説明

フェライト磁性材料

【課題】添加する副成分を最適化することにより磁気特性を向上したW型を主相とするフェライト磁性材料を提供する。
【解決手段】六方晶W型フェライトが主相をなし、Ga成分をGa換算で15wt%以下(ただし0を含まず)含有するようにした。このフェライト磁性材料は、組成式AFe2+Fe3+27(ただし、AはSr,Ba及びPbから選択される少なくとも1種の元素、1.5≦a≦2.1、12.9≦b≦16.3)で表される組成物を主成分とすることができる。または、組成式AZnFe27(ただし、AはSr,Ba及びPbから選択される少なくとも1種の元素、1.1≦c≦2.1、13≦d≦17)で表される組成物を主成分とすることができる。
【選択図】図

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードフェライト材料、特に六方晶W型フェライト磁石に好適に用いることのできるフェライト磁性材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、SrO・6Feに代表されるマグネトプランバイト型六方晶フェライト、つまりM型フェライトがフェライト焼結磁石の主流をなしてきた。このM型フェライト磁石については、フェライト結晶粒径を単磁区粒径に近づけること、フェライト結晶粒を磁気異方性方向に揃えること及び高密度化することを主眼に高性能化の努力が続けられてきた。その努力の結果、M型フェライト磁石の特性はその上限に近づいており、飛躍的な磁気特性の向上を望むのは難しい状況にある。
【0003】
M型フェライト磁石を凌駕する磁気特性を示す可能性をもつフェライト磁石として、W型のフェライト磁石が知られている。W型フェライト磁石はM型フェライト磁石より飽和磁化(4πIs)が10%程度高く、異方性磁界が同程度である。特表2000−501893号公報には、SrO・2(FeO)・n(Fe)であり、nが7.2〜7.7を満足する組成からなり、焼結体の平均結晶粒径が2μm以下、(BH)maxが5MGOe以上のW型フェライト磁石が開示されている。このW型フェライト磁石は、1)SrCOとFeを所要のモル比で混合する、2)原料粉末にCを添加する、3)仮焼する、4)仮焼後にCaO、SiO、Cをそれぞれ添加する、5)平均粒径0.06μm以下に粉砕する、6)得られた粉砕粉を磁場中で成形する、7)非酸化性雰囲気中で焼成する、の各工程を経て製造されることが記載されている。
また、特開平11−251127号公報には、従来のM型フェライトを越える最大エネルギー積を有し、かつ従来とは異なる組成のW型フェライト磁石として、基本組成が原子比率でMO・xFeO・(y−x/2)Fe(MはBa、Sr、Pb、Laの内の1種または2種以上)、1.7≦x≦2.1,8.8≦y≦9.3で表されることを特徴とするフェライト磁石が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2000−501893号公報
【特許文献2】特開平11−251127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、W型のフェライト磁石は、基本的な組成(主組成)の他に副成分を添加して作製される。この副成分は、焼結性の向上等を目的として添加されているW型のフェライト磁石にとって重要な要素である。特表2000−501893号公報及び特開平11−251127号公報においてCaCO(又はCaO)及びSiOが典型的に用いられているが、W型のフェライト磁石においては他の成分についての検討は未だ不十分であった。
そこで本発明では、添加する副成分を最適化することにより磁気特性を向上したW型を主相とするフェライト磁性材料を提供することを課題とする。
またW型フェライト磁石は以上のように種々検討されているが、より高い磁気特性が得られることが要求されている。特に、保磁力は3000Oe以上の値が得られることが、W型フェライトの実用化にとって重要である。もちろんその場合、残留磁束密度の低下を伴うことを避けなければならない。つまり、保磁力及び残留磁束密度の両者が高いレベルで兼備していることが、W型フェライトの実用化に不可欠である。
そこで本発明は、W型フェライトの磁気特性、特に保磁力を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、所定量のGa成分を含有させることが、残留磁束密度の低下を抑制しつつ保磁力を向上させる上で有効であることを知見した。
すなわち、本発明は六方晶W型フェライトが主相をなし、Ga成分をGa換算で15wt%以下(ただし0を含まず)含有することを特徴とするフェライト磁性材料を提供する。Ga成分をGa換算で15wt%以下(ただし0を含まず)の範囲で添加することにより、Ga成分を添加する前の状態よりも保磁力が向上する。
Ga成分を所定量含有させることによる磁気特性向上という効果は、組成式AFe2+Fe3+27(ただし、AはSr,Ba及びPbから選択される少なくとも1種の元素、1.5≦a≦2.1、12.9≦b≦16.3)で表される組成のFeW型フェライトのみならず、主組成としてZnW型フェライトを採用した場合にも享受することができる。ZnW型フェライトの望ましい組成として、組成式AZnFe27(ただし、AはSr,Ba及びPbから選択される少なくとも1種の元素、1.1≦c≦2.1、13≦d≦17)で表されるものを挙げることができる。
ここで、本発明では、W相のモル比が50%以上のときに、W相が主相であると称する。磁気特性の観点から、W相のモル比は70%以上がよく、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。本願におけるモル比は、W型フェライト、M型フェライト、ヘマタイト、スピネルそれぞれの粉末試料を所定比率で混合し、それらのX線回折強度から比較算定することにより算出するものとする(後述する実施例でも同様)。
【0007】
W型フェライトはM型フェライトよりも残留磁束密度が高いという優位性があるが、Ga成分の含有量をGa換算で0.02〜8.0wt%とすることで、M型フェライトよりも高い残留磁束密度を維持しつつ、保磁力を向上させることができる。
Ga成分の含有量がGa換算で6.0wt%近辺で保磁力がピークとなり、Ga成分の含有量がGa換算で3.0〜8.0wt%の場合には3800Oe以上の保磁力、4400G以上の残留磁束密度を兼備することもできる。
またGa成分の含有量がGa換算で0.02〜3.0wt%の場合には、残留磁束密度を何ら低下させることなく、保磁力を向上させることができる。
本発明によれば、添加する副成分を最適化することにより磁気特性を向上したW型を主相とするフェライト磁性材料を提供することができる。このフェライト磁性材料は、フェライト焼結磁石、フェライト磁石粉末、磁気記録媒体の磁性膜を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1−1で作製した磁石の組成ならびに磁気特性を示す図表である。
