Caの比率(1−w−x−y)が、0.229を超え、0.601未満であると、Br及びHcJを良好に維持しつつ、高いHk/HcJが得られることが判明した。表1より、さらに、Srの比率(x)が、0.05〜0.25であり、Caの比率(1−w−x−y)が、0.354〜0.551であると、Br及びHcJをより良好に維持しつつ、より高いHk/HcJが得られることが判明した。
【0124】
表2より、Laの比率(w)が、0.180を超え0.550未満であり、La/Co(w/m)が、0.72を超え、2.20未満であると、Br及びHcJを良好に維持しつつ、高いHk/HcJが得られることが判明した。表2より、さらに、Laの比率(w)が、0.3以上0.5未満であり、La/Co(w/m)が、1.2〜1.9であると、Br及びHcJをより良好に維持しつつ、より高いHk/HcJが得られることが判明した。
【0125】
表3より、Baの比率(y)が、0.0001を超え、0.0150未満であると、Br及びHcJを良好に維持しつつ、高いHk/HcJが得られることが判明した。また、Srの比率(x)が、Baの比率(y)よりも小さいサンプル3−11は、特にBrやHk/HcJの点で不十分であることが確認された。表3より、さらに、Baの比率(y)が、0.0004〜0.01であると、Br及びHcJをより良好に維持しつつ、より高いHk/HcJが得られることが判明した。
【0126】
表4より、Co/Fe(m/z)が0.012を超え、0.065未満であると、Br及びHcJを良好に維持しつつ、高いHk/HcJが得られることが判明した。表4より、さらに、Co/Fe(m/z)が0.020〜0.035であると、Br及びHcJをより良好に維持しつつ、より高いHk/HcJが得られることが判明した。
【0127】
表5より、Feの比率(z)が、8.62を超え9.97未満であると、Br及びHcJを良好に維持しつつ、高いHk/HcJが得られることが判明した。表5より、さらに、Feの比率(z)が、8.8〜9.6であると、Br及びHcJをより良好に維持しつつ、より高いHk/HcJが得られることが判明した。
【0128】
表6に示すように、前記フェライト磁性材料中の前記Si成分のSiO換算での比率y1質量%をY軸に表わし、前記zとmの合計量x1をX軸に表わしたときに、x1とy1の関係が、前記X軸及びY軸を持つX−Y座標における4つの点a(8.9,1.2)、b(8.3,0.95)、c(10.0,0.35)及びd(10.6,0.6)で囲まれる範囲内にあると、Br及びHcJを良好に維持しつつ、高いHk/HcJが得られることが判明した。
【0129】
表7より、前記フェライト磁性材料において、X線回折測定により求めた結晶配向度Or(f)=Σ(001)/Σ(hkl)が0.78を超えるとBr及びHcJを良好に維持しつつ、高いHk/HcJが得られることが判明した。
また、表7より、前記フェライト磁性材料において、平均最大粒径Lが1.47未満又はL/Sが2.46未満だと、高いHcJが得られることが確認できた。
【0130】
表8より、シランカップリング剤処理したフェライト磁性粉末を用いても、Br及びHcJを良好に維持しつつ、高いHk/HcJが得られることが判明した。
【0131】
表9より、湿式成形により得られた試料においても、Br及びHcJを良好に維持しつつ、高いHk/HcJが得られることが判明した。
【符号の説明】
【0132】
2… 磁場射出成形装置
8… 金型
10… ペレット
12… キャビティ
20… 結晶粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶構造を有するフェライト相からなる主相を有するフェライト磁性材料であって、
前記フェライト磁性材料を構成する金属元素の組成は下記式(1)で表され、
Ca1−w−x−ySrBaFe ・・・(1)
ただし、式(1)中、Rは希土類元素(Yを含む)及びBiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であってLaを少なくとも含み、Mは、Co、Mn、Mg、Ni、Cu及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であってCoを少なくとも含み、
前記式(1)中、w、x、y、z及びmは、下記式(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)及び(8)を満たし、
0.25<w<0.5 ・・・(2)
0.01<x<0.35 ・・・(3)
0.0001<y<0.013 ・・・(4)
y<x ・・・(5)
8.7<z<9.9 ・・・(6)
1.0<w/m<2.1 ・・・(7)
0.017<m/z<0.055 ・・・(8)
副成分として少なくともSi成分を含み、
前記フェライト磁性材料中の前記Si成分のSiO換算での含有量y1質量%をY軸に表わし、
前記zとmの合計量x1をX軸に表わしたときに、
x1とy1の関係が、前記X軸及びY軸を持つX−Y座標における4つの点a(8.9,1.2)、b(8.3,0.95)、c(10.0,0.35)及びd(10.6,0.6)で囲まれる範囲内にあることを特徴とするフェライト磁性材料。
【請求項2】
請求項1に記載のフェライト磁性材料からなるフェライト磁石。
【請求項3】
前記フェライト磁石において、X線回折測定により求めた結晶配向度Or(f)=Σ(001)/Σ(hkl)が0.9以上であることを特徴とする、請求項2に記載のフェライト磁石。
【請求項4】
前記フェライト磁石を構成する結晶粒子をc軸方向に平行な面で切断した切断面において、
前記各結晶粒子の断面の重心を通る粒径の最大値と最小値をそれぞれ求め、所定数以上の結晶粒子における前記粒径の最大値と最小値の平均をそれぞれL(μm)、S(μm)としたとき、
前記L及びSが、下記式(9)及び(10)を満たす、請求項2又は3に記載のフェライト磁石。
L≦1.4 ・・・(9)
L/S≦2.4 ・・・(10)
【請求項5】
請求項1に記載のフェライト磁性材料からなるフェライト焼結磁石。
【請求項6】
前記フェライト焼結磁石において、X線回折測定により求めた結晶配向度Or(f)=Σ(001)/Σ(hkl)が0.9以上であることを特徴とする、請求項5に記載のフェライト焼結磁石。
【請求項7】
前記フェライト焼結磁石を構成する結晶粒子をc軸方向に平行な面で切断した切断面において、
前記各結晶粒子の断面の重心を通る粒径の最大値と最小値をそれぞれ求め、所定数以上の結晶粒子における前記粒径の最大値と最小値の平均をそれぞれL(μm)、S(μm)としたとき、
前記L及びSが、下記式(9)及び(10)を満たす、請求項5又は6に記載のフェライト焼結磁石。
L≦1.4 ・・・(9)
L/S≦2.4 ・・・(10)


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−213575(P2011−213575A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2288(P2011−2288)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】