【図2】SrFe2+Fe3+27(ただし、a=2.0、b=12.6〜16.6)で表される主組成を有する焼結体のbと保磁力(HcJ)、残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図3】SrFe2+Fe3+27(ただし、a=1.9、b=16.2)で表される主組成を有する焼結体のSiO量と保磁力(HcJ)、残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図4】SrFe2+Fe3+27(ただし、a=2.1、b=15.8)で表される主組成を有する焼結体のAl量と保磁力(HcJ)、残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図5】副成分として比較例の磁石組成、磁気特性ならびに組織を示す図表である。
【図6】実施例2−1〜実施例2−4で作製した磁石の組成ならびに磁気特性を示す図表である。
【図7】実施例2−1における、Ga成分添加量と保磁力(HcJ)の関係を示すグラフである。
【図8】実施例2−1における、Ga成分添加量と残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図9】実施例2−1における、保磁力(HcJ)と残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図10】実施例2−2における、Ga成分添加量と保磁力(HcJ)の関係を示すグラフである。
【図11】実施例2−2における、Ga成分添加量と残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図12】実施例2−2における、保磁力(HcJ)と残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図13】Ga成分の添加タイミングと磁気特性との関係を示す図表である。
【図14】実施例3−1、実施例3−2で得られた焼結体について、Ga成分添加量と保磁力(HcJ)の関係を示すグラフである。
【図15】実施例3−1、実施例3−2で得られた焼結体について、Ga成分添加量と残留磁束密度(Br)の関係を示すグラフである。
【図16】実施例4−1、実施例4−2で作製した磁石の組成ならびに磁気特性を示す図表である。
【図17】ZnW型の主組成を有する焼結体にGa成分及び/又はAl成分を添加した場合の磁気特性を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のフェライト磁性材料をFeW型フェライトとする場合には、主組成を以下の組成式(1)からなるものとする。
AFe2+Fe3+27・・・式(1)
ただし、式(1)中、AはSr,Ba及びPbから選択される少なくとも1種の元素、1.5≦a≦2.1、12.9≦b≦16.3である。なお、上記式(1)においてa及びbはそれぞれモル比を表す。
【0010】
Aとしては、Sr及びBaの少なくとも1種が好ましく、磁気特性の観点からSrが特に好ましい。
aは1.5〜2.1の範囲とする。aが1.5未満になると、飽和磁化(4πIs)がW相よりも低いM相、Fe(ヘマタイト)相が生成して、飽和磁化(4πIs)が低下してしまう。一方、aが2.1を超えると、スピネル相が生成して、保磁力(HcJ)が低下してしまう。よって、aは1.5〜2.1の範囲とする。aの望ましい範囲は1.6〜2.0、より望ましい範囲は1.6〜1.9である。
bは、12.9〜16.3の範囲とする。bが12.9未満になると、保磁力(HcJ)が低下してしまうからである。一方、16.3を超えると、残留磁束密度(Br)が低下してしまうからである。bの望ましい範囲は13.5〜16.2、さらに望ましい範囲は14.0〜16.0である。
【0011】
FeW型フェライトにおいて、A元素としてSr及びBaの両者を選択し、下記式(2)の組成を主組成とすることがさらに望ましい。
Sr(1−x)BaFe2+Fe3+27・・・式(2)
ただし、0.03≦x≦0.80、1.5≦a≦2.1、12.9≦b≦16.3である。なお、上記式(2)においてx、a及びbはそれぞれモル比を表す。
【0012】
Sr及びBaという2つの原子の共存により磁気特性、特に保磁力を向上することができる。保磁力向上の理由は明らかではないが、Sr及びBaが共存することにより焼結体を構成する結晶粒が微細化しており、この結晶粒微細化が保磁力向上に寄与しているものと解される。
磁気特性向上効果を享受するためには、上記式(2)において、xを0.03≦x≦0.80の範囲とすることが望ましい。なお、上記式(2)において1.5≦a≦2.1、12.9≦b≦16.3とする理由は上述の通りである。
【0013】
いわゆるZnW型フェライトを採用する場合には、以下の組成式(3)からなる主組成を採用することが望ましい。
AZnFe27・・・式(3)
ただし、式(3)中、AはSr,Ba及びPbから選択される少なくとも1種の元素、1.1≦c≦2.1、13≦d≦17である。なお、上記式(3)においてc及びdはそれぞれモル比を表す。
Znの割合を示すcの望ましい範囲は1.3≦c≦1.9、より望ましい範囲は1.3≦c≦1.7である。またFeの割合を示すdの望ましい範囲は14≦d≦16、より望ましい範囲は14.5≦d≦15.5である。
なお、ZnW型フェライトにおいても、A元素としてSr及びBaの少なくとも1種を選択することが望ましい。
【0014】
本発明のフェライト磁性材料は、式(1)、(2)、(3)で示した主組成の他に、Ga成分を含有する。具体的には後述する実施例で述べるが、Ga成分を含むことにより、保磁力(HcJ)、結晶粒径の調整等を行うことができ、高いレベルで保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を兼備するフェライト焼結磁石を得ることができる。また、CaCO、SiOに起因するCa成分及び/又はSi成分をさらに含有してもよい。
【0015】
Ca成分を含有する場合には、CaCO換算で、CaCO:0〜3.0wt%、望ましくは0.2〜1.5wt%、さらに望ましくは0.3〜1.2wt%とすればよい。
Si成分を含有する場合には、SiO換算で、SiO:0.2〜1.4wt%とすればよい。SiOが0.2wt%未満ではSiOの添加効果が不十分である。また、CaCOが3.0wt%を超えると磁気特性低下の要因となるCaフェライトを生成するおそれがある。さらに、SiOが1.4wt%を超えると、残留磁束密度(Br)が低下する傾向にある。SiOについて、SiO:0.2〜1.0wt%の範囲で含むことが望ましく、さらにはSiO:0.3〜0.8wt%の範囲で含むことが望ましい
【0016】
Ga成分はGa換算でGa:15wt%以下(ただし0を含まず)の範囲で含む。Gaが15wt%を超えると、Ga成分添加による保磁力向上という効果を享受することが困難になるとともに、残留磁束密度(Br)が低下する傾向にある。よって、本発明におけるGa成分はGa:15wt%以下(ただし0を含まず)、望ましくは0.02〜10wt%、より望ましくは0.05〜10wt%とする。Ga成分添加による保磁力向上という効果を享受するには、Ga成分を0.001wt%以上の含有させることが望ましい。
また、Gaの量を0.02〜3.0wt%、より望ましくは0.05〜2.0wt%とした場合には、保磁力(HcJ)のみならず、残留磁束密度(Br)の向上も期待できる。特に、4500G以上の残留磁束密度(Br)を維持しつつ、3500Oe以上の保磁力(HcJ)を得たい場合には、Gaの量を0.02〜3.0wt%とすることが有効である。
一方、Gaの量は3.0〜8.0wt%、より望ましくは4.0〜7.0wt%とした場合には、4500G近傍、もしくは4600G以上の残留磁束密度(Br)を得つつ、3800Oe以上、さらには4000Oe以上、望ましくは4200Oe以上の保磁力(HcJ)を得ることができる。
【0017】
なお、Ca成分はCaCO以外にCaOの形態として添加することができる。Si成分も、SiO外の形態で添加することもできる。Ga成分についても同様に、G以外の形態で添加することもできる。
本明細書では組成によらず酸素のモル比を27と表示してあるが、実際の酸素のモル数は化学量論組成比である27から偏倚していても良い。
【0018】
本発明によるフェライト磁性材料の組成は、蛍光X線定量分析などにより測定することができる。また、本発明は、A元素(Sr,Ba及びPbから選択される少なくとも1種の元素)、Fe、第1副成分及び第2副成分以外の成分の含有を排除するものではない。例えば、FeW型フェライトにおいてFe2+サイト又はFe3+サイトの一部を他の元素で置換することもできるし、ZnW型フェライトにおいてZnサイト又はFe3+サイトの一部を他の元素で置換することもできる。
【0019】
本発明のフェライト磁性材料は、フェライト焼結磁石、フェライト磁石粉末、樹脂中に分散されるフェライト磁石粉末としてボンド磁石、及び膜状の磁性相として磁気記録媒体のいずれかを構成することができる。
本発明によるフェライト焼結磁石、ボンド磁石は所定の形状に加工され、以下に示すような幅広い用途に使用される。例えば、フュエールポンプ用、パワーウインド用、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)用、ファン用、ワイパ用、パワーステアリング用、アクティブサスペンション用、スタータ用、ドアロック用、電動ミラー用等の自動車用モータとして用いることができる。また、FDDスピンドル用、VTRキャプスタン用、VTR回転ヘッド用、VTRリール用、VTRローディング用、VTRカメラキャプスタン用、VTRカメラ回転ヘッド用、VTRカメラズーム用、VTRカメラフォーカス用、ラジカセ等キャプスタン用、CD,LD,MDスピンドル用、CD,LD,MDローディング用、CD,LD光ピックアップ用等のOA、AV機器用モータとして用いることができる。また、エアコンコンプレッサー用、冷蔵庫コンプレッサー用、電動工具駆動用、扇風機用、電子レンジファン用、電子レンジプレート回転用、ミキサ駆動用、ドライヤーファン用、シェーバー駆動用、電動歯ブラシ用等の家電機器用モータとしても用いることができる。さらにまた、ロボット軸、関節駆動用、ロボット主駆動用、工作機器テーブル駆動用、工作機器ベルト駆動用等のFA機器用モータとして用いることも可能である。その他の用途としては、オートバイ用発電器、スピーカ・ヘッドホン用マグネット、マグネトロン管、MRI用磁場発生装置、CD−ROM用クランパ、ディストリビュータ用センサ、ABS用センサ、燃料・オイルレベルセンサ、マグネットラッチ、アイソレータ等に好適に使用される。
【0020】
本発明のフェライト磁石粉末をボンド磁石とする場合には、その平均粒径を0.1〜5μmとすることが望ましい。ボンド磁石用粉末のより望ましい平均粒径は0.1〜2μm、さらに望ましい平均粒径は0.1〜1μmである。
ボンド磁石を製造する際には、フェライト磁石粉末を樹脂、金属、ゴム等の各種バインダと混練し、磁場中または無磁場中で成形する。バインダとしては、NBR(アクリロニトリルブタジエン)ゴム、塩素化ポリエチレン、ポリアミド樹脂が好ましい。成形後、硬化を行ってボンド磁石とする。なお、フェライト磁石粉末をバインダと混練する前に、後述する熱処理を施すことが望ましい。
【0021】
本発明のフェライト磁性材料を用いて、磁性層を有する磁気記録媒体を作製することができる。この磁性層は、上述した組成式(1)〜(3)で表わされるW型のフェライト相を含む。磁性層の形成には、例えば蒸着法、スパッタ法を用いることができる。スパッタ法で磁性層を形成する場合には、本発明によるフェライト焼結磁石をターゲットとして用いることもできる。なお、磁気記録媒体としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、磁気テープ等が挙げられる。
【0022】
次に、本発明のフェライト磁性材料の好適な製造方法について説明する。本発明のフェライト焼結磁石の製造方法は、配合工程、仮焼き工程、粗粉砕工程、微粉砕工程、磁場中成形工程、成形体熱処理工程及び焼成工程を含む。ここで、微粉砕工程は、第1の微粉砕と第2の微粉砕に分かれ、かつ第1の微粉砕と第2の微粉砕の間に粉末熱処理工程を行う。Ga成分は磁場中成形工程の前に添加されていればよく、具体的には配合工程及び/又は微粉砕工程で添加することができる。なお、ここでは微粉砕工程を2段階で行う場合について言及するが、後述する実施例1−1(参考例)、で示すように、微粉砕を1段階で行った場合にも本発明による効果を享受することができる。
以下ではFeW型フェライトを得る場合を主体として説明し、適宜、ZnW型フェライトを得る場合の条件に言及する。
【0023】
<配合工程>
各原料を秤量後、湿式アトライタ、ボールミル等で1〜16時間程度混合、粉砕処理する。原料粉末としては酸化物、又は焼結により酸化物となる化合物を用いることができる。なお、以下ではSrCO粉末、BaCO粉末及びFe(ヘマタイト)粉末を用いる例を説明するが、SrCO粉末、BaCO粉末は炭酸塩として添加する形態のほかに酸化物として添加することもできる。Feについても同様でFe以外の化合物として添加することもできる。さらに、Sr、Ba及びFeを含む化合物を用いることも可能である。なお、ZnW型フェライトを得たい場合には、SrCO粉末、BaCO粉末及びFe(ヘマタイト)粉末の他に、ZnO粉末を準備する。
【0024】
この配合工程において、Ga粉末、さらにはCaCO粉末、SiO粉末を添加することができる。添加量は先に述べた通りである。本発明においてはさらにCr等の粉末を添加してもよい。ただし、これらの副成分はこの段階で添加することなく、SrCO粉末、BaCO粉末及びFe粉末を仮焼きした後に添加することもできる。
各原料の配合比は、最終的に得たい組成に対応させることができるが、本発明はこの形態に限定されない。例えば、SrCO粉末、BaCO粉末及びFe粉末のいずれかを、仮焼き後に添加して最終組成になるように調整してもよい。
【0025】
<仮焼き工程>
配合工程で得られた混合粉末材料を1100〜1400℃で仮焼きする。この仮焼きを窒素ガスやアルゴンガスなどの非酸化性雰囲気中で行うことにより、Fe(ヘマタイト)粉末中のFe3+が還元されることによりFe2+が発生し、FeW型フェライトが生成される。但し、この段階でFe2+の量を十分に確保できなければ、W相の他にM相又はヘマタイト相が存在することになる。なお、W単相のフェライトを得るためには、酸素分圧を調整することが有効である。酸素分圧を下げると、Fe3+が還元されてFe2+が生成しやすくなるからである。
一方、ZnW型フェライトを得る場合には、仮焼きは大気中で行なえばよい。
なお、配合工程において副成分をすでに添加している場合には、仮焼体を所定の粒度に粉砕することによりフェライト磁石粉末とすることもできる。
【0026】
<粗粉砕工程>
仮焼体は一般に顆粒状なので、これを粗粉砕することが望ましい。粗粉砕工程では、振動ミル等を用い、平均粒径が0.5〜10μmになるまで処理する。ここで得られた粉末を粗粉ということにする。
【0027】
<第1の微粉砕工程>
第1の微粉砕工程では粗粉をアトライタやボールミル、或いはジェットミルなどによって、湿式或いは乾式粉砕して平均粒径で0.08〜0.8μm、望ましくは0.1〜0.4μm、より望ましくは0.1〜0.2μmに粉砕する。この第1の微粉砕工程は、粗粉をなくすこと、さらには磁気特性向上のために焼結後の組織を微細にすることを目的として行うものであり、比表面積(BET法による)としては20〜25m/gの範囲とするのが望ましい。
粉砕方法にもよるが、粗粉砕粉末をボールミルで湿式粉砕する場合には、粗粉砕粉末200gあたり60〜100時間処理すればよい。
保磁力の向上や結晶粒径の調整のために、第1の微粉砕工程に先立ってGa粉末を添加することが望ましい。後述する実施例2で示すように、Ga成分を第1の微粉砕工程に先立って添加した場合には、配合工程又は第2の微粉砕工程で添加した場合よりも保磁力向上の効果が大きい。また第1の微粉砕工程に先立ってGa粉末の他、CaCO、SiO、SrCO、BaCO等の粉末を添加してもよい。
なお、後述する実施例2では、第1の微粉砕工程に先立ってGa粉末を添加することを、「第1微粉砕時添加」という。
【0028】
<粉末熱処理工程>
粉末熱処理工程では、第1の微粉砕で得られた微粉を600〜1200℃、より望ましくは700〜1000℃で、1秒〜100時間保持する熱処理を行う。
第1の微粉砕を経ることにより0.1μm未満の粉末である超微粉が不可避的に生じてしまう。超微粉が存在すると後続の磁場中成形工程で不具合が生じることがある。例えば、湿式成形時に超微粉が多いと水抜けが悪く成形できない等の不具合が生じる。そこで、本実施の形態では磁場中成形工程に先立ち熱処理を行う。つまり、この熱処理は、第1の微粉砕で生じた0.1μm未満の超微粉をそれ以上の粒径の微粉(例えば0.1〜0.2μmの微粉)と反応させることにより、超微粉の量を減少させることを目的として行うものである。この熱処理により超微粉が減少し、成形性を向上させることができる。
【0029】
このときの熱処理雰囲気は、仮焼きで生成したFe2+が酸化によりFe3+となることを避けるために、非酸化性雰囲気とする。本発明における非酸化性雰囲気とは、窒素ガス、Arガス等の不活性ガス雰囲気を含む。また本発明の非酸化性雰囲気は、10vol%以下の酸素の含有を許容する。この程度の酸素の含有であれば、上記温度での保持においてFe2+の酸化は無視できる程度である。
熱処理雰囲気の酸素含有量は、1vol%以下、さらには0.1vol%以下であることが望ましい。ZnW型フェライトを得る場合には、このときの熱処理雰囲気も大気中とすればよい。
【0030】
<第2の微粉砕工程>
続く第2の微粉砕工程では熱処理された微粉砕粉末をアトライタやボールミル、或いはジェットミルなどによって、湿式或いは乾式粉砕して0.8μm以下、望ましくは0.1〜0.4μm、より望ましくは0.1〜0.2μmに粉砕する。この第2の微粉砕工程は、粒度調整やネッキングの除去、添加物の分散性向上を目的として行うものであり、比表面積(BET法による)としては10〜20m/g、さらには10〜15m/gの範囲とするのが望ましい。この範囲に比表面積が調整されると、超微粒子が存在していたとしてもその量は少なく、成形性に悪影響を与えない。つまり、第1の微粉砕工程、粉末熱処理工程及び第2の微粉砕工程を経ることにより、成形性に悪影響を与えることなく、かつ焼結後の組織を微細化するという要求を満足することができる。
粉砕方法にもよるが、ボールミルで湿式粉砕する場合には、微粉砕粉末200gあたり10〜40時間処理すればよい。第2の微粉砕工程を第1の微粉砕工程と同程度の条件で行うと超微粉が再度生成されることになることと、第1の微粉砕工程ですでに所望する粒径がほとんど得られていることから、第2の微粉砕工程は、通常、第1の微粉砕工程よりも粉砕条件が軽減されたものとする。ここで、粉砕条件が軽減されているか否かは、粉砕時間に限らず、粉砕時に投入される機械的なエネルギーを基準にして判断すればよい。
保磁力の向上や結晶粒径の調整のために、第2の微粉砕工程に先立ってGa粉末を添加することができる。Ga粉末の他、CaCO、SiO、或いはさらにSrCOやBaCO等の粉末を第2の微粉砕工程に先立って添加してもよい。
なお、後述する実施例2では、第2の微粉砕工程に先立ってGa粉末を添加することを、「第2微粉砕時添加」という。
【0031】
焼成工程において還元効果を発揮するカーボン粉末を、この第2の微粉砕工程に先立って添加することができる。カーボン粉末の添加は、W型フェライトを単相に近い状態(又は単相)で生成させる上で有効である。ここで、カーボン粉末の添加量(以下、「カーボン量」という)は原料粉末に対して0.05〜0.7wt%の範囲とする。カーボン量をこの範囲とすることで、後述する焼成工程におけるカーボン粉末の還元剤としての効果を十分に享受することができるとともに、カーボン粉末添加なしの場合よりも高い飽和磁化(σs)を得ることができる。本発明における望ましいカーボン量は0.1〜0.65wt%、より望ましいカーボン量は0.15〜0.6wt%である。なお、添加するカーボン粉末としては、カーボンブラック等の公知の物質を用いることができる。
【0032】
本発明においては、添加されたカーボン粉末が成形体中で偏析するのを抑制するため、ならびに磁場中成形時の配向度を向上させるために、グルコン酸(またはその中和塩もしくはそのラクトン)や一般式C(OH)n+2で表される多価アルコールを添加することが望ましい。
分散剤としてグルコン酸を選択する場合には、その添加量を原料粉末に対して0.05〜3.0wt%とすればよい。グルコン酸の中和塩の種類は特に限定されず、カルシウム塩やナトリウム塩等を用いることができるが、グルコン酸Caとして添加することが望ましい。グルコン酸Caの望ましい添加量は0.1〜2.5wt%、より望ましくは0.1〜2.0wt%、より一層望ましくは0.5〜1.8wt%である。
また分散剤として多価アルコールを選択する場合には、上記一般式において、炭素数nは4以上とする。炭素数nが3以下であると、カーボン粉末の偏析抑制効果が不十分となる。炭素数nの望ましい値は4〜100、より望ましくは4〜30、さらに望ましくは4〜20、より一層望ましくは4〜12である。多価アルコールとしてはソルビトールが望ましいが、2種類以上の多価アルコールを併用してもよい。また、本発明で用いる多価アルコールに加えて、他の公知の分散剤をさらに使用してもよい。
【0033】
上記した一般式は、骨格がすべて鎖式であってかつ不飽和結合を含んでいない場合の式である。多価アルコール中の水酸基数、水素数は一般式で表される数よりも多少少なくてもよい。上記一般式において、飽和結合に限らず不飽和結合を含んでいてもよい。また基本骨格は鎖式であっても環式であってもよいが、鎖式であることが望ましい。また水酸基数が炭素数nの50%以上であれば、本発明の効果は実現するが、水酸基数は多いほうが望ましく、水酸基数と炭素数とが一致することが最も望ましい。この多価アルコールの添加量としては、添加される粉末に対して0.05〜5.0wt%、望ましくは0.1〜3.0wt%、より望ましくは0.3〜2.0wt%とすればよい。なお、添加した多価アルコールのほとんどは磁場中成形工程後に行われる成形体熱処理工程で分解除去される。成形体熱処理工程において分解除去されずに残存した多価アルコールについても、続く焼成工程で分解除去される。
【0034】
<磁場中成形工程>
磁場中成形工程は乾式成形又は湿式成形のいずれでも行うことができるが、磁気的配向度を高くするためには、湿式成形で行うことが望ましい。よって、以下では湿式成形用スラリの調製について説明した上で、続く磁場中成形工程の説明を行う。
【0035】
湿式成形を採用する場合は、第2の微粉砕工程を湿式で行い、得られたスラリを濃縮して湿式成形用スラリを調製する。濃縮は、遠心分離やフィルタープレス等によって行えばよい。この際、フェライト磁石粉末が湿式成形用スラリ中の30〜80wt%を占めることが望ましい。
次いで、湿式成形用スラリを用いて磁場中成形を行う。成形圧力は0.1〜0.5ton/cm程度、印加磁場は5〜15kOe程度とすればよい。なお、分散媒は水に限らず、非水系のものでもよい。非水系の分散媒を用いる場合には、トルエンやキシレン等の有機溶媒を用いることができる。非水系の分散媒として、トルエン又はキシレンを用いる場合には、オレイン酸等の界面活性剤を添加することが望ましい。
【0036】
<成形体熱処理工程>
本工程では、成形体を100〜450℃、より望ましくは200〜350℃の低温で、1〜4時間保持する熱処理を行う。この熱処理を大気中で行うことにより、Fe2+の一部が酸化されてFe3+になる。つまり、本工程では、Fe2+からFe3+への反応をある程度進行させることにより、Fe2+量を所定量に制御するのである。
なお、ZnW型フェライトを得る場合には、この成形体熱処理工程は不要である。
【0037】
<焼成工程>
続く焼成工程では、成形体を1100〜1270℃、より望ましくは1160〜1240℃の温度で0.5〜3時間保持して焼成する。焼成雰囲気は、仮焼き工程と同様の理由により、非酸化性雰囲気中にて行う。また、本工程において、第2の微粉砕工程に先立って添加したカーボン粉末が消失する。
なお、ZnW型フェライトを得る場合には、焼成雰囲気も大気中とすればよい。
【0038】
以上の工程を経ることにより、本発明のW型フェライト焼結磁石を得ることができる。
W型フェライト焼結磁石のうち、Ga成分を含有するFeW型フェライト焼結体によれば、4.0kG以上の残留磁束密度(Br)ならびに3.5kOe以上の保磁力(HcJ)を兼備することができる。
またW型フェライト焼結磁石のうち、Ga成分を含有するZnW型フェライト焼結磁石によれば、何ら複雑な雰囲気制御を要することなく、4.5kG以上、さらには4.8kG以上の残留磁束密度(Br)を維持しつつ700Oe以上、さらには720Oe以上の保磁力(HcJ)を得ることができる。
【0039】
また、本発明は得られたW型フェライト焼結磁石を粉砕してフェライト磁石粉末として用いることもできる。このフェライト磁石粉末は、ボンド磁石に用いることができる。
【0040】
以上、フェライト焼結磁石の製造方法について説明したが、フェライト磁石粉末を製造する場合も同様の工程を適宜採用することができる。本発明によるフェライト磁石粉末は、仮焼体から作製する場合と、焼結体から作製する場合の2つのプロセスにより作製することができる。
仮焼体から作製する場合には、Ga成分、さらに任意でCa成分および/またはSi成分を仮焼き工程の前に添加する。これらが添加された仮焼体は、粗粉砕、粉末熱処理、微粉砕が施されてフェライト磁石粉末となる。このフェライト磁石粉末には、上述した熱処理を施した後にフェライト磁石粉末として実用に供することができる。例えば、粉末熱処理が施されたフェライト磁石粉末を用いてボンド磁石を作製する。このフェライト磁石粉末には、ボンド磁石のみに供されるものではなく、フェライト焼結磁石作製に供することもできる。したがって、フェライト焼結磁石の製造工程中に、フェライト磁石粉末が製造されているということもできる。ただし、ボンド磁石に用いる場合とフェライト焼結磁石に用いる場合とでは、その粒度が異なる場合がある。
【0041】
フェライト焼結磁石からフェライト磁石粉末を作製する場合には、焼成工程の前のいずれかの段階でGa成分、さらに任意でCa成分および/またはSi成分を添加すればよい。上述した工程により得られたフェライト焼結磁石を適宜粉砕することによりフェライト磁石粉末を作製することができる。
以上の通りであり、フェライト磁石粉末としては、仮焼き粉末、仮焼き及び焼成を経た後に粉砕された粉末、仮焼き後に粉砕した後、熱処理された粉末、の形態を包含している。
【実施例1】
【0042】
以下、本発明の具体的実施例を説明する。
【0043】
[実施例1(実施例1−1)
実施例1−1は副成分としてAl成分を添加した実験例(参考例)である。
【0044】
<実施例1−1>
以下の手順に従ってフェライト焼結磁石を作製した。
原料粉末として、Fe粉末(1次粒子径:0.3μm)、SrCO粉末(1次粒子径:2μm)を準備した。この原料粉末を、上記式(1)のa,bの値が最終的に図1になるように秤量した。なお、式(1)中、Fe2+は仮焼により発生する。つまり、配合時にはa=0であるが、仮焼後にaになる分を考慮してFe粉末の秤量を行った。
秤量後、湿式ボールミルで16時間混合、粉砕した。次いで、粉砕粉末を乾燥して整粒した後、Nガス雰囲気中、1350℃、1時間仮焼し、粉末状の仮焼体を得た。その仮焼体を乾式振動ミルにより、10分間粉砕して平均粒径1μmの粗粉とした。秤量後、湿式ボールミルで16時間混合、粉砕した。次いで、粉砕粉末を乾燥して整粒した後、Nガス雰囲気中、1350℃、1時間仮焼し、粉末状の仮焼体を得た。その仮焼体を乾式振動ミルにより、10分間粉砕して平均粒径1μmの粗粉とした。
【0045】
続いて、この粗粉に対し、CaCO粉末(1次粒子径:1μm)、SiO粉末(1次粒子径:0.01μm)、Al粉末(1次粒子径:0.5μm)を図1に示す量だけ添加し、ボールミルを用いて40時間湿式粉砕してスラリを得た。なお、スラリ中の仮焼粉末の量は33wt%である。次に、粉砕終了後のスラリを遠心分離器で濃縮し、湿式成形用スラリを作製した。この湿式成形用スラリを用いて磁場中成形を行った。なお、印加した磁界(縦磁場)は12kOe(1000kA/m)であり、成形体は直径30mm、高さ15mmの円柱状である。
この成形体を250℃で3時間大気中に保持する熱処理を施した後、Nガス雰囲気中で昇温速度5℃/分、最高温度1200℃で1時間焼成し焼結体を得た。得られた焼結体の組成を理学電機(株)の蛍光X線定量分析装置SIMULTIX3550を用いて測定した(以下の実施例でも同様)。
次いで得られた焼結体の上下面を加工した後、最大印加磁場25kOeのBHトレーサを用いて、以下の要領で磁気特性を評価した。その結果を、図1〜図4に示す。
【0046】
図1、図2に示すように、aの値が2.0、CaCOが1.0wt%、SiOが0.5wt%及びAlが0.5wt%の場合において、bの値が13.0未満では保磁力(HcJ)の低下が顕著となり、また16.4以上になると残留磁束密度(Br)の低下が顕著となる。これに対して、bの値が13.0〜16.2の範囲では、3kOe以上の保磁力(HcJ)及び4.4kG以上の残留磁束密度(Br)を得ることができる。
【0047】
図1、図3に示すようにaの値が1.9、bの値が16.2、CaCOが1.0wt%及びAlが0.3wt%の場合において、SiOが0.5wt%未満では保磁力(HcJ)の低下が顕著となり、また1.5wt%以上では保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)の低下が顕著となる。これに対して、SiOが0.5〜1.0wt%の範囲では、3kOe以上の保磁力(HcJ)及び4.4kG以上の残留磁束密度(Br)を得ることができる。
【0048】
次に、図1、図4に示すようにaの値が2.1、bの値が15.8、CaCOが1.0wt%及びSiOが0.5wt%の場合において、Alを添加することにより保磁力(HcJ)を変動させることができる。特に、CaCO及びSiOのみでは2.8kOe程度までしか保磁力(HcJ)を向上できなかったのに対して、Alの添加により4kOeを超える保磁力(HcJ)を実現できる。ただし、Al量が増えすぎると残留磁束密度(Br)の低下が顕著となる
【0049】
実施例1−1にて示したように、CaCO、SiO、ならびに上記組成式(1)におけるa及びbを特定することにより、保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を高いレベルで兼備させることができる。
【0050】
1に示した組成について得られた焼結体の構成相をX線回折により観察した。その結果を図1に示す。
1に示すように、Alが1.5wt%まではW相がモル比で70%以上であった。また、Alが2.0wt%以上になるとM相、スピネル相(図1では「S相」と表記)を含み、W相を含んでいてもモル比で70%未満であった
【0051】
なお、X線回折の条件は以下の通りである。
サンプリング幅:0.02deg、走査速度:4.00deg/min
発散スリット:1.00deg、散乱スリット:1.00deg
受光スリット0.30mm
【0052】
<比較例>
図5に示す組成の焼結体を作製し、磁気特性を測定したところ、3kOe以上の保磁力(HcJ)及び4.4kG以上の残留磁束密度(Br)という特性を兼備することができなかった
【実施例2】
【0053】
[実施例2(実施例2−1、実施例2−2、実施例2−3、実施例2−4)]
実施例2−1及び実施例2−2は、A元素としてSr及びBaを選択し、かつ副成分としてGa成分を添加した実験例である。原料粉末の配合時に、実施例2−1ではCaCO粉末を添加したが、実施例2−2ではCaCO粉末を添加しなかった。実施例2−3ではA元素としてSrを選択し、上記式(1)のbの値と磁気特性との関係を観察した。実施例2−4では、A元素としてSr及びBaを選択し、Ga成分とAl成分を複合添加した実験例である。
【0054】
<実施例2−1>
まず、原料粉末として、Fe粉末(1次粒子径:0.3μm)、SrCO粉末(1次粒子径:2μm)及びBaCO粉末(1次粒子径:0.05μm)を準備した。この原料粉末を図6のような配合組成となるように秤量した後、CaCO粉末(1次粒子径:1μm)を0.33wt%添加し湿式アトライタで2時間混合、粉砕し、仮焼条件を1300℃で1時間保持とした以外は、実施例1−1と同様の条件で仮焼体を得て、平均粒径1μmの粗粉とした。
【0055】
続いて、粗粉を微粉砕した。微粉砕はボールミルにより2段階で行った。第1の微粉砕は粗粉210gに対して水400mlを添加して88時間処理するというものである。第1の微粉砕後に、微粉をNガス雰囲気中、800℃で1時間保持する条件で熱処理を行った。なお、加熱保持温度までの昇温及び加熱保持温度からの降温の速度は5℃/分とした。続いて、ボールミルを用いて25時間湿式粉砕する第2の微粉砕を行い、湿式成形用スラリを得た。なお、第2の微粉砕時に、上記熱処理がなされた微粉砕粉末に対しSiO粉末(1次粒子径:0.01μm)を0.6wt%、CaCO粉末(1次粒子径:1μm)を0.35wt%、SrCO粉末(1次粒子径:2μm)を0.7wt%、BaCO粉末(1次粒子径:0.05μm)を1.4wt%、カーボン粉末(1次粒子径:0.05μm)を0.4wt%それぞれ添加するとともに、多価アルコールとしてソルビトール(1次粒子径:10μm)を1.2wt%添加した。これらに加えて、Ga粉末(1次粒子径:2μm)を0〜16.0wt%添加した。
【0056】
第2の微粉砕を施して得られたスラリを実施例1−1と同様の条件で磁場中成形を行い、得られた成形体を大気中にて300℃で3時間熱処理した後、Nガス雰囲気中、昇温速度5℃/分、最高温度1190℃で1時間焼成して焼結体を得た。
【0057】
次いで、得られた焼結体を実施例1−1と同様の条件で加工し、実施例1−1と同様の条件で磁気特性を評価した。その結果をGa成分添加量(Ga添加量)と対応させて図6〜図8に示す。
【0058】
図7にGa成分添加量と保磁力(HcJ)の関係を、図8にGa成分添加量と残留磁束密度(Br)の関係を示す。またGa成分添加量が0〜6.0wt%の試料について、保磁力(HcJ)と残留磁束密度(Br)の関係を図9に示す。
図7に示すように、Ga成分を添加することにより、保磁力(HcJ)が向上することがわかる。ただし、Ga成分添加による保磁力向上の効果にはピークが存在しており、Ga成分の添加量が16.0wt%の場合にはGa成分を添加しない場合と同等の保磁力(HcJ)を示す。
ここで、図8を見ると、Ga成分の添加量が16.0wt%の場合には残留磁束密度(Br)が3800G未満まで低下してしまうが、Ga成分を15wt%以下(ただし0を含まず)の範囲内で含有させた場合には、4000G以上、さらには4500G以上という高い残留磁束密度(Br)を得ている。
【0059】
以上の結果より、本発明では、Ga成分の添加量を15wt%以下(ただし0を含まず)とする。Ga成分を15wt%以下(ただし0は含まず)の範囲内で含有させることにより、3500Oe以上の保磁力(HcJ)及び4000G以上の残留磁束密度(Br)を兼備することができる。また、Ga成分を0.1〜8.0wt%の範囲内で含有させることにより、3500Oe以上の保磁力(HcJ)及び4500G以上の残留磁束密度(Br)を兼備することができる。
【0060】
続いて、Ga成分を添加していない試料、Ga成分を2.0wt%、4.0wt%、7.0wt%添加した試料について、焼結体の平均結晶粒径を測定した。その結果を図6に示す。なお、平均結晶粒径の測定条件は上述の通りである。
図6から、Ga成分を添加した試料は、Ga成分を添加していない試料よりも平均結晶粒径が微細であること、平均結晶粒径が微細なほど高い保磁力(HcJ)を得ていることが確認できた。
【0061】
<実施例2−2>
配合時にCaCO粉末を添加せず、かつ第2の微粉砕時のGa粉末(1次粒子径:2μm)の添加量を0〜8.0wt%とし、またGa粉末以外の第2の微粉砕時の添加物の種類及び添加量を以下のように設定した以外は実施例2−1と同様の条件で焼結体を作製した。
SiO粉末(1次粒子径:0.01μm):0.6wt%
CaCO粉末(1次粒子径:1μm):0.7wt%
SrCO粉末(1次粒子径:2μm):0.35wt%
BaCO粉末(1次粒子径:0.05μm):1.4wt%
カーボン粉末(1次粒子径:0.05μm):0.4wt%
ソルビトール(1次粒子径:10μm):1.2wt%
【0062】
さらに得られた試料について、実施例2−1と同様にして保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を測定するとともに、実施例2−1と同様に組成分析を行った。その結果を図6に示す。また実施例2−2で得られた試料について、Ga成分添加量と保磁力(HcJ)の関係を図10に、Ga成分添加量と残留磁束密度(Br)の関係を図11に、保磁力(HcJ)と残留磁束密度(Br)の関係を図12にそれぞれ示す。なお、図12中、各プロットの近辺に示した値はGa成分添加量である。
【0063】
図10図12から、実施例2−2でも、実施例2−1と同様の傾向が確認できた。また図10図11から、Ga成分の添加量が0.02〜3.0wt%の範囲では、残留磁束密度(Br)の低下を何ら招くことなく保磁力(HcJ)が向上することがわかった。
【0064】
<実施例2−3>
A元素としてSrを選択し、上記式(1)のbが図6の値となるように秤量した以外は実施例2−1と同様の条件で焼結体を作製した。さらに得られた試料について、実施例2−1と同様にして保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を測定するとともに、実施例2−1と同様に組成分析を行った。その結果を図6に示す。
図6から、bが12.9〜16.3の範囲内にあるときに、3400Oe以上の保磁力(HcJ)及び4000G以上の残留磁束密度(Br)を兼備できることが確認できた。
【0065】
<実施例2−4>
A元素としてSr及びBaを選択し、Ga成分とAl成分を複合添加した以外は、実施例2−1と同様の条件で焼結体を作製し、実施例2−1と同様の条件で磁気特性を評価した。その結果を図6に示す。なお、Al成分として用いたAl粉末の1次粒子径は0.5μmである。
図6に示すように、Ga成分とAl成分を複合添加した場合にも、保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を高いレベルで兼備することができた。
【0066】
実施例2−1、実施例2−2、実施例2−3、実施例2−4で得られた焼結体の相状態をX線回折により同定した。その結果、すべての焼結体はM相を含んでいたが、モル比で5〜20%程度であり、W主相であることが確認できた。なお、X線回折の条件は実施例1と同じである。
【実施例3】
【0067】
[実施例3(実施例3−1、実施例3−2、実施例3−3)]
実施例3では、Ga成分を添加するタイミングを以下のように設定し、Ga成分の添加タイミングと磁気特性の関係を確認した。
実施例3−1:Ga成分を原料粉末の配合時に添加した。
実施例3−2:Ga成分を第2微粉砕時に添加した。
実施例3−3:Ga成分を第1微粉砕時に添加した。
【0068】
<実施例3−1>
Ga粉末(1次粒子径:2μm)を配合時に2.0〜6.0wt%添加するとともに、第2の微粉砕時に、SiO粉末(1次粒子径:0.01μm)を0.6wt%、CaCO粉末(1次粒子径:1μm)を0.7wt%、SrCO粉末(1次粒子径:2μm)を0.35wt%、BaCO粉末(1次粒子径:0.05μm)を1.4wt%、カーボン粉末(1次粒子径:0.05μm)を0.4wt%それぞれ添加した以外は、実施例2−1と同様の条件で焼結体を作製した。
【0069】
<実施例3−2>
Ga粉末(1次粒子径:2μm)の添加のタイミングを第2微粉砕時とした以外は、実施例3−1と同様の条件で焼結体を作製した。
【0070】
実施例3−1、実施例3−2で得られた焼結体について、実施例1と同様の条件で保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を測定した。その結果を図13図15にそれぞれ示す。また実施例1と同様に組成分析を行った。その結果を図13に示す。
【0071】
図14に示すように、Ga成分を配合時に添加した場合及び微粉砕時に添加した場合のいずれにおいても、Ga成分添加による保磁力向上の効果が確認できたが、微粉砕時に添加した場合の方が高い保磁力(HcJ)を得ることができた。
また図15に示すように、残留磁束密度(Br)についてもGa成分を微粉砕時に添加した場合の方が、配合時に添加した場合よりも高い値を示した。
以上の結果から、Ga成分の添加タイミングは、微粉砕時が特に望ましいことがわかった。
【0072】
<実施例3−3>
第1の微粉砕時にGa粉末(1次粒子径:2μm)を4.0wt%添加した以外は、実施例3−2と同様の条件で焼結体を作製した。
実施例3−3で得られた試料について、実施例1と同様の条件で保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を測定した。その結果を図13に示す。
【0073】
図13中、Ga成分の添加量が4.0wt%である3つの試料を比較すると、第1微粉砕時にGa成分を添加した試料、第2微粉砕時にGa成分を添加した試料、配合時にGa成分を添加した試料の順に保磁力(HcJ)が高いことがわかる。また残留磁束密度(Br)についても実施例3−2、実施例3−3で得られた試料の方が、実施例3−1で得られた試料よりも高い値を示した。
以上の結果から、Ga成分の添加のタイミングは配合時よりも微粉砕時が望ましく、特に第1微粉砕時にGa成分を添加することにより、より一層の高保磁力化が期待できることが確認できた。
【実施例4】
【0074】
[実施例4(実施例4−1、実施例4−2)]
仮焼後に添加するSrCO及びBaCOの添加量による特性の影響を確認するために行なった実験を実施例4として示す。
<実施例4−1>
第2の微粉砕時に、SiO粉末(1次粒子径:0.01μm)を0.6wt%、CaCO粉末(1次粒子径:1μm)を0.35wt%、カーボン粉末(1次粒子径:0.05μm)を0.4wt%、ソルビトール(1次粒子径:10μm)を1.2wt%、Ga粉末(1次粒子径:2μm)を6.0wt%添加するとともに、図16に示す量のSrCO粉末(1次粒子径:2μm)、BaCO粉末(1次粒子径:0.05μm)を添加した以外は、実施例2−1と同様の条件で焼結体を作製した。
<実施例4−2>
第2の微粉砕時のSiO粉末(1次粒子径:0.01μm)添加量を0.45wt%とした以外は、実施例4−1と同様の条件で焼結体を作製した。
【0075】
実施例4−1、及び実施例4−2で得られた焼結体について、実施例1と同様の条件で保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を測定した。その結果を図16に示す。また、得られた焼結体について、実施例1と同様に組成分析を行った。その結果を図16に示す。
【0076】
図16に示すように、第2の微粉砕時の添加物を調整することにより、残留磁束密度(Br)及び保磁力(HcJ)の値が変動するが今回の検討範囲ではすべての点で高い特性が得られた。
【実施例5】
【0077】
[実施例5(実施例5−1、実施例5−2、実施例5−3)]
以上の実施例1〜4はFeW型フェライトに関するものであったが、式(3)で示したZnW型フェライトに本発明が推奨する副成分を添加した場合の効果を確認するために行なった実験を実施例5として示す。
<実施例5−1>
原料粉末として、Fe粉末(1次粒子径:0.3μm)、SrCO粉末(1次粒子径:2μm)及びZnO粉末(1次粒子径:0.8μm)を準備した。この原料粉末を最終組成がSrZn1.5Fe15となるように秤量した後、湿式アトライタで2時間混合、粉砕した。
次いで、大気中で仮焼を行った。仮焼温度、保持時間、加熱保持温度までの昇温及び加熱保持温度からの降温の速度は実施例2と同様である。
【0078】
続いて、実施例2と同様の条件で振動ミルにより解砕を行った。
次の微粉砕はボールミルにより2段階で行った。第1の微粉砕の前に、多価アルコールとしてソルビトール(1次粒子径:10μm)を1.2wt%添加した以外は、実施例2と同様の条件で第1の微粉砕を行なった。
第1の微粉砕後に、微粉砕粉末を大気中、800℃で1時間保持する条件で熱処理を行った。なお、加熱保持温度までの昇温及び加熱保持温度からの降温の速度は実施例2と同様である。
続いて、ボールミルを用いて湿式粉砕する第2の微粉砕を行い、湿式成形用スラリを得た。なお、第2の微粉砕前に、上記熱処理がなされた微粉砕粉末に対しSiO粉末(1次粒子径:0.01μm)を0.6wt%、CaCO粉末(1次粒子径:1μm)を0.35wt%、ソルビトール(1次粒子径:10μm)を1.2wt%添加した。これらに加えて、Ga粉末(1次粒子径:2μm)を0〜0.8wt%添加した。
【0079】
第2の微粉砕を施して得られたスラリを遠心分離器で濃縮し、濃縮された湿式成形用スラリを用いて磁場中成形を行った。なお、印加した磁界(縦磁場)は12kOe(1000kA/m)であり、成形体は直径30mm、高さ15mmの円柱状である。なお、いずれの成形においても不具合が生じなかった。この成形体を大気中で乾燥させた後、昇温速度5℃/分、最高温度1240℃で1時間焼成して焼結体を得た。
【0080】
実施例5−1で得られた焼結体について、実施例1と同様の条件で保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を測定した。その結果を図17に示す。
図17に示すように、ZnW型フェライトにGa成分を添加した場合にも、残留磁束密度(Br)の低下を抑制しつつ、保磁力(HcJ)を向上させることができた。
【0081】
<実施例5−2>
原料粉末を最終組成がSrZn1.3Fe14となるように秤量し、かつGa粉末に代えてAl粉末(1次粒子径:0.5μm)を0〜1.5wt%添加した以外は、実施例5−1と同様の条件で焼結体を作製した。
【0082】
<実施例5−3>
原料粉末を最終組成がSrZn1.2Fe13となるように秤量し、かつGa粉末及びAl粉末を複合添加した以外は、実施例5−1と同様の条件で焼結体を作製した。
【0083】
実施例5−2及び実施例5−3で得られた焼結体について、実施例1と同様の条件で保磁力(HcJ)及び残留磁束密度(Br)を測定した。その結果を図17に示す。
図17に示すように、ZnW型フェライトにGa成分およびAl成分を添加することにより、保磁力(HcJ)を向上させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶W型フェライトが主相をなし、Ga成分をGa換算で15wt%以下(ただし0を含まず)含有することを特徴とするフェライト磁性材料。
【請求項2】
前記フェライト磁性材料は、組成式AFe2+Fe3+27(ただし、AはSr,Ba及びPbから選択される少なくとも1種の元素、1.5≦a≦2.1、12.9≦b≦16.3)で表される組成物を主成分とすることを特徴とする請求項に記載のフェライト磁性材料。
【請求項3】
前記フェライト磁性材料は、組成式AZnFe27(ただし、AはSr,Ba及びPbから選択される少なくとも1種の元素、1.1≦c≦2.1、13≦d≦17)で表される組成物を主成分とすることを特徴とする請求項に記載のフェライト磁性材料。
【請求項4】
前記Ga成分の含有量はGa換算で0.02〜3.0wt%であることを特徴とする請求項またはに記載のフェライト磁性材料。
【請求項5】
前記Ga成分の含有量はGa換算で3.0〜8.0wt%であることを特徴とする請求項またはに記載のフェライト磁性材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−280498(P2009−280498A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196652(P2009−196652)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【分割の表示】特願2005−516143(P2005−516143)の分割
【原出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】